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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
C23C16/455
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021554934
(86)(22)【出願日】2020-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2020041016
(87)【国際公開番号】W WO2021090794
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2019201441
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318004501
【氏名又は名称】株式会社クリエイティブコーティングス
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英児
(72)【発明者】
【氏名】坂本 仁志
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/188927(WO,A1)
【文献】特開2016-131222(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145486(WO,A1)
【文献】特開2014-135311(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0082886(US,A1)
【文献】特開2014-194081(JP,A)
【文献】特開2013-167012(JP,A)
【文献】特開2002-009078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象にCVD膜とALD膜とを成膜する成膜方法であって、
前記ALD膜を成膜するALDプロセスでは、
成膜対象が配置された反応容器を、第1供給管を介して導入される原料ガスで充満させる第1工程と、
前記第1工程後に、前記反応容器の気相中の前記原料ガスを排気する第2工程と、
前記第2工程後に、第2供給管内で誘導結合プラズマにより活性化されて前記第2供給管を介して導入される反応ガスで、前記反応容器を充満させる第3工程と、
前記第3工程後に、前記反応ガスを前記反応容器から排気する第4工程と、
を含むALDサイクルが複数回繰り返し実施され、
前記CVD膜を成膜するCVDプロセスでは、前記ALDサイクルが少なくとも1回実施され
前記ALDプロセス及び前記CVDプロセスでは、前記第1工程の時間は実質的に等しく設定され、
前記CVDプロセスでの前記第2工程の時間は、前記ALDプロセスでの前記第2工程の時間よりも短く設定されて、前記第2工程の排気は、前記反応容器の気相中に前記原料ガスを残存させたまま終了させる成膜方法。
【請求項2】
成膜対象にCVD膜とALD膜とを成膜する成膜方法であって、
前記ALD膜を成膜するALDプロセスでは、
成膜対象が配置された反応容器を、第1供給管を介して導入される原料ガスで充満させる第1工程と、
前記第1工程後に、前記反応容器の気相中の前記原料ガスを排気する第2工程と、
前記第2工程後に、第2供給管内で誘導結合プラズマにより活性化されて前記第2供給管を介して導入される反応ガスで、前記反応容器を充満させる第3工程と、
前記第3工程後に、前記反応ガスを前記反応容器から排気する第4工程と、
を含むALDサイクルが複数回繰り返し実施され、
前記CVD膜を成膜するCVDプロセスでは、前記ALDサイクルが少なくとも1回実施され、かつ、前記第2工程の排気は、前記反応容器の気相中に前記原料ガスを残存させたまま終了させ、
前記成膜対象は多孔質体であり、成膜される面に開口する孔を有し、
前記CVDプロセスの実施により前記CVD膜によって前記開口を塞ぎ、その後、前記ALDプロセスの実施により前記CVD膜上に前記ALD膜を成膜する成膜方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記原料ガスは有機金属ガスであり、
前記反応ガスは酸化ガスである成膜方法。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記原料ガスは有機金属ガスであり、
前記反応ガスは窒化ガスである成膜方法。
【請求項5】
成膜対象が配置される反応容器と、
原料ガスを前記反応容器に供給する第1供給管と、
前記反応容器と接続され、反応ガスが供給される第2供給管と、
前記第2供給部管内の前記反応ガスを誘導結合プラズマにより活性化する反応ガス活性化装置と、
前記反応容器内を排気する排気部と、
CVDプロセスとALDプロセスとを制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記ALDプロセスでは、
前記成膜対象が配置された前記反応容器に前記第1供給管を介して前記原料ガスを導入する第1工程と、
前記第1工程後に、前記排気部により前記原料ガスを前記反応容器から排気する第2工程と、
前記第2工程後に、前記第2供給管内で前記反応ガス活性化装置により活性化された前記反応ガスを、前記第2供給管を介して前記反応容器に導入する第3工程と、
前記第3工程後に、前記反応ガスを前記反応容器から排気する第4工程と、
を含むALDサイクルを複数回繰り返し実施させ、
前記CVDプロセスでは、前記ALDサイクルを少なくとも1回実施させ
前記ALDプロセス及び前記CVDプロセスでは、前記第1工程の時間は実質的に等しく設定され、
前記CVDプロセスでの前記第2工程の時間は、前記ALDプロセスでの前記第2工程の時間よりも短く設定されて、前記第2工程の排気は、前記反応容器の気相中に前記原料ガスを残存させたまま終了させる成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一反応容器内で、CVD(Chemical Vapor Deposition)膜と、ALD(Atomic Layer Deposition)膜と、を連続して成膜することができる成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、同一反応容器内で、CVD膜を形成した後に、ALD膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-59173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、CVD膜及びALD膜の形成に共用される原料ガスと反応ガスは、反応容器の上流に配置されたシャワーヘッドを介して反応容器に導入される。反応容器に配置されて成膜対象を載置する載置台が下部電極となり、シャワーヘッドを含む容器の上部構造が上部電極となり、反応容器内でプラズマが生成される。
【0005】
ALD膜を形成するALDプロセスでは、吸着段階と反応段階とを分離するために、吸着段階に必要な原料ガスと、反応段階に必要な反応ガスとは、排気(パージを含む)を挟んで交互に反応容器に供給される。一方、CVD膜を形成するCVDプロセスでは、原料ガスと反応ガスとはシャワーヘッドを介して同時に供給され、反応容器内にてプラズマが生成され易い例えば数100Pa程度の圧力に設定される。このため、CVDプロセスでは気相中で反応が生じ、しかもガス分圧が比較的高いので、パーティクルや副生成物の発生の原因となっている。加えて、特許文献1では350℃~550℃もの高温プロセスである。
【0006】
本発明は、CVDプロセスとALDプロセスとの共通化を図って両プロセスの制御を簡便にすると共に、しかも、低温プロセスを可能とし、パーティクルや副生成物の発生を抑えることができる成膜方法及び成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
成膜対象にCVD膜とALD膜とを成膜する成膜方法であって、
前記ALD膜を成膜するALDプロセスでは、
成膜対象が配置された反応容器を、第1供給管を介して導入される原料ガスで充満させる第1工程と、
前記第1工程後に、前記反応容器の気相中の前記原料ガスを排気する第2工程と、
前記第2工程後に、第2供給管内で誘導結合プラズマにより活性化されて前記第2供給管を介して導入される反応ガスで、前記反応容器を充満させる第3工程と、
前記第3工程後に、前記反応ガスを前記反応容器から排気する第4工程と、
を含むALDサイクルが複数回繰り返し実施され、
前記CVD膜を成膜するCVDプロセスでは、前記ALDサイクルが少なくとも1回実施され、かつ、前記第2工程の排気は、前記反応容器の気相中に前記原料ガスを残存させたまま終了させる成膜方法に関する。
【0008】
本発明の一態様によれば、CVDプロセスは、ALDサイクルが少なくとも1回実施される点で、CVDプロセスとALDプロセスとが共通化される。それにより、両プロセスの制御を簡便にすることができる。CVDプロセスでは、第2工程の排気が、反応容器の気相中に前記原料ガスを残存させたまま終了させる点で、ALDプロセスとは少なくとも異なる。よって、両プロセス間の相違が、ALDサイクル数の他に、第2工程の排気時間を異ならせるだけとすれば、両プロセスの制御は極めて簡便にすることができる。CVDプロセスでの第2工程の排気で反応容器の気相中に原料ガスを残存させたまま終了させれば、第3工程で導入される反応ガスが気相中の原料ガスと反応して、CVD膜を形成することができる。また、活性化反応ガスに含まれるラジカルより、原料ガスは室温レベルでも成膜対象に飽和吸着が可能であるので、成膜中に成膜対象を強制加熱する必要がない。加えて、第2工程の排気によっても反応ガスの圧力が低くなるので、特許文献1のように高い圧力での反応とは異なり、パーティクルや副生成物が生じ難くなる。
【0009】
本発明の一態様では、前記ALDプロセス及び前記CVDプロセスでは、前記第1工程の時間は実質的に等しく設定され、前記CVDプロセスでの前記第2工程の時間は、前記ALDプロセスでの前記第2工程の時間よりも短く設定されても良い。ALDプロセス及びCVDプロセスで原料ガスを導入する時間を等しく設定する一方で、CVDプロセスでの第2工程の排気時間をALDプロセスよりも短くすることで、CVDプロセスでの第2工程の排気は、反応容器の気相中に原料ガスを残存させたまま終了させることができる。
【0010】
本発明の一態様では、前記原料ガスは有機金属ガスであり、前記反応ガスは酸化ガスとすることができる。活性化反応ガスに含まれるOHラジカルが、低温プロセスを可能とする。
【0011】
本発明の一態様では、前記原料ガスは有機金属ガスであり、前記反応ガス窒化ガスとすることができる。活性化反応ガスに含まれるNHラジカルが、低温プロセスを可能とする。
【0012】
本発明の一態様では、前記成膜対象は多孔質体であり、成膜される面に開口する孔を有することができる。この場合、CVDプロセスにより孔を塞いだ後に、CVD膜上に緻密なALD膜を成膜することができる。
【0013】
本発明の他の態様は、
成膜対象が配置される反応容器と、
原料ガスを前記反応容器に供給する第1供給管と、
前記反応容器と接続され、反応ガスが供給される第2供給管と、
前記第2供給部管内の前記反応ガスを誘導結合プラズマにより活性化する反応ガス活性化装置と、
前記反応容器内を排気する排気部と、
CVDプロセスとALDプロセスとを制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記ALDプロセスでは、
前記成膜対象が配置された前記反応容器に前記第1供給管を介して前記原料ガスを導入する第1工程と、
前記第1工程後に、前記排気部により前記原料ガスを前記反応容器から排気する第2工程と、
前記第2工程後に、前記第2供給管内で前記反応ガス活性化装置により活性化された前記反応ガスを、前記第2供給管を介して前記反応容器に導入する第3工程と、
前記第3工程後に、前記反応ガスを前記反応容器から排気する第4工程と、
を含むALDサイクルを複数回繰り返し実施させ、
前記CVDプロセスでは、前記ALDサイクルを少なくとも1回実施させ、かつ、前記第2工程は、前記反応容器の気相中に前記原料ガスを残存させたまま終了させる成膜装置に関する。
【0014】
本発明の他の態様によれば、本発明の一態様である成膜方法を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の概略説明図である。
図2図1に示す反応ガス活性化装置の一例を示す図である。
図3】成膜対象である多孔質体の表面に形成されるCVD膜及びALD膜を示す図である。
図4】CVDプロセスとALDプロセスとが連続する成膜工程のタイミングチャートである。
図5】CVDプロセスとALDプロセスとの関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、請求の範囲の記載内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
1.成膜装置
図1は、実施形態に係る成膜装置を示す。図1において、成膜装置10は、例えば石英製の反応容器20を有する。反応容器20は、原料ガス導入口30と、反応ガス導入口40と、排気口50とを有する。反応容器20内には成膜対象1を例えば載置して支持する支持部60が設けられる。
【0018】
原料ガス導入口30には第1供給管100が連結され、第1供給管100には原料ガス容器110及び流量制御器130が接続される。第1供給管100に設けられた第1バルブ120が開状態のときに、流量制御器130により制御された流量の原料ガスが原料ガス容器110から原料ガス導入口30に供給される。反応ガス導入口40には第2供給管200が連結される。第2供給管200には、反応ガス活性化装置210が設けられる。反応ガス容器220は、反応ガス活性化装置210に反応ガスを供給する。反応ガス活性化装置210で活性化された反応ガスは、第2バルブ230を介して反応ガス導入口40に供給される。
【0019】
本実施形態では、原料ガスは例えばTDMAS(SiH[N(CH)であり、活性化された反応ガスはOHラジカル(OH)であり、成膜対象1にシリコン酸化膜SiOを成膜するものとする。これに限らず、原料ガスとして用いられる例えばトリメチルアルミニウムAl(CHがOHラジカル(OH)と反応して、酸化アルミニウムAlを成膜しても良い。
【0020】
図2(A)は、反応ガス容器220及び反応ガス活性化装置210の一例を示す。図2(A)では、反応ガスは例えば水蒸気HOであり、水蒸気を活性化してOHラジカル(OH)を生成する。そのために、反応ガス容器220は、水2が蓄えられた加湿器240と、不活性ガス容器250とを含む。加湿器240には、不活性ガス容器250からの不活性ガス例えばアルゴンArが管260を介して導入される。アルゴンArによりバブリングされた水2が水蒸気ガスとなって、第2供給管200に供給される。例えば石英製の第2供給管200の周囲には誘導コイル270が設けられる。誘導コイル270には、図1に示す高周波電源212が接続される。例えば、誘導コイル270によって加えられる電磁エネルギーは20Wで、周波数は13.56MHzである。誘導コイル270によって第2供給管200内には反応ガスの誘導結合プラズマ3が生成される。OHラジカル(OH)を反応容器20に供給することにより、後述する通り、成膜対象1を強制加熱することなく低温で、例えば、室温で成膜することができる。
【0021】
反応容器20の排気口50には排気管300が連結され、排気管300には排気ポンプ310と排気バルブ320とが設けられる。排気ポンプ310により、反応容器20は真空引き可能である。それにより、反応容器20から原料ガスまたは反応ガスを排気することができる。なお、図示していないが、排気ポンプ310による排気中に、反応容器20にはパージガスとして不活性ガスが流量制御されて供給可能である。反応容器20から原料ガスまたは反応ガスを排気するために、パージガスを導入することで反応容器20内をパージガスに置換しても良い。この他、原料ガスのキャリアガスとして不活性ガスを用いても良い。
【0022】
制御部400は、CVDプロセスとALDプロセスとの制御を司る。図3は、制御部400によって実行される成膜方法で、成膜対象である多孔質体1の表面を成膜した一例を示す模式図である。図4は、制御部400によって実行される成膜方法のタイミングチャートであり、CVDプロセスとALDプロセスとが連続して実行される。図5は、制御部400によって実行されるCVDプロセスとALDプロセスとの関係を示すタイミングチャートである。制御部400の制御内容について、本実施形態の成膜方法を例に挙げて説明する。
【0023】
2.成膜方法
図3に示すように、多孔質体1を成膜するために、先ずCVD膜4を形成し、その後、CVD膜4上にALD膜5を形成する。CVD膜4が多孔質体1の孔1Aを埋め、緻密なALD膜5が、密度が疎であり例えばバリア性の乏しいCVD膜4を被覆することができる。それにより、多孔質体1の表面を、例えば疎水性または親水性等の特性を有する表面に改質することができる。
【0024】
そのために、本実施形態では、図4に示すように、最初にCVDプロセスを実施し、その後に引き続いてALDプロセスを実施するように、制御部400が成膜装置10の各部を制御する。しかも、制御部400は、CVDプロセスとALDプロセスとの共通化を図って制御を簡便にしている。CVDプロセスとALDプロセスとの共通化とは、ALDプロセスで複数繰り返し実施されるALDサイクルの一サイクルと同様のCVDプロセスを採用することである。CVDプロセスとALDプロセスとの共通化について、図5を参照して説明する。
【0025】
2.1.ALDプロセス
説明の便宜上、先ず、ALDプロセスを説明する。ALDプロセスは、第1工程~第4工程を1サイクルとするALDサイクルを、ALD膜5の膜厚が得られるまで繰り返し実施される。
【0026】
2.1.1.ALDサイクルの第1工程
ALDサイクルを実施するにあたり、先ず、排気ポンプ310により反応容器20内が真空引きされ、反応容器20内が例えば10-4Paに設定される。次に、ALDサイクルの第1工程として、第1バルブ120を開状態として原料ガスTDMASが反応容器20内に供給され、第1バルブ120が閉鎖される。それにより、反応容器20内は比較的低い圧力例えば1~10Paにて原料ガスで充満される。ALDサイクルの第1工程で、支持部60上の成膜対象1の表面にTDMASが吸着される。
【0027】
2.1.2.ALDサイクルの第2工程
第1工程の開始後のT1時間経過後、ALDサイクルの第2工程として、反応容器20内に例えばパージガスが導入され、反応容器20内の気相中の原料ガスTDMASは排気され、反応容器20内がパージガスに置換される。この排気時間をT2とする。
【0028】
2.1.3.ALDサイクルの第3工程
次に、ALDサイクルの第3工程として、反応ガス活性化装置210で活性化された反応ガスであるOHラジカル(OH)が、第2バルブ230を開状態とすることで反応容器20内に導入される。その後、第2バルブ230が閉鎖されて、反応容器20内は比較的低い圧力にて反応ガスで充満される。その結果、成膜対象1の表面では、TDMASがOHラジカル(OH)と反応する。具体的には、TDMASがOHラジカル(OH)により酸化されて、シリコン酸化膜SiOが生成される。それにより、成膜対象1の表面はシリコン酸化膜により被覆される。また、シリコン酸化膜上にはヒドロキシ基(-OH)が形成される。このヒドロキシ基(-OH)上には、有機金属ガスは室温でも飽和吸着が可能である。よって、成膜中に成膜対象1を強制加熱する必要がない。
【0029】
2.1.4.ALDサイクルの第4工程
第3工程の開始後のT3時間経過後、ALDサイクルの第4工程として、反応容器20内に例えばパージガスが導入され、反応容器20内の気相中の活性化反応ガスは排気され、反応容器20内がパージガスに置換される。第4工程の排気時間T4は、例えば第2工程の排気時間T2と等しくすることができる。
【0030】
この第1工程~第4工程で構成されるALDサイクルは、ALD膜5の膜厚が得られるまで繰り返し実施される。ALDサイクルでは原子層レベルで例えば1オングストローム=0.1nmずつ堆積されるので、例えば10nmの膜厚にするにはALDサイクルを100回繰り返せばよい。ALDサイクルの変形例として、原料ガスTDMASを反応容器20内に導入する前に、反応容器20内に所定の圧力例えば1~10Paでオゾンを充満させ、その後パージガスで排出しても良い。オゾンを導入することによって、未反応の炭素が膜中に混入されるのを防止することが可能である。
【0031】
2.2.CVDプロセス
図5に示すように、CVDプロセスもALDサイクルと同様に第1工程~第4工程を有する。第1工程の時間をT1、第2工程の時間をT2、第3工程の時間をT3及び第4工程の時間をT4とすると、例えば、T1=T2、T2<T2、T3=T3及びT4=T4に設定される。つまり、CVDプロセスでは、第2工程の時間T2がALDサイクルの第2工程の時間T2よりも短く設定される点を除いて、ALDサイクルと等しく設定することができる。
【0032】
CVDプロセスでは、第2工程の時間T2が短いので、反応容器20内の気相中の原料ガスTDMASは全て排気されずに、一部は反応容器20内の気相中に残留される。反応容器20内の気相中に原料ガスTDMASが残留した状態で第3工程が開始されると、反応容器20内の気相中の原料ガスTDMASが、導入されたOHラジカル(OH)と気相化学反応する。つまり気相化学反応により生成されたシリコン酸化物SiOが成膜対象1の表面に堆積されるCVDプロセスが実現される。なお、CVDプロセスでは、第1~第4工程から成る一サイクルを繰り返し実施する必要は必ずしもない。第1~第4工程によって必要な膜厚のCVD膜4が得られるのであれば、2サイクル以上実施する必要はない。
【0033】
以上の通り、ALDプロセスとCVDプロセスは、共にALDサイクルを実施することで共通化されるので、2つの異なるプロセスの制御を簡便にすることができる。特に、CVDプロセスが、第2工程の時間T2がALDサイクルの第2工程の時間T2よりも短く設定される点を除いて、ALDサイクルと等しく設定されることで、2つの異なるプロセスの制御を極めて簡便にすることができる。
【0034】
本実施形態のCVDプロセスでは、第1工程での原料ガスの供給と、第3工程での活性化反応ガスの供給とは、同時でなく第2工程を介して分離されている。本実施形態のCVDプロセスでは、第1工程での原料ガスの圧力はALDサイクルの第1工程と同じく比較的低い圧力例えば1~10Paとすることができる。本実施形態のCVDにプロセスでは、第2工程の排気は、反応容器20の気相中に原料ガスを残存させたまま終了される。これら3つの点は、従来のCVDプロセスと全く異なる。CVDプロセスをこのようにして実施する理由として、以下の通り3つ挙げることができる。
【0035】
一つは、第2工程の排気後にも反応容器20の気相中に原料ガスが残存されているので、第3工程により反応容器20中に導入される活性化反応ガスは気相中で原料ガスと反応し、ALDプロセスではなく、化学的気相成長(CVD)プロセスを実現するためである。
【0036】
他の一つは、第3工程で活性化反応ガスを導入する圧力を過度に高めなくても、第2工程の排気によっても反応ガスの導入圧力よりも低い圧力となる原料ガスを、第2供給管200及び反応ガス活性化装置210に逆流させないようにするためである。原料ガスが第2供給管200及び反応ガス活性化装置210に逆流すると、そこで反応ガスと反応して、第2供給管200及び反応ガス活性化装置210がパーティクルや副生成物により汚染されてしまう。本実施形態では、そのような汚染を防止できる。活性化反応ガスを導入する圧力は、反応ガス活性化装置210で反応ガスのプラズマが生成され得る圧力であり、例えば5~15Paである。第2工程後の反応容器20内の第1圧力P1が、活性化反応ガスを導入する圧力P2よりも低ければ、上述した逆流を防止でき、そのために第2工程が必要である。なお、活性化反応ガスが導入された後にバルブ230は閉鎖されるので、第3工程中に第2供給管200で原料ガスと反応ガスとが反応することはない。
【0037】
さらに他の一つは、第2工程の排気によっても反応ガスの圧力が低くなるので、特許文献1のように高い圧力での反応とは異なり、反応容器20内でパーティクルや副生成物を生じ難くするためである。
【0038】
なお、金属酸化膜を成膜する場合に用いられる反応ガスである酸化ガスに代えて、例えば窒化ガスを用いれば、金属窒化膜を成膜することが可能である。この場合、反応ガスである窒化ガスとして例えばNHラジカルが生成されるNHを用いることができる。原料ガスとして例えばTDMAS(SiH[N(CH)を用いるとSiNを成膜することができ、原料ガスとして例えばTDMAT(Ti[N(CH)を用いるとTiNを成膜することができる。いずれの場合も、NHラジカルの存在により、低温プロセスを実現することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…成膜対象、1A…孔、2…水、3…プラズマ、10…成膜装置、20…反応容器、30…原料ガス導入口、40…反応ガス導入口、50…排気口、60…支持部、100…第1供給管、110…原料ガス容器、130…第1バルブ、200…第2供給管、210…反応ガス活性化装置、212…高周波電源、220…反応ガス容器、230…第2バルブ、270…誘導コイル、300…排気管、310…排気ポンプ、320…排気バルブ
図1
図2
図3
図4
図5