(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】踏切保安装置
(51)【国際特許分類】
B61L 29/04 20060101AFI20220728BHJP
B61L 29/00 20060101ALI20220728BHJP
B61L 29/16 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B61L29/04 B
B61L29/00 A
B61L29/16
(21)【出願番号】P 2018030755
(22)【出願日】2018-02-23
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】林 南美
(72)【発明者】
【氏名】小松 寛明
(72)【発明者】
【氏名】木村 実
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-092238(JP,A)
【文献】特開2014-201091(JP,A)
【文献】特開平08-276845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 29/00-29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切しゃ断桿を能動的に昇降させるとともに受動的に横移動させる踏切しゃ断機と、前記踏切しゃ断桿より線路側の踏切部分に対応した踏切障害物検知領域をデータ保持するとともに踏切しゃ断桿の下降後は踏切障害物検知領域の中の物体を障害物として検知する踏切障害物検知装置とを備えた踏切保安装置において、
前記踏切しゃ断桿の横移動の程度を検出する横移動検出手段が設けられ、その検出値に応じて前記踏切障害物検知装置が前記踏切障害物検知領域を拡縮するようになっている、ことを特徴とする踏切保安装置。
【請求項2】
前記踏切しゃ断桿の横移動を屈曲にて可能にする第1屈曲機構と、前記踏切しゃ断桿の上昇方向への受動的移動を屈曲にて可能にする第2屈曲機構とが設けられ、前記第1屈曲機構が弾撥部材を具備していて前記弾撥部材の弾撥力によって屈曲状態から真直状態へ戻るようになっており、前記第2屈曲機構が着脱可能な係着部を具備しており、前記係着部が係着状態の維持力を超える離脱力の作用によって離脱するものであり、前記係着部が係着すると前記第2屈曲機構が真っ直ぐになり、前記係着部が離脱すると前記第2屈曲機構が屈曲するようになっている、ことを特徴とする請求項1記載の踏切保安装置。
【請求項3】
前記踏切しゃ断桿が横移動した状態で上昇すると前記踏切しゃ断桿と干渉して前記踏切しゃ断桿を横移動の無かった状態に戻す横曲げ解消部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された踏切保安装置。
【請求項4】
前記第2屈曲機構が屈曲した状態で前記踏切しゃ断桿が上昇すると前記踏切しゃ断桿と干渉して前記第2屈曲機構を真っ直ぐにする縦曲げ解消部材が設けられていることを特徴とする請求項2
と請求項2引用の請求項3とのうち何れか一方に記載された踏切保安装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道と道路との交差点である踏切道における安全を確保するために踏切に臨んで設置される踏切保安装置に関し、詳しくは踏切しゃ断機と踏切障害物検知装置とを備えた踏切保安装置に関し、更に詳しくは、踏切しゃ断機が踏切しゃ断桿をモータ駆動等の能動的手段にて昇降させうるとともに手押し等の受動的手段にて横移動させうる状態で保持するものであり、且つ、踏切障害物検知装置が踏切しゃ断桿より線路側の踏切部分に対応づけてデータ設定した踏切障害物検知領域をデータ保持するとともに踏切しゃ断桿の下降後は踏切障害物検知領域の中の物体を障害物として検知するものに関する。
【背景技術】
【0002】
踏切保安装置のうち踏切しゃ断機については、踏切しゃ断桿が踏切通過中の車両等の上に下降して折れるといった不所望な事態を回避するために折損防止機能を備えたものが知られている(例えば特許文献1~5参照)。かかる折損防止機能の具体化については、モータ駆動電流を監視して妨害検出時に踏切しゃ断桿の昇降を反転させるものや(例えば特許文献1,2参照)、連結部の介装にて任意方向へ屈曲しうる踏切しゃ断桿を常態ではバネにて真っ直ぐに保つとともに屈曲時の方向を屈曲防止部にて上方と進行方向とに制限するもの(例えば特許文献3参照)、やはりバネにて常態では直線状態を維持する踏切しゃ断桿の屈曲方向を斜め上方に限定したもの(例えば特許文献4参照)、人感センサにて踏切内の人を検出すると踏切しゃ断桿への動力伝達を断って手動でも容易に押し上げられるようにしたもの(例えば特許文献5参照)、等が知られている。
【0003】
また、踏切保安装置のうち踏切障害物検知装置は、踏切が閉じたときに人間や車両といった通行体が所定の踏切障害物検知領域に存在しているとそれを障害物として検出・検知するものである(例えば特許文献5,6参照)。
その検知手段としては、超音波センサや,三次元レーザレーダ,撮像カメラ等の他(例えば特許文献5参照)、踏切しゃ断桿の外周面のタッチセンサ(例えば特許文献5参照)、平面掃引レーダ方式(例えば特許文献6参照)、等が用いられる。
【0004】
これらの検知手段のうち、踏切しゃ断桿の外周面のタッチセンサを用いるものは、踏切しゃ断桿の移動に応じて踏切障害物検知領域が移動するが拡縮する訳ではなく、検知範囲が、踏切しゃ断桿の近傍に限定されるので、単独で使用するには検知領域が狭い。
これに対し、レーダ方式といった他の検知手段は、検出可能物の大小や検出状態の粗密はあるものの、踏切道のうち線路の両側に下降した踏切しゃ断桿によって平面視で挟まれる領域(以下、踏切しゃ断桿間領域と呼ぶ)の内側に属する比較的広い範囲を踏切障害物検知領域として障害物を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-160634号公報
【文献】特開2006-069333号公報
【文献】特開2014-205454号公報
【文献】特開2015-009717号公報
【文献】特開2017-039470号公報
【文献】特願2016-163579号(出願)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
もっとも、それらの踏切保安装置は、何れも、踏切障害物検知装置が踏切障害物検知領域を拡縮させるようになってはいなかった。
すなわち、何れの踏切障害物検知装置でも、踏切しゃ断桿間領域が拡縮しようとしまいと、踏切障害物検知領域は拡縮することなく一定形状のままであった。
このため、単に踏切しゃ断機が踏切しゃ断桿の上下動の状況を変えるだけの踏切保安装置は別として、踏切しゃ断桿を進行方向や斜め上方といった横向きにも移動させうる踏切しゃ断機(以下、桿横移動許容タイプ踏切しゃ断機と呼ぶ)を具備している踏切保安装置(以下、桿横移動許容タイプ踏切保安装置と呼ぶ)については、踏切しゃ断桿間領域が拡縮すると、踏切しゃ断桿間領域と踏切障害物検知領域との差が拡縮することとなる。
【0007】
しかしながら、それら両領域の差が広がると、特に、その差分領域が踏切しゃ断桿の近くで拡大すると、踏切内すなわち踏切しゃ断桿よりも線路側の踏切道部分に取り残されている人物等を障害物として検出する能力が低下することにもなりかねない。一方、桿横移動許容タイプ踏切しゃ断機の踏切しゃ断桿は、人手等で押されて横向き移動させられると元に戻ろうとする反力が発生するので、その力を弱く抑えたとしても、取り残されている人物等を線路側へ押しやろうとする好ましくない力がそれなりには作用する。
そこで、踏切しゃ断桿が横移動しても障害物検出能力が維持される桿横移動許容タイプ踏切保安装置を実現することが技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の踏切保安装置は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、
踏切しゃ断桿を能動的に昇降させるとともに受動的に横移動させる踏切しゃ断機と、前記踏切しゃ断桿より線路側の踏切部分に対応した踏切障害物検知領域をデータ保持するとともに踏切しゃ断桿の下降後は踏切障害物検知領域の中の物体を障害物として検知する踏切障害物検知装置とを備えた踏切保安装置において、
前記踏切しゃ断桿の横移動の程度を検出する横移動検出手段が設けられ、その検出値に応じて前記踏切障害物検知装置が前記踏切障害物検知領域を拡縮するようになっている、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の踏切保安装置は(解決手段2)、上記解決手段1の踏切保安装置であって、前記踏切しゃ断桿の横移動を屈曲にて可能にする第1屈曲機構と、前記踏切しゃ断桿の上昇方向への受動的移動を屈曲にて可能にする第2屈曲機構とが設けられ、前記第1屈曲機構が弾撥部材を具備していて前記弾撥部材の弾撥力によって屈曲状態から真直状態へ戻るようになっており、前記第2屈曲機構が着脱可能な係着部を具備しており、前記係着部が係着状態の維持力を超える離脱力の作用によって離脱するものであり、前記係着部が係着すると前記第2屈曲機構が真っ直ぐになり、前記係着部が離脱すると前記第2屈曲機構が屈曲するようになっている、ことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の踏切保安装置は(解決手段3)、上記解決手段1,2の踏切保安装置であって、前記踏切しゃ断桿が横移動した状態で上昇すると前記踏切しゃ断桿と干渉して前記踏切しゃ断桿を横移動の無かった状態に戻す横曲げ解消部材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の踏切保安装置は(解決手段4)、上記解決手段2,3の踏切保安装置であって、前記第2屈曲機構が屈曲した状態で前記踏切しゃ断桿が上昇すると前記踏切しゃ断桿と干渉して前記第2屈曲機構を真っ直ぐにする縦曲げ解消部材が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明の踏切保安装置にあっては(解決手段1)、踏切障害物検知装置の踏切障害物検知領域が桿横移動許容タイプ踏切しゃ断機の踏切しゃ断桿の横移動の程度に応じて拡縮されるようにしたことにより、踏切しゃ断桿間領域と踏切障害物検知領域との差領域の変動が抑制されるので、踏切しゃ断桿が横移動しても更には該横移動の解消時にも障害物検出能力が維持されることとなり、上述の技術課題が解決される。
【0013】
また、本発明の踏切保安装置にあっては(解決手段2)、屈曲手段として第1,第2屈曲機構を設けることで横移動ばかりか縦移動についても受動的な移動が行なえるようにしたうえで、復元に重力を利用できない横移動用の第1屈曲機構にはスプリング等の比較的大きな弾撥部材を組み入れる一方、復元に重力を利用できる縦移動用の第2屈曲機構には小さくて済む係着機構を採用したことにより、屈曲方向すなわち可動方向が一方向より多い二方向になっても、屈曲部の規模や重量は二倍に増えないで済むため、小形・軽量で運搬や取付の容易な状態を維持することができる。
【0014】
さらに、本発明の踏切保安装置にあっては(解決手段3,4)、第1屈曲機構の弾撥部材の弾撥力や第2屈曲機構の係着部の係着状態維持力を小さくすると、下降状態の踏切しゃ断桿について折損防止機能といった受動的移動に基づく機能が良く働くようになる一方、上昇状態の踏切しゃ断桿については強風などの外力を受けて不所望な変形が生じやすくなるところ、上昇状態の踏切しゃ断桿を真っ直ぐにする横曲げ解消部材や縦曲げ解消部材を設けたことにより、上述した不所望な変形が防止されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1について、踏切保安装置の構造と設置状態を示し、(a)が設置先の踏切道等の概要平面図、(b)がその概要正面図である。
【
図2】同様に踏切保安装置の構造と設置状態を示し、(a)が踏切保安装置の設置先の踏切道の概要平面図、(b)がその概要正面図である。
【
図3】同様に踏切保安装置の構造と設置状態を示し、(a)が踏切保安装置の設置先の踏切道の概要平面図、(b)がその概要正面図である。
【
図4】屈曲機構の構造を示し、(a)が展開斜視図、(b)が一部断面斜視図、(c)が斜視図、(d)がカバーで覆ったところの斜視図である。
【
図5】屈曲機構の動作状態を示し、(a)が第1屈曲機構の屈曲状態を示す一部断面斜視図、(b)が第2屈曲機構の屈曲状態を示す一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
このような本発明の踏切保安装置について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1により説明する。
図1~5に示した実施例1は、上述した解決手段1~4(出願当初の請求項1~4)を総て具現化したものである。
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、ボルト等の締結具や,電動モータ等の駆動源,タイミングベルト等の伝動部材,モータドライバ等の電気回路,コントローラ等の電子回路などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心に図示した。
【実施例1】
【0017】
本発明の踏切保安装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1~
図3は、何れも、踏切保安装置の構造と設置状態を示し、(a)が踏切保安装置を設置した踏切道10等の概要平面図、(b)がその概要正面図である。
それらのうち、
図1は、下降した踏切しゃ断桿14のうち手前のものが横断歩行者にY方向すなわち踏切から手前へ出る方向へ押されてその方向に横移動したときの状況を示し、
図2は、そのような横移動が下降時の踏切しゃ断桿14に無いときの状況を示し、
図3は、踏切しゃ断桿14が上昇してZ方向を向いているときの状況を示している。
【0018】
この踏切保安装置は、線路12,12を横切っている踏切道10を臨む所であって線路12,12の外側に当たる所に設置された桿横移動許容タイプ踏切しゃ断機13,13と、平面掃引計測部21,21と判定部22,22とを具備していて少なくとも平面掃引計測部21,21が踏切道10を臨む所に設置された踏切障害物検知装置20と、それぞれの踏切しゃ断機13の傍に設けられて上方に位置する横曲げ解消部材41及び縦曲げ解消部材42と、図示しない横移動検出手段と縦移動検出手段とを備えている。
【0019】
踏切しゃ断機13は、踏切しゃ断桿14を片持ち状態で保持して水平状態から鉛直近くまでモータ駆動にて揺動させることによって踏切しゃ断桿14を能動的に昇降させるものであり、その機能や構造は公知の一般的なもので足りるので詳述は割愛するが、踏切しゃ断桿14を直に保持するのでなく屈曲機構30を介して保持するように改良されており、この屈曲機構30の屈曲に基づいて受動的な縦移動も受動的な横移動も行えるものとなっている。屈曲機構30は、後で詳述するが、踏切しゃ断桿14を押す力が車両の動力より弱い人力であっても、横のY方向へも上のZ方向へも曲がるようになっている。
【0020】
横移動検出手段は、それぞれの踏切しゃ断桿14についてその横移動の程度を検出するものであり、公知のもので足りるので図示は割愛したが、例えば屈曲機構30の屈曲部に装着された歪みセンサ等を利用して横移動量を計測するものでも良く、踏切しゃ断桿14の先端に装着された発信体や,発光体,反射体などの位置検出に基づいて横移動量を計測するものでも良く、踏切しゃ断桿14をカメラ等で撮った画像に基づいて横移動量を計測するものであっても良い。この例では、踏切しゃ断桿14が片持ちなので、横移動量は、踏切しゃ断桿14のY方向の揺動量や、屈曲機構30のY方向の屈曲角度などになる。
【0021】
縦移動検出手段は、それぞれの踏切しゃ断桿14についてその縦移動の程度を検出するものであり、検出対象の方向は異なるが横移動検出手段と同様のもので足りるので図示は割愛した。なお、縦移動検出手段が計測する縦移動量は、踏切しゃ断機13による踏切しゃ断桿14の能動的な昇降に応じた昇降位置を基準として、そこから更に人力等の外力の作用による踏切しゃ断桿14の受動的な昇降(揺動,縦移動)によって変位した量である。踏切しゃ断桿14が片持ちの本例では、縦移動量は、XZ平面に射影した踏切しゃ断桿14の揺動変位量や、XZ平面に射影した屈曲機構30の屈曲角度などになる。
【0022】
踏切しゃ断機13の図示しない制御部は、上述した縦移動量に応じて踏切しゃ断桿14の上昇角度を制限することで、具体的には能動的な昇降による基準角度と受動的な昇降による縦移動量とを合わせた上昇角度が鉛直に達しないように能動的な昇降を抑制することで、踏切しゃ断桿14が自重で踏切しゃ断機13の方へ倒れるという不所望な倒伏を防止する。また、踏切しゃ断機13の制御部は、踏切しゃ断桿14の横移動量が所定値より大きいとき、特に踏切しゃ断桿14が上昇時に横曲げ解消部材41から外れてしまうほど横移動量が大きいときには、安全のため、能動的な昇降を見合わせるようになっている。
【0023】
横曲げ解消部材41と縦曲げ解消部材42は、別体でも良いが、図示の例では、金属製の丈夫な長板を鈍角に曲げる等のことで一体物として作られており、複数本の支柱によって踏切しゃ断機13の斜め上方に固定保持されている。そして、屈曲機構30の屈曲が無くて真っ直ぐな状態の踏切しゃ断桿14が上昇しきると、横曲げ解消部材41と縦曲げ解消部材42との境界部である長板の折り曲げ部分に踏切しゃ断桿14が当接するようになっている。故障時等の踏切しゃ断桿14の自重降下を妨げないよう、上昇角度は鉛直より少し斜めにとどまり、当接は何れの部材41,42に対しても軽めにとどまる。
【0024】
横曲げ解消部材41は、横移動した状態のまま踏切しゃ断桿14が上昇したとき、先ず横曲げ解消部材41の踏切道10寄りの部分の側面に踏切しゃ断桿14が当接し、更に踏切しゃ断桿14が上昇すると、踏切しゃ断桿14が横曲げ解消部材41の側面に沿って移動し、そのときに横曲げ解消部材41に押されて横移動が解消する向きに踏切しゃ断桿14が移動するのを後述の屈曲機構30の第1屈曲機構32~35が屈曲解消にてサポートするように、真直状態の踏切しゃ断桿14の旋回面に対して斜交するように設けられている。このような横曲げ解消部材41は、踏切しゃ断桿14が横移動した状態で上昇すると踏切しゃ断桿14と干渉して踏切しゃ断桿14を横移動の無かった状態に戻すものとなっている。
【0025】
縦曲げ解消部材42は、踏切しゃ断桿14が当接すると踏切しゃ断桿14がそれ以上は揺動しないように真直状態の踏切しゃ断桿14の旋回面とほぼ直交するように設けられており、踏切しゃ断桿14が縦移動した状態のまま上昇すると踏切しゃ断桿14と干渉して踏切しゃ断桿14を縦移動の無かった状態に戻すものとなっている。
なお、後述するように踏切しゃ断桿14の縦移動は屈曲機構30の第2屈曲機構36~38がサポートするようになっているので、縦曲げ解消部材42は、第2屈曲機構36~38が屈曲した状態で踏切しゃ断桿14が上昇すると踏切しゃ断桿14と干渉して第2屈曲機構36~38を真っ直ぐにするものにもなっている。
【0026】
踏切障害物検知装置20は、平面掃引計測部21,21と判定部22,22とを具備したものを例示したが、平面掃引計測部21のように踏切道10の通行体その他の物体を検出する物体検出機能と、判定部22のように踏切しゃ断桿14,14より線路12,12側の踏切部分に対応した踏切障害物検知領域11をデータ保持する領域データ保持機能と、やはり判定部22のように踏切しゃ断桿14,14の下降後は踏切障害物検知領域11の中の検出物体を障害物として検知する判定機能と、横移動検出手段の検出値に応じて障害物検知領域11を拡縮する領域拡縮機能とを備えている。
【0027】
各機能のうち、物体検出機能と領域データ保持機能と判定機能は公知のもので良いので詳述は割愛するが、領域拡縮機能は、新規の追加機能なので、詳述する。先ず、踏切しゃ断桿14が上昇しきって踏切道10が解放されているときには(
図3参照)、踏切障害物検知領域11に係る障害物検知は必須でないので、踏切障害物検知領域11は、踏切しゃ断桿間領域の内側に属する広範囲の領域という公知のものでも、他の領域でも良い。次に、踏切しゃ断桿14が下降しきって踏切道10が閉じられたときには、踏切障害物検知領域11に係る障害物検知が必要になるが、その状態で、踏切しゃ断桿14が押されることなく横移動の無い状態を維持しているときには(
図2参照)、踏切障害物検知領域11は、公知のもので良く、踏切しゃ断桿間領域の内側に属する広範囲の領域になる。
【0028】
これに対し、踏切しゃ断桿14が下降しきって踏切道10が閉じられている状態で、踏切しゃ断桿14が踏切脱出方向へ押されて横移動し、そのときの横移動量が横移動検出手段によって検出されたときには(
図1参照)、その横移動量に基づいて踏切しゃ断桿間領域の拡張分が分かるので、それに対応した増加領域11aを踏切障害物検知領域11に加えるデータ処理が行われるようになっている。逆の横移動減少時には、それに対応して踏切障害物検知領域11が縮小され、横移動解消時には踏切障害物検知領域11が元に戻されるようになっている。ただし、踏切しゃ断桿14が線路12の方へ跳ね返った等のことにより一時でも横移動量が負になったようなときには、安全のため、踏切障害物検知領域11が横移動の無いときの状態を維持されるようにもなっている。
【0029】
屈曲機構30について、その具体的な構成等を、図面を引用して説明する。
図4は、(a)が展開斜視図、(b)が一部断面斜視図、(c)が斜視図、(d)がカバー39で覆ったところの斜視図である。また、
図5は、屈曲機構30の屈曲動作の状態を示し、(a)が第1屈曲機構32~35の屈曲状態を示す一部断面斜視図、(b)が第2屈曲機構36~38の屈曲状態を示す一部断面斜視図である。
【0030】
屈曲機構30は、踏切しゃ断桿14の横移動を屈曲にて可能にするための第1屈曲機構32~35と(
図4(c),
図5(a)を参照)、踏切しゃ断桿14の上昇方向への受動的移動を屈曲にて可能にする第2屈曲機構36~38と(
図4(c),
図5(b)を参照)、それらを覆うカバー39とを備えている(
図4(d)参照)。
カバー39は、例えば塩化ビニール等の変形容易な部材から作られ、第1屈曲機構32~35や第2屈曲機構36~38が風雨に曝されるのを防止するとともに、通行人等が屈曲機構32~38に引っ掛かったりすることも防止するようになっている。
【0031】
第1屈曲機構32~35は(
図4(a)~(c)参照)、踏切しゃ断機13の踏切しゃ断桿保持部によって保持される筒状の根元部31と、コイルスプリング等からなり根元部31の中空に収まって伸縮しうる弾撥部材32と、軸状の係止部材33及び支軸34と、それらを所定の離隔部位の二穴に分けて挿着しうる横揺動部材35とを具えたものであり、支軸34が根元部31の軸支孔31bに挿入されるとともに、弾撥部材32が一端部を係止部材33に係止され他端部を根元部31の係止部31aに係止されると組み上がるようになっている。
【0032】
そして、組み上がった第1屈曲機構32~35は、根元部31を固定して横揺動部材35を横向きのY方向へ弾撥部材32の引っ張り力より強く押すと屈曲し(
図5(a)参照)、押すのを止めると弾撥部材32の引っ張り力(弾撥力)によって屈曲状態から真直状態へ戻るようになっている(
図4参照)。しかも、根元部31の非保持部すなわち踏切しゃ断桿14寄り部分の先端面が根元部31の軸心方向に対して傾斜しており、その傾斜端面の鋭角部に横揺動部材35の突出側揺動部分が当接したときに真直状態になり、上述の傾斜端面の鈍角部に横揺動部材35の突出側揺動部分が当接したときに最大の屈曲状態になるように、傾斜角や各部材の径などを規定したことにより、簡素な機構でも的確に屈曲角度を好適な0゜~90゜以下の範囲に制限できるものとなっている。
【0033】
第2屈曲機構36~38は(
図4(a)~(c)参照)、横揺動部材35の揺動端部に嵌着される横揺動部材延長部材36と、横揺動部材延長部材36に挿着される支軸37と、踏切しゃ断桿14の基端部が嵌着される先端部38とを具えたものであり、支軸37が先端部38にも挿着されると組み上がる。そして、支軸37を揺動中心として、上記の横揺動部材35の揺動方向とは直交する方向へ、具体的には縦向きのZ方向やX方向へ揺動するようになっている(
図5(b)参照)。
【0034】
また、先端部38の横揺動部材延長部材36側の端面には小さな突起状の係着部38aが設けられており(
図4(a),(b),
図5(b)参照)、これが横揺動部材延長部材36の対応部位に設けられた図示しない被係着部に着脱されるようになっている。これらの係着部38aと被係着部は、係着部38aが被係着部に係着すると第2屈曲機構36~38が真っ直ぐになるとともに係着部38aが被係着部から離脱すると第2屈曲機構36~38が屈曲するような位置関係で設けられている。
【0035】
しかも、係着状態では係着部38aが被係着部によって軽く挟持されたり弾性変形部の弱い力で保持されたりすることで係着状態が維持される一方、そのような係着状態の維持力を超える離脱力が作用すると、係着部38aが被係着部から離脱し、離脱状態では先端部38が軽快に揺動するものとなっている。さらに、その揺動範囲・屈曲角度も係着部38aの係着と両部材36,38の当接とによる簡素な機構によって好適な0゜~90゜以下に制限されるものとなっている。
【0036】
このような屈曲機構30は、軽量化に貢献するものなので、踏切しゃ断機13に装着するときに、纏めて装着しても良いが、根元部31から先端部38へ各部材を一つずつ順に装着することも可能であり、そうすることで軽快に装着作業を進めることができるので、実用性が高い。
【0037】
この実施例1の踏切保安装置について、その使用態様及び動作を、上述した図面を引用して説明する。
【0038】
踏切しゃ断桿14を装着した上述の屈曲機構30を保持して揺動させることにより踏切しゃ断桿14を昇降させる踏切しゃ断機13と、踏切障害物検知領域11を規定するデータを保持していて踏切しゃ断桿14の下降時に踏切障害物検知領域11の中に物体を検出すると障害物と判定する踏切障害物検知装置20とが設置された踏切道10では、列車が踏切道10の近くに来ていないときには(
図3参照)、踏切しゃ断桿14が、踏切しゃ断機13によって上昇させられていて、横曲げ解消部材41と縦曲げ解消部材42とに軽く当接して位置決めされており、そのため、踏切道10が開き続けるので、車両であれ通行人であれ踏切道10を自由に行き来することができる。
【0039】
そして、列車が踏切道10に近づいて踏切制御区間に進入すると、踏切しゃ断桿14が踏切しゃ断機13によって下降させられ、踏切道10が閉められる。そのとき、車両や通行人といった障害物が踏切内に無ければ(
図2参照)、踏切しゃ断桿14は屈曲機構30も含めて真っ直ぐな状態でほぼ水平に保たれ、踏切障害物検知領域11は踏切道10のうち踏切しゃ断桿14の線路12寄り部分に対応したものとなる(一点鎖線の枠内を参照)。ここまでの動作は外面的には既述した公知のものと同様である。
【0040】
これに対し、踏切道10が閉まっても未だ踏切内に通行人が残っていたときには(
図1参照)、その通行人は踏切から出ようとして踏切しゃ断桿14を踏切の外側(Y方向)へ押し出そうとしたり上側(Z方向)へ押し上げようとする。そして、それによって踏切しゃ断桿14に曲げ力が働くと、その力が車両起因の力より弱い通行人の力であっても、梃子的な増力作用も手伝って、その力が踏切しゃ断桿14から屈曲機構30に伝わったときには、それなりの強さの曲げ力が屈曲機構30に作用する。
【0041】
すると、踏切しゃ断桿14の変形が弾性変形による僅かなものにとどまっているうちに速やかに、弾撥部材32が伸びて第1屈曲機構32~35が横向き(Y方向)に屈曲することで踏切しゃ断桿14が横移動するとともに(
図1(a)参照)、係着部38aが被係着部から外れて第2屈曲機構36~38が上向き(Z方向)に屈曲することで踏切しゃ断桿14が縦移動する(
図1(b)参照)。そして、踏切しゃ断桿14が通行人の踏切脱出行為に応じて強く抵抗すること無く縦・横・斜め上へ動くので、通行人は落ち着いて容易に踏切から脱出することができる。
【0042】
しかも、踏切しゃ断桿14が手前の踏切脱出方向・Y方向へ横移動すると(
図1(a)参照)、その横移動量に対応した増加領域11aが踏切障害物検知装置20によって踏切障害物検知領域11に加えられる。そのため、通行人が踏切しゃ断桿14の内側から外側へ出るまでは、より具体的には増加領域11aを含む踏切障害物検知領域11を通行人が抜け出すまでは、既述した公知のものと異なり、踏切障害物検知装置20によって踏切に障害物が存在すると判定されるので、踏切への列車進入などが見合わされるので、安全性が高まる。
【0043】
そして、通行人が踏切を脱出すると、弾撥部材32の弾撥力によって屈曲機構30の第1屈曲機構32~35の屈曲が解消されて踏切しゃ断桿14の横移動が解消されるとともに、踏切しゃ断桿14の自重によって踏切しゃ断桿14の縦移動が解消されて屈曲機構30の第2屈曲機構36~38の屈曲も解消されるので、踏切が通常の閉鎖状態に戻り(
図2参照)、踏切障害物検知領域11も拡張の無い本来のものに戻る。
そして、列車が踏切を通過した後は、踏切しゃ断機13によって踏切しゃ断桿14が上昇させられ、踏切が再び開けられる(
図3参照)。
【0044】
なお、踏切しゃ断桿14を上昇させようとしたときに、想定を超える何らかの外力が作用して踏切しゃ断桿14が思わぬ横移動や縦移動を行ったときには、踏切しゃ断機13によって安全重視の昇降制御が行われる。すなわち、縦移動検出手段によって計測された縦移動量が所定値より大きいときには踏切しゃ断桿14の不所望な倒伏を防止するため上昇動作が控えられ、横移動検出手段によって計測された横移動量が所定値より大きいときにも横曲げ解消部材41からの逸脱を防止するため上昇動作が控えられる。そうでないときには、横曲げ解消部材41や縦曲げ解消部材42による屈曲矯正を見込んで上昇動作が実行されるが、その上昇はゆっくり行われる。
【0045】
[その他]
上記実施例では、屈曲機構30に第1屈曲機構32~35と第2屈曲機構36~38とが具備されていたが、これは解決手段1に加えて解決手段2も一緒に実施した例であり、解決手段2は実施しないで解決手段1を実施するときには、第1屈曲機構32~35は残っているが第2屈曲機構36~38は省かれて無くなっている簡易な屈曲機構を屈曲機構30に代えて用いることができる。
【0046】
上記実施例では、総ての踏切しゃ断機13,13に屈曲機構30と曲げ解消部材41,42とが装備されていたが、これは必須でなく、屈曲機構30や曲げ解消部材41,42は一部の踏切しゃ断機13にだけ設置されていても良い。
上記実施例では、踏切しゃ断桿14の横移動を可能にする第1屈曲機構32~35が屈曲状態から真直状態へ弾撥部材32の弾撥力で戻るようになっていたが、弾撥力で単純に戻ると、一時的な戻り過ぎによって不所望な跳ね返りが生じる場合、第1屈曲機構32~35にダンパ等を付設して横移動後に跳ね返り防止機能が働くようにすると良い。
【符号の説明】
【0047】
10…踏切道、11…障害物検知領域、
11a…増加領域(障害物検知領域の拡縮分)、12…線路、
13…踏切しゃ断機、14…踏切しゃ断桿、
20…踏切障害物検知装置、21…平面掃引計測部、22…判定部、
30…屈曲機構、31…根元部、31a…係止部、31b…軸支孔、
32~35…第1屈曲機構、
32…弾撥部材、33…係止部材、34…支軸、35…横揺動部材、
36~38…第2屈曲機構、
36…横揺動部材延長部材、37…支軸、
38…先端部(縦揺動部材)、38a…係着部、39…カバー、
41…横曲げ解消部材、42…縦曲げ解消部材