(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】エスカレータのオイルパン清掃具および清掃方法
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
B66B31/00 F
(21)【出願番号】P 2021049105
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】杉本 幸大造
(72)【発明者】
【氏名】井田 康志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直也
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特公昭58-044597(JP,B2)
【文献】特開2010-006558(JP,A)
【文献】特開平10-001279(JP,A)
【文献】実開昭63-136681(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータのトラスに設置されるオイルパンに溜まった汚損物を除去するのに用いる清掃具であって、
弾性材料からなり片面に複数の突起を有する板状の本体プレートと、
前記本体プレートを前記エスカレータの踏段の前輪軸から吊り下げる取付具と、
を備え、
前記突起は、針状の突起が所定の間隔をとって前記本体プレートに配列していることを特徴とするエスカレータのオイルパン清掃具。
【請求項2】
前記本体プレートの前記突起がある面には、重り板が取り付けられていることを特徴とする請求項
1に記載のエスカレータのオイルパン清掃具。
【請求項3】
前記取付具は、前記前輪軸に掛けられるワイヤリングと前記本体プレートに取り付けられるカラビナと、からなることを特徴とする請求項1に記載のエスカレータのオイルパン清掃具。
【請求項4】
前記請求項
1に記載のオイルパン清掃具を用意し、
前記本体プレートを前記突起が進行方向下階側を向くように前記前輪軸から吊り下げ、 エスカレータの運転とともに、前記本体プレートを上階から下階に向かって前記突起が下を向いて倒れた状態で移動させ、
前記本体プレートで前記オイルパン上の汚損物を絡め取ることを特徴とするエスカレータのオイルパン清掃方法。
【請求項5】
下階において前記本体プレートを前記前輪軸に取り付け、
エスカレータの運転とともに、
前記本体プレートを前記
突起のある面と反対側の平な面で前記オイルパン上を滑動させ、
上階に到達した後、エスカレータの運転を反対方向に切り替え、前記本体プレートを反転させることを特徴とする請求項
4に記載のエスカレータのオイルパン清掃方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータのオイルパン清掃具および清掃方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータでは、移動する踏段の下には機台としてのトラスがある。このトラスには、エスカレータを構成する、駆動装置をはじめとして様々な機器が設置されている。一般に、トラス内側の底部には、埃や塵、油などを受けるオイルパンが設置されている。
エスカレータが運転されている間、踏段の隙間などから進入した埃や塵は油と入り混じってオイルパンに落下し、次第に溜まっていく。このような汚損物の蓄積が進むと、大量に溜まったような場合には、汚損物がエスカレータの踏段を押し上げ、ひどいときには踏段の全体または一部を破損させることがある。この状態のままエスカレータが運転されることは開口走行と呼ばれ、踏段と踏段の間に隙間があくので、ここから埃や塵、物がエスカレータの内部に侵入し易い。場合によっては、利用者のつま先などが巻き込まれる事故の原因となる。
また、トラス内部に設置される電気回路に発生した火花や利用者の捨てた煙草の吸い殻で油を含む埃に引火し、火災の原因となることもある。
【0003】
このような開口走行を防止するために、エスカレータでは、定期点検の際などにオイルパンの清掃が実施されている。
【0004】
従来、エスカレータのオイルパンを清掃するには、エスカレータの踏段を全て取り外す必要があった。このため、オイルパンの清掃作業が大変大掛かりな作業となり、労力と時間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、エスカレータのオイルパンの清掃作業の自動化、省力化を図るため、様々な提案がなされている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のオイルパン用に考案された清掃装置は、その装置自体が大型であったり、清掃装置を取り付けられる踏段が大型になったりと、簡便に取り扱えるものではなかった。
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであって、構成が簡素でありながら、オイルパンを効率良く簡易に清掃することを可能とするエスカレータのオイルパン清掃具および清掃方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係るオイルパン清掃具は、エスカレータのトラスに設置されるオイルパンに溜まった汚損物を除去するのに用いる清掃具であって、弾性材料からなり片面に複数の突起を有する板状の本体プレートと、前記本体プレートを前記エスカレータの踏段の前輪軸から吊り下げる取付具と、を備え、前記突起は、針状の突起が所定の間隔をとって前記本体プレートに配列していることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態によるエスカレータのオイルパン清掃具が適用されるエスカレータの概要を示す図である。
【
図2】本実施形態によるオイルパン清掃具を示す斜視図である。
【
図3】エスカレータの前輪軸に取り付けられた状態のオイルパン清掃具を示す図である。
【
図4】本実施形態の変形例によるオイルパン清掃具を示す斜視図である。
【
図5】オイルパン清掃具を取り付ける準備工程を示す図である。
【
図6】オイルパン清掃具を中間オイルパンに沿って移動させている過程を示す図である。
【
図7】エスカレータ上階でのオイルパン清掃具の動作を示す図である。
【
図8】オイルパン清掃具を下降させながら、中間オイルパンに沿って清掃している過程を示す図である。
【
図9】エスカレータ下階におけるオイルパン清掃具の清掃最終段階の動作を示す図である。
【
図10】本実施形態の別の変形例によるオイルパン清掃具を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明によるエスカレータのオイルパン清掃具および清掃方法の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態によるエスカレータのオイルパン清掃具が適用されるエスカレータの概要を示す図である。
【0012】
図1において、参照10はエスカレータの全体を示す。参照番号12は、エスカレータの上部構造を支持し、踏段15が収容されているトラスを示している。手すりベルト4は、欄干2の外周を循環走行する。欄干2の下には、上階の乗降口7から下階の乗降口8までガード部3が連続するようになっている。
【0013】
踏段15は、チェーン9に前輪軸16を介して無端環状に連結されている。チェーン9は、下階のスプロケット5と上階のスプロケット6に巻き付けられている。トラス12には、下階乗降口8の下にある下部オイルパン11と、上階乗降口7の下にある上部オイルパン13と、傾斜したエスカレータ経路の下にある中間オイルパン14が設けられている。
【0014】
次に、
図2は、本実施形態によるオイルパン清掃具20を示す斜視図である。
このオイルパン清掃具20は、方形の本体プレート21を本体としており、本体プレート21の片面には、複数の突起22が植設されている。この実施形態では、本体プレート21は、プラスチック、ゴム、ウレタンなどの可撓性のある弾性材料で成形された矩形薄板の部材である。本体プレート21の横幅は、下部オイルパン11、中間オイルパン14、上部オイルパン13の幅に対応させて設定されている。本体プレート21の長さは、後述するように、踏段15の移動とともに下部オイルパン11、中間オイルパン14、上部オイルパン13の底面に充分に接触する観点から設定されている。
【0015】
本体プレート21の片面に形成されている突起22は、オイルパン12に溜まっている汚損物を掻き出すためのもので、本体プレート21の片面全体に亘って適当な間隔をあけて多数針状に形成されている。この実施形態では、突起22の形状は、円錐形乃至針形になっているが、特に、これに限定されるものではない。その他、円柱形、角柱形、へら形、鉤型など、汚損物の性状に合った形状にすればよい。突起22の高さは、堆積する汚損物の量を考慮して設定される。
【0016】
次に、
図3は、エスカレータの前輪軸16に取り付けられた状態のオイルパン清掃具20を示す図である。
【0017】
本体プレート21の上端部には、環状の取付具23が2つ取り付けられている。この取付部材23は、前輪軸16からオイルパン清掃具20を吊り下げるためのものである。この実施形態では、取付具23には、ワイヤを輪にしたものや金属リングが用いられている。
【0018】
本実施形態によるエスカレータのオイルパン清掃具20は、以上のように構成されるものであり、次に、このオイルパン清掃具20を使用した清掃工程との関連において、その作用および効果について説明する。
エスカレータの運転が続いていると、トラス12の下にある下部オイルパン11、中間オイルパン14、上部オイルパン13には、埃や塵、油の混じった汚損物が堆積してくる。そこで、定期点検時には、オイルパン清掃具20を使って下部オイルパン11、中間オイルパン14、上部オイルパン13の清掃が以下のように実施される。
【0019】
図5は、オイルパン清掃具20を取り付ける準備工程を示す図である。
【0020】
まず、下階側のスプロケット5の付近のチェーン9において、前輪軸16との締結を外し、チェーン9から踏段15を複数段取り外しておく。そして、前輪軸16を取付具23に通すようにすれば、オイルパン清掃具20を前輪軸16から吊り下げることができる。オイルパン清掃具20が取り付けられるのは、上側のチェーン9ではなく下側のチェーン9である。この時、オイルパン清掃具20では、突起22のある面が下階側を向き、突起22のない平らな面が上階側を向いた状態になっている。オイルパン清掃具20を取り付けた後(
図5(A))、エスカレータを運転する(
図5(B))。
【0021】
エスカレータの運転は、下降する方向の運転である。このとき、オイルパン清掃具20は、エスカレータのトラス12の内部を上昇する方向に移動する。オイルパン清掃具20は、下部オイルパン11に接触しながら傾いた状態で移動を開始するが、接触するのは、オイルパン清掃具20の平らな面である(
図5(C))。
【0022】
図6は、オイルパン清掃具20を中間オイルパン14に沿って移動させている過程を示す図である。
前輪軸16に取り付けられたオイルパン清掃具20は、エスカレータ10の運転により矢印A方向(エスカレータ10の運転は下降、オイルパン清掃具20は上昇する方向)に移動する。この間、オイルパン清掃具20の本体プレート21の平な面が中間オイルパン15を滑動していく向きになるので、汚損物の除去は行われない。
【0023】
次に、
図7は、エスカレータ上階でのオイルパン清掃具20の動作を示す図である。
【0024】
図7(A)に示す位置、すなわち、上階のスプロケット6に到達し、前輪軸16より吊り上げられる位置まで来たら、エスカレータの運転は一旦停止される。その後、
図7(B)において、エスカレータの運転を逆方向(エスカレータ10の運転は上昇、オイルパン清掃具20は下降する方向)に切り替える。運転開始直後に、オイルパン清掃具20は、上部オイルパン13に接触するようになる。このとき、オイルパン清掃具20の表裏が逆転し、本体プレート21の突起22側が上部オイルパン13に接触する向きとなる(
図7(C))。これにより、オイルパン清掃具20は、突起22で上部オイルパン13、中間オイルパン14、下部オイルパン11に溜まった汚損物を絡め取り、除去できるようになる。
【0025】
次に、
図8は、オイルパン清掃具20を下降させながら、中間オイルパン14に沿って清掃している過程を示す図である。
前輪軸16に取り付けられたオイルパン清掃具20は、エスカレータ10の運転により矢印B方向(エスカレータ10の運転は上昇、オイルパン清掃具20は下降する方向)に移動する。この間、オイルパン清掃具20の突起部22が中間オイルパン14に付着している汚損物を絡め取っていく。また、本体プレート21は、撓んだ状態になるので、突起22が汚損物に食い込む方向に弾性復元力が働くので、確実に汚損物を掻き集めることができる。さらに、オイルパン清掃具20を下降方向に移動させながら汚損物を絡め取っていくので、汚損物、特に油は中間オイルパン15を滑って落ちていくので、取りこぼしなく清掃することが可能である。
【0026】
次に、
図9は、エスカレータ下階におけるオイルパン清掃具20の清掃最終段階の動作を示す図である。
図9(A)、
図9(B)に示す位置までは、オイルパン清掃具20によって、下部オイルパン11の汚損物が絡め取れる。
図9(C)に示す位置、すなわち、下階のスプロケット5に到達し、前輪軸16より吊り上げられる位置まで来たら、エスカレータの運転を停止させる。その後、
図9(C)において、オイルパン清掃具20の突起22には、汚損物が掻き集めた汚損物が付着しているので、作業員が手作業により汚損物を取り除く。また、下部オイルパン11に集められた汚損物、油を拭き取るなどして除去する。基本的に以上で清掃工程は終了となるが、
図5乃至
図9の一連の1回の工程では、汚損物を除去しきれずに残っている場合には、同じ工程を汚損物が残存しなくなるので繰り返すことになる。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、オイルパン清掃具20をエスカレータ10の前輪軸16に取り付け、エスカレータ10を一定の手順により運転するだけで、下部オイルパン11、中間オイルパン14、上部オイルパン13に溜まった汚損物を効率良く簡便に除去することができる。このようなオイルパン清掃具20を利用して簡易に下部オイルパン11、中間オイルパン14、上部オイルパン13を清掃できるので、汚損物の堆積による開口走行や汚損物の引火による火災を未然に防止することができる。
【0028】
(変形例)
次に、本発明の実施形態によるエスカレータのオイルパン清掃具について、変形例を図 4を参照して説明する。
この変形例では、本体プレート21に重り板26が複数枚取り付けられている。重り板26としては、例えば帯状の板金が用いられている。この重り板26には、突起22を通す穴が開けられており、重り板26を本体プレート21の突起がある面に固定できるようになっている。
【0029】
以上のような重り板26を本体プレート21に取り付けることにより、重さが増すので、汚損物に作用する突起22の加圧力が高まり、より効率的に汚損物を掻き出すことができる。また、重り板26は、本体プレート21を補強し、下部オイルパン11、中間オイルパン14、上部オイルパン13上にある補強材等を乗り越える際に破損するのを防止する。なお、重り板26は、本体プレート21の突起22側の面に取り付けられることで、本体プレート21の曲げを阻害することはない。
【0030】
図10は、オイルパン清掃具20の変形例を示す。この変形例では、
図2に示した取付具23の替わりに、カラビナ40とワイヤリング41とから取付具を構成している。カラビナ40は、オイルパン清掃具20の本体プレート21と接続され、ワイヤリング41は前輪軸16に掛けられる。
この変形例のように、カラビナ40を用いることで、オイルパン清掃具20の前輪軸16への取り付けがより簡単になる。
【0031】
以上、本発明に係るエスカレータのオイルパン清掃具について、好適な実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は、例示として挙げたもので、発明の範囲の制限を意図するものではない。もちろん、明細書に記載された新規な装置、方法およびシステムは、様々な形態で実施され得るものであり、さらに、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、種々の省略、置換、変更が可能である。請求項およびそれらの均等物の範囲は、発明の主旨の範囲内で実施形態あるいはその改良物をカバーすることを意図している。
【符号の説明】
【0032】
2…欄干、4…手すりベルト、7…上階の乗降口、8…下階の乗降口、9…チェーン、10…エスカレータ、11…下部オイルパン、12…トラス、13…上部オイルパン、14…中間オイルパン、15…踏段、16…前輪軸、20…オイルパン清掃具、21…本体プレート、22…突起、23…取付具
【要約】
【課題】構成が簡素でありながら、オイルパンを効率良く簡易に清掃することを可能とするエスカレータのオイルパン清掃具および清掃方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態によれば、エスカレータのトラス12に設置されるオイルパンに溜まった汚損物を除去するのに用いる清掃具であって、弾性材料からなり片面に複数の突起22有する板状の本体プレート21と、本体プレート21をエスカレータの踏段の前輪軸16から吊り下げる取付具23と、を備える。
【選択図】
図2