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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】遊星ローラ式変速モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/08 20060101AFI20220728BHJP
   F16H 13/08 20060101ALI20220728BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
H02K7/08 Z
F16H13/08 F
H02K7/116
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2016236350
(22)【出願日】2016-12-06
(65)【公開番号】P2018093651
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2019-11-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 肇
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】関口 哲生
【審判官】小川 恭司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113931(JP,A)
【文献】特開2013-192291(JP,A)
【文献】特許第5976164(JP,B1)
【文献】特開平8-280147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0303757(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/06-1/34
H02K7/08
H02K7/116
F16H13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星ローラ式変速装置とモータとを備えた遊星ローラ式変速モータであって、
前記遊星ローラ式変速装置は、太陽軸と、前記太陽軸の外側に同軸に配置された固定輪と、前記太陽軸及び前記固定輪と転がり接触する複数の遊星ローラとを有し、
前記モータは、回転軸線の向きに延在するモータ主軸と、前記モータ主軸の外周に嵌め合わされたコイルと、前記コイルと同軸にステータを保持するハウジングと、前記ハウジングに固定されて、前記コイルの軸方向の両側で前記モータ主軸を回転支持する一対の転がり軸受と、を有し、
前記太陽軸と、前記モータ主軸の軸方向の一側の端部とが互いに連結されており、
前記モータ主軸は、軸方向の略中央に細軸部を有し、前記細軸部の軸方向の前記一側に前記細軸部より大径の第1軸部を有し、前記細軸部の軸方向の他側に前記細軸部より大径の第2軸部を有しており、
前記コイルは、軸方向に貫通して前記モータ主軸が挿入される嵌合孔を有し、前記細軸部を軸方向に跨ぐ位置で前記モータ主軸に嵌め合わされて、前記第1軸部及び前記第2軸部と径方向に締りばめの状態で組み付けられており、
前記第1軸部と前記コイルとの嵌合長は、前記第2軸部と前記コイルとの嵌合長より小さくされており、
前記第1軸部と前記コイルとの嵌合長は、前記第1軸部の外径寸法以下であることを特徴とする遊星ローラ式変速モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ローラ式変速装置とモータを組み合わせた遊星ローラ式変速モータに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機や複写機などの用紙の送り機構では、印刷画像の品質を高めるために、回転速度を精密に制御する必要がある。このため、送り機構には、回転ムラの少ない遊星ローラ式変速モータが使用されている(特許文献1)。
図5に示すように、遊星ローラ式変速モータ70は、遊星ローラ式変速装置71と、モータ72とで構成されている。遊星ローラ式変速装置71では、互いに同軸に配置された固定輪73と太陽軸74との間に、複数の遊星ローラ75が配置されており、太陽軸74が回転するときの遊星ローラ75の公転運動をキャリア76の回転運動として出力している。モータ72では、ロータ82とステータ83とが同軸に配置されていて、ロータ82は、軸方向両側で転がり軸受79,80によって回転支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-113931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の遊星ローラ式変速モータ70では、モータ主軸77は、カップリング89によって、遊星ローラ式変速装置71の太陽軸74と連結されている。太陽軸74は、複数の遊星ローラ75によって径方向に予圧が付与された状態で回転支持されているので、径方向には高い剛性を有している。このため、モータ主軸77は、遊星ローラ式変速装置71と、ロータ82の軸方向両側に設けられた2つの転がり軸受79,80とで回転支持されることとなる。すなわち、モータ主軸77は、軸方向の3箇所で支持されている。
【0005】
このため、モータ主軸77が真直に形成され、かつ、遊星ローラ式変速装置71及び2つの転がり軸受79,80が完全に同軸に配置されている場合には問題がないが、加工誤差や組立時の変形等によって、モータ主軸77の真直度が低下している場合には「こじり」が生じる。この場合には、いずれかの支持点で径方向に大きい荷重が生じる。
転がり軸受79,80に大きいラジアル荷重が作用したときには、転がり軸受79,80の外輪にクリープが発生し、外輪とハウジングとの嵌め合い部が摩耗してしまう。クリープとは転がり軸受の外輪とハウジングとの嵌め合い面で相対的な周方向のすべりが生じる現象をいう。この結果、転がり軸受79,80とともにロータ82の位置が径方向にずれて、ロータ82とステータ83とが接触し、モータ72の回転不良が生じるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、遊星ローラ式変速装置とモータを組み合わせた遊星ローラ式変速モータにおいて、ロータを支持する転がり軸受のクリープを防止して、モータの寿命を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態は、遊星ローラ式変速装置とモータとを備えた遊星ローラ式変速モータであって、前記遊星ローラ式変速装置は、太陽軸と、前記太陽軸の外側に同軸に配置された固定輪と、前記太陽軸及び前記固定輪と転がり接触する複数の遊星ローラとを有し、前記モータは、回転軸線の向きに延在するモータ主軸と、前記モータ主軸の外周に嵌め合わされたコイルと、前記コイルと同軸にステータを保持するハウジングと、前記ハウジングに固定されて、前記コイルの軸方向の両側で前記モータ主軸を回転支持する一対の転がり軸受と、を有し、前記太陽軸と、前記モータ主軸の軸方向の一側の端部とが互いに連結されており、前記モータ主軸は、軸方向の略中央に細軸部を有し、前記細軸部の軸方向の前記一側に前記細軸部より大径の第1軸部を有し、前記細軸部の軸方向の他側に前記細軸部より大径の第2軸部を有しており、 前記コイルは、軸方向に貫通して前記モータ主軸が挿入される嵌合孔を有し、前記細軸部を軸方向に跨ぐ位置で前記モータ主軸に嵌め合わされて、前記第1軸部及び前記第2軸部と径方向に締りばめの状態で組み付けられており、前記第1軸部と前記コイルとの嵌合長は、前記第2軸部と前記コイルとの嵌合長より小さくされており、前記第1軸部と前記コイルとの嵌合長は、前記第1軸部の外径寸法以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、遊星ローラ式変速装置とモータを組み合わせた遊星ローラ式変速モータにおいて、ロータを支持する転がり軸受のクリープを防止して、モータの寿命を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一形態である遊星ローラ式変速モータの軸方向断面におけるモータ部分の要部拡大図である。
図2】第1実施形態の作用効果を説明するための説明図である。
図3】モータ主軸の変形状態を説明するための模式図である。
図4】他の実施形態のモータ部分の要部拡大図である。
図5】従来の遊星ローラ式変速モータの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態(以下、「第1実施形態」という)である遊星ローラ式変速モータ10について、図を用いて詳細に説明する。図1は、第1実施形態の軸方向断面における、モータ部分の要部拡大図である。第1実施形態では、モータ11の形態、特に、モータ11を構成するロータ12に特徴があり、その他の形態は、従来構造と同等である。そこで、従来構造と共通する構造については、同一の符号を付して、図5によって説明し、その後、図1によって、モータ11の形態について詳細に説明する。以下の説明では、図1及び図5の左側をフロント側といい、右側をリア側という。また、回転軸線mの方向を軸方向といい、回転軸線mと直交する方向を径方向、回転軸線mの回りを周回する方向を周方向という。
【0011】
図5に示したように、第1実施形態の遊星ローラ式変速モータ10は、遊星ローラ式変速装置71と、モータ11とで構成されている。
【0012】
遊星ローラ式変速装置71は、遊星ローラ機構84と、フロントカバー86と、転がり軸受81と、カップリングフランジ87とを有している。遊星ローラ式変速装置71では、遊星ローラ機構84を挟んで、フロントカバー86とカップリングフランジ87とが複数のボルト95によって同軸に締結されている。
【0013】
遊星ローラ機構84は、固定輪73と、太陽軸74と、3個の遊星ローラ75と、キャリア76とで構成される。
【0014】
固定輪73は、リング状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。内周は、研削加工によって円筒形状に仕上げられている。
太陽軸74は、中実の円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周は、研削加工によって真円形状に仕上げられている。太陽軸74は、遊星ローラ75より軸方向リア側に突出しており、その軸端にカップリング89が固定されている。
【0015】
遊星ローラ75は、円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周面及び内周面は、互いに同軸の円筒面であって、外周面は研削加工によって仕上げられている。遊星ローラ75の外周面の直径寸法は、固定輪73の内周と太陽軸74の外周との間の径方向寸法よりわずかに大きい。これにより、遊星ローラ75は、固定輪73及び太陽軸74に対して所定の圧接力を持って転がり接触をしている。3個の遊星ローラ75は、周方向に等間隔に配置されている。
【0016】
キャリア76は、3本の駆動ピン91と、これらの駆動ピン91を一体に保持する平板状のキャリアプレート92と、出力軸93とで構成されている。
キャリアプレート92は、円板形状で、高炭素鋼で製作されている。駆動ピン91は、中実の円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されており、外周は、研削加工によって仕上げられている。各駆動ピン91は、キャリアプレート92から軸方向に突出しており、それぞれ遊星ローラ75の内周に挿入されている。
出力軸93は、中実の円筒形状で、ステンレス鋼で製作されており、その外周は、研削加工によって仕上げられている。出力軸93は、キャリアプレート92から駆動ピン91と反対向きに軸方向に突出している。
【0017】
フロントカバー86は、略円板形状で、アルミ合金鋼で製作されている。フロントカバー86の内周には転がり軸受81が組み込まれている。出力軸93は、転がり軸受81によって回転軸線mと同軸に回転支持されている。
カップリングフランジ87は、有底の円筒形状で、アルミ合金鋼で製作されている。底部には軸方向に貫通するガイド孔88が同軸に設けられている。
【0018】
次に、図1によって、モータ11の形態について説明する。
モータ11は、フロントハウジング96及びリアハウジング97と、互いに同軸に配置されたステータ83及びロータ12と、ロータ12を軸方向の両側で回転支持する一対のフロント軸受79及びリア軸受80とを備えている。
【0019】
ロータ12は、略円筒形状のコイル13と、その軸線に沿って圧入されたモータ主軸14とで構成される。モータ主軸14は、コイル13から軸方向両側にそれぞれ突出している。モータ主軸14の外周には研削加工が施されており、フロント軸受79とリア軸受80がそれぞれ締りばめの状態で組み付けられている。
第1実施形態のモータ11では、コイル13とモータ主軸14との嵌め合い部の形態に特徴がある。このため、その他の構成を先に説明し、その後、嵌め合い部の形態について説明する。
【0020】
フロントハウジング96は、略円板形状であって、内周にフロント軸受79が組み付けられている。フロントハウジング96には、円筒形状で軸方向に突出したボス98が、回転軸線mと同軸に形成されている。ボス98のフロント側の軸方向端部が径方向内方に突出しており、フロント軸受位置決め部67が形成されている。
【0021】
フロントハウジング96の内周面64は、軸方向に形成された円筒面である。フロント軸受79は、内周面64に嵌め合わされている。第1実施形態では、フロント軸受79にはJIS605と同等の大きさの深溝玉軸受が使用されている。内周面64の内径寸法D3は、フロント軸受79の外径寸法d0と同等、もしくは、外径寸法d0よりわずかに大きい寸法である。フロント軸受79の外輪とフロント軸受位置決め部67とで軸方向に挟まれた空間には、弾性体68が軸方向に圧縮された状態で組み付けられている。弾性体68によって、フロント軸受79の外輪が軸方向に付勢される。これにより、フロント軸受79がすきまの無い状態で組み付けられる。弾性体68には、皿ばねや波板ばねなどが適宜使用される。
【0022】
リアハウジング97は、略円板形状であって、内周にリア軸受80が組み付けられている。リアハウジング97のリア側の側面が径方向内方に突出しており、リア軸受位置決め部66が形成されている。
リア軸受組付部の形態は、フロント軸受組付け部と同様であるため説明を省略する。なお、第1実施形態では、リア軸受80には、フロント軸受79と同様に、JIS605と同等の大きさの深溝玉軸受が使用されている。
【0023】
フロントハウジング96とリアハウジング97は、ステータ83の軸方向両側に同軸に配置され、それぞれねじ(図示を省略する)で、ステータ83と一体に固定されることによって、モータ11のハウジングが形成されている。
ロータ12は、フロント軸受79とリア軸受80とで支持されており、ステータ83と同軸に回転することができる。なお、モータ11の運転効率を高めるために、ステータ83とロータ12との径方向のすきまは概ね100μm以下に設定されている。
【0024】
モータ11と遊星ローラ式変速装置71は、ボス98をカップリングフランジ87のガイド孔88に嵌め合わせることによって、互いに同軸に連結されている。このとき、太陽軸74とモータ主軸14とが、カップリング89によって連結されている。
カップリング89は、炭素鋼で円筒形状に製作されている。内周には、取付孔が軸方向に形成されている。取付孔には、軸方向の一方から太陽軸74が締りばめの状態で嵌め合わされており、軸方向の他方からモータ主軸14が挿入されている(図5参照)。止めねじ90を締め付けることにより、太陽軸74とモータ主軸14とが回転方向に固定されている。
【0025】
次に、ロータ12における、コイル13とモータ主軸14との嵌め合い部の形態について説明する。
ロータ12は、略円筒形状のコイル13と、軸に直交する向きの断面が円形で軸方向に延在するモータ主軸14とで構成されている。コイル13には、軸方向に貫通する孔20(嵌合孔)が設けられており、この孔20に、モータ主軸14が圧入されている。孔20は、内径寸法D1を有するフロント円筒部20aと、フロント円筒部20aより小径で内径寸法D2を有するリア円筒部20bとが軸方向につながった形態である。フロント円筒部20aは、孔20の軸方向の一側であるフロント側に形成されており、リア円筒部20bは、孔20の軸方向の他側であるリア側に形成されている。
【0026】
モータ主軸14には、軸方向の略中央に、円柱形状の細軸部16が同軸に形成されている。モータ主軸14において、細軸部16より軸方向の一側の部分をフロント主軸17(第1軸部)といい、細軸部16より軸方向の他側の部分をリア主軸18(第2軸部)ということとする。モータ主軸14は、細軸部16を挟んで、フロント主軸17とリア主軸18とが同軸に連結された形態である。フロント主軸17と細軸部16、及び、リア主軸18と細軸部16は、それぞれ径方向に形成された側面15a,15bでつながっている。フロント主軸17の外径寸法d1と、リア主軸18の外径寸法d2とは、互いに等しく、細軸部16の外径寸法dsは外径寸法d1及びd2より小さい。こうして、モータ主軸14の外周には、全周にわたって環状溝15が形成されている。環状溝15の軸方向断面の形状は、径方向の片側では略長方形である。
【0027】
モータ主軸14とコイル13とを嵌め合わせたときには、環状溝15がコイル13と軸方向で重なる位置に組付けられている。これによって、フロント主軸17の環状溝15と近接した部分の外周がフロント円筒部20aに嵌め合わされるとともに、リア主軸18の環状溝15と近接した部分の外周がリア円筒部20bに嵌め合わされている。
【0028】
フロント円筒部20aの内径寸法D1は、フロント主軸17の外径寸法d1より小径であり、コイル13とフロント主軸17の外周とが締りばめの状態で嵌め合わされている。
コイル13は、軸方向のフロント側端部が、モータ主軸14によって径方向に支持されている。このため、フロント円筒部20aとフロント主軸17とが軸方向に重なる部分(一側嵌合部)の軸方向寸法である嵌合長L1は、フロント主軸17の外径寸法d1の5分の1以上であることが望ましい。また、後述するように、一側嵌合部の嵌合長L1は、当該一側嵌合部におけるフロント主軸17の外径寸法d1以下(すなわち、L1≦d1である)の大きさに設定されている。
【0029】
リア円筒部20bの内径寸法D2は、リア主軸18の外径寸法d2より小径であり、コイル13とリア主軸18の外周とが締りばめの状態で嵌め合わされている。リア円筒部20bとリア主軸18とが軸方向に重なる部分(他側嵌合部)の嵌合長L2は、嵌合長L1より大きく設定されている。好ましくは、嵌合長L2は、リア主軸18の外径寸法d2の2倍以上(すなわち、L2≧d2×2)の大きさに設定されている。
こうして、コイル13は、軸方向のリア側端部が、モータ主軸14によって径方向に支持されている。また、コイル13とモータ主軸14とが相対的に周方向に回転しないように強固に嵌め合わされている。コイル13とリア主軸18との嵌合部では、リア主軸18の外周に、例えば、ローレット加工によって軸方向に複数の溝が形成されていてもよい。溝の外周とコイル13の内周とがかみ合うことによって、コイル13とモータ主軸14とが、より確実に周方向に固定される。
【0030】
こうして第1実施形態では、細軸部16が、コイル13と軸方向で重なる位置に形成されているので、コイル13のフロント側の軸端部とリア側の軸端部とが、モータ主軸14によって支持されている。こうして、コイル13が、軸方向の両端部で支持されているので、ロータ12の振れ回りを確実に防止することができる。
【0031】
第1実施形態の作用効果について説明する。
図2は、作用効果を説明するための説明図であって、モータ主軸14の真直度が悪い場合に、モータ主軸14を支持する各支持点に径方向の荷重が作用する様子を示している。ここでは説明を簡単にするために、モータ主軸14が、軸方向の略中央でくの字状に曲がった状態を例にして説明する。なお、図2では、モータ主軸14の変形状態を誇張して示している。実際のモータ主軸14では、真直度は、概ね数10μm程度である。
【0032】
図2における三角のマークは、軸方向のA~Cの各位置において、モータ主軸14を径方向に支持する支持点を示している。Aは遊星ローラ機構84の位置を示している。B,Cはそれぞれ、フロント軸受79、リア軸受80の位置を示している、支持点Aと支持点Bとの間にはカップリング89が組み付けられており、支持点Bと支持点Cとの間にはコイル13が組み付けられている。また、細軸部16は、コイル13と軸方向で重なる位置に形成されている。
【0033】
先にも述べたように、遊星ローラ機構84の太陽軸74は、3個の遊星ローラ75によって径方向に予圧が付与された状態で回転支持されているため、径方向の剛性が極めて高い。モータ主軸14は、カップリング89によって太陽軸74と一体に固定されており、支持点Aでは、支持点B,Cに比べて高い剛性を有している。
剛性とは、単位荷重あたりの変位量で表される値である。例えば、支持点Aにおいて太陽軸74に径方向の荷重が作用したときの、単位荷重あたりの太陽軸74の径方向の変位量として測定することができる。以下の説明では、径方向の剛性を単に「剛性」という。
【0034】
こうして、モータ主軸14は、軸方向の3箇所で支持されているため、モータ主軸14の真直度が悪い場合には「こじり」が生じる。この結果、各支持点で径方向に大きい荷重が生じてしまう。
【0035】
仮に、軸方向の略中央でくの字状に曲がったモータ主軸14が、支持点A及び支持点Cのみで支持されていると仮定すると、図2に破線で示したように、支持点Bの位置では、モータ主軸14が、径方向に変位量δ1だけ変位している。
このモータ主軸14が遊星ローラ式変速モータ10に組み込まれた時には、支持点Bでは、フロント軸受79によって径方向に拘束される。このため、モータ主軸14が弾性変形して、支持点Bの位置では、モータ主軸14の径方向の位置が支持点Aと支持点Cとを結ぶ直線(回転軸線mと同一の直線である)上に変位する。図2では、フロント軸受79によって径方向に拘束された状態のモータ主軸14を実線で示している。
【0036】
遊星ローラ式変速モータ10に組み込まれた時には、モータ主軸14は、自由状態のときの形状に対して、支持点AとBとの間、及び、支持点BとCとの間で、軸線が曲がる方向に弾性変形している。以下、軸線が曲がる方向の弾性変形を「曲げ変形」といい、軸線が曲がる方向に変形するときの剛性を「曲げ剛性」という。
各支持点には、曲げ剛性と変位量δ1に応じてラジアル荷重が発生する。支持点Bの位置にあるフロント軸受79には、図2に矢印で示す向きにラジアル荷重Fbが作用しており、支持点A及びCには、それぞれ矢印で示す向きにラジアル荷重Fa,Fcが作用している。ここで、Fa及びFcは、Fbの反力として作用しており、Fa+Fc=Fb の関係がある。
【0037】
第1実施形態では、支持点Bと支持点Cとの間に、細軸部16が形成されている。細軸部16の外径寸法dsは、フロント主軸17及びリア主軸18の外径寸法d1、d2に比べて小さいので、細軸部16の曲げ剛性は、フロント主軸17及びリア主軸18の曲げ剛性に比べて小さくなる。これによって、モータ主軸14の全体としての曲げ剛性を低減することができるので、ラジアル荷重Fbを低減することができ、同時に、反力としてのFa,Fcを低減することができる。
【0038】
第1実施形態において、モータ主軸14の全体としての曲げ剛性が低減する理由を更に詳細に説明する。図3は、モータ主軸14の変形状態を説明するための模式図である。
図2に示すように、自由状態では、モータ主軸14は、支持点Aと支持点Bとの間にあるフロント主軸17の向きが、回転軸線mに対して角度θだけ傾いている。実際のモータ主軸14の真直度は数10μm程度であり、細軸部16が回転軸線mに対して傾くときの角度θは極めて小さい。
【0039】
遊星ローラ式変速モータ10に組み込まれた時には、支持点Bのフロント軸受79で径方向に拘束されるので、各支持点A,B,Cにおいて、モータ主軸14が回転軸線m上に配置される。
このため、図3に示すように、フロント主軸17では、軸線の向きが回転軸線mと同一となる向きに変位するとともに、細軸部16とつながる側面15aの向きが回転軸線mに対して角度θだけ傾く。一方、リア主軸18では、側面15bの向きが回転軸線mに対して直交している。このため、細軸部16では、フロント主軸17の側とリア主軸18の側とで、軸線の向きが互いに異なる。
細軸部16の曲げ剛性は、フロント主軸17及びリア主軸18の曲げ剛性に比べて小さい。このため、図3に示すように細軸部16が容易に変形する。
【0040】
また、側面15aの向きが回転軸線mに対して角度θだけ傾くときに、フロント円筒部20aの内周とフロント主軸17の外周との嵌め合い面で軸方向の位置ずれが生じる。なお、モータ主軸14の真直度は数10μm程度であるため、嵌め合い面における軸方向の位置ずれ量は微小である。第1実施形態では、フロント円筒部20aとフロント主軸17とが軸方向に重なる部分の嵌合長L1が、フロント主軸17の外径寸法d1以下に設定されている。嵌合長L1が短いので、嵌め合い面が軸方向に弾性変形することによって、上記の軸方向の位置ずれを吸収することができる。こうして、フロント円筒部20aとフロント主軸17とが締りばめの状態で嵌め合わされた場合であっても、嵌め合い面ですべりを生じることなく、フロント主軸17がフロント円筒部20aに対して容易に傾くことができる。
【0041】
なお、第1実施形態では、コイル13の内周に設けた孔20が、フロント円筒部20aとリア円筒部20bとを連結した二段円筒形状で形成されているが、単一の円筒形状であってもよい。これにより、コイル13の加工工数を削減することができる。
【0042】
こうして、第1実施形態のモータ主軸14では、支持点BとCとの間で細軸部16が容易に変形することによって、モータ主軸14の全体としての曲げ剛性を小さくすることができる。この結果、ロータ12を支持する転がり軸受79,80に作用するラジアル荷重Fa,Fb,Fcの上昇を抑制することができるので、転がり軸受のクリープを防止して、モータの寿命を向上することができる。
更に、細軸部16が、コイル13の径方向内方に形成されているので、モータ11の軸方向寸法が増加しない。したがって、モータ11をコンパクトの製造することができる。
【0043】
第2実施形態について説明する。図4は、第2実施形態のモータ24の軸方向断面図である。第2実施形態のモータ24は、第1実施形態と比較して、フロント軸受29の組付け状態が異なっている。第1実施形態と同一の構成については、同一の名称、及び、同一の番号を付して説明する。
モータ24では、フロント軸受29がリア軸受80より大径であり、互いに異なった大きさで構成されている。また、モータ主軸26では、フロント主軸27は、大径円筒部27aと小径円筒部27bとが同軸に組み合わされた段付きの円筒形状となっている。
フロント軸受29は、大径円筒部27aに外嵌されており、小径円筒部27b(第1軸部)が、コイル13のフロント円筒部20aに嵌め合わされている。
【0044】
コイル13のフロント円筒部20aとフロント主軸27とが軸方向に重なる部分(一側嵌合部)の形態は、第1実施形態と同様である。すなわち、フロント円筒部20aの内径寸法D1、及び、小径円筒部27bの外径寸法d1は、第1実施形態と同様であり、一側嵌合部の嵌合長L1は、当該一側嵌合部における小径円筒部27bの外径寸法d1以下(すなわち、L1≦d1である)の大きさである。
なお、他側嵌合部の形態は、第1実施形態と同様である。
【0045】
第2実施形態においても、細軸部16の外径寸法dsが、小径円筒部27bの外径寸法d1及びリア主軸18の外径寸法d2より小さく設定されるとともに、小径円筒部27bとコイル13との嵌合長L1をリア主軸18(第2軸部)とコイル13との嵌合長L2より小さくしている。これによって、モータ主軸26の全体としての曲げ剛性を小さくすることができる。第2実施形態では、特に、サイズの小さいリア軸受80に作用するラジアル荷重Fcの上昇を抑制して、クリープを防止することができる。
なお、フロント主軸27およびリア主軸18の寸法、並びに、フロント軸受29とリア軸受80の組み合わせは例示であり、この構成に限定されるものではない。
【0046】
以上説明したように、本発明を使用した遊星ローラ式変速モータでは、モータ主軸の曲げ剛性を効果的に低減することができる。このため、真直度が悪いモータ主軸が組み込まれた場合であっても「こじり」が生じないので、フロント軸受及びリア軸受に作用するラジアル荷重の上昇を抑制することができる。
この結果、遊星ローラ式変速装置とモータを組み合わせた遊星ローラ式変速モータにおいて、ロータを支持する転がり軸受のクリープを防止して、モータの寿命を向上することができる。
【符号の説明】
【0047】
(第1実施形態)10:遊星ローラ式変速モータ、11:モータ、12:ロータ、13:コイル、14:モータ主軸、15:環状溝、16:細軸部、17:フロント主軸、18:リア主軸、20:孔、
(第2実施形態)24:モータ、26:モータ主軸、27:フロント主軸、29:フロント軸受
(従来技術)70:遊星ローラ式変速モータ、71:遊星ローラ式変速装置、72:モータ、73:固定輪、74:太陽軸、75:遊星ローラ、76:キャリア、79:転がり軸受(フロント軸受)、80:転がり軸受(リア軸受)、81:転がり軸受(遊星出力)、82:ロータ、83:ステータ、89:カップリング、91:駆動ピン、92:キャリアプレート、93:出力軸
図1
図2
図3
図4
図5