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  • 特許-金属基材を電解研磨する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】金属基材を電解研磨する方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 3/16 20060101AFI20220728BHJP
   C25F 3/26 20060101ALN20220728BHJP
【FI】
C25F3/16 B
C25F3/26
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017240317
(22)【出願日】2017-12-15
(65)【公開番号】P2018109224
(43)【公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】10 2016 125 244.1
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503195311
【氏名又は名称】エアバス・ディフェンス・アンド・スペース・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】バグホーン サラ
(72)【発明者】
【氏名】メルテンス トビアス
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-195300(JP,A)
【文献】特表平03-501753(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10207632(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第102453444(CN,A)
【文献】特公昭30-003662(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材を電解研磨する方法であって、
(i)少なくとも一つの電極を含む電解セルに電解質(EL)を提供するステップと、
(ii)前記電解セルに陽極として金属基材を配置するステップと、
(iii)前記少なくとも一つの電極と前記金属基材との間に270~315Vの電圧で、0.05~10A/cm の範囲内の電流密度で電源から電流を印加するステップと、
(iv)前記金属基材を前記電解質(EL)に浸漬するステップと
ここで、前記電解質(EL)は、
(a)少なくとも一つの酸化合物(A)は、硫酸、硝酸、リン酸、塩酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸またはこれらの混合物からなる群より選択され、0.05~20重量%の量で含まれ、
(b)少なくとも一つのフッ素化合物(F)は、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムまたはこれらの混合物からなる群より選択されて、フッ素イオン源として働き、1~40重量%の量で含まれ、
(c)少なくとも一つの錯化剤(CA)は、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、アミノポリカルボン酸(APC)、ジエチレントリアミン五酢酸塩(DTPA)、N‐(ヒドロキシエチル)‐エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはこれらの混合物からなる群より選択され、0.5~30重量%の量で含まれる、
を含む、方法。
【請求項2】
前記電流は、295~315Vの電圧で印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解質は、温度が10~95℃の範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電流は、1~240分の範囲内の時間にわたり印加される、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記金属基材は、Ti‐6Al‐4V、Inconel718、Invarおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記電解質は、
)少なくとも一つの媒体(M)は、水、アルコール、エーテル、エステル、カルボン酸およびこれらの混合物からなる群より選択され、
)任意に添加剤(AD)は、界面活性剤、多価アルコール、シリケート、増粘剤から選択され、
さらに含む、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記電解質(EL)の重量に基づいて、
)前記少なくとも一つの酸化合物(A)は、0.5~15重量%の量で含まれ、
および/または
)前記少なくとも一つのフッ素化合物(F)は、1~30重量%の量で含まれ、
および/または
)前記少なくとも一つの錯化剤(CA)は、0.5~20重量%の量で含まれる、
請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記電解質(EL)の重量に基づいて、
)前記少なくとも一つの媒体(M)は、10~98.5重量%の量であり、
および/または
)添加剤(AD)は、0.01~25重量%の量である、
請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つの酸化合物(A)は、硫酸、硝酸、リン酸、またはこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも一つの錯化剤(CA)は、メチルグリシン二酢酸(MGDA)である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
金属基材の成形および表面仕上げは、難題であることが多い。特に、添加層の製造等の生成方法から得られる金属基材の成形および表面仕上げは、粗い表面が見られることが多い。例えばブラスト処理、ミーリング、砥粒流動加工等の一般に周知の成形および表面仕上げの方法は、複雑な表面に応用できないことが多い。さらに、電解研磨等の電気化学的方法が知られている。電解研磨効果は、電流印加時に電解セルの一部を形成する金属基材上に生じる溶解反応に依存し、金属基材はイオンの形態で電解質に溶解される。理論に拘束されることを望むものではないが、金属基材の表面上に電解質膜が形成され、面積比および放出挙動の違いにより、頂部のほうが平面より急速に溶解され、その結果表面粗さの減少が生じると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
しかし、現状技術の電解研磨方法は、費用および時間集約的であるか、または所望の表面粗さの減少が生じない。さらに、面倒な処理を必要とする危険化学物質の使用が必要であることが多い。
【0003】
従来の金属基材の電解研磨方法では、電流の印加時に研磨される金属基材のいくつかの地点にガスが形成される傾向があることがさらに分かっている。ガスは、金属基材上に泡の形で様々な強度で局所的に生じる。しかし、例えば電解質に含まれる水の電気分解による、または電解質の他の任意の成分の電気分解による、このようなガスの形成は、これにより電解質に予見できない局所的乱流が引き起こされる、すなわち金属基材の表面全体に電解質の局所的に変動する混合が存在することになるため、不利である。さらに、一時的にまたはより長期にわたり気泡でおおわれた金属基材の部分は、電解質と全く十分に接触しない。その結果、基材上に形成されるガス(気泡)に直接接触するかまたは近接する金属基材の部分の電解研磨は減少する。これは、金属基材の表面全体での電解研磨の望ましくないバラツキ、例えば研磨表面に生じる小さな起伏および/または溝などをもたらす。この影響は、サイズの大きい金属基材が研磨される場合に特に顕著である。換言すれば、研磨される金属基材が大きいほど、ガスの形成に起因する電解研磨の望ましくないバラツキがより顕著になる。
【0004】
したがって、上述の欠点をもたない電解研磨方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発見は、表面粗さの良好な減少をもたらす、金属基材を電解研磨する方法である。本発明の金属基材を電解研磨する方法は、
(i)少なくとも一つの電極を含む電解セルに電解質(EL:electrolyte)を提供するステップと、
(ii)電解セルに陽極として金属基材を配置するステップと、
(iii)少なくとも一つの電極と金属基材との間に270~315Vの電圧で電源から電流を印加するステップと、
(iv)金属基材を電解質(EL)に浸漬するステップと
を含み、
電解質(EL)は、
(a)少なくとも一つの酸化合物(A)と、
(b)少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、
(c)少なくとも一つの錯化剤(CA)と
を含む。
【0006】
一実施形態では、電流は285~305Vの電圧で印加され、295~305Vの電圧で印加されるのが好ましく、298~302Vの電圧で印加されるのがより好ましく、300Vの電圧で印加されるのが最も好ましい。
【0007】
一実施形態では、電解質は10~95℃の温度であり、40~95℃の範囲内の温度であるのが好ましく、60~95℃の範囲内の温度であるのがより好ましく、70~90℃の範囲内の温度であるのがなお好ましく、75~85℃の範囲内の温度であるのがさらに好ましい。
【0008】
一実施形態では、電流は0.05~10A/cmの範囲内の電流密度で印加され、0.05~5A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのが好ましく、0.1~2.5A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのがより好ましく、0.1~2.0A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのがなお好ましく、0.1~1.5A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのがさらに好ましい。
【0009】
一実施形態では、電流は1~240分の範囲内の時間にわたり印加され、1~120分の範囲内の時間にわたり印加されるのが好ましく、1~60分の範囲内の時間にわたり印加されるのがより好ましく、1~30分の範囲内の時間にわたり印加されるのがなお好ましく、2~20分の範囲内の時間にわたり印加されるのがさらに好ましい。
【0010】
一実施形態では、方法は、金属基材を洗浄組成物で処理する少なくとも一つの追加の方法のステップを含む。
【0011】
一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法で使用される金属基材は、Ti‐6Al‐4V、Inconel718、Invarおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0012】
一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法で使用される電解質は、
(iv)少なくとも一つの媒体(M)と、
(v)任意に添加剤(AD)と
を含む。
【0013】
一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法で使用される電解質(EL)は、
(i)電解質(EL)の重量に基づいて20重量%以下の量の、好ましくは15重量%以下の量の、より好ましくは10重量%以下の量の、なお好ましくは5重量%以下の量の、例えば0.05~20重量%の範囲内の量、好ましくは0.5~15重量%の範囲内の量、より好ましくは1~10重量%の範囲内の量、なお好ましくは1~5重量%の範囲内の量などの、少なくとも一つの酸化合物(A)、および/または
(ii)電解質(EL)の重量に基づいて40重量%以下の量の、好ましくは30重量%以下の量の、より好ましくは15重量%以下の量の、なお好ましくは10重量%以下の量の、例えば1~40重量%の範囲内の量、好ましくは1~30重量%の範囲内の量、より好ましくは2~15重量%の範囲内の量、なお好ましくは4~10重量%の範囲内の量などの、少なくとも一つのフッ素化合物(F)、および/または
(iii)電解質(EL)の重量に基づいて
30重量%以下の量の、好ましくは20重量%以下の量の、より好ましくは10重量%以下の量の、なお好ましくは5重量%以下の量の、例えば0.5~30重量%の範囲内の量、好ましくは0.5~20重量%の範囲内の量、より好ましくは0.5~10重量%の範囲内の量、なお好ましくは0.5~5重量%の範囲内の量、さらに好ましくは1~3重量%の範囲内の量などの、少なくとも一つの錯化剤(CA)
を含む。
【0014】
一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法で使用される電解質(EL)は、
(i)電解質(EL)の重量に基づいて20重量%以下の量の、好ましくは15重量%以下の量の、より好ましくは10重量%以下の量の、なお好ましくは5重量%以下の量の、例えば0.05~20重量%の範囲内の量、好ましくは0.5~15重量%の範囲内の量、より好ましくは1~10重量%の範囲内の量、なお好ましくは1~5重量%の範囲内の量などの、少なくとも一つの酸化合物(A)、および/または
(ii)電解質(EL)の重量に基づいて40重量%以下の量の、好ましくは30重量%以下の量の、より好ましくは15重量%以下の量の、なお好ましくは10重量%以下の量の、例えば1~40重量%の範囲内の量、好ましくは1~30重量%の範囲内の量、より好ましくは2~15重量%の範囲内の量、なお好ましくは4~10重量%の範囲内の量などの、少なくとも一つのフッ素化合物(F)、および/または
(iii)電解質(EL)の重量に基づいて30重量%以下の量の、好ましくは20重量%以下の量の、より好ましくは10重量%以下の量の、なお好ましくは5重量%以下の量の、例えば0.5~30重量%の範囲内の量、好ましくは0.5~20重量%の範囲内の量、より好ましくは0.5~10重量%の範囲内の量、なお好ましくは0.5~5重量%の範囲内の量、さらに好ましくは1~3重量%の範囲内の量などの、少なくとも一つの錯化剤(CA)、および/または
(iv)電解質(EL)の重量に基づいて少なくとも10重量%の量の、好ましくは少なくとも30重量%の量の、より好ましくは少なくとも50重量%の量の、なお好ましくは少なくとも70重量%の量の、例えば10~98.5重量%の範囲内の量、好ましくは30~95重量%の範囲内の量、より好ましくは50~90重量%の範囲内の量、なお好ましくは70~85重量%の範囲内の量などの、少なくとも一つの媒体(M)、および/または
(v)電解質(EL)の重量に基づいて
25重量%以下の量の、好ましくは15重量%以下の量の、より好ましくは10重量%以下の量の、なお好ましくは5重量%以下の量の、さらに好ましくは2重量%以下の量の、例えば0.01~25重量%の範囲内の量、好ましくは0.01~10重量%の範囲内の量、より好ましくは0.01~5重量%の範囲内の量、なお好ましくは0.01~2重量%の範囲内の量などの、添加剤(AD)
を含む。
【0015】
一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法のための電解質(EL)に使用される少なくとも一つの酸化合物(A)は、硫酸、硝酸、リン酸、塩酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸またはこれらの混合物等の無機酸または有機酸からなる群より選択され、硫酸、硝酸、リン酸またはこれらの混合物からなる群より選択されるのが好ましく、硫酸であるのがより好ましい。
【0016】
一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法のための電解質(EL)に使用される少なくとも一つのフッ素化合物(F)は、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、トリフルオロ酢酸(trifluoracetic acid)またはこれらの混合物からなる群より選択され、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムまたはこれらの混合物からなる群より選択されるのが好ましく、フッ化アンモニウムであるのがより好ましい。
【0017】
一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法のための電解質(EL)に使用される少なくとも一つの錯化剤(CA)は、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタキスメチレンホスホン酸(DTPMP)、アミノポリカルボン酸(APC)、ジエチレントリアミン五酢酸塩(DTPA)、ニトリロ三酢酸塩(NTA)、三リン酸塩、1,4,7,10テトラアザシクロドデカン‐1,4,7,10‐四酢酸(DOTA)、ホスホン酸塩、グルコン酸、βアラニン二酢酸(alaninediactetic acid)(ADA)、N‐ビス[2‐(1,2ジカルボキシ‐エトキシ)エチル]グリシン(BCA5)、N‐ビス[2‐(1,2‐ジカルボキシエトキシ)エチル]アスパラギン酸(aspatic acid)(BCA6)、テトラシス(2‐ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(THPED)、N‐(ヒドロキシエチル)‐エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはこれらの混合物より選択され、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタキスメチレンホスホン酸(DTPMP)、アミノポリカルボン酸(APC)、ジエチレントリアミン五酢酸塩(DTPA)、テトラシス(2‐ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(THPED)、N‐(ヒドロキシエチル)‐エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはこれらの混合物からなる群より選択されるのが好ましく、メチルグリシン二酢酸(MGDA)であるのがより好ましい。
【0018】
以上および以下に記載される本発明および実施形態は、開示が互いを補い合うように相互に関係するものと理解されなければならない。例えば、以上および以下に記載されるいずれの電解質も、本発明による方法に応用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1による方法で処理される前の金属基材Ti‐6Al‐4VのSEM画像である。SEM画像は100倍の拡大倍率を提供し、15,000kVの電圧および4.5mmの作業距離で得られた。
図2】実施例1による方法で処理された後の金属基材Ti‐6Al‐4VのSEM画像である。SEM画像は100倍の拡大倍率を提供し、15,000kVの電圧および14.6mmの作業距離で得られた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明をさらに詳細に記載する。
【0021】
金属基材を電解研磨する方法
本発明は、金属基材を電解研磨する方法を対象とする。
【0022】
金属基材を電解研磨する方法が記載され、この方法は、
(i)少なくとも一つの電極を含む電解セルに電解質(EL)を提供するステップと、
(ii)電解セルに陽極として金属基材を配置するステップと、
(iii)少なくとも一つの電極と金属基材との間に270~315Vの電圧で電源から電流を印加するステップと、
(iv)金属基材を電解質(EL)に浸漬するステップと
を含み、
電解質(EL)は、
(a)少なくとも一つの酸化合物(A)と、
(b)少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、
(c)少なくとも一つの錯化剤(CA)と
を含む。
【0023】
本発明により使用されるところの「電解セル」という用語は、電気エネルギが印加されたときに酸化還元反応が生じる電気化学セルをさす。特に、電気化学反応を生じさせるために電極のシステムにより外部的に生成された電流が通される電解質を含む電気化学セル。電解セルは、電気分解と呼ばれるプロセスにおいて金属基材を分解するために使用されうる。
【0024】
本発明によれば、適切な陰極も含む電解セルに電解質(EL)が提供される。好ましい実施形態では、電解セルは電解質を受け取る容器を含み、容器を電解セルの陰極とする。しかし、電解セルの陰極とする少なくとも一つの個別の電極が電解セルに存在することも可能である。さらに、電解セルが電解質を受け取る容器と少なくとも一つの個別の電極とを含み、容器と少なくとも一つの個別の電極との両方を電解セルの陰極とすることも可能である。陰極材料は重要でなく、適切な材料には銅、ニッケル、軟鋼、ステンレス鋼、黒鉛、カーボンなどが含まれる。
【0025】
好ましい実施形態では、陰極の表面と陽極の表面とは、例えば面積比が10:1~100:1の範囲内、好ましくは面積比が12:1~100:1の範囲内、より好ましくは面積比が12:1~50:1の範囲内、なお好ましくは面積比が12:1~20:1の範囲内であるなど、面積比が少なくとも10:1であり、面積比が少なくとも12:1であるのが好ましく、面積比が少なくとも15:1であるのがなお好ましい。
【0026】
好ましい実施形態では、電源からの電流は、少なくとも一つの電極と金属基材との間、すなわち電解セルの陰極と陽極との間に、金属基材が電解質(EL)に浸漬される前に印加される。換言すれば、好ましい実施形態では、方法のステップ(iii)が方法のステップ(iv)の前に行われる。しかし、電源からの電流が、少なくとも一つの電極と金属基材との間、すなわち電解セルの陰極と陽極との間に、金属基材が電解質(EL)に浸漬された後に印加されることも可能である。換言すれば、さらなる実施形態では、方法のステップ(iii)が方法のステップ(iv)の後に行われる。
【0027】
以上および以下に記載される電解質[EL]は、本発明の方法において用いられる。したがって、本発明の金属基材を電解研磨する方法で使用される電解質(EL)は、少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)とを含む。
【0028】
好ましい実施形態では、本発明の金属基材を電解研磨する方法で使用されるのが好ましい電解質(EL)は、少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)と、少なくとも一つの媒体(M)と、任意に添加剤(AD)とからなる。
【0029】
少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)と、少なくとも一つの媒体(M)と、任意に添加剤(AD)とに関して以上および以下に提供される情報は、少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)と、少なくとも一つの媒体(M)および/または任意に添加剤(AD)の存在下での金属基材を電解研磨するための本発明の方法に相互に当てはまることが理解されねばならない。
【0030】
金属基材を電解研磨する方法は、とりわけ複雑な表面を有する金属基材に適用できることが本発明の利点である。したがって、金属基材は、例えばバー、プレート、フラットシート、エキスパンドメタルのシート、直方体または複雑な建造体等の任意の形でありうる。
【0031】
金属基材を電解研磨する方法において金属基材上の気泡の形成が効果的に抑制されることが、本発明のさらなる利点である。したがって本発明の方法は、大きな金属基材、例えば航空機システム用の金属部品等、例えば支持体および/またはブラケット(例えばFCRC(flight crew rest compartment、運航乗員用休憩室)ブラケット、またはパイプ、管、戸棚、ベッド等のためのブラケット)、間仕切りおよび/またはキャビン仕切り、スポイラまたはスポイラの一部、ベンド、パイプエルボ等が電解研摩される場合であっても、研磨の均一性(homogenity)が非常に良好な研磨基材、または均一性が非常に優れた研磨基材をも提供する。加えて、本発明の方法は、光沢のある外観を有する研磨された基材を提供することができる。このような光沢のある外観は、研磨の優れた均一性を示すため望ましい。
【0032】
本明細書で用いられるところの「金属基材」という用語は、少なくとも一つの導電性の金属または金属合金を含む基材を包含することを意図する。金属基材は、少なくとも一つの導電性の金属または金属合金からなるのが好ましい。金属基材は、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ニオブ、モリブデン、銀、ハフニウム、タングステン、プラチナ、金、鋼、およびこれらの組み合わせ、たとえば合金等、からなる群より選択される金属、好ましくはアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ニオブ、モリブデン、鋼、およびこれらの組み合わせ、たとえば合金等、からなる群より選択される金属、より好ましくはアルミニウム、チタンおよびバナジウム、ならびにこれらの組み合わせ、たとえば合金等、からなる群より選択される金属を含み、これらの金属からなるのが好ましいものと理解される。好ましい実施形態では、金属(metal)基材は、Ti‐6Al‐4V、Inconel718、Invarおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される。Inconel718は、50.00~55.00重量%のニッケル(とコバルト)、17.00~21.00重量%のクロム、4.75~5.50重量%のニオブ(とタンタル)、2.80~3.30重量%のモリブデン、0.65~1.15重量%のチタン、0.20~0.80重量%のアルミニウム、最大1重量%のコバルト、最大0.08重量%の炭素、最大0.35重量%のマンガン、最大0.35重量%のケイ素、最大0.015重量%のリン、最大0.015重量%の硫黄、最大0.006重量%のホウ素、および最大0.30重量%の銅からなる金属合金であり、残りは鉄および不可避的不純物である。Invarは、例えばFeNi36(すなわち約64部の鉄と約36部のニッケルとの合金)またはFe65Ni35(すなわち約65部の鉄と約35部のニッケルとの合金)等の技術者に周知の鉄とニッケルとの合金であり、本発明においてはFeNi36であるのが好ましい。
【0033】
本発明の金属基材を電解研磨する方法の結果、275~315Vの間の電圧で、得られる研磨表面の表面粗さの非常に良好な減少と非常に良好な均一性がもたらされることが分かっている。
【0034】
電流は、285~305Vの電圧で印加されるのが好ましく、295~305Vの電圧で印加されるのがより好ましく、298~302Vの電圧で印加されるのがなお好ましく、300Vの電圧で印加されるのが最も好ましいものと理解される。特に、電流が298~302Vの電圧で印加された場合、または300Vの電圧で印加された場合であっても、得られる研磨表面の表面粗さの優れた減少および優れた均一性が達成される。
【0035】
さらに、電流は0.05~10A/cmの範囲内の電流密度で印加されることができ、0.05~5A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのが好ましく、0.1~2.5A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのがより好ましく、0.1~2.0A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのがなお好ましく、0.1~1.5A/cmの範囲内の電流密度で印加されるのがさらに好ましいものと理解される。
【0036】
温度は、重要なパラメータではないようである。しかし、上昇させた温度は、金属基材を電解研磨する方法の効率を改善するようである。電解質の温度は、例えば10~95℃の範囲内の温度、好ましくは40~95℃の範囲内の温度、より好ましくは60~95℃の範囲内の温度、なお好ましくは70~90℃の範囲内の温度、さらに好ましくは75~85℃の範囲内の温度など、少なくとも10℃であり、少なくとも40℃であるのが好ましく、少なくとも60℃であるのがより好ましく、少なくとも70℃であるのがなお好ましく、少なくとも75℃であるのがさらに好ましいものと理解される。
【0037】
処理時間は、一般に1~240分の範囲内である。しかし、一部の金属基材の処理には、最初の表面粗さおよび所望の表面粗さ、表面積、表面形状などの要因に応じて、表面粗さの所望の減少のためにより短い処理またはより長い処理が必要でありうる。好ましい実施形態では、電流は1~240分の範囲内の時間にわたり印加され、1~120分の範囲内の時間にわたり印加されるのが好ましく、1~60分の範囲内の時間にわたり印加されるのがより好ましく、1~30分の範囲内の時間にわたり印加されるのがなお好ましく、2~20分の範囲内の時間にわたり印加されるのがさらに好ましい。
【0038】
好ましい実施形態では、電解質は、金属基材を電解研磨する方法の間に継続的に撹拌される。金属基材の電解研磨の間に電解質を撹拌する様々な方法がある。撹拌は、加圧ガスを沈めることにより達成されてもよい。沈めるのに適切なガスは、例えば窒素、水素、ヘリウム、アルゴンおよびこれらの組み合わせである。沈める間に、加圧ガスが電解質を泡立たせる。加圧ガスの圧力は、0.01~1000kg/cmの範囲内とすることができ、圧力が1~1000kg/cmの範囲内であるのが好ましい。
【0039】
金属基材を洗浄組成物で処理する等、金属基材に前処理または後処理ステップが行われれば、金属基材を電解研磨する方法に有益でありうる。一実施形態では、金属基材を電解研磨する方法は、金属基材を洗浄組成物で処理する後処理ステップ、好ましくは金属基材を水、好ましくは脱イオン水で処理する後処理ステップを含む。
【0040】
金属基材を電解研磨する方法は、表面粗さが減少した金属基材を提供する。さらに、金属基材を電解研磨する方法は、より大きいサイズの金属基材が研磨される場合であっても、研摩表面の優れた均一性を有する金属基材を提供する。
【0041】
記載される金属基材を電解研磨する方法により処理される金属基材の平均表面粗さ(R)は、例えば0.1~100μmの範囲内、好ましくは0.5~20μmの範囲内、より好ましくは0.5~10μmの範囲内、なお好ましくは1.0~10μmの範囲内、最も好ましくは5.0~10μmの範囲内など、少なくとも0.1μmだけ減少し、少なくとも0.5μmだけ減少するのが好ましく、少なくとも1.0μmだけ減少するのがなお好ましいものと理解される。
【0042】
さらに、記載される金属基材を電解研磨する方法からは、例えば10~0.01μmの範囲内の平均表面粗さ(R)、好ましくは5~0.01μmの範囲内の平均表面粗さ(R)、より好ましくは1~0.01μmの範囲内の平均表面粗さ(R)、なお好ましくは0.5~0.01μmの範囲内の平均表面粗さ(R)、さらに好ましくは0.1~0.01μmの範囲内の平均表面粗さ(R)など、平均表面粗さ(R)が15μm以下であり、10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以下であるのがなお好ましく、0.1μm以下であるのがさらに好ましい金属基材が得られるものと理解される。
【0043】
本発明の特定の好ましい方法は、以下のステップ:
(i)少なくとも一つの電極を含む電解セルに電解質(EL)を提供するステップと、
(ii)Ti‐6Al‐4V、Inconel718、Invarおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される金属基材を、電解セルに陽極として配置するステップと、
(iii)少なくとも一つの電極と金属基材との間に270~315V、好ましくは285~305V、より好ましくは295~305V、なお好ましくは298~302V、最も好ましくは300Vの電圧で電源から電流を印加するステップと、
(iv)金属基材を電解質(EL)に浸漬するステップと
を含み、
電解質(EL)は、
(a)少なくとも一つの酸化合物(A)と、
(b)少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、
(c)少なくとも一つの錯化剤(CA)と
を含む。
【0044】
この特定の好ましい方法を適用することで、使用される基材の平均表面粗さを大きく減少させることができる、すなわち得られる基材の平均表面粗さが非常に小さく、同時に、結果として生じる研摩表面が優れた均一性を有する。
【0045】
電解質(EL)は、以上および以下、特に「電解質」のセクションにさらに詳細に記載される。
【0046】
電解質(EL)
本発明の方法では、長期安定性および表面粗さ減少の効率に優れた金属基材の電解研磨のための電解質(EL)が用いられる。
【0047】
本発明により使用されるところの「電解質」という用語は、電解セルにおいてイオンの形態での物質の移動を伴って電流が流れる伝導媒体として使用されうる流体をさす。
【0048】
金属基材の電解研磨のための電解質(EL)は、少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)とを含む。
【0049】
好ましい実施形態では、電解質(EL)は、この少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)と以外には、他のいかなる酸化合物もフッ素化合物も錯化剤も含まない。
【0050】
好ましい実施形態では、電解質(EL)は酸性である。電解質は、例えばpHが0.5~6.5の範囲内であり、pHが1.0~6.0の範囲内であるのが好ましく、pHが2.0~5.5の範囲内であるのがより好ましく、pHが3.0~5.0の範囲内であるのがなお好ましいなど、pHが6.5以下であり、pHが6.0以下であるのが好ましく、pHが5.5以下であるのがより好ましいものと理解される。
【0051】
酸化合物(A)
本発明により使用されるところの「酸化合物」という用語は、電子対を受け入れて共有結合を形成することができる有機または無機化合物をさす。
【0052】
少なくとも一つの酸化合物(A)は、電解質(EL)の必須成分である。少なくとも一つの酸化合物(A)は、電解質の伝導性を高め、処理される金属基材に応じて触媒として電解研磨する方法に役立ちうる。
【0053】
少なくとも一つの酸化合物(A)は、電解質(EL)中に電解質(EL)の重量に基づいて例えば0.05~20重量%の範囲内の量、好ましくは0.5~15重量%の範囲内の量、より好ましくは1~10重量%の範囲内の量、なお好ましくは1~5重量%の範囲内の量など、20重量%以下の量、好ましくは15重量%以下の量、より好ましくは10重量%以下の量、なお好ましくは5重量%以下の量で含まれるのが好ましい。
【0054】
少なくとも一つの酸化合物(A)は、硫酸、硝酸、リン酸、塩酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸またはこれらの混合物等の無機酸または有機酸からなる群より選択され、硫酸、硝酸、リン酸またはこれらの混合物からなる群より選択されるのが好ましく、硫酸であるのがより好ましいものと理解される。
【0055】
好ましい実施形態では、少なくとも一つの酸化合物(A)は硫酸水溶液であり、硫酸は、少なくとも一つの酸化合物(A)の重量に基づいて100~20重量%の範囲内の量で含まれ、98~50重量%の範囲内の量で含まれるのが好ましく、98~80重量%の範囲内の量で含まれるのがより好ましく、98~90重量%の範囲内の量で含まれるのがなお好ましい。
【0056】
したがって、現状技術の金属基材の電解研磨のための適切な酸化合物として開示されるフッ化水素酸等の面倒な処理が必要な毒性酸化合物を含む必要はない。
【0057】
フッ素化合物(F)
本発明により使用されるところの「フッ素化合物」という用語は、フッ素イオン源として働きうる化合物をさす。電解研磨方法で処理される金属基材に応じて、例えば溶解された金属イオンと安定錯体を形成することにより溶解プロセスを支えるためにフッ素イオンが必要でありうる。
【0058】
少なくとも一つのフッ素化合物(F)は、電解質(EL)の重量中に電解質(EL)の重量に基づいて例えば1~40重量%の範囲内の量、好ましくは1~30重量%の範囲内の量、より好ましくは2~15重量%の範囲内の量、なお好ましくは4~10重量%の範囲内の量など、40重量%以下の量、好ましくは30重量%以下の量、より好ましくは15重量%以下の量、なお好ましくは10重量%以下の量で含まれるのが好ましい。少なくとも一つのフッ素化合物(F)は、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、トリフルオロ酢酸(trifluoracetic acid)またはこれらの混合物からなる群より選択され、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムまたはこれらの混合物からなる群より選択されるのが好ましく、フッ化アンモニウムであるのがより好ましいものと理解される。
【0059】
フッ化アンモニウムの使用は、電極の分極を変更する陽イオン界面活性剤(NH )を提供することにより、金属基材を電解研磨する方法にさらに役立つと考えられる。
【0060】
錯化剤(CA)
本発明により使用されるところの「錯化剤」という用語は、金属原子またはイオンと配位結合を形成する化合物をさす。キレート剤は、多座(複数結合)配位子と多価の一つの中心原子との間の二つ以上の別々の配位結合の形成または存在を含む特定のタイプの錯体を形成する錯化剤である。通常、これらのリガンドは有機化合物であり、キーラント、キレータ、キレート剤または金属イオン封鎖剤と呼ばれる。「錯化剤」という用語は非キレート錯化剤およびキレート錯化剤の両方を含み、後者が好ましい。
【0061】
少なくとも一つの錯化剤(CA)は、電解質(EL)の必須成分である。少なくとも一つの錯化剤(CA)は、電解質(EL)の長期安定性に役立ち、金属基材の電解研磨により達成される表面粗さ減少の効率を高める。
【0062】
少なくとも一つの錯化剤(CA)は、電解質(EL)中に電解質(EL)の重量に基づいて例えば0.5~30重量%の範囲内の量、好ましくは0.5~20重量%の範囲内の量、より好ましくは0.5~10重量%の範囲内の量、なお好ましくは0.5~5重量%の範囲内の量、さらに好ましくは1~3重量%の範囲内の量など、30重量%以下の量、好ましくは20重量%以下の量、より好ましくは10重量%以下の量、なお好ましくは5重量%以下の量で含まれるのが好ましい。
【0063】
少なくとも一つの錯化剤(CA)は、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタキスメチレンホスホン酸(DTPMP)、アミノポリカルボン酸(APC)、ジエチレントリアミン五酢酸塩(DTPA)、ニトリロ三酢酸塩(NTA)、三リン酸塩、1,4,7,10テトラアザシクロドデカン‐1,4,7,10‐四酢酸(DOTA)、ホスホン酸塩、グルコン酸、β-アラニン二酢酸(alaninediactetic acid)(ADA)、N‐ビス[2‐(1,2ジカルボキシ‐エトキシ)エチル]グリシン(BCA5)、N‐ビス[2‐(1,2‐ジカルボキシエトキシ)エチル]アスパラギン酸(aspatic acid)(BCA6)、テトラシス(2‐ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(THPED)、N‐(ヒドロキシエチル)‐エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはこれらの混合物より選択され、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタキスメチレンホスホン酸(DTPMP)、アミノポリカルボン酸(APC)、ジエチレントリアミン五酢酸塩(DTPA)、テトラシス(2‐ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(THPED)、N‐(ヒドロキシエチル)‐エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはこれらの混合物より選択されるのが好ましく、メチルグリシン二酢酸(MGDA)であるのがより好ましいものと理解される。
【0064】
媒体(M)
電解質(EL)は、少なくとも一つの媒体(M)を含みうる。本発明により使用されるところの「媒体」という用語は、金属基材の電解研磨が行われうる媒体を提供するのに適した任意の有機または無機化合物をさす。少なくとも一つの媒体(M)は、例えば電解槽の伝導性を高めることによって、少なくとも一つの錯化剤(CA)により形成される錯体を安定させることによって、および/または電解質(EL)に含まれる化合物に関して十分な溶解性を提供することによって、金属基材を電解研磨する方法に役立つのが好ましい。
【0065】
少なくとも一つの媒体(M)は、電解質(EL)中に電解質(EL)の重量に基づいて例えば10~98.5重量%の範囲内の量、好ましくは30~95重量%の範囲内の量、より好ましくは50~90重量%の範囲内の量、なお好ましくは70~85重量%の範囲内の量など、少なくとも10重量%の量、好ましくは少なくとも30重量%の量、より好ましくは少なくとも50重量%の量、なお好ましくは少なくとも70重量%の量で含まれるのが好ましい。
【0066】
少なくとも一つの媒体(M)は、例えばC~C脂肪族アルコール、C~C脂肪族エーテル、C~C脂肪族エステル、C~C脂肪族カルボン酸およびこれらの混合物など、水、アルコール、エーテル、エステル、カルボン酸およびこれらの混合物からなる群より選択され、例えばC~C脂肪族アルコール、C~C脂肪族エーテルおよびこれらの混合物など、水、アルコール、エーテルおよびそれらの混合物からなる群より選択されるのが好ましいものと理解される。好ましい実施形態では、少なくとも一つの媒体(M)は水である。
【0067】
好ましい実施形態では、「水」という用語は、脱イオン水をさす。
【0068】
一実施形態では、少なくとも一つの媒体(M)は、電解質(EL)を形成するために少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)と、任意に添加物(AD)と混合される電解質である。好ましい実施形態では、少なくとも一つの媒体(M)は、電解質(EL)を形成するために少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)と、任意に添加物(AD)と混合される水である。換言すれば、好ましい実施形態では、電解質(EL)は、少なくとも一つの酸化合物(A)と、少なくとも一つのフッ素化合物(F)と、少なくとも一つの錯化剤(CA)とを含む電解水溶液である。
【0069】
添加剤(AD)
電解質(EL)は、方法に役立てるために金属基材の電解研磨において用いられる追加の添加剤(AD)を含みうる。典型的な添加剤は、金属基材の電解研磨の当業者に周知であり、必要に応じて用いられる。金属基材の電解研磨のための典型的な添加剤は、例えば界面活性剤、多価アルコール、シリケート、増粘剤などである。
【0070】
添加剤(AD)は、電解質(EL)中に電解質(EL)の重量に基づいて例えば0.01~25重量%の範囲内の量、好ましくは0.01~10重量%の範囲内の量、より好ましくは0.01~5重量%の範囲内の量、なお好ましくは0.01~2重量%の範囲内の量など、25重量%以下の量、好ましくは15重量%以下の量、より好ましくは10重量%以下の量、なお好ましくは5重量%以下の量、さらに好ましくは2重量%以下の量で存在するものと理解される。
【実施例
【0071】
定義および測定方法
平均表面粗さ(R)は、DIN EN4287:1998‐10にしたがい、DIN EN ISO3274による接触切開(tactile incision)技術(JenoptikのHommel Tester T1000 Wave、先端半径5μm、テーパ角度90°)を用いて決定する。
【0072】
pHは、DIN19261:2005‐6にしたがって決定する。
【0073】
研磨の品質、すなわち金属基材全体にわたる研磨の均一性を以下のようにさらに視覚的に観察し、評価する:
-- 粗悪品質:多数の起伏(corrusions)および/または溝、表面粗さの不均一な減少
- 低品質:いくつかの起伏および/または溝、表面粗さのより均一でない減少
+ 高品質:非常に軽微な起伏および/または溝のみ、表面粗さの均一な減少
++ 最高品質:起伏および/または溝なし、表面粗さの均一な減少
【0074】
実施例1
初期平均表面粗さがR=20,0μmであるTi‐6Al‐4Vの32mm×16mm×30mmの金属板の形態の金属基材を、ステンレス鋼陰極を含む電解セルに陽極として配置する。陰極と金属基材との間に300Vの電流を直流電源から印加する。金属基材を、6重量%のNHF、4重量%のHSOおよび1重量%のMGDAからなる電解質に浸漬する。電解質は、pHが3.5である。金属基材を30分間処理する。R=2,0μmの最終平均表面粗さが達成される。研摩基材の研磨の均一性は最高である。研摩基材に視覚的に観察できる起伏または溝はない。研摩基材は光沢のある外観を有する。
【0075】
実施例2
250~350Vの範囲内の印加電圧の平均表面粗さの減少に対する影響を評価する。
【0076】
一連の実験2‐1~2‐7を行う。この一連の実験のうちの一つ一つの実験の全てで、下の表1に示される初期平均表面粗さのTi‐6Al‐4Vの116mm×25mm×30mmの金属板の形態の金属基材を、ステンレス鋼陰極を含む電解セルに陽極として独立して配置する。陰極と金属基材との間に直流電源から下の表1に示される250~350Vの範囲内の様々な電流を各実験で独立して印加する。各金属基材を、6重量%のNHFおよび1重量%のHSOからなる電解質に独立して浸漬する。電解質は、pHが3.5である。各金属基材を10分間処理する。換言すれば、この一連の独立した実験では、250~350Vの間で変動する印加電圧以外の全てのパラメータを一定に保った。一連の実験のうちの独立した実験のそれぞれで、下の表1に示される最終平均表面粗さが達成される。表面粗さの減少は、初期粗さに対する最終粗さの差異率により表される。
【0077】
【表1】
【0078】
実験2‐2、2‐3、2‐4および2‐5(すなわち275、290、300および310の電圧を印加する実験)では、初期粗さに対する最終粗さの差異率で表される表面粗さの望ましい非常に高い減少が観察される。さらに、前記実験2‐2、2‐3、2‐4および2‐5では、電解研磨の間の金属基材でのガスの形成の大幅な減少が観察される。また、前記実験2‐2、2‐3、2‐4および2‐5で得られた研磨基材には起伏および/または溝が観察できない。研磨表面は、光沢のある外観を有する(実験2‐2~2‐5)。実験2‐1、2‐6および2‐7では、表面粗さの減少がより少なく、金属基材の研磨表面は、表面粗さの不均一な減少に起因して、ならびに起伏および/または溝の形成に起因して、低品質である。研磨表面は、光沢のない外観を有する。
【0079】
実施例3
初期平均表面粗さがR=14μmであるInconel718の50mm×10mm×20mmの金属板の形態の金属基材を、ステンレス鋼陰極を含む電解セルに陽極として配置する。陰極と金属基材との間に300Vの電流を直流電源から印加する。金属基材を、6重量%のNHF、4重量%のHSOおよび1重量%のMGDAからなる電解質に浸漬する。電解質は、pHが3.5である。金属基材を10分間処理する。R=4μmの最終平均表面粗さが達成される。研摩基材の表面は光沢のある外観を有する。研摩基材に視覚的に観察できる起伏または溝はない。

図1
図2