(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】灌水システム
(51)【国際特許分類】
A01G 25/06 20060101AFI20220728BHJP
A63C 19/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
A01G25/06 Z
A01G25/06 C
A63C19/00 A
A01G25/06 A
(21)【出願番号】P 2018051453
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀雄
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-322400(JP,A)
【文献】特開平08-228617(JP,A)
【文献】特開平09-262031(JP,A)
【文献】特開2011-055713(JP,A)
【文献】特開2012-120523(JP,A)
【文献】特開2014-057570(JP,A)
【文献】特開平10-048054(JP,A)
【文献】特開2001-016973(JP,A)
【文献】特開2006-177130(JP,A)
【文献】特開2007-215512(JP,A)
【文献】特開平09-275769(JP,A)
【文献】特開平10-229752(JP,A)
【文献】特開2004-151092(JP,A)
【文献】特開2010-046052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/06
A63C 19/00
E01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の領域に区分けされた天然芝グラウンドに対し、前記各領域に灌水を行う灌水システムであって、
前記天然芝グラウンドの前記各領域の地下に埋め込まれると共に、内部に水が通り、前記水が前記地下に滲出する孔を有する複数のパイプと、
前記領域ごとに設けられて前記各領域の土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素を検出する複数のセンサユニットと、
前記複数のセンサユニットのそれぞれによって検出された土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素に応じて前記複数のパイプのそれぞれへの水の供給を制御するコントローラと、
を備え、
前記天然芝グラウンドの前記複数の領域のそれぞれに個別に灌水を行い、
前記地下から前記各領域に対する水の制御を行うことにより、各前記領域の土壌の温度を制御
し、
前記複数のパイプのそれぞれに供給される水は、貯水槽からの水が流れ込み肥料及び気泡が供給された貯留槽からの水であり、
前記天然芝グラウンドは、天然芝である芝生と、前記芝生が植え込まれる砂層と、前記砂層の下に位置する砂利層とを備え、前記砂層に前記複数のパイプが埋め込まれており、前記砂層と前記砂利層の間に目潰し砂利が設けられている、
灌水システム。
【請求項2】
前記複数のパイプのそれぞれを通る水に気泡を供給する気泡供給装置を備える、
請求項1に記載の灌水システム。
【請求項3】
前記センサユニットは、前記天然芝グラウンドの芝生の表面温度を検出する芝生表面温度検出センサを含んでおり、
前記コントローラは、前記土壌水分、前記土壌温度、前記土壌中酸素及び前記表面温度に応じて前記水の供給を制御する、
請求項1又は2に記載の灌水システム。
【請求項4】
前記複数のパイプのそれぞれを通る水に肥料を供給する肥料供給装置を備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の灌水システム。
【請求項5】
前記天然芝グラウンドの芝生の光合成活性度を評価するリモートセンサーカメラを備える、
請求項1~4のいずれか一項に記載の灌水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然芝グラウンドに灌水を行う灌水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然芝グラウンドに灌水を行う灌水システムとしては種々のものが知られている。特許文献1には、天然芝の競技場の構造及び保守方法が記載されている。この構造は、複数のフレームと、複数のフレーム上に設けられる複数の矩形枠状のパレットと、各パレットにおいて育成されると共に外部に露出する天然芝とを備える。複数のフレームの下には、液体肥料を噴霧する複数の噴霧ノズルと、基礎地盤上に設けられて過剰な液体肥料を回収する回収パンとが設けられる。特許文献1の保守方法では、スポーツイベント等によって天然芝が損傷したときに、天然芝とパレットとを共に交換することにより、天然芝を利用できない期間を減らすことを可能としている。
【0003】
特許文献2には、グラウンドの環境を制御するシステムが記載されている。特許文献2において、グラウンドは複数の地区に分けられており、複数の地区のそれぞれに配水管が引き延ばされている。各配水管は1つの給水ポンプに連結されており、給水ポンプから各配水管に向かう途中に弁装置が設けられている。弁装置は、複数の配水管のそれぞれに設けられる。また、グラウンドには温度及び湿度等を検出する複数のセンサが設けられており、各センサによって検出された結果に応じて複数の弁装置のそれぞれが制御される。すなわち、各弁装置が温度及び湿度等に応じて開閉されることにより、各配水管への水の供給が制御される。各配水管には細霧噴霧ノズルが設けられており、各配水管に供給された水は細霧噴霧ノズルからグラウンドに散布される。
【0004】
特許文献3には、競技用のコートに用いられる競技場用芝セットシステムが記載されている。競技用のコートには、格子状のグリッドと、グリッドの上部に充填された土壌と、土壌において生育する生芝とを備えたコート本体が設けられる。コート本体は、ドーム式屋内競技場に敷設され、適宜にコートラインが施されることにより野球、サッカー、アメリカンフットボール、ゴルフ又はゲートボール等の競技が行われる。競技の前後には、肥料を含む水が散水され、この水は上から土壌に供給されて生芝への給水に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-265488号公報
【文献】特開2006-177130号公報
【文献】特開平6-153685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、天然芝グラウンドには、上から水が天然芝に供給される。ところで、例えば夏場には、水がすぐに乾いてしまうため、天然芝グラウンドで競技が行われている最中に水の供給が求められる場合がある。しかしながら、前述したように水及び肥料を上から供給する場合、天然芝グラウンドで競技をしている最中には水の供給を行うことができない。
【0007】
本発明は、前述した問題に鑑みてなされたものであり、天然芝グラウンドで競技を行っている最中に天然芝グラウンドへの水の供給を行うことができる灌水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る灌水システムは、複数の領域に区分けされた天然芝グラウンドに対し、各領域に灌水を行う灌水システムであって、天然芝グラウンドの各領域の地下に埋め込まれると共に、内部に水が通り、水が地下に滲出する孔を有する複数のパイプと、領域ごとに設けられて各領域の土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素を検出する複数のセンサユニットと、複数のセンサユニットのそれぞれによって検出された土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素に応じて複数のパイプのそれぞれへの水の供給を制御するコントローラと、を備え、
天然芝グラウンドの複数の領域のそれぞれに個別に灌水を行い、地下から各領域に対する水の制御を行うことにより、各領域の土壌の温度を制御し、複数のパイプのそれぞれに供給される水は、貯水槽からの水が流れ込み肥料及び気泡が供給された貯留槽からの水であり、天然芝グラウンドは、天然芝である芝生と、芝生が植え込まれる砂層と、砂層の下に位置する砂利層とを備え、砂層に複数のパイプが埋め込まれており、砂層と砂利層の間に目潰し砂利が設けられている。
【0009】
この灌水システムでは、複数の領域に区分けされた天然芝グラウンドにおいて、各領域の地下に埋め込まれた複数のパイプの孔から地下に水が滲出する。よって、地下に埋め込んだパイプから水が滲出することにより、天然芝グラウンドへの水の供給を競技中に行うことができる。また、例えばパイプから地下に勢いよく水を噴射した場合には、地中の砂等が動いて空洞ができる可能性がある。これに対し、この灌水システムでは、複数のパイプの孔から地下に水を滲出させるので、地下にゆっくりと水を供給することにより、地下に空洞ができる問題を回避することができる。また、領域ごとに水の供給を行うことにより、必要な領域のみに水の供給を行うことができる。更に、この灌水システムでは、領域ごとに設けられた複数のセンサユニットのそれぞれが土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素を検出し、検出された土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素に応じてコントローラが水の供給を領域ごとに制御する。従って、検出された土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素に応じて領域ごとに水の供給を制御するので、実際の土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素に応じて水の供給を適切に行うことができる。その結果、競技中であっても各領域への水の供給を適切に行うことができる。また、地下から各領域への水の供給を行うことにより、水の供給制御によって各領域の土壌の温度を制御することができる。従って、土壌の温度を制御して土壌の有機物を分解するバクテリアの生育を促進することができるので、土壌に未分解の有機物が溜まって土壌の通気性及び透水性が低下する問題を回避することができる。
【0010】
また、前述の灌水システムは、複数のパイプのそれぞれを通る水に気泡を供給する気泡供給装置を備えてもよい。ところで、例えば土壌中の酸素の量が低下した場合、嫌気性のバクテリアが活動して土壌に有害なガスが放出される可能性がある。これに対し、前述したように、気泡供給装置が複数のパイプのそれぞれを通る水に気泡を供給する場合、土壌に供給される酸素の量を制御することができる。従って、嫌気性のバクテリアの活動を抑制して土壌に有害なガスが放出される問題を抑制することができる。
【0011】
また、センサユニットは、天然芝グラウンドの芝生の表面温度を検出する芝生表面温度検出センサを含んでおり、コントローラは、土壌水分、土壌温度、土壌中酸素及び表面温度に応じて水の供給を制御してもよい。この場合、領域ごとに設けられた複数のセンサユニットのそれぞれが、土壌水分、土壌温度、土壌中酸素及び表面温度を検出し、検出された土壌水分、土壌温度、土壌中酸素及び表面温度に応じてコントローラが水の供給を領域ごとに制御する。従って、実際の芝生の表面温度を加味して水の供給を制御することができるので、競技中であっても領域ごとに芝生の温度管理を適切に行うことができる。
【0012】
また、前述の灌水システムは、複数のパイプのそれぞれを通る水に肥料を供給する肥料供給装置を備えてもよい。この場合、水と共に肥料を土壌に供給できるので、競技中であっても天然芝グラウンドの芝生の生育を促進させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、天然芝グラウンドで競技を行っている最中に天然芝グラウンドへの水の供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る灌水システムが適用される天然芝グラウンドの一例である野球場を示す平面図である。
【
図2】
図1の灌水システムの構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図1の天然芝グラウンドの縦断面の一例を示す図である。
【
図4】
図3の天然芝グラウンドの地下に埋め込まれたパイプの例を示す側面図である。
【
図6】
図1の灌水システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る灌水システムの実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解を容易にするため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法等は図面に記載のものに限定されない。
【0016】
図1は、実施形態に係る灌水システム1を備える天然芝グラウンド10の例を示す野球場Gの平面図である。
図2は、灌水システム1の構成を模式的に示す図である。
図1及び
図2に示されるように、天然芝グラウンド10は、例えば、競技又はイベントが行われる場所であり、耕作が行われる農地等とは異なる。灌水システム1は、天然芝グラウンド10の地下に水を供給して灌水を行う地下灌水システムであり、例えば地上から通常散水できない緊急時に用いられてもよい。灌水システム1は、天然芝グラウンド10に灌水を行う芝灌水システムであると共に、天然芝グラウンド10の環境を制御する芝生床土環境コントロールシステムである。
【0017】
野球場Gは、例えば、7つの領域A1~A7に区分けされている。領域A1~A7は、芝草の生育状況、日射状況及び使用状況に応じて区分けされている。野球場Gでは、例えば、春季から秋季までの間には野球が行われ、冬季にはイベントが行われる。イベントとは、競技以外の集客できる催しを示しており、例えば、コンサート、フェス又は見本市等を含んでいる。このように、野球場Gは、野球等の競技だけでなくイベント会場としても使用される。なお、野球場Gでは、野球以外の競技が行われてもよい。また、野球場Gは、例えば、開閉式のドーム球場であるが、開閉式でないドーム球場であってもよいし、ドームが無い球場であってもよい。
【0018】
一例として、領域A1は内野、領域A2,A3は外野の内側(内野側)、領域A4~A7は外野の外側(外野フェンス側)、に位置する。一般的に、領域A2~A7(外野)は、領域A1よりも荒れやすい領域である。また、領域A2及び領域A3は、この順でレフトからライトに向かって並んでおり、領域A4、領域A5、領域A6及び領域A7も、この順でレフトからライトに向かって並んでいる。但し、これらの領域A1~領域A7の区分けは、一例であり、適宜変更可能である。灌水システム1は、野球場Gの複数の領域A1~A7のそれぞれに個別に灌水を行う。
【0019】
灌水システム1は、水を貯める貯水槽2と、貯水槽2からの水が流れ込む貯留槽3と、貯留槽3からの水を領域A1~A7のそれぞれに圧送するポンプ4と、領域A1~A7への水の流路を開閉する複数の電磁弁7とを備える。なお、
図2では、領域A1~A7のうち、領域A3~A7の図示を省略しているが、領域A3~A7は領域A1,A2と同様に設けられる。
【0020】
貯水槽2は、野球場Gの領域A1~A7のそれぞれに供給する水を貯留する槽である。貯水槽2は、貯留槽3、ポンプ4及び電磁弁7を介して領域A1~A7のそれぞれの地下に供給する水を貯留する。貯水槽2は、更に、領域A1~A7のそれぞれに地上から通常散水するための水を貯留してもよく、この場合、貯水槽2から通常散水ラインに水が供給される。貯水槽2からは、地下灌水システムである灌水システム1を介して地下から天然芝グラウンド10に水が供給されると共に、地上からの通常散水によって天然芝グラウンド10に水が供給される。
【0021】
貯水槽2と貯留槽3の間には、貯水槽から2の水が貯留槽3に流れる第1管路L1が設けられており、貯留槽3には、肥料供給装置5及び気泡供給装置6のそれぞれが接続されている。肥料供給装置5は、例えば、貯留槽3に液肥を供給する装置であり、液肥を水に混合する液肥等混合装置である。肥料供給装置5は、貯留槽3に薬剤を供給してもよい。この薬剤は、殺虫剤であってもよく、この場合、天然芝グラウンド10の害虫を駆除することが可能となる。このように、肥料供給装置5は、貯留槽3の水に肥料及び薬剤を供給してもよい。
【0022】
気泡供給装置6は、貯留槽3の水に気泡(気体)を供給する装置である。気泡供給装置6が貯留槽3の水に供給する気体は空気(通常大気)又は純酸素である。例えば、気泡供給装置6は、平時は貯留槽3の水に窒素と酸素の体積比が4:1である空気を供給し、非常時は貯留槽3の水に純酸素を供給する。気泡供給装置6は、貯留槽3の水に酸素を含むナノバブルを供給するナノバブル投入装置であってもよい。
【0023】
この場合、ナノバブルは、超微細気泡であって浮力が小さく水中で静止状態を保つため、水から気泡が長期間抜けないようにすることが可能である。従って、領域A1~A7のそれぞれに、気泡供給装置6からの気泡が供給された水を確実に送り込むことができる。気泡供給装置6から供給される気泡は、目で見えない程度に径が小さいウルトラファインバブル(登録商標)であってもよい。
【0024】
貯留槽3は、肥料供給装置5からの肥料、及び気泡供給装置6からの気泡が供給された水を貯留する槽である。すなわち、貯留槽3は肥料及び気泡を含む水を貯留する。貯留槽3は薬剤を含む水を貯留してもよい。貯留槽3で肥料及び気泡等が供給された水を貯留することにより、緊急時等に速やかに領域A1~A7のそれぞれに水を供給することが可能となる。
【0025】
貯留槽3と領域A1~A7のそれぞれとの間には、貯留槽3からの水が領域A1~A7のそれぞれに流れる第2管路L2が設けられており、第2管路L2にはポンプ4及び複数の電磁弁7が設けられる。電磁弁7は、第2管路L2において領域A1~A7のそれぞれに枝分かれした部分のそれぞれに設けられており、領域A1~A7のそれぞれへの水の流れを制御する。
【0026】
領域A1~A7のそれぞれには、第2管路L2に連結されたヘッダー管8と、ヘッダー管8から延び出す複数のパイプ9とが設けられる。ヘッダー管8は、複数のパイプ9を束ねるヘッダー管である。また、領域A1~A7のそれぞれでは複数のパイプ9が張り巡らされている。すなわち、複数のパイプ9は、領域A1~A7のそれぞれにおいて全体にわたるように配置されている。これにより、領域A1~A7のそれぞれにおいて満遍なく且つ均一に水を供給することが可能となる。なお、パイプ9の構成については後に詳述する。
【0027】
図3は、天然芝グラウンド10の層構造の一例を示す縦断面図である。
図3に示されるように、天然芝グラウンド10は、例えば、天然芝である芝生11と、芝生11が植え込まれる砂層12と、砂層12の下に位置する砂利層13とを備える。砂層12及び砂利層13は、芝生11が植え込まれる土壌Bを構成する。なお、土壌の構成は、砂層12及び砂利層13を備える土壌Bに限られず、適宜変更されうる。
【0028】
砂層12は、混合砂が含まれる層であり、砂層12の砂の粒径は砂利層13の砂利の粒径よりも小さい。砂層12は、芝生11の生育空間を構成する層であり、芝生11の根が張る層である。砂層12には複数の温度調整パイプ15が埋め込まれており、各温度調整パイプ15の内部に熱媒体を供給することによって土壌Bの温度が調整される。温度調整パイプ15は、例えば、3月、4月、10月又は11月等、比較的寒冷なときには土壌Bを加熱して、7月又は8月等、暑いときには土壌Bを冷却する。
【0029】
砂層12と砂利層13の間には、目潰し砂利14が設けられており、目潰し砂利14によって砂利層13に含まれる砂利の間の隙間が埋められている。目潰し砂利14は、例えば、水と空気のみを通す層を構成する。砂層12と砂利層13の間に目潰し砂利14が設けられることにより、砂利層13に含まれる砂利の間に砂層12の砂が落下することが抑制されるので、土壌Bの不陸を防止することが可能となる。砂層12には、前述した複数のパイプ9が埋め込まれている。砂利層13と比較して空隙が小さい砂層12にパイプ9が埋め込まれることにより、パイプ9から供給される水Wを下降しにくくして芝生11に効率よく水Wを供給することができる。すなわち、パイプ9からの水Wを毛管水として確実に芝生11に届かせることができる。
【0030】
図2、
図3及び
図4に示されるように、各パイプ9は、天然芝グラウンド10の各領域A1~A7の地下に埋め込まれる。
図4はパイプ9の側面図である。パイプ9の内部には貯留槽3からの水Wが通る。パイプ9は、例えば円筒状を成しており、水Wが地下に滲出する複数の孔9aを有する有孔管である。孔9aはパイプ9を径方向に貫通しており、この孔9aからパイプ9の外部に水Wが滲出する。一例として、孔9aはパイプ9において均一に配置されており、複数の孔9aがパイプ9の長さ方向及び周方向において一定間隔ごとに配置されていてもよい。
【0031】
本明細書において、水が滲出するとは、水が滲み出ることを示しており、水を噴射させることとは異なる。前述したように、水Wが天然芝グラウンド10の地下に滲出することにより、地中の砂等の移動を抑えつつ水Wが天然芝グラウンド10の地下に供給される。すなわち、水Wは、天然芝グラウンド10の地中の砂等が動かない程度の強さで天然芝グラウンド10の地下に供給される。
【0032】
図5に示されるように、パイプ9の少なくとも一部は、布状のスポンジ部材9bに巻き付けられてもよい。スポンジ部材9bは、例えば、一定量の水Wを蓄えることが可能な部材であって、スポンジ部材9bから均一に水Wを滲出させる。このように、パイプ9の少なくとも一部がスポンジ部材9bに巻き付けられる場合、領域A1~A7のそれぞれの地下に一層均一に水Wを滲出させることができる。その結果、水Wの供給の偏りをより確実に抑えることができる。
【0033】
図2及び
図6に示されるように、領域A1~A7のそれぞれにはセンサユニット20が設けられる。灌水システム1は、センサユニット20、電磁弁7及びコントローラ30を更に備える。
図6では、1つのセンサユニット20、及び1つの電磁弁7を図示しているが、センサユニット20及び電磁弁7は、共に、領域A1~A7のそれぞれに設けられる。センサユニット20は、例えば、土壌Bの土壌温度を検出する地温センサ21と、土壌Bの土壌中酸素を検出する酸素センサ22と、土壌Bの土壌水分を検出する土壌水分センサ23と、芝生11の表面温度を検出する芝生表面温度検出センサ24と、芝生11の光合成活性度を評価するリモートセンサーカメラ25とを含む。
【0034】
地温センサ21は、例えば、土壌Bに挿し込まれた状態で土壌Bの地中の温度を検出する。酸素センサ22は土壌Bの内部の土壌中酸素の濃度を検出し、土壌水分センサ23は土壌Bに挿し込まれた状態で土壌Bの土壌水分を検出する。芝生表面温度検出センサ24は、例えば、芝生11の上に設けられる表面温度測定用センサであり、リモートサーモカメラであってもよい。
【0035】
以上のように、地温センサ21、酸素センサ22、土壌水分センサ23、芝生表面温度検出センサ24及びリモートセンサーカメラ25のそれぞれが土壌温度、土壌中酸素、土壌水分、表面温度及び光合成活性度を検出することにより、領域A1~A7ごとに設けられた各センサユニット20は、土壌温度、土壌中酸素、土壌水分、表面温度及び光合成活性度を取得する。各センサユニット20が取得した土壌温度、土壌中酸素、土壌水分、表面温度及び光合成活性度は、コントローラ30に出力される。
【0036】
コントローラ30は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータであってもよく、CPU(CentralProcessing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。コントローラ30の各機能は、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、CPUで実行することによって実現される。コントローラ30は、各センサユニット20から入力された土壌温度、土壌中酸素、土壌水分、表面温度及び光合成活性度に基づいて、領域A1~A7のそれぞれに向かう第2管路L2の水の流れを制御する。
【0037】
コントローラ30は、領域A1~A7のそれぞれに対応して設けられた電磁弁7、気泡供給装置6及び肥料供給装置5に通信可能とされている。コントローラ30は、検出された土壌温度、土壌中酸素、土壌水分、表面温度及び光合成活性度に基づいて、領域A1~A7のそれぞれに設けられた電磁弁7、気泡供給装置6及び肥料供給装置5に制御信号を出力する。コントローラ30は、肥料供給装置5及び気泡供給装置6のそれぞれに対応して設けられたバルブに制御信号を出力する。また、コントローラ30は、各電磁弁7に制御信号を出力して各第2管路L2の水量を調整することにより、領域A1~A7のそれぞれへの水の量を制御する。
【0038】
例えば、コントローラ30は、検出された土壌温度若しくは表面温度が所定値よりも高いとき、又は検出された土壌水分が所定値よりも少ないときに水の量を増やす制御信号を電磁弁7に出力する。また、コントローラ30は、検出された土壌中酸素が所定値よりも少ないときに気泡の量を増やす制御信号を気泡供給装置6に出力し、検出された光合成活性度が所定値よりも低いときに肥料の量を増やす制御信号を肥料供給装置5に出力してもよい。このように、コントローラ30が肥料供給装置5、気泡供給装置6及び電磁弁7のそれぞれに制御信号を出力することにより、領域A1~A7のそれぞれの土壌Bにおける温度、酸素、水分及び光合成活性度が調整される。
【0039】
次に、本実施形態に係る灌水システム1の作用効果について詳細に説明する。本実施形態に係る灌水システム1では、
図1、
図2及び
図3に示されるように、領域A1~A7に区分けされた天然芝グラウンド10において、各領域A1~A7の地下に埋め込まれた複数のパイプ9の孔9aから地下に水Wが滲出する。よって、地下に埋め込んだパイプ9から水Wが滲出することにより、天然芝グラウンド10への水Wの供給を競技中に行うことができる。
【0040】
また、例えばパイプから地下に勢いよく水を噴射した場合には、地中の砂等が動いて空洞ができる可能性がある。これに対し、灌水システム1では、複数のパイプ9の孔9aから地下に水Wを滲出させるので、地下にゆっくりと水Wを供給することにより、地下に空洞ができる問題を回避することができる。また、領域A1~A7ごとに水Wの供給を行うことにより、領域A1~A7のうち必要な領域のみに水Wの供給を行うことができる。
【0041】
更に、灌水システム1では、領域A1~A7ごとに設けられた複数のセンサユニット20のそれぞれが土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素を検出し、検出された土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素に応じて水Wの供給を適切に行うことができる。その結果、競技中であっても各領域A1~A7への水Wの供給を適切に行うことができる。また、地下から各領域A1~A7に対する水Wの制御を行うことにより、水Wの供給制御によって各領域A1~A7の土壌Bの温度を制御することができる。従って、土壌Bの温度を制御して土壌Bの有機物を分解するバクテリアの生育を促進することができるので、土壌Bに未分解の有機物が溜まって土壌Bの通気性及び透水性が低下する問題を回避することができる。
【0042】
また、灌水システム1は、複数のパイプ9のそれぞれを通る水Wに気泡を供給する気泡供給装置6を備える。ところで、例えば土壌中の酸素の量が低下した場合、嫌気性のバクテリアが活動して土壌に有害なガスが放出される可能性がある。これに対し、前述したように、気泡供給装置6が複数のパイプ9のそれぞれを通る水Wに気泡を供給する場合、土壌Bに供給される酸素の量を制御することができる。従って、嫌気性のバクテリアの活動を抑制して土壌Bに有害なガスが放出される問題を回避することができる。
【0043】
また、
図2及び
図6に示されるように、センサユニット20は、天然芝グラウンド10の芝生11の表面温度を検出する芝生表面温度検出センサ24を含んでおり、コントローラ30は、土壌水分、土壌温度、土壌中酸素及び表面温度に応じて水Wの供給を制御する。よって、領域A1~A7ごとに設けられた複数のセンサユニット20のそれぞれが、土壌水分、土壌温度、土壌中酸素及び芝生11の表面温度を検出し、検出された土壌水分、土壌温度、土壌中酸素及び芝生11の表面温度に応じてコントローラ30が水Wの供給を領域A1~A7ごとに制御する。従って、実際の芝生11の表面温度を加味して水Wの供給を制御することができるので、競技中であっても領域A1~A7ごとに芝生11の温度管理を適切に行うことができる。
【0044】
また、センサユニット20は、天然芝グラウンド10の芝生11の光合成活性度を検出するリモートセンサーカメラ25を含んでおり、コントローラ30は、少なくとも、土壌水分、土壌温度、土壌中酸素及び光合成活性度に応じて水Wの供給を制御する。よって、芝生11の光合成活性度をリモートセンサーカメラ25が検出し、検出された光合成活性度に応じてコントローラ30が水Wの供給制御を行う。従って、実際の芝生11の光合成活性度に基づいた水Wの制御が可能となるので、芝生11の管理をより適切に行うことができる。
【0045】
また、灌水システム1は、複数のパイプ9のそれぞれを通る水Wに肥料を供給する肥料供給装置5を備える。従って、肥料が含まれた水Wを土壌Bに供給できるので、競技中であっても天然芝グラウンド10の芝生11の生育を促進させることができる。更に、地下に供給される水Wに薬剤が含まれてもよく、この場合、土壌Bの深い所に存在するコガネムシ等の害虫を駆除することができる。このように地下の深くに存在する害虫を効果的に駆除することができる。
【0046】
以上、本発明に係る灌水システムの実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲において変形してもよい。すなわち、灌水システムの各部の機能及び配置態様は、上記の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0047】
例えば、前述の実施形態では、貯水槽2、貯留槽3、ポンプ4、肥料供給装置5、気泡供給装置6、電磁弁7、ヘッダー管8及びパイプ9を備えた灌水システム1について説明した。しかしながら、貯水槽2、貯留槽3、ポンプ4、肥料供給装置5、気泡供給装置6、電磁弁7、ヘッダー管8及びパイプ9の構成、数及び配置態様は適宜変更可能である。また、貯水槽2、貯留槽3、ポンプ4、肥料供給装置5、気泡供給装置6、電磁弁7、ヘッダー管8及びパイプ9の少なくともいずれかが変更又は省略された灌水システムであってもよく、灌水システムの各部の構成は適宜変更可能である。
【0048】
また、前述の実施形態では、土壌水分、土壌温度、土壌中酸素、表面温度及び光合成活性度に基づいて水Wの供給が制御される例について説明した。しかしながら、表面温度及び光合成活性度の少なくともいずれかを省略してもよく、土壌水分、土壌温度及び土壌中酸素のみに基づいて水Wの供給が制御されてもよい。
【0049】
また、前述の実施形態では、芝生11が植えられた土壌Bに目潰し砂利14及び温度調整パイプ15が設けられる例について説明した。しかしながら、芝生11が植えられる土壌に設けられる構成は、目潰し砂利14及び温度調整パイプ15に限られず、適宜変更可能である。
【0050】
また、前述の実施形態では、野球場Gの天然芝グラウンド10に灌水を行う灌水システム1について説明したが、この灌水の方法及び態様は適宜変更可能である。例えば、芝生11を冷却して芝生11を冬眠状態(芝生11の代謝を低下させた状態)にしているときに気泡供給装置6が水Wに空気を供給してもよい。また、天然芝グラウンドは、野球場Gとは異なる形状及び大きさを備える野球場に設けられていてもよいし、区分けに関しては領域A1~A7とは異なる区分けであってもよい。更に、本発明に係る灌水システムは、野球場以外の場所にも適用可能であり、例えば、サッカー場、ラグビー場、テニスコート、ゴルフ場、若しくは陸上競技場等の他の天然芝グラウンド、又は、競技場以外の天然芝グラウンドの灌水が必要な場所にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…灌水システム、2…貯水槽、3…貯留槽、4…ポンプ、5…肥料供給装置、6…気泡供給装置、7…電磁弁、8…ヘッダー管、9…パイプ、9a…孔、9b…スポンジ部材、10…天然芝グラウンド、11…芝生、12…砂層、13…砂利層、14…目潰し砂利、15…温度調整パイプ、20…センサユニット、21…地温センサ、22…酸素センサ、23…土壌水分センサ、24…芝生表面温度検出センサ、25…リモートセンサーカメラ、30…コントローラ、A1~A7…領域、B…土壌、G…野球場、L1…第1管路、L2…第2管路、W…水。