(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/231 20110101AFI20220728BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20220728BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2018068595
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178150(JP,A)
【文献】特開平06-227348(JP,A)
【文献】特開2015-058823(JP,A)
【文献】特開2014-141194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0223550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートの側方における一方側から、前記シート又は前記シートの周辺部材を介して前方又は上方に膨出し、前記シートの幅方向内側に展開することが可能な第1エアバッグと、
前記シートの側方における他方側から、前記シート又は前記周辺部材を介して前方又は上方に膨出し、前記シートの幅方向内側に展開することが可能な第2エアバッグと、を備え、
前記第1エアバッグと前記第2エアバッグとは、展開すると上下方向及び前記シートの幅方向に重畳
し、
前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグは、前記シートのシート表面を介して膨出し、
前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグのうち一方のエアバッグは前記乗員の上体前方に展開し、他方のエアバッグは前記一方のエアバッグより下方で前記乗員の下肢上方に展開し、
前記第1エアバッグは、シートクッション及びシートバックの一方から展開し、
前記第2エアバッグは、シートクッション及びシートバックの他方から展開する、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記一方のエアバッグは、前記乗員の上体に対向する対向面部を有する、
請求項
1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグの少なくともいずれかは、展開の際に前記シートの上下方向に沿った展開を規制する規制部を有し、
前記規制部は、前記規制部が設けられるエアバッグにおける前記シートの上下方向に沿った展開量を、段階的に大きくすることが可能である、
請求項1
又は2に記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の乗員に近い領域で乗員を保護するための技術としてシートに搭載されるエアバッグがある。例えば搭乗者の頭部を保護するために、車両のボディサイド部と搭乗者の胸部から頭部にかけての部位との間にて展開膨張するエアバッグ本体部と、エアバッグ本体部から搭乗者の顔面前方に突出するように展開膨張するエアバッグ突出部とを備えるサイドエアバッグ装置などが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転技術の発展に伴い、車室内空間での着座位置及び着座状態の自由化が実現した場合、シートを従来の配置とは異なるものにしたときに、従来使用していた、ステアリング、インストルメントパネルなどに設けられるエアバッグでは乗員の保護が困難となる可能性がある。これに鑑みて、エアバッグなどの乗員の保護デバイスをシートに設ける必要性が高まる。
上述したような従来のサイドエアバッグ装置では全方位の衝突には対応することが困難である。
【0005】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、乗員が着座するシートの構成のみで様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能な車両の乗員保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る車両の乗員保護装置は、乗員が着座するシートの側方における一方側から、前記シート又は前記シートの周辺部材を介して前方又は上方に膨出し、前記シートの幅方向内側に展開することが可能な第1エアバッグと、前記シートの側方における他方側から、前記シート又は前記周辺部材を介して前方又は上方に膨出し、前記シートの幅方向内側に展開することが可能な第2エアバッグと、を備え、前記第1エアバッグと前記第2エアバッグとは、展開すると上下方向及び前記シートの幅方向に重畳する。
【0007】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグは、前記シートのシート表面を介して膨出し、前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグのうち一方のエアバッグは前記乗員の上体前方に展開し、他方のエアバッグは前記一方のエアバッグより下方で前記乗員の下肢上方に展開することが好ましい。
【0008】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記一方のエアバッグは、前記乗員の上体に対向する対向面部を有することが好ましい。
【0009】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記第1エアバッグは、シートクッション及びシートバックの一方から展開し、前記第2エアバッグは、シートクッション及びシートバックの他方から展開することが好ましい。
【0010】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグの少なくともいずれかは、展開の際に前記シートの上下方向に沿った展開を規制する規制部を有し、前記規制部は、前記規制部が設けられるエアバッグにおける前記シートの上下方向に沿った展開量を、段階的に大きくすることが可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、シート側方の一方側及び他方側から展開する第1エアバッグ及び第2エアバッグがシートの幅方向内側に展開し、更に第1エアバッグ及び第2エアバッグが上下方向及びシートの幅方向に重畳することで、乗員の周囲を囲むようなエアバッグの配置と成る。シートから展開したエアバッグが乗員に近接して周囲を囲むことで、シートの構成のみで様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能な車両の乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)~(c)は本発明の一実施形態である乗員保護装置を示す概略図であり、
図1(a)は乗員保護装置を示す正面図であり、
図1(b)は乗員保護装置を示す平面図であり、
図1(c)は乗員保護装置を示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示したエアバッグの展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
【
図3】
図3は、衝突時における
図1に示した乗員保護装置を示す概略図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は本発明の他の実施形態である乗員保護装置を示す概略図であり、
図4(a)は乗員保護装置を示す正面図であり、
図4(b)は乗員保護装置を示す平面図であり、
図4(c)は乗員保護装置を示す側面図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は本発明の他の実施形態である乗員保護装置を示す概略図であり、
図5(a)は乗員保護装置を示す正面図であり、
図5(b)は乗員保護装置を示す平面図であり、
図5(c)は乗員保護装置を示す側面図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は本発明の他の実施形態である乗員保護装置を示す一部拡大概略図であり、
図6(a)は乗員保護装置を示す正面図であり、
図6(b)は乗員保護装置を示す一部断面正面図であり、
図6(c)は乗員保護装置を示す一部断面側面図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は
図6に示した乗員保護装置における第2エアバッグの一展開形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る車両の乗員保護装置の一実施形態について、
図1~
図3を参照しつつ説明する。
なお、
図1(a)~(c)は本発明の一実施形態である乗員保護装置1を示す概略図であり、
図1(a)は乗員保護装置1を示す正面図であり、
図1(b)は乗員保護装置1を示す平面図であり、
図1(c)は乗員保護装置1を示す側面図である。
図2は、
図1に示したエアバッグの展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
図3は、衝突時における
図1に示した乗員保護装置1を示す概略図である。
【0014】
図1に示すように、乗員保護装置1は、第1エアバッグ2と、第2エアバッグ3とを備えている。なお、乗員保護装置1は、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3の駆動のために、検知手段4、計時手段5及び制御手段6も併せて備えている。
【0015】
第1エアバッグ2は、乗員Pが着座するシート100のシート表面を介して展開される。なお、シート100は、乗員Pが着座可能なシートクッション101と、乗員Pが背面をもたれさせることのできるシートバック102とを有する。
第1エアバッグ2は、シート100の側方における一方側、本実施形態では乗員Pの左側から上方に膨出し、シート100の幅方向内側に展開するエアバッグである。第1エアバッグ2は、第1基端部21と第1内側部22とを有する。
第1基端部21は、シートクッション101からシート表面を介して上方に膨出及び延在して、乗員Pの側方に位置する部位である。
第1内側部22は、第1基端部21の上端部より突出する部位であって、第1基端部21からシート100の幅方向内側に向かって延在し、乗員Pの前方に位置する。第1内側部22は、シート100の上下方向及び幅方向に延在する略板状部位である。
第1基端部21は、第1エアバッグ2の展開時に第1内側部22にガスを圧入するためのガスの流通路としても機能する。
【0016】
第1エアバッグ2は、布製の袋体であり、展開前にはシートクッション101内に配置されて成る第1収容部71に折り畳まれて収容される。第1エアバッグ2が展開する際には、第1収容部71に付設されて成る第1インフレータ81から発生するガスが第1エアバッグ2内に圧入されることで、第1エアバッグ2が第1収容部71外に膨出し、更にシートクッション101のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
なお、本実施形態における第1エアバッグ2は膨出部位がシート100のシート表面に設定されているが、本発明においてはシートの周辺部材である適宜の内装材などから第1エアバッグが膨出することとしても良い。
図1に示すように、第1内側部22は後述の第2エアバッグ3より上方において乗員Pの上体前方に展開する。つまり、第1エアバッグ2は、本発明における一方のエアバッグである。
また、第1エアバッグ2は、シート100の前後方向における第1内側部22の後面部において、乗員Pの上体に対向する面状部位である対向面部23を有する。対向面部23は、シート100の上下方向及び幅方向に沿って延在する。
【0017】
第2エアバッグ3は、シート100のシート表面を介して展開される。
第2エアバッグ3は、シート100の側方における他方側、本実施形態では乗員Pの左側から前方に膨出し、シート100の幅方向内側に展開するエアバッグである。第2エアバッグ3は、第2基端部31と第2内側部32とを有する。
第2基端部31は、シートバック102からシート表面を介して前方に膨出及び延在して、乗員Pの側方に位置する部位である。
第2内側部32は、第2基端部31の前端部より突出する部位であって、第2基端部31からシート100の幅方向内側に向かって延在し、乗員Pの前方に位置する。第2内側部32は、シート100の前後方向及び幅方向に延在する略板状部位である。
第2基端部31は、第2エアバッグ3の展開時に第2内側部32にガスを圧入するためのガスの流通路としても機能する。
【0018】
第2エアバッグ3は、布製の袋体であり、展開前にはシートバック102内に配置されて成る第2収容部72に折り畳まれて収容される。第2エアバッグ3が展開する際には、第2収容部72に付設されて成る第2インフレータ82から発生するガスが第2エアバッグ3内に圧入されることで、第2エアバッグ3が第2収容部72外に膨出し、更にシートバック102のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
なお、本実施形態における第2エアバッグ3は膨出部位がシート100のシート表面に設定されているが、本発明においてはシートの周辺部材である適宜の内装材などから第2エアバッグが膨出することとしても良い。
図1に示すように、第2内側部32は、一方のエアバッグである第1エアバッグ2の第1内側部22より下方において、乗員Pの下肢上方に展開する。つまり、第2エアバッグ3は、本発明における他方のエアバッグである。
【0019】
図1に示す第1エアバッグ2と第2エアバッグ3とは、展開すると上下方向及びシート100の幅方向に重畳している。
【0020】
検知手段4は、車両の衝突又は衝突可能性を検知する。具体的には、検知手段4は、適宜のカメラ、センサなどにより車外の周辺環境の監視結果に基づいて、他車両又は障害物と自車両との衝突又は衝突可能性の有無を検知する。検知手段4は、検知結果を制御手段6に出力することが可能となっている。
衝突の検知は、例えば車両に搭載される加速度センサなどによって自車両に作用する衝撃を検知することで、衝突が発生したと判別することができる。
また、衝突可能性の検知は、例えば車両に搭載される車外監視用カメラ、監視用センサなどによる他車両又は障害物の監視結果と、自車両の走行速度、方向などのパラメータとを併せることで、自車両に他車両又は障害物が接触し得る可能性を導出する。更に、導出結果が適宜のしきい値を超えているか否かによって衝突可能性の高低を判別することができる。
検知手段4としては、例えば車載カメラ、監視用センサ、加速度センサなどと、監視結果の解析のための演算処理装置とを組合せて用いることができる。
【0021】
計時手段5は、第1インフレータ81又は第2インフレータ82の駆動開始後の経過時間を計測する。具体的には、計時手段5は、制御手段6が第1インフレータ81又は第2インフレータ82に対して駆動信号を出力した旨の電気信号が制御手段6から入力されると経過時間の計測を開始し、計時結果に係る電気信号を制御手段6に出力する。
計時手段5としては、例えば時間の計測を行うタイマ部材と車載用の演算処理装置であるECUなどとを組合せて用いることができる。
【0022】
制御手段6は、第1インフレータ81及び第2インフレータ82の駆動を制御する。具体的には、制御手段6は、検知手段4から出力された検知結果に基づいて、第1インフレータ81及び第2インフレータ82のうちの一方を駆動させ、計時手段5から出力された計時結果に基づいて、第1インフレータ81及び第2インフレータ82のうちの他方を駆動させる制御を行う。第1インフレータ81及び第2インフレータ82を駆動させると、火薬への着火などによってガスが発生することとなる。制御手段6は第1インフレータ81及び第2インフレータ82に対して駆動信号を出力することが可能となっている。
制御手段6としては、例えば車載用の演算処理装置であるECUなどを用いることができる。
【0023】
ここで、乗員保護装置1の駆動制御について
図2を参照しつつ制御フローの説明を行う。
【0024】
先ず、検知手段4が自車両の衝突又は衝突可能性の有無を判別する(ステップS1)。本工程では、検知手段4の検知結果に基づいて、実際に衝突が発生したと検知手段4が判別した場合に、次工程に移る(ステップS1のYES)。また、本工程では、検知手段4の検知結果に基づいて、他車両若しくは障害物が自車両に接近することで増大するリスクを検知手段4が導出し、該リスクが適宜のしきい値を超えていれば衝突の可能性があると検知手段4が判別し、この場合にも同様に次工程に移る(ステップS1のYES)。
なお、検知手段4の検知結果では衝突の発生が無いと検知手段4が判別した場合は、衝突に備える必要が無く、第1インフレータ81及び第2インフレータ82を駆動させる必要も無いので、本制御フローを完了する(ステップS1のNO)。また、他車両若しくは障害物が自車両に接近していないことで衝突の可能性が無い場合、又は、他車両若しくは障害物が自車両に接近しているが上記リスクが適宜のしきい値を超えていないことで衝突の可能性が低い場合にも、同様に本制御フローを完了する(ステップS1のNO)。
検知手段4の判別結果は制御手段6に出力される。
【0025】
衝突の発生又は衝突可能性があると検知手段4により判別がなされた場合は(ステップS1のYES)、制御手段6が第1インフレータ81の駆動制御を行う(ステップS2)。本工程では、第1エアバッグ2に付設される第1インフレータ81に対して制御手段6から駆動信号が入力されることで、第1インフレータ81は例えば火薬に着火するなどしてガスを発生させる。第1インフレータ81から発生したガスは、第1エアバッグ2内に圧入されることでシートクッション101のシート表面を開裂させてシート100外に上方に膨出する。
なお、制御手段6は、本工程で第1インフレータ81に対して駆動信号を出力した旨の電気信号を、計時手段5に対して出力する。制御手段6からの信号入力がなされた計時手段5は、第1インフレータ81の駆動開始からの経過時間を計測し始める。
【0026】
展開を開始した第1エアバッグ2は、シートクッション101から第1基端部21が立ち上がった状態となった後に、第1基端部21の上部からシート100の幅方向内側に第1内側部22が展開する。
【0027】
第2エアバッグ3を展開するための乗員保護装置1の制御フローとしては、
図2に示すように、先ず計時手段5が第1エアバッグ2の展開から所定の経過時間が経過したか否かを判別する(ステップS3)。本工程では、第1インフレータ81の駆動開始からの経過時間、つまり第1エアバッグ2の展開開始からの経過時間が、所定の時間しきい値を超えているか否かについて計時手段5が判別を行う。第1エアバッグ2が展開し始めてからの経過時間が所定の時間しきい値を超えていれば、次工程に移る(ステップS3のYES)。
本工程で用いる所定の時間しきい値は、第1エアバッグ2の展開途中となる時間に設定されても良く、展開が完了する時間に設定されていても良い。つまり、第1エアバッグ2が適宜の展開量以上に達すれば、又は第1エアバッグ2の展開が完了すれば、次に第2エアバッグ3を展開する。
なお、上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていない場合は、本工程を繰り返し実行する(ステップS3のNO)。
計時手段5の判別結果は制御手段6に出力される。
【0028】
上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていると計時手段5により判別がなされた場合は(ステップS3のYES)、制御手段6が第2インフレータ82の駆動制御を行う(ステップS4)。本工程では、第2エアバッグ3に付設される第2インフレータ82に対して制御手段6から駆動信号が入力されることで、第2インフレータ82は例えば火薬に着火するなどしてガスを発生させる。第2インフレータ82から発生したガスは、第2エアバッグ3内に圧入されることでシートバック102のシート表面を開裂させてシート100外に前方に膨出する。
【0029】
展開を開始した第2エアバッグ3は、シートバック102から第2基端部31が前方に突出した状態となった後に、第2基端部31の前部からシート100の幅方向内側に第2内側部32が展開する。
【0030】
結果として、
図1に示すように、第1エアバッグ2が第1内側部22を有すると共に、第2エアバッグ3が第2内側部32を有することで、乗員Pの前方にシート100の両側方からエアバッグが展開した状態となる。
【0031】
また、
図1に示したように、第1エアバッグ2は、シートクッション101において乗員Pの下肢に対してシート100の幅方向外側位置から上方に膨出し、シート100における第1基端部21の膨出位置よりシート100の幅方向内側に第1内側部22が突出し、乗員Pの上体前方に展開する。更に、第2エアバッグ3は、シートバック102において乗員Pの上体に対してシート100の幅方向外側位置から前方に膨出し、シート100における第2基端部31の膨出位置よりシート100の幅方向内側に第2内側部32が突出し、乗員Pの前方でかつ下肢上方に展開する。
【0032】
よって、シート100から展開した第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3が乗員Pの側方及び前方を囲んだ状態になるので、結果としてシート100の構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能となる。
【0033】
例えば乗員保護装置1を備える車両に前方衝突が生じた場合、
図3に示すように、乗員Pには前方に倒れる挙動が生じる。乗員保護装置1の第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3が上述の制御により展開していることで、乗員Pを適切に保護することができる。
【0034】
具体的には、前方衝突が生じると、乗員Pは腰部を中心にした回転を伴いつつ前方に倒れる。このとき、第1エアバッグ2は乗員Pから前側下方に押圧されることとなる。前方に倒れる乗員Pの上体は、第1エアバッグ2における対向面部23により支持される。乗員Pの上体が局所的ではなく面で支持されるので、乗員Pの胸部に対する傷害値の上昇を抑制することができる。対向面部23が乗員Pにより前方に押圧されるときに、第1内側部22の下部が第2内側部32により下方から支持される。第2内側部32は乗員Pの大腿部などの下肢に当接し、下方から支持された状態となる。更に、乗員Pにより前方に押圧される第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3は第1基端部21及び第2基端部31を介してシート100と接続されているので、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3の押圧による前方移動の抗力が生じる。よって、乗員Pは、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3により、着座姿勢の大きな崩れが生じ難く、シート100の近接領域で保護されることになる。
【0035】
更に、第1エアバッグ2と第2エアバッグ3とが上下方向及びシート100の幅方向に重畳する展開形態を採っているので、衝突がどの方向から生じたとしても、乗員Pが第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3の少なくともいずれかを押圧するときに、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3が相互に干渉することになって展開位置から動きにくい。これにより、乗員Pに対する全方向の保護性能が確保される。
【0036】
本発明においては、
図1~
図3に示した第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3とは異なる形状のエアバッグを採用することもできる。本発明に係る乗員保護装置の他の実施形態について
図4及び
図5を参照しつつ説明する。
図4(a)~(c)は本発明の他の実施形態である乗員保護装置11を示す概略図であり、
図4(a)は乗員保護装置11を示す正面図であり、
図4(b)は乗員保護装置11を示す平面図であり、
図4(c)は乗員保護装置11を示す側面図である。
図5(a)~(c)は本発明の他の実施形態である乗員保護装置12を示す概略図であり、
図5(a)は乗員保護装置12を示す正面図であり、
図5(b)は乗員保護装置12を示す平面図であり、
図5(c)は乗員保護装置12を示す側面図である。
なお、
図4に示す乗員保護装置11及び
図5に示す乗員保護装置12において、上記乗員保護装置1との相違点以外は同一部材を用いることとし、該同一部材の詳細な説明は省略する。
【0037】
図4に示す乗員保護装置11は、上記第1エアバッグ2に代えて、第1エアバッグ201を備える。
【0038】
第1エアバッグ201は、第2エアバッグ3と略同形状であり、シート100のシート表面を介して展開される。
第1エアバッグ201は、シート100の側方における一方側、
図4に示す実施形態では乗員Pの右側から前方に膨出し、シート100の幅方向内側に展開するエアバッグである。第1エアバッグ201は、第1基端部211と第1内側部212とを有する。
第1基端部211は、シートバック102からシート表面を介して前方に膨出及び延在して、乗員Pの側方に位置する部位である。
第1内側部212は、第1基端部211の前端部より突出する部位であって、第1基端部211からシート100の幅方向内側に向かって延在し、乗員Pの前方に位置する。第1内側部212は、シート100の前後方向及び幅方向に延在する略板状部位である。
第1基端部211は、第1エアバッグ201の展開時に第1内側部212にガスを圧入するためのガスの流通路としても機能する。
【0039】
第1エアバッグ201は、展開前にはシートバック102内に配置されて成る第1収容部71に収容され、第1インフレータ81から発生するガスが圧入されることで第1収容部71外に膨出し、更にシートバック102のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
図4に示すように、第1内側部212は第2エアバッグ3より上方において乗員Pの上体前方に展開する。つまり、第1エアバッグ201は、本発明における一方のエアバッグである。
乗員保護装置11では、展開した第1内側部212及び第2内側部32が共に略板状部位であり、乗員Pの下肢上方で積み重ねられた状態となる。第1エアバッグ201と第2エアバッグ3とは、展開すると上下方向及びシート100の幅方向に重畳している。
【0040】
第1エアバッグ201及び第2エアバッグ3を備える乗員保護装置11は、上述した乗員保護装置1と同様に、シート100から展開した第1エアバッグ201及び第2エアバッグ3が乗員Pの側方及び前方を囲んだ状態になるので、結果としてシート100の構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能となる。
【0041】
続いて
図5に示す乗員保護装置12は、上記第1エアバッグ2に代えて第1エアバッグ202と、上記第2エアバッグ3に代えて第2エアバッグ302とを備える。
【0042】
第1エアバッグ202は、シート100のシート表面を介して展開される。
第1エアバッグ202は、シート100の側方における一方側、
図5に示す実施形態では乗員Pの右側から上方に膨出し、シート100の幅方向内側に展開するエアバッグである。第1エアバッグ202は、第1基端部221と第1内側部222とを有する。
第1基端部221は、シートクッション101からシート表面を介して上方に膨出及び延在して、乗員Pの側方に位置する部位である。
第1内側部222は、第1基端部221の上端部より突出する部位であって、第1基端部221からシート100の幅方向内側に向かって延在し、乗員Pの前方に位置する。第1内側部222は、シート100の前後方向及び幅方向に延在する略板状部位である。
第1基端部221は、第1エアバッグ202の展開時に第1内側部222にガスを圧入するためのガスの流通路としても機能する。
【0043】
第1エアバッグ202は、展開前にはシートクッション101内に配置されて成る第1収容部71に収容され、第1インフレータ81から発生するガスが圧入されることで第1収容部71外に膨出し、更にシートクッション101のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
図5に示すように、第1内側部222は第2内側部322より上方において乗員Pの上体前方に展開する。つまり、第1エアバッグ202は、本発明における一方のエアバッグである。
【0044】
第2エアバッグ302は、シート100のシート表面を介して展開される。
第2エアバッグ302は、シート100の側方における他方側、
図5に示す実施形態では乗員Pの左側から上方に膨出し、シート100の幅方向内側に展開するエアバッグである。第2エアバッグ302は、第2基端部321と第2内側部322とを有する。
第2基端部321は、シートクッション101からシート表面を介して上方に膨出及び延在して、乗員Pの側方に位置する部位である。
第2内側部322は、第2基端部321の上端部より突出する部位であって、第2基端部321からシート100の幅方向内側に向かって延在し、乗員Pの前方に位置する。第2内側部322は、シート100の前後方向及び幅方向に延在する略板状部位である。
第2基端部321は、第2エアバッグ302の展開時に第2内側部322にガスを圧入するためのガスの流通路としても機能する。
【0045】
第2エアバッグ302は、展開前にはシートクッション101内に配置されて成る第2収容部72に収容され、第2インフレータ82から発生するガスが圧入されることで第2収容部72外に膨出し、更にシートクッション101のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
図5に示すように、第2内側部322は第1内側部222より下方において乗員Pの下肢上方に展開する。つまり、第2エアバッグ302は、本発明における他方のエアバッグである。
乗員保護装置13では、展開した第1内側部222及び第2内側部322が共に略板状部位であり、乗員Pの下肢上方で積み重ねられた状態となる。第1エアバッグ202と第2エアバッグ302とは、展開すると上下方向及びシート100の幅方向に重畳している。
【0046】
第1エアバッグ202及び第2エアバッグ302を備える乗員保護装置12は、上述した乗員保護装置1と同様に、シート100から展開した第1エアバッグ202及び第2エアバッグ302が乗員Pの側方及び前方を囲んだ状態になるので、結果としてシート100の構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能となる。
【0047】
乗員保護装置12は、シートクッションから展開したエアバッグが乗員Pの下肢の側方及び上方を囲んだ状態になるので、衝突時の乗員Pの下肢の動きを抑制しつつ、上体の前方倒れも抑制することができるので乗員Pの着座姿勢の大きな崩れが生じ難い。
【0048】
上記乗員保護装置1は、
図2に示したように、先ず第1エアバッグ2を展開し、所定時間経過後に第2エアバッグ3を展開することとしていた。
本発明においてエアバッグの展開順序は、特に制限されず、衝突形態、衝突までの時間的猶予、走行環境、自車両の走行状態などに応じて適宜に決定することができる。
例えば衝突までの時間的猶予が少ない場合は、乗員の側方及び前方にエアバッグを迅速に配置しておく必要性が高いので、第1エアバッグ及び第2エアバッグを同時に展開させる形態を採るのが良い。
なお、乗員保護装置1のように第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3の展開タイミングをずらすと、各エアバッグの展開時における様々な方向への動き、いわゆる展開暴れ状態の各エアバッグが相互に干渉しにくいので安定的なエアバッグ展開が可能となる。
【0049】
ここで、第1エアバッグと第2エアバッグとの展開タイミングをずらしたときに、より円滑な展開を実現するための実施形態について、
図6及び
図7を参照しつつ説明する。
図6(a)~(c)は本発明の他の実施形態である乗員保護装置13を示す一部拡大概略図であり、
図6(a)は乗員保護装置13を示す正面図であり、
図6(b)は乗員保護装置13を示す一部断面正面図であり、
図6(c)は乗員保護装置13を示す一部断面側面図である。
図7(a)~(c)は
図6に示した乗員保護装置13における第2エアバッグ303の一展開形態を示す概略図である。
なお、
図6及び
図7に示す乗員保護装置13において、上記乗員保護装置1との相違点以外は同一部材を用いることとし、該同一部材の詳細な説明は省略する。
【0050】
図6に示す乗員保護装置13は、上記乗員保護装置1の第2エアバッグ3に代えて、第2エアバッグ303を備えている。
【0051】
第2エアバッグ303は、内部に規制部9を有する。
規制部9は、第2エアバッグ303の展開の際にシート100の上下方向の展開を規制する。規制部9は、第2エアバッグ303におけるシート100の上下方向の展開量を段階的に大きくすることが可能である。特に
図6(b)~(c)に示すように、規制部9は隔壁部91と圧力弁92とを有する。
隔壁部91は、第2エアバッグ303と同一材料で形成されて成る可撓性のある薄板状部材であり、第2エアバッグ303が展開したときにシート100の幅方向及び前後方向に沿って延在するように第2エアバッグ303内に固定的に配置される。隔壁部91が第2エアバッグ303内に略等間隔に2枚配置されることで、第2エアバッグ303の第2内側部332は第1気室部333と第2気室部334と第3気室部335とに画分される。
圧力弁92は、隔壁部91に設けられ、所定の圧力が作用すると開弁する弁体である。圧力弁92は第2エアバッグ303の展開までは閉弁している。なお、圧力弁92としては、所定の圧力で開放状態と成るものであれば、バルブ以外にも、貫通孔を縫製により閉塞し、該縫製部位の開裂し易さ及び破断し易さの強度が縫製強度などで調整されて成る形態を採ることもできる。
【0052】
また、第2エアバッグ303の第2基端部331は、第1気室部333のみに連通している。よって、第2エアバッグ303の展開が開始されると、第2基端部331がガスの流通路として機能することで、先ず第1気室部333のみがシート100の幅方向内側に展開することとなる。
【0053】
次に、
図7に示す第2エアバッグ303の展開形態について説明する。
図7に示す乗員保護装置13は、第1エアバッグ2が既に展開完了状態である。つまり、展開が完了した第1エアバッグ2の第1内側部22と乗員Pの下肢との間の領域に第2エアバッグ303を展開させる。
【0054】
上記制御手段6の駆動制御により第2インフレータ82からガスが発生すると、
図7(a)に示すように、第2基端部331内を流通するガスが、第2基端部331の前端部に設けられる第1気室部333に流入する。このとき、第2気室部334及び第3気室部335はガスが流入しておらず収縮状態である。
【0055】
第1気室部333がガスで略膨満状態となる前後で、第1気室部333と第2気室部334との間に設けられる圧力弁92がガス圧によって開弁する。これにより、
図7(b)に示すように、第2気室部334にもガスが流入する。このとき、第3気室部335はガスが流入しておらず収縮状態である。
【0056】
第1気室部333がガスで略膨満状態であり、かつ第2気室部334がガスで略膨満状態となる前後で、第2気室部334と第3気室部335との間に設けられる圧力弁92がガス圧によって開弁する。これにより、
図7(c)に示すように、第3気室部335にもガスが流入する。
第3気室部335が膨満状態となると、第2エアバッグ303の展開が完了する。
【0057】
図6及び
図7に示した乗員保護装置13を用いると、先ず第1エアバッグ2を乗員Pの上体前方に展開させることで、乗員Pの上体の保護を優先させる必要のある状況などで好適である。
また、第2エアバッグ303の展開前であれば、乗員Pの前方に第1エアバッグ2の展開を妨げるものが無いので、円滑な第1エアバッグ2の展開が可能である。
【0058】
第2エアバッグ303は、先ず第1内側部22の下端部と乗員Pの下肢との間の領域において、第2内側部332のシート100の上下方向の展開量が小さくなるように、つまり第2内側部332の上下厚みが小さくなるように、先ず第1気室部333のみが展開する。更に、第2エアバッグ303は、規制部9によって第2気室部334及び第3気室部335が順次展開することで、第2内側部332の上下厚みが段階的に大きくなる。
したがって、規制部9によって狭い領域でも確実にかつ円滑にエアバッグの展開が可能となる。
【0059】
なお、第2エアバッグ303の上下方向に沿った展開タイミングを、衝突時の乗員Pの倒れ挙動が生じたときに合わせることもできる。
具体的には、圧力弁92の開弁圧力及び第2インフレータ82の駆動タイミングなどを適宜に調整することで、乗員Pが倒れている途中で、規制部9によって第2内側部332の上下厚みを大きくするようにしても良い。これにより、例えば乗員Pの上体に腰部を中心とした前方倒れが生じたときに、第1内側部22に当接する第2内側部332の上下厚みを段階的に大きくしていくことで、第2エアバッグ303から第1エアバッグ2に対して上方に向かうように作用する支持反力を作用させることができる。
【0060】
図6及び
図7には第2エアバッグ303における第2内側部332の上下方向に沿った展開量の拡大形態を示したが、第1エアバッグ2内に規制部9を設けることで、第1内側部22の上方から下方に向かって段階的に展開量を拡大する形態を採用することもできる。
本発明における規制部は、第1エアバッグ及び第2エアバッグが相互のエアバッグに向かって段階的に展開していくことが可能な限り、様々な部位、形状、大きさなどで適宜に採用することができる。
【0061】
以上に説明したように、
図1~
図7に示した実施形態に係る乗員保護装置1、11、12及び13は、シートから乗員Pとは別方向に膨出した第1エアバッグ及び第2エアバッグがシートの幅方向内側にも展開することで、乗員Pに近接する領域にエアバッグが展開される。
将来的に自動運転車両ではシート100を車両前方の向きだけに限定されず、様々な方向に向けることが可能となる。また、シート100を様々な位置にも配置が可能となる。これらによって、種々の内装材に配置される既存のエアバッグなどの乗員保護デバイスは、可動となるシート100に着座する乗員Pに対して、従来の乗員保護性能を十分に発揮することができなくなる可能性が生じる。
これに対して、乗員保護装置1、11、12及び13は、シート100から第1エアバッグ及び第2エアバッグが展開し、乗員Pに近接する領域で乗員Pを囲むように展開するので、どのような方向及びどのような位置に配置されるシート100であっても乗員保護性能が低下しない又は低下し難い。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0063】
1、11、12及び13:乗員保護装置、2、201及び202:第1エアバッグ、21、211及び221:第1基端部、22、212及び222:第1内側部、23:対向面部、3、301、302及び303:第2エアバッグ、31、311、321及び331:第2基端部、32、312、322及び332:第2内側部、333:第1気室部、334:第2気室部、335:第3気室部、4:検知手段、5:計時手段、6:制御手段、71:第1収容部、72:第2収容部、81:第1インフレータ、82:第2インフレータ、9:規制部、91:隔壁部、92:圧力弁、100:シート、101:シートクッション、102:シートバック、P:乗員