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  • 特許-二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220728BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220728BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220728BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220728BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 E
H01M4/48
H01M10/0569
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018069821
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019179724
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】続木 康平
(72)【発明者】
【氏名】宮地 良和
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晋也
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-232921(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098021(WO,A1)
【文献】特開2018-056066(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水溶媒を含む電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極活物質層を備え、
前記負極活物質層は、炭素材料と、ケイ素化合物と、を負極活物質として含み、前記負極活物質層における前記ケイ素化合物の含有割合は、前記炭素材料および前記ケイ素化合物を含む前記負極活物質の総質量に対して、3~15質量%の範囲であり、
前記非水溶媒は、フルオロエチレンカーボネートを含み、
前記非水溶媒に占める前記フルオロエチレンカーボネートの体積基準の含有割合が、10%以上であり、
前記負極活物質層は、前記負極集電体と対向する第1面と、前記第1面の裏面である第2面と、を有し、
前記負極活物質層の膜厚をTとして、前記負極活物質層の前記第1面から0.5Tまでの深さの領域を下層部分とし、前記負極活物質層の前記第2面から0.5Tまでの深さの領域を上層部分としたとき、前記下層部分の前記ケイ素化合物の質量M1が、前記上層部分の前記ケイ素化合物の質量M2よりも大きく、
前記下層部分における前記炭素材料の質量基準の含有割合が、前記上層部分における前記炭素材料の質量基準の含有割合よりも小さい、二次電池。
【請求項2】
M2/M1が0.8以下である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質層は、複数の層から構成され、
前記複数の層において、各層に対する前記ケイ素化合物の質量基準の含有割合が異なり、
前記負極活物質層の前記第2面に近い層ほど、前記含有割合が小さい、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質層の前記複数の層のうち前記第2面を形成する層は、前記ケイ素化合物を含まない、請求項3に記載の二次電池。
【請求項5】
前記ケイ素化合物の平均粒径(D50)は、1~15μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記非水溶媒は、鎖状カーボネートを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記ケイ素化合物は、ケイ素酸化物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。
【0003】
なかでも、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等の駆動用電源や電子機器の電源として用いる二次電池では、より迅速に、より多くの電力を機器に供給できることが求められている。
【0004】
電池の高エネルギー密度化が求められる中、理論容量密度の高い負極活物質として、リチウムと合金化するケイ素(シリコン)を含む材料の利用が期待されている。
特許文献1には、より多くの電力を供給できるように、負極活物質として炭素材料を主体とした負極活物質層の中にケイ素を混合し、負極のエネルギー密度を高めた二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-331828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の二次電池によれば、エネルギー密度が改善されて、機器へより多くの電力を供給することが可能になる。一方で、ケイ素を用いた負極は、急速充電における充電受入性が低く、急速充電によって容量が低下し易い。近年、二次電池における急速充放電の耐性について更なる改善の要求が高まっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、正極と、負極と、非水溶媒を含む電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極活物質層を備え、
前記負極活物質層は、炭素材料と、ケイ素化合物と、を含み、
前記非水溶媒は、フルオロエチレンカーボネートを含み、
前記非水溶媒に占める前記フルオロエチレンカーボネートの体積基準の含有割合が、10%以上であり、
前記負極活物質層は、前記負極集電体と対向する第1面と、前記第1面の裏面である第2面と、を有し、
前記負極活物質層の膜厚をTとして、前記負極活物質層の前記第1面から0.5Tまでの深さの領域を下層部分とし、前記負極活物質層の前記第2面から0.5Tまでの深さの領域を上層部分としたとき、前記下層部分の前記ケイ素化合物の質量M1が、前記上層部分の前記ケイ素化合物の質量M2よりも大きい、二次電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
急速充電によっても容量の低下が抑制された二次電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る二次電池の構成を示す断面模式図である。
図2】一実施形態に係る負極の厚み方向の断面図を示す図である。
図3】非水溶媒に占めるフルオロエチレンカーボネート(FEC)の含有量と、急速充電で発生する不可逆容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の上記局面に係る二次電池は、正極と、負極と、非水溶媒を含む電解液と、を備える。負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層を備える。負極活物質層は、炭素材料と、ケイ素化合物と、を含む。非水溶媒は、フルオロエチレンカーボネートを含み、非水溶媒に占めるフルオロエチレンカーボネートの体積基準の含有割合が、10%以上である。
また、負極活物質層は、その厚み方向においてケイ素化合物の含有量に分布を有しており、負極集電体と対向しない側のケイ素化合物の質量基準の含有割合が、負極集電体と対向する側のケイ素化合物の質量基準の含有割合より低い。
【0011】
この構成により、急速充電時の充電受入性を高められ、急速充電においても容量の低下が抑制された二次電池を実現できる。この理由については、限定されるものではないが、下記の通り考えることができる。
【0012】
本発明によれば、第1に、炭素材料とケイ素化合物との複合材料を負極活物質に用いる二次電池において、負極活物質層の負極集電体と対向しない表面(外表面)側において、負極活物質層の負極集電体との対向面側よりも、複合材料に占めるケイ素化合物の含有割合を低下させる。これにより、急速充電時においても高い充電受入性を維持できる。
【0013】
ケイ素化合物を負極活物質に用いた負極は、炭素材料よりも厚い固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase:SEI)を形成し易い。このため、SEI形成のために多くの電解液および電気化学エネルギーが消費される。結果、不可逆容量が増加する。
【0014】
また、充放電は、リチウムイオンがSEIを透過してケイ素化合物の内外へ移動することで行われる。したがって、充放電が急速であるほど、高いリチウムイオン透過性がSEIに必要となる。負極活物質層の外表面側に厚いSEIが形成されると、急速充電に必要なリチウムイオンの透過速度が得られないばかりか、より内側の負極活物質粒子へのリチウムイオンの移動が妨げられてしまう。透過できない、または移動が妨げられたリチウムイオンは、金属リチウムとなって負極表面に析出し、針状の結晶(デンドライト)を形成し得る。析出した金属リチウムは、以降の容量に寄与しないため、急速充電後の放電容量が低下(不可逆容量が増加)する。
【0015】
しかしながら、負極活物質層において、電解液と接触し易い外表面側のケイ素化合物の含有割合を低下させることによって、外表面側において厚いSEI被膜の形成が抑制され、急速充電においても容量の低下が抑制される。
【0016】
一実施形態では、負極活物質層の負極集電体との対向面(すなわち、負極活物質と負極集電体との接触面)を第1面とし、第1面の裏面であり、負極集電体と対向しない面(すなわち、負極活物質層の外表面)を第2面とし、負極活物質層の膜厚をTとして、負極活物質層の第1面から0.5Tまでの深さの領域を下層部分とし、負極活物質層の第2面から0.5Tまでの深さの領域を上層部分としたとき、下層部分のケイ素化合物の質量M1が、上層部分のケイ素化合物の質量M2よりも大きい、とする条件(M1>M2)を満たしてもよい。これにより、厚いSEI被膜の形成が抑制され、急速充電においても容量の低下が抑制される。この場合、M2/M1は、例えば0.8以下であり、0.7以下とするとよい。
なお、上記において、負極活物質層の膜厚Tは、負極活物質層が負極集電体の両面に形成されている場合、片面での膜厚である。
【0017】
第2に、非水溶媒にフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含ませることによって、緻密で均一なSEI被膜が負極活物質層の表層に形成され得る。これにより、充放電の際のリチウムイオンの透過抵抗が低減される。さらに、電解液に触れ易い外表面側で負極活物質層に占めるケイ素化合物の含有割合を低下させることによって、SEI被膜が薄膜化しており、これによってもリチウムイオンの透過抵抗が低減され得る。
【0018】
急速充電時には負極活物質層の外表面近傍に反応が集中する。しかしながら、負極活物質層の外表面側でケイ素化合物の含有割合が低下していることによって、少量のFECで、薄く緻密で均一な被膜が形成され得る。これにより、急速充電時に反応が集中する外表面近傍に対して、被膜抵抗を最小限に抑え、過電圧が少なくなる事で、不可逆容量の発生を抑制できていると考えられる。また、被膜の均一性に優れる事も、負極活物質粒子の表面の被膜の薄い部分に反応が集中して不可逆容量が増加する現象を抑制していると考えられる。これらの点により、リチウムイオンの透過抵抗が相乗的に低減され、不可逆容量の増加が抑制されると考えられる。
【0019】
特に、非水溶媒にフルオロエチレンカーボネート(FEC)を体積基準で10%以上含ませることによって、急速充電後の容量低下が顕著に抑制される。
【0020】
以上の通り、本発明では、炭素材料とケイ素化合物との複合材料を負極活物質に用いる二次電池において、電解液に触れ易い負極活物質層の外表面側のケイ素化合物の含有割合を低下させ、且つ、非水溶媒にフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含ませることによって、急速充電時の充電受入性を高め、急速充電においても容量の低下が抑制さる。
【0021】
上記M1>M2の条件を満たし、ケイ素化合物の含有割合が厚み方向に分布した負極活物質層を得る方法として、例えば、負極活物質層を複数の層からなる積層構造で構成し、各層において、複合材料に占めるケイ素化合物の含有割合を層ごとに異ならせてもよい。この場合、電解液に触れる外表面に近い層ほど、ケイ素化合物の含有割合を小さくすればよい。積層構造のうち、負極活物質層の外表面を形成する一層は、ケイ素化合物を含まないことが好ましい。
【0022】
(負極活物質層)
負極活物質層は、炭素材料と、ケイ素化合物を含む。
ケイ素化合物は、例えば、ケイ素酸化物(SiO)である。SiOは、例えば、Siの微粒子がアモルファスSiO中に分散した構造を有している。この場合、SiO母粒子中において、Si粒子は微結晶またはアモルファスの形で存在し得る。ケイ素に対する酸素の含有比率xは、例えば、0.5≦x<2.0であり、0.8≦x≦1.5がより好ましい。このような構造の材料の場合、X線回折法ではSi(微結晶Si)の存在に起因するピークが観察されない場合があるが、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてSiOの粒子断面を観察すると、分散したSiの存在を確認できる。
【0023】
ケイ素化合物として、他にリチウムシリケートなどを用いることができる。リチウムシリケートは、組成式がLiSiOで表わされ、0<y≦4かつ0.2≦z≦5を満たす。組成式がLi2uSiO2+u(0<u<2)で表されるものがより好ましい。
【0024】
SiOは、SiO粒子内に上記のリチウムシリケート(Li2uSiO2+u(0<u<2)で表されるものが好ましい)が分散されたものであってもよく、リチウムシリケート相中にSiが分散した構造を有していてもよい。
【0025】
SiOの粒子表面には、SiOよりも導電性の高い材料から構成される導電被膜が形成されてもよい。この導電皮膜には、炭素被膜が好適である。炭素被膜は、SiO粒子の質量に対して0.5~10質量%で形成されてもよい。炭素被膜の形成方法としては、コールタール等をSiO粒子と混合し、熱処理する方法、炭化水素ガス等を用いた化学蒸着法(CVD法)などが例示できる。また、カーボンブラック、ケッチェンブラック等のバインダーを用いてSiO粒子の表面に固着させることで炭素被膜を形成してもよい。
【0026】
負極活物質層におけるケイ素化合物の含有割合は、炭素材料およびケイ素化合物を含む負極活物質の総質量に対して、例えば3~15質量%である。なお、炭素被膜などの導電被膜が形成されたSiO粒子を用いる場合、炭素被膜の質量はケイ素化合物の含有割合に考慮しない。
【0027】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などを用いることができる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、炭素材料には、炭素粒子の表面を非晶質端子などの別の炭素材料でコーティングした炭素複合体を用いてもよい。
【0028】
炭素材料の平均粒径は、ケイ素化合物の平均粒径より大きくするとよい。ここで、炭素材料およびケイ素化合物の平均粒径は、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布において、体積積算値が50%となる体積平均粒径D50である。具体的には、炭素材料の平均粒径D50は、例えば1~30μmである。ケイ素化合物の平均粒径D50は、例えば1~15μmである。この平均粒径を有するケイ素化合物は、割れが少ない。そのため、電解液に触れる界面が新たに形成され難く、ケイ素化合物を覆う被膜の厚さが不均一になったり、分厚くなったりするのを抑制することができる。
また、負極活物質層の厚さは、50μm~200μmであってもよく、負極活物質層の密度は1.0~2.0g/ccであってもよい。
【0029】
また、負極活物質層の下層部分に含まれるケイ素化合物(SiO粒子)の質量M1に対する、負極活物質層の上層部分に含まれるケイ素化合物(SiO粒子)の質量M2の比M2/M1は、以下のようにして求めることができる。
【0030】
先ず、負極活物質層の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、エネルギー分散型X線分析を用いて定量マッピングを行う。これにより、負極活物質層の元素含有量を断面の走査位置ごとに測定し、元素分布を求める。断面内の一領域において、例えばSi元素分布を積分することにより、領域におけるSi含有量が求められる。
【0031】
断面の上層部分(下層部分)に対応する領域について、それぞれ、Si含有量を求める。負極活物質層の下層部分に含まれるケイ素化合物(SiO粒子)の含有量(質量)をM1、負極活物質層の上層部分に含まれるケイ素化合物(SiO粒子)の含有量(質量)をM2とする。断面の下層部分に対応する領域におけるSi含有量に対する、断面の上層部分に対応する領域におけるSi含有量の比は、(上層部分と下層部分でSiO粒子の比率xが異ならない限り)M2/M1に等しい。
【0032】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率等は、現物と異なる場合がある。具体的な寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0033】
図1は実施形態の一例である二次電池100の構成を示す模式的な正面断面図である。
本明細書では、図1の紙面縦方向を「上下方向」と、後述する電極体10において正極11及び負極12の積層された方向を「積層方向」と、上下方向及び積層方向のそれぞれに直交する方向を「長手方向」とする。また、本明細書において、「端部」の用語は対象物の端及びその近傍を意味するものとする。
【0034】
図1のように、二次電池100は、正極11および負極12を有する電極体10と、電極体10を電解液(図示なし)とともに収容する外装体であるケース2と、ケース2の上端開口を塞ぐ蓋3とを備える。
【0035】
二次電池100は、さらに、電極体10の外表面を覆い、電極体10とケース2との間に介在する絶縁ホルダ4と、正極11と接続した集電部材5aと、負極12と接続した集電部材5bと、集電部材5aと接続し、その一部が蓋3の端子孔3aを通ってケース2の外部へ表出した端子6aと、集電部材5bと接続し、その一部が蓋3の端子孔3bを通ってケース2の外部へ表出した端子6bとを備える。二次電池100は、集電部材5aと蓋3との間に介在して集電部材5aと蓋3とを絶縁する下部絶縁部材7aと、集電部材5aと蓋3との間に介在して集電部材5bと蓋3とを絶縁する下部絶縁部材7bと、端子6aと蓋3との間に介在して端子6aと蓋3とを絶縁する上部絶縁部材8aと、端子6bと蓋3との間に介在して端子6bと蓋3とを絶縁する上部絶縁部材8bとを備える。
【0036】
電極体10は、例えば、複数の正極11及び複数の負極12がセパレータ(図示なし)を介して交互に積層された構造を有する。しかしながら、本開示の二次電池に用いられる電極体は、この構成に限定されない。帯状の正極と帯状の負極との間に帯状のセパレータを介在させた状態で巻回した構成であってもよい。また、帯状の正極および帯状の負極との間に帯状のセパレータを介在させて帯状の積層体を形成し、この積層体をジグザグ状に屈曲させてつづら折りに構成してもよい。
【0037】
ケース2は、例えば有底角筒状である金属缶である。蓋3は、例えば、金属板である。例えば、ケース2及び蓋3は、アルミニウムを主成分とすることができる。ケース2の開口と蓋3の外周縁とは、例えば溶接等によって接合される。この接合により、ケース2は蓋3により封止される。
【0038】
蓋3には、端子6a、6bを挿通させる端子孔3a、3bと、注液孔3cと排気弁3dとが形成されている。注液孔3cは、ケース2を蓋3により封止した後、電解液をケース2の内部へ供給するために用いられる貫通孔である。注液孔3cは電解液を供給した後、注液栓9により封止される。注液栓9は、例えば、金属製または樹脂製であってもよい。排気弁3dは、例えば二次電池100の内部で発生したガスにより二次電池100の内部の圧力が上昇した際、二次電池100の破裂を防止するために破壊される脆弱部である。排気弁3dは、例えば、蓋3の上面に形成された複数の線状の溝から構成されている。この排気弁3dが作動する際は、上記溝に沿って裂け、この裂けた部分からケース2内のガスが排出される。なお、本開示の二次電池に用いられる排気弁はこの構成に限定されず、圧縮された弾性体で排気孔を塞いだ自己復帰型の排気弁を用いてもよい。
【0039】
絶縁ホルダ4は、例えば、樹脂シートを折って形成されるとともに上面に開口を有した筐体である。また絶縁ホルダは、折る前からすでに有底筒状のケース状になっていてもよい。
【0040】
集電部材5a、5bはそれぞれ、正極11、負極12と電気的に接続している。集電部材5a、5bはそれぞれ、例えば金属板から構成される。集電部材5aは、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。集電部材5bは、例えば、銅または銅の合金から構成されている。集電部材5a、5bと蓋3との間にはそれぞれ、板状である下部絶縁部材7a、7bが介在している。また、集電部材5a、5bおよび下部絶縁部材7a、7bにはそれぞれ、端子6a、6bが挿入させる挿入孔5a1、5b1、7a1、7b1(不図示)が形成されている。端子6aの下部は、挿入孔5a1、7a1を貫通するとともに、同下部の先端が集電部材5aにカシメられることにより、集電部材5aおよび下部絶縁部材7aが蓋3に固定される。また、端子6bの下部は、挿入孔5b1、7b1を貫通するとともに、同下部の先端が集電部材5bにカシメられることにより、集電部材5bおよび下部絶縁部材7bが蓋3に固定される。端子6a、6bは、例えば、蓋3の上面に表出した部分にフランジ部が形成されている。上部絶縁部材8aは、端子6aと端子孔3aの間と端子6aのフランジ部と蓋3の間に介在する。上部絶縁部材8bは、端子6bと端子孔3bの間と端子6bのフランジ部と蓋3の間に介在する。下部絶縁部材7a、7bと、上部絶縁部材8a、8bは、例えば、絶縁性の樹脂から構成されていてもよい。
【0041】
電極体10は、複数の平板状の正極11、複数の平板状の負極12、及び複数のセパレータを含む。セパレータは、長尺状の多孔性樹脂シートを蛇腹状に折り曲げて構成されてもよいが、本実施形態では正極11と負極12との間のそれぞれにセパレータが挿入されているものとする。電極体10は、正極11及び負極12がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体である。正極11、負極12、及びセパレータは、例えばいずれも略矩形形状を有し、それらの積層体である電極体10は略直方体形状を有する。なお、負極12は、充電時のリチウムの受け入れ性の観点から、正極11よりも一回り大きく形成される。
【0042】
(正極)
正極11は、シート状の芯体(正極集電体)と、当該芯体上に形成された正極合材層(正極活物質層)とを有する。正極11の芯体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。芯体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどを用いてもよい。
正極合剤層は、正極活物質に、導電剤、結着剤、増粘剤などを、必要に応じて含んでいてもよい。正極合剤層は、芯体の両面に形成されることが好ましい。
【0043】
正極11では、芯体の上端辺から芯体の一部が延出してなるタブが形成されている。ここで、タブと正極合剤層が形成された方形状領域とが接する部分には、絶縁層又は正極集電体より電気抵抗が高い保護層を設けることが好ましい。なお、正極11のタブは、正極集電体と同じ又は異なる材料で構成された別部材であってもよく、この別部材であるタブを溶接等により芯体に接合されてもよい。
【0044】
正極活物質には、リチウム金属複合酸化物を用いることが好ましい。リチウム金属複合酸化物を構成する金属元素は、例えばMg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Sn、Sb、W、Pb、及びBiから選択される少なくとも1種である。中でも、Co、Ni、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。好適なリチウム金属複合酸化物の一例としては、Co、Ni、及びMnを含有するリチウム金属複合酸化物、Co、Ni、及びAlを含有するリチウム金属複合酸化物が挙げられる。
【0045】
なかでも、LiNi1-b(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を好ましく用いることができる。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0046】
このようなリチウムニッケル複合酸化物の具体例として、LiNiCoMn(式中b、c、dは、b+c+d=1を満たす)で表されるリチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(例えば、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.4Co0.2Mn0.4等)、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5等)、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2等)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.8Co0.18Al0.02、LiNi0.9Co0.05Al0.05)等が挙げられる。
【0047】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。導電剤として、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を用いてもよい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩などの塩も含む)、メチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど);ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキサイドなど)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、芯体(正極集電体)の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノールなどのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、ジメチルホルムアミドなどのアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。
【0051】
(負極)
負極12は、シート状の芯体(負極集電体)と、当該芯体上に形成された負極合材層(負極活物質層)とを有する。負極12の芯体として、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。芯体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などを用いてもよい。
負極合剤層は、負極活物質に、導電剤、結着剤、増粘剤などを、必要に応じて含んでいてもよい。負極合剤層は、芯体の両面に形成されることが好ましい。
負極合剤層は、正極合剤層と同様、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、芯体(負極集電体)の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。
【0052】
負極12には、芯体の上端辺であって、正極タブが設けられている端部とは異なる長手方向端部から負極集電体の一部が延出してなる負極タブ37が形成されている。なお、負極タブは、芯体と同じ又は異なる材料で構成された別部材であってもよく、溶接等により芯体に接合されてもよい。
【0053】
負極合剤層は、負極活物質として、上述の炭素材料および上述のケイ素化合物を必須成分として含み、任意成分として、結着剤、導電剤、増粘剤などを含むことができる。ケイ素化合物に含まれるSi粒子は、多くのリチウムイオンを吸蔵できることから、負極の高容量化に寄与する。
【0054】
一方で、負極活物質としてのケイ素化合物は、充放電に伴って体積が膨張収縮するため、負極活物質に占めるその比率が大きくなると、充放電に伴って負極活物質層と負極集電体との接触不良が生じやすい。ケイ素化合物と炭素材料とを併用することで、Si粒子の高容量を負極に付与しながら、急速充電においても優れた充電受入性能を達成することが可能になる。
ケイ素化合物と炭素材料との合計に占めるケイ素化合物の割合は、例えば、3~15質量%であり、3~10質量%が好ましい。これにより、高容量化と急速充電性能の向上とを両立し易くなる。
【0055】
負極合剤層内のケイ素化合物の含有量は、負極合剤層の厚み方向において、負極集電体と対向しない外表面に近い領域ほど質量基準の含有量が低く、外表面から遠い領域ほど質量基準の含有量が高い分布を有している。負極合剤層内のケイ素化合物の含有割合を厚み方向に変化させ、且つ、電解液にフルオロエチレンカーボネートを含ませることによって、急速充電における容量低下が抑制され、優れた充電受入性能を有する二次電池を実現できる。ケイ素化合物の含有割合を負極合剤層の厚み方向に変化させる方法として、負極合剤の全体に占めるケイ素化合物の配合割合が異なる複数種の負極スラリーを調製し、複数回に分けて負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させることによって、負極合剤層を形成してもよい。これにより、複数層が積層された構造の負極合剤層が形成され、層ごとにケイ素化合物の含有量を変化させることができる。
【0056】
例えば、負極スラリーとして、下層用スラリーと上層用スラリーの2種類を調製し、下層用スラリーにおいて負極合剤の全体に占めるケイ素化合物の配合割合を、上層用スラリーよりも大きくする。そして、下層用スラリーを、芯体(負極集電体)上にコーターを用いて塗布したあと、上層用スラリーを下層用スラリーの上にコーターを用いて塗布し、上層用スラリーおよび下層用スラリーを乾燥することにより、ケイ素化合物の含有割合の異なる2層を含む負極合剤質層を形成してもよい。なお、下層用スラリーを塗布したあと、下層用スラリーを乾燥させて負極合剤層の下層を形成し、その後に、下層の上に上層用スラリーを塗布し、上層用スラリーを乾燥して負極合剤層の上層を形成してもよい。
【0057】
一例として、図2に、本実施形態における負極12の厚み方向の断面図を示す。負極12は、負極集電体21と、負極集電体21上に形成された負極合剤層22(22a,22b)を備える。図2の例では、負極合剤層22は負極集電体21の一方の面上に形成されているが、負極合剤層22は負極集電体21の両面に形成されていてもよい。
【0058】
負極合剤層22は、ケイ素化合物の含有割合が異なる2層(下層合剤層22aおよび上層合剤層22b)の積層により構成されている。下層合剤層22aが負極集電体21と対向および接触し、上層合剤層22bの外表面が負極合剤層22の外表面を構成する。下層合剤層22aに占めるケイ素化合物の質量基準の含有割合は、上層合剤層22bに占めるケイ素化合物の質量基準の含有割合よりも大きい。下層合剤層22aおよび上層合剤層22bの膜厚は同じでなくてもよい。すなわち、負極合剤層22における下層合剤層22aと上層合剤層22bとの境界は、負極合剤層22の総厚をTとして、負極合剤層の外表面から0.5Tの位置(負極合剤層の負極集電体との接触面から0.5Tの位置)Pよりも負極集電体側にあってもよいし、外表面側にあってもよい。しかしながら、いずれの場合であっても、負極合剤層の位置Pよりも負極集電体側の領域を下層部分(下層合剤層22aを含み、且つ、上層合剤層22bを含み得る)とし、負極合剤層の位置Pよりも外表面側の領域を上層部分(上層合剤層22bを含み、且つ、下層合剤層22aを含み得る)としたとき、下層部分に含まれるケイ素化合物の質量M1は、上層部分に含まれるケイ素化合物の質量M2よりも大きくなり得る。
【0059】
結着剤、導電剤、および、増粘剤については、正極について例示したものと同様のものが使用できる。結着材には、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いてもよい。
【0060】
(セパレータ)
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布等の多孔性シートを用いることができる。
セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好ましい。セパレータは、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。また、セパレータの表面には、無機化合物のフィラーを含有する多孔質層、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂で構成される多孔質層などが形成されていてもよい。またセパレータは、正極11、負極12との対向面に接着剤を塗布して接着層を形成し、正極11、負極12とセパレータとが、接着固定されていてもよい。
【0061】
本実施形態では、負極12のタブの先端部が積み重ねてタブ群が形成されている。負極12のタブ群は、屈曲して板状である集電部材5bと対向した平坦部を有する。この平坦部は、集電部材5bの下面と接合されて電気的に接続する。集電部材5bとタブ群との接合には、超音波溶接、抵抗溶接、レーザー溶接などの溶接方法が用いることができる。正極11のタブについても同様に、正極タブ群が屈曲して集電部材5aの下面と接合される。
【0062】
なお、1つの電極体10において、電極板の積層数を多くすると、二次電池100内でのタブの取り回しが困難になり、二次電池100の体積エネルギー密度を大きくすることが困難になる。しかし適度な電極積層数からなる2つ以上の電極体要素を二次電池100に収納することで、タブの取り回しを容易にし、かつ二次電池100の体積エネルギー密度を大きくすることができる。
【0063】
二次電池の構造の一例としては、図1に示す構成に限られず、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、電解液とが外装体に収容された構造など、他の形態を採用してもよい。二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0064】
以下、電解液について詳説する。
【0065】
(電解液)
電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。電解質塩は、例えば、リチウム塩である。電解液は、公知の添加剤を含有してもよい。
【0066】
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらの溶媒は、水素原子の一部がフッ素原子で置換されたフッ素化溶媒であってもよい。
【0067】
電解液は、環状カーボネートとして、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を含む。これにより、充電時のリチウムの析出を特異的に抑制することができる。
FECとしては、4-フルオロエチレンカーボネート(モノフルオロエチレンカーボネート)、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5-トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5-テトラフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、4-フルオロエチレンカーボネートが特に好ましい。FECの含有量は、25℃における非水溶媒の総体積に対して、例えば10%以上、12%以上であってよく、15%以上が好ましい。FECの含有量は、25℃における非水溶媒の総体積に対して、例えば40%以下であり、25%以下が好ましい。FECの含有量が10体積%を下回ると、十分なリチウムの析出抑制効果が得られない。他方、FECの含有量が40体積%を超えると、非水電解液の粘度が高くなり、充放電特性が低下し易い。
【0068】
より好ましくは、電解液は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、鎖状カルボン酸エステルと、鎖状カーボネートと、を含んでもよい。当該電解液を用いることにより、電池漏液時の引火性を低く抑えながら、充電時のリチウムの析出を特異的に抑制することができる。
【0069】
鎖状カルボン酸エステルは、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
鎖状カルボン酸エステルは、炭素数が5以下のものが好ましい。炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルを、フルオロエチレンカーボネート(FEC)と組み合わせ、電解液に加えることで、リチウムの析出抑制効果を高めることができる。上記の条件を満たす鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)等が挙げられる。これらのなかでは、プロピオン酸エチル(EP)が好ましく、実質的にEPを単独で用いることがより好ましい。
【0071】
鎖状カルボン酸エステルの含有量は、25℃における非水溶媒の総体積に対して、15~40%であるとよい。鎖状カルボン酸エステルの含有量を15体積%以上とし、フルオロエチレンカーボネート(FEC)と組み合わせて電解液に加えることで、リチウムの析出抑制効果を高めることができる。
一方で、鎖状カルボン酸エステルの含有量が40体積%を超えると、引火性を低く抑えることが難しくなる。電池漏液時の引火性を低く抑える観点から、鎖状カルボン酸エステルの含有量は40体積%以下とするとよい。
【0072】
環状カーボネートの例としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)以外に、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及びこれらの誘導体等を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。電解液のイオン導電率の観点から、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートからなる群の少なくとも一つを用いることが好ましい。これらのうち、PCが特に好ましい。
【0073】
鎖状カーボネートの例としては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられる。これらのうち、DMC、EMCが特に好ましい。鎖状カーボネートは、鎖状カルボン酸エステルの負極表面上での還元反応を制御し、負極被膜抵抗の増加を抑制するために用いてもよい。
【0074】
非水溶媒として、他に、環状カルボン酸エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの水素をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体が挙げられる。
【0075】
環状エーテルの例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0076】
鎖状エーテルの例としては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0077】
また、環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。
【0078】
これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
さらに好ましくは、非水溶媒は、FECおよび炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルに加えて、PC、EMC、及びDMCから選択される少なくとも1種を含んでもよい。この場合、良好な充放電特性を維持しながら、引火性を低く抑え、且つリチウムの析出を抑制することができる。FECと、1種以上のFEC以外の環状カーボネートとを併用する場合には、非水溶媒に対する環状カーボネートの総量の配合比は、例えば、35体積%以下、25体積%以下、20体積%以下であってもよい。
【0080】
好適な非水溶媒の一例としては、FEC、EP、PC、EMC、および、DMCを含む非水溶媒が挙げられる。この場合、FEC及びEPを合計した含有量は、非水溶媒の総体積に対して、25~80体積%であってもよく、より好ましくは35~60体積%であってもよい。非水電解液は、非水溶媒の総体積に対して、PC、EMC、及びDMCから選択される少なくとも1種を20~75体積%含んでいてもよい。
【0081】
リチウム塩の例としては、例えば、塩素含有酸のリチウム塩(LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10など)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)など)、フッ素含有酸イミドのリチウム塩(LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}など)、リチウムハライド(LiCl、LiBr、LiIなど)、LiSCN、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8mol~1.8molである。
【0082】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<電池A1>
(正極の作製)
正極活物質として、LiNi0.55Mn0.20Co0.25で表されるリチウム金属複合酸化物を用いた。当該正極活物質と、アセチレンブラックと、PVdFとを、100:1:1の質量比で混合し、NMPを加えて正極合材スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた。その後、ロールプレス機により塗膜(正極合材層)を圧延した。その後、所定の電極サイズに裁断して、集電体の両面に合材層が形成された正極を得た。
【0084】
(負極の作製)
炭素材料として黒鉛を88.2質量部と、SiO粒子(x=0.94)を9.0質量部と、PAAのリチウム塩(PAA-Li)を0.9質量部と、CMCのナトリウム塩(CMC-Na)を0.9質量部と、SBRを0.9質量部とを混合し、水を適量加えて、下層用スラリーY1を調製した。
続いて、炭素材料として黒鉛を96.9質量部と、PAAのリチウム塩を1質量部と、CMCのナトリウム塩を1質量部と、SBRを1質量部とを混合し、水を適量加えて、上層用スラリーX1を調製した。
【0085】
次に、銅箔からなる負極集電体の両面にリードが接続される部分を残して、下層用スラリーY1を塗布し、さらに、下層用スラリーY1の上に上層用スラリーX1を塗布し、乾燥させて芯体両面に下層および上層から構成された負極活物質層を形成した。下層用スラリーY1と上層用スラリーX1の塗布量の比(固形分量比)は、65:35とした。そして、ローラーを用いて塗膜を圧延した後、所定の電極サイズに切断し、SiOの含有比率が異なる2層構造で負極活物質層が構成された負極E1を得た。
【0086】
負極活物質層の総厚をTとして、負極活物質層の負極集電体との対向面(負極集電体層との接触面)から0.5Tまでの深さの領域を下層部分とし、負極活物質層の外表面から0.5Tまでの深さの領域を上層部分としたとき、下層部分に含まれるSiO粒子の質量M1に対する、上層部分に含まれるSiO粒子の質量M2の比率M2/M1は、0.3であった。なお、M1/M2の算出に際して、SiO粒子を被覆する炭素被膜の寄与は除外してSiO粒子の質量を求めた。
【0087】
(電解液の調製)
FECと、ECと、EPと、EMCと、DMCとを、25℃において、25:0:29:11:35の体積比で混合した混合溶媒に、1.0mol/Lの濃度となるようにLiPFを添加し、非水電解液を調製した。
【0088】
(評価セルの作製)
作製した正極8枚と負極9枚を、負極が外側に位置するように、負極と正極をセパレータを介して交互に積層し、積層型の電極体を作製した。セパレータには、ポリプロピレン製セパレータを用いた。当該電極体をアルミニウムラミネートシートで構成される外装体に挿入した後、非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して試験セルを作製した。
【0089】
このようにして、1Cでの容量が600mAhの二次電池A1を作製した。
【0090】
<電池A2~A13、B1~B10、C1~C4>
負極の作製において、下層用スラリーY1における黒鉛、SiO粒子、PAA-Li、CMC-Na、SBRの配合割合を変更し、下層用スラリーY2~Y5を調製した。
同様に、上層用スラリーX1における黒鉛、SiO粒子、PAA-Li、CMC-Na、SBRの配合割合を変更し、上層用スラリーX2~X5を調製した。
下層用スラリーY2~Y5、および、上層用スラリーX2~X5を組み合わせ、負極E1と同様にして、SiOの含有割合が異なる2層構造の負極活物質層で構成された負極E2~E5を得た。
【0091】
表1に、負極E1~E5の作製に用いた下層用スラリーおよび上層用スラリーの黒鉛、SiO粒子、PAA-Li、CMC-Na、SBRの配合割合を示す。表1には、負極E1~E5における、負極活物質層の下層部分に含まれるSiO粒子の質量に対する、負極活物質層の上層部分に含まれるSiO粒子の質量の比M2/M1の値が示されている。なお、下層用スラリーY5は、上層用スラリーX5と組成が同じである。
負極E1~E4は、負極活物質層の上層部分と下層部分とで、SiO粒子の含有割合が異なっている。しかしながら、負極活物質層の全体に占める黒鉛、SiO粒子、PAA-Li、CMC-Na、およびSBRの含有割合は、負極E1~E5で略同じとしている。
【0092】
さらに、電解液の調製において、FECと、ECと、EPと、EMCと、DMCの混合比を変更し、非水溶媒の混合割合が異なる複数の電解液を調製した。調製した電解液と、負極E1~E5を用いて、電池A1~A13、電池B1~B10、電池C1~C4を作製した。表2に、各電池で用いた負極と、非水溶媒におけるFECの配合割合(体積%)との組み合わせを示す。
電池A1~A13では、EP、EMC、およびDMCの配合割合はそれぞれ、非水溶媒に対して29体積%、11体積%、および35体積%で一定とし、FECの配合割合を増加(減少)させるに伴ってECの配合割合を減少(増加)させた。
電池B1~B10では、EP、EMC、およびDMCの配合割合はそれぞれ、非水溶媒に対して29体積%、16体積%、および35体積%で一定とし、FECの配合割合を増加(減少)させるに伴ってECの配合割合を減少(増加)させた。
電池C1~C4では、ECに代えてPCを用いた。非水溶媒に占めるFEC、PC、EP、EMC、およびDMCの混合割合は、PC、EPおよびDMCの配合割合をそれぞれ、電池C1およびC3では非水溶媒に対して3体積%、29体積%、および35体積%とし、電池C2およびC4では非水溶媒に対して5体積%、29体積%、および35体積%とし、FECの配合割合に応じてEMCの配合割合を変化させた。
【0093】
(電池の評価)
上記の電池A1~A13、B1~B10、C1、C2のそれぞれについて、作製した電池を2.25Cで、4.3Vまで定電流充電した。続いて、電池電圧が2.5Vとなるまで、0.1Cで放電を行った。
【0094】
2.25C充電での充電容量Q1と、0.1Cでの放電容量Q2との差Q1-Q2を求め、不可逆容量とした。各電池の不可逆容量を、電池A13の不可逆容量を100とした相対値で評価した。
また、試験後の電池を分解し、負極を取り出して金属リチウム析出の有無を目視で確認した。
【0095】
評価結果を表2に示す。
表2に示すように、ケイ素化合物(SiO粒子)の配合比率が異なる上層スラリーと下層スラリーを用い、非水溶媒に占めるFEC含有割合を10体積%以上とした電池A1~A3、A6、A7、A10、B1~B3、B6、B7、B10、C1~C4では、不可逆容量が激減している。また、金属リチウムの析出は確認できなかった。また、負極においては、E1、E2、E3の負極を用いた電池が特に不可逆容量について改善していることがわかる。
【0096】
図3は、表2の結果をグラフで表したものである。図3に示すように、FEC含有割合が10体積%以上の領域において、不可逆容量の増加が顕著に抑制されている。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示に係る二次電池は、急速充電によっても容量が低下せず、且つ高容量であることから、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等の駆動用電源や、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【符号の説明】
【0100】
2:ケース、3:蓋、3a、3b:端子孔、3c:注液孔、3d:排気弁、4:絶縁ホルダ、5a、5b:集電部材、6a、6b:端子、7a、7b:下部絶縁部材、8a、8b:上部絶縁部材、9:注液栓、10:電極体、11:正極、12:負極、21:負極集電体、22:負極合剤層、22a、下層合剤層、22b:上層合剤層、100:二次電池
図1
図2
図3