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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】繊維強化木質部材
(51)【国際特許分類】
   B27M 3/00 20060101AFI20220728BHJP
   E04C 3/29 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B27M3/00 E
E04C3/29
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018074394
(22)【出願日】2018-04-09
(65)【公開番号】P2019181772
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】森田 尚
(72)【発明者】
【氏名】服部 敦志
(72)【発明者】
【氏名】阪井 由尚
(72)【発明者】
【氏名】藻川 哲平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 謙一
(72)【発明者】
【氏名】土井 健史
(72)【発明者】
【氏名】傳寳 知晃
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-070851(JP,A)
【文献】特開2017-193951(JP,A)
【文献】特開2013-204261(JP,A)
【文献】特開平11-044044(JP,A)
【文献】実開平01-154216(JP,U)
【文献】特開2011-020288(JP,A)
【文献】米国特許第06050047(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27M 1/00 - 3/38
E04C 3/00 - 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックと木材を組み合わせた、長手方向に延びる中心軸を有する繊維強化木質部材であって、
前記中心軸に交差する断面形状が、矩形状、I形状、逆T形状、H形状、ボックス形状の何れかに形成された繊維強化プラスチック部と、
前記繊維強化プラスチック部の外周囲に設けられる木質部と、を備え
前記繊維強化プラスチック部は、前記断面形状における一部の側面がボルト緊締、または接着剤で前記木質部と連結されているとともに、他の側面では前記木質部と分離され、前記他の側面に沿った面内で前記繊維強化プラスチック部と前記木質部とが相対変位可能となっていることを特徴とする繊維強化木質部材。
【請求項2】
前記木質部は、少なくとも一部が、前記繊維強化プラスチック部の表面側に非難燃木材を配置し、当該非難燃木材の外側に難燃木材を設けて一体化されていことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化木質部材。
【請求項3】
前記繊維強化プラスチック部は、全面が、耐火被覆層で被覆されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の繊維強化木質部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックと木材を接合させた繊維強化木質部材に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の柱や梁等を構成する部材として、木材が多用されている。このような部材の強度を高めるために部材の断面積を大きくすると、部材の大型化や重量増加に繋がってしまう。そこで、強度を確保しつつ、部材の大型化や重量増加を抑えるため、繊維強化樹脂と木材とを組み合わせた複合構造が提案されている。
例えば特許文献1には、木材の表面に繊維強化プラスチック板を固着してなる補強木材が開示されている。
特許文献1に開示されたような補強木材では、繊維強化プラスチック板が補強木材の外周面に露出している。繊維強化プラスチック材は、耐火性能が低く、耐火性能が求められる建物には採用することができない。
【0003】
また、特許文献2には、柱状木材に繊維強化シートを貼り付け、さらに板状木材を重ねて貼り付けた強化木材が開示されている。
特許文献2に開示されたような強化木材では、繊維強化シートの一面側には柱状木材が貼り付けられ、他面側には板状木材が貼り付けられている。柱状木材及び板状木材と繊維強化シートとは、材料強度差が大きく、剛性を確保しつつ、高い変形性能を発揮するのが難しい。
【0004】
また、特許文献3には、上下に設けた一対の平板状炭素繊維強化樹脂複合材層と、一対の平板状炭素繊維強化樹脂複合材層の間を接続する別個の平板状炭素繊維強化樹脂複合材層とを、H字型となるように構成し、一対の平板状炭素繊維強化樹脂複合材層の間において、別個の平板状炭素繊維強化樹脂複合材層の両側に、集成材(木材)を設けた炭素繊維強化集成材が開示されている。
特許文献3に開示されたような炭素繊維強化集成材では、一対の平板状炭素繊維強化樹脂複合材層が外部に露出しているため、耐火性能が低く、耐火性能が求められる建物には採用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-328684号公報
【文献】特開平4-149346号公報
【文献】特開平4-279334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能を向上可能な繊維強化木質部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、繊維強化プラスチックと木材を接合させた繊維強化木質部材として、断面形状が、矩形状、I形状、逆T形状、H形状、ボックス形状の何れかに形成された繊維強化プラスチック部と、当該繊維強化プラスチック部の外周囲に難燃木材を含む木質部を配置した上で、繊維強化プラスチック部と木質部は、少なくとも一部の側面では連結され、他の側面では分離されていることで、剛性と変形性能、並びに耐火性能に優れた外側表面に木材が配置された複合木質部材を実現出来る点に着眼して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の繊維強化木質部材は、繊維強化プラスチックと木材を組み合わせた繊維強化木質部材であって、断面形状が、矩形状、I形状、逆T形状、H形状、ボックス形状の何れかに形成された繊維強化プラスチック部と、前記繊維強化プラスチック部の外周囲に設けられる木質部と、を備え、前記繊維強化プラスチック部は、一部の側面がボルト緊締、または接着剤で前記木質部と連結されているとともに、他の側面では前記木質部と分離されていることを特徴とする。
このような構成によれば、繊維強化プラスチック部と、繊維強化プラスチック部の外周囲に設けられる木質部とが一部の側面で連結されることで、繊維強化木質部材の剛性を高めることができる。また、繊維強化プラスチック部の他の側面では、繊維強化プラスチック部と木質部とが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部と木質部との間で、繊維強化プラスチック部及び木質部の一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、繊維強化木質部材の変形性能を高めることができる。さらに、木質部は、繊維強化プラスチック部の外周囲に、すなわち周囲を覆うように設けられているので、耐火性能を高めることができる。このようにして、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能を向上可能な繊維強化木質部材を実現することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の繊維強化木質部材では、前記木質部は、少なくとも一部が、前記繊維強化プラスチック部の表面側に非難燃木材を配置し、当該非難燃木材の外側に難燃木材を設けて一体化されている、或いは、前記繊維強化プラスチック部の外側表面に難燃木材が設けられていることを特徴とする。
このような構成によれば、繊維強化木質部材の最も外側には難燃木材が設けられているので、耐火性能を高めることができる。これにより、要求される耐火性能を確保するのに必要な木質部を薄くすることができる。また、繊維強化プラスチック部の形状によっては、難燃木材の内側に非難燃木材が設けられていることで、難燃木材によって耐火性能を確保しつつ、難燃木材の使用量を抑えることができる。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明の繊維強化木質部材では、前記繊維強化プラスチック部は、耐火被覆層で被覆されていることを特徴とする。
このような構成によれば、繊維強化プラスチック部が耐火被覆層で被覆されることによって、繊維強化プラスチック部の耐火性能を高めることできる。これにより、繊維強化プラスチック部に要求された耐火性能を確保するのに必要な木質部を薄くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能に優れた繊維強化木質部材が実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る繊維強化木質部材が用いられた屋根架構を示す側面模式図である。
図2図1に示す繊維強化木質部材の縦断面図である。
図3】第1実施形態の変形例の繊維強化木質部材の縦断面図である。
図4】第2実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図である。
図5】第3実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図である。
図6】第4実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図である。
図7】第5実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図である。
図8】第5実施形態の変形例の繊維強化木質部材の縦断面図である。
図9】第6実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図である。
図10】第7実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図である。
図11】繊維強化木質部材の実施例を対象とした加熱実験試験体の縦断面図である。
図12】繊維強化木質部材の縮小模擬試験体を用いた加熱実験結果による試験体各部の温度の経時変化図である。
図13】加熱実験前後における縮小模擬試験体の外観比較図である。
図14】加熱実験後の縮小模擬試験体の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、断面形状が矩形状やH形状等に形成された繊維強化プラスチック部と、当該繊維強化プラスチック部の外周囲に木質部が設けられた繊維強化木質部材(梁部材、柱部材)である。本発明の繊維強化木質部材では、繊維強化プラスチック部と木質部は、一部の側面がボルト緊締、または接着剤で連結され、他の側面では空間を介して分離されている点を特徴とする。
第1実施形態は、H形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部と、H形状断面の繊維強化プラスチック部のウェブ側面に非難燃木材が配置され、かつ繊維強化プラスチック部のフランジ面の外側、及び非難燃木材の外側に難燃木材が設けられた繊維強化木質梁部材である(図1図3)。
第2実施形態は、矩形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部と、繊維強化プラスチック部の外側に木質部が配置された繊維強化木質梁部材である(図4)。
第3、第4実施形態は、第1実施形態のH形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部を備えた繊維強化木質部材を基本としつつ、その繊維強化プラスチック部を耐火被覆層にて覆った繊維強化木質梁部材である(図5、6)。
第5実施形態及びその変形例は、断面中央部に非難燃木材を配置し、その周囲に矩形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部を設け、非難燃木材、及び繊維強化プラスチック部の外側に難燃木材を設けた繊維強化木質柱部材である(図7、8)。
第6実施形態は、断面中央部に逆T字形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部を備えた繊維強化木質部材である(図9)。
第7実施形態は、断面中央部にボックス形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部を備えた繊維強化木質部材である(図10)。
以下、添付図面を参照して、本発明による繊維強化木質部材(梁部材、柱部材)を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1に、本実施形態に係る繊維強化木質部材(梁部材)が用いられた屋根架構の側面模式図を示す。繊維強化木質部材10Aは、建物1の屋外に設置される屋根架構2の梁3に用いられる。建物1は、上部構造1aと、下部構造1bとを有している。上部構造1aは、下部構造1bの上方に設けられている。上部構造1aは、下部構造1bよりも水平面内における設置面積が小さく、これによって、下部構造1b上には、上部構造1aが設けられた以外の部分にルーフ部4が設けられている。
屋根架構2は、建物1のルーフ部4上に設置されている。屋根架構2は、複数本の支柱5A~5Eと、これら複数本の支柱5A~5Eに支持された梁3と、を備えている。本実施形態において、支柱5A~5Eは、ルーフ部4及びルーフ部4上に敷設された鉄製の下地材4s上に設けられている。支柱5A~5Eのうち、上部構造1aに最も近い支柱5Aは、鉛直上下方向に延びている。支柱5Aに対し、上部構造1aから離れる側の2本の支柱5B、5Cは、上方に向かって上部構造1a側に傾斜して延びている。ルーフ部4上において、上部構造1aから最も離れた側の2本の支柱5D、5Eは、上方に向かって上部構造1aから離間する方向に傾斜して延びている。
梁3は、これらの支柱5A~5E上に設けられている。梁3は、上部構造1a側から離間するにしたがって、漸次上方に延びるよう、湾曲して設けられている。
このような支柱5A~5E及び梁3は、図1の紙面に直交する方向に間隔をあけて複数組が設けられている。複数本の梁3上には、板状、あるいや膜状、格子状、ネット状等の屋根材8が設けられている。
【0014】
上記の梁3は、以下に示すような繊維強化木質部材10Aによって形成されている。
図2に、図1に示す繊維強化木質部材の縦断面図を示す。繊維強化木質部材10Aは、H形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11と、木質部20と、を備えて構成されている。
繊維強化プラスチック部11は、繊維強化木質部材10Aの長手方向に延びる中心軸に交差するH形状の断面を有し、繊維強化木質部材10Aの中央部に内蔵(埋設)されている。すなわち、繊維強化プラスチック部11は、繊維強化木質部材10Aの外部に露出していない。繊維強化プラスチック部11は、中心軸に交差する断面形状が、いわゆるH型鋼と同様のH形状をなしている。繊維強化プラスチック部11は、上下方向に間隔をあけて設けられた一対のフランジ部11a、11bと、これらフランジ部11a、11bとを連結するウェブ部11cと、を備えている。この繊維強化プラスチック部11は、強化繊維に樹脂を含浸させて上記形状に成形された繊維強化プラスチックからなる。強化繊維には、建設鋼材に比べて、引張強度が4~5倍程高強度で、かつ重量が約20%と軽量なカーボン繊維(比重1.8)、アラミド繊維(比重1.45)、ビニロン繊維等を使用する。
【0015】
木質部20は、繊維強化プラスチック部11の周囲を覆うように、繊維強化プラスチック部11の各側面に添わせて設けられている。木質部20は、非難燃木材21と、難燃木材22とを備えている。
非難燃木材21は、後述のような難燃処理が施されていない木材であり、火災による火熱が作用した際に、例えば加熱開始後5分以内に燃焼するものをいう。非難燃木材21は、繊維強化プラスチック部11の表面側に位置する。本実施形態において、非難燃木材21は、H形状の繊維強化プラスチック部11において、一対のフランジ部11a,11bの間で、ウェブ部11cの両側に設けられている。各非難燃木材21は、幅方向両側に位置する難燃木材22に、接着剤等により接合されている。
難燃木材22は、難燃薬剤を含浸させたもので、火災による火熱が作用した際に、加熱開始後5分以内に燃焼しないものをいう。難燃木材22は、繊維強化木質部材10Aにおいて、非難燃木材21の外側に積層して設けられている。本実施形態において、難燃木材22は、H形状の繊維強化プラスチック部11(及び非難燃木材21)の幅方向両側と、フランジ部11aの上側と、フランジ部11bの下側とに、断面視矩形の筒状をなすよう複数本が設けられている。これら複数本の難燃木材22同士は、接着剤等により互いに接合されている。
【0016】
木質部20は、繊維強化プラスチック部11の一部の側面111に対し、ボルトB1が緊締されることで連結されている。また、木質部20は、繊維強化プラスチック部11の他の側面112、113、114、115においては、木質部20と繊維強化プラスチック部11との間に隙間を確保し、繊維強化プラスチック部11と分離されている。具体的には、本実施形態において、木質部20は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの上面である側面111に、フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)が、ボルトB1、B2及び連結部材40を介して連結されている。連結部材40は鋼材であり、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの上面に沿って設けられた第一プレート部41と、繊維強化木質部材10Aの上面(フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)の上面)に沿って設けられた第二プレート部42と、木質部20を貫通して第一プレート部41と第二プレート部42とを連結する連結部43とを一体に有する。第一プレート部41の幅方向両側には、フランジ部11aの幅方向両端部を保持する折返し部41aが設けられている。また、第二プレート部42の幅方向両端部には、上方に突出する縁部42aが設けられている。
このような連結部材40は、第一プレート部41が複数のボルトB1によって繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aにボルト締結され、第二プレート部42が複数のボルトB2によって、フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)にボルト締結されている。これにより、フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)は、ボルトB2、連結部材40、及びボルトB1を介して繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aに連結されている。また、繊維強化木質部材10Aは、後述するように、屋根材8から下方側に鋼材で形成される連結部材40が設置され、その連結部材40がH型状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11の上部フランジ11aと連結されていることで、繊維強化木質部材10Aの材軸方向に沿うように上方側に屋根材8が設置された屋根架構2が形成されている。
【0017】
また、木質部20の非難燃木材21は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの下面である側面112、ウェブ部11cの両側面である側面113、フランジ部11bの上面である側面114に対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。木質部20の難燃木材22は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11bの下面である側面115に対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。ここで、木質部20の非難燃木材21と側面113、及び木質部20の難燃木材22と側面115とは、隙間は僅かであり、互いに近接しつつも接合はなされずに、分離されている。このようにして、繊維強化プラスチック部11の側面112、113、114、115は、木質部20に対し、ボルト締結や接着剤を用いた接合がなされておらず、側面112、113、114、115に沿った面内で繊維強化プラスチック部11と木質部20とが相対変位可能となっている。
【0018】
このような繊維強化木質部材10A上に、逆T字状の支持ブラケット6が、繊維強化木質部材10A(梁3)の長手方向に間隔をあけて複数載置されている。支持ブラケット6のベース板6aは、前記連結部材40の第二プレート部42上に設けられている。ベース板6aは、第二プレート部42の幅方向両端部に設けられた縁部42a,42aの内側に設けられて、幅方向への位置ズレが抑えられている。
繊維強化木質部材10Aの上方には、繊維強化木質部材10A(梁3)の長手方向に延びる通し材7が、支持ブラケット6にボルト61によって連結されて設けられている。
通し材7の上面には、屋根材8の端部がスペーサ81を介して載置されている。また、通し材7には、通し材7を挟んで両側に設けられる屋根材8同士の隙間を上方から覆うカバー材9が固定されている。
【0019】
本実施形態によれば、以下のような作用効果がある。
このような繊維強化木質部材10Aは、繊維強化プラスチックと木材を組み合わせた繊維強化木質部材10Aであって、断面形状がH形状に形成された繊維強化プラスチック部11と、繊維強化プラスチック部11の外周囲に設けられる木質部20と、を備える。繊維強化プラスチック部11は、一部の側面111がボルトB1,B2による緊締で木質部20と連結されているとともに、他の側面112、113、114、115では、木質部20と分離されている。
(1)繊維強化プラスチック部11は、繊維強化プラスチック部11の外周囲に設けられる木質部20と一部の側面で連結されることで、繊維強化木質部材10Aの剛性を高めることができる。また、繊維強化プラスチック部11の他の側面112、113、114、115では、繊維強化プラスチック部11と木質部20とが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部11と木質部20との間で、繊維強化プラスチック部11及び木質部20の一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、繊維強化木質部材10Aの変形性能を高めることができる。さらに、木質部20は、繊維強化プラスチック部11の外周囲に、すなわち周囲を覆うように設けられているので、耐火性能を高めることができる。このように、外側表面に木材を配置し、剛性と変形性能、並びに耐火性能が高められた繊維強化木質部材10Aを実現することができる。また、繊維強化木質部材10Aでは、繊維強化プラスチック部11のウェブ部11cの両側側面113に非難燃木材21が設けられていることで、繊維強化プラスチック部11に作用する面外変形に対して、非難燃木材21が変形量の増大を阻止するために、耐震安全性を高めることができる。
(2)繊維強化木質部材10Aは、H型状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11と連結部材40がボルト緊締で連結され、繊維強化木質部材10Aの上方に屋根材8を備えた屋根架構を形成できる。また、繊維強化プラスチックで形成されたH型状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11は、軽量でありながら、曲げ強度に優れており、梁成高さが低く、小径の断面形状を有する繊維強化木質部材10Aが実現可能である。
【0020】
さらに、梁3として用いられる繊維強化木質部材10Aは、繊維強化プラスチック部11の上側のフランジ部11aで、繊維強化プラスチック部11と木質部20とが連結され、フランジ部11aよりも下側では、繊維強化プラスチック部11と木質部20とが分離されている。
(3)梁3に鉛直荷重が作用し、梁3の中間部が下方に変位するような変形を生じた場合、上側のフランジ部11aにおいては、繊維強化プラスチック部11と木質部20とが連結されることで、剛性を確保しつつ、それ以外の部分では、繊維強化プラスチック部11と木質部20とが分離されることで、梁3の変形を阻害するのを抑える。したがって、繊維強化木質部材10Aにおいて、高い剛性と変形性能とを、効率良く得ることができる。
【0021】
また、木質部20は、少なくとも一部が、繊維強化プラスチック部11の表面側に非難燃木材21を配置し、非難燃木材21の外側に難燃木材22を設けて一体化されている。
(4)繊維強化木質部材10Aにおいては、最も外側には難燃木材22が設けられているので、耐火性能を高めることができる。これにより、要求される耐火性能を確保するのに必要な木質部20を薄くすることができる。また、難燃木材22の内側には非難燃木材21が設けられているので、難燃木材22によって耐火性能を確保しつつ、難燃木材22の使用量を抑えて低コスト化を図ることができる。
【0022】
(第1実施形態の変形例)
上記実施形態では、フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)は、ボルトB2、連結部材40、及びボルトB1を介して繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aに連結するようにしたがこれに限らない。
図3に、第1実施形態の変形例における繊維強化木質部材の縦断面図を示す。
この変形例においては、図3に示されるように、繊維強化プラスチック部11の上部フランジ部11aのフランジ上面111に、フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)が、接着剤C1、C2及び連結部材40を介して連結されている。連結部材40は鋼材であり、第一プレート部41が接着剤C1によって繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aに連結され、第二プレート部42が接着剤C2によって、フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)に連結されている。
本変形例によれば、上述の作用効果に加えて、下記の効果がある。
(5)繊維強化木質部材は、H型状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11と連結部材40が接着剤で連結され、当該繊維強化木質部材の上方に屋根材8を備えた屋根架構が形成される。
【0023】
[第2実施形態]
次に、本発明による繊維強化木質部材の第2実施形態について説明する。ここで、以下に示す繊維強化木質部材10Bは、上記第1実施形態の繊維強化木質部材10Aに代えて用いられる。
図4に、第2実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図を示す。繊維強化木質部材10Bは、矩形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11Bと、木質部20Bと、を備えて構成されている。
繊維強化プラスチック部11Bは、繊維強化木質部材10Bの長手方向に延びる中心軸に交差する断面において、繊維強化木質部材10Bの中央部に内蔵(埋設)されている。繊維強化プラスチック部11Bは、中心軸に交差する断面形状が、平板状(板状)を、すなわち矩形状をなしている。繊維強化プラスチック部11Bは、強化繊維に樹脂を含浸させて上記形状に成形された繊維強化プラスチックからなる。
【0024】
木質部20Bは、繊維強化プラスチック部11Bの周囲を覆うように、繊維強化プラスチック部11Bの各側面に添わせて設けられている。木質部20Bは、繊維強化プラスチック部11Bの一部の側面116に対し、ボルトB3が緊締されることで連結されている。具体的には、本実施形態において、木質部20Bは、繊維強化プラスチック部11Bの側面116に、ボルトB3及び連結部材40Bを介して連結されている。連結部材40Bは、繊維強化プラスチック部11Bの側面116に沿って設けられ、木質部20Bを貫通して繊維強化木質部材10Bの外側まで延びている。連結部材40Bは、上記第1実施形態で示した支持ブラケット6や、建物躯体(図示無し)等の部材に連結される。ボルトB3は、繊維強化プラスチック部11Bの側面117側から繊維強化プラスチック部11B及び連結部材40Bを貫通し、先端部が木質部20Bにねじ込まれている。これにより、木質部20Bは、ボルトB3及び連結部材40Bを介して繊維強化プラスチック部11Bの側面116に連結されている。
また、木質部20Bは、繊維強化プラスチック部11Bの他の側面117に対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。このようにして、繊維強化プラスチック部11Bの側面117は、木質部20Bに対し、ボルト締結や接着剤を用いた接合がなされておらず、側面117に沿った面内で繊維強化プラスチック部11Bと木質部20Bとが相対変位可能となっている。
【0025】
このように、繊維強化木質部材10Bは、繊維強化プラスチックと木材を組み合わせた繊維強化木質部材10Bであって、断面形状が矩形状に形成された繊維強化プラスチック部11Bと、繊維強化プラスチック部11Bの外周囲に設けられる木質部20Bと、を備えている。繊維強化プラスチック部11Bは、一部の側面116がボルトB3による緊締で木質部20Bと連結されているとともに、他の側面117では、木質部20Bと分離されている。
本第2実施形態によれば、上述の作用効果に加えて、下記の効果がある。
(6)繊維強化木質部材は、断面内部に矩形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11Bと、その繊維強化プラスチック部11Bの一部の側面116に木質部20Bを添わせて、双方をボルトで連結させたものであり、第1実施形態のように、断面内にH型形状を有する繊維強化プラスチック部を設ける必要がなく、部材幅の薄い複合木質部材を実現できる。また、繊維強化プラスチック部11Bの他の側面117では、繊維強化プラスチック部11Bと木質部20Bとが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部11Bと木質部20Bとの間で、繊維強化プラスチック部11B及び木質部20Bの一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、繊維強化木質部材10Bの変形性能を高めることができる。さらに、木質部20Bは、繊維強化プラスチック部11Bの外周囲に、すなわち周囲を覆うように設けられているので、耐火性能を高めることができる。このようにして、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能を向上可能な繊維強化木質部材10Bを実現することができる。
【0026】
なお上記実施形態では、木質部20Bは、ボルトB3及び連結部材40Bを介して繊維強化プラスチック部11Bに連結するようにしたがこれに限らない。ボルトB3に代えて、接着剤により、木質部20Bと、繊維強化プラスチック部11Bの側面116とを連結するようにしてもよい。
【0027】
[第3実施形態]
次に、本発明による繊維強化木質部材の第3実施形態について説明する。本実施形態は、上述の第1実施形態と比べた場合、耐火被覆層30Cを備える点のみが異なる。したがって、以下の説明において、上記第1の実施形態と共通する構成については説明を省略する。
図5に、第3実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図を示す。繊維強化木質部材10Cは、繊維強化プラスチック部11と、木質部20と、耐火被覆層30Cを備えて構成されている。繊維強化プラスチック部11、及び木質部20の構成は、上記第1実施形態と同様である。
耐火被覆層30Cは、繊維強化プラスチック部11の全体を被覆するよう、フランジ部11a、11b、及びウェブ部11cの表面の全面に沿って所定の厚さで設けられている。耐火被覆層30Cは、例えば、耐火塗料、湿式耐火被覆材、乾式耐火被覆材等により形成される。
【0028】
木質部20は、繊維強化プラスチック部11を被覆する耐火被覆層30Cの周囲を覆うように、繊維強化プラスチック部11の各側面に添わせて設けられている。木質部20は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの上面である側面111に、耐火被覆層30Cを介在させた状態で、フランジ部11aの上側に位置する木質部20(難燃木材22)が、ボルトB1、B2及び連結部材40を介して連結されている。
【0029】
また、木質部20の非難燃木材21は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの下面である側面112、ウェブ部11cの両側面である側面113、フランジ部11bの上面である側面114のそれぞれを覆う耐火被覆層30Cに対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。木質部20の難燃木材22は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11bの下面である側面115を覆う耐火被覆層30Cに対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。
【0030】
本第3実施形態によれば、上述の作用効果に加えて、下記の効果がある。
このような繊維強化木質部材10Cでは、繊維強化プラスチック部11は、耐火被覆層30Cで被覆されている。このような構成によれば、繊維強化プラスチック部11が耐火被覆層30Cで被覆されていることで、第1実施形態のように、繊維強化プラスチック部11を難燃木材を含む木質部のみで所定の耐火性能を確保する必要はなく、木質部20を薄くした繊維強化木質部材10Cを実現できる。
(7)繊維強化木質部材10Cは、上記第1実施形態と同様、耐火被覆層30Cで覆われた繊維強化プラスチック部11と、繊維強化プラスチック部11の一部の側面111に添わせた木質部20とが連結されていることで、繊維強化プラスチック部11と木質部20が並列接続された合成バネモデルとして評価できるために、高い剛性を実現できる。また、繊維強化プラスチック部11の他の側面112、113、114、115では、耐火被覆層30Cで覆われた繊維強化プラスチック部11と木質部20とが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部11と木質部20との間で、繊維強化プラスチック部11及び木質部20の一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、高い剛性と変形性能を備える。
(8)繊維強化木質部材10Cは、繊維強化プラスチック部11が耐火被覆層30Cで覆われていることで、第1実施形態の耐火被覆層の無い場合に比べて、高い耐火性能を確保できる。よって、第3実施形態の繊維強化木質部材10Cの場合、繊維強化プラスチック部11に必要な耐火性能は、耐火被覆層30C、及び燃え代層や燃え止まり層に相当する木質部20によって確保することが出来るために、第1実施形態の繊維強化木質部材10Cに比べて、薄くできる。また、繊維強化木質部材10Cを構成する繊維強化プラスチック部11の外側に木質部20が配置されるために、外側表面に木質感を備えた耐火性能に優れた建物部材用の繊維強化木質部材10Cが実現できる。
【0031】
[第4実施形態]
次に、本発明による繊維強化木質部材の第4実施形態について説明する。本実施形態においては、上記第1の実施形態に対し、耐火被覆層30Dを備える点のみが異なる。したがって、以下の説明において、上記第1の実施形態と共通する構成については説明を省略する。
図6に、第4実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図を示す。繊維強化木質部材10Dは、繊維強化プラスチック部11と、木質部20と、耐火被覆層30Dを備えて構成されている。繊維強化プラスチック部11、及び木質部20の構成は、上記第1実施形態と同様である。
耐火被覆層30Dは、繊維強化プラスチック部11の全体を被覆するように設けられている。本実施形態において、耐火被覆層30Dは、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの上側と、フランジ部11bの下側と、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11a、11bの幅方向両側に設けられ、全体として繊維強化プラスチック部11及び非難燃木材21を囲う筒状をなしている。耐火被覆層30Dは、例えば、石膏ボード等により形成される。
【0032】
繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの上側に位置する難燃木材22(木質部20)は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの上面である側面111に、耐火被覆層30Dを介在させた状態で、ボルト緊結や接着剤によって連結されている。
また、木質部20の非難燃木材21は、繊維強化プラスチック部11のフランジ部11aの下面である側面112、ウェブ部11cの両側面である側面113、フランジ部11bの上面である側面114のそれぞれに対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。繊維強化プラスチック部11のフランジ部11bの下面である側面115を覆う耐火被覆層30Dに対し、木質部20の難燃木材22は、隙間を隔てて分離された状態で対向している。
【0033】
本第4実施形態によれば、上述の作用効果に加えて、下記の効果がある。
(9)繊維強化木質部材10Dは、筒状をなす耐火被覆層30DをH型状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11を覆う位置に設けるものであり、第3実施形態に示すように、耐火被覆層をH型状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部に添わせるように設置する必要はなく、耐火被覆層30Dの施工が容易である。また、筒状をなす耐火被覆層30Dを有する繊維強化木質部材10Dは、繊維強化プラスチック部11のウェブ部11cに非難燃木材21が配置され、その外側に耐火被覆層30Dが設けられるために、繊維強化プラスチック部11を高い耐火性能で覆った複合木質部材を実現できる。
具体的には、繊維強化木質部材10Dでは、繊維強化プラスチック部11は、耐火被覆層30Dで被覆されている。このような構成によれば、繊維強化プラスチック部11が耐火被覆層30Dで被覆されることによって、繊維強化プラスチック部11の耐火性能を高めることできる。これにより、繊維強化プラスチック部11に要求された耐火性能を確保するのに必要な木質部20を薄くすることができる。
また、上記第1実施形態と同様、耐火被覆層30Dで覆われた繊維強化プラスチック部11と、繊維強化プラスチック部11の一部の側面111に添わせた木質部20とが連結されることで、繊維強化木質部材10Dの剛性を高めることができる。また、繊維強化プラスチック部11の他の側面112、113、114、115では、繊維強化プラスチック部11と木質部20とが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部11と木質部20との間で、繊維強化プラスチック部11及び木質部20の一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能を向上可能な繊維強化木質部材10Dを実現することができる。
【0034】
[第5実施形態]
次に、本発明による繊維強化木質部材の第5実施形態について説明する。
図7は、柱部材に用いる第5実施形態に係る繊維強化木質部材の水平断面図である。繊維強化木質部材10Eは、繊維強化プラスチック部11Eと、木質部20Eと、を備えて構成されている。繊維強化木質部材10Eは、例えば柱材として用いることができる。
繊維強化プラスチック部11Eは、繊維強化木質部材10Eの長手方向に延びる中心軸に交差する断面において、繊維強化木質部材10Eの中央部に内蔵(埋設)されている。すなわち、繊維強化プラスチック部11Eは、繊維強化木質部材10Eの外部に露出していない。繊維強化プラスチック部11Eは、中心軸に交差する断面形状が、板状を、すなわち矩形状をなしている。繊維強化プラスチック部11Eは、強化繊維に樹脂を含浸させて上記形状に成形された繊維強化プラスチックからなる。強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等がある。
【0035】
木質部20Eは、繊維強化プラスチック部11Eの周囲を覆うように、繊維強化プラスチック部11Eの各側面に添わせて設けられている。木質部20Eは、非難燃木材21Eと、難燃木材22Eとを備えている。
本実施形態において、非難燃木材21Eは、断面形状が矩形で、繊維強化木質部材10Eの中心部に配置されている。非難燃木材21Eは、難燃薬剤を含浸させることによる難燃処理が施されていない木材であり、火災による火熱が作用した際に、例えば加熱開始後5分以内に燃焼するものをいう。
難燃木材22Eは、非難燃木材21Eの外側に積層して設けられている。本実施形態において、難燃木材22Eは、非難燃木材21Eの上面、下面、及び幅方向両側の側面をそれぞれ覆うように所定の厚さで設けられている。難燃木材22Eは、難燃薬剤を含浸させたもので、火災による火熱が作用した際に、例えば加熱開始後5分以内に燃焼しないものをいう。
【0036】
上記の繊維強化プラスチック部11Eは、非難燃木材21Eの上面、下面、及び幅方向両側のそれぞれと、難燃木材22Eとの間に設けられている。繊維強化プラスチック部11Eは、非難燃木材21Eの上面及び下面に、幅方向に間隔をあけて2枚が配置されている。
各繊維強化プラスチック部11Eにおいて非難燃木材21Eの表面に対向する側面117は、木質部20Eの非難燃木材21Eに対し、接着剤C4によって連結されている。なお、各繊維強化プラスチック部11の側面117と木質部20Eの非難燃木材21Eとは、接着剤C4に限らず、ボルト緊結によって連結されていてもよい。
また、各繊維強化プラスチック部11Eにおいて、難燃木材22Eに対向する側面118は、木質部20Eの難燃木材22Eに対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。このようにして、繊維強化プラスチック部11Eの側面118は、木質部20Eに対し、ボルト締結や接着剤を用いた接合がなされておらず、側面118に沿った面内で繊維強化プラスチック部11Eと木質部20Eとが相対変位可能となっている。
【0037】
このような繊維強化木質部材10Eは、繊維強化プラスチックと木材を組み合わせた繊維強化木質部材10Eであって、断面形状が矩形状の繊維強化プラスチック部11Eと、繊維強化プラスチック部11Eの外周囲に設けられる木質部20E(非難燃木材21E、難燃木材22E)と、を備える。繊維強化プラスチック部11Eは、側面117が接着剤C4で木質部20Eと連結されているとともに、他の側面118では、木質部20Eと分離されている。
このような構成によれば、繊維強化プラスチック部11Eと、繊維強化プラスチック部11Eの外周囲に設けられる木質部20Eとが連結されることで、繊維強化木質部材10Eの剛性を高めることができる。また、繊維強化プラスチック部11Eの他の側面118では、繊維強化プラスチック部11Eと木質部20Eとが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部11Eと木質部20Eとの間で、繊維強化プラスチック部11E及び木質部20Eの一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、繊維強化木質部材10Eの変形性能を高めることができる。さらに、木質部20Eは、繊維強化プラスチック部11Eの周囲を覆うように設けられているので、耐火性能を高めることができる。このようにして、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能を向上可能な繊維強化木質部材10Eを実現することができる。
【0038】
本第5実施形態によれば、上述の作用効果に加えて、下記の効果がある。
(10)繊維強化木質部材10Eを構成する木質部20Eは、少なくとも一部が、繊維強化プラスチック部11Eの側面117(表面)側に位置する非難燃木材21Eと、非難燃木材21Eの外側に設けられた難燃木材22Eとが積層されている。
このような構成によれば、繊維強化木質部材10Eの最も外側に難燃木材22Eが設けられているので、耐火性能を高めることができる。これにより、要求される耐火性能を確保するのに必要な木質部20Eを薄くすることができる。また、難燃木材22Eの内側には非難燃木材21Eが設けられているので、難燃木材22Eによって耐火性能を確保しつつ、難燃木材22Eの使用量を抑えて低コスト化を図ることができる。
【0039】
(第5実施形態の変形例)
図8は、第5実施形態と同様、繊維強化木質部材(柱部材)の水平断面図である。上記第5実施形態で示した繊維強化プラスチック部11Eは、上記第3実施形態と同様、耐火被覆層30Fで被覆するようにしてもよい。
本変形例における繊維強化木質部材10Fは、繊維強化プラスチック部11Eと、木質部20Eと、耐火被覆層30Fを備えて構成されている。
繊維強化プラスチック部11E、及び木質部20Eの構成は、上記第5実施形態と同様である。
耐火被覆層30Fは、各繊維強化プラスチック部11Eの全体を被覆するよう、所定の厚さで設けられている。耐火被覆層30Fは、例えば、耐火塗料、湿式耐火被覆材、乾式耐火被覆材等により形成される。
【0040】
このような繊維強化木質部材10Fは、繊維強化プラスチック部11Eが耐火被覆層30Fで被覆されることによって、繊維強化プラスチック部11Eの耐火性能を高めることできる。これにより、繊維強化プラスチック部11Eに要求された耐火性能を確保するのに必要な木質部20Eを薄くすることができる。
【0041】
[第6実施形態]
次に、本発明による繊維強化木質部材の第6実施形態について説明する。ここで、以下に示す繊維強化木質部材10Gは、上記第1実施形態の繊維強化木質部材10Aに代えて、梁材として用いられる。
図9に、第6実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図を示す。繊維強化木質部材10Gは、逆T字形状の断面形状を有する繊維強化プラスチック部11Gと、木質部20Gと、を備えて構成されている。
繊維強化プラスチック部11Gは、繊維強化木質部材10Gの長手方向に延びる中心軸に交差する断面において、繊維強化木質部材10Gの中央部に内蔵(埋設)されている。繊維強化プラスチック部11Gは、中心軸に交差する断面形状が、逆T字形状をなしている。すなわち、繊維強化プラスチック部11Gは、鉛直方向に延在するウェブ部11cと、ウェブ部11cの下端に接合されて水平方向に延在するフランジ部11bとを備えている。繊維強化プラスチック部11Gは、強化繊維に樹脂を含浸させて上記形状に成形された繊維強化プラスチックからなる。
【0042】
木質部20Gは、繊維強化プラスチック部11Gの周囲を覆うように、繊維強化プラスチック部11Gの各側面に添わせて設けられている。木質部20Gは、繊維強化プラスチック部11Gの一部の側面119に対し、ボルトB3が緊締されることで連結されている。具体的には、本実施形態において、木質部20Gは、繊維強化プラスチック部11Gの側面119に、ボルトB3及び連結部材40Gを介して連結されている。連結部材40Gは、繊維強化プラスチック部11Gの側面119に沿って設けられ、木質部20Gを貫通して繊維強化木質部材10Gの外側まで延びている。連結部材40Gは、上記第1実施形態で示した支持ブラケット6や、建物躯体(図示無し)等の部材に連結される。ボルトB3は、繊維強化プラスチック部11Gの側面120側から繊維強化プラスチック部11G及び連結部材40Gを貫通し、先端部が木質部20Gにねじ込まれている。これにより、木質部20Gは、ボルトB3及び連結部材40Gを介して繊維強化プラスチック部11Gの側面119に連結されている。
また、木質部20Gは、繊維強化プラスチック部11Gの他の側面120、121、122に対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。このようにして、繊維強化プラスチック部11Gの側面120、121、122は、木質部20Gに対し、ボルト締結や接着剤を用いた接合がなされておらず、側面120、121、122に沿った面内で繊維強化プラスチック部11Gと木質部20Gとが相対変位可能となっている。
【0043】
このように、繊維強化木質部材10Gは、繊維強化プラスチックと木材を組み合わせた繊維強化木質部材10Gであって、断面形状が逆T形状に形成された繊維強化プラスチック部11Gと、繊維強化プラスチック部11Gの外周囲に設けられる木質部20Gと、を備えている。繊維強化プラスチック部11Gは、一部の側面119がボルトB3による緊締で木質部20Gと連結されているとともに、他の側面120、121、122では、木質部20Gと分離されている。
上記のような構成によれば、繊維強化プラスチック部11Gと、繊維強化プラスチック部11Gの外周囲に設けられる木質部20Gとが一部の側面119で連結されることで、繊維強化木質部材10Gの剛性を高めることができる。また、繊維強化プラスチック部11Gの他の側面120、121、122では、繊維強化プラスチック部11Gと木質部20Gとが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部11Gと木質部20Gとの間で、繊維強化プラスチック部11G及び木質部20Gの一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、繊維強化木質部材10Gの変形性能を高めることができる。さらに、木質部20Gは、繊維強化プラスチック部11Gの外周囲に、すなわち周囲を覆うように設けられているので、耐火性能を高めることができる。このようにして、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能を向上可能な繊維強化木質部材10Gを実現することができる。
【0044】
[第7実施形態]
次に、本発明による繊維強化木質部材の第7実施形態について説明する。以下に示す繊維強化木質部材10Hは、上記第1実施形態の繊維強化木質部材10Aと同様、梁材として用いられる。
図10に、第7実施形態に係る繊維強化木質部材の縦断面図を示す。繊維強化木質部材10Hは、繊維強化プラスチック部11Hと、木質部20Hを備えて構成されている。
繊維強化プラスチック部11Hは、繊維強化木質部材10Hの長手方向に延びる中心軸に交差するボックス形状の断面を有し、繊維強化木質部材10Hの中央部に内蔵(埋設)されている。すなわち、繊維強化プラスチック部11Hは、繊維強化木質部材10Hの外部に露出していない。繊維強化プラスチック部11Hは、上下方向に間隔をあけて設けられた一対の水平部11d、11eと、これら水平部11d、11eを各々の端辺において連結する一対の鉛直部11f、11gと、を備えている。水平部11d、11eと鉛直部11f、11gの内側には、これらにより外方を囲われて内部空間Sが形成されている。
このような繊維強化プラスチック部11Hとしては、ダイアリード(登録商標)コンポジット等を使用することが可能である。
【0045】
木質部20Hは、繊維強化プラスチック部11Hの周囲を覆うように、繊維強化プラスチック部11Hの各外側を向く側面に添わせて設けられている。
木質部20Hは、繊維強化プラスチック部11Hの一部の側面123に対し、ボルトB1が緊締されることで連結されている。また、木質部20Hは、繊維強化プラスチック部11Hの他の側面124、125と分離されている。具体的には、本実施形態において、木質部20Hは、繊維強化プラスチック部11Hの上側の水平部11dの上面である側面123に、水平部11dの上側に位置する木質部20Hが、ボルトB1、B2及び連結部材40H、44Hを介して連結されている。連結部材40Hは鋼材であり、繊維強化プラスチック部11Hの水平部11dの上面に沿って設けられたプレート部41Hと、木質部20Hを貫通してプレート部41Hに接続する連結部43Hとを一体に有する。連結部材44Hは、連結部材40Hの連結部43Hの側面に接合されており、連結部43Hから立ち上るように設けられて、繊維強化木質部材10Hの上面(水平部11dの上側に位置する木質部20Hの上面)に沿って設けられたプレート部42Hを備えている。プレート部42Hの幅方向側は、木質部20Hの幅方向側の側面に沿うようにプレート部42Hが屈曲して設けられた屈曲部44aとなっている。連結部材40H、44Hは、繊維強化木質部材10Hの軸方向において所定の間隔を開けて設けられている。
このような連結部材40H、44Hは、連結部材40Hのプレート部41Hが複数のボルトB1によって繊維強化プラスチック部11Hの水平部11dにボルト締結され、連結部材44Hのプレート部42Hが複数のボルトB2によって、水平部11dの上側に位置する木質部20Hにボルト締結されている。これにより、水平部11dの上側に位置する木質部20Hは、ボルトB2、連結部材40H、44H、及びボルトB1を介して繊維強化プラスチック部11Hの水平部11dに連結されている。
【0046】
また、木質部20Hは、繊維強化プラスチック部11Hの下側の水平部11eの下面である側面125、鉛直部11f、11gの外方を向く側面である側面124に対し、隙間を隔てて分離された状態で対向している。ここで、木質部20Hと側面124とは、隙間は僅かであり、互いに近接しつつも接合はなされずに、分離されている。このようにして、繊維強化プラスチック部11Hの側面124、125は、木質部20Hに対し、ボルト締結や接着剤を用いた接合がなされておらず、側面124、125に沿った面内で繊維強化プラスチック部11Hと木質部20Hとが相対変位可能となっている。
【0047】
繊維強化木質部材10Hは、カバー材9を介して屋根材8に固定されている。
【0048】
このように、繊維強化木質部材10Hは、繊維強化プラスチックと木材を組み合わせた繊維強化木質部材10Hであって、断面形状がボックス形状に形成された繊維強化プラスチック部11Hと、繊維強化プラスチック部11Hの外周囲に設けられる木質部20Hと、を備えている。繊維強化プラスチック部11Hは、一部の側面123がボルトB1、B2による緊締で木質部20Hと連結されているとともに、他の側面124、125では、木質部20Hと分離されている。
上記のような構成によれば、繊維強化プラスチック部11Hと、繊維強化プラスチック部11Hの外周囲に設けられる木質部20Hとが一部の側面123で連結されることで、繊維強化木質部材10Hの剛性を高めることができる。また、繊維強化プラスチック部11Hの他の側面124、125では、繊維強化プラスチック部11Hと木質部20Hとが分離されているので、材料強度が異なる繊維強化プラスチック部11Hと木質部20Hとの間で、繊維強化プラスチック部11H及び木質部20Hの一方の変形を他方が阻害することがない。したがって、繊維強化木質部材10Hの変形性能を高めることができる。さらに、木質部20Hは、繊維強化プラスチック部11Hの外周囲に、すなわち周囲を覆うように設けられているので、耐火性能を高めることができる。このようにして、高い剛性と変形性能を備え、かつ耐火性能を向上可能な繊維強化木質部材10Hを実現することができる。
また、繊維強化プラスチック部11Hは、内側に内部空間Sが形成されたボックス形状となっているため、軽量な繊維強化木質部材10Hを実現可能である。
【0049】
[実験結果]
ここで、上記したような複合部材の耐火性能について実験を行ったので、その結果を以下に示す。
本実施形態の繊維強化木質部材の実施例における試験体の構成を示す断面図を図11に示す。上記試験体を加熱したときの各部の温度変化を示す図を図12に示す。上記試験体の試験前後における外観変化を示す図を図13に示す。上記試験体の試験後の断面を示す図を図14に示す。
図11に示すように、試験体10Sとして、繊維強化プラスチック部11Sと、木質部20Sと、を備えるものを用いた。繊維強化プラスチック部11Sは、板厚4.7mm、幅62mm、長さ900mmの炭素繊維複合材料を用いた。木質部20Sは、非難燃木材21Sとして、高さ99mm、幅65mm、長さ900mm集成材を用いた。また、非難燃木材21Sの上側及び幅方向両側、及び繊維強化プラスチック部11Sの下側に、厚さ35mmの難燃木材22Sを木質部20Sとして設けた。
ここで、繊維強化プラスチック部11Sと非難燃木材21Sとは、僅かな隙間を隔てて分離された状態で対向させた。また、繊維強化プラスチック部11Sの下面と繊維強化プラスチック部11Sの下側の難燃木材22Sとは、接着剤Csとして、レゾルシノール・フェノール樹脂接着剤を800g/mで塗布して接着した。
【0050】
上記のような試験体10Sに対し、ISO834に記載された標準加熱温度曲線にしたがった加熱を30分間を行い、消火後、燃え止まるまで、試験体10Sの観察、及び各部の温度計測を行った。ここで、試験体10Sにおける温度計測個所は、繊維強化プラスチック部11Sの幅方向中央部の下面側の位置P1と、繊維強化プラスチック部11Sの幅方向端部の位置P2と、非難燃木材21Sの上下方向中間部における難燃木材22Sとの境界部の位置P3とで、それぞれ行った。
【0051】
その温度計測結果を図12に示す。この図12に示されるように、位置P1~P3における最高温度は、位置P1が147℃、位置P2が157℃、位置P3が135℃であった。
また、加熱実験前後の試験体10Sを目視により観察して比較した。図13図14に示されるように、実験後の試験体10Sは、難燃木材22Sの表面側の一部が炭化しているものの、内部の非難燃木材21Sまでの炭化(260℃以上で発生する)は認められなかった。
【0052】
(その他の変形例)
なお、本発明の繊維強化木質部材は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、繊維強化木質部材10A~10Hは、梁3や柱材に限らず、他の用途の部材として用いることもできる。
また、繊維強化木質部材10A~10Hにおける繊維強化プラスチック部11、11B、11E、11G、11Hの形状や配置は、上記各実施形態および変形例で示したものに限らず、適宜変更することが可能である。例えば、図2等に示される断面形状がH形状の繊維強化プラスチック部において、上下のフランジの幅を短くし、断面形状がI形状となるようにしても構わない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
10A~10H 繊維強化木質部材
11、11B、11E、11G、11H 繊維強化プラスチック部
20、20B、20E、20G、20H 木質部
21、21E 非難燃木材 111~125 側面
22、22E 難燃木材 B1~B3 ボルト
30C、30D、30F 耐火被覆層 C1、C2、C4 接着剤
図1
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