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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】堰堤および捕捉体
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018077597
(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2019183539
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一雄
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101507(JP,A)
【文献】特開2017-101502(JP,A)
【文献】特開2014-173234(JP,A)
【文献】特開2006-274575(JP,A)
【文献】特開2009-127280(JP,A)
【文献】特開平11-029920(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0704415(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水通し部を有する堰堤であって、
少なくとも前記水通し部に対向して上流側の壁面に設けられ、上流から流れてくる物体を捕捉して流水を通す捕捉体を備え、
前記捕捉体は、
一端が前記上流側の前記壁面に固定されていて、前記壁面から上方に向かうにつれて上流側に傾斜する脚部と、前記脚部の他端から当該脚部の延在方向に対して前記壁面側に鈍角をなして立設された立設部とを有する複数の柱部を備える
ことを特徴とする堰堤。
【請求項2】
前記立設部は、少なくとも想定越流水深における水面からの余裕高まで延在していることを特徴とする請求項1に記載の堰堤。
【請求項3】
前記立設部は、前記脚部から最短距離で少なくとも余裕高まで延在していることを特徴とする請求項1または2に記載の堰堤。
【請求項4】
前記捕捉体は、
前記複数の柱部を互いに連結する第1の梁部と、
前記複数の柱部のうち幅方向における両端の前記柱部に一端が取り付けられ、他端が前記水通し部の側方における前記上流側の前記壁面に取り付けられた第2の梁部と、
を備えることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の堰堤。
【請求項5】
前記第1の梁部および第2の梁部は、前記水通し部の底面から、想定越流水深における水面までの高さ位置に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の堰堤。
【請求項6】
前記捕捉体は、前記第2の梁部に、下方に向かって延在する第2の立設部を有することを特徴とする請求項4または5に記載の堰堤。
【請求項7】
前記捕捉体は、前記複数の柱部のうち幅方向における両端の前記柱部と、前記上流側の前記壁面との間で、上方に向かって延在する第3の立設部を有することを特徴とする請求項1から6までのいずれか一項に記載の堰堤。
【請求項8】
前記第3の立設部は、少なくとも想定越流水深における水面からの余裕高まで延在していることを特徴とする請求項7に記載の堰堤。
【請求項9】
水通し部を有する堰堤に設けられる捕捉体であって、少なくとも前記水通し部に対向して前記堰堤の上流側の壁面に設けられ、上流から流れてくる流木を捕捉して流水を通
一端が前記上流側の前記壁面に固定され、前記壁面から上方に向かうにつれて上流側に傾斜する脚部と、前記脚部の他端から当該脚部の延在方向に対して前記壁面側に鈍角をなすようにして立設された立設部とを有する複数の柱部を備える
ことを特徴とする捕捉体。
【請求項10】
前記複数の柱部を互いに連結する梁部を有することを特徴とする請求項に記載の捕捉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川等に設置される堰堤および捕捉体に関する。
【背景技術】
【0002】
山間部等の河川においては、台風や大雨による土砂災害を防止するため、堰堤が設置される(例えば、特許文献1参照)。堰堤は、水を通過させつつも土石流に含まれる岩石や流木が通過することを抑えるものであり、その壁部にて土石流の勢いを弱めると共に、岩石や流木を堰き止める働きをしている。近年では、水の通過を遮ることなく、岩石や流木だけを捕捉するため、堰堤の一部にスリットを形成し、このスリットに鋼管等で柵状に構築された捕捉体を設けた、いわゆる透過型堰堤が構築されている(例えば、特許文献2参照)。
近年、土砂災害による被害を抑えるため、捕捉体が設けられていない既存の堰堤についても水通し部に捕捉体を新たに設置する試みがなされている。図11に示すように、既存の堰堤100に対して捕捉体103を設けるには、水通し部104を確保するため、捕捉体103の周囲の袖部105を嵩上げする必要がある。捕捉体103の周囲を嵩上げすることにより、図12に示すように、捕捉体103で流木等106を捕捉しつつ、その上方に形成された空間を水通し部107として用いることができる。
また、図13に示すように、敷幅(河川の流れ方向に沿った幅)が短い既設の堰堤110に捕捉体111を設ける場合には、堰堤110の水通し部112における上流側または下流側に腹付部113を設け、水通し部112の底部および腹付部113を利用して捕捉体111を設ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平2-55566号公報
【文献】特開2015-63840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、堰堤を嵩上げすると、その壁部に作用する土石流の外力も大きくなるため、堰堤の強度が不足し、強度不足を解消するための改良工事にコストや時間がかかってしまう。
また、捕捉体が設けられていない、いわゆる不透過型堰堤においては、水の流れを制御するために水通し部の幅が狭いため、水通し部に設けられる捕捉体も小さくなり、すぐに目詰まりして堰堤の袖部から越流しやすくなる。その結果、流木等の捕捉機能を十分に発揮できないだけでなく、越流に備えて堰堤下流側の改良工事が必要となり、コストや時間がかかってしまう。一方で、水通し部の拡幅工事も考えられるが、こちらもコストや時間がかかってしまう。
また、堰堤に腹付部を設ける場合であっても、その工事にコストや時間がかかってしまう。
また、既設の堰堤に新たに捕捉体を固定するために、水通し部のコンクリートをはつってから捕捉体用のコンクリートを打設することになるため、足場の架設等、コストや時間がかかってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも簡単に捕捉体を設置でき、工事にかかるコストや時間を抑えることができる堰堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は、水通し部を有する堰堤であって、少なくとも前記水通し部に対向して上流側の壁面に設けられ、上流から流れてくる物体を捕捉して流水を通す捕捉体を備え、前記捕捉体は、一端が前記上流側の前記壁面に固定されていて、前記壁面から上方に向かうにつれて上流側に傾斜する脚部と、前記脚部の他端から当該脚部の延在方向に対して前記壁面側に鈍角をなして立設された立設部とを有する複数の柱部を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記立設部は、少なくとも想定越流水深における水面からの余裕高まで延在していることが好ましい。
【0008】
また、前記立設部は、前記脚部から最短距離で少なくとも余裕高まで延在していることが好ましい。
【0009】
また、前記捕捉体は、前記複数の柱部を互いに連結する第1の梁部と、前記複数の柱部のうち幅方向における両端の前記柱部に一端が取り付けられ、他端が前記水通し部の側方における前記上流側の前記壁面に取り付けられた第2の梁部と、を備えることが好ましい。
【0010】
また、前記第1の梁部および第2の梁部は、前記水通し部の底面から、想定越流水深における水面までの高さ位置に設けられていることが好ましい。
【0011】
また、前記捕捉体は、前記第2の梁部に、下方に向かって延在する第2の立設部を有することが好ましい。
【0012】
また、前記捕捉体は、前記複数の柱部のうち幅方向における両端の前記柱部と、前記上流側の前記壁面との間で、上方に向かって延在する第3の立設部を有することが好ましい。
【0013】
また、前記第3の立設部は、少なくとも想定越流水深における水面からの余裕高まで延在していることが好ましい。
【0014】
さらに、上記課題を解決するために、本発明は、水通し部を有する堰堤であって、少なくとも前記水通し部に対向して前記堰堤の上流側の壁面に設けられ、上流から流れてくる流木を捕捉して流水を通す捕捉体を備え、前記捕捉体は、一端が前記上流側の前記壁面に固定されていて、前記壁面から上方に向かうにつれて上流側に傾斜する複数の柱部と、前記複数の柱部のうち幅方向における両端の前記柱部と、前記水通し部の側方における前記上流側の前記壁面との間に設けられた梁部と、を備える、ことを特徴とする。
【0015】
また、前記捕捉体は、前記梁部に対して上方に向かって延在する立設部を有することが好ましい。
【0016】
また、前記捕捉体は、前記梁部から下方に向かって延在する立設部を有することが好ましい。
【0017】
さらに、上記課題を解決するために、本発明は、堰堤が有する水通し部に対向して前記堰堤の上流側の壁面に設けられ、上流から流れてくる流木を捕捉して流水を通す捕捉体であって、一端が前記上流側の前記壁面に固定され、前記壁面から上方に向かうにつれて上流側に傾斜する脚部と、前記脚部の他端から当該脚部の延在方向に対して前記壁面側に鈍角をなすようにして立設された立設部とを有する複数の柱部を備えることを特徴とする。
【0018】
さらに、上記課題を解決するために、本発明は、堰堤が有する水通し部に対向して前記堰堤の上流側の壁面に設けられ、上流から流れてくる流木を捕捉して流水を通す捕捉体であって、一端が前記上流側の前記壁面に固定され、前記壁面から上方に向かうにつれて上流側に傾斜する複数の柱部と、前記複数の柱部のうち幅方向における両端の前記柱部と、前記水通し部の側方における前記上流側の前記壁面との間に設けられる梁部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、前記柱部は、該柱部の他端から当該柱部の延在方向に対して前記壁面側に鈍角をなすようにして立設された立設部を有することが好ましい。
【0020】
また、前記梁部は、該梁部に対して上方に向かって延在する立設部を有することが好ましい。
【0021】
また、前記梁部は、該梁部から下方に向かって延在する立設部を有することが好ましい。
【0022】
また、前記複数の柱部を互いに連結する梁部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来よりも簡単に捕捉体を設置でき、工事にかかるコストや時間を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施の形態に係る捕捉体を備えた堰堤を上流側から見た正面図である。
図2図1の堰堤を上流側から見た斜視図である。
図3図1の堰堤の平面図である。
図4図1の堰堤の側面図である。
図5図1の堰堤の上流側に土砂が堆積したときの捕捉体の状態を説明する堰堤の側面図である。
図6】河川の掃流区間において、(a)は流木を捕捉して水を通過させる状態を説明する図1の堰堤の正面図であり、(b)はその堰堤の側面図であり、(c)はその堰堤の平面図である。
図7】河川の土石流区間において、(a)は流木および土砂を捕捉して水を通過させる状態を説明する図1の堰堤の正面図であり、(b)はその堰堤の側面図であり、(c)はその堰堤の平面図である。
図8】別の実施の形態に係る捕捉体を備えた堰堤を上流側から見た斜視図である。
図9】さらに別の実施の形態に係る捕捉体を備えた堰堤を上流側から見た斜視図である。
図10】さらに別の実施の形態に係る捕捉体を備えた堰堤を上流側から見た斜視図である。
図11】従来技術において、(a)は捕捉体を設けるために堰堤を嵩上げする方法を説明する堰堤の正面図であり、(b)はその堰堤の側面図である。
図12】従来技術において、(a)は図11の堰堤において流木を捕捉して水を通過させる状態を説明する堰堤の正面図であり、(b)はその堰堤の側面図である。
図13】従来技術において、堰堤に捕捉体を設けるための腹付部を設けた状態を説明する堰堤の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施の形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の形態をとり得る。
<堰堤の構成>
図1乃至図4に示すように、堰堤1は、本体2と、捕捉体3とを備えている。堰堤1は、河川に設置された既存の本体2に捕捉体3を新たに設置して流木や岩石等(物体)の捕捉機能を高めたものである。
【0026】
(本体)
本体2は、その底部が地盤に埋設されており、河川を横切るように河川の幅方向に沿って延在するように構築されている。本体2は、例えば、コンクリートまたはソイルセメントによって構築されている。なお、本体2において、河川の上流側または下流側に面する壁面を、複数の鋼製セグメントを連結することにより形成された鋼板壁とし、その内部にコンクリートやソイルセメントを充填してもよい。
本体2における河川の幅方向に沿った中央近傍、つまり、堰堤1が構築される河川の両岸から河川中央に延在する袖部21の間の上端部には、周囲よりも上端面(天端面)が低くなるように切り欠かれた(凹んだ)水通し部22が形成されている。水通し部22は、上流から流れてくる流水を本体2の中央近傍に集約して下流に流すために形成されている。
本体2は、河川の両岸に接続した袖部21と、河川の上流側に面する上流壁部23と、河川の下流側に面する下流壁部24とを備えている。袖部21の上流側および下流側に面する壁面は、鉛直方向に延在している。上流壁部23は、袖部21または水通し部22の底面22aから下方に向かうにつれて上流側に向けて傾斜している。下流壁部24は、袖部21または水通し部22の底面22aから下方に向かうにつれて下流側に向けて傾斜している。
【0027】
(捕捉体)
捕捉体3は、河川の上流から流れてくる物体を捕捉して流水を通すものであり、本体2の袖部21および上流壁部23に設けられている。捕捉体3は、本体2の延在方向、すなわち、河川の幅方向に沿って設けられている。
捕捉体3は、上方に向かうにつれて上流側に傾斜している。捕捉体3は、少なくとも一部が本体2の水通し部22の底面22aよりも上方に位置するように本体2に設けられている。捕捉体3は、本体2の幅方向(河川の幅方向)に沿って互いに所定の間隔をおいて設けられた複数の柱部31と、柱部31を互いに連結する連結梁部(第1の梁部)32と、柱部31と袖部21との間に設けられた側方梁部(第2の梁部)33と、を備えている。
捕捉体3は、幅方向の長さLが水通し部22の幅Wよりも長くなるように構築されている。捕捉体3の幅方向(河川の幅方向)における両端部に設けられた柱部31は、少なくとも本体2の袖部21と対向する位置に配置されている。
【0028】
柱部31は、例えば、鋼管によって形成されている。柱部31は、第1の脚部31aと、第2の脚部31bと、立設部31cと、を備えている。
第1の脚部31aは、一端(下端)が本体2の上流壁部23にアンカーボルトおよびナットによって固定されている。第1の脚部31aは、他端部(上端部)近傍において連結梁部32に連結されている。これにより、各柱部31は連結梁部32によって互いに連結されることになる。第1の脚部31aは、上流壁部23に固定された一端から他端に向かうにつれて上流側に傾斜するように上流壁部23に設けられている。
堰堤1の高さ方向において第1の脚部31aは、その他端部が袖部21の上流側の壁面に少なくとも対向する位置にまで延在している。
【0029】
第2の脚部31bは、一端が第1の脚部31aの一端よりも上側で本体2の上流壁部23にアンカーボルトおよびナットによって固定されている。第2の脚部31bは、他端において、第1の脚部31aの長手方向において中央近傍に連結されている。
ここで、第2の脚部31bは、上流側の川底の傾斜に沿うように配置されていると、土石流の力を第2の脚部31bの軸線方向に沿って受けることができ、第2の脚部31bが本体2の上流壁部23から引き剥がそうとする力を小さく抑えることができるので好ましい。これにより、柱部31の第1の脚部31aおよび第2の脚部31bは、側面視略λ字状に構築されており、第1の脚部31aは、第2の脚部31bよりも長くなっている。
隣接する柱部31の間隔Sは、河川を流れてくると想定される最大の流木の長さの半分の長さ、または、河川を流れてくると想定される最大の礫径に相当する長さであることが好ましい。
【0030】
立設部31cは、一端が第1の脚部31aの他端(上端)に連結されている。立設部31cは、上流側に傾斜して延在している第1の脚部31aから上方に、柱部31の斜めの延在方向を鉛直方向に変えるようにして設けられている。具体的には、立設部31cは、斜めに延在する第1の脚部31aに対して上流壁部23側で鈍角θをなして延在している。換言すると、立設部31cは、本体2の袖部21の上流側の壁面に対向する、または袖部21の上流側の壁面に対して略平行に延在している。
【0031】
連結梁部32は、例えば、鋼管によって形成されている。連結梁部32は、その端部が複数の柱部31のうち幅方向の両端に設けられた第1の脚部31aの他端部(上端部)近傍にそれぞれ連結されている。
【0032】
側方梁部33は、複数の柱部31のうち幅方向の両端に設けられた第1の脚部31aと、袖部21との間に設けられていて、一端が第1の脚部31aの他端部(上端部)近傍に連結されており、他端が袖部21にアンカーボルトおよびナットによって固定されている。
連結梁部32および側方梁部33は、堰堤1の高さ方向においてほぼ同じ高さ位置で第1の脚部31aに連結されている。具体的には、連結梁部32および側方梁部33は、想定される流水41の水面を含む高さ位置に設けられていることが好ましい。
【0033】
さらに、側方梁部33は、当該側方梁部33から上方に延在する側方立設部(第3の立設部)33aを有する。側方立設部33aは、所定の間隔をおいて側方梁部33から上方に向かうように延在して立設されており、例えば、立設部31cの延在方向に平行に鉛直方向に延在している。つまり、側方立設部33aは、本体2の袖部21における上流側の壁面に対向する、または上流側の壁面に対して略平行に延在している。隣接する側方立設部33aの間隔S1は、立設部31cにおける間隔Sよりも狭くなっていることが好ましい。
【0034】
捕捉体3は、水通し部22の幅よりも長くなるように構築されている。捕捉体3の幅方向(河川の幅方向)における両端部に設けられた柱部31が、少なくとも本体2に上流壁部23の側で対向する位置に配置されている。例えば、捕捉体3は、幅方向において両端部側の柱部31のうち3本の柱部31が、幅方向において水通し部22の側方で本体2に対向する(かぶる)ように設置されている。
換言すると、柱部31と柱部31との間隔Sを1スパンとした場合、捕捉体3は、2スパン分だけ本体2に対向するように構築されている。なお、本体2に対向する各2スパンのうち、水通し部22側における1スパンは、少なくとも一部が本体2に対向しているだけでもよい。
また、本体2に対向する捕捉体3の範囲は、例えば、河川を流れてくると想定される最大の流木の長さ、最大の礫径、または設置する堰堤1の規模等に応じて、1スパン分、3スパン分またはそれ以上のスパン分だけ本体2に対向するように、適宜、変更することができる。
【0035】
ここで、捕捉体3における立設部31c、連結梁部32、側方梁部33および側方立設部33aの取付け位置について、図4を用いて具体的に説明する。
連結梁部32および側方梁部33は、堰堤1において想定される越流水深h1の水面を含む高さ位置に設けられており、立設部31cおよび側方立設部33aは、水通し部22における余裕高h2に少なくとも達する位置にまで延在している。
「想定される越流水深h1」とは、水通し部22を流れる、つまり、堰堤1を越流すると想定される流水41の水面の高さから、ここでは、水通し部22の底面22aまでの距離である。また、「余裕高」とは、越流水深h1に基づいて設定した高さである。
側方立設部33aの他端(上端)は、立設部31cと同じ高さ位置にまで延びている。つまり、側方立設部33aは、その他端(上端)が側方梁部33から最短距離で余裕高h2(m)にまで達する長さ寸法を有する。
【0036】
<捕捉体の設置方法>
次に、既存の堰堤の本体2に捕捉体3を設けて堰堤1を構築する際の、捕捉体3の設置方法について説明する。
最初に、本体2の上流壁部23における捕捉体3の設置位置を削孔し、形成した孔にアンカーボルトを埋設し、モルタル等を孔に充填して固定する。
次に、アンカーボルトに第1の脚部31a、第2の脚部31bおよび側方梁部33の一端に設けられているフランジ部を通し、ナットで固定する。ここで、捕捉体3は、それぞれ鋼管からなる柱部31と連結梁部32および側方梁部33とを予め溶接等にて接合しておき、クレーン等で吊しながらナットで固定する。ここで、捕捉体3の幅方向の長さは、少なくとも本体2の水通し部22の幅よりも長くなるように構築することが好ましい。
なお、捕捉体3を本体2に設ける際には、捕捉体3の一部が本体2の水通し部22の底面22aよりも上方に位置するように本体2に取り付ける。
以上の工程をもって、既設の堰堤の本体2に捕捉体3を設置することができ、既設の堰堤の流木等の捕捉機能を強化した堰堤1が構築される。
【0037】
以上のように、既設の堰堤の本体2の袖部21および上流壁部23に捕捉体3を設けることにより、流木や土砂等を捕捉する機能を付加することができ、堰堤1としての機能を向上させ、土砂災害を抑えることができる。
また、台風や大雨による土石流の発生を想定して事前に捕捉体3を本体2に設けることができるので、土砂災害を未然に防止することができる。
【0038】
ここで、捕捉体を既存の水通し部に設けると、従来では新たな水通し部を設けるために堰堤本体を嵩上げする必要があるが、堰堤1においては、捕捉体3は、上流壁部23に水通し部22から離間させて設けられているので、本体2を嵩上げする必要がなく、堰堤1の強度不足を解消するための改良工事が不要となる。
また、本体2からの越流に備えて堰堤1の下流側の改良工事や、水通し部22の拡幅工事、腹付工事を行う必要がないので、施工コストの削減、工期の短縮を図ることができる。
また、本体2の嵩上げや捕捉体3の設置のために、水通し部22のコンクリートをはつってから捕捉体3の固定用のコンクリートを打設することもなく、既設の本体2を大幅に改良する必要がない。
よって、従来よりも簡単に捕捉体3を本体2に設置でき、施工コストの削減、工期の短縮を図ることができる。
【0039】
また、捕捉体3は、水通し部22の底面22aよりも上方に突出するように配置されているので、図5に示すように、長い年月が経過して堰堤1の上流側に土砂が堆積していても流木等の捕捉機能を維持することができる。
また、捕捉体3は、水通し部22との対向部分が水通し部22から離間して設けられているので、水通し部22に流木等が流れ込む前で流木等を捕捉することができる。
また、第2の脚部31bは、堰堤1が設置される地盤(川底)の傾斜に沿って配置されているので、第1の脚部31aから伝わる流木等の衝突エネルギーを軸線方向に沿って受けることができるので、第2の脚部31bが本体2から剥がれようとする力を最小限に抑えることができる。
【0040】
ここで、堰堤1の設置箇所が河川の掃流区間であれば、図6に示すように、捕捉体3で流木42のみを捕捉し、流水41は捕捉体3を通過して水通し部22に導かれる。これにより、流木42が堆積することにより上昇した水位は、捕捉体3を通流した後、水位を下げながら水通し部22を通流するので、袖部21からの越流を防止することができ、堰堤1を嵩上げする必要がなくなる。よって、既設の堰堤に手を加えることなく、流木42を効果的に捕捉できるよう、捕捉体3を設置することができ、工事にかかるコストや時間を抑えることができる。
【0041】
一方、堰堤1の設置箇所が河川の土石流区間であれば、図7に示すように、捕捉体3で流木42および土砂43を捕捉し、流水41は捕捉体3を通過して水通し部22に導かれる。これにより、流木42および土砂43が堆積することにより上昇した水位は、捕捉体3を通流した後、水位を下げながら水通し部22を通流するので、袖部21からの越流を防止することができ、堰堤1を嵩上げする必要がなくなる。よって、既設の堰堤に手を加えることなく、流木42および土砂43を効果的に捕捉できるよう捕捉体3を設置することができ、工事にかかるコストや時間を抑えることができる。
【0042】
また、捕捉体3の柱部31は、上方に向かうにつれて上流側に傾斜している第1の脚部31aに、当該第1の脚部31aに対して上流壁部23側で鈍角をなして、堰堤1または捕捉体3の高さ方向に沿って鉛直方向に立設された立設部31cを有している。
例えば、立設部31cがない場合、第1の脚部31aを少なくとも余裕高h2までに延ばす必要がある。第1の脚部を余裕高h2まで延ばした場合、第1の脚部31aは斜めに延在しているので、捕捉体3と上流壁部23との間の間隔が大きくなる。捕捉体3と本体2との間の間隔が広がることは、例えば、流れてくる流木や土砂等が捕捉体の側方に廻り込む領域の拡大に繋がる。
【0043】
これに対して、堰堤1のように、第1の脚部31aに鉛直方向に延在する立設部31cを備えることにより、第1の脚部31aの他端から鉛直方向に延在する立設部31cが余裕高h2に最短距離で達することになる。これにより、第1の脚部31aが余裕高h2に達する場合に比べて捕捉体3と本体2との間の間隔を小さくすることができる。
さらに、例えば、捕捉体3により捕捉された流木や巨礫が堆積してせり上がろうとした場合であっても、立設部31cの存在により流木や巨礫が捕捉体3を乗り越えることを防ぐことができる。かくして、流れてきた流木や巨礫は、第1の脚部31aに沿って堰堤1の下方に向かうように案内されると共に、立設部31cにより押し戻されて流木等の越流の防止効果をより高めることができる。
【0044】
また、捕捉体3は、想定される越流水深h1の水面を含む高さ位置に側方梁部33を備えているので、上流から下流に向かう流水は、当該側方梁部33に沿って袖部21の壁面に衝突した後、上流へと戻りつつ本体2の中央近傍に集約されて下流に流されるようになる。これにより、捕捉体3の側方からの流木等の回り込みによる越流の防止効果を達成することができる。
さらに、側方梁部33には側方立設部33aが設けられているので、例えば、流水41が想定外の量となり、側方梁部33を上回ったとしても、側方立設部33aにおいて流木等は捕捉されるので、捕捉体3の側方からの流木等の越流をより効果的に防止することができる。
【0045】
また、捕捉体3の長さは、水通し部22の幅よりも長いので、水通し部22に流木等が流れ込む前でほとんどの流木等を捕捉することができる。さらに、捕捉体3のように、水通し部22に対して幅方向において本体2に対向する位置にまで延在する場合、流れてきた流木や巨礫を捕捉する範囲が幅方向に広がり、捕捉体3の側方から回り込もうとする流木や巨礫を効果的に捕捉することができる。
【0046】
<その他>
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の範囲を超えない範囲で適宜変更が可能である。例えば、捕捉体の構造は、流木や巨礫を捕捉できる機能を有していれば自由に変更可能である。上記実施の形態においては、捕捉体3は、側方梁部33および側方立設部33aを備えていた。しかし、例えば、図8に示すように、捕捉体は、少なくとも、複数の柱部31(第1の脚部31a、第2の脚部31bおよび立設部31c)と、連結梁部32と、を備えた捕捉体5であってもよい。このような構成は、捕捉体5の正面における捕捉機能を特に向上させたものであり、例えば、河川の両岸がそれぞれ捕捉体5の近傍にあるような場合には、捕捉する対象を正面からの流木や巨礫にしてもよい。
【0047】
また、上記の実施の形態において捕捉体3は、立設部31cおよび側方立設部33aを備えていた。しかし、例えば、図9に示すように、捕捉体は、少なくとも柱部31(第1の脚部31aおよび第2の脚部31b)と、連結梁部32および側方梁部33と、を備えた捕捉体6であってもよい。このような構成は、捕捉体6の側方における捕捉機能を特に向上させたものであり、側方から廻り込んでくる流木や巨礫を確実に捕捉することができる。
なお、捕捉体6に、図示しないが、立設部31cまたは側方立設部33aが設けられていてもよい。側方立設部33aが設けられている場合、側方から廻り込んでくる流木や巨礫をより確実に捕捉することができる。
【0048】
また、上記実施の形態において捕捉体3における側方立設部33aは、側方梁部33に設けられていた。しかし、捕捉体3が側方梁部33を有していない場合、側方立設部33aは、例えば、第1の脚部31a、第2の脚部31b等から上方に向かって延在していてもよい。
【0049】
また、図10(a)、(b)を用いて変形例に係る捕捉体7の構成について説明する。なお、捕捉体7については上記の捕捉体3,5,6と異なる構成について説明し、同じ構成については同じ符号を用いて記載し、説明を省略する。
捕捉体7は、柱部31と、連結梁部32と、側方梁部33とを有する。捕捉体7の側方梁部33には、上方に向かって延在している側方立設部33aと、側方梁部33から下方に向かって延在して立設された側方立設部33b(第2の立設部)が設けられている。側方立設部33bは、側方立設部33aに対向する位置に設けられている。
側方立設部33bは、例えば、側方梁部33と、第2の脚部31bとの間に延在していればよく、側方立設部33bの延在長さは、特に限定されない。
【0050】
また、捕捉体7における柱部31は、第1の脚部31aと、第2の脚部31bと、立設部31cとを有する。斜め上方に延在する第1の脚部31aは、水通し部22の底面22aを少し上方に超えた位置まで延びている。立設部31cは、水通し部22の底面22a付近から、斜めに延在する第1の脚部31aに対して上流壁部23側で鈍角θをなして、例えば、鉛直方向に延在している。立設部31cは、高さ方向にわたって水通し部22の大部分に対向して延在している。
連結梁部32は、その端部が複数の立設部31cのうち幅方向の両端に設けられた立設部31cの上端部近傍であって、堰堤1において想定される越流水深h1の水面付近にそれぞれ連結されている。
【0051】
下方に向かって延在する側方立設部33bの存在により、例えば、越流水面が、堰堤1において想定される越流水深h1を下回った場合であっても、側方梁部33の下側から通過しようとする流木等が捕捉される。
また、立設部31cが、水通し部22の底面22a付近から延在していることにより、第1の脚部31aが本体2から離れる方向に延在することを抑えることができ、捕捉体7と上流壁部23との間の間隔の拡大を抑制することができる。
【0052】
なお、捕捉体7において側方立設部33a,33bは、高さ方向に上下に対向して設けられていたが、側方梁部33に沿って互いにずらされて設けられていてもよい。
なお、側方立設部33bは、捕捉体3,6においても適用することができる。
【0053】
また、捕捉体3,5,6,7を本体2に固定する方法も自由に変更可能であり、上述した条件を満たす位置に配置されていればよい。
また、捕捉体3,5,6,7は、既存の堰堤に取り付ける場合に限らず、堰堤の施工時に本体2と共に構築してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 堰堤
2 本体
21 袖部
22 水通し部
23 上流壁部
24 下流壁部
3,5,6,7 捕捉体
31 柱部
31a 第1の脚部
31b 第2の脚部
31c 立設部
32 連結梁部(第1の梁部)
33 側方梁部(第2の梁部)
33a 側方立設部(第3の立設部)
33b 側方立設部(第2の立設部)
図1
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