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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】複リンク式ピストンクランク機構
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/32 20060101AFI20220728BHJP
   F02B 75/04 20060101ALI20220728BHJP
   F16C 7/02 20060101ALI20220728BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
F02B75/32 B
F02B75/04
F16C7/02
F16C9/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018137326
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2019100332
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2017227359
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英弘
(72)【発明者】
【氏名】有永 毅
(72)【発明者】
【氏名】市原 宏樹
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-185475(JP,A)
【文献】特開2010-265783(JP,A)
【文献】特開2011-017309(JP,A)
【文献】特開2017-053416(JP,A)
【文献】国際公開第2017/037935(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0058765(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04
F02B 75/32
F16C 7/02
F16C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパリンクと、このアッパリンクの他端にアッパピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに連結されたロアリンクと、一端が内燃機関本体に揺動可能に連結され、かつ他端が前記ロアリンクにコントロールピンを介して連結されたコントロールリンクと、を備えた複リンク式ピストンクランク機構において、
前記ロアリンクは、前記クランクピンが嵌合するクランクピン軸受部を挟んで両側に、前記アッパピンが嵌合するアッパピン嵌合孔と、前記コントロールピンが嵌合するコントロールピン嵌合孔とが設けられており、
前記ロアリンクは、前記クランクピン軸受部を挟んで互いに対向する一対の第1の直線部と、前記一対の第1の直線部に対して所定の角度を有し、互いに対向する一対の第2の直線部と、前記アッパピン嵌合孔側および前記コントロールピン嵌合孔側で各第1の直線部と各第2の直線部とを接続する2つの円弧部と、によって概ね四角形の基本形状に形成されるとともに、前記アッパピンと直交する平面に沿った端面を有し、
前記端面のうち前記アッパピン嵌合孔側の第1直線部または第2直線部と前記クランクピン軸受部との間に、前記クランクピンの軸方向に窪んだ溝部が設けられており、
前記溝部の底部に設けられた孔部に、相対的に比重の小さい材料からなる軽量部が設けられていることを特徴とする複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項2】
前記軽量部は、合成樹脂材料によって形成されており、前記軽量部以外の前記ロアリンクの部位は、金属材料によって形成されていることを特徴とする請求項に記載の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項3】
前記軽量部を含む前記ロアリンクの重心は、前記クランクピン軸受部の中心よりも前記コントロールピン嵌合孔側に位置していることを特徴とする請求項またはに記載の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項4】
記アッパピン嵌合孔側の第1の直線部の一部、円弧部および第2の直線部の一部から構成される前記ロアリンクの概ねV字形状の部位および前記V字形状の部位と連続した前記アッパピン嵌合孔の周囲の円弧状の部位は、金属によって形成されていることを特徴とする請求項のいずれかに記載の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項5】
前記ロアリンクは、奇数気筒内燃機関に用いられることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の複リンク式ピストンクランク機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンクランク機構、特に、複リンク式ピストンクランク機構に関する。
【背景技術】
【0002】
複リンク式ピストンクランク機構の一例として、特許文献1に記載のものが挙げられる。この複リンク式ピストンクランク機構は、ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパリンクと、このアッパリンクの他端にアッパピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに連結されたロアリンクと、このロアリンクの自由度を規制するコントロールリンクと、を備えている。上記ロアリンクは、菱形に近い平行四辺形をなしており、ロアリンクの中央に設けられたクランクピン軸受部の両側に、アッパピン嵌合孔と、コントロールピン嵌合孔とが形成されている。このようなロアリンクは、該ロアリンクの重心がクランクピン軸受部内の中央に位置する構成となっている。
【0003】
上記複リンク式ピストンクランク機構では、ピストンからの燃焼圧力によって上下運動するアッパリンクからの力が、ロアリンクに入力され、このロアリンクは、コントロールピンを支点として揺動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-53416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の複リンク式ピストンクランク機構では、ピストンおよびアッパリンクの上下運動に起因して上下方向の振動成分が生じる。この振動成分は、奇数気筒内燃機関、例えば3気筒内燃機関においては、相殺されずに依然として残存したままとなる。そして、上記振動成分により、内燃機関にヨー振動およびピッチ振動が生じ、内燃機関の音振性能が悪化する虞がある。
【0006】
さらに、燃費向上を目的とした複リンク式ピストンクランク機構のロングストローク化により、内燃機関の音振性能がさらに悪化する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、ロアリンクのアッパピン嵌合孔側の溝部の底部に設けられた孔部に、相対的に比重の小さい材料からなる軽量部が設けられている。
【0008】
従って、量部を含むロアリンクの重心が、コントロールピン嵌合孔寄りに位置している。これにより、アッパリンクの上下運動に伴う振動成分の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内燃機関に生じるヨー振動およびピッチ振動が低減され、これにより、内燃機関の音振性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施例の複リンク式ピストンクランク機構の構成説明図である。
図2】第1の実施例のロアリンクの斜視図である。
図3】第1の実施例のロアリンクの平面図である。
図4】基本形状を有したロアリンクを用いた場合および第1の実施例のロアリンクを用いた場合における、ヨー振動の振幅の変化をそれぞれ示すグラフである。
図5】基本形状を有したロアリンクを用いた場合、第1の実施例のロアリンクを用いた場合、および第2の実施例のロアリンクを用いた場合における、ヨー振動およびピッチ振動の大きさを示す説明図である。
図6】第2の実施例のロアリンクの平面図である。
図7】第3の実施例のロアリンクの平面図である。
図8】第3の実施例のロアリンクアッパの斜視図である。
図9】第4の実施例のロアリンクの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0012】
図1は、奇数気筒内燃機関、例えば直列3気筒内燃機関の各気筒に適用される第1の実施例の複リンク式ピストンクランク機構を示している。この複リンク式ピストンクランク機構は、ピストン1にピストンピン2を介して一端が連結されたアッパリンク3と、このアッパリンク3の他端にアッパピン(連結ピン)4を介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピン5に連結されたロアリンク6と、このロアリンク6の自由度を規制するコントロールリンク7と、を備えている。このコントロールリンク7は、一端が機関本体側の支持ピン8に揺動可能に支持され、他端がロアリンク6にコントロールピン(連結ピン)9を介して連結されている。なお、複リンク式ピストンクランク機構は、支持ピン8の位置を可変とすることで、可変圧縮比機構として構成することも可能である。
【0013】
ロアリンク6は、該ロアリンク6の単品として必要な剛性を確保するとともにロアリンク6の重量を最少とするように構成された基本形状に、この基本形状からクランクピン軸受部11の径方向外側に張り出した重り部10を付加した形状に形成されている。ロアリンク6は、金属材料、例えばSCR420Hによって形成されている。ここで、SCR420Hの比重は、7.8である。
【0014】
ロアリンク6の上記基本形状は、図2および図3に示すように、実線および破線で囲まれる菱形に近い平行四辺形をなしている。この基本形状は、図2および図3に示すように、中央のクランクピン軸受部11を挟んで互いに対向する2つの頂点12,13から平行に延びる一対の第1の直線部14,15と、該第1の直線部14,15との間に所定の傾斜角αを形成するように頂点12,13から平行に延びる一対の第2の直線部16,17と、頂点12,13とは反対側において、第1の直線部14および第2の直線部16同士並びに第1の直線部15および第2の直線部17同士を接続する2つの円弧部18,19と、によって構成されている。そして、第1の直線部14の一部、円弧部18および第2の直線部16の一部が、クランクピン5の軸方向両端側において、互いに対向する一対のアッパピン用ピンボス部20a,20aを構成している。一方、第1の直線部15の一部、円弧部19および第2の直線部17の一部が、クランクピン5の軸方向両端側において、互いに対向する一対のコントロールピン用ピンボス部21a,21a(図2には1つのみを図示)を構成している。アッパピン用ピンボス部20a,20aおよびコントロールピン用ピンボス部21a,21aは、ロアリンク6の中央に位置するクランクピン軸受部11を挟んで互いにほぼ180°反対側に位置している。
【0015】
アッパピン用ピンボス部20aには、クランクピン軸受部11よりも小さい直径を有し、アッパピン4が嵌合する円形のアッパピン嵌合孔22が形成されている。ここで、円弧部18は、アッパピン嵌合孔22と同心となっている。
【0016】
一方、コントロールピン用ピンボス部21aには、同じくクランクピン軸受部11よりも小さい直径を有し、コントロールピン9が嵌合する円形のコントロールピン嵌合孔23が形成されている。ここで、円弧部19は、コントロールピン嵌合孔23と同心となっている。
【0017】
このように構成されたロアリンク6の基本形状の重心G1は、クランクピン軸受部11の中心C1付近に位置している。
【0018】
また、ロアリンク6は、図2および図3に示すように、クランクピン軸受部11の中心C1を通る分割面24において、アッパピン用ピンボス部20a,20aを含むロアリンクアッパ6Aと、コントロールピン用ピンボス部21a,21aを含むロアリンクロア6Bと、の2部品に分割して形成されている。
【0019】
ロアリンクアッパ6Aおよびロアリンクロア6Bは、クランクピン軸受部11をクランクピン5に嵌め込んだ上で、2本のボルト25(図3参照)によって互いに締結されている。このようにロアリンクアッパ6Aとロアリンクロア6Bとが互いに締結された状態では、ロアリンク6は、アッパピン4やコントロールピン9と直交する平面に沿った2つの端面27,27(図2および図3には1つのみを図示)を備えている。
【0020】
各端面27のうち第1の直線部14とクランクピン軸受部11との間のロアリンクアッパ6Aの部位には、軽量化のために、クランクピン5の軸方向に窪んだ溝部28が形成されている。溝部28は、クランクピン5の軸方向から見たときの形状が概ね長方形をなしており、アッパピン嵌合孔22付近から頂点12付近まで連続している。
【0021】
同様に、各端面27のうちクランクピン軸受部11を挟んで溝部28と反対側のロアリンクロア6Bの部位には、軽量化のために、クランクピン5の軸方向に窪んだ溝部29が形成されている。溝部29は、クランクピン5の軸方向から見たときの形状が概ね長方形をなしており、コントロールピン嵌合孔23付近から頂点13付近まで連続している。
【0022】
また、各端面27のうち第2の直線部16とクランクピン軸受部11との間のロアリンクアッパ6Aの部位には、軽量化のために、クランクピン5の軸方向に窪んだ溝部30が形成されている。溝部30は、クランクピン5の軸方向から見たときの形状が概ね正方形をなしている。
【0023】
同様に、各端面27のうちクランクピン軸受部11を挟んで溝部30と反対側のロアリンクロア6Bの部位には、軽量化のために、クランクピン5の軸方向に窪んだ溝部31が形成されている。溝部31は、クランクピン5の軸方向から見たときの形状が概ね正方形をなしている。
【0024】
重り部10は、ロアリンクロア6Bのコントロールピン嵌合孔23側にロアリンクロア6Bと一体に形成されており、クランクピン軸受部11の中心C1付近に位置する上記基本形状の重心G1に対しロアリンク6の重心をコントロールピン嵌合孔23側にずらすことで、アッパリンク3の上下運動に伴う振動成分や、この振動成分に起因する内燃機関のヨー振動およびピッチ振動を抑制するものである。重り部10は、ロアリンクロア6Bにおいて、コントロールピン用ピンボス部21a,21aからクランクピン軸受部11の径方向外側に概ね扇形にそれぞれ張り出している。つまり、重り部10は、第1の直線部15の一部、円弧部19および第2の直線部17の一部から構成される概ねV字形状からクランクピン軸受部11の径方向外側に向かって、ロアリンク6の端面27に沿って張り出しており、クランクピン軸受部11の中心C1とコントロールピン嵌合孔23の中心C2とアッパピン嵌合孔22の中心C3とを通る線Eの両側に概ね均等に分布している。このように構成された重り部10の形状は、ロアリンク6が回転したときに、重り部10が図示せぬシリンダブロックに干渉しないようになっている。
【0025】
重り部10を含むロアリンク6の重心G2は、クランクピン軸受部11の中心C1よりもコントロールピン嵌合孔23側にずれた位置にある。さらに、重心G2は、線分C1-C2上において、ロアリンク6の基本形状の重心G1よりもコントロールピン嵌合孔23側にずれた位置にある。
【0026】
かかる複リンク式ピストンクランク機構において、ロアリンク6は、ピストン1が受けた燃焼圧力をアッパリンク3を介してアッパピン4により受け取り、コントロールピン9を支点とする揺動動作によりクランクピン5に力を伝達する。
【0027】
図4は、概ね平行四辺形の基本形状を有したロアリンクつまり重り部なしのロアリンクを用いた場合および第1の実施例のロアリンク6を用いた場合における、直列3気筒内燃機関に生じるヨー振動の振幅の変化をそれぞれ示している。図4において、横軸は、時間を示し、一方、縦軸は、ヨー振動の大きさを示している。破線は、重り部なしのロアリンクを用いた場合のヨー振動の振幅の変化を示しており、一方、実線は、第1の実施例のロアリンク6を用いた場合のヨー振動の振幅の変化を示している。
【0028】
図4に示すように、第1の実施例のロアリンク6を用いた場合のヨー振動の振幅は、重り部なしのロアリンクを用いた場合のヨー振動の振幅よりも小さくなっている。従って、ロアリンクロア6Bに重り部10を付加することにより、直列3気筒内燃機関に生じるヨー振動が低減したことが分かる。
【0029】
上記のように、第1の実施例では、重り部10は、第1の直線部15の一部、円弧部19および第2の直線部17の一部から構成される概ねV字形状からクランクピン軸受部11の径方向外側に張り出している。従って、重り部10を含むロアリンク6の重心G2は、ロアリンク6の最低限の剛性を確保するために設定された概ね平行四辺形の基本形状の重心G1に対して、コントロールピン嵌合孔23側にずれた位置にある。これにより、アッパリンク3の上下運動に伴う振動成分の発生が抑制され、さらに、この振動成分に伴って直列3気筒内燃機関に生じるヨー振動およびピッチ振動が減少する。つまり、図5に示すように、第1の実施例のロアリンク6(点B)を用いた場合におけるヨー振動およびピッチ振動の大きさは、概ね平行四辺形の基本形状を有したロアリンクつまり重り部なしのロアリンク(点A)を用いた場合におけるヨー振動およびピッチ振動の大きさよりも小さくなっている。従って、ヨー振動およびピッチ振動に起因する直列3気筒内燃機関の音振性能が向上する。
【0030】
なお、図5では、横軸のピッチ振動の大きさは、図5の右側へ向かうほどピッチ振動が大きくなっていることを示し、一方、縦軸のヨー振動の大きさは、図5の上側に向かうほどヨー振動が大きくなっていることを示している。
【0031】
また、燃費の向上を目的として、複リンク式ピストンクランク機構がロングストローク化する場合には、直列3気筒内燃機関の音振性能がさらに悪化する虞があるが、第1の実施例のロアリンク6は、上記のようなロングストローク化した複リンク式ピストンクランク機構に対しても音振性能を向上させることができる。
【0032】
図6は、第2の実施例のロアリンク6を示している。
【0033】
第2の実施例では、図5に示すように、ロアリンクロア6Bの重り部26は、中心C1と中心C2と中心C3とを通る線Eよりも上側に多く分布している。
【0034】
これに伴い、重り部26を含むロアリンク6の重心G3は、線Eよりも上側に位置している。
【0035】
第2の実施例のような線Eよりも上側にずれた重心G3を有したロアリンク6により、アッパリンク3の上下運動に伴う振動成分の発生がさらに抑制され、直列3気筒内燃機関に生じるヨー振動がさらに低減する。つまり、図5に示すように、第2の実施例のロアリンク6(点C)を用いた場合におけるヨー振動の大きさは、第1の実施例のロアリンク6(点B)を用いた場合におけるヨー振動の大きさよりも小さくなっている。これにより、直列3気筒内燃機関の音振性能がさらに向上する。
【0036】
図7は、第3の実施例のロアリンク6を示している。
【0037】
第3の実施例では、ロアリンク6は、該ロアリンク6の単品として必要な剛性を確保するとともにロアリンク6の重量を最少とするように構成された上述の平行四辺形の基本形状に形成されている。ロアリンク6では、中心C1、中心C2および中心C3を通る線Eと直交する線Fよりもアッパピン嵌合孔22側に、比重が7.8であるSCR420Hからなるコントロールピン嵌合孔23側よりも比重の小さい材料からなる軽量部32が設けられている。この軽量部32は、図7および図8にドットで示す第1~第3小軽量部32a,32b,32cを有し、合成樹脂材料、例えばコウベライトKM-9000によって構成されている。ここで、コウベライトKM-9000の比重は、1.32である。
【0038】
溝部28の底部28aのうちアッパピン嵌合孔22およびクランクピン軸受部11に近い部位は、図8に示すようにアッパピン用ピンボス部20aの厚さよりも小さい部位となっており、この部位に、クランクピン5の軸方向に貫通した概ね円形の第1孔部33が貫通形成されている。この第1孔部33には、図7および図8に示すように、コウベライトKM-9000からなる第1小軽量部32aが充填されている。
【0039】
また、第1の直線部14に沿った方向において溝部28の底部28aの中央の部位は、図8の手前側の溝部28の底部28aから図8の奥側の図示せぬ溝部の底部まで連続した比較的肉厚の部位となっており、この部位に、クランクピン5の軸方向に貫通した概ね円形の第2孔部34が貫通形成されている。この第2孔部34には、コウベライトKM-9000からなる第2小軽量部32bが充填されている。
【0040】
さらに、溝部30の底部30aのうち第2の直線部16側のほぼ半分の部位は、図8に示すようにアッパピン用ピンボス部20aの厚さよりも小さい部位となっており、この部位に、クランクピン5の軸方向に貫通した第3孔部35が貫通形成されており、この第3孔部35に、コウベライトKM-9000からなる第3小軽量部32cが充填されている。
【0041】
第1小軽量部32aの外周面と第1孔部33の内周面との間の結合、第2小軽量部32bの外周面と第2孔部34の内周面との間の結合、ならびに第3小軽量部32cの外周面と第3孔部35の内周面との間の結合は、周知の異種材料結合方法によって行われる。
【0042】
なお、第1~第3孔部33,34,35からの第1~第3小軽量部32a,32b,32cの脱落を抑制するために、第1~第3孔部33,34,35の内周面に凹凸を設けるようにしても良い。
【0043】
また、第3の実施例では、第1の直線部14の一部、円弧部18および第2の直線部16の一部から構成されるロアリンクアッパ6Aの概ねV字形状の部位や、この部位と連続するアッパピン嵌合孔22の周囲の円弧状の部位(アッパピン嵌合孔22と第1、第3小軽量部32a,32cとの間の部位)には、小軽量部を設けておらず、SCR420Hからなる金属部分が連続している。上記概ねV字形状の部位や円弧状の部位にはピストンおよびアッパリンクの上下運動に起因した荷重が作用しやすいので、この荷重に耐える剛性を確保するため、このように金属部分を残すようにしてある。
【0044】
第1~第3小軽量部32a,32b,32cを含むロアリンク6の重心G4は、クランクピン軸受部11の中心C1よりもコントロールピン嵌合孔23側にずれた位置にある。さらに、重心G4は、線分C1-C2上において、ロアリンク6の基本形状の重心G1よりもコントロールピン嵌合孔23側にずれた位置にある。
【0045】
上記のように、第3の実施例では、ロアリンク6の線Fよりもアッパピン嵌合孔22側に、コントロールピン嵌合孔23側よりも比重の小さい材料からなる第1~第3小軽量部32a,32b,32cが設けられている。従って、第1~第3小軽量部32a,32b,32cを含むロアリンク6の重心G4は、ロアリンク6の最低限の剛性を確保するために設定された概ね平行四辺形の基本形状の重心G1に対して、コントロールピン嵌合孔23側にずれた位置にある。これにより、アッパリンク3の上下運動に伴う振動成分の発生が抑制され、さらに、この振動成分に伴って直列3気筒内燃機関に生じるヨー振動およびピッチ振動が減少する。
【0046】
図9は、第4の実施例のロアリンク6を示している。
【0047】
第4の実施例のロアリンク6は、第3の実施例のロアリンク6のロアリンクロア6Bのコントロールピン嵌合孔23側に、第1の実施例の重り部10よりも外形が小さい重り部36を付加したものである。従って、第1~第3小軽量部32a,32b,32cおよび重り部36を含むロアリンク6の重心G5は、線分C1-C2上において、第3の実施例の重心G4よりもコントロールピン嵌合孔23側にずれた位置にある。
【0048】
第4の実施例のように、第1~第3小軽量部32a,32b,32cおよび小型の重り部36を含むロアリンク6によっても、コントロールピン嵌合孔23側に重心G5がずれた構成が得られる。従って、小型の重り部36により、重り部36とシリンダブロックとの干渉を効果的に抑制しながら、直列3気筒内燃機関に生じるヨー振動およびピッチ振動を減少させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1・・・ピストン
3・・・アッパリンク
6・・・ロアリンク
6A・・・ロアリンクアッパ
6B・・・ロアリンクロア
7・・・コントロールリンク
10・・・重り部
11・・・クランクピン軸受部
14,15・・・第1の直線部
16,17・・・第2の直線部
18,19・・・円弧部
23・・・コントロールピン嵌合孔
26・・・重り部
C1,C2,C3・・・中心
G1,G2,G3,G4,G5・・・重心
32・・・軽量部
32a,32b,32c・・・第1~第3小軽量部
33,34,35・・・第1~第3孔部
36・・・重り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9