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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】タイヤ種判別方法及びタイヤ種判別装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20220728BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B60C19/00 H
G01H17/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018150858
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020026164
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】石井 啓太
(72)【発明者】
【氏名】林 一夫
(72)【発明者】
【氏名】川眞田 智
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 知幸
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026111(JP,A)
【文献】特開2016-107833(JP,A)
【文献】特開2018-004418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0274607(US,A1)
【文献】特表2016-537259(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0207340(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0190223(US,A1)
【文献】国際公開第2017/103474(WO,A1)
【文献】特開2006-131137(JP,A)
【文献】特表2010-521364(JP,A)
【文献】特開2003-312220(JP,A)
【文献】特開平09-188114(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02547937(GB,A)
【文献】特開2014-035279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
B60C 23/06
G01H 17/00
B60W 40/12-40/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取付けられたタイヤのタイヤトレッド内面側に装着された加速度センサーの出力から前記タイヤの種類であるタイヤ種を判別する方法であって、
前記加速度センサーの出力から加速度波形を検出するステップと、
前記加速度波形から特徴ベクトルを抽出するステップと、
前記抽出された特徴ベクトルから、機械学習アルゴリズムにより、前記タイヤのタイヤ種を判別するステップと、を備え、
前記特徴ベクトルが、前記加速度波形の特定の周波数領域の振動レベルであり、
前記タイヤ種を判別するステップでは、
前記抽出された特徴ベクトルと、予めタイヤ種毎に求めておいた特徴ベクトルを学習データとして構築した判別モデルとに基づいて、前記タイヤのタイヤ種を判別することを特徴とするタイヤ種判別方法。
【請求項2】
前記特徴ベクトルの成分に、タイヤ内圧及びタイヤ内温度のいずれか一方または両方を追加したことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ種判別方法。
【請求項3】
前記機械学習アルゴリズムが、サポートベクトルマシーンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイヤ種判別方法。
【請求項4】
前記特徴ベクトルを抽出するステップでは、
前記検出された加速度波形に所定の時間幅の窓関数をかけて時間窓毎の時系列波形を抽出し、この時間窓毎の時系列波形からそれぞれ特徴ベクトルを算出し、
タイヤ種を判別するステップでは、
前記算出された時間窓毎の特徴ベクトルと、予め算出しておいたタイヤ種毎に求められた加速度波形から算出された時間窓毎の特徴ベクトルであるタイヤ種特徴ベクトルとからカーネル関数を算出した後、
前記カーネル関数を用いた識別関数の値に基づいて当該タイヤのタイヤ種を判別することを特徴とする請求項に記載のタイヤ種判別方法。
【請求項5】
前記機械学習アルゴリズムが決定木であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイヤ種判別方法。
【請求項6】
前記特徴ベクトルが、前記加速度波形の特定の周波数領域の振動レベルの演算値であることを特徴とする請求項に記載のタイヤ種判別方法。
【請求項7】
前記機械学習アルゴリズムが、ニューラルネットワークであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイヤ種判別方法。
【請求項8】
前記特徴ベクトルが、前記加速度波形の特定の周波数領域の振動レベルの演算値であることを特徴とする請求項に記載のタイヤ種判別方法。
【請求項9】
車両に取付けられたタイヤの種類であるタイヤ種を判別する装置であって、
前記タイヤのタイヤトレッド内面側に装着された加速度センサーと、
前記加速度センサーの出力から加速度波形を抽出する加速度波形抽出手段と、
前記加速度波形から特徴ベクトルを抽出する特徴ベクトル抽出手段と、
前記抽出された特徴ベクトルから、機械学習アルゴリズムにより、前記タイヤのタイヤ種を判別するタイヤ種判別手段と、を備え、
前記特徴ベクトルが、前記加速度波形の特定の周波数領域の振動レベルであり、
前記タイヤ種判別手段
前記抽出された特徴ベクトルと、予めタイヤ種毎に求めておいた特徴ベクトルを学習データとして構築した判別モデルとに基づいて、前記タイヤのタイヤ種を判別することを特徴とするタイヤ種判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されたタイヤに入力する加速度のデータを用いてタイヤの種類を判別する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に取付けられたタイヤ種(サマー/スタッドレスなど)やブランド種(○○社の△△というタイヤなど)などの情報は、タイヤの刻印を人が見るか、RFID等の装着が必要となるが、車両側から知りうる手段はない。
もし、車両側にて、搭載しているタイヤの種類に関する情報を入手できれば、これらの情報を車両制御装置に送って、例えば、ABSの作動タイミングを、タイヤ種に適したものに切り替えるなどすることにより、車両の走行性能の改善が期待できる。
従来、タイヤ種を判別する方法として、高速道路の料金所から所定距離以内の路面に2軸方向もしくは3軸方向の振動を計測する振動センサーを取り付け、この振動センサーで検出された路面の振動の周波数特性を解析することで、前記振動センサーが取り付けられた路面を通過した車両が搭載したタイヤが夏タイヤであるか冬タイヤであるかを判別する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、この特許文献1では、判別されたタイヤ種が季節に適したタイヤでない場合(例えば、冬に夏タイヤを装着している場合)には、タイヤを冬タイヤに交換しなければ、料金所を通過させないようにすることで、高速道路での走行の安全を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-43147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の方法においては、タイヤ種を判別した車両を特定は、振動センサーを通過した車両が、振動センサーの設置箇所から所定のコースを通って料金所に到達した時点で、料金所の管理人等によりなされることから、一般道路でのタイヤ種の判別が困難であった。
また、前記従来の方法では、タイヤ種を判別するため、道路に振動センサーを取り付ける必要があるだけでなく、車両側からのタイヤ種の判別ができなかった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、車両側から走行中のタイヤのタイヤ種を判別する方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両に取付けられたタイヤのタイヤトレッド内面側に装着された加速度センサーの出力から前記タイヤの種類であるタイヤ種を判別する方法であって、前記加速度センサーの出力から加速度波形を検出するステップと、前記加速度波形から特徴ベクトルを抽出するステップと、前記抽出された特徴ベクトルから、サポートベクトルマシーン、決定木、あるいは、ニューラルネットワークなどの機械学習のアルゴリズムにより、前記タイヤのタイヤ種を判別するステップと、を備え、前記特徴ベクトルが、前記加速度波形の特定の周波数領域の振動レベルであり、前記タイヤ種を判別するステップでは、前記抽出された特徴ベクトルと、予めタイヤ種毎に求めておいた特徴ベクトルを学習データとして構築した判別モデルとに基づいて、前記タイヤのタイヤ種を判別することを特徴とする。
これにより、車両に装着されたタイヤのタイヤ種を車両側にて判別することができるので、このタイヤ種の情報を用いて車両制御を行えば車両の走行安全性能を向上させることができる。
【0007】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態1に係るタイヤ種判別装置の構成を示す図である。
図2】センサーの装着位置の一例を示す図である。
図3】タイヤ振動の時系列波形の一例を示す図である。
図4】タイヤ振動の時系列波形から特徴ベクトルを算出する方法を示す図である。
図5】本実施の形態1に係るタイヤ種判別方法を示すフローチャートである。
図6】本実施の形態2に係るタイヤ種判別装置の構成を示す図である。
図7】前半波形と後半波形との分け方を示す図である。
図8】決定木の一例を示す図である。
図9】本実施の形態2に係るタイヤ種判別方法を示すフローチャートである。
図10】本実施の形態3に係るタイヤ種判別装置の構成を示す図である。
図11】ニューラルネットワークの一例を示す図である。
図12】本実施の形態3に係るタイヤ種判別方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1に係るタイヤ種判別装置10の構成を示す図で、タイヤ種判別装置10は、加速度センサー11と、圧力センサー12と、温度センサー13と、加速度波形抽出手段14と、窓掛け手段15と、特徴ベクトル算出手段16と、タイヤ種判別手段17とを備える。
加速度波形抽出手段14~タイヤ種判別手段17の各手段は、例えば、コンピュータのソフトウェア、及び、RAM等のメモリーから構成される。
以下、加速度波形抽出手段14~タイヤ種判別手段17を演算部10Cという。
加速度センサー11は、図2に示すように、タイヤ1のインナーライナー部2のタイヤ気室3側のほぼ中央部に配置されて、路面から当該タイヤ1のトレッド4に入力する振動を加速度として検出する。本例では、加速度センサー11の検出方向をタイヤ周方向になるように配置して、路面から入力するタイヤ周方向振動を検出する。以下、加速度センサー11の位置(厳密には、加速度センサー11の径方向外側にあるトレッド4表面の位置)を計測点という。
また、圧力センサー12と温度センサー13とは、リム5のタイヤ気室3側に配置されて、それぞれ、タイヤ1内の空気圧(以下、内圧Pという)とタイヤ気室3内の温度Tとを計測する。
本例では、演算部10Cについても、タイヤ1内に配置するとともに、タイヤ種の判定結果を、例えば、送信機10Fにより、車体側に設けられた図示しない車両制御装置に送るようにしている。
【0010】
加速度波形抽出手段14は、加速度センサー11で検出したタイヤ振動の信号から、タイヤの一回転毎に、タイヤ振動の時系列波形である加速度波形を抽出する。
図3は加速度波形の一例を示す図で、タイヤ振動の加速度波形は、踏み込み位置近傍と蹴り出し位置近傍に大きなピークを有しており、かつ、タイヤ1の陸部が接地する前の踏み込み前領域Rfにおいても、タイヤ1の陸部が路面から離れた後の蹴り出し後領域Rkにおいても、タイヤ種によって異なる振動が出現する。一方、踏み込み前領域Rfの前の領域と蹴り出し後領域Rkの後の領域(以下、路面外領域という)とでは、振動レベルも小さく、タイヤ種の情報も含んでいない。
窓掛け手段15は、図4に示すように、前記抽出された加速度波形を予め設定した時間幅(時間窓幅ともいう)Tで窓掛けし、時間窓毎にタイヤ振動の時系列波形を抽出して特徴ベクトル算出手段16に送る。
時間窓毎に抽出されたタイヤ振動の時系列波形のうち、踏み込み前領域Rf、接地面領域Rt、及び、蹴り出し後領域Rkのいずれも含んでいない領域(以下、路面外領域という)の時系列波形は、前述したように、情報も含んでいないので、本例では、カーネル関数の計算速度を速めるため、路面外領域の波形は特徴ベクトル算出手段16には送らないようにしている。
なお、路面外領域の定義としては、例えば、加速度波形に対してバックグラウンドレベルを設定し、このバックグラウンドレベルよりも小さな振動レベルを有する領域を路面外領域とすればよい。
【0011】
特徴ベクトル算出手段16は、図4に示すように、抽出された各時間窓の加速度波形のそれぞれに対して、加速度波形から算出されるk個の加速度データaikと、圧力センサー12で計測した内圧Paと、温度センサー13で計測したタイヤ気室3内の温度Taとを成分としたN個の特徴ベクトルXiを求める。
ここで、Nは抽出された時間窓の加速度波形の数である。
本例では、各時間窓の加速度波形を、それぞれ、0-1kHz、1-2kHz、2-3kHz、3-4kHz、4-5kHzのバンドパスフィルタにそれぞれ通して得られた特定周波数帯域の振動レベル(フィルター濾過波のパワー値)を加速度データaik(k=1~6)とした。
すなわち、特徴ベクトルは、Xi=(ai1,ai2,ai3,ai4,ai5,ai6,ai7,ai8)で、ai7=Paで、ai8=Taである。
【0012】
タイヤ種判別手段17は、カーネル関数算出部17aと、タイヤ種判別部17bと、記憶部17Mとを備え、機械学習アルゴリズムの手法の1つであるサポートベクトルマシーン(SVM)を用いて、車両に装着されているタイヤ1のタイヤ種を判別する。
ここで、タイヤ種を判別するためのタイヤ種モデルについて説明する。
タイヤ種モデルは、それぞれに、加速度センサー11と圧力センサー12と温度センサー13とが取り付けられた、互いに異なるタイヤ種A,B,Cのタイヤを搭載した試験車両を様々な速度で走行させて得られた加速度波形から算出された時間窓毎の特徴ベクトルであるタイヤ種特徴ベクトルYZ(yjk)を学習データとして、SVMにより構築される(K=A.B,C)。以下、YZ(yjk)を、単にYZと記す。
タイヤ種A,B,Cとしては、例えば、メーカーの異なる3種類のサマータイヤなどが考えられる。
なお、タイヤ種特徴ベクトルYKの算出方法は、特徴ベクトルXiと同様で、その成分は、加速度波形から算出されるk個の加速度データbjkと、圧力センサー12で計測した内圧Pbと、温度センサー13で計測したタイヤ気室3内の温度Tbである。
記憶部17Mは、予め求めておいた、タイヤ種Aのタイヤとそれ以外のタイヤ種のタイヤ、タイヤ種Bのタイヤとそれ以外のタイヤ種のタイヤ、タイヤ種Cのタイヤとそれ以外のタイヤ種のタイヤとを、分離超平面を表わす識別関数fK(x)により分離するための3つのタイヤ種モデルを記憶する(Z=A,B,C)。
タイヤ種モデルは、タイヤ種特徴ベクトルYZのうち、識別関数fZ(x)からの距離が小さいタイヤ種特徴ベクトルYZSv(例えば、ラグランジュ乗数λZが、λ≧0.3)と、このYKSvに対応するラグランジュ乗数λZとから構成される。
以下、上記のYZSVを基準特徴ベクトルという。
【0013】
カーネル関数算出部17aは、特徴ベクトル算出手段16により算出された特徴ベクトルXiと、記憶部17Mに記憶された基準特徴ベクトルYZSv及びラグランジュ乗数λZとからカーネル関数KZ(X,Y)を算出する。
本例では、カーネル関数KZ(X,Y)として、グローバルアライメントカーネル関数(GAカーネル)を用いた。
GAカーネルKZ(X,Y)は、以下の式により算出される。
[数1]
ここで、κij(Xi,Y)は、ローカルカーネルで、GAカーネルKZ(X,Y)は、ローカルカーネルκij(Xi,Y)の総和もしくは総積から求められる。
また、上記のように、時間窓幅Tは一定なので、窓の数M,Nは、車速(厳密には車輪回転速度)に依存するが、本例のように、カーネル関数としてGAカーネルKGZ(X,Y)を用いることにより、時間窓毎の加速度波形の数M,Nとが異なっている場合でも、タイヤ種の判別を精度よく行うことができる。
【0014】
タイヤ種判別手段17では、以下の式(3)~(5)に示す、カーネル関数KZ(X,Y)を用いた識別関数fZ(x)の値に基づいてタイヤ種を判別する(Z=A,B,C)。
[数2]
Aはタイヤ種Aのタイヤとそれ以外のタイヤ種のタイヤとを識別する識別関数、fBはタイヤ種Bのタイヤとそれ以外のタイヤ種のタイヤとを識別する識別関数、fCはタイヤ種Cのタイヤとそれ以外のタイヤ種のタイヤとを識別する識別関数である。
また、NASVはタイヤ種モデルAのサポートベクトルの数、NBSVはタイヤ種モデルBのサポートベクトルの数、NCSVはタイヤ種モデルCのサポートベクトルの数である。
本例では、識別関数fA,fB,fCをそれぞれ計算し、計算された識別関数fKの最も大きな値を示す識別関数からタイヤ種を判別する。
【0015】
次に、タイヤ種判別装置10を用いたタイヤ種判別方法について、図5のフローチャートを参照して説明する。
なお、本例では、タイヤ種の判別をタイヤ1回転毎に行うとともに、N回転の多数決でタイヤ種を判別する。本例では、回転数Nを100回とした。
まず、加速度センサー11によりタイヤ1に入力する加速度を検出するとともに、圧力センサー12と温度センサー13にて、内圧Paとタイヤ内温度Taとを計測する(ステップS10)。
次に、検出された加速度信号から、タイヤ振動の時系列波形である加速度波形を抽出(ステップS11)した後、この加速度波形に時間幅Tで窓掛けして、時間窓毎の時系列波形を求める(ステップS12)。
次に、抽出された各時間窓の時系列波形のそれぞれに対して特定周波数帯域の振動レベル(フィルター濾過波のパワー値)を算出して、これらを特徴ベクトルXiの成分である加速度データaik(k=1~6)とするとともに、特徴ベクトルXiの成分に内圧Paとタイヤ内温度Taとを追加する(ステップS13)。
すなわち、特徴ベクトルは、Xi=(ai1,ai2,ai3,ai4,ai5,ai6,ai7,ai8)で、ai7=Paで、ai8=Taである。
次に、算出された特徴ベクトルXiと、タイヤ種判別手段17の記憶部17Mに記録されているタイヤ種モデルのサポートベクトルYZとから、タイヤ種ZのGAカーネル関数KZ(X,Y)を算出する(ステップS14)。
そして、カーネル関数KZ(X,Y)を用いた3つの識別関数fA(x),fB(x),fC(x)をそれぞれ計算(ステップS15)した後、計算された識別関数fZ(x)の値を比較して、最も大きな値を示す識別関数のタイヤ種を当該タイヤ1の走行している路面のタイヤ種と判別する(ステップS16)。
次に、タイヤがN回転したか否か、すなわち、判別をN回行ったか否かを判定(ステップS17)し、判別がN回未満である場合は、ステップS10に戻って、加速度の検出と内圧Pa及びタイヤ内温度Taの計測を行う。
ステップS17にて、判別回数がN回に達した場合には、判定結果の頻度の最も高いタイヤ種を、当該タイヤのタイヤ種とする(ステップS18)。
具体的には、タイヤ種がAと判定された回数をnA、タイヤ種がBと判定された回数をnB、タイヤ種がCと判定された回数をnC(nA+nB+nC=N)としたとき、nZが最大のタイヤ種を当該タイヤのタイヤ種とする。
【0016】
このように、本実施の形態1では、タイヤ1に装着された加速度センサー11の出力波形である加速度波形から車両に装着されたタイヤのタイヤ種を判別するようにしたので、車両側にてタイヤ種の判別することが可能となった。
また、加速度波形から抽出した特徴ベクトルXiと、予めタイヤ種毎に求めておいた特徴ベクトルを学習データとして構築した判別モデルとに基づいて、タイヤ種を判別するようにしたので、タイヤ種の判別精度が向上した。
また、機械学習アルゴリズムとして、サポートベクトルマシーンを用いるとともに、カーネル関数として、GAカーネル関数KZ(X,Y)を用いたので、車速に依存せずタイヤ種の判別を行うことができる。
また、特徴ベクトルXiの成分に、内圧Paとタイヤ内温度Taとを追加したので、タイヤ種の判別精度が更に向上した。
【0017】
なお、前記実施の形態1では、タイヤ種ZをA,B,Cの、メーカーの異なる3種類のサマータイヤとしたが、例えば、サマータイヤとスタッドレスタイヤの2種類としてもよい。あるいは、トレッドパターンの異なる4種類以上のスタッドレスタイヤとしてもよい。
また、前記実施の形態1では、特徴ベクトルXiの成分である加速度データaikをフィルター濾過波のパワー値xikとしたが、フィルター濾過波のパワー値xikの時変分散を用いてもよい。時変分散はlog[xik(t)2+xik(t-1)2]で表わせる。
あるいは、特徴ベクトルXiの成分である加速度データaikを、タイヤ振動時系列波形をフーリエ変換したときの特定周波数帯域の振動レベルであるフーリエ係数、もしくは、ケプストラム係数としてもよい。
ケプストラムは、フーリエ変換後の波形をスペクトル波形とみなし、再度フーリエ変換して得られるか、もしくは、ARスペクトルを波形とみなし、更にAR係数を求めて得られる(LPC Cepstrum)もので、絶対レベルに影響されずにスペクトルの形状を特徴付けできるので、フーリエ変換により得られる周波数スペクトルを用いた場合よりも判別精度が向上する。
また、前記実施の形態1では、加速度センサー11の検出方向をタイヤ周方向になるように配置たが、検出方向をタイヤ径方向とし、径方向加速度波形または径方向加速度波形の微分波形から特徴ベクトルXiの成分である加速度データaikを抽出してもよい。
【0018】
実施の形態2.
前記実施の形態1では、機械学習アルゴリズムとして、サポートベクトルマシーンを用いたが、決定木による分類でもタイヤ種を判別することができる。
図6は、本実施の形態2に係るタイヤ種判別装置20の構成を示す図で、タイヤ種判別装置20は、加速度センサー11と、加速度波形抽出手段14と、波形処理手段25と、特徴ベクトル算出手段26と、タイヤ種判別手段27とを備える。同図において、符号20Cは演算部で、演算部10Cと同様に、例えば、コンピュータのソフトウェア、及び、RAM等のメモリーから構成されて、タイヤ1内に配置される。
なお、実施の形態1と同一符号のものは、実施の形態1と同様の構成であるので、その説明を省略する。
波形処理手段25は、前記抽出された加速度波形を、それぞれ、LPF、及び、HPFを通過させることで、所定の周波数成分のみを有する加速度波形(以下、フィルター後波形という)に変換するとともに、フィルター後波形の前半の波形と後半の波形とを抽出する。なお、前半の波形とは、図7に示すように、路面領域が始まる時刻から、接地中心(踏み込み点Pfの時刻と蹴り出し点Pkの時刻との中間)の時刻までの波形を指し、後半の波形とは、接地中心の時刻から路面領域が終わるまでの波形を指す。
また、本例では、1kHz以下の周波数成分のみを取出すLPFと、2kHz以上の周波数成分のみを取出すHPFとを用いた。
特徴ベクトル算出手段26は、これら前半の波形と後半の波形とから、前半1kHz以下のRMS値P11、後半1kHz以下のRMS値P21、前半2kHz以上のRMS値P12、後半2kHz以上のRMS値P22とを算出するとともに、これらのRMS値から、第1~第3の判定値Qkを算出し、これら判定値Qkを特徴ベクトルXの成分とする。
本例では、Q1=P12/P11、Q2=P12/P22、Q3=P11/P12とした。
すなわち、特徴ベクトルX=(Q1,Q2,Q3)である。
なお、加速度の大きさは、タイヤ回転速度に依存するので、本例のように、特徴ベクトルXの成分としてRMS値Pの比である判定値Qを用いれば、タイヤ回転速度の影響を低減できる。
【0019】
タイヤ種判別手段27は、タイヤ種判別部27aと、記憶部27Mとを備え、機械学習アルゴリズムの手法の1つである「決定木」を用いて、車両に装着されているタイヤ1のタイヤ種を判別する。
「決定木」は、図8に示すように、複数の分岐(node-1~node-3)と、この分岐に設けられた条件式とを備える。
本例では、条件式を、Q1≧SH1、Q2≧SH2、及び、Q3≧SH3とした。
条件式に用いられる第1~第3閾値SH1、SH2、及び、SH3と、この条件式をどの分岐に配置するかは、加速度センサー11を取り付けた複数種のタイヤ(ここでは、夏タイヤと冬タイヤの2種類)を搭載した試験車両を様々な速度で走行させて得られた加速度波形から算出された複数の特徴ベクトルX=(Q1j,Q2j,Q3j)を訓練データとして学習により求められ、記憶部27Mに「タイヤ種ツリー」として記憶される。
タイヤ種判別部27aでは、特徴ベクトル算出手段26で算出された特徴ベクトルX=(Q1,Q2,Q3)を、記憶部27Mに記憶された「タイヤ種ツリー」の各分岐に入力させることで、当該タイヤのタイヤ種を判別する。
【0020】
次に、タイヤ種判別装置20を用いたタイヤ種判別方法について、図9のフローチャートを参照して説明する。
なお、本例でも、タイヤ種の判別をタイヤ1回転毎に行うとともに、N回転の多数決でタイヤ種を判別する。
まず、加速度センサー11によりタイヤ1に入力する加速度を検出(ステップS20)した後、検出された加速度信号から、タイヤ振動の時系列波形である加速度波形を抽出する(ステップS21)。
次に、加速度波形からフィルター後波形を求め(ステップS22)た後、フィルター後波形の前半の波形と後半の波形とを抽出する(ステップS23)。
次に、抽出した前半のフィルター後波形と後半のフィルター後波形とから、4つのRMS値P11、P21、P12、及び、値P22を算出する(ステップS24)。
ステップS25では、これらのRMS値から判定値Q1、Q2、Q3を算出して、これらを「タイヤ種ツリー」に入力させる特徴ベクトルの成分とし、ステップS25では、特徴ベクトルを「タイヤ種ツリー」に入力させて、当該タイヤのタイヤ種を判別する。
ステップS26の詳細は以下の通りである。
まず、ステップS261では、第1の判定値Q1と第1の閾値SH1とを比較し、Q1<SH1であればタイヤが冬タイヤ(Winter)であると判別し、Q1≧SH1であればステップS262に進み、第2の判定値Q2と第2の閾値SH2とを比較する。そして、Q2≧SH2であればタイヤが夏タイヤ(Summer)であると判別し、Q2<SH2であれば、ステップS263に進み、第3の判定値Q3と第3の閾値SH3とを比較する。そして、Q3≧SH3であればタイヤが冬タイヤであると判別し、Q<SH3であれば、タイヤが夏タイヤであると判別する。
1回転分のタイヤ種の判別後には、タイヤがN回転したか否か、すなわち、判別をN回行ったか否かを判定(ステップS26)し、判別がN回未満である場合は、ステップS20に戻って、加速度の検出を行う。本例においても、回転数Nを100回とした。
ステップS26にて、判別回数がN回に達した場合には、判定結果の頻度の最も高いタイヤ種を、当該タイヤのタイヤ種とする)。
具体的には、タイヤ種が夏タイヤ判定された回数をnS、冬タイヤと判定された回数をnWとしたとき、nS>nWである場合には当該タイヤのタイヤ種を夏タイヤと判定し、nS<nWである場合には当該タイヤのタイヤ種を冬タイヤと判定とする。
【0021】
実施の形態3.
前記実施の形態2では、機械学習アルゴリズムとして「決定木」を用いたが、ニューラルネットワークによる分類でもタイヤ種を判別することができる。
図10は、本実施の形態3に係るタイヤ種判別装置30の構成を示す図で、タイヤ種判別装置30は、加速度センサー11と、加速度波形抽出手段14と、波形処理手段25と、特徴ベクトル算出手段26と、タイヤ種判別手段37とを備える。同図において、符号30Cは演算部で、演算部20Cと同様に、例えば、コンピュータのソフトウェア、及び、RAM等のメモリーから構成されて、タイヤ1内に配置される。
なお、実施の形態2と同一符号のものは、実施の形態2と同様の構成であるので、その説明を省略する。
タイヤ種判別手段37は、タイヤ種判別部37aと、記憶部37Mとを備え、機械学習アルゴリズムの手法の1つであるニューラルネットワークを用いて、車両に装着されているタイヤ1のタイヤ種を判別する。
ニューラルネットワークは、図11に示すように、入力層(xk)、中間層(hk)、出力層(yk)の3つの層から構成される。なお、中間層を2層以上としてもよい。
入力層、中間層、出力層は、それぞれが、同図の丸印で示す、1つ1つがある関数を有する複数個のニューロンから構成され、かつ、後の層のニューロンは前の層の全てのニューロンと、学習により更新可能なパラメータである重みWn,mよりシナプス結合されている。
記憶部37Mには、加速度センサー11を取り付けた複数種のタイヤ(ここでは、夏タイヤと冬タイヤの2種類)を搭載した試験車両を様々な速度で走行させて得られた加速度波形から算出された複数の特徴ベクトルY=(Q1j,Q2j,Q3j)を教師データとして学習により求められた、入力層(xk)、中間層(hk)、出力層(yk)のニューロン数や重みWn,m等のパラメータが「タイヤ種NNW」として記憶されている。
タイヤ種判別部37aでは、入力データxk(k=1~n)を、特徴ベクトル算出手段26で算出された第1~第3の判定値Qk(k=1,2,3)とし、これらの判定値Qkを有するタイヤが夏タイヤであるか、冬タイヤであるかを判定する。
タイヤ種の判定方法としては、例えば、出力値を0≦y≦1とし、y≧0.5なら夏タイヤ、y<0.5なら冬タイヤとすればよい。
【0022】
次に、タイヤ種判別装置30を用いたタイヤ種判別方法について、図12のフローチャートを参照して説明する。
なお、本例でも、タイヤ種の判別をタイヤ1回転毎に行うとともに、N回転の多数決でタイヤ種を判別する。本例においても、回転数Nを100回とした。
まず、加速度センサー11によりタイヤ1に入力する加速度を検出(ステップS30)した後、検出された加速度信号から、タイヤ振動の時系列波形である加速度波形を抽出する(ステップS31)。
次に、加速度波形からフィルター後波形を求め(ステップS32)た後、フィルター後波形の前半の波形と後半の波形とを抽出する(ステップS33)。
次に、抽出した前半のフィルター後波形と後半のフィルター後波形とから、4つのRMS値P11、P21、P12、及び、値P22を算出する(ステップS34)。
ステップS35では、これらのRMS値Pから判定値Q1、Q2、Q3を算出して、これらを「タイヤ種NNW」に入力させて、当該タイヤのタイヤ種を判別する。
ステップS25では、これらのRMS値から、判定値Q1、Q2、Q3を入力させることで、当該タイヤのタイヤ種を判別する。
1回転分のタイヤ種の判別後には、タイヤがN回転したか否か、すなわち、判別をN回行ったか否かを判定(ステップS36)し、判別がN回未満である場合は、ステップS20に戻って、加速度の検出を行う。
ステップS36にて、判別回数がN回に達した場合には、判定結果の頻度の最も高いタイヤ種を、当該タイヤのタイヤ種とする。
具体的には、タイヤ種が夏タイヤ判定された回数をnS、冬タイヤと判定された回数をnWとしたとき、nS>nWである場合には当該タイヤのタイヤ種を夏タイヤと判定し、nS<nWである場合には当該タイヤのタイヤ種を冬タイヤと判定とする。
【0023】
なお、前記実施の形態2,3では、特徴ベクトルXの成分としてRMS値Pの演算値(比)である判定値Qを用いたが、車速が予め設定した車速である場合のみタイヤ種の判別を行うようにすれば、RMS値Pを直接特徴ベクトルXの成分とすることができる。
なお、この場合、加速度波形を前半の波形と後半の波形とに分けてRMS値を求めてもよいし、路面領域の波形全部のRMS値としてもよい。
また、実施の形態2,3においても、内圧やタイヤ内温度を特徴ベクトルの成分として、タイヤ種の判別を行ってもよい。
また、フィルター処理についても、1kHz以下の周波数成分のみを取出すLPFと、1kHz以上の周波数成分のみを取出すHPF、3kHz以上の周波数成分のみを取出すHPF、4kHz以上の周波数成分のみを取出すHPFなどを組み合わせれば、特徴ベクトルXの成分として0-1kHz、1-2kHz、2-3kHz、3-4kHz、4-5kHzの領域のRMS値を用いることも可能である。
また、前記実施の形態1~3では、タイヤ内にタイヤ種判別手段(17,27,37)を設けて、タイヤ種の判別を行っているが、タイヤ種判別手段を車両側に設けて、タイヤ1側算出した特徴ベクトルを車両側に送るようにしてもよい。あるいは、車両に、加速度波形、内圧、タイヤ内温度などのデータを送り、車両側にてタイヤ種の判別を行うようにしてもよい。
また、前記実施の形態1~3では、回転数Nを100回としたが、最低3回あればタイヤ種の判別は可能である。なお、回転数Nとしては、20回以上とすれば好ましく、100回とすれば、更に好ましい。
また、特徴ベクトルの成分として、車速や外気温などを取り込んで、タイヤ種の判別を行ってもよい。
【0024】
[実施例]
夏用タイヤと冬用タイヤとの判別精度の一例を以下に示す。
(1)サポートベクトルマシーン → 100%
(2)決定木 → 90%
(3)ニューラルネットワーク → 90%
また、サポートベクトルマシーンにより、A社、B社、及び、C社のサマータイヤのメーカー別の判別を行ったところ、判別精度は88%であった。
【符号の説明】
【0025】
1 タイヤ、2 インナーライナー部、3 タイヤ気室、4 トレッド、5 リム、
10 タイヤ種判別装置、11 加速度センサー、12 圧力センサー、
13 温度センサー、14 加速度波形抽出手段、15 窓掛け手段、
16 特徴ベクトル算出手段、17 タイヤ種判別手段、
17a カーネル関数算出部、17b タイヤ種判別部、17M 記憶部。
図1
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図12