(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】遮熱性繊維布帛及びそれを用いた衣服
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20220728BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20220728BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M15/564
A41D13/005 103
(21)【出願番号】P 2018192621
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】黒山 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】濱野 健多
(72)【発明者】
【氏名】西原 正勝
【審査官】磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-028702(JP,A)
【文献】特開2005-068586(JP,A)
【文献】特開2012-153995(JP,A)
【文献】特開昭58-191278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/00
D06M 11/83
D06M 11/74
A41D 13/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛の少なくとも片面に形成された合成樹脂膜を有する遮熱性繊維布帛であって、
前記合成樹脂膜は、
少なくとも金属粒
子を含み、
前記遮熱性繊維布帛は、JIS L1096 フラジール形法に準じ測定した通気度が1.0cm
3/cm
2・s以下であ
り、
前記遮熱性繊維布帛は、送風手段を有する衣服の少なくとも一部に用いる遮熱性繊維布帛である、
遮熱性繊維布帛。
【請求項2】
前記金属粒子がアルミニウム粒子である請求項1に記載の遮熱性繊維布帛。
【請求項3】
前記金属粒子が鱗片状である請求項1又は2に記載の遮熱性繊維布帛。
【請求項4】
目付が170g/m
2以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の遮熱性繊維布帛。
【請求項5】
厚みが0.5mm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の遮熱性繊維布帛。
【請求項6】
前記合成樹脂膜が、湿式凝固し製膜されたポリウレタン樹脂膜である請求項1~5のいずれか1項に記載の遮熱性繊維布帛。
【請求項7】
前記合成樹脂膜の厚みが30μm以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の遮熱性繊維布帛。
【請求項8】
前記合成樹脂膜を構成する合成樹脂の付着量が1g/m
2以上30g/m
2以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の遮熱性繊維布帛。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の遮熱性繊維布帛を少なくとも一部に用い、かつ、送風手段を有する衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱性を有する繊維布帛である遮熱性繊維布帛及びそれを用いた衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、最高気温が30℃を超える真夏日が多くなっている。また、最高気温が35℃の猛暑日も多く発生し、さらには40℃を超える地域が日本各地で発生するようになっている。このような従来にない暑い環境の中でも、工場や工事現場では作業が行われている。このような状況に対して、少しでも作業者の暑さに対する負荷を軽くするため、作業服に電動ファン(以下、ファンと称す)などの送風手段を取り付け、外部の空気を身体と衣服の間に送り込むことで、衣服内の高温の空気及び汗の蒸気を衣服外に排出する、空調服などと言われる衣服も見られるようになってきた。
【0003】
このようなファンなどの送風手段を有する衣服は、衣服内の温度、湿度の低減には効果を発揮しているが、屋外で作業を行う場合には、衣服内の温度がさらに上昇しやすく、より衣服内温度を低減できる衣服が望まれている。
【0004】
また、最近の暑さでは、作業服のような用途以外においても、外回りの営業マン、レジャーでの外出、日常の買い物や散歩、及び、子供の外遊びなどでも、より暑さに対する負荷が軽減される衣服が望まれている。
【0005】
そこで、従来、遮熱性を有する繊維布帛(以下、遮熱性繊維布帛と称す)が衣服に用いられている。遮熱性繊維布帛については、遮熱性を付与するため、いろいろな方法が提案されている。遮熱性を付与する方法としては、例えば、繊維布帛にカレンダー加工を施したり、繊維布帛を構成する糸として扁平糸を使用するなどして目の詰まった高密度布帛を使用したりすることにより、太陽光を遮蔽して温度の上昇を防ぐ方法が知られている(特許文献1)。また、繊維布帛の表面に、アルミニウムやチタンなどの蒸着層を形成し、太陽光からの熱線を反射することにより車内温度の上昇を抑制する方法、及び、反対に身体からの熱線を反射することにより衣服内の温度を保つ方法も知られている(特許文献2及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-12726号公報
【文献】特開2006-205366号公報
【文献】特開2013-10337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カレンダー加工を施すことで、太陽光を遮蔽する繊維布帛は、十分な遮熱効果を得ることができず、衣服内の温度上昇を十分に抑えることができない。
【0008】
また、蒸着やスパッタリングにより繊維表面にアルミニウムやチタンなどの金属層が形成された繊維布帛は、磨耗に弱いため、衣服に用いて着用したり、洗濯処理を繰り返し行ったりすると、金属層が脱落して遮熱性が低下する。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、太陽光などからの熱線を遮ることにより衣服内の温度上昇を抑制でき、さらに、洗濯等を行った場合における遮熱性の低下を抑制でき、さらに、衣服に用いた場合に衣服の着用者が暑く感じることを低減できる遮熱性繊維布帛等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明をするに至った。すなわち、本発明にかかる遮熱性繊維布帛は以下の構成を有する。
(1)本発明に係る遮熱性繊維布帛は、繊維布帛の少なくとも片面に形成された合成樹脂膜を有する遮熱性繊維布帛であって、前記合成樹脂膜は、金属粒子及び/又はカーボンブラックを含み、前記遮熱性繊維布帛は、JIS L1096 フラジール形法に準じ測定した通気度が1.0cm3/cm2・s以下である。
(2)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛において、前記金属粒子がアルミニウム粒子であるとよい。
(3)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛において、前記金属粒子が鱗片状であるとよい。
(4)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛は、目付が170g/m2以下であるとよい。
(5)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛は、厚みが0.5mm以下であるとよい。
(6)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛において、前記合成樹脂膜が、湿式凝固し製膜されたポリウレタン樹脂膜であるとよい。
(7)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛において、前記合成樹脂膜の厚みが30μm以下であるとよい。
(8)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛において、前記合成樹脂膜を構成する合成樹脂の付着量が1g/m2以上30g/m2以下であるとよい。
(9)また、本発明に係る遮熱性繊維布帛は、送風手段を有する衣服の少なくとも一部に用いる遮熱性繊維布帛であるとよい。
(10)また、本発明に係る衣服は、上記いずれかに記載の遮熱性繊維布帛を少なくとも一部に用い、かつ、送風手段を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る遮熱性繊維布帛等は、太陽光などからの熱線を遮ることにより衣服内の温度の上昇を抑制でき、さらに、洗濯等を行った場合における遮熱性の低下を抑制でき、さらに、衣服に用いた場合に衣服の着用者が暑く感じることを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る遮熱性繊維布帛及びそれを用いた衣服について説明する。以下の態様は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの態様のみにすることは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
【0013】
[遮熱性繊維布帛]
本実施の形態に係る遮熱性繊維布帛は、繊維布帛の少なくとも片面に形成された合成樹脂膜を有する遮熱性繊維布帛である。上記合成樹脂膜は、金属粒子及び/又はカーボンブラックを含む。さらに、本実施の形態に係る遮熱性繊維布帛は、JIS L1096 フラジール形法に準じ測定した通気度が1.0cm3/cm2・s以下である。
【0014】
(繊維布帛)
本実施の形態における遮熱性繊維布帛に用いることのできる繊維布帛は、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維、ジアセテート等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿、羊毛、絹、麻などの天然繊維を単独で使用した繊維布帛、又はこれらの繊維の2種以上を混繊、混紡、交織、交編した繊維布帛であってもよく、また、織物、編物、不織布等いかなる形態の繊維布帛であってもよい。
【0015】
さらに、本実施の形態における繊維布帛は、染色、捺染などにより着色されていてもよい。本実施の形態における遮熱性繊維布帛は、白から淡色、濃色に着色されているものであっても優れた遮熱性を有する。また、繊維布帛は、撥水性、消臭性、抗菌防臭性、制菌性、吸水性、吸湿性、難燃性、制電性等の機能性を有していてもよい。
【0016】
また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、上記繊維布帛は、ポリウレタン樹脂膜、ポリテトラフルオロエチレン樹脂膜、アクリル樹脂膜、ポリエチレン樹脂膜、又は、ポリエステル樹脂膜などの樹脂膜が積層された繊維布帛であってもよい。
【0017】
(合成樹脂膜)
本実施の形態における遮熱性繊維布帛に形成される合成樹脂膜を構成する合成樹脂には、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリフッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、ニトリルブタジエン樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。これらの合成樹脂は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、これらの合成樹脂は、溶剤に溶解した溶液、水に乳化分散したエマルジョン、又は、チップ状固形体などの状態で入手できる。
【0018】
上記合成樹脂は、湿式凝固し製膜することができるポリウレタン樹脂であるとよい。湿式凝固し製膜されたウレタン樹脂膜は、特に薄く製膜された場合には、繊維布帛表面の凹凸に追従し、厚みが変化する。さらに、ウレタン樹脂膜の厚い部分は、微多孔質の膜であり、薄い部分は無孔質の膜である。そのため、上記合成樹脂膜が、湿式凝固し製膜されたポリウレタン樹脂から構成される場合には、軽く、柔らかい遮熱性繊維布帛が得られやすく、また、遮熱性繊維布帛が汗で濡れた場合、及び、洗濯処理水などにより湿潤した状態においても、優れた耐摩耗性を有する遮熱性繊維布帛が得られる。
【0019】
上記ポリウレタン樹脂としては、エーテル系、エステル系、エステル・エーテル系、カーボネート系等を用いることができるが、特に限定されるものではない。また、ポリウレタン樹脂としては、一液型、二液型等を用いることができるが、特に限定されるものではない。湿式凝固し製膜させる場合には、ポリウレタン樹脂は、製膜性の観点より、エステル系又はエーテル・エステル系であるとよい。特に湿潤時における耐摩耗性の観点からは、ポリウレタン樹脂は、エステル系であるとさらによい。
【0020】
また、上記合成樹脂膜の形態としては、無孔質膜、微多孔質膜いずれの形態であってもよい。
【0021】
また、上記合成樹脂膜の形状は、繊維布帛の少なくとも片面に形成されていればよい。上記合成樹脂膜の形状は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、例えば、均一な厚みの無孔質膜、均一な厚みの多孔質膜、厚み方向に貫通孔を有する膜、厚み方向に貫通孔を有さない膜、繊維布帛や繊維布帛を構成する繊維の凸部にあたる箇所など部分的に樹脂膜が無い膜、場所によって厚みの異なる膜、格子状の膜、又は、点状の膜であってもよく、特に限定されるものではない。
【0022】
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、合成樹脂膜は、表面に合成樹脂による表面処理層を有していてもよい。合成樹脂膜が表面処理層を有することにより、遮熱性繊維布帛の耐摩耗性を向上させたり、合成樹脂膜面の肌触りを向上させたりすることなどができる。表面処理層に用いられる合成樹脂には、その目的に応じて任意のものを用いることができる。表面処理層は、合成樹脂膜の全面を覆う層であってもよく、点状、線状等の形状で合成樹脂膜に形成された層であってもよい。表面処理層の厚みは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば特に限定はされるものではないが、得られる遮熱性繊維布帛の目付、風合いなどの観点より、5μm未満が好ましい。
【0023】
本実施の形態における合成樹脂膜の厚みは、風合い及び暑い時期の着用感の観点より30μm以下が好ましい。合成樹脂膜の厚みは、より好ましくは、20μm以下、さらに好ましくは15μm以下、さらにより好ましくは10μm以下、最も好ましくは8μm以下である。
【0024】
上記合成樹脂膜の厚みの下限に特に制限は無く、遮熱性繊維布帛の通気度がJIS L1096 フラジール形法にて1.0cm3/cm2・s以下であることを維持し、かつ、繊維布帛の表面に金属粒子及び/又はカーボンブラックを固着でき、かつ、洗濯での磨耗に対する耐久性を維持できる厚みであればよい。金属粒子の配合量にもよるが、合成樹脂膜の厚みの下限は、0.5μm程度である。
【0025】
なお、合成樹脂膜の厚みとは、繊維布帛を構成する最外層(合成樹脂膜が形成された面側)の繊維から合成樹脂膜表面までの厚みのことであり、繊維布帛の内部に含浸した合成樹脂は、合成樹脂膜の厚みには含まれないものとする。また、合成樹脂中の金属粒子、カーボンブラック、及び、その他の粒子などの添加剤が合成樹脂膜から突出している箇所は、合成樹脂膜の厚みには含まれない。
【0026】
また、上記合成樹脂膜を構成する合成樹脂の付着量は、1g/m2以上、30g/m2以下であることが好ましい。付着量の上限は、より好ましくは20g/m2以下、さらにより好ましくは15g/m2以下、最も好ましくは10g/m2以下である。付着量の下限は、2g/m2以上がより好ましく、4g/m2以上がより好ましい。なお、合成樹脂膜を構成する合成樹脂の付着量とは、繊維布帛に形成された合成樹脂膜における、単位面積当たりの乾燥重量である。合成樹脂膜を構成する合成樹脂の付着量を30g/m2以下にすることで、得られる遮熱性繊維布帛の目付が小さくなり、ファン等の送風手段を有する衣服に用いた場合、送風機により衣服に空気を送り込むことにより衣服が十分に膨らみ、着用者に遮熱、冷却効果を与えやすくなる。さらに、合成樹脂膜特有のタッチと風合いが生じにくく、夏季用の衣料素材として、着用者に不快感を与えにくくなる。合成樹脂膜を構成する合成樹脂の付着量を1g/m2以上にすることで、十分な遮熱性を得ることができるとともに、遮熱性の耐久性を向上させることができ、また、通気度を規定値以下に保ちやすくなる。
【0027】
(金属粒子、カーボンブラック)
本実施の形態における合成樹脂膜は、金属粒子及び/又はカーボンブラックを含む。上記金属粒子及び/又はカーボンブラックには、熱線を反射若しくは吸収する性能を有するものがよい。合成樹脂膜に含まれる金属粒子及び/又はカーボンブラックが太陽光の熱線を反射若しくは吸収するため、合成樹脂膜に金属粒子及び/又はカーボンブラックが含まれることで、遮熱性繊維布帛の遮熱性が向上する。従って、本実施の形態における遮熱性繊維布帛を衣服に用いた場合に、衣服内の温度の上昇を十分抑制することができる。また、合成樹脂膜内に金属粒子及び/又はカーボンブラックが埋め込まれているので、洗濯などの磨耗に対して、金属粒子及び/又はカーボンブラックが遮熱性繊維布帛から脱落しにくく、洗濯等を行った場合における遮熱性の低下を抑制できる。従って、本実施の形態における遮熱性繊維布帛を、汗をかきやすい夏季用の衣服に用いた場合に、洗濯処理を繰り返し行ったとしても、遮熱性が低下しにくい。
【0028】
具体的な上記金属粒子としては、例えば、アルミニウム、チタン、銀、金、白金、銅などの粒子が挙げられ、これらの中の少なくとも一つを含むとよい。また、金属粒子は、ゼオライトなどの多孔体に、金属粒子を担持させたものも用いることができる。特に、熱線の反射性が高い点、及び、淡色に着色された繊維布帛であっても色への影響が少ない点より、金属粒子としてはアルミニウム粒子であるとよい。また、金属粒子として銀を用いた場合には、遮熱性繊維布帛に抗菌性も付与することができる。
【0029】
また、濃色に着色された繊維布帛を用いる場合には、アルミニウム粒子及び/又はカーボンブラックが合成樹脂膜に含まれるとよい。特に、カーボンブラックが合成樹脂膜に含まれる場合には、カーボンブラックが赤外線を吸収するため、遮熱性繊維布帛の温度が上昇し、暑さを抑制する繊維布帛としては好ましくないように思われるが、遮熱性繊維布帛をファンなどの送風手段を有する衣服に用いた場合には、衣服が空気で膨らみ、遮熱性繊維布帛が着用者の皮膚と接触しない。このため、カーボンブラックにより遮熱性繊維布帛の温度が上昇したとしても、着用者が遮熱性繊維布帛の温度上昇を感じにくく、さらに、カーボンブラックが太陽光からの熱線を吸収し、人体に到達する赤外線量を減らすことから、暑さを緩和する効果が発揮される。従って、遮熱性繊維布帛を用いた衣服の着用者が暑く感じることを低減できる。
【0030】
上記金属粒子の形状としては、特に制限は無く、例えば、球状、針状、鱗片状等いずれかであってもよく、好ましくは、鱗片状がよい。金属粒子の形状が鱗片状である場合、繊維布帛を構成する糸及び繊維の間に、金属粒子が含浸し難く、繊維布帛表面にとどまりやすいことより、より効率的に遮熱性を発揮することができる。
【0031】
また、本実施の形態における遮熱性繊維布帛のように、合成樹脂膜を構成する合成樹脂の付着量が少なく、合成樹脂膜の厚みが薄い遮熱性繊維布帛であっても、鱗片状の金属粒子を用いる場合には、鱗片状の金属粒子の面が、繊維布帛の面とほぼ平行に配列することにより、合成樹脂膜の厚みに比べ、面方向の粒子径が大きい金属粒子を用いることができることから、遮熱性繊維布帛は、熱線の反射性能に優れたものとなる。よって、遮熱性繊維布帛の遮熱性がさらに向上する。さらに、繊維表面にとどまった鱗片状の粒子の広い一面が、繊維布帛面あるいは繊維の表面に沿って合成樹脂にて接合されることから、金属粒子全体が合成樹脂膜中に取り込まれるために、合成樹脂膜から金属粒子が突出する部分が少なくなり、洗濯などの磨耗に対して遮熱性繊維布帛から金属粒子がさらに脱落しにくくなることから、遮熱性繊維布帛は洗濯耐久性にさらに優れたものとなる。
【0032】
また、上記金属粒子の粒子径としては、0.01μm以上30μm以下であることが好ましい。粒子径が0.01μm以上30μm以下であれば、計量や樹脂溶液への分散化等の取扱いが容易になり、かつ、洗濯処理や着用時の磨耗により金属粒子が脱落しにくくなる。なお、粒子径は、電子顕微鏡で観察し、任意の複数粒子(例えば5粒)の長径を測定した値の平均値である。
【0033】
上記金属粒子の含有量の下限は、合成樹脂膜を形成する合成樹脂固形分100質量部に対して5質量部以上が好ましく、より好ましくは10質量部以上、更により好ましくは20質量部以上である。金属粒子の含有量の上限は、合成樹脂膜を形成する合成樹脂固形分100質量部に対して100質量部以下が好ましく、摩耗等に対する耐久性の観点からは80質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
【0034】
さらに、合成樹脂膜中には、顔料、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消臭剤、抗菌剤、防炎剤などが含まれていてもよい。また、ファン等の送風機を停止させたときなど、遮熱性繊維布帛の樹脂膜面が肌に触れる場合の肌触りを良くするための球状の有機微粒子、及び、ザラツキ感を付与するための角を有する無機微粒子等が、合成樹脂膜中に含まれていてもよい。
【0035】
(通気性)
本実施の形態における遮熱性繊維布帛は、JIS L1096 フラジール形法に準じ測定した通気度が、1.0cm3/cm2・s以下である。遮熱性繊維布帛の通気度は、好ましくは0.6cm3/cm2・s以下、より好ましくは0.3cm3/cm2・s以下、さらにより好ましくは0.1cm3/cm2・s以下である。
【0036】
上記通気度が1.0cm3/cm2・s以下であることにより、本実施の形態における遮熱性繊維布帛を、送風手段を有する衣服に用いた場合に、送風手段から衣服内に空気を送り込んだ際に、衣服が膨らみ、衣服を構成する遮熱性繊維布帛と身体との間に空間を形成する。それにより、遮熱性繊維布帛と皮膚との密着を防ぐと共に、太陽光からの熱線により繊維布帛の表面温度が上がった場合においても、その影響を防ぐことができることから、着用者が感じる暑さをより軽減することができる。
【0037】
上記通気度が1.0cm3/cm2・sを超えると、本実施の形態に係る遮熱性繊維布帛を、送風手段を有する衣服に用いた場合、送風手段から衣服内に空気を送り込んだ際に、遮熱性繊維布帛の表面から空気が流出しやすくなる。そのため、衣服が十分膨らまず、衣服と身体の間に空気が十分に流れなかったり、多くの箇所で身体と遮熱性繊維布帛が接触したりすることから、着用者に対する暑さ軽減の効果が、低減するおそれがある。遮熱性繊維布帛の通気度の下限は、特に限定されず、0.01cm3/cm2・s以下であってもよく、また、通気性が無いものであってもよい。
【0038】
(遮熱性繊維布帛の目付、厚み)
本実施の形態における遮熱性繊維布帛は、目付が170g/m2以下であることが好ましい。遮熱性繊維布帛の目付は、より好ましくは150g/m2以下、さらにより好ましくは120g/m2以下、さらにより好ましくは100g/m2以下である。なお、遮熱性繊維布帛の目付とは、単位面積当たりの遮熱性繊維布帛の重量である。
【0039】
上記遮熱性繊維布帛の目付が170g/m2以下であると、軽い衣服が得られ、暑い環境での着用者に爽快感を与えることができ、送風手段を有する衣服に用いた場合、ファン(送風機)などから衣服内に空気を導入した際に、衣服が膨らみやすくなり、暑さの軽減効果が得られやすく、着用者に重量感や密着感を与えにくくなる。さらに、衣服の重量が軽くなることから、衣服への送風手段として、軽く、力の弱いファン(送風機)を用いた場合であっても、当該ファン(送風機)から衣服内に導入された空気で衣服を膨らますことができる。そのため、衣服の軽量化、又は、衣服が軽量化された重量分、長寿命のバッテリーを衣服に取り付けることによる使用可能時間の長時間化、などの対策を講じることができ、より快適な衣服を提供できる。
【0040】
また、上記遮熱性繊維布帛は、目付が25g/m2以上であることが好ましい。遮熱性繊維布帛の目付は、より好ましくは35g/m2以上、さらにより好ましくは45g/m2以上である。
【0041】
遮熱性繊維布帛の目付を25g/m2以上にすることで、作業服として必要な強度を得ることができ、送風手段との接合部近辺の生地が破れにくくなる。さらに、遮熱性繊維布帛の通気度が大きくなりにくく、ファン(送風機)などから衣服内に空気を導入した際に、衣服が膨らみやすくなり、暑さの軽減効果が得られやすくなる。また、通気度の条件を満たした遮熱性繊維布帛であっても、夏用の衣服としての風合い、繊維布帛側の見た目、及び、肌触りが良好になりやすい。
【0042】
本実施の形態における遮熱性繊維布帛は、厚みが0.5mm以下であることが好ましい。遮熱性繊維布帛の厚みは、より好ましくは0.3mm以下、さらにより好ましくは0.2mm以下である。遮熱性繊維布帛の厚みは、厚い方が、空気層が厚くなり、遮熱性の観点からは好ましいと考えられるが、本実施の形態では、遮熱性繊維布帛の厚みが0.5mm以下のように薄くとも、優れた遮熱性を有するため、夏用の衣服の素材として、見た目にも、触った感じにも、薄く、軽く、さわやかな感じを購入者に与えることができる。なお、遮熱性繊維布帛の厚みは、ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)等にて遮熱性繊維布帛の任意の5カ所の厚みを測定した平均値である。
【0043】
なお、本実施の形態における遮熱性繊維布帛の厚みの下限は、特に限定されるものではないが、本実施の形態における遮熱性繊維布帛の強度、仕立て映えの観点より0.05mm程度である。また、本実施の形態における通気性等の構成を有しつつ、見た目にも、触った感じにも、薄く、軽く、さわやかな感じを購入者に与えることができるとの観点からは、遮熱性繊維布帛の厚みの下限は0.10mm以上がよい。
【0044】
(遮熱性)
本実施の形態における遮熱性繊維布帛は、遮熱性試験において、未加工布に比べ-3℃以上の温度上昇差を有することが好ましい。遮熱性繊維布帛の遮熱性は、より好ましくは未加工布に比べ-5℃以上の温度上昇差、さらにより好ましくは未加工布に比べ-6℃以上の温度上昇差、最も好ましくは未加工布に比べ-8℃以上の温度上昇差である。
【0045】
遮熱性繊維布帛の遮熱性が未加工布に比べ-3℃以上の温度差を有すると、本実施の形態における遮熱性繊維布帛を用いて得られた衣服、特に送風手段を有する空調服などに用いると、より着用者に快適性を与えることができる。
【0046】
なお、遮熱性(温度上昇差)の測定は、一般社団法人カケンテストセンター(旧財団法人日本化学検査協会)の遮熱性試験に準じて測定を行った値である。詳細は以降に説明を行う。
【0047】
なお、本実施の形態における遮熱性繊維布帛は、本発明の主旨を逸脱しなければ、2枚の繊維布帛の間に合成樹脂膜を有するものであってもよい。
【0048】
以上の構成を有する遮熱性繊維布帛は、優れた遮熱性を有し、また、通気性が低く、軽いことより、特に、空調服などファン等の送風手段を有する衣服に用いた場合には、送風機により身体と衣服の間に送り込まれる空気により、衣服を膨らませることができる。それにより、衣服と身体の間に空間が形成され、太陽光からの熱線等の熱に対する遮熱性を発揮する。さらに、送風機から送り込まれる空気を衣服内にスムーズに流し、袖口や首周りや衣服毎に設計された排出部から空気を排出することができるため、衣服内に存在する汗などに起因する湿気、及び、体温、太陽光、ならびに、その他の要因からの熱を、外部に効率良く放出することができる。従って、快適な衣服内の環境を提供し、衣服着用者の暑さを軽減することで、暑さに対するストレスを軽減・解消することができる。
【0049】
[衣服]
次に、本実施の形態に係る衣服について、説明を行う。本実施の形態における衣服は、上記実施の形態における遮熱性繊維布帛を少なくとも一部に用い、かつ、送風手段を有する衣服である。
【0050】
本実施の形態における遮熱性繊維布帛を、送風手段を有する衣服に用いることにより、外部の空気が衣服と身体との間に導入され、導入した空気が衣服内に通過して、首回りや袖口等の排出部から排出されるため、空気の流れにより、衣服内及び皮膚表面の熱及び湿気を含んだ空気が外に排出される。これにより、衣服の着用者が感じる暑さを軽減することができる。さらに、衣服を構成する遮熱性繊維布帛と身体との間に空間が形成されることにより、遮熱性繊維布帛と皮膚との密着を防ぐと共に、太陽光からの熱線により繊維布帛の表面温度が上がった場合においても、その影響を防ぐことができることから、着用者が感じる暑さをより軽減することができる。
【0051】
また、衣服に用いられる遮熱性繊維布帛の通気性が小さいため、送風手段として、軽く、力の弱いファンを用いた場合であっても、当該ファンから衣服内に導入された空気で衣服を膨らますことができる。そのため、衣服の軽量化、又は、衣服が軽量化された重量分、長寿命のバッテリーを衣服に取り付けることによる使用時間の長時間化、などの対策を講じることができ、より快適な衣服を提供できる。
【0052】
なお、送気機(送風機)は公知の空調服等で用いられているファン等を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0053】
また、衣服の種類としては、作業服、シャツ、ジャケット、カッパ、ポンチョ、ヤッケ、ドレス、ウインドブレーカー、ベスト、靴、帽子、手袋等が挙げられ、特に限定されるものではない。また、衣服の袖は、長袖、半袖等であり、特に限定されるものではない。
【0054】
また、遮熱性繊維布帛の合成樹脂膜面は、衣服に用いた場合、身体側であっても外側であってもよい。
【0055】
[製造方法]
以下に、本実施の形態に係る遮熱性繊維布帛の製造方法について説明する。なお、本実施の形態に係る遮熱性繊維布帛は、以下に説明する製造方法で得られるものに限定されるものではない。また、以下の説明では、先に説明した内容については、一部説明を省略する。
【0056】
まず、繊維布帛を準備する。本実施の形態に用いられる繊維布帛は、原着、浸染、捺染等により着色してもよい。また、繊維布帛に合成樹脂膜を形成する前に、撥水加工、消臭加工、抗菌防臭加工、制菌加工、吸水加工、吸湿加工、防炎加工、制電性等の機能性加工を施してもよい。また、合成樹脂溶液の含浸防止や遮熱性の向上のために、繊維布帛にカレンダー加工などを施してもよい。
【0057】
次に、繊維布帛の少なくとも片面に合成樹脂溶液を塗布し、繊維布帛に対し合成樹脂膜を形成することで、遮熱性繊維布帛を得る。用いる合成樹脂溶液の中には、あらかじめ所定量の金属粒子及び/又はカーボンブラックを添加しておく。具体的に、繊維布帛に対し合成樹脂膜を形成する方法としては、繊維布帛の少なくとも片面に、ナイフコータ、バーコータ、グラビアコータ、押出コータ、又は、捺染機(スクリーン、インクジェット等)などを用いて。合成樹脂が溶剤に溶解した合成樹脂溶液、又は、加熱溶融させた合成樹脂液を塗布し、必要に応じて80~150℃程度での乾燥や熱処理し、又は、必要に応じて冷却し、合成樹脂膜を製膜させる乾式製膜方法、もしくは、繊維布帛の少なくとも片面に、ナイフコータ、グラビアコータ、又は、押出コータなどを用い合成樹脂溶液を塗布し、水などの中に浸漬し、凝固させ製膜(湿式凝固)する湿式法、などの方法が挙げられる。
【0058】
また、繊維布帛に対し合成樹脂膜を形成する他の方法としては、離型紙や離型フィルム上に、ナイフコータ、バーコータ、グラビアコータ、又は、押出コータなどを用い合成樹脂溶液を塗布し、必要に応じ80~150℃で乾燥することで、合成樹脂膜を製膜し、当該合成樹脂膜にホットメルト型、湿気硬化型、又は、二液型などの接着剤を、グラビアコータ又はナイフコータを用い点状、線状、又は、全面などに塗布した後、必要に応じ乾燥し、当該接着剤塗布面に繊維布帛を積層し、加圧又は加熱加圧することにより、繊維布帛と合成樹脂膜を貼りあわせることによって、繊維布帛の片面に合成樹脂膜を形成する方法でもよい。
【0059】
繊維布帛の少なくとも片面に合成樹脂膜を形成した後、さらに、撥水加工、消臭加工、抗菌防臭加工、制菌加工、吸水加工、吸湿加工、防炎加工、制電性、風合い調節加工等の加工をおこなってもよい。
【0060】
さらに、湿式法を利用した(湿式凝固し製膜された)合成樹脂膜を有する遮熱性繊維布帛の製造方法について詳細に説明する。
【0061】
上記のように繊維布帛の少なくとも片面に、合成樹脂溶液を塗布する。合成樹脂溶液に含まれる合成樹脂としては、水に浸漬することによって凝固する合成樹脂が用いられ、ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0062】
用いられる合成樹脂溶液の中には、金属粒子及び/又はカーボンブラックを添加し、また、必要に応じ先に記載した球状粒子、顔料、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消臭剤、風合い調整などの柔軟剤、セル調整剤、防炎剤や染料移行昇華防止剤などを添加、混合してもよい。
【0063】
繊維布帛への合成樹脂溶液の塗布方法としては、ナイフコータ、バーコータ、リバースコータ、グラビアコータなどを用いて塗布すればよい。
【0064】
次に、この合成樹脂溶液が塗布された繊維布帛を水の中に浸漬し、湿式凝固させ、合成樹脂膜を製膜する。この際、繊維布帛を浸漬する水の中には、合成樹脂溶液の溶媒として用いているジメチルホルムアミド(以下、DMFと称す)などの有機溶剤をあらかじめ5~20%程度含んでいてもよい。
【0065】
また、この際、合成樹脂膜の厚みが厚い部分には、微多孔質膜が形成されるが、厚みが1~2μm程度よりも薄い部分には、無孔質膜が形成される。合成樹脂膜が薄い場合、つまり、合成樹脂膜を形成する樹脂量が少ない場合において、繊維布帛の凹部など部分的に合成樹脂溶液の塗布量が多く、合成樹脂膜の厚みが厚くなる部分は微多孔質となり、それ以外の合成樹脂膜の厚みが薄くなる部分は無孔質となり、無孔質と微多孔質が混在した膜となる。このような場合は、樹脂量が多く合成樹脂膜の厚みが厚い場所は微多孔質となるため柔らかくなる。さらに、樹脂量が少なく合成樹脂膜の厚みが薄い部分においても、金属粒子が存在しているため遮熱性に優れる。特に鱗片状の金属粒子を用いた場合、樹脂量が少ない合成樹脂膜は、合成樹脂膜の厚みが薄い部分においても、合成樹脂膜の厚みと比べて粒子径が大きい鱗片状の金属粒子の面が、繊維布帛の表面に沿って存在しているため、遮熱性に優れた遮熱性繊維布帛が得られる。
【0066】
次に、水の中に浸漬した合成樹脂溶液が塗布された繊維布帛を、20~80℃程度で湯洗い、水洗を行う。その後、洗浄後の合成樹脂溶液が塗布された繊維布帛を、ホットシリンダーやエアーオーブンなどを用い80~150℃程度で乾燥し、遮熱性繊維布帛を得る。
【0067】
この後、必要に応じ、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、得られた遮熱性繊維布帛に撥水加工、消臭加工、抗菌防臭加工、制菌加工、吸水加工、吸湿加工、防炎加工、制電性、及び、風合い調節加工等の仕上げ加工をしてもよく、合成樹脂膜の上に他の樹脂膜又は他の繊維布帛を付与するなどしてもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明は、これらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、実施例における、「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0069】
得られた遮熱性繊維布帛の性能は、以下の方法により測定したものである。
【0070】
[A:遮熱性(温度上昇差)]
一般社団法人カケンテストセンター(旧財団法人日本化学検査協会)の遮熱性試験に準じて測定を行った。
【0071】
具体的には、まず、試験片として、加工布(実施例及び比較例における遮熱性繊維布帛)と未加工布(加工布と同一色に着色した繊維布帛)を準備した。さらに試験片と同一の大きさの黒画用紙を準備した。20℃の環境で、黒画用紙を静置し、黒画用紙より5mm上の位置に、合成樹脂膜面が黒画用紙側になるように試験片を固定し、黒画用紙の下面中央部に熱電対センサーを取り付けた。試験片側からランプを照射(試験片の繊維布帛面側が照射面)し、ランプの照射開始から10分経過後から15分経過後の間における5秒間隔毎の加工布と未加工布との温度差(温度差=加工布の温度―未加工布の温度)の平均を求め、遮熱性(温度上昇差)とした。ランプは、レフランプ(岩崎電気(株)製、アイランプ・スポット、PRS500W、100V)を用い、試験片とランプの間隔は、50cmとした。また、照度は試験片の表面で1500ルクスとなるように変圧器にて調整した。
【0072】
[B:厚み]
(繊維布帛及び遮熱性繊維布帛の厚み)
繊維布帛及び遮熱性繊維布帛の厚みは、ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器 株式会社尾崎製作所製、PEACOCK 形式H)にて遮熱性繊維布帛又は繊維布帛の任意の5カ所の厚みを測定し、その平均値より求めた。
【0073】
(合成樹脂膜の厚み)
合成樹脂膜の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEMEDX Type H形:(株)日立サイエンスシステムズ)を用いた遮熱性繊維布帛の断面写真から厚みを測定した。なお、下記の実施例では、繊維布帛の凹凸に比べ合成樹脂膜が薄いため、繊維布帛全体に均一な厚みの合成樹脂膜を有するものではなく、場所により厚みが異なったため、下記それぞれの箇所(厚み1、2及び3)で任意の3カ所の厚みを測定し、厚み1、2及び3での任意の3カ所の厚みの平均値を、それぞれの箇所の厚みとした。また、厚み1、2及び3の平均値を厚み4とした。
【0074】
厚み1:繊維布帛のタテ糸が表面に出ている部分とヨコ糸が表面に出ている部分で糸による凹凸があり、この糸による凹部上に存在している合成樹脂膜の最大厚みと最小厚みを測定し、最大厚みと最小厚みの合計について2で割った値を厚み1とした。
【0075】
厚み2:上記厚み1の測定における糸による凸部では、糸による凸部を構成する糸を構成する複数の繊維であって、更にその複数の繊維の最外層に位置する繊維表面では、隣り合う繊維の間にて凹凸がある。糸による凸部の繊維の垂直方向の断面写真において、上記隣り合う繊維による凹部に位置する繊維の表面に形成されている合成樹脂膜の最小厚みを測定し、厚み2とした。
【0076】
厚み3:上記厚み2の測定に用いた断面写真において、隣り合う繊維による凸部に位置する繊維の表面に形成されている合成樹脂膜の最小厚みを測定し、厚み3とした。
【0077】
厚み4:上記3つの厚み(厚み1、2、及び、3)の合計を3で割った値を合成樹脂膜の厚み4とした。
【0078】
[C:目付]
遮熱性繊維布帛の試料を100cm2にカットしたものを測定試料として、電子天秤を用いて重さを測定し、1m2あたりの質量に換算し、遮熱性繊維布帛の目付とした。
【0079】
[D:洗濯処理]
遮熱性繊維布帛の耐摩耗性を確認するため下記の方法にて洗濯処理を行った。
【0080】
JIS L0217 103法に準じて20回洗濯を行った。なお、乾燥は、20回の洗濯処理後に、吊り干しにて1回行った。洗濯及び乾燥後の遮熱性繊維布帛を、上記[A:遮熱性(温度上昇差)]における加工布の試験片として用い、遮熱性試験を行った。
【0081】
(実施例1)
実施例1では、繊維布帛として、分散染料にてグレー(淡色)に染色(浸染)したポリエステル平織物(タテ糸84デシテックス72フィラメント、ヨコ糸84デシテックス72フィラメント、タテ密度181本/2.54cm、ヨコ密度93本/2.54cm。目付99g/m2)に、フッ素系撥水剤で撥水加工をしたものを準備した。なお、遮熱性の測定においては、この状態の繊維布帛を未加工布として用いた。
【0082】
次に、下記の合成樹脂溶液を、ナイフコータを用い繊維布帛の片面に塗布し、水中で凝固させ、湯洗い、水洗、乾燥を行い、合成樹脂膜を繊維布帛に形成した。合成樹脂膜の形成による合成樹脂の付着量は7g/m2あった。
【0083】
[合成樹脂溶液]
一液型ポリウレタン樹脂(エステル系、固形分 30%) 100部
シルバー顔料(鱗片状アルミニウム粒子 43%、平均粒径9μm) 20部
イソシアネート系架橋剤 1部
DMF 50部
【0084】
次に、170℃にて仕上げセットを行い、遮熱性繊維布帛を得た。得られた遮熱性繊維布帛の性能を表1に記した。
【0085】
また、合成樹脂膜の繊維布帛への付着の状態は、繊維布帛のタテ糸が表面に出ている部分とヨコ糸が表面に出ている部分で凹凸が形成されており、この糸による凹部に存在している合成樹脂膜の厚み1は12μmであった。また、このときの糸による凸部では、糸による凸部を構成する糸を構成する複数の繊維であって、更にその複数の繊維の最外層に位置する繊維によって凹凸が形成されており、隣り合う繊維による凹部に位置する繊維の表面に形成されている合成樹脂膜の厚み2は5μmであった。さらに、隣り合う繊維による凸部に位置する繊維の表面に形成されている合成樹脂膜の厚み3は0.8μmであった。これら厚み1~3を平均した厚み4は5.9μmとなった。
【0086】
また、得られた遮熱性繊維布帛に形成された合成樹脂膜の表面を電子顕微鏡写真で観察すると、繊維布帛の表面は、合成樹脂膜で覆われているが、合成樹脂膜の繊維布帛の糸による凸部に位置する箇所では、穴の開いている箇所、及び、繊維布帛を構成する繊維が確認される箇所があった。なお、目視では上記穴及び繊維は確認できなかった。
【0087】
また、合成樹脂膜中の鱗片状のアルミニウム粒子は、その鱗片状の面と繊維布帛の面がほぼ平行に位置しているものが多くみられた。また、繊維布帛を構成する糸やその糸の構成する繊維間には、合成樹脂は多少含浸していたが、鱗片状のアルミニウム粒子は含浸していなかった。従って、鱗片状のアルミニウム粒子は、ほとんどが繊維布帛表面に配置されており、太陽光などの熱線の反射に有効に作用していると考えられる。
【0088】
(実施例2)
実施例2では、繊維布帛として、分散染料で茶色(中色)に染色したポリエステル平織物(タテ糸84デシテックス72フィラメント、ヨコ糸84デシテックス72フィラメント、タテ密度181本/2.54cm、ヨコ密度93本/2.54cm。目付99g/m2)に、フッ素系撥水剤で撥水加工をしたものを準備し、下記の合成樹脂溶液に変更した以外は、実施例1と同様の操作を実施し、遮熱性繊維布帛を得た。得られた遮熱性繊維布帛の性能を表1に記した。
【0089】
なお、繊維布帛上への合成樹脂膜の付着状態、及び、鱗片状のアルミニウム粒子の配置は実施例1と同様であったが、カーボンブラックと想定される粒子は、繊維布帛内に含浸した合成樹脂中にも存在していた。
【0090】
[合成樹脂溶液]
一液型ポリウレタン樹脂(エステル系、固形分 30%) 100部
シルバー顔料(鱗片状アルミニウム粒子 43%、平均粒径9μm) 10部
黒色顔料(カーボンブラック 20%) 10部
イソシアネート系架橋剤 1部
DMF 50部
【0091】
(実施例3)
実施例3では、繊維布帛として、分散染料にて茶色(中色)に染色したポリエステル平織物(タテ糸84デシテックス72フィラメント、ヨコ糸84デシテックス72フィラメント、タテ密度181本/2.54cm、ヨコ密度93本/2.54cm。目付99g/m2)に、フッ素系撥水剤で撥水加工をしたものを準備した以外は実施例1と同様の操作を実施し、遮熱性繊維布帛を得た。得られた遮熱性繊維布帛の性能を表1に記した。
【0092】
(実施例4)
実施例4では、繊維布帛として、白色のナイロン平織物(タテ糸56デシテックス40フィラメント、ヨコ糸56デシテックス40フィラメント、タテ密度186本/2.54cm、ヨコ密度106本/2.54cm。目付79g/m2)に、インクジェットプリンターを用いて、酸性染料インクで部分的に草木柄をプリントし、フッ素系撥水剤で撥水加工をしたものを準備した。なお、遮熱性の測定においては、この状態の繊維布帛を未加工布として用いた。
【0093】
次に、実施例1にて用いた合成樹脂溶液と同様の合成樹脂溶液を、ナイフコータを用い繊維布帛の片面に塗布し、水中で凝固させ、湯洗い、水洗、乾燥を行い、合成樹脂膜を繊維布帛に形成した。合成樹脂膜の形成による合成樹脂の付着量は5g/m2あった。
【0094】
次に、160℃にて仕上げセットを行い、遮熱性繊維布帛を得た。得られた遮熱性繊維布帛の性能を表1に記した。
【0095】
合成樹脂膜の厚みの測定において、繊維布帛の表面にタテ糸が出ている部分とヨコ糸が出ている部分の凹凸差による厚みの差(厚み1に対する厚み2及び3の差)は、実施例1、2及び3に比べ小さかった。合成樹脂膜中の鱗片状のアルミニウム粒子の配置などは実施例1と同様であった。
【0096】
(実施例5)
実施例5では、繊維布帛として、カチオン染料と反応染料を用いて紺色(濃色)に染色したカチオン可染ポリエステル繊維とウールから製造した織物(目付93g/m2。片面にほぼ1mm間隔で点状の凸部を有する織物)に、フッ素系撥水剤で撥水加工をしたものを準備した。なお、遮熱性の測定においては、この状態の繊維布帛を未加工布として用いた。
【0097】
次に、実施例1にて用いた合成樹脂溶液と同様の合成樹脂溶液を、ナイフコータを用い繊維布帛の点状の凸部を有する面に塗布し、水中で凝固させ、湯洗い、水洗、乾燥を行い、合成樹脂膜を形成した。合成樹脂膜の形成による合成樹脂の付着量は10g/m2あった。また、合成樹脂膜は、繊維布帛の裏面の凸部に起因した目視で確認できる約0.2~0.3mm程度の穴が、ほぼ1mm間隔で規則正しく全面に開いているものであった。
【0098】
次に、150℃にて仕上げセットを行い、遮熱性繊維布帛を得た。得られた遮熱性繊維布帛の性能を表1に記した。
【0099】
合成樹脂膜の厚みの測定において、繊維布帛の表面にタテ糸が出ている部分とヨコ糸が出ている部分の凹凸差による厚みの差(厚み1に対する厚み2及び3の差、繊維布帛の表面にほぼ1mm感覚で点状に存在する凸部を除く)は、実施例1、2及び3に比べ小さかった。合成樹脂膜中の鱗片状のアルミニウム粒子の配置などは実施例1と同様であった。
【0100】
(実施例6)
実施例6では、繊維布帛として、分散染料を用いて紺色(濃色)に染色し、畝により表裏に縦縞を有するポリエステル織物(タテ糸33デシテックス36フィラメント、ヨコ糸56デシテックス72フィラメント、タテ密度292本/2.54cm、ヨコ密度208本/2.54cm。目付101g/m2)に、フッ素系撥水剤で撥水加工をしたものを準備した。なお、遮熱性の測定においては、この状態の繊維布帛を未加工布として用いた。
【0101】
次に、実施例1にて用いた合成樹脂溶液と同様の合成樹脂溶液を、ナイフコータを用い繊維布帛の片面に塗布し、水中で凝固させ、湯洗い、水洗、乾燥を行い、合成樹脂膜を形成した。合成樹脂膜の形成による合成樹脂の付着量は18g/m2あった。また、合成樹脂膜は、繊維布帛の縦縞による凹凸の影響のためか、畝の凸部に長径が0.5mm程度の目視で確認できる穴を所々に有しているものであった。
【0102】
次に、170℃にて仕上げセットを行い、遮熱性繊維布帛を得た。得られた遮熱性繊維布帛の性能を表1に記した。
【0103】
合成樹脂膜の厚みの測定において、繊維布帛の表面にタテ糸が出ている部分とヨコ糸が出ている部分の凹凸差による厚みの差(厚み1に対する厚み2及び3の差、畝の凸部を除く)は、実施例1、2及び3に比べ小さかった。また、他の実施例と比べ、繊維布帛内への合成樹脂の含浸が多くみられた。合成樹脂膜中の鱗片状のアルミニウム粒子の配置などは、実施例1と同様であった。
【0104】
(比較例1)
比較例1では、実施例1にて準備したポリエステル平織物に対し、合成樹脂膜を形成せずに、繊維布帛の片面にスパッタリングにより金属(チタン)膜を形成したものを遮熱性繊維布帛として用いた。得られた遮熱性繊維布帛に対し、各種の性能を測定し表1に記載した。
【0105】
(参考例1)
参考例1では、実施例1において、遮熱性の測定に未加工布として用いた繊維布帛(合成樹脂膜が形成されていない繊維布帛)と同様の繊維布帛に対し、カレンダー加工を施したものを加工布(合成樹脂膜が形成されていない繊維布帛)として遮熱性を測定し、結果を表1に記載した。
【0106】
【0107】
以上の結果より、実施例1~6におけるアルミニウム粒子、及び、アルミニウム粒子及びカーボンブラックを合成樹脂膜中に含む遮熱性繊維布帛は、参考例1における繊維布帛に対しカレンダー加工を施し太陽光からの熱線の反射率を高めた繊維布帛、及び、比較例1における繊維布帛の片面にスパッタリングにより金属膜を設けた遮熱性繊維布帛に比べ、優れた遮熱性を有していることが分かった。
【0108】
また、実施例1及び実施例2の比較により、鱗片状のアルミニウム粒子を合成樹脂膜中に多く含む実施例1は、鱗片状のアルミニウム粒子とカーボンブラックの粒子を含むものに比べ遮熱性に優れていた。
【0109】
また、実施例5及び6のように、濃色に着色された繊維布帛を用いた遮熱性繊維布帛であっても、優れた遮熱性を有する。
【0110】
なお、繊維布帛に対し着色部が少なく、着色された色も他の実施例に比べ薄かった(淡色)実施例4は、更に優れた遮熱性を示した。
【0111】
金属粒子を含む合成樹脂膜を形成した遮熱性繊維布帛(実施例1)、及び、スパッタリングにより金属膜を形成した遮熱性繊維布帛(比較例1)について、それぞれの膜の耐摩耗性を確認するために、JIS L0849 摩擦に対する染色堅牢度試験方法 摩擦試験機II形(学振形)法に準じて、摩耗試験を行った。
【0112】
具体的には、各遮熱性繊維布帛の合成樹脂膜面又は金属膜面を摩擦面とし、摩擦用白色綿布に、2Nの荷重をかけて摩擦面に接触させ、100回往復摩擦を行い、100回往復摩擦後の摩擦用白色綿布における汚染の状態を観察した。なお、試験結果は等級によって判定した。汚染の判定等級は、数値によって表示し、5級が摩擦用綿布の汚染が最も少なく、1級が摩擦用綿布の汚染が最も多い。つまり、判定等級が5級であれば、遮熱性繊維布帛からの金属粒子の離脱が最も少なく、判定等級が1級であれば、遮熱性繊維布帛からの金属粒子の離脱が最も多い。また、摩擦用白色綿布は、乾いた状態、および、水にぬらし約100%湿潤状態である綿布を用いた。
【0113】
摩擦試験の結果、実施例1で得られた遮熱性繊維布帛は、乾いた摩擦用白色綿布を用いた試験での判定等級が3-4級(3級と4級との間の判定等級)であり、湿潤させた摩擦用白色綿布を用いた試験での判定等級が4-5級(4級と5級との間の判定等級)であったことから、いずれの試験でも優れた耐摩耗性を示した。特に湿潤させた摩擦用白色綿布を用いた試験では、100回往復摩擦試験後であっても、摩擦用白色綿布にほとんど汚れがついておらず、合成樹脂膜中の金属粒子が離脱していないことから、実施例1で得られた遮熱性繊維布帛は、特に優れた耐摩耗性を有していることが確認された。したがって、実施例1で得られた遮熱性繊維布帛は、遮熱性繊維布帛に汗が付着して濡れた状態及び洗濯処理時の湿潤した状態においても優れた耐摩耗性を有することから、暑い時期に用いる素材として適したものであることが確認された。
【0114】
また、比較例1で得られた遮熱性繊維布帛は、乾いた摩擦用白色綿布を用いた試験での判定等級が2級、湿潤させた摩擦用白色綿布を用いた試験での判定等級が1-2級(1級と2級との間の判定等級)であり、100回往復摩擦試験後の摩擦用白色綿布は、いずれもかなり濃い色に汚れていた(特に湿潤させた摩擦用白色綿布を用いた試験において)。これにより、比較例1で得られた遮熱性繊維布帛は、摩擦用白色綿布で擦られることにより、遮熱性繊維布帛上の金属膜から金属が離脱していることがわかる。
【0115】
このようにスパッタリングにより形成された金属膜を有する遮熱性繊維布帛は、摩擦に弱く、特に、遮熱性繊維布帛に汗が付着して濡れた状態、および、洗濯処理時の湿潤した状態では、更に摩耗に弱くなり、夏用の素材としては改良が望まれるものであることが確認された。
【0116】
また、実施例1~6で得られた遮熱性繊維布帛を用い、ファンを取り付けた作業服を作成し、当該作業服を着用して、日中に屋外で作業を行ったところ、作業服はよく膨らみ、繊維布帛と身体の間に空間が生じ、作業服と身体の間に空気が流れ、従来よりも涼しく感じられた。また、作業服の着用感も軽く感じられた。