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特許7112936端末所持者検知システム、端末所持者検知方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】端末所持者検知システム、端末所持者検知方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20220728BHJP
   G08B 25/10 20060101ALI20220728BHJP
   H04B 17/27 20150101ALI20220728BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
G08B25/10 A
H04B17/27
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018195335
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020063961
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000108085
【氏名又は名称】セコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】前川 恭亮
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-181137(JP,A)
【文献】特開2010-239331(JP,A)
【文献】特開2005-274205(JP,A)
【文献】特開2011-153997(JP,A)
【文献】特開平11-326482(JP,A)
【文献】特開2006-287685(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0179591(US,A1)
【文献】黒崎 雄太 ほか,"多次元信号部分空間を用いた拡張位置指紋法による屋内無線端末位置推定",電子情報通信学会論文誌 (J93-B),日本,社団法人電子情報通信学会,2010年02月01日,Vol.J93-B, No.2,pp.322-331,ISSN:1344-4697
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-5/14
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
H04B 17/00-17/40
G01R 29/00-29/26
G08B 23/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、前記監視空間内の人物の位置を検出する位置検出装置と、システム主装置と、を備える端末所持者検知システムであって、
前記システム主装置は、
前記監視空間内の各所における電波の反射率、前記受信装置の位置、及び所定値以上の前記反射率を有する強反射体の位置を含む構造情報を記憶しておく記憶部と、
前記構造情報および前記人物の検出位置に基づいて、前記人物が前記発信端末を所持していた場合の発信位置から発信され前記受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出部と、
前記人物が検出された時に前記受信装置にて受信された電波の実測値と前記理論値との差分が所定値以下の場合に、前記人物が前記発信端末を所持すると決定する比較決定部と、
を備え、
前記発信位置からの電波が前記強反射体のみに反射して前記受信装置にて受信される経路が存在する場合、前記理論値算出部は、異なる複数の条件にて複数の前記理論値を算出し、前記比較決定部は、前記複数の理論値と前記実測値とを比較する、
ことを特徴とする端末所持者検知システム。
【請求項2】
前記理論値算出部は、
前記発信位置からの電波が所定の減衰量以下で前記受信装置まで到達しうる経路を算出し、
前記発信位置からの電波が前記強反射体のみで反射して前記受信装置へ到達する第1経路の経路長と、前記発信位置からの電波が受信装置へ直接到達する第2経路の経路長との差が所定値以下の場合に、前記複数の理論値を算出し、
前記第1経路の経路長と前記第2経路の経路長との差が所定値より大きい場合に、単一の前記理論値を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の端末所持者検知システム。
【請求項3】
前記理論値算出部は、前記強反射体が前記人物の前記検出位置の近傍又は前記受信装置の近傍である場合に、前記複数の理論値を算出することを特徴とする請求項1に記載の端末所持者検知システム。
【請求項4】
監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、前記監視空間内の複数の人物のそれぞれの位置を検出する位置検出装置と、システム主装置と、を備える端末所持者検知システムであって、
前記システム主装置は、
前記監視空間内の各所における電波の反射率、前記受信装置の位置、所定値以上の前記反射率を有する強反射体の位置を含む構造情報、人間の形状および前記人間の表面における電波の反射率を含む人間モデル、を記憶しておく記憶部と、
前記構造情報と前記人間モデルとに基づいて、前記複数の人物の検出位置のそれぞれに前記人間モデルが仮想的に配置された検知モデルを生成するモデル生成部と、
前記複数の人物の中から候補者を順次選択し、前記検知モデルに基づいて前記候補者が前記発信端末を所持している場合の発信位置から発信されて前記受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出部と、
前記複数の人物が検出された時に前記受信装置にて受信された電波の実測値と前記理論値とを比較して、前記実測値と前記理論値との差が最も小さい候補者が前記発信端末を所持すると決定する比較決定部と、
を備え、
前記発信位置からの電波が前記強反射体のみに反射して前記受信装置にて受信される到達する経路が存在する場合、前記理論値算出部は、異なる複数の条件にて複数の理論値を算出し、
前記比較決定部は、前記複数の理論値と前記実測値とを比較する、
ことを特徴とする端末所持者検知システム。
【請求項5】
監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、前記監視空間内の人物の位置を検出する位置検出装置と、システム主装置と、を備える端末所持者検知システムであって、
前記システム主装置は、
前記監視空間内の各発信位置からそれぞれ発信された電波が前記受信装置にて受信される場合の受信強度の理論値を、前記各発信位置に対応づけて記憶しておく記憶部と、
前記人物の検出位置に対応する前記発信位置に対応づけられた前記理論値と前記受信装置にて受信された受信強度の実測値との差分が所定値以下の場合に、前記検出位置にいる前記人物が前記発信端末を所持すると決定する比較決定部と、
を備え、
前記記憶部は、前記発信位置からの電波が所定値以上の反射率を有する強反射体のみに反射して前記受信装置にて受信される経路については当該経路の発信位置に対応づけて異なる複数の条件で求めた複数の理論値を記憶し、
前記比較決定部は、前記検出位置に対応する前記発信位置に前記複数の理論値が対応づけられている場合、当該複数の理論値と前記実測値とのそれぞれの差分に基づいて、前記検出位置にいる前記人物が前記発信端末を所持するか否かを決定する、
ことを特徴とする端末所持者検知システム。
【請求項6】
前記複数の理論値は、前記強反射体のみで反射して前記受信装置へ到達する電波と受信装置へ直接到達する電波との間の位相差を異ならせて求められることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の端末所持者検知システム。
【請求項7】
アレイアンテナを有する受信装置により監視空間内の発信端末からの電波を受信する受信ステップと、
前記監視空間内の人物の位置を検出する検出ステップと、
前記監視空間内の各所における電波の反射率、前記受信装置の位置、及び所定値以上の前記反射率を有する強反射体の位置を含み、予め記憶装置に記憶された構造情報と、前記人物の検出位置に基づいて、前記人物が前記発信端末を所持していた場合の発信位置から発信され前記受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出ステップと、
前記人物が検出された時に前記受信装置にて受信された電波の実測値と前記理論値との差分が所定値以下の場合に、前記人物が前記発信端末を所持すると決定する比較決定ステップと、を含み、
前記発信位置からの電波が前記強反射体のみに反射して前記受信装置にて受信される経路が存在する場合、前記理論値算出ステップにおいて異なる複数の条件にて複数の前記理論値を算出し、前記比較決定ステップにおいて前記複数の理論値と前記実測値とを比較する、ことを特徴とする端末所持者検知方法。
【請求項8】
コンピュータに、
監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置が受信した電波の実測値を入力するステップと、
前記監視空間内の人物の位置を検出する位置検出装置が検出した前記人物の検出位置を入力するステップと、
前記監視空間内の各所における電波の反射率、前記受信装置の位置、及び所定値以上の前記反射率を有する強反射体の位置を含み、予め記憶装置に記憶された構造情報と、前記人物の検出位置に基づいて、前記人物が前記発信端末を所持していた場合の発信位置から発信され前記受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出ステップと、
前記人物が検出された時に前記受信装置にて受信された電波の実測値と前記理論値との差分が所定値以下の場合に、前記人物が前記発信端末を所持すると決定する比較決定ステップと、を実行させ、
前記発信位置からの電波が前記強反射体のみに反射して前記受信装置にて受信される経路が存在する場合、前記理論値算出ステップにおいて異なる複数の条件にて複数の前記理論値を算出し、前記比較決定ステップにおいて前記複数の理論値と前記実測値とを比較する、ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人物が所持する発信端末から発信された電波を受信装置にて受信して発信端末の所持者を検知する端末所持者検知システム、端末所持者検知方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報漏洩を防ぐために、機密性の高い部屋にスマートフォンなどの発信端末を持ち込んだ者を検出することが求められている。
特許文献1には、発信端末の位置を推定する技術の一つとして、室内を移動する複数の人物のうちいずれの人物が発信端末を所持しているかを推定する際に、人物による電波の遮蔽を考慮して受信装置での受信強度の理論値を算出して、理論値と実測値との比較を行うことが開示されている。
【0003】
特許文献1の技術によれば、室内の構造や設置されている什器、および室内各所における反射率などの構造情報が既知である場合に、位置検出装置を用いて室内を移動する人物の位置を検出し、この検出位置から電波が発信された場合の理論値と実測値とを比較することにより、発信端末の所持者を特定することができる。
特許文献1の技術においては、理論値の算出に際して電波の反射回数に上限を設けることによって、計算量の増大を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-181137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、受信装置にアレイアンテナを用いると、強い強度の電波の到来方向を検出することにより電波の到来方向に位置する人物が発信端末の所持者であると判断できる。
典型的には、壁などによる反射を無視し、発信端末からの直接波についての理論値を実測値と比較することによって到来方向を検出できる。
【0006】
しかしながら、電波の反射率が高い物体、すなわち強反射体が室内等に存在することがある。強反射体で反射した電波は、減衰が小さいため直接波と同等の強度で受信装置に到達することがある。そのためアレイアンテナを用いても強反射体のみで反射した反射波によって検出精度が低下し得る。
【0007】
またアレイアンテナの出力信号を処理して行う電波の到来方向の算出は、構造情報の誤差や人物の検出位置の測定誤差の影響を受けやすい。よって直接波と同等の強度で反射波が受信装置に到達する状況では理論値の変化が大きい。このため、直接波と同等の強度で反射波が受信装置に到達する状況で理論値を一意に定めてしまうと実測値と理論値との一致を確保することが困難となる。これに対して、複数通りの理論値を用意すれば実測値に理論値を一致させることが可能になるが、常に複数の理論値を生成すると計算量の増大を招く。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、強反射体が存在する監視空間において、必要最低限の計算量により発信端末の所持者を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態によれば、監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、監視空間内の人物の位置を検出する位置検出装置と、システム主装置と、を備える端末所持者検知システムが提供される。システム主装置は、監視空間内の各所における電波の反射率、受信装置の位置、及び所定値以上の反射率を有する強反射体の位置を含む構造情報を記憶しておく記憶部と、構造情報および人物の検出位置に基づいて、人物が発信端末を所持していた場合の発信位置から発信され受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出部と、人物が検出された時に受信装置にて受信された電波の実測値と理論値との差分が所定値以下の場合に、人物が発信端末を所持すると決定する比較決定部と、を備える。発信位置からの電波が強反射体のみに反射して受信装置にて受信される経路が存在する場合、理論値算出部は、異なる複数の条件にて複数の理論値を算出し、比較決定部は、複数の理論値と実測値とを比較する。
【0009】
本発明の一形態に係る端末所持者検知システムにおいて、理論値算出部は、発信位置からの電波が所定の減衰量以下で受信装置まで到達しうる経路を算出し、発信位置からの電波が強反射体のみで反射して受信装置へ到達する第1経路の経路長と、発信位置からの電波が受信装置へ直接到達する第2経路の経路長との差が所定値以下の場合に、複数の理論値を算出し、第1経路の経路長と第2経路の経路長との差が所定値より大きい場合に、単一の理論値を算出す。
【0010】
本発明の一形態に係る端末所持者検知システムにおいて、強反射体が人物の検出位置の近傍又は受信装置の近傍である場合に、複数の理論値を算出する。
【0011】
本発明の他の形態によれば、監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、監視空間内の複数の人物のそれぞれの位置を検出する位置検出装置と、システム主装置と、を備える端末所持者検知システムが提供される。システム主装置は、監視空間内の各所における電波の反射率、受信装置の位置、所定値以上の反射率を有する強反射体の位置を含む構造情報、人間の形状および人間の表面における電波の反射率を含む人間モデル、を記憶しておく記憶部と、構造情報と人間モデルとに基づいて、複数の人物の検出位置のそれぞれに人間モデルが仮想的に配置された検知モデルを生成するモデル生成部と、複数の人物の中から候補者を順次選択し、検知モデルに基づいて候補者が発信端末を所持している場合の発信位置から発信されて受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出部と、複数の人物が検出された時に受信装置にて受信された電波の実測値と理論値とを比較して、実測値と理論値との差が最も小さい候補者が発信端末を所持すると決定する比較決定部と、を備える。発信位置からの電波が強反射体のみに反射して受信装置にて受信される到達する経路が存在する場合、理論値算出部は、異なる複数の条件にて複数の理論値を算出し、比較決定部は、複数の理論値と実測値とを比較する。
【0012】
本発明のさらに他の形態によれば、監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置と、監視空間内の人物の位置を検出する位置検出装置と、システム主装置と、を備える端末所持者検知システムが提供される。システム主装置は、監視空間内の各発信位置からそれぞれ発信された電波が受信装置にて受信される場合の受信強度の理論値を、各発信位置に対応づけて記憶しておく記憶部と、人物の検出位置に対応する発信位置に対応づけられた理論値と受信装置にて受信された受信強度の実測値との差分が所定値以下の場合に、検出位置にいる人物が発信端末を所持すると決定する比較決定部と、を備える。記憶部は、発信位置からの電波が所定値以上の反射率を有する強反射体のみに反射して受信装置にて受信される経路については当該経路の発信位置に対応づけて異なる複数の条件で求めた複数の理論値を記憶し、比較決定部は、検出位置に対応する発信位置に複数の理論値が対応づけられている場合、当該複数の理論値と実測値とのそれぞれの差分に基づいて、検出位置にいる人物が発信端末を所持するか否かを決定する。
【0013】
上記の各形態に係る端末所持者検知システムにおいて、複数の理論値は、強反射体のみで反射して受信装置へ到達する電波と受信装置へ直接到達する電波との間の位相差を異ならせて求められる。
【0014】
本発明のさらに他の形態によれば、アレイアンテナを有する受信装置により監視空間内の発信端末からの電波を受信する受信ステップと、監視空間内の人物の位置を検出する検出ステップと、監視空間内の各所における電波の反射率、受信装置の位置、及び所定値以上の反射率を有する強反射体の位置を含み、予め記憶装置に記憶された構造情報と、人物の検出位置に基づいて、人物が発信端末を所持していた場合の発信位置から発信され受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出ステップと、人物が検出された時に受信装置にて受信された電波の実測値と理論値との差分が所定値以下の場合に、人物が発信端末を所持すると決定する比較決定ステップと、を含む端末所持者検知方法が提供される。端末所持者検知方法において、発信位置からの電波が強反射体のみに反射して受信装置にて受信される経路が存在する場合、理論値算出ステップにおいて異なる複数の条件にて複数の理論値を算出し、比較決定ステップにおいて複数の理論値と実測値とを比較する。
【0015】
本発明のさらに他の形態によれば、コンピュータに、監視空間内の発信端末からの電波をアレイアンテナにて受信する受信装置が受信した電波の実測値を入力するステップと、監視空間内の人物の位置を検出する位置検出装置が検出した人物の検出位置を入力するステップと、監視空間内の各所における電波の反射率、受信装置の位置、及び所定値以上の反射率を有する強反射体の位置を含み、予め記憶装置に記憶された構造情報と、人物の検出位置に基づいて、人物が発信端末を所持していた場合の発信位置から発信され受信装置にて受信される電波の理論値を算出する理論値算出ステップと、人物が検出された時に受信装置にて受信された電波の実測値と理論値との差分が所定値以下の場合に、人物が発信端末を所持すると決定する比較決定ステップと、を実行させるコンピュータプログラムが提供される。このコンピュータプログラムでは、発信位置からの電波が強反射体のみに反射して受信装置にて受信される経路が存在する場合、理論値算出ステップにおいて異なる複数の条件にて複数の理論値を算出し、比較決定ステップにおいて複数の理論値と実測値とを比較する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強反射体のみに反射する電波が受信装置へ到達する経路が存在する場合に、条件を変えて求めた複数の理論値を実測値と比較して電波の発信位置を判定する。このため、人物の検出位置の誤差や、受信強度の理論値を算出する構造情報の精度の限界のために理論値と実測値とが一致しにくくなっても、条件を異ならせて算出した複数の理論値のいずれかが実測値と一致または差分が小さければ電波の発信位置を判定できる。さらに、強反射体のみに反射する電波が受信装置へ到達する経路が存在する場合に複数の理論値を算出するので、理論値の計算量を必要最低限に抑え、計算量の増大を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態の端末所持者検知システムが設置され運用される様子の一例の模式図である。
図2】本発明の実施形態の端末所持者検知システムが設置され運用される様子の一例を上から見下ろした俯瞰図である。
図3】本発明の第1実施形態の端末所持者検知システムの概略構成の一例のブロック図である。
図4】監視空間内で発信された電波が受信装置の位置にて受信される場合の受信強度の理論値の算出方法の一例の説明図である。
図5】受信装置300に内蔵されるアレイアンテナの一例の模式図である。
図6】直接波と反射波との位相差による受信強度の角度スペクトルのパターンの変化の一例の説明図である。
図7】合成波の受信強度の角度スペクトルのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図8】合成波理論値と直接波理論値の一例の模式図である。
図9】本発明の第1実施形態の端末所持者検知システムの動作例のフローチャートである。
図10】本発明の第2実施形態の端末所持者検知システムの概略構成の一例のブロック図である。
図11】本発明の第2実施形態の端末所持者検知システムの動作例のフローチャートである。
図12】本発明の第3実施形態の端末所持者検知システムの概略構成の一例のブロック図である。
図13】強反射領域の算出方法の一例の説明図である。
図14】本発明の第3実施形態の端末所持者検知システムの動作例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態として、電波の発信端末の所持者を検知する端末所持者検知システムが、機密性の高い部屋に設置されて運用された場合を例示する。以下、本発明の実施形態の端末所持者検知システムが設置される機密性の高い部屋は、特許請求の範囲に記載の「監視空間」の一例である。
近年、スマートフォンやタブレット端末は小型化しており、このような端末を鞄や着衣に隠し持っていても外見からは分からないため機密情報を扱う部屋に容易に持ち込むことができる。
【0020】
また、これらの端末は、高性能化により簡単な操作で大量の情報を送信できる。このため、これらの端末を利用した情報漏洩の危険性があり、機密情報を扱う部屋に端末が持ち込まれた場合にその所持者を発見、特定することが求められる。
このため、以下に説明する実施形態では、発信端末としてスマートフォンやタブレット端末を想定する。しかし、発信端末はこれらの端末に限定されず、電波を発信する端末であれば他の種類の端末であってもよい。
【0021】
図1は、実施形態に係る端末所持者検知システムが設置されて運用される様子を示す模式図である。
図1は、機密性が高い部屋20の模式図である。部屋20には、発信端末41を着衣の中に隠し持つ人物40が存在している。
この例における端末所持者検知システムの目的は、人物40が発信端末を所持しているか否かを判定することである。
【0022】
部屋20は、図1に示すように壁面A23、壁面B24、壁面C25、壁面D28(不図示)により囲まれており、加えて床面21と天井面22により区画されている。また、扉26も存在している。
壁面などはそれぞれ一般的な建材を用いて作られており、完全な電波吸収体ではないが、後述する強反射体よりも大幅に低い強度で電波を反射する性質を持っている。
【0023】
また部屋20には、一般的な材質である薄い鉄板で作られた事務用のロッカー210が備わっている。ロッカー210に使われている鉄は、所定値以上の電波の反射率を有しており電波が反射してもその前後で強度の低下がほとんど見られず、減衰しにくい強反射体であることが知られている。
以上の部屋20の内部の構造に関する情報は、世界座標系にて表現されて既知であり、後述するようにシステム主装置の記憶部に構造情報として記憶されている。
【0024】
部屋20には、位置検出装置200が備わっている。位置検出装置200は、部屋20に存在する人物について、位置検出装置200から見た相対的位置を検出位置として出力する手段である。図1の例では人物40の位置を検出する。
位置検出装置200は人物40を検出できるよう設置され、図1に示すように、部屋の隅のおおよそ人物の腰から肩の高さに設置されるのが好適である。複数個の位置検出装置200が備わっていてもよい。
【0025】
位置検出装置200は、レーザーレーダータイプの距離センサにて実現できる。他にも画像処理手段を備えることとしてカメラを備えた画像センサでもよいし、床面21の下の全面に圧力センサを敷き詰めて人の体重のかかり具合から位置を検出するように実現してもよい。
【0026】
受信装置300は、部屋20の天井面22に設置され、電波を受信するためのアンテナ装置を備える。受信装置300は、アレイアンテナを備えることにより、発信端末41から発信される電波の受信強度のほか、その到来方向も検出可能なように構成されている。受信装置は適宜周知技術にて実現されるので、詳細な説明は省略する。
【0027】
アレイアンテナを用いる場合には、例えば公知のBeamformer法、MUSIC(Multiple Signal Classification)法などを用いて電波の到来方向、すなわち到来角を測定することができる。それら方法については、例えば、「電子情報通信学会 知識ベース知識の森 4群-2編-8章 8-4 到来方向推定 http://www.ieice-hbkb.org/files/04/04gun_02hen_08.pdf#page=11」に記載されている。
【0028】
図2(a)は、図1に示した部屋20を天井から床に向かって見下ろした俯瞰図である。図2(b)に、受信装置300に到来する電波の到来方向を定義する座標系を示す。この座標系では、受信装置300の正面、すなわちアンテナの正面を0度、右側方が90度、左側方が-90度となるよう定義され、部屋20を見下ろした図2(a)のx軸方向及びy軸方向が、0度及び90度にそれぞれ対応する。
【0029】
(第1実施形態)
図3に、第1実施形態の端末所持者検知システムの概略構成の一例のブロック図を示す。端末所持者検知システム10は、既に説明した受信装置300、位置検出装置200のほか、システム主装置100を備える。
【0030】
なお、受信装置300及び位置検出装置200とシステム主装置100との間は、例えば、Ethernet(登録商標)、RS232C、RS485などの規格に則った有線方式、またはWi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)などを利用した無線方式に基づく通信手段であってよく、説明は省略する。
【0031】
システム主装置100は、記憶部110、理論値算出部120、理論値バッファ130、実測値バッファ140、比較決定部150、出力部160を備える。
システム主装置100は、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)などのプロセッサを備える。このプロセッサが、記憶部110に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、理論値算出部120、理論値バッファ130、実測値バッファ140、比較決定部150、出力部160の各機能を実現する。
【0032】
以下、システム主装置100の各部について説明する。
記憶部110は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)などの磁気媒体や半導体メモリなどの公知の手段にて実現される記憶手段である。システム主装置100全体の動作を制御するプログラムのほか、システム主装置100の各部を構成するプログラムモジュール、閾値などのパラメータ類、処理途中のデータを一時的に記憶するための領域、構造情報111を記憶する。記憶されている情報は、適宜システム主装置100の各部とやり取りされる。
【0033】
構造情報111は、部屋20を画定する要素の情報であり、各受信装置における受信強度の理論値を求めるために用いられる。
例えば、図2(a)に示すように床面の隅を原点とした座標系(世界座標系)を定義し、壁面A23~壁面D28、天井面22、床面21、扉26、図示しない什器類の大きさ、位置などの幾何情報、壁面などの表面の形状を規定する数式情報および表面の材質情報、電波の反射率などがBIM(Building Information Model)などのモデル化手法にて表現された情報である。
【0034】
さらに、本例では、構造情報111にはロッカー210の情報が、強反射体の情報として記録される。ロッカー210の情報は、部屋20におけるロッカー210の位置を世界座標系にて表した位置情報、大きさ、表面における電波の反射率が記憶される。
強反射体の情報として、ロッカー210などの事務用キャビネット類のほか、薄い鉄板の筐体を有する他の物体、例えば、電気系統の分電盤、大型エアコンなどの情報が、構造情報111に含まれる。これら事務用キャビネット類、電気系統の分電盤、大型エアコンなどの筐体は、特許請求の範囲に記載の「強反射体」の一例であるが、強反射体はこれらのものに限定されない。強反射体は、所定値以上の電波の反射率を有する物体であれば他の種類の物体でもよい。
【0035】
ロッカー210などの事務用キャビネット類、電気系統の分電盤、大型エアコンなどはその筐体は薄い鉄板が用いられるのが一般的であり、発信端末41から発信された電波がその表面で反射しても、反射による減衰はほとんど見られない。その反射率は大よそ90~100%とされている。
部屋20に強反射体が存在すると、発信端末41から発信された電波が強反射体の表面のみにて反射して受信装置300に到達する反射波の伝播経路と、発信端末41から受信装置300に直接到達する直接波の伝播経路の距離差が小さくなることがある。この場合には、強反射体のみに反射した反射波と直接波とが同等の強度で受信装置300に到達する。これらの電波は、強反射体以外の物体において反射して受信装置300に到達する電波に比べて支配的な強度にて受信装置300に到達し合成波として計測される。
【0036】
このように、強反射体の表面のみに反射した反射波と、直接波とが、同等の強度で受信装置300に到達する電波の発信位置の集合により形成される領域を「強反射領域」と表記する。
このような強反射領域は、発信端末41から発信した電波が強反射体の表面での反射では殆ど減衰せずに受信装置300に到達する発信位置の範囲であり、例えばロッカー210等の近傍に存在する。また、受信装置300の近傍に強反射体が存在する場合にも強反射領域が発生し得る。
【0037】
理論値算出部120は、位置検出装置200から出力される人物40の検出位置を入力する。位置検出装置200から出力される検出位置は、位置検出装置200から人物40への方位と距離である。理論値算出部120は、記憶部110の構造情報111を参照し、人物40の検出位置を部屋20における世界座標系で表現した座標を算出する。
【0038】
理論値算出部120は、人物40の検出位置に発信端末41が存在する場合に、この検出位置から発信された電波が受信装置300の位置にて受信される場合の受信強度の理論値として、2種類の理論値、すなわち合成波理論値と直接波理論値を算出する。
合成波理論値は、人物40の検出位置から受信装置300に直接到達する直接波に、前記の通りロッカー210にて反射された反射波が合成されて合成波となった状態で受信装置300にて受信される電波の強度の理論値である。
【0039】
直接波理論値は、人物40の検出位置から受信装置300に直接到達する直接波に、強反射体で反射した反射波が合成されない状態での受信装置300にて受信される電波の強度の理論値である。
直接波理論値は、発信端末41が例えばロッカー210から離れた位置のように強反射領域の外側の位置にあり、直接波と反射波の伝播経路の差が大きく距離減衰を考慮すれば両者が区別できる場合の受信強度の理論値である。または、直接波理論値は、反射波が受信装置300に到達する前に部屋20の内部で反射を繰り返して事実上計測できないほどに減衰した場合の受信強度の理論値である。
【0040】
合成波理論値と直接波理論値は、例えば、図2(b)に示すように、受信装置300を中心に、図2(a)に示すように部屋20を上から見下ろした場合に受信装置300の正面を0度、左右に±90度の測定可能な角度範囲について、各角度から到来する電波の強度を並べた受信強度の角度スペクトルとして計算される。
図2(a)の例で人物40が発信端末41を所持している場合には、ロッカー210における反射を無視すれば大よそ-60度に最大強度(ピーク)を持つことになる。
【0041】
理論値算出部120は、記憶部110に記憶されている構造情報111を参照して、人物40の検出位置に発信端末41が存在したときに壁面やロッカー210を含む什器類における反射を考慮して電波の伝播経路を計算したうえで、受信装置300にて受信され得る電波の合成波理論値または直接波理論値を算出する。伝播経路は、例えばコンピューターグラフィックスの分野で周知なレイトレーシング(Ray Tracing)法に準じた方法に基づいて計算すればよい。
【0042】
次に、図4を参照して理論値の算出方法の一例を説明する。図4は、図1に示した部屋20を天井から床に向かって見下ろした様子を示す。
理論値算出部120は、人物40の検出位置に発信端末41が存在した場合に、無指向性にて電波が発信され、壁面や什器等による反射を考慮して受信装置300に到達する経路を算出する。
【0043】
図4(a)には、同図において左から2本目の破線と上から2本目の破線とが交差する位置に発信端末41が存在した場合に、その周囲に伸びる矢印を示している。この矢印は発信端末41から発信された電波が伝播し得る経路(伝播経路)として求めたものである。伝播経路は発信端末41を中心に、立体的に各方向に形成されるが、本実施の形態では簡単のために図4に示すように上から見下ろした平面上の伝播経路について説明する。
【0044】
理論値算出部120は、記憶部110に記憶された構造情報111を参照し、発信端末41から各方向に“レイ”と呼ばれる直線を仮想的に考え、壁面や天井などにおける反射を考慮して各受信装置に至る伝播経路として計算する。これはレイトレーシング法と呼ばれる方法に準じたものである。
理論値算出部120は、電波が所定の減衰量まで減衰するまでの伝播距離を、レイの長さ、すなわち電波が伝播し得る最大距離として求める。理論値算出部120は、強反射体以外による反射の回数に上限を設けてレイの長さを求めることができる。例えば反射の回数の最大値を2回にできる。
【0045】
図4(a)には、発信端末41から多くのレイが伸びていることが示されている。即ち電波の一部は受信装置300に向かって直接到達し(直接波)、一部はロッカー210にて反射した後に受信装置300に向かって到達し(反射波)、一部は受信装置300に到達することなく減衰して受信装置300にて計測されないことを示している。
図4(a)では、図の簡単化のためにレイは9本示しており、各レイの最大距離までは示していない。レイの角度分解能は理論値の算出に影響するので、処理速度と必要な発信端末41の位置の推定精度とのバランスを考量して決定する。例えば、1度ごとにレイを算出することができる。
【0046】
図4(b)には、図4(a)とは異なり、左から7本目の破線と、上から5本目の破線とが交差する位置に発信端末41が存在する場合のレイを示している。図4(b)においては、受信装置300に到達する電波はごく一部であり、殆どの電波が壁での反射により減衰して受信装置300に到達することはないことを示している。
描画上、ロッカー210にて反射するレイは示してないが、この位置関係では壁等にも反射して減衰するので受信装置300で計測されることはない。
【0047】
図4(a)と図4(b)を比較すると、図4(a)の場合も図4(b)の場合も発信端末41から受信装置300へ直接到達する直接波が存在する。しかし、図4(b)の場合にはロッカー210にて反射する反射波が存在しないか、存在しても受信装置300から遠いために減衰してしまい計測されていない。
【0048】
一方で、図4(a)では、直接波だけでなくロッカー210のみで反射した反射波も反射による減衰を無視できるほどの強度で受信装置300に到達し計測される。
したがって、図4(a)のような発信位置は、強反射体の表面のみに反射した反射波と、直接波とが、同等の強度で受信装置300に到達する電波の発信位置であり、このような発信位置の集合が強反射領域となる。
図4(c)には、ロッカー210でのみ反射した反射波が十分な強度で受信装置300に到達し得る電波の発信位置の集合を外郭線で囲った領域の一例が、強反射領域410として示されている。
【0049】
強反射領域410から電波が発信されると、受信装置300に到達する直接波と反射波の強度がほぼ等しくなり、かつ周波数は等しいため、直接波と反射波は合成されて互いに分離できなくなる。図5のアレイアンテナのモデル図を用いて、このような場合の合成波理論値の求め方を説明する。
図5は、受信装置300に内蔵されているアレイアンテナの一例の模式図である。図2(a)を参照すると、図2(a)におけるx軸方向を正面(0度)として、所定個数のアンテナ素子を並べたものが示されている。
ここでは、例えば4個のアンテナ素子を並べ、整数k(k=1~4)を用いて個々のアンテナ素子(チャンネル)の番号を表す場合を想定する。
【0050】
いま、番号1のアンテナ素子(チャンネル1)を基準としてk番目の素子までの距離をdkと表す。また、受信装置300に到達する直接波の強度をA1とし、強反射体でのみ反射して受信装置300に到達する反射波の強度をA2とし、正面0度に対する直接波の到来角度をθ1、同じく反射波の到来角度をθ2とし、受信装置300に到達した時の直接波に対する反射波の位相差をφとし、波長をλとする。
【0051】
以下に述べるように合成波は直接波と反射波の位相差に依存して変化するが、直接波の位相と反射波の位相そのものの値には依存しない。このため、以下の説明では直接波の位相を0度として扱う。
k番目のアンテナ素子に到達する電波Ek(t)は、次式(1)により表わされる。
【0052】
【数1】
【0053】
式(1)において第一項は直接波、第二項は反射波を表す。また、直接波と反射波が同等の強度と仮定しているため、
【0054】
【数2】
【0055】
を式(1)に代入すると、三角関数の加法定理により式(1)の右辺は式(3)のように変形できる。
【0056】
【数3】
【0057】
上式(3)において、振幅項はdk、λ、θ1、θ2及びφの関数の余弦で表される。ここで、dk、λは定数であり、ある測定時刻に注目するとθ1、θ2も定数となる。このため、合成波の振幅は、直接波と反射波との間の位相差φをパラメータとして値と符号が変化する。すなわち合成波の振幅は、直接波と反射波が受信装置300に到達するときの位相差φに依存して変化する。
【0058】
ここで、振幅項の余弦角に注目すると、余弦角が変化すると90度(π/2)および270度(3π/2)を境に符号が変化することになる。この場合、式(3)全体の符号が変化するため、位相項の正弦角が180度(π)反転したことと同等となる。
ここで、アンテナ素子同士の距離を一般的な値であるλ/2とし、sin(θ2)-sin(θ1)=Bとおくと、Ek(t)(k=1、2,3,4)の位相項の正弦角が180度回転する位相差φは、番号1のアンテナの場合にπとなり、番号2のアンテナの場合にπ(B-1)となり、番号3のアンテナの場合にπ(2B-1)となり、番号4のアンテナの場合にπ(3B-1)となる。
【0059】
そして、受信装置300における受信強度を周知なBeamformer法に基づいて求めると、図6に示すように、位相項の回転のためにφ=0~97、319~360度(符号600、640)、97~180度(符号610)、180~236度(符号620)、236~319度(符号630)の4つの範囲で、受信強度の角度スペクトルのパターンが、それぞれ全く異なるものとなる。
【0060】
図7は、合成波に含まれる直接波が正面0度から到来し、反射波が-18度から到来する場合における受信装置300での合成波の受信強度の角度スペクトルを、φを変化させてシミュレーションした結果を示す。
図7(a)がφ=0~97、319~360度の場合のスペクトルを示し、図7(b)がφ=97~180度の場合のスペクトルを示し、図7(c)がφ=180~236度の場合のスペクトルを示し、図7(d)がφ=236~319度の場合のスペクトルを示す。
図7において横軸は、図2(b)を用いて説明したように受信装置300の正面を0度とした場合の左右方向の角度を表している。
【0061】
図6図7の例は、位相差φ=97度、180度、236度、319度の近傍では位相差のわずかな違いによって強反射体による反射波が合成された合成波が大きく変化することを示している。この位相差φは図6に示したように直接波と反射波の到来方向θ1、θ2に関連し、到来方向θ1、θ2は人物の検出位置に基づく発信位置および構造情報111から導出される。
【0062】
つまり、強反射体による反射波が合成された合成波の理論値は、人物の検出位置の誤差および構造情報111の誤差の影響を受けやすい。
そのため、強反射体による反射波が合成された合成波については、一意な理論値を算出してしまうと、実測値と理論値との一致を確保することが困難となる。
【0063】
よって、理論値算出部120が、人物の検出位置、又は人物の検出位置及び受信装置300の位置に基づき、理論値に対する強反射体の影響を無視できない場合であるか否かを判定し、無視できない場合に複数通りの理論値を算出することによって処理の増加を必要限度に抑えつつ実測値と理論値との一致を確保できる。
【0064】
また、図6図7の例は、位相差φに関連して変化する合成波が有限通りの角度スペクトルパターンで近似できることを示している。
よって、理論値算出部120が理論値に対する強反射体の影響を無視できないと判定した場合に算出する理論値を、位相差φについての複数通りの理論値とすることによって、処理の増加を必要限度に抑えつつ実測値と理論値との一致を確保する効果をさらに高めることができる。
【0065】
そこで、理論値算出部120は、理論値を算出する際に、まず人物40の検出位置が強反射領域内であるか否かを判断する。
例えば、理論値算出部120は、人物40の検出位置から発信された電波がロッカー210のような強反射体の表面のみにて反射して受信装置300に到達する反射波の伝播経路と、人物40の検出位置から受信装置300に直接到達する直接波の伝播経路と、の間の距離差が所定閾値よりも小さくなるか否かに応じて、人物40の検出位置が強反射領域内であるか否かを判断する。
【0066】
また例えば理論値算出部120は、強反射体が人物40の前記検出位置の近傍又は受信装置300の近傍である場合に、人物40の検出位置が強反射領域内であると判断する。
人物40の検出位置が強反射領域410内である場合には、算出条件を異ならせながら、すなわち異なる複数の算出条件をもちいて、1箇所の人物40の検出位置について複数の理論値を算出して、合成波理論値として理論値バッファ130に一時記憶する。
【0067】
これにより、たとえ人物の検出位置の誤差や構造情報の精度の限界のために理論値が実測値に一致しにくくなっても、条件を異ならせて算出した複数の理論値のいずれかが実測値と一致または差分が小さければ電波の発信位置を判定できる。
例えば、理論値算出部120は、複数の算出条件として、直接波と反射波との間の位相差φが異なる複数の値である場合の理論値をそれぞれ算出して合成波理論値として理論値バッファ130に一時記憶する。
例えば、受信装置300から検定点400への見込み角度を直接波の到来角度θ1とし、構造情報111を参照して定めた受信装置300からロッカー210への見込み角度を反射波の到来角度θ2として用い、位相差φを異ならせて合成波理論値を求める。
【0068】
なお、人物40の検出位置が強反射領域410内でない場合には、受信装置300がアレイアンテナで実現されていることを踏まえ、受信装置300と検定点400との相対角度と距離を考慮することで、直接波のみが到来するとしてアレイアンテナを用いた従来技術と同様な方法で理論値を求めることができる。
理論値算出部120は、このようにして求めた理論値を直接波理論値として理論値バッファ130に一時記憶する。
【0069】
図8は、理論値算出部120が算出した合成波理論値と直接波理論値の一例の模式図である。
図8(a)には、発信端末41が強反射領域410の内部に位置していると仮定したときの合成波理論値が示されている。本実施の形態では、強反射領域410の内部の1箇所について位相差φを10度毎異ならせて算出した36種類の合成波理論値を算出する。
合成波理論値は、受信強度の角度スペクトルとして、角度ごと、例えば1度ごとの強度の値が所定の単位、例えばデシベル(dB)にて表された数値として表現されてテーブル形式で表現される。
【0070】
図8(b)には、発信端末41が強反射領域410の外部に位置していると仮定したときの直接波理論値が示されている。直接波理論値は、発信端末41の位置1箇所について1種類の直接波理論値が算出される。合成波理論値と同様に、直接波理論値も角度ごと、例えば1度ごとの強度の値が例えばデシベル(dB)にて表された数値として表現されてテーブル形式で表現される。
【0071】
このように、人物40の検出位置が強反射領域410に含まれない場合には、その位置に応じて1個の直接波理論値が算出されて理論値バッファ130に記憶されるが、強反射領域410に含まれる場合には、直接波と反射波の位相差に応じて複数の合成波理論値が算出されて理論値バッファ130に記憶される。例えば位相差φを10度ずつ変える場合には36個が記憶される。
【0072】
なお、さらには1時点の理論値だけではなく、複数時点の結果、即ち人物40が移動している場合に、その各時点における位置に対応する理論値を逐次算出して理論値バッファ130に記憶してもよい。
理論値バッファ130は、適宜半導体メモリや磁気ディスクで実現できる。記憶部110から独立した記憶装置であってもよく、記憶部110に一定の領域を確保して、記憶部110と一体化して実現してもよい。
【0073】
実測値バッファ140は、受信装置300から発信されてきた電波の実測値を時刻情報とともに一時記憶しておくバッファである。適宜半導体メモリや磁気ディスクで実現できる。実測値バッファ140は、理論値バッファ130や記憶部110から独立した記憶装置であってもよく、理論値バッファ130や記憶部110に一定の領域を確保して、理論値バッファ130や記憶部110と一体化して実現してもよい。
【0074】
比較決定部150は、理論値バッファに記憶されている受信電波の理論値と、実測値バッファに記憶されている受信電波の実測値を比較して理論値と実測値の差分を求める。例えばこの差分は、理論値と実測値を正規化して、角度毎の差分の総和として求めればよい。又は、理論値と実測値の近似の程度を表す量として、その角度毎の差分の総和の逆数を求めてもよいし、理論値と実測値の正規化相関を求めてもよい。
比較決定部150は、理論値と実測値との間の差分が所定値以下である場合に、位置検出装置200が検出した位置にいる人物が発信端末を所持すると決定する。
【0075】
ここで、人物40の検出位置が強反射領域410に含まれる場合、比較決定部150は、人物40の検出位置に対応づけて記憶された複数の合成波理論値と実測値とのそれぞれの差分を求める。
比較決定部150は、複数の合成波理論値のいずれかと実測値との差分が所定値以上であっても、他の合成波理論値のいずれか1個と実測値との間の差分が所定値未満であれば、位置検出装置200が検出した位置にいる人物が発信端末を所持すると決定する。
【0076】
人物40が発信端末を所持すると決定した場合、比較決定部150は、出力部160を経由して外部設備、外部装置、外部の人間、例えば警備センターや部屋20の管理者などに報知する。
【0077】
次に図9に示すフローチャートを参照して、第1実施形態の端末所持者検知システム10の動作を説明する。
なお、図9のフローチャートを実行する前に、本システムの管理者により、図示しない操作入力部を用いて部屋20の内部構造に関する構造情報111を記憶部110に記憶させる。
【0078】
ステップS100において位置検出装置200は、部屋20に存在する物体、特に人物の位置を検出して、その検出位置をシステム主装置100に送信する。
ステップS110において受信装置300は、到来方向ごとの受信強度を測定して、その実測値を得る。その結果をシステム主装置100に送信して、システム主装置100は実測値バッファ140に格納する。
【0079】
ステップS120において受信強度の実測値が小さくノイズが受信されているか否かを判定する。受信強度の実測値が所定値以上でない場合(ステップS120:No)には、以後のステップS130~S170は行わない。
受信強度の実測値が、ノイズと判定される所定値以上の場合(ステップS120:Yes)には、処理はステップS130へ進む。
【0080】
ステップS130において理論値算出部120は、人物40が強反射領域410に存在するか否かを判定する。候補者が強反射領域410に存在する場合(ステップS130:Yes)には、処理はステップS140へ進む。人物40が強反射領域410の外側に存在する場合(ステップS130:No)には、処理はステップS150へ進む。
【0081】
ステップS140において理論値算出部120は、人物40の検出位置から発信された電波が、受信装置300の位置にて受信される場合の受信強度の複数の合成波理論値を算出する。理論値算出部120は、これら複数の合成波理論値を理論値バッファ130へ一時的に記憶させる。その後に処理はステップS160へ進む。
【0082】
一方でステップS150において理論値算出部120は、人物40の検出位置から発信された電波が、受信装置300の位置にて受信される場合の受信強度の直接波理論値を算出する。理論値算出部120は、この直接波理論値を理論値バッファ130へ一時的に記憶させる。その後に処理はステップS160へ進む。
【0083】
ステップS160において実測値バッファ140に記憶された受信強度の実測値と、理論値バッファ130に記憶された受信強度の理論値を比較して、これらの値の差分を求める。比較決定部150は、理論値と実測値との間の差分が所定値以下である場合に、位置検出装置200が検出した位置にいる人物が発信端末を所持すると決定する。
ステップS170において出力部160は、比較決定部150から入力された発信端末の所持者情報を外部に出力する。図示しない外部の装置は、例えば、発信端末の所持者に注意喚起などをするような報知処理を行う。その後に処理はステップS100へ戻る。
【0084】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態に係る端末所持者検知システムは、強反射体のみに反射する電波が受信装置へ到達する経路が存在する場合に、条件を変えて求めた複数の理論値を実測値と比較して電波の発信位置を判定する。このため、直接波と同等の強度で反射波が受信装置に到達する状況において、人物の検出位置の誤差や、受信強度の理論値の算出に使用する構造情報の誤差のために受信強度の角度スペクトルのパターンが変動して理論値と実測値とが近似しにくくなっても、条件を異ならせて算出した複数の理論値のいずれかが実測値と一致または差分が小さければ電波の発信位置を判定できる。さらに、強反射体のみに反射する電波が受信装置へ到達する経路が存在する場合に複数の理論値を算出するので、理論値の計算量を必要最低限に抑え、計算量の増大を回避できる。
【0085】
(変形例)
以上、第1実施形態に係る端末所持者検知システムについて構成と動作を説明してきたが、本発明の範囲はそれに限られない。
発信端末41が強反射領域410の外に存在する場合は、発信端末41から受信装置300への直接波が計測結果において支配的になる。
【0086】
したがってこの場合には、理論値算出部120は、レイトレーシング法に準じて直接波理論値を求めるのに代えて、単に検定点400から受信装置300へ向かう直線の角度(図2(b)参照)を求め、この方向から到来する電波の強度が、発信端末41から発信されたと考えられる強度閾値以上であるか否かを判定してもよい。
【0087】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。第1実施形態では、部屋20に人物は主に1人のみがいるものとして説明してきたが、本発明の範囲はこれに限られない。第2実施形態の端末所持者検知システム10は、複数の人物が部屋20にいる場合に、いずれの人物が発信端末41を所持しているかを判定する。
【0088】
ここで部屋20に複数の人物が存在し、発信端末41の所持者と受信装置300との間に他の人物が位置すると、この人物は電波の伝播を妨げる遮蔽物として作用する。
そこで、第2実施形態のシステム主装置100では、各計測時点において、理論値算出部120が、複数の人物による電波の減衰を考慮して、前述のレイトレーシング法に準じて理論値をリアルタイムに求めて、理論値バッファ130に記憶させることとする。この方法は特許文献1に示されている方法に準じることとなる。
【0089】
図10は、第2実施形態の端末所持者検知システムの概略構成の一例のブロック図を示す。第2実施形態のシステム主装置100は、図3を参照して説明した第1実施形態のシステム主装置100と類似する構成を備えており、類似する構成要素には同一の参照符号を付して、同じ機能についての説明を省略する。
第2実施形態のシステム主装置100は、記憶部110、理論値算出部120、理論値バッファ130、実測値バッファ140、比較決定部150、出力部160に加えて、モデル生成部170を備える。
【0090】
また、第2実施形態の記憶部110には、人間の形状と人間の表面における電波の反射率を含む人間モデル112が記憶されている。人間モデル112は、部屋20に存在し得る人間をポリゴンモデルやサーフェースモデルなどで3次元形状を表現した情報であり、少なくとも標準的な人間の体格として身長(170cm)、身幅(60cm)を表現したモデルである。そして人間モデル112は、その体表面における電波の反射率を有している。
【0091】
モデル生成部170は、構造情報111を参照し、位置検出装置200による部屋20内の人物の検出位置に人間モデル112を仮想的に配置して、人物が配置された部屋20の内部の様子をモデル化した検知モデルを生成して理論値算出部120へ出力する。
理論値算出部120は、検知モデルに基づいて、発信端末41から発信された電波が受信装置までどのような経路に沿って伝播し得るかを算出し、前述の合成波理論値と直接波理論値を各計測時点においてリアルタイムに求める。
【0092】
具体的には、理論値算出部120は、位置検出装置200により検出された複数の人物の中から発信端末41を所持していると仮定した候補者を順次選択する。
理論値算出部120は、選択した候補者が所持している発信端末41から発信された電波が、モデル生成部170が人間モデル112を仮想的に配置した部屋20で伝播した場合に、ロッカー210のような強反射体の表面のみにて反射して受信装置300に到達する反射波の伝播経路と、発信端末41から受信装置300に直接到達する直接波の伝播経路の距離差が所定閾値よりも小さくなるか否かを判定する。
【0093】
強反射体の表面のみにて反射した反射波の伝播経路と直接波の伝播経路の距離差が所定閾値よりも小さい場合には、理論値算出部120は、候補者が強反射領域410に存在すると判定する。
この場合に理論値算出部120は、候補者が所持している発信端末41から発信された電波が、モデル生成部170が人間モデル112を仮想的に配置した部屋20で伝播し、受信装置300の位置にて受信される場合の受信強度の複数の合成波理論値を算出する。理論値算出部120は、これら複数の合成波理論値を理論値バッファ130へ一時的に記憶させる。
【0094】
一方で、候補者が所持している発信端末41から発信されてモデル生成部170が人間モデル112を仮想的に配置した部屋20を伝播する電波が強反射体の表面のみにて反射して受信装置300に到達する反射波の経路が存在しない場合や、反射波の伝播経路と直接波の伝播経路の距離差が所定閾値よりも大きい場合には、理論値算出部120は、候補者が強反射領域410の外側に存在すると判定する。
【0095】
この場合に理論値算出部120は、候補者が所持している発信端末41から発信された電波が、モデル生成部170が人間モデル112を仮想的に配置した部屋20で伝播し、受信装置300の位置にて受信される場合の受信強度の直接波理論値を算出する。理論値算出部120は、直接波理論値を理論値バッファ130へ一時的に記憶させる。
【0096】
比較決定部150は、複数の人物についてそれぞれ算出した理論値と、受信装置300にて受信された受信強度の実測値とを比較して、実測値と理論値との差分が最も小さい人物が発信端末41を所持すると決定する。
なお、部屋20に複数人がいる場合、その全員が受信装置300からみて一直線上に並ぶ場合にはこれまで述べてきた方法では対応は困難となる。そこで受信装置300を複数用意することが望ましい。図1では受信装置300は壁A23の上方に取り付けている様子を図示しているが、例えばさらに壁B24の上方にも取り付ける。
【0097】
次に図11に示すフローチャートを参照して、第2実施形態の端末所持者検知システム10の動作を説明する。
ステップS200~S220の処理は、図9のステップS100~S120の処理と同様である。
受信強度の実測値がノイズと判定される値以上であり、いずれかの人物が発信端末を所持している可能性があると判定される値以上の場合(ステップS220:Yes)には、処理はステップS230へ進む。
【0098】
ステップS230においてモデル生成部170は、記憶部110に記憶されている構造情報111と人間モデル112を参照し、ステップS300にて位置検出装置200が測定した各人物の検出位置に人間モデル112をそれぞれ仮想的に配置して検知モデルを作成し、理論値算出部120に出力する。
【0099】
理論値算出部120は、位置検出装置200により検出された複数の人物の中から発信端末41を所持していると仮定した候補者を順次選択し、候補者毎に以降のステップS240~S260を実行する。
ステップS240において理論値算出部120は、候補者が強反射領域410に存在するか否かを判定する。候補者が強反射領域410に存在する場合(ステップS240:Yes)には、処理はステップS250へ進む。候補者が強反射領域410の外側に存在する場合(ステップS240:No)には、処理はステップS260へ進む。
【0100】
ステップS250において理論値算出部120は、候補者が所持している発信端末41から発信された電波が、ステップS230で人間モデル112が仮想的に配置された部屋20内で伝播し、受信装置300の位置にて受信される場合の受信強度の複数の合成波理論値を算出する。理論値算出部120は、これら複数の合成波理論値を理論値バッファ130へ一時的に記憶させる。その後に処理はステップS270へ進む。
【0101】
ステップS260において理論値算出部120は、候補者が所持している発信端末41から発信された電波が、ステップS230で人間モデル112が仮想的に配置された部屋20内で伝播し、受信装置300の位置にて受信される場合の受信強度の直接波理論値を算出する。理論値算出部120は、この直接波理論値を理論値バッファ130へ一時的に記憶させる。その後に処理はステップS270へ進む。
【0102】
ステップS270において比較決定部150は、実測値バッファ140に記憶された受信強度の実測値と、理論値バッファ130に記憶された受信強度の理論値を比較して、実測値と理論値との差分が最も小さい人物が発信端末41を所持すると決定する。
ステップS280において出力部160は、比較決定部150から入力された発信端末の所持者情報を外部に出力する。図示しない外部の装置は、例えば、発信端末の所持者に注意喚起などをするような報知処理を行う。その後に処理はステップS200へ戻る。
【0103】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態に係る端末所持者検知システムによれば、強反射体と複数の人物が存在する監視空間20において、人物の移動により時々刻々と変化する電波の遮蔽状況を考慮しながら強反射体からの反射波の影響で受信強度の角度スペクトルのパターンが変動し易くなっているか否かを判定できる。このため、強反射体と複数の人物が存在する室内にて、計算量の増大を回避しつつ、複数の人物のいずれが発信端末を所持しているかを推定する精度を向上できる。
【0104】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。第1実施形態及び第2実施形態では、合成波理論値と直接波理論値を各計測時点においてリアルタイムに求めるものとして説明してきたが、本発明の範囲はこれに限られない。第3実施形態の端末所持者検知システム10は、合成波理論値と直接波理論値を予め算出して記憶部110に記憶しておき、人物40の検出位置に応じてこれらの理論値を読み出して実測値と比較する。
【0105】
図12は、第3実施形態の端末所持者検知システムの概略構成の一例のブロック図を示す。第3実施形態のシステム主装置100は、図3を参照して説明した第1実施形態のシステム主装置100と類似する構成を備えており、類似する構成要素には同一の参照符号を付して、同じ機能についての説明を省略する。
【0106】
第3実施形態のシステム主装置100は、記憶部110、理論値算出部120、理論値バッファ130、実測値バッファ140、比較決定部150、出力部160に加えて、電波情報決定部180を備える。
また、記憶部110には、構造情報111に加えて、強反射領域情報113と、合成波理論値114と、直接波理論値115が記憶される。
【0107】
強反射領域情報113は、部屋20内における世界座標系にて表された強反射領域の位置情報であり、例えば図4(c)に示すように強反射領域410の外郭線を表現する。強反射領域情報113は、理論値算出部120により生成され記憶部110に記憶される。
図13を参照して、強反射領域情報113の生成方法の一例を説明する。図13は、図1に示した部屋20を天井から床に向かって見下ろした様子を示す。
【0108】
理論値算出部120は、部屋20において発信端末41が存在する位置の候補400を設定する。図13には、横方向(x軸方向)に9個、縦方向(y軸方向)に7個の配置された9×7=計63個の黒丸印(●)が、候補400として記載されている。以下、発信端末41が存在して電波が発信されうる位置、すなわち発信位置の点を「検定点」と表記する。
例えば検定点400の密度は、x軸方向、y軸方向それぞれキャリア周波数に対して半波長以下ごとに設定するのが望ましい。例えば発信端末41から発信される電波が2.4GHzとすると、1~5cmごとに設定すればよい。
【0109】
次に理論値算出部120は、検定点400のそれぞれについて、強反射領域に含まれるか否かを判断する。例えば、理論値算出部120は、検定点400から発信された電波がロッカー210のような強反射体の表面のみにて反射して受信装置300に到達する反射波の伝播経路と、検定点400から受信装置300に直接到達する直接波の伝播経路との間の距離差が所定閾値よりも小さくなるか否かに応じて、検定点400が強反射領域に含まれるか否かを判断する。
そして理論値算出部120は、強反射領域に含まれる検定点400の集合の外郭線を決定して、その領域を示す強反射領域情報113を記憶部110に記憶させる。
【0110】
次に理論値算出部120は、各検定点400から発信された電波が受信装置300にて受信される場合の受信強度の理論値を求め、各検定点400に対応づけて記憶部110に記憶する。強反射領域410の内部の検定点400については、理論値算出部120は、合成波理論値114を算出する。強反射領域410の内部でない検定点400については、理論値算出部120は、直接波理論値115を算出する。合成波理論値114及び直接波理論値115の算出方法は、第1実施例と同様である。
【0111】
図12を参照する。伝播情報決定部180は、位置検出装置200から出力される人物40の検出位置を入力する。位置検出装置200から出力される検出位置は、位置検出装置200から人物40への方位と距離である。伝播情報決定部180は、記憶部110の構造情報111を参照して、人物40の検出位置を部屋20における世界座標系で表現した座標を算出する。
さらに伝播情報決定部180は、記憶部110に記憶されている強反射領域情報113を参照して、人物40の検出位置が強反射領域に含まれるか否かを判定する。
なお、伝播情報決定部180は、強反射体が人物40の前記検出位置の近傍又は受信装置300の近傍である場合に、人物40の検出位置が強反射領域に含まれると判断してもよい。
【0112】
人物40の検出位置が強反射領域410に含まれる場合には、人物40の検出位置に対応づけて記憶された合成波理論値114を記憶部110から読み出して、理論値バッファ130に一時記憶させる。
人物40の検出位置が強反射領域410に含まれない場合には、人物40の検出位置に対応づけて記憶された直接波理論値115を記憶部110から読み出して、理論値バッファ130に一時記憶させる。
比較決定部150、出力部160の動作は、第1実施形態及び第2実施形態と同様である。
【0113】
次に図14に示すフローチャートを参照して、第3実施形態の端末所持者検知システム10の動作を説明する。
なお、図14のフローチャートを実行する前に、本システムの管理者により、図示しない操作入力部を用いて部屋20の内部構造に関する構造情報111を記憶部110に記憶する。
【0114】
ステップS300とS310は、端末所持者を検知するための初期設定である。
ステップS300において理論値算出部120は、記憶部110の構造情報111を参照し、レイトレーシング法に準じた方法により、部屋20内部に仮想的に設定した検定点400のそれぞれについて、当該検定点400から発信された電波が受信装置300にて受信される場合の受信強度の理論値を求める。
【0115】
その際、前述のようにロッカー210のような強反射体による反射が無視できない検定点400、例えば、検定点400から発信された電波がロッカー210のような強反射体の表面のみにて反射して受信装置300に到達する反射波の伝播経路と、検定点400から受信装置300に直接到達する直接波の伝播経路の距離差が小さい場合については、直接波と反射波の位相差φを異ならせて複数の受信強度の理論値をそれぞれ求めて合成波理論値114として記憶部110に記憶させる。強反射体による反射が無視できる場合には、検定点400のそれぞれについて直接波を受信した場合の1個の理論値を求めて直接波理論値115として記憶部110に記憶させる。
【0116】
ステップS310において理論値算出部120は、前のステップS310にて処理対象とした検定点400のうち、ロッカー210のような強反射体による反射が無視できない検定点400を特定し、その集合の外郭線を決定して、その領域を示す強反射領域情報113を記憶部110に記憶させる。
【0117】
以下のステップS320~S400は、端末所持者検知システム10が1回の計測と判定結果を出力するたびに繰り返し実行される。
ステップS320においてシステム主装置100は、位置検出装置200により検出された部屋20内の人物40の検出位置として、例えば位置検出装置200から見た人物40の方角と距離を人物40の検出位置として受け付ける。その結果は伝播情報決定部180に入力される。
【0118】
ステップS330において伝播情報決定部180は、位置検出装置200の検出結果が部屋20内に人物40が存在することを示すか否か判定する。人物40が存在することを示さない場合(ステップS330:No)には、以下のステップS340~S400を行わずに処理はステップS320に戻る。人物40が存在することを示す場合(ステップS330:Yes)には、処理はステップS340へ進む。
【0119】
ステップS340においてシステム主装置100は、受信装置300が計測した電波の強度の実測値を受け付けて実測値バッファ140に記憶させる。
ステップS350にてシステム主装置100は、受信装置300が受信した電波の受信強度が所定値以上、例えばノイズと考えられる値以上であるか否かを判定する。
【0120】
受信強度が所定値未満である場合(ステップS350:No)には、その部屋に存在する人物40は発信端末41を所持していないと判定して処理はS320に戻る。出力部160からその旨を外部に適宜出力してもよい。受信強度が所定値以上であるの場合(ステップS350:Yes)には、処理はステップS360へ進む。
【0121】
ステップS360において伝播情報決定部180は、ステップS320にて得られた人物の位置情報から、人物40の検出位置が強反射領域410に含まれるか否かを判定する。検出位置が強反射領域410に含まれる場合(ステップS360:Yes)には、処理はステップS370に進む。検出位置が強反射領域410に含まれない場合(ステップS360:No)には、処理はステップS380に進む。
【0122】
ステップS370において伝播情報決定部180は、ステップS320にて得られた人物40の位置情報を参照して、人物40の検出位置に対応する合成波理論値114を記憶部110から読み出して理論値バッファ130に記憶させる。
比較決定部150は、実測値バッファ140に記憶されている受信強度の実測値と理論値バッファ130に記憶されている複数の合成波理論値114を比較して差分をそれぞれ求める。その後に処理はステップS390へ進む。
【0123】
一方、ステップS380において伝播情報決定部180は、ステップS320にて得られた人物の位置情報を参照して、人物40の検出位置に対応する直接波理論値115を記憶部110から読み出して理論値バッファ130に記憶させる。
比較決定部150は、実測値バッファ140に記憶されている受信強度の実測値と理論値バッファ130に記憶されている直接波理論値115を比較して差分を求める。
【0124】
ステップS390において比較決定部150は、ステップS370またはステップS380にて求めた差分を所定の閾値と比較する。差分が大きい場合には(ステップS390:No)、部屋20にいる人物40は発信端末41を所持していないとして処理はステップS320に戻る。あるいはいずれの差分も大きいことになるので部屋20にはノイズが多いことを出力部160から外部に適宜出力してもよい。
【0125】
差分が小さい場合には(ステップS390:Yes)、ステップS320にて位置検出装置200が検出した位置の人物40が発信端末41を所持しているとして、出力部160を経由して外部へ、例えば警備センターや部屋20の管理者などに報知する。その後に処理はステップS320へ戻る。
ステップS370において複数の合成波理論値114と実測値とのそれぞれの差分を求めた場合、比較決定部150は、複数の合成波理論値114のいずれかと実測値との差分が小さくても、他の合成波理論値114のいずれか1個と実測値との間の差分が小さければ、人物40が発信端末41を所持していると判定する。
【0126】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態の端末所持者検知システムによれば、合成波理論値と直接波理論値を予め算出して記憶部110に記憶しておくことにより、人物20を検出する度に合成波理論値と直接波理論値をリアルタイムに計算する必要がなくなる。これにより、システム主装置100の計算負荷を軽減し、発信端末の所持者を推定する速度を向上できる。また、強反射体のみに反射する電波が受信装置へ到達する経路が存在する場合に複数の合成波理論値を生成するので、記憶部110に合成波理論値を記憶ための記憶容量を節約できる。
【0127】
(変形例)
なお、第3実施形態において部屋20に複数人が存在する場合は位置検出装置200がそれぞれの人物の部屋20における位置を検出する。そして、比較決定部60は、順次複数人から候補者を選択してそれぞれの候補者について求められた理論値と実測値の差分が最も小さい候補者が発信端末41を所持していると判定してもよい。
【0128】
なお、これまで述べてきたいずれの実施形態においても所有者の発信端末41の持ち方によっては、受信強度の理論値に影響を与えることも考えられる。このため、理論値算出部120は、電波の発信位置、すなわち所持者が発信端末41を所持する位置を決定する際に、所有者の表面(たとえば顔面の側面、胸部の表面、腹部や腰部の側面)や、所有者の近傍位置に発信端末41が所持されていると仮定する。その近傍位置として例えば右側、左側、前側、後ろ側が考えられる。
そして、所有者の検出位置に、人間モデルに基づいた近傍位置に相当する変位量を加味して電波の発信位置としてもよい。
理論値算出部120は、上記の伝播経路に加え、発信端末41の持ち方も考慮した伝播経路も算出してもよい。例えば理論値算出部120は、発信端末41の複数の持ち方についてそれぞれ理論値を算出してもよい。
【符号の説明】
【0129】
10…端末所持者検知システム,20…部屋(監視空間),41…発信端末,100…システム主装置,110…記憶部,111…構造情報,112…人間モデル,113…強反射領域情報,114…合成波理論値,115…直接波理論値,120…理論値算出部,130…理論値バッファ,140…実測値バッファ,150…比較決定部,160…出力部,170…モデル生成部,180…伝播情報決定部,200…位置検出装置,210…ロッカー(強反射体),300…受信装置
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8
図9
図10
図11
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