(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20220728BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20220728BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20220728BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20220728BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20220728BHJP
F16J 15/50 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
F16H7/12 A
F16C17/04 Z
F16C17/02 Z
F16C33/20 Z
F16C33/78 Z
F16J15/50
(21)【出願番号】P 2018210872
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017230860
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 利夫
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180820(JP,A)
【文献】実開平5-52409(JP,U)
【文献】特開2007-239838(JP,A)
【文献】特開2013-15166(JP,A)
【文献】実開昭51-50149(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/12
F16C 17/04
F16C 17/02
F16C 33/20
F16C 33/78
F16J 15/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンブロックに固定され、軸部が取り付けられるベースと、
前記軸部を介して前記ベースに回動自在に支持されたアームと、
前記軸部と平行な軸心を中心に回転可能に取り付けられ、かつ、ベルトに接触可能なプーリと、
前記アームと前記プーリとの間に介設され、内輪と外輪との間に転動体を収容する保持室を備えた転がり軸受と、
前記アームのボス部と前記軸部との間に配置される筒状摺動部と、前記エンジンブロックと反対側となる前記軸部の一端側において、前記アームの前記ボス部の前記一端側の端面と前記軸部に連結された押さえ部材との間に配置された板状摺動部とを有し、前記アームと一体的に回動する摺動部材と、
前記軸部の周りに配設され、前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、
前記アームに相対回転不能に設けられ、且つ、前記板状摺動部と、前記アームの前記一端側の端面及び前記押さえ部材との間の隙間を覆うように配置されたシール部材と、を備
え、
前記シール部材は、弾性材料で形成された部分を含み、前記弾性材料で形成された一部分が、前記アームの前記一端側の前記端面と、前記押さえ部材の両方に、環状に接触しており、
前記シール部材は、前記押さえ部材と線接触する突起部を有することを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記シール部材は、前記板状摺動部と前記アームの前記一端側の前記端面との間で挟持されていることを特徴とする請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記アームの前記一端側の前記端面と、この端面と対向する前記シール部材の対向面に、互いに嵌合するように凹部及び凸部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記シール部材は、前記転がり軸受の前記保持室の前記一端側の開口部を覆っていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに1項に記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記摺動部材は、軸方向に延びるスリットが形成され、C字状の断面を有するものであり、無負荷の状態で、前記筒状摺動部の外径が、前記アームのボス部の内径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項6】
前記摺動部材は、基材が金属で形成されており、前記筒状摺動部の内面および前記板状摺動部の前記一端側の端面が、前記基材よりも低摩擦係数の表面特性を有する合成樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項7】
前記コイルばねは、前記軸部の軸線方向に圧縮されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項8】
前記シール部材は、その全てが弾性材料で形成されていることを特徴とする、請求項
1乃至7の何れか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項9】
エンジンブロックに固定され、軸部が取り付けられるベースと、
前記軸部を介して前記ベースに回動自在に支持されたアームと、
前記軸部と平行な軸心を中心に回転可能に取り付けられ、かつ、ベルトに接触可能なプーリと、
前記アームと前記プーリとの間に介設され、内輪と外輪との間に転動体を収容する保持室を備えた転がり軸受と、
前記アームのボス部と前記軸部との間に配置される筒状摺動部と、前記エンジンブロックと反対側となる前記軸部の一端側において、前記アームの前記ボス部の前記一端側の端面と前記軸部に連結された押さえ部材との間に配置された板状摺動部とを有し、前記アームと一体的に回動する摺動部材と、
前記軸部の周りに配設され、前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、
前記アームに相対回転不能に設けられ、且つ、前記板状摺動部と、前記アームの前記一端側の端面及び前記押さえ部材との間の隙間を覆うように配置されたシール部材と、を備
え、
前記シール部材の前記一端側の面に、前記軸部の軸線の径方向に沿う凸状のリブが複数形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項10】
前記アームは前記ベースに偏心支持されていると共に、前記プーリは前記アームの外周側に取り付けられている、ことを特徴とする、請求項
1乃至9の何れか1項に記載のオートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの補機駆動ベルトシステムやカムシャフト駆動ベルトシステムにおいては、従来から、ベルトの張力を一定に保つための機構として、オートテンショナが採用されている。
【0003】
オートテンショナ161は、一般に、
図10に示すように、エンジンブロック(不図示)に固定され、軸部162が取り付けられるベース163と、軸部162を介してベース163に回動自在に支持されたアーム164と、軸部162とアーム164との間に介装された筒状摺動部168と、軸部162と平行な軸R1を中心に転がり軸受166を介してアーム164に回転可能に取り付けられたプーリ165と、アーム164を一方向に回動付勢するコイルばね167と、アーム164の揺動を減衰させるダンピング部として機能する板状摺動部169などを有する。
【0004】
オートテンショナ161は、プーリ165に巻きかけられたベルトの張力を調節する部品である。ベルトの張力の増減に伴って、プーリ165及び、プーリ165を支持するアーム164は、軸R1を揺動中心として揺動するが、その揺動はダンピング部により減衰される。これにより、ベルトからの振動や衝撃による、プーリ165およびアーム164の揺動を減衰させることができる。
【0005】
ところで、カムシャフト駆動ベルトシステムに使用される、いわゆる主機用オートテンショナでは、ベルトシステムがかみ合い伝動であり、バルブタイミングのずれを抑えるために、アームをさほど大きく回動させない方がよい。このため、例えば、特許文献1のように、アームの揺動範囲を小さくしたコンパクトな構造のものが求められる。特許文献1のオートテンショナは、アーム(プーリ支持体)と固定側の軸部との間に、滑り軸受として機能する摺動部材が介装されている。摺動部材は、アームのボス部と軸部との間に配置された筒状摺動部と、アームの一端側の端面に配置された環状の板状摺動部とが一体化された構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平6-10645号公報
【文献】特開2002-5252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に、カムシャフト駆動ベルトシステムは、各構成部材(特には、タイミングベルト)への異物や水分、油脂類の付着を防ぐために、システム全体がカバーで覆われていることが普通である。そのため、カバーの内部空間に漂う塵埃等の異物は、カバーの外部空間に比べれば少ないのであるが、カバーの気密性は完全ではないことから、僅かな隙間から塵埃等異物がカバー内に入り込むことはありえる。また、隙間からカバー内に入り込んだ水滴がコイルばね等の金属製部材に付着し、腐食生成物(錆び)が発生し、やがて表面から分離してカバーの内部空間に漂うことによって、異物が発生することもある。
【0008】
ここで、特許文献1のような摺動部材を備えたオートテンショナにおいて、摺動部材の周囲に上記の異物が侵入すると、摺動部材の摺動面の摩耗が局部的に進行してしまう。また、プーリと軸部とが同軸上に配置されていないことから、アームの揺動時、ベルト荷重によってアームを傾かせる方向の回転モーメントが作用する。これによりまず、摺動部材の板状摺動部の外周縁部に偏摩耗が生じ、続いて、筒状摺動部にも偏摩耗が発生する。これらの偏摩耗によって摺動部材と相手側部材との間に隙間が生じて、さらに異物が侵入しやすくなるのである。
【0009】
この点、特許文献1においては、摺動部材の板状摺動部周辺への異物の侵入を防止するための構成は特に開示されていない。
【0010】
なお、特許文献2には、アームの端面やボス部周辺への異物侵入を防ぐための構成を備えたオートテンショナが開示されている。特許文献2のオートテンショナでは、アームが軸部(支軸部材のアーム支持部)に筒状のブッシュを介して回動可能に支持されている。また、アームの端面に形成された凹部には摩擦板が取り付けられている。一方で、固定側の軸部(アーム支持部)にはボルトにより摩擦板押え部材が固定され、この摩擦板押え部材は摩擦板に押し付けられている。さらに、摩擦板押え部材には、この摩擦板押え部材と比べて平面的なサイズが一回り大きいシール部材が、押え部材に一体的に設けられている。つまり、特許文献2では、シール部材は、固定側の軸部に取り付けられている。
【0011】
特許文献2のオートテンショナでは、シール部材により、摩擦板が収容されている凹部内や、ブッシュ周辺に異物が侵入することを防止することができる。ただし、シール部材が固定側の軸部に取り付けられる特許文献2の構造では、シール部材を設置するためには摩擦板押え部材が必須の構成となり、部品点数が増えるという観点から好ましくない。
【0012】
例えば、特許文献2のオートテンショナの構造において、摩擦板を押さえつけるだけなら、軸部に固定されたボルトの頭の部分を押え部材として代用し、摩擦板押え部材を省略することも可能である。しかし、摩擦板押え部材を省略してしまうと、そのままではシール部材を設置することができない。また、シール部材を取り付けるために、頭を極端に大きくしたボルトを使用するというのも無理がある。従って、シール部材を設置するための専用の部材が必要となる。
【0013】
本発明は、アームの一端側の端面と押さえ部材との間の隙間への異物の侵入を抑制し、オートテンショナの耐久性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のオートテンショナは、エンジンブロックに固定され、軸部が取り付けられるベースと、前記軸部を介して前記ベースに回動自在に支持されたアームと、前記軸部と平行な軸心を中心に回転可能に取り付けられ、かつ、ベルトに接触可能なプーリと、前記アームと前記プーリとの間に介設され、内輪と外輪との間に転動体を収容する保持室を備えた転がり軸受と、前記アームのボス部と前記軸部との間に配置される筒状摺動部と、前記エンジンブロックと反対側となる前記軸部の一端側において、前記アームの前記ボス部の前記一端側の端面と前記軸部に連結された押さえ部材との間に配置された板状摺動部とを有し、前記アームと一体的に回動する摺動部材と、前記軸部の周りに配設され、前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、前記アームに相対回転不能に設けられ、且つ、前記板状摺動部と、前記アームの前記一端側の端面及び前記押さえ部材との間の隙間を覆うように配置されたシール部材と、を備えている。
【0015】
上記構成によれば、摺動部材の板状摺動部とアームとの隙間、および板状摺動部と押さえ部材との隙間を、シール部材で覆うという比較的簡単な構成で、塵埃等異物が上記隙間に侵入しにくくなり、オートテンショナの耐久性が向上する。
【0016】
また、シール部材はアームに相対回転不能に設けられ、アームと一体的に回転する。そのため、上述した特許文献2のように、シール部材が固定側に設けられる場合と違い、シール部材の設置に苦労せず、シール部材の支持のために専用の部材を追加する必要はない。
【0017】
本発明のオートテンショナは、前記シール部材は、前記板状摺動部と前記アームの前記一端側の前記端面との間で挟持されていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、シール部材とアーム、及び、板状摺動部が一体的に回転する。また、板状摺動部とアームの端面との間にシール部材が挟み込まれることで、板状摺動部とアームの端面との間の隙間の開口部が確実に塞がれる。
【0019】
本発明のオートテンショナは、前記アームの前記一端側の前記端面と、この端面と対向する前記シール部材の対向面に、互いに嵌合するように凹部及び凸部が設けられていることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、シール部材を、アームに対して回転不能に構成することができる。
【0021】
本発明のオートテンショナは、前記シール部材は、前記転がり軸受の前記保持室の前記一端側の開口部を覆っていることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、シール部材によって、転がり軸受の保持室内に異物が侵入することも防止できる。
【0023】
本発明のオートテンショナは、前記摺動部材は、軸方向に延びるスリットが形成され、C字状の断面を有するものであり、無負荷の状態で、前記筒状摺動部の外径が、前記アームのボス部の内径よりも大きいことが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、摺動部材は若干縮径された状態でアームのボス部に組付けられる。このため、摺動部材の拡径方向の自己弾性復元力によって、筒状摺動部をアームのボス部の内面に圧接させることができ、摺動部材はアームに対してより確実に相対回転不能となる。これにより、筒状摺動部の内面および板状摺動部の一端面が、摺動部材における摺動面として、より確実に機能することができる。
【0025】
本発明のオートテンショナは、前記摺動部材は、基材が金属で形成されており、前記筒状摺動部の内面および前記板状摺動部の前記一端側の端面が、前記基材よりも低摩擦係数の表面特性を有する合成樹脂材料で形成されていることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、摺動部材の摺動面の摩耗を抑制でき、摺動部材の耐久性を確保することができる。
【0027】
本発明のオートテンショナは、前記コイルばねは、前記軸部の軸線方向に圧縮されていることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、コイルばねは、軸部の軸線方向の弾性復元力によってアームを押圧する。摺動部材の板状摺動部は、アームのボス部と押さえ部材との間に存在するため、板状摺動部には、コイルばねの、軸部の軸線方向の弾性復元力が加わる。これにより、板状摺動部と押さえ部材との間に摩擦力が生じ、アームの揺動を減衰させるダンピング部材として、板状摺動部が機能する。
【0029】
なお、板状摺動部が押さえ部材に強く押し付けられることから、板状摺動部の偏摩耗の程度も大となる。そのため、板状摺動部の周辺に異物などを侵入させないために、シール部材を設ける意義は大きい。また、シール部材の一部が板状摺動部とアームの端面との間に配置された構成を採用した場合には、コイルばねの復元力によってシール部材が強く挟持されるため、アーム、板状摺動部、及び、シール部材を一体化させる効果が高くなる。
【0030】
本発明のオートテンショナは、前記シール部材は、弾性材料で形成された部分を含むことが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、板状摺動部の周辺にシール部材が密着しやすくなるため、シール効果が高くなる。
【0032】
本発明のオートテンショナは、前記シール部材の、前記弾性部材で形成された一部分が、前記アームの前記一端側の前記端面と、前記押さえ部材の両方に、環状に接触していることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、弾性材料からなるシール部材の一部分が、アームの一端側の端面と押さえ部材の両方に接触することで、板状摺動部と押さえ部材との間の隙間の開口部及び板状摺動部とアームのボス部の一端側の端面との隙間の開口部を確実に塞ぐことができる。
【0034】
また、弾性材料からなるシール部材の一部分が、アームの端面と押さえ部材の両方に接触していると、押さえ部材が板状摺動部のみと接触している場合と比べて板状摺動部と押さえ部材の接触面圧が緩和される。これにより、板状摺動部と押さえ部材が摩擦接触するときの異音の発生を抑制することができる。
【0035】
本発明のオートテンショナは、前記シール部材は前記押さえ部材と線接触する突起部を有することが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、シール部材と押さえ部材の接触面積が小さくなり、シール部材と押さえ部材との接触抵抗が小さくなるのでシール部材がアームとより確実に一体的に回転することができる。
【0037】
本発明のオートテンショナは、前記シール部材は、その全てが弾性材料で形成されていることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、シール部材が弾性材料で形成されていない部分を含む場合と比べて、製造コストを低減することができる。
【0039】
本発明のオートテンショナは、前記シール部材の前記一端側の面に、前記軸部の軸線の径方向に沿う凸状のリブが複数形成されていることが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、シール部材の、軸部の軸心の径方向に関する剛性が増すため、シール部材がアームに接触状態で相対回転不能に、より確実に嵌合支持され、アームと一体的に回動することができる。
【0041】
本発明のオートテンショナは、前記アームは前記ベースに偏心支持されていると共に、前記プーリは前記アームの外周側に取り付けられていることが好ましい。
【0042】
上記構成によれば、アームをさほど大きく回動させない方がよいカムシャフト駆動ベルトシステムに好適である。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、オートテンショナにおいて、アームの一端側の端面と押さえ部材との間の隙間への異物の侵入を抑制し、オートテンショナの耐久性が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の実施形態に係るオートテンショナを用いたカムシャフト駆動ベルトシステムの概略構成図である。
【
図3】本実施形態に係るオートテンショナの正面図である。
【
図4】本実施形態に係るオートテンショナの側面図である。
【
図5】本実施形態に係るオートテンショナの底面図である。
【
図7】本実施形態に係る摺動部材の二面図(正面図、底面図)および摺動部材の正面図のA-A線断面図である。
【
図8】本実施形態に係るオートテンショナに締結ボルトが挿通された状態の断面図(
図1のA-A線断面図)である。
【
図9】本発明の変形例に係るオートテンショナの要部拡大断面図(
図1のA-A線断面図)である。
【
図10】従来例に係るオートテンショナの断面図である。(
図1のA-A線断面図)
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、カムシャフト駆動ベルトシステム1において、エンジンブロックに組み付けられたオートテンショナ2と、駆動プーリ(1つ)と、従動プーリ(2つ)とに1本のベルト3が巻き掛けられている。ベルト3は、自動車用エンジンのカムシャフトを駆動するかみ合い伝動ベルトであるため、アームをさほど大きく回動させない方がよいコンパクトな構造のオートテンショナが好適に用いられる。
【0046】
図2~
図6に示すように、本実施形態のオートテンショナ2は、エンジンブロックに固定され、軸部4が取り付けられるベース7と、軸部4を介してベース7に対して回動自在に支持されたアーム8と、アーム8に取り付けられ、ベルトに接触可能であるとともに、軸部4と平行な軸線を中心に回転自在に設けられるプーリ9と、アーム8と一体的に回動する摺動部材12と、軸部4の回りに配設され、アーム8をベース7に対して一方向に回動付勢するコイルばね11と、アーム8とプーリ9の間に配置された転がり軸受10と、アーム8に相対回転不能に設けられるシール部材13とを備えている。なお、
図2中の上側を一端側、下側を他端側とする。一端側の端面を一端面、他端側の端面を他端面とする。また、
図2中の上下方向を前後方向とする。
【0047】
(軸部4)
軸部4は、
図2に示すように、軸線方向に延びるオートテンショナ2の支柱であり、軸部4の軸線である軸Rは、プーリ9の中心91に対して偏心している。これにより、プーリ9およびアーム8はベルトの張力の増減に伴って軸Rを揺動中心として揺動する。軸部4の他端側には軸部4と一体的にフランジが形成されている。また、軸部4の外周面は、軸線方向と平行に形成されている。これによると、オートテンショナ2を径方向に小型化できる。
【0048】
軸部4には、
図2に示すように、軸Rに対して偏心した位置に軸線方向に延びるボルト挿通孔52が形成されている。
図8に示すように、このボルト挿通孔52に締結ボルト5を挿入し、軸部4をエンジンブロックに固定する。
図3に示すように、軸部4をエンジンブロックに固定した状態では、ボルトの中心51は軸Rに対して偏心している。
【0049】
(押さえ部材6)
押さえ部材6は、
図2に示すように、軸部4のエンジンブロックと反対側である一端側に別個に形成され、軸部4の一端面に相対回転不能に接触している。なお、押さえ部材6は軸部4と一体的に形成されていてもよい。押さえ部材6は、一端側から見たとき略六角形に形成されていることが好ましい。これにより、スパナ等工具でこの略六角形の側面を把持し、エンジンブロックに仮止め状態にした締結ボルト5を中心に軸部4を回転させることができる。押さえ部材6の他端側の面は、軸Rと直交方向に沿う円環状の平坦面に形成されている。これにより、アーム8のボス部83の一端面と平行になり、板状摺動部122に広い面積で確実に接触する。押さえ部材6は、材質が炭素鋼(S45C)であり、摺動部材12の板状摺動部122と摺動する他端側の面の耐摩耗性を高めるため、軟窒化処理による表面硬化処理を施している。なお、押さえ部材6の材質の構成は、上述の構成でなくてもよい。
【0050】
(ベース7)
ベース7は、
図2に示すように、軸部4とは別箇の部材であり、軸部4の軸Rと同軸心状に設けられる。ベース7は、径方向に対向するベース内筒部71およびベース外筒部72と、ベース内筒部71の他端側の縁及びベース外筒部72の他端側の縁に接続している環状の底部73とを有している。ベース内筒部71とベース外筒部72は、軸部4の軸Rと同軸心状に設けられている。ベース7の底部73は径方向と平行な平坦面に形成されている。ベース7の底部73と軸部4の他端側に形成されているフランジの一端側の面とが接触していて、ベース7は、軸部4がエンジンブロックに固定されるまでの間は、軸部4に対して相対回転可能に構成されている。
【0051】
ベース7は、
図8に示すように、締結ボルト5によって軸部4とともに相対回転不能にエンジンブロックに固定される。ただし、オートテンショナ2がエンジンブロックに固定される前までの間は、ベース7は軸部4に対して相対回転可能に構成され、エンジンブロックに対し周方向に関する位置が固定される(回り止め)ことが好ましい。これにより、オートテンショナ2をエンジンブロックに仮止めした状態で締結ボルト5を中心に軸部4を回転させ、適当な位置に軸部4を配置することができる。ベース7の材質は、例えば冷間圧延鋼板(SPCC)であってもよく、この場合、防錆のため、表面に亜鉛メッキ処理が施されていることが好ましい。
【0052】
ベース7に形成された回り止め部74は、
図4に示すように、略L字状であり、ベース外筒部72から径方向外方へ延出する延出部分174と、延出部分174の先端部から後方へ略90°向きを変えつつ、さらに延出した係止部分274とを有している。オートテンショナ2がエンジンブロックに組み付けられる際に、回り止め部74の係止部分274が、エンジンブロックの一端面に形成された長穴状の凹溝に係合されて、ベース7をエンジンブロックに対して回り止めさせる。また、
図3~6に示すように、延出部分174の先端部には、円弧状に形成された切り欠きが設けられている
【0053】
また、
図5、6に示すように、ベース外筒部72には、ベース保持溝75が1箇所形成されている。これは、ばね収容室111に収容されるコイルばね11の他端部113が折り曲げられた部分を嵌め込んで保持するための溝である。
【0054】
(アーム8)
アーム8は、
図2に示すように、ベース7に偏心支持されていて、ベース7の一端側に配置されるボス部83と、ボス部83から後方に延びるアーム内筒部81と、アーム内筒部81と平行になるように、径方向外側に、アーム内筒部81と離れて形成されたアーム外筒部82と、ボス部83から径方向外側に向けて延びる環状の外延部84とを備えている。アーム8の外延部84は、転がり軸受10の外輪102の外面付近まで延びている。例えば、アーム8の外延部84の一端面と転がり軸受10の外輪102の他端面との間の前後方向隙間は約0.3mmであってもよい。また、アーム内筒部81は、ベース内筒部71の径方向外側に、ベース内筒部71と軸線方向に重なるように延びている。例えば、アーム内筒部81の内面とベース7の内筒部の外面との間の径方向隙間は約0.3mmであってもよい。アーム内筒部81とアーム外筒部82とは、ベース7における内筒部と外筒部と同様、軸部4と同軸心状に設けられていることが好ましい。アーム8の外延部84は、径方向に平行な平坦面に形成されていることが好ましい。
【0055】
図2に示すように、アーム8のボス部83の径方向内側に、プーリ9の中心91に対して偏心した位置に軸部挿通孔41が形成され、この軸部挿通孔41に摺動部材12を介して軸部4が挿入されている。アーム8は、軸部4を介してベース7に対し相対回動可能に支持されている。アーム8は、アルミニウム合金鋳物からなる金属部品である。なお、アーム8は、アルミニウム合金鋳物からなる金属部品でなくてもよい。また、アーム8は、ベルト3の張力の増減に伴って、軸部4の軸Rを揺動中心として揺動する。
【0056】
図2に示すように、シール部材13の他端面の少なくとも1部分に形成された凸部14と凹凸嵌合可能となるよう、アーム8のボス部83の一端面の1部分に凹部15が形成されている。アーム8の凹部15の横断面は、円形である。なお、アーム8のボス部83の一端面の1部分に凸部が形成されていてもよい。
【0057】
図6に示すように、アーム外筒部82には、アーム保持溝86が1箇所形成されている。アーム保持溝86は、ばね収容室111に収容されるコイルばね11の一端部112が折り曲げられた部分を嵌め込んで保持するための溝である。
【0058】
図3~6に示すように、アーム外筒部82には、径方向外方に延出し、先端が先細り形状に形成されたインジケータ部85が突設されている。このインジケータ部85の軸Rからの長さである突出半径は、ベース7に突設された回り止め部74の軸Rからの長さである突出半径と略等しいことが好ましい。アーム8のインジケータ部85およびベース7の回り止め部74は、軸Rを中心とした周方向に関するアーム8とベース7との合い印の機能を有する。合い印の機能については、後で説明する。
【0059】
(転がり軸受10とプーリ9)
図2に示すように、転がり軸受10は、アーム8とプーリ9との間に介設され、同心状に並んだ2つのリング状部材である内輪101と外輪102との間に複数個の玉の転動体105を収容する環状の保持室103を有するボールベアリングである。本実施形態では、転動体105が収容される保持室103にグリースが封入されるとともに、複数の玉の両側に環状のシール材(不図示)が配置される密閉形玉軸受を採用する。転がり軸受10の内輪101はアーム8のボス部83の外周面に密着固定され、外輪102はプーリ9の内周面に密着固定される。プーリ9は、アーム8の外周側に取り付けられ、転がり軸受10を介してアーム8のボス部83に相対回転可能に支持される。プーリ9は、カムシャフト駆動用のベルト3が巻き掛けられて回転する。このベルト3の張力の増減に伴って、プーリ9は、プーリ9の回転中心であるプーリ9の中心91ではなく、軸部4の軸Rを揺動中心として揺動する。
【0060】
(コイルばね11)
図2に示すように、コイルばね11は、金属線を螺旋状に巻回して形成されていて、軸部4の軸線方向に圧縮されてばね収容室111に収容されている。ばね収容室111は、アーム外筒部82、ベース外筒部72と、アーム8のボス部83と、ベース7の底部73と、アーム内筒部81と、ベース内筒部71とに囲まれた空間である。
図5、6に示すように、コイルばね11は、一端がアーム8に係止され、他端がベース7に係止されており、アーム8をベース7に対して一方向に回動付勢する。コイルばね11は、ベルト3の張力が増加してベルト3を緩ませる方向にアーム8が回動したときに縮径するように設定されている。具体的には、コイルばね11は、アッセンブリー時には、縮径方向にねじられた状態でばね収容室111に収容されている。コイルばね11の後端部は折り曲げられて、ベース7に形成されたベース保持溝75に保持されている。また、コイルばね11の前端部も同様に折り曲げられて、アーム8に形成されたアーム保持溝86に保持されている。
【0061】
コイルばね11は、オートテンショナ2に外力が作用していない状態において、全長にわたって径が一定であることが好ましい。コイルばね11は、例えば直径約2mmの丸断面のばね用オイルテンパー線を左巻きに巻回して形成してもよい。
【0062】
(摺動部材12)
図2に示すように、摺動部材12は、筒状摺動部121と板状摺動部122が連結部123を介して一体的に形成されている。筒状摺動部121は、軸部4とアーム8のボス部83との間に配置されている。板状摺動部122は、押さえ部材6と、アーム8のボス部83の一端面との間に配置されている。筒状摺動部121は、軸Rと略平行な方向に沿って配置されていて、筒状摺動部121の内面は軸部4の外面との摺動面である。板状摺動部122は、軸Rと略直交する方向に沿って配置されていて、板状摺動部122の一端面は押さえ部材6の他端面との摺動面である。筒状摺動部121、板状摺動部122、および連結部123の厚さは、いずれも略等しく、例えば、約1mmであってもよい。
【0063】
図6、7に示すように、摺動部材12には、軸方向に延びるスリット124が形成されている。このスリット124は、筒状摺動部121の他端面から連結部123を経て板状摺動部122の外周縁の端部に至るまで、直線状に連続した周方向の開口隙間を形成している。つまり、スリット124が軸部4の軸線方向に対して垂直な断面において、C字状の形状を有するものである。例えば、スリット124の幅は、オートテンショナ2に外力が作用していない状態において、約1mmであってもよい。また、摺動部材12に対して負荷がない状態では、摺動部材12の筒状摺動部121の外径がアーム8のボス部83の内径よりも大きい。
【0064】
コイルばね11が軸部4の軸線方向に圧縮されているため、軸部4の軸線方向の弾性復元力が働き、板状摺動部122はアーム8に一端方向に押圧される。これにより、押さえ部材6とアーム8との間に摩擦が生じ、板状摺動部122は、アーム8の揺動を減衰させるダンピング部として機能する。また、筒状摺動部121は、滑り軸受として機能する。なお、コイルばね11が、軸部4の軸線方向に圧縮されていない場合は軸部4の軸線方向の弾性復元力が働かないため、摺動部材12の板状摺動部122はアーム8に一端方向に押圧されず、摺動部材12の板状摺動部122は滑り軸受として機能する。
【0065】
摺動部材12は、基材が金属で形成されており、摺動面である、筒状摺動部121の内面および板状摺動部122の一端側の端面が、基材よりも低摩擦係数の表面特性を有する合成樹脂材料で形成されている。この合成樹脂材料は、自己潤滑性を有することが好ましい。具体的には、摺動面を形成する合成樹脂材料について、主成分となる合成樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポロフェニレンサルファイド、超高分子量ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、または、フェノール等の熱硬化性樹脂が用いられることが好ましい。これらの主成分となる合成樹脂に、固体潤滑剤が配合されていてもよく、配合されていなくてもよい。また、これらの主成分となる合成樹脂に、補強用の繊維が配合されていてもよく、配合されていなくてもよい。
【0066】
摺動部材12として、例えば、基材を鋼帯とし、摺動面である、筒状摺動部121の内面および板状摺動部122の一端側の端面が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分とする合成樹脂で被覆された複層系のメタル軸受(オイレス工業社製LFF形)を採用できる。この摺動面は、自己潤滑性の摺動特性を有し、基材(鋼帯)よりも低摩擦係数の表面特性を有する。
【0067】
(シール部材13)
シール部材13は、
図2に示すように、平たい形の環状部材であり、シール部材13の中央には嵌合孔が形成されている。この嵌合孔に軸部4および摺動部材12の筒状摺動部121が挿通される。この嵌合孔の直径は、摺動部材12における板状摺動部122と連結部123の境界部分の直径に略等しく、これにより、シール部材13が径方向にがたつくのを防止できる。
【0068】
シール部材13は、
図2に示すように、軸部4の一端側において、アーム8の一端面と転がり軸受10の保持室103の一端側の開口部104を、一端側から覆うように配置されている。例えば、転がり軸受10の外輪102の一端面とシール部材13の他端面との間の前後方向隙間は約0.3mmであってもよい。シール部材13の径方向内端部は、環状に、摺動部材12の板状摺動部122とアーム8の一端面との間に挟持されていて、この挟持部分よりも径方向外側で、シール部材13の突起部131と押さえ部材6が環状に線接触している。このとき、線接触とは、シール部材13と押さえ部材6との接触面が環状に径方向の長さがわずかであることである。例えば、シール部材13の突起部131と押さえ部材6との、環状の接触面の径方向の長さがわずか約0.2mmになるように、突起部131は形成されていてもよい。以上のように、シール部材13は、板状摺動部122と、アーム8の一端側の端面との隙間の開口部125、及び板状摺動部122と押さえ部材6との間の隙間の開口部126を塞ぎ、更には、転がり軸受10の保持室103の一端側の開口部104を覆っている。
【0069】
図2に示すように、シール部材13の他端側の面の1部分には、アーム8と環状に接触している部分に凸部14が形成され、この凸部14がアーム8の一端面に形成された凹部15と嵌合している。シール部材13の凸部14の横断面は円形である。また、アーム8の凹部15の、シール部材13の凸部14の深さに相当する深さまでは、シール部材13の凸部14の外径は、アーム8の凹部15の外径と略同じか若干小さい。また、アーム8の凹部15は、オートテンショナ2の軽量化のため、シール部材13の凸部14の深さよりも顕著に深い深さまで肉抜きされた形状である。なお、凸部14の横断面は円形でなくてもよく、アーム8の凹部15は、シール部材13の凸部14と略等しい深さまで肉抜きされた形状であってもよい。また、アーム8のボス部83の一端面の1部分に凸部が形成されている場合は、アーム8の凸部と凹凸嵌合可能となるよう、シール部材13の他端側の面の少なくとも1部分に凹部が形成されていてもよい。
【0070】
図3に示すように、シール部材13の一端側の面には、軸部4の軸線の径方向に沿う凸状のリブ132が複数形成されている。例えば、シール部材13の一端側の面に、周上略等分で8か所に凸状のリブ132が形成されていてもよい。
【0071】
シール部材13は、その全てが弾性材料で形成されている。例えば、シール部材13は、ポリアミド樹脂(ナイロン6T)でその全てが形成されていてもよい。なお、シール部材13を形成する弾性材料は、合成樹脂材料であってもよい。この場合は、摺動部材12の摺動面のコート材料で挙げたものを樹脂の材料として用いることができる。また、シール部材13を形成する弾性材料は、ゴム組成物であってもよい。例えば、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム成分を含むゴム組成物を用いることができる。これらのゴムは、耐熱性に優れている。また、ゴム組成物に固体潤滑剤等の各種添加剤を配合してもよい。なお、シール部材13は、その全てが弾性材料で形成されていなくてもよい。シール部材13は、弾性材料で形成された部分を含み、弾性材料で形成された部分の一部分が、アーム8の一端面と押さえ部材6の両方に環状に接触していてもよい。
【0072】
締結ボルト5を、
図2、3に示すように、軸部4の軸Rに対し偏心して配置することについて、オートテンショナ2のエンジンブロックへの組み付け及びベルトの装着の説明の中で説明した後、オートテンショナ2の組み立て、及びオートテンショナ2の作動について説明する。
【0073】
(オートテンショナ2のエンジンブロックへの組み付けおよびベルト3の装着)
オートテンショナ2の各部品の寸法公差や部品間の距離の公差などのカムシャフト駆動ベルトシステム1に不可避の寸法公差(例えばベルト長さのバラツキ)に起因して、エンジンブロックに対して同じ姿勢で組み付けても、装置によってベルトに与える初期張力にばらつきが出てしまう。そこで、本実施形態のオートテンショナ2は、エンジンブロックへの組み付け時に所定のベルト初期張力をベルトに付与できるように構成されている。前提となる構成について説明する。
図2、
図3に示すように、プーリ9の回転中心であるプーリ9の中心91は軸部4の軸Rに対して偏心して配置され、締結ボルト5は、軸部4の軸Rに対し偏心して配置されている。本実施形態のオートテンショナ2は、所定のベルト荷重がプーリ9の回転軸に作用し、所定の初期張力がベルトに付与されて、正常にベルトが装着された状態になっているときに、アーム8のインジケータ部85の先端位置とベース7の回り止め部74の切り欠きの円弧中心位置とが一致(つまり、合い印が一致)するように構成されている。なお、エンジンブロックへの組付け作業を行う前のオートテンショナ2におけるアーム8に備わるインジケータ部85は、
図3において、紙面上方に対し紙面左方の位置にある。例えば、紙面上方からX方向に例えば約35°の位置でもよい。
【0074】
オートテンショナ2をエンジンブロックへ組み付け、ベルトを装着するまでの手順について説明する。
図3に示すように、X方向は、コイルばね11の周方向の付勢力が働く方向である。Y方向は、コイルばね11の周方向の付勢力に抗する方向である。(1)締結ボルト5を軸部4に備わるボルト挿通孔52に通し、エンジンブロックの雌ネジ部に仮止めする。(2)ベース7の回り止め部74の係止部分274をエンジンブロックの一端側の面に形成された凹溝に係合させる。(3)上記仮止め状態で、スパナ等工具で押さえ部材6の側面(略六角形状)を把持して、ボルトを中心に軸部4をX方向に回転させる。これにより、ボルトの中心51を中心にテンショナ全体がX方向に回転するとともに、ベルトに近づく方向(紙面右方)に軸R(即ちプーリ9およびアーム8)の位置が移動する。(4)プーリ9がベルトに当接すると、ベルト荷重がプーリ9の回転軸に作用する。(5)さらに、ボルトの中心51を中心に軸部4をX方向に回転させると、このベルト荷重の増加により、プーリ9の回転軸から偏心された軸部4の軸R回りにトルクが発生し、アーム8は、コイルばね11の周方向の付勢力に抗して、Y方向に回動し始めるとともに、ベルトの張力が増加し始める。(6)所定のベルト荷重がプーリ9の回転軸に作用するまで、さらに締結ボルト5の中心51を中心に軸部4をX方向に回転させることで、さらにアーム8およびプーリ9が軸線Rを中心にY方向に回動し、ベルトに所定の初期張力を付与できる。ここで、所定のベルト荷重がプーリ9の回転軸に作用し、所定の初期張力がベルトに付与されたことの確認は、アーム8のインジケータ部85とベース7の回り止め部74とからなる合い印が一致しているか否かを確認することにより行う。(7)この合い印が一致した状態で、ボルトを完全にエンジンブロックの雌ネジ部に締結し、軸部4等の固定部をエンジンブロックに固定する。
【0075】
図2、3に示すように、プーリ9のみならず、締結ボルト5を軸Rに対し偏心させることで、量産において、ベルトシステム装置に不可避の寸法公差が存在していても、これら全ての寸法公差の影響をキャンセルして、常に一様に、所定のベルト荷重をプーリ9の回転軸に作用させて、所定の初期張力をベルトに付与させた、ベルトシステム装置が得られる。また、合い印機能を備えることにより、エンジンブロックへのオートテンショナ2の組付けおよびベルトの装着に係る作業を正確に行えるとともに、作業負荷を軽減できる。
【0076】
以上に対して、ボルト挿通孔52が軸Rと同軸上に位置している場合は、上記(3)の動作ができない。そのため、上記合い印が一致した状態で軸部等の固定部をエンジンブロックに固定させても、オートテンショナの各部品の寸法公差や部品間の距離の公差などに起因して、装置によってベルトに与える初期張力にばらつきが出てしまう。
【0077】
(オートテンショナ2の組み立て)
以上説明したオートテンショナ2は次のような工程で組み立てる。まずは、軸部4、ベース7、コイルばね11、転がり軸受10およびプーリ9をアーム8に組み付ける。次に、シール部材13をアーム8のボス部83の一端面に組み付ける。次に、摺動部材12をアーム8に組み付ける。摺動部材12の筒状摺動部121の内面と軸部4の外面が接触するように、アーム8に組み付けられアーム8と一体となったアーム8を含む部材群を、軸部4に組み付ける。次に、押さえ部材6を軸部4の一端側の端部に圧入固定する。
【0078】
(オートテンショナ2の作動)
本実施形態では、摺動部材12と別箇にダンピング部が設けられず、コイルばね11が、軸部4の軸R方向に圧縮されている。そのため、摺動部材12における板状摺動部122がダンピング部として機能する構成であり、オートテンショナ2は、対称な減衰特性を持つ。この場合、ベルト張力が増加した場合と減少した場合で、板状摺動部122に生じる摩擦力の大きさは、略同じである。
【0079】
ベルトの張力が増加した場合には、ベルトから荷重を受けて、アーム8は、コイルばね11の周方向の付勢力に抗する方向(Y方向)に回動する。この場合は、摺動部材12における板状摺動部122がダンピング部として主体的に機能し、アーム8の回動を減衰させる。
【0080】
ベルトの張力が減少した場合には、コイルばね11のねじり復元力が支配的となり、アーム8は、板状摺動部122が担うアーム8の回動に対する減衰力に抗してコイルばね11の周方向の付勢力が働く方向(X方向)に回動する。この場合は、アーム8を追従させて、ベルトの張力を増加(回復)させる。
【0081】
(作用効果)
本実施形態において、摺動部材12の板状摺動部122とアーム8との隙間、および板状摺動部122と押さえ部材6との隙間を、シール部材13で覆うという比較的簡単な構成で、塵埃等異物が上記隙間に侵入しにくくなり、オートテンショナの耐久性が向上する。
【0082】
また、シール部材13はアーム8に相対回転不能に設けられ、アーム8と一体的に回転する。そのため、上述した特許文献2のように、シール部材13が固定側に設けられる場合と違い、シール部材13の設置に苦労せず、シール部材13の支持のために専用の部材を追加する必要はない。
【0083】
本実施形態において、シール部材13は、板状摺動部122とアーム8の一端側の端面との間で挟持されている。これにより、シール部材13とアーム8、及び、板状摺動部122が一体的に回転する。また、板状摺動部122とアーム8の端面との間にシール部材13が挟み込まれることで、板状摺動部122とアーム8の端面との間の隙間の開口部125が確実に塞がれる。
【0084】
本実施形態において、アーム8の一端側の端面と、この端面と対向するシール部材13の対向面に、互いに嵌合するように凹部及び凸部が設けられている。これにより、シール部材13を、アーム8に対して回転不能に構成することができる。
【0085】
本実施形態において、シール部材13は、転がり軸受10の保持室103の一端側の開口部104を覆っている。これにより、シール部材13によって、転がり軸受10の保持室103内に異物が侵入することも防止できる。
【0086】
本実施形態において、摺動部材12は、軸方向に延びるスリット124が形成され、C字状の断面を有するものであり、無負荷の状態で、筒状摺動部121の外径が、アーム8のボス部83の内径よりも大きい。これにより、摺動部材12は若干縮径された状態でアーム8のボス部83に組付けられる。このため、摺動部材12の拡径方向の自己弾性復元力によって、筒状摺動部121をアーム8のボス部83の内面に圧接させることができ、摺動部材12はアーム8に対してより確実に相対回転不能となる。したがって、筒状摺動部121の内面および板状摺動部122の一端面が、摺動部材12における摺動面として、より確実に機能することができる。
【0087】
本実施形態において、摺動部材12は、基材が金属で形成されており、筒状摺動部121の内面および板状摺動部122の一端側の端面が、基材よりも低摩擦係数の表面特性を有する合成樹脂材料で形成されている。これにより、摺動部材12の摺動面の摩耗を抑制でき、摺動部材12の耐久性を確保することができる。
【0088】
本実施形態において、コイルばね11は、軸部4の軸線方向に圧縮されている。これにより、コイルばね11は、軸部4の軸線方向の弾性復元力によってアーム8を押圧する。摺動部材12の板状摺動部122は、アーム8のボス部83と押さえ部材6との間に存在するため、板状摺動部122には、コイルばね11の、軸部4の軸線方向の弾性復元力が加わる。したがって、板状摺動部122と押さえ部材6との間に摩擦力が生じ、アーム8の揺動を減衰させるダンピング部材として、板状摺動部122が機能する。
【0089】
なお、板状摺動部122が押さえ部材6に強く押し付けられることから、板状摺動部122の偏摩耗の程度も大となる。そのため、板状摺動部122の周辺に異物などを侵入させないために、シール部材13を設ける意義は大きい。また、シール部材13の一部が板状摺動部122とアーム8の端面との間に配置された構成を採用した場合には、コイルばね11の復元力によってシール部材13が強く挟持されるため、アーム8、板状摺動部122、及び、シール部材13を一体化させる効果が高くなる。
【0090】
本実施形態において、シール部材13は、弾性材料で形成された部分を含む。これにより、板状摺動部122の周辺にシール部材13が密着しやすくなるため、シール効果が高くなる。
【0091】
本実施形態において、シール部材13の、弾性部材で形成された一部分が、アーム8の一端側の端面と、押さえ部材6の両方に、環状に接触している。これにより、弾性材料からなるシール部材13の一部分が、アーム8の一端側の端面と押さえ部材6の両方に接触することで、板状摺動部122と押さえ部材6との間の隙間の開口部126及び板状摺動部122とアーム8のボス部83の一端側の端面との隙間の開口部125を確実に塞ぐことができる。
【0092】
また、シール部材13の一部分が、アーム8の端面と押さえ部材6の両方に接触していると、押さえ部材6が板状摺動部122のみと接触している場合と比べて板状摺動部122と押さえ部材6の接触面圧が緩和される。これにより、板状摺動部122と押さえ部材6が摩擦接触するときの異音の発生を抑制することができる。
【0093】
本実施形態において、シール部材13は押さえ部材6と線接触する突起部131を有する。これにより、シール部材13と押さえ部材6の接触面積が小さくなり、シール部材13と押さえ部材6との接触抵抗が小さくなるのでシール部材13がアーム8とより確実に一体的に回転することができる。
【0094】
本実施形態において、シール部材13は、その全てが弾性材料で形成されている。これにより、シール部材13が弾性材料で形成されていない部分を含む場合と比べて、製造コストを低減することができる。
【0095】
本実施形態において、シール部材13の一端側の面に、軸部4の軸線の径方向に沿う凸状のリブ132が複数形成されている。これにより、シール部材13の、軸部4の軸心の径方向に関する剛性が増すため、シール部材13がアーム8に接触状態で相対回転不能に、より確実に嵌合支持され、アーム8と一体的に回動することができる。
【0096】
本実施形態において、アーム8はベース7に偏心支持されていると共に、プーリ9はアーム8の外周側に取り付けられている。これにより、アーム8をさほど大きく回動させない方がよいカムシャフト駆動ベルトシステム1に好適である。
【0097】
(その他の実施形態)
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0098】
軸部の一端側の端部に軸部と一体的にフランジが形成されており、このフランジを本発明の押さえ部材として機能させてもよい。この場合、好ましくは、軸部の他端面のみならず、ベースの他端面も、締結ボルトを介して、エンジンブロックの一端側の面に当接させる。
【0099】
押さえ部材6と板状摺動部122との間の隙間の開口部126は完全には塞がれていなくてもよい。
【0100】
摺動部材は、摺動面を含む全体が合成樹脂材料で形成されていてもよく、摺動面を含む全体が金属で形成されていてもよい。
【0101】
摺動部材の筒状摺動部を滑り軸受として機能させる場合とダンピング部として機能させる場合とで、筒状摺動部の摺動面である内面の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、筒状摺動部を滑り軸受として機能させる場合は、ダンピング部として機能させる場合よりも、筒状摺動部の内面が、低摩擦係数の表面特性を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0102】
シール部材は環状の芯体を有していてもよい。この芯体として、例えば、冷間圧延鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム合金板等を用いてもよい。
【0103】
シール部材全体が金属製でもよく、弾性材料/金属の複合系でもよい。この場合、異音(擦れ音)発生防止の観点から、押さえ部材の他端側の面は、金属材料よりも低摩擦係数の表面特性を有する合成樹脂材料で形成させるのがよい。
【0104】
シール部材13は、
図9に示すように、プーリ9の内面と接触していてもよい。これにより、転がり軸受10の保持室103の一端側の開口部104からの異物の侵入をより確実に抑制できる。
【0105】
また、カムシャフト駆動ベルトシステムに用いられるタイミングベルトへの適用に限らず、自動車用エンジンの補機を駆動する伝動ベルトの緩み側張力を一定に保つオートテンショナに適用してもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 カムシャフト駆動ベルトシステム
2 オートテンショナ
3 ベルト
4 軸部
5 締結ボルト
6 押さえ部材
7 ベース
8 アーム
9 プーリ
10 転がり軸受
11 コイルばね
12 摺動部材
13 シール部材