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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】多層配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20220728BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
H05K3/46 V
H05K3/46 B
H05K3/46 Q
H01L23/12 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018552984
(86)(22)【出願日】2017-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2017042288
(87)【国際公開番号】W WO2018097264
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2016230539
(32)【優先日】2016-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】柳井 威範
(72)【発明者】
【氏名】中村 利美
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-069808(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067422(WO,A1)
【文献】特表2011-508448(JP,A)
【文献】特開2005-191550(JP,A)
【文献】特開2016-167487(JP,A)
【文献】特開2003-158239(JP,A)
【文献】特開2007-150002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、剥離層及び金属層をこの順に備えた積層シートを用意する工程と、
前記金属層の表面に第1配線層を形成し、前記積層シートの前記第1配線層が形成された面に絶縁層及び第n配線層(nは2以上の整数)を交互に形成して多層積層体を作製する工程と、
前記多層積層体の一方の面に、可溶性粘着層を介して、開口部を有する補強シートを積層する工程と、
前記開口部を介して、前記可溶性粘着層を溶解可能な液体を、前記可溶性粘着層に接触又は浸透させ、それにより前記可溶性粘着層を溶解又は軟化させる工程と、
前記補強シートを前記多層積層体から前記可溶性粘着層の位置で剥離して多層配線板を得る工程と、
を含み、前記補強シートのビッカース硬度が200~500HVであり、かつ、前記基材のビッカース硬度が600~2000HVである、多層配線板の製造方法。
【請求項2】
前記補強シートが、
前記補強シートの少なくとも外周に沿って設けられ、前記開口部が存在しない補強領域と、
前記補強領域によって囲まれ、前記開口部を含む通液性領域と、
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補強シートは3~90%の空孔率を有し、前記空孔率は、前記補強シートの外形体積に対する、前記通液性領域における総空孔体積の割合である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記可溶性粘着層が溶液可溶型樹脂を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記可溶性粘着層が酸可溶型樹脂又はアルカリ可溶型樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記補強シートの積層後で、かつ、前記補強シートの剥離前に、前記多層積層体の補強シートと反対側の表面に電子素子を搭載させる工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補強シートの積層後で、かつ、前記補強シートの剥離前に、前記基材を前記金属層から前記剥離層で剥離する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記補強シートの剥離前に、前記金属層をエッチングにより除去する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の実装密度を上げて小型化するために、プリント配線板の多層化が広く行われるようになってきている。このような多層プリント配線板は、携帯用電子機器の多くで、軽量化や小型化を目的として利用されている。そして、この多層プリント配線板には、層間絶縁層の更なる厚みの低減、及び配線板としてのより一層の軽量化が要求されている。
【0003】
このような要求を満たす技術として、コアレスビルドアップ法を用いた多層プリント配線板の製造方法が採用されている。コアレスビルドアップ法とは、いわゆるコア(芯材)上にビルドアップ法と呼ばれる手法で絶縁層と配線層とを交互に積層(ビルドアップ)して多層化した後、コア(芯材)を除去してビルドアップ層のみで配線板を形成する方法である。コアレスビルドアップ法においては、支持体と多層プリント配線板との剥離を容易に行えるように、キャリア付銅箔を使用することが提案されている。例えば、特許文献1(特開2005-101137号公報)には、キャリア付銅箔のキャリア面に絶縁樹脂層を貼り付けて支持体とし、キャリア付銅箔の極薄銅層側にフォトレジスト加工、パターン電解銅めっき、レジスト除去等の工程により第一の配線導体を形成した後、ビルドアップ配線層を形成し、キャリア付支持基板を剥離し、極薄銅層を除去することを含む、半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法が開示されている。
【0004】
とりわけ、電子デバイスのより一層の小型化及び省電力化に伴い、半導体チップ及びプリント配線板の高集積化及び薄型化へのニーズが高まっている。かかるニーズを満たす次世代パッケージング技術として、FO-WLP(Fan-Out Wafer Level Packaging)やPLP(Panel Level Packaging)の採用が近年検討されている。そして、FO-WLPやPLPにおいても、コアレスビルドアップ法の採用が検討されている。そのような工法の一つとして、コアレス支持体表面に配線層及び必要に応じてビルドアップ配線層を形成し、さらに必要に応じて支持体を剥離した後に、チップの実装を行う、RDL-First(Redistribution Layer-First)法と呼ばれる工法がある。
【0005】
例えば、特許文献2(特開2015-35551公報)には、ガラス又はシリコンウエハからなる支持体の主面への金属剥離層の形成、その上への絶縁樹脂層の形成、その上へのビルドアップ層を含む再配線層(Redistribution Layer)の形成、その上への半導体集積回路の実装及び封止、支持体の除去による剥離層の露出、剥離層の除去による2次実装パッドの露出、並びに2次実装パッドの表面への半田バンプの形成、並びに2次実装を含む、半導体装置の製造方法が開示されている。特許文献3(特開2008-251702号公報)には、コアレス支持体上への第1電極パッドとしての埋込み配線層の形成、その上への第2電極パッドとしての埋込み配線層の形成、コアレス支持体の剥離、及びその後の埋込み配線層の背面からのチップの実装を含む、半導体装置の製造方法が開示されている。特許文献4(特開2015-170767号公報)には、コアレス支持体上への剥離層の形成、その上への埋込み配線層及びビルドアップ層の形成、ビルドアップ層の表面への配線基板の実装、キャリアの剥離、及び半導体チップの実装を含む、回路基板の製造方法が開示されている。この剥離層は紫外線の照射に起因して気体を生成する組成物を含むものであり、それにより配線層にダメージを与えることなく支持基板の剥離及び剥離層の除去を容易かつ簡単に行えるとされている。
【0006】
ところで、特許文献5(特開2015-76477号公報)には、支持体上への第1剥離層の形成、第1剥離層を覆う第2剥離層の形成、第2剥離層上への配線含有樹脂層の形成、基板への樹脂層の接続、第1剥離層及び第2剥離層の除去による支持体の剥離、樹脂層上への電子部品の接続を含む、電子装置の製造方法が開示されており、第1剥離層がアルカリ可溶の無機絶縁材料からなり、第2剥離層がアルカリ不溶の無機材料からなることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-101137号公報
【文献】特開2015-35551号公報
【文献】特開2008-251702号公報
【文献】特開2015-170767号公報
【文献】特開2015-76477号公報
【発明の概要】
【0008】
上述したようなFO-WLPやPLPの採用が検討される近年の技術動向を受けて、ビルドアップ層の薄型化が求められる。しかしながら、ビルドアップ層が薄い場合、コアレスビルドアップ法を用いて作製したビルドアップ層付基材から、基材を剥離する際、ビルドアップ層が局部的に大きく湾曲することがある。かかるビルドアップ層の大きな湾曲は、ビルドアップ層内部の配線層の断線や剥離を引き起こし、その結果、配線層の接続信頼性を低下させうる。かかる問題に対処すべく、多層積層体に粘着剥離層を介して補強シートを積層させることが考えられる。これにより、多層配線層を局部的に大きく湾曲させないように補強することができ、それにより多層配線層の接続信頼性と多層配線層表面の平坦性(コプラナリティ)を向上することができる。しかしながら、粘着剥離層によって多層積層体に密着した補強シートの剥離を、多層積層体に過度な応力を与えることなく、如何にして効率良く行うかが次なる課題となる。
【0009】
本発明者らは、今般、多層配線板の製造において、多層積層体に補強シートを積層させることにより、多層配線層を局部的に大きく湾曲させないように補強することができ、それにより多層配線層の接続信頼性と多層配線層表面の平坦性(コプラナリティ)を向上できるとの知見を得た。その上で、補強シートに開口部を設け、かつ、補強シートの多層積層体への積層に可溶性粘着層を用いることで、役目を果たした補強シートの剥離を、溶解剥離又はそれに準じた手法により、多層積層体に与える応力を最小化しながら極めて短時間で行えるとの知見も得た。
【0010】
したがって、本発明の第一の目的は、多層配線層を局部的に大きく湾曲させないように補強することができ、それにより多層配線層の接続信頼性と多層配線層表面の平坦性(コプラナリティ)を向上可能な、多層配線板の製造方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、役目を果たした補強シートの剥離を、多層積層体に与える応力を最小化しながら極めて短時間で行える、多層配線板の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の一態様によれば、配線層及び絶縁層を交互に形成して多層積層体を作製する工程と、
前記多層積層体の一方の面に、可溶性粘着層を介して、開口部を有する補強シートを積層する工程と、
前記開口部を介して、前記可溶性粘着層を溶解可能な液体を、前記可溶性粘着層に接触又は浸透させ、それにより前記可溶性粘着層を溶解又は軟化させる工程と、
前記補強シートを前記多層積層体から前記可溶性粘着層の位置で剥離して多層配線板を得る工程と、
を含む、多層配線板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造方法において、積層シートの用意から補強シートの積層までの工程を示す、工程流れ図である。
図2】本発明の製造方法において、基材の剥離から電子素子の搭載までの工程を示す、工程流れ図である。
図3】本発明の製造方法において、補強シートの剥離から多層配線板の完成までの工程を示す、工程流れ図である。
図4】補強領域と通液性領域とを有する補強板の一形態を示す模式上面図である。
図5】通液性領域に設けられる開口部の一形態を示す模式拡大図である。
図6】通液性領域に設けられる開口部の他の一形態を示す模式拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
多層配線板の製造方法
本発明による多層配線板の製造方法は、(1)所望により用いられる積層シートの用意、(2)多層積層体の作製、(3)補強シートの積層、(4)所望により行われる基材の剥離、(5)所望により行われる金属層のエッチング除去、(6)所望により行われる第1配線層の表面処理、(7)所望により行われる電子素子の搭載、(8)可溶性粘着層の溶解又は軟化、及び(9)補強シートの剥離の各工程を含む。
【0014】
以下、図面を参照しながら、工程(1)~(9)の各々について説明する。
【0015】
(1)積層シートの用意(任意工程)
所望により、図1(a)に示されるように、多層配線板を形成するためのベースとなる積層シート10を用意する。積層シート10は、基材12、剥離層14及び金属層16を順に備える。積層シート10は、いわゆるキャリア付銅箔の形態であってもよい。積層シート10の本発明の好ましい態様については後述するものとする。
【0016】
(2)多層積層体の作製
図1(b)及び(c)に示されるように、配線層18及び絶縁層20を交互に形成して多層積層体26を作製する。図1(b)及び(c)に示される配線層18及び絶縁層20で構成される逐次積層構造は、ビルドアップ層ないしビルドアップ配線層と一般的に称されるものであるが、本発明の製造方法においては、一般的にプリント配線板において採用される公知のビルドアップ配線層の構成のみからなる多層積層体の形成方法のみならず、予め形成されたバンプ付の多層積層体の一部となる積層体を、絶縁性接着剤を介して積層する方法等も採用することができ、特に限定されない。
【0017】
多層配線板を形成するためのベースとなる下地部材は特に限定されない。そのような下地部材として上述の積層シート10を用いる場合、多層積層体26が積層シート10の金属層16の表面に作製されるのが好ましい。以下、積層シート10を用いる場合における多層積層体26の好ましい製造方法を説明する。
【0018】
この場合、まず、図1(b)に示されるように、金属層16の表面に第1配線層18を形成する。典型的には、第1配線層18の形成は、公知の手法に従い、フォトレジスト層の形成、電気銅めっき層の形成、フォトレジスト層の剥離、及び所望により銅フラッシュエッチングを経て行われる。例えば、以下のとおりである。まず、金属層16の表面にフォトレジスト層を所定のパターンで形成する。フォトレジストは感光性フィルムであるのが好ましく、例えば感光性ドライフィルムである。フォトレジスト層は、露光及び現像により所定の配線パターンを付与すればよい。金属層16の露出表面(すなわちフォトレジスト層でマスキングされていない部分)に電気銅めっき層を形成する。電気銅めっきは公知の手法により行えばよく、特に限定されない。次いで、フォトレジスト層を剥離する。その結果、電気銅めっき層が配線パターン状に残って第1配線層18を形成し、配線パターンを形成しない部分の金属層16が露出する。
【0019】
金属層16が給電層のみならず反射防止層を含む場合、金属層16の給電層に相当する部分をフラッシュエッチングにより除去して反射防止層を露出させてもよい。こうすることで、後述する第1配線層18の画像検査がしやすくなる。反射防止層は、Cr、W、Ta、Ti、Ni及びMoから選択される少なくとも1種の金属で構成されるのが好ましい。これらの金属は、銅フラッシュエッチング液に対して溶解しないという性質を有するので、銅フラッシュエッチング液に対して優れた耐薬品性を呈することができる。
【0020】
図1(c)に示されるように、積層シート10の第1配線層18が形成された面に絶縁層20及び第n配線層18(nは2以上の整数)を交互に形成して、第1配線層18が埋込み配線層の形で組み込まれた、多層積層体26を得る。すなわち配線層18は2層以上であり、第1配線層、第2配線層、・・・、第n配線層と称されることができる。絶縁層20は1層以上であればよい。すなわち、本発明における多層配線板40は少なくとも2層の配線層18(すなわち少なくとも第1配線層18及び第2配線層18)を少なくとも1層の絶縁層20とともに有するものである。
【0021】
また、ビルドアップ配線層の最表面における配線層上には、必要に応じて、ソルダ―レジスト層及び/又は表面金属処理層(例えば、OSP(Organic Solderbility Preservative)処理層、Auめっき層、Ni-Auめっき層等)が形成されていてもよい。
【0022】
(3)補強シートの積層
図1(d)に示されるように、多層積層体26の一方の面(例えば多層積層体26の積層シート10と反対側の表面)に可溶性粘着層28を介して補強シート30を積層する。これにより、多層積層体26は補強シート30によって局部的に大きく湾曲されないように補強されることができる。すなわち、剥離時や湾曲が効果的に防止ないし抑制される。こうして、湾曲により引き起こされることがあるビルドアップ配線層内部の配線層の断線や剥離を回避して、多層配線層の接続信頼性を向上することができる。また、湾曲が効果的に防止ないし抑制されることで、多層配線層表面の平坦性(コプラナリティ)を向上することができる。
【0023】
補強シート30は開口部30aを有する。開口部30aは後の工程において、可溶性粘着層28に対する、溶解可能な液体(以下、溶解液という)の接触又は浸透を許容し、その結果、溶解剥離又はそれに準じた手法による補強シート30の剥離を容易にする。すなわち、役目を果たした補強シート30の剥離を多層積層体26に与える応力を最小化しながら極めて短時間で行うことを可能とする。開口部30aの形状及びサイズは液透過性を呈するものであれば特に限定されない。開口部30aは貫通穴であるのが好ましい。貫通穴の形状の典型的な例としては、円形(例えば図5を参照)、多角形(三角形以上、例えば図6に示されるような四角形)等の各種幾何学形状、さらには各種二次元網目形状(例えばボロノイ状網目構造、ドロネー状網目構造、規則網目構造、不規則網目構造等)によってもたらされるものであってもよい。これらの例はいずれも二次元的な開口部ないし貫通穴といえる。なお、図6に示されるように、多角形等の各種幾何学形状や各種二次元網目形状の角部は丸みを帯びていてもよい。あるいは、開口部30aは液透過性を呈する三次元多孔構造、例えば、多数の開気孔を含む多孔質構造、又は三次元網目構造であってもよい。
【0024】
図4に示されるように、補強シート30は、補強領域30bと通液性領域30cを有するのが好ましい。補強領域30bは、開口部30aが存在しない領域であり、補強シート30の少なくとも外周に沿って設けられる。開口部30aを有しないことで、開口部30aを有する補強シート30が脆弱になるのを防止して、補強シート30としての機能をより効果的に確保することができる。通液性領域30cは、図5及び6に例示されるように、開口部30aを含む領域であり、補強領域30bによって囲まれる。通液性領域30cは、開口部30aを含むことで、溶解液の接触又は浸透を許容し、それにより補強シート30の剥離を容易にする。通液性領域30cは複数の開口部30aを有するものであってよく、その場合、最も外側に位置する(典型的には四隅に位置する)開口部30aの外縁を結んだ領域が通液性領域30cを画定することになる。したがって、通液性領域30cは典型的には矩形状である。
【0025】
補強シート30は空孔率が3~90%であるのが好ましく、より好ましくは20~70%、さらに好ましくは30~60%である。なお、空孔率は、補強シート30の外形体積に対する、通液性領域30cにおける総空孔体積の割合、すなわち、((通液性領域30cにおける総空孔体積)/(補強シート30の外形体積))×100により算出される値である。ただし、補強シート30の外形体積とは、補強シート30に空孔が無いもの(すなわち開口部30aが完全に塞がれている)と仮定した場合における補強シート30の形状に対して算出される仮想的な体積である。上記範囲内であると、補強シート30の十分な強度を確保して多層積層体26をより効果的に補強しながらも、溶解液の補強シート30への接触又は浸透を効果的に促進することができ、補強シート30の剥離をより一層容易に行うことができる。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、補強シート30(好ましくは通液性領域30c)は、図5及び6に示されるように、所定形状の複数の開口部30aが互いに規則パターンに従って配列される。こうすることで、溶解液を補強シート30(とりわけ通液性領域30c)にムラなく均一に接触ないし浸透させることができ、補強シート30のより一層容易な剥離を可能とする。
【0027】
上記規則パターンに従う態様において、図5及び6に示されるような、互いに最も近接する開口部30a同士の間隔a(以下、一次近接距離aという)0.025~50mmが好ましく、より好ましくは0.1~10mm、さらに好ましくは0.2~4.0mmである。また、補強シート30の厚さT(mm)に対する一次近接距離a(mm)の比(a/T)が0.025~1000であるのが好ましく、より好ましくは0.1~500、さらに好ましくは0.2~300である。上記好適範囲内とすることで、補強シート30の強度保持と、溶解液の補強シート30への接触又は浸透を促進することができる。
【0028】
上記規則パターンに従う態様において、図5及び6に示されるような、開口部30aの内接円の直径rは0.05~500mmが好ましく、より好ましくは0.5~50mm、さらに好ましくは1.0~10mmである。また、補強シート30の厚さT(mm)に対する上記直径rの比(r/T)が0.05~500であるのが好ましく、より好ましくは0.1~300、さらに好ましくは1.0~100である。上記好適範囲内とすることで、溶解液の補強シート30への接触又は浸透を促進することができる。
【0029】
積層シート10を用いる態様においては、補強シート30は基材12よりもビッカース硬度が低いものであるのが好ましい。これにより、補強シート30を積層又は剥離する際に、補強シート30自体が撓むことで、積層又は剥離時に発生しうる応力を上手く逃がすことができ、その結果、基材12を含む多層積層体26の湾曲を効果的に防止ないし抑制することができる。補強シート30のビッカース硬度は、基材12のビッカース硬度の2~99%であるのが好ましく、より好ましくは6~90%であり、さらに好ましくは10~85%である。好ましくは、補強シート30のビッカース硬度が50~700HVであり、かつ、基材12のビッカース硬度が500~3000HVであり、より好ましくは、補強シート30のビッカース硬度が150~550HVであり、かつ、基材12のビッカース硬度が550~2500HVであり、さらに好ましくは補強シート30のビッカース硬度が200~500HVであり、かつ、基材12のビッカース硬度が600~2000HVである。なお、本明細書においてビッカース硬度はJIS Z 2244-2009に記載される「ビッカース硬さ試験」に準拠して測定されるものである。
【0030】
参考のため、候補となりうる各種材料のビッカース硬度HVを以下に例示する:サファイアガラス(2300HV)、超硬合金(1700HV)、サーメット(1650HV)、石英(水晶)(1103HV)、SKH56(高速度工具鋼鋼材、ハイス)(722HV)、強化ガラス(640HV)、SUS440C(ステンレス鋼)(615HV)、SUS630(ステンレス鋼)(375HV)、チタン合金60種(64合金)(280HV前後)、インコネル(耐熱ニッケル合金)(150~280HV)、S45C(機械構造用炭素鋼)(201~269HV)、ハステロイ合金(耐食ニッケル合金)(100~230HV)、SUS304(ステンレス鋼)(187HV)、SUS430(ステンレス鋼)(183HV)、鋳鉄(160~180HV)、チタン合金(110~150HV)、黄銅(80~150HV)、及び青銅(50~100HV)。
【0031】
補強シート30は、JIS H 3130-2012の繰返し撓み式試験に準拠して測定される、ばね限界値Kb0.1が100~1500N/mmであるのが好ましく、より好ましくは150~1200N/mm、さらに好ましくは200~1000N/mmである。このような範囲内であると、補強シート30を積層又は剥離する際に、補強シート30自体が撓むことで、積層又は剥離時に発生しうる応力を上手く逃がすことができ、その結果、多層積層体26の湾曲をより効果的に防止ないし抑制することができる。また、積層又は剥離の際に撓んだ補強シート30がその弾性を活かして本来のフラットな形状に瞬時に戻ることができるので、多層積層体26の平坦性をより効果的に維持することができる。しかも、補強シート30のしなり及び弾性を活用することで、引き剥がし力が加えられる補強シート30を剥離方向(すなわち多層積層体26から遠ざかる方向)に付勢することができ、その結果、より一層スムーズな剥離が可能となる。
【0032】
参考のため、候補となりうる各種材料についてのばね限界値Kb0.1を以下の表1及び2に例示する。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
補強シート30の材質は特に限定されないが、樹脂、金属、ガラス、又はそれらの組合せが好ましい。樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、及びフェノール樹脂が挙げられ、このような樹脂と繊維補強材とからなるプリプレグであってもよい。金属の例としては、上記ビッカース硬度やばね限界値Kb0.1の観点から、ステンレス鋼、銅合金(例えば青銅、リン銅、銅ニッケル合金、銅チタン合金)が挙げられるが、耐薬品性の観点からステンレス鋼が特に好ましい。補強シート30の形態は、多層積層体26の湾曲を防止ないし抑制できるかぎり、シート状に限らず、フィルム、板、及び箔の他の形態であってもよく、好ましくはシート又は板の形態である。補強シート30はこれらのシート、フィルム、板、及び箔等が積層されたものであってもよい。補強シート30の典型例としては、金属シート、樹脂シート(特に硬質樹脂シート)、ガラスシートが挙げられる。補強シート30の厚さは、補強シート30の強度保持及び補強シート30のハンドリング容易性の観点から、好ましくは10μm~1mmであり、より好ましくは50~800μm、さらに好ましくは100~600μmである。補強シート30が金属シート(例えばステンレス鋼シート)である場合、金属シートにおける、可溶性粘着層28が形成される側の表面の十点平均粗さRz-jis(JIS B 0601-2001に準拠して測定される)は0.05~500μmであるのが好ましく、より好ましくは0.5~400μm、さらに好ましくは1~300μmである。このような表面粗さであると、表面の凹凸に起因するアンカー効果によって、可溶性粘着層28との密着性が高まり、可溶性粘着層28における剥離強度が向上すると考えられる。
【0036】
可溶性粘着層28は補強シート30を多層積層体26に所望の密着性で貼り付けることができ、かつ、後に用いる溶解液との接触により溶解又は軟化可能な層であれば、その構成は特に限定されない。可溶性粘着層28は、例えば、粘着剤層、粘着剥離層、剥離層等と称されるような公知の層であることができる。可溶性粘着層28は粘着性を有するのが典型的であり、それ故、粘着剤層又は粘着剥離層が典型的であるといえる。もっとも、可溶性粘着層28は粘着性を有しない剥離層であってもよい。なお、可溶性粘着層28の形成領域は、本発明の効果を損なわない範囲において、適宜調整することが可能である。例えば、図1(d)に示されるように多層積層体26の表面の全領域を被覆するように形成されていてもよいし、あるいは多層積層体26と補強シート30の対向する領域のうち一部の領域のみ(図示せず)に形成されていてもよい。
【0037】
可溶性粘着層28は溶液可溶型樹脂を含むのが好ましく、より好ましくは酸可溶型樹脂又はアルカリ可溶型樹脂を含む。この溶液可溶型樹脂(例えば酸可溶型又はアルカリ可溶型樹脂)は、溶解液(例えば酸溶液又はアルカリ溶液)との接触により効率的に溶解又は軟化することができるので、後の工程における補強シート30の剥離をより効果的に行うことが可能となる。なお、補強シート30の剥離強度の制御は、薬品可溶成分の含有量制御、樹脂層の厚さ制御により行うことができる。酸可溶型樹脂の例としては、酸に可溶なフィラーである、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等を60wt%以上の高濃度に充填させた樹脂組成物が挙げられる。この樹脂組成物を構成する樹脂の例としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。アルカリ可溶型樹脂の例としては、メタクリル酸重合体及びアクリル酸重合体が挙げられる。メタクリル酸重合体の例としては、炭素数が1~18のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。また、アクリル酸重合体の例としては、炭素数が1~18のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。この際、樹脂の強度を向上させるために、スチレンモノマー、スチレンオリゴマー等を樹脂組成物に含有させてもよい。また、これらの樹脂と熱硬化が可能な、エポキシ樹脂を樹脂組成物に含有させてもよい。さらに、エポキシ樹脂との熱硬化性を向上させるため、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、イソシアネート基含有硬化剤等を樹脂組成物に含有させてもよい。
【0038】
積層シート10を用いる態様においては、可溶性粘着層28は、剥離層14よりも高い剥離強度をもたらす層であるのが好ましい。なお、可溶性粘着層28と剥離層14の剥離強度の大小関係を比較する方法としては、後述するそれぞれの剥離強度絶対値を比較する方法もあるが、多層配線板製造工程において剥離される態様に合わせた測定による比較も有効である。具体的には、剥離層14の剥離強度は、基材12をビルドアップ配線層から引き剥がす時に生じる耐力とし、可溶性粘着層28の剥離強度は、補強シート30を多層積層体26から剥離する際に生じる耐力として測定される値を比較することも有効である。
【0039】
可溶性粘着層28の剥離強度は、剥離層14の剥離強度の1.02~300倍であるのが好ましく、より好ましくは1.05~100倍、さらに好ましくは3.0~50倍、特に好ましくは5.0~30倍である。例えば、可溶性粘着層28の剥離強度は、30~300gf/cmであるのが好ましく、より好ましくは40~250gf/cm、さらに好ましくは50~175gf/cm、特に好ましくは70~150gf/cmである。このような範囲とすることで、剥離層14にて基材12を剥離する際、多層配線層への応力集中をより効果的に防ぐことができ、その結果、多層配線層内の断線をより効果的に予防することができる。また、剥離層14にて剥離する際に、可溶性粘着層28の異常剥離(連鎖的な剥離)をより効果的に防止できるため、剥離層14にて剥離した後の第1配線層18の表面をより確実に平坦に保つことが可能となる。可溶性粘着層28の剥離強度は、上述した剥離層14の剥離強度の測定方法と基本的に同様にして測定することができるが、溶解液との接触前に測定される剥離強度を指す点に留意すべきである。具体的には、可溶性粘着層28の剥離強度は以下のようにして測定されるものである。まず、補強シート30上に可溶性粘着層28を形成し、その上に厚さ18μmの銅箔を積層して形成し、銅張積層板を形成する。その後、JIS C 6481-1996に準拠し、銅箔を剥離した時の剥離強度(gf/cm)を測定する。
【0040】
(4)基材の剥離(任意工程)
積層シート10を用いる場合、図2(e)に示されるように、補強シート30の積層後で、かつ、補強シート30の剥離前に、基材12を金属層16から剥離層14で剥離するのが好ましい。すなわち、基材12、密着金属層(存在する場合)、剥離補助層(存在する場合)、及び剥離層14が剥離除去される。この剥離除去は、物理的な剥離により行われるのが好ましい。物理的分離法は、手や治工具、機械等で基材12等をビルドアップ配線層から引き剥がすことにより分離する手法である。このとき、可溶性粘着層28を介して密着した補強シート30が多層積層体26を補強していることで、多層積層体26が局部的に大きく湾曲するのを防止することができる。すなわち、補強シート30は、基材12が剥離される間、引き剥がし力に抗すべく多層積層体26を補強し、湾曲をより一層効果的に防止ないし抑制することができる。こうして、湾曲により引き起こされることがあるビルドアップ配線層内部の配線層の断線や剥離を回避して、多層配線層の接続信頼性を向上することができる。また、湾曲が効果的に防止ないし抑制されることで、多層配線層表面の平坦性(コプラナリティ)を向上することができる。
【0041】
特に、可溶性粘着層28は剥離層14よりも剥離強度が高い場合、基材12を剥離する際に、可溶性粘着層28での剥離をより効果的に回避しながら、剥離層14での剥離がより一層しやすくなる。したがって、可溶性粘着層28を介して多層積層体26に密着した補強シート30は、基材12の剥離時においても密着状態をより一層安定的に保持することができる。
【0042】
(5)金属層のエッチング除去(任意工程)
所望により、図2(f)に示されるように、補強シート30の剥離前に、金属層16をエッチングにより除去する。金属層16のエッチングは、フラッシュエッチング等の公知の手法に基づき行えばよい。
【0043】
特に、前述したように、このようにビルドアップ配線層を形成した後にチップの実装を行うプロセスはRDL-First法と呼ばれる手法である。この工法によれば、チップの実装を行う前に多層配線層18の外観検査や電気検査を行うことができるため、各配線層の不良部分を避けて、良品部分にのみチップを実装できる。その結果、RDL-First法はチップの無駄使いを回避できる点で、チップの表面に配線層を逐次積層する工法であるChip-First法等と比較すると経済的に有利である。こうして、プリント配線板の製造プロセス(特にRDL-First法)において、チップ実装前の配線層に対する外観検査や電気検査を行うことで、製品歩留まりを向上することができる。
【0044】
(6)第1配線層の表面処理(任意工程)
上記工程の後、必要に応じて、第1配線層18の表面には、ソルダ―レジスト層、表面金属処理層(例えば、OSP(Organic Solderbility Preservative)処理層、Auめっき層、Ni-Auめっき層等)、電子素子搭載用の金属ピラー、及び/又ははんだバンプ等が形成されていてもよい。
【0045】
(7)電子素子の搭載(任意工程)
所望により、図2(g)に示されるように、補強シート30の積層後(或いは金属層16の除去又はその後の電気検査後)で、かつ、補強シート30の剥離前に、多層積層体26の補強シート30と反対側の表面に電子素子32を搭載させる。本発明の製造方法においては、可溶性粘着層28及び補強シート30を採用することで、電子素子32の搭載に有利となる優れた表面平坦性(コプラナリティ)を多層積層体26の表面(例えば第1配線層18を埋込み電極として含むビルドアップ配線層の表面)において実現することができる。すなわち、電子素子32の搭載時においても、多層積層体26は補強シート30によって局部的に大きく湾曲されずに済む。その結果、電子素子搭載の接続歩留まりを高くすることができる。
【0046】
電子素子32の例としては、半導体素子、チップコンデンサ、抵抗体等が挙げられる。電子素子搭載の方式の例としては、フリップチップ実装方式、ダイボンディング方式等が挙げられる。フリップチップ実装方式は、電子素子32の実装パッドと、第1配線層18との接合を行う方式である。この実装パッド上には図2(g)に示されるように柱状電極(ピラー)やはんだバンプ34等が形成されてもよく、実装前に第1配線層18を含む表面に封止樹脂膜36であるNCF(Non-Conductive Film)等を貼り付けてもよい。接合は、はんだ等の低融点金属を用いて行われるのが好ましいが、異方導電性フィルム等を用いてもよい。ダイボンディング接着方式は、第1配線層18に対して、電子素子32の実装パッド面と反対側の面を接着する方式である。この接着には、熱硬化樹脂と熱伝導性の無機フィラーを含む樹脂組成物である、ペーストやフィルムを用いるのが好ましい。いずれの方式にしても、電子素子32は図2(g)に示されるように封止材38で封止されるのが多層積層体26と電子素子32との積層体全体の剛性をさらに向上できる点で好ましい。
【0047】
(8)可溶性粘着層の溶解又は軟化
開口部30aを介して溶解液を可溶性粘着層28に接触又は浸透させ、それにより可溶性粘着層28を溶解又は軟化させる。前述のとおり、溶解液は可溶性粘着層28を溶解可能な液体を用いているため、可溶性粘着層28は溶解液と接触することで少なくとも部分的に溶解し、それによって可溶性粘着層28に溶解液が浸透しうる。そして、かかる溶解液との接触又は浸透は、可溶性粘着層28の溶解又は軟化をもたらし、多層積層体26と補強シート30との密着力を弱める又は無力化する。こうして、次の工程における補強シート30の剥離を、溶解剥離又はそれに準じた手法を用いて、極めて容易に行うことができる。すなわち、役目を果たした補強シート30の剥離を多層積層体26に与える応力を最小化しながら極めて短時間で行うことができる。
【0048】
溶解液は、可溶性粘着層28を溶解可能な液体であれば特に限定されず、各種組成ないし液性の薬液を使用可能である。例えば、可溶性粘着層28が酸可溶型樹脂を含む場合には、溶解液は酸溶液を用いればよい。そのような酸溶液の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、及びフッ酸等が挙げられる。また、可溶性粘着層28がアルカリ可溶型樹脂を含む場合には、溶解液はアルカリ溶液を用いればよい。そのようなアルカリ溶液の例としては、カルボン酸エチル(酢酸エチル等)、NaHCO水溶液、NaCO水溶液、NaOH水溶液等が挙げられる。
【0049】
(9)補強シートの剥離
図3(h)及び(i)に示されるように、補強シート30を多層積層体26から可溶性粘着層28の位置で剥離して多層配線板40を得る。補強シート30は可溶性粘着層28の溶解又は軟化に起因して極めて剥離しやすい状態となっている(又は場合によっては部分的に自然剥離している)ため、手や治工具、機械等で補強シート30を多層積層体26から軽く引き剥がすことにより極めて容易に分離することができる。したがって、多層積層体26に与える応力を最小化しながら極めて短時間で補強シート30の剥離を行うことができる。こうして多層積層体26に加わる応力が最小化されることで、多層配線板40における配線の断線や実装部の断線を効果的に回避することができる。また、上記応力の低減のために可溶性粘着層28を用いることを考えたとしても、それだけでは溶剤剥離に多大な時間を要するところ、本発明の方法によれば開口部30aを活用して溶解液との接触又は浸透を促進することで、補強シート30の剥離に要する時間の飛躍的な短縮化を実現することができる。
【0050】
特に、積層シート10を用いる態様において、可溶性粘着層28が本来的に剥離層14よりも高い剥離強度を有する場合、可溶性粘着層28は、特段の処置をしなければ、剥離層14よりも剥離しにくいといえる。しかし、本発明の方法においては、溶解液との接触又は浸透によって可溶性粘着層28が溶解又は軟化して、多層積層体26と補強シート30との密着力が弱まる又は無力化する結果、補強シート30の剥離を容易に行うことができる。
【0051】
(10)その他
基材12及び/又は補強シート30の少なくとも一辺がビルドアップ配線層の端部から延出しているのが好ましい。こうすることで、基材ないし補強シートを剥離する際、端部を把持することが可能となり、剥離を容易にすることができるとの利点がある。
【0052】
積層シート
前述したとおり、本発明の方法において所望により用いられる積層シート10は、基材12、剥離層14及び金属層16を順に備える。積層シート10は、いわゆるキャリア付銅箔の形態であってもよい。
【0053】
基材12の材質は特に限定されず、ガラス、セラミックス、樹脂、及び金属のいずれであってもよい。また、基材12の形態も特に限定されず、シート、フィルム、板、及び箔のいずれであってもよい。また、基材12はこれらのシート、フィルム、板、及び箔等が積層されたものであってもよい。例えば、基材12はガラス板、セラミックス板、金属板等といった剛性を有する支持体として機能し得るものであってもよいし、金属箔や樹脂フィルム等といった剛性を有しない形態であってもよい。基材12の好ましい例としては、金属シート、ガラスシート、セラミックス板(プレート)、金属シート及びプリプレグの積層体、接着剤が塗布された金属シート、樹脂シート(特に硬質樹脂シート)が挙げられる。基材12の金属の好ましい例としては、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、アルミニウム等が挙げられる。セラミックスの好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム(ファインセラミックス)等が挙げられる。樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂、液晶ポリマー、PEEK樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、PTFE樹脂、ETFE樹脂等が挙げられる。より好ましくは、電子素子を搭載する際の加熱に伴うコアレス支持体の反り防止の観点から、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満(好ましくは1.0~23ppm/K、より好ましくは1.0~15ppm/K、さらに好ましくは1.0~10ppm/K)の材料であり、そのような材料の例としては上述したような各種樹脂(特にポリイミド樹脂、液晶ポリマー等の低熱膨張樹脂)、上述したような各種樹脂とガラス繊維とで形成されるプリプレグ、ガラス及びセラミックス等が挙げられる。また、ハンドリング性やチップ実装時の平坦性確保の観点から、基材12はビッカース硬度が500~3000HVであるのが好ましく、より好ましくは550~2500HV、さらに好ましくは600~2000HVである。
【0054】
これらの特性を満たす材料として、基材12は樹脂フィルム、ガラス又はセラミックスで構成されるのが好ましく、より好ましくはガラス又はセラミックスで構成され、特に好ましくはガラスで構成される。例えばガラスシートである。ガラスを基材12として用いた場合、軽量で、熱膨脹係数が低く、絶縁性が高く、剛直で表面が平坦なため、金属層16の表面を極度に平滑にできる等の利点がある。また、基材12がガラスである場合、電子素子搭載時に有利な表面平坦性(コプラナリティ)を有している点、プリント配線板製造工程におけるデスミアや各種めっき工程において耐薬品性を有している点等の利点がある。基材12を構成するガラスの好ましい例としては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アミノシリケートガラス、及びそれらの組合せが挙げられ、特に好ましくは無アルカリガラスである。無アルカリガラスは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、及び酸化カルシウムや酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物を主成分とし、更にホウ酸を含有する、アルカリ金属を実質的に含有しないガラスのことである。この無アルカリガラスは、0℃から350℃までの広い温度帯域において熱膨脹係数が3~5ppm/Kの範囲で低く安定しているため、電子素子として半導体チップを搭載した際、ガラスの反りを最小限にできるとの利点がある。
【0055】
基材12の厚さは100~2000μmが好ましく、より好ましくは300~1800μm、更に好ましくは400~1100μmである。このような範囲内の厚さであると、ハンドリングに支障を来たさない適切な強度を確保しながらプリント配線板の薄型化、及び電子部品搭載時に生じる反りの低減を実現することができる。
【0056】
基材12の剥離層14側(存在する場合には密着金属層側)の表面は、JIS B 0601-2001に準拠して測定される、0.1~70nmの算術平均粗さRaを有するのが好ましく、より好ましくは0.5~60nm、さらに好ましくは1.0~50nm、特に好ましくは1.5~40nm、最も好ましくは2.0~30nmである。このように算術平均粗さが小さいほど、金属層16の剥離層14と反対側の表面(金属層16の外側表面)において望ましく低い算術平均粗さRaをもたらすことができ、それにより、積層シート10を用いて製造されるプリント配線板において、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm~1μm/1μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンを形成するのに適したものとなる。
【0057】
所望により、積層シート10は、基材12の剥離層14側の表面に密着金属層及び/又は剥離補助層を有していてもよく、好ましくは密着金属層及び剥離補助層をこの順に有する。
【0058】
所望により設けられる密着金属層は、基材12との密着性を確保する点から、Ti、Cr及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される層であるのが好ましく、純金属であってもよいし、合金であってもよい。密着金属層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に制限されるものではないが、密着金属層の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。密着金属層はスパッタリング等の気相法により形成された層であるのが好ましい。密着金属層は、金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を向上できる点で特に好ましい。密着金属層の厚さは5~500nmであるのが好ましく、より好ましく10~300nm、さらに好ましくは18~200nm、特に好ましくは20~150nmである。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0059】
所望により設けられる剥離補助層は、剥離層14との剥離強度を所望の値に制御とする点から、銅で構成される層であるのが好ましい。剥離補助層を構成する銅は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、剥離補助層成膜前後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。もっとも、特に制限はされるものではないが、密着金属層と剥離補助層は、大気開放することなく連続で製膜される方が望ましい。剥離補助層はスパッタリング等の気相法により形成された層であるのが好ましい。剥離補助層は、銅ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を向上できる点で特に好ましい。剥離補助層の厚さは5~500nmであるのが好ましく、より好ましく10~400nm、さらに好ましくは15~300nm、特に好ましくは20~200nmである。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0060】
剥離層14は、基材12の剥離を可能とする層であるかぎり、材質は特に限定されない。例えば、剥離層14は、キャリア付銅箔の剥離層として採用される公知の材料で構成されることができる。剥離層14は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Znの少なくとも一種類以上の金属酸化物、金属と非金属の混合物、炭素層等が挙げられる。これらの中でも特に、剥離層14は主として炭素を含んでなる層であるのが剥離容易性や膜形成性の点等から好ましく、より好ましくは主として炭素又は炭化水素からなる層であり、さらに好ましくは硬質炭素膜であるアモルファスカーボン、又はカーボン-窒素混合物からなる。この場合、剥離層14(すなわち炭素層)はXPSにより測定される炭素濃度が60原子%以上であるのが好ましく、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、特に好ましくは85原子%以上である。炭素濃度の上限値は特に限定されず100原子%であってもよいが、98原子%以下が現実的である。剥離層14(特に炭素層)は不可避不純物(例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素、炭素、水素等)を含みうる。また、剥離層14(特に炭素層)には金属層16の成膜手法に起因して金属原子が混入しうる。炭素は基材12との相互拡散性及び反応性が小さく、300℃を超える温度でのプレス加工等を受けても、金属層16(例えば銅箔層)と接合界面との間での高温加熱による金属結合の形成を防止して、基材12の引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。この剥離層14もスパッタリング等の気相法により形成された層であるのがアモルファスカーボン中の過度な不純物を抑制する点、前述の密着金属層及び/又は剥離補助層の成膜との連続生産性の点などから好ましい。剥離層14の厚さは1~20nmが好ましく、より好ましくは1~10nmである。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0061】
剥離層14を剥離する際の第1配線層18への応力集中を極力低減し、剥離工程を容易なものとする点から、剥離層14の剥離強度は1~30gf/cmであるのが好ましく、より好ましくは3~20gf/cm、さらに好ましくは4~15gf/cmである。剥離層14の剥離強度は以下のようにして測定されるものである。まず、基材12上に剥離層14を形成し、その上に金属層16としての銅層を形成した積層シートを形成し、その上に厚さ18μmの電気銅めっき層を形成し、銅張積層板を形成する。その後、JIS C 6481-1996に準拠し、金属層16と一体となった電気銅めっき層を剥離した時の剥離強度(gf/cm)を測定する。
【0062】
剥離層14の剥離強度は、剥離層14の厚さを制御すること、剥離層14の組成を選択すること等により、制御することができる。
【0063】
金属層16は、金属で構成される層であり、好ましくは後述する第1配線層18への給電を可能とする給電層を含む。金属層16ないし給電層は、いかなる方法で製造されたものでよく、例えば、無電解銅めっき法及び電解銅めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相成膜法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成した銅箔であってよい。給電層を構成する好ましい金属は銅であり、それ故、好ましい給電層は極薄銅層でありうる。特に好ましい給電層は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や真空蒸着等の気相法により形成された銅層であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された銅層である。また、極薄銅層は、無粗化の銅層であるのが好ましいが、プリント配線板製造時の配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化が生じたものであってもよい。金属層16を構成する給電層(例えば極薄銅層)の厚さは特に限定されないが、上述したようなファインピッチ化に対応するためには、50~3000nmが好ましく、より好ましくは70~2500nm、さらに好ましくは80~2000nm、特に好ましくは90~1500nm、特により好ましくは120~1000nm、最も好ましくは150~500nmである。このような範囲内の厚さの給電層(例えば極薄銅層)はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性や、シート状やロール状での生産性の観点で好ましい。
【0064】
金属層16の剥離層14と反対側の表面(金属層16の外側表面)が、JIS B 0601-2001に準拠して測定される、1.0~100nmの算術平均粗さRaを有するのが好ましく、より好ましくは2.0~40nm、さらに好ましくは3.0~35nm、特に好ましくは4.0~30nm、最も好ましくは5.0~15nmである。このように算術平均粗さが小さいほど、積層シート10を用いて製造されるプリント配線板において、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm~1μm/1μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンを形成するのに適したものとなる。なお、このような平滑な表面の場合、算術平均粗さRaの測定には、非接触式表面粗さ測定法を採用するのが好ましい。
【0065】
金属層16は2層以上の層構成を有していてもよい。例えば、金属層16は上述の給電層に加え、給電層の剥離層14側の面に反射防止層を有していてもよい。すなわち、金属層16は給電層及び反射防止層を含むものであってもよい。反射防止層はCr、W、Ta、Ti、Ni及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成されるのが好ましい。反射防止層は、少なくとも給電層側の表面が金属粒子の集合体であるのが好ましい。反射防止層は、全体が金属粒子の集合体で構成される層構造であってもよいし、金属粒子の集合体からなる層とその下部に粒子状ではない層とを含む複数層の構造であってもよい。反射防止層の給電層側の表面を構成する金属粒子の集合体は、その金属質の材質及び粒状形態に起因して望ましい暗色を呈し、その暗色が銅で構成される配線層との間で望ましい視覚的コントラストをもたらし、その結果、画像検査(例えば自動画像検査(AOI))における視認性を向上させる。すなわち、反射防止層の表面は金属粒子の凸形状に起因して光が乱反射して黒く視認される。しかも、反射防止層は剥離層14との適度な密着性と剥離性、給電層との密着性にも優れ、フォトレジスト層形成時における現像液に対する耐剥離性にも優れる。このようなコントラスト及び視認性向上の観点から、反射防止層の給電層側の表面の光沢度Gs(60°)は500以下であるのが好ましく、より好ましくは450以下、さらに好ましくは400以下、特に好ましくは350以下、最も好ましくは300以下である。光沢度Gs(60°)の下限値は低ければ低い方が良いため、特に限定されないが、反射防止層の給電層側の表面の光沢度Gs(60°)は現実的には100以上であり、より現実的には150以上である。なお、粗化粒子の画像解析による鏡面光沢度Gs(60°)はJIS Z 8741-1997(鏡面光沢度-測定方法)に準拠して市販の光沢度計を用いて測定することができる。
【0066】
また、コントラスト及び視認性の向上、並びにフラッシュエッチングの均一性向上の観点から、反射防止層の給電層側の表面は、SEM画像解析により決定される投影面積円相当径が10~100nmである金属粒子の集合体で構成されるのが好ましく、より好ましくは25~100nm、さらに好ましくは65~95nmである。このような投影面積円相当径の測定は、反射防止層の表面を走査型電子顕微鏡により所定の倍率(例えば50000倍)で撮影し、得られたSEM像の画像解析により行うことができる。具体的には、市販の画像解析式粒度分布ソフトウェア(例えば、Mountech Co.,Ltd.社製、Mac-VIEW)を用いて測定される投影面積円相当径の相加平均値を採用する。
【0067】
反射防止層は、Cr、W、Ta、Ti、Ni及びMoから選択される少なくとも1種の金属で構成され、好ましくはTa、Ti、Ni及びMoから選択される少なくとも1種の金属で、より好ましくはTi、Ni及びMoから選択される少なくとも1種の金属で、最も好ましくはTiで構成される。これらの金属は純金属であってもよいし、合金であってもよい。いずれにしても、これらの金属は本質的に酸化されていない(本質的に金属酸化物ではない)のがCuとの視覚的コントラストを向上する望ましい暗色を呈するため好ましく、具体的には、反射防止層の酸素含有量が0~15原子%であるのが好ましく、より好ましくは0~13原子%、さらに好ましくは1~10原子%である。いずれにしても上記金属は、銅フラッシュエッチング液に対して溶解しないという性質を有し、その結果、銅フラッシュエッチング液に対して優れた耐薬品性を呈することができる。反射防止層の厚さは1~500nmであるのが好ましく、より好ましく10~300nm、さらに好ましくは20~200nm、特に好ましくは30~150nmである。
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