(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】複数の細胞を含む体液試料内で分析物を検出するための装置、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220728BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220728BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220728BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220728BHJP
C07K 5/08 20060101ALN20220728BHJP
C07K 14/31 20060101ALN20220728BHJP
C07K 14/525 20060101ALN20220728BHJP
C12N 15/117 20100101ALN20220728BHJP
【FI】
G01N33/543 515M
G01N33/53 D
G01N33/543 541A
C12Q1/02
C12M1/34 A
C12M1/34 F
C07K5/08
C07K14/31
C07K14/525
C12N15/117 Z
(21)【出願番号】P 2018568415
(86)(22)【出願日】2017-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2017065648
(87)【国際公開番号】W WO2018001932
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-23
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】321002824
【氏名又は名称】シーメンス ヘルシニアーズ ネイザランド ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ファン ロースマレン,マルキュス ヘンドリキュス
(72)【発明者】
【氏名】ニーウェンハイス,イェルーン ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンゲ,ペル
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/079219(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/195899(WO,A1)
【文献】SHIRASAKI, Y. et al.,Real-time single-cell imaging of protein secretion,Scientific Reports,2014年,Vol.4, No.4736,p.1-8
【文献】SHARMA, S. et al.,Point-of-Care Diagnostics in Low Resource Settings: Present Status and Future Role of Microfluidics,Biosensors,2015年,Vol.5,p.577-601
【文献】SHARIF, E. et al.,Novel immunoassay technique for rapid measurement of intracellular proteins using paramagnetic particles,Journal of Immunological Methods,2013年,Vol.388,p.78-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
G01N 33/53
C12Q 1/02
C12M 1/34
C07K 5/08
C07K 14/31
C07K 14/525
C12N 15/117
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するための装置であって:
複数の細胞を含む体液試料を受け取るための試料入力部と;複数の細胞を含む前記体液試料のイムノアッセイを実施するための検出面を含むイムノアッセイユニットと;
を備え、前記イムノアッセイユニットが、
前記体液試料に含まれる前記複数の細胞を活性化して分析物を放出させるための活性化試薬であって、前記活性化試薬は、細胞自体を溶解することなく、前記体液試料内に含まれる細胞の内部にある前記分析物を放出させるために細胞を活性化することができる分子を指す、前記活性化試薬と、
抗分析物抗体であって、前記分析物に結合して当該抗分析物抗体と前記分析物を含む複合体を形成することができる抗分析物抗体と、
を含み、該体液試料が該試料入力部から該イムノアッセイユニットに到達すると、該活性化試薬と該抗分析物抗体が該体液試料中に分散され、前記複合体の形成は、前記複数の細胞の活性化と少なくとも部分的に同時に進行する、
装置。
【請求項2】
前記抗分析物抗体は第1抗分析物抗体であり、前記複合体は第1複合体であり、前記イムノアッセイユニットは、前記検出面上に固定される第2抗分析物抗体を更に含み、該第2抗分析物抗体は、前記第1複合体に結合して、前記第1抗分析物抗体、前記分析物及び固定された該第2抗分析物抗体を含む第2複合体を形成することができ、前記第2複合体の形成は、前記第1複合体の形成と少なくとも部分的に同時に進行する、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記イムノアッセイユニットは
、緩衝試薬を更に含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記緩衝試薬は、糖及び塩のうちの少なくとも一方を含む、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記糖は
、多糖である、
請求項
4に記載の装置。
【請求項6】
前記多糖は、デキストラン、CM-デキストラン及びこれらの組合せの群から選択される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記塩は臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム及び/又はチオシアン酸カリウム及びこれらの組合せの群から選択される、
請求項
4に記載の装置。
【請求項8】
前記活性化試薬は、N-ホルミル-ペプチ
ド及び/又はプロテインA及び/又はリポ多糖(LPS)及び/又は血小板活性化因子及び/又は非メチル化CpGオリゴジヌクレオチド及び/又は腫瘍壊死因子(TNF)である、
請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記N-ホルミル-ペプチドは、N-ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン(fMLP)である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記分析物は、タンパク
質である、
請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記タンパク質は、リポカリンである、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記リポカリンは、ヒト好中球リポカリン(HNL)である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記抗分析物抗体は磁性粒子に結合される、
請求項1に記載の装置。
【請求項14】
第1抗分析物抗体及び/又は第2抗分析物抗体は、モノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体の
群から選択される、
請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体は、HNLの結合に特異的な抗体である、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記体液試料は全血試料である、
請求項1に記載の装置。
【請求項17】
複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するためのシステムであって、当該システムは:
複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するための請求項1に記載の装置と;
前記装置のイムノアッセイユニットの検出面に光を投射するための光源と;
前記イムノアッセイユニットの前記検出面からの反射光を受光するための検出ユニットと;
前記検出ユニットによって検出された前記反射光を分析するための分析器と;
を備える、システム。
【請求項18】
磁性粒子を制御するための磁場を更に含む、
請求項
17に記載のシステム。
【請求項19】
複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するための方法であって、当該方法は:
複数の細胞を含む体液試料を受け取るステップと;
複数の細胞を含む前記体液試料のイムノアッセイを実施するステップであって、
前記体液試料内に含まれる前記複数の細胞を活性化して分析物を放出させるステップであって、前記の活性化中に前記細胞は溶解されない、ステップと、
抗分析物抗体と前記分析物とを含む複合体を形成するステップであって
、活性化試薬と該抗分析物抗体が該体液試料中に分散され、該複合体の形成が、前記複数の細胞の活性化と少なくとも部分的に同時に進行するステップと、
前記複合体の形成を検出するステップと、
を含む、イムノアッセイを実施するステップと;
を含む、方法。
【請求項20】
前記複合体の形成は、検出面上の標識の存在及び非存在を検出することを含む、
請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗分析物抗体は、より具体的には、前記分析物に結合するように構成される、
請求項1乃至
16のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
前記抗分析物抗体は、より具体的には、前記分析物に結合するように構成される、請求項
17又は
18に記載のシステム。
【請求項23】
前記抗分析物抗体は、より具体的には、前記分析物に結合するように構成される、請求項
19又は
20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の細胞を含む体液試料、例えば全血試料内の分析物(analyte)を検出し、好ましくは、分析するための装置、システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
診断決定の大部分は、血液検査によって提供される情報に基づく。しかしながら、そのような検査は、中央検査室から結果を得るのに数時間かかる可能性があるため、しばしば問題がある。多くの場合、分析物は、全血試料で入手可能なものではなく、血液細胞の一部である。この分析物は、細胞画分の前処理の後にのみ測定することができる。この前処理は時間がかかる可能性があり、そこから高価なものである可能性もある。さらに、複雑な機器と、分析を行う人の側で比較的高度なスキルを必要とすることが多い。長い前処理を必要とするこれらの検査は、速度と高感度が本質的に必要とされる切迫した状態には適していない。
【0003】
臨床診断の分野では、体液の前処理なしに、唾液、全血、血清、血漿、尿等のような体液試料中の分析物を検出するために「ポイントオブケア(POC:point of care)装置」が使用されていた。これらのいわゆる「ミニケア」装置は使用が容易である。数分で正確で迅速な結果を得るために必要なのは、血液の液滴のような小さな試料だけである。分析物は多くの場合、タンパク質、ペプチド、ホルモン、DNA、RNA又は特異疾患の酵素等のようなバイオマーカーである。これらの検査は当該技術分野において周知である。この検査自体は、簡単な試験片とすることも、使い捨てカートリッジとして分析システムに組み込むこともできる。主な困難性は、正確な結果を得るために、小さな試料体積(例えば血液の液滴)内の非常に低濃度(ピコモル)の分子を数分以内に測定することである。
【0004】
検査はしばしば、分子が生化学反応で相互作用することを可能にすることによって行われ、直接的又は間接的な結果として、検出可能な信号、例えば試験片上の色の指示をもたらす。広く使用されているアッセイ法の1つは、特異的抗体の使用を通して、様々な試料中の特異的分析物の有無並びに濃度を決定するイムノアッセイである。イムノアッセイは、洗浄及び分離段階を有する多段階アッセイにより異種で行われてもよく、あるいは定義された時間の間、試薬及び試料をインキュベート(incubating)し、その後、抗体抗原複合体を検出することにより同種で行われてもよい。同種又は異種アッセイの使用は、特に特異的分析物に依存するが、これに限定されない。主な問題は依然として、検出されるべき各分析物、特異的イムノアッセイが特異的抗体の必要性のために開発されなければならないという事実である。
【0005】
現時点では、高速イムノアッセイにおいて細胞画分の一部である非常に低濃度の分析物を測定する可能性はまだない。主な実用上の問題は依然として、イムノアッセイを実行する前に、時間のかかる体液試料の前処理が必要であるという事実にある。
【0006】
前処理後にのみ測定することができる特定の標的分子の一例は、バイオマーカーHNL(ヒト好中球リポカリン(human neutrophil lipocalin))である。HNLは細胞画分の一部であり、刺激された好中球が分析物を排出するときにのみ測定され得る。HNLは、細菌感染による炎症の高感度バイオマーカーとして使用される。急性ウイルス感染症患者の所見とは対照的に、急性細菌感染症患者の血清又は血漿中のHNLレベルは非常に上昇するので、そのような測定は急性感染症の様々な原因間の区別に関係する。そこから、患者における細菌感染とウイルス感染とを区別することが可能であり、これは、抗生物質乱用の減少という結果をもたらす。
【0007】
非特許文献1は、ヘパリン化全血におけるHNL数を定量するための方法を記載する。しかしながら、それ故、イムノアッセイでHNL濃度を測定する前に、20分間、全血試料をfMLP(N-ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン(N-Formylmethionyl-leucyl-phenylalanine))で前処理する必要がある。
【0008】
したがって、当技術分野で知られている生物学的アッセイよりも早くかつコスト効率のよい生物学的アッセイが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2010/035204号パンフレット
【文献】国際公開第2008/107827号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【文献】Venge,Per等著“J. Immunol. Methods”424(2015年)85-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、体液試料内の分析物の検出及び好ましくは分析を迅速な方法で、例えば10分未満で可能にする装置、システム及び方法を提供することにあり、この場合、体液試料内に含まれる細胞は、分析物の検出を実行している間、依然として生存可能である。したがって、分析物の分析は時間のかかる前処理なしに進行しなければならず、ここで装置の条件は、細胞の生存性を確保して診断決定の形成を更に助けるために浸透性に配慮した方法(osmotic friendly manner)でなければならない。本発明の別の目的は、追加の方法ステップを回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様では、複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するための装置が提示される。当該装置は、複数の細胞を含む体液試料を受け取るための試料入力部と、複数の細胞を含む体液試料のイムノアッセイを実施するための検出面を含むイムノアッセイユニットとを備え、イムノアッセイユニットが、体液試料に含まれる複数の細胞を活性化して分析物を放出させるための活性化試薬であって、細胞自体を溶解することなく、体液試料内に含まれる細胞の内部にある分析物を放出させるために細胞を活性化することができる分子を指す活性化試薬と、抗分析物抗体(anti-analyte-antibody)であって、分析物に結合(binding)して、当該抗分析物抗体と分析物とを含む複合体(complex)を形成することができる抗分析物抗体とを含み、複合体の形成は、複数の細胞の活性化と少なくとも部分的に同時に進行する。
【0013】
本発明の第2の態様では、複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するためのシステムが提示される。当該システムは、複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するための装置と;装置のイムノアッセイユニットの検出面に光を投射するための光源と;イムノアッセイユニットの検出面からの反射光を受光するための検出ユニットと;検出ユニットによって検出された反射光を分析するための分析器とを備える。
【0014】
本発明の更なる態様では、複数の細胞を含む体液試料内の分析物を検出するための、対応する方法が提供される。当該方法は、複数の細胞を含む体液試料を受け取るステップと、複数の細胞を含む体液試料のイムノアッセイを実施するステップであって、体液試料内に含まれる複数の細胞を活性化して分析物を放出させるステップであって、活性化中に細胞は溶解されないステップと、抗分析物抗体と分析物とを含む複合体を形成するステップであって、該複合体の形成が、複数の細胞の活性化と少なくとも部分的に同時に進行するステップと、複合体の形成を検出するステップとを含む、イムノアッセイを実施するステップを含む。
【0015】
本発明の好ましい実施形態は従属請求項で定義される。特許請求に係るシステム及び方法は、特に従属請求項で定義され、本明細書で開示されるような、特許請求に係る装置と類似及び/又は同一の好ましい実施形態を有することを理解されたい。
【0016】
本発明は、体液試料の細胞を活性化して分析物を放出させ、ワンポット反応でイムノアッセイを実施するというアイディアに基づいている。これは、最初から溶液内で利用可能ではない分析物を用いてイムノアッセイを実施するという本技術の現状を超える利点を提供する。本発明者らは、イムノアッセイの緩衝剤の製法を規定の浸透性に配慮した製法に変えると、細胞は、活性化試薬によって活性化されたが、依然として生存可能であることを発見した。したがって、時間のかかる体液試料の前処理なしに、イムノアッセイをより速く実行することが可能である。本発明は更には、試料体積を、例えばわずか30μl未満しか必要としないが、ピコモル範囲で感度のよいイムノアッセイを提供する。
【0017】
本明細書で使用されるとき、「分析物(analyte)」という用語は「標的分子」又は「抗原」とも呼ばれ、その濃度又は存在自体を決定すべき任意の分子を指すものとする。分析物の例は、タンパク質、ペプチド、ホルモン、DNA、RNA又は酵素のようなバイオマーカーである。分析物は細胞の内部にある。したがって、細胞は、それ自体溶解することなく、イムノアッセイを実施する前に活性化されて分析物を放出しなければならない。よって、細胞は、イムノアッセイを実施している間、生存可能なままでいなければならない。
【0018】
「体液試料」という用語は本明細書では広義に使用されており、複数の細胞を含む広範な生物学的材料を含むように意図されている。試料は任意の適切な流体であってよく、その流体の中で分析物は上記細胞の一部である。そのような体液試料は、唾液、尿又は全血試料とすることができる。
【0019】
「イムノアッセイ(immunoassay)」という用語は、当技術分野において公知の任意の様々なイムノアッセイを指す。これは、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着法(enzyme linked immunosorbent assay))、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫放射線アッセイ、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、in situイムノアッセイ(例えばコロイド金、酵素、放射性同位体標識を使用する)、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集アッセイ(例えばゲル凝集アッセイ、血球凝集アッセイ)、免疫蛍光アッセイ、プロテインAアッセイ及び免疫電気泳動アッセイ等のような技術を使用する競合及び非競合アッセイシステム、並びに、例えば関心のある分析物の磁気に基づく分離を含む、分析物の検出のための装置に限定されない。
【0020】
本明細書で使用されるとき、「活性化試薬」という用語は、細胞自体を溶解することなく、体液試料に含まれる細胞の内部にある分析物を放出するために、細胞を活性化することができる分子を指すものとする。
【0021】
本明細書で使用されるとき、「活性化」という用語は、分析物を放出するように複数の細胞を刺激する刺激を指すものとする。さらに、活性化は、活性化試薬によって誘発された分析物の呼吸性バーストを引き起こす細胞の内部のシグナル伝達経路の刺激を指す。したがって、活性化試薬はシグナル伝達経路における調節的役割を果たすことができる。細胞を活性化するために、活性化試薬は細胞面受容体に結合し得る。受容体に結合するとき、例えばホスファチジルイノシトール特異性ホスホリパーゼC(PLC)、ホスホリパーゼA2、ホスホリパーゼD(PLD)、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)及びマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPKs)によって投薬される、多様な細胞内シグナル伝達経路が活性化されて、様々な細胞機能を誘発することになる。
【0022】
本明細書で使用されるとき、「抗分析物抗体」という用語は、分析物に特に結合することができる結合分子を指すものとする。抗分析物抗体又はその機能的断片は、例えば蛍光部位、放射性部位、発色基質等で誘導体化されてよい。
【0023】
「抗分析物抗体」という用語は最も広い意味で使用され、完全に組み立てられた抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(二重特異性抗体を含む)、抗原を結合することができる抗体断片(Fab'、F’(ab)2、Fv、単鎖抗体、二重特異性抗体を含む)を含み、組換えペプチドは、それらが所望の生物学的活性を示す限り、前述のものを含む。化学的に誘導体化された抗体を含む、完全な分子及び/又は断片の多量体又は集合体が企図される。IgG、IgM、IgD、IgA及びIgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2を含む任意のアイソ種類クラス又はサブクラス、又は任意のアロ種類の抗体が企図される。
【0024】
本明細書で使用されるとき、「少なくとも部分的に同時に進行する」という用語は、反応の開始点を指すものではないものとする。抗原抗体複合体(antigen-antibody-complex)を構築する反応は、すべての要件が利用可能になったときにのみ開始することができる。複合体の構築は、分析物が溶解(solve)されるときにのみ開始することができる。
【0025】
イムノアッセイを実施するための試薬は、イムノアッセイユニット内に既に存在している。装置のユーザは体液試料を試料入力部に加えるだけでよい。体液試料がイムノアッセイユニットに到達すると、活性化試薬と抗分析物抗体が溶解されて、意図された緩衝液条件を生じることになる。部分的に同時に、試薬は試料の一部である細胞及び分子と反応し始める。イムノアッセイユニットの乾燥試薬は、アッセイに必要な緩衝剤成分、例えば抗分析物抗体を含む。試薬は、凍結乾燥を含むいくつかの乾燥技術を介して付着させることができる。凍結乾燥は結晶の形成を防ぎ、流体の添加時に容易に再分散される非晶質ガラス状態へと試薬を乾燥させることを可能にする。体液試料がイムノアッセイユニットに到達すると、活性化試薬及び抗分析物抗体が溶解されて、試料の一部である細胞及び分子と反応し始める。成分の貯蔵乾燥形態のために、装置、特に試薬の一般により長い耐久性が達成される。
【0026】
イムノアッセイを開始する前に、細胞の内部にある分析物が放出されなければならない。したがって、細胞を活性化する必要がある。最初の分析物が細胞外に溶解されるとすぐに、イムノアッセイは複合体の形成から始めることができる。これは、活性化及びイムノアッセイが部分的に同時に進行し、したがって両方の反応が迅速に可能になるため、有利である。
【0027】
本明細書で使用されるとき、「検出面」という用語は、抗体を結合することができ、かつ抗体抗原複合体の検出を可能にする表面を指す。典型的には、検出面は固体の均一な表面である。検出面は、検出ユニットとして検出に関わる可能性がある。あるいは、検出ユニットを、その近傍に、例えば検出面の下に配置することができ、検出面の近くに存在する抗体抗原複合体の検出を可能にする。適切な表面の例には、ガラス、金属、プラスチック、有機結晶又は無機結晶(例えばシリコン)、非晶質有機又は非晶質無機材料(例えば窒化シリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム)が含まれる。適切な表面材料及び結合化学は当業者に公知である。
【0028】
本発明の装置、システム及び方法における使用に適した検出手段は、これらに限定されないが、磁気信号、磁気抵抗、ホール効果、光信号(反射、吸収、散乱、蛍光、化学発光、RAMAN、FTIR等)のような関連信号を検出することができる検出手段である。そのような光学標識は当業者に公知であり、5-(及び6-)カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン、5-カルボキシ-2',4’,5’,7’-テトラクロロフルオレセイン及び5-カルボキシフルオレセインのようなフルオレセイン染料、5-(及び6-)カルボキシローダミン、6-カルボキシテトラメチルローダミン及び6-カルボキシローダミンXのようなローダミン染料、メチル、ニトロシル、スルホニル及びアミノフタロシアニンのようなフタロシアニン、アゾ染料、アゾメチン、シアニン及びキサンチン、例えばメチル、ニトロ、スルファノ及びアミノ誘導体、並びにスクシニルフルオレセインを含む。他の適切な標識は、TOTO、YOYO、TO-PRO、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7のようなシアニン二量体及び単量体の群からのフルオロフォアであり、あるいはLCRed705のような染料を蛍光色素として使用してもよい。
【0029】
本明細書で使用されるとき、「光源」という用語は、試料体積内に光を放射する光源を指す。光源は、例えばレーザダイオード又はLEDであってよい。
【0030】
本明細書で使用されるとき、「検出ユニット」という用語は、体液試料と相互作用した反射光、特に抗体抗原複合体によって散乱された反射光を検出する光検出器(フォト検出器)を指す。散乱光を観察することは、その量(強度)が、散乱する成分の量に比例するという利点を有する。したがって、対処しなければならない高いベースライン信号が存在しないので、最適には、少量のこれらの成分を高感度の光検出器でつかむことができる。検出ユニットは、例えばフォトダイオード、フォトレジスタ、フォトセル、CCDチップ又は光電子増倍管を含み得る。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「分析器」という用語は、検出ユニットの情報を分析するために検出ユニットに接続される評価ユニットを指す。
【0032】
好ましい実施形態において、抗分析物抗体は第1抗分析物抗体であり、複合体は第1複合体であり、イムノアッセイユニットは、検出面上に固定される第2抗分析物抗体を更に含み、該第2抗分析物抗体は、第1複合体に結合して、第1抗分析物抗体、分析物及び固定された第2抗分析物抗体を含む第2複合体を形成することができ、第2複合体の形成は、第1複合体の形成と少なくとも部分的に同時に進行する。したがって、イムノアッセイは、いわゆる「サンドイッチイムノアッセイ」で行われる。
【0033】
好ましい実施形態において、イムノアッセイユニットは緩衝試薬を更に含む。「緩衝試薬」は、一般に、例えばHepesのような緩衝試薬、BSA及び/又はBGGのようなタンパク質、塩、糖及び酵素阻害剤等のように、浸透性に配慮した溶液(osmotic friendly solution)を規定し、かつpH安定化効果を有する複数の試薬として理解され得る。したがって、細胞の活性化及びイムノアッセイの間、複数の細胞の生存性を維持することができる。これはアッセイ内における浸透性均衡条件につながる。細胞が溶解すると試料が薄まり、したがって、アッセイの結果を改ざんすることになる。
【0034】
別の好ましい実施形態において、緩衝試薬は、糖及び塩のうちの少なくとも一方の試薬を含む。緩衝試薬は、好ましくは生物学的相互作用を助け、特に平衡のとれた浸透圧を含め、細胞の生存性を維持する。異なる種類及び異なる量の糖の使用により、体液試料の浸透性条件を好ましい方法で適合させることができる。塩の使用は体液試料中の浸透性条件を決定する。塩は、正及び負の対イオンの適切な供給源である。適切な塩分含有量を調整することが重要である。さもなければ、塩分含有量を過小評価又は過大評価することにより、より多くの細胞が溶解するであろう。
【0035】
好ましい実施形態において、塩は臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム及び/又はチオシアン酸カリウム及びこれらの組合せの群から選択される。イムノアッセイにおける正の対イオンとしての使用では、溶解された形のカリウムK+が好ましい。
【0036】
好ましい実施形態において、糖は、特にデキストラン、CM-デキストラン及びこれらの組合せの群から選択される多糖である。高分子量の糖の使用は、単糖又は二糖の使用と比較して、体液試料に含まれる細胞のより良好な浸透性均衡をもたらすであろう。細胞のより良好な浸透性均衡は、それが細胞の生存性に寄与するので好ましい。
【0037】
別の好ましい実施形態において、活性化試薬は、N-ホルミル-ペプチド、好ましくはN-ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン(fMLP)及び/又はプロテインA及び/又はリポ多糖(LPS:Lipopolysaccharide)及び/又は血小板活性化因子及び/又は非メチル化CpGオリゴジヌクレオチド及び/又は腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)である。この実施形態は有利には、細胞が生存可能なままでいる間に、分析物を分泌するように、細胞、特に好中球細胞の選択的活性化を可能にする。細胞の活性化は、活性化試薬と、イムノアッセイの化合物、特に抗分析物抗体とのいかなる相互作用もなく進行する。
【0038】
別の好ましい実施形態において、分析物は、タンパク質、好ましくはリポカリン、特にヒト好中球リポカリン(HNL)である。この実施形態は有利には、細菌感染の診断を可能にする。HNLは炎症を識別するための診断マーカーである。ウイルス感染患者におけるHNLのレベルは、健常者に見られるレベルと同様である。しかしながら、細菌感染が存在すると、HNL濃度は増加する。したがって、HNLの使用を、細菌感染とウイルス感染とを区別する装置のためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0039】
好ましい実施形態において、抗分析物抗体は磁性粒子に結合される。この実施形態は有利には、イムノアッセイユニット内部の結合された抗分析物抗体の操作のために、イムノアッセイのより短い反応時間を可能にする。磁性粒子自体の磁気特性を検出目的に使用することができるので、この実施形態は更に有利である。
【0040】
検出面での磁性粒子の検出を、当技術分野において公知の任意の直接的又は間接的方法によって確実にすることができる。特定の検出方法は、GMRのような粒子の磁気特性に、あるいはFTIR(frustrated total internal reflection)を用いた検出のような磁性粒子の光学特性に基づく。
【0041】
体液試料と相互作用した反射光はしばしば、関心のある複合体によって並びに他の凝集体によって散乱された光を含むので、この実施形態は更に有利である。関心のある複合体に関連する反射光の成分を別々に決定するために、これらの複合体は磁気作動磁場(magnetic actuation field)により特定の方法で作動され、その結果、それらの反射光成分の対応する特性変調をもたらす。
【0042】
適切な磁性粒子には、完全に無機の粒子及び無機材料と有機材料との混合物である粒子、例えばポリマーが含まれる。
【0043】
本発明に係る抗分析物抗体の磁性粒子の表面への付着を、当技術分野において説明される方法によって行うことができる。磁性粒子は、ナノメートルからマイクロメートルに及ぶ様々なサイズで入手可能である。高感度アッセイで利用する磁性粒子サイズを考慮するとき、相殺効果に重みを付けることが重要である。粒子が大きいほど、結合事象当たりのシグナルは高い。さらに、大きな磁性粒子は、より大きな磁気含有量を意味し、それにより、所与の磁場に対して大きな力を加えることが可能になる。これは、粒子を集めてより速い速度で溶液中を移動させることを可能にする。一方、大きな磁性粒子は、不可逆的に集合する傾向があり、それらが表面に結合するとき、より立体的に妨げられる。加えて、より大きな粒子では検出面上の粒子の充填数が制限されるので、大きな粒子はアッセイのダイナミックレンジ及び量を減少させる。
【0044】
この実施形態は、体液試料中の分析物の検出に、いわゆる「マグノテック(Magnotech)(登録商標)」技術を使用することができるので更に有利である。この方法は、好ましくは以下の連続的なステップを含む:
1. 装置のイムノアッセイユニット内に乾燥状態で事前に保存されている可動性試薬(mobile reagent)(活性化試薬、抗分析物抗体)を、複数の細胞を含む体液試料と混合する。
2. 活性化試薬は、体液試料に含まれる複数の細胞を活性化して分析物を放出する。体液試料中のより多くの分析物は、この分析物を捕捉するより多くの抗分析物抗体、すなわちこの分析物と反応するより多くの抗分析物抗体をもたらす結果となり、抗分析物抗体及び分析物を含む複合体を形成する。
3. 可動性試薬の抗分析物抗体に結合した磁性粒子は、引力のある磁場の印加によって検出面に引き付けられる。一定数の抗分析物抗体が検出面に結合されてもよく、あるいは一定数の可動性抗分析物抗体(各々1つが磁性粒子に共有結合され得る)を、固定された抗分析物抗体に付着(attach)させて複合体(サンドイッチアッセイ)を形成する。これらの複合体の数は体液試料内の分析物の数に比例する。
4. 非結合試薬は、検出面から離れる方向に向けられた磁場の印加によって検出面から洗い流され、それに応じて結合された複合体のみが検出面上に残る。
5. 次いで、光ビームが臨界角よりも大きい角度で検出面の裏側に放射され、全内部反射(TIR:total internal reflection)を引き起こす。次いで反射光が検出される。TIRが行われる場合、同時エバネッセント場が検出面の前側の近くに自然に生成される。このエバネッセント場は、各結合複合体によって(各結合複合体の磁性粒子によって)散乱及び吸収される;対応する反射光は「減衰した(frustrated)」ものになる。結果として、減衰全内部反射(FTIR:frustrated total internal reflection)の検出は、検出面に結合された分析物/抗分析物抗体複合体の数の指示を与える。このマグノテック(登録商標)技術によれば、磁性粒子は、分析物を操作するための手段と光学検出のための標識の両方として作用することに留意されたい。
6. 次いで、アルゴリズムは、FTIR検出及び装置に記憶された所定の較正データに基づいて、体液試料内の分析物の数を評価することを可能にする。
【0045】
好ましい実施形態において、第1抗分析物抗体及び/又は第2抗分析物抗体は、モノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体の群、特に、HNLの結合に特異的な抗体の群から選択される。本発明によるモノクローナル抗体はまた、モノクローナル抗体由来のFabフラグメント、アプタマー、アフィボディ(affibodies)、scFvフラグメント及び当業者に公知の他の任意の単一エピトープ結合部位(epitope binding moiety)を含む。本発明によるポリクローナル抗体も、ポリクローナル抗体由来のFabフラグメント及び当業者に公知の可変構造を有する結合部位の任意の群を含む。
【0046】
好ましい実施形態において、体液試料は全血試料である。本明細書で使用されるとき、「全血試料」という用語は、生存可能な赤血球及び白血球並びに血漿を含む血液試料を指すものとする。この実施形態は有利には、血漿からの細胞画分の時間のかかる事前分離なしに、血液試料の高速分析を可能にする。
【0047】
好ましい実施形態では、システムは磁性粒子を制御するための磁場を更に含む。この実施形態は有利には、分析物に結合するよう、結合された抗分析物抗体を有する磁性粒子を操作することを可能にする。したがって、イムノアッセイはより早く進行することができる。
【0048】
磁場は磁気コイルとして配置されてもよい。したがって、2つの下部磁石が「馬蹄形」配置に従って検出面の下に配置されてよく、上部磁石が装置の上に配置されてよい。
【0049】
好ましい実施形態では、システムは更に、装置を受け取るための細長い開口キャビティと、データを処理及び記憶する電子回路と、金属板(約2×5cm2)によって形成され、電気抵抗を有する各端部に設けられ、かつ上部磁石のレベルで装置の上に配置される加熱素子を含んでよい。
【0050】
提案された方法によれば、複合体の形成が検出される。これは、提案された方法の一実施形態では、検出面上の標識の存在又は非存在を検出することを含んでよい。
【0051】
本発明、装置、システム又は本発明の方法の更なる改良によれば、検出される分析物は複数の細胞の内部にあり、活性化試薬又は活性化ステップは、より具体的には、細胞自体を溶解(lysing)することなく、体液試料内に含まれる複数の細胞を活性化させて複数の細胞の内部から分析物を放出させるように構成され、抗分析物抗体は、より具体的には、分析物に結合するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
本発明のこれら及び他の態様は、以下で説明される実施形態に関連して明らかになり、解明されるであろう。図面は次のとおりである:
【
図1】本発明による装置の第1の実施形態を示す図である。
【
図2】本発明によるシステム及び装置の第1の実施形態を示す図である。
【
図3】本発明による装置で進行する生化学反応の概略図である。
【
図4A】本発明による磁性粒子を用いて装置内で進行する生化学反応の概略図である。
【
図4B】本発明の一実施形態によるサンドイッチイムノアッセイにおける磁性粒子の検出の概略図である。
【
図5】本発明による装置の第2の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、本発明による装置100の第1の実施形態を示す。
図1に図示される装置100は、体液試料を受け取るための試料入力部18を含む。試料入力部18のほかに、装置100は、複数の細胞を含む体液試料のイムノアッセイを実施するためのイムノアッセイユニット20を更に含む。入力部18及びユニット20は好ましくは相互に接続されるので、体液試料、例えば血液の小滴が試料入力部18からイムノアッセイユニット20に流れることができる。
【0054】
イムノアッセイユニット20は、体液試料に含まれる複数の細胞を活性化して分析物を放出させるための活性化試薬22を含む。イムノアッセイユニット20は、抗分析物抗体24と分析物とを含む複合体を形成するよう、分析物に結合することができる抗分析物抗体24を更に含む。複合体を形成することは、複数の細胞(図示せず)を活性化することと少なくとも部分的に同時に進む。
【0055】
イムノアッセイユニット20は、検出面28を更に含む。検出面28は、好ましくは、装置100の下側に配置される。
【0056】
活性化試薬22及び抗分析物抗体24は、好ましくは乾燥形態で存在するか、あるいは分解(dissolve)される。体液試料がイムノアッセイユニット20に到達すると、試薬が溶解されることになる。これらの試薬に加えて、イムノアッセイユニット20は、好ましくは緩衝試薬を含む。緩衝試薬は、特に細胞に対して浸透性に配慮した溶液を規定し、pH値を安定化させる。
【0057】
したがって、本発明の好ましい実施形態によると、緩衝試薬は、少なくとも1つの糖及び塩の試薬を含む。塩は、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム及び/又はチオシアン酸カリウム並びにこれらの組合せの群から選択されてよい。
【0058】
イムノアッセイユニット20に体液試料が充填されるとき、その濃度は、約0~100mMの緩衝剤、0~25%(w/v)の糖であってよく、典型的には約25~75mMの緩衝剤及び1~7.5%(w/v)の糖という濃度であってよい。これらの試薬のほかに、緩衝試薬は、細胞の安定性を高めるために、0~10%の範囲、典型的には1~7.5%の濃度の担体タンパク質を含むことが好ましい。
【0059】
特定の実施形態では、緩衝剤はリン酸緩衝液であり、糖はスクロース及び/又は多糖類(デキストラン、CM-デキストラン及びこれらの組合せの群から)であり、担体タンパク質はウシ血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)である。なお、MES、Bis-Tris、ADA、Aces、PIPES、MOPSO、Bis-Tris Prpan、BES、TES、HEPES、DIPSO、MOBS、TAPSO、Trizma、HEPPSO、POPSO、TEA、EPPS、Tricine、Gly-Gly Bicinie、HEPBS、TAPS、AMPD、TABS又はAMPSOのような他の生物学的緩衝剤も使用することができる。
【0060】
ある実施形態によれば、イムノアッセイユニット20の体積は0.1~5μlの間、より具体的には0.5~2μlの間、例えば1μlである。
【0061】
イムノアッセイユニット20は1つのチャンバ内に限定されないことが好ましい。好ましい実施形態では、装置100は、同じ又は異なる分析物の2以上のイムノアッセイを並行して実行するために2つ以上のイムノアッセイユニットを含む。この実施形態では、試料は、異なるイムノアッセイユニットに広げられる。
【0062】
好ましい実施形態において、活性化試薬22は、N-ホルミル-ペプチド、より好ましくは、トリペプチドfMLPとすることができる。また、好ましくはプロテインAの使用が想定される。本発明は更に、リポ多糖(LPS)、血小板活性化因子、非メチル化CpGオリゴジヌクレオチド又は腫瘍壊死因子(TNF)等のような追加の代替的な好中球活性剤の使用を想定する。これらの活性剤は、単独又は任意の組合せで使用されてよく、例えばfMLP及び/又はプロテインA及び/又はリポ多糖(LPS)及び/又は血小板活性化因子及び/又は非メチル化CpGオリゴジヌクレオチド及び/又は腫瘍壊死因子(TNF)の形態で、例えばタンパク質Aと組み合わせたfMLP、LPSと組み合わせたfMLP、血小板活性化因子と組み合わせたfMLP、非メチル化CpGオリゴジヌクレオチドと組み合わせたfMLP又はTNFと組み合わせたもの等であってもよい。また、LPSと組み合わせたプロテインA、血小板活性化因子と組み合わせたプロテインA、非メチル化CpGオリゴジヌクレオチドと組み合わせたプロテインA又はTNFとの組み合わせたもの;あるいは上述の他の活性剤のいずれかと組み合わせたLPS;あるいは上述の他の活性剤のいずれかと組み合わせた非メチル化CpGオリゴジヌクレオチド;あるいは上述の他の活性剤のいずれかと組み合わせたTNFのような、活性剤の更なる組合せも更に想定される。好ましい実施形態では、活性剤はfMLPであるか、あるいはfMLPと上述の他の活性剤の1つ以上との組合せである。
【0063】
本発明の更なる実施形態では、分析物12はタンパク質であってよく、好ましくはリポカリン、特にヒト好中球リポカリン(HNL)であってよい。
【0064】
好ましい実施形態では、抗分析物抗体24は、モノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体、特にHNLを結合するために特異的な抗体の群から選択される。
【0065】
装置100は、好ましくは使い捨てカートリッジである。カートリッジ100は、試料に対して実行される検出と互換性のあるものであれば、任意の種類の材料で作成されてよい。好ましい材料は、特に、そのような装置100の使い捨て可能性及び/又は製造中のコストの観点から、射出成形によるガラス又は(透明な)プラスチックである。装置100の主な機能は、分析物を検出するためにイムノアッセイを行うことができる入口を提供することである。
【0066】
図2は、本発明によるシステム200及び装置100の第1の実施形態を図示している。
図1に示される装置100の第1の実施形態の要素に加えて、システム200の第1の実施形態は、光源36、検出ユニット38及び分析器40を備える。
【0067】
光源36は、装置100のイムノアッセイユニット20の検出面28に光を投射する。光線は、分子、好ましくは抗体抗原複合体に当たって、後者によって散乱及び/又は反射されて、最終的に検出ユニット38によって検出される。光源36は、例えばレーザダイオード又はLEDであってよい。
【0068】
好ましい実施形態では、光源36は、検出面28に向かって光を放射し、そこで全内部反射されて反射光となる。イムノアッセイユニット20内の分子、特に抗体抗原複合体は、検出ユニット38の助けで検出することができる減衰全内部反射(FTIR:frustrated total internal reflection)をもたらす。この検出器38の測定信号は分析器40によって評価されて分析される。
【0069】
検出ユニット38は、イムノアッセイユニット20の検出面28から反射光を受け取る。検出ユニット38は、例えばフォトダイオード、フォトレジスタ、フォトセル、CCDチップ又は光電子増倍管を含んでよい。
【0070】
分析器40は、検出ユニット38による反射光を分析する。したがって、分析器40は、複数の細胞16を含む体液試料14内の分析物12の存在及び非存在並びに濃度を決定する。好ましい実施形態では、体液試料14は全血試料である。
【0071】
好ましい実施形態では、全体的にプラスチック成分から構成されるカートリッジ100は、使い捨て可能である。それは、例えば電磁石や読み出しディスプレイ等の光検出システム、制御電子機器、ソフトウェアを含むシステム200をハンドヘルドユニットにプラグインする。
【0072】
更に好ましい実施形態では、カートリッジ100は、少ない試料体積に対して迅速かつロバストで使いやすいポイントオブケア・イムノアッセイとして使用されてよい。この場合、分析は、ベッドサイドで直接又は医師のオフィスで、あるいは家でも行うことができる。そのようなポイントオブケア検査は、迅速な総アッセイ時間(試料入力、典型的な総アッセイ時間で10分未満の結果出力)を有する必要がある。
【0073】
装置100を更に、自動化された高スループット検査に使用することができる。この場合、装置は、例えばウェルプレート又はキュベットであり、自動化された機器に適合する。
【0074】
図3は、本発明による装置100における生化学反応の概略図を示している。液滴は、複数の細胞16を含む体液試料14を表している。細胞はやはり分析物12を含む。細胞のほかに、試料、例えば全血試料は血漿(図示せず)を含む。
【0075】
使い捨てカートリッジ100でイムノアッセイを行うとき、複数の処理ステップ:例えば試薬の充電と再分散、細胞16の活性化、抗分析物抗体24への結合及び検出を行わなければならない。カートリッジ100(試料入力部18及びイムノアッセイユニット20)の充填には最大1分かかる可能性がある。また、試薬の再分散とインキュベーション(incubation)は、典型的に1~2分かかる。(速度制限(rate-limit)段階と考えられる)イムノアッセイ反応を開始する前に、アッセイ時間の半分の時間と同じ程度の時間が既に費される可能性がある。異なる身体からの体液試料14の差異のために、充填時間は、カートリッジ及び体液試料14ごとに異なるであろう。イムノアッセイユニット20で使用される試薬が乾燥形態で提供される場合、活性化試薬22による細胞16の活性化は、活性化試薬22が体液試料14と接触してすぐに再分散するときに開始する。活性化は、例えば細胞の外部の特異的受容体で結合することにより進行し、したがって細胞の内部の化学カスケード反応を活性化して分析物12を放出させることができる。放出の後、細胞は依然として活性で生存可能であり、溶解されていない。活性化ステップは、複合体26を形成するために、次のステップで抗分析物抗体24に結合することができる分析物12の量を決定するので重要である。したがって、活性化ステップは複合体26として結合する総量を決定する。
【0076】
好ましい実施形態では、体液試料は全血であり、活性化試薬はfMLPであり、分析物はHNLであり、抗体は、HNLに対して免疫特異性の抗HNL抗体とすることができる。この実施形態によると、活性化試薬fMLPは、好中球によるHNLの放出を刺激し、抗体との血液細胞の非特異的相互作用を妨げる。一定のインキュベート時間の後、HNLを特異的に認識する抗体を用いて、最初に存在する量及び放出されたHNLを検出する。活性化後に体液試料内に存在する抗分析物抗体と分析物との間で形成された複合体の検出は、ラジオイムノアッセイ(RIA:radioimmunoassay)及び酵素結合免疫吸着法(ELISA)のような様々な公知の技術によって達成され得る。
【0077】
適切なアッセイ法は、当技術分野で周知であり、科学文献及び特許文献(Harlow及びLane、1988年)に詳細に記載されている。使用され得るアッセイ法は、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法(米国特許第4,376,110号);モノクローナル-ポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ(Wide L.著“Solid Phase Antigen- Antibody Systems”、Radioimmunoassay Methods:European Workshop 1970年9月15-17日、Edinburgh, Kirkham及びHunter編(Churchill Livingston, Edenburgh(1971年)pp.405-412);「ウェスタンブロット」法(米国特許第4,452,901号明細書);標識化リガンドの免疫沈降法(Brown等著、J. Biol. Chem. 4980- 4983m 1980年);酵素結合免疫吸着法;蛍光色素の使用を含む免疫細胞化学法(Brooks等著、CHn. Exp. Immunol, 39: 477、1980年);活性化の中和(Bowen-Pope等著、Science, 226:701-703、1984年)を含むが、これらに限定されない。他のイムノアッセイは、米国特許第3,850,752号、米国特許第3,901,654号、米国特許第3,935,074号、米国特許第3,984,533号、米国特許第3,996,345号、米国特許第4,034,074号及び米国特許第4,098,876号に説明されるものを含むが、これらに限定されない。
【0078】
検出目的のために、抗分析物抗体を標識することも非標識化することもできる。非標識化抗体が、凝集アッセイで使用されてもよく、あるいは免疫複合体に結合する標識化検出試薬(例えば分析物に特異的に結合する抗体に結合することができる、抗免疫グロブリン、プロテインG、プロテインA又はレクチン及び二次抗体、あるいはそれらの抗原結合フラグメント)との組合せで使用されてもよい。抗分析物抗体が標識化される場合、レポーター基(reporter group)は、放射性同位体、蛍光基(例えばフルオレセイン又はローダミン)、発光基、酵素、ビオチン及び染料粒子を含む、当技術分野で公知の任意の適切なレポーター基であってよい。それ自体直接的に検出可能な標識は、蛍光又は発光染料、金属又は金属キレート、電気化学的標識、放射性核種(例えば32P、14C、1251、3H又は1311)、磁気標識又はビーズ(例えばDYNABEADS)、常磁性標識、比色標識(金コロイド、着色ガラス又はプラスチックビーズ等)。そのような検出可能な標識は、抗分析物抗体又は検出試薬に直接複合(conjugate)されてよく、あるいは抗分析物抗体に付着されるビーズ又は粒子と結合されてもよい。標識化された特異的結合パートナーの結合を通して検出可能な標識は、ビオチン、ジゴキシゲニン、マルトース、オリゴヒスチジン、2,4-ジニトロベンゼン、ヒ酸フェニル(phenyl arsenate)、ssDNA又はdsDNAを含む。検出可能な反応生成物の生成によって間接的に検出され得る間接的標識は、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ又は他の糖類オキシダーゼ(saccharide oxidase)等のような当技術分野で周知の種々の酵素、あるいは適切な基質を切断して、着色又は蛍光反応生成物を形成するルシフェラーゼを含む。
【0079】
図4Aは、本発明による磁性粒子34を用いて装置100内で進行する生化学反応の概略図を示している。この実施形態では、第1抗分析物抗体24は磁性粒子34に結合され、一方、第2抗分析物抗体30は検出面28に固定される。検出面は、抗体を付着することができる当業者に公知の任意の物質のような固体支持体とすることができる。
【0080】
細胞16を活性化して分析物12を放出した後、分析物12を第1複合体26に結合することができる。第1複合体26の形成と少なくとも部分的に同時に、第2抗分析物抗体30を第1複合体26に結合して第2複合体32を形成することによって、第2複合体32を形成することができる。
【0081】
抗分析物抗体は、特許文献及び化学文献に十分に記載されている当業者に公知の様々な技術を使用して、固体支持体上に固定することができる。本発明の文脈において、「固定(immobilization)」という用語は、吸収のような非共有結合と、共有結合(抗原と支持体上の官能基との間の直接結合とすることも、架橋剤による結合とすることもできる)の双方を指す。
【0082】
直径が約50~2000nm、特に約250~750nm、より具体的には400~600nm、例えば500nmの磁性粒子を、本発明で説明されるイムノアッセイに使用する。これは、結合された抗分析物抗体24をイムノアッセイユニット20の内部で操作するために有利である。したがって、第1複合体26及び第2複合体32を形成するための結合ステップはより速く進むことができる。任意選択で、粒子の磁気特性を検出に使用することもできる。
【0083】
したがって、磁性粒子の検出は、(例えばFTIRで測定されるような)粒子自体のサイズのような光学的性質に基づくか、あるいは発色団を磁性粒子(例えば磁性材料を含む蛍光ポリスチレン粒子)を加えることによるものであってよい。
【0084】
図4Bは、本発明の実施形態による、サンドイッチイムノアッセイにおける磁性粒子の検出の概略図を示している。そのような実施形態は、典型的には、光を放射する光源36と、反射光を検出及び測定するための光検出器38と、検出ユニット38の情報を評価するために検出ユニット38に接続される分析ユニット40を備える。典型的に装置100内に配置され、かつガラス又は透明なプラスチックから作られる検出面28を含むイムノアッセイユニット20へ、光が放射されている。さらに、イムノアッセイユニット20は、検査される体液試料14と、分析物12を検出するための第1抗分析物抗体24で官能化され、かつ磁場42によって磁気的に作動させることができる磁性粒子34とを含む。イムノアッセイを実行した後に、検出面28における磁性粒子34の存在は、光ビームの全内部反射を「減衰(frustrate)」させ、その結果、反射光は、イムノアッセイユニットの検出面の近く又はその上に位置する磁性粒子34の数に比例して減少する。
【0085】
好ましい実施形態では、使い捨てカートリッジ100は、体液試料14、例えば全血の単一液滴から自己充填する。一旦充填されると、他の流体の動きは必要とされない。イムノアッセイユニット20内のイムノアッセイプロセス全体は、イムノアッセイユニット20内の第1抗分析物抗体24に結合された磁性粒子34の移動を制御するために磁場42を外部的に印加することによって行われる。カートリッジ100が体液試料14、例えば全血で充填されると、磁性粒子34は、その製造中にイムノアッセイユニット20に前投与(preload)され、体液試料14内へ自動的に分散する。細胞16が分析物12を放出した後、磁性粒子34に結合された第1抗分析物抗体24は、体液試料14内の標的分子12に結合し、第1複合体26を構築する。短い時間の後、好ましくは約1分後、分析物12の大部分が最終的に第1複合体26として結合されることになる。
【0086】
次に、システム200内の装置100の下に置かれた電磁石が、すべての磁性粒子34を検出面28に引き付ける磁場を発生させる。検出面28は、第2抗分析物抗体30で被覆され、第2抗分析物抗体30は、分析物12上の第2結合部位と結合して第2複合体32を構築することができる。この磁気的引力の結果として、分析物12の表面濃度は著しく増加し、それは結合プロセスをスピードアップさせる。分析物12は最終的に、第2複合体32として、第1抗分析物抗体24と第2抗分析物抗体30との間に「サンドイッチ」で結合される。
【0087】
イムノアッセイユニット20の上に置かれた電磁石(図示せず)は、次いで、未結合磁性粒子を検出面28から引き離す磁場を発生させる。このようにして、結合磁性粒子と未結合磁性粒子との間の非常に速く正確に制御された分離が達成され、これは洗浄ステップを置き換えることができる。面28上に残った各磁性粒子はそこで分析物12により結合されるので、面28に残っている磁性粒子34の数は体液試料14中の標的分子12の濃度の尺度である。
【0088】
最終段階において、結合された第2複合体32の数が、例えば減衰全内部反射に基づく光学的技法を用いて測定される。正しい角度で照らされて、検出面28の下側に当たる光源36からの光は、通常、強度の損失なしに反射される。しかしながら、磁性粒子が検出面に結合されると、それらは光を散乱及び吸収し、反射光の強度を減少させる。結合された磁性粒子34の数に対応する反射光におけるこれらの強度の変化は、検出ユニット38によって、好ましくはCMOSイメージセンサによって検出される。最後に、分析器40は反射光を分析し、体液試料14中の分析物12の量を計算する。
【0089】
好ましい実施形態では、分析器40は読み出しディスプレイに結合され、それによりユーザはアッセイの結果を読み出すことができる(図示せず)。
【0090】
分析物と磁性粒子に結合した抗分析物抗体との複合体の検出は当技術分野において周知である。例えば特許文献1及び特許文献2を参照されたい。これらの開示は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0091】
図4Bは、「サンドイッチイムノアッセイ」の概略図を示す。したがって、2つの抗分析物抗体が必要とされる。好ましい実施形態(図示せず)では、抗体結合、したがって第1複合体内で結合された分析物は、第1抗分析物抗体上の標識によって検出される。更なる実施形態では、第2抗分析物抗体が標識化される。
【0092】
イムノアッセイで結合を検出するための多くの手段が当技術分野において公知であり、それらは本発明の範囲内にある。抗体:Harlow & LaneによるA Laboratory Manua”(1988年)又はより最近の版;イムノアッセイ:A Practical Approach, Oxford University Press, Gosling, J. P. (ed.)(2001年)又はより最近の版;及び/又は定期的に更新されているCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel等)。そのようなアッセイの例は通常、表面又はマトリックスに付着される抗体、添加される体液試料及び第1複合体を形成するために許容される時間に関与し、第1複合体の形成に続いて、第1複合体に結合される第2抗分析物抗体の第2複合体を形成し、複合体(サンドイッチELISA)の検出又は抗体表面上の遊離分析物結合部位を検出する分析物の検出可能なバージョン(競合ELISA)を許容する。
【0093】
分析物がHNLである場合、上記の方法によって検出される、ある閾値を超える分析物のレベルは、炎症性疾患の存在と相関され、その閾値未満のレベルは、患者が炎症性疾患である可能性が低いことを示す。HNLレベルが正常範囲内にあるとき、患者が細菌感染症である可能性は低い。HNLレベルが正常範囲を超えるとき、患者が細菌性疾患を患っている可能性は高い。
【0094】
図5は、本発明による装置100の第2の実施形態を示す。
図1に図示される装置100の第1の実施形態の要素に加えて、装置100の第2の実施形態は、RFIDタグ44、分離膜46、ベース48、ラミネートフォイル50及びカバー52を備える。
【0095】
RFIDタグ44は、較正データ、有効期限データ、検査の種類といったデータを格納し、かつシステム内に備えられるリーダにデータを送信するための受動RFID構成要素(アンテナ及び読み出し/書き込みRFIDタグ)を含んでよく、RFID構成要素は、ラミネートフォイル50とカバー52との間に封止される。
【0096】
分離膜46は体液試料の妨害化合物を分離するためのフィルタ膜として作用することができる。これはカバー52とフォイル50/ベース48との間に熱封止(heat-sealed)される。
【0097】
体液試料がその中で完全に毛管駆動(capillary driven)されるベース48は以下を備える:フィルタサポート54;体液試料のイムノアッセイを実施するための2つのイムノアッセイユニット20。イムノアッセイユニット20は、検出面28を含み、任意選択で、固定化された第2抗分析物抗体30がその上に結合されている;フィルタサポート54とイムノアッセイユニット20との間のマイクロ流体路56;体液試料からの気泡を排出するための空気抜き装置;イムノアッセイユニット20の背面上に:透明光学プリズム(図示せず);RFIDタグ44とベース48との間に配置されるポリマー製のラミネートフォイル50;ここで、イムノアッセイユニット20に面しているフォイルの部分には試薬(活性化試薬、抗分析物抗体を含む)が付着されており;フォイル50は片面接着剤層によりベース48に取り付けられている;装置100を取り扱うための剛性カバー52があり、剛性カバー52はRFIDタグ44を覆い、剛性カバー52には試料入力部18を覆うためのヒンジトッププレート(フィルタ46を介してベース48まで体液試料経路を形成するように剛性カバー52、RFIDタグ44及びフォイル50を貫通して設けられる穴である)が設けられている。
【0098】
実施例1:細菌又はウイルス感染症の患者及び健康な患者からの全血試料中のHNLの検出
【0099】
本発明による全血試料中のHNLの例示的な検出は、FTIRに基づく検出を使用して、マグノテックバイオセンサーシステム上で行われる。このシステムは、ハンドヘルド分析機器及び使い捨ての内蔵型カートリッジで構成される。HNLの検出に必要なすべてのアッセイ試薬はカートリッジに入っている。試料の小滴が適用されると、試料は毛管力によって自動的にカートリッジ内に引き込まれる。そこでは、活性化試薬fMLP(N-ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン)は、好中球によるHNLの放出を刺激する。その後、抗HNL抗体で官能化された磁性ナノ粒子はHNLに結合し、検出のための標識として働く。磁力を使用して磁性粒子を検出面に運び、磁性粒子はまた、第1複合体としての分析物が結合することができる抗HNL抗体でも官能化される。磁性粒子の磁気作動は、2つの磁石、例えば上方の磁石(洗浄用磁石)と下方の磁石(結合用磁石)の交互の作用(alternate action)により起こる。光は、臨界角よりわずかに浅い角度でカートリッジの表面に投射され、カメラセンサで撮像される反射を引き起こす。粒子が検出面に結合すると、光の一部が反射及び散乱され、その結果、磁性粒子が存在しない場合の測定値と比較して強度が低下する。
【0100】
磁性粒子は500nmの直径を有し、モノクローナル抗N-HNL抗体で官能化され、検出面はモノクローナル抗C-末端HNL-抗体で官能化された。
【0101】
全血試料はカートリッジに加えられた。試料がカートリッジに引き込まれた直後に作動が開始され、白血球が活性化されて分析物を放出した。8分後、分析物は、検出面上で両方の抗体に「サンドイッチ」で結合された第2複合体として検出される。検出面への磁性粒子の結合から生じるシグナル変化は、HNLの量に比例する。
【0102】
fMLPによる好中球活性化後の全血中のHNLの濃度は、健常対照からの血液及びウイルス感染を有する患者からの血液とは対照的に、細菌感染を有する患者から取得した血液中では増加する。
【0103】
本発明は、図面及び前述の説明において詳細に図示され説明されているが、そのような図示及び説明は、説明的又は例示的であって制限的ではないとみなされるべきであり、本発明は、開示される実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する他の変更は、図面、本開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求に係る発明を実施する際に当業者によって理解され、達成され得る。
【0104】
特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という語は他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。単一の要素又は他のユニットが、特許請求の範囲に記載された幾つかの項目の機能を果たすことがある。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを有利に使用することができないことを示すものではない。
【0105】
特許請求の範囲内のいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。