(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】PCSK9のインヒビターの投与によりアテローム性動脈硬化を阻害する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220728BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/397 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/4418 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20220728BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220728BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220728BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220728BHJP
C07K 16/40 20060101ALN20220728BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K31/192
A61K31/202
A61K31/22
A61K31/366
A61K31/397
A61K31/40
A61K31/404
A61K31/4418
A61K31/455
A61K31/47
A61K31/505
A61K31/575
A61K45/00
A61P9/10 101
A61P43/00 111
C07K16/40
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019033436
(22)【出願日】2019-02-27
(62)【分割の表示】P 2016518018の分割
【原出願日】2014-06-06
【審査請求日】2019-02-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-08
(32)【優先日】2013-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2014-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】515337475
【氏名又は名称】サノフィ・バイオテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ジェイ・サシーラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクトリア・グサロヴァ
(72)【発明者】
【氏名】アヌッシュ・ペイマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ルートヴィヒ・シェーファー
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・シュヴァン
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】森井 隆信
【審判官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/101252(WO,A2)
【文献】特表2012-511913(JP,A)
【文献】Atherosclerosis,2013 May,Vol.228,No.1,pp.18-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/395
A61K45/00
A61P9/10
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アテローム性動脈硬化症を有する対象における、アテローム硬化型病変の数、総領域、
または重症
度の増加の阻害に使用するための、PCSK9に特異的に結合する抗体または抗原結合タンパク質を含む医薬組成物であって、前記抗体または抗原結合タンパク質は配列番号2、3、4、7、8、および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含
み、
前記対象は、高心血管(CV)リスクを有し、そして
前記対象は、スタチンまたは非スタチン脂質低減剤をうける、
前記医薬組成物。
【請求項2】
対象のアテローム硬化型病変の数の増加の阻害に使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
対象のアテローム硬化型病変の総領域の増加の阻害に使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
対象のアテローム硬化型病変の重症度の増加の阻害に使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
対象におけるアテローム硬化型病変の数、総領域、
および重症
度の増加の阻害に使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
対象は、I型真性糖尿病、II型真性糖尿病、川崎病、慢性炎症性疾患
、高血圧症
、ヘテロ接合性の家族性高コレステロール血症(heFH)
、または家族性高コレステロール血症ではない高コレステロール血症(nonFH)の形態
にも罹っている、請求項1~
5
のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
対象は炎症マーカーのレベルが上昇している、請求項1~
6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
炎症マーカーはC反応性タンパク質または炎症性サイトカインである、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号6のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
抗体または抗原結合タンパク質は、対象におけるアテローム硬化型病変の数、総領域、
または重症
度の増加を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%阻害する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
非スタチン脂質低減剤はエゼチミブ、フィブラート、ナイアシン、オメガ-3脂肪酸、および胆汁酸レジンからなる群から選択される、請求項
1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
スタチンは、セリバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチンおよびプラバスタチンからなる群から選択される、請求項
1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
抗体または抗原結合タンパク質は皮下に投与される、請求項1~
13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2013年6月7日に出願された米国仮出願第61/832,459号;2013年6月7日に出願された欧州特許出願第13305762.0号;2013年10月17日に出願された米国仮出願第61/892,215号;2013年10月18日に出願された欧州特許出願第13306436.0号;2014年2月26日に出願された米国仮出願第61/944,855号;および2014年5月23日に出願された米国仮出願第62/002,508号の利益を主張する。上記の出願のそれぞれの内容は、参照によって本明細書にそれらの全体が組み入れられる。
【0002】
本発明は、アテローム性動脈硬化症のための治療的処置の分野に関する。より具体的には、本発明は、対象におけるアテローム硬化型プラーク形成を阻害する、プロタンパク質コンバターゼ サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)インヒビターの投与に関する。
【背景技術】
【0003】
アテローム性動脈硬化症は、西洋世界における主要な死因および心血管罹病率を代表している。アテローム性動脈硬化症のリスク因子には、高い低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールレベル、低い高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル、高血圧症、真性糖尿病、家族歴、男性の性別、タバコの煙、および高い血清コレステロールが含まれる。
【0004】
プロタンパク質コンバターゼ サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)は、分泌性サブチラーゼファミリーのプロテイナーゼKサブファミリーに属するプロタンパク質コンバターゼである。タンパク質コンバターゼ サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)は、LDL代謝に関与し、肝臓、腎臓、および腸において主に発現されるセリンプロテアーゼである。PCSK9が、循環からのLDLクリアランスの主経路である肝臓におけるLDLエンドサイトーシスを媒介している、LDL受容体の分解を促進することにより、血漿LDLコレステロールを増加させることを証拠は示唆している。
【0005】
血清総コレステロール、LDLコレステロールおよび血清トリグリセリドを減少させるためのPCSK9インヒビター(抗PCSK9抗体)の使用は、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に記載されている。それにもかかわらず、PCSK9インヒビターが、対象におけるアテローム硬化型プラーク形成の進行を減少または阻害することは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8,062,640号
【文献】米国特許第8,357,371号
【文献】米国特許出願公開第2013/0064834号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当技術分野においてアテローム硬化型プラーク形成を阻害する治療方法に関する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、対象におけるアテローム硬化型プラーク形成を阻害するための方法および組成物を提供することによって治療的方法のための当技術分野における必要性に対処する。ある態様において、本発明の方法および組成物は、アテローム性動脈硬化症を有するまたは発症するリスクのある対象を選択すること、および対象にプロタンパク質コンバターゼ
サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)インヒビター(例えば、抗PCSK9抗体または抗原結合タンパク質)を含む医薬組成物を投与することを一般的に含む。他の態様において、本発明は、対象におけるアテローム硬化型プラーク形成の阻害における使用のための、PCSK9インヒビターを含む医薬組成物を提供する。さらに他の態様において、本発明は、対象にPCSK9インヒビターを含む医薬組成物を投与することにより、対象におけるアテローム硬化型プラーク形成を阻害する方法を提供する。
【0009】
ある実施形態において、対象は非高脂血症性である。他の実施形態において、対象は見かけ上健康である。
【0010】
別の態様において、本発明は、対象におけるアテローム性動脈硬化症を処置するまたはその進行を阻害する方法であって:(a)卒中または心筋梗塞を患っている対象を選択すること;および(b)対象にPCSK9インヒビターを含む医薬組成物を投与し、それによりアテローム性動脈硬化症を処置するまたはその進行を阻害することを含む方法を提供する。一実施形態において、対象は非高脂血症性である。
【0011】
別の態様において、本発明は、卒中または心筋梗塞を患っている対象における、アテローム性動脈硬化症の処置またはその進行の阻害に使用するための、PCSK9インヒビターを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、非高脂血症性の対象におけるアテローム性動脈硬化症を処置するまたはその進行を阻害する方法であって:(a)アテローム性動脈硬化症を有するまたは発症するリスクがあることが知られている、非高脂血症性である対象を選択すること;および(b)対象にPCSK9インヒビターを含む医薬組成物を投与し、それによりアテローム性動脈硬化症を処置するまたはその進行を阻害することを含む方法を提供する。一実施形態において、対象は見かけ上健康である。別の実施形態において、対象は非高コレステロール血症性である。別の実施形態において、対象は非高トリグリセリド血症性である。
【0013】
別の態様において、本発明は、アテローム性動脈硬化症を有するまたは発症するリスクがあることが知られている非高脂血症性の対象における、アテローム性動脈硬化症の処置またはその進行の阻害に使用するための、PCSK9インヒビターを含む医薬組成物を提供する。
【0014】
ある実施形態において、対象は、I型真性糖尿病、II型真性糖尿病、川崎病、慢性炎症性疾患、および高血圧症からなる群から選択される疾患または障害を有する。別の実施形態において、対象は、炎症マーカーのレベルが上昇している。さらなる実施形態において、炎症マーカーは、C反応性タンパク質である。別のさらなる実施形態において、炎症マーカーは、炎症性サイトカインである。
【0015】
ある例示的な実施形態において、PCSK9インヒビターは、PCSK9に特異的に結合する抗体または抗原結合タンパク質である。他の実施形態において、抗体は、配列番号12、13、14、16、17、および18を有する、重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む。ある実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号11のア
ミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号15のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。ある実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号2、3、4、7、8、および10を有する、重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む。ある実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号6のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。一実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、それぞれ、配列番号1および6;または11および15に記載の重鎖および軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗体と同じPCSK9上のエピトープに結合する。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、それぞれ、配列番号1および6;または11および15に記載の重鎖および軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗体と、PCSK9との結合について競合する。
【0016】
別の実施形態において、PCSK9インヒビターは、対象におけるアテローム硬化型プラーク形成を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%減少させる。
【0017】
いくつかの実施形態において、対象は、ヘテロ接合性の家族性高コレステロール血症(heFH)を有する。他の実施形態において、対象は、家族性高コレステロール血症ではない高コレステロール血症(nonFH)の形態を有する。
【0018】
ある実施形態において、対象は、抗体または抗原結合タンパク質の投与の前および/または間に別の脂質修飾剤(lipid-modifying agent)をうける。治療的脂質修飾剤は、スタチン、コレステロール取込インヒビター、エゼチミブ、フィブラート、ナイアシン、オメガ-3脂肪酸、および胆汁酸レジンを含む。スタチンは、セリバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチンおよびプラバスタチンを含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、皮下に投与される。
【0020】
本発明はまた、PCSK9インヒビターの医薬組成物を含む単位剤形を提供する。ある実施形態において、PCSK9インヒビターは抗体または抗原結合性フラグメントであり、単位剤形は75mg、150mg、200mg、または300mgの抗体または抗原結合性フラグメントを含む。単位剤形は、プレフィルドシリンジ、プレフィルド自動注射器、バイアル、カートリッジ、再使用可能シリンジ、または再使用可能自動注射器であってもよい;単位剤形は密閉され、さらに用量を示してもよい。
【0021】
本発明はまた、PCSK9インヒビターの医薬組成物および容器を含み、いくつかの実施形態において、使用のための指示書も含む、製品またはキットを提供する。
【0022】
本発明はまた、(a)対象におけるアテローム硬化型プラーク形成の阻害;(b)卒中または心筋梗塞を患っている対象における、アテローム性動脈硬化症の処置またはその進行の阻害;または(c)アテローム性動脈硬化症を有するまたは発症するリスクがあることが知られている非高脂血症性の対象における、アテローム性動脈硬化症の処置またはその進行の阻害のための医薬の製造におけるPCSK9インヒビターを含む組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1A-Dは、18週の処置期間後、いくつかのパラメータにおける、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果を示す一連のグラフを示す図である。
図1Aは平均血漿総コレステロールにおける効果を示す図である;
図1Bはトリグリセリドレベルにおける効果を示す図である。
図1Cおよび1Dは、処置の12週後、FPLCリポタンパク質分離し、mAb316P単独(
図1C)およびアトルバスタチンとの組合せ(
図1D)の効果を試験することによって評価されるような、コレステロールに関するリポタンパク質プロファイルを示す図である。対照と比較して***P<0.0045;アトルバスタチンと比較して†††P<0.0045;3mg/kg mAb316Pと10mg/kg mAb316Pを比較して‡‡‡P<0.0045(群当りn=15)。
【
図2】
図2Aは、肝臓低密度リポタンパク質受容体タンパク質レベルにおける、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果のグラフを示す図である。対照と比較して***P<0.0045;アトルバスタチンと比較して†P<0.05;††P<0.01;†††P<0.0045;3mg/kg mAb316Pと10mg/kg mAb316Pを比較して‡P<0.05(群当りn=8)。
図2Bは、非HDLコレステロールレベルにおける、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果のグラフを示す図である。対照と比較して***P<0.001;アトルバスタチンと比較して#P<0.05;##P<0.01;###P<0.001。
【
図3】
図3A-Fは、プラーク形態における、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果を示す一連の写真の図である。それぞれ、処置の18週後、対照(
図3A)、3mg/kg mAb316P(
図3B)、10mg/kg mAb316P(
図3C)、アトルバスタチン(
図3D)、3mg/kg mAb316P+アトルバスタチン(
図3E)および10mg/kg mAb316P+アトルバスタチン(
図3F)群についての大動脈起始部領域のクロスセクションにおける、ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン-染色したアテローム硬化型病変の代表的なイメージ。
【
図4】
図4A-Dは、大動脈起始部および大動脈弓のアテローム性動脈硬化症発生における、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果を示す一連のグラフを示す図である。処置の18週後、クロスセクションあたりの総病変領域(
図4A)および病変の数(
図4B)を評価した。病変重症度を評価し、病変なし、軽度(タイプI-III)および重篤(タイプIV-V)病変に分類した(
図4C)。大動脈弓における総プラーク量(
図4D)を、オイル-レッドO染色後に分析した。データは、染色された領域のパーセンテージとして表される。対照と比較して*P<0.05;***P<0.0045;アトルバスタチンと比較して†P<0.05;††P<0.01;†††P<0.0045;3mg/kg mAb316Pと10mg/kg mAb316Pを比較して‡P<0.05;‡‡P<0.01;‡‡‡P<0.0045(起始部領域において群当りn=8および大動脈弓においてn=6~7)。
【
図5】
図5は、平均血漿総コレステロールとアテローム硬化型病変領域の間の相関性を示すグラフの図である。病変領域の平方根を、平均総コレステロールに対してプロットした。直線回帰分析を行った。
【
図6】
図6は、病変組成における、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果を示す一連の写真の図である。対照ならびにmAb316P単独およびアトルバスタチンとの組合せでの処置の18週後についての、マクロファージのMac-3での免疫染色、続いて平滑筋細胞(SMC)のコラーゲンおよびアルファアクチンのシリウスレッド染色の代表的なイメージ。
【
図7-1】7A-Cは、病変組成における、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果を示す一連のグラフの図である。マクロファージ量(
図7A左)および壊死量(
図7A右)を、不安定化因子としてのコレステロール性裂ならびに安定化因子としてのSMC量(
図7B左)およびコラーゲン量(
図7B右)を含めて、病変サイズに関して是正後に重篤(タイプIV-V)な病変において決定した。対照と比較して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001;アトルバスタチンと比較して#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001。プラーク安定性指標を、安定化因子と不安定化因子の比として計算した(
図7C)。対照と比較して*P<0.05、***P<0.0045;アトルバスタチンと比較して†P<0.05、†††P<0.0045;3mg/kg mAb316Pを10mg/kg mAb316Pと比較して‡P<0.05(群当りn=15)。
【
図8】
図8A-Cは、血管炎症のマーカーにおける、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せの効果を示す一連のグラフの図である。内皮に接着している単球の数(
図8A)および大動脈起始部領域におけるT細胞の数(
図8B)を、クロスセクションあたり決定した。加えて、細胞接着分子1(ICAM-1)を、染色された領域のパーセンテージとして決定した(
図8C)。代表的なイメージを含ませた。対照と比較して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.0045;アトルバスタチンと比較して†P<0.05、†††P<0.0045。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明が記載される前に、方法および条件は変動し得ることから、本発明は記載される特定の方法および実験条件に限定されるものではないことが理解される。また、本明細書に使用される用語は特定の実施形態を記載する目的のためだけであり、本発明の範囲は添付請求の範囲だけによって限定されることから、限定することを意図とするものではないことが理解される。
【0025】
他に規定されない限り、本明細書に使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される用語「約」は、特に記載された数値を参照して使用される場合に、その値が記載された値から1%以下まで変動し得ることを意味する。例えば、本明細書に使用される表現「約100」は、99および101ならびにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4等)を含む。
【0026】
本明細書に記載のものと同様または同等のいずれの方法および材料を本発明の実施において使用されることができるが、例示的な方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物および本明細書に同時に出願される配列表は、参照によって本明細書にそれらの全体が組み入れられる。
【0027】
アテローム性動脈硬化を阻害するための方法
本発明の方法は、アテローム性動脈硬化症を有するまたは発症するリスクのある対象を選択すること、およびこれらの対象にPCSK9インヒビターを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0028】
アテローム性動脈硬化症のリスク因子は、当業者に周知されており、高い低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールレベル、低い高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル、高血圧症、真性糖尿病、家族歴、男性の性別、タバコの煙、および高い血清コレステロールを含むが、これらに限定されない。所与の対象について、これらのリスク因子を評価する方法も、当業者に周知されている。
【0029】
ある実施形態において、選択される対象は非高脂血症性である。「非高脂血症性」は、非高コレステロール血症性および/または非高トリグリセリド血症性対象である対象である。「非高コレステロール血症性」は、高コレステロール血症対象に関して確立された現行の判定基準に適合しない対象である。「非高トリグリセリド血症性」は、高トリグリセリド血症対象に関して確立された現行の判定基準に適合しない対象である(例えば、Harrison’s Principles of Experimental Medicine、13th Edition、McGraw-Hill、Inc.、N.Yを参照されたい)。高コレステロール血症対象は、>160mg/dLのLDLレベル、または>130mg/dLおよび男性の性別、早発性冠状動脈性心疾患の家族歴、タバコ喫煙(1日当り10を超える)、高血圧症、低いHDL(<35mg/dL)、真性糖尿病、
高インスリン血症、腹部肥満、高いリポタンパク質(a)、および脳血管障害または閉塞性末梢血管疾患の個人歴からなる群から選択される少なくとも2つのリスク因子を有する。高トリグリセリド血症対象は、>250mg/dLのトリグリセリド(TG)レベルを有する。したがって、非高脂血症性の対象は、コレステロールおよびトリグリセリドレベルが、高コレステロール血症および高トリグリセリド血症対象の双方に関して上記のように設定された限度未満であるものと規定される。ある実施形態において、選択される対象は、非高脂血症性でも高脂血症の処置を受けてもいない。
【0030】
ある実施形態において、選択される対象は見かけ上健康である。本明細書に使用される「見かけ上健康」は、心筋梗塞などの急性で有害な心血管事象を以前に有していなかった個体(すなわち、一次的な有害な心血管事象による、二次的な有害な心血管事象の上昇したリスクがない個体)を意味する。見かけ上健康な個体はまた、疾患の症状を他に示さない。
【0031】
ある実施形態において、選択される対象は、急性の有害な心血管事象、例えば、心筋梗塞、卒中、狭心症および/または末梢性の動脈管疾患を以前に患っている。一実施形態において、選択される対象は、急性の有害な心血管事象、例えば、心筋梗塞、卒中、狭心症および/または末梢性の動脈管疾患を以前に患っているが、非高脂血症性である。一実施形態において、選択される対象は、急性の有害な心血管事象、例えば、心筋梗塞、卒中、狭心症および/または末梢性の動脈管疾患を以前に患っているが、非高脂血症性でも高脂血症の処置を受けてもいない。
【0032】
ある実施形態において、選択される対象は、I型真性糖尿病、II型真性糖尿病、川崎病、慢性炎症性疾患、および高血圧症からなる群から選択される疾患または障害を有する。一実施形態において、選択される対象は、I型真性糖尿病、II型真性糖尿病、川崎病、慢性炎症性疾患、および高血圧症からなる群から選択される疾患または障害を有するが、非高脂血症性である。一実施形態において、選択される対象は、I型真性糖尿病、II型真性糖尿病、川崎病、慢性炎症性疾患、および高血圧症からなる群から選択される疾患または障害を有するが、非高脂血症性でも高脂血症の処置を受けてもいない。
【0033】
ある実施形態において、選択される対象は、炎症マーカーのレベルが上昇している。一実施形態において、選択される対象は、炎症マーカーのレベルが上昇しているが、非高脂血症性である。全身性炎症の任意のマーカーを、本発明の目的に利用し得る。好適な炎症マーカーは、C反応性タンパク質(例えば、参照によりそれらの全体において組み入れられる、米国特許第7,964,614号を参照されたい、)、サイトカイン(例えば、Il-6、IL-8、および/またはIL-17)、および細胞接着分子(例えば、ICAM-1、ICAM-3、BL-CAM、LFA-2、VCAM-1、NCAM、およびPECAM)を含むが、これらに限定されない。
【0034】
炎症マーカーのレベルは、任意の当業者によって認識されるアッセイによって得ることができる。典型的には、レベルは、体液、例えば、血液、リンパ、唾液、尿などにおけるマーカーのレベルを測定することによって測定される。レベルは、マーカーの存在を決定するためのELISA、もしくはイムノアッセイまたは他の従来技術によって決定することができる。炎症マーカーのレベルが上昇するかを決定するために、対象において測定されるマーカーのレベルを好適な対照(例えば、所定値および/または適合健康対象から得られた値)と比較することができる。
【0035】
一実施形態において、本発明は、対象におけるアテローム硬化型プラーク形成の阻害、ならびに対象におけるアテローム性動脈硬化症の処置またはその進行の阻害に使用するための、PCSK9インヒビターを含む医薬組成物を提供する。
【0036】
本発明はまた、アテローム硬化型プラーク形成の阻害、および対象におけるアテローム性動脈硬化症の処置またはその進行の阻害を含む、本明細書に記載される任意の方法のための医薬の製造のためのPCSK9インヒビターを含む医薬組成物の使用を提供する。
【0037】
PCSK9インヒビター
ある態様において、本発明の方法は、対象にPCSK9インヒビターを含む治療的組成物を投与することを含む。
【0038】
本明細書で使用される「PCSK9インヒビター」は、インビトロまたはインビボで、ヒトPCSK9と結合するまたは相互作用するおよびPCSK9の正常な生物学的機能を阻害する、任意の剤である。PCSK9インヒビターのカテゴリーの非限定的例は、小分子PCSK9アンタゴニスト、拮抗性核酸分子(例えば、RNAi分子)ペプチドベースPCSK9アンタゴニスト(例えば、「ペプチボディ(peptibody)」分子)、およびヒトPCSK9に特異的に結合する抗体または抗体の抗原結合性フラグメントを含む。
【0039】
本明細書で使用される用語「プロタンパク質コンバターゼ サブチリシン/ケキシンタイプ9」または「PCSK9」は、配列番号197に示される核酸配列および配列番号198のアミノ酸配列を有するPCSK9、または生物学的に活性なそのフラグメントをいう。
【0040】
ある実施形態において、PCSK9インヒビターの投与は、未処置の対象におけるアテローム硬化型プラーク形成に対して、対象(例えば、ヒト対象)におけるアテローム硬化型プラーク形成を少なくとも10%(例えば、10% 20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%)減少させる。
【0041】
ある実施形態において、PCSK9インヒビターは、PCSK9に特異的に結合する抗体または抗原結合タンパク質である。本明細書に使用される用語「抗体」は、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互連結された2つの重鎖(H)および2つの軽鎖(L)を含む免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)をいう。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(C CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域で分散されている、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、下記の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置された3つのCDRおよび4つのFRから構成される。本発明の異なる実施形態において、抗PCSK9抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよいまたは天然でまたは人工的に修飾し得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRのサイド-バイ-サイド分析に基づいて規定し得る。
【0042】
本明細書に使用される用語「抗体」はまた、完全抗体分子および抗原結合タンパク質の抗原結合フラグメントを含む。本明細書に使用される用語、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」、「抗原結合タンパク質」などは、複合体を形成するために抗原を特異的に結合する、任意の自然発生、酵素的に得られる、合成、または遺伝的に操作されたポリペプチドもしくは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、タンパク質分解のような任意の好適な標準的技術、または抗体の可変および場合
により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現にかかわる組換遺伝子操作技術を用いて、例えば、完全抗体分子から導き得る。そのようなDNAは、公知であり、および/または例えば、商業ソース、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含む)から利用可能であり、もしくは合成することができる。DNAは、例えば、1つまたはそれ以上の可変および/または定常ドメインを好適な立体配置に配置するために、またはコドンを導入し、システイン残基を作出し、アミノ酸を修飾し、付加しまたは欠失させる等のために、化学的にまたは分子生物学的技術を用いることによって配列決定され、操作される。
【0043】
抗原結合フラグメントまたは抗原結合タンパク質の非限定的例は:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドのような単離された相補性決定領域(CDR))、または拘束性FR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位を含む。ドメイン特異抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小分子免疫医薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の改変分子も、本明細書に使用される表現「抗原結合フラグメント」および「抗原結合タンパク質」内に包含される。
【0044】
抗体の抗原結合フラグメントは、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成であってよく、に1つまたはそれ以上のフレームワーク配列に隣接するまたはそれとインフレームである少なくとも1つのCDRを一般的に含む。VLドメインに関連するVHドメインを有する抗原結合フラグメントでは、VHおよびVLドメインは互いに任意の好適な配置に対して位置付けられる。例えば、可変領域は二量体であってよく、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有する。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体のVHまたはVLドメインを含有してよい。
【0045】
ある実施形態において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含有してよい。非限定的な、本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に見出される可変および定常ドメインの例示的立体配置は:(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLを含む。上記に掲載された任意の例示的立体配置を含む、可変および定常ドメインの任意の立体配置において、可変および定常ドメインは、互いに直接結合されるかまたは完全なもしくは部分的なヒンジまたはリンカー領域によって結合される。ヒンジ領域は、単一ポリペプチド分子中で隣接した可変および/または定常ドメイン間のフレキシブルまたはセミフレキシブル結合をもたらす、少なくとも2つ(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、50、60またはそれ以上)のアミノ酸からなり得る。その上、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、互いとおよび/または1つまたはそれ以上の単量体VHまたはVLドメインとの非共有結合(例えば、ジスルフィド結合による)において、上記に掲載された任意の可変および定常ドメイン立体配置のホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含んでよい。
【0046】
完全抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単一特異性または多重特異性(例え
ば、二重特異性)であってよい。抗体の多重特異性抗原結合フラグメントは、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、ここで各可変ドメインは別々の抗原または同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合する能力がある。本明細書に開示の例示的二重特異性抗体フォーマットを含む、任意の多重特異性抗体フォーマットは、当技術分野で利用可能なルーチン技術を用いて本発明の抗体の抗原結合フラグメントとの関連で使用するのに適合される。
【0047】
抗体の定常領域は、補体を固定し、細胞依存性細胞傷害を媒介する抗体の能力において重要である。したがって、抗体のアイソタイプは、細胞傷害を媒介する抗体に望ましいかどうかの基礎のもとに選択される。
【0048】
本明細書に使用される用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列から由来する可変および定常領域を有する抗体を含むことを意図している。本発明のヒト抗体は、それでも、例えばCDRおよび特にCDR3において、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコード化されないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムまたは部位特異的突然変異誘発によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含んでよい。しかしながら、本明細書に使用される用語「ヒト抗体」は、別の哺乳動物種、例えばマウス、の生殖細胞系列から由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列へグラフトされている、抗体を含むことを意図していない。
【0049】
本明細書に使用される用語「組換えヒト抗体」は、宿主細胞にトランスフェクトされる組換え発現ベクター用いて発現される抗体(以下でさらに記載される)、組換え型コンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離される抗体(以下でさらに記載される)、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離される抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl. Acids Res.20:6287-6295を参照されたい)、または他のDNA配列に対するヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングが関与している任意の他の手段により調製、発現、作出または単離される抗体などの、組換え手段により調製、発現、作出または単離される全てのヒト抗体を含むことを意図している。このような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかしながら、ある実施形態では、このような組換えヒト抗体は、インビトロ突然変異誘発(または、ヒトIg配列についての動物トランスジェニックが使用される場合、インビボ体細胞突然変異誘発)に供されるため、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来しそれらに関連するが、インビボにてヒト抗体生殖系列レパートリー内に自然に存在しないことがある。
【0050】
ヒト抗体は、ヒンジ不均一性に関連する二形態で存在し得る。第一形態では、免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一緒に保持されるおよそ150~160kDaの安定な四鎖構築物を含む。第二形態では、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって結合されず、約75~80kDaの分子が共有結合性にカップルした軽鎖および重鎖(半抗体)から構成され形成される。これらの形態は、親和性精製後でさえ、分離することは極度に困難である。
【0051】
様々なインタクトIgGアイソタイプにおける第二形態の出現の頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造上の差違に因るが、これに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、ヒトIgG1ヒンジを用いて典型的に観測されるレベルにまで、第二形態の出現を有意に減少し得る(例えば、Angal et al.(1993)Molecular Immunology 30:105を参照されたい)。本発明は、ヒンジ、CH2またはCH3領域に1つまたはそれ以上の変異を有する抗体を包含し、これは、例えば産生において、望まれる抗体形態の収率を改善す
るため望ましい。
【0052】
本明細書に使用される「単離された抗体」は、その天然環境の少なくとも1つ成分から同定および分離および/または回収された抗体を意味する。例えば、生物体の少なくとも1つ成分から、または抗体が天然で存在するまたは天然で産生される組織または細胞から、分離または除去された抗体は、本発明の目的に関する「単離された抗体」である。単離された抗体はまた、組換え細胞内のインサイチュでの抗体を含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製または単離ステップに供された抗体である。ある実施形態によると、単離された抗体は、他の細胞の物質および/または化学物質が実質的に無いものである。
【0053】
用語「特異的に結合する」などは、抗体またはその抗原結合タンパク質が生理的条件下に比較的安定である抗原と複合体を形成することを意味する。抗体が抗原に特異的に結合するかを決定するための方法は、当技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。例えば、本発明の関連で使用されるPCSK9に「特異的に結合する」抗体は、約1000nM未満、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満または約0.5nM未満と表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定されるKDで、PCSK9またはその部分と結合する抗体を含む。しかしながら、ヒトPCSK9と特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原、例えば他の(非ヒト)種からのPCSK9分子との交差反応性を有し得る。
【0054】
例示的な非限定的なPCSK9インヒビターは、本明細書に記載され、例えば、各々が本明細書中に参照によりそれらの全体において組み入れられる、米国特許出願公開US20130115223、US20130071405、US20130064834、US20130064825、US20120122954、US20120015435、US20110313024、US20110015252、US20110230542、US20110009628、およびUS Serial Number 61/682,349に記載されたインヒビターを含む。いくつかの実施形態において、PCSK9インヒビターは、国際公開第WO2011/072263号に記載されたAb「LGT209」のVH/VL配列を有する抗体;国際公開第WO2010/029513号に記載されたAb「L1L3」のVH/VL配列を有する抗体;国際公開第WO2011/111007号に記載されたAb「5L1721H23_6L3」のVH/VL配列を有する抗体;国際公開第WO2011/111007号に記載されたAb「5L1721H23_6L3H3」のVH/VL配列を有する抗体;国際公開第WO2009/026558号に記載されたAb「31H4」のVH/VL配列を有する抗体;米国特許出願公開第US2009/0232795号に記載されたAb「1B20」のVH/VL配列を有する抗体;米国特許出願公開第US2009/0142352号に記載されたAb「21B12」のVH/VL配列を有する抗体;米国特許出願公開第US2012/0195910号に記載されたAb「508.20.28」のVH/VL配列を有する抗体;または米国特許出願公開第US2012/0195910号に記載されたAb「508.20.33」のVH/VL配列を有する抗体を含む、抗体である。
【0055】
本発明の方法および組成物において有用な抗PCSK9抗体は、抗体が由来する対応する生殖細胞系配列と比べて、重鎖および軽鎖の可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に1つまたはそれ以上のアミノ酸の置換、挿入および/または欠失を含んでよい。そのような突然変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公開抗体配列データベースから利用可能な生殖細胞系配列と比較することによって容易に確認することができる。本発明は、本明細書に開示のいずれかのアミノ酸配列から由来する抗体、
およびその抗原結合フラグメントの使用にかかわる方法を含み、ここで1つまたはそれ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つまたはそれ以上のアミノ酸は、抗体が由来する生殖細胞系配列の対応する残基に、または別のヒト生殖細胞系配列の対応する残基に、または対応する生殖細胞系列残基の保存的アミノ酸置換に突然変異される(そのような配列変化は本明細書において総称して「生殖細胞系突然変異」といわれる)。本明細書に開示の重鎖および軽鎖可変領域配列を始めとして、当業者は、1つまたはそれ以上の個々の生殖細胞系突然変異またはその組合せを含む、多数の抗体および抗原結合フラグメントを容易に産生することができる。ある実施形態において、VHおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基の全ては、抗体が由来する元の生殖細胞系配列に見出される残基に復帰突然変異される。他の実施形態において、ある残基だけ、例えば、FR1の最初の8アミノ酸内またはFR4の最後の8アミノ酸内に見出される変異残基だけ、またはCDR1、CDR2またはCDR3内に見出される変異残基だけが元の生殖細胞系配列に復帰突然変異される。他の実施形態において、1つまたはそれ以上のフレームワークおよび/または1つまたは複数のCDR残基は、異なる生殖細胞系配列(すなわち、抗体が元々由来する生殖細胞系配列と異なる生殖細胞系配列)の対応する残基に突然変異される。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内の2つまたはそれ以上の生殖細胞系突然変異の任意の組合せを含んでもよく、例えば、ここである個々の残基は、特定の生殖細胞系配列の対応する残基に突然変異され、一方で元の生殖細胞系配列と異なるある他の残基は維持され、または異なる生殖細胞系配列の対応する残基に突然変異される。一度得られると、1つまたはそれ以上の生殖細胞系突然変異を含有する抗体およびその抗原結合フラグメントは、結合特異性改善、結合親和性増加、アンタゴニストまたはアゴニスト生物学的特性の改善または強化(場合に応じて)、免疫原性低減等のような1つまたはそれ以上の望まれる性質を容易に検査されることができる。この一般的な様式で得られる抗体および抗原結合フラグメントの使用は、本発明内に包含される。
【0056】
本発明はまた、1つまたはそれ以上の保存的置換を有する本明細書に開示のいずれかのHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のバリアントを含む抗PCSK9抗体の使用にかかわる方法を含む。例えば、本発明は、本明細書に開示のいずれかのHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列に対して、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、または1の保存されたアミノ酸置換でHCVR;LCVR;CDR;HCVRおよびLCVR;HCVRおよびCDR;LCVRおよびCDR;またはHCVR、LCVRおよびCDRアミノ酸配列を有する抗PCSK9抗体の使用を含む。ある実施形態において、置換は、CDRアミノ酸配列、例えば、CDR1、CDR2および/またはCDR3にある。他の実施形態、他の実施形態において、置換は、CDR3アミノ酸配列にある。
【0057】
本明細書に使用される用語「表面プラズモン共鳴」は、例えば、BIACORE(商標)システム(Biacore Life Sciences division of GE Healthcare、Piscataway、NJ)を用いて、バイオセンサマトリックス内のタンパク質濃度変化の検出により、リアルタイム相互作用の解析を可能にする光学的現象をいう。
【0058】
本明細書に使用される用語「KD」は、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数をいうことが意図される。
【0059】
用語「エピトープ」は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特異的な抗原結合部位と結合する抗原決定基をいう。単一抗原は、一を超えるエピトープを有し得る。したがって、異なる抗体は、抗原における異なる領域に結合し得るおよび異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体配座的または直鎖状であってよい。立体配座
的エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並んだアミノ酸によって産生される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。ある環境において、エピトープは、抗原において糖、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0060】
ある実施形態によると、本発明の方法に使用される抗PCSK9抗体は、pH依存的な結合特性を有する抗体である。本明細書で使用される、表現「pH依存的な結合」は、抗体または抗原結合タンパク質が、「中性pHと比較して、酸性pHでPCSK9との結合の減少」を示すことを意味する(本発明の開示の目的のため、両方の表現を互換的に使用し得る)。例えば、「pH依存的な結合特性を有する」抗体は、酸性pHよりも中性pHでより高い親和性でPCSK9に結合する、抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。ある実施形態において、本発明の抗体および抗原結合フラグメントは、酸性pHよりも中性pHで、少なくとも3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100倍以上より高い親和性でPCSK9に結合する。
【0061】
本発明のこの態様によると、pH依存的な結合特性を有する抗PCSK9抗体は、親抗PCSK9抗体に対して、1つまたはそれ以上のアミノ酸バリエーションを有し得る。例えば、pH依存的な結合特性を有する抗PCSK9抗体は、例えば、親抗PCSK9抗体の1つまたはそれ以上のCDRにおいて、1つまたはそれ以上のヒスチジン置換または挿入を含有し得る。したがって、本発明のある実施形態によると、親抗体の1つまたはそれ以上のCDRの1つまたはそれ以上のアミノ酸のヒスチジン残基での置換を除いて、親抗PCSK9抗体のCDRアミノ酸配列と同一である、CDRアミノ酸配列(例えば、重鎖および軽鎖CDR)を含む、抗PCSK9抗体を投与することを含む方法が提供される。pH依存的な結合を有する抗PCSK9抗体は、親抗体の単一CDR内または親抗PCSK9抗体の複数(例えば、2、3、4、5、または6)CDRにわたり分布する、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9以上のヒスチジン置換を有し得る。例えば、本発明は、親抗PCSK9抗体の、HCDR1中に1つまたはそれ以上のヒスチジン置換、HCDR2中に1つまたはそれ以上のヒスチジン置換、HCDR3中に1つまたはそれ以上のヒスチジン置換、LCDR1中に1つまたはそれ以上のヒスチジン置換、LCDR2中に1つまたはそれ以上のヒスチジン置換、および/またはLCDR3中に1つまたはそれ以上のヒスチジン置換を含む、pH依存的な結合を有する抗PCSK9抗体の使用を含む。
【0062】
本明細書に使用される、表現「酸性pH」は、6.0以下(例えば、約6.0未満、約5.5未満、約5.0未満等)のpHを意味する。表現「酸性pH」は、約6.0、5.95、5.90、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0以下のpH値を含む。本明細書に使用される、表現「中性pH」は、約7.0~約7.4のpHを意味する。表現「中性pH」は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、および7.4のpH値を含む。
【0063】
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を生成する方法は当技術分野で公知である。いずれかのそのような公知方法は、ヒトPCSK9に特異的に結合するヒト抗体を作るために本発明の関連で使用されることができる。
【0064】
VELOCIMMUNE(商標)技術またはモノクローナル抗体を生成する任意の他の公知の方法を用いて、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有するPCSK9に対する高親和性キメラ抗体が最初に単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術には、
マウスが、抗原刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内因性マウス定常領域座に作動可能に連結されたヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの生成が関与する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAは、単離され、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に連結される。DNAは、次いで完全ヒト抗体を発現する能力がある細胞において発現される。
【0065】
一般に、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは目的とする抗原でチャレンジされ、リンパ性細胞(例えば、B細胞)は抗体を発現するマウスから回収される。リンパ性細胞をミエローマ細胞株と融合して不死化ハイブリドーマ細胞株を調製し得る、このようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、選択して、目的とする抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを、単離し、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域に連結し得る。そのような抗体タンパク質を、CHO細胞などの細胞において産生し得る。あるいは、抗原特異的なキメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAを、抗原特異的なリンパ球から直接単離し得る。
【0066】
最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、高親和性キメラ抗体が単離される。抗体は、特徴付けられ、親和性、選択性、エピトープ等を含めた、望ましい特性について、当業者に公知の標準的な手順を用いて選択される。マウス定常領域は、野生型IgG1もしくはIgG4、または修飾型IgG1もしくはIgG4などの、本発明の完全ヒト抗体を生成するために、望まれるヒト定常領域で置き換えられる。選択された定常領域が特殊用途に従って変わり得る一方で、高親和性抗原結合および標的特異性特性は可変領域に存在する。
【0067】
一般に、本発明の方法に使用することができる抗体は、上記のように、固相に固定化されるかまたは液相で抗原に結合することにより測定される場合に、高親和性を有する。マウス定常領域は、本発明の完全ヒト抗体を生成するために、望まれるヒト定常領域で置き換えられる。選択された定常領域が特殊用途に従って変わり得る一方で、高親和性抗原結合および標的特異性特性は可変領域に存在する。
【0068】
本発明の方法の関連で使用されることができるPCSK9に特異的に結合するヒト抗体または抗体の抗原結合フラグメントの具体例には、配列番号1および11または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%配列同一性を有する実質的なその類似配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)内に含有される3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)を含む、任意の抗体または抗原結合性フラグメントが含まれる。あるいは、本発明の方法の関連で使用されることができるPCSK9に特異的に結合するヒト抗体または抗体の抗原結合フラグメントの具体例には、配列番号37、45、53、61、69、77、85、93、101、109、117、125、133、141、149、157、165、173、181、および189または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%配列同一性を有する実質的なその類似配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)内に含有される3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)を含む、任意の抗体または抗原結合性フラグメントが含まれる。抗体または抗原結合性フラグメントは、配列番号6および15または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%配列同一性を有する実質的なその類似配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)内に含有される3つの軽鎖CDR(LCVR1、LCVR2、LCVR3)を含んでよい。あるいは、抗体または抗原結合性フラグメントは、配列番号41、49、57、65、73、81、89、97、105、113、121、1
29、137、145、153、161、169、177、185、および193または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%配列同一性を有する実質的なその類似配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)内に含有される3つの軽鎖CDR(LCVR1、LCVR2、LCVR3)を含んでよい。
【0069】
2つのアミノ酸配列間の配列同一性は、最適配列アラインメントを用いて、参照アミノ酸配列(すなわち、配列番号で識別されるアミノ酸配列)の全体長に対しおよび/または2つのアミノ酸配列間の最適配列アラインメントの領域に対し決定され、ここで、最適配列アラインメントは、公知のツール、例えば、Align、標準設定を用いて、好ましくは、EMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5で得ることができる。
【0070】
本発明のある実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号1/6および11/15からなる群から選択される重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸配列ペア(HCVR/LCVR)からの6つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む。あるいは、本発明のある実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号37/41、45/49、53/57、61/65、69/73、77/81、85/89、93/97、101/105、109/113、117/121、125/129、133/137、141/145、149/153、157/161、165/169、173/177、181/185、および189/193からなる群から選択される重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸配列ペア(HCVR/LCVR)からの6つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む。
【0071】
本発明のある実施形態において、本発明の方法に使用することができる抗PCSK9抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号2/3/4/7/8/10(mAb316P)および12/13/14/16/17/18(mAb300N)(米国特許出願公開第2010/0166768号を参照されたい)および12/13/14/16/17/18から選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列を有し、ここで、配列番号16は、アミノ酸残基30でのロイシンについてヒスチジンの置換(L30H)を含む。
【0072】
本発明のある実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号1/6および11/15からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む。ある例示的な実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号1のHCVRアミノ酸配列および配列番号6のLCVRアミノ酸配列を含む。ある例示的な実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号11のHCVRアミノ酸配列および配列番号15のLCVRアミノ酸配列を含む。ある例示的な実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号11のHCVRアミノ酸配列および配列番号15のLCVRアミノ酸配列であって、アミノ酸残基30でのロイシンについてヒスチジンの置換(L30H)を含むアミノ酸配列を含む。
【0073】
ある実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、APOE*3Leiden.CETPマウスに毎週の皮下注射により投与した場合に、下記の特性の1つまたはそれ以上を示す:
a.3mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約37%総コレステロールレベルを減少させる;
b.10mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約46%総コレステロールレベルを減少させる;
c.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、未処理対照群に対して約48%総コレステロールレベルを減少させる;
d.10mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、未処理対照群に対して約58%総コレステロールレベルを減少させる;
e.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約36%総コレステロールレベルを減少させる;
f.10mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約48%総コレステロールレベルを減少させる;
g.3mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約33%トリグリセリドレベルを減少させる;
h.10mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約36%トリグリセリドレベルを減少させる;
i.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチンでの処置に対して、約40%トリグリセリドレベルを減少させる;
j.10mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独と組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチンでの処置に対して、約51%トリグリセリドレベルを減少させる;
k.3mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して肝臓LDLR発現を増加させる;
l.10mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約178%肝臓LDLR発現を増加させる;
m.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約71%肝臓LDLR発現を増加させる;
n.10mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約140%肝臓LDLR発現を増加させる;
o.3mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約70%アテローム硬化型病変サイズを減少させる;
p.10mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約87%アテローム硬化型病変サイズを減少させる;
q.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、未処理対照群に対して約88%アテローム硬化型病変サイズを減少させる;
r.10mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、未処理対照群に対して約98%アテローム硬化型病変サイズを減少させる;
s.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約82%相対アテローム硬化型病変サイズを減少させる;
t.10mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約97%相対アテローム硬化型病変サイズを減少させる;
u.3mg/kgで投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約72%トリグリセリドレベルを減少させる;
v.10mg/kgで投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約79%トリグリセリドレベルを減少させる;
w.3mg/kgで投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約22%総コレステロールレベルを減少させる;
x.10mg/kgで投与する場合に、3.6mg/kg/日アトルバスタチン単独での処置に対して、約34%総コレステロールレベルを減少させる;
y.3mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約236%未病大動脈セグメントのパーセンテージを増加させる;
z.10mg/kgで投与する場合に、未処理対照群に対して約549%未病大動脈セグメントのパーセンテージを増加させる;
aa.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、対照に対して約607%未病大動脈セグメントのパーセンテージを増加させる;および
bb.3mg/kgを3.6mg/kg/日アトルバスタチンと組み合わせて投与する場合に、対照に対して約1118%未病大動脈セグメントのパーセンテージを増加させる。
【0074】
医薬組成物および投与の方法
本発明は、対象にPCSK9インヒビターを投与することを含む方法であって、PCSK9インヒビターが医薬組成物内に含有される方法を含む。本発明の医薬組成物は、好適な担体、賦形剤、および適切な移動、送達、耐容性などをもたらす他の剤で製剤化される。多数の適切な製剤は、全ての薬化学者に公知の処方集に見出されることができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PA)。これらの製剤は、例えば、散剤、ペースト剤、軟膏剤、ジェリー剤、ワックス、オイル、脂質類、ベシクル(LIPOFECTIN(商標)など)を含有する脂質(陽イオン性または陰イオン性)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト剤、水中油および油中水乳剤、乳剤カルボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固形ゲル、およびカルボワックスを含有する半固形混合物を含む。Powell et al. 「Compendium of
excipients for parenteral formulations」
PDA (1998) J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0075】
種々の送達システムは、公知であり、本発明の医薬組成物を投与するのに使用されることができ、例えば、リポソームへのカプセル化、マイクロ粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現する能力がある組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスである(例えば、Wu et al.、1987、J. Biol. Chem. 262:4429-4432を参照されたい)。投与の方法は、限定されるものではないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、吸入、および経口経路を含む。組成物は、任意の従来の経路により、例えば、点滴およびボーラス注射により、上皮または粘膜皮膚ライニング(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜等)を介した吸収により投与されて、他の生物学的に活性な因子と併せて投与される。
【0076】
本発明の医薬組成物は、標準針およびシリンジで皮下または静脈内に送達されることができる。加えて、ペン送達デバイスおよび自動注射器送達デバイスは、本発明の医薬組成物を送達するのに容易に用途を有する。そのような送達デバイスは、再使用可能または使い捨てであり得る、また可変用量または一定用量を投与するため適合し得る。再使用可能送達デバイスは一般に、医薬組成物を含有する交換可能カートリッジを利用する。一度カートリッジ内の全ての医薬組成物が投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジは容易に廃棄されることができて、医薬組成物を含有する新しいカートリッジで置き換えられる。送達デバイスは、次に再使用されることができる。使い捨て送達デバイスでは、置き換え可能カートリッジはない。むしろ、使い捨て送達デバイスは、デバイス内のリザーバ中に保持された医薬組成物をプレフィルドされてくる。一度リザーバで医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。可変性の投薬に適合される送達デバイスは、用量容積の範囲内に用量を設定するための機構を含んでもよい(いくつかのケースでは
、範囲をカートリッジに含有される総容積未満の値に制限し得る)。固定性の投薬に適合される送達デバイスは、送達デバイスが作動する場合に、カートリッジの総容積を送達する機構を含んでもよい。そのようなケースでは、カートリッジは、プレフィルドシリンジであってよい。
【0077】
多数の送達デバイスが、本発明の医薬組成物の送達に用途を有する。ほんのわずかの例には、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford、Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG
MIX 75/251mペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、IIおよびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、ならびにOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis、Frankfurt、Germany)が含まれるが、限定されない。ほんのわずかの、本発明の医薬組成物の皮下送達に適用を有する使い捨てペン送達デバイスの例には、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)自動注射器(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey、L.P.)、ならびにHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs、Abbott Park IL)が含まれるが、限定されない。いくつかの実施形態において、再使用可能ペンまたは自動注射器は、一定用量を送達する。他の実施形態において、再使用可能ペンまたは自動注射器は、可変用量を送達することができる。異なる実施形態において、再使用可能ペンまたは自動注射器は、単回用量または複数回用量を送達することができる。
【0078】
ある実施形態において、医薬組成物は、制御放出システムで送達される。ある実施形態において、マイクロポンプを含めた、ポンプを使用し得る(Langer、supra;
Sefton、1987、CRC Crit. Ref. Biomed. Eng.
14:201を参照されたい)。別の実施形態において、高分子材料を使用することができる;Medical Applications of Controlled Release、Langer and Wise (eds.)、1974、CRC Pres.、Boca Raton、Floridaを参照されたい。なお別の実施形態において、制御放出システムは、組成物の標的の近傍に入れられることができるため、全身用量のわずかだけを必要とする(例えば、Goodson、1984、in Medical Applications of Controlled Release、supra、vol. 2、pp. 115-138を参照されたい)。他の制御放出システムは、Langer、1990、Science 249:1527-1533による総説において論じられている。
【0079】
注射可能製剤は、静脈内、皮下、皮内および筋肉内注射、点滴等のための剤形を含んでよい。これらの注射可能製剤は、公知の方法によって調製してもよい。例えば、注射可能製剤は、例えば、上記の抗体またはその塩を通常注射に使用される水性媒体または油性媒体に溶解、懸濁または乳化することによって調製してもよい。注射のための水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースを含有する等張液、およびアルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコー
ル)、非イオン界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]等の適切な可溶化剤と組み合わせて使用し得る他の補助剤等がある。油性媒体としては、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の可溶化剤と組み合わせて使用し得るゴマ油、ダイズ油等が用いられる。そのように調製される注射は、適切なアンプルに充填される。
【0080】
有利なこととして、上記に記載の経口または非経口使用のための医薬組成物は、有効成分の用量を適合させるのに適している単位用量での剤形に調製される。本明細書に使用される「単位剤形」は、それぞれ単位が、薬学的な希釈剤、担体またはビヒクルとの結合において望まれる治療効果を産するよう計算した活性物質(すなわち、PCSK9インヒビター)の所定量を含有する、ヒトおよび/または動物対象のための単一剤形として好適な物理的に個別の単位をいう。いくつかの実施形態において、PCSK9インヒビターは抗体または抗原結合タンパク質であり、単位剤形は75mg、150mg、200mg、または300mgの抗体または抗原結合タンパク質を含む。液体医薬組成物のための好適な単位剤形の例は、アプリケーター、例えば、バイアル、プレフィルドシリンジおよび再使用可能シリンジを含めた、シリンジ、プレフィルド自動注射器および再使用可能自動注射器を含めた、自動注射器、カートリッジ、ならびにアンプルを含む;他の好適な単位剤形は、錠剤、丸剤、カプセル、坐剤、ウエハ、前述のいずれかの分割された複数のもの、ならびに本明細書に記載のようなまたは一般に当技術分野において知られている他の形態を含む。単位剤形を、密閉してもよい。アプリケーター内に医薬組成物を含有する単位剤形のため、PCSK9インヒビターの量をアプリケーターに示してもよい。
【0081】
本発明は、(a)本発明の医薬組成物を含む1つまたはそれ以上の単位剤形、および(b)容器またはパッケージを含む製品またはキットを含む。製品またはキットは、(c)標識または使用のための指示書を伴うパッケージ添付物をさらに含むことができる。いくつかの実施形態において、製品は、(d)脂質修飾療法の1つまたはそれ以上の単位剤形(例えば、活性成分としてHMG-CoAレダクターゼインヒビターを含む錠剤のブリスター)をさらに含むことができる。
【0082】
用量および投与レジメン
本発明の方法および組成物に従って対象に投与されるPCSK9インヒビター(例えば、抗PCSK9抗体)の量は、一般に、治療的有効量である。本明細書に使用される語句「治療的有効量」は、アテローム硬化型病変において検出可能な減少をもたらすPCSK9インヒビターの用量を意味する。例えば、PCSK9インヒビターの「治療的有効量」は、例えば、本明細書の例で示されているように、ヒト患者に投与される場合に、例えば、硬化性病変領域または病変重症度において少なくとも2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上の減少を引き起こすPCSK9インヒビターの量を含む。あるいは、動物モデルを使用して、候補PCSK9インヒビターの特定量が治療的有効量かどうかを確立することができる。
【0083】
抗PCSK9抗体のケースにおいて、治療的有効量は、抗PCSK9抗体の約0.05mg~約600mg、例えば、約0.05mg、約0.1mg、約1.0mg、約1.5mg、約2.0mg、約3mg、約5mg、約10mg、約15mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約75mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約43
0mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mg、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mg、または約600mgであってよい。
【0084】
ある実施形態において、抗PCSK9抗体は、75mgの用量で対象に投与される。ある実施形態において、抗PCSK9抗体は、150mgの用量で対象に投与される。ある実施形態において、抗PCSK9抗体は、300mgの用量で対象に投与される。
【0085】
個々の用量内に含有される抗PCSK9抗体の量は、患者体重の1キログラム当りの抗体のミリグラム(すなわち、mg/kg)という形で表現してもよい。例えば、抗PCSK9抗体は、約0.0001~約10mg/kg患者体重の用量で患者に投与してもよい。
【0086】
本発明のある実施形態によると、PCSK9インヒビターの複数回用量を、規定の時間経過にわたって対象に投与し得る。本発明のこの態様による方法は、PCSK9インヒビターの複数回用量を対象に逐次的に投与することを含む。本明細書に使用される「逐次的に投与すること」は、PCSK9インヒビターの各用量が、異なる時点、例えば、所定のインターバル(例えば、時間、日、週または月)により分離された異なる日に対象に投与されることを意味する。本発明は、患者にPCSK9インヒビターの単一の初期用量、続いてPCSK9インヒビターの1つまたはそれ以上の二次用量、場合により、続いてPCSK9インヒビターの1つまたはそれ以上の三次用量を逐次的に投与することを含む方法を含む。
【0087】
用語「初期用量」、「二次用量」、および「三次用量」は、PCSK9インヒビターの投与の時間的なシークエンスをいう。したがって、「初期用量」は処置レジメン(「ベースライン用量」ともいう)の最初に投与される用量である;「二次用量」は「初期用量」の後に投与される用量である;および「三次用量」は「二次用量」の後に投与される用量である。しかしながら、ある実施形態において、初期、二次および/または三次用量に含有されるPCSK9インヒビターの量は、処置の過程の間に互いに変動する(例えば、必要に応じて上下に調節される)。初期、二次、および三次用量は、全て同じ量のPCSK9インヒビターを含有し得る。
【0088】
ある実施形態において、それぞれ二次および/または三次用量は、直前の用量の1~30日(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30日以上)後に投与される。本明細書に使用される語句「直前の用量」は、複数回投与のシークエンスにおいて、介在する用量がなく、そのシークエンス中のすぐ次の用量の投与前に患者に投与されるPCSK9インヒビターの用量を意味する。
【0089】
ある実施形態において、方法は、患者に任意数の二次および/または三次用量のPCSK9インヒビターを投与することを含む。例えば、ある実施形態において、わずか単回の二次用量が患者に投与される。他の実施形態において、2つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8以上)の二次用量が、患者に投与される。同様に、ある実施形態において、わずか単回の三次用量が患者に投与される。他の実施形態において、2つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8以上)の三次用量が、患者に投与される。
【0090】
複数回の二次用量がかかわる実施形態において、それぞれの二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与してもよい。例えば、それぞれの二次用量は、直前の用量の1~29日後に患者に投与してもよい。同様に、複数回の三次用量がかかわる実施形態において、そ
れぞれの三次用量は、他の三次用量と同じ頻度で投与してもよい。例えば、それぞれの三次用量は、直前の用量の1~60日後に患者に投与してもよい。あるいは、二次および/または三次用量が患者に投与される頻度は、処置レジメンの過程にわたって変化することができる。投与の頻度も、診察後に個々の患者の要求に応じて、医師による処置の過程の間に調節し得る。
【0091】
ある実施形態において、抗PCSK9抗体は、対象に約75mgの初期用量を隔週で投与される。
【0092】
さらなる実施形態において、抗体は、対象に約150mgの初期用量を隔週で投与される。
【0093】
一実施形態において、初期用量を、初期用量期間の間に投与し、その後、対象のLDL-C値をモニターし、LDL-C値を測定して標的LDL-C値であるかまたはそれ未満であるかを決定することによって、初期用量を二次用量に変化させるべきかを決定する。例えば、対象は、1デシリットルあたり100ミリグラム(mg/dL)の標的LDL-C値で、75mgの抗体の初期用量での処置で開始されてもよい。対象のLDL-Cが初期用量期間の終了時に標的LDL-C値に到達した場合、対象は初期用量での処置を継続されるが、その標的値に到達しない場合には二次用量に変更される。一実施形態において、初期用量は約75mgで隔週投与される、標的LDL-C値は100mg/dLであり、必要の場合には、二次用量が150mgで隔週投与される。例えば、対象を最初に処置の約8週後モニターし、それらのLDL-C値が100mg/dLを超える場合には、対象を150mgでの二次用量、隔週投与に用量設定を上げることができる。モニタリングを、処置期間にわたり継続してもよい。別の実施形態において、初期用量は75mgの抗体を隔週であり、標的LDL-C値は70mg/dLであり、標的LDL-C値に到達しない場合には二次用量は150mgを隔週である。
【0094】
従来の療法および併用療法
ある実施形態によると、本発明の方法は、本発明の医薬組成物の投与の時間または直前に、高コレステロール血症および/またはアテローム性動脈硬化症の処置のための治療レジメン中の対象に、抗PCSK9抗体を含む医薬組成物を投与することを含む。例えば、以前に高コレステロール血症および/またはアテローム性動脈硬化症と診断された患者は、抗PCSK9抗体を含む医薬組成物の投与の前および/または同時に別の脂質修飾療法の安定的な治療レジメンを処方され、摂取してきたものであってもよい。他の実施形態において、対象は、脂質修飾療法で以前に処置されていない。
【0095】
ある実施形態によると、本発明の方法は、同時の脂質修飾療法の非存在下で、対象に、単独療法として、抗PCSK9抗体を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0096】
ある実施形態によると、本発明の方法はまた、別の脂質修飾療法と組み合わせて、対象に、抗PCSK9インヒビターを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0097】
本明細書に使用される脂質修飾療法は、例えば、(1)スタチン(例えば、セリバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン等)などの3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル(HMG)-補酵素A(CoA)レダクターゼを阻害することによってコレステロール合成の細胞枯渇を誘導する剤;(2)コレステロール取込および/または胆汁酸再吸収を阻害する剤(例えば、エゼチミブ);(3)リポタンパク質カタボリズムを増加させる剤(例えば、ナイアシン);および/または(4)22-ヒドロキシコレステロールなどのコレステロール除去の役割を果たすLXR転写因子のアクチベータを含む。脂質修飾療法
はまた、エゼチミブ+シンバスタチン;スタチンと胆汁樹脂(例えば、コレスチラミン、コレスチポール、コレセベラム);ナイアシン+スタチン(例えば、ナイアシンとロバスタチン)などの治療剤の固定組合せ;またはオメガ-3-脂肪酸エチルエステル(例えば、オマコル(Omacor))などの他の脂質低下剤との固定組合せを含む。
【実施例】
【0098】
下記の実施例は、本発明の方法および組成物の作り方および使用の仕方の完全な開示および説明を当業者に提供するために提案され、発明者らがそれらの発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0099】
ヒトPCSK9に対するヒト抗体の生成
ヒト抗PCSK9抗体を、米国特許第8,062,640号に記載のように生成した。下記の実施例で使用される例示的なPCSK9インヒビターは、「mAb316P」として指定され、ここで「アリロクマブ」としても知られているヒト抗PCSK9抗体である。mAb316Pは、下記のアミノ酸配列特性を有する:配列番号1を含む重鎖可変領域(HCVR);配列番号6を含む軽鎖可変ドメイン(LCVR);配列番号2を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1);配列番号3を含むHCDR2;配列番号4を含むHCDR3;配列番号7を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1);配列番号8を含むLCDR2;および配列番号10を含むLCDR3。
【実施例2】
【0100】
高心血管リスクの患者における低比重リポタンパクコレステロール目標の達成:管理ケア試験集団からの結果
背景:USガイドラインは患者の心血管(CV)リスクプロファイルに基づくLDL-C目標を支持している、しかしながら、特異的な高CVリスク状態でのLDL-C目標達成の現実社会でのパターンについて知られていることはわずかである。
方法:OptumInsight IMPACTデータベース(大きいUSマルチペイヤークレームデータベース)から、2011年7月~2012年6月の間のLDL-C測定および高いCVリスク状態で患者を識別した。最新のLDL-C測定を指標日と規定し、高CVリスク状態を以下の通りプレ指標期間(pre-index period)の間の階層構造に識別した:最近の急性冠動脈症候群(ACS、6月プレ指標日以内)、冠血管事象(心筋梗塞、不安定狭心症についての入院、冠動脈血管再生)、卒中、および末梢血管疾患(PVD)。
結果:トータルで、110,739患者が、算入判定基準を満たしていた。中央値(IQR)年齢は59(53~65)年であり、53.7%が男性であり、中央値(IQR)のLDL-Cは116(92~143)mg/dLであった。指標日時点で、2.7%が最近ACSを有していたが、42.1%、9.2%、および46.0%は、それぞれ冠血管事象、卒中、およびPVDの証拠を有していた。下記の表(表1)は、異なる高CVリスク状態についての、指標日時点でのLDL-Cレベルによる患者の概要分布を表している。
【0101】
【0102】
結論:高CVリスク患者の大きい同年輩のコホートにおいて、わずかが、<70mg/dL(非常に高いCVリスクについてのオプションの目標)または<100mg/dLのLDL-C目標を達成した。LDL-C目標達成がより高いCVリスクを表す状態を伴う患者において少しばかり改善し、最近ACSを伴う患者においては最高を達成したが、これらの患者の大多数は依然としてLDL-C目標より上であった。これらのデータは、LDL-C目標達成におけるギャップに対処し、高リスク患者におけるCV転帰を改善する、継続的な努力に関する必要性が存在することを示す。
【実施例3】
【0103】
高心血管リスク管理ケア試験集団における低比重リポタンパクコレステロール目標の達成および脂質低減療法
背景:USガイドラインはLDL-Cを減少させる第一選択療法としてスタチンを支持しているが、スタチンおよび他の脂質低減療法(LLT)でのLDL-C目標達成の現実社会でのパターンについて知られていることはわずかである。
方法:OptumInsight IMPACTデータベース(大きいUSマルチペイヤークレームデータベース)から、2011年7月~2012年6月の間のLDL-C測定および高いCVリスク状態(冠血管事象(心筋梗塞、不安定狭心症についての入院、冠動脈血管再生)、卒中、および末梢血管疾患)で患者を識別した。LLT処方を、最新のLDL-C測定(指標日)の時点で評価し、高作用強度スタチン(アトルバスタチン40/80mg、ロスバスタチン20/40mg、シンバスタチン80mg)、標準作用強度スタチン(他のスタチン)、非スタチンLLT(エゼチミブ、ナイアシン、フィブラート、胆汁酸捕捉因子)、およびLLTなしとして分類した。
結果:トータルで、110,739患者が、算入判定基準を満たしていた。中央値(IQR)年齢は59(53~65)年であり、53.7%が男性であり、中央値(IQR)のLDL-Cは116(92~143)mg/dLであった。指標日時点で、10.8%が高作用強度スタチンであり、26.9%が標準作用強度スタチンであり、5.3%が非スタチンLLTであり、57.0%がLLTなしであった。下記の表(表2)は、異なるLLTタイプについての、指標日時点でのLDL-Cレベルによる患者の概要分布を表している。
【0104】
【0105】
結論:この高CVリスクの患者の大きい同年輩の集団において、わずかが、<70mg/dL(非常に高いCVリスクについてのオプションの目標)または<100mg/dLのLDL-C目標を達成した。さらに、高作用強度スタチンを受けたにもかかわらず、多くの他の患者はLDL-C目標に到達しなかった。これらのデータは、LLTへの接着性を改善する継続的な努力ならびに目標達成およびCV転帰を改善する新しい療法に関する必要性が存在することを示す。
【実施例4】
【0106】
PCSK-9に対するモノクローナル抗体MAb316Pは、APOE*3Leiden.CETPトランスジェニックマウスおいて、用量依存的にアテローム性動脈硬化症を低下させ、より安定なプラーク表現型を誘導し、アトルバスタチンの効果を強化する
背景
この試験のねらいは、APOE*3Leiden.CETPマウスの血漿脂質、アテローム性動脈硬化症発生、ならびに病変組成における、mAb316Pの二剤形、単独およびアトルバスタチンとの組合せの効果を調査することであった。これは、残遺リポタンパク質(remnant lipoproteins)の蓄積および増加した超LDL(VLDL)コレステロールとLDL-C比によって特徴付けられる、ヒトにおける家族性異βリポ蛋白血症(FD)の全ての特性を伴う高脂血症およびアテローム性動脈硬化症についての確立されたモデルである。APOE*3Leidenマウスは、apoB-含有リポタンパク質のクリアランスが非常に迅速である正常な野生型マウスと対照的に、(V)LDLのクリアランスが障害されTGレベルが増加し、それにより、ヒトにおいて認められた緩徐なクリアランスを模倣する。APOE*3Leiden.CETPマウスにおけるリポタンパク質プロファイルは、FD患者のプロファイルが反映されており、スタチン、フィブラート、ナイアシン、およびコレステリルエステル転移タンパク質(CETP)インヒビターを含む、脂質修飾療法への類似した応答を伴っている。このことは、スタチン処置での全てのapoB-含有リポタンパク質サブフラクションにおけるコレステロールの匹敵する減少によって示されている。mAb316Pが単独で、アテローム性動脈硬化症の進行を減少し、アトルバスタチンのアテロプロテクティブ効果に付加することができるとの仮説が立てられた。APOE*3Leiden.CETPマウスにおいてアトルバスタチンによるアテローム性動脈硬化症の阻害は、以前観測されていた。
【0107】
方法
i)動物
その天然フランキング領域の制御下でヒトCETPを発現する、90匹の雌性APOE*3Leiden.CETPトランスジェニックマウス(9~13週齢)を、使用した。
試験の間、マウスを、12時間の明暗サイクルでの標準条件下に収容し、食物および水を自由に摂取させた。動物実験は、The Netherlands Organization for Applied Researchの施設内の動物管理および利用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。
【0108】
ii)実験計画
マウスは、15%(w/w)カカオバターおよび0.15%コレステロール(Western-type diet[WTD]; Hope Farms、Woerden、The Netherlands)を含有する、半合成コレステロール豊富化食餌を、3週の導入期間に与えられて、血漿総コレステロール(TC)レベルを~15mmol/Lまで増加させた。体重(BW)および食物摂取を、試験の間に定期的にモニターした。BW、TC、血漿 TG、および齢に基づいてマッチングさせた後、マウス(n=15/群)は、WTD単独を与えられるあるいはmAb316P(3もしくは10mg/kg)単独またはアトルバスタチン(3.6mg/kg/d)との組合せの二剤形での処置を、18週与えられた、またアトルバスタチン単独群を付加した。MAb316Pを毎週皮下注射を介して投与し、アトルバスタチンを食餌に付加した。アトルバスタチンの用量を、約20%~30%のTC減少を試みるために計算した。処置期間の終了時に、全ての動物を、CO2吸入によって屠殺した。肝臓および心臓を単離して、肝臓のLDLRタンパク質レベル、脂質量、アテローム性動脈硬化症発生、およびプラーク組成を評価した。
【0109】
iii)血漿脂質、リポタンパク質分析、およびMAb316Pレベルの測定
血漿を、2~4週ごとに、4時間の絶食後に尾静脈出血を介して、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)コーティングカップに採取した血液から単離した。血漿TCおよびTGを、製造業者のプロトコル(カタログ番号1458216およびカタログ番号1488872、それぞれ;Roche/Hitachi)に従って酵素性キットを用いて決定し、平均血漿TCおよびTGレベルを計算した。TCに関するリポタンパク質プロファイルを、処置の4、12、および18週後の高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)によるリポタンパク質分離後に測定した。MAb316Pレベルを、ヒトFc酵素結合免疫吸着検査法によって測定した。
【0110】
iv)肝臓のLDLRタンパク質レベル
肝臓組織を、溶解緩衝液(50mM Tris-HCL[pH=7.4]、150mM
NaCl、0.25%デオキシコール酸、1% NP-40[Igepal]、1mM
EDTA、プロテアーゼインヒビターカクテル[complete、Roche]、1mM PMSF、1mM Na3VO4)中でホモジナイズし、次に6500rpm、4℃で30分間遠心分離した。細胞ライセート中のタンパク質濃度を、製造業者の指示書に従ってビシンコニン酸タンパク質アッセイ(Thermo Scientific)によって決定した。50μgのタンパク質ライセートを、SDS-PAGEによって分離し、次にポリフッ化ビニリデン膜(Millipore)に転写した。ブロットをR&D Systemsからのヤギ抗マウスLDLR、AbD Serotecからのウサギ抗ヤギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)またはSigmaからのマウス抗α-チューブリンおよびCell Signaling Technologiesからのウマ抗マウスHRP(製造業者の指示書に従う)で処理し;ブロットをWest Femto Super Signal ECL(Thermo Scientific)で発色し、Chemi-Doc-itイメージングシステムで処理した。タンパク質バンドの強度を、イメージJソフトウェアを使用して定量化した。
【0111】
v)アテローム性動脈硬化症の組織学的な評価
心臓を、単離し、ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋した。全大動脈起始部領
域のクロスセクション(各々5μm)を、ヘマトキシリン-フロキシン-サフランで染色した。各マウスについて、50μmのインターバルで4つのセクションを、アテローム硬化型病変の定量的および定性的な評価のために使用した。アテローム硬化型病変サイズおよび重症度を決定するため、病変を、American Heart Association分類に従った5つのカテゴリーI)早期の脂肪線条、II)規則的な脂肪線条、III)軽度プラーク、IV)中等度プラーク、およびV)重篤プラークに分類した。クロスセクションあたりの総病変領域および病変の数ならびに未病セグメントパーセンテージを計算した。病変重症度を全ての病変のパーセンテージとして評価するため、タイプI-III病変を軽度な病変として分類し、タイプIV-V病変を重篤な病変として分類した。胸大動脈における総プラーク量を決定するために、灌流-固定された大動脈(大動脈起源から横隔膜)は、血管外の脂肪が洗浄され、長軸方向に開かれ、正面を留められ、脂質についてオイルレッドOで以前にVerschuren et al.(Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2005;25:161-167)によって記載されたように染色された。データを、分析した表面について標準化し、染色された領域のパーセンテージとして表した。写真/イメージをOlympus BX51顕微鏡で撮り、病変領域をCell Dイメージングソフトウェア(Olympus Soft Imaging Solutions)を用いて測定した。
【0112】
大動脈起始部では、病変組成を、重篤な病変(タイプIV-V)に関して病変領域のパーセンテージとして決定する前に、マウス抗ヒトアルファアクチン(1:800; Monosan、Uden、The Netherlands)で平滑筋細胞(SMC)およびラット抗マウスMac-3(1:25; BD Pharmingen、the Netherlands)でマクロファージを免疫染色し、続いてシリウスレッド染色でコラーゲンを染色した。壊死領域およびコレステロール性裂、内皮への単球接着、大動脈起始部領域におけるT細胞存在量ならびにプラーク安定性指標(不安定化因子としてのマクロファージおよび壊死領域に対する安定化因子としてのコラーゲンとSMC領域の比として規定される)の計算を、以前にKuhnast et al.(J Hypertens. 2012;30:107-116)、Stary et al.(Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1995;15:1512-1531)およびKuhnast et al.(PLoS One. 2013; 8: e66467)によって記載されたように決定した。ラット抗マウスCD54抗体 GTX76543(GeneTex、Inc.、San Antonio、TX、USA)を、細胞接着分子1(ICAM-1)の免疫染色に使用した。病変の写真/イメージをNuance2マルチスペクトルイメージングシステムを伴うOlympus BX40顕微鏡で撮り、染色された領域をイメージJソフトウェアを用いて定量した。
【0113】
vi)肝臓脂質分析ならびに胆汁酸および中性ステロールの糞便排泄
肝臓組織サンプルをリン酸緩衝生理食塩水中でホモジナイズし、タンパク質含有量を測定した。脂質を、以前にPost et al.(Hepatology. 1999;30:491-500)によって記載されたように、抽出し、シリカゲルプレート上で高速薄層クロマトグラフィーによって分離し、TINA2.09ソフトウェア(Raytest Isotopen Messgerate Straubenhardt、Germany)で分析した。
【0114】
マウスをケージあたりマウス五匹を収容し、糞便をそれぞれ72時間および48時間の2つの連続期間の間に採取した。凍結乾燥した糞便のアリコートを、以前にPost et al.(Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2003;23:892-897)によって記載されたように、ガス液体クロマトグラフィーによって中性および酸性ステロール量の決定のため使用した。
【0115】
vii)フローサイトメトリー分析
処置の8週後、末梢血単核細胞(PBMC)を、新鮮な血液サンプルから単離し、フローサイトメトリー(FACS)分析を用いて、GR-1+(好中球/顆粒球)、GR-1-(リンパ球/単球)、CD3+(T-細胞)、CD19+(B-細胞)およびCD11b+/Ly6ClowおよびCD11b+/Ly6Chi(単球)細胞に選別した。下記のコンジュゲートしたモノクローナル抗体は、Becton Dickinsonからのものを使用した:GR-1 FITC、CD3 PerCpCy5-5、CD19 V450、CD11b APCおよびLy6C PE-Cy7。
【0116】
viii)統計分析
群間の差の有意性を、独立サンプルに関するKruskal-Wallis検定、続いて独立サンプルに関するMann-Whitney U-検定を用いて、ノンパラメトリックに計算した。直線回帰を使用して、変量間の相関関係を評価した。アテローム硬化型病変領域は血漿コレステロール曝露に二次的な依存関係を示したので、それを平方根変換を用いて変換した。IBM SPSS Statistics 20 for Windows(登録商標)(SPSS、Chicago、USA)を、統計学的分析のため使用した。全群を対照群およびアトルバスタチン群と比較し、3mg/kg mAb316Pをアトルバスタチンの有り無しのいずれかで10mg/kg mAb316Pと比較した。値を平均±SDとして表した。P-値<0.05は、単一比較に関して統計的に有意と考えられた。Bonferroni法を使用して、多重比較のケースにおける有意水準を決定した。図において、多重比較について補正後の有意な効果は、対照群と比較して***で示され、アトルバスタチン群と比較して†††で示され、3mg/kg mAb316Pと10mg/kg mAb316Pと比較して‡‡‡で示される。
【0117】
結果
i)MAb316Pおよびアトルバスタチン単独処置ならびにそれらの組合せはAPOE*3Leiden.CETPマウスにおける血漿総コレステロールおよびトリグリセリドを低下させる
循環mAb316Pレベルが、mAb316Pを投与した全群において検出され、18週の試験の間、5~12μg/mL(3mg/kg用量)および12~30μg/mL(10mg/kg用量)の間で変動した。コレステロール含有WTD(対照群)におけるAPOE*3Leiden.CETPマウスは、それぞれ平均血漿TCならびに16.2±1.8mmol/Lおよび2.9±0.6mmol/Lに到達した(
図1Aおよび1B)。対照と比較して、mAb316Pは、平均血漿TC(-37%、P<0.001;-46%、P<0.001)およびTG(-33%、P<0.001;-39%、P<0.001)を低下させ、さらにアトルバスタチンとの組合せでTC(-48%、P<0.001;-58%、P<0.001)を低下させた。アトルバスタチンと比較して、両方の組合せ処置は、アトルバスタチン単独よりも大きな程度まで、TC(-36%、P<0.001;-48%、P<0.001)およびTG(-40%、P<0.001;-51%、P<0.001)を低下させた。mAb316P単独(-14%、P<0.01;3mg
mAb316P対10mg mAb316P)およびアトルバスタチンとの組合せ(-19%、P<0.001;3mg mAb316P+アトルバスタチン対10mg mAb316P+アトルバスタチン)後のTCにおける減少は、用量依存的であり、試験の間で持続性であった。mAb316P(
図1C)、アトルバスタチン、およびそれらの組合せ(
図1D)後のTC減少は、apoB含有リポタンパク質に限られている。BW(ゲイン)および食物摂取において効果がないことが、対照と比較した、任意の処置群において注目された。
【0118】
ii)MAb316P(アトルバスタチン有り無し)は、低比重リポタンパク受容体分解を減少させることによって血漿脂質を低下させ、非HDLコレステロールを減少させる
肝臓LDLRタンパク質レベルを測定して、mAb316PによるPCSK9阻害が、LDLR分解をレスキューすることにより血漿脂質を低下させるかどうかを検証した(
図2A)。肝臓LDLRタンパク質レベルは、mAb316P処置単独(+80%、P<0.01;+133%、P<0.01)およびアトルバスタチンと併せた(+98%、P<0.001;+178%、P<0.05)後に増加した。アトルバスタチン単独と比較して、両方の組合せ処置は、より大きな程度までLDLRタンパク質レベルを増加させた(+71%、P<0.0045;+140%、P<0.01)。LDLRタンパク質レベルと血漿TCとの間の逆相関により、mAb316PによるTCの低下におけるLDLRの関与が確認された(R2=0.50、P<0.001)。
【0119】
非HDLコレステロールレベルも測定して、mAb316PによるPCSK9阻害が、このようなレベルをLDLRの上方制御により低下させるかどうかを検証した(
図2B)。
【0120】
iii)MAb316Pは肝臓脂質ならびに糞便の胆汁酸および中性ステロール排泄に影響しない
肝臓脂質代謝および糞便への排泄におけるリポタンパク質代謝におけるmAb316P誘導性の変更の帰結を評価するため、便中の肝臓脂質および胆汁酸および中性ステロールの排泄を決定した。MAb316Pは、肝臓重量にもコレステロールおよびTGの肝臓内容量にも影響しなく、一方でアトルバスタチンおよび組合せ処置は、対照群と比較して、肝臓重量(それぞれ、-15%、P=0.067;-17%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後;-20%、P<0.0045)および肝臓コレステリルエステル(それぞれ、-48%、P<0.0045;-41%、P<0.0045および-44%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後)の有意な低下をもたらしたが、肝臓トリグリセリドにおける変化はなかった(表3)。胆汁酸および中性ステロールの糞便アウトプットは処置により変化しなかった(表4)。これらのデータは、血漿コンパートメントからコレステロールがより大規模に流入するにもかかわらず、肝臓のコレステロールホメオスタシスがmAb316Pおよびスタチン処置の間に維持されることを示す。
【0121】
【0122】
【0123】
iv)MAb316Pは用量依存的にアテローム性動脈硬化症発生を減少させ、アトルバスタチンのアテロプロテクティブ効果を強化する
アトルバスタチンの非存在および存在下で、アテローム性動脈硬化症発生におけるmAb316Pの効果を、処置の18週後に大動脈起始部および大動脈弓において評価した。アテローム硬化型病変の代表的なイメージは、
図3に示されるように、mAb316P、アトルバスタチン、およびそれらの組合せが、病変進行を減少させることを示す。アテローム性動脈硬化症発生における減少を確認するため、クロスセクションあたりの病変領域および病変の数(
図4Aおよび
図4B)を、病変重症度(
図4C)と共に評価した。対照群について、総病変領域はクロスセクションあたり278±89×10
3μm
2であり、クロスセクションあたり4.0±0.7病変からなっていた。MAb316Pは、対照と比較して、アテローム硬化型病変サイズを用量依存的に低下させ(-71%、P<0.001;-88%、P<0.001)、アトルバスタチンの効果を用量依存的に増強した(-89%、P<0.001;-98%、P<0.001)。加えて、mAb316P(アトルバスタチン有り無し)は、病変の数も低下させた(それぞれ、-17%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後;-30%、P<0.0045および-41%、P<0.001;-77%、P<0.001)。mAb316P(単独およびアトルバスタチンとの組合せ)で処置したマウスは、対照と比較して、より病変なしのセクションおよびより少数の重篤な(タイプIV-V)病変を有していた。アトルバスタチン単独は、病変サイズを低下させ(-35%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後)、病変または未病セグメントの数に影響のないより小さい程度まで重症度を減少させた。アトルバスタチン単独処置と比較すると、組合せは、病変サイズ(-82%、P<0.001;-97%、P<0.001)および病変の数(-38%、P<0.001;-76%、P<0.001)をさらに低下させ、未病セグメントの量を増加させた。
【0124】
アテローム性動脈硬化症の発生する傾向がある大動脈に沿って別のスポットでの病変発生におけるmAb316P処置の効果を評価するため、大動脈弓におけるプラーク表面を測定した(
図4D)。この部位で、病変発生は、大動脈起始部と比較して、遅延性である。大動脈起源におけるアテローム発生における影響と一致して、10mg/kg mAb316P単独(-67%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後)およびアト
ルバスタチンと併せた両方の用量(-73%、P<0.0045;-73%、P<0.0045)は、総プラーク領域を減少させた。
【0125】
mAb316Pおよびアトルバスタチンの抗アテローム生成効果が評価され(
図5)、大動脈起始部における血漿TCレベルおよびアテローム硬化型病変領域の間の強い相関性が観測(R2=0.84、P<0.001;
図5)された、これはアテローム性動脈硬化症の発生におけるコレステロールの重要な役割を示している。
【0126】
v)MAb316Pは単球およびT細胞リクルートを減少させ、病変安定性指標を改善する
血管壁炎症の機能性マーカーとして、活性化した内皮に接着している単球の数(
図8A)および大動脈起始部領域におけるT細胞の数(
図8B)を、クロスセクションあたり計数し、計算した(
図7A)。対照群において、5.7±4.2の接着している単球および16.7±7.7のT細胞が存在した。単独およびアトルバスタチンと併せて投与すると、mAb316Pの高用量(10mg/kg)は、接着している単球(-57%、P<0.01、N.S.多重比較について補正後、および-75%、P<0.001)およびT細胞の存在量(-37%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後、および-62%、P<0.001)を減少させた。mAb316Pが単球接着を減少させる機構を明確に示すため、免疫組織化学による内皮性のICAM-1発現を評価した(
図8C)。対照について、39%の内皮がICAM-1について陽性であり、10mg/kg mAb316P単独処置後の19%(P<0.001)およびアトルバスタチンと組み合わせて与えたときの16%(P<0.001)と比較された。したがって、単球接着における減少は、mAb316P処置単独およびアトルバスタチンとの組合せの後の内皮細胞における接着分子発現における減少によって補強された。
【0127】
病変形態を調査した後、プラーク組成における処置効果を、
図6中の代表的なイメージによって示されるような、最も脆弱な病変と考えられる、重篤な病変(タイプIV-V)において分析した。プラーク安定性が必ずしも病変のサイズに依存的であるとは限らないことを説明するため、対照群およびmAb316P群についての類似サイズの病変の代表的なイメージを含ませた。病変マクロファージ領域(
図7A左)+病変壊死性のコア領域(コレステロール性裂を含む)(
図7A右)を不安定化因子として定量し、一方で線維性キャップにおけるSMC(
図7B左)およびコラーゲン領域(
図7B右)を安定化因子として定量した。全てを、総病変領域のパーセンテージとして表した。対照群における病変は、10.3%のマクロファージ、4.8%の壊死性のコアおよびコレステロール性裂、3.1%のキャップにおけるSMCおよび48.4%のコラーゲンからなっていた。対照群についての病変安定性指標(
図7C)は、3.5±0.8であった。アトルバスタチンと組み合わせて投与すると、mAb316Pの低用量(3mg/kg)は、不安定化因子(-26%、P<0.05,N.S.多重比較について補正後)を減少させ、安定化因子(+19%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後)を増加させたが、一方で高用量(10mg/kg)単独およびアトルバスタチンとの組合せは、不安定化因子(-37%、P<0.001;+73%、P<0.001)を減少させ、安定化因子(+19%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後;+29%、P<0.001)を増加させた。したがって、MAb316Pは、病変安定性指標の単独(+24%、N.S.;+113%、P<0.0045)およびアトルバスタチンと併せたもの(+116%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後;556%、P<0.001)における増加によって示されるような、病変安定性を改善した。
【0128】
vi)MAb316Pは循環単球を減少させる傾向がある
白血球数におけるmAb316P単独およびアトルバスタチンとの組合せの効果を、フローサイトメトリーによって評価した。興味深いことに、mAb316P単独およびアト
ルバスタチンと併せたものは、PBMC集団のパーセンテージとして表すと、顆粒球/好中球(-20%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後;-34%、P<0.001)および単球(-28%、P<0.05、N.S.多重比較について補正後;-39%、P<0.001)を減少させた。より具体的には、mAb316P単独およびアトルバスタチンとの組合せは、炎症誘発性Ly6Chi(-8%、P=0.061;-19%、P<0.001)減少させ、抗炎症性Ly6Clow(+12%、P=0.089;+35%、P<0.001)単球を増加させる傾向がある。したがって、血管リクルートにおけるmAb316Pの効果および単球の接着は、循環単球における減少によって増大される。
【0129】
【0130】
概要
本試験は、アテローム性動脈硬化症発生におけるmAb316P自体およびアトルバスタチンとの組合せの効果を調査するよう計画された。総合すると、これらのデータは、mAb316Pが、血漿コレステロール、アテローム性動脈硬化症の進行およびプラーク脆弱性を用量依存的に低下させ、APOE*3Leiden.CETPマウスにおけるアトルバスタチンの有益な効果を強化することを実証する。本試験は、PCSK9に対する抗体が、アテローム性動脈硬化症発生を減少させることを示す最初の試験である。
【配列表】