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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】電子デバイス製造用溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20220728BHJP
   C09D 11/033 20140101ALI20220728BHJP
   H01G 4/232 20060101ALI20220728BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
C09D11/03
C09D11/033
H01G4/232 Z
H01G4/30 201L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019514566
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2018016761
(87)【国際公開番号】W WO2018199144
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017090195
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】藤井 寛之
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽二
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125618(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158969(WO,A1)
【文献】特開2009-155592(JP,A)
【文献】英謙二,他,低分子ゲル化剤の合成とその物理ゲル,高分子論文集,1998年10月,Vol.55, No.10,p.585-594
【文献】SAKAMOTO Akiko et al.,Macromolecules,2005年,Vol.38, No.22,p.8983-8986
【文献】HANABUSA Kenji et al.,Chemistry Letters,1997年,Vol.3,p.191-192
【文献】日本レオロジー学会誌,2003年,Vol31, No.4,p.229-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,H01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷法によって電子デバイスを製造するためのインクに用いられる溶剤組成物であって、
プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、及びジヒドロターピニルアセテートから選択される少なくとも1つの溶剤と下記式(1-1)及び/又は(1-2)
【化1】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数6~25のアルキル基又はアルケニル基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む電子デバイス製造用溶剤組成物。
【請求項2】
相溶物を構成する、前記溶剤と(1-1)及び(1-2)で表される化合物の総量の重量比(前者:後者)が、100:0.01~100:50である、請求項1に記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
【請求項3】
25℃、せん断速度0.5s -1 における粘度が0.01~1000Pa・sである、請求項1又は2に記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
【請求項4】
プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、及びジヒドロターピニルアセテートから選択される少なくとも1つの溶剤と下記式(1-1)及び/又は(1-2)
【化2】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数6~25のアルキル基又はアルケニル基を示す)
で表される化合物とを相溶させる工程を経て、請求項1~の何れか1項に記載の電子デバイス製造用溶剤組成物を得る、電子デバイス製造用溶剤組成物の製造方法。
【請求項5】
プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、及びジヒドロターピニルアセテートから選択される少なくとも1つの溶剤と下記式(1-1)及び/又は(1-2)
【化3】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数6~25のアルキル基又はアルケニル基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む電子デバイス製造用インク。
【請求項6】
更に、電気特性付与材を含む、請求項に記載の電子デバイス製造用インク。
【請求項7】
バインダー樹脂含有量が10重量%以下である、請求項5又は6に記載の電子デバイス製造用インク。
【請求項8】
25℃、せん断速度0.5s -1 における粘度が0.01~1000Pa・sである、請求項5~7の何れか1項に記載の電子デバイス製造用インク。
【請求項9】
相溶物を構成する、溶剤と、式(1-1)及び(1-2)で表される化合物の総量の重量比(前者:後者)が、100:0.01~100:50である、請求項5~8の何れか1項に記載の電子デバイス製造用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷法によって電子デバイスを製造するためのインクに用いられる溶剤組成物に関する。本願は、2017年4月28日に日本に出願した特願2017-090195号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
印刷法を用いて製造する電子デバイスにはコンデンサ、インダクタ、バリスタ、サーミスタ、トランジスタ、スピーカ、アクチュエータ、アンテナ、固体酸化物燃料電池等がある。
【0003】
例えば積層セラミックコンデンサは、一般的に、次のような工程を経て製造される。
1.セラミックスの粉末、ポリビニルアセタール樹脂等のバインダー樹脂、及び溶剤を含むスラリーをシート状に成形してグリーンシートを得る。
2.電気特性付与材(例えば、ニッケル、パラジウム等)、バインダー樹脂(例えば、エチルセルロース等)、及び有機溶剤(例えば、ターピネオール等)を含むインクを、グリーンシート上に印刷法により塗布し導電回路の配線や電極等(以後、「配線等」と称する場合がある)を形成する(塗布工程)。
3.塗布されたインクを乾燥させる(乾燥工程)。
4.配線等が形成されたグリーンシートを所定寸法に切断し、複数枚積み重ねて圧着する。
5.焼成させる(焼成工程)。
【0004】
インクに含まれるバインダー樹脂は電気特性付与材をグリーンシート上に固定する働きや、適度な粘性を付与して微細な印刷パターンの形成を可能とする働きを有する。バインダー樹脂としては、従来、エチルセルロースが主に用いられてきた。しかし、エチルセルロースは熱分解性が低いため高温で焼成する必要があり、長時間高温に曝されることにより被塗布面を有する部材(以後、「被塗布面部材」と称する場合がある)が軟化、変形する場合があること、また、焼成後にカーボン成分が灰分として残留し、それにより導電性の低下が引き起こされることが問題であった。
【0005】
上記問題を解決するため、バインダー樹脂の改善が種々検討された。例えば、特許文献1には、エチルセルロースに代えてポリビニルアセタール樹脂を用いることで灰分の生成量を低減できることが開示されている。しかしながら、ポリビニルアセタール樹脂を使用しても、これらの問題について十分満足できる結果は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-299030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、印刷法によって電子デバイスを製造するためのインクに使用する溶剤組成物であって、インクの印字精度を向上することができ、低温で焼成することができ、焼成後に残存する灰分量を極めて低く抑制することができる溶剤組成物、及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、印刷法によって電子デバイスを製造するためのインクであって、印字精度に優れ、低温で焼成することができ、焼成後に残存する灰分量が極めて少ないインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物(以後、「化合物(1)」と称する場合がある)を溶剤と相溶させると、溶剤中で化合物(1)が自己組織化してひも状会合体を形成して高分子化合物のような粘性を生じ、溶剤を増粘する効果を発揮すること、エチルセルロース等のバインダー樹脂に比べ低温で焼成可能であること、焼成後の灰分の残存量が極めて少ないことを見いだした。
【0009】
そして、化合物(1)と溶剤の相溶物を含むインクは、配線等の形成に適した粘性を有するため液ダレが抑制され、印刷法により高精度の配線パターンを形成することができること、焼成工程においては、エチルセルロース等のバインダー樹脂を含むインクを焼成する場合に比べて、より低温で速やかに焼成することができ、被塗布面部材が長時間高温に曝されることにより軟化、変形することを防止できること、低温焼成でも焼成後の灰分の残存量を著しく低減することができ、これにより引き起こされていた電気特性の低下を抑制することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、印刷法によって電子デバイスを製造するためのインクに用いられる溶剤組成物であって、溶剤と下記式(1)
【化1】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む電子デバイス製造用溶剤組成物を提供する。
【0011】
本発明は、また、式(1)中のRが炭素数6~25の直鎖状若しくは分岐鎖状の、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基である前記の電子デバイス製造用溶剤組成物を提供する。
【0012】
本発明は、また、溶剤の25℃におけるSP値[(cal/cm30.5]が7.0~9.0である前記の電子デバイス製造用溶剤組成物を提供する。
【0013】
本発明は、また、溶剤が、n-デカン、n-ドデカン、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、及びジヒドロターピニルアセテートから選択される少なくとも1つである前記の電子デバイス製造用溶剤組成物を提供する。
【0014】
本発明は、また、相溶物を構成する溶剤と式(1)で表される化合物の重量比(前者:後者)が、100:0.01~100:50である、前記の電子デバイス製造用溶剤組成物を提供する。
【0015】
本発明は、また、溶剤と下記式(1)
【化2】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物とを相溶させる工程を経て、前記の電子デバイス製造用溶剤組成物を得る、電子デバイス製造用溶剤組成物の製造方法を提供する。
【0016】
本発明は、また、溶剤と下記式(1)
【化3】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む電子デバイス製造用インクを提供する。
【0017】
本発明は、また、更に、電気特性付与材を含む、前記の電子デバイス製造用インクを提供する。
【0018】
本発明は、また、バインダー樹脂含有量が10重量%以下である、前記の電子デバイス製造用インクを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子デバイス製造用溶剤組成物は適度な粘性を有する。
また、前記の適度な粘性を有する電子デバイス製造用溶剤組成物を含有するインクは液ダレしにくく、印刷法により高精度の配線パターンを形成することができる。また、より低温で焼成することができ、焼成時に被塗布面部材が長時間高温に曝されることにより軟化、変形することを防止できる。更に、焼成後の灰分の残存量を著しく低減することができ、これにより引き起こされていた電気特性の低下を抑制することができる。
従って、本発明の電子デバイス製造用溶剤組成物を使用すれば、印刷法により電気特性に優れた配線等を形成することができ、電気特性に優れた配線等を有する電子デバイスを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[電子デバイス製造用溶剤組成物]
本発明の電子デバイス製造用溶剤組成物(以後、単に「溶剤組成物」と称する場合がある)は、印刷法を用いて電子デバイスを製造するためのインクに用いられる溶剤組成物であって、溶剤と式(1)で表される化合物の相溶物を含む。
【0021】
本発明の溶剤組成物には、溶剤と化合物(1)の相溶物以外にも、その効果を損なわない範囲であれば、他の成分を含有していても良いが、本発明の溶剤組成物全量における前記相溶物の占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上である。尚、上限は100重量%である。すなわち、本発明の溶剤組成物は溶剤と化合物(1)との相溶物のみからなるものであってもよい。
【0022】
前記相溶物はその構成成分として溶剤と化合物(1)を有する。化合物(1)は溶剤の増粘効果に特に優れるため、極めて少量の使用で適度な粘性を溶剤に付与することができる。そのため、相溶物全量における化合物(1)の含有量を極めて低く抑制することができ、化合物(1)に由来する焼成後の灰分量を大幅に削減することができる。
【0023】
前記相溶物を構成する溶剤(2種以上含有する場合はその総量)と化合物(1)(2種以上含有する場合はその総量)の重量比(前者:後者)は、例えば100:0.01~100:50、好ましくは100:0.05~100:20、特に好ましくは100:0.1~100:10、最も好ましくは100:0.5~100:5、とりわけ好ましくは100:0.5~100:3である。
【0024】
前記相溶物全量(100重量%)における、化合物(1)の含有量は、例えば0.01~50重量%、好ましくは0.05~20重量%、特に好ましくは0.1~10重量%、最も好ましくは0.5~5重量%、とりわけ好ましくは0.5~3重量%である。
【0025】
化合物(1)の含有量が上記範囲を下回ると温度変化によって低粘度化する等、相溶物の粘度を安定的に維持することが困難となり、これを含むインクは液ダレ等により高精度の配線パターンを形成することが困難となる場合がある。一方、化合物(1)の含有量が上記範囲を上回ると、相溶物の粘度が高くなりすぎ、これを含むインクは印刷法による配線等の形成に使用することが困難となる場合がある。
【0026】
前記相溶物全量(100重量%)における、溶剤の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、例えば50~99.99重量%、好ましくは90~99.95重量%、特に好ましくは95~99.90重量%、最も好ましくは97~99.5重量%である。
【0027】
溶剤の含有量が上記範囲を下回ると、相溶物の粘度が高くなりすぎ、これを含むインクは印刷法による配線等の形成に使用することが困難となる場合がある。一方、溶剤の含有量が上記範囲を上回ると、温度変化によって低粘度化する等、相溶物の粘度を安定的に維持することが困難となり、これを含むインクは液ダレ等により高精度の配線パターンを形成することが困難となる場合がある。
【0028】
前記相溶物や、それを含む本発明の溶剤組成物は適度な粘性を有し、25℃における粘度[せん断速度0.5s-1における]は、例えば0.01~1000Pa・s程度、好ましくは0.1~500Pa・s、特に好ましくは1~200Pa・s、最も好ましくは30~150Pa・sである。
【0029】
(化合物(1))
本発明における化合物(1)は、後述の溶剤を増粘する作用を有する化合物であり、下記式(1)で表される。化合物(1)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化4】
【0030】
式(1)中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、3,7-ジメチルオクチル、デシル、ドデシル、ミリスチル、ステアリル、ノナデシル基等の炭素数1~30程度(好ましくは6~25、特に好ましくは6~15)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、3-ブテニル、4-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、7-オクテニル、9-デセニル、11-ドデセニル、オレイル基等の炭素数2~30程度(好ましくは6~25、特に好ましくは10~20、最も好ましくは15~20)の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、オクチニル、デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基等の炭素数2~30程度(好ましくは6~25、特に好ましくは12~20)の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
【0031】
化合物(1)としては、例えば、下記式(1-1)又は(1-2)で表される化合物を挙げることができる。下記式中、Rは上記に同じ。本発明においては、なかでも、下記式(1-1)で表される化合物が、後述の溶剤を増粘する作用に特に優れる点で好ましい。
【化5】
【0032】
化合物(1)としては、なかでも、蒸発温度が120~380℃(好ましくは150~330℃、更に好ましくは150~320℃、特に好ましくは150~315℃、最も好ましくは170~315℃)のものが好ましく、蒸発温度は、側鎖の種類によりコントロールすることができる。蒸発温度が上記範囲を上回ると、化合物(1)を低温で焼成することが困難となり、これを含むインクを焼成する際に被塗布面部材が長時間高温に曝されることにより軟化、変形する場合がある。一方、化合物(1)の蒸発温度が上記範囲を下回ると、化合物(1)と溶剤とを相溶させる際に、化合物(1)が気化することにより組成が変動し、所望の粘度を有する相溶物が得ることが困難となる傾向がある。また、化合物(1)と溶剤の相溶物を含むインクの印刷時に、化合物(1)が気化することにより粘度が過度に上昇し、精度良く印刷することが困難となる傾向がある。
【0033】
化合物(1)は、アミド結合部位において水素結合により自己会合してファイバー状の自己組織体を形成することができる。更に、R基は溶剤に対して親和性を有する。そのため、化合物(1)と溶剤とを相溶させると、化合物(1)のファイバー状の自己組織体が溶剤中において網目構造を形成することができ、それにより高分子化合物のような粘性を生じるため、溶剤が増粘され、経時的に安定な粘度を有する相溶物が形成される。
【0034】
化合物(1)は、例えば、シクロヘキサントリカルボン酸を塩化チオニルと反応させてシクロヘキサントリカルボン酸トリクロライドを得、得られたシクロヘキサントリカルボン酸トリクロライドにアミン(R-NH2:Rは前記に同じ)を反応させる方法により製造することができる。
【0035】
前記シクロヘキサントリカルボン酸としては、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,5-シクロヘキサントリカルボン酸を好適に使用することができる。
【0036】
前記アミン(R-NH2:Rは前記に同じ)としては、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、へキシルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3,7-ジメチルオクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の炭素数1以上(好ましくは炭素数1~30、特に好ましくは炭素数6~25)の脂肪族炭化水素基(例えば、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基)を有するアミンを挙げることができる。
【0037】
前記シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライドとアミンの反応は、例えばアミンを仕込んだ系内にシクロヘキサントリカルボン酸トリクロライドを滴下することにより行うことができる。アミンは、1種を単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0038】
アミンの使用量(2種以上のアミンを使用する場合はその総量)は、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド1モルに対して、例えば4~8モル程度、好ましくは4~6モルである。
【0039】
シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライドとアミンの反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の飽和又は不飽和炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;スルホラン等のスルホラン系溶媒;ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;シリコーンオイル等の高沸点溶媒等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
前記溶媒の使用量としては、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライドとアミンの総量に対して、例えば50~300重量%程度である。溶媒の使用量が上記範囲を上回ると反応成分の濃度が低くなり、反応速度が低下する傾向がある。
【0041】
シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライドとアミンの反応は、通常、常圧下で行われる。また、上記反応の雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。反応温度は、例えば30~60℃程度である。反応時間は、例えば0.5~20時間程度である。反応終了後(=滴下終了後)は、熟成工程を設けてもよい。熟成工程を設ける場合、熟成温度は例えば30~60℃程度、熟成時間は例えば1~5時間程度である。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0042】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、ろ過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0043】
(溶剤)
溶剤は、本発明の溶剤組成物に含まれる相溶物の構成成分である。本発明においては、上述の化合物(1)の溶解性に優れる溶剤を使用することが好ましい。
【0044】
前記溶剤としては、なかでも、25℃におけるSP値[(cal/cm30.5:Fedors計算値]が7.0~9.0(好ましくは7.5~9.0、特に好ましくは7.8~8.5)の範囲にある溶剤を1種又は2種以上使用することが、化合物(1)の溶解性に優れ、且つ化合物(1)を溶解する際の加熱温度を低く、例えば50~90℃程度に抑制することができる点で好ましい。SP値が上記範囲を外れる溶剤は化合物(1)の溶解性が低いため、化合物(1)を溶解する際に、より高い温度での加熱が必要となる傾向がある。
【0045】
前記溶剤としては、例えば、n-デカン(SP値:7.6)、n-ドデカン(SP値:7.7)、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(SP値:8.1)、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(SP値:8.1)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.4)、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(SP値:8.2)、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(SP値:8.2)、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル(SP値:8.0)、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(SP値:8.2)、シクロヘキシルアセテート(SP値:8.9)、2-メチルシクロヘキシルアセテート(SP値:8.5)、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート(SP値:8.2)、及びジヒドロターピニルアセテート(SP値:8.3)から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0046】
[電子デバイス製造用溶剤組成物の製造方法]
本発明の電子デバイス製造用溶剤組成物は、例えば、上記溶剤と上記化合物(1)とを相溶させる工程を経て製造することができる。
【0047】
上記溶剤と上記化合物(1)は、混合し、加熱溶解[例えば30~120℃(上限は好ましくは110℃、特に好ましくは100℃、下限は好ましくは40℃、特に好ましくは50℃、最も好ましくは70℃)の温度で加熱溶解]することによって、相溶させることができる。
【0048】
加熱溶解に要する時間は、例えば3~60分間程度(好ましくは10~30分間)である。
【0049】
加熱溶解後は、室温(例えば、1~30℃)以下にまで冷却する工程を設けることが好ましい。冷却は、室温で徐々に冷却してもよいし、氷冷等により急速に冷却してもよい。
【0050】
上記のように上記溶剤と化合物(1)を混合し、加熱溶解することで、溶剤中において、化合物(1)がファイバー状の自己組織体を形成し、更に前記自己組織体が網目構造を形成する。このことにより、溶剤が増粘され、本発明における相溶物が得られる。従って、本発明の相溶物は、溶剤が化合物(1)の自己組織体によって増粘されたものである。
【0051】
本発明の電子デバイス製造用溶剤組成物は、上記の方法で得られた相溶物に、必要に応じて他の成分を配合することで製造することができる。
【0052】
[電子デバイス製造用インク]
本発明の電子デバイス製造用インク(以後、「インク」と称する場合がある)は、印刷法によって塗布することにより電子デバイス(特に、電子デバイスの配線や電極)を形成するためのインクである。本発明のインクは、上述の、溶剤と化合物(1)の相溶物を含むことを特徴とする。
【0053】
上記相溶物の含有量は、インク全量(100重量%)の例えば1重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上、とりわけ好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。すなわち、本発明のインクは上記相溶物のみからなるものであってもよい。
【0054】
本発明のインクには、上記相溶物以外にも、必要に応じて他の成分を含有していても良い。本発明のインクは、なかでも、導電性金属材料、半導体材料、磁性材料、誘電材料、又は絶縁材料から選択される少なくとも1種の電気特性付与材を含有することが好ましい。
【0055】
前記導電性金属材料、磁性材料としては周知慣用のものを使用することができ、例えば、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、鉄、白金、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉛、コバルト、酸化鉄・酸化クロム、フェライト、及びこれらの合金等を挙げることができる。半導体材料としては周知慣用のものを使用することができ、例えば、ペンタセン、フラーレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、金属(銅、インジウム、ガリウム、セレン、砒素、カドミウム、テルル、及びこれらの合金)、シリコン微粒子等を挙げることができる。誘電材料、絶縁材料としては周知慣用のものを使用することができ、例えば、シクロオレフィンポリマー、フッ素樹脂、ブチラール樹脂、ガラス、紙、テフロン(登録商標)等を挙げることができる。
【0056】
前記電気特性付与材の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、インク全量(100重量%)の例えば0.1~30重量%程度、好ましくは0.1~20重量%、特に好ましくは0.1~10重量%、最も好ましくは0.1~5重量%、とりわけ好ましくは0.1~3重量%である。
【0057】
本発明のインク全量における上記相溶物と上記電気特性付与材の合計含有量の占める割合は、例えば60重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上、とりわけ好ましくは95重量%以上である。尚、上限は100重量%である。
【0058】
本発明のインクは、適度な粘性を有する上記相溶物を含有するため、バインダー樹脂を配合しなくても、印刷法によって電子デバイスを精度良く形成するのに適度な粘性を有する。
【0059】
本発明のインクは適度な粘性を有し、25℃における粘度[せん断速度0.5s-1における]は、例えば0.01~1000Pa・s程度、好ましくは0.1~500Pa・s、特に好ましくは1~200Pa・s、最も好ましくは30~150Pa・sである。
【0060】
そのため、本発明のインクはバインダー樹脂(例えば、エチルセルロース樹脂、アルキルセルロース樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂等の分子量10000以上の高分子化合物)を添加する必要がなく、添加する場合であっても、添加量は、インク全量(100重量%)の例えば10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。バインダー樹脂の添加量が上記範囲を上回ると、焼成によって生じるバインダー樹脂由来の灰分によって、電気特性の低下が引き起こされるため好ましくない。
【0061】
また、本発明のインクに含まれる上記相溶物は、熱分解性に優れ容易に低分子量化する。そのため、本発明のインクはエチルセルロース等のバインダー樹脂により粘度が付与されたインクに比べて低温(例えば100~350℃、好ましくは150~300℃、特に好ましくは150~250℃)で焼成することができ、焼成工程における被塗布面部材の軟化、変形を防止することができる。更に、焼成後の灰分の残存量を極めて低く低減することができ、灰分によって引き起こされる電気特性の低下を抑制することができる。
【0062】
本発明のインクによれば、印刷法により被塗布面部材(例えば、セラミック基板、グリーンシート等)に塗布、乾燥し、焼成する工程を経て電気特性(例えば、導電性又は絶縁性)に優れた配線等を精度良く形成することができる。従って、本発明のインクは、例えば、コンデンサ、インダクタ、バリスタ、サーミスタ、スピーカ、アクチュエータ、アンテナ、固体酸化物燃料電池(SOFC)等(特に、積層セラミックコンデンサ)の配線や電極製造用インクとして特に有用である。
【実施例
【0063】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0064】
調製例1[増粘剤(1):1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリ(3,7-ジメチルオクチルアミド)の合成]
ジムロート冷却管、窒素導入口、滴下ロート、及び熱電対を備えた100mL4つ口セパラブルフラスコに1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸5.0g(0.023mol)を加え、それに対して過剰量の塩化チオニル50mLを加えて、一晩還流させた。その結果、透明溶液が得られた。その後、前記透明溶液にヘキサンを加えて減圧濃縮を3回繰り返すことで、白色固体である1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリクロライドが5.9g(0.022mol)得られた。尚、前記白色固体は、FT-IRによって酸無水物ではなく酸塩化物であることを確認した。
【0065】
その後、500mLシュレンク型丸底フラスコに3,7-ジメチルオクチルアミン11.5g(0.073mol)を加え、脱水THF150mLで溶かした後、脱水トリエチルアミン25mLを加えて氷冷した。この混合溶液に対し、上記で得られた1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリクロライド5.9gの脱水THF溶液50mLを氷冷しながら全量を滴下し、0℃で1時間撹拌した。その後、室温で一晩撹拌し、次いで60℃で2時間撹拌した。
【0066】
不溶物をろ取しTHF、アセトンで洗浄し、エバポレータで減圧乾燥した後、固体を熱エタノール中に懸濁させ、更に水を加えた。不溶物をろ取し、再びアセトンで洗浄後、エバポレータで減圧乾燥した。得られた固体を熱DMSOに溶かし、室温に戻して結晶を析出させ、析出させた結晶をアセトンで洗浄し、減圧乾燥したところ、白色固体11.4g(0.018mol、収率78%)が得られた。元素分析ならびに1H-NMRにより、前記白色固体が、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリ(3,7-ジメチルオクチルアミド)であることが同定された。
【0067】
調製例2[増粘剤(2):1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリオレイルアミドの合成]
3,7-ジメチルオクチルアミンに代えてオレイルアミン19.5g(0.073mol)を使用した以外は調製例1と同様にして、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリオレイルアミド17.4g(0.018mol、収率77%)を得た。
【0068】
実施例1
調製例1で得られた増粘剤(1)を、溶剤としてのジヒドロターピニルアセテート(DHTA)に、増粘剤濃度が1重量%になるように添加し、これを液温100℃で0.5時間加熱溶解し、25℃まで放冷して、ペースト状の相溶物を得、これをインクとした。得られたインクの25℃における粘度[せん断速度0.5s-1における]は、80Pa・sであった。
【0069】
実施例2~3、比較例1~3
表1(単位:重量%)に記載の通りに処方を変更した以外は実施例1と同様にして、インクを得た。尚、比較例では増粘剤としてエチルセルロース(EC200)を使用し、これを、濃度が表1に記載の通りとなるように溶剤に添加し、液温80℃で3時間加熱溶解し、25℃で放冷してペースト状のインクを得た。
【0070】
<評価>
実施例で及び比較例で得られたインクについて、下記方法により残存灰分量、及び塗布性について評価した。
残存灰分量:
インク各20mgを、TG-DTAにて20℃から400℃まで10℃/分で昇温測定を行い、温度毎の重量を測定し、250℃における残存灰分量(インク全量に対する残存灰分の割合)を評価した。
塗布性:
スクリーン印刷機(商品名「LS-150型TVスクリーン印刷機」、ニューロング精密工業(株)製)を用い、塗布できたものを「○」、塗布できなかったものを「×」とした。
【0071】
結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0072】
表1中の略号は以下の通りである。
増粘剤
1:調製例1で得られた1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリ(3,7-ジメチルオクチルアミド)を使用した
2:調製例2で得られた1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリオレイルアミドを使用した
EC200:エチルセルロース、商品名「エトセルSTD200」、日新化成(株)製
溶剤
DPMIA:ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、(株)ダイセル製、SP値:8.0
DHTA:ジヒドロターピニルアセテート、日本香料(株)製、SP値:8.3
【0073】
表1より、増粘剤として式(1)で表される化合物を使用した実施例のインクは、増粘剤の使用量が極めて少量であっても適度な粘性を有し、優れた塗布性を発揮することができた。また、実施例のインクは低温で焼成しても、焼成後に残存する灰分量が極めて低く抑制された。それに対し、比較例のインクは、増粘剤としてエチルセルロースを使用したため、実施例のインクに比べ多量に添加しなければ、適度な粘性が得られず、増粘剤を多量に添加した結果、低温焼成後に灰分が多く残存した。以上より、従来のインクは、良好な塗布性と残存灰分量の抑制とを同時に実現することができなかったのに対し、本発明のインクは、良好な塗布性と残存灰分量の抑制とを同時に実現できることが分かった。
【0074】
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記しておく。
[1]印刷法によって電子デバイスを製造するためのインクに用いられる溶剤組成物であって、溶剤と下記式(1)
【化6】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む電子デバイス製造用溶剤組成物。
[2]式(1)中、Rは同一又は異なって、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、3,7-ジメチルオクチル、デシル、ドデシル、ミリスチル、ステアリル、ノナデシル基を含む炭素数1~30の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、3-ブテニル、4-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、7-オクテニル、9-デセニル、11-ドデセニル、オレイル基を含む炭素数2~30程度の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、オクチニル、デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基を含む炭素数2~30の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基である、[1]に記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[3]式(1)中のRが炭素数6~25の直鎖状若しくは分岐鎖状の、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基である[1]又は[2]に記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[4]前記式(1)で表される化合物が下記式(1-1)又は(1-2):
【化7】
で表される化合物である、[1]~[3]の何れか1つに記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[5]前記式(1)で表される化合物が1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリ(3,7-ジメチルオクチルアミド)又は1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリオレイルアミドである、[1]~[4]の何れか1つに記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[6]溶剤の25℃におけるSP値[(cal/cm30.5]が7.0~9.0である[1]~[5]の何れか1つに記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[7]溶剤が、n-デカン、n-ドデカン、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、及びジヒドロターピニルアセテートから選択される少なくとも1つである[1]~[6]の何れか1つに記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[8]相溶物を構成する溶剤と式(1)で表される化合物の重量比(前者:後者)が、100:0.01~100:50である、[1]~[7]の何れか1つに記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[9]前記相溶物を構成する溶剤(2種以上含有する場合はその総量)と化合物(1)(2種以上含有する場合はその総量)の重量比(前者:後者)は、100:0.01~100:50、100:0.05~100:20、100:0.1~100:10、100:0.5~100:5、100:0.5~100:3である、[8]に記載の電子デバイス製造用溶剤組成物。
[10]溶剤と下記式(1)
【化8】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物とを相溶させる工程を経て、[1]~[9]の何れか1つに記載の電子デバイス製造用溶剤組成物を得る、電子デバイス製造用溶剤組成物の製造方法。
[11]相溶時の加熱融解の温度は30~120℃であり、温度の上限は110℃または100℃、温度の下限は40℃、50℃、または70℃である、[10]に記載の電子デバイス製造用溶剤組成物の製造方法。
[12]溶剤と下記式(1)
【化9】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む電子デバイス製造用インク。
[13]前記相溶物の含有量は、インク全量100重量%の1重量%以上、10重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上であり、上限は100重量%である、[12]に記載の電子デバイス製造用インク。
[14]更に、電気特性付与材を含む、[12]又は[13]に記載の電子デバイス製造用インク。
[15]前記電気特性付与材が、導電性金属材料、半導体材料、磁性材料、誘電材料、又は絶縁材料から選択される少なくとも1種の電気特性付与材である、[14]に記載の電子デバイス製造用インク。
[16]バインダー樹脂含有量が10重量%以下である、[12]~[15]の何れか1つに記載の電子デバイス製造用インク。
[17]バインダー樹脂含有量がインク全量100重量%の10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下である、[16]に記載の電子デバイス製造用インク。
[18]溶剤と下記式(1)
【化10】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む、印刷法によって電子デバイスを製造するためのインクにおける溶剤組成物の使用。
[19]式(1)中、Rは同一又は異なって、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、3,7-ジメチルオクチル、デシル、ドデシル、ミリスチル、ステアリル、ノナデシル基を含む炭素数1~30の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、3-ブテニル、4-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、7-オクテニル、9-デセニル、11-ドデセニル、オレイル基を含む炭素数2~30程度の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、オクチニル、デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基を含む炭素数2~30の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基である、[18]に記載の溶剤組成物の使用。
[20]式(1)中のRが炭素数6~25の直鎖状若しくは分岐鎖状の、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基である[18]又は[19]に記載の溶剤組成物の使用。
[21]前記式(1)で表される化合物が下記式(1-1)又は(1-2):
【化11】
で表される化合物である、[18]~[20]の何れか1つに記載の溶剤組成物の使用。
[22]前記式(1)で表される化合物が1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリ(3,7-ジメチルオクチルアミド)又は1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリオレイルアミドである、[18]~[21]の何れか1つに記載の溶剤組成物の使用。
[23]溶剤の25℃におけるSP値[(cal/cm30.5]が7.0~9.0である[18]~[22]の何れか1つに記載の溶剤組成物の使用。
[24]溶剤が、n-デカン、n-ドデカン、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、及びジヒドロターピニルアセテートから選択される少なくとも1つである[18]~[23]の何れか1つに記載の溶剤組成物の使用。
[25]相溶物を構成する溶剤と式(1)で表される化合物の重量比(前者:後者)が、100:0.01~100:50である、[18]~[24]の何れか1つに記載の溶剤組成物の使用。
[26]前記相溶物を構成する溶剤(2種以上含有する場合はその総量)と化合物(1)(2種以上含有する場合はその総量)の重量比(前者:後者)は、100:0.01~100:50、100:0.05~100:20、100:0.1~100:10、100:0.5~100:5、100:0.5~100:3である、[25]に記載の溶剤組成物の使用。
[27]溶剤と下記式(1)
【化12】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含むインクの電子デバイス製造のための使用。
[28]前記インクにおいて、相溶物の含有量は、インク全量100重量%の1重量%以上、10重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上であり、上限は100重量%である、[27]に記載のインクの電子デバイス製造のための使用。
[29]更に、電気特性付与材を含む、[27]又は[28]に記載のインクの電子デバイス製造のための使用。
[30]前記電気特性付与材が、導電性金属材料、半導体材料、磁性材料、誘電材料、又は絶縁材料から選択される少なくとも1種の電気特性付与材である、[29]に記載のインクの電子デバイス製造のための使用。
[31]バインダー樹脂含有量が10重量%以下である、[27]~[30]の何れか1つに記載のインクの電子デバイス製造のための使用。
[32]バインダー樹脂含有量がインク全量100重量%の10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下である、[31]に記載のインクの電子デバイス製造のための使用。
[33]溶剤と下記式(1)
【化13】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含む溶剤組成物。
[34]式(1)中、Rは同一又は異なって、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、3,7-ジメチルオクチル、デシル、ドデシル、ミリスチル、ステアリル、ノナデシル基を含む炭素数1~30の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、3-ブテニル、4-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、7-オクテニル、9-デセニル、11-ドデセニル、オレイル基を含む炭素数2~30程度の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、オクチニル、デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基を含む炭素数2~30の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基である、[33]に記載の溶剤組成物。
[35]式(1)中のRが炭素数6~25の直鎖状若しくは分岐鎖状の、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基である[33]又は[34]に記載の溶剤組成物。
[36]前記式(1)で表される化合物が下記式(1-1)又は(1-2):
【化14】
で表される化合物である、[33]~[35]の何れか1つに記載の溶剤組成物。
[37]前記式(1)で表される化合物が1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリ(3,7-ジメチルオクチルアミド)又は1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸1,3,5-トリオレイルアミドである、[33]~[36]の何れか1つに記載の溶剤組成物。
[38]溶剤の25℃におけるSP値[(cal/cm30.5]が7.0~9.0である[33]~[37]の何れか1つに記載の溶剤組成物。
[39]溶剤が、n-デカン、n-ドデカン、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルイソアミルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、及びジヒドロターピニルアセテートから選択される少なくとも1つである[33]~[38]の何れか1つに記載の溶剤組成物。
[40]相溶物を構成する溶剤と式(1)で表される化合物の重量比(前者:後者)が、100:0.01~100:50である、[33]~[39]の何れか1つに記載の溶剤組成物。
[41]前記相溶物を構成する溶剤(2種以上含有する場合はその総量)と化合物(1)(2種以上含有する場合はその総量)の重量比(前者:後者)は、100:0.01~100:50、100:0.05~100:20、100:0.1~100:10、100:0.5~100:5、100:0.5~100:3である、[40]に記載の溶剤組成物。
[42]溶剤と下記式(1)
【化15】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物の相溶物を含むインク。
[43]前記相溶物の含有量は、インク全量100重量%の1重量%以上、10重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上であり、上限は100重量%である、[42]に記載のインク。
[44]更に、電気特性付与材を含む、[42]又は[43]に記載のインク。
[45]前記電気特性付与材が、導電性金属材料、半導体材料、磁性材料、誘電材料、又は絶縁材料から選択される少なくとも1種の電気特性付与材である、[44]に記載のインク。
[46]バインダー樹脂含有量が10重量%以下である、[42]~[45]の何れか1つに記載のインク。
[47]バインダー樹脂含有量がインク全量100重量%の10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下である、[46]に記載のインク。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の電子デバイス製造用溶剤組成物は適度な粘性を有する。
また、前記の適度な粘性を有する電子デバイス製造用溶剤組成物を含有するインクは液ダレしにくく、印刷法により高精度の配線パターンを形成することができる。また、より低温で焼成することができ、焼成時に被塗布面部材が長時間高温に曝されることにより軟化、変形することを防止できる。更に、焼成後の灰分の残存量を著しく低減することができ、これにより引き起こされていた電気特性の低下を抑制することができる。
従って、本発明の電子デバイス製造用溶剤組成物を使用すれば、印刷法により電気特性に優れた配線等を形成することができ、電気特性に優れた配線等を有する電子デバイスを効率よく製造することができる。