(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20220728BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220728BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220728BHJP
C01B 37/04 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/10
B01D69/12
C01B37/04
(21)【出願番号】P 2020508142
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2019008371
(87)【国際公開番号】W WO2019181459
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018056676
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018056677
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】三浦 綾
(72)【発明者】
【氏名】吉村 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084845(WO,A1)
【文献】特表2016-515921(JP,A)
【文献】特開2014-198308(JP,A)
【文献】特開2017-136595(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157323(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D71/02、69/10、69/12
C01B37/04、39/46、39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)水熱合成にてゼオライトを生成し、前記ゼオライトから種結晶を取得する工程と、
b)多孔質の支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、
c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
を備え、
前記a)工程は、
a1)第1の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより原結晶を粉砕する工程と、
a2)前記a1)工程にて粉砕された前記原結晶を、前記第1の回転数よりも低い第2の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより粉砕する工程と、
を含み、
前記a1)工程および前記a2)工程における前記原結晶の合計粉砕時間は7日以下であり、
前記a)工程において取得される前記種結晶の比表面積が、10m
2
/g以上かつ150m
2
/g以下であり、
前記種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度が、アモルファス成分による強度の1倍以上かつ30倍以下であり、
前記ゼオライト膜の一部が、前記ゼオライト膜と前記支持体との界面から前記支持体の気孔内に浸入しており、
前記界面に垂直な深さ方向に関し、前記支持体の内部における前記ゼオライト膜を構成する一の主要元素について、前記ゼオライト膜中における原子百分率Aに対する、前記支持体内部における原子百分率Bを前記支持体の気孔率Cで除算した値の比(B/C)/Aが0.8である位置と、前記界面との間の距離が0.01μm以上かつ5μm以下であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記距離が4μm以下であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記距離が3μm以下であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項
1ないし
3のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記距離が、前記ゼオライト膜が形成される表面近傍における前記支持体の平均細孔径の50倍以下であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項5】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)水熱合成にてゼオライトを生成し、前記ゼオライトから種結晶を取得する工程と、
b)多孔質の支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、
c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
を備え、
前記a)工程は、
a1)第1の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより原結晶を粉砕する工程と、
a2)前記a1)工程にて粉砕された前記原結晶を、前記第1の回転数よりも低い第2の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより粉砕する工程と、
を含み、
前記a1)工程および前記a2)工程における前記原結晶の合計粉砕時間は7日以下であり、
前記a)工程において取得される前記種結晶の比表面積が、10m
2
/g以上かつ150m
2
/g以下であり、
前記種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度が、アモルファス成分による強度の1倍以上かつ30倍以下であり、
前記ゼオライト膜の一部が、前記ゼオライト膜と前記支持体との界面から前記支持体の気孔内に浸入しており、
前記界面に垂直な深さ方向に関し、前記支持体の内部における前記ゼオライト膜を構成する一の主要元素について、前記ゼオライト膜中における原子百分率Aに対する、前記支持体内部における原子百分率Bを前記支持体の気孔率Cで除算した値の比(B/C)/Aが0.8である位置と、前記界面との間の距離が、0.01μm以上、かつ、前記ゼオライト膜が形成される表面近傍における前記支持体の平均細孔径の50倍以下であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項
1ないし
5のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記b)工程において、前記種結晶が、前記支持体の表面のうち前記ゼオライト膜複合体の製造時における略鉛直面または下向きの面に付着されることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上にゼオライト膜が形成されたゼオライト膜複合体に関連する。
【背景技術】
【0002】
現在、支持体上にゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体とすることにより、ゼオライトを利用した特定のガスの分離や分子の吸着等の用途の様々な研究や開発が行われている。支持体が多孔質である場合、ゼオライト膜の一部は、ゼオライト膜と支持体との界面から支持体の気孔内に浸入している。ゼオライトの支持体への浸入深さが浅いと、ゼオライト膜と支持体との密着性が低く、ゼオライト膜の剥離が生じる可能性がある。一方、ゼオライトの支持体への浸入深さが深いと、透過抵抗が大きくなり、ガスの透過速度が小さくなる。国際公開第2016/084845号(文献1)では、支持体内のゼオライトの浸入層の末端を、支持体表面から支持体内部へと垂直方向に向かう直線上に初めて空隙が現れる部位と定義し、当該末端と支持体表面との間の距離を浸入層の厚さとしている。
【0003】
ところで、ゼオライト膜複合体では、支持体において上述の空隙よりも内部にゼオライトが浸入している場合がある。文献1では、空隙よりも内部のゼオライトによる透過抵抗の増大は考慮されていない。したがって、文献1のゼオライト膜複合体では、ゼオライトの浸入層を所定の厚さとしたにも関わらず、ガスの透過速度が所望の速度よりも小さくなるおそれがある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ゼオライト膜複合体に向けられており、ゼオライト膜の支持体への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体の透過性を向上することを目的としている。
【0011】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)水熱合成にてゼオライトを生成し、前記ゼオライトから種結晶を取得する工程と、b)多孔質の支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程とを備える。前記c)工程の後に、d)前記ゼオライト膜から構造規定剤を除去する工程をさらに備えてもよい。前記a)工程は、a1)第1の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより原結晶を粉砕する工程と、a2)前記a1)工程にて粉砕された前記原結晶を、前記第1の回転数よりも低い第2の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより粉砕する工程と、を含む。前記a1)工程および前記a2)工程における前記原結晶の合計粉砕時間は7日以下である。前記a)工程において取得される前記種結晶の比表面積が、10m
2
/g以上かつ150m
2
/g以下である。前記種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度が、アモルファス成分による強度の1倍以上かつ30倍以下である。前記ゼオライト膜の一部は、前記ゼオライト膜と前記支持体との界面から前記支持体の気孔内に浸入している。前記界面に垂直な深さ方向に関し、前記支持体の内部における前記ゼオライト膜を構成する一の主要元素について、前記ゼオライト膜中における原子百分率Aに対する、前記支持体内部における原子百分率Bを前記支持体の気孔率Cで除算した値の比(B/C)/Aが0.8である位置と、前記界面との間の距離は0.01μm以上かつ5μm以下である。本発明によれば、ゼオライト膜の支持体への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体の透過性を向上することができる。
【0012】
好ましくは、前記距離は4μm以下である。より好ましくは、前記距離は3μm以下である。
好ましくは、前記距離は、前記ゼオライト膜が形成される表面近傍における前記支持体
の平均細孔径の50倍以下である。
【0013】
本発明の他の好ましい形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)水熱合成にてゼオライトを生成し、前記ゼオライトから種結晶を取得する工程と、b)多孔質の支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程とを備える。前記c)工程の後に、d)前記ゼオライト膜から構造規定剤を除去する工程をさらに備えてもよい。前記a)工程は、a1)第1の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより原結晶を粉砕する工程と、a2)前記a1)工程にて粉砕された前記原結晶を、前記第1の回転数よりも低い第2の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより粉砕する工程と、を含む。前記a1)工程および前記a2)工程における前記原結晶の合計粉砕時間は7日以下である。前記a)工程において取得される前記種結晶の比表面積が、10m
2
/g以上かつ150m
2
/g以下である。前記種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度が、アモルファス成分による強度の1倍以上かつ30倍以下である。前記ゼオライト膜の一部は、前記ゼオライト膜と前記支持体との界面から前記支持体の気孔内に浸入している。前記界面に垂直な深さ方向に関し、前記支持体の内部における前記ゼオライト膜を構成する一の主要元素について、前記ゼオライト膜中における原子百分率Aに対する、前記支持体内部における原子百分率Bを前記支持体の気孔率Cで除算した値の比(B/C)/Aが0.8である位置と、前記界面との間の距離は、0.01μm以上、かつ、前記ゼオライト膜が形成される表面近傍における前記支持体の平均細孔径の50倍以下である。本発明によれば、ゼオライト膜の支持体への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体の透過性を向上することができる。
【0015】
好ましくは、前記b)工程において、前記種結晶が、前記支持体の表面のうち前記ゼオライト膜複合体の製造時における略鉛直面または下向きの面に付着される。
【0016】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
【
図4】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るゼオライト膜複合体1の断面図である。ゼオライト膜複合体1は、支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12とを備える。
図1に示す例では、支持体11は、長手方向(すなわち、図中の上下方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられた略円柱状のモノリス型支持体である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。
図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または角柱状等であってもよい。
【0019】
本実施の形態では、支持体11はガスを透過可能な多孔質であり、ゼオライト膜12はガス分離膜である。ゼオライト膜12は分子篩作用を利用する分子分離膜として他の用途に用いられてもよい。例えば、ゼオライト膜12は浸透気化膜としても利用可能である。ゼオライト膜複合体1は、さらに他の用途に利用されてもよい。ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、ゼオライト膜12がガス分離膜として使用される場合は、ガスの透過量と分離性能の観点から、最大員環数が酸素8員環のゼオライトによりゼオライト膜12が形成されることが好ましい。
【0020】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々なものが採用可能である。支持体11の材料として、例えば、セラミックス焼結体、金属、有機高分子、ガラス、カーボン等を挙げることができる。セラミックス焼結体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄、ブロンズ、ステンレス鋼等が挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド等が挙げられる。
【0021】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0022】
支持体11の長さは、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。支持体11の形状がモノリス状である場合、隣接する貫通孔の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の形状が管状や平板状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0023】
支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。
【0024】
ゼオライト膜12がガス分離膜として利用される場合、好ましくは、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は、他の部位の平均細孔径よりも小さい。このような構造を実現するために、支持体11は多層構造を有する。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができ、それぞれは同じでもよいし異なっていてもよい。平均細孔径は、水銀ポロシメータ、パームポロメータ、ナノパームポロメータ等によって測定することができる。支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、好ましくは、20%~60%である。このような構造は、好ましくは、表面から1μm~50μmの範囲に設けられる。
【0025】
支持体11の細孔径の分布について、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。
【0026】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは、0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。ゼオライト膜12を厚くするとガス分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くするとガス透過速度が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0027】
ゼオライト膜12は、例えば、構造がSAT型であるゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「SAT」であるゼオライトである。なお、ゼオライト膜12は、SAT型のゼオライトには限定されず、他の構造を有するゼオライトであってもよい。ゼオライト膜12は、例えば、AEI型、AFN型、AFX型、CHA型、DDR型、ERI型、GIS型、LEV型、LTA型、RHO型等のゼオライトであってもよい。ゼオライト膜12は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか2つ以上、または、Siを含有する。本実施の形態では、ゼオライト膜12は、少なくともAl、PおよびO(酸素)を含有する。換言すれば、ゼオライト膜12は、Al原子、P原子、O原子から構成されるリン酸アルミニウム(AlPO)系ゼオライトである。ゼオライト膜12を構成するゼオライトの最大員環数は、好ましくは、6または8である。より好ましくは、ゼオライト膜12は、最大員環数が8員環のゼオライトである。ゼオライト膜12の細孔径は、例えば、0.30nm×0.55nmである。既述のように、支持体11の材料としては様々なものが採用可能である。ゼオライト膜12がAlPO系である場合、支持体11は、アルミナ焼結体もしくはムライト焼結体であることが好ましい。
【0028】
図2は、ゼオライト膜複合体1のうち、ゼオライト膜12と支持体11との界面113近傍の部位を拡大して示す断面図である。界面113は、支持体11の貫通孔111(
図1参照)の内側面である。ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の一部が、界面113から支持体11の気孔内に浸入している。
図2では、ゼオライト膜12、および、支持体11のうちゼオライト膜12が浸入している部位に平行斜線を付す。また、支持体11内に浸入しているゼオライト膜12の端部(すなわち、内端部)を二点鎖線114にて示す。界面113に垂直な方向(以下、「深さ方向」と呼ぶ。)において、ゼオライト膜12の内端部114の位置は、以下の方法により求められる。ゼオライト膜12の内端部114の位置は、必ずしも、支持体11内にゼオライトが存在しなくなる臨界位置とは一致する必要はない。
【0029】
ゼオライト膜12の内端部114の位置を求める際には、まず、走査型電子顕微鏡(SEM)により、ゼオライト膜複合体1の断面を観察し、支持体11とゼオライト膜12との界面113の深さ方向における位置、および、支持体11の気孔率Cを求める。また、ゼオライト膜複合体1の断面において、ゼオライト膜12を構成する一の主要元素(例えば、P)について、ゼオライト膜12中における原子百分率A、および、支持体11内部における原子百分率Bを、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて求める。原子百分率Bは、支持体11内部におけるゼオライト膜12を構成する上記一の主要元素の原子百分率である。次に、原子百分率Bを支持体11の気孔率Cで除算した値であるB/Cが求められ、原子百分率Aに対するB/Cの比(以下、「元素内外比」と呼ぶ。)である(B/C)/Aが求められる。そして、界面113に垂直な深さ方向に関し、元素内外比(B/C)/Aが0.8である位置が、ゼオライト膜12の内端部114の深さ方向における位置として求められる。
【0030】
ゼオライト膜12の内端部114の位置の具体的な求め方について、以下に例示する。上述の界面113の位置を求める際には、例えば、SEM画像の観察者により、ゼオライト膜12と支持体11との境界と考えられる位置に1本の直線が設定され、当該直線に平行な直線が深さ方向に複数設定される。そして、各直線上においてゼオライトが占める割合をSEM画像から求め、ゼオライトの占める割合が60%になる直線の位置を、支持体11とゼオライト膜12との界面113の位置として決定する。なお、界面113、および、ゼオライト膜12と支持体11との境界近傍に設定される上記複数の直線は、必ずしもゼオライト膜12の表面121に平行である必要はない。
【0031】
界面113の位置は、他の様々な方法により求められてもよい。例えば、ゼオライト膜12の表面121が略平滑でゼオライト膜12の膜厚が略均一な場合、SEM画像においてゼオライト膜12の表面121を直線にて定義した上で、当該表面121を示す直線に平行な界面113の位置を、上記と略同様の方法により決定してもよい。
【0032】
支持体11の気孔率Cは、SEM画像において、支持体11に浸入したゼオライト膜12が明らかに到達していないと判断できる位置(例えば、界面113から深さ方向に約10μm離間した位置)において、ゼオライト膜複合体1のSEM画像を既知の気孔率算出方法にて解析することにより求められる。気孔率Cの算出位置は、すなわち、ゼオライト膜12の内端部114よりも界面113から離れている位置である。気孔率Cは、好ましくは、支持体11の貫通孔111の内側面上における複数の位置にて求められた気孔率の平均値である。気孔率Cの算出は、界面113近傍における支持体11の気孔率と同程度の気孔率を有する深さ方向の位置にて行われる。
【0033】
上記一の主要元素は、ゼオライト膜12を構成する元素のうち、ゼオライトの骨格構造を主に構成する1つの元素であることが好ましい。原子百分率Aおよび原子百分率Bは、EDSにより組成分析することにより求められる。原子百分率Aおよび原子百分率Bが求められる上記一の主要元素は、ゼオライト膜12に含まれる元素であり、かつ、支持体11の主要元素ではないことが好ましい。また、当該一の主要元素は、支持体11に実質的に含まれていない元素であることがさらに好ましい。上記一の主要元素が支持体11に実質的に含まれていない元素である場合には、原子百分率BはEDSにより直接的に求めた値となる。当該一の主要元素は、支持体11において、不純物等の不可避的に含有される元素であってもよい。
【0034】
ゼオライト膜複合体1では、支持体11内部に浸入しているゼオライト膜12の内端部114(すなわち、元素内外比(B/C)/Aが0.8である位置)と、界面113との間の深さ方向の距離Dは、5μm以下であることが好ましく、より好ましくは4μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。以下の説明では、当該距離Dを「ゼオライト膜12の浸入深さD」とも呼ぶ。ゼオライト膜12の浸入深さDは、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。ゼオライト膜12の浸入深さDは、ゼオライト膜が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の50倍以下であることが好ましく、40倍以下であることがより好ましく、30倍以下であることがさらに好ましい。また、ゼオライト膜12の浸入深さDは、ゼオライト膜が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。なお、支持体11内部で(B/C)/A)が0.8未満となる領域の透過抵抗は小さい。
【0035】
図3および
図4は、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例を示す図である。まず、水熱合成によりゼオライト粉末が生成され、当該ゼオライト粉末から原結晶が取得される。原結晶は、Si、AlおよびPのうちいずれか2つ以上、または、Siを含有する。原結晶は、例えば、SAT型のゼオライトである。本実施の形態では、原結晶は、少なくともAl、PおよびOを含有する。換言すれば、原結晶はAlPO系ゼオライトである。上述の水熱合成では、アルミニウム源として、例えば、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシドまたはアルミナゾルが用いられる。
【0036】
続いて、種結晶が形成される(ステップS11)。原結晶を粉砕することにより種結晶が形成される場合、
図4に示すように、ステップS111では、例えば、原結晶は純水等の液体に分散した状態でボールミルまたはビーズミルに投入される。そして、第1の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルにより、原結晶が所定時間粉砕される(ステップS111)。次に、ボールミルまたはビーズミルの回転数が、第1の回転数よりも低い第2の回転数に変更される。第1の回転数に対する第2の回転数の割合は、例えば、15%以上かつ80%以下である。当該割合は、より好ましくは20%以上かつ70%以下であり、さらに好ましくは30%以上かつ60%以下である。
【0037】
そして、ステップS111にて粉砕された原結晶が、第2の回転数にて回転するボールミルまたはビーズミルによって所定時間粉砕されることにより、種結晶が形成される(ステップS112)。ステップS11における原結晶の粉砕時間は、例えば、2日以上かつ13日以下である。原結晶の粉砕時間は、好ましくは、2日以上かつ7日以下である。ステップS111の粉砕時間は、例えば、5時間以上かつ48時間以内である。当該粉砕時間は、より好ましくは10時間以上かつ40時間以内であり、さらに好ましくは15時間以上30時間以内である。なお、ステップS11では、水熱合成により生成されたゼオライト粉末(すなわち、原結晶)は、必ずしも粉砕される必要はなく、例えば、粉砕されることなくそのまま種結晶として用いられてもよい。
【0038】
ステップS11において取得された種結晶は、例えば、SAT型のゼオライトである。種結晶は、Si、AlおよびPのうちいずれか2つ以上、または、Siを含有する。本実施の形態では、種結晶は、少なくともAl、PおよびOを含有する。換言すれば、種結晶はAlPO系ゼオライトである。種結晶の比表面積は、例えば、10m2/g以上かつ150m2/g以下である。種結晶の比表面積は、BET1点法により求められる。
【0039】
また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度(すなわち、ピーク強度)は、例えば、アモルファス成分による強度の1倍以上かつ30倍以下である。より好ましくは、結晶成分による強度はアモルファス成分による強度の1倍以上かつ20倍以下である。さらに好ましくは、結晶成分による強度はアモルファス成分による強度の1.2倍以上かつ20倍以下である。ゼオライト結晶は、その結晶構造に応じて、回折角2θ=12°~25°の範囲に強い回折ピークを示すことが知られている。そのため、回折角2θ=12°~25°の範囲での最大ピークを対象とすることにより、結晶成分とアモルファス成分とを評価することが可能である。
【0040】
X線回折に用いるX線は、CuKα線である。また、X線の出力は、600Wである。X線の種類や出力を規定することにより、結晶成分およびアモルファス成分の定量的な評価が可能である。当該X線回折では、管電圧40kV、管電流15mA、走査速度5°/min、走査ステップ0.02°とする。検出器は、シンチレーションカウンターを使用する。発散スリット1.25°、散乱スリット1.25°、受光スリット0.3mm、入射ソーラースリット5.0°、受光ソーラースリット5.0°とする。モノクロメーターは使用せず、CuKβ線フィルターとして0.015mm厚ニッケル箔を使用する。例えば、X線回折パターンの測定には、株式会社リガク製MiniFlex600を使用することができる。また、X線回折パターンの測定は、測定粉末を十分な深さの試料ホルダに緻密に詰めて行われる。
【0041】
アモルファス成分による強度とは、X線回折パターンにおける底部のライン、すなわち、バックグラウンドノイズ成分の高さである。結晶成分による強度とは、X線回折パターンにおいてアモルファス成分による強度を示す高さを除いた高さである。上述のX線回折パターンにおける底部のラインは、例えば、Sonneveld-Visser法またはスプライン補間法により求められる。
【0042】
続いて、支持体11が準備される(ステップS12)。そして、種結晶を分散させた溶液に支持体11が浸漬され、種結晶が支持体11上に付着される(ステップS13)。支持体11は、例えば、長手方向が重力方向に略平行な状態で当該溶液に浸漬される。すなわち、各貫通孔111の内側面は、重力方向に略平行な略鉛直面(すなわち、法線が実質的に水平方向を向く面)である。各貫通孔111には、種結晶を分散させた上記溶液が充填される。そして、各貫通孔111内の溶液が、支持体11の外側面から支持体11を介して吸引され、支持体11の外部へと排出される。当該溶液に含まれる種結晶は、支持体11を通過することなく、各貫通孔111の内側面上に留まって当該内側面に付着する。これにより、種結晶付着支持体が製造される。なお、種結晶は、他の手法により支持体11上に付着されてもよい。
【0043】
ステップS13において種結晶が付着された支持体11(すなわち、種結晶付着支持体)は、原料溶液に浸漬される。そして、水熱合成により当該種結晶を核としてゼオライトを成長させて、支持体11上にゼオライト膜12が形成される(ステップS14)。水熱合成時の温度は、好ましくは、110~200℃である。このとき、原料溶液中のアルミニウム源、リン源、構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等の配合割合等を調整することにより、緻密なゼオライト膜12を得ることができる。その後、加熱によりゼオライト膜12中のSDAが分解されて除去される(ステップS15)。ステップS15では、ゼオライト膜12中のSDAは、全て除去されてもよく、一部が残っていてもよい。
【0044】
次に、
図5を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。
図5は、分離装置2を示す図である。分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0045】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0046】
混合物質は、例えば、水素(H2)、ヘリウム(He)、窒素(N2)、酸素(O2)、水(H2O)、水蒸気(H2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物、アンモニア(NH3)、硫黄酸化物、硫化水素(H2S)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH3)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0047】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等のNOX(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0048】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)等のSOX(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0049】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF2)、二フッ化硫黄(SF2)、四フッ化硫黄(SF4)、六フッ化硫黄(SF6)または十フッ化二硫黄(S2F10)等である。
【0050】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C2~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ノルマルブタン(CH3(CH2)2CH3)、イソブタン(CH(CH3)3)、1-ブテン(CH2=CHCH2CH3)、2-ブテン(CH3CH=CHCH3)またはイソブテン(CH2=C(CH3)2)である。
【0051】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH2O2)、酢酸(C2H4O2)、シュウ酸(C2H2O4)、アクリル酸(C3H4O2)または安息香酸(C6H5COOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(C2H6O3S)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0052】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CH3CH(OH)CH3)、エチレングリコール(CH2(OH)CH2(OH))またはブタノール(C4H9OH)等である。
【0053】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(C2H5SH)または1-プロパンチオール(C3H7SH)等である。
【0054】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0055】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CH3)2O)、メチルエチルエーテル(C2H5OCH3)またはジエチルエーテル((C2H5)2O)等である。
【0056】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CH3)2CO)、メチルエチルケトン(C2H5COCH3)またはジエチルケトン((C2H5)2CO)等である。
【0057】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CH3CHO)、プロピオンアルデヒド(C2H5CHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(C3H7CHO)等である。
【0058】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0059】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、2つのシール部材23とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22内に収容される。
【0060】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、
図5中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガス等の流入および流出は可能である。
【0061】
外筒22は、略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、
図5中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0062】
2つのシール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。
図5に示す例では、シール部材23は、封止部21の外側面に密着し、封止部21を介してゼオライト膜複合体1の外側面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。
【0063】
混合ガスの分離が行われる際には、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給される。例えば、混合ガスの主成分は、CO2およびCH4である。混合ガスには、CO2およびCH4以外のガスが含まれていてもよい。外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~20.0MPaである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~200℃である。
【0064】
外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、CO2であり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内側面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、CH4であり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される。支持体11の外側面から導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して回収される。第2排出ポート223を介して回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPa)である。
【0065】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して回収される。第1排出ポート222を介して回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0066】
次に、ゼオライト膜複合体1の製造の一の実施例について説明する。
【0067】
<種結晶の作製>
アルミニウム源、リン源、SDA(構造規定剤)として、それぞれアルミニウムイソプロポキシド、85%リン酸、水酸化1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアットを純水に溶解させ、組成が1Al2O3:1P2O5:0.8SDA:200H2Oの原料溶液を作製した。当該原料溶液を190℃にて50時間水熱合成した。当該水熱合成によって得られた原結晶を回収し、純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。X線回折測定の結果、得られた原結晶はSAT型ゼオライトの結晶であった。
【0068】
当該原結晶を7~8重量%となるよう純水に投入し、ボールミルによって2日間、7日間および14日間粉砕したものをそれぞれ、3種類の種結晶とした。X線回折測定の結果、得られた各種結晶はSAT型ゼオライトの結晶であった。原結晶の粉砕時間にかかわらず、粉砕の前半は回転数330rpmにて原結晶の粉砕を行い、粉砕の後半は回転数170rpmにて原結晶の粉砕を行った。前半の粉砕時間は1日とした。
【0069】
原結晶の合計粉砕時間(すなわち、前半の粉砕時間と後半の粉砕時間との合計)が2日間の場合、種結晶の比表面積は、約21m2/gであった。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の約23倍であった。最大ピークを示す回折角2θは21°であった。
【0070】
原結晶の合計粉砕時間が7日間の場合、種結晶の比表面積は、約59m2/gであった。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の約1.3倍であった。最大ピークを示す回折角2θは21°であった。
【0071】
原結晶の合計粉砕時間が14日間の場合、種結晶の比表面積は、約103m2/gであった。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の約0.3倍であった。最大ピークを示す回折角2θは21°であった。
【0072】
上記のように、原結晶の合計粉砕時間が長くなるに従って、上述の結晶成分による強度のアモルファス成分による強度に対する割合は小さくなった。すなわち、原結晶の粉砕により結晶成分が減少し、アモルファス成分が増加した。
【0073】
<ゼオライト膜の作製>
モノリス型のアルミナ製多孔質支持体11を準備した。ゼオライト膜が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.1μmである。支持体11を種結晶を分散させた溶液に浸漬し、種結晶を支持体11の各貫通孔111の内側面に付着させた。その後、アルミニウム源、リン源、SDAとして、それぞれアルミニウムイソプロポキシド、85%リン酸、水酸化1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアットを純水に溶解させ、組成が1Al2O3:2P2O5:2.3SDA:1000H2Oの原料溶液を作製した。
【0074】
当該原料溶液に種結晶を付着させた支持体11を浸漬し、170℃にて50時間水熱合成した。これにより、支持体11上にSAT型のゼオライト膜12が形成された。水熱合成後、支持体11およびゼオライト膜12を純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。X線回折測定の結果、得られたゼオライト膜12はSAT型ゼオライトであった。
【0075】
支持体11およびゼオライト膜12の乾燥後、ゼオライト膜12のN2(窒素)透過量を測定した。合計粉砕時間が2日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜12、および、合計粉砕時間が7日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜12のN2透過量は、0.005nmol/m2・s・Pa以下であった。これにより、合計粉砕時間が2日間から7日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜12は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜12を500℃にて50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させた。
【0076】
一方、合計粉砕時間が14日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜のN2透過量は、0.2nmol/m2・s・Paであり、合計粉砕時間が2日間から7日間の種結晶を使用した場合に比べて、ゼオライト膜が好適に成長していないことが確認された。なお、合計粉砕時間が長く種結晶中の結晶成分が少なくなった場合は、水熱合成条件を変更することでゼオライト膜の緻密性が向上する場合がある。例えば、水熱合成時間を長くすることにより、実用可能な程度の緻密性を有するゼオライト膜が得られる場合がある。合計粉砕時間が14日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜についても、170℃にて100時間水熱合成を行ってゼオライト膜を形成することで、N2透過量は0.005nmol/m2・s・Pa以下まで緻密化することができた。
【0077】
<ガス分離試験>
次に、
図5に概略構造を示す装置にて混合ガスの分離試験を実施した。上述のように、ゼオライト膜12は、支持体11が有する複数の貫通孔111の内側面に形成されている。支持体11の両端部はガラス21にて封止され、支持体11は外筒22内に収められる。この状態で、混合ガスが矢印251にて示すように支持体11の各貫通孔111内に導入され、外筒22に設けられた第2排出ポート223からゼオライト膜12を透過したガスが矢印253にて示すように回収される。
【0078】
分離試験でのガス導入圧は、0.2MPaGである。上記混合ガスとして、CO2とCH4との比が50:50であるものを用いた。その結果、合計粉砕時間が2日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜12におけるCO2/CH4のパーミアンス比は1750であった。また、合計粉砕時間が7日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜12におけるCO2/CH4のパーミアンス比は1800であった。これにより、合計粉砕時間が2日間から7日間の種結晶を使用して形成したゼオライト膜12は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。なお、合計粉砕時間が14日間の種結晶を使用し、170℃で100時間水熱合成を行って形成したゼオライト膜12におけるCO2/CH4のパーミアンス比は200であり、合計粉砕時間が2日間から7日間のゼオライト膜12と比較すると分離性能は低いものの、上記混合ガスを分離することを確認した。
【0079】
次に、表1および表2を参照しつつ、ゼオライト膜12の浸入深さDと、ゼオライト膜複合体1のガス透過時の圧力損失との関係を示す実験例および比較例について説明する。実験例1~2は、上述の製造方法により、支持体11上にゼオライト膜12を生成したゼオライト膜複合体1である。実験例1~2では、種結晶取得時における原結晶の合計粉砕時間は2日間から7日間である。比較例1は、種結晶取得時における原結晶の合計粉砕時間を14日間に変更し、水熱合成時間を2倍の時間とした点を除き、実験例1~2と略同様の製造方法によりゼオライト膜を生成したゼオライト膜複合体である。
【0080】
実験例3のゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12はDDR型のゼオライトである。実験例3のゼオライト膜12は、主要元素としてSiを含む。実験例3では、種結晶取得時における原結晶の合計粉砕時間を2日間としたところ、種結晶の比表面積は、約15m2/gであった。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の約29倍であった。最大ピークを示す回折角2θは17°であった。ゼオライト膜12は、国際公開番号WO2011/105511の実施例1に記載されている方法により作成した。ゼオライト膜12のN2透過量は、0.005nmol/m2・s・Pa以下であり、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜12を500℃にて50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させた。
【0081】
実験例4のゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12はCHA型のゼオライトである。実験例4のゼオライト膜12は、主要元素としてSiを含む。実験例4では、種結晶取得時における原結晶の合計粉砕時間を2日間としたところ、種結晶の比表面積は、約30m2/gであった。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の約10倍であった。最大ピークを示す回折角2θは21°であった。ゼオライト膜12は、特開2014-198308号公報の「チャバサイト型ゼオライト膜の形成」として記載されている方法により、当該公報の比較例2を参考にして作成した。ゼオライト膜12のN2透過量は、0.005nmol/m2・s・Pa以下であり、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜12を500℃にて50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させた。
【0082】
比較例2は、実験例4の種結晶取得時における原結晶の合計粉砕時間を14日間に変更してCHA型のゼオライト膜を形成したゼオライト膜複合体である。比較例2における種結晶の比表面積は、約65m2/gであった。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の約0.7倍であった。最大ピークを示す回折角2θは21°であった。比較例2については、実験例4と同じ水熱合成条件では膜の緻密性が低かったため、合成時間を実験例4の2倍の時間とした。これにより形成されたゼオライト膜のN2透過量は、0.005nmol/m
2
・s・Pa以下となり、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜を500℃にて50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜内の微細孔を貫通させた。
【0083】
表1では、実験例1~2のゼオライト膜複合体1について、一の主要元素であるPのゼオライト膜12中における原子百分率A、支持体11内部におけるPの原子百分率B、支持体11の気孔率C、および、元素内外比(B/C)/Aを示す。比較例1についても同様である。また、実験例3~4のゼオライト膜複合体1について、一の主要元素であるSiのゼオライト膜12中における原子百分率A、支持体11内部におけるSiの原子百分率B、支持体11の気孔率C、および、元素内外比(B/C)/Aを示す。比較例2についても同様である。原子百分率Bおよび元素内外比(B/C)/Aについては、界面113からの深さが異なる複数の位置における値を示す。
【0084】
表2では、実験例1~4のゼオライト膜複合体1について、表1の測定結果から求められたゼオライト膜12の浸入深さD、および、ゼオライト膜複合体1の圧力損失を示すパラメータであるCO2透過量(nmol/m2・s・Pa)を示す。比較例1~2についても同様である。なお、実験例1~2の支持体11、および、比較例1の支持体を構成する元素には、Pは実質的に含まれていない。また、実験例3~4の支持体11、および、比較例2の支持体を構成する元素には、Siは実質的に含まれていない。
【0085】
【0086】
【0087】
実験例1~4では、ゼオライト膜12の浸入深さDは5μm以下であり、CO2透過量は1000以上である。したがって、実験例1~4では、ゼオライト膜複合体1のガス透過時の圧力損失が、好ましい範囲内である。比較例1,2では、ゼオライト膜の浸入深さDは5μmよりも大きく、CO2透過量は500以下である。したがって、比較例1~2では、ゼオライト膜複合体1のガス透過時の圧力損失が大きく、透過性が低下する。なお、実験例1~4および比較例1~2について、ゼオライト膜の厚みそのものは全て同程度であり、約5μmであった。なお、実験例2,4および比較例1~2について、SEMにて支持体内部の観察を行ったところ、ゼオライト膜と支持体との界面に垂直な深さ方向において初めて空隙(すなわち、支持体の孔による空隙)が観察された位置は同程度であり、当該界面から約2~3μmであった。
【0088】
以上に説明したように、ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜12の一部は、ゼオライト膜12と支持体11との界面113から支持体11の気孔内に浸入している。ゼオライト膜12を構成する一の主要元素について、界面113に垂直な深さ方向に関し、元素内外比(B/C)/Aが0.8である位置と界面113との間の距離D(すなわち、ゼオライト膜12の浸入深さD)は、5μm以下であることが好ましい。B/Cは、支持体11内部における当該一の主要元素の原子百分率Bを支持体11の気孔率Cで除算した値である。元素内外比(B/C)/Aは、ゼオライト膜12中における当該一の主要元素の原子百分率Aに対する当該値の比である。
【0089】
このように、ゼオライト膜12の一部を支持体11の気孔内に浸入させるとともに、ゼオライト膜12の浸入深さDを5μm以下とすることにより、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体1の透過性を向上することができる。ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の浸入深さDを4μm以下とすることにより、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体1の透過性をさらに向上することができる。また、ゼオライト膜12の浸入深さDを3μm以下とすることにより、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体1の透過性をより一層向上することができる。ゼオライト膜12の支持体11への密着性向上の観点からは、ゼオライト膜12の浸入深さDは、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。
【0090】
また、ゼオライト膜12を構成する一の主要元素について、界面113に垂直な深さ方向に関し、元素内外比(B/C)/Aが0.8である位置と界面113との間の距離D(すなわち、ゼオライト膜12の浸入深さD)は、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の50倍以下であることが好ましい。これにより、上記と同様に、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体1の透過性を向上することができる。また、ゼオライト膜12の浸入深さDは、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の1倍以上であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜12への支持体11への密着性を向上することができる。
【0091】
ゼオライト膜複合体1では、上述の一の主要元素は、支持体11に実質的に含まれていない元素であることが好ましい。これにより、当該一の元素の支持体11内部における原子百分率Bを容易に求めることができる。その結果、ゼオライト膜12の浸入深さDを容易に求めることができる。
【0092】
上述のように、実験例1~2のゼオライト膜12は、少なくともAl、PおよびOを含有する。このように、ゼオライト膜12がリン酸アルミニウム系ゼオライトである場合には、ゼオライト膜12中のAlとPとの元素百分率が略同じになる。したがって、支持体11の構成元素にAlが含まれている場合であっても、支持体11内部におけるPの原子百分率を求めることにより、支持体11内部におけるAlの原子百分率も容易に求めることができる。
【0093】
ゼオライト膜複合体1では、支持体11は、アルミナ焼結体もしくはムライト焼結体である。これにより、支持体11に対する種結晶の付着性を向上することができる。
【0094】
ゼオライト膜複合体1の製造方法は、水熱合成にてゼオライトを生成し、当該ゼオライトから種結晶を取得する工程(ステップS11)と、多孔質の支持体11上に当該種結晶を付着させる工程(ステップS13)と、原料溶液に支持体11を浸漬し、水熱合成により種結晶からゼオライトを成長させて支持体11上にゼオライト膜12を形成する工程(ステップS14)とを備える。
【0095】
上述のように、ゼオライト膜12の一部は、ゼオライト膜12と支持体11との界面113から支持体11の気孔内に浸入している。ゼオライト膜12を構成する一の主要元素から求めたゼオライト膜12の浸入深さDは、5μm以下であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体1の透過性を向上することができる。また、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体1の透過性を向上するという観点からは、ゼオライト膜12の浸入深さDは、4μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。ゼオライト膜12の浸入深さDは、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。これにより、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を向上することができる。
【0096】
また、上述のように、ゼオライト膜12の浸入深さDは、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の50倍以下であることが好ましい。これにより、上記と同様に、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を維持しつつ、ゼオライト膜複合体1の透過性を向上することができる。ゼオライト膜12の浸入深さDは、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の1倍以上であることも好ましい。これにより、ゼオライト膜12の支持体11への密着性を向上することができる。
【0097】
ゼオライト膜複合体1の製造において、ステップS11において取得される種結晶の比表面積は、10m2/g以上かつ150m2/g以下である。これにより、種結晶を支持体11上に緻密に付着させることができる。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の1倍以上かつ30倍以下である。このように、結晶成分による強度をアモルファス成分による強度の30倍以下とすることにより、種結晶中のアモルファス成分の割合を比較的大きくし、支持体11に対する種結晶の付着性を向上させることができる。その結果、種結晶を支持体11上に緻密かつ均等に付着させることができる。また、結晶成分による強度をアモルファス成分による強度の1倍以上とすることにより、種結晶中の結晶成分の割合が過剰に小さくなることを防止し、ゼオライト膜12の形成時にゼオライトを好適に成長させることができる。その結果、支持体11上に緻密なゼオライト膜12を形成することができる。
【0098】
当該種結晶は、支持体に付着しやすいため、支持体に対する付着性の向上が求められているゼオライト(例えば、Si、Al、Pのうちいずれか2つ以上を含有するゼオライト、または、Siを含有するゼオライト)の種結晶に適している。また、当該種結晶は、従来より一般的な支持体に付着しにくいと考えられているゼオライト(例えば、少なくともAl、PおよびOを含有するゼオライト)の種結晶に特に適している。
【0099】
当該種結晶は、上述のように支持体に対する付着性が向上しているため、支持体11の表面のうち、重力の影響により種結晶が付着しにくい面(例えば、ゼオライト膜複合体1の製造時における略鉛直面)に付着される種結晶に特に適している。同様の観点から、当該種結晶は、支持体11の表面のうち、ゼオライト膜複合体1の製造時における下向きの面に付着される種結晶にも特に適している。いずれの場合も、種結晶を支持体11上に緻密かつ均等に付着させることができる。なお、上述の下向きの面とは、法線が水平よりも下向きになる面であり、法線が鉛直下方を向く面、および、法線が斜め下を向く面の双方を含む。もちろん、種結晶は、支持体11の表面であれば、上向きの面等、どの方向を向く面に付着されてもよい。
【0100】
上記ゼオライト膜複合体1およびその製造方法では、様々な変更が可能である。
【0101】
例えば、ゼオライト膜12の生成に用いられる種結晶の製造方法は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。また、当該種結晶の比表面積は10m2/g未満であってもよく、150m2/gよりも大きくてもよい。なお、別途、原結晶の粉砕条件を変更することにより、種結晶の比表面積を10m2/g未満とした場合、および、150m2/gよりも大きくした場合について確認した。種結晶の比表面積を10m2/g未満とすると、種結晶の比表面積が10m2/g以上かつ150m2/g以下である場合に比べて、支持体11上への種結晶の付着性が、ある程度低下することが確認された。種結晶の比表面積を150m2/gよりも大きくすると、種結晶の比表面積が10m2/g以上かつ150m2/g以下である場合に比べて、ゼオライト膜12の形成時に、ゼオライトの成長がある程度抑制されることが確認された。また、当該種結晶にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=12°~25°の範囲にて最大ピークを示す回折角2θにおける結晶成分による強度は、アモルファス成分による強度の1倍未満であってもよく、30倍よりも大きくてもよい。
【0102】
ゼオライト膜12の浸入深さDを求める際に原子百分率A、Bが取得される元素は、ゼオライト膜12の主要元素に含まれるものであれば、支持体11に含まれている元素(例えば、Al)であってもよい。この場合、支持体11の気孔中に浸入しているゼオライト膜12に含まれる当該元素の原子百分率Bは、支持体11内部において測定された当該元素の原子百分率から、支持体11を構成する粒子に含まれる当該元素の原子百分率に相当する値を除くことにより求められる。また、ゼオライト膜12の浸入深さDは、ゼオライト膜12の主要元素のうち複数の元素の原子百分率A、Bを用いて求められてもよい。例えば、当該複数の元素をそれぞれ用いてゼオライト膜12の複数の浸入深さを求め、当該複数の浸入深さの平均値をゼオライト膜12の浸入深さDとしてもよい。
【0103】
ゼオライト膜12の浸入深さDは、5μm以下である場合、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の50倍以下である必要はなく、当該平均細孔径の50倍よりも大きくてもよい。また、ゼオライト膜12の浸入深さDは、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径の50倍以下である場合、必ずしも5μm以下である必要はなく、5μmよりも大きくてもよい。
【0104】
上述のように、種結晶およびゼオライト膜12は、SAT型のゼオライトには限定されず、他の構造を有するゼオライトであってもよい。種結晶およびゼオライト膜12は、純粋なリン酸アルミニウムである必要はなく、他の元素が含まれてもよい。例えば、種結晶およびゼオライト膜12には、Mg原子やSi原子等が含まれてもよい。さらには、種結晶およびゼオライト膜12は、Si、AlおよびPのうち、必ずしも2つ以上含有する必要もない。例えば、種結晶およびゼオライト膜12は、主にSiO2を含むもの(シリカライト等)であってもよい。種結晶およびゼオライト膜12は、必ずしもSiを含有する必要もない。
【0105】
上記種結晶(すなわち、比表面積が10m2/g以上かつ150m2/g以下であり、X線回折パターンにおいて上記回折角2θにおける結晶成分による強度が、アモルファス成分による強度の1倍以上かつ30倍以下である種結晶)については、上述のSAT型のゼオライトの他に、Siを含有するDDR型のゼオライト、SiとAlとを含有するCHA型のゼオライト、SiとAlとPとを含有するAFX型のゼオライト、AlとPとを含有するAEI型のゼオライト、および、AlとPとを含有するERI型のゼオライトにおいても、同様に、支持体に対する種結晶の付着性が向上することを確認している。
【0106】
ゼオライト膜複合体1は、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜に限られず、炭素膜やシリカ膜等の無機膜、または、ポリイミド膜やシリコーン膜などの有機膜であってもよい。
【0107】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0108】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のゼオライト膜複合体は、例えば、ガス分離膜として利用可能であり、さらには、ガス以外の分離膜や様々な物質の吸着膜等として、ゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
113 (支持体とゼオライト膜との)界面
S11~S15,S111,S112 ステップ