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特許7113139センサコントローラからペンに対して送信データを送信する方法、及び、ペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】センサコントローラからペンに対して送信データを送信する方法、及び、ペン
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20220728BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20220728BHJP
   G06F 3/03 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
G06F3/041 512
G06F3/044 A
G06F3/03 400Z
G06F3/044 126
G06F3/041 410
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021519063
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2019018842
(87)【国際公開番号】W WO2020230223
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】小池 健
(72)【発明者】
【氏名】久野 晴彦
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051388(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064982(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056272(WO,A1)
【文献】特開2013-196675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/03
G06F 3/041-3/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンを検出するセンサコントローラからペンに対して、センサ電極群を介して送信データを送信する方法であって、
前記ペンは、
ペン先の近傍に配置されたペン先電極と、
前記ペン先電極に誘導された信号のエッジを検出するアナログ回路と、
前記アナログ回路の出力信号と既知のパターンとの相関演算により、前記送信データを検出するデジタル回路と、を含み、
前記センサコントローラは、
前記送信データを示すパルス信号を生成し、
エッジの数増加するように前記パルス信号の主信号及び副信号を用いて前記パルス信号を送信することにより、前記センサ電極群を介して前記送信データの送信を行う、
方法。
【請求項2】
前記副信号は前記パルス信号の遅延信号であり、
前記センサコントローラは、前記主信号と前記副信号の混合信号を送信することにより前記パルス信号を送信する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサコントローラは、1チップの時間長が所定チップ長である拡散符号を用いて前記送信データの拡散を行うことによって前記パルス信号を取得し、
前記混合信号は、前記パルス信号の各エッジを起点とする前記所定チップ長の半分より短い時間の中に、対応するエッジを偶数回含む信号である、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合信号は、前記パルス信号の各エッジを起点とする前記所定チップ長の半分より短い時間の中に、対応するエッジとは逆向きの戻りエッジを含み、
前記戻りエッジの傾きは、前記パルス信号の各エッジの傾きよりもなだらかである、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記センサ電極群は複数のセンサ電極を含み、
前記センサコントローラは、前記主信号及び前記副信号を互いに異なる前記センサ電極から送信することにより前記パルス信号を送信する、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記センサ電極群は、第1の層に配置された複数の第1のセンサ電極と、第2の層に配置された複数の第2のセンサ電極と、を含み、
前記センサコントローラは、前記主信号を前記複数の第1のセンサ電極の少なくとも一部から送信する一方、前記副信号を前記複数の第2のセンサ電極の少なくとも一部から送信することにより前記パルス信号を送信する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の第1のセンサ電極はそれぞれ、表示装置の画素を駆動するために必要な電位が供給される電極である、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記センサ電極群は、複数の第1のセンサ電極と、前記複数の第1のセンサ電極と平面的に見て重ならない位置に配置された複数の第2のセンサ電極と、を含み、
前記センサコントローラは、前記複数の第1のセンサ電極を介して前記主信号を送信する一方、前記複数の第2のセンサ電極を介して前記主信号の逆相信号を送信するよう構成される、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ペンは、前記アナログ回路の出力信号に対して相対的に粒度の粗い相関演算を行う第1のペンと、前記アナログ回路の出力信号に対して相対的に粒度の細かい相関演算を行う第2のペンとを含む、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサコントローラからペンに対して送信データを送信する方法、及び、ペンに関する。
【背景技術】
【0002】
電源内蔵型の位置指示器であるアクティブスタイラス(以下、「ペン」という)と、タッチ面を有する位置検出装置とを含んで構成される位置検出システムが知られている。この種の位置検出システムでは、タッチ面の直下に配置されたセンサ電極群を介して、位置検出装置とペンの間で信号の送受信が行われる。位置検出装置からペンに対して送信される信号(以下、「アップリンク信号」という)は、ペンを位置検出装置に同期させる役割と、ペンに対して各種のコマンドを送信する役割とを有する。一方、ペンから位置検出装置に対して送信される信号(以下、「ダウンリンク信号」という)は、位置検出装置にペンの位置を検出させる役割と、コマンドにより要求されたデータを位置検出装置に対して送信する役割とを有する。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1には、上記位置検出システムの一例が開示されている。このうち特許文献1には、受信信号の立ち下がりエッジ及び立ち上がりエッジを検出し、検出した立ち下がりエッジ及び立ち上がりエッジに基づいてアップリンク信号の波形を復元するように受信回路を構成することにより、アップリンク信号に低周波ノイズが重畳されていても、好適にアップリンク信号の波形を復元できるようにしたペンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/051388号
【非特許文献】
【0005】
【文献】ムツミ・ハマグチ(Mutsumi Hamaguchi)、ミチアキ・タケダ(Michiaki Takeda)、マサユキ・ミヤモト(Masayuki Miyamoto)共著、「直径0.5mmで41dB/32dBのS/N比を有するアクティブ方式又はパッシブ方式のマルチスタイラスを可能にする、報告レート240Hzの相互容量タッチセンサ方式のアナログフロントエンド(A 240Hz-Reporting-Rate Mutual Capacitance Touch-Sensing Analog Front-End Enabling Multiple Active/Passive Styluses with 41dB/32dB SNR for 0.5mm Diameter)」、IEEE International Solid-State Circuits Conference、2015、p.120-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アップリンク信号の波形に鈍りが生ずると、そもそもエッジを検出することが困難になる可能性がある。そうすると、上記特許文献1に記載の技術によっても、アップリンク信号の波形を復元できなくなってしまう。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、アップリンク信号の波形に鈍りが生じても、ペンがアップリンク信号を好適に受信できるようにするための方法及びペンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による方法は、ペンを検出するセンサコントローラからペンに対して、センサ電極群を介して送信データを送信する方法であって、前記ペンは、ペン先の近傍に配置されたペン先電極と、前記ペン先電極に誘導された信号のエッジを検出するアナログ回路と、前記アナログ回路の出力信号と既知のパターンとの相関演算により、前記送信データを検出するデジタル回路と、を含み、前記センサコントローラは、前記送信データを示すパルス信号を生成し、エッジが強調されるように前記パルス信号の主信号及び副信号を用いて前記パルス信号を送信することにより、前記センサ電極群を介して前記送信データの送信を行う、方法である。
【0009】
本発明によるペンは、ペンを検出するセンサコントローラがセンサ電極群を介して送信した送信データを受信するペンであって、ペン先の近傍に配置されたペン先電極と、前記ペン先電極に誘導された信号のエッジを検出する微分回路と、前記微分回路の出力信号に対して、少なくとも正、負それぞれに対応する2つの基準電位を用いた比較を行い、比較結果のフィードバック処理を行うΔΣ変調部と、前記ΔΣ変調部の出力信号と既知のパターンとの相関演算により前記送信データを検出するデジタル回路と、を含むペンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による方法によれば、アップリンク信号のエッジが強調されるので、アップリンク信号の波形に鈍りが生じても、ペンがエッジを検出できる可能性が高まる。したがって、ペンがアップリンク信号を好適に受信できるようになる。
【0011】
本発明によるペンによれば、アップリンク信号の波形に鈍りが生じても、ΔΣ変調部により実行される折り返し変調によってエッジを確実に検出することができるので、ペンがエッジを検出できる可能性が高まる。したがって、ペンがアップリンク信号を好適に受信できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態による位置検出システム1の構成を示す図である。
図2】(a)は、アップリンク信号USの構成例を示す図であり、(b)は、プリアンブルPに対応する拡散符号の例を示す図であり、(c)は、拡散符号に置き換えた送信データに基づいてセンサコントローラ31が生成するチップ列を示す図であり、(d)は、(c)に示したチップ列に基づいてセンサコントローラ31が生成するパルス信号を示す図であり、(e)は、(d)に示したパルス信号をペン2が受信した場合における受信波形の例を示す図である。
図3】タブレット3の詳細な構成を示す図である。
図4】ペン2の内部構造を示す図である。
図5】ペン2の機能ブロックを示す略ブロック図である。
図6】(a)は、拡散処理部51が生成するチップ列(マンチェスター符号化されたチップ列)の一部を示す図であり、(b)は、(a)に示したチップ列に基づいて拡散処理部51が生成するパルス信号を示す図であり、(c)は、(b)に示したパルス信号に基づいて送信処理部52が生成する遅延信号を示す図であり、(d)及び(e)はそれぞれ、(b)に示したパルス信号に基づいて送信処理部52が生成する混合信号を示す図である。
図7】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例を示す模式的な回路図である。
図8】(a)~(c)は、図6(a)~(c)と同一の図であり、(d)は、本発明の第1の実施の形態の第2の変形例により送信される混合信号を示す図である。
図9】本発明の第1の実施の形態の第3の変形例による複数のセンサ電極30Xを示す図である。
図10】本発明の第1の実施の形態の第4の変形例による複数のセンサ電極30X,30Yを示す図である。
図11】本発明の第1の実施の形態の第4の変形例によるセンサコントローラ31が送信するアップリンク信号USを示す図である。
図12】本発明の第1の実施の形態の第5の変形例を説明するための図である。
図13】本発明の第2の実施の形態による受信回路61の構成を示す図である。
図14】(a)は、本発明の第2の実施の形態による比較回路82cの回路構成を具体的に示す図であり、(b)は、出力信号IOと4つの基準電位VTP,VTP0,VTN0,VTNとを比較するように構成した比較回路82cの回路構成を具体的に示す図である。。
図15】(a)は、センサコントローラ31が送信したチップ列の一例を示す図であり、(b)は、(a)に示したチップ列を受信したペン2において観測される受信信号Rxの例を示す図であり、(c)は、(b)に示した受信信号Rxから得られる出力信号COの例を示す図であり、(d)は、(c)に示した出力信号COから得られるチップ列を示す図であり、(e)は、(a)に示したチップ列に対応してパターン記憶部73に記憶されるパターンを示す図であり、(f)は、(e)に示したパターンをパルス信号により表記してなる図である。
図16】(a)は、センサコントローラ31が送信するパルス信号の一例を示す図であり(b)は、(a)に示したパルス信号を受信したペン2において出力される増幅回路81の出力信号DOを示す図であり、(c)は、(b)に示した出力信号DOに対応する加算回路82bの出力信号IOを示す図であり、(d)は、(c)に示した出力信号IOに対応するアナログ回路71の出力信号COを示す図であり、(e)は、(a)に示したパルス信号に対応してパターン記憶部73に記憶される既知のパターンを示す図であり、(f)は、(d)に示した出力信号CO及び(e)に示したパターンに対応するエッジマッチドフィルタ87の出力信号FOを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態による位置検出システム1の構成を示す図である。同図に示すように、位置検出システム1は、アクティブスタイラスであるペン2と、ペンを検出する位置検出装置であるタブレット3とを備えて構成される。
【0015】
タブレット3は、タッチ面3aと、タッチ面3aの直下に配置されたセンサ電極群30と、センサ電極群30に接続されたセンサコントローラ31と、これらを含むセンサコントローラ31の各部を制御するホストプロセッサ32とを有している。また、タブレット3はチャージャー33(ACアダプタ)に接続されており、このチャージャー33を介して系統電源から供給される電力により動作可能に構成される。
【0016】
ペン2がタッチ面3aに接近しているとき、ペン2とセンサ電極群30の間には静電容量Cが生ずる。ペン2は、この静電容量を通じて電荷をやり取りする(静電結合する)ことにより、センサコントローラ31と通信可能に構成される。
【0017】
ペン2とセンサコントローラ31との間の通信は、双方向に行われる。図1には、このうちセンサコントローラ31からペン2に送信されるアップリンク信号USを図示している。アップリンク信号USはペン2に対する指示(コマンド)を示す信号であり、アップリンク信号USを受信したペン2は、アップリンク信号USにより示される指示に従う処理を行う。指示がデータの送信である場合には、ペン2は、指示されたデータを取得し、ダウンリンク信号によりセンサコントローラ31に対して送信する。こうして送信されるデータには、例えばペン2の固有ID、ペン2のペン先に加わる圧力を示す筆圧、ペン2に設けられるスイッチのオンオフ情報などが含まれる。
【0018】
図2(a)は、アップリンク信号USの構成例を示す図である。同図に示すように、アップリンク信号USは、2つのプリアンブルP、各1バイトのデータD1~D3、及び誤り検出符号CRCという6つの送信データによって構成される。センサコントローラ31は、これらの送信データのそれぞれについて、自己相関特性を有する拡散符号を用いて拡散することによってパルス信号を生成する。そして、センサ電極群30を介してこのパルス信号を送信することによって、アップリンク信号USの送信を行う。
【0019】
図2(b)は、プリアンブルPに対応する拡散符号の例を示す図である。センサコントローラ31は、送信データの内容(P、「0000」、「0001」など)ごとに異なる拡散符号を予め記憶しており、送信データをその内容に対応する拡散符号に置き換える処理を行う。なお、同図には1つの拡散符号を構成するチップの数が20である例を示しているが、拡散符号のチップ数が20に限定されないのは勿論である。
【0020】
図2(c)は、拡散符号に置き換えた送信データに基づいてセンサコントローラ31が生成するチップ列を示す図である。同図に示すように、センサコントローラ31は、拡散符号の「0」を「10」に、「1」を「01」にそれぞれ置き換えることによってチップ列を生成する(マンチェスター符号化)。この置き換えを行うのは、同一値のチップが3個以上連続しないようにするためである。
【0021】
図2(d)は、図2(c)に示したチップ列に基づいてセンサコントローラ31が生成するパルス信号を示す図である。同図に示すように、センサコントローラ31は、チップ列の「1」をハイ、「0」をローにそれぞれ対応付けることにより、パルス信号を生成する。
【0022】
図2(e)は、図2(d)に示したパルス信号をペン2が受信した場合における受信波形の例を示す図である。同図に示すように、パルス信号には低周波ノイズが重畳する場合がある。図1に示した低周波ノイズUNは、こうしてパルス信号に重畳する低周波ノイズの一例であり、チャージャー33から発生している。この他にも、パルス信号には、センサコントローラ31の周囲に存在する様々な雑音源から低周波ノイズが重畳し得る。
【0023】
パルス信号に低周波ノイズが重畳されると、図2(e)に示すように、受信波形に鈍りが生ずる。この鈍りの程度が大きくなると、ペン2におけるアップリンク信号USの復元が困難になる。本発明の目的の一つは、このような場合においても、ペン2がアップリンク信号USを好適に受信できるようにすることにある。
【0024】
図3は、タブレット3の詳細な構成を示す図である。以下、この図3を参照しながら、タブレット3の構成及び動作について詳しく説明する。
【0025】
センサ電極群30は、それぞれY方向に延在する複数のセンサ電極30Xと、それぞれX方向に延在する複数のセンサ電極30Yとを含み、これらセンサ電極30X,30Yによって、ペン2のペン先電極21(後述)と静電結合するように構成される。アップリンク信号US及びダウンリンク信号の送受信は、この静電結合を介して実現される。以下、センサ電極30X,30Yを特に区別する必要がない場合には、これらを単にセンサ電極30と称する場合がある。
【0026】
センサコントローラ31は、図4に示すように、MCU40、ロジック部41、送信部42、受信部43、及び選択部44を有して構成される。
【0027】
MCU40及びロジック部41は、送信部42、受信部43、及び選択部44を制御することにより、センサコントローラ31の送受信動作を制御する制御部である。具体的に説明すると、MCU40は、内部にROMおよびRAMを有し、所定のプログラムに基づき動作するマイクロプロセッサである。一方、ロジック部41は、MCU40の制御に基づき、送信部42、受信部43、及び選択部44の制御信号を生成するよう構成される。
【0028】
MCU40は、ペン2が送信したダウンリンク信号を受信部43を介して受信するとともに、ペン2に対して送信するコマンドcmdを生成し、送信部42に供給する機能を有する。ダウンリンク信号には、無変調のキャリア信号である位置信号と、コマンドcmdに応じたデータを含むデータ信号とが含まれる。MCU40は、ペン2から位置信号を受信した場合、センサ電極群30を構成する複数のセンサ電極30X,30Yのそれぞれにおける受信強度から、タッチ面3a上におけるペン2の位置座標(x、y)を算出し、ホストプロセッサ32に出力する。また、MCU40は、ペン2からデータ信号を受信した場合、その中に含まれる応答データRes(具体的には、固有ID、筆圧、スイッチのオンオフ情報等)を取得し、ホストプロセッサ32に出力する。
【0029】
送信部42は、MCU40及びロジック部41の制御に従ってアップリンク信号USを生成する回路であり、図4に示すように、符号列保持部50、拡散処理部51、及び送信処理部52を含んで構成される。
【0030】
符号列保持部50は、ロジック部41から供給される制御信号に基づき、上述した拡散符号(自己相関特性を有する拡散符号)を生成して保持する機能を有する。符号列保持部50は、送信データの内容(P、「0000」、「0001」など)ごとに異なる拡散符号を生成して記憶するよう構成される。
【0031】
拡散処理部51は、MCU40から供給されるコマンドcmdに基づいて、図2(d)に例示したパルス信号を生成する機能部である。詳しく説明すると、拡散処理部51はまず、コマンドcmdに基づいて、図2(a)に示したアップリンク信号USを生成する。そして、該アップリンク信号USを構成する複数の送信データのそれぞれについて、符号列保持部50によって保持される拡散符号のうちの1つを選択し、選択した拡散符号によって送信データの拡散を行う。これにより、図2(b)に例示したチップ列が得られる。拡散処理部51はさらに、上述したマンチェスター符号化を行うことによって、図2(c)に例示したチップ列を取得する。そして、取得したチップ列に基づき、図2(d)に例示したパルス信号を生成する。
【0032】
送信処理部52は、拡散処理部51が生成したパルス信号を、エッジが強調されるように送信する機能部である。「エッジが強調されるように送信する」とは、本実施の形態では、パルス信号に含まれる立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジの数が増加するように、後述する各種の方法でパルス信号の送信を行うことを意味する。詳細については、後ほど別途説明する。ただし、他の方法を用いて、エッジが強調されるようにパルス信号を送信することとしてもよい。
【0033】
受信部43は、ロジック部41から供給される制御信号に基づいて、ペン2が送信したダウンリンク信号を受信する回路である。具体的には、選択部44から供給される信号を復号することによってデジタル信号を生成し、受信信号としてMCU40に供給するよう構成される。
【0034】
選択部44は、スイッチ54x,54yと、導体選択回路55x,55yとを含んで構成される。
【0035】
スイッチ54x,54yはそれぞれ、共通端子とT端子及びR端子のいずれか一方とが接続されるように構成されたスイッチ素子である。スイッチ54xの共通端子は導体選択回路55xに接続され、T端子は送信部42の出力端に接続され、R端子は受信部43の入力端に接続される。また、スイッチ54yの共通端子は導体選択回路55yに接続され、T端子は送信部42の出力端に接続され、R端子は受信部43の入力端に接続される。
【0036】
導体選択回路55xは、複数のセンサ電極30Xを選択的にスイッチ54xの共通端子に接続するためのスイッチ素子である。導体選択回路55xは、複数のセンサ電極30Xの一部又は全部を同時にスイッチ54xの共通端子に接続することも可能に構成される。
【0037】
導体選択回路55yは、複数のセンサ電極30Yを選択的にスイッチ54yの共通端子に接続するためのスイッチ素子である。導体選択回路55yも、複数のセンサ電極30Yの一部又は全部を同時にスイッチ54yの共通端子に接続することも可能に構成される。
【0038】
選択部44には、ロジック部41から4つの制御信号sTRx,sTRy,selX,selYが供給される。具体的には、制御信号sTRxはスイッチ54xに、制御信号sTRyはスイッチ54yに、制御信号selXは導体選択回路55xに、制御信号selYは導体選択回路55yにそれぞれ供給される。ロジック部41は、これら制御信号sTRx,sTRy,selX,selYを用いて選択部44を制御することにより、アップリンク信号USの送信と、ペン2が送信したダウンリンク信号の受信とを実現する。
【0039】
より具体的に説明すると、ロジック部41は、アップリンク信号USを送信する場合には、複数のセンサ電極30Yのすべて(又は複数のセンサ電極30Xのすべて)、又は、各複数のセンサ電極30X,30Yのうち送信対象のペン2について直前に導出された位置の近傍にある所定数本が送信部42の出力端に接続されるよう、選択部44を制御する。一方、位置信号を受信する場合のロジック部41は、位置信号の送信が継続している間に、各複数のセンサ電極30X,30Yのすべて(グローバルスキャン)、又は、各複数のセンサ電極30X,30Yのうち、その位置信号を送信するペン2について直前の位置信号により導出した位置の近傍にある所定数本(ローカルスキャン)が順に受信部43の入力端に接続されるよう、選択部44を制御する。こうすることでMCU40は、各センサ電極30におけるバースト信号の受信強度に基づいて、ペン2の位置を導出することが可能になる。また、データ信号を受信する場合のロジック部41は、各複数のセンサ電極30X,30Yのうち、そのデータ信号を送信するペン2について直前の位置信号により導出した位置の近傍にある所定本数が受信部43の入力端に接続されるよう、選択部44を制御する。
【0040】
以上、タブレット3の構成及び動作について説明した。次に、ペン2の構成及び動作について詳しく説明する。
【0041】
図4は、ペン2の内部構造を示す図である。同図に示すように、ペン2は、芯20、ペン先電極21、筆圧検出センサ23、回路基板24、及び電池25を有して構成される。図示していないが、ペン2はその他に、ユーザによって操作可能なスイッチを、筐体の側面又は底面に有して構成される。
【0042】
芯20は棒状の部材であり、ペン2のペン軸方向と芯20の長手方向とが一致するように配置される。ペン先電極21は、ペン先の近傍に配置された導電体であり、例えば、芯20の内部に埋め込まれた導電物質により構成される。他の例では、芯20の先端部の表面に導電性材料を塗布することによってペン先電極21を構成してもよい。
【0043】
筆圧検出センサ23は芯20と物理的に接続されており、芯20の先端に加えられる筆圧を検出可能に構成される。筆圧検出センサ23として具体的には、筆圧に応じて容量が変化する可変容量コンデンサを用いることができる。
【0044】
ペン先電極21は回路基板24に電気的に接続されており、タブレット3が送信するアップリンク信号USを受信して回路基板24に供給するとともに、回路基板24から供給されるダウンリンク信号をタブレット3に向けて送信する役割を担う。なお、ここではペン先電極21が送信と受信の両方を行うとしているが、送信用の電極と受信用の電極とを別々に設けてもよい。電池25は、回路基板24内の各素子等に対して動作電力を供給する電源である。
【0045】
図5は、ペン2の機能ブロックを示す略ブロック図である。同図に示す機能ブロックは、回路基板24上に形成される電子回路によって実現される。
【0046】
図5に示すように、ペン2は機能的に、スイッチ60、受信回路61、コントローラ62、及び送信回路63を有して構成される。
【0047】
スイッチ60は、共通端子とT端子及びR端子のいずれか一方とが接続されるように構成されたスイッチ素子である。スイッチ60の共通端子はペン先電極21に接続され、T端子は送信回路63の出力端に接続され、R端子は受信回路61の入力端に接続される。スイッチ60の接続状態は、コントローラ62によって制御される。コントローラ62は、センサコントローラ31からのアップリンク信号USの受信を行う場合には共通端子とR端子とが接続されるようスイッチ60を制御し、センサコントローラ31に向けてダウンリンク信号(位置信号又はデータ信号)の送信を行う場合には共通端子とT端子とが接続されるようスイッチ60を制御する。
【0048】
受信回路61は、ペン先電極21及びスイッチ60を介して受信される信号を復調することによってアップリンク信号USを取得し、コントローラ62に出力する回路である。受信回路61の内部には、図5に示すように、アナログ回路71と、デジタル回路72と、パターン記憶部73とが設けられる。
【0049】
アナログ回路71は、スイッチ60から供給される信号(ペン先電極21に誘導された信号)に含まれるエッジを検出するエッジ検出回路と、エッジ検出回路によって検出されたエッジから波形を復元する波形復元回路とを含んで構成される。各回路の具体的な構成は限定されないが、例えばエッジ検出回路は、スイッチ60から供給される信号の微分信号を生成する微分回路と、微分信号の立ち上がりエッジを検出する正方向パルス検出回路と、微分信号の立ち下がりエッジを検出する負方向パルス検出回路とによって構成され得る。また、波形復元回路は、正方向パルス検出回路の出力信号が供給されるS入力と、負方向パルス検出回路の出力信号が供給されるR入力とを有するSRラッチ回路によって構成され得る。波形復元回路から出力される信号はアナログ回路71の出力信号を構成し、理想的には、センサコントローラ31の拡散処理部51が生成したパルス信号(図2(d)を参照)と同じ波形の信号となる。
【0050】
デジタル回路72は、アナログ回路71の出力信号と、パターン記憶部73に記憶される既知のパターンとの相関演算により、センサコントローラ31が送信した送信データを検出する回路である。
【0051】
具体的に説明すると、まずパターン記憶部73には、既知のパターンとして複数のチップ列が記憶される。各チップ列は、それぞれ0又は1のいずれかの値を取る複数のチップにより構成される2値のチップ列であり、センサコントローラ31がアップリンク信号USの送信に使用する可能性のある複数の拡散符号のそれぞれをマンチェスター符号化することによって得られるものとなっている。
【0052】
デジタル回路72は、1つの拡散符号に対応するチップ数分のチップ列を格納可能に設定された先入れ先出し方式のシフトレジスタを有しており、アナログ回路71の出力信号を1チップ取得する都度、このシフトレジスタに格納していく。そして、新たな1チップを格納する都度、その時点でシフトレジスタに格納されているチップ列と、パターン記憶部73に記憶される複数の既知のパターンのそれぞれとの相関を算出する。その結果、あるパターンについての算出結果が所定値以上となった場合に、そのパターンに対応する拡散符号が検出されたと判定する。デジタル回路72は、こうして次々に検出される拡散符号に基づいてアップリンク信号USを復元し、コントローラ62に出力する。
【0053】
コントローラ62は内部にメモリを有するプロセッサであり、このメモリに記憶されるプログラムに従って動作するよう構成される。
【0054】
コントローラ62が行う動作には、受信回路61から供給されるアップリンク信号USに応じた処理が含まれる。具体的に説明すると、コントローラ62は、受信回路61から供給されるアップリンク信号USに応じて各種信号の送受信スケジュールを決定し、それに応じてスイッチ60の接続状態を制御する処理を行う。つまり、上述したように、センサコントローラ31からのアップリンク信号USの受信を行う場合には共通端子とR端子とが接続されるようスイッチ60を制御し、センサコントローラ31に向けて信号(位置信号又はデータ信号)の送信を行う場合には共通端子とT端子とが接続されるようスイッチ60を制御する。
【0055】
決定した送受信スケジュールにより示される位置信号の送信タイミングでは、コントローラ62は、送信回路63に位置信号を送信するよう指示する処理を行う。また、受信回路61から供給されるアップリンク信号USにより示されるコマンドが各種データ(固有ID、筆圧、スイッチのオンオフ情報等)の送信指示を示すものであった場合には、コントローラ62は指示されたデータを取得し、決定した送受信スケジュールにより示されるデータ信号の送信タイミングで、送信用データとして送信回路63に供給する処理を行う。
【0056】
送信回路63は、所定のキャリア信号の発振回路を含んでおり、コントローラ62から位置信号の送信を指示された場合には、このキャリア信号を無変調でペン先電極21に供給するよう構成される。一方、コントローラ62から送信用データが供給された場合には、供給された送信用データによってキャリア信号を変調し、ペン先電極21に供給する。
【0057】
次に、図3に示した送信処理部52が行う「エッジが強調されるように送信する」処理について、詳しく説明する。
【0058】
図6(a)は、拡散処理部51が生成するチップ列(マンチェスター符号化されたチップ列)の一部を示す図であり、図6(b)は、このチップ列に基づいて拡散処理部51が生成するパルス信号(主信号)を示す図である。図示したチップ長Tは、マンチェスター符号化前の拡散符号を構成する各チップの時間長(1チップの時間長)を示している。
【0059】
図6(c)及び図6(d)はそれぞれ、図6(b)に示したパルス信号に基づいて送信処理部52が生成する遅延信号(副信号)及び混合信号を示す図である。拡散処理部51からパルス信号の供給を受けた送信処理部52は、まず初めに、パルス信号のエッジタイミングを変更することによって、図6(c)に示した遅延信号を生成する。より具体的に言えば、送信処理部52は、チップ長Tの半分T/2より短い時間(図6(c)の例ではT/4)だけパルス信号を遅延させることにより、遅延信号を生成する。
【0060】
次に送信処理部52は、図6(b)に示したパルス信号と、図6(c)に示した遅延信号とに基づいて、図6(d)に示した混合信号を生成する。こうして生成される混合信号は、パルス信号の各エッジを起点とするチップ長Tの半分T/2より短い時間の中に、対応するエッジ(例えば、図示したエッジE1,E2)を2回含む信号となる。なお、ここでは2回としたが、遅延信号の数を増やすことによって、対応するエッジを3回以上含むこととしてもよい。より好適には、対応するエッジを偶数回含むことが好ましい。
【0061】
ここで、図6(d)を見ると理解されるように、本実施の形態による送信処理部52が生成する混合信号は、パルス信号の各エッジを起点とするチップ長Tの半分T/2より短い時間の中に、対応するエッジとは逆向きの戻りエッジ(例えば、図示したエッジE3)を含んでいる。この状態で混合信号をセンサ電極群30から送信すると、アナログ回路71内のエッジ検出回路が戻りエッジをもエッジとして検出してしまい、その結果として誤った波形が復元されてしまう可能性がある。そこで、図6(e)に示すように、送信処理部52は、戻りエッジの傾きをパルス信号の各エッジの傾きよりもなだらかにすることとしてもよい。こうすることで、アナログ回路71内のエッジ検出回路が戻りエッジをエッジとして検出してしまう可能性が低減されるので、誤った波形が復元されてしまう可能性を低減できる。
【0062】
以上説明したように、本実施の形態によるアップリンク信号USの送信方法によれば、ペン2によって受信されるエッジを増加させることによって、アップリンク信号USのエッジを強調することができる。したがって、アップリンク信号USの波形に鈍りが生じても、ペンがエッジを検出できる可能性が高まるので、ペン2がアップリンク信号USを好適に受信できるようになる。
【0063】
なお、本実施の形態には各種の変形例が考えられる。以下、これらの変形例について、1つずつ説明する。
【0064】
本実施の形態の第1の変形例は、拡散処理部51が生成した主信号であるパルス信号と、該パルス信号に基づいて送信処理部52が生成する副信号とを互いに異なるセンサ電極30から送信することにより、混合信号の送信を行う、というものである。この場合のセンサコントローラ31は、送信処理部52が作成した主信号及び副信号を、互いに異なるセンサ電極30に供給するように構成される。したがって、本変形例による副信号は、主信号とは別のセンサ電極30から送信される別電極信号である。ただし、副信号の内容としては、本実施の形態と同じ遅延信号とすることが好ましい。こうすることで、図6(d)又は図6(e)に示した混合信号を生成することなく、混合信号を送信することが可能になる。
【0065】
図7は、本実施の形態の第2の変形例を示す模式的な回路図である。同図に示す信号源51Aは、拡散処理部51によって生成されたパルス信号(主信号)を示しており、信号源52Aは、送信処理部52によって生成された副信号を示している。本変形例によるタブレット3は、積層配置されるセンサ電極30X,30Yの両方を用いて主信号及び副信号を送信することにより、混合信号を送信するよう構成される。具体的には、第1の層に配置されたセンサ電極30Yの少なくとも一部から主信号を送信し、第1の層とは異なる第2の層に配置されたセンサ電極30Xの少なくとも一部から副信号を送信するよう構成される。
【0066】
本変形例による副信号は第1の変形例と同じく別電極信号であり、その内容は、本実施の形態と同じ遅延信号であってもよいし、主信号と全く同じ信号であってもよい。前者の場合には、本実施の形態と同様、ペン2によって受信されるエッジを増加させる効果が得られる。後者の場合、2つの層から同じ信号を送信することになるので、1つの層のみかから信号を送信する場合に比べてエッジを強調する効果が得られる。
【0067】
図8(d)は、主信号の遅延信号を副信号とする場合に、本変形例により送信される混合信号を示す図である。なお、図8(a)~(c)は、図6(a)~(c)と同一の図となっている。図8(d)に示すように、本変形例による混合信号は、パルス信号と遅延信号を加算したものとなっている。図8(d)から理解されるように、こうすることによっても、ペン2によって受信されるエッジの数を増加させ、アップリンク信号USのエッジを強調することができる。また、本変形例によれば、上述した戻りエッジが発生しないので、アナログ回路71によって誤った波形が復元されてしまう可能性を小さくすることができる。
【0068】
本変形例は、タブレット3がいわゆるインセル方式の位置検出装置である場合にも好適に適用できる。インセル方式は、センサ電極30X,30Yの一方として、センサ電極群30と重畳配置される表示装置の画素を駆動するために必要な電位が供給される電極(典型的には、液晶ディスプレイの共通電極、又は、有機ELディスプレイの負極)を利用する方式である。したがって、本変形例をインセル方式のタブレット3に適用する場合、センサ電極30X,30Yのうち例えば液晶ディスプレイの共通電極である一方から主信号及び副信号の一方を送信し、他方から主信号及び副信号の他方を送信することになる。この場合も、本変形例と同様に、アップリンク信号USのエッジを強調する効果と、アナログ回路71によって誤った波形が復元されてしまう可能性を低減する効果とを得ることができる。
【0069】
図9は、本実施の形態の第3の変形例による複数のセンサ電極30Xを示す図である。本変形例によるタブレット3は、複数のセンサ電極30Xを、図示したグループG1に属する複数の第1のセンサ電極と、これら複数の第1のセンサ電極と平面的に見て重ならない位置に配置された複数の第2のセンサ電極(グループG2に属するセンサ電極30X)とに分類する。そして送信処理部52は、複数の第1のセンサ電極を介して上記パルス信号を送信する一方、複数の第2のセンサ電極を介してパルス信号の逆相信号を送信するよう構成される。こうすることで、ペン2を持つ人の手がタッチ面3aに触れている場合などに、人の手を通じてアップリンク信号USがペン2のグランド電位を変化させることによって、ペン2がアップリンク信号USを検出できなくなることを防止できるようになる。
【0070】
図10は、本実施の形態の第4の変形例による複数のセンサ電極30X,30Yを示す図である。また、図11は、本変形例によるセンサコントローラ31が送信するアップリンク信号USを示す図である。初めに図10を参照すると、本変形例によるセンサコントローラ31はまず、アップリンク信号USの送信を行う領域Rを決定する。なお、図10には、タッチ面3aの一部を領域Rとする例を描いているが、タッチ面3aの全部を領域Rとしてもよい。
【0071】
領域Rを決定したセンサコントローラ31は、領域Rを通過する複数のセンサ電極30を、近接したセンサ電極30ができるだけ異なるグループに属することとなるように複数のグループに分類する。図10には、こうして分類されるグループの一例が示されている。この例では、センサ電極30Yが1本おきにグループA又はグループBに分類され、センサ電極30Xが1本おきにグループC又はグループDに分類される。
【0072】
図11には、図10に示したグループA~Dを利用してアップリンク信号USの送信を行う場合の例を示している。なお、同図には、説明の簡単のため、5つの送信データ「8」「5」「7」「9」「3」のそれぞれを8チップのチップ列(各送信データを表す4つのビットのそれぞれをマンチェスター符号化することによって得られるチップ列)により送信する例を示しているが、実際には、本実施の形態と同様に拡散符号を用いて送信される。
【0073】
本変形例によるセンサコントローラ31は、1つの送信データを構成する8つのチップを前半4チップと後半4チップに分け、それぞれに対応するパルス信号の4つのエッジ(立ち上がりエッジU及び立ち下がりエッジD)を、図11に示すように、4つのグループA~Dのそれぞれに分散して送信するよう構成される。こうすることで、領域R内に位置しているペン2は、すべてのエッジを受信できることからアップリンク信号USを受信できるが、領域R内に位置していないペン2は、一部又は全部のエッジを受信できないことからアップリンク信号USを受信できないことになる(一部だけ受信できたとしても、図2(a)に示した誤り検出符号CRCを用いた誤り検出の結果として、受信できた部分は破棄される)。したがって、本変形例によれば、タッチ面3a内の領域を限定して、アップリンク信号USを送信することが可能になる。本変形例を応用すれば、例えばタッチ面3a内に複数のペン2が位置している場合に、送信対象のペン2を限定してアップリンク信号USを送信することも可能になる。
【0074】
図12は、本実施の形態の第5の変形例を説明するための図である。なお、同図(a)(b)はそれぞれ、図6(a)(d)と同一の図となっている。
【0075】
図12(b)に示したパルス信号は、図12(a)に示したチップ列を表す一方で、図12(c)に示したチップ列を表すと言うこともできる。このことは、ペン2における処理の方法によっては、1つのパルス信号で2種類のデータを送信できることを意味する。そこで本変形例では、ペン2において相関演算の際に用いられる既知のパターンとして、以下に説明する第1及び第2のパターンの2種類を用意することにより、ペン2が2種類のデータを選択的に受信できるようにする。
【0076】
第1のパターンは、1チップの時間長が相対的に長いパターンである。この第1のパターンを用いるペン2のデジタル回路72(図5)は、アナログ回路71の出力信号に対して相対的に粒度の粗い相関演算を行うことにより、図12(b)に例示したパルス信号から図12(a)に示したチップ列を復元することになる。
【0077】
第2のパターンは、1チップの時間長が相対的に短いパターンである。この第2のパターンを用いるペン2のデジタル回路72(図5)は、アナログ回路71の出力信号に対して相対的に粒度の細かい相関演算を行うことにより、図12(b)に例示したパルス信号から図12(c)に示したチップ列を復元することになる。
【0078】
このように、本変形例によれば、ペン2において相関演算の際に用いられる既知のパターンとして、1チップの時間長が異なる2種類のパターンを用意するので、1つのアップリンク信号USにより、ペン2に2種類のデータを選択的に受信させることができるという効果が得られる。なお、本変形例は、図5に示したパターン記憶部73に格納されるパターンの1チップ当たりの時間長がペン2によって異なることとなるように構成することも可能である。こうすることで、センサコントローラ31は、2つのペン2に対し、1つのアップリンク信号USにより、互いに異なるデータを送信することが可能になる。
【0079】
次に、本発明の第2の実施の形態による位置検出システム1について、説明する。本実施の形態による位置検出システム1は、受信回路61によるアップリンク信号USの受信方法の点で第1の実施の形態と異なる。すなわち、本実施の形態による受信回路61においては、アナログ回路71内でΔΣ変調を行うとともに、デジタル回路72内で+1,0,-1の3値による相関演算を行う。その他の点では第1の実施の形態による位置検出システム1と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、以下では、第1の実施の形態による位置検出システム1との相違点に着目して説明を続ける。
【0080】
図13は、本実施の形態による受信回路61の構成を示す図である。同図に示すように、本実施の形態による受信回路61は、図5にも示したアナログ回路71、デジタル回路72、及びパターン記憶部73に加え、パルス密度検出部74及びMCU(Micro Control Unit)75を有して構成される。
【0081】
本実施の形態によるアナログ回路71は、入力端がスイッチ60のR端子(図5を参照)に接続されたハイパスフィルタ80と、ハイパスフィルタ80の出力信号を増幅する増幅回路81と、ΔΣ変調部82とを含んで構成される。ハイパスフィルタ80は、遮断周波数以上の周波数成分のみを通過させるように構成された回路である。ハイパスフィルタ80の遮断周波数は、MCU75により制御可能に構成される。増幅回路81は、ハイパスフィルタ80の出力信号を増幅し、出力信号DOとしてΔΣ変調部82に供給する回路である。増幅回路81は、MCU75により増幅率を制御可能に構成された可変ゲインの増幅器により構成される。ハイパスフィルタ80及び増幅回路81は、ペン先電極21(図5を参照)に誘導された信号(受信信号Rx)のエッジを検出する微分回路として機能する。
【0082】
ΔΣ変調部82は、増幅回路81の出力信号DOに対して、少なくとも正、負それぞれに対応する2つの基準電位VTP,VTNを用いた比較を行い、比較結果のフィードバック処理を行う機能部であり、図13に示すように、減算回路82aと、加算回路82bと、比較回路82cと、遅延回路82d,82eとを有して構成される。
【0083】
比較回路82cは、加算回路82bの出力信号IOと所定の基準電位VTP,VTN(VTP=-VTN>0)とを比較する回路であり、比較結果の出力端子、正側出力端子(+1)、負側出力端子(-1)という3つの出力端子を有して構成される。このうち比較結果の出力端子から出力される信号は、アナログ回路71の出力信号COを構成する。
【0084】
比較回路82cは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTPを上回っている場合に、出力信号COとして+1を出力するとともに、正側出力端子の電位をハイ、負側出力端子の電位をローとする。また、比較回路82cは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTNを下回っている場合に、出力信号COとして-1を出力するとともに、負側出力端子の電位をハイ、正側出力端子の電位をローとする。その他の場合、比較回路82cは、出力信号COとして0を出力するとともに、正側出力端子及び負側出力端子の電位をともにローとする。比較回路82cが行うこの処理の結果として、出力信号COは、+1,0,-1のいずれかの値を取る3値のパルス信号となる。
【0085】
比較回路82cは、センサコントローラ31が送信するチップ列のチップ長(図6に示したチップ長Tの半分T/2)よりも短い周期(例えばT/8)で動作するよう構成される。したがって、出力信号COは、センサコントローラ31が送信するチップ列の1チップに対して複数のチップ(例えば4つのチップ)を含むパルス信号となる。
【0086】
図14(a)は、本実施の形態による比較回路82cの回路構成を具体的に示す図である。同図に示すように、比較回路82cは、正に対応するコンパレータCPaと、負に対応するコンパレータCPbと、出力回路100とを有して構成される。コンパレータCPaの出力端子は、上述した正側出力端子(+1)として遅延回路82dに接続されるとともに、出力回路100に接続される。また、コンパレータCPbの出力端子は、上述した負側出力端子(-1)として遅延回路82eに接続されるとともに、出力回路100に接続される。
【0087】
各コンパレータCPa,CPbの一方入力端子には、加算回路82bの出力信号IOが共通に供給される。一方、各コンパレータCPa,CPbの他方入力端子には、上述した基準電位VTP,VTNがそれぞれ供給される。また、各コンパレータCPa,CPbは、図示しないクロック回路から供給されるクロックCK1に同期したタイミングで比較動作を実行するよう構成される。クロックCK1は、センサコントローラ31が送信するチップ列のチップ長(図6に示したチップ長Tの半分T/2)よりも短い周期(例えばT/8)で振動するように構成されており、その結果として出力信号COは、上述したように、センサコントローラ31から送信されるチップ列の1チップに対して複数のチップ(例えば4つのチップ)を含むパルス信号となる。
【0088】
コンパレータCPaは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTPより大きい場合にハイを出力し、そうでない場合にローを出力するよう構成される。また、コンパレータCPbは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTNより大きい場合にローを出力し、そうでない場合にハイを出力するよう構成される。これにより、比較回路82cの比較結果が3値(すなわち、+1,0,-1のいずれか)で減算回路82aにフィードバックされる
【0089】
出力回路100は、コンパレータCPa,CPbの出力に基づいて、ΔΣ変調部82の出力信号COを生成する回路である。具体的には、コンパレータCPaの出力がハイである場合に出力信号COを+1とし、コンパレータCPbの出力がハイである場合に出力信号COを-1とし、それ以外の場合に出力信号COを0とする。これにより、+1,0,-1のいずれかの値を取る3値のパルス信号である出力信号COが実現される。
【0090】
ここで、図14(a)の比較回路82cは出力信号IOと2つの基準電位VTP,VTNとを比較しているが、より多数の基準電位を比較対象として用いることとしてもよい。具体的な例を挙げると、比較回路82cは、出力信号IOと4つの基準電位VTP,VTP0,VTN0,VTN(VTP=-VTN=2×VTP0=-2×VTN0>0)とを比較することとしてもよい。この場合、減算回路82aには、比較回路82cの比較結果が5値(すなわち、+2,+1,0,-1,-2のいずれか)でフィードバックされることになる。一方、詳しくは後述するが、比較回路82cが4つの基準電位VTP,VTP0,VTN0,VTNとの比較を行う場合であっても、アナログ回路71の出力信号COは、3値(すなわち、+1,0,-1のいずれか)で出力される。以下、詳しく説明する。
【0091】
図14(b)は、出力信号IOと4つの基準電位VTP,VTP0,VTN0,VTNとを比較するように構成した比較回路82cの回路構成を具体的に示す図である。同図に示すように、この場合の比較回路82cは、正に対応する2つのコンパレータCPa,CPcと、負に対応する2つのコンパレータCPb,CPdと、出力回路100とを有して構成される。コンパレータCPaの出力端子は、正側出力端子(+2)として遅延回路82dに接続されるとともに、出力回路100に接続される。また、コンパレータCPbの出力端子は、上述した負側出力端子(-2)として遅延回路82eに接続されるとともに、出力回路100に接続される。コンパレータCPcの出力端子は、正側出力端子(+1
)として遅延回路82dに接続されるとともに出力回路100に接続され、コンパレータCPbの出力端子は、上述した負側出力端子(-1)として遅延回路82eに接続されるとともに出力回路100に接続される。
【0092】
各コンパレータCPa~CPdの一方入力端子には、加算回路82bの出力信号IOが共通に供給される。一方、各コンパレータCPa~CPdの他方入力端子には、上述した基準電位VTP,VTN,VTP0,VTN0がそれぞれ供給される。各コンパレータCPa~CPdがクロックCK1に同期したタイミングで動作する点は、図14(a)の場合と同様である。
【0093】
コンパレータCPaは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTPより大きい場合にハイを出力し、そうでない場合にローを出力するよう構成される。コンパレータCPbは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTNより大きい場合にローを出力し、そうでない場合にハイを出力するよう構成される。コンパレータCPcは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTP0より大きい場合にハイを出力し、そうでない場合にローを出力するよう構成される。コンパレータCPdは、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTN0より大きい場合にローを出力し、そうでない場合にハイを出力するよう構成される。これにより、比較回路82cの比較結果が5値(すなわち、+2,+1,0,-1,-2のいずれか)で減算回路82aにフィードバックされる
【0094】
出力回路100は、コンパレータCPa,CPbの出力に基づいて、ΔΣ変調部82の出力信号COを生成するよう構成される。具体的には、コンパレータCPaの出力がハイである場合に出力信号COを+1とし、コンパレータCPbの出力がハイである場合に出力信号COを-1とし、それ以外の場合に出力信号COを0とするよう構成される。コンパレータCPc,CPdの出力は、出力信号COの生成では参照されない。これにより、減算回路82aへのフィードバックが5値であるにもかかわらず、+1,0,-1のいずれかの値を取る3値のパルス信号である出力信号COが実現される。このように出力信号COを3値にすることで、相関演算のために必要な回路の規模を減らすことが可能になる。
【0095】
なお、出力回路100にコンパレータCPc,CPdの出力も参照させることにより、出力信号COを5値(すなわち、+2,+1,0,-1,-2のいずれか)のパルス信号により構成することとしてもよい。このように出力信号COを5値にする場合、後段のデジタル回路72(図13を参照)において、レベル値をも加味して相関値を導出できるという効果が得られる。
【0096】
図13に戻る。遅延回路82dは、比較回路82cの正側出力端子の電位をΔ倍したうえで、例えば1クロック分(出力信号COの1チップ分)だけ遅延させて減算回路82aにフィードバックする役割を果たす。同様に、遅延回路82eは、比較回路82cの負側出力端子の電位を-Δ倍したうえで、例えば1クロック分だけ遅延させて減算回路82aにフィードバックする役割を果たす。なお、Δの具体的な値は、3値でフィードバックする場合にはVTPに等しい値とし、5値でフィードバックする場合にはVTP0に等しい値とすることが好適である。
【0097】
減算回路82aは、増幅回路81の出力信号DOから遅延回路82d,82eの出力信号に応じた量の電位を減じてなる信号を出力する回路である。この減算によれば、1クロック前の出力信号IOが基準電位VTPを上回っていた場合には、加算回路82bの入力信号の電位レベルが下がり、1クロック前の出力信号IOが基準電位VTNを下回っていた場合には、加算回路82bの入力信号の電位レベルが上がるので、加算回路82bの出力信号IOの電位レベルを一定の範囲内に収めるという効果が得られる。
【0098】
加算回路82bは、減算回路82aの出力信号を積分してなる信号を出力する回路である。加算回路82bの出力信号IOは、1クロック前の加算回路82bの出力信号に減算回路82aの出力信号を加算したものとなる。
【0099】
図15(a)は、センサコントローラ31が送信したチップ列(図2(c)に示したもの)の一例を示す図であり、図15(b)は、このチップ列を受信したペン2において観測される受信信号Rxの例を示す図であり、図15(c)は、この受信信号Rxから得られる出力信号COの例を示す図であり、図15(d)は、この出力信号COから得られるチップ列を示す図である。なお、図15(b)に示した受信信号Rxには、正弦波である低周波ノイズが重畳されている。これらの図から理解されるように、受信信号Rxに低周波ノイズが重畳している場合の出力信号COは、受信信号Rxに比べて激しく振動するパルス信号となる。これは、ΔΣ変調部82が受信信号Rxの変化を敏感に検出していることを示している。
【0100】
図13に戻る。本実施の形態によるパターン記憶部73は、センサコントローラ31がアップリンク信号USの送信に使用する可能性のある複数の拡散符号のそれぞれについて、+1、0、1のいずれかの値を取る複数のチップにより構成される3値のチップ列を既知のパターンとして記憶するように構成される。
【0101】
図15(e)は、図15(a)に示したチップ列に対応してパターン記憶部73に記憶されるパターンを示す図であり、図15(f)は、このパターンをパルス信号により表記してなる図である。図15(d)及び図15(e)から理解されるように、パターン記憶部73に記憶されるパターンは、出力信号COの1チップに対して1チップを含むチップ列となる。また、図15(a)及び図15(e)から理解されるように、パターン記憶部73に記憶されるパターンは、送信チップ列の「+1」から「0」への変化に対応して1チップだけ「-1」となり、送信チップ列の「0」から「+1」への変化に対応して1チップだけ「+1」となり、その他のチップは「0」となるように構成された3値のチップ列となる。
【0102】
図13に戻り、本実施の形態によるデジタル回路72は、エッジマッチドフィルタ87及びアップリンク信号復元部88を有して構成される。
【0103】
エッジマッチドフィルタ87は、1つの拡散符号に対応するチップ数分のチップ列を格納可能に設定された先入れ先出し方式のシフトレジスタを有しており、アナログ回路71の出力信号COを1チップ取得する都度、このシフトレジスタに格納していく。そして、新たな1チップを格納する都度、その時点でシフトレジスタに格納されているチップ列と、パターン記憶部73に記憶される複数の既知のパターンのそれぞれとの相関を算出し、その結果を逐次、出力信号FOとしてアップリンク信号復元部88に供給する。
【0104】
アップリンク信号復元部88は、出力信号FOが所定値以上となった場合に、その出力信号FOの算出に用いたパターンに対応する拡散符号が検出されたと判定する。そして、次々に検出される拡散符号に基づいてアップリンク信号USを復元し、コントローラ62に出力する。
【0105】
パルス密度検出部74は、ΔΣ変調部82の出力信号COのパルス密度を検出し、その結果をMCU75に通知する機能部である。また、MCU75は、組み込み用のマイクロプロセッサを構成する集積回路(制御回路)であり、パルス密度検出部74から通知されたパルス密度に基づいて増幅回路81のゲインを制御するとともに、ハイパスフィルタ80の遮断周波数を制御する役割を担う。
【0106】
ここで、パルス密度に基づく増幅回路81のゲイン制御について説明する。ΔΣ変調部82の入力信号(増幅回路81の出力信号DO)の絶対値が大きすぎる場合、加算回路82bの出力信号IOが常に基準電位VTPを上回るか、或いは、基準電位VTNを下回ることになる。そうすると、出力信号COが「+1」又は「-1」に固定されてしまうので、ΔΣ変調部82によるエッジ検出が機能しなくなる。逆に、ΔΣ変調部82の入力信号(増幅回路81の出力信号DO)の絶対値が小さすぎる場合には、加算回路82bの出力信号IOが基準電位VTPと基準電位VTNの間に収まっている状態が継続し、出力信号COが「0」に固定されてしまうので、やはりΔΣ変調部82によるエッジ検出が機能しなくなる。そこでMCU75は、パルス密度検出部74から通知されたパルス密度が所定値以下となった場合に、出力信号DOの値に応じて、増幅回路81のゲインを低下又は上昇させる。増幅回路81のゲインを低下させた場合には、出力信号DOの電位レベルが低下するので、「+1」又は「-1」に固定されていた出力信号COの固定を解除することが可能になる。また、増幅回路81のゲインを上昇させた場合には、出力信号DOの電位レベルが上昇するので、「0」に固定されていた出力信号COの固定を解除することが可能になる。
【0107】
図16(a)は、センサコントローラ31が送信するパルス信号の一例を示す図であり、図16(b)は、このパルス信号を受信したペン2において出力される増幅回路81の出力信号DOを示す図であり、図16(c)は、この出力信号DOに対応する加算回路82bの出力信号IOを示す図であり、図16(d)は、この出力信号IOに対応するアナログ回路71の出力信号COを示す図であり、図16(e)は、図16(a)に示したパルス信号に対応してパターン記憶部73に記憶される既知のパターンを示す図であり、図16(f)は、図16(d)に示した出力信号CO及び図16(e)に示したパターンに対応するエッジマッチドフィルタ87の出力信号FOを示す図である。以下、図13とともにこれらの図を参照しながら、本実施の形態の作用及び効果について、詳しく説明する。ただし、図16(c)及び図16(d)には、図14(b)に示した比較回路82cを用いる場合を示している。
【0108】
増幅回路81の出力信号DOは、図16(b)に示すように、センサコントローラ31が送信するパルス信号の立ち上がりエッジに対応してプラス側に一時的に増大し、立ち下がりエッジに対応してマイナス側に一時的に増大する信号となる。これは、図13に示したハイパスフィルタ80が微分回路として機能することによるものである。
【0109】
加算回路82bの出力信号IOは、図16(c)に示すように、基準電位VTP,VTP0を上回ったこと、及び、基準電位VTN0,VTNを下回ったことに応じて折り返しが発生する信号となる。このような折り返しが発生することで、出力信号IOは、折り返し変調(Signal Folding変調)された信号になっていると言える。このようにΔΣ変調部82が折り返し変調を行うことにより過去の信号への依存が小さくなることから、本実施の形態による受信回路61によれば、例えば第1の実施の形態で説明した受信回路61よりも確実にエッジを検出することが可能になる。また、比較路82cの比較結果を2値(+1,0)で減算回路82aにフィードバックするタイプの(すなわち、1ビットのΣΔ変調を行う)ΔΣ変調部に比べても、より確実にエッジを検出することが可能になる。これは、1ビットのΣΔ変調では常に0か+1がフィードバックされることになるため正の信号にしか対応できないが、比較回路82cの比較結果を3値又は5値などの奇数値で減算回路82aにフィードバックすることとすれば、正負の信号に対応できることに加え、0の状態(VTP0とVTN0の中間)の無信号にも対応できることによるものである。
【0110】
なお、ここで触れたように、減算回路82aへのフィードバックは奇数値で行えばよく、図14(a)に示した3値や、図14(b)に示した5値に限られない。なお、例えば2m+1値でのフィードバックに対応する場合であれば、正に対応するm個のコンパレータと、負に対応するm個のコンパレータとを含むように比較回路82cを構成すればよい。
【0111】
また、図16(c)に示す例のように比較回路82cの比較結果を5値(+2,+1,0,-1,-2)で減算回路82aにフィードバックすることとすれば、3値でフィードバックを行う場合に比べて過去の信号への依存が小さくなるため、さらに確実にエッジを検出することが可能になる。その他、折り返し変調によれば、連続時間の積分器を用いた信号処理が可能になることから、例えば非特許文献1に開示されているような多値ADで処理する構成に比べ、信号のロスを低減することが可能になるという効果も得られる。
【0112】
アナログ回路71の出力信号COは、上述したように、センサコントローラ31が送信するチップ列の1チップに対して複数のパルスを含む3値のパルス信号であり、図16(d)に示すように、各パルスを生成するタイミングで出力信号IOが基準電位VTPを上回っている場合に+1のパルス、基準電位VTNを下回っている場合に-1のパルスを含む信号となる。
【0113】
図16(a)と図16(d)を比較すると理解されるように、出力信号COには、センサコントローラ31が送信するパルス信号のエッジに対応するパルス以外にも多数のパルスが含まれる。したがって、もし仮に第1の実施の形態で使用した既知のパターン(拡散符号をマンチェスター符号化することによって得られるチップ列)を本実施の形態でも使用することとすると、好適な相関演算結果を得られない可能性がある。しかしながら、本実施の形態では、図16(e)に示すように、出力信号COの1チップに対して1チップを含み、送信チップ列の「+1」から「0」への変化に対応して1チップだけ「-1」となり、送信チップ列の「0」から「+1」への変化に対応して1チップだけ「+1」となり、その他のチップは「0」となるように構成された3値のチップ列により構成された既知のパターンを使用するので、パルス信号のエッジに対応するパルス以外のパルスが出力信号COに含まれていたとしても、相関演算の結果には反映されないことになる。したがって、ΔΣ変調の結果として得られる出力信号COに基づいて、図16(f)に示すように、好適な相関演算結果を得ることが可能になる。
【0114】
以上説明したように、本実施の形態によるペン2によれば、アップリンク信号USの波形に鈍りが生じても、ΔΣ変調部により実行される折り返し変調によってエッジを確実に検出することができるので、ペン2がエッジを検出できる可能性が高まる。したがって、ペン2がアップリンク信号USを好適に受信できるようになる。
【0115】
また、デジタル回路72内で+1,0,-1の3値による相関演算を行っているので、ΔΣ変調の結果として得られる出力信号COに基づいて、好適な相関演算結果を得ることが可能になる。
【0116】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0117】
例えば、第1及び第2の実施の形態は、組み合わせて用いることとしてもよい。すなわち、エッジが強調されるようにアップリンク信号USを送信するセンサコントローラ31と、ΔΣ変調及び3値による相関演算を用いてアップリンク信号USの受信を行うペン2とを組み合わせて用いることとしてもよい。こうすることで、ペンがアップリンク信号USをより好適に受信できるようになる。
【符号の説明】
【0118】
1 位置検出システム
2 ペン
3 タブレット
3a タッチ面
20 芯
21 ペン先電極
23 筆圧検出センサ
24 回路基板
25 電池
30 センサ電極群
30X,30Y センサ電極
31 センサコントローラ
32 ホストプロセッサ
33 チャージャー
41 ロジック部
42 送信部
43 受信部
44 選択部
50 符号列保持部
51 拡散処理部
51A 拡散処理部51によって生成されたパルス信号の信号源
52 送信処理部
52A 送信処理部52によって生成された遅延信号の信号源
54x,54y スイッチ
55x,55y 導体選択回路
60 スイッチ
61 受信回路
62 コントローラ
63 送信回路
71 アナログ回路
72 デジタル回路
73 パターン記憶部
74 パルス密度検出部
80 ハイパスフィルタ
81 増幅回路
82 ΣΔ変調部
82a 減算回路
82b 加算回路
82c 比較回路
82d,82e 遅延回路
87 エッジマッチドフィルタ
88 アップリンク信号復元部
100 出力回路
101 電位生成回路
ACa~ACd アンド回路
C 静電容量
C1,Ca~Cd 容量素子
CK1,CK2 クロック
cmd コマンド
CO アナログ回路71の出力信号
CPa~CPd コンパレータ
DO 増幅回路81の出力信号
E1,E2 エッジ
E3 戻りエッジ
FO エッジマッチドフィルタ87の出力信号
IO 加算回路82eの出力信号
OPa~OPd オペアンプ
P プリアンブル
R 領域
R1~R8,Ra~Rk,Rm,Rn 抵抗素子
Res 応答データ
Rx 受信信号
Sa~Si スイッチ
sTRx,sTRy,selX,selY 制御信号
T 拡散符号のチップ長
UN 低周波ノイズ
US アップリンク信号
VDD 高位側電源電位
VSS 低位側電源電位
Vref,VTP,VTP0,VTN0,VTN 基準電位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16