(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】リチウム硫黄固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20220729BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220729BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220729BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220729BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220729BHJP
H01M 50/184 20210101ALN20220729BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M50/184 E
(21)【出願番号】P 2018066643
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】518110774
【氏名又は名称】株式会社ABRI
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】道畑 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
(72)【発明者】
【氏名】若杉 淳吾
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英俊
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昌明
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/051308(WO,A1)
【文献】特開2010-056067(JP,A)
【文献】特開2000-331684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M 4/13- 4/1399
H01M 4/64- 4/84
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装容器内に、硫黄正極と、リチウム負極と、前記硫黄正極と前記リチウム負極との間に配置された固体電解質と、前記硫黄正極の前記固体電解質とは逆の側に配置された正極集電体と、前記リチウム負極の前記固体電解質とは逆の側に配置された負極集電体と、前記正極集電体と前記固体電解質との間に前記硫黄正極を囲繞して配置された無端形状のシール材とを有
し、
前記硫黄正極は前記正極集電体に形成された正極収容凹部に前記正極収容凹部から前記固体電解質側へ突出する部分を確保して収容され、前記シール材は、前記硫黄正極の前記正極収容凹部から前記固体電解質側へ突出された部分を囲繞して前記正極集電体と前記固体電解質との間に配置されているリチウム硫黄固体電池。
【請求項2】
請求項
1に記載のリチウム硫黄固体電池において、
前記外装容器内に、前記硫黄正極、前記負極集電体、前記リチウム負極、前記固体電解質、及び前記シール材を、前記正極集電
体に向かって弾性付勢するための弾性部材をさらに有するリチウム硫黄固体電池。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のリチウム硫黄固体電池において、
前記硫黄正極は、前記正極集電体と前記固体電解質との間の間隔方向に圧縮変形可能であるリチウム硫黄固体電池。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のリチウム硫黄固体電池において、
前記硫黄正極は、導電性材料によって形成され表面に開口する穴部が多数存在する導電性シートと、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体のうち硫黄及びイオン液体のみあるいは硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の全てを含有し、前記導電性シートの前記穴部に収容された正極材とを有する部材であるリチウム硫黄固体電池。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウム硫黄固体電池において、
前記固体電解質は酸化物系材料によって形成されているリチウム硫黄固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機器等のポータブル化やコードレス化が急速に進展している。これら電子機器や通信機器の電源として、エネルギー密度が高く、負荷特性に優れた二次電池が要望されており、高電圧、高エネルギー密度で、サイクル特性にも優れるリチウム二次電池の利用が拡大している。
一方、電気自動車の普及や、自然エネルギーの利用の推進には、さらに大きなエネルギー密度の電池が必要とされる。そこで、LiCoO2等のリチウム複合酸化物を正極の構成材料とするリチウムイオン二次電池に替わる、新たなリチウム二次電池の開発が望まれている。
【0003】
硫黄は、1672mAh/gと極めて高い理論容量密度を有しており、硫黄を正極の構成材料とするリチウム硫黄電池は、電池の中でも、理論的に最も高エネルギー密度を達成できる可能性を有している。そこで、リチウム硫黄電池の研究開発が盛んに行われるようになってきている。
【0004】
リチウム硫黄電池の電解質として、有機電解液を用いた場合には、充放電の際などに硫黄分子や反応中間体(例えば、多硫化リチウム等)等が有機電解液中に溶解して拡散することで、自己放電や負極の劣化が惹き起こされ、電池性能が低下するという問題点がある。
そこで、このような問題点を解決するために、電解液に塩酸や硝酸等の酸を添加して電解液を改質する方法(特許文献1参照)、正極の構成材料として、ケッチェンブラックに硫黄ナノ粒子を内包した複合体を用いる方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-114920号公報
【文献】特開2012-204332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2で開示されている方法では、電解質自体が液状であるため、硫黄分子や反応中間体が電解液に溶解することを完全には抑制できず、充分な効果を得られないという問題点があった。
このような電解液を用いた場合の問題点を解決する方法として、固体電解質を用いる方法がある。しかし、固体電解質を備えたリチウム硫黄固体電池は、まだ技術的に充分に検討されておらず、大きな改善の余地がある。
【0007】
特許文献1、2のリチウム硫黄電池は、100℃以上(例えば100~160℃)の高温環境下で使用したときに、硫黄正極の硫黄分子の電解質への溶解が増大して電池性能が低下する上、電解質に含まれる有機溶媒の気化によって可燃性ガスが発生するという問題もある。これに対して、固体電解質を備えたリチウム硫黄固体電池は、固体電解質を使用するため、100~160℃の高温環境下で使用しても、硫黄正極の硫黄の電解質への溶解が無く、電池性能を安定維持が期待される。また、固体電解質を備えたリチウム硫黄固体電池は、100~160℃の高温環境下で使用しても、電解液からの可燃性ガスの発生が無いため、安全性を担保できる。
しかしながら、本発明者等は、固体電解質を備えたリチウム硫黄固体電池を100~160℃の環境下で使用したときに正極の硫黄が溶融して電池外部へ漏出する現象を確認した。
【0008】
本発明の態様が解決しようとする課題は、100~160℃の環境下で使用する場合であっても充放電動作が可能なリチウム硫黄固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では以下の態様を提供する。
第1の態様のリチウム硫黄固体電池は、外装容器内に、硫黄正極と、リチウム負極と、前記硫黄正極と前記リチウム負極との間に配置された固体電解質と、前記硫黄正極の前記固体電解質とは逆の側に配置された正極集電体と、前記リチウム負極の前記固体電解質とは逆の側に配置された負極集電体と、前記正極集電体と前記固体電解質との間に前記硫黄正極を囲繞して配置された無端形状のシール材とを有し、前記硫黄正極は前記正極集電体に形成された正極収容凹部に前記正極収容凹部から前記固体電解質側へ突出する部分を確保して収容され、前記シール材は、前記硫黄正極の前記正極収容凹部から前記固体電解質側へ突出された部分を囲繞して前記正極集電体と前記固体電解質との間に配置されている。
前記リチウム硫黄固体電池は、前記外装容器内に、前記硫黄正極、前記負極集電体、前記リチウム負極、前記固体電解質、及び前記シール材を、前記正極集電体に向かって弾性付勢するための弾性部材をさらに有していても良い。
前記硫黄正極は、前記正極集電体と前記固体電解質との間の間隔方向に圧縮変形可能であっても良い。
前記硫黄正極は、導電性材料によって形成され表面に開口する穴部が多数存在する導電性シートと、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体のうち硫黄及びイオン液体のみあるいは硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の全てを含有し、前記導電性シートの前記穴部に収容された正極材とを有する部材であっても良い。
前記固体電解質は酸化物系材料によって形成されていても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様に係るリチウム硫黄固体電池によれば、硫黄正極の硫黄の融点以上の温度環境下で使用したときに、熱溶融された硫黄の流動範囲を正極集電体と固体電解質とシール材とによって囲まれた内側の領域(以下、硫黄正極収容領域、とも言う)に限定できる。このため、このリチウム硫黄固体電池は、正極集電体と固体電解質との間の硫黄が流出によって不足して充放電動作を行えなくなるといった不都合を防止でき、硫黄正極の硫黄の融点以上の温度環境下であっても充放電動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るリチウム硫黄固体電池の要部の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1のリチウム硫黄固体電池の硫黄正極とシール材の中央孔との関係を示す要部拡大平面図である。
【
図3】
図1のリチウム硫黄固体電池について、変形例の硫黄正極を用いた構成(リチウム硫黄固体電池の変形例)を模式的に示す断面図である。
【
図4】リチウム硫黄固体電池の変形例を示す図であって、正極集電体の平坦面に形成した正極材層を囲繞する無端形状のシール材を有する構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<リチウム硫黄固体電池>>
以下、本発明の実施形態に係るリチウム硫黄固体電池について、図面を参照して説明する。
なお、以降の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の1実施形態に係るリチウム硫黄固体電池10の構造を示す正断面図である。
図1に示すリチウム硫黄固体電池10は、外装容器11内に、板状の正極集電体である正極集電板12、硫黄正極13、シール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17、弾性部材18、弾性部材押さえ板19を収容した構成となっている。
【0014】
図1に示す外装容器11は、リチウム硫黄固体電池10に適用可能な外装容器の一例である。リチウム硫黄固体電池10に使用する外装容器は
図1に例示した構成のものに限定されない。
図1に示す外装容器11は、円筒状の筒状胴部11a及び筒状胴部11aの軸線方向一端側を塞ぐ底板部11bを有する有底円筒状の容器本体11cと、容器本体11cの開口部に嵌合固定されて開口部を塞ぐ蓋体11dと、容器本体11c開口部の内周に沿って設けられたガスケット11fとを有する。
【0015】
容器本体11cは、筒状胴部11aの軸線方向他端部から筒状胴部11a内側側へ張り出された押さえ片部11eを含む。ガスケット11fは、ゴム、エラストマ等の電気絶縁性の高分子材料によってリング状に形成されている。ガスケット11fは、外装容器底板部11bの外周部と、筒状胴部11a及び押さえ片部11eの内周面とに重ね合わせて設けられている。容器本体11cの開口部は押さえ片部11e内側を指す。
【0016】
蓋体11dは、円板状の主板部11gと、主板部11gの外周全周から主板部11gの片面側に突出された嵌合リング部11hとを有する。嵌合リング部11hは、蓋体11dの主板部11g外周から末広がりに拡がるテーパ円筒部11iと、テーパ円筒部11iの先端から一定断面寸法でテーパ円筒部11iと同軸に延出する嵌合円筒部11jとを有する。
【0017】
蓋体11dを容器本体11cに取り付けるには、蓋体11dの嵌合リング部11hの嵌合円筒部11jを容器本体11c外側から容器本体11cの押さえ片部11e内側に押し込む。そして、嵌合リング部11hを押さえ片部11eとの当接によって縮径方向に弾性変形させながら嵌合円筒部11jを押さえ片部11eの外装容器底板部11b側に押し込み、嵌合円筒部11jをガスケット11fの全周に形成されている嵌合溝11kに圧入する。
【0018】
ガスケット11fの嵌合溝11k外周側に位置する外側壁部11mは、容器本体11cの筒状胴部11a内周面に沿って延在する筒状主壁部と、押さえ片部11e内周面に沿って延在する先端部(以下、外側壁部11m先端部、とも言う)とを有する。ガスケット11fの外側壁部11m先端部は、ガスケット11fの外側壁部11mの筒状主壁部先端からその内周側へ傾斜して延出されている。
【0019】
蓋体11dの嵌合円筒部11jをガスケット11fの嵌合溝11kに圧入したとき、蓋体11dのテーパ円筒部11iの先端部(嵌合円筒部11j側部分)はガスケット11fの外側壁部11m先端部の内周側に入り込み、容器本体11cの押さえ片部11eとガスケット11fの外側壁部11m先端部とによってガスケット11fの嵌合溝11kの溝底に向かって押さえ込まれる。
その結果、蓋体11dは、容器本体11cの押さえ片部11eとガスケット11fの外側壁部11m先端部とによって容器本体11cに対して抜け止めされて容器本体11cに嵌合し、容器本体11cの開口部を塞いだ状態で容器本体11cに取り付けられる。
【0020】
容器本体11c及び蓋体11dは、それぞれ導電性金属材料によって形成されている。
ガスケット11fは、容器本体11cと蓋体11dとの間の電気絶縁性を確保する。
【0021】
図1に示すリチウム硫黄固体電池10において、正極集電板12、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17、弾性部材18、弾性部材押さえ板19は、板状(例えば円板状)に形成されている。
シール材14は、ゴム、樹脂等の高分子材料によって形成された無端形状(具体的にはリング板状)の部材である。
【0022】
図1に示すリチウム硫黄固体電池10において、正極集電板12、硫黄正極13及びシール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17、弾性部材18、弾性部材押さえ板19は、外装容器11の容器本体11cの底板部11b側から蓋体11d側(具体的には蓋体11dの主板部11g側。以下同)に向かってこの順で外装容器11内に積層状態に収容されている。
正極集電板12、硫黄正極13、シール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17、弾性部材18、弾性部材押さえ板19は、外装容器11のガスケット11fの内周側に配置され、それぞれ外装容器11の筒状胴部11aの軸線方向に垂直に延在する向きで外装容器11内(具体的には筒状胴部11a内)に収容されている。
【0023】
正極集電板12は例えばステンレス鋼等の良導性の金属材料によって形成されている。
正極集電板12を形成する金属材料は、ステンレス鋼に限定されず、例えば炭素、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル等も採用可能である。
【0024】
正極集電板12はその片面(表側主面12c)を外装容器11の容器本体11cの底板部11b(以下、外装容器底板部とも言う)に重ね合わせるようにして設けられている。
正極集電板12の表側主面12cとは逆側の面12a(以下、正極材側主面、とも言う)の中央部には正極収容凹部12bが形成されている。
【0025】
硫黄正極13は、正極集電板12の正極収容凹部12bに収容されている。
図1に示す正極収容凹部12aは正極集電板12の正極材側主面12aから正極材側主面12aに垂直の軸線を以て一定断面寸法で窪んで形成されている。
【0026】
図1に示す硫黄正極13は板状に形成されている。正極収容凹部12aはその片面を正極収容凹部12aの底面12dに当接させて正極収容凹部12aに収容されている。硫黄正極13の厚みは、正極集電板12の正極収容凹部12bの深さ寸法に比べて若干大きい。硫黄正極13は、正極集電板12の正極材側主面12aにおける正極収容凹部12aの開口部から正極収容凹部12aの底面12dとは逆側へ突出されている。
【0027】
ここで、硫黄正極について詳しく説明する。
本実施形態のリチウム硫黄固体電池における硫黄正極は、硫黄を含有し、正極として機能するものであれば、特に限定されない。
【0028】
ただし、好ましい硫黄正極13としては、
図1に示すように、表面に開口する穴部が多数存在する導電性シート13aと、導電性シート13aの穴部に収容された正極材13bとを有するものが挙げられる。
正極材13bは、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体のうち硫黄のみを含有するもの、硫黄及びイオン液体のみを含有するもの、あるいは硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の全てを含有するものである。
また、正極材13bは、導電性シート13aの穴部だけでなく、導電性シート13aの外周面の一部または全体を覆って存在していても良い。
以下、硫黄正極のこれら構成材料について、詳細に説明する。
まず、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の全てを含有する正極材を有する硫黄正極について説明する。
【0029】
[導電性シート]
導電性シートの穴部は、硫黄正極の導電性シート以外の構成成分、すなわち、正極材を保持する。そして、導電性シートは、正極集電体として機能し得る。
また、導電性シートの穴部は、導電性シート表面に開口しており、導電性シートに対して、後から硫黄等の各成分を加えることで、これら成分を保持させることが可能となっている。
【0030】
導電性シートの穴部は、上記の条件を満たす限り、その形状は特に限定されない。
例えば、穴部は、1個又は2個以上の他の穴部と連通しいてもよいし、他の穴部と連通することなく、独立していてもよい。
また、穴部は、導電性シートを貫通していてもよいし、導電性シートを貫通しない非貫通のものであってもよい。
【0031】
導電性シートの形態としては、例えば、多孔質体、繊維集合体(導電性の繊維状材料が集合し、層を構成している繊維質のもの)等が挙げられる。
図1のリチウム硫黄固体電池10の硫黄正極13は繊維集合体を導電性シート13aに用いている。また、
図1のリチウム硫黄固体電池10の硫黄正極13の導電性シート13aは、穴部に正極材が収容されていない状態にて厚み方向に弾性可能な繊維集合体を用いている。
【0032】
導電性シートを構成する繊維集合体は、例えば、繊維状の材料が互いに絡み合って構成されているものであってもよいし、繊維状の材料が規則的又は不規則的に積み重なって構成されていてもよい。
繊維集合体である導電性シートの穴部は、互いに離間する繊維状材料間の領域等、繊維集合体内の繊維状材料が存在しない領域のうち導電性シート表面に開口するものを指す。
【0033】
導電性シートの穴部は、正極材13bによって隙間無く埋め込まれていても良いし、正極材13bによって埋め込まれていない空隙がある程度存在しても良い。
繊維集合体である導電性シートを含む硫黄正極は、繊維集合体を構成する繊維状材料が、繊維集合体内の繊維状材料が存在しない領域に充填された正極材中に埋め込まれた構成である。
【0034】
導電性シートの構成材料は、導電性を有していればよいが、硫黄との反応性を有しないものが好ましい。
導電性シートの構成材料として、より具体的には、例えば、炭素、金属(単体金属、合金)等が挙げられる。
なかでも、導電性シートの好ましい構成材料としては、正極集電体の構成材料が挙げられ、より具体的には、例えば、炭素、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0035】
導電性シートの構成材料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0036】
好ましい導電性シートとしては、例えば、カーボンフェルト、カーボンクロス等が挙げられる。
【0037】
導電性シートの厚さは、特に限定されず、適用する電池の目的に応じて適宜設定すればよい。導電性シートの厚さは、50~30000μmであることが好ましく、100~3000μmであることがより好ましい。
【0038】
なお、導電性シートの表面における凹凸度が高い場合など、導電性シートの厚さが導電性シートの部位によって明確に変動している場合には、最大の厚さを導電性シートの厚さとする(導電性シートの最も厚い部位の厚さを導電性シートの厚さとする)。これは、導電性シートに限らず、すべての層(後述する硫黄正極、リチウム負極、固体電解質)の厚さについても、同様である。
【0039】
[導電助剤]
導電助剤は、公知のものでよく、具体的なものとしては、例えば、黒鉛(グラファイト);ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;カーボンナノチューブ;グラフェン;フラーレン等が挙げられる。
硫黄正極が含有する導電助剤は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0040】
硫黄正極において、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量に対する、硫黄及び導電助剤の合計含有量の割合([硫黄正極の硫黄及び導電助剤の合計含有量(質量部)]/[硫黄正極の硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量(質量部)]×100)は、特に限定されないが、60~95質量%であることが好ましく、70~85質量%であることがより好ましい。前記合計含有量の割合が前記下限値以上であることで、電池の充放電特性がより向上する。前記合計含有量の割合が前記上限値以下であることで、硫黄及び導電助剤以外の成分を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
【0041】
硫黄正極において、[硫黄の含有量(質量部)]:[導電助剤の含有量(質量部)]の質量比は、特に限定されないが、30:70~70:30であることが好ましく、45:55~65:35であることがより好ましい。硫黄の含有量の比率が高いほど、電池の充放電特性がより向上し、導電助剤の含有量の比率が高いほど、硫黄正極の導電性がより向上する。
【0042】
硫黄正極において、硫黄及び導電助剤は、複合体を形成していてもよい。
例えば、硫黄と、炭素含有材料(例えば、ケッチェンブラック等)と、を混合し、焼成することで、硫黄-炭素複合体が得られる。このような、複合体も、硫黄正極の含有成分として好適である。
【0043】
[バインダー]
前記バインダーは、公知のものでよく、具体的なものとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
硫黄正極が含有するバインダーは、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0044】
硫黄正極において、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量に対する、バインダーの含有量の割合([硫黄正極のバインダーの含有量(質量部)]/[硫黄正極の硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量(質量部)]×100)は、特に限定されないが、3~15質量%であることが好ましく、5~9質量%であることがより好ましい。前記含有量の割合が前記下限値以上であることで、硫黄正極の構造をより安定して維持できる。前記含有量の割合が前記上限値以下であることで、電池の充放電特性がより向上する。
【0045】
[イオン液体]
硫黄正極が含有する前記イオン液体は、リチウムイオンを容易に移動させるための成分である。イオン液体は、高温安定性に優れるとともに、リチウムイオンを容易に移動させることが可能である。硫黄正極がイオン液体を含有していることにより、硫黄正極と固体電解質との接触面積が小さいものの、イオン液体が硫黄正極と固体電解質との間でリチウムイオンを移動させる。したがって、このような硫黄正極を用いた固体電池は、固体電解質を用いているにも関わらず、硫黄正極界面での界面抵抗値が小さくなり、より優れた電池特性を有する。
【0046】
前記イオン液体は、例えば、公知のものから適宜選択できる。
ただし、イオン液体は、例えば、170℃未満の温度範囲で、硫黄の溶解度が低いものほど好ましく、硫黄を溶解させないものが特に好ましい。
【0047】
イオン液体としては、例えば、170℃未満の温度で液状のイオン性化合物、溶媒和イオン液体等が挙げられる。
【0048】
(170℃未満の温度で液状のイオン性化合物)
前記イオン性化合物を構成するカチオン部は、有機カチオン及び無機カチオンのいずれでもよいが、有機カチオンであることが好ましい。
前記イオン性化合物を構成するアニオン部も、有機アニオン及び無機アニオンのいずれでもよい。
【0049】
前記カチオン部のうち、有機カチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン(imidazolium cation)、ピリジニウムカチオン(pyridinium cation)、ピロリジニウムカチオン(pyrrolidinium cation)、ホスホニウムカチオン(phosphonium cation)、アンモニウムカチオン(ammonium cation)、スルホニウムカチオン(sulfonium cation)等が挙げられる。
ただし、前記有機カチオンは、これらに限定されない。
【0050】
前記アニオン部のうち、有機アニオンとしては、例えば、メチルサルフェートアニオン(CH3SO4
-)、エチルサルフェートアニオン(C2H5SO4
-)等のアルキルサルフェートアニオン(alkylsulfate anion);
トシレートアニオン(CH3C6H4SO3
-);
メタンスルホネートアニオン(CH3SO3
-)、エタンスルホネートアニオン(C2H5SO3
-)、ブタンスルホネートアニオン(C4H9SO3
-)等のアルカンスルホネートアニオン(alkanesulfonate anion);
トリフルオロメタンスルホネートアニオン(CF3SO3
-)、ペンタフルオロエタンスルホネートアニオン(C2F5SO3
-)、ヘプタフルオロプロパンスルホネートアニオン(C3H7SO3
-)、ノナフルオロブタンスルホネートアニオン(C4H9SO3
-)等のパーフルオロアルカンスルホネートアニオン(perfluoroalkanesulfonate anion);
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン((CF3SO2)N-)、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオン((C4F9SO2)N-)、ノナフルオロ-N-[(トリフルオロメタン)スルホニル]ブタンスルホニルイミドアニオン((CF3SO2)(C4F9SO2)N-)、N,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルホニルイミドアニオン(SO2CF2CF2CF2SO2N-)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミドアニオン(perfluoroalkanesulfonylimide anion);
アセテートアニオン(CH3COO-);
ハイドロジェンサルフェートアニオン(HSO4
-);等が挙げられる。
ただし、前記有機アニオンは、これらに限定されない。
【0051】
前記アニオン部のうち、無機アニオンとしては、例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(N(SO2F)2
-);ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6
-);テトラフルオロボレートアニオン(BF4
-);塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)等のハライドアニオン(halide anion);テトラクロロアルミネートアニオン(AlCl4
-)、チオシアネートアニオン(SCN-)等が挙げられる。
ただし、前記無機アニオンは、これらに限定されない。
【0052】
前記イオン性化合物としては、例えば、上記のいずれかのカチオン部と、上記のいずれかのアニオン部と、の組み合わせで構成されたものが挙げられる。
【0053】
カチオン部がイミダゾリウムカチオンであるイオン液体としては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネート、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムメチルサルフェート、メチルイミダゾリウムクロライド、メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムエチルサルフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメチルサルフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムチオシアネート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムチオシアネート、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムエチルサルフェート等が挙げられる。
【0054】
カチオン部がピリジニウムカチオンであるイオン液体としては、例えば、1-ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0055】
カチオン部がピロリジニウムカチオンであるイオン液体としては、例えば、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0056】
カチオン部がホスホニウムカチオンであるイオン液体としては、例えば、テトラブチルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチルドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0057】
カチオン部がアンモニウムカチオンであるイオン液体としては、例えば、メチルトリブチルアンモニウムメチルサルフェート、ブチルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルへキシルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0058】
(溶媒和イオン液体)
前記溶媒和イオン液体で好ましいものとしては、例えば、グライム-リチウム塩錯体からなるもの等が挙げられる。
【0059】
前記グライム-リチウム塩錯体におけるリチウム塩としては、例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO2F)2、本明細書においては、「LiFSI」と略記することがある)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SO2CF3)2、本明細書においては、「LiTFSI」と略記することがある)等が挙げられる。
【0060】
前記グライム-リチウム塩錯体におけるグライムとしては、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル(CH3(OCH2CH2)3OCH3、トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(CH3(OCH2CH2)4OCH3、テトラグライム)等が挙げられる。
【0061】
前記グライム-リチウム塩錯体としては、例えば、グライム1分子とリチウム塩1分子とで構成された錯体等が挙げられるが、グライム-リチウム塩錯体はこれに限定されない。
【0062】
前記グライム-リチウム塩錯体は、例えば、リチウム塩とグライムとを、リチウム塩(モル):グライム(モル)のモル比が、好ましくは10:90~90:10となるように、混合することで作製できる。
【0063】
好ましいグライム-リチウム塩錯体としては、例えば、トリグライム-LiFSI錯体、テトラグライム-LiFSI錯体、トリグライム-LiTFSI錯体、テトラグライム-LiTFSI錯体等が挙げられる。
【0064】
硫黄正極が含有するイオン液体は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0065】
硫黄正極が含有するイオン液体は、上記の中でも、グライム-リチウム塩錯体からなる溶媒和イオン液体であることが好ましい。
【0066】
硫黄正極において、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量に対する、イオン液体の含有量の割合([硫黄正極のイオン液体の含有量(質量部)]/[硫黄正極の硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量(質量部)]×100)は、特に限定されないが、5~20質量%であることが好ましく、9~15質量%であることがより好ましい。前記含有量の割合が前記下限値以上であることで、硫黄正極の導電性がより向上する。前記含有量の割合が前記上限値以下であることで、電池の充放電特性がより向上する。
【0067】
[その他の成分]
硫黄正極は、本発明の効果を損なわない範囲内において、導電性シート以外の構成成分として、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体以外に、その他の成分(ただし、後述する溶媒を除く)を含有していてもよい。
前記その他の成分は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
硫黄正極が含有するその他の成分は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0068】
硫黄正極において、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量に対する、前記その他の成分の含有量の割合([硫黄正極のその他の成分の含有量(質量部)]/[硫黄正極の硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の総含有量(質量部)]×100)は、特に限定されないが、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であってもよい。
【0069】
硫黄正極において、導電性シートの質量に対する、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の合計質量の割合([硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の合計質量]/[導電性シートの質量]×100)は、15~45質量%であることが好ましく、25~40質量%であることがより好ましい。
【0070】
<硫黄正極の製造方法>
上述の、集電体(正極集電体)上に正極活物質層を備えて構成された硫黄正極等、公知の硫黄正極は、公知の方法で製造すればよい。
一方、前記導電性シートを備えた硫黄正極は、例えば、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体を含有する正極材(正極材形成組成物)を、前記導電性シートに含浸させる工程を有する製造方法で、製造できる。そして、前記製造方法は、さらに、含浸させた正極材形成組成物を乾燥させる工程等、他の工程を有していてもよい。
但し、この硫黄正極の製造方法では、導電性シートに含浸させる正極材形成組成物中に可燃性ガスを発生する有機溶媒が含まれる場合、導電性シートに正極材形成組成物を含浸させる工程の後に、乾燥工程あるいは留去等によって、正極材形成組成物から可燃性ガスを発生する有機溶媒を除去する。
以下、このような硫黄正極の製造方法について説明する。
【0071】
[正極材]
好ましい正極材形成組成物としては、例えば、硫黄、導電助剤、バインダー、イオン液体、溶媒、及び必要に応じて前記その他の成分を含有するものが挙げられる。
【0072】
前記溶媒は、上述の硫黄等の各成分を溶解又は分散させ、正極材形成組成物に適度な流動性を付与するための成分である。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、如何なるイオン液体も溶媒には包含されない(すべてのイオン液体は溶媒として取り扱わない)ものとする。
【0073】
溶媒は、上述の硫黄等の各成分の種類に応じて任意に選択でき、好ましいものとしては、有機溶媒が挙げられる。
前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール;N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド;アセトン等のケトン等が挙げられる。
正極材(正極材形成組成物)が含有する溶媒は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
正極材形成組成物の溶媒の含有量は、特に限定されず、溶媒以外の成分の種類に応じて、適宜調節できる。
【0074】
正極材における、溶媒以外の成分の総含有量に対する、硫黄の含有量の割合([正極材の硫黄の含有量(質量)]/[正極材の、溶媒以外の成分の総含有量(質量部)]×100)は、硫黄正極における、硫黄、導電助剤、バインダー、イオン液体及び前記その他の成分の総含有量に対する、硫黄の含有量の割合([硫黄正極の硫黄の含有量(質量部)]/[硫黄正極の、硫黄、導電助剤、バインダー、イオン液体及び前記その他の成分の総含有量(質量部)]×100)と同じである。これは、硫黄以外の、導電助剤、バインダー、イオン液体及び前記その他の成分でも同じである。
【0075】
正極材形成組成物は、上述の硫黄等の各成分を配合することで得られる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
溶媒を用いる場合には、溶媒を溶媒以外のいずれかの成分(すなわち、上述の硫黄、導電助剤、バインダー、イオン液体及び前記その他の成分のいずれかの成分)と混合して、この成分を予め希釈しておくことで用いてもよいし、上述の溶媒以外のいずれかの成分を予め希釈しておくことなく、溶媒をこれら成分と混合することで用いてもよい。
【0076】
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、撹拌棒、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサーを用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各成分が劣化しない限り特に限定されない。通常、混合時の温度は、15~30℃であることが好ましい。
【0077】
各成分を添加及び混合して得られた正極材形成組成物は、そのまま導電性シートへの含浸に用いてもよいし、例えば、添加した溶媒の一部を留去等によって除去するなど、何らかの操作を追加して行って得られたものを、導電性シートへの含浸に用いてもよい。
【0078】
正極材形成組成物の導電性シートへの含浸は、例えば、液状である正極材形成組成物を導電性シートに塗工する方法、液状である正極材に導電性シートを浸漬する方法等により、行うことができる。
正極材形成組成物は、公知の方法で導電性シートに塗工できる。
導電性シートへ含浸させる正極材の温度は、特に限定されないが、例えば、15~30℃とすることができる。ただし、これは、前記温度の一例である。
【0079】
正極材形成組成物の乾燥は、公知の方法で常圧下又は減圧下で行うことができる。例えば、好ましくは70~90℃、8~24時間の条件で乾燥させることができるが、乾燥条件はこれに限定されない。
なお、硫黄正極は、導電性シートに含浸させた正極材形成組成物の有機溶媒を乾燥、留去等によって除去したものを、リチウム硫黄固体電池10の組み立てに用いる。
【0080】
次に、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体のうち硫黄のみを含有する正極材を導電性シートの穴部に有する硫黄正極について説明する。
この硫黄正極の製造方法は、熱溶融状態の硫黄、あるいは硫黄を溶媒に溶解させた硫黄溶液を導電性シートの穴部に充填して導電性シートに含浸させる。導電性シートに熱溶融状態の硫黄を含浸させる場合は、導電性シートに含浸させた熱溶融状態の硫黄の冷却固化によって穴部内に硫黄が収容された構成の硫黄正極が得られる。
導電性シートに硫黄溶液を含浸させる場合は、硫黄溶液を導電性シートに含浸させた後、乾燥工程にて溶媒を除去することで、穴部内に硫黄が収容された構成の硫黄正極が得られる。
【0081】
次に、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体のうち硫黄及びイオン液体のみを含有する正極材を導電性シートの穴部に有する硫黄正極について説明する。
正極材のイオン液体は、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の全てを含有する正極材で採用可能なイオン液体と同様のものを採用できる。
【0082】
この正極材を有する硫黄正極の製造方法の一例は、まず、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体のうち硫黄のみを含有する正極材を導電性シートの穴部に有する硫黄正極を製造する。次に、この硫黄正極のイオン液体への浸潰、硫黄正極へのイオン液体の塗布等によって、導電性シートの穴部内の硫黄が充填されていない空隙部にイオン液体を充填し、穴部内に硫黄とイオン液体とが収容された構成の硫黄正極を得る。
但し、この硫黄正極の製造方法では、イオン液体に溶媒を混合した混合液を導電性シートの穴部内の空隙部に充填しても良い。イオン液体に可燃性ガスを発生する有機溶媒を混合した混合液を使用する場合は、導電性シートに混合液を含浸させる工程の後に、乾燥工程あるいは留去等によって、混合液から有機溶媒を除去する。
【0083】
図1に示すように、固体電解質15は正極集電板13の正極材側主面12a側に配置されている。
固体電解質15には、正極集電板13に臨む面15a(以下、正極側主面、とも言う)とその逆側の面15b(以下、負極側主面、とも言う)とが互いに平行に形成されている。
固体電解質15の正極側主面15aは、正極集電板13の正極収容凹部12aに収容された硫黄正極13の正極収容凹部12a開口部から突出された部分の端面(突端面)に当接されている。
また、固体電解質15は、正極側主面15aと、正極集電板13の正極材側主面12aとの間にシール材14を挟み込んでいる。
【0084】
固体電解質の構成材料は、結晶性材料、アモルファス材料及びガラス材料のいずれであってもよい。
固体電解質の構成材料として、より具体的には、例えば、硫化物を含まず、かつ酸化物を含むもの(本明細書においては「酸化物系材料」と称することがある)、少なくとも硫化物を含むもの(本明細書においては「硫化物系材料」と称することがある)等、公知のものが挙げられる。
【0085】
前記酸化物系材料としては、例えば、Li7La3Zr2O12(LLZ)、Li2.9PO3.3N0.46(LIPON)、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等が挙げられる。
また、前記酸化物系材料としては、例えば、Li7La3Zr2O12(LLZ)等の複合酸化物に、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ビスマス等の元素が添加(ドープ)されたものも挙げられる。ここで、添加される元素は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0086】
前記硫化物系材料としては、例えば、Li10GeP2S12(LGPS)、Li3.25Ge0.25P0.75S4、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5(LISPS)、50Li2S・50GeS2、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4等が挙げられる。
【0087】
固体電解質の構成材料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0088】
固体電解質の構成材料は、大気中における安定性が高く、緻密性が高い固体電解質を作製できる点から、前記酸化物系材料であることが好ましい。
【0089】
固体電解質の厚さは、特に限定されず、適用する電池の目的に応じて適宜設定すればよい。固体電解質の厚さは、10~1200μmであることが好ましい。固体電解質の厚さが前記下限値以上であることで、その製造及び取り扱い性がより良好となる。固体電解質の厚さが前記上限値以下であることで、リチウム硫黄固体電池の抵抗値がより低減される。
【0090】
固体電解質は、例えば、その目的とする種類に応じて、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物等の原料を選択し、この原料を焼成することで製造できる。原料の使用量は、固体電解質における各金属の原子数比等を考慮して、適宜設定すればよい。
【0091】
図1のリチウム硫黄固体電池10のシール材14は、具体的には、ゴム、樹脂等の高分子材料によって形成された無端形状(具体的にはリング板状)の部材である。シール材14は遮液性を有する。
シール材14は、その中央部を厚み方向に貫通する中央孔14a内に、硫黄正極13の正極収容凹部12a開口部から突出された部分を収容して正極集電板13と固体電解質15との間に配置されている。
シール材14は、正極集電板12の正極材側主面12aの正極収容凹部12a周囲に位置する部分と固体電解質15との間に挟み込まれ、正極集電板12の正極収容凹部12aの周囲を液密に封止する。
【0092】
図1のシール材14は、高分子材料シートをリング板状に成形したものである。
リング板状のシール材14は、例えば高分子材料が無端線状に成形された構造のリング状のシール材(例えばOリング)に比べて正極集電板12の正極材側主面12a及び固体電解質15の正極側主面15aとの接触面積を大きく確保できシール性の確保に有利である。
【0093】
シール材14の形成材料は、フッ素ゴム(フッ素化された炭化水素ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン等を好適に採用できる。
フッ素ゴムは耐熱性及び耐薬品性の点で好適である。フッ素ゴムとしては、例えば、2元系フッ素ゴムが好ましい。2元系フッ素ゴムとしては、2フッ化ビニリデン・6フッ化プロピレン共重合物を好適に採用できる。
【0094】
シール材14の中央孔14aのその軸線方向(シール材14厚み方向に一致)に垂直の断面の形状及びサイズは、硫黄正極13のその厚みに垂直の断面と形状及びサイズと同じに揃えられている。シール材14の中央孔14aは、その内周面全体を硫黄正極13の側面に沿わせて配置可能に形成されている。
【0095】
図1において、硫黄正極13は、正極集電板12と固体電解質15とシー
ル材14とによって囲まれた内側の硫黄正極収容領域A1内に収容されている。
硫黄正極収容領域A1は正極集電板12の正極収容凹部12aを含む。
硫黄正極収容領域A1の内寸は、硫黄正極13の外寸に概ね同じに揃えられている。
【0096】
図1、
図2に示す硫黄正極13は、具体的には円板状に形成されている。
シール材14の中央部の中央孔14aは硫黄正極13を収容可能な円形(中央孔14aのその軸線方向に垂直の断面が円形)に形成されている。中央孔14aの内径は硫黄正極13の面方向外周の外径に揃えられている。
【0097】
図1に示すように、リチウム負極16は固体電解質15の負極側主面15bに重ね合わせるようにして配置されている。
リチウム負極16は種々の電池にて使用されている周知のリチウム負極を使用可能である。
リチウム負極の厚さは、特に限定されず、適用する電池の目的に応じて適宜設定すればよい。通常、リチウム負極の厚さは、10~2000μmであることが好ましく、100~1000μmであることがより好ましい。
【0098】
負極集電体17は、リチウム負極16の固体電解質15とは逆側にリチウム負極16に重ね合わせるようにして配置されている。
負極集電体17は、例えばステンレス鋼等の良導性の金属材料によって形成されている。
負極集電体17を形成する金属材料は、ステンレス鋼に限定されず、例えば炭素、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル等も採用可能である。
【0099】
図1に示す弾性部材18は、具体的には、波形座金を採用している。
波形座金はリング板状である。弾性部材18が波形座金を指す場合は、以下、波形座金と記載する。また、波形座金に符号18を付す。
波形座金18は、その軸線方向が外装容器11の容器本体11cの筒状胴部11a(以下、概要容器筒状胴部、とも言う)の軸線方向に一致する向きで負極集電体17のリチウム負極16とは逆側に配置されている。
【0100】
弾性部材押さえ板19は、弾性部材18と、外装容器11の蓋体11dの主板部11gとの間に挟み込まれている。
弾性部材押さえ板19は、波板座金等の弾性部材18との当接箇所に局所的な変形等が生じにくい充分な剛性を有するものが好ましく、ステンレス鋼等によって形成された板材を好適に採用できる。
【0101】
図1に示すように、外装容器底板部11bは、外装容器11の容器本体11cの筒状胴部11a(以下、外装容器筒状胴部、とも言う)一端からの正極集電板12の抜け出しを規制する抜け止め部として機能する。
外装容器11の蓋体11dは、外装容器筒状胴部11a他端からの弾性部材押さえ板19の抜け出しを規制する抜け止め部として機能する。蓋体11dは、弾性部材18の外装容器筒状胴部11a他端からの抜け出しを規制する役割も果たす。
【0102】
弾性部材18は、外装容器筒状胴部11aの軸線方向に弾性変形可能なものが採用される。
図1のリチウム硫黄固体電池10において、弾性部材18は、外装容器筒状胴部11a軸線方向に弾性圧縮させた状態で外装容器11内に収容されている。
【0103】
図1のリチウム硫黄固体電池10は、正極集電板12、硫黄正極13、シール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17、弾性部材18、弾性部材押さえ板19を収容した容器本体11cに蓋体11dを取り付けて組み立てることができる。外装容器11の蓋体11dは、正極集電板12、硫黄正極13、シール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17、弾性部材18、弾性部材押さえ板19を収容した容器本体11cに嵌合して取り付けたときに、弾性部材押さえ板19を外装容器底板部11bに向かって押圧する。その結果、弾性部材10は、蓋体11dからの押圧力によって、外装容器筒状胴部11a軸線方向に弾性圧縮される。
【0104】
図1のリチウム硫黄固体電池10の、正極集電板12、硫黄正極13、シール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17、弾性部材18、弾性部材押さえ板19は、容器本体11cに、その筒状胴部11a軸線方向に移動可能に収容されている。
但し、正極集電板12は、弾性部材18の弾性付勢力によって外装容器底板部11bに押さえ込まれる。
【0105】
外装容器11内にて外装容器筒状胴部11a軸線方向に弾性圧縮された弾性部材18は、外装容器筒状胴部11a内の硫黄正極13、シール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17を、外装容器底板部11bに当接された正極集電板12に向かって弾性付勢する役割を果たす。
弾性部材18は、弾性部材押さえ板19を、容器本体11cに嵌合された蓋体11dの主板部11gに弾性付勢して押さえ込む役割も果たす。
【0106】
なお、正極集電板12は外装容器底板部11bに当接されて外装容器底板部11bと導通する。
波形座金18及び弾性部材押さえ板19は導電性金属によって形成されている。負極集電体17と波形座金18、波形座金18と弾性部材押さえ板19、弾性部材押さえ板19と外装容器11の蓋体11d(以下、外装容器蓋体、とも言う)は、それぞれ互いに当接され導通されている。負極集電体17は波形座金18及び弾性部材押さえ板19を介して外装容器蓋体11dと導通されている。
【0107】
図1において、正極集電板12の正極収容凹部12bの周囲に延在する正極材側主面12a、及び固体電解質15の正極側主面15aは、それぞれ平坦面である。
図1のリチウム硫黄固体電池10において、硫黄正極13及びシール材14は、弾性部材18の弾性付勢力によって正極集電板12と固体電解質15との間に挟み込まれている。
【0108】
弾性部材18の弾性付勢力は、シール材14に対して、正極集電板12の正極材側主面12a及び固体電解質15の正極側主面15aを押圧する押圧力として作用する。その結果、正極集電板12の正極材側主面12aとシール材14との間、及び固体電解質15の正極側主面15aとシール材14との間、が確実にシールされる。
【0109】
このためリチウム硫黄固体電池10では、例えば硫黄正極13の硫黄の融点以上の温度環境下での使用によって硫黄正極13の硫黄が熱溶融されても、硫黄正極13の熱溶融状態の硫黄を、正極集電板12と固体電解質15とシール材14とによって囲まれた内側の硫黄正極収容領域A1内に保持でき、硫黄正極収容領域A1から外側への熱溶融状態の硫黄の流出を防止できる。
リチウム硫黄固体電池10は、正極集電板12と固体電解質15との間の硫黄が流出によって不足して充放電動作を行えなくなるという不都合を防ぐことができ、100~160℃の環境下にて充電放電動作を行なえる。
【0110】
リチウム硫黄固体電池10では、硫黄正極13から流出した熱溶融状態の硫黄がリチウム負極16あるいは負極集電体17に接触して、リチウム負極16あるいは負極集電体17と硫黄正極13との間を短絡するといった不都合を回避できる。
リチウム硫黄固体電池10では、硫黄正極13から流出した熱溶融状態の硫黄の外装容器からの漏れ出しも防ぐことができる。
【0111】
なお、充電、放電といった動作をさせる際のリチウム硫黄固体電池10の温度(動作温度)は、常温であっても良いが、100~160℃であることが好ましく、110~150℃であることがより好ましい。
【0112】
また、リチウム硫黄固体電池10では、硫黄正極13の熱溶融状態の硫黄を硫黄正極収容領域A1内に保持できることから、硫黄正極10の形成材料が固体電解質15に接触した状態を保つことができ、電池性能を安定に維持することができる。
固体電解質15に対する硫黄正極13の形成材料の接触状態の維持のため、硫黄正極13はその厚み方向に圧縮変形可能なものを採用することが好ましい。
硫黄正極13はその厚み方向に弾性変形可能なものであることがより好ましい。
【0113】
厚み方向に圧縮変形可能な好適な硫黄正極13としては、例えば、正極材が設けられていない状態において厚み方向に弾性変形可能に形成された繊維集合体(以下、繊維集合弾性シート、とも言う)を採用し、繊維集合弾性シートの穴部に、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体を含有する正極材を収容したものを挙げることができる。
この構成の硫黄正極13は厚み方向に弾性変形可能なものが得られる。
【0114】
すでに述べた通り、導電性シートの好ましい構成材料としては、炭素、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等が挙げられる。繊維集合弾性シートの好ましい構成材料としては、炭素、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等を挙げることができ、なかでもカーボンフェルト、カーボンクロス等が好適である。
【0115】
また、硫黄正極13は、例えば、
図3に示す硫黄正極13(
図3中符号13Aを付記する)のように、繊維集合弾性シート13cに、その厚み方向片面側部分の導電性繊維状材料を埋め込んだ正極材の層13d(正極材層)と、繊維集合弾性シート13cのその厚み方向において正極材層13bと隣接する領域に含浸されたイオン液体の層(イオン液体層13e)とが設けられた構成も採用可能である。
イオン液体層13eは正極材層13bに接して設けられる。
図3の硫黄正極13A(以下、液体層付き硫黄正極、とも言う)は、繊維集合弾性シート13cのイオン液体層13eに位置する部分の弾性変形によって厚み方向の弾性変形が可能である。
【0116】
なお、
図3に示すように、液体層付き硫黄正極13Aは、イオン液体層13eが固体電解質15に接する向きで正極集電板12と固体電解質15との間に設けられる。
液体層付き硫黄正極13Aの正極材層13dを形成する正極材は、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体のうち硫黄及びイオン液体のみあるいは硫黄のみを含有する正極材、硫黄、導電助剤、バインダー及びイオン液体の全てを含有する正極材、のいずれであっても良い。
【0117】
シール材14は、弾性部材18の弾性付勢力によって固体電解質15と正極集電板12との間に挟み込まれることで変形(圧縮変形)して、軸線方向寸法(リング板状のシール材14についてはシール材を形成する高分子材料シートの厚み)が若干縮小し得る。
【0118】
厚み方向に圧縮変形可能な硫黄正極(以下、圧縮可能硫黄正極、とも言う)は、弾性部材18の弾性付勢力を作用させる前の状態において、正極集電板12からの突出寸法(具体的には正極収容凹部12bから固体電解質15側への突出寸法)が、弾性部材18の弾性付勢力を作用させる前のシール材14の軸線方向寸法と同じか若干大きいものを用いる。また、圧縮可能硫黄正極は、弾性部材18の弾性付勢力を作用させることで、正極集電板12からの突出寸法(正極収容凹部12bから固体電解質15側への突出寸法)を、弾性部材18の弾性付勢力によって圧縮変形されるシール材14の軸線方向寸法と同じに保てるように圧縮変形可能なものを採用する。
【0119】
圧縮可能硫黄正極を用いたリチウム硫黄固体電池10では、圧縮可能硫黄正極が弾性部材18の弾性付勢力によるシール材14の軸線方向寸法の縮小に応じて圧縮変形されることで、正極集電板12及び固体電解質15に対するシール材14の圧接力を充分に得られ、シール材14によるシール性を充分に確保できる。
また、圧縮可能硫黄正極は、固体電解質15に押圧されながら圧縮変形されることで正極集電板12及び固体電解質15との接触を維持できる。
また、繊維集合弾性シートを使用して弾性変形可能に構成された硫黄正極は、正極集電板12及び固体電解質15との接触をより確実に維持できる。
【0120】
硫黄正極13は、その形成材料の硫黄の融点以上の環境下でのリチウム硫黄固体電池10の使用等によって、熱溶融された硫黄が硫黄正極収容領域A1内に流出することで、厚み寸法が減少する可能性がある。
例えば、導電性シート13aの両面のうち一方のみあるいは両方の外側に位置する正極材13bが存在する場合は、この正極材が加熱溶融されて硫黄正極13から流出することで硫黄正極13の厚み寸法が減少する。
【0121】
図1のリチウム硫黄固体電池10では、弾性部材18の弾性付勢力によるシール材14の圧縮限界まで正極集電板12及び固体電解質15との間の離間距離を縮小できる。
このため、リチウム硫黄固体電池10では、熱溶融された硫黄の硫黄正極13からの流出が生じても、正極集電板12及び固体電解質15と硫黄正極13との接触を維持できる。
【0122】
弾性部材18の弾性付勢力によって正極集電板12及び固体電解質15との間の離間距離を縮小することで、正極集電板12及び固体電解質15と硫黄正極13との接触を維持する構成は、厚み方向の圧縮変形が可能でない導電性シートを用い、導電性シートの両面のうち一方のみあるいは両方の外側に正極材13bが存在する構成の硫黄正極についても適用可能である。但し、この場合は、硫黄正極の正極収容凹部12bから固体電解質15側への突出寸法を、正極集電板12及び固体電解質15に対する充分なシール性確保に要する圧接力を発現可能に圧縮されるときのシール材14の軸線方向寸法と、弾性部材18の弾性付勢力による圧縮限界のときのシール材14の軸線方向寸法との間の範囲とする必要がある。
これに対して、圧縮可能硫黄正極は、厚み方向の圧縮変形が可能でない導電性シートを用いた硫黄正極に比べて、正極収容凹部12bから固体電解質15側への突出寸法(弾性部材18の弾性付勢力によって圧縮される前の突出寸法)の自由度を大きく確保でき、製造が容易である。
【0123】
厚み方向の圧縮変形が可能でない導電性シートを、以下、非圧縮導電性シート、とも言う。
図1の硫黄正極13の導電性シート13aは、繊維集合弾性シート、非圧縮導電性シートのいずれも採用可能である。
なお、厚み方向の圧縮変形が可能でない導電性シートとしては、厚み方向の圧縮変形が可能でない繊維集合体や、導電性金属によって形成された硬質の多孔質体等を挙げることができる。
【0124】
硫黄正極収容領域A1内寸と硫黄正極13外寸とのギャップが小さく、硫黄正極13が硫黄正極収容領域A1の内部を概ね満たす量の形成材料によって形成されている場合は、硫黄正極からの熱溶融状態の硫黄の流出が生じても、硫黄等の硫黄正極13形成材料の正極集電板12及び固体電解質15に対する接触維持を実現可能である。
この場合の硫黄正極13の硫黄正極の正極収容凹部12bから固体電解質15側への突出寸法は、正極集電板12及び固体電解質15に対する充分なシール性確保に要する圧接力を発現可能に圧縮されるときのシール材14の軸線方向寸法よりも小さければ良い。
【0125】
熱溶融された硫黄、イオン液体等の液状の正極材形成材料は、その表面張力等によって、硫黄正極収容領域A1の内面の広範囲にわたって接触可能である。
このため、硫黄正極13が硫黄正極収容領域A1の内部を概ね満たす量の形成材料によって形成されている場合は、硫黄正極13の形成材料の全体積が硫黄正極収容領域A1の容積に比べて若干少なくても、硫黄正極13形成材料が正極集電板12及び固体電解質15に接触した状態を容易に確保できる。
【0126】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0127】
図4に示すように、リチウム硫黄固体電池は、
図1のリチウム硫黄固体電池10について、正極収容凹部12bが形成された正極集電板12にかえて正極収容凹部12bが形成されていない正極集電板12A(板状の正極集電体)を採用し、正極集電板12Aの平坦な正極材側主面12eに硫黄正極13Bを層状に形成した構成も採用可能である。
図4に示すリチウム硫黄固体電池10Aの正極集電板12A、硫黄正極13A以外の構成は
図1のリチウム硫黄固体電池10と同様である。
【0128】
硫黄正極13Aは、正極集電板12Aの正極材側主面12eへの、正極材形成組成物あるいは熱溶融状態の硫黄の直接塗布、直接成形等によって形成される。硫黄正極13Aの正極材は、正極集電板12Aの正極材側主面12eに被着されている。
硫黄正極13Aは、導電シートを含まず、その全体が正極材(正極材層)によって形成されているものである。
【0129】
シール材14は、硫黄正極13Aを囲繞して、正極集電板12Aの正極材側主面12eと固体電解質15の正極側主面15aとの間に配置されている。
硫黄正極13Aの層厚は、
図1のリチウム硫黄固体電池10の硫黄正極13の正極収容凹部12bから固体電解質15側への突出寸法と同様に設定される。
図4に示すリチウム硫黄固体電池10Aの硫黄正極収容領域A2は、シール材14の中央孔14aの内部に相当する。
【0130】
図4に示すリチウム硫黄固体電池10Aは、正極収容凹部12bが形成された正極集電板12を使用する必要が無く、
図1のリチウム硫黄固体電池10に比べて構成が単純である。
但し、正極集電板に対する硫黄正極の位置安定性の点では、
図1のリチウム硫黄固体電池10のように、正極集電板12に形成された正極収容凹部12bに硫黄正極13の一部を収容する構造の方が有利である。
また、正極集電板12に形成された正極収容凹部12bに硫黄正極13の一部を収容した構造では、正極集電板の平坦面に硫黄正極を形成した場合に比べて、硫黄正極の正極集電体(正極集電板)に対する接触面積を増大でき、硫黄正極の正極集電体との間の電気抵抗の低減に有利である。
【0131】
図1のリチウム硫黄固体電池10の弾性部材18は、外装容器11の容器本体11cの押さえ片部11eがガスケット11fの外側壁部11m先端部を介して蓋体11dをガスケット11fの嵌合溝11kの溝底に向かって押圧する押圧力によって弾性圧縮されている。
但し、リチウム硫黄固体電池は、
図1のリチウム硫黄固体電池10について、外装容器11の容器本体11cと蓋体11dとガスケット11fとによって囲まれた内側空間11Sを負圧にし、内側空間11S内圧と外装容器11外側の大気圧との差圧によって蓋体11dの外装容器底板部11方向の変位力を発生し、この変位力によって弾性部材18を弾性圧縮した構成(以下、差圧押さえ形電池、とも言う)も採用可能である。
【0132】
差圧押さえ形電池については、
図1のリチウム硫黄固体電池10から弾性部材18及び弾性部材押さえ板19を省略し、外装容器11の内側空間11Sの内圧と外装容器11外側の大気圧との差圧から得られる蓋体11dの変位力によって、硫黄正極13、シール材14、固体電解質15、リチウム負極16、負極集電体17を、外装容器底板部11bに当接された正極集電板12に向かって弾性付勢する構成も採用可能である。
【0133】
弾性部材18は、外装容器本体11cの軸線方向に弾性圧縮可能なものであれば良く、波形座金に限定されない。弾性部材18は、板ばね、コイルスプリング等も採用可能である。但し、弾性部材は、負極集電体17(
図1参照)及び弾性部材押さえ板19との導通確保のため、導電性金属によって形成されたものを採用する。
【0134】
リチウム硫黄固体電池は、弾性部材押さえ板を省略して、外装容器の一部(例えば
図1の蓋体11d)を弾性部材押え板として機能させても良い。
【符号の説明】
【0135】
10、10A…リチウム硫黄固体電池、11…外装容器、11a…筒状胴部、11b…底板部、11c…容器本体、11d…蓋体、11e…押さえ片部、11f…ガスケット、11g…(蓋体の)主板部、11h…(蓋体の)嵌合リング部、11i…(蓋体の嵌合リング部の)テーパ円筒部、11j…(蓋体の嵌合リング部の)嵌合円筒部、11k…(ガスケットの)嵌合溝、11m…(ガスケットの)外側壁部、11S…(外装容器の)内側空間、12…正極集電体(正極集電板)、12A…正極集電体(正極集電板)、12a…正極材側主面、12b…正極収容凹部、12c…表側主面、12d…(正極収容凹部の)底面、12e…正極材側主面、13…硫黄正極、13A…硫黄正極(液体層付き硫黄正極)、13B…硫黄正極(正極材層)、13a…導電性シート、13b…正極材、13c…導電性シート(繊維集合弾性シート)、13d…正極材層、13e…イオン液体層、14…シール材、14a…中央孔、15…固体電解質、15a…正極側主面、15b…負極側主面、16…リチウム負極、17…負極集電体、18…弾性部材、19…弾性部材押さえ板、A1、A2…硫黄正極収容領域。