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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】測定装置、および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/26 20060101AFI20220729BHJP
   G01R 29/12 20060101ALI20220729BHJP
   G01B 7/06 20060101ALN20220729BHJP
【FI】
G01R27/26 H
G01R29/12 F
G01B7/06 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018180874
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020051870
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】勝山 純
(72)【発明者】
【氏名】松本 憲典
(72)【発明者】
【氏名】品川 満
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-145387(JP,A)
【文献】特開2009-229423(JP,A)
【文献】特開2001-99802(JP,A)
【文献】特開平6-331670(JP,A)
【文献】特開昭61-182582(JP,A)
【文献】特開2000-162158(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0547968(EP,A1)
【文献】特開平6-18576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
G01R 29/12
G01B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電界を発生する電界発生手段と、電界発生手段からの交流電界を検出できる電界検出手段と、測定対象物の厚さを測定する厚さ計と、比誘電率と交流電界の強度の関係を示す検量線の導出を行う処理部と、を備え、
前記電界発生手段と前記電界検出手段は、互いに対向して配置され、
前記測定対象物は、前記電界発生手段と前記電界検出手段の間に挿入され、
前記電界発生手段と前記電界検出手段は、前記測定対象物と接触しないように距離を隔てて配置され、
前記厚さ計は、前記測定対象物と接触しないように配置され
前記電界検出手段は、前記測定対象物によって減衰した交流電界の強度を検出し、
前記厚さ計は、前記測定対象物の厚さを測定し、
前記処理部は、測定された前記交流電界の強度と前記厚さと前記検量線とに基づいて、前記測定対象物の比誘電率を算出する、測定装置。
【請求項2】
前記電界検出手段として、電気光学効果を応用した電界センサを用いる、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記検量線は、比誘電率が既知である複数の前記測定対象物それぞれの前記比誘電率と前記交流電界の強度との関係を示し、
前記処理部は、比誘電率が既知である前記測定対象物の厚さ毎に前記検量線を導出する、請求項1または請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記処理部は、厚さ毎の複数の前記検量線から厚さ毎に傾きと切片を求め、複数の前記傾きを厚さ変数とする第1の関数を求め、複数の前記切片を厚さ変数とする第2の関数を求め、測定された前記厚さと前記第1の関数と前記第2の関数とを用いて、測定された前記厚さに対応する検量線の傾きと切片を求め、測定された前記厚さに対応する検量線の傾きと切片と測定された前記交流電界の強度とを用いて、比誘電率が未知である前記測定対象物の比誘電率を算出する、請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記測定対象物がシート状もしくはフィルム状の誘電体材料であり、
前記電界発生手段から発生する交流電界の励起信号に、高電圧の信号を用い、前記電界発生手段と前記電界検出手段との距離を数mmに配置し、
前記測定対象物が搬送手段によって高速搬送された場合に、前記測定対象物が鉛直方向に振動しても、前記電界発生手段と前記電界検出手段のどちらもが前記測定対象物に接触しないように配置した構成である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記測定対象物の搬送方向に直行するような水平方向へのスキャン機構を有し、前記測定対象物の比誘電率の面分布測定ができる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
交流電界を発生する電界発生手段と、電界発生手段からの交流電界を検出できる電界検出手段と、測定対象物の厚さを測定する厚さ計と、比誘電率と交流電界の強度の関係を示す検量線の導出を行う処理部と、を備え、前記電界発生手段と前記電界検出手段は、互いに対向して配置され、前記測定対象物は、前記電界発生手段と前記電界検出手段の間に挿入され、前記電界発生手段と前記電界検出手段は、前記測定対象物と接触しないように距離を隔てて配置され、前記厚さ計は、前記測定対象物と接触しないように配置されている測定装置における測定方法であって、
前記処理部が、比誘電率が既知である複数の前記測定対象物それぞれの前記比誘電率と前記交流電界の強度との関係を示す検量線であって、比誘電率が既知である前記測定対象物の厚さ毎に前記検量線を導出するステップと、
前記電界検出手段が、前記測定対象物によって減衰した交流電界の強度を検出するステップと、
前記厚さ計が、前記測定対象物の厚さを測定するステップと、
前記処理部が、測定された前記交流電界の強度と前記厚さと前記検量線とに基づいて、前記測定対象物の比誘電率を算出するステップと、
を含む測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスには誘電体材料が用いられている。このような誘電体材料の誘電率を測定する手法として、比較的低い周波数領域では、インピーダンスアナライザやLCRメータを用いた静電容量法などが知られている。このような測定においては、試料全体のマクロな比誘電率を見ることができるが、ミクロな領域での情報を得ることはできない。
【0003】
誘電体材料の品質向上や不良診断といった観点から、微小領域を高空間分解能で測定する要求が高まっている。
このため、誘電体材料の比誘電率を高空間分解能で測定する手法として、試料の表面に接触させた測定電極と、それに対向した電極によってつくられるキャパシタ部と、コイルによって構成されるLC共振回路部を用いて、試料の比誘電率を測定することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、誘電体材料の比誘電率を高空間分解能で測定する手法として、探針を試料の表面に位置させて探針もしくは試料のどちらかを相対的に励振させ、静電容量の変化を測定することで、試料の比誘電率を測定することが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、誘電体材料の比誘電率を高空間分解能かつ高速で測定したいという要求が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3204852号公報
【文献】特許第5295047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、測定電極を試料に接触させる必要があるため、試料表面に傷がつく可能性があり破壊検査となる。また、特許文献1に記載の技術では、試料表面に接触する必要があるため、移動体の測定ができない。このため、特許文献1に記載の技術では、シート状もしくはフィルム状の試料が高速で搬送されて製造されるプロセス中においてインライン測定に応用することができない。
また、特許文献2に記載の技術では、探針を試料に接触させないものの、探針と試料表面の距離は30nm以下にする必要がある。このため、特許文献2に記載の技術では、シート状もしくはフィルム状の試料が高速で搬送されて製造されるプロセスにおいて、試料が鉛直方向にばたつくため、探針が試料に触れる可能性がある。このため、特許文献2に記載の技術では、プロセス中でのインライン測定に応用することができない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、シート状もしくはフィルム状の誘電体の比誘電率を高空間分解能かつ非接触で測定することができる測定装置、および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る測定装置は、交流電界を発生する電界発生手段と、電界発生手段からの交流電界を検出できる電界検出手段と、測定対象物の厚さを測定する厚さ計と、比誘電率と交流電界の強度の関係を示す検量線の導出を行う処理部と、を備え、前記電界発生手段と前記電界検出手段は、互いに対向して配置され、前記測定対象物は、前記電界発生手段と前記電界検出手段の間に挿入され、前記電界発生手段と前記電界検出手段は、前記測定対象物と接触しないように距離を隔てて配置され、前記厚さ計は、前記測定対象物と接触しないように配置され、前記電界検出手段は、前記測定対象物によって減衰した交流電界の強度を検出し、前記厚さ計は、前記測定対象物の厚さを測定し、前記処理部は、測定された前記交流電界の強度と前記厚さと前記検量線とに基づいて、前記測定対象物の比誘電率を算出する。
【0010】
上記の構成により、測定装置は、電界発生手段と電界検出手段とを測定対象物と接触しないように距離を隔てて配置し、厚さ計を測定対象物と接触しないように配置し、測定値と検量線に基づいて比誘電率を算出するようにしたので、シート状もしくはフィルム状の誘電体の比誘電率を高空間分解能かつ非接触で測定することができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る測定装置において、前記電界検出手段として、電気光学効果を応用した電界センサを用いるようにしてもよい。
【0012】
上記の構成により、測定装置は、電界検出手段に電気光学プローブを用いることで、金属製アンテナと比較して低擾乱で安定的な測定ができる。また、測定装置は、電気光学プローブに用いる電気光学結晶の微小化や、参照光のビーム径を細くするなどの工夫により、金属製アンテナよりも空間分解能が高い測定が可能となる。さらに、測定装置は、電界発生手段に入力する信号の周波数を数kHz~数MHz程度にすることで、信号検出回路の高速化などの必要がなく、ミリ波帯やマイクロ波帯の信号を用いる測定手法に比べて、装置を安価に構築できる効果を得られる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る測定装置において、前記検量線は、比誘電率が既知である複数の前記測定対象物それぞれの前記比誘電率と前記交流電界の強度との関係を示し、前記処理部は、比誘電率が既知である前記測定対象物の厚さ毎に前記検量線を導出するようにしてもよい。
【0014】
上記の構成により、測定装置は、比誘電率が既知の測定対象物を用いて検量線を導出するようにしたので、比誘電率を高空間分解能で測定することができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る測定装置において、前記処理部は、厚さ毎の複数の前記検量線から厚さ毎に傾きと切片を求め、複数の前記傾きを厚さ変数とする第1の関数を求め、複数の前記切片を厚さ変数とする第2の関数を求め、測定された前記厚さと前記第1の関数と前記第2の関数とを用いて、測定された前記厚さに対応する検量線の傾きと切片を求め、測定された前記厚さに対応する検量線の傾きと切片と測定された前記交流電界の強度とを用いて、比誘電率が未知である前記測定対象物の比誘電率を算出するようにしてもよい。
【0016】
上記の構成により、測定装置は、比誘電率が既知の測定対象物を用いて導出した検量線に基づいて比誘電率が未知である前記測定対象物の比誘電率を算出するようにしたので、比誘電率を簡便に高空間分解能で測定することができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る測定装置において、前記測定対象物がシート状もしくはフィルム状の誘電体材料であり、前記電界発生手段から発生する交流電界の励起信号に、高電圧の信号を用い、前記電界発生手段と前記電界検出手段との距離を数mmに配置し、前記測定対象物が搬送手段によって高速搬送された場合に、前記測定対象物が鉛直方向に振動しても、前記電界発生手段と前記電界検出手段のどちらもが前記測定対象物に接触しないように配置した構成であるようにしてもよい。
【0018】
上記の構成により、測定装置は、電界発生手段から発生する交流電界の励起信号に、高電圧の信号を生成できる低い周波数を用いることで電界発生手段と電界検出手段との距離を数mmに配置することができる。これにより、測定装置は、十分な距離を取ったギャップに測定対象物を高速に搬送させることができるので、製造しながら測定対象物の全数を検査でき、生産性の向上に寄与することができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係る測定装置において、前記測定対象物の搬送方向に直行するような水平方向へのスキャン機構を有し、前記測定対象物の比誘電率の面分布測定ができるようにしてもよい。
【0020】
上記の構成により、測定装置は、測定対象物の比誘電率の面分布測定ができる。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る測定方法は、交流電界を発生する電界発生手段と、電界発生手段からの交流電界を検出できる電界検出手段と、測定対象物の厚さを測定する厚さ計と、比誘電率と交流電界の強度の関係を示す検量線の導出を行う処理部と、を備え、前記電界発生手段と前記電界検出手段は、互いに対向して配置され、前記測定対象物は、前記電界発生手段と前記電界検出手段の間に挿入され、前記電界発生手段と前記電界検出手段は、前記測定対象物と接触しないように距離を隔てて配置され、前記厚さ計は、前記測定対象物と接触しないように配置されている測定装置における測定方法であって、前記処理部が、比誘電率が既知である複数の前記測定対象物それぞれの前記比誘電率と前記交流電界の強度との関係を示す検量線であって、比誘電率が既知である前記測定対象物の厚さ毎に前記検量線を導出するステップと、前記電界検出手段が、前記測定対象物によって減衰した交流電界の強度を検出するステップと、前記厚さ計が、前記測定対象物の厚さを測定するステップと、前記処理部が、測定された前記交流電界の強度と前記厚さと前記検量線とに基づいて、前記測定対象物の比誘電率を算出するステップと、を含む。
【0022】
上記の構成により、測定装置は、測定方法を実行することによって、シート状もしくはフィルム状の誘電体の比誘電率を高空間分解能かつ非接触で測定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シート状もしくはフィルム状の誘電体の比誘電率を高空間分解能かつ非接触で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る測定装置の構成例を示す図である。
図2】本実施形態に係る比誘電率と電界測定値との検量線の例を示す図である。
図3】本実施形態に係る検量線の導入手順のフローチャートである。
図4】厚さと電界測定値との関係例を示す図である。
図5】本実施形態に係る比誘電率の測定手順のフローチャートである。
図6】電気光学プローブの構成例のブロック図である。
図7】本実施形態の測定装置を、シート状もしくはフィルム状の誘電体材料が高速で搬送されて製造されるプロセス中に適用する例を示す図である。
図8】本実施形態による測定装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0026】
[測定装置1の構成例]
図1は、本実施形態に係る測定装置1の構成例を示す図である。図1に示すように、測定装置1は、電界発生源11、厚さ計12、センサ13、処理部14、記憶部15、および出力部16を備える。処理部14は、演算部141および制御部142を備える。
【0027】
測定装置1は、試料2(測定対象物)の厚さと電界値を測定し、測定値に基づいて試料2の比誘電率を求める。
試料2(測定対象物)は、フィルム状またはシート状の誘電体である。試料2(測定対象物)は、電界発生源11(電界発生手段)とセンサ13(電界検出手段)の間に挿入される。
【0028】
電界発生源11(電界発生手段)は、処理部14の制御部142の制御に応じて交流電界3を発生させる。
【0029】
厚さ計12は、例えば光学式、超音波式等によって試料2の厚さを測定するセンサである。厚さ計12は、試料2の厚さを測定し、測定値を処理部14の演算部141に出力する。また、厚さ計12は、試料2と接触しないように配置されている。
【0030】
センサ13(電界検出手段)は、電界発生源11によって発生した交流電界3を検出し、周波数成分の強度に応じた電界測定値(交流電界の強度)を演算部141に出力する。なお、センサ13は、試料2によって減衰した交流電界3の強度を検出する。このため、まず、センサ13は、試料2が無い状態の交流電界3の強度を検出する。センサ13は、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた電気光学プローブ(非特許文献1参照)などの電界センサが好ましい。なお、電界発生源11(電界発生手段)と、センサ13(電界検出手段)とは、互いに対向して配置される。
なお、電界発生源11(電界発生手段)とセンサ13(電界検出手段)は、試料2(測定対象物)と接触しないように、距離を隔てて配置される。距離は、数十(μm)~数(mm)である。
【0031】
非特許文献;斉藤凌、“電気光学プローブを用いた有機薄膜太陽電池の電圧校正技術に関する研究”、法政大学大学院理工学・工学研究科紀要 Vol.58、法政大学、2017年3月
【0032】
演算部141は、厚さ計12が出力する検出値と、センサ13が出力する電界測定値と、記憶部15が記憶する情報とを用いて、試料2の比誘電率を求める。演算部141は、求めた比誘電率を出力部16に出力する。なお、比誘電率の求め方は後述する。
【0033】
制御部142は、電界発生源11の電界発生の開始、終了、電界の大きさを制御する。
【0034】
記憶部15は、サンプルの厚さ毎に、比誘電率と電界測定値との関係(検量線)を記憶する。記憶部15は、比誘電率と電界測定値との関係の傾きとサンプルの厚さの関係を記憶し、比誘電率と電界測定値との関係の切片とサンプルの厚さの関係を記憶する。記憶部15は、サンプルの厚さと電界測定値との関係を記憶する。
【0035】
出力部16は、例えば表示装置または印刷装置等である。出力部16は、演算部141が出力する比誘電率を表示または印字する。
【0036】
[検量線の例]
次に、記憶部15が記憶する情報について説明する。
図2は、本実施形態に係る比誘電率と電界測定値との検量線の例を示す図である。図3において、横軸は比誘電率であり、縦軸は電界測定値(任意単位)である。符号g1は、厚さがtにおける比誘電率と電界測定値の関係である。バツ印は、厚さがtで比誘電率が異なるサンプルにおいて電界測定値を測定した結果を示す。符号g2は、厚さがtにおける比誘電率と電界測定値の関係である。菱形印は、厚さがtで比誘電率が異なるサンプルにおいて電界測定値を測定した結果を示す。符号g3は、厚さがtにおける比誘電率と電界測定値の関係である。丸印は、厚さがtで比誘電率が異なるサンプルにおいて電界測定値を測定した結果を示す。
【0037】
ここで、比誘電率と電界測定値との関係についてさらに説明する。
センサ13と電界発生源11の間に位置するサンプルの比誘電率が高くなると、センサ13で検出される交流電界3の強度は、クラマース・クローニッヒの関係式に従って、複素誘電率の実部と相関がある虚数部に比例する導電率(誘電体での誘電損にあたる)が高くなり損失が生じ、比例関係を持って減少する。比誘電率と電界測定値とには、このような関係性があるため、本実施形態では、比誘電率と電界測定値とを回帰解析によって直線近似することで一次関数によって表す。
【0038】
図2において、傾きをa、切片をb(nは厚さtにおけるnの対応する整数)とすると、厚さtにおける電界測定値Vは、V=a×ε+bで表される。また、厚さtにおける電界測定値Vは、V=a×ε+bで表される。また、厚さtにおける電界測定値Vは、V=a×ε+bで表される。これらの一次式それぞれが検量線Aである。
【0039】
[検量線の導出手順]
次に、図2に示した検量線の導入手順について説明する。
図3は、本実施形態に係る検量線の導入手順のフローチャートである。なお、以下の処理は、比誘電率を求めたい試料2の測定を行う前に、厚さと比誘電率が既知のサンプルを用いて行う。この前処理では、厚さtのサンプル1(比誘電率εr1)、サンプル2(比誘電率εr2)、・・・、サンプルm(比誘電率εrm)、・・・、厚さtのサンプル1(比誘電率εr1)、サンプル2(比誘電率εr2)、・・・、サンプルm(比誘電率εrm)が用いられる。すなわち、前処理で用いるサンプル数は、n×m枚である。なお、サンプルの厚さは、未知であってもよい。この場合、測定装置1は、厚さ計12によってサンプルの厚さを測定する。また、各サンプルは、比誘電率が安定的な、シート形状またはフィルム形状の一般的なプラスチック材料でよい。また、nおよびmは、近似処理を行うため3以上が望ましい。
【0040】
(ループ処理L1s~L1e)演算部141は、ループ処理L2s~L2eと、ステップS2の処理をn回繰り返す。なお、演算部141は、1回目の処理で、iを0に設定し、iに1を加算する。演算部141は、2回目以降の処理で、iに1を加算する。
【0041】
(ループ処理L2s~L2e)演算部141は、ステップS1の処理をm回繰り返す。なお、演算部141は、1回目の処理で、jを0に設定し、jに1を加算する。演算部141は、2回目以降の処理で、jに1を加算する。
【0042】
(ステップS1)作業者は、厚さがtで、比誘電率がεのサンプル(一般材料)を、電界発生源11(図1)とセンサ13(図1)との間に置く。演算部141は、このサンプルの電界測定値Vijを取得する。
【0043】
(ステップS2)演算部141は、厚さt毎に、比誘電率に対する電界測定値の検量線Aを線形近似によって求める。続けて、演算部141は、検量線Aの傾きaと切片bを記憶部15に記憶させる。
【0044】
(ステップS3)演算部141は、検量線Aの傾きaと切片bについて、tを変数とした第1の関数a=f(t)と第2の関数b=f(t)を近似によって求める。続いて、演算部141は、第1の関数a=f(t)と第2の関数b=f(t)を記憶部15に記憶させる。
【0045】
ここで、図2に示した処理の具体例を説明する。
測定装置1は、厚さtの第1のサンプル(比誘電率εr1)の電界測定値V11を測定する。次に、測定装置1は、厚さtの第2のサンプル(比誘電率εr2)の電界測定値V12を測定する。次に、測定装置1は、厚さtの第3のサンプル(比誘電率εr3)の電界測定値V13を測定する(1回目のループ処理L2s~L2e)。
次に、演算部141は、回帰分析によって直線近似して、厚さtの検量線A(V=a×ε+b)を求める(1回目のステップS2)。演算部141は、検量線Aの傾きaと切片bを記憶部15に記憶させる。
【0046】
次に、測定装置1は、厚さtの第4のサンプル(比誘電率εr4)の電界測定値V24を測定する。次に、測定装置1は、厚さtの第5のサンプル(比誘電率εr5)の電界測定値V25を測定する。次に、測定装置1は、厚さtの第6のサンプル(比誘電率εr6)の電界測定値V26を測定する(2回目のループ処理L2s~L2e)。
次に、演算部141は、回帰分析によって直線近似して、厚さtの検量線A(V=a×ε+b)を求める(2回目のステップS2)。演算部141は、検量線Aの傾きaと切片bを記憶部15に記憶させる。
【0047】
次に、測定装置1は、厚さtの第7のサンプル(比誘電率εr7)の電界測定値V37を測定する。次に、測定装置1は、厚さtの第8のサンプル(比誘電率εr8)の電界測定値V38を測定する。次に、測定装置1は、厚さtの第9のサンプル(比誘電率εr9)の電界測定値V39を測定する(3回目のループ処理L2s~L2e)。
次に、演算部141は、回帰分析によって直線近似して、厚さtの検量線A(V=a×ε+b)を求める(3回目のステップS2)。演算部141は、検量線Aの傾きaと切片bを記憶部15に記憶させる。
上述した処理によって得られた測定結果は図2のようになる。図2の例では、21枚のサンプルを用いて、前処理を行った例である。また、電界測定値Vを縦軸に、厚さtを横軸に取ったときのグラフは、図4のように表される。なお、図4については、後述する。
【0048】
次に、演算部141は、厚さtの傾きaと、厚さtの傾きaと、厚さtの傾きaとを用いて、第1の関数a=f(t)を求める。また、演算部141は、厚さtの切片bと、厚さtの切片bと、厚さtの切片bとを用いて、第2の関数b=f(t)を求める。なお、演算部141は、例えば指数近似を用いて関数を求める。
【0049】
[検量線の導出手順]
次に、試料2の比誘電率の求め方を説明する。
まず、厚さと電界測定値との関係について説明する。
図4は、厚さと電界測定値との関係例を示す図である。図4において、横軸は厚さ(μm)であり、縦軸は電界測定値(任意単位)である。
センサ13と電界発生源11の間に位置する試料2の厚さが厚くなると、センサ13で検出される交流電界3の強度は、ランベルトベールの法則に従って通過損失が生じ、図4に示すように指数関数的に減少する。ここで、厚さをt、電界測定値をV、減衰係数をcとすると、電界測定値Vは、V=V×exp(-ct)で表すことができる。
【0050】
すなわち、センサ13で検出される交流電界3の強度である電界測定値は、測定対象物である試料2の厚さと比誘電率の関数である。したがって、厚さか比誘電率のいずれかを求めたいときには、どちらか一方の値と電界測定値から、もう一方の値を求めることができる。本実施形態では比誘電率の測定を目的としているため、電界測定値と共に、試料2の厚さを厚さ計12によって取得する。
【0051】
図5は、本実施形態に係る比誘電率の測定手順のフローチャートである。図5において比誘電率を測定する対象の試料2は、比誘電率と厚さが未知の誘電体材料である。測定に際して、作業者は、試料2を、電界発生源11(図1)とセンサ13(図1)との間に置く。
【0052】
(ステップS11)演算部141は、厚さ計12が出力する試料2の厚さtの測定値を取得する。
(ステップS12)演算部141は、試料2の電界測定値Vを取得する。
【0053】
(ステップS13)演算部141は、取得した厚さtと、記憶部15が記憶する第1の関数a=f(t)と第2の関数b=f(t)を用いて、傾きaと切片bとを求める。これにより、演算部141は、比誘電率εと電界測定値Vとの関係式(V=a×ε+b)を得る。
【0054】
(ステップS14)演算部141は、電界測定値Vと、傾きaと切片bとの関係式(V=a×ε+b)を用いて、比誘電率εを求める。すなわち、演算部141は、比誘電率εを(V-b)/aによって求める。
【0055】
[電気光学プローブ]
ここで、電気光学プローブについて概略を説明する。
図6は、電気光学プローブ13Aの構成例のブロック図である。なお、図6は、センサ13に電気光学プローブ13Aを適用した例である。図6に示すように、電気光学プローブ13Aは、EO/OE回路131とプローブヘッド132を備える。EO/OE回路131は、LDドライバ1311、LD1312、PD1313、PD1314、差動アンプ1315、およびコンデンサ1316を備える。プローブヘッド132は、波長板1321、EO結晶1322、およびPBS1323を備える。
【0056】
EO/OE回路131は、プローブヘッド132で検出した電界強度を電気信号に変換して出力する。LDドライバ1311はLD1312を駆動する。LD1312は、例えば半導体レーザである。PD1313、およびPD1314は光受光部であり、プローブヘッド132からのレーザ光のP波とS波を受光し、受光したP波とS波それぞれを電気信号に変換して差動アンプ1315に出力する。差動アンプ1315は、PD1313が出力する電気信号とPD1314が出力する電気信号との差分を求め、求めた強度差を増幅した出力信号を、コンデンサ1316によってDC(直流)成分をカットした後に出力する。
【0057】
EO/OE回路131のLD1312によって照射されたレーザ光が光りファイバを介してプローブヘッド132へ送られる。
プローブヘッド132は、波長板1321とEO結晶1322を透過したレーザ光は、PBS1323(偏光ビームスプリッタ)によってP波とS波の2つの直線偏光に分離する。なお、EO結晶1322は、結晶中に電界が印加された際に,結晶の持つ屈折率が変化するEO(電気光学)効果を示す結晶である。
【0058】
なお、図6に示した電気光学プローブ13Aの構成は一例であり、構成はこれに限らない。
【0059】
以上のように、本実施形態の測定装置1を用いることで、従来技術ではできなかった非接触での比誘電率測定を実現することが可能となる。
また、本実施形態によれば、電界を検出するセンサ13に電気光学プローブを採用することで、金属製アンテナと比較して低擾乱で安定的な測定ができる。そして、本実施形態では、電気光学プローブに用いる電気光学結晶の微小化や、参照光のビーム径を細くするなどの工夫により、金属製アンテナよりも空間分解能が高い測定が可能となる。
さらに、本実施形態によれば、電界発生源11に入力する信号の周波数を数kHz~数MHz程度にすることで、信号検出回路の高速化などの必要がなく、ミリ波帯やマイクロ波帯の信号を用いる測定手法に比べて、装置を安価に構築できる効果を得ることができる。
【0060】
[シート/フィルムの製造プロセス中でのインライン測定例]
次に、測定装置1を、シート状もしくはフィルム状の誘電体材料が高速で搬送されて製造されるプロセス中に適用する例を説明する。このプロセスに測定装置1を適用することで、比誘電率のインライン測定を高空間分解能かつ非接触で実現することができる。
【0061】
図7は、本実施形態の測定装置1を、シート状もしくはフィルム状の誘電体材料が高速で搬送して製造する製造装置100に適用する例を示す図である。製造装置100は、測定装置1、搬送手段101を含んで構成される。図7に示すxyz直交座標系において、x軸が試料2の搬送方向D1に沿う方向、y軸が試料2の幅方向に沿う方向、z軸が鉛直方向に沿う方向にそれぞれ設定されている。
【0062】
試料2は、試料2を巻き取って搬送するアルミのロールなどの搬送手段101によって、x軸方向へ高速搬送される。
図7において、電界発生源11とセンサ13の距離が遠いほど、センサ13で検出される電界強度は低くなり、S/Nが悪くなる。このような場合は、電界発生源11を高電圧の交流信号で励起させ、センサ13で検出する交流電界3の強度を高めることで、S/N劣化を抑制できる。また、比較的低い周波数帯の高電圧信号を生成することは容易である。ここで、比較的低い周波数とは、例えば数kHz~数MHz程度である。このように、本実施形態では、例えば数kHz~数MHz程度の高電圧信号を用いることで、センサ13と電界発生源11の距離を遠ざけても、精度の高い測定が容易に実現可能である。
【0063】
試料2とセンサ13との距離、または試料2と電界発生源11の距離が従来技術のように近い場合は、試料2がセンサ13や電界発生源11に接触することで、表面に傷がついたり穴があいたりする問題が発生する。一方、本実施形態によれば、十分な距離を取ったギャップに試料2を搬送させることで、接触が発生せず、かつ上述したように精度の高い測定を行うことができる。
【0064】
図8は、本実施形態による測定装置1Aの概略構成を示す斜視図である。図8に示すように、測定装置1Aは、さらにフレーム10を備える。
フレーム10は、外部形状として長手方向と短手方向を有する略四角環形状の部材である。フレーム10は、その開口部OP内において厚さ計12とセンサ13及び電界発生源11を長手方向に往復運動可能に支持する。具体的に、フレーム10は、長手方向が紙Pの幅方向(y方向)に沿う方向に設定されるとともに短手方向が鉛直方向(z方向)に沿う方向に設定され、試料2が開口部OPのほぼ中央を通過するように配置される。
【0065】
つまり、フレーム10は、搬送される試料2の上方に厚さ計12とセンサ13が配置されるとともに、搬送される試料2の下方に電界発生源11が配置されるように、試料2に対して位置決めがなされている。そして、厚さ計12とセンサ13を試料2の表面に沿ってy方向に往復運動させる機構と、電界発生源11を試料2の裏面に沿ってy方向に往復運動させる機構とを備える。すなわち、測定装置1Aは、試料2(測定対象物)の搬送方向に直行するような水平方向へのスキャン機構を有している。これらの機構を同じように駆動すれば厚さ計12とセンサ13と、電界発生源11とを同期させて往復運動させることができる。
【0066】
以上のように、本実施形態によれば、フィルム状またはシート状の誘電体の比誘電率を、高空間分解能で、かつ非接触で測定することができる。
【0067】
なお、本発明における処理部14の機能の全てまたは一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより処理部14が行う処理の全てまたは一部を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0068】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0069】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0070】
1,1A…測定装置、11…電界発生源、12…厚さ計、13…センサ、13A…電気光学プローブ、14…処理部、15…記憶部、16…出力部、141…演算部、142…制御部、2…試料、10…フレーム、101…搬送手段、100…製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8