(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】タンパク質組成物、その製造方法及び熱安定性向上方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20220729BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20220729BHJP
D01C 3/00 20060101ALN20220729BHJP
C07K 1/00 20060101ALN20220729BHJP
【FI】
C07K14/78 ZNA
C08L89/00
D01C3/00 A
C07K1/00
(21)【出願番号】P 2018554208
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2017042896
(87)【国際公開番号】W WO2018101358
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2016231335
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】谷池 俊明
(72)【発明者】
【氏名】ダオ アン ティ ゴック
(72)【発明者】
【氏名】中山 超
(72)【発明者】
【氏名】下方 潤一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健悟
(72)【発明者】
【氏名】ムレイ アビジット ラビキラン
(72)【発明者】
【氏名】ダルビ スニタ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-057851(JP,A)
【文献】特開平07-090182(JP,A)
【文献】特開平02-240165(JP,A)
【文献】特開平02-113066(JP,A)
【文献】特表2012-505297(JP,A)
【文献】特開平04-306236(JP,A)
【文献】特許第6019506(JP,B1)
【文献】特表2016-517443(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163294(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/103158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 9/00- 9/99
C12P 1/00-41/00
C08L 89/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブロインと安定化剤が溶解した溶液の乾燥物を含有する
フィルム形成用タンパク質組成物であって、
前記安定化剤は、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]、α-トコフェロール、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート及び4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、タンパク質組成物。
【請求項2】
前記安定化剤が、
(i)3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイト、及びチオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]からなる群から選ばれるいずれか一種と、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]と、を含むか、
(ii)6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールと、チオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]と、を含むか、
(iii)N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)と、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトと、を含む、請求項1に記載のタンパク質組成物。
【請求項3】
非粉末状である、請求項1又は2に記載のタンパク質組成物。
【請求項4】
前記
フィブロイン100質量部に対して、前記安定化剤が0質量部超10質量部以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質組成物。
【請求項5】
前記
フィブロインがクモ糸フィブロインである、請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質組成物。
【請求項6】
フィブロイン、該
フィブロインの溶解溶媒、及び安定化剤溶液を混合して混合溶液を得る工程と、該混合溶液から揮発分を除去して乾燥物を得る工程と、を備える
フィルム形成用タンパク質組成物の製造方法であって、
前記安定化剤は、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]、α-トコフェロール、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート及び4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、製造方法。
【請求項7】
前記安定化剤が、
(i)3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイト、及びチオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]からなる群から選ばれるいずれか一種と、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]と、を含むか、
(ii)6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールと、チオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]と、を含むか、
(iii)N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)と、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトと、を含む、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
フィルム形成におけるフィブロインの熱安定性向上方法であって、
前記
フィブロインと、
前記
フィブロインの溶解溶媒と、
N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]、α-トコフェロール、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート及び4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の溶液と、を混合して混合溶液を得、
該混合溶液から揮発分を除去して、
前記
フィブロインと前記化合物が共存した乾燥物を得る、熱安定性向上方法。
【請求項9】
前記化合物が、
(i)3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイト、及びチオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]からなる群から選ばれるいずれか一種と、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]と、を含むか、
(ii)6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールと、チオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]と、を含むか、
(iii)N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)と、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトと、を含む、請求項
8に記載の熱安定性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質組成物、その製造方法及び熱安定性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クモ糸に代表される構造タンパク質の素材の優位性を活用し、新規素材の設計や製造、工業用材料化プロセスの検討がされている。産業化を見据えた材料開発においては、耐劣化性(耐久性)、安定性が重要となるが、特にタンパク質の熱劣化に関しては、劣化機構の曖昧性等を原因として安定化剤の選定が困難であった。また、安定化剤に関しては、疎水性樹脂に関する知見は多く存在するものの、疎水性樹脂とは性質が全く異なるタンパク質に対して、有効な安定化剤の分子構造やその添加プロセスについては今なお不明な状態である。なお、天然クモ糸の耐熱性については、例えば非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】蛋白質核酸酵素 Vol.41, No.14 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の課題は、熱安定性の向上したタンパク質組成物、その製造方法及びタンパク質の熱安定性向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、タンパク質が安定化剤溶液中に分散した分散体の乾燥物を含有するタンパク質組成物であって、上記安定化剤は、カテコール系安定化剤、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、及び6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、タンパク質組成物(タンパク質組成物1)を提供する。
【0006】
本発明はまた、タンパク質と安定化剤が溶解した溶液の乾燥物を含有するタンパク質組成物であって、上記安定化剤は、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]]、α-トコフェロール、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート、及び4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、タンパク質組成物(タンパク質組成物2)を提供する。
【0007】
タンパク質組成物1及び2は、それぞれ以下のような製造方法1及び2で得ることができる。
【0008】
製造方法1:安定化剤溶液中にタンパク質を分散させて分散体を得る工程と、この分散体から揮発分を除去して乾燥物を得る工程と、を備えるタンパク質組成物の製造方法であって、上記安定化剤は、カテコール系安定化剤、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、及び6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、製造方法。
【0009】
製造方法2:タンパク質、このタンパク質の溶解溶媒、及び安定化剤溶液を混合して混合溶液を得る工程と、この混合溶液から揮発分を除去して乾燥物を得る工程と、を備えるタンパク質組成物の製造方法であって、上記安定化剤は、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]]、α-トコフェロール、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート、及び4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、製造方法。
【0010】
タンパク質組成物1及び2はいずれも、高い熱安定性を示すため、産業材料として有効に活用できる。すなわち、本発明は以下の方法1及び2のようなタンパク質の熱安定性向上方法を提供するものである。
【0011】
方法1:タンパク質の熱安定性向上方法であって、カテコール系安定化剤、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、及び6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が溶解した溶液に、上記タンパク質を分散させて分散体を得、この分散体から揮発分を除去して、上記タンパク質と上記化合物が共存した乾燥物を得る、熱安定性向上方法。
【0012】
方法2:タンパク質の熱安定性向上方法であって、上記タンパク質と、このタンパク質の溶解溶媒と、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]]、α-トコフェロール、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート、及び4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の溶液と、を混合して混合溶液を得、この混合溶液から揮発分を除去して、上記タンパク質と上記化合物が共存した乾燥物を得る、熱安定性向上方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱安定性の向上したタンパク質組成物、その製造方法及びタンパク質の熱安定性向上方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】(a)は組成物導入前、(b)は組成物導入直後、(c)は組成物を加熱及び加圧している状態の加圧成形機の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
第1実施形態に係るタンパク質組成物(タンパク質組成物1)は、タンパク質が安定化剤溶液中に分散した分散体の乾燥物を含有するタンパク質組成物であって、安定化剤は、カテコール系安定化剤、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、及び6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0017】
上記カテコール系安定化剤は、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5,7-トリヒドロキシ-4H-クロメン-4-オン、(1S,3R,4R,5R)-3-{[3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アクリロイル]オキシ}-1,4,5-トリヒドロキシシクロヘキサン-1-カルボン酸、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-5,7-ジヒドロキシ-3-{[(2S,3R,4S,5S,6R)-3,4,5-トリヒドロキシ-6-({[(2R,3R,4R,5R,6S)-3,4,5-トリヒドロキシ-6-メチルオキサン-2-イル]オキシ}メチル)オキサン-2-イル]オキシ}-4H-クロメン-4-オン、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート、及び4,4’-(2,3-ジメチルブタン-1,4-ジイル)ジベンゼン-1,2-ジオールからなる群より選ばれる少なくとも一種とすることができる。以下、これらの安定化剤と、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、及び6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールを併せて「第1実施形態用安定化剤」という。
【0018】
タンパク質組成物1において、タンパク質100質量部に対する第1実施形態用安定化剤の含有量は、0質量部超10質量部以下が好ましく、0.001質量部以上10質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上1質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下が更に好適である。これは、10質量部を超えて含有量を増やしても、それに見合った熱安定性の向上が少なくなるからである。タンパク質組成物1は、例えば、第1実施形態用安定化剤の溶液中にタンパク質を分散させて分散体を得る工程と、この分散体から揮発分を除去して乾燥物を得る工程と、を備える製造方法により製造可能である(上記製造方法1)。タンパク質組成物1は、乾燥物を溶媒等に溶解した溶液又は乾燥物を溶媒等に分散した分散体であってもよい。
【0019】
なお、タンパク質組成物1は上述した乾燥物のみからなっていても、その他の成分を含有していてもよい。すなわち、タンパク質組成物1にはタンパク質と安定化剤以外のその他の成分が含まれていてもよい。また、そのタンパク質組成物1を得る際には、その他の成分を溶媒に溶解させてもよく、分散体又は乾燥物に添加してもよい。
【0020】
第1実施形態用安定化剤の溶液を製造するための溶媒としては、エタノール、メタノール等の第一級アルコール、2-プロパノール等の第二級アルコール、tert-ブチルアルコール等の第三級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン等の単独溶媒か、又はこれらの溶媒の内の少なくとも2つの混合溶媒等が挙げられる。この溶媒としては、ジクロロメタンが好ましく、体積比1/1のアセトン/メタノールの混合溶媒がより好ましく、メタノールが更に好ましい。これは、溶媒とタンパク質の相溶性が高い溶媒ほど、安定化剤をタンパク質分子内へ侵入させる効果が高く、熱安定性効果を向上させるためと考えられる。この溶液における第1実施形態用安定化剤の濃度は、例えば、0.1~1mg/mlである。
【0021】
分散体を得るためには、タンパク質は粉末状であることが好ましい。また、タンパク質と第1実施形態用安定化剤の上述した好適比率に従って、タンパク質を第1実施形態用安定化剤の溶液に添加することが好ましい。このようにして得られる分散体では、第1実施形態用安定化剤が溶媒中に溶解しているが、タンパク質は溶媒中に分散している。添加後は、さらに攪拌した後に乾燥させてタンパク質組成物1を得ることができる。なお、攪拌時間は特に限定されるものではないが、例えば、室温で16~60時間又は16~24時間等が挙げられる。乾燥方法も特に限定されるものではないが、例えば、自然乾燥(例えば、25℃、1気圧)又は減圧乾燥(例えば、40℃で4時間)等が挙げられる。
【0022】
このようにして得られるタンパク質組成物は、典型的には粉末状又はフィルム状である。また、このタンパク質組成物の乾燥物は、成形体(モールド成形体等)であってもよい。成形体の一種であるモールド成形体の製造例は以下のとおりである。
すなわち、モールド成形体は、鋳型(モールド)にタンパク質組成物1を導入し成形加工する等して得ることができ、成形加工の工程において、加熱及び加圧することが可能である。成形加工の対象のタンパク質組成物1は、粉末状(凍結乾燥粉末等)又は繊維状(紡糸して得られる繊維等)の形状を有することができる。また、モールド成形体は、上記形状のタンパク質組成物の融着体であり得る。
【0023】
モールド成形体を、加圧成形機(鋳型)を用いて作成する方法について図を用いて説明する。
図1に示す加圧成形機10は、貫通孔が形成され加温可能な金型2と、金型2の貫通孔内で上下動が可能な上側ピン4及び下側ピン6とを備えるものであり、金型2に、上側ピン4又は下側ピン6を挿入して生じる空隙に、タンパク質組成物を導入して、金型2を加温しつつ、上側ピン4及び下側ピン6で組成物を圧縮し、モールド成形体を製造することができる。
【0024】
図2(a)に示すように、金型2の貫通孔に下側ピン6のみを挿入した状態で貫通孔内にタンパク質組成物を導入し、
図2(b)に示すように、金型2の貫通孔に上側ピン4を挿入して下降させ、金型2の加熱を開始して、加熱加圧前のタンパク質組成物8aを貫通孔内で加熱加圧する。あらかじめ定めた加圧力に至るまで上側ピン4を下降させ、
図2(c)に示す状態でタンパク質組成物が所定の温度に達するまで、加熱及び加圧を継続して、加熱加圧後のタンパク質組成物8bを得る。その後、冷却器(例えばスポットクーラー)を用いて金型2の温度を下降させ、タンパク質組成物8bが所定の温度になったところで、上側ピン4又は下側ピン6を金型2から抜き取り、内容物を取り出して、モールド成形体を得る。加圧に関しては、下側ピン6を固定した状態で上側ピン4を下降させて実施してもよいが、上側ピン4の下降と下側ピン6の上昇の両方を実施してもよい。
【0025】
加熱は、80~300℃で行うことが好ましく、100~200℃がより好ましく、130~200℃が更に好ましい。加圧は、5kN以上で行うことが好ましく、10kN以上がより好ましく、20kN以上が更に好ましい。また、所定の加熱加圧条件に達した後、その条件での処理を続ける時間(保温条件)は、0~100分が好ましく、1~50分がより好ましく5~30分が更に好ましい。
【0026】
第1実施形態に係るタンパク質組成物が安定化剤としてプロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート又は6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールを含有する場合、そのタンパク質組成物の乾燥物(例えば、モールド成形体)は、曲げ強度により優れる。
【0027】
第2実施形態に係るタンパク質組成物(タンパク質組成物2)は、タンパク質と安定化剤が溶解した溶液の乾燥物を含有するタンパク質組成物であって、安定化剤は、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6 ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]]、α-トコフェロール、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエート、及び4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、タンパク質組成物である。以下、これらの安定化剤を「第2実施形態用安定化剤」という。
【0028】
好ましい第2実施形態用安定化剤は、
プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートと2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトの組み合わせ、
6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールとチオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]の組み合わせ、
N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))と2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトの組み合わせ、
ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]])と3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンの組み合わせ、又は
ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]])と2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトの組み合わせ、又は
ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]])とチオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン] ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]の組み合わせであることが好ましい。安定化剤が上記組み合わせのいずれかであると、それを含有するタンパク質組成物の熱安定性がさらに向上する。
【0029】
タンパク質組成物2において、タンパク質100質量部に対する安定化剤の含有量は、0質量部超10質量部以下が好ましく、0.001質量部以上10質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上1質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下が更に好適である。これは、10質量部を超えて含有量を増やしても、それに見合った熱安定性の向上が少なくなるからである。タンパク質組成物2は、例えば、タンパク質、このタンパク質の溶解溶媒、及び第2実施形態用安定化剤の溶液を混合して混合溶液を得る工程と、この混合溶液から揮発分を除去して乾燥物を得る工程と、を備える製造方法により製造可能である(上記製造方法2)。また、タンパク質組成物2は、乾燥物を溶媒等に溶解した組成物であってもよい。
【0030】
なお、タンパク質組成物2は上述した乾燥物のみからなっていても、その他の成分を含有していてもよい。すなわち、タンパク質組成物2にはタンパク質と安定化剤以外のその他の成分が含まれていてもよい。また、そのタンパク質組成物2を得る際には、その他の成分を溶媒に溶解させてもよい。
【0031】
タンパク質の溶解溶媒としては、タンパク質を溶解し得るものであればよく、例えば、塩化カルシウム/エタノール/水の混合溶媒や、DMSO、HFIP、ギ酸等が挙げられる。溶解溶媒の添加量は、タンパク質を溶解できる量であり、例えば、タンパク質の量が10~24質量%となるように調整することが好ましい。
【0032】
第2実施形態用安定化剤の溶液を製造するための溶媒としては、エタノール、メタノール等の第一級アルコール、2-プロパノール等の第二級アルコール、tert-ブチルアルコール等の第三級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン等の単独溶媒か、又はこれらの溶媒の内の少なくとも2つの混合溶媒等が挙げられる。第2実施形態用安定化剤の濃度は、タンパク質の溶解溶媒に対する安定化剤の溶解度を上限とする。
【0033】
混合溶液を得るためには、タンパク質は粉末状であることが好ましい。また、タンパク質と第2実施形態用安定化剤との上述した好適比率に従って、混合溶液を製造することが好ましい。混合溶液は、例えば、タンパク質、タンパク質の溶解溶媒、第2実施形態用安定化剤を混合し、65℃±5℃で、3~6時間攪拌して調製してもよい。このようにして得られる混合溶液(ドープ溶液)は、タンパク質と第2実施形態用安定化剤の両方が溶解している。
【0034】
タンパク質組成物2の乾燥物は、典型的には非粉末状(フィルム状、繊維状、紐状、板状等)である。タンパク質組成物2の乾燥物は、成形体(フィルム、板、繊維、紐等)であってもよい。例えば、上記で得られた混合溶液(ドープ溶液)をポリスチレン製の基板上にキャストし、減圧乾燥(例えば、60℃、0.54気圧で7日間)して成形する。その後、アセトン、メタノール混合溶液(比率 7:3)に30分間含浸し、さらにメタノール溶液に30分間含浸した後、自然乾燥(例えば、25℃、1気圧)してタンパク質組成物2の乾燥物(フィルム状又は板状)を得ることができる。また、上記で得られた混合溶液(ドープ溶液)を紡糸することにより、タンパク質組成物2の乾燥物(繊維状又は紐状)を得ることができる。
【0035】
上述の製造方法1及び2を行うことで、このタンパク質と安定化剤とを共存させることができ、これによりタンパク質の熱安定性を向上させることができる。すなわち、第1実施形態用安定化剤が溶解した溶液に、タンパク質を分散させて分散体を得、この分散体から揮発分を除去して、タンパク質と化合物が共存した乾燥物を得る、熱安定性向上方法(上記方法1)、並びに、タンパク質と、このタンパク質の溶解溶媒と、第2実施形態用安定化剤の溶液とを混合して混合溶液を得、この混合溶液から揮発分を除去して、タンパク質と化合物が共存した乾燥物を得る、熱安定性向上方法(上記方法2)が提供される。
【0036】
タンパク質組成物1及び2の熱安定性の評価方法は、通常用いられている方法で行うことができる。例えば、化学発光法、示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)、示差走査熱量測定(DSC)、高圧示差走査熱量測定(HP-DSC)、暴走反応試験(ARC)、或いは引張試験、曲げ試験(例えば、曲げ強度試験)、圧縮試験、衝撃試験等の機械強度試験等の種々の方法が挙げられる。
【0037】
化学発光法は熱酸化劣化によって生じる微弱な化学発光(ケミルミネッセンス)を検出することで劣化の評価を行う分析手法である。化学発光とは物質の化学反応時に分子が励起状態から基底状態に戻ることで生じる光のことであり、ポリマーの劣化における化学発光は、自動酸化劣化によって生じた励起カルボニルが基底状態に落ちる際に生じると言われている。安定化剤を導入したポリプロピレンのようなオレフィン系高分子化合物の場合、安定化剤が効力を発揮している間には、材料からの発光はほとんどないが、安定化剤が消費され尽くすと自動酸化劣化が急激に進行することで、化学発光が観測される。このように安定化剤が効力を失って物質が発光するまでの時間を酸化誘導期(OIT)といい、この時間が物質の安定性を示す指標となる。一方、ポリアミド6のような一部の非オレフィン系高分子化合物については、OITが存在せず、加熱とともに発光強度が緩やかに上昇し、最大値を示した後減少するような挙動を示す。このような材料を安定化した場合、発光強度の減少ならびに、最大値までの時間の遅延(Extention of Time at Imax[%])が観測されることから、これを安定性の指標とみなすことが可能である。
【0038】
第1実施形態においても、第2実施形態においても、タンパク質の種類は、特に限定されるものではない。遺伝子組換え技術により微生物等で製造したものであってもよく、合成により製造されたものであってもよく、また天然由来のタンパク質を精製したものであってもよい。
【0039】
タンパク質は、例えば、構造タンパク質であってもよい。構造タンパク質とは、生体内で構造、形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。このような構造タンパク質としては、例えば、フィブロイン、コラーゲン、エラスチン、レシリン等を挙げることができる。これらのタンパク質が、構造タンパク質として、それぞれ単独で、もしくは適宜に組み合わされて用いられる。
【0040】
フィブロインは、例えば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。特に、構造タンパク質は、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン又はこれらの組み合わせであってもよい。絹フィブロインとクモ糸フィブロインとを併用する場合、絹フィブロインの割合は、例えば、クモ糸フィブロイン100質量部に対して、40質量部以下、30質量部以下、又は10質量部以下であってよい。
【0041】
絹糸は、カイコガ(Bombyx mori)の幼虫である蚕の作る繭から得られる繊維(繭糸)である。一般に、1本の繭糸は、2本の絹フィブロインと、これらを外側から覆うニカワ質(セリシン)とから構成される。絹フィブロインは、多数のフィブリルで構成される。絹フィブロインは、4層のセリシンで覆われる。実用的には、精錬により外側のセリシンを溶解して取り除いて得られる絹フィラメントが、衣料用途に使用されている。一般的な絹糸は、1.33の比重、平均3.3decitexの繊度、及び1300~1500m程度の繊維長を有する。絹フィブロインは、天然若しくは家蚕の繭、又は中古若しくは廃棄のシルク生地を原料として得られる。
【0042】
絹フィブロインは、セリシン除去絹フィブロイン、セリシン未除去絹フィブロイン、又はこれらの組み合わせであってもよい。セリシン除去絹フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、及びその他の脂肪分などを除去して精製したものである。このようにして精製した絹フィブロインは、好ましくは、凍結乾燥粉末として用いられる。セリシン未除去絹フィブロインは、セリシンなどが除去されていない未精製の絹フィブロインである。
【0043】
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、及び天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドからなる群より選ばれるクモ糸ポリペプチドを含有していてもよい。
【0044】
天然クモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質が挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
【0045】
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状線で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びにニワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、これらのしおり糸タンパク質に由来するポリペプチドであってもよい。ADF3に由来するポリペプチドは、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0046】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
【0047】
天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、組換えクモ糸タンパク質であってよい。組換えクモ糸タンパク質としては、天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体等が挙げられる。このようなポリペプチドの好適な一例は、大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質(「大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチド」ともいう)である。
【0048】
フィブロイン様タンパク質である、大吐糸管しおり糸由来のタンパク質あるいはカイコシルク由来のタンパク質としては、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP1]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式1中、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REP1は10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREP1は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)をあげることができる。具体的には配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をあげることができる。
【0049】
横糸タンパク質に由来するタンパク質としては、例えば、式2:[REP2]oで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式2中、REP2はGly-Pro-Gly-Gly-Xから構成されるアミノ酸配列を示し、Xはアラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)からなる群から選ばれる一つのアミノ酸を示す。oは8~300の整数を示す。)をあげることができる。具体的には配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をあげることができる。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAF36090、GI:7106224)のリピート部分及びモチーフに該当するN末端から1220残基目から1659残基目までのアミノ酸配列(PR1配列と記す。)と、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分配列(NCBIアクセッション番号:AAC38847、GI:2833649)のC末端から816残基目から907残基目までのC末端アミノ酸配列を結合し、結合した配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0050】
コラーゲン由来のタンパク質として、例えば、式3:[REP3]pで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは5~300の整数を示す。REP3は、Gly-X-Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenbankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0051】
レシリン由来のタンパク質として、例えば、式4:[REP4]qで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、qは4~300の整数を示す。REP4はSer-J-J-Tyr-Gly-U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenbankのアクセッション番号NP611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0052】
エラスチン由来のタンパク質として、例えば、NCBIのGenbankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号5で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenbankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0053】
タンパク質原料繊維に主成分として含まれるタンパク質は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0054】
タンパク質原料繊維に主成分として含まれるタンパク質をコードする遺伝子の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的な合成によって、遺伝子を製造することができる。遺伝子の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製や確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質、をコードする遺伝子を合成してもよい。
【0055】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いても良い。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0056】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とするタンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0057】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0058】
原核生物の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0059】
タンパク質原料繊維に主成分として含まれるタンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開第2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0060】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0061】
ベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0062】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0063】
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0064】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0065】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0066】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0067】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0068】
タンパク質の単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0069】
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0070】
なお、上記したようなタンパク質を主成分として含むタンパク質原料繊維は、公知の手法によって製造される。即ち、例えば、クモ糸フィブロインを含むタンパク質原料繊維を製造する際には、先ず、前記発現ベクターで形質転換した宿主等を用いて製造されるクモ糸フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)や、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、或いはヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)等の溶媒単独に溶解してドープ溶液を作製、又は、これら溶媒に上記クモ糸フィブロインを溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ溶液を作製する。次いで、このドープ溶液を用いて、湿式紡糸や乾式紡糸、乾湿式紡糸等の公知の紡糸手法により紡糸して、タンパク質原料を得ることができる。なお、安定化剤を上記ドープ溶液に添加して溶解させてもよく、また、安定化剤を溶解させた溶液に、上記クモ糸フィブロインを混合してドープ溶液としてもよい。ここで用いられるドープ溶液の溶媒としては、安定化剤をも溶解可能なものが用いられる。安定化剤を溶解させた溶液と上記クモ糸フィブロインを溶解させた溶液の混合溶液をドープ溶液としてもよい。
さらに、安定化剤を溶解させた溶液に、上記クモ糸フィブロインを分散させて分散体を得、この分散体から溶媒を除去して得られる乾燥物を用いてドープ溶液を作製してもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
1.クモ糸タンパク質(クモ糸フィブロイン)の製造
(クモ糸タンパク質をコードする遺伝子の合成、及び発現ベクターの構築)
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「PRT410」ともいう。)を設計した。
【0073】
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
【0074】
次に、PRT410をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0075】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0076】
【0077】
当該シード培養液を500mLの生産培地(下記表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0078】
【0079】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質の発現を確認した。
【0080】
(タンパク質の精製)
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0081】
得られた凍結乾燥粉末における目的タンパク質の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics Ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、いずれのタンパク質も精製度は約85%であった。
【0082】
2-1.タンパク質組成物1(粉末)の製造
上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末200mgをそれぞれサンプル瓶に導入した。以下の表3に示す安定化剤を0.3mg/mLの濃度で溶媒(アセトン/メタノールを体積比1/1とした混合溶媒)に溶解させ、その安定化剤溶液2mLをそれぞれサンプル瓶に導入した(安定化剤量:0.6mg)。そして、サンプル瓶に封をして室温で16時間撹拌を行った後、自然乾燥を行い、溶媒を揮発させることで安定化剤含有粉末(粉末状タンパク質組成物)(乾燥物全量に対する安定化剤含有量:0.3質量%)を調製した。
安定化剤を添加しなかった以外は、上記と同様にしてタンパク質粉末を調製し、それをコントロールとした。
【0083】
【0084】
熱安定性の評価は、以下のように行った。試料を収容するチャンバーに上記安定化剤含有粉末(粉末状タンパク質組成物)を設置し、このチャンバーを装置にセットした。その後、乾燥空気を流速100mL/minで流通し、200℃に保持して化学発光強度の経時変化をケミルミネッセンスアナライザー(東北電子産業株式会社製CLA-ID2-HS)で検出した。安定化剤を添加していないタンパク質粉末の化学発光強度が最大値に達するまでの時間をT0、安定化剤含有粉末(粉末状タンパク質組成物)の化学発光強度が最大値に達するまでの時間をT1として、次式よりExtention of Time at Imaxを算出した。
(T1-T0)/T0×100 [%]
Extention of Time at Imax[%]は化学発光強度が最大値に達するまでの遅延時間を意味し、数値が大きい方が熱安定性が高いことを示す。表3の安定化剤について、結果を以下の表4に示す。
【0085】
【0086】
2-2.タンパク質組成物1(粉末)の製造
上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)200mgをサンプル瓶に導入した。安定化剤としてプロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートを用い、安定化剤の含有量を0.5質量%とした他は、上記2-1.と同様にして安定化剤含有粉末(粉末状タンパク質組成物)(乾燥物全量に対する安定化剤含有量:0.5質量%)を調製した。
コントロールとして、安定化剤を添加しなかった以外は、上記と同様にしてタンパク質粉末を調製した。
【0087】
上記2-1.と同様にして熱安定性の評価を行った。算出されたExtention of Time at Imax[%]の値は、35%であった。
【0088】
3-1.タンパク質組成物2(フィルム)の製造
上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)0.56gをそれぞれサンプル瓶に導入した。蒸留水8.4mL、エタノール6.7mLの混合溶液に塩化カルシウムを2.22g溶解させて、人工クモ糸タンパク質粉末の溶解溶媒を作成した後、その溶解溶媒5gをそれぞれサンプル瓶に導入した。以下の表5に示す安定化剤を1.4質量%の濃度でエタノールに溶解させた。その安定化剤溶液100μLをそれぞれサンプル瓶に導入し(安定化剤量:1.12mg)、65℃で6時間、撹拌を行うことでドープ溶液を調製した。
調製したドープ溶液をポリスチレン(PS)製のペトリ皿に0.63gキャストし、60℃、550hPaの状態で7日間静置させることで乾燥を行った。乾燥後は、アセトン、メタノール混合溶液(比率7:3)にペトリ皿ごと30分間浸漬させた。その後、ペトリ皿からフィルムを剥がし取り、メタノール溶液に30分浸漬させてから自然乾燥を行うことによって、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.2質量%)を作製した。
【0089】
【0090】
熱安定性の評価は、以下のように行った。試料を収容するチャンバーに上記フィルムを設置し、このチャンバーを装置にセットした。その後、乾燥空気を流速100mL/minで流通し、200℃に保持して化学発光強度の経時変化をケミルミネッセンスアナライザー(東北電子産業株式会社製CLA-ID2-HS)で検出した。安定化剤を添加していないフィルムの化学発光強度が最大値に達するまでの時間をT0、安定化剤含有フィルムの化学発光強度が最大値に達するまでの時間をT1とした他は、上記2-1.と同様の方法で、Extention of Time at Imax[%]を算出した。その結果を以下の表6に示す。
【0091】
【0092】
3-2.タンパク質組成物2(フィルム)の製造
表5に示した安定化剤の内、以下の表7に示す組み合わせで安定化剤を使用した。2種類の安定化剤をそれぞれ1.4質量%の濃度でエタノールに溶解させた以外は、上記3-1.と同様にして、ドープ溶液(安定化剤量:2.24mg)を調製し、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
比較のために、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートを単独で安定化剤として使用し、2.8質量%の濃度でエタノールに溶解させた以外は、上記3-1.と同様にして、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
【0093】
【0094】
熱安定性の評価は上記3-1.と同様の手順で行い、Extention of Time at Imax[%]を算出した。その結果を以下の表8に示す。
【0095】
【0096】
表8に示すとおり、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートを単独で使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムよりも、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートと2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトの2種類の安定化剤を使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムの方が、より高い熱安定性を示した。
【0097】
3-3.タンパク質組成物2(フィルム)の製造
以下の表9に示す組み合わせで安定化剤を使用した以外は、上記3-2.と同様にして、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
比較のために、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールを単独で安定化剤として使用した以外は、上記3-2.と同様にして、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
【0098】
【0099】
熱安定性の評価は上記3-1.と同様の手順で行い、Extention of Time at Imax[%]を算出した。その結果を以下の表10に示す。
【0100】
【0101】
表10に示すとおり、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールを単独で使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムよりも、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールとチオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]の2種類の安定化剤を使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムの方が、より高い熱安定性を示した。
【0102】
3-4.タンパク質組成物2(フィルム)の製造
以下の表11に示す組み合わせで安定化剤を使用した以外は、上記3-2.と同様にして、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
比較のために、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))を単独で安定化剤として使用した以外は、上記3-2.と同様にして、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
【0103】
【0104】
熱安定性の評価は上記3-1.と同様の手順で行い、Extention of Time at Imax[%]を算出した。その結果を以下の表12に示す。
【0105】
【0106】
表12に示すとおり、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))を単独で使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムよりも、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))と2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイトの2種類の安定化剤を使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムの方が、より高い熱安定性を示した。
【0107】
3-5.タンパク質組成物2(フィルム)の製造
以下の表13に示す組み合わせで安定化剤を使用した以外は、上記3-2.と同様にして厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
比較のために、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]])を単独で安定化剤として使用した以外は、上記3-2.と同様にして、厚み120μmの安定化剤含有人工クモ糸フィルム(乾燥物全量に対する安定化剤含有率:0.4質量%)を作製した。
【0108】
【0109】
熱安定性の評価は上記3-1.と同様の手順で行い、Extention of Time at Imax[%]を算出した。その結果を以下の表14に示す。
【0110】
【0111】
表14に示すとおり、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]])を単独で使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムよりも、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]])と、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル) 2-エチルヘキシルホスファイト又はチオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]-ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]のいずれか一種の2種類の安定化剤を使用して作製した安定化剤含有人工クモ糸フィルムの方が、より高い熱安定性を示した。
【0112】
4-1.タンパク質組成物1(モールド成形体)の製造
上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)9.98gをバイアル瓶に導入した。安定化剤としてプロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートを1mg/mLの濃度でエタノールに溶解させ、その安定化剤溶液を20mLバイアル瓶に導入した(安定化剤量:20mg)。そして、バイアル瓶に封をして室温で超音波攪拌を60分行った。さらに60時間撹拌を行った後、40℃で4時間減圧乾燥を行い、溶媒を揮発させることで安定化剤含有粉末(乾燥物全量に対する安定化剤含有量率:0.2質量%)を調製した。
安定化剤含有粉末をミル(IWATANI社製、IFM-80)にて粉砕して粒子径を調節した後、粒子径調節後の安定化剤含有粉末(以下「タンパク質組成物」という。)を1.35g量り取り、このタンパク質組成物を
図1に示す加圧成形機10の金型2(円柱形状の金型であり、断面が35mm×15mmの長方形状の貫通孔を有している。)の貫通孔内に導入した。この際、厚みが均等になるようにタンパク質組成物を加えていった。全てのタンパク質組成物を導入した後、金型2の加熱を開始するとともに、ハンドプレス機(NPaシステム株式会社製、NT-100H-V09)を用いて、上側ピン4と下側ピン6を貫通孔内に挿入することでタンパク質組成物の加圧を行った。この際、タンパク質組成物の加圧条件が40kNとなるように制御した。タンパク質組成物の温度が200℃になったところで加熱を中止し、自然放冷して、タンパク質組成物の温度が50℃になったところで取り出し、バリ取りを行った後、35mm×15mm×2mmの直方体形状の安定化剤含有モールド成形体を得た(乾燥物全量に対する安定化剤含有量率:0.2質量%)。
【0113】
また、上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)9.95gをバイアル瓶に導入した。安定化剤としてプロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートを2.5mg/mLの濃度でエタノールに溶解させ、その安定化剤溶液を20mLバイアル瓶に導入した(安定化剤量:50mg)。その他は、上記と同様の手順で35mm×15mm×2mmの直方体形状の安定化剤含有モールド成形体を得た(乾燥物全量に対する安定化剤含有量率:0.5質量%)。
【0114】
比較のため、上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)10gをバイアル瓶に導入し、その後エタノール20mLを導入した(安定化剤の添加なし)。その他は、上記と同様の手順で35mm×15mm×2mmの直方体形状のモールド成形体を得た。
【0115】
熱安定性に関し、曲げ試験を行い成形体の強度評価を行った。すなわち、得られたモールド成形体を恒温恒湿槽(espec社製、LHL-113)で20℃/65%RHの条件下で1日静置した後、オートグラフ(島津製作所株式会社製、AG-Xplus)にて籠治具を用いて、三点曲げ試験を行った。使用したロードセルは50kNであった。この際、三点曲げの支点間距離を27mmに固定し、測定速度を1mm/分とした。また、モールド成形体のサイズをマイクロノギスで測定し、治具に設置し試験を行った。その結果を以下の表15に示す。
【0116】
【0117】
4-2.タンパク質組成物1(モールド成形体)の製造
上記4-1.と同様にして調製した安定化剤含有粉末(以下「タンパク質組成物」という。)を1.35g量り取り、金型2(
図1)の貫通孔内に導入した(乾燥物全量に対する安定化剤含有量率:0.2質量%)。タンパク質組成物の加熱を、タンパク質組成物の温度が130℃に達したところで5分間ホールドした後で、加熱を中止した他は、上記4-1.と同様の手順で安定化剤含有モールド成形体を得た(乾燥物全量に対する安定化剤含有量率:0.2質量%)。
比較のため、上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末10g(PRT410)をバイアル瓶に導入し、その後エタノール20mLを導入した。その他は、上記4-1.と同様にしてモールド成形体を得た(安定化剤の添加なし)。
【0118】
熱安定性に関し、上記4-1.と同様にして曲げ試験を行い成形体の強度評価を行った。その結果を以下の表16に示す。
【0119】
【0120】
表16に示されるとおり、安定化剤を添加せずに作製したモールド成形体に比べて、プロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートを添加して作製した安定化剤含有モールド成形体の方が、より高い熱安定性を示した。
【0121】
4-3.タンパク質組成物1(モールド成形体)の製造
安定化剤として6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールを1mg/mLの濃度でエタノールに溶解させ、その安定化剤溶液を30mLバイアル瓶に導入した(安定化剤量:30mg)。上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)9.97gをバイアル瓶に導入した。バイアル瓶に封をして室温で市販のマグネチックスターラーを用いて攪拌を一晩行った。分散液を蓋のない容器に移し替え、3日間ドラフト内に静置してエタノールを揮発除去した後、さらに35℃で数時間減圧乾燥を行い、安定化剤含有粉末(粉末状タンパク質組成物)を調製した(以下「タンパク質組成物」という)。タンパク質組成物を1.35g量り取り、金型2(
図1)の貫通孔内に導入した。タンパク質組成物の加熱を、タンパク質組成物の温度が190℃に達したところで5分間ホールドした後に、加熱を中止した。その他は、上記4-1.と同様にして、35mm×15mm×2mmの直方体形状の安定化剤含有モールド成形体を得た(乾燥物全量に対する安定化剤含有量率:0.3質量%)。
比較のために、上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)10gをバイアル瓶に導入し、その後エタノール30mLを導入した。その他は、上記4-1.と同様にして35mm×15mm×2mmの直方体形状のモールド成形体を得た(安定化剤の添加なし)。
【0122】
熱安定性に関し、上記4-1.と同様に曲げ試験を行い成形体の強度評価を行った。その結果を以下の表17に示す。
【0123】
【0124】
表17に示されるとおり、安定化剤を添加せずに作製したモールド成形体に比べて、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾールを添加して作製した安定化剤含有モールド成形体の方が、より高い熱安定性を示した。
【0125】
5.タンパク質組成物2(繊維)の製造
<ドープ溶液の調製>
溶媒として、LiClを濃度4質量%で溶解させたジメチルスルホキシド(LiCl/DMSO)を調製した。上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)の乾燥粉末を3.5g秤量し、バイアル瓶に導入した。濃度24質量%となるようにLiCl/DMSO溶媒を添加し、メカニカルスターラーを使用して撹拌させながら、90℃に加熱して溶解させ、60℃まで放冷してタンパク質溶液を調製した。
2-プロパノールを別のバイアル瓶に導入し、安定化剤としてプロピル 3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートを添加して溶解させ、安定化剤溶液を調製した。調製した安定化剤溶液を、上記タンパク質溶液に添加した。メカニカルスターラーを使用して混合溶液を撹拌させながら、90℃に加熱して溶解させ、安定化剤含有ドープ溶液を調製した。安定化剤含有ドープ溶液の安定化剤含有率は、それぞれ0.2質量%、0.5質量%、1.0質量%、4.0質量%とした。
比較のため、安定化剤を含まないドープ溶液を調製した。上記精製工程で得られた人工クモ糸タンパク質粉末(PRT410)の乾燥粉末を3.5g秤量し、バイアル瓶に導入した。濃度24質量%となるように上記のLiCl/DMSO溶媒を添加し、上記と同様にしてドープ溶液を調製した(安定化剤添加なし)。
【0126】
<紡糸>
得られた安定化剤含有ドープ溶液を、公知の紡糸装置を用いて、下記の条件で乾湿式紡糸を行い、形成された繊維を乾燥してから巻き取ることにより、タンパク質組成物2(繊維)を作製した。乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
凝固液:メタノール
総延伸倍率:5倍
乾燥温度:60℃
【0127】
<熱安定性の評価>
熱安定性の評価は、以下のように行った。試料を収容するチャンバーに上記安定化剤含有タンパク質繊維を設置し、このチャンバーを装置にセットした。その後、乾燥空気を流速100mL/minで流通し、190℃に保持して化学発光強度の経時変化をケミルミネッセンスアナライザー(東北電子産業株式会社製CLA-ID2-HS)で検出した。安定化剤を添加していないタンパク質繊維の化学発光強度が最大値に達するまでの時間をT0、安定化剤含有タンパク質繊維の化学発光強度が最大値に達するまでの時間をT1として、次式よりExtention of Time at Imaxを算出した。
(T1-T0)/T0×100 [%]
その結果を以下の表18に示す。
【0128】
【0129】
表18に示すとおり、安定化剤含有率0.5質量%の安定化剤含有ドープ溶液を用いての作製した安定化剤含有タンパク質繊維において、最も高い熱安定性を示した。
【符号の説明】
【0130】
2…金型、4…上側ピン、6…下側ピン、8a…加熱加圧前のタンパク質組成物、8b…加熱加圧後のタンパク質組成物、10…加圧成形機。
【配列表】