(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】工作機械の送り装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 5/40 20060101AFI20220729BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20220729BHJP
B23Q 1/01 20060101ALI20220729BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
B23Q5/40 B
B23Q11/00 A
B23Q1/01 W
F16H25/22 Z
(21)【出願番号】P 2019007016
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174942
【氏名又は名称】平方 伸治
(72)【発明者】
【氏名】高野 和雅
(72)【発明者】
【氏名】梶川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】磯▲崎▼ 泰佑
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】木崎 通
(72)【発明者】
【氏名】柏原 翔一
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-297287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0074946(US,A1)
【文献】特開2017-106622(JP,A)
【文献】特開平09-201002(JP,A)
【文献】特開2014-020435(JP,A)
【文献】実開平04-118758(JP,U)
【文献】特開2013-022674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 5/40
B23Q 11/00
B23Q 1/01
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材に対して移動体が案内、送り駆動される工作機械の送り装置において、
前記ベース部材と前記移動体との間に配置され、前記ベース部材に対する前記移動体の移動を案内する直動転がりガイドと、
前記ベース部材に対して前記移動体を駆動するボールねじ機構であって、
ねじ軸と、
前記ねじ軸に沿って移動するナットと、
前記ベース部材に対して固定され且つ前記ねじ軸を支持するねじ軸ホルダと、
を有する、ボールねじ機構と、
を備え、
前記ねじ軸ホルダと前記ベース部材との間に
第1のCFRP材が挟まれる、工作機械の送り装置。
【請求項2】
前記直動転がりガイド
は、前記ベース部材
又は前記移動体の一方に固定されたレールと、他方に固定され前記レールに沿って相対移動するキャリッジと、を有し、
前記レール又は前記キャリッジの内、前記ベース部材に固定される一方と
前記ベース部材との間に
第2のCFRP材が挟まれる、請求項1に記載の工作機械の送り装置。
【請求項3】
前記ねじ軸ホルダは、前記ねじ軸に沿って離間して配置された第1及び第2の軸受ブラケットユニットを含み、
前記第1のCFRP材は、前記第1及び第2の軸受ブラケットユニットを含む範囲に敷き詰められている、請求項1に記載の工作機械の送り装置。
【請求項4】
少なくとも前記
第1のCFRP材
又は前記第2のCFRP材の一方は、各々が所定の方向に沿ったカーボン繊維を含有する複数の層を含み、前記複数の層は、前記カーボン繊維の配向が前記移動体の移動方向に対して±45°となるように積層されている、請求項
2に記載の工作機械の送り装置。
【請求項5】
前記ベース部材が、アルミニウム合金製である、請求項1に記載の工作機械の送り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、工作機械の送り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の分野では、振動を低減するための様々な構造が提案されている。例えば、特許文献1は、工作機械として光走査型レーザ加工機を開示している。この工作機械は、ベッドと、ベッド上を移動するクロスビームと、クロスビーム上を移動するサドルと、サドルによって支持される加工ヘッドと、を備えている。この工作機械では、クロスビームに全体的にCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)が用いられている。このような構成によって、軽重量及び高剛性を達成しつつ、振動を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、工作機械では、様々な振動が発生する。これらは、例えば、(1)回転する主軸のアンバランスによるもの、(2)断続的な切削力によるもの、(3)再生びびりによるもの、及び、(4)移動体が移動を開始又は停止するときにベース部材に作用する反力によるもの、等の振動を含む。(1)主軸のアンバランスによる振動では、主に、主軸が振動する。また、(2)断続的な切削力による振動では、主に、主軸及びテーブルが振動する。また、(3)再生びびりによる振動では、主に、工具が振動する。これら主軸、テーブル及び工具は、比較的重量が軽く、且つ、工作機械の末端に位置する。したがって、これらの構成要素の振動は、ベッド、コラム及びサドル等の比較的重量が重く且つ工作機械のより下方に位置する、ベース部材の低い周波数での大きな変位の振動を引き起しにくい。これに対して、(4)移動体の動作に起因してベース部材に作用する反力による振動は、その反力が転がりガイド及びボールねじを介してベース部材に対して直接的に作用し、ベース部材の低い周波数での大きな変位の振動を引き起しやすい。近年は、高速加工が頻繁に行われ、移動体は高加速度及び高減速度で移動される。したがって、このような移動体の動作に起因する反力によって、ベース部材が加振され、ワークの加工面品位が悪化する場合がある。このような問題に対処するには、ベース部材を重くして剛性を増すことが考えられる。しかしながら、これは工作機械全体の重量の増加につながり、好ましくない。また、特許文献1の工作機械のように、クロスビーム等の移動体に全体的にCFRPを用いることも考えられる。しかしながら、CFRPでは繊維の方向以外の方向の剛性は比較的低いため、移動体に全体的にCFRPを用いることは、静剛性の低下につながり得る。
【0005】
本発明は、静剛性が高く、且つ、移動体が移動を開始又は停止するときの反力によるベース部材の振動変位を低減することができる、工作機械の送り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、ベース部材に対して移動体が案内、送り駆動される工作機械の送り装置において、ベース部材と移動体との間に配置され、ベース部材に対する移動体の移動を案内する直動転がりガイドと、ベース部材に対して移動体を駆動するボールねじ機構であって、ねじ軸と、ねじ軸に沿って移動するナットと、ベース部材に対して固定され且つねじ軸を支持するねじ軸ホルダと、を有する、ボールねじ機構と、を備え、ねじ軸ホルダとベース部材との間に第1のCFRP材が挟まれる、工作機械の送り装置である。
【0007】
本開示の一態様に係る工作機械の送り装置では、ボールねじ機構のねじ軸ホルダとベース部材との間にCFRP材が挟まれる。本発明者は、当該箇所に第1のCFRP材を挟むことによって、ベース部材又は移動体の材質を変更することなく、移動体が移動を開始又は停止するときの反力によるベース部材の振動変位を低減することができることを見出した。したがって、高い静剛性を維持しつつ、上記のようなベース部材の振動変位を低減することができる。
【0008】
前記直動転がりガイドは、前記ベース部材又は前記移動体の一方に固定されたレールと、他方に固定され前記レールに沿って相対移動するキャリッジと、を有し、前記レール又は前記キャリッジの内、前記ベース部材に固定される一方と前記ベース部材との間に第2のCFRP材が挟まれてもよい。
【0009】
ねじ軸ホルダは、ねじ軸に沿って離間して配置された第1及び第2の軸受ブラケットユニットを含んでもよく、CFRP材は、第1及び第2の軸受ブラケットユニットを含む範囲に敷き詰められてもよい。この場合、第1及び第2の軸受ブラケットユニットの間に隙間なくCFRP材が敷き詰められるため、ベース部材の振動変位がさらに低減され得る。
【0010】
CFRP材は、各々が所定の方向に沿ったカーボン繊維を含有する複数の層を含んでもよく、複数の層は、カーボン繊維の配向が移動体の移動方向に対して±45°となるように積層されていてもよい。この場合、移動体の移動方向を含む平面内の全方向に対して、CFRP材が高い剛性を有する。
【0011】
ベース部材が、アルミニウム合金製であってもよい。この場合、ベース部材を軽量化することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、静剛性が高く、且つ、移動体が移動を開始又は停止するときの反力によるベース部材の振動変位を低減することができる、工作機械の送り装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る送り装置を具備する工作機械を示す正面図である。
【
図8】(a)はアルミニウム合金の振動減衰挙動を示すグラフである。(b)はCFRPの振動減衰挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工作機械の送り装置を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺は変更されている場合がある。
【0015】
図1は、一実施形態に係る送り装置を具備する工作機械を示す正面図である。また、
図2及び
図3は、それぞれ、
図1の工作機械を示す平面図及び側面図である。
図1を参照して、工作機械100は、例えば、立形マシニングセンタであることができる。工作機械100は、他の加工機であってもよい。工作機械100は、ベッド1と、スライダ2と、サドル3と、ラム4と、主軸頭5と、主軸6と、テーブル7と、を備えている。工作機械100は、他の構成要素を更に有していてもよい。
【0016】
本実施形態では、主軸6は、鉛直な軸線Os周りに回転する。工作機械100では、軸線Osに沿った方向がZ軸方向(上下方向とも称され得る)である。また、
図2を参照して、工作機械100では、水平方向のうち、スライダ2、サドル3、ラム4及び主軸頭5が配列されている方向が、Y軸方向(前後方向とも称され得る)である。スライダ2に対してサドル3、ラム4及び主軸頭5が在る側が前側であり、その反対の側が後側である。さらに、工作機械100では、水平方向のうち、Y軸方向と垂直な方向が、X軸方向(左右方向とも称され得る)である。
【0017】
図1を参照して、ベッド1は、土台11と、本体部12と、を有する。土台11は、工場の床面等の基礎上に配置されている。本体部12は、土台11の上方に設けられている。本体部12は、一対の側壁12aと、一対の側壁12aの上部に架け渡された天井壁12bと、を有している。一対の側壁12aは、X軸方向において互いに対向するように配置されている。天井壁12bは、一対の側壁12aの上部を連結している。
【0018】
図2を参照して、スライダ2は、ベッド1の一対の側壁12aの上面に跨っている。本実施形態では、スライダ2は、軽量化のために、アルミニウム合金によって形成されている。スライダ2は、送り装置FS1によって、ベッド1上をY軸方向に沿って駆動される。すなわち、ベッド1及びスライダ2の間の関係においては、スライダ2が、所定の方向(Y軸方向)に移動する「移動体」としての役割を果たし、ベッド1が、移動体を支持する「ベース部材」としての役割を果たす。送り装置FS1は、1つ又は複数(本実施形態では一対)の直動転がりガイドL1と、ボールねじ機構BS1と、モータM1と、を有している。
【0019】
図3を参照して、直動転がりガイドL1は、ベッド1とスライダ2との間に配置されており、ベッド1に対するスライダ2の移動を案内する。直動転がりガイドL1の各々は、レールR1と、1つ又は複数(本実施形態では一対)のキャリッジC1と、を含んでいる。送り装置FS1では、レールR1が、「ベース部材」であるベッド1の上面に対して固定され、キャリッジC1が、「移動体」であるスライダ2の底面に対して固定されている。
【0020】
図2を参照して、ボールねじ機構BS1は、ベッド1に対してスライダ2を駆動する。ボールねじ機構BS1は、ねじ軸S1と、ナットN1と、ねじ軸ホルダB1と、を含んでいる。ねじ軸S1は、その中心軸線がY軸方向に沿うように配置されている。ねじ軸ホルダB1は、ねじ軸S1に沿って離間して配置された第1及び第2の軸受ブラケットユニットB1aを含んでいる(図では、一方の軸受ブラケットユニットB1aのみ図示)。各軸受ブラケットユニットB1aは、1つ又は複数の転がり軸受と、当該転がり軸受を支持するブラケットと、を含んでいる。第1及び第2の軸受ブラケットユニットB1aは、例えば、ねじ軸S1の両端を支持することができる。ねじ軸ホルダB1は、ベッド1の天井壁12bに対して固定されている。なお、他の実施形態では、ねじ軸ホルダB1は、1つのみの軸受ブラケットユニットB1aを含んでもよい(例えば、ねじ軸S1が片持ちで支持されてもよい)。
【0021】
ナットN1は、ねじ軸S1に沿って移動する。ナットN1は、スライダ2の底面に対して固定されている。モータM1は、ねじ軸S1の一方の端部に連結されている。ナットN1及びスライダ2は、モータM1によってねじ軸S1が回転されるにつれて、Y軸方向に沿って移動する。スライダ2のY軸方向の送りは、NC装置(不図示)によって制御される。
【0022】
サドル3は、スライダ2の前面に取り付けられている。サドル3は、送り装置FS2によって、スライダ2上をX軸方向に沿って駆動される。すなわち、スライダ2及びサドル3の間の関係においては、スライダ2が、「ベース部材」としての役割を果たし、サドル3が、「移動体」としての役割を果たす。送り装置FS2は、1つ又は複数(本実施形態では一対)の直動転がりガイドL2と、ボールねじ機構BS2と、モータM2と、を有している。
【0023】
直動転がりガイドL2は、スライダ2とサドル3との間に配置されており、スライダ2に対するサドル3の移動を案内する。直動転がりガイドL2の各々は、レールR2と、1つ又は複数(本実施形態では一対)のキャリッジC2と、を含んでいる。送り装置FS2では、レールR2が、「ベース部材」であるスライダ2の前面に対して固定されており、キャリッジC2が、「移動体」であるサドル3の後面に対して固定されている。
【0024】
ボールねじ機構BS2は、スライダ2に対してサドル3を駆動する。ボールねじ機構BS2は、ねじ軸S2と、ナットN2と、ねじ軸ホルダB2と、を含んでいる。ねじ軸S2は、X軸方向に沿うように配置されている。ねじ軸ホルダB2は、ねじ軸S2に沿って離間して配置された第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aを含んでいる(
図5参照)。各軸受ブラケットユニットB2aは、1つ又は複数の転がり軸受と、当該転がり軸受を支持するブラケットと、を含んでいる。第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aは、例えば、ねじ軸S2の両端を支持することができる。ねじ軸ホルダB2は、スライダ2の前面に対して固定されている。他の実施形態では、ねじ軸ホルダB2は、1つのみの軸受ブラケットユニットB2aを含んでもよい(例えば、ねじ軸S2が片持ちで支持されてもよい)。
【0025】
図2を参照して、ナットN2は、ねじ軸S2に沿って移動する。ナットN2は、サドル3の後面に対して固定されている。モータM2は、ねじ軸S2の一方の端部に連結されている。ナットN2及びサドル3は、モータM2によってねじ軸S2が回転されるにつれて、X軸方向に沿って移動する。サドル3のX軸方向の送りは、NC装置によって制御される。
【0026】
図3を参照して、ラム4は、サドル3の前面に取り付けられている。ラム4は、送り装置FS3によって、サドル3上をZ軸方向に沿って駆動される。すなわち、サドル3及びラム4の間の関係においては、サドル3が、「ベース部材」としての役割を果たし、ラム4が、「移動体」としての役割を果たす。送り装置FS3は、1つ又は複数(本実施形態では一対)の直動転がりガイドL3と、ボールねじ機構BS3と、モータM3と、を有している。
【0027】
直動転がりガイドL3は、サドル3とラム4との間に配置されており、サドル3に対するラム4の移動を案内する。直動転がりガイドL3の各々は、レールR3と、1つ又は複数(本実施形態では一対)のキャリッジC3と、を含んでいる。上記の送り装置FS1,FS2では、レールR1,R2が「ベース部材」に対して固定され、キャリッジC1,C2が「移動体」に対して固定されている一方で、送り装置FS3では、レールR3が「移動体」であるラム4の後面に対して固定されており、キャリッジC3が「ベース部材」であるサドル3の前面に対して固定されている。
【0028】
ボールねじ機構BS3は、サドル3に対してラム4を駆動する。ボールねじ機構BS3は、Z軸方向に沿うように配置されたねじ軸(不図示)と、ラム4に対して固定されたナット(不図示)と、ねじ軸ホルダB3と、を含むことができる。ねじ軸ホルダB3は、ねじ軸に沿って離間して配置された第1及び第2の軸受ブラケットユニットB3aを含んでいる(図では、一方の軸受ブラケットユニットB3aのみ図示)。各軸受ブラケットユニットB3aは、1つ又は複数の転がり軸受と、当該転がり軸受を支持するブラケットと、を含んでいる。第1及び第2の軸受ブラケットユニットB3aは、例えば、ねじ軸の両端を支持することができる。ねじ軸ホルダB3は、サドル3の前面に対して固定されている。他の実施形態では、ねじ軸ホルダB3は、1つのみの軸受ブラケットユニットB3aを含んでもよい(例えば、ねじ軸が片持ちで支持されてもよい)。モータM3は、ねじ軸の一方の端部に連結されている。
【0029】
ボールねじ機構BS3のナットは、上記のボールねじ機構BS1,BS2のナットN1,N2と同様に構成されることができ、これによって、ナット及びラム4が、モータM3によってねじ軸が回転されるにつれて、Z軸方向に沿って移動することができる。ラム4のZ軸方向の送りは、NC装置によって制御される。
【0030】
次に、上記の工作機械100のうち、スライダ2とサドル3との間の送り装置FS2について詳細に説明する。
【0031】
図4及び
図5は、それぞれ、送り装置FS2を示す拡大側面図及び拡大正面図である。なお、
図4及び
図5では、理解し易いように、いくつかの構成要素(例えば、サドル3及びナットN2等)が省略されていることに留意されたい。
図5に示されるように、送り装置FS2では、ねじ軸ホルダB2と、スライダ2との間に、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)材50が挟まれている。
【0032】
CFRP材50は、第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aを含む範囲に敷き詰められている。具体的には、
図5では、CFRP材50は、1枚の板であり、スライダ2の前面の略全体を覆うことができるサイズを有している。これによって、第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aの間には、隙間なくCFRP材50が敷き詰められている。代替的に、
図5のCFRP材50は、複数の板に分割されていてもよい。さらに代替的に、
図6に示されるように、CFRP材50は、第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aのそれぞれの直下にのみ配置されてもよい。この場合、第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aの間には、CFRP材が配置されていないスペースが存在する。
【0033】
図5を参照して、CFRP材50は、複数の層を含んでいる。各層は、所定の方向に沿ったカーボン繊維を含有している。具体的には、複数の層は、カーボン繊維の配向51がサドル3の移動方向(X軸方向)に対して±45°となるように、積層されている。CFRP材50は、例えば、複数のボルト52によって、スライダ2に対して固定されることができる。ねじ軸ホルダB2は、複数のボルト53によって、CFRP材50と共にスライダ2に対して固定されることができる。スライダ2とCFRP材50との間、及び、CFRP材50とねじ軸ホルダB2との間には、接着剤がさらに使用されてもよい。CFRP材50の各種仕様(例えば、厚さ、ヤング率等の弾性率、引張強さ等の強度、マトリクス樹脂の種類、炭素繊維の種類、及び、炭素繊維含有量等)は、例えばCFRP材50にかかる荷重等の様々な要因を考慮して適宜決定され得る。これらの仕様は、例えば機械の送り軸設計仕様に合わせて静剛性を下げ過ぎない厚さ(例えば、1~5mm)、特定方向の減衰性の高い配向(例えば0°、90°)、ヤング率の高い熱硬化性樹脂とすることができる。
【0034】
図4を参照して、送り装置FS2では、直動転がりガイドL2とスライダ2との間にも、CFRP材60が挟まれている。具体的には、送り装置FS2では、レールR2とスライダ2との間に、CFRP材60が挟まれている。CFRP材60は、例えば、一枚の板であることができ、レールR2の略全長に亘るサイズを有することができる。代替的に、CFRP材60は、複数の板に分割されていてもよい。CFRP材60は、上記のCFRP材50と同様に、複数の層を含んでおり、これら複数の層は、CFRP材60のカーボン繊維の配向がサドル3の移動方向(X軸方向)に対して±45°となるように、積層されている。
【0035】
図5を参照して、レールR2は、例えば、複数のボルト54によって、CFRP材60(
図5において不図示)と共にスライダ2に対して固定されることができる。スライダ2とCFRP材60との間、及び、CFRP材60とレールR2との間には、接着剤がさらに使用されてもよい。CFRP材60の各種仕様は、例えば、CFRP材60にかかる荷重等の様々な要因を考慮して適宜決定され得、例えば、CFRP材50と同様であることができる。
【0036】
次に、サドル3が移動を開始又は停止するときにスライダ2に作用する反力について説明する。
【0037】
図6は、
図5中のVI-VI矢視断面図である。なお、
図6では、理解し易いように、いくつかの構成要素(例えば、モータM2等)が省略されていることに留意されたい。
図6は、サドル3が右側への移動を停止するときの状態を示している。この状態では、慣性によりサドル3には、サドル3を時計回りに回転させるようにモーメントが作用する。したがって、右側のキャリッジC2には、下向きの力F1が作用し、スライダ2には、逆向きの反力RF1が作用する。また、左側のキャリッジC2には、上向きの力F2が作用し、スライダ2には、逆向きの反力RF2が作用する。第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aには、それぞれ、サドル3からナットN2及びねじ軸S2を介して慣性力F3,F4が作用し、スライダ2には、逆向きの反力RF3,RF4が作用する。以上のような反力RF1,RF2,RF3,RF4は、スライダ2の振動を発生し得る。特に、反力RF3,RF4は、ボールねじ機構BS2を介してスライダ2に対してX軸方向に直接的に作用し、スライダ2の低い周波数での大きな変位の振動を引き起しやすい。なお、サドル3が右側への移動を開始するときの状態では、スライダ2に上記の反力RF1,RF2,RF3,RF4と逆向きの反力が作用することが理解可能であろう。
【0038】
上記のように、以上のような反力は、サドル3がX軸方向の移動を開始又は停止するときに、スライダ2に作用する。このような反力に起因するスライダ2の振動は、主軸6に取り付けられた工具がワークと接触していない早送りや空切削の場合には、ワークの加工面品位に影響しない。しかしながら、いくつかの加工においては、主軸6に取り付けられた工具がワークと接触しているときに、サドル3がX軸方向の移動を開始又は停止する場合がある(例えば、エンドミルによるX軸及びY軸方向の移動を含むコーナー加工、並びに、ボールエンドミルによるX軸及びZ軸方向の移動を含み、Y軸方向のピックフィードを繰り返すスキャン加工等)。このような場合、反力に起因するスライダ2の振動は、ワークの加工面品位に影響し得る。
【0039】
本発明者は、このような問題に対処するために、ねじ軸ホルダB2とスライダ2との間にCFRP材50が挿入され、且つ、レールR2とスライダ2との間にCFRP材60が挿入されている場合、上記のような反力RF1,RF2,RF3,RF4によるスライダ2の振動がCFRP材50,60によって低減可能であることを見出した。
【0040】
具体的には、本発明者は、上記のような工作機械100において、
図6に示されるようにサドル3のX軸方向の移動を停止させた場合、工作機械100は、その構造全体がX軸方向に低周波数(一例では、約30Hz)で振動するモードを有することを見出した。このモードについて調べるために、工作機械100において、加振試験を行った。具体的には、主軸6に取り付けられた工具に加速度センサを設置し、工具の先端をX軸方向に加振した。試験は、CFRP材50,60が設けられている条件と、CFRP材50,60が設けられていない条件と、について実施された。
【0041】
図7は、実験結果の一例を示すグラフである。横軸は周波数を示し、縦軸は振幅を示している。
図7に示されるように、CFRP材50,60が設けられている条件Cn1及びCFRP材50,60が設けられていない条件Cn2の各々が、約30Hzに大きなピークを有することがわかる。
図7に示されるように、条件Cn1のピークは、CFRP材50,60の存在によって、条件Cn2のピークから低減されていることがわかる。この結果からも、CFRP材50,60によって、問題としている振動変位を低減可能であることがわかる。尚、主軸6とテーブル7との間にX軸、Y軸及びZ軸方向の静荷重を与えて、主軸6の変位を測定した結果、CFRP材50,60の有無による差は認められず、共に静剛性に問題のないことが確認できている。
【0042】
以上のように、実施形態に係る工作機械100の送り装置FS2では、ボールねじ機構BS2のねじ軸ホルダB2と、スライダ2との間に、CFRP材50が挟まれている。上記のように、本発明者は、当該箇所にCFRP材50を挟むことによって、スライダ2又はサドル3の材質を変更することなく、サドル3がX軸方向の移動を開始又は停止するときの反力RF1,RF2,RF3,RF4によるスライダ2の振動変位を低減可能であることを見出した。したがって、高い静剛性を維持しつつ、スライダ2の振動変位を低減することができる。
【0043】
また、送り装置FS2では、直動転がりガイドL2のレールR2とスライダ2との間に、CFRP材60が挟まれている。したがって、スライダ2の振動変位がさらに低減され得る。
【0044】
また、送り装置FS2では、ねじ軸ホルダB2は、ねじ軸S2に沿って離間して配置された第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aを含んでおり、
図5の形態では、CFRP材50は、第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aを含む範囲に敷き詰められている。したがって、第1及び第2の軸受ブラケットユニットB2aの間に隙間なくCFRP材が敷き詰められ、スライダ2の振動変位がさらに低減され得る。
【0045】
また、送り装置FS2では、CFRP材50は、各々が所定の方向に沿ったカーボン繊維を含有する複数の層を含んでおり、複数の層は、カーボン繊維の配向51がサドル3の移動方向(X軸方向)に対して±45°となるように、積層されている。したがって、サドル3の移動方向を含むXZ平面内の全方向に対して、CFRP材50が高い剛性を有する。
【0046】
また、送り装置FS2では、スライダ2が、アルミニウム合金製である。したがって、スライダ2、ひいては工作機械100全体を軽量化することができる。従来は、振動を低減するために、ベース部材であるスライダ2を重い鉄鋳物で製作することが一般的であったが、CFRP材50,60を挟むことによって振動が低減でき、ベース部材を重くする必要がなくなった。そして、ヤング率が鉄鋳物よりやや劣るものの、アルミニウム合金等の軽量金属材料を使うことができるようになった。
【0047】
CFRPは、軽量・高剛性な材料であるため、構造体の固有振動数を高くすることができる。アルミニウム合金とCFRPの振動減衰挙動を
図8の(a)と(b)にそれぞれ示す。減衰挙動の周期は固有振動数に依存するため、高い固有振動数を有する材料は、振動減衰性能も高くなる。したがって、CFRP材を挟んだ移動体では、発進、停止時の慣性力による振動が抑制される。
【0048】
工作機械の送り装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解するだろう。また、当業者であれば、1つの実施形態に含まれる特徴は、矛盾が生じない限り、他の実施形態に組み込むことができる、又は、他の実施形態に含まれる特徴と交換可能であることを理解するだろう。
【0049】
例えば、上記の実施形態では、CFRP材50,60が、送り装置FS2にのみ用いられている。しかしながら、他の実施形態では、代替的に又は追加的に、CFRP材が、送り装置FS1及び/又は送り装置FS3に用いられてもよい。
【0050】
具体的には、
図2を参照して、送り装置FS1では、上記のように、スライダ2が、所定の方向(Y軸方向)に移動する「移動体」の役割を果たし、ベッド1が、移動体を支持する「ベース部材」の役割を果たす。CFRP材が送り装置FS1に用いられる場合、ベッド1とねじ軸ホルダB1との間に、CFRP材が挟まれることができる。また、ベッド1とレールR1との間にも、CFRP材が挟まれてもよい。この場合、スライダ2がY軸方向の移動を開始又は停止するときの反力によるベッド1の振動変位を低減可能である。
【0051】
図3を参照して、送り装置FS3では、ラム4が、所定の方向(Z軸方向)に移動する「移動体」の役割を果たし、サドル3が、移動体を支持する「ベース部材」の役割を果たす。CFRP材が送り装置FS3に用いられる場合、サドル3とねじ軸ホルダB3との間に、CFRP材が挟まれることができる。また、サドル3とキャリッジC3との間にも、CFRP材が挟まれてもよい。この場合、ラム4がZ軸方向の移動を開始又は停止するときの反力によるサドル3の振動変位を低減可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ベッド(ベース部材)
2 スライダ(ベース部材、移動体)
3 サドル(ベース部材、移動体)
4 ラム(移動体)
50 CFRP材
51 CFRP材の配向
60 CFRP材
100 工作機械
B1,B2,B3 ねじ軸ホルダ
B1a,B2a,B3a 第1及び第2の軸受ブラケットユニット
BS1,BS2,BS3 ボールねじ機構
C1,C2,C3 キャリッジ
FS1,FS2,FS3 送り装置
L1,L2,L3 直動転がりガイド
N1,N2,N3 ナット
R1,R2,R3 レール
S1,S2 ねじ軸