(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】有機テルル化合物及びその製造方法、リビングラジカル重合開始剤、ビニル重合体の製造方法、並びにビニル重合体
(51)【国際特許分類】
C07C 395/00 20060101AFI20220729BHJP
C08F 4/42 20060101ALI20220729BHJP
C08F 20/28 20060101ALI20220729BHJP
C08F 20/56 20060101ALI20220729BHJP
C08F 26/10 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C07C395/00 CSP
C08F4/42
C08F20/28
C08F20/56
C08F26/10
(21)【出願番号】P 2019514477
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2018016404
(87)【国際公開番号】W WO2018199000
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2017089092
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山子 茂
(72)【発明者】
【氏名】伊東 治
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204529(JP,A)
【文献】特開2008-247919(JP,A)
【文献】KAYAHARA, E. et al.,Optimization of Organotellurium Transfer Agents for Highly Controlled Living Radical Polymerization,Macromolecules,2008年,Vol.41, No.3,pp.527-529
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 395/00
C08F 4/42
C08F 20/28
C08F 20/56
C08F 26/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、有機テルル化合物。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。Aは、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を表す。xは、Aが1価のときx=1であり、Aが2価のときx=1/2を表す。R
3は、下記一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される。
【化2】
(一般式(2)中、R
4は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基を表す。aは、0~10の整数を表す。)
【化3】
(一般式(3)中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。R
9、R
10、R
11及びR
12は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基を表す。R
13は、炭素数1~8のアルキレン基を表す。b及びcは、それぞれ独立に0~10の整数を表す。)
【化4】
(一般式(4)中、R
14、R
15及びR
16は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。R
17、R
18、R
19、R
20、R
21及びR
22は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基を表す。R
23は、炭素数1~8のアルキレン基を表す。d、e及びfは、それぞれ独立に0~10の整数を表す。)]
【請求項2】
請求項1に記載の有機テルル化合物の製造方法であって、
下記一般式(5)で表される化合物と塩基とを反応させる工程(A)と、前記工程(A)により得られた化合物と下記一般式(6)で表される化合物とを反応させる工程(B)と、前記工程(B)により得られた化合物のカルボキシル基における保護基を脱保護する工程(C)と、前記工程(C)により得られたカルボン酸を中和する工程(D)とを備える、有機テルル化合物の製造方法。
【化5】
(一般式(5)中、R
1は、前記一般式(1)におけるR
1と同じである。R
2は、前記一般式(1)におけるR
2と同じである。Y
1は、保護基を表す。)
【化6】
(一般式(6)中、R
3は前記一般式(1)におけるR
3と同じである。Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項3】
請求項1に記載の有機テルル化合物からなる、リビングラジカル重合開始剤。
【請求項4】
請求項1に記載の有機テルル化合物を用いてビニルモノマーをリビングラジカル重合し、ビニル重合体を合成する工程を備える、ビニル重合体の製造方法。
【請求項5】
前記ビニルモノマーが、水溶性ビニルモノマーであることを特徴とする、請求項4に記載のビニル重合体の製造方法。
【請求項6】
水性媒体中において前記リビングラジカル重合することを特徴とする、請求項4又は5に記載のビニル重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機テルル化合物及びその製造方法、該有機テルル化合物を用いたリビングラジカル重合開始剤及びビニル重合体の製造方法、並びに該ビニル重合体の製造方法により得られたビニル重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
リビングラジカル重合法は、従来のラジカル重合法の簡便性と汎用性を保ちながら、分子構造の精密制御及び均一な組成の重合体の製造を可能とする重合法で、新しい高分子材料の製造に大きな威力を発揮する。そのため、近年、リビングラジカル重合技術の発達はめざましく、様々な手法を用いたリビングラジカル重合法が報告されている。その中でも有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法であるTERP(organotellurium-mediated living radical polymerization)法は、様々な種類のビニルモノマーの重合に適用できる汎用性と、通常のラジカル重合と変わらぬ実用的な反応条件で重合体の分子量及び分子量分布を高度に制御できる点で特に注目されている重合法である(特許文献1~4参照)。
【0003】
特許文献1~4で開示されているTERP法は、バルクや有機溶媒等を用いた系で行われており、環境的、工業的な観点から水性媒体での適用が望まれている。そこで、特許文献5では、水性媒体中で、界面活性剤及び/又は分散剤を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2004/014848号パンフレット
【文献】国際公開第2004/014962号パンフレット
【文献】国際公開第2004/072126号パンフレット
【文献】国際公開第2004/096870号パンフレット
【文献】特開2006-225524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~5で開示されている有機テルル化合物は水に難溶性であり、水性媒体中において水溶性のビニルモノマーの重合には適さないという問題がある。また、特許文献5の方法では、得られるポリマーに界面活性剤や分散剤が残留するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、リビングラジカル重合開始剤として用いた場合に、界面活性剤や分散剤を用いずとも水性媒体中においてビニルモノマーの重合に適用できる汎用性を有する、有機テルル化合物及びその製造方法、該有機テルル化合物を用いたリビングラジカル重合開始剤及びビニル重合体の製造方法、並びに該ビニル重合体の製造方法により得られたビニル重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の有機テルル化合物及びその製造方法、リビングラジカル重合開始剤、ビニル重合体の製造方法、並びにビニル重合体を提供する。
【0008】
項1 下記一般式(1)で表される、有機テルル化合物。
【0009】
【0010】
[一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。Aは、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を表す。xは、Aが1価のときx=1であり、Aが2価のときx=1/2を表す。R3は、下記一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される。
【0011】
【0012】
(一般式(2)中、R4は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。R5及びR6は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基を表す。aは、0~10の整数を表す。)
【0013】
【0014】
(一般式(3)中、R7及びR8は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。R9、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基を表す。R13は、炭素数1~8のアルキレン基を表す。b及びcは、それぞれ独立に0~10の整数を表す。)
【0015】
【0016】
(一般式(4)中、R14、R15及びR16は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。R17、R18、R19、R20、R21及びR22は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基を表す。R23は、炭素数1~8のアルキレン基を表す。d、e及びfは、それぞれ独立に0~10の整数を表す。)]
【0017】
項2 項1に記載の有機テルル化合物の製造方法であって、下記一般式(5)で表される化合物と塩基とを反応させる工程(A)と、前記工程(A)により得られた化合物と下記一般式(6)で表される化合物とを反応させる工程(B)と、前記工程(B)により得られた化合物のカルボキシル基における保護基を脱保護する工程(C)と、前記工程(C)により得られたカルボン酸を中和する工程(D)とを備える、有機テルル化合物の製造方法。
【0018】
【0019】
(一般式(5)中、R1は、前記一般式(1)におけるR1と同じである。R2は、前記一般式(1)におけるR2と同じである。Y1は、保護基を表す。)
【0020】
【0021】
(一般式(6)中、R3は前記一般式(1)におけるR3と同じである。Xはハロゲン原子を表す。)
【0022】
項3 項1に記載の有機テルル化合物からなる、リビングラジカル重合開始剤。
【0023】
項4 項1に記載の有機テルル化合物を用いてビニルモノマーをリビングラジカル重合し、ビニル重合体を合成する工程を備える、ビニル重合体の製造方法。
【0024】
項5 前記ビニルモノマーが、水溶性ビニルモノマーであることを特徴とする、項4に記載のビニル重合体の製造方法。
【0025】
項6 水性媒体中において前記リビングラジカル重合することを特徴とする、項4又は5に記載のビニル重合体の製造方法。
【0026】
項7 項4~6のいずれか一項に記載の製造方法により得られた、ビニル重合体。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、リビングラジカル重合開始剤として用いた場合に、界面活性剤や分散剤を用いずとも水性媒体中においてビニルモノマーの重合に適用できる汎用性を有する、有機テルル化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は以下の実施形態に何ら限定されない。
【0029】
<有機テルル化合物>
本発明の有機テルル化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0030】
【0031】
上記一般式(1)中、R1及びR2で表される基は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基であり、具体的には次の通りである。
【0032】
R1及びR2で表される炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0033】
上記一般式(1)中、Aはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を表す。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フラシンムが挙げられ、好ましくはナトリウム、カリウムである。アルカリ土類金属原子としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが挙げられ、好ましくはマグネシウム、カルシウムである。
【0034】
上記一般式(1)中、xは、Aが1価のときx=1であり、Aが2価のときx=1/2である。
【0035】
上記一般式(1)中、R3は、下記一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される基であり、好ましくは一般式(2)で表される基である。
【0036】
【0037】
上記一般式(2)中、R4で表される基は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~8のアルキル基であり、具体的には次の通りである。
【0038】
R4で表される炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0039】
上記一般式(2)中、R5及びR6で表される基は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基であり、具体的には次の通りである。
【0040】
R5及びR6で表される炭素数2~8のアルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチルレン基等の直鎖又は分岐鎖アルキレン基等を挙げることができる。好ましくは炭素数2~5の直鎖アルキレン基であり、より好ましくはエチレン基、又はn-プロピレン基である。
【0041】
上記一般式(2)中、aは、0~10の整数であり、1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましい。
【0042】
【0043】
上記一般式(3)中、R7及びR8で表される基は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1~8のアルキル基であり、具体的には次のとおりである。
【0044】
R7及びR8で表される炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0045】
上記一般式(3)中、R9~R12で表される基は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基であり、具体的には次の通りである。
【0046】
R9~R12で表される炭素数2~8のアルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチルレン基等の直鎖又は分岐鎖アルキレン基等を挙げることができる。好ましくは炭素数2~5の直鎖アルキレン基であり、より好ましくはエチレン基、又はn-プロピレン基である。
【0047】
上記一般式(3)中、R13で表される基は、炭素数1~8のアルキレン基であり、具体的には次のとおりである。
【0048】
R13で表される炭素数1~8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチルレン基等の直鎖又は分岐鎖アルキレン基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~5の直鎖アルキレン基であり、より好ましくはメチレン基、エチレン基、又はn-プロピレン基である。
【0049】
上記一般式(3)中、b及びcは、それぞれ独立に0~10の整数であり、1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましい。
【0050】
【0051】
上記一般式(4)中、R14~R16で表される基は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1~8のアルキル基であり、具体的には次のとおりである。
【0052】
R14~R16で表される炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0053】
上記一般式(4)中、R17~R22で表される基は、それぞれ独立に炭素数2~8のアルキレン基であり、具体的には次の通りである。
【0054】
R17~R22で表される炭素数2~8のアルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチルレン基等の直鎖又は分岐鎖アルキレン基等を挙げることができる。好ましくは炭素数2~5の直鎖アルキレン基であり、より好ましくはエチレン基、又はn-プロピレン基である。
【0055】
上記一般式(4)中、R23で表される基は、炭素数1~8のアルキレン基であり、具体的には次の通りである。
【0056】
R23で表される炭素数1~8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチルレン基等の直鎖又は分岐鎖アルキレン基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1~5の直鎖アルキレン基であり、より好ましくはメチレン基、エチレン基、又はn-プロピレン基である。
【0057】
上記一般式(4)中、d、e及びfは、それぞれ独立に0~10の整数であり、1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましい。
【0058】
<有機テルル化合物の製造方法>
上記一般式(1)で表される有機テルル化合物は、例えば、下記一般式(5)で表される化合物と塩基とを反応させる工程(A)と、工程(A)により得られた化合物と下記一般式(6)で表される化合物とを反応させる工程(B)と、工程(B)により得られた化合物のカルボキシル基の保護基を脱保護する工程(C)と、工程(C)により得られたカルボン酸を中和する工程(D)とを備える、製造方法により製造することができる。
【0059】
【0060】
上記一般式(5)中、R1で表される基は、上記一般式(1)におけるR1と同じ基である。上記一般式(5)中、R2で表される基は、上記一般式(1)におけるR2と同じ基である。
【0061】
上記一般式(5)中、Y1は、保護基を表す。保護基としては、カルボキシル基の保護基として使用される公知の基であれば、特に限定されない。保護基としては、例えば、トリメチルシリル基、ジメチルブチルシリル基、トリエチルシル基等のトリアルキルシリル基;1-エトキシエチル基、1-プロポキシエチル基等の1-アルコキシアルキル基;テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、トリフェニルメチル基等の環状1-アルコキシアルキル基等が挙げられる。
【0062】
【0063】
上記一般式(6)中、R3で表される基は、上記一般式(1)におけるR3と同じ基である。
【0064】
上記一般式(6)中、Xで表される基は、ハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子等のハロゲン原子を挙げることができる。好ましくは、塩素原子、臭素原子である。
【0065】
上記のように、工程(A)は、上記一般式(5)で表される化合物と塩基とを反応させる工程である。
【0066】
工程(A)で使用する塩基としては、例えば、リチウムジイソプロピルアミド、ヘキサメチルジシラザンリチウム、リチウムテトラメチルピペリジン、リチウムアミド、カリウムジイソプロピルアミド、カリウムアミド、ナトリウムイソプロピルアミド、ナトリウムアミド等を用いることができる。この中でもリチウムジイソプロピルアミドが好ましい。
【0067】
工程(A)で使用する塩基は、溶媒中において調製する。使用できる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)等の極性溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;ヘキサン、ジメトキシエタン等の脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒等が挙げられる。好ましくは、THFである。溶媒の使用量としては適宜調整すればよいが、通常、塩基1gに対して5ml~500mlが好ましく、10ml~100mlがより好ましい。
【0068】
上記のようにして調製した塩基に上記一般式(5)で表される化合物をゆっくりと滴下し、攪拌する。それによって、一般式(5)で表される化合物と塩基とを反応させる。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分~24時間が好ましく、10分~3時間がより好ましい。反応温度としては-150℃~50℃が好ましく、-80℃~0℃がより好ましい。
【0069】
工程(B)は、工程(A)により得られた化合物と上記一般式(6)で表される化合物とを反応させる工程である。
【0070】
工程(A)により得られた反応液(化合物)に上記一般式(6)で表される化合物を加え、攪拌する。それによって、工程(A)により得られた化合物と上記一般式(6)で表される化合物とを反応させる。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分~24時間が好ましく、10分~3時間がより好ましい。反応温度としては-150℃~50℃が好ましく、-80~20℃がより好ましい。
【0071】
反応終了後、溶媒を濃縮し、目的物を単離精製する。溶媒濃縮の前に、適宜、水、食塩水等にて洗浄を行ってもよい。精製方法としては、化合物により適宜選択できるが、通常、減圧蒸留や再結晶等が好ましい。
【0072】
工程(C)は、工程(B)により得られた化合物のカルボキシル基における保護基を脱保護する工程である。工程(C)は、酸性触媒の存在下で行うことが望ましい。
【0073】
工程(C)において使用される酸性触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、及びリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、及びパラトルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。脱保護反応を行うのにより十分なpHを有し、安価に調達できる点から塩酸、硫酸が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0074】
酸性触媒の使用量は、原料として使用する工程(B)により得られた化合物のカルボキシル基のモル数に対して、0.01モル倍~10モル倍にすることが好ましい。この範囲内であると、カルボキシル基の脱保護反応をより一層十分に進行させることができる。
【0075】
工程(C)では溶媒を用いることができる。使用できる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン等が挙げられる。溶媒の使用量としては適宜調整すればよいが、通常、工程(B)により得られた化合物1gに対して5ml~100mlとすることが好ましい。
【0076】
工程(C)では、工程(B)により得られた化合物の溶液に酸性触媒を加え、攪拌する。それによって、工程(B)により得られた化合物のカルボキシル基における保護基を脱保護する。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分~24時間が好ましい。反応温度としては0℃~50℃が好ましい。
【0077】
反応終了後、溶媒を濃縮し、目的物を単離精製する。溶媒濃縮の前に、適宜、水、食塩水等にて洗浄を行ってもよい。精製方法としては、化合物により適宜選択できるが、通常、減圧蒸留や再結晶等が好ましい。
【0078】
工程(D)は、工程(C)により得られたカルボン酸を中和する工程である。カルボン酸の中和に用いる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0079】
工程(D)では溶媒を用いることができる。使用できる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール等が挙げられる。溶媒の使用量としては適宜調整すればよいが、通常、工程(C)により得られたカルボン酸1gに対して5ml~100mlが好ましい。
【0080】
工程(D)では、工程(C)により得られたカルボン酸の溶液に塩基を加え、攪拌する。それによって、工程(C)により得られたカルボン酸を中和する。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分~2時間が好ましい。反応温度としては0℃~50℃が好ましい。
【0081】
反応終了後、溶媒を濃縮し、目的物を単離精製する。溶媒濃縮の前に、適宜、水、食塩水等にて洗浄を行ってもよい。精製方法としては、化合物により適宜選択できるが、通常、減圧蒸留や再結晶等が好ましい。
【0082】
(一般式(6)で表される化合物の製造方法)
上記一般式(6)で表される化合物は、下記一般式(7)で表される有機ジテルル化合物とハロゲン化剤とを反応させることにより製造することができる。
【0083】
【0084】
一般式(7)中、R3で表される基は、上記一般式(1)におけるR3と同じ基である。
【0085】
ハロゲン化剤としては、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。好ましくは臭素である。
【0086】
上記一般式(6)で表される化合物の製造方法としては、具体的には以下の一例で示す方法が挙げられる。
【0087】
まず、上記一般式(7)で表される有機ジテルル化合物を溶媒に溶解させる。使用できる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)等の極性溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;ヘキサン、ジメトキシエタン等の脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドフラン(THF)等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。
【0088】
溶媒の使用量としては、適宜調整すればよいが、通常、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物1gに対して5ml~500mlが好ましい。
【0089】
次に、上記溶媒にハロゲン化剤を加え、攪拌する。それによって、上記一般式(6)で表される化合物を得ることができる。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分~24時間が好ましい。反応温度としては-50℃~50℃が好ましい。
【0090】
上記のように得られた一般式(6)で表される化合物の溶液をそのまま、一般式(1)で表される有機テルル化合物の製造に用いてもよいし、単離精製して用いてもよい。
【0091】
(一般式(7)で表される有機ジテルル化合物の製造方法)
上記一般式(7)で表される有機ジテルル化合物は、金属テルルを還元することにより得られるジテルリドジアニオンと、化合物R3-Z(式中、R3で表される基は、一般式(1)におけるR3と同じ基である。Zは、ハロゲン原子又はトシラート基を表す。)を反応させることにより、製造することができる。
【0092】
使用できる還元剤としては、金属ナトリウム、金属リチウム、金属カリウム又はこれら金属のナフタレニド等を挙げることができる。好ましくは金属ナトリウムである。
【0093】
上記一般式(7)で表される有機ジテルル化合物の製造方法では、まず、金属テルルを溶媒に懸濁する。使用できる溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒や、エチレンジアミン等を挙げることができる。好ましくは、エチレンジアミンである。溶媒の使用量としては、適宜調整すればよいが、通常、金属テルル1gに対して、5ml~500mlがよい。
【0094】
次に、上記懸濁液に還元剤を加え、攪拌する。反応時間は、反応温度により異なるが、通常5分~24時間が好ましい。反応温度としては0℃~150℃が好ましい。
【0095】
次に、得られたジテルリドジアニオン溶液に、上記化合物R3-Zをゆっくり滴下し、攪拌する。それによって、上記一般式(7)で表される有機ジテルル化合物を得る。反応時間は、反応温度により異なるが、通常5分~24時間が好ましい。反応温度としては-50℃~50℃が好ましい。
【0096】
反応終了後、溶媒を濃縮し、目的物を単離精製する。溶媒濃縮の前に、適宜、水、食塩水等にて洗浄を行ってもよい。精製方法としては、化合物により適宜選択できるが、通常、減圧蒸留や再結晶等が好ましい。
【0097】
<ビニル重合体の製造方法及びビニル重合体>
本発明のビニル重合体の製造方法は、ビニルモノマーを、上述の一般式(1)で表される有機テルル化合物を用いてリビングラジカル重合し、ビニル重合体を合成する工程(I)を備える、製造方法である。
【0098】
前述のリビングラジカル重合は、一般式(1)で表される有機テルル化合物をリビングラジカル重合開始剤として用いるリビングラジカル重合であり、ビニルモノマーの種類に応じ反応促進、分子量の制御等の目的で、さらにアゾ系重合開始剤及び/又は上記一般式(7)で表される有機ジテルル化合物を加えて重合を行ってもよい。
【0099】
具体的には、ビニルモノマーを、下記(a)~(d)のいずれかを用いて重合し、ビニル重合体を製造する方法が挙げられる。
【0100】
(a)一般式(1)で表される有機テルル化合物。
(b)一般式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤との混合物。
(c)一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(7)で表される有機ジテルル化合物との混合物。
(d)一般式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤と一般式(7)で表される有機ジテルル化合物との混合物。
【0101】
工程(I)で使用する一般式(1)で表される有機テルル化合物は、上記に示した通りである。
【0102】
工程(I)で使用する一般式(7)で表される有機ジテルル化合物は、上記に示した通りである。
【0103】
工程(I)で使用するアゾ系重合開始剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ系重合開始剤であれば特に制限なく使用することができる。例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70)、2,2’-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等を挙げることができる。
【0104】
工程(I)で使用するビニルモノマーは、ラジカル重合可能なものであれば特に制限はないが、好ましくは水溶性のビニルモノマーである。
【0105】
本発明において、「ビニルモノマー」とは分子中にラジカル重合可能な炭素-炭素二重結合を有するモノマーのことをいう。「(メタ)アクリル」とは「アクリル及びメタクリルの少なくとも一方」をいい、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方」をいう。「(メタ)アクリルアミド」とは「アクリルアミド及びメタクリルアミドの少なくとも一方」をいう。
【0106】
水溶性のビニルモノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有水溶性(メタ)アクリル酸エステル;ポリエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アルキルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;1-ビニル-2-ピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリジン、ビニルイミダゾール、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニルホルムアミド等の窒素含有非(メタ)アクリル酸系水溶性モノマー;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等の硫黄含有非(メタ)アクリル系水溶性モノマー;アクロイルモルホリン;2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0107】
工程(I)では、不活性ガスで置換した容器で、ビニルモノマーと一般式(1)で表される有機テルル化合物と、ビニルモノマーの種類に応じ、反応促進、分子量の制御等の目的で、さらにアゾ系重合開始剤及び/又は一般式(7)で表される有機ジテルル化合物とを混合する。このとき、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。好ましくは、アルゴン、窒素である。より好ましくは、窒素である。
【0108】
上記(a)、(b)、(c)及び(d)におけるビニルモノマーの使用量としては、目的とするビニル重合体の物性により適宜調節することができる。通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して、例えば、ビニルモノマーを5mol~30,000molとすることができる。好ましくは20mol~10,000molであり、より好ましくは、50mol~5,000molである。
【0109】
一般式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤とを併用する場合、アゾ系重合開始剤の使用量としては、通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して、例えば、アゾ系重合開始剤を0.01mol~10molとすることができる。好ましくは、アゾ系重合開始剤が0.05mol~2molである。
【0110】
一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(7)で表される有機ジテルル化合物とを併用する場合、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物の使用量としては、通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して、例えば、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物を0.01mol~100molとすることができる。好ましくは、0.1mol~10molである。
【0111】
一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(7)で表される有機ジテルル化合物とアゾ系重合開始剤とを併用する場合、アゾ系重合開始剤の使用量としては、通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(7)で表される有機ジテルル化合物との合計1molに対して、アゾ系重合開始剤を0.01mol~100molとすることができる。好ましくは、0.05mol~2molである。
【0112】
工程(I)は、無溶剤や、ラジカル重合で一般に使用される溶媒でも行うことができるが、水性媒体を使用し、上記混合物などを撹拌して行うこともできる。水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒との混合媒体等が挙げられる。なかでも、水が好ましい。
【0113】
水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)のようなアルコール類;2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノールのようなアルコキシアルコール類;ジアセトンアルコールのようなケトール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0114】
溶媒の使用量としては、適宜調節すればよく、通常、ビニルモノマー1gに対して、0.01mL~50mLの範囲である。
【0115】
水性媒体の使用量としても、特に限定されないが、ビニルモノマー1gに対して、好ましくは0.01mL~50mLの範囲であり、より好ましくは1mL~50mLの範囲であり、さらに好ましくは3mL~50mLの範囲である。このように、本発明の有機テルル化合物は、水性媒体の使用量が上記下限以上である場合においても、リビングラジカル重合開始剤として用いたときに、水性媒体中においてビニルモノマーの重合をより一層安定して進行させることができる。
【0116】
工程(I)で用いられる一般式(1)で表される有機テルル化合物は、工程(I)の溶液中で前述の有機テルル化合物の製造工程(C)で得られたカルボン酸を中和することで生成することもできる。工程(I)の溶液中における塩基の量は、上記カルボン酸を中和することができる量であればよい。
【0117】
反応温度及び反応時間は、目的とするビニル重合体の分子量又は分子量分布により適宜調節すればよく、通常、0℃~150℃の範囲で、1分~100時間撹拌することができる。
【0118】
工程(I)により得られるビニル重合体の成長末端は、一般式(1)で表される有機テルル化合物由来の-TeR3(式中、R3で表される基は、一般式(1)におけるR3と同じ基である。以下テルル基という。)の形態であることから、マクロリビングラジカル重合開始剤として用いることができる。すなわち、マクロリビングラジカル重合開始剤を用いてA-Bブロック共重合体、A-B-Aトリブロック共重合体、A-B-Cトリブロック共重合体等を製造することができる。
【0119】
工程(I)の終了後、重合溶液から使用溶媒や残存モノマーを減圧下で除去して目的とするビニル重合体を取り出したり、不溶溶媒を使用して再沈殿処理により目的とするビニル重合体を単離したりすることができる。
【0120】
本発明のビニル重合体の製造方法は、さらに工程(I)で得られたビニル重合体に還元剤を作用させる工程(II)を備えることが好ましい。工程(I)終了後の空気中の操作により、得られたビニル重合体の成長末端は失活していくが、工程(II)により、ビニル重合体の成長末端のテルル基に還元剤が作用し、テルル基が有機ジテルル化合物としてビニル重合体の成長末端より除去され、その後の工程における洗浄により有機ジテルル化合物として高効率で回収することができるためである。
【0121】
工程(II)は、工程(I)終了後の重合溶液からビニル重合体を単離し溶媒に溶解させて行ってもよいし、リビングラジカル重合後の溶液について行ってもよいが、工程短縮の観点から工程(I)終了後の重合溶液に還元剤を添加し、反応させることが好ましい。
【0122】
工程(II)で用いる還元剤としては、ビニル重合体の成長末端におけるテルル基に対し還元性を示す化合物で、一般に還元剤として知られるものを用いることができる。例えば、水素化ホウ素化合物及び有機テルロール化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0123】
水素化ホウ素化合物として、例えば、ボラン錯体(ボラン・ジメチルスフィド錯体、ボラン・テトラヒドロフラン錯体等)、ジボラン、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリ(sec-ブチル)水素化ホウ素リチウム、トリ(sec-ブチル)水素化ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラエチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルオクチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルベンジルアンモニウム等を挙げることができる。これらの中でも、安全面や経済面、取扱い性等から、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウムが好ましい。
【0124】
有機テルロール化合物としては、例えば、下記一般式(8)で表される有機テルロール化合物等を挙げることができる。
【0125】
【0126】
一般式(8)中、R3で表される基は、一般式(1)におけるR3と同じ基である。
【0127】
一般式(8)で表される有機テルロール化合物は、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物を水素化ホウ素化合物等により還元することにより製造することができる。
【0128】
一般式(8)で表される有機テルロール化合物は、反応系中において生成させてもよい。例えば、下記一般式(9)で表されるテルル化合物とアルコールとの混合物や、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物と水素化ホウ素化合物との混合物等を用いることで反応系中において、一般式(8)で表される有機テルロール化合物を生成させる方法が挙げられる。
【0129】
【0130】
一般式(9)中、R3で表される基は、一般式(1)におけるR3と同じ基である。
【0131】
一般式(9)中、Y2で表される脱離基は、重合体溶液中で脱離して一般式(8)で表される有機テルロール化合物を生成し得るものであればよく、例えばトリメチルシリル(TMS)基が挙げられ、メタノール等のアルコールとの反応によりTMS基が脱離して一般式(8)で表される有機テルロール化合物を生成することができる。
【0132】
一般式(9)で表されるテルル化合物は、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物に還元剤を反応させ、続いてシリル化剤と反応させることにより製造することができる。
【0133】
一般式(9)で表されるテルル化合物を製造するために用いる還元剤としては、リチウム金属、ナトリウム金属、カリウム金属及びこれらの金属のナフタレニド、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化シアノホウ素ナトリウム等の金属ヒドリド等を用いることができる。この中でも水素化トリエチルホウ素リチウムが好ましい。
【0134】
シリル化剤としては、トリメチルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、トリエチルシリルブロマイド等が挙げられる。好ましくはトリメチルシリルブロマイドである。
【0135】
一般式(9)で表されるテルル化合物を製造する方法としては、具体的には下記の方法が挙げられる。
【0136】
まず、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物を溶媒に溶解させる。使用できる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)等の極性溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;ヘキサン、ジメトキシエタン等の脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。溶媒の使用量としては適宜調整すればよいが、通常、一般式(7)で表される有機ジテルル化合物1gに対して1ml~500mlがよい。
【0137】
次に、上記溶液に還元剤をゆっくりと滴下し、攪拌する。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分~24時間が好ましい。反応温度としては、0℃~80℃が好ましい。
【0138】
次に、この反応液にシリル化剤を加え、攪拌する。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分~24時間が好ましい。反応温度としては0℃~80℃が好ましい。
【0139】
反応終了後、溶媒を濃縮し、目的物を単離精製する。溶媒濃縮の前に、適宜、水、食塩水等にて洗浄を行ってもよい。精製方法としては、化合物により適宜選択できるが、通常、減圧蒸留や再結晶等が好ましい。
【0140】
工程(II)における溶媒の使用量としては、適宜調節すればよく、例えば、ビニル重合体1gに対して、通常0.01ml~100mlの範囲が好ましい。
【0141】
工程(II)の温度及び時間は、通常、0℃~100℃の範囲で、5分~24時間撹拌することが好ましい。
【0142】
工程(II)における還元剤の使用量は、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して0.5mol~10.0molとすることが好ましい。
【0143】
本発明のビニル重合体の製造方法では、工程(II)で得られたビニル重合体を洗浄する工程(III)を備えることが好ましい。上記洗浄方法としては、公知の洗浄方法を用いることができるが、分液洗浄であることが好ましく、工程(II)終了後の溶液からビニル重合体を単離し適当な溶媒に溶解させた溶液、又は工程(II)終了後の溶液を用いて行うことが望ましい。
【0144】
上記分液洗浄の具体例としては、ビニル重合体を溶解した溶媒と、ビニル重合体を溶解する溶媒と相分離可能な溶媒とを混合後、分離した溶媒を抜き取る方法が挙げられる。この操作によりビニル重合体中から有機ジテルル化合物を除去することが可能であり、分液洗浄を繰り返すことでより一層の効果がある。分液洗浄後、それぞれの相の溶媒を減圧下除去することで、ビニル重合体と有機ジテルル化合物を分離し、回収することができる。
【0145】
上述の分液操作の溶媒は、ビニル重合体を溶解することができる非プロトン性溶媒又はプロトン性溶媒であればよい。
【0146】
使用できる非プロトン性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2-ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
【0147】
使用できるプロトン性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1-メトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、アセトニトリル等を挙げることができる。
【0148】
ビニル重合体を溶解する溶媒と相分離可能な溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエンである。より好ましくはヘプタンである。
【0149】
上記分液洗浄において、相分離可能な溶媒は、ビニル重合体を溶解する溶媒相に対して、通常、0.1倍~10倍量添加することが望ましい。分液洗浄は、通常、10℃~60℃で行われることが好ましい。
【0150】
回収したテルル化合物は高純度の有機ジテルル化合物であることから、例えば、特開2004-323437号公報の方法を用いて、容易に有機テルル化合物(リビングラジカル重合開始剤)として再生することもできる。
【0151】
本発明のビニル重合体の製造方法は、一般式(1)で表される有機テルル化合物を用いることで、特に水溶性のビニルモノマーを好適に重合することができる。
【0152】
本発明の製造方法で得られるビニル重合体の分子量は、反応時間及び有機テルル化合物の量により適宜調整可能であるが、例えば、数平均分子量(Mn)が500~1,000,000のビニル重合体を得ることができる。特に、Mnが1,000~50,000のビニル重合体を得るのに好適である。Mnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)法により測定することができる。
【0153】
本発明の製造方法で得られるビニル重合体の分子量分布(PDI)は2.0以下に制御することができ、好ましくは1.5以下である。分子量分布(PDI)とは、(ビニル重合体の重量平均分子量(Mw))/(ビニル重合体の数平均分子量(Mn))によって求められるものであり、PDIは小さいほど分子量分布の幅が狭く、分子量のそろったビニル重合体となり、その値が1.0のとき最も分子量分布の幅が狭い。反対に、PDIが大きいほど設計したビニル重合体の分子量に比べて、分子量が小さいものや、分子量の大きいものが含まれることになる。
【0154】
本発明のビニル重合体の製造方法では、工程(II)及び工程(III)を備えることで、得られるビニル重合体のテルル含有量を少なくできることから、この場合例えば光学用途、医療用途、電気・電子用途、エネルギー材料用途等で好適に用いることができる。
【実施例】
【0155】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0156】
<有機ジテルル化合物の合成>
(合成例1)
下記一般式(10)で表される化合物を以下の方法で合成した。
【0157】
CH3O(CH2)2O(CH2)3-Te-Te-(CH2)3O(CH2)2OCH3…式(10)
【0158】
300mLの3つ口ガラス容器に水素化ナトリウム15g(60% dispersion in mineral oil、0.38mol)とTHF(50mL)を加え、この溶液を撹拌しながら氷浴で冷却した。ここに2-メトキシエタノール26mL(0.34mol)を10分かけて滴下したのち、アリールブロマイド(35mL、0.41mmol)をゆっくり滴下し、さらに室温で3時間撹拌した。さらに、50mLの水を加えて、ジクロロメタンで生成物を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水した。次に、溶媒を留去したのち、蒸留して2-メトキシエチルアリールエーテルを得た(35g、収率88%)。1H NMR、13C NMRにより目的物であることを確認した。
【0159】
次に、500mLの3つ口ガラス容器に、上記の2-メトキシエチルアリールエーテル5.3mL(42mmol)とTHF(50mL)を加え、この溶液を撹拌しながら氷浴で冷却した。ここに、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン・THF溶液(100mL、50mmol)を20分かけて滴下し、さらに室温で3時間撹拌した。反応溶液を氷浴で冷却し、100mLの3N水酸化ナトリウム水溶液と100mL過酸化水素水を加えて、さらに室温で1時間撹拌した。さらに、ジクロロメタンで生成物を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水した。次に、溶媒を留去したのち、蒸留して4,7-ジオキサ-1-オクタノールを得た(5.1g、収率90%)。1H NMR、13C NMRにより目的物であることを確認した。
【0160】
次に、300mLの3つ口ガラス容器に上記の4,7-ジオキサ-1-オクタノール8.0g(60mmol)とジクロロメタン(100mL)を加え、この溶液を撹拌しながら氷浴で冷却した。ここに、4-(ジメチルアミノ)ピリジン0.35g(3.0mmol)とトリメチルアミン塩酸塩0.55g(6.0mmol)とp-トルエンスルホニルクロリド17g(90mmol)を加えたのち、トリエチルアミン13g(90mmol)とジクロロメタン20mLを20分かけて滴下した。さらに氷浴で2時間撹拌した。ジクロロメタンで生成物を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を留去したのち、カラムクロマトグラフィーにより精製することで3-(2-メトキシエトキシ)プロピル4-メチルベンゼンスルホン酸塩を得た(15g、収率85%)。1H NMR、13C NMRにより目的物であることを確認した。
【0161】
次に、200mLの3つ口ガラス容器に金属テルル(Aldrich社製、商品名:Tellurium(-40mesh))2.6g(20mmol)とナトリウム(0.51g、22mmol)とエチレンジアミン(75mL)を加え、混合物を撹拌しながら3時間還流させた。この反応溶液を室温まで放冷したのち、上記のようにして得られた3-(2-メトキシエトキシ)プロピル4-メチルベンゼンスルホン酸塩(5.8g、20mmol)とTHF(25mL)の混合溶液を30分かけて滴下し、この反応溶液を室温で1時間撹拌した。反応溶液を氷浴で冷却し、30mLの水をゆっくりと加えたのち、セライトの短カラムに通した。溶媒を留去して得られた粗生成物を酢酸エチルのカラムクロマトグラフィーにより精製することで、一般式(10)で表される化合物(2,5,14,17-テトラオキサ-9,10-ジテルラオクタデカン)を得た(7.0g、収率71%)。1H NMR、13C NMRにより目的物であることを確認した。
【0162】
<有機テルル化合物の合成>
(合成例2)
下記式で表される化合物(以下、Int1という。)を以下の方法で合成した。なお、下記のMeは、メチル基を表すものとする。
【0163】
【0164】
500mLの3つ口ガラス容器に、ジイソプロピルアミン(2.5mL、18mmol)とTHF(50mL)を加え、この溶液を撹拌しながら氷浴で冷却した。ここにブチルリチウムヘキサン溶液(10.5mL、16.5mmol)を10分かけて滴下したのち、トリエチルシリルイソブチレート(3.6mL、16.5mmol)をゆっくり滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0165】
200mLの3つ口ガラス容器に上記の2,5,14,17-テトラオキサ-9,10-ジテルラオクタデカン(1.5mL、7.5mmol)とTHF(150mL)を加え、撹拌しながら氷浴で冷却した。この溶液に臭素(0.40mL、7.9mmol)を滴下し、さらに1時間撹拌した。この反応溶液を、ドライアイス/アセトン浴で冷却している上記の500mL3つ口ガラス容器で調製した溶液に滴下した。冷却浴を氷浴に交換し、反応溶液を昇温させたのち、さらに30分撹拌した。
【0166】
反応溶液に1M塩酸水溶液(0.5mL)を加えて、30分撹拌したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とジクロロメタンを順に加えて、有機相を除いた。さらに、水相に塩酸水溶液とジクロロメタンを加え、有機相を硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を留去することでInt1を得た(4.4g、収率80%)。1H NMR、13C NMRにより目的物であることを確認した。
【0167】
(合成例3)
下記式で表される化合物(以下、Int2という。)を以下の方法で合成した。なお、下記のMeは、メチル基を表し、Phは、フェニル基を表すものとする。
【0168】
【0169】
500mLの3つ口ガラス容器に、ジイソプロピルアミン(2.5mL、18mmol)とTHF(50mL)を加え、この溶液を撹拌しながら氷浴で冷却した。ここにブチルリチウムヘキサン溶液(10.5mL、16.5mmol)を10分かけて滴下したのち、トリエチルシリルイソブチレート(3.6mL、16.5mmol)をゆっくり滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0170】
200mLの3つ口ガラス容器にジフェニルジテルリド(3.1g、7.5mmol)とTHF(150mL)を加え、撹拌しながら氷浴で冷却した。この溶液に臭素(0.40mL、7.9mmol)を滴下し、さらに1時間撹拌した。この反応溶液をドライアイス/アセトン浴で冷却している上記の500mL3つ口ガラス容器で調製した溶液に滴下した。冷却浴を氷浴に交換し、反応溶液を昇温させたのち、さらに30分撹拌した。
【0171】
反応溶液に1M塩酸水溶液(0.5mL)を加えて、30分撹拌したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とジクロロメタンを順に加えて、有機相を除いた。さらに、水相に塩酸水溶液とジクロロメタンを加え、有機相を硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を留去することでInt2を得た(3.6g、収率82%)。1H NMR、13C NMRにより目的物であることを確認した。
【0172】
<ビニル重合体の合成>
(実施例1)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、N-ビニル-2-ピロリドン(0.43mL、4mmol)と、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(1.1mg、4μmol)と、1.5mLの炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム緩衝溶液(水溶液)とInt1(6.6mg、20μmol)を仕込んだ。この溶液を65℃で16時間撹拌した。GPC分析より、Mn=18500、PDI=1.10であることを確認した。なお、実施例1におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、3.37mLであった。
【0173】
(実施例2)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、アクリルアミド284mg(4mmol)と、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)1.1mg(4μmol)と、1.5mL脱イオン水とInt1のナトリウム塩6.6mg(20μmol)とを仕込んだ。この溶液を65℃で5時間撹拌した。GPC分析より、Mn=12700、PDI=1.19であることを確認した。なお、実施例2におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、5.28mLであった。
【0174】
(実施例3)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、ジメチルアクリルアミド0.41mL(4mmol)と、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)1.1mg(4μmol)と、炭酸水素ナトリウム2.4mg(28μmol)と、1.0mL脱イオン水と、Int1 6.6mg(20μmol)を仕込んだ。この溶液を65℃で1.5時間撹拌した。GPC分析より、Mn=17200、PDI=1.20であった。なお、実施例3におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、2.52mLであった。
【0175】
(実施例4)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、ジメチルアクリルアミド0.41mL(4mmol)と、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)1.1mg(4μmol)と、1.5mL脱イオン水とInt1のナトリウム塩6.6mg(20μmol)とを仕込んだ。この溶液を65℃で1.5時間撹拌した。GPC分析より、Mn=13200、PDI=1.21であることを確認した。なお、実施例4におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、3.78mLであった。
【0176】
(実施例5)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、メタクリルアミド0.41mL(4mmol)と、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)1.1mg(4μmol)と、炭酸水素ナトリウム2.4mg(28μmol)と、1.0mL脱イオン水と、Int1(6.6mg、20μmol)を仕込んだ。この反応溶液を65℃で2時間撹拌した。GPC分析より、Mn=18100、PDI=1.46であった。なお、実施例5におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、2.94mLであった。
【0177】
(実施例6)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.43mL(4mmol)と、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)1.1mg(4μmol)と、1.5mL脱イオン水とInt1のナトリウム塩6.6mg(20μmol)とを仕込んだ。この溶液を65℃で8時間撹拌した。GPC分析より、Mn=17200、PDI=1.27であることを確認した。なお、実施例6におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、3.23mLであった。
【0178】
(比較例1)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、N-ビニル-2-ピロリドン0.43mL(4mmol)と、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)1.1mg(4μmol)と、1.5mLの炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム緩衝溶液(水溶液)とInt2(5.8mg、20μmol)を仕込んだ。この溶液を65℃で16時間撹拌したが、反応は進行しなかった。なお、比較例1におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、3.37mLであった。
【0179】
(比較例2)
窒素置換したパイレックス(登録商標)ガラス管内に、メタクリルアミド0.41mL(4mmol)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)1.1mg(4μmol)、炭酸水素ナトリウム2.4mg(28μmol)、1.0mL脱イオン水、Int2(5.8mg、20μmol)を仕込んだ。この反応溶液を65℃で2時間撹拌した。重合反応時にゲル化が観測された。GPC分析より、Mn=8700、PDI=1.50であった。このように、比較例2では、重合反応時にゲル化が観測され、重合反応が十分に進行しなかった。なお、比較例2におけるモノマー1gあたりの水性媒体の使用量を換算すると、2.94mLであった。
【0180】
実施例1~6から明らかなように、本発明の有機テルル化合物(Int1)をリビングラジカル重合開始剤として用いたとき、水性媒体の使用量が多い場合においても、ビニルモノマーの重合が安定して進行することが確認できた。
【0181】
他方、Int2をリビングラジカル重合開始剤に用いた比較例1や比較例2においては、ビニルモノマーの重合が安定して進行しなかった。
【0182】
実施例1及び実施例6及び比較例1の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)は、GPC[Shodex GPC-104(カラム:Shodex LF-604×2)、Shodex GPC-101(カラム:Shodex LF804・K-805F・K-800RL)]を用いて、ポリメタクリル酸メチル標準サンプル(Shodex PMMS Standard)の分子量を基準に求めた。
【0183】
実施例2~実施例5及び比較例2の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)は、GPC[Shodex GPC-101(カラム:Shodex OHpak SB-806M HQ×2、Shodex OHpak SB-804M HQ)]を用いて、ポリエチレングリコール標準サンプル(TOSOH Tskgel, Scientific Polymer Products, WAKO NIMI J CRM)の分子量を基準に求めた。