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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】塩味センサ膜
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/333 20060101AFI20220729BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
G01N27/333 331C
G01N27/416 341G
G01N27/416 341M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018000973
(22)【出願日】2018-01-09
(65)【公開番号】P2019120596
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-11-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年9月5日 ▲1▼平成29年12月1日 ウェブサイトのアドレス https://annex.jsap.or.jp/kyushu/conf.html ▲2▼平成29年12月1日から平成29年12月3日 2017年(平成29年度)応用物理学会九州支部学術講演会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/(革新的ロボット要素技術分野)味覚センサ/味覚センサの高機能化による食品生産ロボットの自動化」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502240607
【氏名又は名称】株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都甲 潔
(72)【発明者】
【氏名】田原 祐助
(72)【発明者】
【氏名】佐野 博之
(72)【発明者】
【氏名】池崎 秀和
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-194109(JP,A)
【文献】特開平11-248669(JP,A)
【文献】特開平03-054446(JP,A)
【文献】特開2002-107338(JP,A)
【文献】国際公開第2012/121618(WO,A1)
【文献】吉田 久美,食品の中のナトリウムイオン(2)―Na+活量の電気化学的計測―,日本海水学会誌,2007年,第61巻 第4号,pp.199-204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材とマイナスの電荷を有する脂質と可塑剤とナトリウムイオノフォアと混合され、この混合組成物が膜状に形成されている塩味センサ膜であって、被測定水液中の味物質によって膜電位が変化することを特徴とする塩味増強効果に基づく塩味を評価する塩味センサ膜。
【請求項2】
前記塩味センサ膜において、マイナスの電荷を持つ脂質の親水基は、POOH基であることを特徴とする請求項1の塩味センサ膜。
【請求項3】
高分子材と、マイナスの電荷を有する脂質と可塑剤とナトリウムイオノフォアと陰イオン排除剤と混合され、この混合組成物が膜状に形成されている塩味センサ膜であって、被測定水液中の味物質によって膜電位が変化することを特徴とする塩味増強効果に基づく塩味を評価する塩味センサ膜。
【請求項4】
前記塩味センサ膜において、マイナスの電荷を持つ脂質の親水基は、POOH基であることを特徴とする請求項の塩味センサ膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、味の検査に用いられる塩味センサ膜に係り、特に、酸味やBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)等の分岐鎖アミノ酸等による塩味増強効果に基づく塩味の評価を可能とする塩味センサ膜に関する。
【背景技術】
【0002】
食品業界では、高血圧等の予防を目的に減塩商品が開発されている。その実現手段として塩味増強効果の利用が挙げられている。塩味増強効果とは、食塩に特定の物質として塩味増強効果のある酸味物質或いは特定のアミノ酸を添加することによって本来よりも塩味を強く感じる効果を意味している。この塩味増強効果によって、減塩による塩味の物足りなさを解決することができる。この塩味増強効果に寄与する物質として、BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)等の分岐鎖アミノ酸、酒石酸、クエン酸のような種々の塩味増強物質が報告されている。
【0003】
近年、食品の味の数値化の手段として膜電位計測型の味覚センサシステムが開発されている。味覚センサシステムでは、受容部に脂質高分子膜を味覚センサ膜に採用し、この味覚センサ膜と味物質との間の静電/疎水性相互作用によって生じる膜電位変化を応答として出力し、味覚を数値化している。
【0004】
これら味覚センサを利用したセンサシステムが特許公報1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第452077号公報
【文献】特許第4520577号公報
【文献】特許第4395236号公報
【文献】特開2000-119291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
味の検査を行うためには、脂質等からなる分子膜をセンサとして用いる方法が本願発明者らによって開発され、特許文献2及び3で知られている。各種味覚の中で、塩味を呈する呈味物質には、NaClの他にKClやKBr等がある。塩味センサでは、マイナス電荷の脂質膜を用いてNaイオン或いはKイオンによる塩味、またプラス電荷の脂質膜を用いてClイオン或いはBrイオンによって塩味を評価している。一方、食品の塩味の主は、NaClであり、そのNaイオンを分析するために、Naイオノフォアを用いたナトリウムイオン選択性電極の組成が特許文献4で報告されている。
【0007】
上述したように、塩味増強効果をもつ素材が食品業界で開発されているが、従来の脂質膜型の味覚センサでは、一部の塩味増強効果を評価できるものの酸味物質や特定のアミノ酸等による塩味増強効果を評価できない問題がある。
【0008】
また、上述したNaイオン選択性電極では、Naイオンにのみ選択的に反応する。しかし、塩味はNaCl以外のKCl或いはKBr等もあり、上記イオンセンサは、Naイオンにのみ応答し、人が感じる塩味は評価できない問題があり、ましてや、塩の増強効果に基づく塩味は、評価できない問題がある。
【0009】
このような背景から、この発明の目的は、酸味或いは特定のアミノ酸等による塩味増強効果に基づく塩味をも評価できる塩味センサ膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施の形態によれば、高分子材とマイナスの電荷を有する脂質と可塑剤とナトリウムイオノフォアと混合され、この混合組成物が膜状に形成されている塩味センサ膜であって、被測定水液中の味物質によって膜電位が変化することを特徴とする塩味増強効果に基づく塩味を評価する塩味センサ膜が提供されます。
【0011】
また、上記実施の形態の塩味センサ膜において、前記塩味センサ膜において、マイナスの電荷を持つ脂質の親水基は、POOH基であることを特徴とする前記実施の形態に記載の塩味センサ膜が提供されます。
【0012】
他の実施の形態によれば、高分子材と、マイナスの電荷を有する脂質と可塑剤とナトリウムイオノフォアと陰イオン排除剤と混合され、この混合組成物が膜状に形成されている塩味センサ膜であって、被測定水液中の味物質によって膜電位が変化することを特徴とする塩味増強効果に基づく塩味を評価する塩味センサ膜が提供されます。
【0013】
また、上記実施の形態の塩味センサ膜において、前記塩味センサ膜において、マイナスの電荷を持つ脂質の親水基は、POOH基であることを特徴とする前記他の実施の形態に記載の塩味センサ膜が提供されます。
【0014】
上述したように、塩味センサ膜において、脂質膜にNaイオノフォアを導入することで、酸味物質或いは特定のアミノ酸等による塩味増強効果に基づく塩味をも評価することができる。通常、減塩が必要な食品には、約100~300mMの大量のNaClが含まれ、Naが重要であり、Naイオノフォアと脂質と組み合わせた膜により塩味増強効果に基づく塩味を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係るこの実施の形態に係る塩味増強効果に基づく塩味を評価することができる塩味センサ膜を備えた味覚センサシステムを概略的に示す模式図である。
図2】(A)は、図1に示される味覚センサシステムにおけるセンサプローブの一部を透視して概略的に示す正面図及び(B)は、図1に示される味覚センサシステムにおける参照電極プローブの一部を透視して概略的に示す正面図である。
図3図1に示す塩味センサシステムで利用される塩味センサ膜の組成及び化学的構造を説明する為の概略図である。
図4図1に示される味覚センサシステムで測定される基準液及びサンプル溶液に対するセンサ電極及び参照電極からの時間の応答値特性を示すグラフである。
図5図1に示される味覚センサシステムにおける測定の過程を示すフローチャートである。
図6図1に示す塩味センサシステムで利用される塩味センサ膜及び通常のNaイオンセンサ膜におけるNaCl濃度に対するセンサ電位を示すグラフである。
図7】通常のNaイオンセンサにおけるバリンの添加濃度に対するセンサ出力を示し、バリン塩味増強効果に基づく塩味の評価を表しているグラフである。
図8図1に示す塩味センサシステムの塩味センサ膜におけるバリンの添加濃度に対するセンサ出力を示し、バリンの塩味増強効果に基づく塩味の評価を表しているグラフである。
図9図1に示す塩味センサシステムの塩味センサ膜におけるバリンの添加濃度に対する塩味増強の割合を示し、バリンの塩味増強効果に基づく塩味の評価を表しているグラフである。
図10】通常のNaイオンセンサにおけるクエン酸の添加濃度に対するセンサ出力を示し、クエン酸の塩味増強効果に基づく塩味の評価の比較例を表しているグラフである。
図11図1に示す塩味センサシステムに設けられた塩味センサ膜におけるクエン酸の添加濃度に対するセンサ出力を示し、クエン酸の塩味増強効果に基づく塩味の評価を表しているグラフである。
図12図1に示す塩味センサシステムに設けられた塩味センサ膜におけるクエン酸の添加濃度に対する塩味増強の割合を示し、クエン酸の塩味増強効果に基づく塩味の評価を表しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態に係る塩味増強効果に基づく塩味を評価することができる塩味センサ膜及びその塩味センサ膜を利用したセンサシステムについて、図面を参照して説明する。
(実施形態1)
図1には、この実施の形態に係る塩味増強効果に基づく塩味を評価することができる塩味センサ膜を利用する味覚センサシステムが示されている。後に詳述するように、発明者らの各種実験から、Naイオノフォアと脂質とを組み合わせることによって、味増強効果に基づく塩味を評価できる塩味センサ膜を実現することができ、この塩味センサ膜の利用によって塩味増強効果に基づく塩味を評価することができる味覚センサシステムが実現される。
【0017】
始めに、味覚センサシステムの概要を図1を参照して説明する。
【0018】
図1に示される味覚センサシステムでは、基準液、サンプル液及び洗浄液等を個別に入れるための容器10が用意され、この容器10内に、図2に示す参照電極プローブ11及び1又は複数の味覚センサプローブ15が挿脱可能となるようにこれらプローブ11、15が上下動可能なアーム機構(図示せず)に支持されている。この味覚センサシステムは、CPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption:吸着作用に基づく膜電位の変化)測定法を採用し、味質毎に味質を検出するセンサ膜が用意され、各センサ膜を備える味覚センサプローブ15が用意されている。ここで、味質には、うま味、酸味、塩味、甘味、渋味及び苦味がある。従って、各味質毎に対応するセンサ膜を備える味覚センサプローブ15が用意されている。
【0019】
この味覚センサプローブ15は、図2(A)に示すように、対応する味質を検出するためのセンサ膜17がチューブ16の貫通孔周囲に固定されている。センサ膜17の表面は、容器11内に露出するように配置され、センサ膜17の反対面は、チューブ16内に収納されている導電性の内部液に露出されている。この内部液には、1例として3.3MKCl飽和AgCl溶液がある。チューブ16内には、センサ電極19が挿入配置され、センサ電極19の先端がセンサ膜17に対向するように導電性の内部液に浸漬されている。この電極19は、リード線19Aを介して電圧検出器20に接続されている。
【0020】
参照電極プローブ11は、図2(B)に示すように、先端開口部が液密な多孔質セラミック18で塞がれたチューブ状のガラス管13で構成され、ガラス管13内には、センサと同様に導電性の内部液が充填され、参照電極12がこの導電性の内部液に浸漬されている。この参照電極12は、リード線12Aを介して電圧検出器20に接続されている。
【0021】
実施例の測定法では、センサ膜及び味物質間に作用する静電/疎水性相互作用による膜電位の変化が電圧信号として出力される。電圧検出器20では、基準液及びサンプル液に対する参照電極12とセンサ電極19との間の電圧が検出され、プローブ12、15が基準液及びサンプル液に浸漬されてからの時間変化が検出される。検出された電圧信号がA/D変換器22でディジタル電圧信号に変換され、ディジタル電圧信号が演算装置23に送られてメモリ23Aに格納される。演算装置23では、基準液におけるセンサ電圧Vrとサンプル液における応答電圧Vsの時間変化を応答値(Vs-Vr)として求め、メモリ23Aに格納している。メモリ23Aは、応答値(Vs-Vr)をデータとして格納し、これら応答値(Vs-Vr)が演算装置23において公知のデータと比較されることによってサンプル液に関する味質が数値化され、出力装置24に出力されて味覚の判定等に供されている。
【0022】
味覚センサ膜17は、図3に示すような脂質高分子膜で構成されている。実施の形態に係る塩味センサ膜17は、図3に模式的に概略構造が示されるように、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)17Aで膜を構成し、膜の柔軟性・疎水性を調整する脂質17B及び膜の荷電性・疎水性を調整する可塑剤17Cで組成されている。塩味センサ膜17の詳細な組成は、後に詳述するが、更に脂質高分子膜中にNaイオノフォア30が混入されている。ここで、脂質17Bの脂質性物質は、原子配列が長手に延びる疎水性部位及びその一端部又はその近くの親水性部位がある分子構造を有している。脂質17B及び可塑剤17Cは、PVC(ポリ塩化ビニル)17Aに固定支持されている。このセンサ膜17は、味物質が含まれる味溶液(水溶液)28に晒されると、脂質高分子膜17Bと味覚物質を含むサンプル水溶液(サンプル液)28中の味物質との間に静電相互作用、疎水性相互作用が働き、センサ膜17の膜電位が変化される。より詳細には、実施形態に係る塩味センサ膜17においては、マイナス電荷の脂質及びイオン排除剤のマイナス電荷により、マイナスの膜電位が発生され、Naイオンがサンプル水溶液に存在すると膜中のナトリウムイオノフォア30に取り込まれてNaのプラス電荷により、プラス方向へ膜電位が変化される。このセンサ膜17の膜電位の変化は、センサ電極19によって検出され、図4に示すように参照電極12の電位との差が電圧信号として応答して出力される。
【0023】
図1に示されるセンサシステムにおける味覚測定は、具体的には、図5に示す手順で実行される。味覚測定の開始(S0)に際して、始めに基準液が用意され、また、味覚測定の対象としての所定の添加物が添加された被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)が用意される。基準液及び被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)は、それぞれ異なる容器10に収納されて測定準備が整えられる。その後、基準液中に参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が浸漬されて参照電極12及びセンサ電極19間の基準値電圧Vrが測定されてメモリ23Aに記憶される(S1)。この基準値電圧Vrが基準範囲内に収まっているかを確認する為に前回測定した基準値と比較される。比較の際に前回測定した基準値と今回測定した基準値電圧Vrとの差が所定値内に収まっている場合には、次のステップS2に移行される。前回測定した基準値と今回測定した基準値電圧Vrとの差が所定値内に収まっていない場合には、再度基準液を測定する為にステップS1が再度実行される。基準液を初めて測定する際には、ステップS1が所定回数繰り返されて平均化されて基準値Vrが決定されてメモリ23Aに記憶される(S1)。次に、被測定溶液(サンプル溶液)に参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が浸漬されて参照電極12及びセンサ電極19間のサンプル電圧Vsが測定されてメモリ23Aに記憶される(S2)。この測定で図4に示すようなセンサ出力が得られる。即ち、当初の基準液の測定で基準値電圧Vrが測定され、その後のサンプル溶液の測定でサンプル電圧Vsが測定され、その結果、サンプル電圧Vsと基準値電圧Vrとの差電圧が応答値(ΔV=Vs-Vr)として演算装置23で演算され、メモリ23Aに格納される。その後、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15は、他の容器10に用意された洗浄液(クリーニング溶液)に浸漬されて参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が洗浄され、再び、ステップS1からステップS4が繰り替えされる。ステップS5において、上記ステップS1からステップS4の繰り返しが所定回数、例えば、5回に達する場合には、差電圧の応答値(ΔV=Vs-Vr)の平均値[ΔVaver=(ΔV1+ΔV2+ΔV3+ΔV4+ΔV5)/5]が求められ、メモリ23Aに格納される。ステップS1からS6の処理である被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)の味覚測定が完了され、次に新たな被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)がある場合には、ステップS1からS6の処理が再度実施される(S7)。次に新たな被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)がない場合には、ステップS8で処理が終了される。
【0024】
上述した差電圧の応答値の平均値ΔVaverから既知の味覚値、例えば、塩味の程度味見の程度を決定することができる。
【0025】
尚、ステップS1において、基準液の測定が繰り返されても測定値が所定範囲から外れる場合には、味覚センサプローブ15の洗浄が不十分或いは洗浄によっても味覚センサプローブ15のセンサ膜が回復しないとされて味覚センサプローブ15は、交換の対象とされる。
【0026】
上述したようにセンサシステムで利用されるこの実施の形態に係る塩味センサ膜17は、マイナスの電荷を有する脂質17B中にNaイオノフォア30が混入された組成を有している。このような組成を有する塩味センサ膜17は、塩味増強効果に基づく塩味を評価することができる
(塩味センサ膜の作成例1)
実施の形態に係る塩味センサ膜は、下記表1に示すように、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)14、マイナスの電荷を有する脂質17BとしてPADE(phosphoric acid di-ne-decyl ester)、可塑剤17CとしてNPOE(2-Nitrophenyl octyl ether)、Naイオノフォア30としてのクラウンエーテル、即ち、Bis[(12-crown-4)methyl] 2-dodecyl-2-methylmalonate及びアニオン排除剤としてTFPB (Tetrakis[3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl] borate, sodium salt)で組成されている。ここで、Bis(12-crown-4)は、Na+イオンを 選択的にとらえてサンドイッチ錯体を形成し、安定化する。
【0027】
【表1】
【0028】
ここで、脂質17BとしてPADE(phosphoric acid di-ne-decyl ester)は、下記化学式(1)を有し、可塑剤17CとしてNPOE(2-Nitrophenyl octyl ether)は、下記化学式(2)を有し、また、NaイオノフォアとしてのBis[(12-crown-4)methyl] 2-dodecyl-2-methylmalonateは、下記化学式(3)を有し、アニオン排除剤としてのTFPB (Tetrakis[3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl] borate, sodium salt)は、下記化学式(4)を有している。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
【化3】
【0032】
【化4】
【0033】
この塩味センサ膜の作成に際しては、上述した高分子材としてのPVC(ポリ塩化ビニル)が180mg、脂質としてのPADE(phosphoric acid di-ne-decyl ester)が20mg~40mg、可塑剤としてNPOE(2-Nitrophenyl octyl ether)が350μl、NaイオノフォアとしてのBis[(12-crown-4)methyl]が18mg、陰イオン素材材としてKalibor(登録商標)(Na-TPB)が3.5mgの割合で混合され、これらが有機溶媒THF(テトラヒドロフラン)に溶解され、直径45mmのシャーレ上で有機溶媒THFが気化されて塩味センサ膜17が作成される。
【0034】
可塑剤の例としては、下記の表2及び表3がある。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
マイナス電荷の脂質には、親水基がPOOH、COOH等がある。また、Naイオノフォアとして、カリックスアレーン系及びクラウンエーテル系があり、カリックスアレーン系は、例えば4-tert-Butylcalix[4]arene-tetraacetic acid tetraethyl esterがある。クラウンエーテル系は、従来からナトリウムイオン選択性電極用のイオノフォアとして実用化されているのは、環状化合物であるクラウンエーテルから誘導されたものである。
【0038】
上述したように作成された塩味センサ膜17は、乾燥後、適切な大きさにカットされて接着剤にてチューブ16に液密に貼り付け固定される。その後、チューブ16内に内部液が格納され、センサ電極19がこの内部液に浸漬されて味覚センサプローブ15が完成される。
【0039】
(測定例1)
図6には、図1に示す塩味センサシステムで測定した測定例として実施形態に係る塩味センサ膜17及び通常のNaイオンセンサ膜におけるNaCl濃度に対するセンサ電位のグラフが示されている。図6に示すグラフにおいて、横軸は、NaCl濃度(mM)を示し、縦軸は、センサ電位(mV)を示している。ここで、グラフGoは、通常のNaイオンセンサ膜17におけるNaCl濃度(mM)に対するセンサ電位(mV)を示し、グラフGxは、実施形態に係る塩味センサ膜17におけるNaCl濃度(mM)に対するセンサ電位(mV)を示している。図6に示されるグラフGo、Gxの比較から明らかなように、実施形態の塩味センサ膜17では、通常のNaイオンセンサと同様にNaClの10倍濃度差に対して約50mVの感度を有している。従って、実施形態に係る塩味センサ膜17は、NaClに対して十分な感応性を有していることを理解することができる。
【0040】
図6から、実施形態の塩味センサ膜17では、NaClの10倍濃度差に対して50mVの感度があり、NaClに対する感度は50log(NaClの濃度)となる。人の感覚も呈味物質の濃度の対数であり、実施形態の塩味センサ膜は、人と同様の感応性を有することとなる。
【0041】
(測定例2)
図7図8及び図9は、バリンの塩味増強効果に基づく評価例を示している。塩味増強効果は分岐鎖アミノ酸でみられ、その1例としてバリンで実験した。ここでNaClの濃度は、170mMでやや薄めの味噌汁の塩分濃度に相当する。NaClが存在しない溶液にバリンを添加した場合の電位変化を×点で、NaClが170mMの濃度の溶液にバリンを添加した場合の電位変化を○点で示している。バリン自体は塩味を呈しないため、NaClが存在しない溶液ではバリンに応答しないことが塩味センサとして必須とされる。一方、170mM濃度のNaCl存在下では、バリン添加により人は塩味を強く感じるので、その効果が出ないといけないこととなる。
【0042】
図7は、通常のNaイオンセンサにおけるバリンを添加した水溶液中における測定例(比較例1)を示している。この比較例では、バリンの添加濃度に対するセンサ出力がグラフR0、R1で示されている。図7においては、横軸は、バリンの添加濃度(mM)を示し、縦軸は、センサ電位(mV)を示している。また、グラフR0は、0mMのNaCl(NaClを含まない水溶液)に対するバリンの添加濃度のセンサ出力の測定例を示し、グラフR1は、170mMのNaClに対するバリンの添加濃度に対するセンサ出力の測定例を示している。グラフR0から明らかなようにバリンのみが添加された水溶液では、バリンの添加濃度に対するセンサ出力の変化は微小である。また、グラフR1から明らかなようにバリンが添加されたNaCl水溶液にあっても、バリンの添加濃度に対するセンサ出力の変化は微小であることが明らかである。従って、通常のNaイオンセンサでは、NaClが存在していてもバリンに応答しておらず、塩味増強効果を評価できないこととなる。
【0043】
図8は、実施形態に係る塩味センサ膜17におけるバリンの添加濃度に対するセンサ出力を示している。図8において、バリンの添加濃度に対するセンサ出力がグラフK0、K1で示されている。図8においては、横軸は、バリンの添加濃度(mM)を示し、縦軸は、センサ電位(mV)を示し、実施形態に係る塩味センサ膜17は、図7との比較から明らかなように、バリンの塩味増強効果に基づく塩味の評価が可能であることを示している。より詳細には、グラフK0は、0mMのNaCl(NaClを含まない水溶液)に対するバリンの添加濃度に対するセンサ出力の測定例を示し、グラフK1は、170mMのNaClに対するバリンの添加濃度に対するセンサ出力の測定例を示している。グラフK0から明らかなようにバリンのみが添加された水溶液では、バリンの添加濃度に対して十分なセンサ出力が得られない。また、グラフK1から明らかなようにバリンが添加されたNaCl水溶液にあっては、バリンの添加濃度に対して十分なセンサ出力の変化が得られている。グラフK0から明らかなように、実施形態の塩味センサ膜17において、NaClが存在していない状態では、バリンの応答は少なく、バリンには、塩味がないことを意味する測定が可能である。これに対して、グラフK1から明らかなように、NaClが存在している場合は、バリン50mMの添加で7mVの変化があり、塩味が増えたことを示している。
【0044】
図9は、実施形態の塩味センサ膜17におけるバリンの添加濃度に対する塩味増強の割合(%)を示し、バリンの塩味増強効果に基づく塩味の評価が可能であることを表している。横軸は、バリンの添加濃度(mM)を示し、縦軸は、170mMのNaClに対する塩味増強の割合(%)を示している。このグラフBxは、バリンの添加濃度(mM)が増加するに従って塩味増強の割合(%)が大きくなることが明らかであり、実施形態の塩味センサ膜17がバリンの添加濃度(mM)に対して十分な感応性を有していることを示している。
【0045】
図8から明らかなように、この実施形態に係るセンサ17の出力変化がΔY(mV)であるとすると、実施形態に係るセンサ17では、もともとの170mMNaClの水溶液に対して、バリンの添加によって10ΔY(mV)/50(mV)×100(%)塩味が強くすることができることとなる。
【0046】
バリンの添加濃度に対する塩味増強の割合(%)の図9のグラフから、30mMのバリンを添加すると、もともとのNaClに対して20%の塩味増強効果が望まれることが明らかである。官能検査によると、バリンのような分岐鎖アミノ酸の場合、30-40mMで、ヒトは、塩味増強効果が出るとのことで、塩味増強効果の程度も人と同様となることが確認されている。他のアミノ酸であるイソロイシンやロイシンでも同様な塩味増強効果が見られる。
【0047】
上述のように、サンプルにNaClが存在しない場合、図6より、実施形態の塩味センサ膜の膜電位は、マイナスとなり、膜表面のマイナス荷電の脂質は、乖離しない状態となり、塩味増強効果のある酸やアミノ酸に反応しないと考えられる。一方、サンプルにNaClが塩味を十分に感じられるほど存在している場合、実施形態の塩味センサ膜の膜電位は、膜表面のNaイオノフォアにサンプル中のNaが固定され、膜電位はプラスとなり、膜表面のマイナス荷電の脂質は乖離し、塩味増強効果のある酸やアミノ酸に応答すると考えられる。結果、Naイオノフォアを味覚センサの脂質膜に埋め込むことで、人の感覚と同様に、塩味増強効果を評価できる。
【0048】
(測定例3)
図10図11及び図12は、クエン酸の塩味増強効果の評価例を示している。塩味増強効果は、酸でもみられ、その代表としてクエン酸で実験している。ここでNaClの濃度は、170mMでやや薄めの味噌汁の塩分濃度に相当する。NaClが存在しない溶液にクエン酸を添加した場合の電位変化を×点で、NaClが170mMの濃度の溶液にクエン酸を添加した場合の電位変化を○点で示している。クエン酸自体は塩味を呈しないため、NaClが存在しない溶液ではクエン酸に応答しないことが塩味センサ膜として必須とされる。一方、170mM濃度のNaCl存在下では、クエン酸添加により人は塩味を強く感じるので、その効果が出ないといけないこととなる。
【0049】
図10は、通常のNaイオンセンサにおけるクエン酸を添加した水溶液中における測定例(比較例2)を示している。この比較例では、クエン酸の添加濃度に対するセンサ出力がグラフR2、R3で示されている。測定例(比較例2)は、クエン酸の塩味増強効果に基づく塩味の評価の比較例を表しているグラフである。図10においては、横軸は、クエン酸の添加濃度(mM)を示し、縦軸は、センサ電位(mV)を示している。また、グラフR2は、0mMのNaCl(NaClを含まない水溶液)に対するクエン酸の添加濃度に対するセンサ出力の測定例を示し、グラフR3は、170mMのNaClに対するクエン酸の添加濃度のセンサ出力の測定例を示している。グラフR2から明らかなようにクエン酸のみが添加された水溶液では、クエン酸の添加濃度に対するセンサ出力の変化は微小である。また、グラフR3から明らかなようにクエン酸が添加されたNaCl水溶液にあっても、クエン酸の添加濃度に対するセンサ出力の変化は、微小であることが明らかである。従って、通常のNaイオンセンサでは、NaClが存在していてもクエン酸に応答しておらず、塩味増強効果を評価できないこととなる。
【0050】
図11は、実施形態に係る塩味センサ膜17におけるクエン酸の添加濃度に対するセンサ出力を示している。図11において、クエン酸の添加濃度に対するセンサ出力がグラフK2、K3で示されている。図11においては、横軸は、クエン酸の添加濃度(mM)を示し、縦軸は、センサ電位(mV)を示し、実施形態に係る塩味センサ膜17は、図10との比較から明らかなように、クエン酸の塩味増強効果に基づく塩味の評価が可能であることを示している。より詳細には、グラフK2は、0mMのNaCl(NaClを含まない水溶液)に対するクエン酸の添加濃度に対するセンサ出力の測定例を示し、グラフK3は、170mMのNaClに対するクエン酸の添加濃度に対するセンサ出力の測定例を示している。グラフK2から明らかなようにクエン酸のみが添加された水溶液では、クエン酸の添加濃度に対して十分なセンサ出力が得られない。また、グラフK3から明らかなようにクエン酸が添加されたNaCl水溶液にあっては、クエン酸の添加濃度に対して十分なセンサ出力の変化が得られている。グラフK2から明らかなように、実施形態の塩味センサ膜17において、NaClが存在していない状態では、クエン酸の応答は少なく、クエン酸には、塩味がないことを意味する測定が可能である。これに対して、グラフK3から明らかなように、NaClが存在している場合は、クエン酸の添加で電位の変化があり、塩味が増えたこと(塩味増強効果)を検出することができる。
【0051】
図12は、実施形態の塩味センサ膜17におけるクエン酸の添加濃度に対する塩味増強の割合(%)を示し、クエン酸の塩味増強効果に基づく塩味の評価が可能であることを表している。横軸は、クエン酸の添加濃度(mM)を示し、縦軸は、170mMのNaClに対する塩味増強の割合(%)を示している。このグラフCxは、クエン酸の添加濃度(mM)が増加するに従って塩味増強の割合(%)が大きくなることが明らかであり、実施形態の塩味センサ膜17がクエン酸の添加濃度(mM)に対して十分な感応性を有していることを示している。
【0052】
上述したように、実施形態の塩味センサ膜17は、NaClが存在しない状況では、クエン酸の応答せず、これは、クエン酸は塩味を感じないという人の感覚と同様となる。NaClが存在する状況では、クエン酸による塩味増強効果を人の感覚と同様に評価できている。
【0053】
サンプルにNaClが存在しない場合、図10より、実施形態の塩味センサ膜の膜電位はマイナスとなり、膜表面のマイナス荷電の脂質は、乖離しない状態となり、塩味増強効果のある酸やアミノ酸に反応しないと考えられる。一方、サンプルにNaClが塩味を十分に感じられるほど存在している場合、実施形態の塩味センサ膜の膜電位は、膜表面のNaイオノフォアにサンプル中のNaが固定され、膜電位はプラスとなり、膜表面のマイナス荷電の脂質は乖離し、塩味増強効果のある酸やアミノ酸に応答すると考えられる。結果、Naイオノフォアを味覚センサの脂質膜に埋め込むことで、人の感覚と同様に、塩味増強効果を評価できる。
【0054】
以上説明したように、実施形態に係る塩味センサ膜は、脂質膜にNaイオノフォアを導入することで、酸味物質や特定のアミノ酸等による塩味増強効果を評価が可能となる。減塩が必要な食品には、約100~300mMの大量のNaClが含まれていて、Naが重要であり、Naイオノフォアと脂質と組み合わせた膜により塩味増強効果を評価できる。
【0055】
以上のように、いくつかの実施形態が説明されているが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10…容器、11…参照電極プローブ、12…参照電極、13…ガラス管、15…味覚センサプローブ、16…チューブ、17…センサ膜、17A…PVC(ポリ塩化ビニル)、17B…脂質、17C…可塑剤、18…多孔質セラミック、19…センサ電極、12A、19A…リード線、20…電圧検出器、22…A/D変換器、23…演算装置、23A…メモリ、24…出力装置、28…水溶液、30…Naイオノフォア
図1
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図12