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  • 特許-吸音パネル及び吸音パネルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】吸音パネル及び吸音パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B64D 33/00 20060101AFI20220729BHJP
   B64C 1/00 20060101ALI20220729BHJP
   B32B 3/12 20060101ALI20220729BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20220729BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20220729BHJP
   F02C 7/045 20060101ALI20220729BHJP
   F02C 7/24 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
B64D33/00 B
B64C1/00 Z
B32B3/12 B
F01D25/00 L
F01D25/00 S
F02C7/00 C
F02C7/00 D
F02C7/00 F
F02C7/045
F02C7/24 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019523537
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2018021486
(87)【国際公開番号】W WO2018225706
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017112560
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000010054
【氏名又は名称】岐阜プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大石 勉
(72)【発明者】
【氏名】北條 正弘
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 晋吾
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-173772(JP,A)
【文献】特開平10-175263(JP,A)
【文献】特開2006-103403(JP,A)
【文献】国際公開第2015/187879(WO,A1)
【文献】特許第3994404(JP,B2)
【文献】実開昭59-067407(JP,U)
【文献】特表平03-501591(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0005937(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 33/00
B64C 1/00
B32B 3/12
F01D 25/00
F02C 7/00
F02C 7/045
F02C 7/24
B32B 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機のジェットエンジンのナセル内周面に取り付けて使用される吸音パネルであって、
第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面との間に延びて複数のセルを区画する複数の隔壁と、を有するハニカム構造体のコア層と、
前記コア層の前記第1面に積層される第1スキン層と、
前記コア層の前記第2面に積層される第2スキン層と、
を備え、
前記コア層、前記第1スキン層及び前記第2スキン層は、吸水率が1.0%以下のナイロンにエラストマーを配合した樹脂製であり、
前記コア層は、変性ポリエチレン又は変性ポリプロピレンによって、前記第1スキン層及び前記第2スキン層に接着されており、
前記第2スキン層の厚みは、前記第1スキン層の厚みより薄く、
前記第1スキン層は、使用時に外部空間に面して配置され、前記複数のセルの内部空間と前記第1スキン層が面する外部空間とを連通させる複数の貫通孔を有し、
前記コア層は、前記複数のセルの内部空間と前記コア層の外部空間とを連通させる複数の開口部を有し、
前記コア層は、前記第1面を形成して前記第1スキン層と接着される外壁を有し、
前記貫通孔は、前記第1スキン層及び前記外壁を貫通している、吸音パネル。
【請求項2】
航空機のジェットエンジンのナセル内周面に取り付けて使用される吸音パネルであって、
第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面との間に延びて複数のセルを区画する複数の隔壁と、を有するハニカム構造体のコア層と、
前記コア層の前記第1面に積層される第1スキン層と、
前記コア層の前記第2面に積層される第2スキン層と、
を備え、
前記コア層、前記第1スキン層及び前記第2スキン層は、吸水率が1.0%以下のナイロンにエラストマーを配合した樹脂製であり、
前記コア層は、変性ポリエチレン又は変性ポリプロピレンによって、前記第1スキン層及び前記第2スキン層に接着されており、
前記第2スキン層の厚みは、前記第1スキン層の厚みより薄く、
前記第1スキン層は、使用時に外部空間に面して配置される外層と、内層と、前記外層と前記内層との間に挟まれた中間層とを有する積層体であり、
前記中間層を構成する樹脂は、前記外層及び前記内層を構成する樹脂より硬質であり、
前記第1スキン層は、前記セルの内部空間と前記外層が面する外部空間とを連通させる複数の貫通孔を有し、
前記コア層は、前記第1面を形成して前記第1スキン層と接着される外壁を有し、
前記貫通孔は、前記第1スキン層及び前記外壁を貫通している、吸音パネル。
【請求項3】
前記ナイロンは、ナイロン6である、請求項1又は2に記載の吸音パネル。
【請求項4】
航空機のジェットエンジンのナセル内周面に取り付けて使用される吸音パネルの製造方法であって、
第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面との間に延びて複数のセルを区画する複数の隔壁と、を有する吸水率が1.0%以下のナイロンにエラストマーを配合した樹脂製のコア層を成形することと、
前記複数のセルの内部空間と前記コア層の外部空間とを連通させる複数の開口部を前記コア層に形成することと、
前記コア層の前記第1面の一部を切削または切断して取り除き、同取り除いた後の前記第1面吸水率が1.0%以下のナイロンにエラストマーを配合した樹脂製の第1スキン層を接合することと、
前記コア層の前記第2面に吸水率が1.0%以下のナイロンにエラストマーを配合した樹脂製の第2スキン層を接合することと、
前記第1スキン層に、前記複数のセルの内部空間と前記第1スキン層が面する外部空間とを連通させる複数の貫通孔を形成することと、
を含む、吸音パネルの製造方法。
【請求項5】
相互に接合された前記第1スキン層、前記コア層及び前記第2スキン層は中空構造体を形成し、前記中空構造体を曲げることをさらに含む、請求項に記載の吸音パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸音パネル及び吸音パネルの製造方法に関する。より詳しくは、航空機のジェットエンジンに取り付けて使用される吸音パネル及び吸音パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機のジェットエンジンの空気流路内で発生する騒音を吸収するために、空気流路に面する位置に取り付けられる吸音パネルがある。ジェットエンジンに取り付けられる吸音パネルとしては、従来から、耐熱性、耐寒性、耐衝撃性に優れた金属製の吸音パネルがある。吸音パネルを金属製にする理由は、地上1万メートル以上の上空での飛行、あるいは、熱帯の砂漠地帯の空港への離着陸等、航空機が晒される環境を考慮するためである。
【0003】
特許文献1には、航空機のジェットエンジン内のファンダクトに設置される吸音パネルが開示されている。ここで開示される吸音パネルは、空気流路に面する表面層と、ファンダクトの壁面に接合される裏面層と、表面層と裏面層との間に挟まれたハニカム層とを有する。空気流路に面する表面層は、ハニカム層に連通する多数の小孔を有する金属板で構成されている。この吸音パネルは、ヘルムホルツ共鳴器として機能することにより、ファンダクト内の騒音を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-4814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジェットエンジンの性能向上を図るために、ナセルの前方からファンケースに取り込んだ空気のうち、燃焼室をバイパスしてナセルの後方に排出させる空気の比率(バイパス比)を高めることがある。これにより、ジェットエンジンの直径が増大し、バイパス流が通過する空気流路内の騒音が増加する。また、ジェットエンジンの直径が増大する分、空気流路の表面積も増加する。そのため、空気流路内の騒音を吸収するための吸音パネルの設置面積が増加する。その結果、吸音パネルの重量が増加する。したがって、従来の金属製の吸音パネルを使用すると、航空機全体の重量が増加し、燃費の向上が図れないという問題が生じる。
【0006】
また、航空機が熱帯の砂漠地帯の空港に離着陸する場合には、ファンダクト内に入り込んだ砂が金属製の吸音パネルの表面を傷付けることがある。吸音パネル表面に傷が付くと、ファンダクト内の気流が乱れやすくなり、航空機の燃焼効率が低下する。
【0007】
本発明の目的は、軽量であり、耐擦傷性に優れた吸音パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する吸音パネルは、航空機のジェットエンジンに取り付けて使用される吸音パネルであって、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面との間に延びて複数のセルを区画する複数の隔壁と、を有する樹脂製のコア層と、前記コア層の前記第1面に積層される樹脂製の第1スキン層と、前記コア層の前記第2面に積層される樹脂製の第2スキン層とを備え、前記第1スキン層は、使用時に外部空間に面して配置され、前記複数のセルの内部空間と前記第1スキン層が面する外部空間を連通させる複数の貫通孔を有し、前記コア層は、前記複数のセルの内部空間と前記コア層の外部空間とを連通させる複数の開口部を有する。
【0009】
上記の構成の吸音パネルは、航空機のジェットエンジンに取り付けて使用されるものであり、第1面及び第2面を有するコア層と、コア層の第1面に積層される第1スキン層及びコア層の第2面に積層される第2スキン層を備えている。そして、コア層、第1スキン層、及び第2スキン層はすべて樹脂製である。そのため、吸音パネル全体を軽量化することができ、ひいては航空機全体の重量増加を抑制することができる。また、第1スキン層が樹脂製であることから、吸音パネルを配置した空気流路内に砂が入り込んだ場合であっても、第1スキン層に傷が付くことが抑制される。したがって、軽量であり、耐擦傷性に優れた吸音パネルが得られる。
【0010】
また、吸音パネルの第1スキン層は、セルの内部空間と第1スキン層の外部空間とを連通させる複数の貫通孔を有する。そのため、吸音パネルがヘルムホルツ共鳴器として機能して、外部空間を伝搬する騒音を好適に吸収することができる。さらに、コア層は、複数のセルの内部空間とコア層の外部空間とを連通させる複数の開口部を有する。例えば、飛行中と着陸時との温度差によって吸音パネルの内部に結露水が生じる場合がある。また、雨水等が吸音パネルの内部に入り込む場合がある。さらに、こうした水は、例えば飛行中に凍って氷の塊となり、吸音パネルに衝撃を与える原因となり得る。この点、吸音パネルは、複数のセルの内部空間とコア層の外部空間とを連通させる開口部を有するため、吸音パネルの内部の結露水や雨水等を、開口部を介して吸音パネルの外部へ排出することができる。コア層の内部に生じる氷の塊等によって吸音パネルに静的衝撃が与えられることを抑制することができる。
【0011】
上記吸音パネルにおいて、前記樹脂はポリアミド樹脂であってもよい。
上記吸音パネルにおいて、前記ポリアミド樹脂は、吸水率が1.0%以下のナイロンであってもよい。
【0012】
上記吸音パネルにおいて、前記ポリアミド樹脂は、ナイロン6であってもよい。
上記の課題を解決する吸音パネルは、航空機のジェットエンジンに取り付けて使用される吸音パネルであって、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面との間に延びて複数のセルを区画する複数の隔壁と、を有する樹脂製のコア層と、前記コア層の前記第1面に積層される樹脂製の第1スキン層と、前記コア層の前記第2面に積層される樹脂製の第2スキン層とを備え、前記第1スキン層は、使用時に外部空間に面して配置される外層と、内層と、前記外層と前記内層との間に挟まれた中間層とを有する積層体であり、前記中間層を構成する樹脂は、前記外層及び前記内層を構成する樹脂より硬質であり、前記第1スキン層は、前記セルの内部空間と前記第1スキン層が面する外部空間とを連通させる複数の貫通孔を有する。
【0013】
上記吸音パネルにおいて、前記コア層は、変性樹脂によって、前記第1スキン層及び前記第2スキン層に接着されていてもよい。
上記吸音パネルにおいて、前記第2スキン層の厚みは、前記第1スキン層の厚みより薄くてもよい。
【0014】
上記吸音パネルにおいて、前記コア層は、前記第1面を形成して前記第1スキン層と接着される外壁を有し、前記貫通孔は、前記第1スキン層及び前記外壁を貫通していてもよい。
【0015】
上記吸音パネルにおいて、前記コア層は、ハニカム構造体であってもよい。
上記の課題を解決する方法は、航空機のジェットエンジンに取り付けて使用される吸音パネルの製造方法であって、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面との間に延びて複数のセルを区画する複数の隔壁と、を有する樹脂製のコア層を成形することと、前記複数のセルの内部空間と前記コア層の外部空間とを連通させる複数の開口部を前記コア層に形成することと、前記コア層の前記第1面に樹脂製の第1スキン層を接合することと、前記コア層の前記第2面に樹脂製の第2スキン層を接合することと、前記第1スキン層に、前記複数のセルの内部空間と前記外層が面する外部空間とを連通させる複数の貫通孔を形成することと、を含む。
【0016】
上記製造方法において、相互に接合された前記第1スキン層、前記コア層及び前記第2スキン層は中空構造体を形成し、前記中空構造体を曲げることをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】航空機のジェットエンジンの構造を説明する図。
図2A】実施形態の吸音パネルの斜視図。
図2B図2Aのα-α線に沿った断面図。
図3A図2Aのα-α線に沿ったコア層の断面図。
図3B図2Aのβ-β線に沿ったコア層の断面図。
図3C図2Aのγ-γ線に沿ったコア層の断面図。
図4図2Aの吸音パネルのコア層の開口部について説明する図。
図5A図2Aの吸音パネルの樹脂構造体のコア層を構成するシート材の斜視図。
図5B図5Aのシート材の折り畳み途中の状態を示す斜視図。
図5C図5Aのシート材を折り畳んだ状態を示す斜視図。
図6】吸音パネルの変更例を説明する図。
図7】開口部の変更例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、吸音パネル及びその製造方法の実施形態について説明する。
図1に示すように、航空機のジェットエンジン1は、作動流体として空気を利用し、前方から吸い込んだ空気を後方に噴出することにより推力を得ている。ジェットエンジン1は、エンジン2と、エンジン2の前方に配置されたファン3とを備える。エンジン2は圧縮室、燃焼室、及びタービンを備える。エンジン2はナセル4内に収容されている。
【0019】
ジェットエンジン1の前方から取り込まれた空気は、ファン3により圧縮される。圧縮された空気の一部がナセル4とエンジン2との間のストラクチャルガイドベーン5を経て空気流路を通ってそのまま後方に噴出し、航空機の推力を生み出す。圧縮された空気の残りはエンジン2内に取り込まれる。取り込まれた空気は圧縮室で圧縮されるとともに燃焼室で燃焼されて、ファン3の駆動源であるタービンを駆動させる。
【0020】
このようなジェットエンジン1は、騒音を吸収するために、騒音が伝搬する外部空間、例えば空気流路に面するように取り付けられる吸音パネル10を備える。騒音は、空気流路で発生する他、ファン3とストラクチャルガイドベーン5との間の空力的な干渉で発生する。
【0021】
吸音パネル10は、例えば図1に示すように、ナセル4の内周面の3箇所、すなわち、ファン3より前方、ファン3とストラクチャルガイドベーン5との間、ストラクチャルガイドベーン5の後方に取り付けられる。吸音パネル10はエンジン2の外周面に取り付けることもできる。なお、図1では、ナセル4の内周面への吸音パネル10の取付け位置がわかりやすいように、ジェットエンジン1を断面視したような形状として、内部の空気流路が見える態様で示している。
【0022】
図2Aに示すように、吸音パネル10は、コア層20と、第1シート層30と、第2シート層40とを備える。コア層20は、第1面と、第1面の反対側の第2面と、第1面と第2面との間に並ぶ複数のセルSと、を含む。第1シート層30はコア層20の第1面(図2Aにおける上面)に積層され、第2シート層40はコア層20の第2面(図2Aにおける下面)に積層される。吸音パネル10は、例えば、第1シート層30が空気流路に面するように、ジェットエンジン1に取り付けられる。なお、以下の説明では、コア層20に対して第1シート層30が位置する側を吸音パネル10の表側または上側、コア層20に対して第2シート層40が位置する側を吸音パネル10の裏側または下側と言うものとする。
【0023】
図2Bに示すように、コア層20は、ポリアミド樹脂製のシート材であって所定形状に成形された一枚のシート材を折り畳んで形成されている。コア層20は、第1外壁21と、第2外壁22と、第1外壁21及び第2外壁22の間に延びる複数の隔壁23とを有する。6つの隔壁23は、六角柱状の筒部を形成する。第1外壁21はコア層20の第1面を形成し、第2外壁22はコア層20の第2面を形成する。第1外壁21、第2外壁22及び6つの隔壁23は、コア層20の内部に六角柱状のセルSを区画形成する。つまり、コア層20の第1外壁21及び第1シート層30は、セルSの表面となる第1壁10aを形成し、コア層20の第2外壁22及び第2シート層40は、セルSの裏面となる第2壁10bを形成する。
【0024】
図2Bは、後述する第1セルS1と第2セルS2とが交互に並設された状態を示す断面図である。また、各図では、コア層20及びシート層30、40の寸法、例えば厚み及び長さは、実際とは異なる寸法で示している。
【0025】
図3A図3Cに示すように、コア層20の内部に区画形成される複数のセルSは、構成の異なる第1セルS1と第2セルS2とを含む。図3A図3Cは、コア層20の構造がわかりやすいように、吸音パネル10から第1シート層30及び第2シート層40を省略した、コア層20のみの断面図を示す。
【0026】
図3Bに示すように、第1セルS1は、二層構造の第1外壁21によって閉塞された第1端と、一層構造の第2外壁22によって閉塞された第1端とを含む。この二層構造の第1外壁21を構成する2つの層は、互いに接合されている。
【0027】
図3Cに示すように、第2セルS2は、一層構造の第1外壁21によって閉塞された第1端と、二層構造の第2外壁22によって閉塞された第2端とを含む。この二層構造の第2外壁22を構成する2つの層は、互いに接合されている。
【0028】
図3B及び図3Cに示すように、隣接する2つの第1セルS1の間、及び隣接する2つの第2セルS2の間は、ともに、二層構造の隔壁23によって区画されている。一方、図3Aに示すように、隣接する第1セルS1と第2セルS2の間は、一層構造の隔壁23によって区画されている。
【0029】
図2Aに示すように、複数の第1セルS1はX方向に並んで列を形成し、複数の第2セルS2はX方向に並んで列を形成する。吸音パネル10は、X方向に直交するY方向に交互に隣接して並ぶ、複数の第1セルS1の列と、複数の第2セルS2の列とを有する。コア層20は、複数の第1セルS1及び複数の第2セルS2を含むハニカム構造を有する。このように形成されたコア層20の第1面及び第2面に、それぞれ第1シート層30及び第2シート層40を接合することにより吸音パネル10が形成される。
【0030】
図2B図3A図3C及び図4に示すように、コア層20は、複数のセルSの内部空間とコア層20の外部空間とを連通させる複数の開口部50を有する。第1セルS1の開口部50は、コア層20の隔壁23を第2シート層40が位置する側から切り欠くような形状で、隔壁23及び一層構造の第2外壁22に形成されている。第2セルS2の開口部50も同様に、コア層20の隔壁23を第2シート層40が位置する側から切り欠くような形状で、隔壁23及び二層構造の第2外壁22に形成されている。
【0031】
図4に示すように、開口部50は、隔壁23の幅方向における略中央の位置に形成されている。また、開口部50は、ハニカム構造を有するコア層20において、1つのセルSを区画する6つの隔壁23のうち相対向する2つの隔壁23を貫通している。なお、図4では、開口部50の形成位置がわかりやすいように、コア層20の隔壁23のみを示している。
【0032】
図2Bに示すように、第1シート層30は、外側(吸音パネル10の表側)に配置されるポリアミド樹脂製の第1スキン層30aと、第1スキン層30aに接合された第1接着層30bとを有する。第1シート層30は二層構造を有する。第1スキン層30aは、第1接着層30bを介してコア層20に接合されている。すなわち、吸音パネル10において、コア層20と第1スキン層30aとの間に第1接着層30bが介在されている。
【0033】
第2シート層40は、第1シート層30と同様に、外側(吸音パネル10の裏側)に配置されるポリアミド樹脂製の第2スキン層40aと、第2スキン層40aに接合された第2接着層40bとを有する。第2シート層40は二層構造を有する。第2スキン層40aは第2接着層40bを介してコア層20に接合されている。すなわち、吸音パネル10においてコア層20と第2スキン層40aとの間に第2接着層40bが介在されている。
【0034】
図2A及び図2Bに示すように、吸音パネル10の第1壁10aは、複数のセルSの内部空間と第1スキン層30aが面する外部空間とを連通させる複数の貫通孔60を有する。より詳細には、図2Bに示すように、第1セルS1に連通する貫通孔60は、第1シート層30及びコア層20における二層構造の第1外壁21を貫通する。第2セルS2に連通する貫通孔60は、第2シート層40及びコア層20における一層構造の第1外壁21を貫通する。本実施形態では、貫通孔60は各セルSの略中央部分に1箇所設けられている。
【0035】
コア層20、第1スキン層30a、及び第2スキン層40aに使用されるポリアミド樹脂は、公知のナイロン樹脂であってもよく、例えば、ナイロン6であってもよい。ナイロン樹脂は、耐擦傷性(耐摩耗性)、耐衝撃性、耐熱性、耐寒性、耐油性、耐薬品性に優れ、機械的強度に優れる。ナイロン樹脂の例は、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612等である。これらナイロン樹脂の中でも、適度な弾性(柔軟性)を有するナイロン6は、耐擦傷性、耐衝撃性に優れる。
【0036】
コア層20、第1スキン層30a、及び第2スキン層40aを形成する樹脂は、ポリアミド樹脂にエラストマーを配合したポリアミド系エラストマー樹脂としてもよい。ポリアミド系エラストマー樹脂は、弾性(柔軟性)に優れるため、吸音パネル10を構成する各層の耐衝撃性の向上に貢献する。吸音パネル10を構成する各層のうち、少なくとも外部空間に面して配置される第1スキン層30aは、ポリアミド系エラストマー樹脂により形成してもよい。また、第1スキン層30aのみをポリアミド系エラストマー樹脂により形成し、コア層20及び第2スキン層40aはエラストマーを配合しないポリアミド樹脂により形成してもよい。こうすると、吸音パネル10は、外部空間に面する表面の耐衝撃性を有しつつ、強度を好適に保持することができる。
【0037】
吸音パネル10の加工容易性の観点から言えば、ナイロン樹脂の中でも、吸水率が0.5%以上1.0%以下のナイロン樹脂が好ましく、0.5%以上0.7%以下のナイロン樹脂がより好ましく、0.5%以上0.6%以下のナイロン樹脂がさらに好ましい。吸水率をこの範囲にすると、吸音パネル10の成形工程中や保管時、或いは、吸音パネル10の製造時に、ナイロン樹脂が空気中の水分を吸収して発泡することが抑制される。
【0038】
第1シート層30の第1接着層30bは、官能基をポリオレフィンに導入して接着性を付与した変性樹脂である変性ポリオレフィン系接着剤、例えば、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンで形成されている。第1シート層30は、例えば、共押出成形により第1スキン層30a及び第1接着層30bが一体化された状態で製造してもよいし、それぞれ独立して製造した第1スキン層30a及び第1接着層30bを熱溶着により接合してもよい。
【0039】
第2シート層40の第2スキン層40a及び第2接着層40bは、それぞれ第1シート層30の第1スキン層30a及び第1接着層30bと同じ材料で形成してもよい。第2シート層40の第2接着層40bは、第1シート層30の第1接着層30bと同じ厚みに形成してもよい。一方、図2Bに示すように、第2シート層40の第2スキン層40aは、第1シート層30の第1スキン層30aより薄く形成してもよい。
【0040】
コア層20の厚みは、吸音の対象とする周波数でヘルムホルツ共鳴するように設定することができる。ヘルムホルツ共鳴周波数は、セルSの内部体積、第1シート層30の厚み、及び、貫通孔60の断面積、すなわち1つのセルSに貫通孔60が複数箇所形成されている場合は1つのセルSでの貫通孔断面積の総和などに基づいて設定される。第1シート層30の厚みは、吸音の対象とする周波数、吸音パネル10として要求される曲げ強度、または耐衝撃性に応じて適宜設定されるが、例えば0.5~1.5mm程度とすることができる。また、第2シート層40の厚みは特に限定されないが、例えば0.4~1.0mm程度にすると、軽量化に貢献する。
【0041】
次に、吸音パネル10の製造方法について説明する。吸音パネル10の製造方法は、コア層20を成形する工程、コア層20に開口部50を形成する工程、コア層20に第1シート層30及び第2シート層40を接合して中空構造体を形成する工程、中空構造体を曲げる工程、中空構造体に端面処理を施す工程、中空構造体に貫通孔60を形成する工程を含む。なお、これらの工程を行う順序は、相互に入れ替わることがあってもよい。例えば、コア層20に開口部50を形成する工程を、中空構造体に貫通孔60を形成する工程の後に行ってもよい。
【0042】
まず、一枚のシート材100を折り畳んでコア層20を成形する工程について説明する。
図5Aに示すように、一枚のポリアミド製のシートを所定の形状に成形することにより、シート材100を形成する。シート材100には、帯状をなす平面領域110及び膨出領域120がその幅方向(X方向)に交互に配置されている。膨出領域120には、膨出領域120の延びる方向(Y方向)の全体にわたって延びる第1膨出部121が形成されている。
【0043】
第1膨出部121は、平面領域110よりも膨出した膨出面と、膨出面と交差する2つの接続面とを有して、下方に向けて開口する溝に似た形状を有する。第1膨出部121の膨出面は接続面と直交してもよい。
【0044】
第1膨出部121の幅、すなわち膨出面の短手方向の長さは、平面領域110の幅と等しく、かつ第1膨出部121の膨出高さ、すなわち接続面の短手方向の長さの2倍の長さである。
【0045】
図5Aに示すように、膨出領域120には、その断面形状が正六角形を最も長い対角線で二分して得られる台形状をなす複数の第2膨出部122が形成されている。複数の第2膨出部122は、第1膨出部121と直交する。第2膨出部122の膨出高さは第1膨出部121の膨出高さと等しい。また、隣り合う2つの第2膨出部122間の間隔は、第2膨出部122の膨出面の幅と等しい。
【0046】
第1膨出部121及び第2膨出部122は、シートの塑性を利用してシートを部分的に膨出させることにより形成されている。また、シート材100は、真空成形法や圧縮成形法等の周知の成形方法によって1枚のシートから成形することができる。
【0047】
図5A及び図5Bに示すように、上述のように構成されたシート材100を、境界線P、Qに沿って折り畳むことでコア層20が形成される。より詳細には、シート材100を、平面領域110と膨出領域120との境界線Pにて谷折りするとともに、第1膨出部121の膨出面と接続面との境界線Qにて山折りして、X方向に圧縮する。
【0048】
続いて、図5B及び図5Cに示すように、第1膨出部121の膨出面と接続面とを折り重ねるとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110とを折り重ねる。これにより、一つの膨出領域120に対して一つのY方向に延びる角柱状の区画体130が形成される。こうした区画体130がX方向に連続して形成されることにより、板状のコア層20が形成される。
【0049】
このとき、第1膨出部121の膨出面と接続面に相当する部分がコア層20の第1外壁21を形成するとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110に相当する部分がコア層20の第2外壁22を形成する。なお、図5Cに示すように、第1外壁21における第1膨出部121の膨出面と接続面とが折り重なって二層構造を形成する部分、及び第2外壁22における第2膨出部122の端面と平面領域110とが折り重なって二層構造を形成する部分が、ともに重ね合わせ部131となる。
【0050】
図5Cに示すように、第2膨出部122が折り畳まれて区画形成される六角柱状の領域が第2セルS2となるとともに、隣り合う2つの区画体130の間に区画形成される六角柱状の領域が第1セルS1となる。本実施形態では、第2膨出部122の膨出面及び接続面が第2セルS2の隔壁23を構成するとともに、第2膨出部122の接続面と、膨出領域120における第2膨出部122間に位置する平面部分とが第1セルS1の隔壁23を構成する。そして、第2膨出部122の膨出面同士の当接部位、及び膨出領域120における上記平面部分同士の当接部位が二層構造を有する隔壁23となる。また、第1セルS1の第1端は、2つの重ね合わせ部131によって閉塞され、第2セルS2の第2端は、2つの重ね合わせ部131によって閉塞される。なお、こうした折り畳み工程を実施するに際して、シート材100を加熱処理して軟化させておいてもよい。
【0051】
続いて、このようにして得られたコア層20に開口部50を形成する。開口部50は、開口冶具、例えばドリル、針、パンチまたは加熱棒を、コア層20の側面からコア層20の第2外壁22に沿うように貫通させることにより形成することができる。
【0052】
開口冶具は、図2AのY方向において隣り合う2つのセルSの中心間の間隔と略同一の間隔で複数配列される。開口冶具の下端縁は、コア層20の下面(第2外壁22の下面)に対応する位置に配置される。複数の開口冶具をコア層20と図2AのX方向に並べ、その後、開口冶具をX方向に相対移動させることにより、コア層20に複数の開口部50を同時に形成することができる。開口部50は、開口冶具をコア層20の第2外壁22が位置する側から隔壁23に向けて移動させることにより形成してもよい。
【0053】
これにより、第1セルS1では、コア層20の隔壁23を第2外壁22が位置する側から切り欠くような形状で開口部50がコア層20の隔壁23と一層構造の第2外壁22に形成される。また、第2セルS2でも同様に、開口部50がコア層20の隔壁23と二層構造の第2外壁22に形成される。開口部50は、コア層20の側方に向けて開口するとともに、開口部50の下端は、下方(吸音パネル11の裏面)に向かって開口した状態となる。
【0054】
複数のセルS、複数の開口部50及び複数の貫通孔60は、吸音パネル10が広がる方向(吸音パネル10の面方向)、すなわち、吸音パネル10が延びるX方向及びY方向に沿って並ぶ。X方向及びY方向は、吸音パネル10の厚さ方向と直交する方向である。
【0055】
次に、コア層20の第1面に第1シート層30を熱溶着により接合するとともに、コア層20の第2面に第2シート層40を熱溶着により接合する。これにより、コア層20及びシート層30、40を含む中空構造体が形成される。
【0056】
第1シート層30及び第2シート層40をコア層20に熱溶着する際の加熱温度は、シート層30の接着層30b及びシート層40の接着層40bのそれぞれの融点よりも数℃~十数℃高い温度に設定される。具体的には、加熱温度は、各接着層30b、40bを構成する変性樹脂である変性ポリオレフィン系接着剤の融点よりも数℃程度高く設定されている。この加熱温度は、コア層20及び各スキン層30a、40aを構成するポリアミド樹脂を軟化せるための成形温度に対して十分に低く設定されている。
【0057】
各シート層30、40をコア層20に熱溶着する際の加熱時間は、各シート層30、40の同じ箇所を長時間加熱しすぎないように、数秒~十数秒に設定される。そのため、コア層20及び各スキン層30a、40aの温度は、軟化溶融する程の高温には至らない。したがって、加熱温度を厳密に管理しなくとも、各接着層30b、40bのみを軟化溶融させることが可能になる。
【0058】
次に、中空構造体を、吸音パネル10の配置箇所に合わせた形状、本実施形態では、ナセル4の内周面に沿う湾曲板になるように曲げ加工する。
中空構造体の曲げ加工では、例えば、吸音パネル10を配置する部位の形状にあわせた2つの加熱板を準備し、加熱した2つの加熱板で中空構造体を挟んで、中空構造体を加熱しながら変形させる。中空構造体を曲げる時の加熱温度は、コア層20及び各シート層30、40におけるポリアミド系樹脂の融点よりも数℃程度高く設定されている。加熱時間は、中空構造体が長時間加熱されて溶融しないように、数秒~十数秒に設定される。
【0059】
続いて、変形された中空構造体に端面処理を施す。また、中空構造体の第1シート層30が位置する側から貫通孔60を形成する。
貫通孔60は、貫通冶具、例えばドリル、針またはパンチを中空構造体の第1壁10aに挿し込んで形成する。複数の貫通冶具を、隣り合う2つのセルSの中心間の間隔と略同一の間隔で並べて使用してもよい。並んだ複数の貫通冶具の先端を中空構造体に向けて、複数の貫通冶具を相対移動させると、中空構造体に複数の貫通孔60を同時に形成することができる。複数の貫通孔60が形成されることにより、中空構造体の吸音性能が向上した吸音パネル10が得られる。得られた吸音パネル10では、第1壁10aにおける各セルSの略中央部分に1箇所ずつの貫通孔60が形成されている。
【0060】
以上の各工程を経て、航空機のジェットエンジンに適用できる吸音パネル10が製造される。
本実施形態の吸音パネル10によれば、次のような効果を奏することができる。
【0061】
(1)吸音パネル10が有するコア層20、第1シート層30及び第2シート層40は、ポリアミド系樹脂で形成されているので、吸音パネル10を軽量化することができる。そのため、吸音パネル10を取り付けた航空機が軽量化し、航空機の燃費効率が向上する。
【0062】
(2)金属製の吸音パネルの表面は傷が付きやすく、その傷により外部空間、例えば空気流路内の気流が乱れやすくなる。その点、吸音パネル10は、樹脂製であることから耐擦傷性に優れる。そのため、砂漠地帯の空港等に離着陸する航空機に取り付けられた吸音パネル10に砂または埃が接触しても、吸音パネル10が傷付き難い。
【0063】
(3)樹脂製の吸音パネル10は、金属製の吸音パネルと比べて、形状を容易に変更できる。例えば、所定形状の加熱板を吸音パネル10に押し当てることにより、吸音パネル10を容易に変形させることができる。そのため、配置する部位の形状に沿うように自由な設計をすることができる。例えば、吸音パネル10をエンジン2の外周面または空気流路の形状に合わせて円弧状にすることが容易である。また、配置する部位の凹凸形状に沿うように凹凸を形成することも容易である。さらに、吸音パネル10を加熱溶融させて吸音パネル10同士を熱溶着して側面同士を接合させたり、複数層にしたりすることも容易である。なお、吸音パネル10同士の接合は、樹脂を加熱溶融させて熱溶着させる以外にも、固定具、例えばボルト及びナットによっても接合することができる。
【0064】
(4)吸音パネル10は、樹脂、例えばポリアミド樹脂により形成される。ポリアミド樹脂、特にその中でもナイロン樹脂を使用することで、耐擦傷性(耐摩耗性)、耐衝撃性、耐熱性、耐寒性、耐油性、耐薬品性に優れ、機械的強度に優れた吸音パネル10が得られる。航空機が-70℃に及ぶ低温に晒される上空を飛行中であっても、60℃に及ぶ高温に晒される砂漠地帯の空港等に離着陸する場合であっても、吸音パネル10としての強度を保持することができる。また、樹脂製の吸音パネル10は、異物、例えば砂または埃が接触しても傷が付きにくい。さらに、ナイロン6のような柔軟性に優れたポリアミド樹脂の吸音パネル10は、例えば、飛行中にジェットエンジン内に鳥が衝突したり、雲の中の氷が衝突したりしても、衝突の衝撃を吸収することができる。衝突部分を起点として吸音パネル10の破壊が進むことが抑制される。
【0065】
(5)吸水率が所定値以上のポリアミド樹脂で吸音パネル10を成形すると、吸音パネル10の成形工程中に、ポリアミド樹脂が空気中の水分を給水して発泡することがある。この点、吸水率が1.0%以下のナイロン樹脂を採用することにより、ポリアミド樹脂の発泡が抑制され、吸音パネル10を成形する時または曲げ加工を行うときに、加工が容易になる。
【0066】
(6)吸音パネル10の第1壁10aは複数の貫通孔60を有する。そのため、吸音パネル10がへルムホルツ共鳴器として機能して、騒音が伝搬する外部空間、例えばジェットエンジンの空気流路内の騒音を吸収することができる。
【0067】
(7)貫通孔60の数、形状または大きさを変更することで、狙い通りの吸音効果を得ることができる。また、コア層20の厚み及び各セルSの内部空間の容積のうち少なくとも一方を変更することで、狙い通りの吸音効果を得ることができる。
【0068】
(8)コア層20は、第1面及び第2面に、一層構造或いは二層構造の壁21、22が接合されている。そのため、コア層20と第1シート層30が面接合となるとともに、コア層20と第2シート層40が面接合となる。この場合、ハニカム構造体の両面にそれぞれシート層30、40が接合された場合、または、隔壁のみからなるハニカム体の両面にそれぞれシート層30、40が接合された場合に比べて、吸音パネル10の強度が高い。
【0069】
(9)コア層20の隔壁23及び第2外壁22の一部には、複数のセルSの内部空間とコア層20の外部空間とを連通させる複数の開口部50が形成されている。そのため、ジェットエンジンが大きな温度差に晒された場合であっても、吸音パネル10の内部で結露した水分を吸音パネル10の外に排出することができる。
【0070】
(10)吸音パネル10の第1壁10aの外面は、貫通孔60が形成されている部分以外は平坦面である。そのため、第1壁10aを外部空間、例えばジェットエンジンの空気流路に面するように配置したとしても、気流の乱れを起こしにくい。したがって、航空機の燃費の低下を抑制することができる。
【0071】
(11)コア層20の第1セルS1に連通する貫通孔60は、二層構造の第1外壁21及び第1シート層30を貫通し、コア層20の第2セルS2に連通する貫通孔60は、一層構造の第1外壁21及び第1シート層30を貫通する。このように、貫通孔60が一層構造の第1外壁21の部分と二層構造の第1外壁21の部分に交互に形成されているため、第1外壁21が一層構造の場合に比べ、貫通孔60が形成されることによる吸音パネル10の強度低下が抑制される。
【0072】
(12)貫通孔60が形成された各セルSの中央付近では、コア層20の第1外壁21と第1シート層30との間に接合されていない部分が存在することがある。この場合、接合されていない部分では、第1外壁21と第1シート層30との間にごく僅かな空気層が存在することになる。そのため、吸音パネル10の吸音性能を向上させることができる。
【0073】
(13)第1シート層30及び第2シート層40をコア層20に熱溶着する際の加熱温度は、シート層30の接着層30b及びシート層40の接着層の各融点よりも数℃~十数℃高い温度に設定される。また、各シート層30、40をコア層20に熱溶着する際の加熱時間は数秒~十数秒に設定される。そのため、コア層20及び各スキン層30a、40aの温度は、軟化溶融する程の高温には至らない。したがって、加熱温度を厳密に管理しなくとも、各接着層30b、40bのみを軟化溶融させて熱溶着させることができる。
【0074】
(14)コア層20とスキン層30aとを接着する接着層30b及びコア層20とスキン層40aとを接着する接着層40bは、官能基をポリオレフィンに導入して接着性を付与した変性樹脂である変性ポリオレフィン系接着剤、例えば変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンで構成されている。そのため、コア層20に対する各スキン層30a、40aの剥離強度が向上する。
【0075】
(15)第2スキン層40aを第1スキン層30aより薄くすることで、吸音パネル10を軽量化することができる。この場合、第2スキン層40aよりも相対的に厚い第1スキン層30aは収縮率が高い。そのため、吸音パネル10は、表面の収縮量が裏面の収縮量よりも大きくなるような態様で湾曲しやすくなる。したがって、中空構造体の曲げ加工の際に、縮めたい一面のスキン層を厚くし、延ばしたい他面のスキン層を薄くすると、中空構造体を曲げやすい。
【0076】
(16)コア層20のセルSは、一層構造の第1外壁或いは第2外壁か、二層構造の第1外壁或いは第2外壁で閉塞されている。そのため、コア層20と第1シート層30との接着面積、及び、コア層20と第2シート層40との接着面積が広く、剥離強度が優れている。上空で鳥または氷塊がジェットエンジン内に入って吸音パネル10が損傷を受けた場合であっても、損傷部分の飛散を抑制することができる。
【0077】
(17)コア層20は、連続したハニカム構造体として形成されている。そのため、吸音パネル10全体の衝撃強度が向上する。
上記実施形態は以下のように変更することができる。また、上記実施形態の各構成及び以下の各変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせることができる。
【0078】
・コア層20は、一枚のシート材100を折り畳んで形成する他、複数のシートを使用して形成してもよい。例えば、帯状のシートを所定間隔毎に屈曲させるとともに、屈曲させた帯状のシートを複数並べることにより、コア層を形成してもよい。
【0079】
・コア層20は、シートを折り畳んだり屈曲させたりして成形するものに限らない。例えば、隔壁23のみからなるハニカム構造体を射出成形してもよい。
・上記実施形態では、コア層20の内部に六角柱状のセルSが区画形成されていたが、セルSの形状は、特に限定されるものでなく、例えば、四角柱状または八角柱状等の多角形状であってもよいし、円柱状であってもよい。その際、異なる形状のセルが混在していてもよい。また、各セルは隣接していなくともよく、2つのセルの間に隙間(空間)が存在していてもよい。
【0080】
・吸音パネル10として、例えば、シート状のシート本体から一方側に向かって膨出する複数の中空柱部が複数のセルを形成するコア層を準備し、そのコア層におけるセルの膨出面とその膨出面とは反対側のコア層の部分とにそれぞれシート層30、40を接合するようにしてもよい。あるいは、中空柱状のセルが複数形成された2つのシート本体を準備し、そのセルの膨出面同士を接合することによって二層構造のコア層を構成してもよい。シート本体から膨出する中空柱部は、膨出する方向に径が一定の円柱形状であってもよいし、膨出面に向かうにつれて径が小さくなる円錐台の形状であってもよい。
【0081】
・シート層30の接着層30b及びシート層40の接着層40bは、ポリアミド樹脂系エラストマーで形成されるものに限らない。例えば、融点がコア層20及び各スキン層30a、40aを構成するポリアミド樹脂より低いものであれば、熱溶着時にコア層20及び各スキン層30a、40aを軟化溶融させることなく、各接着層30b、40bのみを軟化溶融させることができる。
【0082】
・吸音パネル10を配置する場合に、外部空間に露出する第1スキン層30aをポリアミド樹脂にエラストマーを配合した材料から形成し、コア層20及び第2スキン層40aはエラストマーを配合しないポリアミド樹脂から形成してもよい。こうすることで、吸音パネル10の表面での耐衝撃性を向上させつつ、吸音パネル10の強度を好適に保持することができる。
【0083】
・上記実施形態では、シート層30のスキン層30a及びシート層40のスキン層40aを一層構造としているが、二層以上の積層体として構成してもよい。
例えば、図6に示すように、第1スキン層30aを、内層31と、外層33と、内層31と外層33とで挟まれた中間層32とを有する積層体としてもよい。この場合、層31、32、33を、互いに硬度の異なるポリアミド樹脂で形成してもよい。例えば、中間層32を相対的に硬度が高いポリアミド樹脂で形成し、中間層32を挟む層31、33を相対的に硬度が低いポリアミド樹脂で形成する。こうすることで、耐衝撃性を好適に調整することが可能となる。つまり、相対的に軟質の層31、33が衝撃を吸収し、相対的に硬質の中間層32が、衝撃を面として受けるための剛性を備えることができる。
【0084】
また、ハニカム構造体のコア層、例えば円錐台形状または円柱形状のセルが複数並設されたコア層に衝撃が加わると、特に、コア層の隔壁と第1外壁との接合部分に傷が生じ、その部分を起点として傷がコア層全体に広がりやすい。この点、中間層32が面として衝撃に対抗し、内側に位置する内層31が面全体で衝撃を吸収しつつコア層に衝撃を伝搬させることにより、傷の広がりを抑制することができる。
【0085】
三層構造の第1スキン層30aは、例えば、ポリアミド樹脂であるナイロン12で形成し、必要に応じてエラストマーを適宜配合したナイロン12エラストマー樹脂で形成することにより、その硬度を調整することができる。
【0086】
・第1スキン層30aと第2スキン層40aとで層構造を異ならせてもよい。例えば、スキン層30a、40aのうち一方を二層以上の構造とし、他方を一層構造としてもよい。
【0087】
・スキン層が積層体である場合、積層体を構成する複数の層の厚みは同じでもよいし、相互に異なってもよい。例えば、第1スキン層30aを三層構造とする場合、層31、33の厚みを同じとし、中間層32の厚みを層31、33の厚みより薄くしてもよい。あるいは、中間層32の厚みを、層31、33の厚みの約2倍にしてもよい。
【0088】
・第1スキン層30aの外面に、ポリアミド樹脂以外の樹脂層、例えばアクリル層を形成してもよい。これにより、耐擦傷性を向上させたり、耐衝撃性を向上させたりすることができる。こうした層構造は、第1シート層30と第2シート層40とで異なってもよい。
【0089】
・第1スキン層30aの厚みと第2スキン層40aの厚みを同じにしてもよい。あるいは、第1スキン層30aを第2スキン層40aより薄くしてもよい。
・コア層20の開口部50は、第2シート層40にまで及んでもよい。こうした開口部50は、コア層20に第1シート層30及び第2シート層40を接合した後、開口冶具、例えば、ドリル、針、パンチ、または加熱棒を第2シート層40に沿って挿し込んだり、開口冶具の先端を第2シート層40に挿し込んだりして形成することができる。
【0090】
・コア層20の隔壁23を貫通する開口部50は、第2シート層40が位置する側から切り欠かれるような形状でなくてもよい。例えば、図7に示すように、開口部50は、隔壁23の中央付近を貫通する円孔であってもよい。また、開口部50は、隣り合う2つの隔壁23にわたって形成されてもよい。なお、図7では、開口部50の位置及び形状がわかりやすいように、コア層20の隔壁23のみを示している。
【0091】
・開口部50は、1つのセルSを区画する6つの隔壁23のうち相対向する2つの隔壁23のみでなく、任意の隔壁23に設けてもよい。例えば、1つのセルSを区画する6つの隔壁23すべてに開口部50を設けてもよい。
【0092】
・開口部50は、すべてのセルSに設けなくてもよく、一部のセルSのみに設けてもよい。
・開口部50は、開口冶具、例えばドリル、針、パンチまたは加熱棒をコア層20の第2外壁22に沿うように貫通させるか、或いは、隔壁23に直交するように貫通させて、セルSの対向する2つの隔壁23に形成した。つまり、各セルSの対向する2つの隔壁23に貫通孔を形成するために、複数の開口冶具を、隣り合う2つのセルSの中心同士の間隔と略同一の間隔で並べて、複数の隔壁23に同時に差し込んだ。しかし、これに限らず、複数の開口冶具の間隔をセルSのピッチより狭くして、開口部50が形成される間隔をセルSのピッチより狭くしてもよい。この場合、必ずしも、互いに対向する2つの隔壁23に開口部50が形成される態様とはならないが、複数の開口冶具を差し込む位置がずれたとしても、少なくとも各セルSに一つの開口部50を形成することができる。
【0093】
また、コア層20を折り畳む際にセルSの位置が適切な位置からずれて、吸音パネル10の成形時にセルSのピッチに成形誤差が生じる場合がある。この場合、開口冶具の間隔をセルSのピッチより狭くすれば、セルSのピッチの成形誤差が生じたとしても少なくとも各セルSに一つの開口部50を形成することができる。
【0094】
なお、開口冶具の間隔がセルSのピッチより広くなるようにしてもよい。
・上記実施形態では、貫通孔60は、各セルSの第1端の略中央部分に1つ設けられているが、貫通孔60の個数及び位置はこれに限定されない。例えば、各セルSに複数の貫通孔60を設けてもよい。この場合、例えば、貫通孔60を形成する工程において、複数の貫通冶具が並ぶ間隔を、隣り合うセルSの中心同士の間隔より小さくすればよい。これにより、各セルSに少なくとも一つの貫通孔60を形成することができる。また、貫通孔60はすべてのセルSに形成せず、一部のセルSのみに形成してもよい。
【0095】
・貫通孔60の形状は特に限定されない。例えば、貫通孔60の断面形状が円形または矩形でもよいし、不定形状であってもよい。また、貫通孔60の周囲に、第1壁10aが曲げられてなる曲げ片が形成されていてもよい。例えば、貫通孔60を形成する際に先鋭状の貫通冶具を使用すると、貫通冶具が中空構造体の第1壁10aを貫通する際、貫通冶具の先端が第1壁10aに孔を開ける。貫通冶具がさらにセルSの内方へ進んでいくと、貫通冶具は、孔が開けられた第1壁10aの周囲をセルSの内方へ押していく。これにより、貫通孔60が形成された部分では、第1壁10aがセルSの内方へ曲げられて曲げ片が形成されることになる。この場合、貫通孔60の開口部分では、第1壁10aと曲げ片の境界が湾曲し、曲げ片の先端縁は、セルSの内部空間に位置している。
【0096】
・上記実施形態では、中空構造体を湾曲板とするために加熱板による曲げ加工を行ったが、加熱板による曲げ加工に限定されない。例えば、加熱炉内に中空構造体及び曲げ加工用の冶具を入れて加熱後、加熱された中空構造体を冶具で挟んで曲げ加工してもよい。或いは、中空構造体を加熱して曲げるのではなく、中空構造体のシート層30、40のうち一方の一部、あるいは、シート層30、40のうちの一方及びコア層20の一部を、切削または切断して取り除き、新たなシート層を接合して湾曲板としてもよい。切削または切断する形状によって所望の曲面を形成することができる。
【0097】
・上記実施形態では、中空構造体が同じ肉厚の湾曲板となるように曲げ加工したが、中空構造体の肉厚を変化させるような加工を行ってもよい。例えば、中空構造体の一部でその肉厚を薄くしたり、中空構造体の表面に凹凸形状を形成したりするような加工を、曲げ加工と同時に、或いは曲げ加工の前または後で行ってもよい。この場合、例えば、表面に凹凸形状が形成された加熱板を用いるとよい。
【0098】
・吸音パネル10を取り付ける部分の形状によっては、吸音パネル10を曲げ加工しいなくてもよい。この場合、中空構造体を曲げる工程を省略して、中空構造体に貫通孔60を形成すればよい。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7