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特許7113462回転工具のバランス及び振れ調整システム、バランス及び振れ計測装置、バランス及び振れ調整方法、及び、工具ホルダ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】回転工具のバランス及び振れ調整システム、バランス及び振れ計測装置、バランス及び振れ調整方法、及び、工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20220729BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
B23Q11/00 B
B23Q17/24 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020503223
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2018007941
(87)【国際公開番号】W WO2019167242
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-11-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000205834
【氏名又は名称】BIG DAISHOWA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518042372
【氏名又は名称】大昭和精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】矢内 正隆
(72)【発明者】
【氏名】上村 孝一
(72)【発明者】
【氏名】辻田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】大橋 麗奈
(72)【発明者】
【氏名】隈崎 俊介
(72)【発明者】
【氏名】船職 彰人
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-009244(JP,A)
【文献】特開2002-219629(JP,A)
【文献】特開2010-274375(JP,A)
【文献】特開2004-066443(JP,A)
【文献】特表2014-505599(JP,A)
【文献】特開2001-138162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23Q 17/00、24
B23Q 3/12
B23B 31/02
G01M 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転主軸に取付けられる工具ホルダに工具が装着されて構成される回転工具と、
前記回転工具に向けて照射光を発する投光部と
前記照射光を受光する受光部と、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記工具ホルダの所定位置に所定質量を付加した場合と付加しない場合とについて、それぞれ前記受光部が受光した前記照射光を用いて前記回転工具の外周を直接測定することで前記回転工具の外周位置データを取得し、前記所定質量の付加の有無による外周位置データの比較から前記回転工具の質量バランスを計測するバランス計測装置と、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記回転工具の形状データを取得し、当該形状データから前記回転工具の振れ量を計測する振れ計測装置と、を備え、
前記回転工具が、前記回転主軸に取付けられた状態で前記バランス計測装置の計測結果に基づく前記質量バランスの調整が可能であるとともに、前記回転主軸に取付けられた状態で前記振れ計測装置の計測結果に基づく前記振れ量の調整が可能に構成されている回転工具のバランス及び振れ調整システム。
【請求項2】
回転主軸に取付けられる工具ホルダに工具が装着されて構成される回転工具と、
前記回転工具を撮像する撮像素子と、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記工具ホルダの所定位置に所定質量を付加した場合と付加しない場合とについて、それぞれ前記回転工具の外周位置データを前記撮像素子による撮像画像に基づいて取得し、前記所定質量の付加の有無による外周位置データの比較から前記回転工具の質量バランスを計測するバランス計測装置と、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記回転工具の形状データを前記撮像素子による撮像画像に基づいて取得し、当該形状データから前記回転工具の振れ量を計測する振れ計測装置と、を備え、
前記回転工具が、前記回転主軸に取付けられた状態で前記バランス計測装置の計測結果に基づく前記質量バランスの調整が可能であるとともに、前記回転主軸に取付けられた状態で前記振れ計測装置の計測結果に基づく前記振れ量の調整が可能に構成されている回転工具のバランス及び振れ調整システム。
【請求項3】
前記振れ計測装置が、
前記回転工具を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子による撮像を所定時間毎に実行する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記所定時間を前記回転工具の回転周期の半分未満の時間又は/及び回転周期よりも長い時間に設定可能である請求項1又は2に記載の回転工具のバランス及び振れ調整システム。
【請求項4】
回転軸方向において一端側に設けられ回転主軸に取付けられるシャンク部と、
前記回転軸方向において他端側に設けられ工具を装着可能なチャック部と、
前記シャンク部と前記チャック部との間に設けられる中間部と、を備え、
前記シャンク部、前記チャック部、及び前記中間部は、全てが一部材に形成され、
前記中間部において回転軸芯周りに形成される複数の挿入孔と、前記挿入孔に収容され、前記挿入孔に締付け可能な挿入部材と、を備え、
複数の前記挿入孔の各々に対し、異なる質量を有する複数の前記挿入部材が組付け可能であるとともに、前記挿入部材の先端側を前記挿入孔の底部に押圧させつつ、前記挿入孔に対して前記挿入部材の締付け量を変更することで前記チャック部の先端側を前記回転軸に直交する方向に変形可能に構成される工具ホルダ。
【請求項5】
回転主軸に取付けられる工具ホルダに工具が装着されて構成される回転工具のバランス及び振れ計測装置であって、
前記回転工具を撮像する撮像素子と、前記撮像素子によって撮像された撮像画像に基づいて前記回転工具の質量バランス及び振れ量を計測する演算部と、を備え、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記演算部は、前記工具ホルダの所定位置に所定質量を付加した場合と付加しない場合とについて、それぞれ前記撮像画像に基づいて前記回転工具の外周位置データを取得し、前記所定質量の付加の有無による外周位置データの比較から前記回転工具の質量バランスを計測し、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記演算部は、前記撮像画像に基づいて前記回転工具の形状データを取得し、当該形状データから前記回転工具の振れ量を計測する回転工具のバランス及び振れ計測装置。
【請求項6】
回転主軸に取付けられる工具ホルダに工具が装着されて構成される回転工具のバランス及び振れ調整方法であって、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記工具ホルダの所定位置に所定質量を付加した場合と付加しない場合とについて、それぞれ前記回転工具に向けて照射光を照射し当該照射光を受光して前記回転工具の外周を直接測定することで前記回転工具の外周位置データを取得し、前記所定質量の付加の有無による外周位置データの比較から前記回転工具の質量バランスを計測するバランス計測工程と、
前記回転工具が前記回転主軸に取付けられた状態で、前記バランス計測工程の計測結果に基づいて前記工具ホルダの質量を増減して前記回転工具の質量バランスを調整するバランス調整工程と、
前記回転主軸に取付けられた状態での前記回転工具の回転時において、前記回転工具の形状データを取得し、当該形状データから前記回転工具の振れ量を計測する振れ計測工程と、
前記回転工具が前記回転主軸に取付けられた状態で、前記振れ計測工程の計測結果に基づいて前記工具ホルダの先端側を前記回転工具の回転軸に直交する方向に変形させて前記回転工具の振れ量を調整する振れ調整工程と、を有する回転工具のバランス及び振れ調整方法。
【請求項9】
回転軸方向において一端側に設けられ回転主軸に取付けられるシャンク部と、
前記回転軸方向において他端側に設けられ工具を装着可能なチャック部と、
前記シャンク部と前記チャック部との間に設けられる中間部と、を備え、
前記シャンク部、前記チャック部、及び前記中間部は、全てが一部材に形成され、
前記中間部において回転軸芯周りに形成される複数の挿入孔と、前記挿入孔に収容され、前記挿入孔に締付け可能な挿入部材と、を備え、
複数の前記挿入孔の各々に対し、異なる質量を有する複数の前記挿入部材が組付け可能であるとともに、前記挿入部材の先端側を前記挿入孔の底部に押圧させつつ、前記挿入孔に対して前記挿入部材の締付け量を変更することで、前記挿入部材が前記挿入孔の底部から当該挿入部材の挿入方向に沿って受ける反力により前記チャック部の先端側を前記回転軸に直交する方向に変形可能に構成される工具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具のバランス及び振れ調整システム、バランス及び振れ計測装置、バランス及び振れ調整方法、及び、工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、被加工物に対する切削加工は、工作機械の回転主軸に取付けられた工具ホルダに切削工具を装着させて行われる。この場合、切削工具を含む工具ホルダ(回転工具)に振動が発生することで被加工物の加工精度が低下する。回転工具に発生する振動の要因としては、回転工具の質量のアンバランスや切削工具が有する刃部の振れ等が考えられる。
【0003】
特許文献1には、質量バランスの調整が可能な工具ホルダ(回転工具)の構成が開示されている。特許文献1では、回転工具が鍔状部を有し、当該鍔状部の工具側の端面に、複数のねじ孔が軸線を中心とした同一円周上に設けられており、各ねじ孔に異なる質量の分銅が組付可能に構成されている。本構成により、回転工具は、バランシングマシンを用いて行われるバランステストの結果に基づいて、ねじ孔に組付ける分銅を重さの異なるものに交換することで、質量バランスの調整を行うことができる。
【0004】
また、特許文献2には、装着される工具の振れ量の調整が可能な工具ホルダ(回転工具)の構成が開示されている。特許文献2の工具ホルダでは、工具ホルダが鍔状部を有し、鍔状部の工具側の端面において、3つのねじ孔が軸線を中心とした同一円周上に分散配置されている。各ねじ孔にはねじ部材が組付けられており、ねじ孔に対するねじ部材の締付け量を変更することで工具ホルダに装着される工具の振れを調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平3-87539号公報
【文献】米国特許第5286042号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、例えば光学レンズ等を製造するための精密金型に対する加工では、加工面に対して鏡面仕上げを行うことがある。こうした鏡面仕上げは、精密金型に対して切削加工後に研削加工によって行われる。精密金型では、僅かな寸法変化が製品上において問題になることがある。そのため、回転工具で加工する場合は、質量バランス及び振れ量を精度よく調整する必要がある。
【0007】
特許文献1の工具ホルダでは、工具ホルダに装着される工具の振れ量を調整することができず、特許文献2の工具ホルダでは、質量バランスを調整することができない。鏡面仕上げを行う際には、回転工具を高速で回転させる必要があるが、高速回転する回転工具の質量バランス及び振れ量を精度よく調整することは困難である。そのため、回転工具の質量バランス及び振れ量の両方を調整する上で改善の余地があった。
【0008】
上記実情に鑑み、回転工具において質量バランス及び振れ量を容易且つ精度よく調整することができる回転工具のバランス及び振れ調整システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るバランス及び振れ調整システムの特徴構成は、回転主軸に取付けられる工具ホルダに工具が装着されて構成される回転工具と、
前記回転工具の回転時において、前記回転工具の外周位置データを取得し、当該外周位置データから前記回転工具の質量バランスを計測するバランス計測装置と、
前記回転工具の回転時において、前記回転工具の形状データを取得し、当該形状データから前記回転工具の振れ量を計測する振れ計測装置と、を備え、
前記回転工具が、前記バランス計測装置の計測結果に基づく前記回転工具の質量バランスの調整が可能であるとともに、前記振れ計測装置の計測結果に基づく前記振れ量の調整が可能に構成されている点にある。
【0010】
本構成によれば、回転工具の回転時において、バランス計測装置を用いて回転工具の質量バランスを計測するとともに、振れ計測装置を用いて回転工具の振れ量を計測することができる。これにより、回転工具の質量バランス及び振れ量を容易に計測することができる。また、回転工具の質量バランスの調整並びに振れ量の調整は、バランス計測装置及び振れ計測装置の夫々の計測結果に基づいて行われるため、質量バランス及び振れ量の調整を精度よく行うことができる。その結果、回転工具による被加工物の加工精度を向上させることができる。
【0011】
他の特徴構成は、前記振れ計測装置が、
前記回転工具を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子による撮像を所定時間毎に実行する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記所定時間を前記回転工具の回転周期の半分未満の時間又は/及び回転周期よりも長い時間に設定可能である点にある。
【0012】
本構成では、回転工具の振れ量を計測する振れ計測装置が、回転工具を撮像する撮像素子と、撮像素子による撮像を所定時間毎に実行する制御部と、を備えて構成されている。このような振れ計測装置では、回転工具の回転速度が低速であれば、撮像素子による撮像を行う所定時間を回転工具の回転周期の半分未満の時間に設定することで、回転工具が一回転する間に工具を複数回撮像することが可能になる。しかし、精密金型等の被加工物を切削加工して鏡面仕上げ等を行う場合には、回転工具を高速回転させる必要がある。
【0013】
例えば、回転工具が高速に回転されて、回転工具の回転周期が撮像素子(カメラ)の最小撮像間隔時間(最大フレームレートの逆数)の2倍未満になる場合には、回転工具が一回転する間に撮像素子は複数回の撮像を行うことができない。そこで、本構成では、撮像素子による撮像を所定時間毎に実行する制御部は、当該所定時間(撮像周期)を回転工具の回転周期よりも長い時間に設定することができる。これにより、回転毎に回転工具の異なる複数の回転角度における工具を撮像することができる。その結果、回転工具が低速回転だけでなく高速回転によって用いられる場合においても、回転工具の振れ量を適正に計測することができる。
【0014】
他の特徴構成は、前記工具ホルダは、前記回転主軸に取付けられた状態で前記質量バランス及び前記振れ量の調整が可能に構成される点にある。
【0015】
本構成では、工具ホルダは、回転主軸に取付けられた状態で質量バランス及び振れ量の調整が可能に構成されるので、質量バランス及び振れ量の調整を1つの装置によって行うことができる。これにより、回転工具のバランス及び振れ調整システムにおいて、質量バランス及び振れ量を調整する上での操作性が向上するとともに、装置の占有スペースを小さくすることができる。また、いったん装着された機械主軸、工具ホルダ、回転工具の位置関係を保ったままで測定及び調整作業が可能であるため、実際の加工環境に極めて近い状態で回転工具の質量バランス及び振れ量の調整を行うことができる。
【0016】
本発明に係る工具ホルダの特徴構成は、回転軸方向において一端側に設けられ回転主軸に取付けられるシャンク部と、
前記回転軸方向において他端側に設けられ工具を装着可能なチャック部と、
前記シャンク部と前記チャック部との間に設けられる中間部において回転軸芯周りに形成される複数の挿入孔と、
前記挿入孔に収容され、前記挿入孔に締付け可能な挿入部材と、を備え、
複数の前記挿入孔の各々に対し、異なる質量を有する複数の前記挿入部材が組付け可能であるとともに、前記挿入孔に対して前記挿入部材の締付け量を変更することで前記チャック部の先端側を前記回転軸に直交する方向に変形可能に構成される点にある。
【0017】
本構成によれば、工具ホルダは、中間部に形成される複数の挿入孔の各々に対し、異なる質量を有する複数の挿入部材が組付け可能であるので、複数の挿入孔に組付ける挿入部材の質量を調整することで、質量バランスを調整することができる。また、工具ホルダは、挿入孔に対して挿入部材の締付け量を変更することで先端側を回転軸に直交する方向に変形可能に構成されているので、先端側の振れ量を調整することができる。このように、本構成の工具ホルダは、複数の挿入孔と、挿入孔に組付けられる挿入部材とによって、質量バランス及び振れ量を調整することができる。したがって、工具ホルダは、簡素な構成によって質量バランス及び振れ量を調整することができる。
【0018】
本発明に係るバランス及び振れ計測装置の特徴構成は、回転主軸に取付けられる工具ホルダに工具が装着されて構成される回転工具のバランス及び振れ計測装置であって、
前記回転工具を撮像する撮像素子と、前記撮像素子によって撮像された撮像画像に基づいて前記回転工具の質量バランス及び振れ量を計測する演算部と、を備え、
前記回転工具の回転時において、前記演算部は、前記撮像画像に基づいて前記回転工具の外周位置データを取得し、当該外周位置データから前記回転工具の質量バランスを計測し、
前記回転工具の回転時において、前記演算部は、前記撮像画像に基づいて前記回転工具の形状データを取得し、当該形状データから前記回転工具の振れ量を計測する点にある。
【0019】
本構成の回転工具のバランス及び振れ計測装置によれば、回転工具の回転時において、撮像素子及び演算部を用いて、回転工具の質量バランス及び振れ量を計測することができる。すなわち、質量バランスの計測及び振れ量の計測を1つの装置を用いて行うことができる。これにより、回転工具の質量バランスと振れ量との両方を計測する際の操作性が向上する。また、回転工具のバランス及び振れ調整システムを構成する上で、バランス計測装置と振れ計測装置とを個別に備える必要がないため、バランス及び振れ調整システムの占有スペースを小さくすることができる。
【0020】
本発明に係る回転工具のバランス及び振れ調整方法の特徴構成は、回転主軸に取付けられる工具ホルダに工具が装着されて構成される回転工具のバランス及び振れ調整方法であって、
前記回転工具の回転時において、前記回転工具の外周位置データを取得し、当該外周位置データから前記回転工具の質量バランスを計測するバランス計測工程と、
前記工具ホルダが前記回転主軸に取付けられた状態で、前記バランス計測工程の計測結果に基づいて前記工具ホルダの質量を増減して前記回転工具の質量バランスを調整するバランス調整工程と、
前記回転工具の回転時において、前記回転工具の形状データを取得し、当該形状データから前記回転工具の振れ量を計測する振れ計測工程と、
前記工具ホルダが前記回転主軸に取付けられた状態で、前記振れ計測工程の計測結果に基づいて前記工具ホルダの先端側を前記回転工具の回転軸に直交する方向に変形させて前記回転工具の振れ量を調整する振れ調整工程と、を有する点にある。
【0021】
本構成の回転工具のバランス及び振れ調整方法によれば、回転工具の回転時において、バランス計測工程において回転工具の質量バランスを計測するとともに、振れ計測工程において回転工具の振れ量を計測することができる。これにより、回転工具の質量バランス及び振れを容易に計測することができる。また、回転工具の質量バランス及び振れ量の調整は、いずれも、回転主軸に取付けられた状態の工具ホルダにおいて行われる。その結果、計測結果に基づく回転工具の質量バランス及び振れ量の調整を、容易且つ精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】回転工具のバランス及び振れ調整システムの概略図である。
図2】主軸に取付けられた回転工具を示す図である。
図3】回転工具の工具部分を示す図である。
図4】回転工具の工具先端側から視た図である。
図5】工具ホルダの斜視図である。
図6】工具ホルダの側断面図である。
図7】回転工具の回転角度毎の振れ量を示すグラフである。
図8】回転工具の回転角度毎の振れ量をXY座標上に付した図である。
図9図8に示される振れ量の最小値を原点に移行した図である。
図10】工具ホルダに試し錘を追加した状態を示す側断面図である。
図11】工具ホルダに試し錘を追加したことで変位した回転中心の位置を示す図である。
図12】工具ホルダに試し錘を追加したことで作用するベクトルを示す図である。
図13】試し錘による偏荷重点と修正錘の位置とを示す図である。
図14】振れ計測工程を示すフローチャートである。
図15】工具の刃部と位相検出部との位置関係を示す図である。
図16】工具の刃部と位相検出部との位置関係を示す図である。
図17】工具の刃部と位相検出部との位置関係を示す図である。
図18】工具の刃部と位相検出部との位置関係を示す図である。
図19】工具の刃部と位相検出部との位置関係を示す図である。
図20】工具の刃部と位相検出部との位置関係を示す図である。
図21】測定周期を示すグラフである。
図22】第2実施形態の振れ計測工程を示すフローチャートである。
図23】第2実施形態の測定周期を示すグラフである。
【0023】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
バランス及び振れ調整システムは、例えば精密金型等の鏡面仕上げ等に用いられる切削工具を有する回転工具において、質量バランス及び振れ量を調整する際に用いられる。図1に示すように、バランス及び振れ調整システム100は、工具5を有する回転工具11と、撮像装置20と、を備えて構成される。本実施形態では、撮像装置20を用いて回転工具11の質量バランス及び振れ量を計測する。撮像装置20は、撮像部21と、コントローラ22とによって構成されている。撮像部21は回転工具11が取付けられたコンピュータ数値制御(CNC)式の工作機械1に設置される。
【0025】
図1図4に示すように、回転工具11は、工作機械1の回転主軸2に取付けられる工具ホルダ10に工具5が装着されて構成される。回転主軸2には、回転位相の基準点となる第1マーク3が上部に設けられ、工具ホルダ10に隣接する部分に第2マーク4が設けられている。工具ホルダ10には、回転主軸2に隣接する部分に第3マーク13が設けられ、工具5に隣接する部分に第4マーク14が設けられている。回転主軸2において、第1マーク3及び第2マーク4は、周方向の同位置に設けられる。また、工具ホルダ10において、第3マーク13及び第4マーク14は、周方向の同位置に設けられる。こうして、第1マーク3及び第2マーク4と第3マーク13及び第4マーク14とは、回転主軸2の回転軸Zに沿うように配置される。
【0026】
図2に示すように、工具ホルダ10は、回転主軸2に対して、第2マーク4に第3マーク13の位置を合わせて装着される。
【0027】
〔工具ホルダ〕
図4図6に示すように、工具ホルダ10は、回転軸Z方向(図2参照)において一端側に設けられ工作機械1の回転主軸2に取付けられるシャンク部15と、回転軸Z方向において他端側に設けられ工具5を装着可能なチャック部17と、を備え、シャンク部15とチャック部17との間に鍔状部19(中間部の一例)が設けられている。シャンク部15及びチャック部17は先端に向かうにつれて小径となるテーパ状に形成されている。工具ホルダ10のチャック部17に対し、工具5は例えば焼ばめやコレットチャック等によって装着される。工具5は工具ホルダ10にインサートチップとして装着されてもよい。
【0028】
鍔状部19には、チャック部17側の端面19aに、工具ホルダ10の軸心を中心とする同一円周上に、30度間隔でねじ孔18(挿入孔の一例)が12個設けられている。ねじ孔18はシャンク部15側に向かうにつれて軸心に近づくように傾斜している。12個のねじ孔18の径及び深さは全て同一である。ねじ孔18は、ねじ部材41が挿入されて組付けられる円柱状の第1孔部18aと、第1孔部18aの奥側に連続して形成されるテーパ状の第2孔部18bとを有する。ねじ孔18には、第2孔部18bにボール体40が挿入され、ボール体40に当接する状態で第1孔部18aにねじ部材41(挿入部材の一例)が組付けられている。ねじ部材41が端面19aから突出しないように、ボール体40とねじ部材41の軸方向長さの和は、ねじ孔18の深さよりも短く設定されている。また、第1孔部18aの雌ねじ部は、ねじ部材41とボール体40が当接した後もねじ部材41の締付けが可能となるよう十分な長さで設けられている。
【0029】
ねじ部材41は、第6図に示すように、セットボルト状で、わずかだけ質量の異なるすなわち長さの異なるものが、多種類準備されている。複数のねじ部材41は、密度の異なる複数種類の材料で同じ長さに形成することにより、夫々の質量を異ならせるように構成してもよい。
【0030】
工具ホルダ10の複数のねじ孔18には、所定質量のねじ部材41aがあらかじめ螺入されている。この状態で回転工具11に対しバランシングマシンによりテストを行ない、その結果に基づいて、回転工具11の回転時における動的な質量バランスを調整することができる。
【0031】
回転工具11をバランシングマシンによりテストした結果、回転工具11の質量にアンバランスがある場合、回転工具11の径方向の振れとなって表出する。その結果、バランシングマシンにはアンバランスとなっている箇所の回転位相の基準点からの角度及び回転軸Zに対する調整径の質量が表示される。そこで、回転工具11において最大の振れ量をゼロに近づけるように、所定質量のねじ部材41aに代えて当該質量が異なるねじ部材41をねじ孔18に螺着する。こうして、回転工具11の回転時における動的な質量バランスを調整する。
【0032】
〔撮像装置〕
図1に示すように、撮像装置20は、撮像部21と、コントローラ22(演算部の一例)とによって構成されている。撮像部21は、工具5に向けて照射光を発する投光部23と、照射光を受光して工具5を撮像する撮像素子24と、撮像対象である工具5の像を撮像素子24の受光面に結像させる対物レンズ25及び撮像レンズ26と、を備える。投光部23は発光ダイオード(LED)等で構成される。撮像素子24は、ミラー27を介して照射光を受光するよう構成されている。撮像部21は、撮像素子24による撮像を所定時間毎に実行する制御部28として制御基板を有する。制御部28には、撮像を実行するトリガ回路29が設けられている。
【0033】
コントローラ22は、工作機械1及び撮像装置20の撮像画像等のデータ処理や、工具5が有する刃部5Aの数(刃数)や、後述する撮像のための回転数等の各種データ入力が行えるように構成されている。位相検出部31は、回転主軸2に設けられた第1マーク3を検出する光電センサを備え、回転主軸2の回転位相の基準点(回転角度が0度となる箇所)を検出するために用いられる。位相検出部31において第1マーク3が検出されると、位相検出部31から制御部28に向けて検出信号が送信されるよう構成されている。
【0034】
バランス及び振れ調整システム100において、回転工具11は以下の工程によってバランス及び振れ量が調整される。
【0035】
工作機械1に撮像装置20の撮像部21を配置する。
複数の刃部5Aを有する工具5を装着した工具ホルダ10(回転工具11)を工作機械1の回転主軸2に取付ける。このとき、工作機械1の回転主軸2の基準点(第1マーク3、第2マーク4)の位置と工具ホルダ10のツール基準点(第3マーク13)の位置とを合わせる。
【0036】
続いて、バランス計測装置(本実施形態では撮像装置20)を用いて回転時の回転工具11の質量バランスを計測する(バランス計測工程)。その後、バランス計測装置において計測された回転工具11の質量バランスに基づいて、工具ホルダ10が工作機械1の回転主軸2に取付けられた状態で、工具ホルダ10(回転工具11)に対してバランス調整を行う(バランス調整工程)。
【0037】
続いて、振れ計測装置(本実施形態では撮像装置20)を用いて回転時の工具5(回転工具11)の振れ量を計測する(振れ計測工程)。その後、振れ計測装置において計測された振れ量に基づいて、工具ホルダ10が工作機械1の回転主軸2に取付けられた状態で、工具ホルダ10(回転工具11)に対して振れ調整を行う(振れ調整工程)。
【0038】
本構成によれば、回転工具11の回転時において、撮像装置20を用いて、回転工具11の質量バランスを計測するとともに、回転工具11が有する工具5(刃部5A)の振れ量を計測することができる。これにより、回転工具11の質量バランス及び振れ量を容易に計測することができる。また、回転工具11の質量バランス及び振れ量の調整は、工作機械1の回転主軸2に取付けられた状態の工具ホルダ10によって行うので、計測結果に基づく回転工具11の質量バランス及び振れ量の調整を容易且つ精度よく行うことができる。
【0039】
以下に、バランス計測工程、バランス調整工程、振れ計測工程、及び、振れ調整工程の具体的な内容を説明する。
【0040】
(バランス計測工程及びバランス調整工程)
本実施形態では、バランス計測工程は撮像装置20を用いて行われる。具体的には、撮像素子24が回転工具11を撮像し、得られた回転工具11の撮像画像に基づいて回転工具11の外周位置データ(径方向の振れ量)を取得し、コントローラ22(演算部)を用いて当該外周位置データから回転工具11の質量バランスを計測する。図1の状態から、撮像装置20を上昇させるか、位相検出部31を含んで回転主軸2を下降させるかして、投光部23からの照射光が回転工具11に照射されるようにする。
【0041】
具体的には、回転時の工具ホルダ10の円筒部分(例えばチャック部17)に投光部23からの照射光を照射して、当該円筒部分の振れに基づいて回転工具11の質量バランスを計測する。撮像装置20による回転工具11の振れの計測は、分割撮影及び遅延撮影のいずれかの撮影方法によって行われる。分割撮影は低速回転時の撮影方法であり、遅延撮影は高速回転時の撮影方法である。分割撮影及び遅延撮影については、以下の振れ計測工程において詳述する。
【0042】
撮像装置20を用い、回転工具11の円筒部分(チャック部17)における1周分の所定回転角度毎の振れ量を計測する。図7に計測結果の一例を示す。これより、回転角度が160度のときに振れ量が最大の16μm、回転角度が340度のときに振れ量が最小の4μmになることが分かる。図8は、図7の結果をXY座標上に展開した。具体的には、図7に示される、振れ量の最小値(340度、4.0μm)をXY座標の原点からX軸上における正方向の所定位置とし、この位置を基準にして全ての角度の振れ量をXY座標上に展開した。XY座標の原点から各点までの距離が振れ量を表している。図8では、XY座標上のX軸の正方向を回転工具11の回転位相の基準点(0度)に設定した。図8において回転工具11の円筒部分の振れの中心位置をZ1とする。
【0043】
次に、図7における振れ量の最小値(340度、4.0μm)をXY座標の原点に合わせて回転角度毎の振れ量を再計算した。具体的には、図8の円を構成する各点をX軸の負方向に4.0μmだけシフトした。再計算した回転角度毎の振れ量は図9のグラフに展開することができ、図9に示すように、回転工具11の振れの中心位置がZ1からZ2に移動する。Z2の座標は、回転位相が180度異なる角度の振れ量におけるX値とY値の夫々を平均することで算定することができる。図9に示す例では、位置Z2は、XY座標の原点から延びるX軸の正部分をXY座標の原点に対する角度が0度の基準線(以下、基準線Sと称する)と仮定した場合に、XY座標の原点を中心に反時計回りの角度θ1が160度となる位置にある。また、XY座標の原点から位置Z2までのベクトルの大きさは10μmである。このベクトルの方向を示す角度θ1は、図7に示す振れ量が最大、最小となる回転角度であって、大きさはその角度における振れ量の最大値と最小値の平均である。以後、このベクトルをベクトルV1と称する。
【0044】
ここで、位置Z2が回転中心である回転工具11に対し、工具ホルダ10に試し錘を付加して試し錘による質量バランスの影響を求める。具体的には、図10に示すように、工具ホルダ10において周方向に分散配置された12カ所のねじ孔18のうち、1カ所(例えば0番、0度)のねじ孔18から標準のねじ部材41aを抜き、代わりにねじ部材41aの質量に試し錘(例えば200mg)が付加されたねじ部材41bを組付ける。その後、同じ回転数で回転工具11を回転させて回転工具11の振れの変化を計測する。
【0045】
試し錘を付加することで工具ホルダ10の振れの中心位置はZ2からZ3に移動したとする(図11参照)。位置Z3は、基準線Sから反時計回りの角度θ2が200度となる位置になる。また、XY座標の原点から位置Z3までのベクトルの大きさは6.5μmであり、原点から位置Z2までのベクトルの大きさ10μmに比べて減少したとする。以後、このベクトルをベクトルV2と称する。
【0046】
回転工具11の振れの中心位置を移動させる上での試し錘の影響を、図12に示す、試し錘により発生する振れは、ベクトルV1とベクトルV2とに基づくベクトル計算によってベクトルV3として求めることができる。ベクトルV1とベクトルV3の和がベクトルV2であるので、ベクトルV3はベクトルV2からベクトルV1を減じることにより求めることができる。
【0047】
試し錘の影響を示すベクトルV3において、X成分V3xは、以下の数1式よって表すことができる。
【数1】
また、Y成分V3yは、以下の数2式によって表すことができる。
【数2】
【0048】
これにより、基準線SからベクトルV3までの時計回りの角度θ3と、ベクトルV3の大きさとは、以下の数3式及び数4式によって算出される。
【数3】
【数4】
図12に示す例では、角度θ3は-59.8度であり、ベクトルV3の大きさは6.5μmである。
【0049】
図13に、試し錘Cの位置、偏荷重Dの位置、偏荷重Dを付加して回転工具11の偏荷重を修正する位置(修正点)Eを示す。試し錘Cによる影響を示すベクトルV3と、試し錘Cの位置(0番、0度)との関係から、回転工具11の偏荷重Dは、以下の数5式によって算出される。ここで、偏荷重Dとは、回転時の回転工具11においてアンバランスを発生させる荷重の大きさと定義する。
【数5】
回転工具11の周方向において偏荷重Dの位置は基準線Sから角度θ4の位置であり、角度θ4は、以下の数6式によって算出される。
【数6】
【0050】
図13に示される偏荷重Dは、回転工具11において偏荷重Dが存在する位置であるので、例えば工具ホルダ10から偏荷重Dを除去することで、回転工具11の振れ量が最も小さくなる。これに代えて、工具ホルダ10にバランス修正用の錘を付加して偏荷重Dを相殺する場合には、図13に示す位置Eに錘を付加することとなる。位置Eは原点に対して角度θ4と対称位置となる基準線Sから角度θ5の位置であり、角度θ5は以下の数7式によって算出される。
【数7】
【0051】
図7図12に示す実施例では、図13において、偏荷重Dが308mg、基準線Sから偏荷重Dの位置までの角度θ4は219.8度となるので、基準線Sから位置Eまでの角度θ5は39.8度となる。ねじ孔18は工具ホルダ10の周方向において30度間隔で設けられているので、例えば番号1のねじ孔18と番号2のねじ孔18に偏荷重Dを相殺する荷重(308mg)になるように分けて付加することで、回転工具11の質量バランスを適正に調整することができる。これにより、回転工具11のバランス調整が完了する。
【0052】
(振れ計測工程)
撮像装置20において、回転工具11の振れ量が計測される。
具体的には、回転工具11の回転時において、撮像装置20の撮像素子24が回転工具11を撮像し、得られた回転工具11の撮像画像に基づいて工具5の刃部5A(回転工具11)の形状データを取得し、コントローラ22(演算部)を用いて当該形状データから刃部5A(回転工具11)の振れ量を計測する。
【0053】
撮像装置20は、回転工具11の複数の刃部5Aの振れ量の計測を、前述の分割撮像及び遅延撮像のいずれかを用いて行う。分割撮像は、回転体が一回転する間に複数回撮像する撮像方法である。一方、遅延撮像は、回転体の回転周期(一回転周期または複数回転周期)よりも少し長い時間を撮像周期にすることでストロボ効果を発揮させて回転体を撮像する撮像方法である。
【0054】
回転工具11が低速回転で使用されて回転工具11の回転周期が撮像素子24(カメラ)の最高撮像周期の2倍以上の場合には、回転工具11が一回転する間に撮像素子24は複数回の撮像が可能である。そのため、この場合は、撮像装置20は分割撮像を用いて回転工具11の複数の刃部5Aの振れ量の計測を行うことができる。
【0055】
一方、回転工具11が高速回転されて、回転工具11の回転周期が撮像素子24(カメラ)の最高撮像周期の2倍未満の場合には、回転工具11が一回転する間に撮像素子24は複数回の撮像を行うことができない。そのため、この場合は、撮像装置20は分割撮像に代えて遅延撮像を用いて回転工具11の複数の刃部5Aの振れ量の計測を行う。このように、2つの撮影方法を使い分けることで、回転工具11の複数の刃部5Aの振れ量を効果的に計測することができる。
【0056】
回転工具11によって精密金型等に対して鏡面加工等の精度の高い加工を施すためには、刃部5Aを有する回転工具11を高速回転させる必要がある。そこで、以下では、図14に示すフローチャートに基づいて、遅延撮像を用いた回転工具11の振れ計測工程を説明する。遅延撮像による振れ計測工程では、複数の刃部5Aに対し、決定された起点に基づいて複数の刃部5Aに順に識別番号(例えば5A1,5A2,・・・n)を付与し、工具5(回転工具11)を連続的に回転させて、一定周期で複数の刃部5Aの振れの計測を行う。図15図20は、振れ計測工程における位相検出部31に対する工具5(回転工具11)の回転位相の推移を示す。
【0057】
ステップ♯1において測定周期Mを計算する。一例として、測定対象の回転工具11が5000回/分で回転し刃部5Aが2枚である場合を想定する。この場合、回転工具11の回転周期は12.00ミリ秒となる。ここで、撮像素子24を有するカメラの最小撮像間隔時間(最大フレームレートの逆数)は12.67ミリ秒とする。この場合、回転工具11の回転周期がカメラの最小撮像間隔時間の2倍未満であるので、遅延撮像を行って回転工具11の刃部5Aの振れ量を計測する。
【0058】
遅延撮像において、撮像素子24の撮像タイミングを回転工具11の回転周期よりも遅らせるための回転数(遅延撮像用回転数と称する)をコントローラ22によって設定する。これにより、初期撮像用回転数は、以下の数8式を用いて算出される。
【数8】
例えば、遅延撮像用回転数を5回/分とすると、初期撮像用回転数は、4995回/分となる。
【0059】
ここで、初期撮像用回転数として算出された、4995回/分は、撮像間隔時間に換算すると、12.01ミリ秒となり、撮像素子24の最小撮像間隔時間12.67ミリ秒よりも小さい。このため、撮像素子24の撮像間隔時間を、遅延撮像用の周期(12.01ミリ秒)にすることができない。そこで、初期撮像用回転数を撮像周期に換算した、12.01ミリ秒を撮像素子24の最小撮像間隔時間(12.67ミリ秒)以上になる整数(本実施例では「2」)で乗算する。これにより、撮像素子24の撮像間隔時間は、回転工具11の二回転周期よりも少し長い時間(24.02ミリ秒)に設定されて、刃部5Aの振れ量を適正に計測することができる。撮像素子24による撮像は、制御部28に設けられたトリガ回路29のトリガ信号が、撮像素子24を含むカメラにトリガ信号が出力されることで実行される。
【0060】
次に、ステップ#2において、起点となる第1マーク3の位置を基準とした撮像開始位相を設定し、初回撮像開始までの遅延時間Wを算出する。本実施例では、撮像開始位相は0.75周、遅延時間Wは9ミリ秒に設定される。
【0061】
ステップ#3~ステップ#13によって、工具5の刃部5Aの振れ量が計測される。
ステップ#3において、起点となる第1マーク3(第4マーク14)が位相検出部31に検出される(図15参照)。ステップ#4において、刃部5A1が初期計測刃(N=1)として設定される。続いて、遅延時間Wの経過後に撮像が開始され、刃部5A1の位置(回転工具11の回転軸Zから刃部5Aの外面までの距離)の最大値の検出が開始される(ステップ#5、ステップ#6、図16参照)。図16は、刃部5A1の撮像が開始された工具5(回転工具11)の回転位相を示す。
【0062】
測定周期Mによる撮像が継続されて、刃部5A1の位置の最大値が随時更新される(ステップ#7,ステップ#8)。図17は、刃部5A1の撮像範囲(撮像領域)の半分が終了した工具5の回転位相を示す。ステップ#9において、N枚目(例えば1枚目)の刃(刃部5A1)の撮像範囲(撮像領域)の撮像が終了したか否かが確認され、撮像範囲の撮像が終了していなければステップ#7に戻り、刃部5A1の撮像が継続され、刃部5A1の撮像範囲の撮像が終了すると、刃部5A1の位置の最大値を記録する(ステップ#10)。刃部5A1の位置の最大値は、撮像部21の制御部28又はコントローラ22に設けられる不図示の演算部等に記憶される。ステップ#10では、刃部5Aの刃数分(N個)の最大値が記憶される。図18は、刃部5A2の撮像が開始された工具5の回転位相を示す。図19は、刃部5A2の撮像領域の撮像が半分終了した工具5の回転位相を示す。図20は、刃部5A2の撮像領域の撮像が全て終了した工具5の回転位相を示す。
【0063】
ステップ#11において、目標刃数Nの達成が確認される。目標刃数Nが未達成であれば、刃部5A1の位置の最大値がリセットされて、次の刃(本実施形態では刃部5A2)の計測が実行される(ステップ#12、ステップ#6)。ステップ#11において、目標刃数Nの達成が確認されると、ステップ#13において回転工具11の複数の刃部5Aによる振れ量が計算される。
【0064】
図21に、回転工具11の回転波形(サイン波形)と、回転工具11の刃部5Aの位置の測定周期M(撮像素子24の撮像間隔時間)との関係を示す。位相検出部31の光電センサが第1マーク3を検出して遅延時間Wが経過すると、トリガ回路29からの外部トリガを起動し撮像素子24を備えるカメラのシャッター(不図示)が開閉する。これにより、撮像素子24によって回転工具11の工具5の最初の撮像が行われる。その後、測定周期Mが経過する度に撮像素子24による撮像が繰り返される。
【0065】
〔振れ調整工程〕
振れ計測工程の計測結果に基づいて、回転工具11の複数の刃部5Aの振れ量を調整する。具体的には、工具ホルダ10において、一部のねじ孔18に組付けられたねじ部材41の締込み量を調整する。具体的には、ねじ部材41をねじ孔18の底面に向けて締め込んでいく。これにより、ねじ部材41の先端面に当接するボール体40がねじ孔18の底部(第2孔部18bの内面)を押圧する。ねじ孔18は、工具ホルダ10の基端側に向かうにつれて工具ホルダ10の軸心に近づくよう傾斜して設けられている。したがって、チャック部17の先端は、ねじ部材41が締め込まれることで、工具ホルダ10の基端部に作用するねじ部材41の反力を受ける。
【0066】
これにより、チャック部17において、ねじ部材41が締め込まれたねじ孔18の部位から先端に向かう部分が径方向外方に向けて変形可能になる。複数のねじ孔18に組付けられたねじ部材41を選択してねじ部材41の締付け量を適宜に変更することで、回転工具11において複数の刃部5Aの振れ量が小さくなるよう調整することができる。
【0067】
ここで、ねじ部材41の軸心方向において、ねじ部材41とボール体40との接触面積が小さい方が好ましい。ねじ部材41とボール体40との軸心方向における接触面積を小さくことで、両者の接触抵抗が小さくなる。すなわち、ねじ部材41を締付けてねじ部材41によってボール体40を押圧する際の押圧効率が向上する。これにより、ボール体40によるねじ孔18の底部への押圧力を高めることができるため、チャック部17の変形量を増加させ易くなる。ねじ部材41とボール体40との接触面積を小さくするために、例えば、ねじ部材41の先端側軸心部分にねじ部材41の本体部よりも小径の凸部を設けてもよい。
【0068】
〔第2実施形態〕
本実施形態では、振れ計測工程における遅延撮像方法が第1実施形態とは異なる。他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0069】
本実施形態における、遅延撮像による回転工具11の振れ計測は、図22に示すフローチャートに基づいて行われる。具体的には以下の手順で行われる。複数の刃部5Aに対し、決定された起点に基づいて刃部5Aに順に識別番号(例えば5A1,5A2,・・・n)を付与し、工具5(回転工具11)を連続的に回転させて、測定周期M(撮像間隔時間)を回転周期(基準周期M1)より長くして刃部5Aの位置の計測を行う。
【0070】
ステップ♯21において、基準周期M1と、起点となる第1マーク3が位相検出部31に検出されてから基準周期M1が経過する毎に加算される位相待ち時間αとを計算する。第1実施形態に示す例と同じく、測定対象の回転工具11が5000回/分で回転し刃部5Aが2枚である場合には、基準周期M1は、回転工具11が二回転周期(24ミリ秒)となる。位相待ち時間αは、以下の数9式によって算出することができる。
【数9】
例えば、回転工具11を回転角度において1度毎に撮像する場合には、上記の数9式に、一回転周期12ミリ秒と、撮像回数360回とを代入する。これにより、位相待ち時間αは、0.033ミリ秒となる。
【0071】
ステップ#22~ステップ#30によって、工具5の複数の刃部5Aの位置(回転工具11の回転軸Zから刃部5Aの外面までの距離)が計測される。ステップ#22において、起点となる第1マーク3が位相検出部31に検出されると、撮像素子24による撮像が開始され、刃部5A1の位置の最大値の検出が開始される。
【0072】
ステップ#24において、基準周期M1の経過後に、起点となる第1マーク3が位相検出部31に検出されると、位相待ち時間αが積算される(ステップ#25)。たとえば、2回目の撮像であれば位相待ち時間はαであり、3回目の撮像であれば位相待ち時間は2αとなる(図23参照)。ステップ#26において、刃部5A1の位置の最大値が随時更新される。具体的には、計測された刃部5A1の位置(位置n)の値がその直前に計測された位置(位置n-1)の値より大きい場合に最大値が更新される。刃部5A1の位置の計測において、位置(位置n)の値が直前の計測された位置(位置n-1)の値より小さくなると(ステップ#27:Yes)、現在の最大値をピーク値の刃先位置と認識して記録する(ステップ#28)。ステップ#28では、刃部5Aの刃数分(N個)の最大値が記憶される。ステップ#28において、位置n<(位置n-1)でない場合には(ステップ#27:No)、ステップ#24に戻って撮像が継続される。
【0073】
ステップ#29において、目標刃数Nの達成が確認され、未達成であれば、次の刃部5A(本実施例では刃部5A2)の計測が実行される(ステップ#30、ステップ#23)。ステップ#29において、目標刃数Nの達成が確認されると(又は、位相待ち時間αの積算値が回転工具11の一回転分になると)、ステップ#31において回転工具11の複数の刃部5Aにおける振れ量が計算される。
【0074】
図23に、回転工具11の回転波形(サイン波形)と、回転工具11の刃部5Aの位置の測定周期M(撮像素子24の撮像間隔時間)との関係を示す。図23では、起点となる第1マーク3の位置が撮像開始位相である例を示す。すなわち、位相検出部31が第1マーク3を検出してから初回撮像開始までの遅延時間Wはゼロ(位相待ちなし)である。
【0075】
図23に示すように、撮像素子24による工具5の初回撮像においては、位相検出部31の光電センサが第1マーク3を検出すると、トリガ回路29からの外部トリガが即座に起動して、撮像素子24を備えるカメラのシャッター(不図示)を開閉させる。2回目の撮像は、基準周期M1(2回転周期)に位相待ち時間αが加算された後に行われる。その後、位相検出部31の光電センサが第1マーク3を基準周期M1(2回転周期)間隔で検出する毎に、位相待ち時間αが積算される。こうして、測定周期M(撮像間隔時間)を回転周期(基準周期M1)より長くして工具5の位置の計測を行う。もしくは、第1マーク3を検出する毎に位相待ち時間αを加算せずに、回転周期(基準周期M1)より長い所定の測定周期Mだけを検出して計測を行うこともできる。
【0076】
〔他の実施形態〕
(1)バランス及び振れ調整システム100は、バランス計測装置として例えばフィールドバランサを用いて回転工具11の質量バランスを計測する構成でもよい。
【0077】
(2)上記の実施形態では、バランス及び振れ調整システム100は、バランス計測工程及びバランス調整工程を先に行い、続いて振れ計測工程及び振れ調整工程を行う例を示したが、振れ計測工程及び振れ調整工程を先に行い、続いてバランス計測工程及びバランス調整工程を行う構成でもよい。
【0078】
(3)上記の実施形態では、工具ホルダ10において、ねじ孔18(挿入孔)に対し、ボール体40とねじ部材41(挿入部材)とを挿入して組付ける例を示したが、ボール体40に代えて円柱状や角柱状等の他の形状で形成された押圧用部材を用いてねじ孔18の底部を押圧する構成でもよい。当該押圧部材とねじ部材41との接触面積を小さくするには、ねじ部材41の先端側軸心部分をねじ部材41の本体部より小径にしてもよく、ねじ部材41と押圧用部材とが当接する両端面のうち少なくとも一方を曲面状の凸部で構成してもよい。また、ねじ孔18(挿入孔)にねじ部材41(挿入部材)のみを挿入して組付ける構成でもよい。この場合には、ねじ部材41の先端側は、ねじ孔18の底部(第2孔部18bの内面)に当接可能な形状にする必要がある。
【0079】
(4)工具ホルダ10は、工作機械1の回転主軸2に取付けられ、工具5を装着する工具ホルダ10であれば、その形式を問わず実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、回転工具の質量バランス及び振れ量の調整に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 :工作機械
2 :回転主軸
3 :第1マーク
4 :第2マーク
5 :工具
5A :刃部
10 :工具ホルダ
11 :回転工具
13 :第3マーク
14 :第4マーク
19 :鍔状部(中間部)
19a :端面
18 :ねじ孔(挿入孔)
20 :撮像装置(バランス計測装置,振れ計測装置)
21 :撮像部
22 :コントローラ(演算部)
23 :投光部
24 :撮像素子
28 :制御基板(制御部)
29 :トリガ回路
31 :位相検出部
40 :ボール体
41 :ねじ部材(挿入部材)
100 :バランス及び振れ調整システム
S :基準線
V1,V2,V3 :ベクトル
Z :回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23