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特許7113478るつぼ並びに単結晶の育成装置及び育成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】るつぼ並びに単結晶の育成装置及び育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/10 20060101AFI20220729BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20220729BHJP
   F27B 14/10 20060101ALI20220729BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C30B15/10
C30B29/16
F27B14/10
F27D11/06 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016118886
(22)【出願日】2016-06-15
(65)【公開番号】P2017222537
(43)【公開日】2017-12-21
【審査請求日】2019-06-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502209796
【氏名又は名称】株式会社福田結晶技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088096
【弁理士】
【氏名又は名称】福森 久夫
(72)【発明者】
【氏名】福田 承生
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-28831(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010040(WO,A1)
【文献】特開昭57-156400(JP,A)
【文献】特開2015-048296(JP,A)
【文献】特開2000-344593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内の原料融液に種結晶を接触させた後に、前記種結晶を引き上げて酸化物の単結晶を育成させる単結晶育成装置において、
前記ルツボは、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層で覆われている原料保持用ルツボと、前記原料保持のためのルツボの外側に間隔を置いて又は置かないで配置された加熱用ルツボとからなり、
前記加熱用ルツボはグラファイトからなり、
前記加熱用ルツボに高周波電力を供給することにより加熱する高周波誘導加熱方式であることを特徴とする単結晶育成装置。
【請求項2】
前記原料保持用ルツボと前記加熱用ルツボとの間隔にタングステン又はタングステンカーバイドの粉末が充填されている請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項3】
前記原料保持用ルツボの底部と前記加熱用ルツボとの間にタングステン又はタングステンカーバイドからなるスペーサーを設けてある請求項1又は2記載の単結晶育成装置。
【請求項4】
タングステン若しくはタングステン合金からなる前記原料保持用ルツボの内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金の層で覆われており、前記酸化物はサファイア(Al)、ScAlMgO、LiTaO、LiAG又はYAGである請求項1ないし3のいずれか1項記載の単結晶育成装置。
【請求項5】
タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる前記原料保持用ルツボの内面が、白金若しくは白金合金からなる内層で覆われており、前記酸化物はLiNbO又はランガサイトである請求項1ないし3のいずれか1項記載の単結晶育成装置。
【請求項6】
前記加熱用ルツボの外周にカーボンフェルトが配置されている請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置。
【請求項7】
前記層の厚さは、前記原料保持用ルツボの厚さの1/10以下である請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置。
【請求項8】
前記層の厚さは0.1mm~0.5mmである請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置。
【請求項9】
前記層は、溶射、スパッタリング、CVD法、MOCVD法、箔の圧着、めっきのいずれかにより形成したものである請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置。
【請求項10】
請求項1ないしいずれか1項記載の単結晶育成装置を用いた単結晶の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、るつぼ並びに単結晶の育成装置及び育成方法に係る。
【背景技術】
【0002】
単結晶としてサファイア単結晶を例にとり背景技術を説明する。
単結晶の育成方法としてチョクラルスキー法が知られている。チョクラルスキー法とは、ルツボ中の原料溶融液面に種結晶を接触させ、次いで、その種結晶をルツボの加熱域から徐々に引上げて冷却することにより、該種結晶の下方に単結晶を成長させる方法である。
【0003】
この単結晶を成長させる方法に用いる引上げ装置の一般的な例を図5に示す。この装置は、結晶成長炉を構成するチャンバ11を備えており、このチャンバ11の上壁には、開口部を介して、図示しない駆動機構によって上下動および回転可能な単結晶引上げ棒12が吊設されている。この単結晶引上げ棒12の先端には、保持部材13を介して種結晶210が取り付けられており、種結晶210がルツボ419の中心軸上に位置するように配置されている。また、この単結晶引上げ棒12の上端には、結晶重量を測定するロードセル(図示せず)を備えている。
【0004】
ルツボ419は、一般には、上部から見た開口部が円形状であり、円柱状の胴部を持ち、底面の形状が平面状又は碗状又は逆円錐状のものが用いられる。また、ルツボの材質としては、原料溶融液である酸化アルミニウムの融点に耐え、また酸化アルミニウムとの反応性が低いものが適しており、イリジウム、モリブデン、タングステン、レニウムまたはこれらの混合物が一般的に用いられる。
【0005】
ルツボ419は、耐火物で形成された円筒状の支持台により支持されている。
【0006】
上述した単結晶引上げ装置を用いた単結晶サフアイアの引上げは、ルツボ419にサフアイア原料(必要に応じドープ剤としてCr,Fe,NOを添加したもの)を入れ、加熱コイル20に高周波電流を流すことによりルツボ419を加熱してサフアイア原料を溶融させ、耐火物15(保温体)15で保温し、引上げ棒12ないしルツボ419を回転させながら、アルミナ融液20に引上げ棒12の下端の種結晶210を浸し、引上げ棒12を引上げることにより行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-7353号公報
【文献】特開2011-105575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した高周波加熱法を用いた単結晶育成装置においては次なる問題点がある。
(1)高周波加熱法においては、ルツボ419は、原料融液を保持する容器としての役割と、ルツボ自体が発熱して原料を溶解するヒータとしての役割とを兼ねている。
このため、ルツボには、発熱した部分と発熱していない部分とが混在することになり、ルツボ内の融液の温度勾配が急峻になってしまい、成長させた単結晶に歪みが生じてしまうという問題。
【0009】
(2)MoやWからなるルツボは高周波による加熱効率が悪く、それらよりも加熱効率が良いIrからなるルツボを使用せざるを得ず、コスト高になってしまうという問題。
【0010】
特許文献1では、ルツボを、内側に配置されたモリブデン製又はタングステン製ルツボ76と、それとは近接するが互いに接触しない間隔で外側に配置されたイリジウム製ルツボ73とからなる二重構造にする、という技術を提示し、ルツボ内の融液の温度勾配が急峻になることを防止し、上記(1)の問題を解決している。
ただ、特許文献1ではIrルツボを使用しており、上述した(2)の問題は残っている。
【0011】
特許文献2では、熱容器(加熱室)の内側に、ルツボを配置し、そのルツボの外側にルツボの壁部を取り巻くように発熱体を設けている。そして、発熱体の内側でかつルツボの外側に、ルツボの壁部を取り巻くように、発熱体17の構成材料がルツボ内のアルミナ融液300に混入するのを防止する遮蔽体を備えている単結晶育成装置が開示されている。
【0012】
特許文献1、特許文献2に記載の技術は、ともに、発熱体と融液収納体とを別体とし、発熱体と収納体とを離隔し、発熱体の熱を輻射により収納体に伝達しようとするものである。
【0013】
しかし、特許文献1、特許文献2により提示された技術においても次なる問題点がある。
(1)特許文献1記載技術では、Irルツボを用いており、コスト高となる。
(2)特許文献2記載技術を用いて単結晶を育成すると、図6に示すように、その尾部は、インゴットの直径以上の長さに細長く延びてしまう。このように、テールだけがのびてしまうとルツボに充填した原料の量に対して必要とされる直径の有効直胴長の長さが短くなり、生産性が低減してしまう。
【0014】
(3)特許文献2記載技術では、安価なグラファイトを使用している。そして、加熱により発生するカーボンガスあるいはカーボン粒子が融液中に混入することを防止するために、加熱体であるグラファイトと収納体であるルツボとの間に遮蔽板を設ける配置する必要がある。配置にあたっては、ルツボとは接触することなく離隔していること、ルツボに均一に熱を輻射により伝えるために全周にわたりルツボとの距離を均一に保つこと、遮蔽板の上端を発熱体の上端より高く保つこと、という要件を満たす必要がある。
【0015】
かかる要件を満たしつつ実際に遮蔽板を配置、組立するためには幾多の工夫が必要であり、実際、特許文献2では概念的に配置しているだけである。
(4)特許文献2の技術で実際に単結晶の育成を行うと、熱効率が極めて悪く消費電力が多大なものとなってしまう。
【0016】
また、従来の単結晶は硬度が高く、加工が困難であった。
かかる問題を解決するための技術として本出願人は、別途次なる技術を提供している(特願2003-183028号)。
チャンバ内に設けられた断熱材で形成される加熱室と、加熱室の内部に設けられたルツボと、加熱室の外周に配置された加熱コイルとを備え、前記ルツボを加熱して得られた原料融液に種結晶を接触させた後に、種結晶を引き上げて単結晶を育成させる単結晶育成装置において、
前記ルツボは、タングステンの表面にタングステンの炭化物を有する有底の原料保持用ルツボと、原料保持用ルツボの外側に配置されたグラファイトからなる有底の加熱用ルツボとからなる単結晶育成装置。
チャンバ内に設けられた断熱材で形成される加熱室と、加熱室の内部に設けられたルツボと、加熱室の外周に配置された加熱コイルとを備え、前記ルツボを加熱して得られた原料融液に種結晶を接触させた後に、種結晶を引き上げて単結晶を育成させる単結晶育成装置において、
前記ルツボは、有底の原料保持用ルツボと、原料保持用ルツボの外側に配置されたグラファイトからなる有底の加熱用ルツボとからなり、前記原料保持用ルツボの外周と前記加熱用ルツボの内周とにより形成される空間にタングステンカーバイドの粉末が装入されている単結晶育成装置。
この技術により、グラファイトからなるルツボの使用が可能であり、組立・配置が極めて簡単であり、熱効率が良く、歪の少ない8インチ以上の大口径の結晶をも育成することが可能となり、また、従来の結晶よりも硬度が低く加工が容易である結晶を育成可能となった。
しかし、この技術においては、ルツボに変形が生じることがあり、そのためルツボの寿命が短くなることがある。
本発明は、グラファイトからなるルツボの使用が可能であり、組立・配置が極めて簡単であり、熱効率が良く、歪の少ない8インチ以上の大口径の単結晶をも育成することができる単結晶の育成装置及び育成方法を提供することを目的とする。
本発明は、従来の単結晶よりも硬度が低く加工が容易である単結晶を育成可能な単結晶育成装置及び育成方法を提供することを目的とする。
本発明は、より高純度の単結晶の育成が可能な単結晶育成装置及び育成方法を提供することを目的とする。
本発明は、より高寿命な単結晶育成装置及び育成方法に用いられるルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、ルツボ内の原料融液に種結晶を接触させた後に、前記種結晶を引き上げて酸化物の単結晶を育成させる単結晶育成装置において、
前記ルツボは、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層で覆われている原料保持用ルツボと、前記原料保持のためのルツボの外側に間隔を置いて又は置かないで配置された加熱用ルツボとからなり、前記加熱用ルツボはグラファイトからなり、前記加熱用ルツボに高周波電力を供給することにより加熱する高周波誘導加熱方式であることを特徴とする単結晶育成装置である。
請求項2に係る発明は、前記原料保持用ルツボと前記加熱用ルツボとの間隔にタングステン又はタングステンカーバイドの粉末が充填されている請求項1に記載の単結晶育成装置である。
請求項3に係る発明は、前記原料保持用ルツボの底部と前記加熱用ルツボとの間にタングステン又はタングステンカーバイドからなるスペーサーを設けてある請求項1又は2記載の単結晶育成装置である。
請求項に係る発明は、タングステン若しくはタングステン合金からなる前記原料保持用ルツボの内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金の層で覆われており、前記酸化物はサファイア(Al)、ScAlMgO、LiTaO、LiAG又はYAGである請求項1ないし3のいずれか1項記載の単結晶育成装置である。
請求項に係る発明は、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる前記原料保持用ルツボの内面が、白金若しくは白金合金からなる内層で覆われており、前記酸化物はLiNbO又はランガサイトである請求項1ないし3のいずれか1項記載の単結晶育成装置である。
請求項6に係る発明は、前記加熱用ルツボの外周にカーボンフェルトが配置されている請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置である。
請求項に係る発明は、前記層の厚さは、前記原料保持用ルツボの厚さの1/10以下である請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置である。
請求項に係る発明は、前記層の厚さは0.1mm~0.5mmである請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置である。
請求項9に係る発明は、前記層は、溶射、スパッタリング、CVD法、MOCVD法、箔の圧着、めっきのいずれかにより形成したものである請求項1ないしのいずれか1項記載の単結晶育成装置である。
請求項10に係る発明は、請求項1ないしいずれか1項記載の単結晶育成装置を用いた単結晶の育成方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、次の諸々の効果を奏する。
グラファイトからなるルツボの使用が可能であり、安価に単結晶を育成することができる。
単結晶の育成装置の組立・配置が極めて簡単である。
熱効率が良く、育成単結晶に歪の発生を少なくすることができる。
従来よりも硬度が低く、加工が容易な単結晶を得ることができる。
よりルツボ寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を実施するための形態1に係る単結晶育成装置を示す概念図である。
図2】本発明を実施するための形態2に係る単結晶育成装置を示す概念図である。
図3】本発明を実施するための形態1に係る単結晶育成装置を用いて育成した単結晶のインゴットを概念的に示す図である。
図4】本発明を実施するための形態3に係る単結晶育成装置を示す概念図である。
図5】従来の単結晶育成装置を示す概念図である。
図6】他の従来技術に係る単結晶育成装置を用いて育成した単結晶のインゴットを概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
[育成装置についての第1の形態]
図1は、本発明を実施するための第1の形態に係る単結晶引き上げ装置を説明するための図である。
ルツボ内の原料融液300に種結晶210を接触させた後に、種結晶210を引き上げて単結晶200を育成させる単結晶育成装置において、
前記ルツボは、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層で覆われている原料保持用ルツボ18と、原料保持用ルツボ18の外側に間隔を置いて又は置かないで配置された加熱用ルツボ19とからなる単結晶育成装置である。
【0022】
本形態をより詳細に説明する。
チャンバ11内に設けられた断熱材で形成される加熱室15と、加熱室15の内部に設けられたルツボと、加熱室15の外周に配置された加熱コイル20とを備え、前記ルツボを加熱して得られた原料融液300に種結晶210を接触させた後に、種結晶210を引き上げて単結晶200を育成させる単結晶育成装置において、
【0023】
ルツボ内の原料融液300に種結晶210を接触させた後に、種結晶210を引き上げて単結晶200を育成させる単結晶育成装置において、
前記ルツボは、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層で覆われている原料保持用ルツボ18と、原料保持用ルツボ18の外側に間隔を置いて又は置かないで配置された加熱用ルツボ19とからなる単結晶育成装置である。
【0024】
以下本形態をより詳細に説明する。
(原料保持用ルツボ)
原料保持用ルツボ18の母体(本体)は高融点材料からなる。タングステン(W)、モリブデン(Mo)あるいはW合金、Mo合金からなる。底部を有し、底部周縁から立ち上がる側壁を有している。その母体の本体の内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層で覆われている。
【0025】
イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層の形成は、たとえば、溶射、CVD、スパッタリング、箔の圧着などの方法により行えばよい。
イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層の厚さは、本体の厚さの1/10以下が好ましい。通常、本体の厚さは1~5mmであるので層厚保は0.1~0.5mmが好ましい。材料コストの面からは層厚は小さい方ほど好ましい。
【0026】
(加熱用ルツボ)
加熱用ルツボ19はグラファイトから構成される。グラファイトはIrに比べてはるか
に安価である。また、高周波(RF)に対する発熱効率が極めて良好である。
加熱用ルツボ19は、底部を有し(有底)、底部の周縁から上方に立ち上げる側壁を有している。
【0027】
グラファイトが発熱した場合に発生するカーボンガスあるいはカーボン粒子が融液に混入しないように、加熱用ルツボ19の上端(側壁の最上部)の高さは、原料保持用ルツボ18の上端よりも高くなく設定される。図1に示す例では、両者の上端は面一状態となっている。
加熱用ルツボ19の内部は、原料保持用ルツボ18の外面全体と加熱用ルツボ19の内面全体が接触するように、外径、内径を適宜設定しておくことが好ましい。底部においても、加熱用ルツボ19の底部内面が、原料保持用ルツボ18の底部外面と接触させ加熱用ルツボ19内に原料保持用ルツボ18をスライドさせてはめ込み可能な形状としておくことが好ましい。
加熱用ルツボ19の内面及び原料保持用ルツボ18の外面は鏡面仕上げしておけば、原料保持用ルツボ18を容易に加熱用ルツボ19内にスライドさせて収納させることができる。
なお、図1では、原料保持用ルツボ18と加熱用ルツボ19とを接触させて配置した例を示したが、原料保持用ルツボ18の側壁と加熱用ルツボ19の側壁とを離隔して配置してもよい。
なお、図1に示す形態では、加熱用ルツボ19の上端が原料保持用ルツボ18の上端より高くないようにしてある。
【0028】
(カーボンフェルト材)
図1に示す例では、加熱室15はジルコニア耐火物により構成されている。
ジルコニア(ZrO)は高温(1800℃以上)になると、酸化・還元反応を起こして、下記式(1)のように酸素が放出されルツボ材のモリブデンを酸化させる。Moを酸化させた際には、黒青色の煙を発生させ、この煙がサファイア原料表面、又はサファイア融液に混入し着色及び純度低下を引き起こす。これはルツボ材としてタングステンを使用した場合も同様である。また、ジルコニア以外の耐火物であっても温度の違いはあるにせよ式(1)の反応が生ずる。
2ZrO ⇔ 2ZrO+O ・・・(1)
そこで、本形態では、加熱用ルツボ19の外壁の周囲にカーボンフェルト材16を設けてある。加熱用ルツボ19から耐火物15への輻射をカーボンフェルト16が防止する。その結果、耐火物15の温度が酸化・還元反応を起こす温度まで上昇することが防止される。そのため、ルツボとしてMoやW製ルツボを使用することがより一層容易になる。
【0029】
(単結晶材料)
本発明における単結晶はいかなる材料でもよく、半導体材料、化合物半導体材料、酸化
物その他の材料の単結晶を育成することができる。

特に、酸化物材料に適用した場合に効果的であり、その中でも、サファイア、ScAl
MgOに適用した場合より効果的である。
【0030】
また、育成する単結晶の寸法には限定されるものではなく、いかなる寸法の単結晶の育成も可能である。ただ、従来は、単結晶の外径が6インチ以上になると、ルツボ内の融液の温度分布が大きくなり、育成単結晶の品質の劣化を招いていた。
【0031】
本発明による方法を採用すると温度勾配が緩くなり、かつ対流が安定するため、結晶の品質に影響する固液界面の形状が下凸形状から平らな形状に誘導される。大口径になればそれにつれてさらに平になる。平らになるほど結晶品質が安定する。
【0032】
従って、本発明では、6インチを以上であってもそれ未満の単結晶と同等の品質を保持することが可能であるため、6インチ以上の単結晶に適用すると効果がより顕著に現れる。なお、8インチ以上においても同様である。
【0033】
融点が2100℃以下の例えば、 サファイア(Al)(融点:2072℃)、ScAlMgO、LiTaO(融点:1650℃)又はYAG(融点:1970℃)などの単結晶の育成の場合には、タングステン若しくはタングステン合金からなる本体の内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金の層で覆われている原料保持用ルツボを用いることができる。融点が高いこれら単結晶の場合であっても、原料保持用ルツボの変形はすくなくルツボの寿命は長い。
【0034】
一方、融点が1600℃以下のたとえば、LiNbO(融点:1250℃)又はランガサイト(融点:1475℃)などの単結晶の育成の場合には、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、白金若しくは白金合金からなす内層で覆われている原料用ルツボを用いることが好ましい。
【0035】
(他の構成物)
図1には図示していないが、単結晶引上げ装置には、真空ポンプ、高周波誘導加熱用発振機、発振機の制御及び、単結晶引き上げ成長炉のコンピュータ制御、温度制御、駆動系制御、成長結晶直径制御等を行う制御装置その他の装置が設けられている。
【0036】
[育成装置についての第2の形態]
図2に他の形態を示す。
この形態においては、加熱用ルツボと原料保持用ルツボとが間隔を置いて配置されている。
【0037】
タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、白金若しくは白金合金からなす内層で覆われている原料用ルツボ18が、加熱用ルツボ内に間隔をおいて設けられている。
【0038】
本例における加熱用ルツボは2重構造をなしている。すなわち、外側はグラファイトからなるルツボ19bであり、内側はWCで表面を被覆したいWからなるルツボ19aである。内側のルツボ19aとしては、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、白金若しくは白金合金からなす内層で覆われているルツボを用いてもよい。内側のルツボ19aと外側のルツボ19bとは離間せずに密着させてある。
【0039】
原料保持用ルツボ18は、加熱用ルツボ18の内部に、側壁同士を離隔させ、底部にタングステンあるいはタングステンカーバイドからなるスペーサー21を介して配置されている。
【0040】
本形態では、ルツボは三重構造をなしている。加熱用ルツボの内側ルツボ19aの内面は、タングステン(あるいはイリジウムもしくは白金)であり、その面からの輻射により原料保持用ルツボ18が加熱される。原料保持用ルツボ187内における融液300中の温度勾配はより一層低減され、より一層歪の少ない単結晶が得られる。
【0041】
従来のルツボにおいては、育成結晶が小さい時(8インチ未満の時)はルツボの側壁が均一に加熱され、融液の自然対流は保持される。ところが育成結晶が大きくなると(8インチ以上になると)コイルに発生する高周波磁束の密度がルツボの中心になるにつれて弱まり、ルツボ外壁の一部が特に加熱されるホットエリアが形成され、温度勾配がきつくなる。
【0042】
この現象を弱めるために直接的にルツボによって融液を加熱するよりもクッション的に直接加熱されないルツボを内側に配置することで比較的、側面側からの加熱を弱め、融液の温度分布のばらつきをマイルドにして温度勾配が急峻にならないようになる。
融液の温度勾配が緩くなると自然対流が安定して結晶の欠陥やひずみを抑制する効果が生
ずる。
また、3重構造にすると各々のルツボの高寿命化がより一層達成される。
【0043】
なお、図2に示す例では、原料保持用ルツボ18の底部内壁にはタングステンのスペーサー21が配置されている。原料保持用ルツボはこのスペーサー21上に載置される。すなわち、側壁においては離隔して輻射により熱を供与するが、底壁においては離隔せず熱伝導により熱を供与する。これにより、温度勾配をより少なくすることができる。
【0044】
[育成装置についての第3の形態]
図4に形態3に係る育成装置を示す。
チャンバ11内に設けられた断熱材15で形成される加熱室と、加熱室の内部に配置されたルツボと、加熱室の外周に配置された加熱コイル20とを備え、前記ルツボを加熱し
て得られた原料融液300に種結晶210を接触させた後に、種結晶210を引き上げて
単結晶200を育成させる単結晶育成装置において、
前記ルツボは、有底の原料保持用ルツボ18と、原料保持用ルツボ18の外側に配置されたグラファイトからなる有底の加熱用ルツボ19とからなり、前記原料保持用ルツボ18の外周と前記加熱用ルツボ19の内周とにより形成される空間にタングステンカーバイドの粉末350が装入されている。
原料保持用ルツボ18は、タングステン若しくはタングステン合金又はモリブデン若しくはモリブデン合金からなる本体の内面が、イリジウム若しくはイリジウム合金又は白金若しくは白金合金からなる層で覆われている。
【0045】
本形態に係る育成装置は例えば次の手順で作成する。
(1)加熱用ルツボであるグラファイトルツボ19を、加熱室内の台座上に設置した後にタングステンカーバイドの粉末350をグラファイトルツボ19の内側の底面に好ましくは1~5mmの厚さで敷き詰める。
(2)原料保持用ルツボ18を、タングステンカーバイドの粉末350上に設置する。その際、原料保持用ルツボ18と加熱用ルツボ19の中心が一致させる。
(3)原料保持用ルツボ18の外形はグラファイトルツボ(加熱用ルツボ)19の内径より、例えば、10mmぐらい小さいものにする。そのようにするとグラファイトルツボ19と原料保持用ルツボ18の隙間は5mmになる。
【0046】
(4)その隙間にタングステンカーバイドの粉末を注入する。
本形態によれば、次の諸々の効果が達成される。
タングステンカーバイドをコーティングするよりもはるかに安価で簡易的に結晶育成が行える。タングステンカーバイドのコーティングは熱膨張率の差異により、使用回数が多くなった時、クラックや劣化が心配されるが、粉末の場合には熱膨張の差異を吸収することができる。
また、充填密度を制御することにより、加熱用ルツボ19から原料保持用ルツボ19への熱の伝達量や伝達速度を制御することができるため、温度勾配が生じない最適な伝達量、伝達速度の設定が容易に可能となる。
なお、原料保持用ルツボ18と加熱用ルツボ19との間は全てWC粉末を充填してもよいが、原料用ルツボの底部にブロック状のW又はWCのスペーサーを設けてもよい。このスペーサーの寸法を変化させることにより加熱用ルツボ18から原料保持用ルツボ19への熱伝達を制御することができ、原料融液の温度分布のばらつきをより少なくすることが可能となる。
【0047】
[育成方法の形態]
<準備工程>
準備工程では種結晶を用意して、引上げ棒12の保持部材13に取り付ける。続いて加熱用ルツボ19を配置する。加熱用ルツボ19の底にタングステン板21を置き、その上に原料保持用ルツボ18を設けることで二重構造のルツボとする。
さらに原料粉末を原料保持用ルツボ18内充填し、チャンバ11内にルツボを取り囲むように断熱容器としてカーボンフェルト材16とジルコニア耐火物15を組み立てる。さらにまた加熱コイル20と断熱容器15の間に石英管14を配置する。この準備作業が終了した後にガス供給部22からガス供給を行わないで、排気部23を用いてチャンバ内を減圧する。
【0048】
その後、ガス供給部22からアルゴンガスを供給し、チャンバ11の内部を不活性ガス雰囲気で常圧にする。ガスを供給するに際しては、ガスの流れが下方から上方に向かうように供給することが好ましい。これにより、不純物等が融液300中に混入することを低減させることができる。
<溶融工程>
溶融工程では、ガス供給部22からアルゴンガスをチャンバ11に供給する。コイル電源が加熱コイル20に高周波電を供給し、加熱コイル20で磁束が発生し、発熱体であるグラファイトルツボ19には渦電流が発生する。
【0049】
グラファイトルツボ19の融点は3000℃であるので、グラファイトルツボ19を2500℃以上に加熱することも可能であり、2500℃以上に加熱した方が作業効率は上昇する。しかし、グラファイトルツボ19の加熱は2500℃以下とすることが好ましく、2300℃以下とすることがより好ましい。このように、グラファイトルツボ19の加熱温度を制限することによりルツボの寿命がはるかに長くなる。
【0050】
図2に示す三重ルツボの構造の場合は、発熱体であるグラファイトルツボ19bからの熱伝導によって、タングステンの内側ツボ19aが加熱され、さらにタングステンルツボ19aからの熱輻射または熱伝導によって、原料保持用璧部が加熱され、これに伴って原料保持用ルツボ18に収容される酸化アルミニウムがその融点(2054℃)を超えて加熱されると、原料保持用ルツボ187内においてアルミナ原料すなわち酸化アルミニウムが溶融し、アルミナ融液300となる。
【0051】
<種付け工程>
種付け工程では、ガス供給部22が、アルゴンガスをチャンバ23内に供給する。
引上げ駆動部は、保持部材13に取り付けられた種結晶200の下端が、原料保持用ルツボ18内のアルミナ融液300と接触する位置まで引上げ棒12を下降させて停止させる。その状態で、コイル電源は、重量検出部からの重量信号をもとに加熱コイル20に供給する高周波電流の電流値を調節する。
【0052】
<肩部形成工程>
肩部形成工程では、コイル電源が加熱コイル20に供給する高周波電流を調節したのち、アルミナ融液300の温度が安定するまでしばらくの間保持し、その後、引上げ棒12を第一の回転速度で回転させながら第一の引上げ速度にて引き上げる。すると、種結晶210は、その下端部がアルミナ融液300に浸った状態で回転されつつ引き上げられることになり、種結晶210の下端には、鉛円直下方に向かって拡開する肩部220が形成されていく。肩部220の直径が所望とする基板の直径よりも数mm(1~5mm)ほど大きくなった時点で肩部形成工程を完了する。
【0053】
<直胴部形成工程>
直胴部形成工程では、ガス供給部22がアルゴンガスをチャンバ11内に供給する。コイル電源は、引き続き加熱コイル20に高周波電流の供給を行い、原料保持用ルツボ18を介してアルミナ融液300を加熱する。引き上げ駆動部は、引き上げ棒12を第2の引き上げ速度にて引き上げる。ここで第2の引き上げ速度は、肩部形成工程における原料保持用引き上げ速度と異なる速度である。さらに、回転駆動部は、引き上げ棒12を第2の回転速度で回転させる。
【0054】
ここで、第2の回転速度は、肩部形成工程における第1の回転速度と異なる速度である。
種結晶210と一体化した肩部220は、その下端部がアルミナ融液300に浸った状態で回転されつつ引き上げられることになるため、肩部220の下端部には、円柱状の直胴部230が形成されていく。直胴部230の直径は、所望とする基板の直径より数mmほど大きなっていればよい。
【0055】
<尾部形成工程>
尾部形成工程では、ガス供給部22がアルゴンガスをチャンバ11内に供給する。
また、コイル電源は、引き続き加熱コイル20に高周波電流の供給を行い、原料保持用ルツボ18を介したアルミナ融液300を加熱する。さらに、引き上げ駆動部は、引き上げ棒12を第3の引き上げ速度にて引き上げる。ここで第3の引き上げ速度は、肩部形成工程における第1の引き上げ速度あるいは直胴部形成工程における第2の引き上げ速度と異なる速度である。
【0056】
さらにまた、回転駆動部は、引き上げ棒12を第3の回転速度で回転させる。ここで、第3の回転速度は、肩部形成工程における第1の回転速度あるいは直胴部形成工程における第2の回転速度とは異なる速度である。なお、尾部形成工程の序盤において、尾部240下端は、アルミナ融液300と接触した状態を維持する。
そして、所定の時間が経過した尾部形成工程の終盤において、引き上げ駆動部は、引き上げ棒12の引き上げ速度を増速させて引き上げ棒12をさらに上方に引き上げさせることにより、尾部240の下端をアルミナ融液300から引き離す。これにより、図2に示すサファイアインゴット200が得られる。
【0057】
<冷却工程>
冷却工程では、ガス供給部22がアルゴンガスをチャンバ11内に供給する。また、コイル電源は、加熱コイル20へ高周波電流の供給を停止し、ルツボ17を介したアルミナ融液300の加熱を中止する。さらに、引き上げ駆動部は引き上げ棒12の引き上げを停止させ、回転駆動部は引き上げ棒12の回転を停止させる。このとき、ルツボ17内には、サファイアインゴット200を形成しなかった酸化アルミニウムがアルミナ融液300として少量残存している。このため、加熱の停止に伴って、原料保持ルツボ18中のアルミナ融液300は徐々に冷却され、酸化アルミニウムの融点を下回った後にルツボ18中で固化し、酸化アルミニウムの固体となる。そして、チャンバ11内が十分に冷却された状態で、チャンバ11内からサファイアインゴット200が取り出される。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態では、加熱コイル20により原料保持用ルツボ18の壁部を直接加熱することなく、原料保持用ルツボ18を間接的に加熱している。このため、加熱コイル20により原料保持用ルツボ18の壁部を直接加熱した場合に比べ、ルツボ17内の融液の温度勾配を緩和することができる。よって、急激な温度勾配によって成長させた単結晶に発生する歪みを抑制することができる。
【実施例
【0059】
(実施例1)
本例では、図4に示す構造の高周波誘導加熱型チョクラルスキー炉を用いてYAG(YAl12)を育成した。
原料ルツボ(原料保持用ルツボ)18として、内面にイリジウムを0.5mmの厚さにコーティングを行ったタングステン製のΦ100mmのルツボを用いた。加熱用ルツボ19にはグラファイトルツボを用いた。
原料保持用ルツボ18に、出発原料として4N(99.99%)のY、Alを規定mol配合した原料2.0kg投入した。原料を投入したルツボを前記育成炉に投入し、炉内を真空にした後にアルゴンガスを導入し、1.0L/minの流量でフローを行った。炉内が大気圧となった時点でルツボの加熱を開始し、YAGの融点に達するまで12時間かけて徐々に加熱した。
その後、(111)方位に切り出したYAG単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分6.0回転の速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、引上速度0.5mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
その結果、直径50mm、直胴部の長さ100mmの単結晶が得られた。この単結晶を観察したところ、微小な気泡は観測されなかった。さらに、ウェハ状に切断・研磨し、偏光により内部を観察した所、サブグレインの発生は認められなかった。
本例では、チャンバ内径1000φの高周波加熱コイルを備えた高周波誘導加熱型チョ
クラルスキー炉を用いた。内径φ295mmのタングステン製ルツボの外壁に0.5mm
の厚みを持ったタングステンカーバイドをコーティングしたルツボの外側にグラファイト
ルツボを密接して配置した一体型二重ルツボに出発原料として4N(99.99%)の酸
化アルミニウム原料を52kg投入した。原料を投入したルツボを前記育成炉の加熱室に
投入した。前記一体型二重ルツボの外周にはカーボンフェルト材およびジルコニアによっ
て断熱構造を設け、加熱室内部の最外周に高周波加熱コイルが配置され、その内側に石英
管を配置した。炉内を真空にした後に装置下方からアルゴンガスを導入し、1.0L/m
inの流量でフローさせ装置上方に排気口を設け、加熱室内の雰囲気ガスを循環させるた
めに、前記石英管は雰囲気ガスを密封するように配置した。
【0060】
炉内が大気圧になった時点でルツボの加熱を開始し、酸化アルミニウムの融点に達するまで12時間かけて徐々に加熱した。溶融後、酸化アルミニウム単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分2回転の速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、引上速度2mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
【0061】
その結果、直径205mm、直胴部の長さ150mmの単結晶が得られた。この単結晶
を観察したところ、微小な気泡は観察されなかった。さらに、ウエハ状に切断・研磨し、
偏光により内部を観察した所、サブグレインの発生は認められなかった。
上記実験を複数回行ったところ、
【0062】
(実施例2)
本例では、図4に示す構造の高周波誘導加熱型チョクラルスキー炉を用いてLTGA(LaTa0.5Ga5.3Al0.214)を育成した。
原料ルツボ(原料保持用ルツボ)18として、内面にイリジウムを0.3mmコーティングを行ったタングステン製のΦ100mmのルツボを用いた。
加熱用ルツボ19にはグラファイトルツボを用いた。
原料保持用ルツボ18に、出発原料として4N(99.99%)のLa、Ta、Ga、Alを規定mol%に配合した原料2.0kg投入した。原料を投入したルツボを前記育成炉に投入し、炉内を真空にした後にアルゴンガスを導入し、2.0L/minの流量でフローを行った。
炉内が大気圧となった時点でルツボの加熱を開始し、LTGAの融点に達するまで12時間かけて徐々に加熱した。その後、(100)方位に切り出したLTGA単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分4.0回転の速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、引上速度2.0mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
その結果、直径50mm、直胴部の長さ100mmの単結晶が得られた。この単結晶を観察したところ、微小な気泡は観測されなかった。さらに、ウェハ状に切断・研磨し、偏光により内部を観察した所、サブグレインの発生は認められなかった。
本例では、チャンバ内径1000mmφの高周波加熱コイルを備えた高周波誘導加熱型チョクラルスキー炉を用いた。内径φ295mmのタングステン製ルツボの外壁に0.5mmの厚みを持ったタングステンカーバイドをコーティングしたルツボの外側にグラファイトルツボを密接して配置した一体型二重ルツボの内側に内径φ230mmのモリブデンルツボを配置し、該モリブデンルツボはタングステンスペーサーを介してタングステンカーバイドを内壁にコーティングしたタングステンルツボ内に配置される。
【0063】
出発原料として4N(99.99%)の酸化アルミニウム原料22kgをモリブデンルツボに投入した。原料を投入したルツボを前記育成炉の加熱室に投入した。前記一体型二重ルツボの外周にはカーボンフェルト材およびジルコニアによって断熱構造を設け、加熱室内部の最外周に高周波加熱コイルが配置され、その内側に石英管を配置した。炉内を真空にした後に装置下方からアルゴンガスを導入し、1.0L/minの流量でフローさせ装置上方に排気口を設け、加熱室内の雰囲気ガスを循環させるために、前記石英管は雰囲気ガスを密封するように配置した。
炉内が大気圧になった時点でルツボの加熱を開始し、酸化アルミニウムの融点に達するまで12時間かけて徐々に加熱した。溶融後、酸化アルミニウム単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分10回転の速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、引上速度2mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
【0064】
その結果、直径155mm、直胴部の長さ150mmの単結晶が得られた。この単結晶
を観察したところ、微小な気泡は観察されなかった。さらに、ウエハ状に切断・研磨し、
偏光により内部を観察した所、サブグレインの発生は認められなかった。
【0065】
(実施例3)
本例では、図4に示す構造の高周波誘導加熱型チョクラルスキー炉を用いてLT(LiTaO)を育成した。
原料ルツボ(原料保持用ルツボ)18として、内面にイリジウムを0.3mmコーティングを行ったタングステン製のΦ100mmのルツボを用いた。
加熱用ルツボ19にはグラファイトルツボを用いた。
原料保持用ルツボ18出発原料として4N(99.99%)のLiO、Taを規定mol%に配合した原料2.0kg投入した。原料を投入したルツボを前記育成炉に投入し、炉内を真空にした後にアルゴンガスを導入し、1.0L/minの流量でフローを行った。
【0066】
炉内が大気圧となった時点でルツボの加熱を開始し、LTの融点に達するまで12時間かけて徐々に加熱した。その後、(100)方位に切り出したLT単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分10.0回転の速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、引上速度1.0mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
【0067】
その結果、直径50mm、直胴部の長さ100mmの単結晶が得られた。この単結晶を観察したところ、微小な気泡は観測されなかった。さらに、ウェハ状に切断・研磨し、偏光により内部を観察した所、サブグレインの発生は認められなかった。
本例では、原料保持用ルツボと加熱用ルツボとの間にタングステンカーバイドの粉末を挿入した装置を用いて単結晶を育成した例を示す。
【0068】
実施例1~3で製造した単結晶はいずれも従来に比べて硬度が低かった。なお、本実施
例に係る単結晶が従来の単結晶よりも硬度が低い理由は次の通りであると推測される。
【0069】
従来は、従来の育成装置においては、ルツボにイリジウムを使用しており、また、保温
室はジルコニアから形成されていた。そのため、従来の育成装置では、酸素が炉内に発生
し、発生した酸素が単結晶の硬度を高めていたものと推測される。それに対し本実施例で
は、アルゴンガスにより炉内をパージして炉内から酸素を排除しているため単結晶は従来
の育成装置で育成されたサファイア結晶と比較して結晶が軟らかく、加工が容易となった
ものと推測される。なお、アルゴンガスとしては酸素、水分の含有量が100ppb以下
(より好ましくは100ppt以下)のガスを用いることが好ましい。
【0070】
(実施例4)
本例では、図4に示す構造の高周波誘導加熱型チョクラルスキー炉を用いてLuAG(LuAl12)を育成した。
原料ルツボ(原料保持用ルツボ)18として、内面にイリジウムを0.3mmコーティングを行ったタングステン製のΦ100mmのルツボを用いた。
加熱用ルツボ19にはグラファイトルツボを用いた。
【0071】
原料保持用ルツボ18に、出発原料として4N(99.99%)のLu、Alを規定mol%に配合した原料2.0kg投入した。原料を投入したルツボを前記育成炉に投入し、炉内を真空にした後にアルゴンガスを導入し、1.0L/minの流量でフローを行った。
【0072】
炉内が大気圧となった時点でルツボの加熱を開始し、LuAGの融点に達するまで20時間かけて徐々に加熱した。その後、(111)方位に切り出したLuAG単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分10.0回転の速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、引上速度1.0mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
その結果、直径50mm、直胴部の長さ100mmの単結晶が得られた。この単結晶を観察したところ、微小な気泡は観測されなかった。さらに、ウェハ状に切断・研磨し、偏光により内部を観察した所、サブグレインの発生は認められなかった。
【0073】
(実施例5)
本例では、図4に示す構造の高周波誘導加熱型チョクラルスキー炉を用いてLN(LiNbO)を育成した。
原料ルツボ(原料保持用ルツボ)18として、内面に白金を0.3mmコーティングを行ったタングステン製のΦ100mmのルツボを用いた。
加熱用ルツボ19にはグラファイトルツボを用いた。
【0074】
原料保持用ルツボ18に、出発原料として4N(99.99%)のLiCO、Nbを規定mol%に配合した原料2.0kg投入した。原料を投入したルツボを前記育成炉に投入し、炉内を真空にした後にアルゴンガスを導入し、1.0L/minの流量でフローを行った。
【0075】
炉内が大気圧となった時点でルツボの加熱を開始し、LNの融点に達するまで12時間かけて徐々に加熱した。その後、(100)方位に切り出したLN単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分10.0回転の速度で回転させながら徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、引上速度1.0mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
その結果、直径50mm、直胴部の長さ100mmの単結晶が得られた。この単結晶を観察したところ、微小な気泡は観測されなかった。さらに、ウェハ状に切断・研磨し、偏光により内部を観察した所、サブグレインの発生は認められなかった。
【0076】
(実施例6)
実施例1から5に示す条件の試験をそれぞれ図1図2に示す構造の育成装置についても行なった。ほぼ実施例1から5と同様の結果が得られた。
【0077】
(参考例)
原料保持用ルツボとして、タングステンカーバイドをタングステン本体の表面に被覆したルツボを用いて実施例1~5と同様の試験を行ったところ、実施例1~5の場合に比べて単結晶の尾部の長さが若干長かった。また、ルツボ寿命は実施例1~5の方が長かった。
【符号の説明】
【0078】
11 チャンバ
12 引上げ棒
13 保持部材
14 石英管
15 加熱室
16 カーボンフェルト
17 原料保持用ルツボ
18 原料保持用ルツボ
19 加熱用ルツボ
20 加熱手段(加熱コイル)
22 ガス供給部
23 ガス排気部
200 インゴット(単結晶)
210 種結晶
220 肩部
230 直胴部
240 尾部
300 原料融液
350 タングステンカーバイドの粉末
図1
図2
図3
図4
図5
図6