(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】スタルガルト病の処置のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220729BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220729BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20220729BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20220729BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220729BHJP
C07H 21/02 20060101ALI20220729BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220729BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220729BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220729BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/7105
A61K31/712
A61K31/7125
A61P27/02
C07H21/02 CSP
A61K48/00
A61K35/76
A61K9/08
C12N15/86 Z
(21)【出願番号】P 2019555971
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 EP2018059542
(87)【国際公開番号】W WO2018189376
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-16
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517299054
【氏名又は名称】プロキューアール セラピューティクス ツー ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】イルマズ-エリス,アリー セダ
(72)【発明者】
【氏名】アダムソン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】デュラ,カルヤナ チャクラヴァルチ
(72)【発明者】
【氏名】スチュルケンス,アイリス アントワネット エルネスティーヌ
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/190922(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/135334(WO,A1)
【文献】Aukrust I et al.,The intronic ABCA4 c.5461-10T>C variant, frequently seen in patients with Stargardt disease, causes splice defects and reduced ABCA4 protein level,Acta Ophthalmol,95(3),2016年10月24日,240-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/113
A61K 31/7105
A61K 31/712
A61K 31/7125
A61P 27/02
C07H 21/02
A61K 48/00
A61K 35/76
A61K 9/08
C12N 15/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトABCA4 pre-mRNAにおいて少なくとも1つのエクソンのスキッピングを阻害することができるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であって、前記エクソンスキッピングは、ABCA4遺伝子
のイントロン38におけるc.5461-10T>C変異によるものであ
り、前記AONは、エクソン39スキッピングおよび/またはエクソン39/エクソン40二重スキッピングを阻害することができるものであり、前記AONは、配列番号65又は配列番号66内の8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25の連続したヌクレオチドと相補的な配列を含むか、またはそれからなる、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)。
【請求項2】
前記相補的な配列は、前記ヒトABCA4遺伝子のイントロン38におけるc.5461-10T>
C変異を含む、請求項
1に記載のAON。
【請求項3】
前記AONは、配列番号1、3、4、5、6、9、12、13、14、17、20、24、25、29、31、および32のうちのいずれか1つの配列を含むか、またはそれからなる、請求項
1または
2に記載のAON。
【請求項4】
前記AONは
、少なくとも1つの2’-Oアルキル修飾を含むオリゴリボヌクレオチド(RNAオリゴヌクレオチド)である、請求項1から
3のいずれか一項に記載のAON。
【請求項5】
前記AONは、少なくとも1つの2’-O-メチル(2’-OMe)修飾糖を含むオリゴリボヌクレオチド(RNAオリゴヌクレオチド)である、請求項1から4のいずれか一項に記載のAON。
【請求項6】
前記AONは、少なくとも1つの2’-メトキシエトキシ(2’-MOE)修飾を含むオリゴリボヌクレオチド(RNAオリゴヌクレオチド)である、請求項1から
5のいずれか一項に記載のAON。
【請求項7】
前記AONは、少なくとも1つのホスホロチオエート結合を有
している、請求項1から
6のいずれか一項に記載のAON。
【請求項8】
前記AONは、すべての連続したヌクレオチドは、ホスホロチオエート結合によって互いに連結されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のAON。
【請求項9】
硝子体内投与用である、請求項1から
8のいずれか一項に記載のAON、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物は、各眼当たり合計AONが0.05から5mgの間の範
囲で投与される、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物は、各眼当たり合計AONが0.1から1mgの間の範囲で投与される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物は、各眼当たり合計AONが0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mg投与される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1から
3のいずれか一項に記載のAONを発現させるウイルスベクター。
【請求項14】
薬剤として使用するための、請求項1から
8のいずれか一項に記載のAON、請求項
9から12のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項
13に記載のウイルスベクター。
【請求項15】
スタルガルト病の処置、予防または遅延に使用するための、請求項1から
8のいずれか一項に記載のAON、請求項
9から12のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項
13に記載のウイルスベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学およびバイオテクノロジーの分野に関する。特に、本発明は、眼疾患、好ましくは、黄斑ジストロフィー、より好ましくは、スタルガルト病の処置、予防および/または遅延に適用可能なアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に関する。
【背景技術】
【0002】
スタルガルト病(STGDまたはSTGD1)は、中心視野の進行性の障害を引き起こす最も一般的な遺伝性黄斑ジストロフィーであり、一般に小児期または青年期に発症し、その後の成人期に発症することはほとんどなく、一般に後に発症する程、それに伴う予後が良好である。この疾患は、8,000~10,000人に1人の罹患率を有し、視細胞特異的なATP結合カセットトランスポーターABCA4をコードする遺伝子の疾患を引き起こす突然変異と関連づけられる常染色体劣性遺伝様式を有する。このタンパク質は、2273のアミノ酸を含み、主に網膜において発現し、縁および錐体外節円板に集中する。それは、N-レチニリデン-ホスファチジルエタノールアミンを視細胞円板(photoreceptor disk)の内腔面から細胞質側表面にフリップすると考えられている。スタルガルト病は、網膜色素上皮における、大量に沈着したリポフスチン内容物、有害物質除去の不全および視細胞の著しい減少と密接に関連づけられている。ABCA4がなくなるか、または機能不全のときに、リポフスチンの主要な成分であるジ-レチノイド-ピリジニウム-エタノールアミンが生成される。実際に、ABCA4がスタルガルト病の基となる遺伝子であることを確認した複数の報告が公開され、多く(約1000)の疾患を引き起こすバリアントを示しており、そのうちの半分以上が一度しか記載されていない。スタルガルト病の症例のおよそ75%および常染色体劣性遺伝錐体桿体ジストロフィー(CRD)の患者のおよそ30%でABCA4の両アレル性バリアント(Biallelic variant)が特定された。突然変異の大部分が、ミスセンス突然変異であり、ナンセンス突然変異、小さな挿入/欠失、およびRNAスプライシングに影響を及ぼす突然変異が続く。北欧および米国(約30%)の異常に高い割合のスタルガルト病症例は、たった1つのABCA4バリアントの結果である。3番目に多いABCA4バリアント、イントロン38に存在するc.5461-10T>Cが、ABCA4のmRNAにおけるエクソン39のスキッピング、またはエクソン39+エクソン40のスキッピングのために重症型のスタルガルト病を引き起こすことが、最近示された(Aukrust et al. The intronic ABCA4 c.5461-10T>C variant, frequently seen in patients with Stargardt disease, causes splice defects and reduced ABCA4 protein level. Acta Ophthalmol 2016 Oct 24:1-7;Sangermano et al. 2016. Photoreceptor progenitor mRNA analysis reveals exon skipping resulting from the ABCA4 c.5461-10T>C mutation in Stargardt disease. Ophthtalmology 123(6):1375-1385)。エクソン39のスキッピングは、124ヌクレオチドのフレームシフト欠失をもたらすのに対し、エクソン39および40の二重スキップは、254ヌクレオチドのフレームシフト欠失をもたらす。特に、タンパク質のそのような短いバージョンは検出されておらず、それは、それらが不安定であるという理由の可能性が高い(Aukrust et al. 2016)。西欧諸国のおよそ7000人のスタルガルト病患者がこの特定の突然変異に苦しんでいると推定される。
【0003】
スタルガルト病を処置するための主要な3つの経路の介入は、現在、幹細胞療法、遺伝子補充療法およびさまざまな薬学的なアプローチである。遺伝性眼疾患を処置するための比較的新しい治療法の開発は、突然変異遺伝子から転写されるpre-mRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の使用である。AONは、一般に、配列が標的pre-mRNA分子の配列と相補的であるため、スプライシングを妨げることができる小さなポリヌクレオチド分子(16から25mer)である。想起されるメカニズムは、相補的なAONの標的配列への結合時に、pre-mRNA内の標的とされる領域がスプライシング因子を妨げ、それが、その結果として改変されたスプライシングをもたらすようなメカニズムである。治療的に、この方法論は、a)突然変異が隠れたスプライシング部位を活性化する遺伝子の正常なスプライシングを再び指示するため、およびb)mRNAの読み枠が完全なままであり、(部分的に)機能的なタンパク質が産生されるような形で(タンパク質短縮)突然変異を保有するエクソンをスキップするための2つの方法に使用することができる。両方法は、既に重度の遺伝性障害を有する患者に首尾よく適用されている(Scaffidi and Misteli. 2005. Reversal of the cellular phenotype in the premature aging disease Hutchinson-Gilford progeria syndrome. Nat.Med 11(4):440- 445;Cirak et al. 2011. Restoration of the Dystrophin-associated Glycoprotein Complex after Exon Skipping Therapy in Duchenne Muscular Dystrophy. Mol Ther 20:462-467;Cirak et al. 2011. Exon skipping and dystrophin restoration in patients with Duchenne muscular dystrophy after systemic phosphorodiamidate morpholino oligomer treatment: an open-label, phase 2, dose-escalation study. Lancet 378(9791):595-605;Goemans et al. 2011. Systemic administration of PRO051 in Duchenne's muscular dystrophy. N Engl J Med 364(16):1513-1522)。眼疾患に対して、AONは、レーバー先天黒内障、またはLCAの処置に有望であることが示された(国際公開第2012/168435号パンフレット;国際公開第2013/036105号パンフレット;国際公開第2016/034680号パンフレット;国際公開第2016/135334号パンフレット)。さらに、国際公開第2016/005514号パンフレットは、アッシャー症候群II型の処置、予防または遅延のために、エクソン13、エクソン50およびPE40のスキッピング、ならびに/またはエクソン12の保持に向けられたUSH2A pre-mRNAを標的とするためのエクソンスキッピングAONについて開示している。国際公開第2015/004133号パンフレットは、スタルガルト病の処置のために、ABCA4 pre-mRNAからのエクソン10のスキッピングにAONを使用することについて開示している。したがって、AONは、スタルガルト病を含むいくつかの遺伝性眼疾患の処置におけるエクソンスキッピングに関して記載されてきたが、とりわけ、エクソン保持に関連する場合、スタルガルト病の処置において、さらに特定するなら、エクソン39スキッピングを引き起こすc.5461-10T>C突然変異が原因となるスタルガルト病の処置のために、AONベースの方法に対して強いニーズがあるようである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、スタルガルト病の処置、遅延または予防に使用するためのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に関する。さらに特定するなら、本発明は、ヒトABCA4 pre-mRNAにおける少なくとも1つのエクソン、好ましくは、エクソン39のスキッピングを阻害することができるAONであって、エクソンスキッピングは、イントロン38におけるc.5461-10T>C突然変異などのABCA4遺伝子における(イントロン)突然変異によるものである、AONに関する。好ましくは、AONは、エクソン39スキッピングおよび/またはエクソン39/エクソン40二重スキッピングを阻害する、予防するまたはブロックすることができる。好ましい実施形態において、本発明のAONは、配列番号1から37のいずれか1つの配列を含むか、またはそれからなる。本発明はまた、本発明によるAON、および薬学的に許容される担体を含み、硝子体内投与用である医薬組成物に関する。さらに別の態様において、本発明は、本発明によるAONを発現させるウイルスベクターに関する。さらに別の態様において、本発明は、ヒト眼内の標的組織に対するAONの効率的な(好ましくは、長期にわたる)放出のための、本発明のAONを含む、ナノ粒子または任意のタイプの徐放性組成物に関する。別の態様において、本発明は、スタルガルト病の処置、予防または遅延に使用するための、本発明によるAON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターに関する。さらに別の態様において、本発明は、ABCA4 pre-mRNAのスプライシングの調節を必要とするヒト個体の、それを必要とするスタルガルト病または状態の処置(ABCA4 pre-mRNAからのエクソン39のスキップを予防するなど)のための方法であって、ヒト個体の細胞を、本発明によるAON、医薬組成物またはウイルスベクターと接触させることおよびそれに続いて前記細胞への前記AONの侵入を可能にして、その結果、前記細胞に存在する突然変異したヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39スキッピングの阻害を可能にすることを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】ヒトABCA4遺伝子のエクソン38、イントロン38、エクソン39、イントロン39およびエクソン40に対して試験したアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の相補的な位置の略図である。エクソン38とエクソン39の間のイントロン38におけるc.5461-10T>C突然変異の相対的な位置が示されている。
【
図2-1】ヒトABCA4遺伝子のエクソン39およびエクソン40(太字、両エクソンには下線を引いてある)ならびにそれらの周辺のイントロン配列(太字、下線を引いていない)のRNA配列(5’から3’;配列番号50)を示す図である。初めに設計した37のAON配列をABCA4 pre-mRNAに対するそれぞれの相補的な位置とともに示す。c.5461-10T>C突然変異の位置を下方へ指し示す矢印により示す。イントロン38内において、実施例において概略が述べられているAON1および17が結合するホットスポットであるような領域をイタリックのフォントで示し、これは、配列番号65の配列を有する。AON12、31および32が結合するイントロン39中のホットスポットについても同じことがいえ、このホットスポットは、配列番号66の配列を有する。
【
図3-1】以下の順序のヒトABCA4イントロンおよびエクソンを有する配列番号44である:イントロン38(小文字)-エクソン39(大文字、太字および下線)-イントロン39(小文字)-エクソン40(大文字、太字およびイタリック)-イントロン40(小文字)。イントロン38(c.5461-10T>C突然変異をもつ)=配列番号45;エクソン39=配列番号46;イントロン39=配列番号47;エクソン40=配列番号48;イントロン40=配列番号49。
【
図4】イントロン38中のSalIおよびNotIクローニング部位およびc.5461-10T>C突然変異の位置(-10T>C)を示すミニジーン(MG)コンストラクトの略図である。MG1およびMG2については、Sangermano et al. (2016)に記載されている。MG3(エクソン39を有する)およびMG4(エクソン39およびエクソン40を有する)は、本明細書中で開示されているとおりである。
【
図5】HeLa細胞へのトランスフェクション後、転写されたpre-mRNAは、エクソン39がスプライシングされて除去され、エクソン1がエクソン2と連結されるよう処理されるのに対し、突然変異の非存在下では(レーンWT、野生型ミニジーンコンストラクトによる)エクソン39はエクソン1とエクソン2の間に存在したままであるという意味でMG3コンストラクト(c.5461-10T>C突然変異をもつ場合)が「機能的」であることを示す図である。インサートなしレーンは、ミニジーンコンストラクトにインサートが含まれていない場合のPCR産物を示す対照である。
【
図6】さまざまなAONを用いて、および用いずに行った、5461-10T突然変異をもつMG3(+MG3 mut.)およびMG3野生型(MG3 WT)コンストラクトによるHeLa細胞のトランスフェクション後のバイオアナライザーにおけるRT-PCR結果である。初めに配列番号1から16の16のAONを突然変異体バージョンに対して試験した。エクソン39配列内でアニーリングするプライマーを用いてRT-PCRを行い、これにより、下のパネルの「HeLa(NT)」(非トランスフェクションHeLa細胞)で示したレーンも予想されるレベルでバンドを示すようになる。これは、HeLa細胞が野生型ABCA4遺伝子をもつという事実によるものであり、これから明らかにPCR産物も形成された。陰性対照(「ctrAON」)に、突然変異を有するMG3コンストラクトおよび無関係なAONをトランスフェクションした。別の陰性対照は、コンストラクトまたはAONを用いずにトランスフェクション試薬によってのみトランスフェクションされた細胞を表す「Mock tr」レーンである。「Rt-ctr」および「H
2O」は、細胞物質を伴わない、PCR反応に関するさらなる2つの陰性対照とした。産物バンドの強度の増加は、エクソン39を含むmRNAの増加を示唆する。そのようなものはバックグラウンドとしてHeLa細胞において既に形成されたものに基づいて、実際にAONがトランスフェクションされていないWTシグナルと比較して評価されるべきであるため、「WT-no AON」で示したレーンを100%として取り、その100%強度と比較して他のバンドの強度を測定するためにバイオアナライザーソフトウェアを利用した。これは、そのシグナルのおよそ1/3(29%)がバックグラウンドのHeLa単独のシグナルによる可能性があることを示している。AONを用いて、または用いずに行ったトランスフェクション自体がおよそ70%へのシグナルのAONと無関係な増加を示すことができることも示している。しかしながら、AON1、AON3、AON4、AON5、AON6、AON12、AON13、およびAON14で検出された強度は100%に設定したWTシグナルの少なくとも80%へ増加し、AON3、AON4、AON6、およびAON12が最も良く機能して少なくとも90%の強度であった。これは、これらのAONがMG3突然変異コンストラクトからのエクソン39スキッピングを、エクソン39がスキップされない野生型に近いレベルまでブロックすることができたことを示す。
【
図7】MG3コンストラクトおよび示したさまざまなAONをトランスフェクションされたHEK293細胞におけるエクソン39包含のパーセンテージのddPCR定量を示すグラフである。3つのパネルA、BおよびCは、3つの異なる日にではあるが同一の様式で実施された実験を表す。Mockは、AONがトランスフェクションされていない場合のエクソン39包含のパーセンテージを表す。
【
図8】MG3_2ミニジーンコンストラクトにおけるインサートの5’→3’の配列(配列番号67)を示す図である。EcoRIおよびSalI部位が末端にある5’および3’末端にそれぞれある。ヒトABCA4遺伝子のエクソン39(配列番号46)は大文字である。イントロン38(配列番号45、エクソン39の5’末端にある)およびイントロン39(配列番号47、エクソン39の3’末端にある)に下線を引いてある。EcoRI部位とインサートの5’末端にあるイントロン38の間の配列、およびイントロン39とインサートの3’末端にあるSalI部位の間の配列の残部は、実施例に記載されているとおり、骨格プラスミド中に既に存在しているものと同一である。RHOエクソン3およびRHOエクソン5配列(それぞれ配列番号68および配列番号69)は、それぞれABCA4イントロン38の5’側およびイントロン39の3’側にあり、太字で示す。
【
図9-1】MG3_2ミニジーンコンストラクトの概略図を(A)に示す。バイオアナライザーによるHEK293細胞におけるMG3_2(プラスミド単独)からのエクソン39を含むおよびそれが排除された増幅産物の位置も(B)に示す。c.5461-10T>C突然変異のために、転写物の大半でエクソン39(下のバンド)が欠如しており、エクソン39包含(上のバンド)がはるかに低いレベルで確認された。c.5461-10T>C突然変異をもつMG3_2コンストラクトおよびさまざまなAON(複数可)をトランスフェクションされたHEK293細胞におけるエクソン39包含のパーセンテージのddPCR定量を(C)に示し、AON1、3、4、9、12、17、24、25、29、31、または32によるトランスフェクションの後の強いエクソン39包含効果を明らかにした。
【
図10】ddPCRを使用した、HEK293細胞においてMG3_2ミニジーンならびに糖部分における2’-OMe修飾により完全に修飾されたAON1およびAON32をトランスフェクションされた後のエクソン39含有のパーセンテージを、それぞれの糖部分に2’-OMe修飾の代わりに2’-MOE修飾をもつAON1およびAON32、ならびにAONが使用されなかったmockトランスフェクションと比較して示すグラフである。同じオリゴヌクレオチドの2’-MOEバージョンが利用される場合、有意な効果の増加が確認された。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、ヒトABCA4 pre-mRNAにおけるエクソン39のスキッピングを予防する、阻害する、かつ/またはブロックすることができる、あるいはエクソン39+エクソン40の二重スキッピングを予防する、阻害する、かつ/またはブロックすることができる特定のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に関する。そのような(二重)スキッピングは、少なくとも比較的一般的なイントロン38におけるc.5461-10T>C、スタルガルト病を引き起こす突然変異によって引き起こされる場合もあることが示された(Sangermano et al. 2016; Aukrust et al. 2016)。ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン10のスキップを引き起こすAONが当該技術分野において知られているが(国際公開第2015/004133号パンフレット)、今まで、AONがヒトABCA4 pre-mRNAにおけるエクソン保持に、または言い換えると、ヒトABCA4 pre-mRNAにおけるエクソンスキッピングを阻害するためにも使用できるかどうかはわかっていなかった。本発明の発明者らは、そのようなことがエクソン39の周辺のイントロンおよびエクソン内、ならびにイントロン/エクソンの境界の特定の配列を特定することによって場合によっては可能であろうと仮説を立てた。その特定の配列は、次に、精製した合成アンチセンスオリゴヌクレオチド(これは、そのような配列と相補的で、生理的条件下においてそれと結合することになり、異常なスプライシング部位をマスクし、ヒトABCA4 pre-mRNAからの(単独もしくはエクソン40と一緒のいずれかの)エクソン39のスプライシングを(一定のレベルまで)ブロックまたは阻害することができるであろう)の標的とすることができるであろう。エクソン39のスキップが(エクソン40と一緒か、またはそうでないかのいずれのスキップであっても)スタルガルト病をもたらすことが知られている。本発明の発明者らは、(単独またはエクソン40と一緒のいずれかの)エクソン39のスキッピングを予防する(または一定の程度にまで阻害する)ことができるアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用が、そのようなエクソン39スキッピングを引き起こす突然変異をもつヒト対象においてスタルガルト病を処置する、予防するまたは遅延させることを可能にするであろうと想定した。
【0007】
本発明は、ヒトABCA4 pre-mRNAにおいて少なくとも1つのエクソンのスキッピングを阻害することができるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であって、前記エクソンスキッピングは、ABCA4遺伝子における突然変異によるものである、AONに関する。好ましい実施形態において、エクソンスキッピングを引き起こす突然変異は、イントロンにある。より好ましくは、前記イントロン突然変異は、ヒトABCA4遺伝子のイントロン38におけるc.5461-10T>C突然変異である。好ましい一実施形態において、本発明のAONは、ヒトABCA4 pre-mRNAにおいてエクソン39スキッピングおよび/またはエクソン39/エクソン40二重スキッピングを阻害することができる。別の好ましい実施形態において、本発明によるAONは、配列番号44内の少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20の連続したヌクレオチドと相補的である配列を含む。好ましくは、本発明のAONは、好ましくは、配列番号44の配列内の連続した配列と完全に相補的な20、21、22、23、24または25ヌクレオチドを含み、最大で1つのCpGモチーフをさらに含む。より好ましくは、本発明のAONにはCpGモチーフがない。別の好ましい態様において、本発明によるAONは、配列番号65または配列番号66内の少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチドと相補的な配列を含むか、またはそれからなる。22、23、24、または25ヌクレオチドからなり、配列番号65または66によって表される領域と完全に相補的なAONが最も好ましい。さらに、本発明のAON中において、可能なかぎり低いグアノシンのパーセンテージ、好ましくは60%未満、50%未満、40%未満、またさらに30%未満を維持することが好ましい。また、本発明のAON中において、ひと続きのグアノシンを最大で3つ維持し、最大でひと続きの3つのグアノシンを有することが好ましい。極めて好ましい態様において、本発明のAONは、配列番号1、3、4、5、6、9、12、13、14、17、20、24、25、29、31、および32、より好ましくは、配列番号1、3、4、6、12、17、24、25、29、31および32、さらにより好ましくは、配列番号1、12、17、24、29、31および32のうちのいずれか1つの配列を含むか、またはそれからなる。
【0008】
別の好ましい態様において、本発明によるAONは、2’-O-メチル(2’-OMe)修飾糖などの少なくとも1つの2’-Oアルキル修飾を含むオリゴリボヌクレオチド(RNAオリゴヌクレオチド)である。別の好ましい実施形態において、前記AON中のすべてのヌクレオチドは、2’-O-メチル修飾されている。別の好ましい態様において、AONは、少なくとも1つの2’-O-メトキシエチル(2’-MOE、すなわち、2’-メトキシエトキシ)修飾を含む。別の態様において、2’-OMeおよび2’-MOE修飾はともに、オリゴヌクレオチド内の異なるヌクレオシドに存在してもよい。また、本発明によるAONは、すべてが2’-OMe修飾をもつヌクレオシドから構成されてもよく、またはそれは、すべてが2’-MOE修飾をもつヌクレオシドから構成されてもよい。さらに別の好ましい実施形態において、本発明によるAONは、少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含み、より好ましくは、AON内のすべての連続したヌクレオチドは、ホスホロチオエート結合によって互いに連結されている。
【0009】
本発明はまた、本発明によるAON、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。好ましくは、前記医薬組成物は、硝子体内投与用であり、好ましくは、各眼当たり合計AONが0.05mgから5mgの範囲の量で投与される。本発明はまた、硝子体内投与用であり、各眼当たり合計AONが約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mgなど、各眼当たり合計AONが0.1から1mgの範囲の量で投与される本発明による医薬組成物に関する。本発明はまた、本発明によるAONを発現させるウイルスベクターに関する。さらに別の態様において、本発明は、薬剤として使用するための、本発明によるAON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターに関する。さらに別の態様において、本発明は、スタルガルト病の処置、予防もしくは遅延に使用するため、またはヒトABCA4 pre-mRNAにおけるエクソン39スキッピングの阻害に使用するための、本発明によるAON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターに関する。さらに別の実施形態において、本発明は、スタルガルト病の処置、予防もしくは遅延のため、またはヒトABCA4 pre-mRNAにおけるエクソン39スキッピングの阻害のための、本発明によるAON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターの使用に関する。本発明はさらに、細胞におけるABCA4 pre-mRNAのスプライシングを調節するための方法であって、前記細胞を、本発明によるAON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターと接触させることを含む方法に関する。好ましい態様において、本発明は、ABCA4 pre-mRNAのスプライシングの調節を必要とする個体の、それを必要とするスタルガルト病または状態の処置のための方法であって、前記個体の細胞を、本発明によるAON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターと接触させることを含む方法に関する。スプライシングの調節は、好ましくは、イントロン38におけるc.5461-10T>C突然変異によるヒトABCA4遺伝子内の突然変異が原因となるか、またはそれによるものであるエクソン39スキッピングの阻害を好ましくは含む。
【0010】
ABCA4に関して、AONの細胞への投与/導入の結果である「エクソン保持」、または「エクソンスキッピングを阻害する、ブロックするまたは予防すること」は、エクソン39、またはエクソン39+エクソン40の両方をヒトABCA4 pre-mRNA(およびそれに続く結果として生じるヒトABCA4 mRNA)に含めること(またはその存在を維持すること)と解釈されるべきである。通常は、エクソン39のスキッピング、またはエクソン39およびエクソン40のスキッピングを引き起こすことになり、スタルガルト病をもたらす可能性があるABCA4遺伝子における突然変異の存在にもかかわらず、詳細が本明細書において概説されるこのエクソン保持は、本発明によるアンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞への投与後に起こる。「エクソン保持」という用語はまた、細胞内における、好ましくは、成熟mRNAに存在すべき特定のエクソン(複数可)を依然として含む成熟mRNAの誘発、産生または産生の増加も指す。
【0011】
「エクソンスキッピング」という用語は、本明細書において1つ以上の特定のエクソンを含まない成熟mRNAの様子と定義される(本件の場合、ABCA4遺伝子のエクソン39、またはエクソン40と一緒にエクソン39、これは、「二重スキッピング」とも言及される)。これらのエクソンは、通常、例えば、野生型の状況においてなどエクソンスキッピングが起こらなかった場合に成熟mRNAに存在することになるであろう。そのようなエクソンスキッピングのブロックは、スプライシングの酵素的プロセスを可能にするために必要とされる、例えば、(隠れた)スプライスドナー配列または(隠れた)スプライシングアクセプター配列などの配列で妨害することができる分子を用いて、スタルガルト病を引き起こすバリアントを含むpre-mRNAを発現する細胞をもたらすことによって達成される。
【0012】
「pre-mRNA」という用語は、転写によって細胞のDNA鋳型から、例えば核内で合成される、プロセシングされていないか、または部分的にプロセシングされた前駆体mRNAを指す。
【0013】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」(AON)という用語は、pre-mRNA分子、hnRNA(ヘテロ核RNA)またはmRNA分子中の標的ヌクレオチド配列と実質的に相補的であるヌクレオチド配列を指すものと理解される。アンチセンス配列の相補性(または実質的な相補性)の程度は、アンチセンス配列を含む分子が生理的条件下においてRNA分子中の標的ヌクレオチド配列と安定な二本鎖ハイブリッドを形成することができるような程度であることが好ましい。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「オリゴ」という用語は、本明細書では同義に使用され、標的(pre-)mRNA配列に対するアンチセンス配列を含むオリゴヌクレオチドを指すものと理解される。
【0014】
本文書において、およびその特許請求の範囲において、「含むこと(to comprise)」という動詞およびその活用型は、その語に引き続く項目が含まれるが、具体的に言及されていない項目も除外しないことを意味するためにその非限定的な意味で使用される。さらに、文脈が明らかに1つおよび1つだけの要素が存在することを必要としない限り、不定冠詞「a」または「an」による要素の言及は、1つ超の要素が存在する可能性を排除するものではない。不定冠詞「a」または「an」は、したがって、通常は「少なくとも1つ」を意味する。
【0015】
数値(例えば、約10)と関連して使用される場合、「約」または「およそ」という語は、好ましくは、値が、(10の)所与の値より0.1%大きいまたは小さい値であってもよいことを意味する。
【0016】
一実施形態において、本明細書中で定義されるエクソン39保持分子(またはエクソン39/40保持分子)は、特定の配列、好ましくは、配列番号44内の配列と結合する、かつ/またはそれと相補的で、ABCA4 mRNAにおいてエクソン39、またはエクソン39+エクソン40の保持をもたらすAONである。好ましくは、異常なABCA4の文脈における特定の標的配列の1つとの結合は、当業者に既知の技術によって評価することができる。好ましい技術は、欧州特許第1619249号明細書に記載されているゲル移動度シフトアッセイである。好ましい実施形態において、エクソン39保持AON(またはエクソン39/40保持AON)は、前記分子の標識標的配列との結合がゲル移動度シフトアッセイで検出できるとすぐに、特定の配列の1つと結合していると判断される。
【0017】
本発明のすべての実施形態において、エクソン39保持分子(またはエクソン39/40保持分子)は、好ましくはAONである。好ましくは、本発明によるエクソン39保持AON(またはエクソン39/40保持AON)は、ヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38、エクソン39、イントロン39、エクソン40、もしくはイントロン40内の配列、またはヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38/エクソン39、エクソン39/イントロン39、イントロン39/エクソン40、もしくはエクソン40/イントロン40の境界と重なる配列と相補的または実質的に相補的なAONである。より好ましくは、本発明のAONは、配列番号1から37の配列のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列を含む。
【0018】
本発明の文脈において使用される「実質的に相補的な」という用語は、機能性、すなわち、ABCA4エクソン39のスキッピングのブロック、またはエクソン39+エクソン40のスキッピングのブロックがなおも許容できるかぎり、アンチセンス配列にいくつかのミスマッチが許容されることを示す。好ましくは、相補性は、90%から100%である。一般に、これは、20ヌクレオチドのAONに1もしくは2つのミスマッチ、または40ヌクレオチドのAONに1、2、3もしくは4つのミスマッチ、または60ヌクレオチドのAONに1、2、3、4、5もしくは6つのミスマッチなどを許容する。
【0019】
本発明はまた、ABCA4エクソン39のスキッピングを阻害もしくはブロックすることができるか、またはエクソン40と一緒のABCA4エクソン39のスキッピングを阻害もしくはブロックすることができるAONを設計するための方法を提供する。まず、前記AONは、(生理的条件下において)ヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38、エクソン39、イントロン39、エクソン40、もしくはイントロン40内の配列、またはヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38/エクソン39、エクソン39/イントロン39、イントロン39/エクソン40、もしくはエクソン40/イントロン40の境界と重なる配列と結合する、かつ/またはそれと相補的であるよう選択される。その後、好ましい方法において、少なくとも1つの以下の態様が前記エクソン保持AONを改善する設計に対してさらに考慮されなければならない:本発明のエクソン保持AONは、好ましくは、最大で1つのCpGモチーフを含み、より好ましくは、CpGモチーフをまったく含まない。AON中のCpGモチーフまたは多数のCpGモチーフ(CpGアイランド)の存在は、通常、前記AONの免疫原性の増加と関連づけられる(Dorn and Kippenberger (2008) Curr Opin Mol Ther 10(1) 10-20)。この免疫原性の増加は、処置される組織、すなわち、眼に損傷を引き起こす可能性もあるため望ましくない。免疫原性は、CD4+および/もしくはCD8+細胞の存在ならびに/または炎症性単核球浸潤を評価することによって動物モデルにおいて評価することができる。免疫原性はまた、当業者に既知の標準的なイムノアッセイを使用して中和抗体および/または前記AONを認識する抗体の存在を検出することによって本発明のAONにより処置された動物またはヒトの血液において評価することもできる。炎症反応、I型様インターフェロン産生、IL-12産生および/または免疫原性の増加は、標準的なイムノアッセイを使用して中和抗体または前記AONを認識する抗体の存在または量の増加を検出することによって評価することができる。
【0020】
本発明は、許容できるRNA結合動態および/または熱力学的特性を有するAONを設計することを可能にする。RNA結合動態および/または熱力学的特性は、AONの融解温度(Tm、基礎のTmおよび最隣接モデルを使用して単鎖RNAに対する、当業者に既知のオリゴヌクレオチド特性計算機により算出される)および/またはAON標的エクソン複合体の自由エネルギー(RNA structureバージョン4.5を使用して)によって少なくとも部分的に決定される。Tmが高すぎると、AONは、あまり特異的でなくなることが予想される。許容できるTmおよび自由エネルギーは、AONの配列により決まる。したがって、これらのパラメータのそれぞれに対して好ましい範囲を示すのは難しい。許容できるTmは、35から70℃の間の範囲であってもよく、許容できる自由エネルギーは、15から45kcal/molの間の範囲であってもよい。
【0021】
本発明のAONは、好ましくは、許容されるレベルの機能活性を示すことができるものである。前記AONの機能活性は、好ましくは、一定の許容されるレベルまでABCA4 pre-mRNAのエクソン39、またはエクソン39+エクソン40のスキッピングをブロックして、個体に一定の検知可能なレベルの機能的な野生型完全長ABCA4タンパク質をもたらすことである。好ましい実施形態において、RT-PCRおよび/またはddPCR分析によって測定されるABCA4エクソン39、またはABCA4エクソン39+エクソン40を含む完全長mRNAがバックグラウンドシグナルの非存在下において対照wt RNA産物と比較して少なくとも20%、または少なくとも25%、または少なくとも30%、または少なくとも35%、または少なくとも40%、または少なくとも45%、または少なくとも50%、または少なくとも55%、または少なくとも60%、または少なくとも65%、または少なくとも70%、または少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または100%であるとき、AONは、そのエクソンのスキッピングをブロックすると考えられる。
図6に見られるとおり、(上で概説した)保持のパーセンテージ範囲は、バックグラウンドシグナルに左右され、バックグラウンドシグナルは、好ましくは、存在すべきではない。したがって、そのようなパーセンテージは、好ましくは、バックグラウンドシグナルを示さない系において、またはそのようなPCRプライマーを使用することによって測定される。本発明の目的は、ABCA4 pre-mRNAにおけるエクソン39/40スキッピングをブロックまたは予防するAONを提供することである。エクソンスキッピングおよび/またはエクソン保持を求めるためのアッセイは本明細書の実施例に記載されており、エクソン39保持の増加が見出されるかを評価するために、当業者に既知の技術により補われてもよい。
【0022】
好ましくは、本発明によるAONは、配列番号65、配列番号66、(配列番号44として全部を示した、c.5461-10T>C突然変異をもつ)ヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38(配列番号45)、エクソン39(配列番号46)、イントロン39(配列番号47)、エクソン40(配列番号48)、もしくはイントロン40(配列番号49)のヌクレオチド配列、またはヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38/エクソン39、エクソン39/イントロン39、イントロン39/エクソン40、もしくはエクソン40/イントロン40の境界と重なる配列と相補的または実質的に相補的な配列を含み、(実質的に)相補的な部分が、本発明によるAONの長さの少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、またはさらにより好ましくは少なくとも95%、またはさらにより好ましくは98%、またはさらにより好ましくは少なくとも99%、またはさらにより好ましくは100%であるようなAONである。より好ましくは、AONは、イントロン38とエクソン39の間の境界を含み、さらにより好ましくは、c.5461-10T>C突然変異を含む配列と相補的である。本発明の別の態様において、本発明によるAONは、配列番号1から16の配列を含むか、またはそれからなり、より好ましくは、配列番号1、3、4、5、6、9、12、13、14、17、20、24、25、29、31および32、好ましくは、配列番号1、12、17、24、29、31および32からなる群から選択される配列を含むか、またはそれからなる。
【0023】
好ましい別の実施形態において、本発明のAONの相補的な部分の長さは、少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、115、120、125、130、135、140、141、142または143ヌクレオチドの長さである。タンパク質のAONとの結合を改変するため、またはAONの熱力学的特性を改変するため、より好ましくは、標的RNA結合親和性を改変するために、付加的な隣接配列が使用されてもよい。
【0024】
したがって、相補性の領域にあるすべての塩基が対向する鎖にある塩基と対形成することができることが絶対に必要とされる訳ではない。例えば、AONを設計するとき、例えば、相補的な鎖にある塩基と塩基対にならない残基を組み込むことを望むこともできる。細胞の環境下において、ひと続きのヌクレオチドが相補的な部分と十分にハイブリダイズすることができるなら、ミスマッチは、ある程度許容される場合もある。この文脈において、「十分に」は、好ましくは、欧州特許第1619249号明細書の実施例1に記載されているとおりのゲル移動度シフトアッセイを使用して、AONの結合が検出可能であることを意味する。
【0025】
任意選択で、前記AONは、当業者に既知の方法を使用してスタルガルト病患者由来の線維芽細胞から形成された眼杯(optic cup)(または眼杯(eye cup))を使用することによってさらに試験されてもよい。エクソン39/40のスキップのブロックは、(Aukrust et al. 2016の記載に従って)RT-PCRによって評価することができる。相補的な領域は、組み合わされる場合、pre-mRNAのエクソンに特異的であるよう設計されることが好ましい。そのような特異性は、この系の他の(pre-)mRNA分子にある実際の配列に依存するため、さまざまな長さの相補的な領域を用いて作り出すことができる。AONのサイズを増加させることでAONが1つ以上の他のpre-mRNA分子ともハイブリダイズすることができることになるリスクは低下する。相補性の領域にミスマッチを含むが、pre-mRNAの標的とされる領域(複数可)とハイブリダイズする能力および/または結合する能力を保持するAONを本発明に使用することができることは明らかである。しかしながら、相補的な部分にミスマッチがないAONは、一般に1つ以上の相補的な領域にそのようなミスマッチを有するAONよりも高い効率および高い特異性を有するため、少なくとも相補的な部分は、そのようなミスマッチを含まないことが好ましい。さらに高いハイブリダイゼーション強度(すなわち、対向する鎖との相互作用の数を増加させる)は、系のスプライシング機構を妨害するプロセスの効率を増加させる際に有利であると考えられる。好ましくは、相補性は、90%から100%である。一般に、これは、20ヌクレオチドのAONに1もしくは2つのミスマッチ、または40ヌクレオチドのAONに1、2、3もしくは4つのミスマッチ、または60ヌクレオチドのAONに1、2、3、4、5もしくは6つのミスマッチなどを許容する。
【0026】
本発明のAONは、好ましくは、(標的)対応物配列の非存在下の単離された単鎖分子であり、それは、自己ハイブリダイズしない。本発明のAONは、好ましくは、ヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38、エクソン39、イントロン39、エクソン40、もしくはイントロン40の配列、またはヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38/エクソン39、エクソン39/イントロン39、イントロン39/エクソン40、もしくはエクソン40/イントロン40の境界と重なる配列と相補的であるか、または生理的条件下においてそれと結合する。
【0027】
本発明の好ましいAONは、8から143ヌクレオチド、より好ましくは10から40ヌクレオチド、より好ましくは12から30ヌクレオチド、より好ましくは20から30ヌクレオチドを含むか、またはそれからなり、好ましくは、8、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、115、120、125、130、135、140、141、142もしくは143ヌクレオチドを含むか、またはそれからなる。より好ましくは、本発明によるAONは、20、21、22、23、24または25ヌクレオチドを含むか、またはそれからなる。
【0028】
特定の実施形態において、本発明は、配列番号1から37からなる群から選択される単鎖AONを提供する。本発明によるAONは、1つ以上のRNA残基、もしくは1つ以上のDNA残基、および/または本明細書の下でさらに詳述されることになる1つ以上のヌクレオチドアナログもしくは等価物を含んでもよい。本発明のAONは、ヌクレアーゼ耐性を高めるため、および/または標的配列に対するAONの親和性を高めるために修飾された1つ以上の残基を含むことが好ましい。ゆえに、好ましい実施形態において、本AON配列は、少なくとも1つのヌクレオチドアナログまたは等価物を含み、ヌクレオチドアナログまたは等価物は、修飾塩基、および/または修飾骨格、および/または非天然のヌクレオシド間結合あるいはこれらの修飾の組合せを有する残基と定義される。
【0029】
好ましい実施形態において、本ヌクレオチドアナログまたは等価物は、修飾骨格を含む。そのような骨格の例は、モルフォリノ骨格、カルバメート骨格、シロキサン骨格、スルフィド、スルホキシドおよびスルホン骨格、ホルムアセチル(formacetyl)およびチオホルムアセチル骨格、メチレンホルムアセチル骨格、リボアセチル(riboacetyl)骨格、アルケン含有骨格、スルファメート、スルホネートおよびスルホンアミド骨格、メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格、およびアミド骨格によって提供される。ホスホロジアミデートモルフォリノオリゴマーは、アンチセンス薬剤として以前に調査された修飾骨格オリゴヌクレオチドである。モルフォリノオリゴヌクレオチドは、DNAのデオキシリボース糖が六員環で置換され、ホスホジエステル結合がホスホロジアミデート結合で置換された無荷電骨格を有する。モルフォリノオリゴヌクレオチドは、酵素分解に耐性があり、RNase Hを活性化することよりむしろ翻訳を阻止すること、またはpre-mRNAスプライシングを妨げることによってアンチセンス薬剤として働くようである。モルフォリノオリゴヌクレオチドは、細胞膜を物理的に破壊する方法によって首尾よく組織培養細胞に送達され、こうしたいくつかの方法を比較した研究の1つは、スクレープローディング(scrape loading)が最も効率的な送達の方法であることを見出したが、モルフォリノ骨格は荷電していないため、カチオン性脂質は、細胞へのモルフォリノオリゴヌクレオチド取り込みの有効なメディエーターではない。最近の報告は、モルフォリノオリゴヌクレオチドによる三重鎖形成を実証し、非イオン性骨格のため、モルフォリノオリゴヌクレオチドがマグネシウムの非存在下において三重鎖を形成することができることをこれらの研究は示した。
【0030】
骨格の残基間の結合がリン原子を含まないことがさらに好ましく、例えば、短鎖アルキルによって形成される結合またはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合したヘテロ原子とアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合または1つ以上の短鎖ヘテロ原子結合もしくは複素環式ヌクレオシド間結合である。
【0031】
好ましいヌクレオチドアナログまたは等価物は、修飾ポリアミド骨格を有するペプチド核酸(PNA)を含む(Nielsen, et al. (1991) Science 254, 1497-1500)。PNAベースの分子は、塩基対の認識に関してDNA分子の真の模倣物である。PNAの骨格は、ペプチド結合によって連結されたN-(2-アミノエチル)-グリシン単位から構成され、ヌクレオベースは、メチレンカルボニル結合によって骨格と連結される。代替的な骨格は、炭素1つ伸長したピロリジンPNAモノマーを含む(Govindaraju and Kumar (2005) Chem Commun 495-497)。PNA分子の骨格は荷電したリン酸基を含まないため、PNA-RNAハイブリッドは、通常、それぞれRNA-RNAハイブリッドまたはRNA-DNAハイブリッドよりも安定している(Egholm et al. (1993) Nature 365:566-568)。さらに好ましい骨格は、モルフォリノヌクレオチドアナログまたは等価物を含み、その中のリボースまたはデオキシリボース糖がモルフォリノ六員環(6-membered morpholino ring)で置換されている。最も好ましいヌクレオチドアナログまたは等価物は、ホスホロジアミデートモルフォリノオリゴマー(PMO)を含み、その中のリボースまたはデオキシリボース糖がモルフォリノ六員環で置換されており、隣接するモルフォリノ環間のアニオン性ホスホジエステル結合が非イオン性ホスホロジアミデート結合によって置換されている。
【0032】
さらに別の実施形態において、本発明のヌクレオチドアナログまたは等価物は、ホスホジエステル結合にある1つの非橋架酸素の置換を含む。この修飾は、塩基対合をやや不安定にするが、ヌクレアーゼ分解に対する著しい耐性を付加する。好ましいヌクレオチドアナログまたは等価物は、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、リン酸トリエステル、アミノアルキルリン酸トリエステル、H-ホスホネート、メチルホスホネートおよび3’-アルキレンホスホネート、5’-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むその他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3’-アミノホスホロアミデートおよびアミノアルキルホスホロアミデートを含むホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルリン酸トリエステル、セレノリン酸またはボラノリン酸を含む。
【0033】
本発明のさらに好ましいヌクレオチドアナログまたは等価物は、例えば、-OH;-F;1つ以上のヘテロ原子の割り込みがあってもよい置換または非置換、直鎖または分岐の低級(C1~C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリール、アリル、またはアラルキル;O-、S-、またはN-アルキル;O-、S-、またはN-アルケニル;O-、S-またはN-アルキニル;O-、S-、またはN-アリル;O-アルキル-O-アルキル、-メトキシ、-アミノプロポキシ;メトキシエトキシ;ジメチルアミノオキシエトキシ;および-ジメチルアミノエトキシエトキシにより2’、3’および/または5’位において一置換または二置換された1つ以上の糖部分を含む。糖部分は、ピラノースもしくはその誘導体、またはデオキシフラノースもしくはその誘導体、好ましくは、リボースもしくはその誘導体またはデオキシリボースもしくはその誘導体であってもよい。好ましい誘導体化糖部分は、ロックド核酸(LNA)を含み、その中の2’-炭素原子が糖環の3’または4’炭素原子と連結され、それにより二環式の糖部分を形成する。好ましいLNAは、2’-O、4’-C-エチレン-架橋化核酸を含む(Morita et al. 2001. Nucleic Acid Res Supplement No. 1: 241-242)。これらの置換は、ヌクレオチドアナログまたは等価物をRNase Hおよびヌクレアーゼ耐性にし、標的RNAに対する親和性を高める。
【0034】
別の実施形態において、本発明のヌクレオチドアナログまたは等価物は、1つ以上の塩基修飾または置換を含む。修飾塩基は、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチンおよび当該技術分野において知られているか、または知られることになるピリミジ塩基およびプリン塩基の他の-アザ、デアザ、-ヒドロキシ、-ハロ、-チオ、チオール、-アルキル、-アルケニル、-アルキニル、チオアルキル誘導体などの合成および天然の塩基を含む。
【0035】
AONのすべての位置が均一に修飾されている必要はないことが当業者に理解される。さらに、上記のアナログまたは等価物の1つ超が、1つのAONまたはさらにはAON内の1つの位置に組み込まれてもよい。特定の実施形態において、本発明のAONは、少なくとも2つの異なる種類のアナログまたは等価物を有する。本発明による好ましいエクソンスキッピングAONは、2’-Oアルキルホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド、例えば、2’-O-メチル修飾リボース(RNA)、2’-O-エチル修飾リボース、2’-O-プロピル修飾リボース、および/またはハロゲン化誘導体などのこれらの修飾の置換誘導体を含む。本発明による有効なAONは、(好ましくは完全な)ホスホロチオエート骨格を伴う2’-O-メチル-リボースを含む。
【0036】
ABCA4 pre-mRNAにおけるエクソン39および40のスキップを効率的にブロックするために異なるAONが混ぜ合わされてもよいことも当業者は理解するであろう。好ましい実施形態において、2、3、4、または5つの異なるAONなどの少なくとも2つのAONの組合せが本発明の方法に使用される。したがって、本発明はまた、少なくとも1つの本発明によるAONを含む、1組のAONに関する。
【0037】
上で示したとおり、ABCA4遺伝子のイントロン38におけるc.5461-10T>C突然変異の存在は、エクソン39のスキッピングおよび多くの場合、エクソン40の共スキッピングを誘導する。したがって、エクソン40も保持しながらエクソン39スキッピングを効率的にブロックするAONを使用することが好ましい。
【0038】
AONは、細胞、好ましくは、網膜細胞へのAONの取り込みを高める部分に連結されてもよい。そのような部分の例は、コレステロール、炭水化物、ビタミン、ビオチン、脂質、リン脂質、細胞透過性ペプチドであり、以下に限定されるものではないが、アンテナペディア、TAT、トランスポータンおよびオリゴアルギニン、ポリアルギニン、オリゴリジンまたはポリリジンなどの正電荷アミノ酸、抗体によってもたらされるものなどの抗原結合ドメイン、抗体のFabフラグメント、またはラクダ類のシングルドメイン抗原結合ドメインなどの単鎖抗原結合ドメインが挙げられる。
【0039】
本発明によるAONは、当該技術分野において既知の適した手段を使用して間接的に投与されてもよい。例えば、前記オリゴヌクレオチドを含む転写物をコードする発現ベクターの形態で個体または前記個体の細胞、組織もしくは臓器に与えられてもよい。発現ベクターは、好ましくは細胞、組織、臓器または個体に遺伝子送達媒体により導入される。好ましい実施形態において、本明細書において特定されるAONの発現または転写を駆動する発現カセットまたは転写カセット(transcription cassette)を含むウイルスベースの発現ベクターが提供される。したがって、本発明は、AONの発現を促す条件下に置かれたときに本発明によるAONを発現させるウイルスベクターを提供する。発現は、U7プロモーターなどのポリメラーゼII-プロモーター(Pol II)またはU6 RNAプロモーターなどのポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターによって駆動されてもよい。好ましい送達媒体は、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)などのウイルスベクター、またはレンチウイルスベクターなどのレトロウイルスベクターなどである。また、プラスミド、人工染色体、標的相同組み換えおよび細胞のヒトゲノムへの組み込みに使用可能なプラスミドが、本明細書中で定義されるオリゴヌクレオチドの送達に適切に利用されてもよい。転写がPol IIIプロモーターから行われ、かつ/または転写物がU1またはU7転写物との融合物の形態であるそうしたベクターが本発明に好ましく、これが小さな転写物の送達に関して良好な結果をもたらす。適した転写物を設計することは技術のある技術者の範囲内にある。Pol IIIによる転写物が好ましく、U1またはU7転写物との融合転写物の形態が好ましい。そのような融合物は、記載されているとおりに作り出すことができる(Gorman et al., 1998。Stable alteration of pre-mRNA splicing patterns by modified U7 small nuclear RNAs. Proc Natl Acad Sci U S A 95(9):4929-34;Suter et al. 1999. Double-target antisense U7 snRNAs promote efficient skipping of an aberrant exon in three human beta-thalassemic mutations. Hum Mol Genet 8(13):2415-23)。
【0040】
本発明のAONは、そのまま(裸のまま)送達されてもよい。しかしながら、本発明のAONはまた、ウイルスベクターによってコードされてもよい。一般に、これは、転写物の一部に本発明によるオリゴヌクレオチドの配列を含むRNA転写物の形態である。本発明によるAAVベクターは組み換えAAVベクターであり、本明細書中の別の場所で示したAAV血清型由来のカプシドタンパク質のタンパク質の殻に包まれた本発明によるコード化AONを含むAAVゲノムの部分を含むAAVベクターを指す。AAVゲノムの部分は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV8、AAV9およびその他などのアデノ随伴ウイルス血清型由来の末端逆位配列(ITR)を含んでもよい。カプシドタンパク質から構成されるタンパク質の殻は、AAV1、2、3、4、5、8、9およびその他などのAAV血清型由来のものであってもよい。タンパク質の殻は、カプシドタンパク質の殻と呼ばれる場合もある。AAVベクターは、野生型AAV遺伝子の1つまたは好ましくはすべてが除去されていてもよいが、依然として機能的なITR核酸配列を含んでもよい。機能的なITR配列は、AAVビリオンの複製、レスキューおよびパッケージングに必要である。ITR配列は、機能的なままである限り、野生型配列であってもよく、または野生型配列と少なくとも80%、85%、90%、95、もしくは100%の配列同一性を有してもよく、または例えば、ヌクレオチドの挿入、突然変異、欠失もしくは置換によって改変されていてもよい。この状況において、機能性とは、カプシドの殻へのゲノムのパッケージングを指示し、その結果、感染した宿主細胞または標的細胞における発現を可能にさせる能力を指す。本発明の状況において、カプシドタンパク質の殻は、AAVベクターゲノムITRと異なる血清型のものであってもよい。したがって、本発明によるAAVベクターは、カプシドタンパク質の殻、すなわち、正二十面体のカプシドから構成されてもよく、それが、1つのAAV血清型、例えば、AAV血清型2のカプシドタンパク質(VP1、VP2、および/またはVP3)を含み、一方、AAV5ベクターに含まれるITR配列は、AAV2ベクターを含む任意の上記のAAV血清型であってもよい。したがって、「AAV2ベクター」は、AAV血清型2のカプシドタンパク質の殻を含み、例えば、「AAV5ベクター」は、AAV血清型5のカプシドタンパク質の殻を含み、それにより、どちらも本発明による任意のAAVベクターゲノムITRを包んでもよい。好ましくは、本発明による組み換えAAVベクターは、AAV血清型2、5、8またはAAV血清型9のカプシドタンパク質の殻を含み、前記AAVベクターに存在するAAVゲノムまたはITRは、AAV血清型2、5、8またはAAV血清型9に由来する。そのようなAAVベクターは、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/8、AAV2/9、AAV5/2、AAV5/5、AAV5/8、AAV5/9、AAV8/2、AAV8/5、AAV8/8、AAV8/9、AAV9/2、AAV9/5、AAV9/8、またはAAV9/9ベクターと呼ばれる。
【0041】
より好ましくは、本発明による組み換えAAVベクターは、AAV血清型2のカプシドタンパク質の殻を含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRはAAV血清型5に由来し、そのようなベクターは、AAV2/5ベクターと呼ばれる。より好ましくは、本発明による組み換えAAVベクターは、AAV血清型2のカプシドタンパク質の殻を含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRはAAV血清型8に由来し、そのようなベクターは、AAV2/8ベクターと呼ばれる。より好ましくは、本発明による組み換えAAVベクターはAAV血清型2のカプシドタンパク質の殻を含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRはAAV血清型9に由来し、そのようなベクターは、AAV2/9ベクターと呼ばれる。より好ましくは、本発明による組み換えAAVベクターは、AAV血清型2のカプシドタンパク質の殻を含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRはAAV血清型2に由来し、そのようなベクターは、AAV2/2ベクターと呼ばれる。最適な核酸配列によって表される本発明によるエクソン39保持AON(またはエクソン39/エクソン40保持AON)をコードする核酸分子は、好ましくは、上で特定したAAVゲノムまたはITR配列、例えば、コード配列と機能可能に連結された発現調節エレメントおよび3’終結配列を含む発現コンストラクトの間に挿入される。「AAVヘルパー機能」とは、一般に途中でAAVベクターに与えられるAAV複製およびパッケージングに必要とされる対応するAAVの機能を指す。AAVヘルパー機能は、AAVベクターに欠けているAAVの機能を補完するが、(AAVベクターゲノムによってもたらされる)AAV ITRがない。AAVヘルパー機能は、AAVの2つの主要なORF、すなわち、repコード領域およびcapコード領域またはそれらの機能的な実質的に同一の配列を含む。Rep領域およびCap領域は、当該技術分野において周知である。AAVヘルパー機能が、AAVヘルパーコンストラクトに与えられてもよく、これは、プラスミドであってもよい。
【0042】
ヘルパーコンストラクトの宿主細胞への導入は、例えば、本明細書において特定されるAAVベクターに存在するAAVゲノムの導入の前またはそれと同時のトランスフォーメーション、トランスフェクション、またはトランスダクションによって行われてもよい。したがって、本発明のAAVヘルパーコンストラクトは、一方でAAVベクターのカプシドタンパク質の殻に関して、他方で前記AAVベクター複製およびパッケージングにおいて存在するAAVゲノムに関して血清型の所望の組合せをもたらすように選択されてもよい。「AAVヘルパーウイルス」は、AAV複製およびパッケージングに必要とされる付加的な機能を提供する。
【0043】
適したAAVヘルパーウイルスとしては、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV1型および2型など)およびワクチニアウイルスが挙げられる。参照によって本明細書に組み込む米国特許第6,531,456号明細書に記載されているとおり、ヘルパーウイルスによってもたらされる付加的な機能も、ベクターにより宿主細胞に導入することができる。好ましくは、本発明による組み換えAAVベクターに存在するAAVゲノムは、AAVのrep(複製)遺伝子またはcap(カプシド)遺伝子などのウイルスタンパク質をコードする任意のヌクレオチド配列を含まない。AAVゲノムは、例えば、抗生物質耐性遺伝子、蛍光タンパク質(例えば、gfp)をコードする遺伝子あるいは当該技術分野において既知の化学的に、酵素的にもしくは別の方法で検知可能なおよび/または選択可能な産生物をコードする遺伝子(例えば、lacZ、aphなど)などのマーカー遺伝子あるいはレポーター遺伝子をさらに含んでもよい。好ましくは、本発明によるAAVベクターは、構築され、本明細書の実施例の方法に従って作製される。本発明による好ましいAAVベクターは、AAVベクター、好ましくは、AAV2/5、AAV2/8、AAV2/9またはAAV2/2ベクターであり、ヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38、エクソン39、イントロン39、エクソン40、もしくはイントロン40のヌクレオチド配列、またはヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38/エクソン39、エクソン39/イントロン39、イントロン39/エクソン40、もしくはエクソン40/イントロン40の境界と重なる配列と相補的または実質的に相補的な配列を含むか、または好ましくは、それからなる本発明によるAONを発現させる。本発明によるさらに好ましいAAVベクターは、AAVベクター、好ましくは、AAV2/5、AAV2/8、AAV2/9またはAAV2/2ベクターであり、配列番号1から37のいずれか1つを含むか、または好ましくは、それからなる本発明によるAONを発現させる。
【0044】
個体または前記個体の細胞、組織、臓器に本発明によるAONを与える手段の改善は、これまでに既に成し遂げられた進歩を考慮して予想される。そのような将来的な改善は、当然、本発明の方法を使用したmRNAの再構築に関して言及した効果を達成するために組み込まれてもよい。本発明によるAONは、そのまま個体、前記個体の細胞、組織もしくは臓器に送達されてもよい。本発明によるAONを投与するとき、AONを送達方法と適合した溶液に溶解させることが好ましい。水溶液にプラスミドを与えることによって網膜細胞にAON発現のためのプラスミドが与えられてもよい。あるいは、AONまたはAON発現のためのプラスミドに対する好ましい送達方法は、ウイルスベクターまたはナノ粒子である。好ましくは、ウイルスベクターまたはナノ粒子は、網膜細胞に送達される。網膜細胞またはその他の関連した細胞へのそのような送達は、in vivo、in vitroまたはex vivoにおいてであってもよい。in vivoにおけるAON送達に使用することができるナノ粒子および微粒子は、当該技術分野において周知である。あるいは、既知のトランスフェクション試薬を使用したトランスフェクションによってプラスミドが与えられてもよい。静脈内、皮下、筋肉内、くも膜下腔内および/または室内投与に対して、溶液は生理的食塩液であることが好ましい。本発明において特に好ましいのは、本明細書中で定義される各成分の細胞へおよび/または細胞(好ましくは、網膜細胞)中への送達を助けることになる賦形剤またはトランスフェクション試薬の使用である。本明細書中で定義される複合体を形成した各成分、またはベシクルもしくはリポソームに閉じ込められた各成分を細胞膜を通して送達する複合体、ナノ粒子、ミセル、ベシクルおよび/またはリポソームを形成することができる賦形剤またはトランスフェクション試薬が好ましい。こうした賦形剤の多くは、当該技術分野において知られている。適した賦形剤またはトランスフェクション試薬は、本明細書中で定義される各成分を細胞、好ましくは、網膜細胞に送達することができる粒子に自己集合することができるポリエチレンイミン(PEI;ExGen500(MBI Fermentas))、LipofectAMINE(商標)2000(Invitrogen)もしくはその誘導体、またはポリプロピレンイミンもしくはポリエチレンイミンコポリマー(PEC)および誘導体を含む類似のカチオン性ポリマー、合成の両親媒性物質(SAINT-18)、lipofectinTM、DOTAPおよび/またはウイルスカプシドタンパク質を含む。そのような賦形剤は、網膜細胞を含む多種多様の培養細胞にAONを効率的に送達することが示された。それらの高いトランスフェクション潜在性は、全細胞生存に関して除外された低から中程度の毒性と組み合わされる。構造変更の容易さが、さらなる変更ならびにそれらのさらなる(in vivo)核酸運搬特性および毒性の分析を可能にするために使用されてもよい。Lipofectinは、リポソームトランスフェクション剤の例である。これは、カチオン性脂質N-[1-(2,3ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)(メチル硫酸塩であるDOTAPと比較)および中性脂質ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)の2つの脂質構成成分からなる。中性構成成分が細胞内放出を仲介する。送達システムの別のグループは高分子ナノ粒子である。AONを、細胞膜を越えて細胞中に送達することができるカチオン性ナノ粒子を製剤化するために、DNAトランスフェクション試薬として周知のジエチルアミノエチルアミノエチル(DEAE)デキストランのようなポリカチオンが、シアノアクリル酸ブチル(PBCA)およびシアノアクリル酸ヘキシル(PHCA)と組み合わされてもよい。こうした一般的なナノ粒子材料に加えて、カチオン性ペプチドプロタミンが、コロイドを用いてオリゴヌクレオチドを製剤化するための代替的なアプローチを提供する。このコロイドナノ粒子系は、いわゆる、プロティクル(proticle)を形成することができ、これは、単純な自己集合プロセスによって作製することができ、AONをパッケージングし、AONの細胞内放出を仲介することができる。当業者は、AONをABCA4バリアント関連疾患または状態の予防、処置または遅延のために送達すべく本発明に使用するためのAONをパッケージングおよび送達するために任意の上記またはその他の商業的に入手可能な代替的賦形剤および送達システムを選択し、適合させることができる。「ABCA4バリアント関連疾患または状態の予防、処置または遅延」は、本明細書において、好ましくは、ABCA4遺伝子の遺伝的欠陥に起因する部分的もしくは完全な視力障害もしくは失明の進行を予防する、停止させる、止める、または反転させることと定義される。
【0045】
さらに、本発明によるAONは、細胞、細胞質および/またはその核への取り込みを促進するよう設計された標的化リガンドと特異的に共有結合的または非共有結合的に連結されてもよいであろう。そのようなリガンドは、(i)細胞、組織もしくは臓器に特異的な細胞取り込みを促進するエレメントを認識する(以下に限定されるものではないがペプチ(様)構造を含む)化合物ならびに/あるいは(ii)細胞への取り込みおよび/またはベシクル、例えば、エンドソームもしくはリソソームからのオリゴヌクレオチドの細胞内放出を促進することができる化学的化合物を含んでもよいであろう。したがって、好ましい実施形態において、本発明によるAONは、組成物または薬剤、あるいは少なくとも、細胞への送達および/もしくはその送達デバイスのためならびに/または細胞内送達を向上させるための賦形剤および/または標的化リガンドとともに提供される組成物として製剤化される。
【0046】
組成物が本明細書の後で定義される補助的な化合物などの付加的な成分を含む場合、組成物の各成分は、1つの単一の組合せまたは組成物または調製物として製剤化されなくてもよい。それらの素性に応じて、当業者は、どの製剤のタイプが本明細書中で定義される各成分に最も適切であるかがわかるであろう。好ましい実施形態において、本発明は、本発明によるAON、さらに本明細書の後で定義される補助的な化合物を含むキット・オブ・パーツの形態である組成物または調製物を提供する。必要とされる場合、本発明によるAONまたは本発明によるAONを発現させるベクター、好ましくは、ウイルスベクターは、薬学的に許容される担体を添加することによって薬学的に活性な混合物に組み込まれてもよい。したがって、本発明はまた、本発明によるAON、または本発明によるウイルスベクターおよび薬学的に許容される賦形剤を含む組成物、好ましくは、医薬組成物を提供する。そのような医薬組成物は、担体、増量剤、保存料、補助薬、可溶化剤および/または希釈剤を含む任意の薬学的に許容される賦形剤を含んでもよい。そのような薬学的に許容される担体、増量剤、保存料、補助薬、可溶化剤および/または希釈剤は、例えば、Remington(Remington 2000. The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition. Baltimore, MD: Lippincott Williams Wilkins)において見つけることができる。前記組成物のそれぞれの特徴は、本明細書の前で定義した。
【0047】
投与の好ましい経路は、水溶液または特に、眼内投与に適合した製剤の硝子体内注射による。欧州特許第2425814号明細書は、とりわけペプチドまたは核酸薬物の眼内(硝子体内)投与に適合した水中油型エマルジョンについて開示している。このエマルジョンは、硝子体液よりも密度が低いため、エマルジョンは硝子体の上部に浮かんで、注射された薬物が視野を悪くするのを回避する。
【0048】
本発明による複数の異なるAONが使用される場合、本明細書において定義される濃度または用量は、使用されたすべてのAONの合計濃度もしくは用量または使用されたか、もしくは添加されたそれぞれのAONの濃度もしくは用量を指してもよい。したがって、一実施形態において、使用される本発明によるAONのそれぞれの量または合計量が、0.01から20mg/kg、好ましくは、0.05から20mg/kgの範囲の量で投与される組成物が提供される。適した硝子体内用量は、各眼当たり約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mgなど、各眼当たり0.05mgから5mgの間、好ましくは0.1から1mgの間であろう。
【0049】
本発明による好ましいAONは、個体のABCA4バリアント関連疾患または状態の処置のためのものである。好ましくは、前記ABCA4バリアントは、c.5461-10T>Cバリアントであるが、他のABCA4突然変異もエクソン39またはエクソン39/40のスキッピングを引き起こす可能性があることは排除できないため、それも本発明のAONによってブロックすることができる。したがって、本発明のAONは、好ましくは、既知のc.5461-10T>C突然変異が原因となるスタルガルト病に使用されるが、(機能的な)ABCA4タンパク質の減少をもたらすABCA4 pre-mRNAのエクソン39、またはエクソン39/40のスキップが原因となるいずれの疾患にも使用することができる。ここで、この特定の突然変異がそのスプライシング効果を引き起こすことが解明されたが、ABCA4突然変異の非常に大きな範囲を考慮すると、他の突然変異が同じスプライシングの改変を引き起こすことも排除できず、これもまた、本発明のAONによって予防することができる。したがって、本発明は、c.5461-10T>C突然変異またはABCA4遺伝子における(まだわかっていない)別の突然変異が原因である可能性があるABCA4 pre-mRNAからのエクソン39のスキッピングをブロックまたは予防するAONに関する。
【0050】
本発明のすべての実施形態において、「処置」という用語は、ABCA4バリアント関連疾患または状態の予防および/または遅延をまた含むと理解される。本発明によるAONを使用して処置することができる個体は、既にABCA4バリアント関連疾患または状態を有すると診断されていてもよい。あるいは、本発明によるAONを使用して処置することができる個体は、まだスタルガルト病などのABCA4バリアント関連疾患または状態を有すると診断されていなくてもよいが、個体の遺伝的背景を考慮にいれると将来的にそのような疾患または状態を発症するリスクが高い個体であってもよい。好ましい個体はヒト個体である。好ましい実施形態において、ABCA4バリアント関連疾患または状態は、スタルガルト病である。したがって、本発明は、ABCA4のスプライシングを調節することを必要とするABCA4バリアント関連疾患もしくは状態を処置するための薬剤として使用するため、およびABCA4バリアント関連疾患もしくは状態の予防、処置もしくは遅延のための薬剤として使用するための本発明によるAON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物をさらに提供する。前記使用のそれぞれの特徴は、本明細書の前で定義した。
【0051】
本発明は、ABCA4 pre-mRNAのスプライシングを調節することを必要とするABCA4バリアント関連疾患または状態の処置のための本発明によるAONの使用、もしくは本発明によるウイルスベクターの使用、または本発明による組成物をさらに提供する。好ましい実施形態において、および本発明のすべての態様に関して、ABCA4バリアント関連障害、疾患または状態は、ヒトABCA4遺伝子のエクソン38におけるc.5461-10T>C突然変異が原因となる。
【0052】
本発明は、薬剤の調製のため、ABCA4 pre-mRNAのスプライシングを調節する必要があるABCA4バリアント関連疾患または状態を処置するための薬剤の調製のため、およびABCA4バリアント関連疾患または状態の予防、処置または遅延のための薬剤の調製のための、本発明によるAON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物の使用をさらに提供する。したがって、別の態様において、薬剤の調製のため、ABCA4 pre-mRNAのスプライシングを調節する必要がある状態を処置するための薬剤の調製のため、およびABCA4バリアント関連疾患または状態の予防、処置または遅延のための薬剤の調製のための、本明細書中で定義されるAON、ウイルスベクターまたは組成物の使用が提供される。
【0053】
本発明による使用または方法における処置は、少なくとも1回であり、1週間、1カ月、数カ月、1、2、3、4、5、6年またはそれ以上、例えば、一生涯続く。本発明による使用のための本明細書中で定義されるとおりのAONまたはその等価物のそれぞれは、ABCA4バリアント関連疾患または状態に既に冒されているか、またはそれを発症するリスクがある個体の細胞、組織および/または臓器へのin vivoにおける直接の投与に適していてもよく、in vivo、ex vivoまたはin vitroにおいて直接投与されてもよい。本発明のAON、組成物、化合物または補助的な化合物の投与の頻度は、疾患の重症度、患者の年齢、患者の突然変異、AONの数(例えば、用量)、前記AONの配合、投与の経路などのいくつかのパラメータにより左右される可能性もある。頻度は、1日1回、週に1回、2週間、もしくは3週間もしくは4週間もしくは5週間またはそれより長い期間に少なくとも1回の間で変化することもある。本発明によるAONの用量範囲は、好ましくは、厳しい手順要件が存在する臨床試験の用量漸増試験(in vivoにおける使用)に基づいて設計される。本明細書中で定義されるとおりのAONは、0.01から20mg/kg、好ましくは0.05から20mg/kgの範囲の用量で使用されてもよい。適した硝子体内用量は、各眼当たり約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mgなど、各眼当たり0.05mgから5mgの間、好ましくは0.1から1mgの間であろう。好ましい実施形態において、本明細書中で定義されるとおりのAONの0.1nMから1μMの範囲の濃度が使用される。好ましくは、この範囲は、網膜細胞または網膜組織などの細胞モデルにおけるin vitroでの使用のためのものである。より好ましくは、使用される濃度は、1から400nM、さらにより好ましくは10から200nM、さらにより好ましくは50から100nMの範囲である。いくつかのAONが使用される場合、この濃度もしくは用量は、AONの合計濃度もしくは用量または添加されたそれぞれのAONの濃度もしくは用量を指す場合もある。好ましい実施形態において、本発明による分子のための送達媒体として、本明細書の前に記載されているウイルスベクター、好ましくは、AAVベクターは、1回の注射当たり1×109~1×1017ウイルス粒子、より好ましくは、1回の注射あたり1×1010~1×1012ウイルス粒子の範囲の用量で投与される。上で示したとおりのAONの濃度または用量の範囲は、in vivo、in vitroまたはex vivoにおける使用に対して好ましい濃度または用量である。当業者は、使用されるAON、処置される標的細胞、遺伝子標的およびその発現レベル、使用される培地ならびにトランスフェクションおよびインキュベーション条件に応じて、使用されるAONの濃度または用量がさらに変化することもあり、さらに最適化される必要がある場合もあることを理解するであろう。
【0054】
本発明による使用のための本発明によるAON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物は、ABCA4バリアント関連疾患もしくは状態に既に冒されているか、またはそれを発症するリスクがある個体の細胞、組織および/または器官へのin vivoにおける投与に適していてもよく、in vivo、ex vivoまたはin vitroにおいて投与されてもよい。本発明による前記AON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物は、疾患もしくは状態に既に冒されているか、またはそのリスクがある個体の細胞、組織および/または器官へin vivoにおいて直接または間接的に投与されてもよく、in vivo、ex vivoまたはin vitroにおいて直接または間接的に投与されてもよい。スタルガルト病は網膜に顕著な形質を有するため、細胞が網膜細胞であることが好ましく、かつ前記組織が網膜であることがさらに好ましく、かつ/または前記器官が眼であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明は、細胞におけるABCA4 pre-mRNAのスプライシングを調節するための方法であって、細胞、好ましくは、網膜細胞を、本発明によるAON(したがって、エクソン39のスキッピングをブロックするAON)、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と接触させることを含む方法をさらに提供する。この態様の特徴は、好ましくは、本明細書の前で定義されたものである。細胞を本発明によるAON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と接触させることは、当業者に既知の任意の方法によって行われてもよい。本明細書に記載されているAON、ウイルスベクターおよび組成物の送達のための方法の使用が含まれる。接触させることは、直接的または間接的であってもよく、in vivo、ex vivoまたはin vitroにおいてであってもよい。
【0056】
本発明は、ABCA4 pre-mRNAのスプライシングの調節を必要とする個体の、それを必要とするABCA4バリアント関連疾患または状態の処置のための方法であって、前記個体の細胞、好ましくは、網膜細胞を、本発明によるAON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と接触させて、前記pre-mRNAからのエクソン39のスプライシングを予防またはブロックすることを含む方法をさらに提供する。この態様の特徴は、好ましくは、本明細書の前で定義されたものである。細胞、好ましくは、網膜細胞を、本発明によるAON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と接触させることは、当業者に既知の任意の方法によって行われてもよい。本明細書に記載されているAON、ウイルスベクターおよび組成物の送達のための方法の使用が含まれる。接触させることは、直接または間接的であってもよく、in vivo、ex vivoまたはin vitroにおいてであってもよい。別に指示がある場合を除いて、本明細書に記載されている各実施形態は、本明細書に記載されている別の実施形態と組み合わされてもよい。
【0057】
本明細書で提供した配列情報は、エラーを伴って特定された塩基を含める必要があるほど狭く解釈されるべきではない。当業者は、エラーを伴って特定されたそのような塩基を特定することができ、そのようなエラーの正し方を知っている。本明細書において引用されているすべての特許および参照文献は、その全体を参照によって本明細書に組み込む。
本発明は次の態様にも関する。
(1)ヒトABCA4 pre-mRNAにおいて少なくとも1つのエクソンのスキッピングを阻害することができるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であって、前記エクソンスキッピングは、ABCA4遺伝子における変異によるものである、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)。
(2)前記エクソンスキッピングを引き起こす前記変異は、イントロンにある、上記(1)に記載のAON。
(3)前記変異は、前記ヒトABCA4遺伝子のイントロン38におけるc.5461-10T>C変異である、上記(2)に記載のAON。
(4)前記AONは、エクソン39スキッピングおよび/またはエクソン39/エクソン40二重スキッピングを阻害することができる、上記(1)から(3)のいずれか一項に記載のAON。
(5)配列番号45、46、47、48、49、65、もしくは66、またはその一部のヌクレオチド配列、あるいは前記ヒトABCA4 pre-mRNAのイントロン38/エクソン39、エクソン39/イントロン39、イントロン39/エクソン40、またはエクソン40/イントロン40の境界と重なる配列と相補的なヌクレオチド配列を含むAON。
(6)前記相補的な配列は、イントロン38とエクソン39の間の境界を含む、上記(5)に記載のAON。
(7)前記相補的な配列は、前記ヒトABCA4遺伝子のイントロン38におけるc.5461-10T>C変異を含む、上記(5)または(6)に記載のAON。
(8)前記AONは、配列番号44内の8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25の連続したヌクレオチドと相補的な配列を含むか、またはそれからなる、上記(1)から(7)のいずれか一項に記載のAON。
(9)前記AONは、20、21、22、23、24または25ヌクレオチドを含み、最大で1つのCpGモチーフをさらに含む、上記(8)に記載のAON。
(10)前記AONは、配列番号65または配列番号66内の8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25の連続したヌクレオチドと相補的な配列を含むか、またはそれからなる、上記(8)に記載のAON。
(11)前記AONは、配列番号1、3、4、5、6、9、12、13、14、17、20、24、25、29、31、および32のうちのいずれか1つの配列を含むか、またはそれからなる、上記(9)または(10)に記載のAON。
(12)前記AONは、2’-O-メチル(2’-OMe)修飾糖などの少なくとも1つの2’-Oアルキル修飾を含むオリゴリボヌクレオチド(RNAオリゴヌクレオチド)である、上記(1)から(11)のいずれか一項に記載のAON。
(13)前記AONは、少なくとも1つの2’-メトキシエトキシ(2’-MOE)修飾を含むオリゴリボヌクレオチド(RNAオリゴヌクレオチド)である、上記(1)から(12)のいずれか一項に記載のAON。
(14)前記AONは、少なくとも1つのホスホロチオエート結合を有し、好ましくは、すべての連続したヌクレオチドは、ホスホロチオエート結合によって互いに連結されている、上記(1)から(13)のいずれか一項に記載のAON。
(15)硝子体内投与用である、上記(1)から(14)のいずれか一項に記載のAON、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
(16)前記組成物は、各眼当たり合計AONが0.05から5mgの間の範囲、好ましくは、各眼当たり合計AONが約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mgなど、各眼あたり合計AONが0.1から1mgの間の範囲で投与される、上記(15)に記載の医薬組成物。
(17)上記(1)から(11)のいずれか一項に記載のAONを発現させるウイルスベクター。
(18)薬剤として使用するための、上記(1)から(14)のいずれか一項に記載のAON、上記(15)または(16)に記載の医薬組成物、または上記(17)に記載のウイルスベクター。
(19)スタルガルト病の処置、予防または遅延に使用するための、上記(1)から(14)のいずれか一項に記載のAON、上記(15)もしくは(16)に記載の医薬組成物、または上記(17)に記載のウイルスベクター。
(20)スタルガルト病の処置、予防または遅延のための、上記(1)から(14)のいずれか一項に記載のAON、上記(15)または(16)に記載の医薬組成物、または上記(17)に記載のウイルスベクターの使用。
(21)細胞におけるABCA4 pre-mRNAのスプライシングを調節するための方法であって、前記細胞を、上記(1)から(14)のいずれか一項に記載のAON、上記(15)または(16)に記載の医薬組成物、または上記(17)に記載のウイルスベクターと接触させることを含む方法。
(22)ABCA4 pre-mRNAのスプライシングの調節を必要とする個体の、それを必要とするスタルガルト病または状態の処置のための方法であって、前記個体の細胞を、上記(1)から(14)のいずれか一項に記載のAON、上記(15)もしくは(16)に記載の医薬組成物、または上記(17)に記載のウイルスベクターと接触させることを含む方法。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39スキップをブロックするためのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の形成および試験
ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39スキッピングをブロックする能力に関して試験するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、ヒトABCA4 pre-mRNAのエクソン38とエクソン39の間のイントロン38中、エクソン39中、およびエクソン39とエクソン40の間のイントロン39中ならびにイントロンとエクソンの境界に存在するエクソンまたはイントロンスプライシング部位(ESSおよびISS)のいずれかを標的として設計した(
図1および2)。この目的は、長過ぎないAON(製造目的のため、投与効率のためおよびそれが自己アニーリングを制限することになろう)、最大で1つのCpGモチーフを含むAON、および高過ぎるパーセンテージのグアノシンを含まないAONを設計することであった。初めに設計したすべてのAONを表1に示す。すべてのAONの長さは、20から25ヌクレオチドの範囲内にあり、すべてのAONは、完全に2’-O-メチル修飾されている。すべてのヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合である。製造後、AONを水中で復元して、100μMの最終濃度にした。
【0059】
ミニジーン(mini-gene)の構築
ヒト網膜芽細胞腫WERI-Rb-1(ATCC(登録商標)HTB-169(商標))細胞を、10%ウシ胎仔血清(Biowest;カタログ番号S181)、および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich、P4333-100ML)を含むRPMI-1640培地(Thermo Scientific;11875-085)中で増殖させた。DNA単離のために、WERI-Rb-1細胞の1つのT75フラスコを回収し、300×gで5分間遠心分離して、細胞ペレットを回収した。製造業者の説明書に従ってDNeasy Blood & Tissueキットを使用してDNAを抽出した。DNAは、キットが提供する200μlのBuffer AE中に溶出した。収率を増加させるために、その溶離液を、同じカラムを2回通過させた。Nanodrop 2000分光光度計(Nanodrop Technology)を使用してDNA濃度を測定し、さらなる使用のためにサンプルを-20℃で保存した。
【0060】
【0061】
5’および3’末端にそれぞれSalIおよびNotI制限部位を含む野生型インサート(WT)を形成するために、300ngのWERI-Rb-1 DNAを鋳型として使用し、標的配列の増幅を、以下のプライマーセットとともにPhusion(登録商標)High-Fidelity DNA Polymerase(Thermo Scientific;カタログ番号F530L)を使用して行った。
MG1 WT(Sangermano et al. 2016):
MG1-F 5’-AAAAAAGTCGACGTGTTAACAAATGCCTTGAGG-3’(配列番号51)
MG1-R 5’-AAAAAAGCGGCCGCAGCTCACCCCACAGACCT-3’(配列番号52)
MG2 WT(Sangermano et al. 2016):
MG2-F 5’-AAAAAAGTCGACCCTTGAGGCACTGCTTGTAA-3’(配列番号38)
MG2-R 5’-AAAAAAGCGGCCGCCTGCCACAGTCTGATGCAG-3’(配列番号39)
MG3 WT(本明細書中で開示されている、エクソン39のみ):
MG3-F 5’-AAAAAAGTCGACAAATCCCTCCAGTGGCCAGT-3’(配列番号53)
MG3-R 5’-AAAAAAGCGGCCGCCCTAATCCTCTCCAGCTGG-3’(配列番号54)
MG4 WT(本明細書中で開示されている、エクソン39およびエクソン40):
MG4-F 5’-AAAAAAGTCGACAAATCCCTCCAGTGGCCAGT-3’(配列番号53)
MG4-R 5’-AAAAAAGCGGCCGCATATCAGCAATTGAAATT-3’(配列番号55)
【0062】
MG3インサートは、イントロン38の位置-150から始まり、イントロン39の+152で終わるのに対し、MG4インサートは、イントロン38の位置-150から始まり(MG3と同じ)、イントロン40の位置+246で終わる。得られたPCR産物を、製造業者の手順に従ってNucleoSpin GelおよびPCR cleanupキット(Machery-Nagel;カタログ番号740609.250)でゲル精製した。異なる長さの隣接イントロンを有する突然変異インサートを、5’および3’末端にそれぞれにSalIおよびNotI制限部位を含むgBlocksとしてIntegrated DNA Technologiesに注文した。
【0063】
DNAインサート(上で概説した野生型および突然変異gBlockフラグメント)および宿主ベクターpET01 Exontrapベクター(MoBiTec GmbH;カタログ番号K2010)を、当該技術分野において既知の一般的な手順を使用してSalIおよびNotIによって消化し、独立してともに連結した。ベクター中のインサートの存在を、以下のプライマー対を使用したPCRによって調べた:エクソン1順方向:5’-CCAGGCTTTTGTCAACAGCA-3’(配列番号40)およびエクソン2逆方向:5’-ATTGCAGAGGGGTGGACAG-3’(配列番号41)。イントロン38の一部(突然変異を有する、および有さない)およびエクソン39全体、ならびにイントロン39の一部(MG1、MG2およびMG3)を有する得られたコンストラクトを
図4に模式的に示す(上のパネル)。
【0064】
本発明のAONを使用することによるエクソン39/エクソン40二重スキッピングのブロックを調査するための、単一のベクター中にイントロン38の一部(突然変異を有する、および有さない)、エクソン39の全体、イントロン39の全体、エクソン40の全体、およびイントロン40の一部を含むコンストラクトを得るために同様のアプローチを使用した。エクソン39の上流のイントロン38の突然変異位置とともにエクソン39およびエクソン40を含むコンストラクト(MG4)を
図4に示す(下のパネル)。
【0065】
細胞培養、トランスフェクション、RNA単離およびcDNA合成
HeLa細胞を、10% FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを加えたDMEM中において培養した。細胞を2×105細胞/ウェルで24ウェルプレートに播いた。連続したトランスフェクションのために、播いた1日後に、その細胞に、10% FBSを加えた1mlのDMEM中においてLipofectamin 2000(Thermo Scientific、11668019)を使用して200~500ngのプラスミドをトランスフェクションし、6時間インキュベートした後、培地を補給した。24時間後、細胞に、500μlの培地中において100~250nMのAONをトランスフェクションした。AONトランスフェクションの24時間後にRNAを単離した。二重トランスフェクションのために、播いた1日後に、その細胞に、Lipofectamin 3000(Thermo Scientific、L3000015)を使用して10% FBSを含む500μLのDMEM中において200~500ngのプラスミド+250nMのAONをコトランスフェクションした。6時間のインキュベーション後、培地を補給した。RNAを、24~48時間後に単離した。このために、細胞をPBSで洗浄し、350μlのRLTバッファー(Qiagen、RNeasy Plus Miniキット、#74136)で溶解させた。製造業者の説明書に従ってRNeasy Plus Miniキット(Qiagen、#74136)を使用してRNAを単離した。キットとともに供給されたgDNA Eliminatorカラムを使用してゲノムDNAを除去した。30μlのRNAseフリー水中にRNAを溶出した。収率を増加させるために、その溶離液を、同じカラムを2回通過させた。Nanodrop 2000分光光度計(Nanodrop Technology)を使用してRNA濃度を測定し、さらなる使用のためにサンプルを-80℃で保存した。cDNA合成のために、1000ngのRNAを、ランダムヘキサマープライマーを用いたMaxima Reverse Transcriptase(Thermo Scientific;カタログ番号EP0742)のための鋳型として使用し、製造業者の説明書に従って処理した。対照として非RTサンプル(酵素なし)を含ませ、他のサンプルとともに分析した。
【0066】
PCR、バイオアナライザーおよびddPCR
基本的には、ABCA4 mRNAのフラグメントは、依然としてエクソン39を含む場合、一方または両方のPCRプライマーがそのエクソン内にあるとき、PCRを使用して特異的に増幅することが可能である。mRNA中にエクソン39が依然として存在しているかどうかを見るために、100ngのcDNAを形成し、鋳型および標的配列の増幅として使用した。これは、以下のプライマーを使用して行った:エクソン39順方向:5’-CTGCTCATTGTCTTCCCCCA-3’(配列番号42)およびエクソン39逆方向:5’-CAAACCGGGCATAGACATCTG-3’(配列番号43)。エクソン39配列においてこれらの両プライマーがアニーリングし、これにより、エクソン39を含むバックグラウンドmRNA(HeLa細胞中)が共増幅されることになる。Phusion(登録商標)High-Fidelity DNA Polymerase(Thermo Scientific;カタログ番号F530L)を使用してPCR反応を行った。Bioanalyzer 2100ソフトウェアを使用したBioanalyzer 2100(DNA 1000キット、Agilent Technologies)によりPCRフラグメントを解析した。
【0067】
ddPCR分析のために、QX200(商標)Droplet Digital(商標)PCR System(Bio-Rad)を使用してサンプルを分析した。プラスミドのエクソン1および2を増幅するプライマーならびにABCA4エクソン39およびプラスミドエクソン1を標的とする2つのプローブからなる特製のアッセイを形成する(IDT、Integrated DNA Technologies)。実験構成および分析を製造業者の手順に従って実施する(Bio-Rad、QX200システム)。
【0068】
結 果
図6は、さまざまなAONを用いて、および用いずに行ったc.5461-10T>C突然変異をもつMG3コンストラクト(+MG3 mut.)またはMG3野生型コンストラクト(+MG3 WT)によるHeLa細胞のトランスフェクション後のバイオアナライザーにおけるRT-PCR結果を示す。初めに、配列番号1から16の16のAONを試験した(
図2および表1を参照)。エクソン39配列内でアニーリングするプライマーを用いてRT-PCRを行い、これにより、下のパネルの「HeLa(NT)」(非トランスフェクションHeLa細胞)で示したレーンも予想されるレベルでバンドを示すようになる。これは、HeLa細胞が野生型ABCA4遺伝子をもつという事実によるものであり、これから明らかにmRNAが産生され、これからまたその後、陽性PCR産物が形成される。陰性対照(「ctrAON」)は、突然変異を有するMG3コンストラクトおよび無関係の非ABCA4アニーリングAONによるトランスフェクションであった。別の陰性対照は、コンストラクトまたはAONを用いずにトランスフェクション試薬によってのみトランスフェクションされた細胞を表す「Mock tr」レーンである。「Rt-ctr」および「H
2O」は、細胞物質を伴わない、PCR反応に関するさらなる2つの陰性対照であり、シグナルを示さない。
【0069】
産物バンドの強度の増加は、エクソン39を含むmRNAコピーの増加を示唆する。そのようなものはバックグラウンドとしてHeLa細胞において既に形成されたものに基づいて、実際に、AONがトランスフェクションされていないWTシグナルと比較して評価されるべきであるため、「WT-no AON」で示したレーンを100%として取り、その100%強度と比較して他のバンドの強度を測定するためにバイオアナライザーソフトウェアを利用した。これは、およそ1/3(29%)が、少なくともバックグラウンドのHeLa単独のシグナルによるものであることを示す。といっても、それは、PCR反応であるため、発現レベルの差を示すための最高の測定法ではない。このデータは、AONを用いて、または用いずに行ったトランスフェクション自体がこの構成を使用しておよそ70%へのAONと無関係なシグナルの増加を示すことができることを示す。しかしながら、AON1、AON3、AON4、AON5、AON6、AON12、AON13、およびAON14で検出された強度は、100%に設定したWTシグナルの少なくとも80%へ増加し、AON3、AON4、AON6、およびAON12が最も良く機能して少なくとも90%の強度であった。これは、これらのAONがc.5461-10T>C突然変異をもつMG3コンストラクトからのエクソン39スキッピングを、エクソン39がスキップされない野生型の状態に近いレベルまで阻害することができることを示す。
【0070】
[実施例2]
HEK293細胞においてヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39スキップをブロックするためのAONのddPCR分析を使用したさらなる試験
実施例1に記載し、初めに試験したアンチセンスオリゴヌクレオチドを、定量的でアイソフォーム特異的なddPCRアッセイを使用してHEK293細胞においてさらに評価した。簡単に述べると、c.5461-10T>C突然変異を含むABCA4エクソン39ミニジーン(MG3)をHEK293細胞において一時的に発現させ、さまざまなAONで処理した。非AON処理(mock)サンプルを基準対照として使用した。ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39のスキッピングをブロックするAONの能力を定量するためにddPCRアッセイを使用した。
【0071】
細胞培養条件、トランスフェクション、RNA単離
MG3については実施例1に記載した。HEK293細胞を、10% FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを加えたDMEM中で培養した。0.2×106細胞/ウェルの密度で12ウェルプレートに細胞を播いた。各処理条件に2つのサンプル(反復)を使用した。二重トランスフェクションのために、播いた1日後に、その細胞に、LipofectAMINE(商標)2000(Invitrogen)を使用して、10% FBSを加えた1mLのDMEM中において1:2のw/v比で、75ngのMG3プラスミドおよび250nMのAONをトランスフェクションした。製造業者の説明書に従ってRNeasy Plus Miniキット(Qiagen、#74136)を使用してトランスフェクションの24時間後にRNAを単離した。Nanodrop 2000分光光度計(Nanodrop Technology)を使用してRNA濃度を測定し、さらなる使用のためにサンプルを-80℃で保存した。
【0072】
ddPCR定量
ddPCRは、供給業者の手順に従ってOne-Step RT-ddPCR Advanced Kit for Probes(Bio-Rad)を使用してQX200システム(Bio-Rad)において行った。アッセイには、それぞれ900nMの順方向および逆方向プライマーおよび250nMの標識プローブが含まれた。AON7、8、9、10、11、26、27、28、および29に関しては、5’-AGCTCTCTACCTGGTGTGT-3’(配列番号56)を順方向プライマーとしておよび5’-AACCTGAGCAGCGTCTTG-3’(配列番号57)を逆方向プライマーとしてならびに5’-TTCTTCTACACACCCATGTCCCGC-3’(配列番号58)をプローブとして使用してエクソン39包含を評価した。残りのAONに関しては、5’-GTCAACAGCACCTTTGTGGT-3’(配列番号59)を順方向プライマーとして、5’-TGTGCCACCCAAACCGGG-3’(配列番号60)を逆方向プライマーとしておよび5’-GGTCAATGAGGCCCCGGCCCAGGCA-3’(配列番号61)をプローブとして使用してエクソン39包含を評価した。5’-GTCAACAGCACCTTTGTGGT-3’(配列番号62)を順方向プライマーとして、5’-CAAGGTCTGAAGGTCACGGG-3’(配列番号63)を逆方向プライマーとしておよび5’-AGGACCCACAAGGTGGCACAA-3’(配列番号64)をプローブとして使用してエクソン39排除を評価した。エクソン39包含のパーセンテージは、式:(エクソン39包含×100)/(エクソン39包含+エクソン39排除)を使用して算出した。
【0073】
結 果
c.5461-10T>C突然変異をもつMG3コンストラクトおよびAON(複数可)をトランスフェクションされたHEK293細胞におけるエクソン39包含のパーセンテージのddPCR定量を
図7に示す。AONを、異なる日にバッチで評価し、その結果を対応する非AON処理(mock)対照とともに実験毎に表す。データは、平均値±標準偏差として示す。未処置の「mock」条件では、転写物のおよそ10%においてエクソン39包含が確認された。多くのAONは、mockと比較して、エクソン39を含む転写物のパーセンテージを増加させることができた。
図7Aにおいて確認できるとおり、AON31が包含の最高のパーセンテージ(すなわち62%)を示し、AON32、AON12およびAON1が続き、それらは、それぞれ49%、43%および41%のパーセンテージを示した。AON17、AON20およびAON35も低い程度ではあるがエクソン包含の増加をもたらした。
【0074】
重要なことに、AON12、AON31およびAON32は、ABCA4 pre-mRNAのイントロン39にある一部重なる領域に結合し、これは、以下の配列を有するホットスポットの存在を示す:5’-UGGUAGCCGAGGCCCAUGGAGCAUGGGCCCUGGG-3’(配列番号65)。AON1およびAON17も一部重なる領域に結合し、これは、イントロン38のホットスポットの存在を示す(5’-UUGCCCUGUGCUGUCCUGUGAGAGCAUCUGG-3’(配列番号66)。両ホットスポットを
図2にイタリックのフォントで示す。
【0075】
[実施例3]
代替(MG3_2)ミニジーンコンストラクトを使用した、ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39スキップをブロックするためのAONの試験
実施例1および実施例2に記載し、そこで示されるとおりに試験したさまざまなAONを新しいミニジーンコンストラクトを使用してさらに評価した。簡単に述べると、c.5461-10T>C突然変異を含む新しいABCA4エクソン39ミニジーン(本明細書においてMG3_2と呼ぶ)をHEK293細胞において一時的に発現させて、さまざまなAONで処理した。非AON処理(mock)サンプルを基準対照として使用した。さらに、ABCA4 pre-mRNAと相補的でないスクランブルAONを対照として使用した。ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39のスキッピングをブロックするAONの能力を定量するために、定量的でアイソフォーム特異的なddPCRアッセイを使用した。
【0076】
ミニジーンMG3_2の構築
c.5461-10T>C突然変異を含む、ABCA4エクソン39配列およびその隣接イントロン領域を含むDNAインサートを、5’および3’末端にそれぞれEcoR1およびSalI部位をもつgBlock(Integrated DNA Technologies)として化学合成し、pCI-neo-mammalianスプライシングベクター(国際公開第2016/005514号パンフレット;国際公開第2017/186739号パンフレットに記載されている)に挿入して、(ヒトABCA4イントロン38-エクソン39-イントロン39配列を除く)すべての配列を元のまま残した。
図8は、MG3_2コンストラクトの配列およびその中のABCA4配列の位置を示す。
【0077】
細胞培養、トランスフェクション、RNA単離
実施例2に記載したとおりに、HEK293細胞を培養し、播いた。連続したトランスフェクションのために、播いた1日後に、その細胞に、maxPEI(Polysciences)を1:3のw/wのDNA:PEI比で使用して、10% FBSを加えた1mLのDMEM中において50ngのプラスミドをトランスフェクションした。24時間後、細胞に、1mLの培地中においてLipofectAMINE(商標)2000(Invitrogen)を1:2のw/v比で使用して250nMのAONをトランスフェクションした。製造業者の説明書に従ってRNeasy Plus Miniキット(Qiagen)を使用して、AONトランスフェクションの24時間後にRNAを単離した。Nanodrop 2000分光光度計(Nanodrop Technology)を使用してRNA濃度を測定し、さらなる使用のためにサンプルを-80℃で保存した。
【0078】
ddPCR定量
ddPCRを、実施例2に記載したとおりに行った。5’-TACATGTTCGTGGTCCACTTC-3’(配列番号70)を順方向プライマーとして、5’-GAAGACAATGAGCAGCTTCCT-3’(配列番号71)を逆方向プライマーとしておよび5’-AACGCTGCTCAGGTTCAACGC-3’(配列番号72)をプローブとして使用してエクソン39包含を評価した。配列番号70のプライマーを順方向プライマーとして、5’-GCAGATGGTGGTGAGCAT-3’(配列番号73)を逆方向プライマーとしておよび5’-ACCGTCAAGGAGTTCCGGAACTG-3’(配列番号74)をプローブとして使用してエクソン39排除を評価した。エクソン39包含のパーセンテージを実施例2のとおりに算出した。
【0079】
結 果
図9Aは、MG3_2ミニジーンコンストラクトの概略版を示す。初めに、HEK293細胞に、プラスミド単独をトランスフェクションし、RNAを、RHOエクソン3および5領域からのプライマーを使用してPCR増幅を行った。PCR産物をバイオアナライザーにおいて分析した(
図9B)。c.5461-10T>C突然変異のために、転写物の大半でエクソン39が欠如しており(下のバンド)、実際にエクソン39包含(上のバンド)がはるかに低いレベルで確認された。
【0080】
c.5461-10T>C突然変異をもつMG3_2コンストラクトおよびAON(複数可)をトランスフェクションされたHEK293細胞におけるエクソン39包含のパーセンテージのddPCR定量を
図9Cに示す。データは、平均値±標準偏差として示す。スクランブル対照(Scr. Contと示した)は、MG3_2コンストラクトおよび無関係の非相補的なAONによるトランスフェクションを指す。「Mock」は、非AON処置(陰性対照)を指す。mock条件では、転写物の11%でエクソン39包含が確認された。多くのAONがこのバックグラウンドパーセンテージを増加させることができた。AON32は、エクソン39包含の最高のパーセンテージ(49%)を示し、これは、実施例2で述べた結果と一致する。また、AON32は、AON31およびAON12と一部重複し、これらも、エクソン39包含の量を増加させた。これは、配列番号65の配列が本当にAONアニーリングおよびエクソン39保持の誘導に関するホットスポットを表すことを確認する。実施例2においてエクソン39包含の増加をもたらしたAON1およびAON17もこの試験においてプラスの効果を示し、これは、配列番号66の配列もAONアニーリングおよびエクソン39保持の誘導に関するホットスポットを表すことを確認する。エクソン39包含の増加を示した他のAONは、AON3、4、9、24、25、および29であった。
【0081】
[実施例4]
ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39スキップをブロックするための、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)修飾を有するAON
エクソン39包含に対するAONの効果をさらに検討するために、AON1およびAON32を、それぞれのヌクレオシドに2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)修飾を伴い形成し、それぞれのヌクレオシドに2’-OMe修飾を含むAON1およびAON32(上の実施例で使用した)と比較した。AON1-MOEおよびAON32-MOEのヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39のスキッピングをブロックする能力を評価し、AON1およびAON32と比較した。簡単に述べると、c.5461-10T>C突然変異を含むABCA4エクソン39ミニジーン(MG3_2、実施例3を参照)を、HEK293細胞において一時的に発現させ、さまざまなAONで処理した。非AON処理サンプルを基準対照として使用した。ヒトABCA4 pre-mRNAからのエクソン39のスキッピングをブロックするAONの能力を定量するために、定量的でアイソフォーム特異的なddPCRアッセイを使用した。HEK293細胞を、上記のとおり培養し、播き、250nMのAONを50ngのプラスミドの文脈でトランスフェクションした。ddPCRを実施し、エクソン包含パーセンテージの計算は、実施例3に記載したとおりとした。結果を平均値±標準偏差として
図10に示す。「Mock」は、非AON処置(すなわち、陰性対照)を指す。未処置の「mock」条件では、転写物のおよそ14%でエクソン39包含が確認され、これは、実施例3で確認されたものと一致して、(ともに2’-OMe修飾を有する)AON1およびAON32による処理後に有意に増加した。AON1の効果(転写物のおよそ24%がエクソン39を保持した)は、AON1 MOEでおよそ40%まで増加し、これは、(より安定している可能性が最も高い)2’-MOE修飾オリゴヌクレオチドを使用した場合の、改善されたより効率的なエクソン39保持を示した。同様の傾向がAON32でも認められた。AON32(2’-O-メチル化学作用(chemistry))処理サンプルでは、転写物のおよそ45%がエクソン39を保持したのに対し、AON32 MOE(2’-O-メトキシエチル化学作用)処理サンプルでは、転写物のおよそ58%がエクソン39を保持した。
【配列表】