(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】マイクロマニピュレータ
(51)【国際特許分類】
B25J 7/00 20060101AFI20220729BHJP
G02B 21/32 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
B25J7/00
G02B21/32
(21)【出願番号】P 2017225791
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【氏名又は名称】西山 善章
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹
(72)【発明者】
【氏名】高谷 昭一
(72)【発明者】
【氏名】日原 康太
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0065358(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0021079(US,A1)
【文献】米国特許第06391043(US,B1)
【文献】米国特許第6206877(US,B1)
【文献】特開2006-205344(JP,A)
【文献】特表2003-525687(JP,A)
【文献】実開平02-003369(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
G02B 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小物体にアクセスするための2つのエンドエフェクタと、
前記エンドエフェクタの少なくとも一方を回動させるハンドリング部と、
前記ハンドリング部を移動させる移動部と、を備え、
前記エンドエフェクタの先端部を近接させて前記微小物体に第1の処置を施す第1のモードと、前記エンドエフェクタの先端部を交差させて前記微小物体に第2の処置を施す第2のモードと、
の二つの動作モードを有
し、
前記エンドエフェクタは、前記第1の処置を施すための第1の部分と、前記第2の処置を施すための第2の部分と、をそれぞれ有し、
前記エンドエフェクタ同士が離間した状態で、前記エンドエフェクタの長手方向の内側先端部が前記第1の部分および第2の部分のいずれか一方を構成し、前記エンドエフェクタの長手方向の外側先端部が、前記第1の部分および前記第2の部分のいずれか他方を構成する、ことを特徴とするマイクロマニピュレータ。
【請求項2】
微小物体にアクセスするための2つのエンドエフェクタと、
前記エンドエフェクタの少なくとも一方を回動させるハンドリング部と、
前記ハンドリング部を移動させる移動部と、を備え、
前記エンドエフェクタの先端部を近接させて前記微小物体に第1の処置を施す第1のモードと、
前記
2つのエンドエフェクタの先端部を
近接させる方向と同一方向とに交差させて前記微小物体に第2の処置を施す第2のモードと、
の二つの動作モード
と、を有し、
前記第1の処置が前記微小物体の把持及び切断のいずれか一方であり、
前記第2の処置が前記微小物体の把持及び切断のいずれか他方である
、
ことを特徴とするマイクロマニピュレータ。
【請求項3】
前記ハンドリング部は、前記エンドエフェクタの先端部が交差する際に前記エンドエフェクタの少なくとも一方の先端の回動軌跡をずらす軌跡変更手段を有することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項4】
前記エンドエフェクタ同士が離間した状態で、前記エンドエフェクタは、それぞれ、長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか一方に沿って刃物部が配されており、長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか他方が非刃物部で構成されたことを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項5】
前記エンドエフェクタに配された前記刃物部同士で前記微小物体に対し前記第1および第2の処置のいずれか一方を施し、前記エンドエフェクタに構成された前記非刃物部同士で前記微小物体に対し前記第1および第2の処置のいずれか他方を施すことを特徴とする請求項
4に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項6】
前記エンドエフェクタ同士が離間した状態で、前記エンドエフェクタのいずれか一方の長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか一方に沿って刃物部が配され、長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか他方が非刃物部で構成されており、前記エンドエフェクタのいずれか他方の長手方向の内側先端部および外側先端部が非刃物部で構成されたことを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項7】
前記エンドエフェクタのいずれか一方に配された前記刃物部といずれか他方に構成された前記非刃物部とで前記微小物体に対し前記第1および第2の処置のいずれか一方を施し、前記エンドエフェクタのいずれか一方およびいずれか他方に構成された前記非刃物部同士で前記微小物体に対し前記第1および第2の処置のいずれか他方を施すことを特徴とする請求項
6に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項8】
前記エンドエフェクタのいずれか一方の先端部に構成された前記非刃物部の断面形状を、該エンドエフェクタの長手方向と交差する方向に突出した滑らかな凸状としたことを特徴とする請求項
4または請求項
6に記載のマイクロマニピュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロマニピュレータに係り、特に、微小物体にアクセスするための2つのエンドエフェクタを備えたマイクロマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、微小部品の組み立てや細胞操作等にマイクロマニピュレータが用いられている。一般に、マイクロマニピュレータは、ハンドリング部に微小物体にアクセスする(例えば、把持する)ためのエンドエフェクタを有するとともに、ハンドリング部を移動させる移動機構を備えている。マイクロマニピュレータによる作業は、肉眼による顕微鏡視野下や顕微鏡に取り付けられたカメラを介してディスプレイ等のモニタに出力された画像を参照して行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハンドリング部に微小物体を把持するための2本の把持指を有し、これらの把持指にそれぞれエンドエフェクタが装着されたマイクロマニピュレータが開示されている。なお、マイクロマニピュレータではないが、本発明に関連する技術として、特許文献2には、例えば、把持用先端部(
図2参照)と、はさみ用先端部(
図6参照)とをハンドルアセンブリ(
図1参照)に付け替えることで機能変更が可能な外科用ツールシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4806229号公報
【文献】特開2009-189830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、細胞や微生物に対し切断処置(例えば、細胞や精子の尻尾の切断)を施す場合に、特許文献1に開示されたマイクロマニピュレータでは、シャーレ等の容器内に保存された微小物体を把持用エンドエフェクタで把持してステージ上に載置し(第1の処置)、把持用エンドエフェクタを切断用エンドエフェクタに付け替えた(装着し直した)後に切断(第2の処置)する必要があった。
【0006】
このため、特許文献1に開示されたマイクロマニピュレータで細胞や微生物に対し切断処置を施す場合には、エンドエフェクタの付け替えが必要なため、時間や手間が掛かり生物を取り扱う上で課題があった。この点、把持用エンドエフェクタが装着されたマイクロマニピュレータと、切断用エンドエフェクタが装着されたマイクロマニピュレータとの複数の異なる用途のマイクロマニピュレータを用意すればこのような課題はクリアできるが、コストアップとなる。また、複数のマイクロマニピュレータを用いた場合、シャーレ等の容器内に多数のエンドエフェクタが進入し、微小物体に対して複数のマイクロマニピュレータを交互または同時に制御しなければならいため、操作が難しく、時間や手間が掛かる。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、エンドエフェクタの付け替えなしで微小物体に対し2つの処置を施すことができるマイクロマニピュレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るマイクロマニピュレータは、微小物体にアクセスするための2つのエンドエフェクタと、前記エンドエフェクタの少なくとも一方を回動させるハンドリング部と、前記ハンドリング部を移動させる移動部と、を備え、前記エンドエフェクタの先端部を近接させて前記微小物体に第1の処置を施す第1のモードと、前記エンドエフェクタの先端部を交差させて前記微小物体に第2の処置を施す第2のモードと、を有し、前記エンドエフェクタは、前記第1の処置を施すための第1の部分と、前記第2の処置を施すための第2の部分と、をそれぞれ有し、前記エンドエフェクタ同士が離間した状態で、前記エンドエフェクタの長手方向の内側先端部が前記第1の部分および第2の部分のいずれか一方を構成し、前記エンドエフェクタの長手方向の外側先端部が、前記第1の部分および前記第2の部分のいずれか他方を構成する、ことを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明に係るマイクロマニピュレータは、微小物体にアクセスするための2つのエンドエフェクタと、前記エンドエフェクタの少なくとも一方を回動させるハンドリング部と、前記ハンドリング部を移動させる移動部と、を備え、前記エンドエフェクタの先端部を近接させて前記微小物体に第1の処置を施す第1のモードと、前記2つのエンドエフェクタの先端部を近接させる方向と同一方向とに交差させて前記微小物体に第2の処置を施す第2のモードと、の二つの動作モードと、を有し、前記第1の処置が前記微小物体の把持及び切断のいずれか一方であり、前記第2の処置が前記微小物体の把持及び切断のいずれか他方である、ことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記ハンドリング部は、前記エンドエフェクタの先端部が交差する際に前記エンドエフェクタの少なくとも一方の先端の回動軌跡をずらす軌跡変更手段を有する。
【0011】
また、エンドエフェクタ同士が離間した状態で、エンドエフェクタは、それぞれ、長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか一方に沿って刃物部が配されており、長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか他方が非刃物部で構成されていてもよい。このとき、エンドエフェクタに配された刃物部同士で微小物体に対し第1および第2の処置のいずれか一方を施し、エンドエフェクタに構成された非刃物部同士で微小物体に対し第1および第2の処置のいずれか他方を施すようにしてもよい。
【0012】
または、エンドエフェクタ同士が離間した状態で、エンドエフェクタのいずれか一方の長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか一方に沿って刃物部が配され、長手方向の内側先端部および外側先端部のいずれか他方が非刃物部で構成されており、エンドエフェクタのいずれか他方の長手方向の内側先端部および外側先端部が非刃物部で構成されていてもよい。このとき、エンドエフェクタのいずれか一方に配された刃物部といずれか他方に構成された非刃物部とで微小物体に対し第1および第2の処置のいずれか一方を施し、エンドエフェクタのいずれか一方およびいずれか他方に構成された非刃物部同士で微小物体に対し第1および第2の処置のいずれか他方を施すようにしてもよい。
【0013】
そして、エンドエフェクタのいずれか一方の先端部に構成された非刃物部の断面形状を、該エンドエフェクタの長手方向と交差する方向に突出した滑らかな凸状としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンドエフェクタの先端部を近接させて微小物体に第1の処置を施す第1のモードと、エンドエフェクタの先端部を交差させて微小物体に第2の処置を施す第2のモードとを有するので、エンドエフェクタの付け替えなしで微小物体に対し2つの処置を施すことができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明が適用可能な第1実施形態の微小物体ハンドリングシステムの概略構成図である。
【
図2】第1実施形態の微小物体ハンドリングシステムを構成するマイクロマニピュレータの斜視図である。
【
図6】マイクロマニピュレータを構成するハンドリング部の先端ユニット内部部材の分解斜視図である。
【
図7】Z方向移動部の連結部材とハンドリング部の基部ユニットとの関係を模式的に示す説明図である。
【
図8】ハンドリング部をYZ平面で回動することにより生じるY方向の変位を模式的に示す説明図である。
【
図9】ハンドリング部に装着されたエンドエフェクタの先端部を模式的に示す説明図であり、(A)は先端部が離間した状態の平面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は先端部が交差した状態の平面図、(D)は(C)のD-D線断面図である。
【
図10】エンドエフェクタの先端部の動作を模式的に示す説明図であり、(A)は微小物体を把持する前の状態、(B)はその断面図、(C)は把持した状態、(D)はその断面図、(E)は先端部を交差させ微小物体を捉えた状態、(F)はその断面図、(G)は切断前の状態、(H)はその断面図、(I)は切断後の状態、(J)はその断面図である。
【
図11】本発明が適用可能な第2実施形態の微小物体ハンドリングシステムを構成するマイクロマニピュレータのハンドリング部に装着されたエンドエフェクタの先端部を模式的に示す平面図であり、(A)は先端部が交差した状態、(B)は先端部が離間した状態を示す。
【
図12】第2実施形態の微小物体ハンドリングシステムを構成するマイクロマニピュレータのハンドリング部に装着されたエンドエフェクタの先端部の動作を模式的に示す平面図であり、(A)は先端部を交差させ微小物体を把持する前の状態、(B)は把持した状態、(C)は先端部を離間させ微小物体を捉えた状態、(D)は切断前の状態、(E)は切断後の状態を示す。
【
図13】本発明が適用可能な第3実施形態の微小物体ハンドリングシステムを構成するマイクロマニピュレータのハンドリング部に装着されたエンドエフェクタの先端部を模式的に示す平面図であり、(A)は先端部が離間した状態、(B)は先端部が交差した状態を示す。
【
図14】第3実施形態の微小物体ハンドリングシステムを構成するマイクロマニピュレータのハンドリング部に装着されたエンドエフェクタの先端部の動作を模式的に示す平面図であり、(A)は微小物体を把持する前の状態、(B)は把持した状態、(C)は先端部を交差させ微小物体を捉えた状態、(D)は切断前の状態、(E)は切断後の状態を示す。
【
図15】他の実施形態の微小物体ハンドリングシステムを構成するマイクロマニピュレータのハンドリング部に装着されたエンドエフェクタの先端部を模式的に示す説明図であり、(A)は先端部が離間した状態の平面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は先端部が交差した状態の平面図、(D)は(C)のD-D線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1実施形態
以下、図面を参照して、本発明を、細胞やマイクロ部品等の微小物体を取り扱うための微小物体ハンドリングシステムに適用した第1の実施の形態について説明する。
【0017】
1-1.構成
1-1-1.微小物体ハンドリングシステム20
図1に示すように、本実施形態の微小物体ハンドリングシステム20は、定盤1に架台4を介して固定され微小物体を取り扱うためのマイクロマニピュレータ100と、定盤1に固定されマイクロマニピュレータ100により取り扱われる微小物体を載置するためのステージ3と、支柱が定盤1に固定されCCDカメラ5が装着された顕微鏡2と、パーソナルコンピュータ(以下、PCと略称する。)6と、PC6のスレーブコンピュータとしてマイクロマニピュレータ100を制御する、プログラマブル・ロジック・コントローラ(以下、PLCと略称する。)等を内蔵したコントロールボックス8とを備えている。
【0018】
PC6には、コントロールボックス8との入出力ケーブル、液晶表示装置等のモニタ7への出力ケーブルおよびCCDカメラ5からの入力ケーブルが接続されている。コントロールボックス8は、マイクロマニピュレータ100と接続ケーブル8aで接続されているとともに、ジョイスティックや十字ボタン等を有しコントロールボックス8内のPLCに命令を与えるためのコントローラ(入力装置)9に接続されている。従って、微小物体ハンドリングシステム20のオペレータは、顕微鏡2の接眼レンズから直接、または、モニタ7を介して、ステージ3上に載置された微小物体10を目視することができる。
【0019】
コントロールボックス8に内蔵されたPLCは、CPU、ROM、RAMの他に、D/Aコンバータ、A/Dコンバータ等を有して構成されており、ROMに格納されたプログラムおよびプログラムデータに従って、PC6から基本動作命令を受信するとともに、PC6に登録商標イーサネット(Ethernet)を介してエンコーダ等で検出したデータや種々のアクチュエータのステータスを送信し、さらに、コントローラ9からの入力された命令を各アクチュエータ制御信号に変換して接続ケーブル8aを介してマイクロマニピュレータ100に出力する。
【0020】
1-1-2.マイクロマニピュレータ100
図2に示すように、マイクロマニピュレータ100は、架台4(
図1参照)に固定される基台150を有しており、大別して、微小物体にアクセスするためのエンドエフェクタ(接触子)を有するハンドリング部103と、ハンドリング部103をYZ平面で回動可能に支持するとともに、ハンドリング部103をZ方向に移動させるZ方向移動部102と、入力されたX方向、Y方向変位およびエンドエフェクタの揺動変位を合成してZ方向移動部102に出力する変位合成部101と、ハンドリング部103のYZ平面での回動により生じるY方向の変位分をオフセットするθv補正部104とで構成されている。
【0021】
(1)変位合成部101
図3~
図5に示すように、変位合成部101は、Y方向入力リンク141、X方向入力リンク142および出力リンク144を有するパンタグラフ機構140と、X方向入力リンク142にX方向変位を供給するX駆動部121と、Y方向入力リンク141にY方向変位を供給するY駆動部122と、Y方向入力リンク141にエンドエフェクタの揺動変位を供給するθz駆動部123とで構成されている。
【0022】
<パンタグラフ機構140>
図3に示すように、パンタグラフ機構140は、上述したY方向入力リンク141、X方向入力リンク142の他に7つの接続リンク145を有しており、各リンクは各回転対偶146を中心に回動可能に接続されている。Y方向入力リンク141に入力されたY方向変位およびエンドエフェクタの揺動変位、並びに、X方向入力リンク142に入力されたX方向変位は、これらの接続リンク145を介して合成拡大されて出力リンク144に出力される。このようなパンタグラフ機構の詳細構成、作動原理等は背景技術欄で挙げた特許文献1に詳しく開示されている。なお、パンタグラフ機構140は、X駆動部121、Y駆動部122およびθz駆動部123と干渉しないように上方に配置されている。
【0023】
<X駆動部121>
図3に示すように、X駆動部121は、基台150に立設された支持部材149に固定されており、エンコーダを有し正逆転可能なX方向アクチュエータ126(ステッピングモータ)と、X方向アクチュエータ126の出力軸であってエンコーダの反対側に配されたボールネジ131に係合するスライダ132と、スライダ132が摺動可能な直進ガイドレール133とで構成されている。スライダ132は上述したパンタグラフ機構140のX方向入力リンク142に接続されている。
【0024】
<Y駆動部122>
図4に示すように、Y駆動部122は、上述したX駆動部121と交差する方向で基台150に固定されており、X駆動部121と同様に、エンコーダを有し正逆転可能なY方向アクチュエータ125(ステッピングモータ)と、Y方向アクチュエータ125の出力軸であってエンコーダの反対側に配されたボールネジ134に係合するスライダ135と、スライダ135が摺動可能な直進ガイドレール136とで構成されている。θzアクチュエータ127(後述)は、板状のθz取り付け台137、スライダ135を介して直進ガイドレール136に取り付けられている。
【0025】
<θz駆動部123>
図4に示すように、θz駆動部123は、ハンドリング部103のエンドエフェクタの先端を中心としてハンドリング部103を回動(厳密には回転揺動機構学における揺動に相当するため、以下、揺動という。)させステージ3に載置された微小物体に対するハンドリング部103のエンドエフェクタの先端の姿勢方向を変更する駆動力(上述した揺動変位)を、パンタグラフ機構140のY方向入力リンク141に供給する。θz駆動部123はY駆動部122と一体化されている。
【0026】
θz駆動部123は、θz取り付け台137に取り付けられた正逆転可能なθzアクチュエータ127(ステッピングモータ)と、両側端部がθz取り付け台137およびカバー138の上面でそれぞれ軸支されθzアクチュエータ127からの駆動力を減速するための減速歯車列148と、減速歯車列148の出力をパンタグラフ機構140のY方向入力リンク141に伝達するためのレバー143とで構成されている。
【0027】
図3に示すように、レバー143は支点147を中心に回動可能に構成されており、レバー143の先端部はパンタグラフ機構140のY方向入力リンク141と一体化されている。従って、Y方向入力リンク141には、レバー143を介してY駆動部122によるY方向変位およびθz駆動部123による揺動変位が入力される。
【0028】
なお、上述した接続ケーブル8a(
図1参照)は基台150に固定され図示を省略した中継基板に接続されており、この中継基板を介してY方向アクチュエータ125、X方向アクチュエータ126およびθzアクチュエータ127に駆動パルスが供給される。
【0029】
(2)Z方向移動部102
図4および
図5に示すように、Z方向移動部102は、正逆転可能なZ方向アクチュエータ128(ステッピングモータ)と、減速歯車列(不図示)を内蔵しZ方向アクチュエータ128からの回転駆動力を減速するためのギアボックス171と、Z方向直動機構124と、ハンドリング部103と連結するための連結部材164とを有して構成されている。
【0030】
Z方向直動機構124は、ボールネジ172、ナット173、不図示のスライダおよび直進ガイドレール、ホルダ174で構成されている。すなわち、ギアボックス171の減速歯車列の出力端には下方に延出したボールネジ172が接続されている。ボールネジ172の先端部側は、ギアボックス171に固定されたホルダ174に回転可能に軸支されている。ボールネジ172にはナット173が螺合しており、ナット173には連結部材164を介して不図示のスライダが固定されている。また、ギアボックス171からはボールネジ172と平行するように不図示の直進ガイドレールが配設されており、この直進ガイドレールの先端部側がホルダ174に固定されている。不図示のスライダは不図示の直進ガイドレール上を摺動可能に構成されている。
【0031】
Z方向移動部102は後述するスライダ機構で変位合成部101に連結されており、Z方向移動部102には上述したパンタグラフ機構140の出力リンク144からの出力が伝達される。なお、連結部材164は、その基部側(
図4、
図5に示す部分)がボールネジ172が貫通する箇所を除きナット173の底面および側面の大部分を覆うようにナット173の周囲に配されており(
図2も参照)、上述したスライダは連結部材164の基部側面に固定されている。
【0032】
(3)ハンドリング部103
図2~
図5に示すように、ハンドリング部103は、上述したZ方向移動部102と先端ユニット105とを連結する基部ユニット106と、基部ユニット106に固定され把持指を有する先端ユニット105とで構成されている。
【0033】
<先端ユニット105>
図6に示すように、先端ユニット105は、固定指117と可動指118との2つの把持指を有している。固定指117、可動指118には、それぞれ先端部が微小物体と接触するエンドエフェクタ107、108が装着されている。
【0034】
先端ユニット105のベース111にはメータ等のアクチュエータ129がブラケット113を伴って固定されており、プレート114には固定指117が組み付けられている(固定されている)。プレート114は、固定指117が組み付けられた状態で、ベース111と一定の隙間を形成してベース111に固定されている。この隙間には長板状のレバー112が介在している。レバー112の先端部一側(基部ユニット106の反対側)には可動指118が固定されており、先端部側中央には上下両方向に支点軸112aが突設されている。
【0035】
上記隙間は、この支点軸112aがプレート114の軸受114aとベース111の軸受111aとに軸支されることにより画定される。ベース111と軸受111aとの間には板バネ111bが介在しており、軸受111aは板バネ111bを介してベース111と一体化されている。
【0036】
レバー112の後端部側には略U字状のスリット(切り欠き)112bが形成されている。スリット112bにはアクチュエータ129の出力ピン129aが係合している。また、可動指118はエンドエフェクタ108の先端が固定指117に装着されたエンドエフェクタ107の先端と離間するように、レバー112と一体のバネ保持部112cに保持された捩りコイルバネ115で付勢されている。捩りコイルバネ115の一方のアームはレバー112に固定されており、他方のアームはベース111に立設された支柱111cに巻き掛けられている。このため、アクチュエータ129を駆動すると、レバー112が捩りコイルバネ115の付勢力に抗して支点軸112bを中心として回動することで、固定指117側のエンドエフェクタ107に可動指118側のエンドエフェクタ108が近接する。
【0037】
レバー112は、その上面が支点軸112aの近傍に配された金属(例えば、真鍮)製の摺接ガイド部材116の下面に摺接して回動する。摺接ガイド部材116はプレート114に固定されている。摺接ガイド部材116の下面中央部には斜めに緩やかな段差が形成されている。この段差の両側には、第1平坦面(
図6に示す摺接ガイド部材116の右側の下面)と、第2平坦面(
図6に示す摺接ガイド部材116の左側の下面)とが連設されている。第2平坦面と摺接ガイド部材116の上面とで画定される摺接ガイド部材116の厚さは、第1平坦面と摺接ガイド部材116の上面とで画定される摺接ガイド部材116の厚さより大きく設定されている。
【0038】
アクチュエータ129の駆動により固定指117側のエンドエフェクタ107に可動指118側のエンドエフェクタ108が近接する際には、レバー112の上面は摺接ガイド部材116の第1平坦面に摺接して回動する。アクチュエータ129をなおも駆動すると、固定指117側のエンドエフェクタ107の先端部に可動指118側のエンドエフェクタ108の先端部が当接し、レバー112の上面は摺接ガイド部材116の段差に摺接する。このとき、アクチュエータ129は負荷が大きくなり最大定格電流値に近い電流が流れる。
【0039】
レバー112は回動慣性により回動しながら摺接ガイド部材116の段差に押圧されて下方に移動する。これに伴い、レバー112と一体の支点軸112aは回動しながら下方にずれる。軸受111aは板バネ111bに支持されており、板バネ111bは支点軸112aの下方への急激なずれを緩和する。この結果、エンドエフェクタ108の先端の回動軌跡は、エンドエフェクタ107に近接する際の第1回動軌跡から下方に僅かにずれる。このずれが、エンドエフェクタ108の先端部がエンドエフェクタ107の先端部に潜り込む契機となる。
【0040】
アクチュエータ129の駆動をさらに続行すると、レバー112の上面は摺接ガイド部材116の段差を越えて摺接ガイド部材116の第2平坦面と摺接し、エンドエフェクタ108の先端部はエンドエフェクタ107の先端部と交差する。これに伴って、エンドエフェクタ108の先端はエンドエフェクタ107と交差する際の第2回動軌跡に移行する。そして、エンドエフェクタ107、108がなす交差角は徐々に大きくなる。
【0041】
一方、アクチュエータ129の駆動を停止すると、捩りコイルバネ115の付勢力により、上記とは逆に、レバー112の上面は第2平坦面から段差を介して第1平坦面へと戻る。その際、板バネ111bの付勢力により、支点軸112aは僅かに上方へ移動する。この結果、エンドエフェクタ108の先端の回動軌跡は第1回動軌跡に戻り、エンドエフェクタ107、108の先端部は離間した状態となる。
【0042】
図6に示した部材は、可動指118および固定指117を除き、原則的に先端ユニット105のカバーとベース111とで構成されるケーシング内に収容されている。可動指118は筒状部118aと固定部118bとで構成されている。筒状部118aにはエンドエフェクタ108の装着部が貫通している。固定部118bは周面方向で3分割されエンドエフェクタ108の装着部を把持する把持部材とこの把持部材を締め付けることでエンドエフェクタ108の装着部に対して把持部材に握力を与えるネジとで構成されている。エンドエフェクタ108を交換する際には、ネジを所定方向に廻して把持部材の握力を弱めることでエンドエフェクタ108を筒状部118a側から引き抜き、新たなエンドエフェクタ108を筒状部118a、および固定部118bを構成する把持部材を貫通させネジを締める。固定指117側もエンドエフェクタ107に対し同様の構成が採られている。
【0043】
なお、エンドエフェクタ107およびエンドエフェクタ108は、先端同士が接触するように固定指117および可動指118のネジで調整可能である。このとき、先端同士が接触する際の接触点および支点軸112aの軸芯を結ぶ仮想線とエンドエフェクタ107とがなす角度と、接触点および支点軸112aの軸芯を結ぶ仮想線とエンドエフェクタ108とがなす角度とが同じくなるように調整するようにしてもよい。
【0044】
<エンドエフェクタ>
図9(A)(B)は、エンドエフェクタ107、108の先端部が離間した状態を示したものである。エンドエフェクタ107、108は、それぞれ、長手方向の外側先端部に沿って刃物部107a、108aが配されており、長手方向の内側先端部が非刃物部107b、108bで構成されている。換言すると、エンドエフェクタ107は微小物体を把持するための第1の部分として非刃物部107bと微小物体を切断するための第2の部分として刃物部107aとを有し、エンドエフェクタ108は微小物体を把持するための第1の部分として非刃物部108bと微小物体を切断するための第2の部分として刃物部108aとを有している。
【0045】
微小物体を把持する際には、アクチュエータ129を駆動させ固定指117側のエンドエフェクタ107に可動指118側のエンドエフェクタ108を近接させてエンドエフェクタ107、108の非刃物部107b、108b同士で微小物体を把持する。微小物体を切断する際には、
図9(C)(D)に示すように、アクチュエータ129を駆動しエンドエフェクタ107、108の先端部を交差させて刃物部107a、108a同士で微小物体を切断する。
【0046】
<基部ユニット106>
基部ユニット106は上部に図示を省略したメスコネクタを内蔵している。
図2~
図5はこのメスコネクタにオスコネクタ130が接続された状態を示しており、オスコネクタ130より先のケーブルを捨象している。捨象したケーブルの他端側にもオスコネクタが接続されており、このオスコネクタが上述した中継基板のメスコネクタに接続されている。このため、基部ユニット106は、中継基板を介して供給される先端ユニット105のアクチュエータ129の駆動電力とZ方向移動部102のZ方向アクチュエータ128の駆動パルスを中継する機能を有している。
【0047】
また、基部ユニット106(ハンドリング部103)はYZ平面で回動可能にZ方向移動部102に連結されている。
図7に示すように、Z方向移動部102の連結部材164には、規制ピン165、166がそれぞれ正面側(
図7の右側)、背面側(
図7の左側)に突設されており、基部ユニット106側の先端部には軸受167が固定されている。軸受167内にはシャフト151が挿通されており、連結部材164は軸受167内でシャフト151を回動可能に軸受167を支持している。
【0048】
一方、基部ユニット106側では、シャフト151が基部ユニット106の背面側に配された側面部材183(
図5も参照)および基部ユニット106の正面側に配された側面部材181(
図4も参照)を貫通している。また、シャフト151は、シャフト151に突設された平行ピン168が側面部材183に形成された溝に嵌着することで基部ユニット106に固定されている。
【0049】
シャフト151の背面側端部にはプーリ153が嵌着しており、プーリ153にはベルト155が巻き掛けられている。また、シャフト151は正面側端部に縮径された縮径部151aを有しており、縮径部151aには雄ネジが螺設されている。縮径部151は回転ダイヤル(ノブ)163の軸方向に形成された雌ネジ部163aと螺合している。
【0050】
このため、シャフト151の縮径部151aと回転ダイヤル163の雌ネジ部163aとの螺合長が大きく(長く)なる方向に回転ダイヤル163を回すと、回転ダイヤル163の先端面の押圧力により軸受167は側面部材181と側面部材183とに挟まれて回動が規制される。
【0051】
逆に、縮径部151aと雌ネジ部163aとの螺合長が小さく(短く)なる方向に回転ダイヤル163を回すと、軸受167は側面部材181と側面部材183とによる規制が解かれて回動可能な状態となる。このとき、基部ユニット106は、平行ピン168によりシャフト151と一体化しているため、軸受167(連結部材164ひいてはZ方向移動部102)に対してYZ平面で回動可能な状態となる。なお、側面部材181、183の先端部にはそれぞれ係止爪182、184が形成されており(
図4、
図5も参照)、これらの係止爪182、184が連結部材164に突設された規制ピン165、166に係止することで基部ユニット106は所定角以上の下方への回動が規制される。
【0052】
(4)θv補正部104
図8は、シャフト151を中心にハンドリング部103をYZ平面で回動させることにより生じるY方向の変位を模式的に示す説明図である。シャフト151の軸芯をO、軸芯Oからハンドリング部103のエンドエフェクタの先端までの長さをlとし、ハンドリング部103を水平方向から角度θ1回動させた状態を線分Aで表すと、線分AのY方向での長さは(l×cosθ1)で求めることができる。この状態からハンドリング部103を角度θv[θv=(θ2-θ1)]下方に回動させると、軸芯Oからハンドリング部103のエンドエフェクタの先端までは線分Bで表すことができる。線分BのY方向での長さは(l×cosθ2)で求めることができる。
【0053】
従って、シャフト151の軸芯Oを中心にハンドリング部103をYZ平面でθv度下方に回動させることにより生じるY方向の変位Δlは、Δl=l×(cosθ1-cosθ2)で求めることができる。本実施形態の微小物体ハンドリングシステム20では、顕微鏡2を介してエンドエフェクタの先端を捉えているため、このY方向の変位Δlが所定値を越えるとエンドエフェクタの先端を顕微鏡2で捉えることができなくなる。
【0054】
θv補正部104は、Z方向移動手段102と変位合成部101の出力リンク144との間のY方向での距離を調整することで、このY方向の変位Δl分を打ち消す(オフセットする)ものである。θv補正部104は、Z方向移動部102と変位合成部101との間に設けられており、カム機構と、スライダ機構と、θv伝達機構とで構成されている。なお、θv伝達機構は厳密には上述した基部ユニット106の一部を構成するものであるが、以下では説明の便宜上、θv補正部104に含まれるものとして説明する。
【0055】
<カム機構>
カム機構は、
図3~
図5に示すように、Z方向移動部102の変位合成部101側に設けられたカム156と、変位合成部101の出力リンク144に固定されカム156に当接するカムフォロア157とで構成されている。
【0056】
すなわち、Z方向移動部102を構成するホルダ174の変位合成部101側には軸受部材169が固定されており、この軸受部材169がカム156の回動軸となるシャフト152を軸支している。また、カムフォロア157は、変位合成部101の出力リンク144に固定された軸受部材と、この軸受部材に両端部が軸支されたピン状部材とで構成されている(
図3参照)。カム156のカム面にはハンドリング部103をYZ平面で回動させることにより生じるY方向の変位Δl分をY方向で打ち消すためのカム曲線が形成されている。換言すれば、カム機構(θv補正部104)は、Z方向移動部102と変位合成部101との間のY方向での距離を調整することで、ハンドリング部103をYZ平面で回動させることにより生じるY方向の変位Δl分をオフセットする。
【0057】
<スライダ機構>
カム機構によるカム動作を確保するために、スライダ機構は、Z方向移動部102をY方向に移動可能に支持するスライダホルダ160と、引っ張りバネ158、159とで構成されている。
【0058】
すなわち、スライダホルダ160の上部は出力リンク144に固定されている。スライダホルダ160にはガイドレール162が内蔵されており、Z方向移動部102を構成するホルダ174の変位合成部101側の最下端部からスライダホルダ160に向けて突設されたスライダ161がガイドレール162に摺接することで、Z方向移動部102およびハンドリング部103(基部ユニット106)はY方向に移動可能に構成されている。また、引っ張りバネ158、159はカム156とカムフォロア157とが圧接するための付勢力を付与するためのもので、スライダホルダ160とホルダ174と間に張架されている。このため、Z方向移動部102およびハンドリング部103(基部ユニット106)は、引っ張りバネ158、159の付勢力により常に変位合成部101側に引っ張られている。
【0059】
<θv伝達機構>
また、θv補正部104には、シャフト151を中心にハンドリング部103をYZ平面で回動させたときの角度θvがハンドリング部103(基部ユニット106)から伝達される。
【0060】
具体的には、
図5に示すように、シャフト152の背面側端部にはプーリ154が嵌着しており、プーリ154にはベルト155が巻き掛けられている。ベルト155はシャフト151に嵌着したプーリ153との間で張架されている。このため、カム156はハンドリング部103がYZ平面で回動したときに同期して回動する。なお、
図5(および
図2、
図7)ではプーリ153により他の部材が隠れるため小径として模式的に示しているが、実際には
図5等に示したものより大径となる。
【0061】
1-2.動作
次に、本実施形態の微小物体ハンドリングシステム20(マイクロマニピュレータ100)の動作について説明する。
【0062】
1-2-1.一般的動作
(1)準備
マイクロマニピュレータ100の操作対象である微小物体10は保存溶液とともに、ステージ3上に載置されたシャーレ内に保存されており、シャーレ上部はカバーで覆われている。オペレータは、カバーを外してシャーレ内にエンドエフェクタ107、108を挿入し(またはカバーに開口を形成し開口を介してシャーレ内にエンドエフェクタ107、108を挿入し)、
図1に示すように、シャーレ内の微小物体10、ハンドリング部103のエンドエフェクタ107、108を、顕微鏡2、カメラ5およびPC6を介して、モニタ7の画面内に捉える。
【0063】
この状態でオペレータがハンドリング部103をYZ平面で回動させたいときには、回転ダイヤル163を所定方向に回す。これにより、回転ダイヤル163の側圧で回動が規制されていたハンドリング部103がYZ平面で回動可能な状態となる。オペレータは例えば基部ユニット106を押圧することで所望角ハンドリング部103をYZ平面で回動させる。
【0064】
ハンドリング部103の回動に応じて、シャフト151からベルト155を介してシャフト152に回動力が伝達されカム156が回動する。カム156が回動すると、Z方向移動部102およびハンドリング部103(基部ユニット106)はカム曲線に追従するようにスライダ161を介してY方向に移動する。カム曲線はハンドリング部103の回動によって生じるY方向の変位Δlを打ち消すように設定されているため、変位合成部101の出力リンク144からハンドリング部103のエンドエフェクタの先端までの距離は一定(回動前後で同じ)となる。
【0065】
このため、本実施形態の微小物体ハンドリングシステム20(マイクロマニピュレータ100)では、θv補正部104によりハンドリング部103のYZ平面での回動により生じるY方向の変位Δl分がオフセットされるため、ハンドリング部103をYZ平面でθv度回動させても顕微鏡2の視野下やモニタ7でエンドエフェクタ107、108を捉えることができ、Y方向での調整作業をなくすことができる。
【0066】
オペレータはハンドリング部103をYZ平面で所望角度回動させた後は、回転ダイヤル163を上述した所定方向の反対方向に回すことにより回転ダイヤル163の側圧でハンドリング部103を固定する。これにより、ハンドリング部103はYZ平面での回動が規制された状態となる。なお、オペレータによるハンドリング部103のYZ平面で回動動作は、上記準備以外に次に述べる全体動作中に行うようにしてもよい。
【0067】
(2)全体動作
オペレータは、コントローラ9からコントロールボックス8のPLCを介してマイクロマニピュレータ100に、X方向、Y方向、θz方向(エンドエフェクタ107、108の先端部を中心とするハンドリング部103の揺動角度、すなわち、ハンドリング部103の姿勢方向)、Z方向と、把持指に対するハンドリング(開閉)の指令を与えて、微小物体10とエンドエフェクタ107、108との相対関係を制御する。
【0068】
<Y方向駆動>
Y方向アクチュエータ125に作動信号(駆動パルス)が与えられると、Y方向アクチュエータ125は、ボールネジ134を回転させ、スライダ135を介して、直進ガイドレール136に取り付けられたθzアクチュエータ127の位置を
図4の左右方向に移動させる。このとき、PLCは、X方向アクチュエータ126を励磁するとともに、θzアクチュエータ127を励磁してθz=0°の状態を維持している。
【0069】
<X方向駆動>
X方向アクチュエータ126に作動信号が与えられると、X方向アクチュエータ126は、ボールネジ131を回転させ、スライダ132を介して、パンタグラフ機構140のX方向入力リンク142を
図3の上下方向に移動させる。このとき、PLCは、Y方向アクチュエータ125を励磁するとともに、θzアクチュエータ127を励磁してθz=0°の状態を維持している。
【0070】
<XY方向駆動>
上述したように、X方向、Y方向の入力によりパンタグラフ機構140の出力リンク144にはX方向、Y方向の変位を合成した変位が出力される。上記のX方向駆動およびY方向駆動では、説明を簡単にするために、Y方向駆動を行うときにはX方向アクチュエータ126を励磁した状態のままとしX方向入力リンク142を移動させない例を示し、また、X方向駆動を行うときにはY方向アクチュエータ125を励磁した状態のままとしY方向入力リンク141を移動させない例を示したが、X方向駆動とY方向駆動とを同時に行うことができることはいうまでもない。なお、XY方向駆動を行うときは、パンタフラフ機構140の姿勢を保つため、θzアクチュエータ128を励磁してθz=0°の状態を維持する。
【0071】
<θz方向駆動>
θzアクチュエータ127に作動信号が与えられると、θzアクチュエータ127は出力軸に連結された減速歯車列148を回転させる。減速歯車列148の出力端に嵌着されたレバー143は、支点147を支点として、パンタグラフ機構140のY方向入力リンク141に揺動変位を与える。
【0072】
<Z方向駆動>
Z方向アクチュエータ128に駆動信号が与えられると、Z方向アクチュエータ128はギアボックス171内の減速歯車列を介してボールネジ172を回転させ、連結部材164を介して一体化されたハンドリング部103(基部ユニット106)を上述したガイドレールに沿ってZ方向移動させる。
【0073】
<アクチュエータ駆動>
アクチュエータ129に駆動電力が与えられると、レバー112は支点軸112aを支点として回動する。これにより、可動指のエンドエフェクタ108の先端部は、固定指のエンドエフェクタ107の先端部に対し、近接、または、離間する動きをする。従って、エンドエフェクタ107、108は、微小物体10の把持ないし把持した微小物体10の開放を行うことができる。また、レバー112をさらに回動させ、エンドエフェクタ108の先端部を固定指のエンドエフェクタ107の先端部に対し交差させることで微小物体を切断することができる。
【0074】
1-2-2.特色的動作
次に、シャーレ内に保存されている微小物体10(以下、細胞10という。)に対する切断処理を例にとってより具体的に説明する。マイクロマニピュレータ100は、エンドエフェクタ107、108の先端部を近接させて細胞10を把持する把持モードと、エンドエフェクタ107、108の先端部を交差させて細胞10を切断する切断モードとの2つのモードを有している。
【0075】
<把持モード1>
オペレータは、モニタ7の画面を参照して、コントローラ9を介して上述したXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、細胞10をエンドエフェクタ107、108の非刃物部107b、108b間に捉える(
図10(A)、(B)参照)。次に、アクチュエータ129を駆動して非刃物部107b、108b同士で細胞10を把持する(
図10(C)、(D)参照)。把持モードにおいて、コントロールボックス8はアクチュエータ129に供給する駆動電流が徐々に大きくなるように制御する。つまり、細胞10の把持力はアクチュエータ129の駆動力による。
【0076】
次いで、アクチュエータ129を励磁したまま(細胞10を把持したまま)のラッチ状態でXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、細胞10をシャーレ内からステージ3上に移動させ、アクチュエータ129への駆動電力の供給を停止するようにコントローラ9を操作する。これにより、エンドエフェクタ107、108は、捩りコイルバネ115の付勢力により、非刃物部107b、108b同士が離間した状態に戻る(
図9(A)、(B)参照)。細胞10は非刃物部107b、108bによる把持から開放されてステージ3上に載置される。
【0077】
<切断モード>
続いて、オペレータは、コントローラ9を介してアクチュエータ129を駆動しエンドエフェクタ107、108の先端部を交差させる(
図9(C)、(D)参照)。この動作の詳細については
図6を参照して既に説明したとおりである。これにより、エンドエフェクタ107、108の先端部内側には刃物部1079a、108aが位置する状態となる。次に、オペレータは、上述したXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、細胞10をエンドエフェクタ107、108の刃物部107a、108a間に捉える(
図10(E)、(F)参照)。次いで、アクチュエータ129を駆動して刃物部107a、108aを近接させ(
図10(G)、(H)参照)、細胞10を切断する(
図10(I)、(J)参照)。切断モードにおいて、コントロールボックス8はアクチュエータ129に供給する駆動電流が徐々に小さくなるように制御する。つまり、細胞10の切断力は捩りコイルバネ115の付勢力による。
【0078】
次に、オペレータは、アクチュエータ129への駆動電力の供給を停止するようにコントローラ9を操作する。これにより、エンドエフェクタ107、108は、捩りコイルバネ115の付勢力により、刃物部107a、108aによる交差状態が解除され非刃物部107b、108b同士が離間した状態に戻る(
図9(A)、(B)参照)。
【0079】
<把持モード2>
続いて、オペレータは、コントローラ9を介して上述したXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、切断された細胞10の一方をエンドエフェクタ107、108の非刃物部107b、108b間に捉え、アクチュエータ129を駆動して非刃物部107b、108b同士で切断された細胞10の一方を把持する。
【0080】
そして、アクチュエータ129を励磁したまま(細胞10を把持したまま)のラッチ状態でXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、細胞10を保存溶液の入ったシャーレ内に移動させ、アクチュエータ129への駆動電力の供給を停止するようにコントローラ9を操作する。これにより、切断された細胞10の一方はシャーレ内に戻される。エンドエフェクタ107、108は、捩りコイルバネ115の付勢力により、非刃物部107b、108b同士が離間した状態に戻る(
図9(A)、(B)参照)。なお、必要に応じて切断された細胞10の他方も同様にシャーレ内に戻すようにしてもよい。
【0081】
2.第2実施形態
次に、本発明を、微小物体を取り扱うための微小物体ハンドリングシステムに適用した第2の実施の形態について説明する。本実施形態以下の実施形態は、第1実施形態で示したエンドエフェクタの構成が異なるものである。なお、本実施形態において第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略し、以下異なる箇所のみ説明する。
【0082】
2-1.構成
図11(B)は、エンドエフェクタ109、110の先端部が離間した状態を示したものである。エンドエフェクタ109、110は、それぞれ、長手方向の内側先端部に沿って刃物部109a、110aが配されており、長手方向の外側先端部が非刃物部109b、110bで構成されている。エンドエフェクタ109は細胞10を把持するための第1の部分として非刃物部109bと細胞10を切断するための第2の部分として刃物部109aとを有し、エンドエフェクタ110は細胞10を把持するための第1の部分として非刃物部110bと細胞10を切断するための第2の部分として刃物部110aとを有する点で第1実施形態に示したエンドエフェクタ107、108と共通するが、刃物部および非刃物部の配置が内側、外側で反対となっている。
【0083】
細胞10を把持する際には、
図11(A)に示すように、アクチュエータ129を駆動しエンドエフェクタ109、110の先端部を交差させてエンドエフェクタ109、110の非刃物部109a、110a同士で細胞10を把持する。細胞10を切断する際には、
図11(B)に示すように、アクチュエータ129を駆動させエンドエフェクタ109にエンドエフェクタ110を近接させてエンドエフェクタ109、110の刃物部109a、110a同士で細胞10を切断する。
【0084】
2-2.動作
本実施形態のマイクロマニピュレータ100は、エンドエフェクタ109、110の先端部を交差させて細胞10を把持する把持モードと、エンドエフェクタ109、110の先端部を近接させて細胞10を切断する切断モードとの2つのモードを有している。
【0085】
<把持モード>
オペレータは、コントローラ9を介して上述したXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、アクチュエータ129を駆動してエンドエフェクタ109、110の先端部を交差させ細胞10を非刃物部109b、110b間に捉える(
図12(A)参照)。次に、非刃物部109b、110b同士で細胞10を把持する(
図10(B)参照)。把持モードにおいて、コントロールボックス9はアクチュエータ129に供給する駆動電流が徐々に小さくなるように制御する。つまり、細胞10の把持力は捩りコイルバネ115の付勢力による。
【0086】
<切断モード>
オペレータは、コントローラ9を介して上述したXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、細胞10をエンドエフェクタ109、110の刃物部109a、110a間に捉える(
図12(C)参照)。次いで、アクチュエータ129を駆動して刃物部109a、110aを近接させ(
図12(D)参照)、細胞10を切断する(
図12(E)参照)。細胞10の切断力はアクチュエータ129の駆動力による。
【0087】
3.第3実施形態
次に、本発明を、微小物体を取り扱うための微小物体ハンドリングシステムに適用した第3の実施の形態について説明する。なお、本実施形態において、第2実施形態で説明した内容と重複する内容についてはごく簡単に説明する。
【0088】
3-1.構成
図13(A)は、エンドエフェクタ119、120の先端部が離間した状態を示したものである。エンドエフェクタ119は、長手方向の内側先端部および外側先端部の双方が非刃物部119bで構成されている。一方、エンドエフェクタ120は、長手方向の外側先端部に沿って非刃物部120aが配されており、長手方向の内側先端部が非刃物部120bで構成されている。エンドエフェクタ119に刃物部を欠く点で上述した第1、第2実施形態に示したエンドエフェクタと相違する。
【0089】
エンドエフェクタ119は細胞10を把持するための第1の部分として
図13(A)に示す内側の非刃物部119bと細胞10を切断するための第2の部分として
図13(A)に示す外側の非刃物部109bとを有し、エンドエフェクタ120は細胞10を把持するための第1の部分として非刃物部120bと細胞10を切断するための第2の部分として刃物部120aとを有している。
【0090】
細胞10を把持する際には、アクチュエータ129を駆動しエンドエフェクタ119、120の先端部を近接させてエンドエフェクタ119、120の内側の非刃物部119b、120b同士で細胞10を保持する。細胞10を切断する際には、
図13(B)に示すように、アクチュエータ129を駆動させエンドエフェクタ120をエンドエフェクタ119を交差させてエンドエフェクタ119の非刃物部119b(
図13(B)の内側)とエンドエフェクタ120の刃物部120aとで細胞10を切断する。
【0091】
3-2.動作
本実施形態のマイクロマニピュレータ100は、エンドエフェクタ119、120の先端部を近接させて細胞10を把持する把持モードと、エンドエフェクタ119、120の先端部を交差させて細胞10を切断する切断モードとの2つのモードを有している。
【0092】
<把持モード>
オペレータは、コントローラ9を介して上述したXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、アクチュエータ129を駆動してエンドエフェクタ119、120の先端部を近接させ細胞10を内側の非刃物部119b、120b間に捉える(
図14(A)参照)。次いで、非刃物部119b、120b同士で細胞10を把持する(
図14(B)参照)。
【0093】
<切断モード>
オペレータは、コントローラ9を介して上述したXY方向駆動、θz方向駆動およびZ方向駆動を行い、アクチュエータ129を駆動してエンドエフェクタ119、120の先端部を交差させ細胞10をエンドエフェクタ119の非刃物部119b(内側)とエンドエフェクタ120の刃物部120aと間に捉える(
図14(C)参照)。次いで、アクチュエータ129を駆動して(捩りコイルバネ115の付勢力により)刃物部120aを非刃物部119bに近接させ(
図14(D)参照)、細胞10を切断する(
図14(E)参照)。
【0094】
4.作用効果等
次に、本実施形態の微小物体ハンドリングシステム20(マイクロマニピュレータ100)の作用効果等について説明する。
【0095】
4-1.作用効果
上記実施形態の微小物体ハンドリングシステム20(マイクロマニピュレータ100)では、エンドエフェクタの先端部を近接させて微小物体に第1の処置(第1、第3実施形態では把持、第2実施形態では切断)を施す第1のモードと、エンドエフェクタの先端部を交差させて微小物体に第2の処置(第1、第3実施形態では切断、第2実施形態では把持)を施す第2のモードとを有している。このため、上記実施形態の微小物体ハンドリングシステム20(マイクロマニピュレータ100)によれば、エンドエフェクタの付け替えなしで微小物体に対し2つの処置を施すことができる。従って、複数の処置(例えば、第1実施形態で説明した把持モード1、2による把持および切断モードによる切断)を連続して迅速に行うことができる。
【0096】
その際、エンドエフェクタは、上記第1の処置を施すための第1の部分(第1、第3実施形態では非刃物部、第2実施形態では刃物部)と、上記第2の処置を施すための第2の部分(第1実施形態では刃物部、第2実施形態では非刃物部、第3実施形態では刃物部または非刃物部)とをそれぞれ有する。このため、上記第1のモードと第2のモードとを担保することができる。
【0097】
また、上記実施形態の微小物体ハンドリングシステム20(マイクロマニピュレータ100)では、エンドエフェクタの先端部が交差する際に、ハンドリング部103(先端ユニット105)に設けられた摺接ガイド部材116と板バネ111bとが協働してレバー112の支点軸112aを下方に僅かにずらす。これにより、可動指118側のエンドエフェクタの先端の回動軌跡が下側に僅かにずれ、可動指118側のエンドエフェクタの先端部が固定指117側のエンドエフェクタの先端部に潜り込む契機となる。このため、上記実施形態の微小物体ハンドリングシステム20(マイクロマニピュレータ100)によれば、エンドエフェクタの交差を確実に行うことができる。
【0098】
上記実施形態では、エンドエフェクタに微小物体を把持するための第1の部分として非刃物部と微小物体を切断するための第2の部分として刃物部とを形成している。すなわち、異なる処理を施す部分を1つのエンドエフェクタに設けているので、微小物体に対して複数の処理を容易に施すことが可能となる。
【0099】
また、上記実施形態では、2つのエンドエフェクタを離間させて取り扱う形態と交差させて取り扱い形態とを選択できるようにしたので、複数の作業を1つのエンドエフェクタで行うことができ、微小物体に対して複数の処理を容易に施すことが可能となる。
【0100】
4-2.変形例
なお、上記実施形態では、可動指118に装着されたエンドエフェクタを固定指117に装着されたエンドエフェクタに近接させる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、可動指118および固定指117として示した双方に装着されたエンドエフェクタを互いに近接ないし交差させるようにしてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、微小物体10に細胞を例示したが、本発明はこれに限るものではなく、微生物やマイクロ部品等の把持、切断に適用可能なことはいうまでもない。さらに、上記実施形態では、細胞を2分割するように切断する例を示したが、細胞や微生物の一部を切断したり(切り分けたり)、細胞や微生物の一部を部分切断して一部を取り出したりするようにしてもよい。
【0102】
さらに、上記実施形態では、可動指118側のエンドエフェクタを固定指117側のエンドエフェクタの下側に潜り込ませてエンドエフェクタの先端部同士を交差させる例を示したが、可動指118側のエンドエフェクタが固定指117側のエンドエフェクタの上側を乗り越えてエンドエフェクタの先端部同士を交差させるようにしてもよい。その場合には、上述した摺接ガイド部材115の下面構造や板バネ111bの位置を変えればよい。
【0103】
また、上記実施形態では、エンドエフェクタのホームポジションとしてエンドエフェクタの先端同士が離間した(交差していない)状態を例示したが、交差する状態をエンドエフェクタのホームポジションとするようにしてもよい。このとき、アクチュエータ129の出力ピン129aの作動(回動)方向を反対とし、捩りコイルバネ115のアームを支柱111cではなく他の支柱に巻き掛けるようにしてもよい。
【0104】
さらに、上記実施形態では、例えば、
図9(B)、(D)に示したように、エンドエフェクタの非刃物部の断面端を直線状(垂直)としたが、これに代えて、
図15(B)、(D)に示すように、エンドエフェクタのいずれか一方(
図15ではエンドエフェクタ108)の先端部に構成された非刃物部の断面形状をエンドエフェクタの長手方向と交差する方向に突出した滑らかな凸状とするようにしてもよい。このような形状を採ることで、エンドエフェクタの先端部同士の交差が容易となり、交差の際のアクチュエータ129に掛かる負荷も小さくすることができる。
【0105】
また、第3実施形態では、
図13(A)に示したように、エンドエフェクタ119、120が離間した状態で、エンドエフェクタ120の長手方向の外側に刃物部120aのみを配した例を説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。第3実施形態に示した2つのエンドエフェクタの一方の一側のみに刃物部を配する類例として、エンドエフェクタ119、120が離間した状態で、エンドエフェクタ119の長手方向の内側若しくは外側先端部、またはエンドエフェクタの120の長手方向の内側先端部に刃物部を配するようにしてもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、ベルト155によりYZ平面での回動をθv補正部104に伝達する例を示したが、例えば、歯車列で伝達するようにしてもよい。さらに、例示した機構的構成に代えて電気的構成を採用するようにしてよい。例えば、シャフト151に歯車列を介してYZ平面での回動角度を把握するためのエンコーダを配置してその情報をPLCにフィードバックし、PLCがYZ平面での回動により生じるY方向の変位Δlを打ち消すためのY方向の駆動量を演算してアクチュエータを駆動させるようにしてもよい。また、カム機構(カム156およびカムフォロア157)に代えてリニアモータ等の直進アクチュエータを用いるようにしてもよい。
【0107】
さらに、上記実施形態では、θz駆動部123を例示したが、θz駆動部123を省いたマイクロマニピュレータにも適用可能である。また、上記実施形態では、θz駆動部123の変位をY方向入力リンク141に入力する例を示したが、X方向入力リンク142に入力するようにしてもよい。またさらに、上記実施形態では、移動部として変位合成部101およびZ方向移動部102を例示したが、本発明はこれに限らず、例えば、X、Y、Z方向に移動可能なアーム等を用いるようにしてもよい。
【0108】
そして、上記実施形態では、エンドエフェクタの先端部を交差させる例を示したが、エンドエフェクタの先端部を交差させずにエンドエフェクタの少なくとも一方を回動させることにより微小物体に複数の処置を施すようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明はエンドエフェクタの付け替えなしで微小物体に対し2つの処置を施すことができるマイクロマニピュレータを提供するものであるため、マイクロマニピュレータの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0110】
10 微小物体
100 マイクロマニピュレータ
101 変位合成部(移動部の一部)
102 Z方向移動部(移動部の一部)
103 ハンドリング部
107、108、109、110、119、120 エンドエフェクタ
107a、108a、109a、110a、120a 刃物部
107b、108b、109b、110b、119b、120b 非刃物部
111b 板バネ(軌跡変更手段の一部)
116 摺接ガイド部材(軌跡変更手段)