(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20220729BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D41/06
F02D45/00 362
F02D45/00
(21)【出願番号】P 2018071997
(22)【出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸井田 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】高木 良太
(72)【発明者】
【氏名】山田 恵里
(72)【発明者】
【氏名】星 勝
(72)【発明者】
【氏名】志村 知洋
(72)【発明者】
【氏名】真田 恵尚
(72)【発明者】
【氏名】田浦 康弘
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-032397(JP,A)
【文献】特開2018-003675(JP,A)
【文献】特開2009-185771(JP,A)
【文献】特開2005-090413(JP,A)
【文献】国際公開第03/036069(WO,A1)
【文献】特開2004-183617(JP,A)
【文献】特開2004-308545(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0118992(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(51)を駆動して内燃機関(10)のクランクシャフト(43)を回転させるクランキング制御部(101)と、前記内燃機関(10)の気筒(11)への燃料噴射制御を行う燃料噴射制御部(117)と、前記内燃機関(10)の始動時の燃焼開始を検出する初爆判定部(113)とを備える制御装置(100)において、
前記初爆判定部(113)は、
前記内燃機関(10)のクランキング中、第1の期間における前記クランクシャフト(43)の平均回転速度である第1の回転速度(CS1)から、前記第1の期間よりも長い第2の期間における前記クランクシャフト(43)の平均回転速度である第2の回転速度(CS2)を引いた差分(ΔCS)
が燃焼開始閾値(thre_com)以上になったときに前記内燃機関(10)の始動時の燃焼開始
と判定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置(100)。
【請求項2】
前記第2の期間は、前記内燃機関(10)の燃焼間隔あるいはその整数倍に相当する期間である
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記第1の期間は、前記クランクシャフト(43)の回転速度を検出するセンサ(35)のサンプリング周期である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記初爆判定部(113)は、前記内燃機関(10)の低温始動時に前記差分(ΔCS)に基づいて前記燃焼開始を検出する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記燃料噴射制御部(117)は、クランキング開始後に燃料噴射を開始し、前記初爆判定部(113)により前記燃焼開始が検出されたときに燃料噴射量を減少させる
ことを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記燃料噴射制御部(117)は、前記燃焼開始が検出されたあと、前記内燃機関(10)の始動時の温度(Te)及び前記クランクシャフト(43)の回転速度(CS)に基づいて燃料噴射量を設定する
ことを特徴とする請求項
5に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動時制御を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンを始動する際に制御装置はスタータモータ等の駆動により内燃機関のクランキングを開始し、さらに各気筒への燃料供給と混合気への点火を開始する。通常内燃機関の始動時において内燃機関の温度は低く燃料が気化しにくい。このため内燃機関の始動時の燃料(以下「始動燃料」ともいう)の噴射量は通常運転状態の燃料噴射量に比べて多くなるように設定されている。
【0003】
一方で内燃機関において燃焼が開始した後には燃焼室内の温度が急激に上昇し、供給された始動燃料のうちの揮発する燃料の割合が急激に増加する。このため混合気の濃度が適正範囲に保たれるように燃料噴射量を減少する必要がある。したがって内燃機関の制御装置は内燃機関における燃焼開始と同時に燃料噴射量を速やかに減少させる制御を行う。
【0004】
ここで内燃機関の低温始動時において内燃機関の燃料として重質燃料が使用されている場合、軽質燃料が使用されている場合に比べて燃焼が開始するまでに数サイクル長く始動燃料を供給し続ける必要がある。このような例をはじめとして燃料噴射量や内燃機関の温度が同一の条件下であっても燃焼開始タイミングが始動試行ごとにばらつくことが知られている。
【0005】
これに対して特許文献1には内燃機関で燃焼が発生すると予測される燃料の噴射回数に依存して燃料噴射量を減少させる技術が開示されている。また特許文献2には内燃機関で燃焼が発生すると予測される内燃機関の回転速度に依存して燃料噴射量を減少させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-008865号公報
【文献】特開2009-281364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に記載のように燃料の噴射回数に依存してあらかじめ定めた方法により燃料噴射量を減少させる方法では始動試行ごとに燃焼開始タイミングが異なる状況に対応することができない。
【0008】
また特許文献2に記載のように内燃機関の回転速度に依存してあらかじめ定めた方法により燃料噴射量を減少させる方法ではスタータモータ等によりクランキングされている状態の内燃機関の回転速度のばらつきにより燃焼が開始したと判断し得る回転速度の閾値を設置することが困難である。
【0009】
例えば低温始動時の内燃機関の回転速度は内燃機関で使用される作動油の粘性、油温、内燃機関の冷却水温又はスタータモータ等に電力を供給するバッテリの状態等の条件によってばらつきを生じる。このため燃焼開始時の内燃機関の回転速度の閾値を一定の値に設定することは困難である。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、内燃機関の始動時における燃焼開始タイミングの検出精度を向上可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある観点によれば、モータを駆動して内燃機関のクランクシャフトを回転させるクランキング制御部と、内燃機関の気筒への燃料噴射制御を行う燃料噴射制御部と、内燃機関の始動時の燃焼開始を検出する初爆判定部とを備える制御装置において、初爆判定部は、内燃機関のクランキング中、第1の期間におけるクランクシャフトの平均回転速度である第1の回転速度から、第1の期間よりも長い第2の期間におけるクランクシャフトの平均回転速度である第2の回転速度を引いた差分が燃焼開始閾値以上になったときに内燃機関の始動時の燃焼開始と判定することを特徴とする内燃機関の制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば内燃機関の始動時における燃焼開始タイミングの検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置を適用可能な内燃機関の構成例を示す模式図である。
【
図2】内燃機関の定常状態におけるピストンのストローク量とクランクシャフトの回転速度の変化を示す説明図である。
【
図3】同実施形態に係る内燃機関の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】同実施形態に係る内燃機関の制御装置による始動制御を示すフローチャートである。
【
図5】第1の回転速度及び第2の回転速度の推移を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
<1.内燃機関の構成例>
図1を参照して本実施形態に係る内燃機関の制御装置100を適用可能な内燃機関10の構成例を説明する。
【0016】
図1に示した内燃機関10は直列3気筒のガソリンエンジンの例である。なお内燃機関10の気筒数は3気筒に限られるものではない。
【0017】
内燃機関10は3つの気筒11a~11cを有している。それぞれの気筒11a~11cはピストン13a~13cと当該ピストン13a~13cをクランクシャフト43に連結するコンロッド15a~15cを備えている。
【0018】
コンロッド15a~15cを介してクランクシャフト43に連結されたピストン13a~13cはクランクシャフト43の回転に伴って気筒11a~11c内を往復動する。それぞれのコンロッド15a~15cは120度の位相間隔でクランクシャフト43に接続されている。
【0019】
それぞれの気筒11a~11cには吸気通路17a~17c及び排気通路19a~19cが接続されている。吸気通路17a~17cは図示しない吸気弁により開閉される。排気通路19a~19cは図示しない排気弁により開閉される。
【0020】
吸気通路17a~17cには燃料噴射弁21a~21cが備えられている。燃料噴射弁21a~21cの駆動は制御装置100により制御される。図示した内燃機関10では燃料噴射弁21a~21cは吸気通路17a~17cに燃料を噴射するように備えられているが燃料噴射弁21a~21cは気筒11a~11c内に直接燃料を噴射するように備えられていてもよい。
【0021】
またそれぞれの気筒11a~11cには図示しない点火プラグが備えられている。点火プラグの駆動は制御装置100により制御される。制御装置100はそれぞれの気筒11a~11cへの燃料噴射時期に合わせて点火プラグを駆動し気筒11a~11c内の混合気に点火する。
【0022】
また内燃機関10はスタータモータ51を備えている。スタータモータ51の第1のギヤ53はクランクシャフト43に固定された第2のギヤ41に噛み合っている。スタータモータ51は内燃機関10の始動時に駆動されてクランクシャフト43を強制的に回転させるクランキングを行う。スタータモータ51の駆動は制御装置100により制御される。
【0023】
クランクシャフト43の端部には回転数(回転速度)検出用の検出ギヤ37が固定されている。検出ギヤ37はクランクシャフト43に同期して回転する。検出ギヤ37の外周部に対向する位置にはクランク角センサ35が設けられている。クランク角センサ35のセンサ信号は制御装置100に出力される。クランク角センサ35としては例えば電磁ピックアップ式のセンサを用いることができるがこの例に限定されるものではない。
【0024】
以下クランク角センサ35として電磁ピックアップ式のセンサを用いる例を説明する。電磁ピックアップ式のクランク角センサ35は、検出ギヤ37の歯面がクランク角センサ35に近づいたり離れたりを繰り返すことによる磁束の変化に伴って発生する誘導起電力を検出する。検出される誘導起電力は検出ギヤ37の歯面がクランク角センサ35に近づいたり離れたりを繰り返すことに対応して増減する。クランク角センサ35の出力信号のパルス列の繰り返し周波数はクランクシャフト43の回転速度に比例する。
【0025】
また内燃機関10は冷却水温センサ31及び油温センサ33を備えている。冷却水温センサ31は図示しない冷却回路に設けられて冷却回路内を循環する冷却水の温度を検出する。油温センサ33は図示しない油圧回路に設けられて油圧回路内を循環する作動油の温度を検出する。冷却水温センサ31及び油温センサ33のセンサ信号は制御装置100に出力される。
【0026】
図2は内燃機関10の定常運転状態における3つの気筒11a~11cのピストン13a~13cのストローク量St1~St3とクランクシャフト43の回転速度CS(CS1)とを示す説明図である。横軸はクランク角(CA)を示している。
【0027】
それぞれのピストン13a~13cのストローク量St1~St3の波形における頂部はピストン13a~13cの上死点を示し、底部はピストン13a~13cの下死点を示す。それぞれの気筒11a~11cはクランクシャフト43が2回転するごとに吸気行程(A)、圧縮行程(B)、膨張行程(C)及び排気行程(D)を繰り返す。
【0028】
膨張行程(C)は気筒11a~11c内で混合気の燃焼が生じる行程でありいずれかの気筒11a~11cが膨張行程(C)にある場合にクランクシャフト43の回転速度CSは上昇する。
【0029】
図1に示した内燃機関10では3つの気筒11a~11cのピストン13a~13cをクランクシャフト43に連結するコンロッド15a~15cは120度の位相間隔でクランクシャフト43に接続されている。これにより内燃機関10ではクランク角が240度ごとに、それぞれの気筒11a~11cでの膨張行程(C)が繰り返される。このためクランクシャフト43の回転速度CSはクランク角が240度周期で増減している。
【0030】
<2.制御装置の構成例>
図3を参照して本実施形態に係る内燃機関の制御装置100の構成例を説明する。
【0031】
図3は制御装置100の構成例を機能的に示したブロック図である。制御装置100は冷却水温検出部103、油温検出部105、回転速度検出部107、第1の回転速度算出部109、第2の回転速度算出部111、クランキング制御部101、初爆判定部113、点火制御部115及び燃料噴射制御部117を有している。
【0032】
制御装置100の一部又は全部は例えばマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよい。この場合制御装置100を構成する上記の各部の一部又は全部はマイクロコンピュータ等によるプログラムの実行により実現される機能であってよい。
【0033】
また制御装置100の一部又は全部はファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、CPU(Central Processing Unit)等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0034】
制御装置100はRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の図示しない記憶素子あるいは記憶装置を備えている。さらに制御装置100はスタータモータ51又は燃料噴射弁21a~21cを駆動するための図示しない駆動回路を備えている。
【0035】
(クランキング制御部)
クランキング制御部101は内燃機関10の始動時にスタータモータ51を駆動して内燃機関10のクランクシャフト43を回転させる。例えばクランキング制御部101は内燃機関10のスタートスイッチあるいはイグニッションスイッチがオンにされた後、内燃機関10の始動が完了したと判定されるまでの期間にスタータモータ51を駆動する。
【0036】
(冷却水温検出部)
冷却水温検出部103は冷却水温センサ31のセンサ信号に基づいて冷却回路を循環する冷却水の温度を検出する。
【0037】
(油温検出部)
油温検出部105は油温センサ33のセンサ信号に基づいて油圧回路を循環する作動油の温度を検出する。
【0038】
(回転速度検出部)
回転速度検出部107はクランク角センサ35のセンサ信号に基づいてクランクシャフト43の回転速度(回転数)CSを検出する。例えば回転速度検出部107はあらかじめ設定されたサンプリング周期ごとにクランク角センサ35のセンサ信号を取得しクランクシャフト43の回転速度CSを検出する。
【0039】
電磁ピックアップ式のクランク角センサ35の場合、回転速度検出部107はサンプリング周期ごとに回転角度(度)を360(度)で割るとともにさらにサンプリング周期(分)で割ることによりクランクシャフト43の回転速度CS(rpm)を検出する。
【0040】
(第1の回転速度算出部)
第1の回転速度算出部109はクランク角センサ35のセンサ信号に基づいてあらかじめ設定された第1の期間におけるクランクシャフト43の平均回転速度(rpm)である第1の回転速度CS1を算出する。
【0041】
第1の期間は第2の回転速度CS2を算出するための第2の期間よりも短い任意の時間に設定することができる。第1の期間はクランク角により規定される期間であってもよく時間により規定される期間であってもよい。第1の回転速度算出部109は第1の期間において回転速度検出部107により検出された1つ又は複数の回転速度CSの和を検出されたサンプル数で割ることにより第1の回転速度CS1を算出することができる。
【0042】
ただしクランクシャフト43の瞬時の回転速度を検出できるように第1の期間は極短い時間であることが好ましい。かかる第1の回転速度CS1は回転速度検出部107により検出される瞬時の回転速度も含む。回転速度検出部107により検出される回転速度CSの値も有限のサンプリング周期における平均速度を示している。この場合サンプリング周期が第1の期間に相当する。
【0043】
また電磁ピックアップ式のクランク角センサ35の場合、第1の期間は検出ギヤ37の歯ごとに現れる出力信号の増減の周期であってよい。この場合第1の回転速度算出部109は検出ギヤ37の歯の間隔(度)を360(度)で割るとともにさらに出力信号の波形の周期(分)で割ることにより第1の回転速度CS1(rpm)を算出することができる。
【0044】
第1の回転速度算出部109は第1の期間の経過ごとに第1の回転速度CS1を更新してもよい。あるいは第1の回転速度算出部109は第1の期間よりも短く設定された時間間隔で第1の回転速度CS1を更新してもよい。
【0045】
なお第1の回転速度CS1の算出方法は上記の例に限定されるものではない。
【0046】
(第2の回転速度算出部)
第2の回転速度算出部111はクランク角センサ35のセンサ信号に基づいてあらかじめ設定された第2の期間におけるクランクシャフト43の平均回転速度(rpm)である第2の回転速度CS2を算出する。
【0047】
第2の期間はいずれかの気筒11a~11cにおける膨張行程を含み、かつ、第1の回転速度CS1を算出するための第1の期間よりも長い任意の時間に設定することができる。第2の期間はクランク角により規定される期間であってもよく時間により規定される期間であってもよい。第2の回転速度算出部111は第2の期間において回転速度検出部107により検出された1つ又は複数の回転速度CSの和を検出されたサンプル数で割ることにより第2の回転速度CS2を算出することができる。
【0048】
第2の期間は第1の回転速度CS1を算出するための第1の期間よりも長ければよいが、内燃機関10の燃焼間隔あるいはその整数倍に相当する期間であることが好ましい。
【0049】
レシプロエンジンのクランクシャフト43の回転速度は常に一定ではなく、圧縮行程で減速し膨張行程で加速するという微視的な加減速を繰り返している。この加減速の周期は気筒数つまり気筒間の位相差に依存する。本実施形態で例示する3気筒の内燃機関10の場合、クランク角が240度の周期でクランクシャフト43は加減速を繰り返す。
【0050】
したがって第2の期間が内燃機関10の燃焼間隔あるいはその整数倍に相当する期間(回転角度)であることによりクランクシャフト43の平均回転速度をより的確に算出することができる。
【0051】
本実施形態において例示した内燃機関10は3つの気筒11a~11cを有する内燃機関であり燃焼間隔は240度である。この場合に第2の期間は240度、480度、720度・・・等に設定することができる。第2の回転速度算出部111は第2の期間に検出された複数(サンプリング数=N)の回転速度CS(rpm)の平均値を求めることにより第2の回転速度CS2を算出することができる。
【0052】
第2の回転速度算出部111は第2の期間の経過ごとに第2の回転速度CS2を更新してもよい。あるいは第2の回転速度算出部111は第2の期間よりも短く設定された時間間隔で第2の回転速度CS2を更新してもよい。
【0053】
なお第2の回転速度CS2の算出方法は上記の例に限定されない。
【0054】
(初爆判定部)
初爆判定部113は第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSに基づいて内燃機関10の始動時の燃焼開始を検出する。例えば初爆判定部113は差分ΔCSを燃焼開始閾値thre_comと比較して差分ΔCSが燃焼開始閾値thre_com以上になったときに燃焼開始と判定する。初爆判定部113は燃焼開始を検出した場合には始動時制御を終了させる。
【0055】
上述のとおり第1の回転速度CS1にはクランクシャフト43の瞬時の回転速度が反映されやすくなっている一方で第2の回転速度CS2には燃焼間隔ごとの平均回転速度が反映されやすくなっている。
【0056】
内燃機関10の始動時におけるクランキング中のクランクシャフト43の回転速度CSには内燃機関10内の様々な摺動部分の摩擦抵抗が影響する。この摩擦抵抗は作動油の粘度や温度に依存するため内燃機関10の始動試行ごとにクランクシャフト43の回転速度CSが異なる場合がある。
【0057】
またクランキング中のクランクシャフト43の回転速度CSにはスタータモータ51に電力を供給するバッテリの能力やスタータモータ51の特性が影響する。バッテリの能力やスタータモータ51の特性により内燃機関10の始動試行ごとにクランクシャフト43の回転速度CSが異なる場合がある。
【0058】
第1の回転速度CS1及び第2の回転速度CS2はいずれも上記の摩擦抵抗やバッテリの能力、スタータモータ51の特性の影響を受ける。
【0059】
さらにそれぞれの気筒11a~11cの筒内圧は燃焼開始前であっても気筒11a~11c内の気体の圧縮及び膨張に起因して周期的に変動する。ピストン13a~13cが上昇する圧縮行程では筒内圧が上昇しクランクシャフト43の回転速度CSは低下する。ピストン13a~13cが下降する膨張行程では筒内圧が低下してクランクシャフト43の回転速度CSは上昇する。
【0060】
この筒内圧の変動によるクランクシャフト43の回転速度CSへの影響はある程度長い期間のクランクシャフト43の平均回転速度を求めることにより一部又は全部が相殺される。つまり第1の回転速度CS1及び第2の回転速度CS2のうち第2の回転速度CS2は筒内圧の変動の影響が低減された値となっている。
【0061】
ここで気筒11a~11c内で燃焼が発生すると気体の圧縮及び膨張による筒内圧の変動だけでなく燃焼による筒内圧のさらなる上昇が生じる。この現象は膨張行程における瞬時の回転速度の上昇として現れる。つまり燃焼によるクランクシャフト43の回転速度CSの上昇は第2の回転速度CS2に比べて第1の回転速度CS1により反映されやすい。
【0062】
このため第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSを監視することにより燃焼が開始した直後に燃焼開始による筒内圧の上昇を遅滞なく検出することができる。
【0063】
上述のとおり第2の回転速度CS2は内燃機関10の摩擦抵抗やバッテリの能力、スタータモータ51の特性に起因する回転速度CSの変動の影響が反映されている。
【0064】
したがって第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引くことで燃焼以外の要因によるクランクシャフト43の回転速度CSの変動の影響が抑制されている。これにより燃焼開始の検出精度を向上させることができる。
【0065】
なお初爆判定部113は内燃機関10の始動時の温度が所定範囲内の場合にのみ第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSに基づいて燃焼開始を検出してもよい。例えば初爆判定部113は内燃機関10の始動時の温度があらかじめ設定された制御開始閾値よりも低い冷間始動時に差分ΔCSに基づいて燃焼開始を検出してもよい。
【0066】
この場合内燃機関10の始動時の温度が制御開始閾値以上のときには初爆判定部113による燃焼開始の検出は行われず、燃料噴射制御部117は例えばクランクシャフト43の回転速度CS及び内燃機関10の温度に依存して燃料噴射量を減量させてもよい。
【0067】
(燃料噴射制御部)
燃料噴射制御部117は燃料噴射弁21a~21cを駆動して内燃機関10のそれぞれの気筒11a~11cへの燃料噴射制御を行う。燃料噴射制御部117は内燃機関10の始動時にクランキングが開始されるとあらかじめ設定された量(以下、「始動時噴射量」ともいう)の燃料の噴射を行う。
【0068】
燃料噴射制御部117は初爆判定部113により内燃機関10の燃焼開始が検出されたときには燃料噴射量を減量し、さらに内燃機関10の始動時制御の完了後には通常運転時の燃料噴射制御を開始する。
【0069】
なお初爆判定部113が内燃機関10の冷間始動時にのみ第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSに基づいて燃焼開始を検出する場合、燃料噴射制御部117は例えばクランクシャフト43の回転速度CS及び内燃機関10の始動時の温度に基づいて燃料噴射量を減量してもよい。
【0070】
(点火制御部)
点火制御部115はそれぞれの気筒11a~11cに備えられた点火プラグを駆動して気筒11a~11c内に生成された混合気に点火する。点火制御部115は運転条件に応じて点火時期を制御する。
【0071】
<3.制御装置の動作例>
(3.1.フローチャート)
図4を参照して本実施形態に係る制御装置100による制御処理の一例を詳細に説明する。
図4は制御装置100により実行される始動時制御のフローチャートを示している。
【0072】
内燃機関10の始動時において制御装置100のクランキング制御部101はスタータモータ51を駆動してクランキングを開始する(ステップS11)。
【0073】
次いで制御装置100の初爆判定部113は内燃機関10の始動時温度Teがあらかじめ設定した所定範囲を外れているか否かを判定する(ステップS13)。本実施形態において初爆判定部113は始動時温度Teがあらかじめ設定した制御開始閾値Te_0以上であるか否かを判定する。制御開始閾値Te_0は内燃機関10の始動試行が冷間始動であるか否かを判別するための閾値であり適宜の値に設定されてよい。
【0074】
内燃機関10の始動時温度Teは例えば冷却水温検出部103により検出される冷却水温Tcに基づいて推定することができる。ただし内燃機関10の始動時温度Teの検出方法は特に限定されるものではない。
【0075】
内燃機関10の始動時温度Teが制御開始閾値Te_0以上の場合(S13/yes)、初爆判定部113は燃焼開始検出フラグを0(=false)に設定する(ステップS15)。
【0076】
次いで制御装置100の燃料噴射制御部117は始動時噴射量Q_initを基本噴射量(=100%)に設定して燃料噴射弁21a~21cを駆動し燃料噴射を行う。併せて制御装置100の点火制御部115は点火プラグを駆動して気筒11a~11c内に生成された混合気への点火を試みる(ステップS17)。
【0077】
一方内燃機関10の始動時温度Teが制御開始閾値Te_0未満の場合(S13/no)、制御装置100の第1の回転速度算出部109及び第2の回転速度算出部111は第1の回転速度CS1及び第2の回転速度CS2を算出する(ステップS19)。
【0078】
次いで初爆判定部113は第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSがあらかじめ設定された燃焼開始閾値thre_com以上であるか否かを判別する(ステップS21)。燃焼開始閾値thre_comは例えば内燃機関10の始動時温度Teに基づいて設定される可変値であってもよい。
【0079】
上述のとおり燃焼によるクランクシャフト43の回転速度CSの上昇は第2の回転速度CS2に比べて第1の回転速度CS1により反映されやすい。このため第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSを監視することにより燃焼が開始した直後に燃焼開始による筒内圧の上昇を遅滞なく検出することができる。
【0080】
また第2の回転速度CS2は内燃機関10の摩擦抵抗やバッテリの能力、スタータモータ51の特性、さらには燃焼によらない気体の圧縮及び膨張に起因する回転速度CSの変動の影響が反映されている。このため第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引くことで燃焼以外の要因によるクランクシャフト43の回転速度CSの変動の影響が抑制されて燃焼開始の検出精度を向上させることができる。
【0081】
差分ΔCSが燃焼開始閾値thre_com未満である場合(S21/no)、燃焼が開始されたとは判定できないために初爆判定部113は燃焼開始検出フラグを現在の状態のままで保持する(ステップS33)。この場合に燃料噴射制御部117は現在設定されている始動時噴射量Q_initを維持しつつ燃料噴射制御を継続する。その後にステップS19に戻る。
【0082】
一方差分ΔCSが燃焼開始閾値thre_com以上である場合(S21/yes)、初爆判定部113は十分な燃焼強度の初爆が生じたと判定して燃焼開始検出フラグを1(=true)に設定する(ステップS23)。
【0083】
次いで燃料噴射制御部117は始動時噴射量Q_initを減少させる(ステップS25)。つまり始動時噴射量Q_initは基本噴射量(=100%)よりも少ない噴射量(<100%)に設定される。このとき燃焼開始後の始動時噴射量Q_initはクランクシャフト43の回転速度CS及び内燃機関10の始動時温度Teに基づいて燃焼を継続できるような噴射量に設定されてもよい。
【0084】
例えば内燃機関10の始動時温度Teが低い状態では始動時温度Teが高い状態に比べて燃焼が生じにくい。このため燃料噴射制御部117は始動時温度Teが高いほど噴射量が少なくなるように始動時噴射量Q_initを設定してもよい。
【0085】
また燃焼開始後のクランクシャフト43の回転速度CSが速い状態では回転速度CSが遅い状態に比べて正常な燃焼状態に近づいているといえる。このため燃料噴射制御部117はクランクシャフト43の回転速度CSが速いほど噴射量が少なくなるように始動時噴射量Q_initを設定してもよい。
【0086】
ステップS17及びステップS25で設定された始動時噴射量Q_initに基づく燃料噴射制御が継続された状態で、初爆判定部113は内燃機関10の始動時制御を終了させるか否かを判別する(ステップS27)。
【0087】
内燃機関10の始動時制御を終了させるか否かの判定方法は特に限定されない。例えば初爆判定部113はより長い期間の平均回転速度である第2の回転速度CS2があらかじめ設定された制御終了閾値thre_endに到達したときに安定燃焼状態になったと判定して始動時制御を終了させてもよい。
【0088】
第2の回転速度CS2は筒内圧の変動によるクランクシャフト43の回転速度CSの変動への影響が低減された値である。このため第2の回転速度CS2を用いることにより内燃機関10の安定燃焼状態の判定精度を向上させることができる。
【0089】
内燃機関10の始動時制御を終了させない場合(S27/no)、ステップS13に戻ってここまでに説明した各ステップの処理が繰り返し行われる。
【0090】
一方内燃機関10の始動時制御を終了させる場合(S27/yes)、初爆判定部113は内燃機関10の制御モードを始動時モードから通常運転モードに切り換えて燃焼開始検出フラグを0(=false)に設定する(ステップS29)。
【0091】
次いでクランキング制御部101はスタータモータ51の駆動を停止してクランキングを停止させる(ステップS31)。これにより内燃機関10の始動時制御が完了する。
【0092】
(3.2.タイムチャート)
図5のタイムチャートを参照して本実施形態に係る制御装置100による始動時制御について説明する。
図5に示す例において第1の回転速度CS1は回転速度検出部107により検出されるサンプリング周期ごとの瞬時回転速度を示している。
【0093】
時刻t0においてスタータモータ51の駆動要求(S/R)がオンになると内燃機関10のステータス(E/S)はクランキング状態になる。また時刻t0において始動時噴射量Q_initは基本噴射量(=100%)に設定される。
【0094】
時刻t0から時刻t1の期間において第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSが燃焼開始閾値thre_comを常時下回っている。したがって時刻t0から時刻t1の期間において燃焼開始検出フラグ(I/C)は0(=false)に維持されている。またこの期間において始動時噴射量Q_initは基本噴射量(=100%)に維持されている。
【0095】
時刻t1の直前に内燃機関10で燃焼が開始された場合、時刻t1において第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSが燃焼開始閾値thre_comに到達する。したがって時刻t1において燃焼開始検出フラグ(I/C)が1(=true)に設定されている。また時刻t1において始動時噴射量Q_initは基本噴射量に対して50%に設定される。
【0096】
時刻t1から時刻t2の期間において基本噴射量に対して50%に設定された始動時噴射量Q_initで燃料噴射が継続される。この期間に内燃機関10のステータス(E/S)は引き続きクランキング状態で維持されるとともに燃焼開始検出フラグ(I/C)は1(=true)で維持される。
【0097】
時刻t2において第2の回転速度CS2が制御終了閾値thre_endに到達すると始動時制御完了ステータス(END_S/O)が1(=true)に設定される。これにより内燃機関10の制御モードが始動時モードから通常運転モードに切り換えられて始動時制御は終了する。
【0098】
また内燃機関10の始動時制御が完了した場合、燃焼開始検出フラグ(I/C)は0(=false)に設定され内燃機関10のステータス(E/S)は運転状態(running)となる。また燃料噴射量はさらに減量されて基本噴射量(=100%)に対して25%に設定されている。
【0099】
そして時刻t3においてスタータモータ51の駆動要求(S/R)がオフになり、スタータモータ51の駆動が停止される。
【0100】
第1の回転速度CS1から第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSが燃焼開始閾値thre_comを超えたときに燃焼開始と判定することにより燃焼による筒内圧の上昇に起因したクランクシャフト43の回転速度CSの上昇を的確に検出することができる。
【0101】
かかる差分ΔCSは内燃機関10の摩擦抵抗やスタータモータ51に電力を供給するバッテリの状態、スタータモータ51の特性に起因するクランクシャフト43の回転速度CSへの影響が低減されている。
【0102】
このために内燃機関10の始動試行ごとに始動条件が異なり燃焼開始タイミングがばらつく場合であっても内燃機関10の燃焼開始タイミングの検出精度を向上させることができる。これにより燃料噴射量を適切に減量させることができ燃料消費量を低減することができる。
【0103】
以上説明したように、本実施形態に係る内燃機関10の制御装置100は第1の期間におけるクランクシャフト43の平均回転速度である第1の回転速度CS1から、第1の期間よりも長い第2の期間におけるクランクシャフト43の平均回転速度である第2の回転速度CS2を引いた差分ΔCSに基づいて内燃機関10の燃焼開始を検出する。
【0104】
このため燃焼による筒内圧の上昇に起因したクランクシャフト43の回転速度CSの上昇が的確に検出され内燃機関10の燃焼開始の検出精度を向上させることができる。したがって燃焼開始後に燃料噴射量を適切に減量させることができ燃料消費量を低減することができる。
【0105】
また上記差分ΔCSは内燃機関10の摩擦抵抗やスタータモータ51に電力を供給するバッテリの状態、スタータモータ51の特性に起因するクランクシャフト43の回転速度CSへの影響が低減された値である。したがって本実施形態に係る内燃機関10の制御装置100によれば燃焼開始閾値thre_comを適切に設定することにより回転速度CSの上昇が僅かであっても燃焼開始を検出することができる。
【0106】
さらに上記差分ΔCSを用いて燃焼開始を検出することにより始動試行ごとに平均回転速度が異なる場合であっても燃焼開始を検出することができる。
【0107】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0108】
例えば上記実施形態に係る内燃機関の制御装置100はガソリンエンジンに適用されていたが本発明はかかる例に限定されない。本実施形態に係る内燃機関の制御装置100はディーゼルエンジン等の他の内燃機関に適用されてもよい。内燃機関がディーゼルエンジンである場合には点火制御部115が省略されていてもよい。
【符号の説明】
【0109】
10・・・内燃機関、11a,11b,11c・・・気筒、13a,13b,13c・・・ピストン、21a,21b,21c・・・燃料噴射弁、35・・・クランク角センサ、37・・・検出ギヤ、43・・・クランクシャフト、51・・・スタータモータ、100・・・制御装置、101・・・クランキング制御部、107・・・回転速度検出部、109・・・第1の回転速度算出部、111・・・第2の回転速度算出部、113・・・初爆判定部、117・・・燃料噴射制御部