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特許7113650走査2次元X線検出器の角度カバレージを拡大するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】走査2次元X線検出器の角度カバレージを拡大するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20180101AFI20220729BHJP
【FI】
G01N23/207
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018073213
(22)【出願日】2018-04-05
(65)【公開番号】P2018179987
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】15/479,335
(32)【優先日】2017-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507291604
【氏名又は名称】ブルカー・エイエックスエス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Bruker AXS, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボブ バオピン ホー
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-228605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0176355(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0146960(US,A1)
【文献】特開2015-102397(JP,A)
【文献】特開2012-088094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に向けられたX線ビームを有し、前記試料によって回折されたX線のエネルギーを、2次元X線検出器を用いて検出し、前記検出されたX線のエネルギーを、円筒区域を含む検出領域に関する空間強度分布として記憶する、X線回折計を用いて、X線回折測定を実行するための方法であって、前記方法は、
前記回折されたX線のエネルギーを検出しながら、前記試料の場所の周りで走査経路に沿って角度方向に前記検出器を移動させるステップと、
前記検出器が前記走査経路の端部に配置されたとき、前記X線のエネルギーを検出している間、前記検出器の位置を維持し、前記記憶された空間強度分布が正規化され、かつ前記検出領域を通じて一様な照射時間を有するように、前記空間強度分布を記憶するために使用される、検出される前記X線のエネルギーの部分を、前記角度方向に沿って漸進的に変化させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記検出器は、検出されたX線のエネルギーが前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される対象となる前記検出領域の角度範囲が、事前決定されたスピードで変化するように、移動され、前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される、検出される前記X線のエネルギーの部分を漸進的に変化させるステップは、前記事前決定されたスピードに一致するレートで、前記部分を変化させるステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出器によって検出されたX線のエネルギーの空間分布は、前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される前に、円筒投影を用いて変換される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される、検出される前記X線のエネルギーの部分を漸進的に変化させるステップは、前記検出されたX線のエネルギーが前記円筒投影を用いて変換された後に、前記部分を前記角度方向に沿って漸進的に変化させるステップを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記検出器は、ピクセルの2次元アレイを備え、前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される、検出される前記X線のエネルギーの部分を変化させるステップは、検出されたX線のエネルギーが前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される前記ピクセルを変化させるステップを含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記検出器内のピクセル列は、前記走査経路に対して直角であり、検出されたX線のエネルギーが前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される前記ピクセルを変化させるステップは、前記ピクセル列に対して直角の方向に、前記ピクセルを変化させるステップを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記検出器は、ピクセルの2次元アレイを備え、前記記憶された空間強度分布は、前記検出領域に実質的に対応する検出器ピクセルの円筒投影におけるX線強度の空間分布として記憶される請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される、検出される前記X線のエネルギーの前記部分を変化させるステップは、前記円筒投影において投影される、前記空間強度分布を取得するために使用される前記ピクセルを、前記走査経路の方向に沿って変化させるステップを含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
走査経路に沿って角度方向に前記検出器を移動させるステップは、Δα/Δtのスピードで、前記試料の場所の周りで前記検出器を移動させるステップを含み、ここで、Δαは、走査方向に対して直角である、検出器ピクセルの隣接する列間の距離に対応する角度距離であり、前記検出器の前記位置を維持する間、前記回折されたX線のエネルギーは、Δt(β/Δα)の持続時間にわたって収集され、ここで、βは、前記検出器の角度カバレージであり、前記検出器によって収集された前記回折されたX線のエネルギーの測定された強度は、照射時間に関して正規化される、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
試料のX線回折測定を実行するためのX線回折計であって、
前記試料に向けられたX線ビームと、
前記試料によって回折されたX線のエネルギーを検出する2次元X線検出器と、
前記回折されたX線のエネルギーを検出しながら、前記試料の場所の周りで走査経路に沿って角度方向に前記検出器を移動させ、前記回折されたX線のエネルギーを、円筒区域を含む検出領域に関する空間強度分布として記憶する、走査システムであって、前記検出器が前記走査経路の端部に配置されたとき、前記X線のエネルギーを検出している間、前記検出器の位置は維持され、前記空間強度分布を記憶するために使用される、検出される前記X線のエネルギーの部分は、前記記憶された空間強度分布が正規化され、かつ前記検出領域を通じて一様な照射時間を有するように、前記角度方向に沿って漸進的に変化される、走査システムと
を備えるX線回折計。
【請求項11】
前記検出器は、検出されたX線のエネルギーが前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される対象となる前記検出領域の角度範囲が、事前決定されたスピードで変化するように、移動され、前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される、検出される前記X線のエネルギーの部分を漸進的に変化させることは、前記事前決定されたスピードに一致するレートで、前記部分を変化させることを含む請求項10に記載の回折計。
【請求項12】
前記走査システムは、前記検出器によって検出されたX線のエネルギーの空間分布を、前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される前に、円筒投影を用いて変換する、請求項10または11に記載の回折計。
【請求項13】
前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される、検出される前記X線のエネルギーの前記部分は、前記検出されたX線のエネルギーが前記円筒投影を用いて変換された後に、前記角度方向に沿って漸進的に変化される請求項12に記載の回折計。
【請求項14】
前記検出器は、ピクセルの2次元アレイを備え、前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される、検出される前記X線のエネルギーの前記部分は、検出されたX線のエネルギーが前記記憶された空間強度分布に寄与するように使用される前記ピクセルを変化させることによって変化される、請求項10乃至13のいずれか一項に記載の回折計。
【請求項15】
前記検出器は、ピクセルの2次元アレイを備え、前記記憶された空間強度分布は、前記検出領域に実質的に対応する検出器ピクセルの円筒投影におけるX線強度の空間分布として記憶される、請求項10乃至14のいずれか一項に記載の回折計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、X線回折の分野に関し、より詳細には、走査2次元X線回折計に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折の分野においては、ナノメートル以下の範囲の波長λを有する放射線が、所与の原子間隔dを有する結晶性物質に向けられる。結晶構造に対する入射角θが、ブラッグの式、λ=2dsinθを満足するとき、干渉的に強化された信号(回折信号)が、入射角に等しい放射角で物質から出て行くことを観測することができ、どちらの角度も、対象とする原子間隔に対する法線の方向を基準として測定される。
【0003】
単結晶試料からの回折されたX線は、図1Aに概略的に示されるように、回折面の族に各々が対応する個別の方向に進む。多結晶(粉末)試料からの回折パターンは、空間内でランダムな方向を向くようにされた多数の結晶が入射x線ビームによって覆われる場合、図1Bに示されるように、一連の回折円錐を形成する。各回折円錐は、すべての関与粒子の同じ族の結晶面からの回折に対応する。多結晶物質は、バルク固体、薄膜、または流体において、単相または多相であることができる。例えば、図2は、2次元(2D)X線検出器によって収集されたコランダム粉末の回折パターンを示している。
【0004】
図3は、実験室座標系XLLLにおけるX線回折システムの幾何学的配置を示す概略図である。座標系の原点は、計器の中心または測角器の中心である。ソースX線ビームは、回折円錐の回転軸でもある、XL軸に沿って伝搬する。回折円錐の頂角は、ブラッグの式によって与えられる、2θの値によって決定される。特に、頂角は、順方向反射(2θ≦90°)については、2θの値の2倍であり、逆方向反射(2θ>90°)については、180°-2θの値の2倍である。XL-YL平面は、回折計平面である。角γは、回折円錐に関する回折ビームの方向を定義する。それは、YL-ZL平面に対して平行な平面内において、円錐がy=0の軸の-zの部分と交わる点から、回折ビームが平面と交わる点まで、測定される。したがって、回折計平面の-YLの部分内の点は、γ=90°に対応し、一方、回折計平面の+YLの部分内の点は、γ=270°に対応する。したがって、γおよび2θの角度は、試料が配置される原点からのすべての方向をカバーする、ある種の球面座標系を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願第14/979305号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、試料に向けられたX線ビームを有するX線回折計を用いる、X線回折測定を実行するための方法および装置が提供される。本発明は、試料によって回折されたX線のエネルギーを検出する、2次元X線検出器と、検出器がどのように移動するかを制御し、検出されたX線のエネルギーの表現を、円筒区域を含む検出領域に関する空間強度分布として記憶する、走査システムとを含む。
【0007】
例示的な実施形態においては、検出器は、回折されたX線のエネルギーを検出しながら、試料の場所の周りで走査経路に沿って角度方向に移動される。しかしながら、走査範囲の端部においては、検出器の位置は維持されながら、検出器によって検出されるX線のエネルギーの部分が変化される。特に、システムは、検出されたX線のエネルギーの記憶された表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分を、前記角度方向に沿って漸進的に変化させる。これは、全走査範囲にわたって、一様な照射時間が維持されることを可能にする。
【0008】
上述の実施形態の1つの変形においては、走査経路の端部は、走査経路の始端に存在し、前記表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分を漸進的に変化させることは、走査経路に沿って検出器を移動させる前に、その部分を漸進的に増加させることを含む。別の変形においては、走査経路の端部は、走査経路の終端に存在し、前記表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分を漸進的に変化させることは、走査経路に沿って検出器を移動させた後に、その部分を漸進的に減少させることを含む。この実施形態のまた別の変形においては、表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分の漸進的な変化は、走査範囲の両端部において、各端部について上で説明されたように生じる。
【0009】
走査経路に沿った検出器の移動は、段階的であってもまたは連続的であってもよい。どちらのケースにおいても、検出器に対する照射時間は、走査範囲に沿った各角度位置について、実質的に同じである。検出器は、事前決定されたスピードで、角度範囲にわたって移動されてよく、本発明の1つの変形においては、前記表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分の漸進的な変化は、事前決定されたスピードに一致するレートで、その部分を変化させることを含む。
【0010】
本発明の1つの変形においては、検出器によって検出されたX線のエネルギーの空間分布は、検出されたX線のエネルギーの表現に寄与するように使用される前に、円筒投影を用いて変換される。したがって、検出されたX線のエネルギーの記憶された表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分の漸進的な変化は、検出されたX線のエネルギーが、円筒投影を用いて変換された後に生じ得る。
【0011】
例示的な実施形態においては、検出器は、ピクセルの2次元アレイを有する。この実施形態の1つの変形においては、検出されたX線のエネルギーの記憶された表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分の変化は、検出されたX線のエネルギーが使用されるピクセルを変化させることを含む。検出器におけるピクセル列は、走査経路に対して直角であってよく、検出されたX線のエネルギーが使用されるピクセルを変化させることは、ピクセル列に対して直角の方向に、1列ずつピクセルを変化させることを含んでよい。別の変形においては、検出器の平面におけるX線強度の空間分布は、検出領域に実質的に対応する検出器ピクセルの円筒投影における、X線強度の空間分布として記憶されてよい。そのような構成においては、検出されたX線のエネルギーの記憶された表現に寄与するように使用される、検出されるX線のエネルギーの部分の変化は、円筒投影において投影されるように、それらからのX線強度が使用されるピクセルを、走査経路の方向に沿って1列ずつ変化させることを含んでよい。
【0012】
本発明の代替的実施形態においては、物理的走査が、上で説明されたのと同様の方式で実行され、すなわち、Δα/Δtのスピードで、試料の場所の周りで角度方向に走査範囲にわたって検出器を移動させることによって実行され、ここで、Δαは、試料からの検出器の距離を所与として、走査方向に対して直角の検出器ピクセルの隣接する列間の距離に対応する角距離である。しかしながら、検出器が走査範囲の端部に配置されたとき、N(Δt)の持続時間にわたって、回折されたX線のエネルギーを検出器全体からアクティブに収集している間、検出器の位置は維持され、ここで、Nは、ピクセル列の数である。検出器によって収集された、回折されたX線のエネルギーの測定された強度は、その後、照射時間に関して正規化される。
【0013】
上述の実施形態は、走査範囲のどこでも一様である、正規化された照射時間を有する、回折データセットを提供する。検出器がN(Δt)の持続時間にわたってアクティブである、走査範囲の端部は、走査範囲の始端、走査範囲の終端、または両方であってよい。検出器の移動中、照射時間は、走査範囲に沿った各角度位置について実質的に同じであり、検出器の動きは、段階的であってもまたは連続的であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】単結晶試料からの回折されたX線の概略図である。
図1B】多結晶試料からの回折されたX線の概略図である。
図2】対応する回折リングを示すコランダムの2次元回折パターンの画像を示す図である。
図3】回折計における回折リングの幾何学的関係の概略図である。
図4】水平構成の2次元検出器を用いるX線回折計の概略図である。
図5】本発明による、異なる検出器位置にある2次元検出器によって検出された回折リングを示す概略図である。
図6】試料の周りの検出サークルに関する、本発明による2次元検出器の概略図である。
図7A】フラットな2次元X線検出器の円筒表面への投影の概略図である。
図7B】検出器ピクセルの分布を示す、平坦化された円筒表面上における投影された画像の概略図である。
図8】所望の2θ走査範囲内において一様な照射時間を獲得するためのアンダートラベルおよびオーバートラベル走査の使用の概略図である。
図9】一様な照射時間を獲得するために仮想検出器方法を使用する、本発明の実施形態の概略図である。
図10図9の実施形態において使用される方法を示すフロー図である。
図11】仮想および実際の走査ステップを示した、図9の実施形態におけるデータ収集の概略図である。
図12】走査範囲の端部において延長された照射時間を使用する、本発明の代替的実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図4は、本発明に使用され得る、左手測角器およびθ-2θ構成を有する水平回折計の構成を示している。オペレータによって観測されるとき、測角器は、x線管および主要な光学素子の左側に取り付けられ、そのため、システムは左手系として分類される。1次x線ビーム(XL軸)によって決定される回折計平面、ならびにωおよびαの回転面は、水平位置にあり、そのため、回折計は、水平回折計とも呼ばれる。この回折計においては、1次x線ビーム(XL軸)は固定される。角ωは、試料回転によって達成され、角αは、独立して、検出器回転によって達成される。ブラッグ-ブレンターノジオメトリの命名方式に従って、これは、θ-2θ構成と呼ばれる。また、図には、検出器の移動およびアクティブ化を制御する、走査制御システムも概略的に示されている。個別の構成要素として示されているが、走査制御システムは、回折計のためのより統合された制御システムの一部であってよいことを、当業者は認識するであろう。
【0016】
図5は、粉末試料のX線回折走査中におけるフラットな2D検出器のいくつかの可能な位置の概略図である。この例においては、システムは、実験室座標XLLLを使用して示されている。検出表面は、各位置において、円錐断面を形成するように回折円錐と交わる、平面と見なされることができる。検出器位置は、試料-検出器距離Dと、検出器スイング角αとによって確定される。Dは、測角器の中心から検出平面までの直角距離であり、αは、ZL軸の周りの右手回転角である。位置1においては、検出器の中心は、α=0となるように、XL軸の正の側に配置される。検出器位置2および3の各々は、それぞれα2およびα3として識別される負のスイング角(すなわち、α<0)だけ、XL軸から遠ざかるように回転される。検出器の2次元領域のために、所与の検出器角αにおいて、2θの値の範囲が測定されることができる。
【0017】
図5から分かるように、特定の位置において2D検出器によって収集された回折フレームは、制限された角度範囲を含む。角度範囲を拡大するための1つの方法は、異なるスイング角において収集された複数のフレームをマージすることによる。別の方法は、ZL軸の周りで2D検出器を回転させることによって、大きい2θ範囲にわたって走査するものである。図6に概略的に示されるように、2D検出器は、回折計平面に対して直角であり、かつ検出器表面までの最小距離を定義する回折計平面内の直線に対して直角である向きに、取り付けられてよい。この直線の長さも、検出平面と計器の中心との間の距離Dを表し、上で説明されたように、スイング角αと一緒に、検出器位置を確定するために使用されることができる。検出器スイング角αは、XL軸と、計器の中心と検出表面との間の直線との間で測定された角度として定義される。
【0018】
直線と検出器の交点(o)は、検出器の中心と呼ばれることがあり、検出器の平面内の2次元x-y座標系の原点を表す。したがって、2D検出器のいずれのピクセルの場所も、この座標系内における、それのピクセル位置(x,y)によって確定され得る。データ収集走査中、検出器を用いてX線カウントを収集しながら、スイング角αは、連続的または段階的に変化する。したがって、ZL軸の周りの検出器の走査中、図6に示されるように、検出器のy軸は、データ収集中に円筒表面を描く。走査において検出されたX線のエネルギーは、一般に円筒表面の区域である検出領域に関する空間強度分布として最終的に記憶される。
【0019】
各検出器位置において収集されたフレームを正確に合成するために、フレームは、入射ビームからのそれぞれの散乱角に基づいて、円筒表面に投影される。図7Aは、試料12に向けられた初期X線ビーム10を示す、投影の斜視図を示している。回折画像16は、図において破線で示される、円筒表面18に向けて投影される。しかしながら、2D検出器は一般に平面的であるので、円筒表面に向けて投影された画像は、正方形(または長方形)領域をカバーするフラットな2D検出器14によって、代わりに収集される。円筒表面18は、(図の向きに関して)水平方向においてフラットな検出器14と同じ角度範囲(β)をカバーし、同じ高さ(H)も有する。しかしながら、回折されたX線の角度のせいで、フラットな検出器14によってカバーされる領域は、円筒表面18のそれとは異なる。
【0020】
図7Bは、平坦化された円筒表面22(破線によって画定される)と、投影された画像20とを示している。投影された画像20上のグリッドとして示される、回折パターンの投影されたピクセルは、形状が歪められ(例えば、もはや正方形または長方形ではなく)、各ピクセルの形状およびサイズは、フラットな検出器におけるピクセルの元の位置に従って変化する。投影の幾何学に関する詳細は、本明細書においては再現されないが、同時係属中の特許出願(例えば、特許文献1を参照)において見出され得、それの関連部分は、参照によって本明細書に組み込まれる。水平(2θ)方向における2D検出器の角度カバレージは、
【0021】
【数1】
【0022】
として与えられる。
【0023】
X線回折データの正確性および精度、ならびに評価は、計数統計によって著しく影響される。入射X線が一定の光束を有すると仮定すると、指定された時刻tにおける入射X線光子の総数は、定数N0であるべきである。X線放射および検出はランダムに生じる事象であるので、同じX線ビームについて、同じ時間期間において、検出器または検出器ピクセルによって測定されるカウントは、正確には同じでない。プロセスの統計は、ポアソン分布関数
【0024】
【数2】
【0025】
によって説明されることができ、ここで、Nは、所与の時刻tにおいて測定されたX線カウントの総数である。測定が多数回繰り返され、Nの値が平均される場合、繰り返される測定の回数が無限大に近づくにつれて、Nの平均値は真値N0に近づく。多数のカウントについては、ポアソン分布は、ガウス(正規)分布として近似的に表わされることができ、測定されたカウントの標準偏差は、
【0026】
【数3】
【0027】
として与えられ、ここで、Rは、計数率である。真値N0がN±σの間である確率は、68.3%であり、N±2σの間である確率は、95.4%であり、N±3σの間である確率は、99.7%である。測定精度のより啓発的な表現は、相対標準偏差σ/Nを100%で乗算して、
【0028】
【数4】
【0029】
として百分率標準偏差を与えることによって、獲得されることができる。百分率標準偏差は、カウントの数が増えるにつれて改善する。N=1において、σ%=100%であり、N=100において、σ%=10%であり、N=10000において、σ%=1%であり、N=1000000において、σ%=0.1%である。したがって、より多数のカウント、またはより大きい計数率がより良い精度をもたらすことが、上述の式に基づいて明らかである。
【0030】
走査動作中、2D検出器のスイング角は、連続的に、または段階的な方式で変化され、一連の検出器位置において2D検出器によって収集された画像は、平坦化された円筒表面の画像として記憶される。したがって、記憶された画像は、画像があたかも同じ2θ範囲の円筒検出器によって収集されたかのように、2D回折パターンを表す、空間強度分布である。
【0031】
図8は、走査範囲に沿った一連の位置において撮られた一連の画像の直線的な表現を示している。示されるように、各画像の形状は、平坦化された円筒表面に対応する。図8の上側部分には、計器の走査範囲に沿った各画像位置についての有効な照射時間が示されている。2θ範囲の中央内においては、各位置における照射時間は同じである。しかしながら、範囲の端部においては、全体的な照射時間は、それらの端部における回折されたX線は、限られた数の走査位置についてだけ検出器に作用するという事実のせいで、短縮される。一貫した計数統計を有する2D回折パターンを収集するために、所望の2θ範囲にわたって一様な照射時間を有する、回折パターンを収集する必要がある。したがって、従来の実践は、2D検出器の角度カバレージ(β)に等しい「アンダートラベル」を伴って走査を開始し、同じ範囲の「オーバートラベル」を伴って走査を終了するというものである。2D検出器のスイング角(α)は、検出器の中心に基づいているので、図8に示されるように、実際の開始スイング角(α1)は、最初の2θ位置の前にβ/2のオフセットを有し、終了スイング角(α2)は、最後の2θ位置の後にβ/2のオフセットを有する。
【0032】
一様な照射時間を有する2D回折パターンを収集するためのアンダートラベルおよびオーバートラベルの使用は、2D検出器が2θ走査範囲を超えて動くための適切なスペースを、回折計システム内に必要とする。しかしながら、この追加スペースは、与えられた回折計において、常に利用可能または実践可能ではないことがある。例えば、他の機械的な構成要素(例えば、X線源、光学素子、試料モニタリングおよびアライメントシステム、もしくは試料台)などの障害物が存在することがあり、またはアンダートラベルおよびオーバートラベルのために必要なスペースは、単純に、検出器の寸法に鑑みて利用可能でないことがある。しかしながら、本明細書において後で説明されるように、アンダー/オーバートラベルを必要とせずに、一様な回折パターンを収集するための方法が提供される。
【0033】
図9に示されるシステムにおいては、図の上側に、所望の2θ範囲が表示されている。下側は、2D検出器に対する物理的な障害物を表す、2つの「ブロック」24の間の、検出器走査のために利用可能なスペースである。したがって、この例においては、物理的な検出器は、図に示される検出器位置SおよびEの間だけを走査することができる。しかしながら、本発明によれば、位置AとCの間を走査することができ、それによって、物理的な検出器がアンダートラベルおよびオーバートラベル領域内に延びる必要なしに、全2θ範囲内において一様な照射時間を可能にする「仮想検出器」が使用される。
【0034】
仮想検出器は、物理的な検出器を走査経路の端部に維持しながら、検出器表面に入射するX線のエネルギーの部分が、漸進的に増加または減少されることによって、シミュレートされる。これは、重複領域の追加走査を、その領域内に延びる物理的な検出器の部分だけを使用することによって可能にする。仮想検出器が「移動」するのにつれて、適切な領域からのX線カウントだけが円筒画像内に記憶されるように、重複領域は、しかるべく変化する。このように、ブロック24の存在にもかかわらず、必要な照射時間が全2θ範囲に対して達成され得る。
【0035】
図9の図を参照しつつ、図10のフロー図に、本発明による走査方法のステップが示されている。走査は、図9の位置Sに配置された物理的な検出器(PD)を用いて開始される(ステップ30)。この時点において、仮想検出器(VD)は位置Aに配置され、したがって、物理的な検出器と仮想検出器との間に重複は存在しない。仮想検出器は、その後、物理的な検出器があたかもアンダートラベル領域に配置されていたかのように、同じスピードまたはステップを使用して、図9の向きに関して左から右に「移動」される(ステップ32)。
【0036】
仮想検出器の第1のステップに伴い、物理的な検出器と仮想検出器との間には、ステップの幅に等しい重複が存在する。この時点において、X線カウントが、物理的な検出器によって収集されるが、それは、物理的な検出器と仮想検出器との間の重複についてだけである。すなわち、物理的な検出器の全表面が、回折されたX線によって照射され得るが、重複領域内に存在するそれらの検出器ピクセルによって検出されたX線だけが、検出器の円筒画像内に記憶される。仮想検出器は、その後、次の位置に進められ、(物理的な検出器と仮想検出器との間の増大した重複のせいで、今ではより大きい)重複領域のピクセルによって検出された、回折されたX線が、円筒画像内に記憶される。このプロセスは、仮想検出器が物理的な検出器の位置に達するまで続き、その時点において、2つの検出器の完全な重複が存在する。
【0037】
その後、物理的な走査が開始され、物理的な検出器は、同じ走査レートで進められ、検出器の全表面にわたって検出された、回折されたX線が、円筒画像内に記憶される(ステップ34)。物理的な走査は、物理的な検出器が、図9に示される位置Eに達するまで続く。この時点において、物理的な検出器は停止され、走査は、仮想検出器を用いて、第2の重複領域にわたって続けられる(ステップ36)。仮想検出器のこの移動中、重複領域内に含まれる物理的な検出器のピクセルによって検出された、回折されたX線だけが、円筒画像内に記憶される。仮想検出器が、拡大されたスペースを通って進み続けるにつれて、第2の重複領域は、漸進的により狭くなるので、したがって、円筒画像を形成する際に使用される、検出器表面に入射するX線のエネルギーの部分はしかるべく減少する。仮想検出器が、図9に示される位置Cにひとたび達すると、走査は終了され、物理的な検出器によるデータ収集は、完全に停止される(ステップ38)。
【0038】
上述の説明は仮想検出器の説明に依存しているが、これは説明のためにすぎず、実際のデータ収集は、検出器データ収集/記憶の適切なタイミングを使用して、物理的な検出器によって実行されることを当業者は理解するであろう。図11は、実際および仮想の走査ステップを使用するデータ収集の図を提供している。図は、上方からの、すなわち、測角器平面に対して直角の軸に沿った、概略図を提供している。物理的な検出器は、その走査範囲の2つの端部位置である、40(図9の位置Sに対応する)および42(図9の位置Eに対応する)に示されている。測角器の中心から発散する放射状の直線の各々は、検出器の移動範囲に沿ったステップを表す。したがって、走査中、物理的な検出器は、位置40から出発し、位置42に到着するまで、各ステップを通って進む。第1の重複領域をカバーする仮想検出器ステップは、物理的な検出器が位置40にある間に生じ、一方、第2の重複領域をカバーする仮想検出器ステップは、物理的な検出器が位置42にある間に生じる。第2の重複領域のための仮想検出器ステップは、放射状の破線として、図11に示されている。
【0039】
図11において、xは、2D検出器の水平座標軸であり、図6に示されるような軸xに対応する。垂直軸yは、図の面に対して直角であり、検出器の中心oも示されている。したがって、2D検出器のいずれの点/ピクセルの場所も、上で説明されたような、xおよびy座標によって与えられる。所望の2θ測定範囲は、2θ1と2θ2との間であり、検出器は、(検出器の中心から測定された場合)スイング角2θ1+0.5βにおいて走査を開始し、スイング角2θ2-0.5βにおいて終了する。βは、式(2)によって上で与えられた角度カバレージであり、Δαは、走査ステップの角度サイズである。実際には、連続的な検出器走査を用いて収集される画像は、投影計算のために、微細なステップでサンプリングされるべきである。連続的な走査が相対的に低スピードで行われ、かつ画像投影が非常に高スピードで行われるのでない限り、スミアリング効果が観測される。したがって、スミアリング効果が無視可能でない限り、段階的な走査が好ましい。
【0040】
走査のステップは、1,2,...,n,...,Nのように番号を付けられ、ここで、nは、任意のステップであり、Nは、最後のステップの番号である。Nは、仮想ステップおよび実際のステップを含む、ステップの総数も表す。したがって、Nは、
【0041】
【数5】
【0042】
のように表され得る。データ収集全体は、3つの区域に分割される。第1の区域は、仮想ステップ1からn1までであり、その間、検出器は、物理的には移動しないが、X線カウントを収集する。この区域の間、以下のx座標を有する領域またはピクセル上に入射するX線のエネルギーだけが、円筒画像に投影される。
【0043】
【数6】
【0044】
または
【0045】
【数7】
【0046】
第2の区域は、ステップn1とn2との間であり、その間、検出器は、所与の走査ステップを用いて、位置Sから位置Eまで移動する。この区域の間、フラットな2D検出器によって収集された、すべての領域またはピクセル上に入射するX線のエネルギーが、円筒画像に投影され、記憶される。この区域におけるステップの総数は、n2-n1である。
【0047】
第3の区域は、仮想ステップn2とNとの間である。検出器が位置Eに達したとき、それは物理的にはそれ以上移動しないが、円筒画像が一様な照射時間に達するまで、終了点2θ2に至るまで、X線カウントを収集し続ける。この区域においては、以下のx座標を有する領域またはピクセル上に入射するX線のエネルギーだけが、円筒画像に投影され、記憶される。
【0048】
【数8】
【0049】
または
【0050】
【数9】
【0051】
上述の手順は、アンダートラベルおよびオーバートラベルスペースが利用可能でないことを仮定している。しかしながら、実際には、所望の2θ範囲を超えて、ある程度の利用可能なスペースが存在することがある。上で説明されたのと同じ原理および方法に基づいて、当業者は、利用可能な追加スペースを使用するための、対応する方法を生成することができる。そのような方法は、限定されることなく、以下のケースを含んでよい。
- アンダートラベルのためにはスペースが利用可能であるが、オーバートラベルのためには利用可能でない。
- アンダートラベルのためにはスペースが利用可能でないが、オーバートラベルのためには利用可能である。
- アンダートラベルのためには部分的にスペースが利用可能であるが、オーバートラベルのためには利用可能でない。
- アンダートラベルのためにはスペースが利用可能でないが、オーバートラベルのためには部分的に利用可能である。
- アンダートラベルおよびオーバートラベル両方のために部分的にスペースが利用可能である。
これらのケース(および他のケース)の各々において、仮想走査の概念に基づいた手順および方法に従うことによって、2D回折パターンが、検出器の2つの端部位置間の全2θ範囲について、収集されることができる。
【0052】
本発明の代替的実施形態においては、回折強度を照射時間によって正規化することによって、アンダートラベルまたはオーバートラベルなしに、回折パターンが、収集される。図12は、このプロセスの概略図を提供しており、いかなる追加トラベルも妨げるブロック24を有する、検出器の2θ範囲を示している。この実施形態においては、仮想検出器の概念を使用する上述の実施形態におけるように、物理的な検出器において、どのピクセルがアクティブになるかを制御するのではなく、物理的な検出器のピクセルのすべてによって収集されたX線のエネルギーが、走査のすべての位置のために使用されるが、検出器は、データ収集の延長期間にわたって、端部位置において止まったままである。これは、いくつかの領域について、より長い照射時間をもたらすが、走査範囲の端部において、必要な最小照射時間を保証する。
【0053】
図12に示されるように、物理的な検出器は、位置Sから出発するが、直ちに走査移動を開始するのではなく、それは、検出器の角度範囲を走査するのに必要な時間に等しい期間にわたって、位置Sに留まる。例えば、図11に示されるパラメータを使用すると、通常走査モード中のデータ収集が、各走査位置について、Δtの照射時間を有する場合、位置Sにおける総照射時間TSは、TS=Δt(β/Δα)である。この期間の後、通常走査が開始し、検出器は、反対の端部に達するまでの後続の各位置において、Δtの照射時間にわたるデータ収集を行いながら、走査範囲にわたって移動する。位置Eにおいて、検出器の物理的な移動は停止するが、位置Sにおいて生じたように、TSの延長された照射時間が存在する。
【0054】
この方法は、走査位置の各々について、最小照射時間が存在することを保証するが、それは、他よりも長い期間にわたって照射される、いくつかの走査領域も生み出す。これは、図12の上側部分に見られることができ、それは、走査範囲の端部位置における延長されたデータ収集のせいで、いくつかの走査領域については、より長い全照射時間が存在することを示している。一様な照射時間に基づいた強度を有する、最終的な2D画像を取得するために、最終的なピクセルカウントは、照射時間によって正規化されることができる。しかしながら、正規化は、強度(ピクセルカウント)だけを変化させることができ、計数統計は変化させない。したがって、そのような非一様な計数統計が誤解を招く結果を生む、X線回折の応用例については、仮想走査概念を使用する上記で説明された方法が、より信頼性の高い回折データを生成する。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12