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特許7113694鉄心製品の製造方法及び鉄心製品の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】鉄心製品の製造方法及び鉄心製品の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20220729BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018144335
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020022271
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】福本 崇
(72)【発明者】
【氏名】吉田 康平
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 純也
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-159245(JP,A)
【文献】特開昭53-099401(JP,A)
【文献】特開2013-059185(JP,A)
【文献】特開2015-192574(JP,A)
【文献】特開2018-068059(JP,A)
【文献】特開2007-318942(JP,A)
【文献】特開2002-247784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心本体に含まれる磁石挿入孔であって、永久磁石が配置された前記磁石挿入孔内に、溶融樹脂を第1の圧力で注入することと、
前記磁石挿入孔への前記溶融樹脂の充填後で且つ前記溶融樹脂の硬化前に、前記溶融樹脂に付与される圧力を前記第1の圧力よりも小さい第2の圧力とすることとを含む、鉄心製品の製造方法。
【請求項2】
前記溶融樹脂に付与される圧力を前記第2の圧力とすることは、前記磁石挿入孔への前記溶融樹脂の充填後で且つ前記溶融樹脂のゲルタイムが経過する前に、前記溶融樹脂に付与される圧力を前記第2の圧力とすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶融樹脂を前記第1の圧力で注入することは、射出圧力が前記第1の圧力に設定されたプランジャで前記溶融樹脂を前記磁石挿入孔内に押し出すことを含み、
前記溶融樹脂に付与される圧力を前記第2の圧力とすることは、前記プランジャの射出圧力を前記第2の圧力に変更することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鉄心本体に含まれる他の磁石挿入孔であって、他の永久磁石が配置された前記他の磁石挿入孔内に、他の溶融樹脂を前記第1の圧力と異なる第3の圧力で注入することと、
前記他の磁石挿入孔への前記他の溶融樹脂の充填後で且つ前記他の溶融樹脂の硬化前に、前記他の溶融樹脂に付与される圧力を前記第3の圧力よりも小さい第4の圧力とすることとをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記磁石挿入孔は前記鉄心本体の周方向に沿って延びており、
前記他の磁石挿入孔は、前記鉄心本体の高さ方向から見たときに前記磁石挿入孔の長手方向と交差する方向に沿って延びている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の圧力は前記第3の圧力よりも小さく設定されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
鉄心本体に溶融樹脂を注入するように構成された樹脂注入装置と、
制御部とを備え、
前記制御部は、
前記鉄心本体に含まれる磁石挿入孔であって、永久磁石が配置された前記磁石挿入孔内に、溶融樹脂を第1の圧力で注入するように、前記樹脂注入装置を制御することと、
前記磁石挿入孔への前記溶融樹脂の充填後で且つ前記溶融樹脂の硬化前に、前記溶融樹脂に付与される圧力が前記第1の圧力よりも小さい第2の圧力となるように、前記樹脂注入装置を制御することとを実行する、鉄心製品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄心製品の製造方法及び鉄心製品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、一対の型(上型及び下型)と、複数のプランジャとを備える樹脂充填装置を開示している。下型は、複数の磁石挿入孔が設けられた鉄心本体を載置可能に構成されている。上型は、下型と共に鉄心本体を上下方向において挟持するように構成されている。上型には、上下方向に延びる複数の樹脂ポットが設けられている。各プランジャは、対応するポット内において進退可能に構成されている。
【0003】
特許文献1に記載の樹脂充填装置を用いて、鉄心本体の各磁石挿入孔に溶融状態の樹脂(溶融樹脂)を充填することにより、回転子鉄心が製造される。具体的には、回転子鉄心の製造方法は、各磁石挿入孔に磁石が挿入された鉄心本体を、上型及び下型で挟持することと、各ポット内から溶融樹脂を各プランジャによって押し出して、各磁石挿入孔に溶融樹脂を注入することとを含む。これにより、各磁石挿入孔内の永久磁石が樹脂封止され、回転子鉄心が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-059185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁石挿入孔内に樹脂の未充填領域が発生することがないよう、ポット内の溶融樹脂は所定の圧力でプランジャにより磁石挿入孔に注入される。このときの圧力の設定値によっては、溶融樹脂を介して磁石挿入孔が加圧され、鉄心本体が膨らんでしまうことがある。この場合、得られた回転子鉄心の外形と設計寸法との間にずれが生じ、回転子鉄心の性能に影響が生じうる。
【0006】
そこで、本開示は、溶融樹脂の注入に伴う鉄心製品の膨らみを抑制することが可能な鉄心製品の製造方法及び鉄心製品の製造装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一つの観点に係る鉄心製品の製造方法は、鉄心本体に含まれる磁石挿入孔であって、永久磁石が配置された磁石挿入孔内に、溶融樹脂を第1の圧力で注入することと、磁石挿入孔への溶融樹脂の注入後で且つ溶融樹脂の硬化前に、溶融樹脂に付与される圧力を第1の圧力よりも小さい第2の圧力とすることとを含む。
【0008】
本開示の他の観点に係る鉄心製品の製造方法は、鉄心本体に溶融樹脂を注入するように構成された樹脂注入装置と、制御部とを備える。制御部は、鉄心本体に含まれる磁石挿入孔であって、永久磁石が配置された磁石挿入孔内に、溶融樹脂を第1の圧力で注入するように、樹脂注入装置を制御することと、磁石挿入孔への溶融樹脂の注入後で且つ溶融樹脂の硬化前に、溶融樹脂に付与される圧力が第1の圧力よりも小さい第2の圧力となるように、樹脂注入装置を制御することとを実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る鉄心製品の製造方法及び鉄心製品の製造装置によれば、溶融樹脂の注入に伴う鉄心製品の膨らみを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、回転子積層鉄心の一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線断面図である。
図3図3は、回転子積層鉄心の製造装置の一例を示す概略図である。
図4図4は、磁石取付装置により回転子積層鉄心の磁石挿入孔に永久磁石を取り付ける一例を説明するための断面図である。
図5図5は、図4の後の工程を説明するための断面図である。
図6図6は、磁石取付装置により回転子積層鉄心の磁石挿入孔に永久磁石を取り付ける他の例を説明するための断面図である。
図7図7は、図6の後の工程を説明するための断面図である。
図8図8は、回転子積層鉄心の他の例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0012】
[回転子積層鉄心の構成]
まず、図1及び図2を参照して、回転子積層鉄心1の構成について説明する。回転子積層鉄心1は、回転子(ロータ)の一部である。回転子は、図示しない端面板及びシャフトが回転子積層鉄心1に取り付けられることにより構成される。回転子が固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。本実施形態における回転子積層鉄心1は、埋込磁石型(IPM)モータに用いられる。
【0013】
回転子積層鉄心1は、図1に示されるように、積層体10(鉄心本体)と、複数の永久磁石12と、複数の固化樹脂14とを備える。
【0014】
積層体10は、図1に示されるように、円筒状を呈している。積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する軸孔10aが設けられている。すなわち、軸孔10aは、積層体10の高さ方向(積層方向)に延びている。本実施形態において積層体10は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸でもある。軸孔10a内には、シャフトが挿通される。
【0015】
積層体10には、複数の磁石挿入孔16が形成されている。磁石挿入孔16は、図1に示されるように、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16は、図2に示されるように、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通している。
すなわち、磁石挿入孔16は高さ方向に延びている。
【0016】
磁石挿入孔16の形状は、本実施形態では、積層体10の外周縁に沿って延びる長孔である。磁石挿入孔16の数は、本実施形態では6個である。複数の磁石挿入孔16は、上方から見て、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16の位置、形状及び数は、モータの用途、要求される性能などに応じて変更してもよい。
【0017】
積層体10は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、後述する電磁鋼板ESが所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。積層体10は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に積層体10の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0018】
高さ方向において隣り合う打抜部材W同士は、図1及び図2に示されるように、カシメ部18によって締結されていてもよい。これらの打抜部材W同士は、カシメ部18に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。例えば、複数の打抜部材W同士は、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して積層体10を得た後、仮カシメを当該積層体から除去してもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ製品(回転子積層鉄心1)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0019】
永久磁石12は、図1及び図2に示されるように、各磁石挿入孔16内に一つずつ挿入されている。永久磁石12の形状は、特に限定されないが、本実施形態では直方体形状を呈している。永久磁石12の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて決定すればよく、例えば、焼結磁石であってもよいし、ボンド磁石であってもよい。
【0020】
固化樹脂14は、永久磁石12が挿入された後の磁石挿入孔16内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填された後に当該溶融樹脂が固化したものである。固化樹脂14は、永久磁石12を磁石挿入孔16内に固定する機能と、高さ方向で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。固化樹脂14を構成する樹脂材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0021】
[回転子積層鉄心の製造装置]
続いて、図3及び図4を参照して、回転子積層鉄心1の製造装置100について説明する。
【0022】
製造装置100は、帯状の金属板である電磁鋼板ES(被加工板)から回転子積層鉄心1を製造するための装置である。製造装置100は、アンコイラー110と、送出装置120と、打抜装置130と、磁石取付装置200(樹脂注入装置)と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0023】
アンコイラー110は、コイル状に巻回された帯状の電磁鋼板ESであるコイル材111が装着された状態で、コイル材111を回転自在に保持する。送出装置120は、電磁鋼板ESを上下から挟み込む一対のローラ121,122を有する。一対のローラ121,122は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置130に向けて間欠的に順次送り出す。
【0024】
打抜装置130は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。打抜装置130は、送出装置120によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0025】
積層体10は、打抜装置130から排出されると、打抜装置130と磁石取付装置200との間を延びるように設けられたコンベアCvに載置される。コンベアCvは、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10を磁石取付装置200に送り出す。なお、打抜装置130と磁石取付装置200との間において、積層体10はコンベアCv以外によって搬送されてもよい。例えば、積層体10は、コンテナに載置された状態で、人手によって搬送されてもよい。
【0026】
磁石取付装置200は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。磁石取付装置200は、各磁石挿入孔16に永久磁石12を挿通する機能と、永久磁石12が挿通された磁石挿入孔16内に溶融樹脂を充填する機能とを有する。磁石取付装置200は、図4に詳しく示されるように、下型210と、上型220と、複数のプランジャ230とを含む。
【0027】
下型210は、ベース部材211と、ベース部材211に設けられた挿通ポスト212とを含む。ベース部材211は、板状部材であり、例えば矩形状、円形状を呈している。ベース部材211は、積層体10を載置可能に構成されている。挿通ポスト212は、ベース部材211の略中央部に位置しており、ベース部材211の上面から上方に向けて突出している。挿通ポスト212は、円柱形状を呈しており、積層体10の軸孔10aに対応する外形を有する。
【0028】
上型220は、下型210と共に積層体10を高さ方向において挟持可能に構成されている。上型220が下型210と共に積層体10を挟持する際、積層体10には高さ方向から所定の荷重が付与される。
【0029】
上型220は、ベース部材221と、内蔵熱源222とを含む。ベース部材221は、矩形状を呈する板状部材である。ベース部材221には、一つの貫通孔221aと、複数の収容孔221bとが設けられている。貫通孔221aは、ベース部材221の略中央部に位置している。貫通孔221aは、挿通ポスト212に対応する形状(略円形状)を呈しており、挿通ポスト212が挿通可能である。
【0030】
複数の収容孔221bは、ベース部材221を貫通しており、貫通孔221aの周囲に沿って所定間隔で並んでいる。各収容孔221bは、下型210及び上型220が積層体10を挟持した際に、積層体10の磁石挿入孔16にそれぞれ対応する箇所に位置している。各収容孔221bは、円柱形状を呈しており、少なくとも一つの樹脂ペレットPを収容可能である。
【0031】
内蔵熱源222は、例えば、ベース部材221に内蔵されたヒータである。内蔵熱源222が動作すると、ベース部材221が加熱され、ベース部材221に接触している積層体10が加熱されると共に、各収容孔221bに収容された樹脂ペレットPが加熱される。これにより、樹脂ペレットPが溶融して溶融樹脂に変化する。
【0032】
複数のプランジャ230は、上型220の上方に位置している。各プランジャ230はそれぞれ、駆動源231と接続されている。各駆動源231は、コントローラCtrからの指示に基づいて、対応するプランジャ230を動作させるように構成されている。そのため、各プランジャ230は、駆動源231によって、対応する収容孔221bに対してそれぞれ独立して挿抜可能となるように構成されている。
【0033】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、打抜装置130及び磁石取付装置200をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、これらに当該指示信号をそれぞれ送信する。
【0034】
[回転子積層鉄心の製造方法]
続いて、図4及び図5を参照して、回転子積層鉄心1の製造方法について説明する。ここでは、打抜装置130により積層体10を形成する工程の説明は省略し、その後の工程について説明する。
【0035】
まず、積層体10を磁石取付装置200に搬送して、図4に示されるように、挿通ポスト212が軸孔10aに挿通された状態となるように磁石取付装置200の下型210に積層体10を載置する。次に、各磁石挿入孔16内に永久磁石12を挿入する。各磁石挿入孔16内への永久磁石12の挿入は、人手で行われてもよいし、コントローラCtrの指示に基づいて、磁石取付装置200が備えるロボットハンド(図示せず)等により行われてもよい。
【0036】
次に、上型220を積層体10上に載置する。その後、積層体10は、下型210及び上型220で高さ方向から挟持され、積層体10が加圧される。次に、各収容孔221bに樹脂ペレットPを投入する。上型220の内蔵熱源222により樹脂ペレットPが溶融状態となると、コントローラCtrが各駆動源231を制御し、プランジャ230から溶融樹脂Mに付与される射出圧力が圧力P1(第1の圧力)となるように、溶融樹脂Mをプランジャ230によって各磁石挿入孔16内に注入する。このとき、積層体10は、内蔵熱源222により、例えば150℃~180℃程度に加熱される。
【0037】
次に、溶融樹脂Mが磁石挿入孔16に充填された後で且つ溶融樹脂Mの硬化前に、コントローラCtrが各駆動源231を制御し、プランジャ230の射出圧力を圧力P2(第2の圧力)に変更する。圧力P2は、圧力P1よりも小さく設定されている。プランジャ230の位置はプランジャ230の射出圧力と比例するので、圧力P1から圧力P2と小さくなることにより、プランジャ230は溶融樹脂Mよって外側に押し戻される(図5の矢印Ar1参照)。
【0038】
圧力P2は、例えば、圧力P1の3/4以下であってもよいし、圧力P1の1/2以下であってもよい。圧力P1を圧力P2に変更するタイミングは、溶融樹脂Mが磁石挿入孔16に充填された後で且つ溶融樹脂Mの硬化前であれば特に限定されないが、溶融樹脂Mが磁石挿入孔16に充填された後で且つ溶融樹脂Mのゲルタイムが経過する前であってもよい。
【0039】
その後、溶融樹脂Mが固化すると、図5に示されるように、磁石挿入孔16内に固化樹脂14が形成される。こうして、積層体10に永久磁石12が固化樹脂14と共に取り付けられる。磁石取付装置200から積層体10が取り出されると、回転子積層鉄心1が完成する。
【0040】
[作用]
以上の実施形態では、磁石挿入孔16への溶融樹脂Mの注入後で且つ溶融樹脂Mの硬化前に、溶融樹脂Mに作用する圧力が圧力P1から圧力P2へと変化する。すなわち、溶融樹脂Mが流動性を失っていない固化する前の状態において、溶融樹脂Mに作用する圧力が小さくなる。そのため、圧力の変化に伴い溶融樹脂Mの一部が磁石挿入孔16の外側(収容孔221b内)に戻るので、溶融樹脂Mから磁石挿入孔16に作用する圧力も小さくなる。従って、溶融樹脂Mの注入に伴う回転子積層鉄心1の膨らみを抑制することが可能となる。その結果、設計寸法に沿った外形を有する回転子積層鉄心1を得ることが可能となる。
【0041】
以上の実施形態では、溶融樹脂Mが磁石挿入孔16に充填された後で且つ溶融樹脂Mのゲルタイムが経過する前に、圧力P1が圧力P2に変更されうる。すなわち、溶融樹脂Mの粘度が大幅に高まる前に、溶融樹脂Mに作用する圧力が圧力P1から圧力P2へと変化する。この場合、流動性がより高い状態にて溶融樹脂Mの一部が磁石挿入孔16の外側(収容孔221b内)に戻るので、溶融樹脂Mから磁石挿入孔16に作用する圧力がより小さくなる。そのため、溶融樹脂の注入に伴う鉄心製品の膨らみをより抑制することが可能となる。
【0042】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0043】
(1)上記の実施形態では、プランジャ230の射出圧力を変更することにより、溶融樹脂Mを収容孔221bに戻していたが、溶融樹脂Mが射出される収容孔221bとは異なる空間に溶融樹脂Mの一部を流入させてもよい。具体的には、図6に示されるように、磁石取付装置200は、下型210に複数の貫通孔211aが設けられており、これらの貫通孔211aにプランジャ240が一つずつ挿抜可能に配置されていてもよい。複数のプランジャ240にそれぞれ接続された各駆動源241は、コントローラCtrからの指示に基づいて、対応するプランジャ240を動作させるように構成されている。
【0044】
続いて、図6に例示される磁石取付装置200の動作について説明する。まず、コントローラCtrは、各駆動源241に指示して、プランジャ240の先端がベース部材211の上面と略一致する上死点に位置するように、プランジャ240を位置決めする。この状態で、コントローラCtrは、各駆動源231に指示して、プランジャ230から溶融樹脂Mに付与される射出圧力が圧力P1となるように、溶融樹脂Mをプランジャ230によって各磁石挿入孔16内に注入する。
【0045】
次に、プランジャ230から溶融樹脂Mに圧力を付与したままの状態で、溶融樹脂Mが磁石挿入孔16に充填された後で且つ溶融樹脂Mの硬化前に、コントローラCtrが各駆動源241を制御し、プランジャ240を降下させる(図7の矢印Ar2参照)。こうして、プランジャ240の上面と貫通孔211aとで形成される空間がベース部材211に形成され、溶融樹脂Mの一部が当該空間に流入する。プランジャ240の降下量は、プランジャ240の降下後に溶融樹脂Mに作用する圧力P2が圧力P1よりも小さくなるように設定される。なお、プランジャ240の降下に伴い、プランジャ230も降下してもよい(図7の矢印Ar3参照)。この場合、プランジャ240の降下量は、プランジャ230,240の降下後に溶融樹脂Mに作用する圧力P2が圧力P1よりも小さくなるように設定される。
【0046】
(2)図8に示されるように、複数の磁石挿入孔によって構成される組が、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいてもよい。図8(a)に示される例では、一つの磁石挿入孔16Aと一つの磁石挿入孔16Aとで一組の孔ユニット16Aをなしており、8組の孔ユニット16Aが積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16Aは、積層体10の周方向に沿って延びている。磁石挿入孔16Aは、積層体10の外周縁近傍から内周縁近傍にかけて延びている。具体的には、積層体10の高さ方向から見たときに、磁石挿入孔16Aは、磁石挿入孔16Aの長手方向と交差するように延びている。なお、磁石挿入孔16Aの長手方向と交差する方向には積層体10の径方向も含まれる。
【0047】
磁石挿入孔16Aに溶融樹脂を注入する際の圧力P1は、磁石挿入孔16Aに溶融樹脂を注入する際の圧力P3(第3の圧力)と異なっていてもよい。磁石挿入孔16A,Aへの溶融樹脂Mの充填後で且つ溶融樹脂Mの硬化前に、磁石挿入孔16Aの溶融樹脂Mに作用する圧力が圧力P1から圧力P2へと変化し、磁石挿入孔16A(他の磁石挿入孔)の溶融樹脂M(他の溶融樹脂)に作用する圧力が圧力P3から圧力P4(第4の圧力)へと変化してもよい。圧力P4は、圧力P3よりも小さく設定されている。圧力P4は、例えば、圧力P3の3/4以下であってもよいし、圧力P3の1/2以下であってもよい。この場合、溶融樹脂Mの注入の際の圧力が、磁石挿入孔16A,16Aごとに独立して設定される。そのため、磁石挿入孔の大きさ、形状、位置等に応じて、適切な圧力で溶融樹脂を磁石挿入孔に注入することが可能となる。
【0048】
ところで、磁石挿入孔16Aが積層体10の周方向に沿って延びる場合には、積層体10の周面に対する磁石挿入孔16Aの投影面積が大きくなる傾向にある。そのため、当該磁石挿入孔16Aに溶融樹脂Mが注入されると、積層体10の周面に向けて作用する溶融樹脂Mの力がより大きくなり、回転子積層鉄心1が膨らみやすくなる傾向にある。そこで、上記の圧力P1は、圧力P3よりも小さく設定されていてもよい。すなわち、積層体10の周方向に沿って延びる磁石挿入孔16Aに溶融樹脂Mを注入する際の圧力P1は、積層体10の径方向に沿って延びる磁石挿入孔16Aに溶融樹脂Mを注入する際の圧力P3よりも小さくてもよい。この場合、磁石挿入孔16Aから積層体10の周面に向けて作用する力が相対的に小さくなる。従って、溶融樹脂Mの注入に伴う回転子積層鉄心1の膨らみを更に抑制することが可能となる。
【0049】
図8(b)に示される例では、一つの磁石挿入孔16Bと二つの磁石挿入孔16Bとで一組の孔ユニット16Bをなしており、8組の孔ユニット16Bが積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16Bは、積層体10の周方向に沿って延びている。磁石挿入孔16Bは、積層体10の外周縁近傍から内周縁近傍にかけて延びている。具体的には、積層体10の高さ方向から見たときに、磁石挿入孔16Bは、磁石挿入孔16Bの長手方向と交差するように延びている。なお、磁石挿入孔16Bの長手方向と交差する方向には積層体10の径方向も含まれる。磁石挿入孔16B,16Bに溶融樹脂を注入する際の圧力の関係は、上述した、磁石挿入孔16A,16Aに溶融樹脂を注入する際の圧力の関係と同様であってもよい。
【0050】
(3)図8に示される例のように、複数の磁石挿入孔によって一組の孔ユニットが構成されている場合、一組の孔ユニットを構成する複数の磁石挿入孔と積層体10の外周面との距離に応じて、それぞれの磁石挿入孔に溶融樹脂Mを注入する際の圧力を変えてもよい。例えば、磁石挿入孔の位置が積層体10の外周面に近いほど、当該磁石挿入孔に溶融樹脂Mを注入する際の圧力を低く設定してもよい。
【0051】
(4)上記の実施形態では、下型210に積層体10を載置した後に、各磁石挿入孔16内に永久磁石12を挿入していたが、各磁石挿入孔16内に永久磁石12が挿入された状態の積層体10を下型210に載置してもよい。
【0052】
(5)2つ以上の永久磁石12が組み合わされた一組の磁石組が、一つの磁石挿入孔16内にそれぞれ挿入されていてもよい。この場合、一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が磁石挿入孔16の長手方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が磁石挿入孔16の延在方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が当該長手方向に並ぶと共に複数の永久磁石12が当該延在方向において並んでいてもよい。
【0053】
(6)上記の実施形態では、複数の打抜部材Wが積層されてなる積層体10が、永久磁石12が取り付けられる鉄心本体として機能していたが、鉄心本体が積層体10以外で構成されていてもよい。具体的には、鉄心本体は、例えば、強磁性体粉末が圧縮成形されたものであってもよいし、強磁性体粉末を含有する樹脂材料が射出成形されたものであってもよい。
【0054】
(7)回転子積層鉄心1以外の鉄心製品(例えば、固定子積層鉄心)に本技術を適用してもよい。具体的には、固定子積層鉄心と巻線との間を絶縁するための樹脂膜を固定子積層鉄心のスロットの内周面に設ける際に、本技術を適用してもよい。固定子積層鉄心としては、複数の鉄心片が組み合わされてなる分割型の固定子積層鉄心であってもよいし、非分割型の固定子積層鉄心であってもよい。
【0055】
(8)鉄心以外のモールド成形体に本技術を適用してもよい。例えば、リードフレームに搭載された半導体チップを樹脂モールドして、半導体パッケージを製造する際に、本技術を適用してもよい。
【0056】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る鉄心製品の製造方法は、鉄心本体に含まれる磁石挿入孔であって、永久磁石が配置された磁石挿入孔内に、溶融樹脂を第1の圧力で注入することと、磁石挿入孔への溶融樹脂の注入後で且つ溶融樹脂の硬化前に、溶融樹脂に付与される圧力を第1の圧力よりも小さい第2の圧力とすることとを含む。この場合、磁石挿入孔への溶融樹脂の注入後で且つ溶融樹脂の硬化前に、溶融樹脂に作用する圧力が第1の圧力から第2の圧力へと変化する。すなわち、溶融樹脂が流動性を失っていない固化する前の状態において、溶融樹脂に作用する圧力が小さくなる。そのため、圧力の変化に伴い溶融樹脂の一部が磁石挿入孔の外側に流動するので、溶融樹脂から磁石挿入孔に作用する圧力も小さくなる。従って、溶融樹脂の注入に伴う鉄心製品の膨らみを抑制することが可能となる。その結果、設計寸法に沿った外形を有する鉄心製品を得ることが可能となる。
【0057】
例2.例1の方法において、溶融樹脂に付与される圧力を第2の圧力とすることは、磁石挿入孔への溶融樹脂の注入後で且つ溶融樹脂のゲルタイムが経過する前に、溶融樹脂に付与される圧力を第2の圧力とすることを含んでいてもよい。本明細書において、「ゲルタイム」とは、JIS K 7071-1998「炭素繊維及びエポキシ樹脂からなるプリプレグの試験方法」に準じて、所定の硬化温度において溶融樹脂がゲル化に至るまでの時間をいうものとする。「ゲル化」とは、JIS K 7071-1998「炭素繊維及びエポキシ樹脂からなるプリプレグの試験方法」に準じて、溶融樹脂が加熱によって硬化する中間段階で急激に粘度が増大してゼリー状となることをいうものとする。例2によれば、溶融樹脂の粘度が大幅に高まる前に、溶融樹脂に作用する圧力が第1の圧力から第2の圧力へと変化する。そのため、流動性がより高い状態にて溶融樹脂の一部が磁石挿入孔の外側に流動するので、溶融樹脂から磁石挿入孔に作用する圧力がより小さくなる。従って、溶融樹脂の注入に伴う鉄心製品の膨らみを更に抑制することが可能となる。
【0058】
例3.例1又は例2の方法において、溶融樹脂を第1の圧力で注入することは、射出圧力が第1の圧力に設定されたプランジャで溶融樹脂を磁石挿入孔内に押し出すことを含み、溶融樹脂に付与される圧力を第2の圧力とすることは、プランジャの射出圧力を第2の圧力に変更することを含んでいてもよい。この場合、溶融樹脂に作用する圧力の大きさを、プランジャを介して容易に設定することが可能となる。
【0059】
例4.例1又は例2の方法は、鉄心本体に含まれる他の磁石挿入孔であって、他の永久磁石が配置された他の磁石挿入孔内に、他の溶融樹脂を第1の圧力と異なる第3の圧力で注入することと、他の磁石挿入孔への他の溶融樹脂の注入後で且つ他の溶融樹脂の硬化前に、他の溶融樹脂に付与される圧力を第3の圧力よりも小さい第4の圧力とすることとをさらに含んでいてもよい。この場合、溶融樹脂の注入の際の圧力が、磁石挿入孔ごとに独立して設定される。そのため、磁石挿入孔の大きさ、形状、位置等に応じて、適切な圧力で溶融樹脂を磁石挿入孔に注入することが可能となる。
【0060】
例5.例4の方法において、磁石挿入孔は鉄心本体の周方向に沿って延びており、他の磁石挿入孔は、鉄心本体の高さ方向から見たときに磁石挿入孔の長手方向と交差する方向に沿って延びていてもよい。
【0061】
例6.例5の方法において、第1の圧力は第3の圧力よりも小さく設定されていてもよい。ところで、磁石挿入孔が鉄心本体の周方向に沿って延びる場合には、鉄心本体の周面に対する磁石挿入孔の投影面積が大きくなる傾向にある。そのため、磁石挿入孔に溶融樹脂が注入されると、鉄心本体の周面に向けて作用する溶融樹脂の力がより大きくなり、鉄心製品が膨らみやすくなる傾向にある。しかしながら、例6によれば、鉄心本体の周方向に沿って延びる磁石挿入孔に注入される溶融樹脂の圧力が、鉄心本体の径方向に沿って延びる他の磁石挿入孔に注入される溶融樹脂の圧力よりも小さく設定されている。そのため、磁石挿入孔から鉄心本体の周面に向けて作用する力が小さくなる。従って、溶融樹脂の注入に伴う鉄心製品の膨らみを更に抑制することが可能となる。
【0062】
例7.本開示の他の例に係る鉄心製品の製造装置は、鉄心本体に溶融樹脂を注入するように構成された樹脂注入装置と、制御部とを備える。制御部は、鉄心本体に含まれる磁石挿入孔であって、永久磁石が配置された磁石挿入孔内に、溶融樹脂を第1の圧力で注入するように、樹脂注入装置を制御することと、磁石挿入孔への溶融樹脂の注入後で且つ溶融樹脂の硬化前に、溶融樹脂に付与される圧力が第1の圧力よりも小さい第2の圧力となるように、樹脂注入装置を制御することとを実行する。この場合、例1の方法と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
1…回転子積層鉄心、10…積層体(鉄心本体)、12…永久磁石、14…固化樹脂、100…製造装置、130…打抜装置、200…磁石取付装置(樹脂注入装置)、230…プランジャ、Ctr…コントローラ(制御部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8