IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水澤化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-MFI型ゼオライト 図1
  • 特許-MFI型ゼオライト 図2
  • 特許-MFI型ゼオライト 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】MFI型ゼオライト
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20220729BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20220729BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220729BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J20/18 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018149592
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2019034879
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2017157248
(32)【優先日】2017-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】皆川 円
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理世
(72)【発明者】
【氏名】荻野 智大
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-537938(JP,A)
【文献】特開2004-143035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
B01J 20/18
B01J 20/28
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Al(モル比)が30以上のMFI型ゼオライトであって、水銀圧入法による細孔分布において、細孔直径が30~200nmのマクロ孔の細孔容積が0.34~1.0ml/gの範囲にあると共に、前記水銀圧入法による細孔分布において、細孔直径が3.6~30nmのメソ孔の細孔容積が0.01~0.5ml/gの範囲にあり、前記マクロ孔と前記メソ孔との容積比がマクロ孔/メソ孔=2~6であることを特徴とするMFI型ゼオライト。
【請求項2】
300m/g以上のBET比表面積を有している請求項に記載のMFI型ゼオライト。
【請求項3】
X線回折スペクトルにおいて(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下である請求項1~に記載のMFI型ゼオライト。
【請求項4】
シリカ源及びテンプレートが水乃至アルカリ性水溶液に溶解乃至分散されている原料液(A)と、アルミナ源が水乃至アルカリ性水溶液に溶解乃至分散された原料液(B)を用意する工程;
SiO/Al(モル比)が30以上となるように、前記原料液(A)中に、原料液(B)を注加する原料混合工程;
前記原料混合工程で得られた原料混合液を60~95℃の熟成温度に維持して熟成を行い、シリカ源とアルミナ源とを含む熟成混合ゲルを生成させる熟成工程;
前記混合ゲルを、常圧下、80~99℃の前記熟成温度よりも高い結晶化温度に保持してMFI型ゼオライトを生成させる結晶化反応工程;
生成した結晶を焼成し、テンプレートを消失させる細孔画定工程;
を含むことを特徴とするMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記原料混合工程において、原料液(B)の注加を20分以上かけて行う請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記熟成工程において、前記原料混合液を前記熟成温度に1~96時間維持させる請求項4~5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料液(A)は、シリカ源の一部としてケイ酸アルカリを含有している請求項4~6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記結晶化反応工程の前に、種晶(C)を添加混合する種晶混合工程を有する請求項4~7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記種晶(C)としてMFI型ゼオライトが用いられ、種晶の量が、混合ゲル中のSiO100質量部当り0.05~10質量部の量である請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記種晶(C)が、10μm以下の単粒子径を有する微粒子であり、該微粒子がアルカリ水溶液中に分散している状態で、混合ゲルに添加される請求項8または9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な細孔構造を有するMFI型ゼオライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、SiO、Al等を骨格に持ち、規則的なチャンネル(細孔)を有する結晶性のアルミノケイ酸塩である。特にMFI型ゼオライトはシリカリッチであり、10員環構造の細孔(5.1×5.5Å及び/又は5.3×5.6Å)を含むものとして広く知られている。
【0003】
ゼオライトの結晶骨格中のAlは、親水性に影響を与えAl量が多いほど親水性が高く、少ないほど親水性が低下することが知られている。シリカリッチなMFI型ゼオライトは、Al量が少ないため親水性が低く、従って、疎水性の有機成分に対して高い吸着性を示し、更に、低分子量炭化水素の大きさに近い細孔径を有していることから、有機化合物に対する吸着剤としての使用が提案されている(特許文献1~3参照)。
また、ゼオライトの結晶骨格中のAlは固体酸点として働くことが知られており、上記したように芳香族の分子直径に近い細孔を有することから、MFI型ゼオライトを炭化水素芳香族化用触媒もしくは触媒担体として使用することも広く知られており、MFI型ゼオライトが固体酸触媒もしくは触媒担体として用いられる場合は、活性点を多く持つ比較的Al含有量の多いものもしばしば利用される(特許文献4参照)。
【0004】
上述した種々のMFI型ゼオライトは、シリカ源とアルミナ源とを含む混合ゲル中で、テンプレート及び必要により種晶を添加して加熱することによりシリカ源とアルミナ源とを反応させることにより得られるものであるが、本発明者等の研究によると、このような方法で得られるMFI型ゼオライトは、結晶学的に言って、(053)面の面間隔が2.99Åよりも大きいという性質を有することが判っている。この面間隔が大きいことは、ゼオライトの結晶構造或いは細孔構造中に形成した歪もしくはゆがみによるものであると、本発明者等は考えている。
【0005】
本発明者等は、上記のようなMFI型ゼオライト中に生じる歪やゆがみについて検討し、特にシリカ源とアルミナ源との反応(結晶化)を100℃よりも低い低温で且つ常圧下で行うことにより、このような歪やゆがみが抑制され、(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下のMFI型ゼオライトが得られることを見出し、このようなMFI型ゼオライトを揮発性有機化合物吸着剤として特許出願している(PCT/JP2017/005755)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開H01-171554号公報
【文献】特開H09-253483号公報
【文献】特開2003-126689号公報
【文献】特開2001-62305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、上記のような(053)面の面間隔が2.99Å以下のMFI型ゼオライトについて研究をさらに推し進め、この製造過程で使用されるシリカ源とアルミナ源の混合工程乃至熟成工程、反応工程の条件を制御することにより、触媒や吸着剤として用いた時に有効な、マクロポアが多く存在するという極めて特異な細孔構造のMFI型ゼオライトが得られるという知見を得た。
【0008】
従って、本発明の目的は、マクロポアが多く形成している新規な細孔構造のMFI型ゼオライトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、SiO/Al(モル比)が30以上のMFI型ゼオライトであって、
水銀圧入法による細孔分布において、細孔直径が30~200nmのマクロ孔の細孔容積が0.34~1.0ml/gの範囲にあると共に、
前記水銀圧入法による細孔分布において、細孔直径が3.6~30nmのメソ孔の細孔容積が0.01~0.5ml/gの範囲にあり、
前記マクロ孔と前記メソ孔との容積比がマクロ孔/メソ孔=2~6であることを特徴とするMFI型ゼオライトが提供される。
【0010】
本発明のMFI型ゼオライトにおいては、
)300m/g以上のBET比表面積を有していること、
)X線回折スペクトルにおいて(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下であること、が好適である。
【0011】
本発明によれば、また、シリカ源及びテンプレートが水乃至アルカリ性水溶液に溶解乃至分散されている原料液(A)と、アルミナ源が水乃至アルカリ性水溶液に溶解乃至分散された原料液(B)を用意する工程;
SiO/Al(モル比)が30以上となるように、前記原料液(A)中に、原料液(B)を注加する原料混合工程;
前記原料混合工程で得られた原料混合液を60~95℃の熟成温度に維持して熟成を行い、シリカ源とアルミナ源とを含む混合ゲルを生成させる熟成工程;
前記混合ゲルを、常圧下、80~99℃の前記熟成温度よりも高い結晶化温度に保持してMFI型ゼオライトを生成させる結晶化反応工程;
生成した結晶を焼成し、テンプレートを消失させる細孔画定工程;
を含むことを特徴とするMFI型ゼオライトの製造方法が提供される。
【0012】
本発明の製造方法においては、以下の手段を好適に採用することができる。
(1)前記原料混合工程において、原料液(B)の注加を20分以上かけて行うこと。
(2)前記熟成工程において、前記原料混合液を前記熟成温度に1~96時間維持させること。
(3)前記原料液(B)は、シリカ源の一部としてケイ酸アルカリを含有していること。
(4)前記結晶化反応工程の前に、種晶(C)を添加混合する種晶混合工程を有すること。
(5)前記種晶(C)としてMFI型ゼオライトが用いられ、種晶の量が、混合ゲル中のSiO100質量部当り0.05~10質量部の量であること。
(6)前記種晶(C)が、10μm以下の単粒子径を有する微粒子であり、該微粒子がアルカリ水溶液中に分散している状態で、混合ゲルに添加されること。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMFI型ゼオライトは、細孔直径が30~200nmのマクロ孔の細孔容積が0.34~1.0ml/gと極めて大きい。さらに、本発明のMFI型ゼオライトは、例えば、X線回折スペクトルにおいて(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下である。即ち、d値は、ゼオライトの細孔が有する特定の面同士の間隔を表すものであり、このような小さな値を示すことは、このゼオライトには歪がなく且つ細孔が均一に分布しているとともに、細孔容積が大きいことを意味している。即ち、このような大きなマクロ孔が多く存在しているという細孔構造は、ゼオライトには歪がなく且つ細孔が均一に分布している結果として構築されるものであり、従来公知のMFI型ゼオライトには全く認められず、本発明のMFI型ゼオライトに特有の細孔構造である。
【0014】
このように細孔直径の大きなマクロ孔を多く含んでいる本発明のMFI型ゼオライトは、各種揮発性化合物の吸着剤として使用されるばかりか、特に、樹脂に分散された状態でも悪臭の要因となる各種のガス成分に対しての吸着性能が向上していることが期待される。また、触媒もしくは触媒担体としての性能向上も期待され、特に液相反応での触媒として期待される。即ち、このような吸着性能や触媒機能において、樹脂中或いは液相中においてもガスや反応物質が大きなマクロ孔を通して、このMFI型ゼオライト中に侵入し易いからである。
【0015】
また、本発明のMFI型ゼオライトの製造方法は、特有のマクロ細孔構造を有するMFI型ゼオライトを高価な原料や造孔剤などの特殊な原料を必要とせず、また、オートクレーブのような特殊設備を用いることなく実施することができ、コスト面や製造工程の煩雑性において、従来公知の製造方法に対して優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で合成されたMFI型ゼオライトのX線回折像。
図2】実施例4、比較例1及び比較例3で合成されたMFI型ゼオライトの細孔分布曲線。
図3】実施例4及び比較例2で合成されたMFI型ゼオライトのSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<MFI型ゼオライト>
本発明のMFI型ゼオライトは、該ゼオライトに特有の10員環形態の細孔が形成されているため、図1に示されているようなX線回折ピークを示す。例えば、2θ=7.9°付近に(011)面、2θ=8.9°付近に(200)面、及び2θ=23.1°付近に(051)面のシャープな回折ピークを示す。
かかるゼオライトは、SiO/Al(モル比)が30以上、とシリカリッチであり、好ましくは50以上、上限は好ましくは5000以下、特に好ましくは500以下、最も好ましくは150以下の範囲にある。
【0018】
本発明のMFI型ゼオライトは歪がなく、例えば、X線回折スペクトルにおいて(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下である。先に述べたように、d値は、ゼオライト中の細孔が有する特定の面同士の間隔を表すものであり、本発明において、d値がこのように小さいということは、ゼオライトには結晶や細孔に歪やゆがみがなく、細孔が均一に分布しており、さらには細孔を多く含んでいることを意味する。この結果、窒素分圧PN2(P/P)が低い雰囲気でも大きな窒素吸着量を示す。例えば、窒素分圧PN2(P/P)が0.005での窒素吸着量は、80cm/g以上、好ましくは90cm/g以上、特に好ましくは103cm/g以上と極めて大きい。
【0019】
また、本発明のMFI型ゼオライトは、水銀圧入法による細孔分布において、細孔直径が30~200nmのマクロ孔の細孔容積が0.34~1.0ml/gの範囲にある。即ち、このような大きなサイズのマクロ孔が多く存在していることは、吸着性能や触媒性能に大きな影響を及ぼす。例えば、このMFI型ゼオライトが気相中に存在している場合には有意差はないとしても、樹脂に分散された状態で存在していた場合においてもガス成分を有効に吸着することができ、さらに、液相中に存在していた場合にも反応物質と容易に接触することができ、したがって高い触媒性能が発揮される。
本発明では、このようなマクロ孔が多く形成されており、例えば、水銀圧入法で測定して、細孔直径が30~200nmの領域のマクロ孔において、3.6~1100nmの領域の全細孔容積に対するマクロ孔が占める細孔容積の割合は45%以上、好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上となる。
【0020】
さらに、本発明のMFI型ゼオライトは、上記のような大きなマクロ孔を多く含んでいることに関連して、上記水銀圧入法による細孔分布において、細孔直径が3.6~30nmの領域のメソ孔の細孔容積が0.01~0.5ml/g、好ましくは下限が0.05以上、特に好ましくは0.10以上、また、好ましくは上限が0.5以下、特に好ましくは0.4以下の範囲にある。また、細孔直径が3.6~30nmの領域のメソ孔において、3.6~1100nmの領域の全細孔容積に対するメソ孔が占める細孔容積の割合は55%以下、好ましくは35%以下、特に好ましくは25%以下となる。即ち、マクロ孔の形成に伴って、マクロ孔に近い大きさのメソ孔が、マクロ孔ほどではないが適度な量で形成しており、マクロ孔とメソ孔の連絡が吸着材や触媒もしくは触媒担体としての本発明のMFI型ゼオライトを用いた場合に基質の拡散を容易にすることが可能となる。例えば、このようなマクロ孔とメソ孔との容積比は、マクロ孔/メソ孔=2~6程度である。
【0021】
本発明において、このMFI型ゼオライトは、図3のSEM写真に示されているように、50nm以下の小さな粒子が集合した階層構造(桑の実形状などとも呼ばれる)を有しており、これに伴い、極めて大きな比表面積を有しており、例えばBET比表面積は、300m/g以上、好ましくは400m/g以上、特に好ましくは430m/g以上、最も好ましくは450m/g以上と極めて大きい。即ち、このような小さな一次粒子の粒子間隙が上記マクロ孔の形成に寄与している。
このような大きな比表面積も、吸着性能や触媒性能の向上をもたらすものである。
【0022】
<MFI型ゼオライトの製造>
上述したMFI型ゼオライトは、シリカ源及びテンプレートを含む原料液(A)と、アルミナ源を含む原料液(B)と、さらに好ましくは種晶(C)とを原料として使用し、原料混合工程、熟成工程、結晶化反応工程及び細孔画定工程を経て製造され、好適には熟成工程後に種晶混合工程を経て製造される。
【0023】
原料液(A);
かかるMFI型ゼオライトの製造に使用される原料液(A)は、シリカ源及びテンプレートが水乃至アルカリ性水溶液に溶解乃至分散されているものである。
【0024】
ここで使用されるシリカ源としては、各種ゼオライトの製造に使用される従来公知のSiO分含有材料、例えば、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、シリカゲル乾燥粉末、シリカヒドロゲル等が使用される。また、シリカ源の一部として、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなどのケイ酸アルカリを使用することが好ましい。ただし、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカは反応性に長けているものの高価であり、特にテトラエチルオルトシリケートは反応液中からEtOHを揮発させる必要があるため大量合成等に不向きである。
本発明の製造方法は、これら高価な原料の使用に限らずに製造することができ、コスト面で従来よりも有利である。
【0025】
これらのシリカ源は、後述する結晶化反応工程において、水溶液中に一度溶解し、MFI型ゼオライトへと構築されるわけだが、反応に不要な不純物もしくは非反応性成分が少なければ、シリカ源の種類はMFI型ゼオライトの結晶化に大きく影響しない。
【0026】
テンプレートは、MFI型ゼオライトに特有の10員環形態の細孔を形成するための構造規定剤であり、分子中に炭素数が2~4のn-アルキル基と窒素カチオンを含むアミン化合物、例えば、テトラアルキル(エチル、n-プロピルあるいはn-ブチル)アンモニウムのカチオンとアニオン(例えばBr)との塩や該アンモニウムの水酸化物等が使用される。
【0027】
かかるテンプレートの使用量は、テンプレートの種類、特にアルキル基の炭素数によって大きく異なるため、一概に規定することはできないが、例えばテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPA-Br)をテンプレートとして使用するのであれば、Si成分に対して、TPA/SiO=0.03~0.20(モル比)の量で使用される。
【0028】
尚、上記第4級アンモニウムの水酸化物をテンプレートとして使用するときには必要でないが、第4級アンモニウムとBrやCl等のアニオンとの塩等をテンプレートとして使用する場合には、シリカ源及びテンプレートを溶解乃至分散させるため、アルカリ金属水酸化物(例えば苛性ソーダ等)が原料液(A)中に添加混合されアルカリ性水溶液となっていることが好ましい。このようなアルカリ金属水酸化物は、Si成分に対して、AO/SiO(モル比)=0.01~0.20(Aはアルカリ金属元素)、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下の量で使用されるのがよい。この場合、アルカリ金属水酸化物の添加量が多いほど、後述する結晶化反応時間(結晶化に要する時間)を短縮できる効果が得られるが、AO/SiOが0.20を超えると、得られるMFI型ゼオライト中に、親水的に作用するアルカリ金属が大量に残存してしまい、その物性が損なわれるおそれがある。
また、前述したシリカ源の一部としてケイ酸アルカリを使用した場合には、このようなアルカリ金属水酸化物の使用を避けることができる上で有利である。
【0029】
原料液(B);
原料液(B)は、シリカ源と反応してのMFI型ゼオライトを生成するアルミナ源として使用されるものである。
このようなアルミナ源としても、各種ゼオライトの製造に使用される従来公知のものを使用することができ、例えば、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が代表的である。本発明のMFI型ゼオライトを製造するには、これらのアルミナ源の中でも、特にアルミン酸ナトリウムが好ましく、アルミン酸ナトリウムの水溶液が原料液(B)として好適に使用される。
【0030】
種晶(C)
本発明において種晶の添加は必須ではないが、添加することで結晶化反応時間が短くなり、反応途中におけるテンプレートの分解や変性を防ぐことが可能である。かかる種晶(C)の添加の結果として、より歪やゆがみの少ないMFI型ゼオライトの骨格構造が形成され、より大きな比表面積と細孔容積を持つMFI型ゼオライトを製造することができる。
【0031】
かかる種晶(C)は、従来公知のMFI型ゼオライト、又は、本発明のMFI型ゼオライトが使用される。かかるMFI型ゼオライトは、焼成等によりテンプレートが除去され、細孔画定されたものが好適に使用される。細孔画定されたMFI型ゼオライトを用いることにより、より歪がなく且つ細孔が均一に分布している本発明のMFI型ゼオライトを生成することができる。また、例えば旋回式ジェットミルなどの乾式粉砕やビーズミルによる湿式粉砕などで適度に粉砕したものが、種晶を添加した後の分散性の面でより好ましい。
【0032】
原料混合工程;
本発明においては、先ず、上記のシリカ源を含む原料液(A)とアルミナ源を含む(B)とを、SiO/Al(モル比)が30以上となるように混合するが、このような混合は、原料液(A)に原料液(B)を注加するという手段で行うことが必要である。即ち、本発明では、Alに比してSiを大過剰に含むMFI型ゼオライトを合成するため、大量のシリカ源中に少量のアルミナ源を均一に分散させることが必要であり、さらには、原料液(A)中のテンプレートも混合液中に均一に分散されていなければならない。
【0033】
また、本発明においては、より確実にアルミナ源を均質に分散させるため、撹拌下で、原料液(A)中に、原料液(B)を少しずつ注加していくことが好ましく、例えば20分以上、好適には60分以上かけて原料液(B)を注加することが望ましい。これにより、MFI型ゼオライトに特有の10員環形態の細孔を確実に形成することができ、且つマクロ孔やメソ孔を安定に形成することができる。
【0034】
尚、原料液(A)への原料液(B)の注加は、不要なゲル化防止のため、好ましくは80℃以下、特に好ましくは40℃以下の温度、一般的には常温で行われる。
【0035】
また、原料液(A)と原料液(B)は、混合工程において中和反応が起きない原料の組み合わせを選択しなければならない。例えば3号ケイ酸ナトリウムをシリカ源として用いた場合、結晶化反応に必要な量以上のNaOが多く存在するため、原料混合工程において硫酸などによるNaO分の中和反応が必要であるが、この時発生する芒硝(NaSO)は塩析の効果によって結晶化工程における反応液中へのシリカの溶解性を著しく低下させるため、結果としてゲルの溶解が進まず、MFI型ゼオライトの構築が遅れてしまう。結果として結晶化反応時間が極めて長くなってしまうため工業的に不適である。また、上記したように反応時間が極めて長くなることは、熱エネルギーの蓄積量が大きくなることからも、均一な結晶成長を妨げ、本発明のような特徴的なマクロ細孔をもつMFI型ゼオライトを生成することができない。
【0036】
また、原料液(A)のシリカ源として、シリカヒドロゲルのようにNaO等のアルカリ分を不可避的夾雑物程度しか含まないもののみを選択した場合、原料液(B)との混合工程でAlの分散が不十分になりやすく、熟成工程に要する工程が長くなり、結果的に反応速度全体が遅くなってしまうため望ましくない。さらに、シリカヒドロゲルのみをシリカ源とした場合、苛性ソーダなどのアルカリ源を大量に添加する必要があり、工業的にも望ましくない。従って、原料液(A)は、シリカ源の一部としてケイ酸アルカリを含有していることが好ましい。
【0037】
以上のことから、本発明のシリカ源として、ケイ酸ナトリウムとシリカヒドロゲルなど、2種以上のシリカ源の組合せが好適に採用される。これらのシリカ原料を併用することにより、後述する酸素を介したSiとAlの結合の均等な配置がより精密になり、本発明のように特徴的なマクロ細孔分布を持つMFI型ゼオライトを製造することができる。
【0038】
熟成工程;
上記のように原料液(A)と原料液(B)とを混合した後、この混合液を60~95℃の温度(熟成温度)に加熱して熟成が行われ、これにより均質なシリカアルミナ混合ゲルが生成される。
即ち、かかる熟成工程により、テンプレートのカチオンを囲むように、以下の概略式に示されるようにSiOSiの連鎖が形成されていき、MFI型ゼオライトに特有の10員環構造の骨格が形成される。また、SiOSi連鎖の一部には、OAlOが取り込まれた形で均等に形成される。
OH-Si-O +Si-OH → [OH-Si-O…SiOH]
→ OH-Si-O-Si-OH
→ OH-Si-O-Si(-OH)-O +H
【0039】
このような熟成温度への加熱は、混合液を徐々に昇温することにより行うことが好ましく、例えば30分以上かけて行うことにより、急激な加熱によるゲル化を確実に防止することができる。
また、かかるゲル化は、上記熟成温度に1時間以上、好ましくは1~96時間、特に好ましくは8~24時間、混合液を保持することにより行われる。この場合、熟成温度を上記範囲よりも高温に設定した場合には、ゲル化が急激に進行してしまい、また、熟成温度が上記温度より低いときには、ゲル化に長時間要し、工業的に望ましくない。これら原料液(A)と原料液(B)の混合の工程を経ることで本発明に特徴的なマクロ孔及びメソ孔を形成することができる。
【0040】
即ち、大過剰に存在するSiに対して本発明の工程を経ずにAlの存在が偏れば、微細な結晶粒子を生成することができず、後述する結晶化反応工程で、前述したマクロ孔が多く存在するMFI型ゼオライトを生成することができない。例えば、このマクロ孔(細孔直径が30~200nmのポア)の細孔容積が0.34ml/gよりも小さくなり、細孔直径が3.6~1100nmの領域の全細孔容積に対するマクロ孔が占める細孔容積の割合も45%よりも低くなってしまう。さらに、BET比表面積も小さくなってしまい、触媒もしくは触媒担体として用いた時の選択性が低下してしまうことになる。
【0041】
種晶混合工程;
種晶(C)の添加を行う場合は、前記結晶化反応工程の前に行うことが好ましい。混合方法は特に制限がなく、前記混合ゲルの一部あるいは全部、及び/又は、混合ゲルの原料の一部あるいは全部と、結晶化に先立ち、あらかじめ混合して使用することができる。たとえば、混合ゲル、又は混合ゲルの原料に添加し、種晶が偏在しないように混合工程を有することが好ましい。特に好ましくは、上記のようにしてAlが均質に分布しているシリカアルミナ混合ゲルを生成した後、必要に応じてこの混合ゲル中に、MFI型ゼオライトの結晶の核となる種晶が混合される。
【0042】
本発明において、かかる種晶はMFI型ゼオライトが用いられ、種晶の量が、混合ゲル中のSiO100質量部当り0.05~10質量部、特に1~5質量部の量で混合ゲル中に添加混合されることが望ましく、これにより結晶化反応を加速させることで、マクロ孔の細孔容積を前述した範囲に確実に調製することができる。
【0043】
また、かかる種晶として用いられるMFI型ゼオライトは、焼成等によりテンプレートが除去されたものが好適に使用され、より好適には、例えば旋回式ジェットミルなどの乾式粉砕やビーズミルによる湿式粉砕により適度に粉砕したものが用いられる。
【0044】
また、本発明においては、上記の種晶(C)が完全に溶解しない程度のアルカリの希薄水溶液、例えばNaOH濃度が10質量%以下、望ましくは0.1~5質量%のNaOH水溶液を用意し、ここに種晶(C)を投入したものを前記混合ゲル中に添加することもできる。即ち、このようなアルカリ水溶液では、種晶がコロイド状に微細分散しており、その単粒子径が10μm以下、好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下と極めて微細な粒子の形で存在しており、結晶化反応をより速くすることができる。この時、種晶(C)の投入量は、アルカリ水溶液100質量部に対して0.01~15質量部とすることが好ましい。また、分散は種晶(C)の凝集が解れる程度でよく、例えば、一般に用いられる撹拌機で0.1~12時間分散させる。
【0045】
結晶化反応工程;
本発明では、上記のようにして得られた混合ゲルを、常圧下で、前記熟成温度よりも高い結晶化温度に加熱保持し、これにより、結晶核が構築され、また種晶(C)を添加した場合は多数分布している微細な種晶を核として、結晶が成長し、目的とするマクロ孔の細孔容積の大きい本発明のMFI型ゼオライトが極めて短時間で得られる。驚くべきことに、後述する実施例1と実施例2に示すように、種晶を使用した場合は、使用せず結晶化反応を行った場合と比較して3分の1程度の時間で結晶化を完了することができる。結果として、より歪やゆがみの少ないMFI型ゼオライトの骨格構造が形成され、より大きな比表面積と細孔容積を持つMFI型ゼオライトを製造することができる。
【0046】
かかる結晶化反応工程は、常圧、即ち開放系で行うことが重要である。即ち、オートクレーブなどを用いてのクローズド系で結晶化反応工程を実施すると、内圧によって結晶の粒子間隙が小さくなり、結果として、マクロ孔の細孔容積が小さくなってしまうからである。
【0047】
また、結晶化反応温度は、85~99℃に設定することも重要である。即ち、この温度が低いと、結晶化が十分に行われず、目的とするMFI型ゼオライトを得ることができない。また、この温度が高く、例えば100℃を超えると、テンプレートや微細な種晶が大きく流動してしまい、この結果、細孔分布が不均一となり、形成される細孔に歪やゆがみが生じ、この結果、(053)面の面間隔であるd値が2.99Åよりも大きくなってしまうからである。
【0048】
上記のような結晶化反応工程は、通常、結晶化に供する混合ゲルの組成によっても異なり、一概に規定することはできないが、一般的には、種晶を用いない場合で100~600時間、種晶を用いた場合8~120時間程度である。また、種晶がアルカリ水溶液中に分散している状態で、混合ゲルに添加する場合8~96時間程度である。
【0049】
細孔画定工程;
上記のようにして結晶化反応が終了した後は、ろ過、水洗し、アルカリ金属等の不純物を除去した後、焼成し、結晶中に含まれるテンプレートを消失させ、これにより、MFI型ゼオライトに特有の10員環形状の細孔が画定し、目的とする本発明のMFI型ゼオライトを得ることができる。
尚、焼成温度は、テンプレートが分解するが、ゼオライト結晶が損なわれない程度の温度であり、例えば、400~700℃で0.5~20時間程度である。
【0050】
かくして得られるMFI型ゼオライトは、中位径が0.1~100μm、好ましくは0.5~10μmの大きさであるが、適宜粉末状に粉砕して使用に供されることが好ましく、取扱いの容易性等を考慮して、吸着用途では0.5~4.0μmの大きさに粒度調製して使用に供される。
本発明のMFI型ゼオライトは、例えば、樹脂組成物に混練したり、塗料やコーティング剤等の疎水溶媒を含む液体に混ぜたり、吸着カラムや吸着塔などの設備に充填して使用される。特に、本発明のMFI型ゼオライトは、マクロ孔の細孔容積が大きいため、樹脂に配合して臭い等を吸着除去する用途や、液相反応での触媒などの用途に適している。
【0051】
さらに、本発明のMFI型ゼオライトは、触媒及び/又は触媒担体として優れた特性を発揮する。例えば、本発明のMFI型ゼオライトに白金担持した触媒は、n-パラフィンの水素化異性化脱ろう触媒としても優れた特性を発揮することが後述の実験により確認されている。
即ち、長鎖のn-パラフィン、例えばn-C14は、触媒の存在下で水素と反応させると、分子の末端から例えばプロピレン(オレフィン)の形でCが脱離し、脱離したCが再度、n-パラフィン残基と反応し(付加反応)、或いはさらなるCの脱離及び再度の付加反応を生じ、この結果として、iso-パラフィン、例えば、分枝を一つ有する単分枝異性体或いは分枝を複数有する多分枝異性体が生成する。このようなn-パラフィンの水素化異性化反応の触媒として、本発明のメソ孔が特異的に発達したMFI型ゼオライトに白金を担持した場合、低温で高いn-パラフィンの転化率若しくは高い異性体収率を得ることができる。
n-パラフィンの分岐異性体(iso体)は、n-パラフィンに比して低融点であり、また揮発性が高く、潤滑油やジェット燃料等の用途に適している。
【実施例
【0052】
本発明を次の実験例で説明する。
尚、実験における各種の測定は、以下の方法で行い、測定結果を表2~4に示した。
【0053】
(1)X線回折
(面間隔d値解析のための測定及び解析条件)
相対湿度75%に調湿済みのデシケーター中に乾燥試料を入れ、室温下で48時間以上静置し、水分を飽和量吸着させた。取出した試料の、2Θ=29.6~30.2°にかけて、X線回折測定した。なお、X線回折測定はリガク社製のUltima4を用いて、Cu-Kαにて下記の条件で測定を行った。
ターゲット:Cu
フィルター:湾曲結晶グラファイトモノクロメーター
検出器:SC
電圧:40kV
電流:50mA
ステップサイズ:0.005°
計数時間:10sec/step
スリット:DS2/3° RS0.3mm SS2/3°
目的とした範囲のX線回折のうち、最大ピークを持つ角度について、下記式に基づきd値(Å)を求めた。
(ブラッグの条件)
d=nλ/2sinΘ
d :面間隔
n :整数
λ :波長
sinΘ:結晶面とX線がなす角度
(結晶型の確認)
結晶の確認はd値の測定に用いた条件のうち、以下を変更して行った。
測定範囲 :3~40°
電流 :40mA
ステップサイズ:0.02°
計数時間 :0.6sec/step
【0054】
(2)細孔分布の測定
Micromeritics社製Autopore IV 9500を用いて水銀圧入法による細孔容積及び細孔分布を測定した。細孔直径が3.6~1100nmまで測定し、その累積細孔容積を全細孔容積とし、このうち細孔直径30~200nmをマクロ孔、細孔直径3.6~30nmをメソ孔と定義し、それぞれの区間の細孔容積をそれぞれの細孔容積とした。
細孔分布の縦軸としての表記は、累積細孔容積を用いた。
【0055】
(3)組成解析
酸化物換算でのアルカリ金属含有量及びSiO/Al(モル比)の算出に必要な元素分析については、(株)リガク製Rigaku ZSX primus IIを用い、ターゲットはRh、分析線はKαで、その他は以下の条件で測定を行った。
なお、試料は110℃で2時間乾燥した物を基準とした。
【表1】
【0056】
(4)粒子径の測定
日本電子株式会社製JSM-6510LAにより測定したSEM像からMFI型ゼオライトの凝集粒子径を測定した。ランダムに粒子10個を選び長径と短径の平均をそれぞれの凝集粒子の粒子径とし、それらの平均を得られたMFI型ゼオライトの粒子径とした。
【0057】
(5)種晶の粒子径測定
種晶(C)の粒子径については、MFI型ゼオライトの一次粒子を同様にSEM像から観察し、単粒子径として測定した。
【0058】
(6)BET比表面積
窒素の吸着等温線P/P=0.005~0.015の測定値から、BET法による比表面積を算出した。
【0059】
(7)触媒性能の評価
<n-パラフィンの水素化異性化脱ろう>
下記の実施例にて調製したPt担持触媒5gを用いて、流通固定床式触媒反応装置によりn―C14(ノルマルテトラデカン、ナカライテスク株式会社製)の水素化異性化脱ろう反応を行った。触媒をH気流下400℃、2時間還元処理した後、反応槽温度を反応温度まで低下させた。次に、Hで0.8MPaに昇圧したのちWHSV=1h―1でn-C14を添加した。原料比(nH2/nn―C14)は10とした。反応2時間後に気液分離装置内の液体反応生成物を回収し、ガスクロマトグラフィーによって組成分析を行った。
<ガスクロマトグラフィーによる成分組成分析>
反応生成物の測定は島津サイエンス製GC-2014を用い、DB-1(アジレントテクノロジー社製 内径0.25mm、30m、膜厚0.25μm)をキャピラリーカラムとして使用した。測定サンプルはn-パラフィンの水素化異性化脱ろう反応で得られた液体成分を、4倍量のアセトンで希釈することで作製した。検出器はFID、キャリアーガスはHeとし、気化室温度を320℃として1μlを注入(スプリット比は1:20)し、その後測定室温度を40℃10分保持、5℃/分で320℃まで昇温、最後に320℃で10分保持することでクロマトグラムを得た。n-C14転化率X[%]、単分岐および多分岐異性体の収率M[%]およびB[%]、および分解物の収率C[%]は以下のように定義した。分解物の収率Cには、ガス成分として得られた分解物を含んでいない。n-パラフィンの転化率(X)、および異性化収率(M+B)を触媒性能として評価した。
n-C14 転化率X [%]=100―試料中の残存n-C14 [%]
単分岐異性体の収率M [%]=試料中の単分岐C14 異性体の合計 [%]
多分岐異性体の収率B [%]=試料中の多分岐C14 異性体の合計 [%]
分解物の収率C [%]=100-残存n-C14-M-B
【0060】
<比較例1>
水澤化学工業(株)製MFI型ゼオライトMT-100を使用した。
【0061】
<比較例2>
PCT/JP2017/005755に示されている実施例6と同様に調製し、MFI型ゼオライトを得た。
【0062】
<比較例3>
特表平7-502964に示されている実施例1と同様に調製し、80℃における結晶化より、MFI型ゼオライトを得た。
【0063】
<実施例1>
<原料液(A)の調製>
98%TPABrを67.8g、水を953g、3号ケイ酸ソーダ(SiO=22.8質量%、NaO=7.6質量%、HO=69.6質量%)を457g及びシリカヒドロゲル(SiO=38.5質量%、NaO=0.02質量%、HO=61.4質量%)511gを混合して原料液Aを調製した。原料液(A)の各成分の組成はモル比でSiO:NaO:TPA-Br:HO=120:13:6:2114であった。
<原料液(B)の調製>
アルミン酸ナトリウム(Al=23.0質量%、NaO=19.2質量%、HO=57.8質量%)18.4g及び水200gを用いて原料液(B)を調製した。原料液(B)の各成分の組成はモル比でAl:NaO:HO=1:1.4:281であった。
<原料液(A)と原料液(B)の混合と熟成>
室温の撹拌条件下で原料液(A)に対し原料液(B)を30分かけて注加した。得られた混合ゲルを湯浴中で30分かけ85℃まで昇温し、そのまま85℃で20時間熟成した。
<結晶化反応と細孔画定>
上記85℃の混合ゲルを95℃まで昇温し、適宜サンプリングしてX線回折を確認しながら144時間反応した。120時間目と144時間目のX線回折における結晶型及びピーク強度が同等であったことから120時間で結晶化が終了したと判断した。得られた結晶スラリーは分散液のpHが9.0以下になるまで遠心分離とイオン交換水による再分散を繰り返して洗浄し、その後110℃で10時間乾燥した。乾燥物をマッフル電気炉にて550℃で2時間焼成し、MFI型ゼオライトを得た。
【0064】
<実施例2>
原料液(A)の各成分の組成はモル比でSiO:NaO:TPA-Br:HO=120:9.4:6:1374、原料液(B)の各成分の組成はモル比でAl:NaO:HO=1:1.4:281とし、熟成工程を経た原料液(A)と原料液(B)の混合ゲルに、原料液(A)のSiOに対し3質量%相当(9g)の旋回式ジェットミルで粉砕した種晶(C)(粒子径0.7μm、SiO/Alモル比=100、テンプレート含まないMFI型ゼオライト)及び25.1gの49%NaOHと534gの水を混合して加え、結晶化反応時間を48時間とした以外、実施例1と同様の操作で実施例2のMFI型ゼオライトを得た。なお、結晶化反応は33時間目と48時間目のX線回折における結晶型及びピーク強度に変化がなかったことから、33時間目で結晶化反応が終了していたと判断した。
【0065】
<実施例3>
下記に示した原料液(A)、(B)を用いて、結晶化時間を72時間とした以外は、実施例2と同様の操作でMFI型ゼオライト得た。
原料液(A):SiO:NaO:TPA-Br:HO=100:3.6:5:1144
原料液(B):Al:NaO:HO=1:1.4:237
【0066】
<実施例4>
下記に示した原料液(A)、(B)を用いて、結晶化時間を72時間とした以外は、実施例2と同様の操作でMFI型ゼオライト得た。
原料液(A):SiO:NaO:TPA-Br:HO=80:2.6:4:912
原料液(B):Al:NaO:HO=1:1.4:192
【0067】
<実施例5>
下記に示した原料液(A)、(B)、を用いて、結晶化時間を96時間とした以外は、実施例2と同様の操作でMFI型ゼオライト得た。
原料液(A) :SiO:NaO:TPA-Br:HO=60:1.6:3:681
原料液(B) :Al:NaO:HO=1:1.4:148
【0068】
得られたMFI型ゼオライトの物性を下記表2に示す。本発明の方法により得られたMFI型ゼオライトは極めて発達したマクロ孔及び付随するメソ孔を有しているために外表面積が高く、例えば吸着材として利用した場合、目的の被吸着質に対して高い拡散速度を付与することが可能である。また、触媒もしくは触媒担体として用いた場合は反応基質との接触が良好となり高い活性を示すことが期待され、さらには低温で歪みが少なく形成された均一な結晶構造を持っていることから、触媒反応において高い選択性が期待される。
【0069】
【表2】
【0070】
<比較例4>
98%TPABr、水、シリカヒドロゲル(SiO=38.5質量%、NaO=0.02質量%、HO=61.4質量%)、および比較例1のMFI型ゼオライト1.8gを混合して原料液(A)を調製した。原料液(A)の各成分の組成はモル比でSiO:NaO:TPA-Br:HO=:1:0.0005:0.05:14.5であった。アルミン酸ナトリウム、水、および49%NaOHを混合し、原料液(B)を調製した。原料液(B)の各成分の組成はモル比でAl:NaO:HO=1:5:123であった。実施例1と同様の条件で原料液(A)と原料液(B)を混合し、混合ゲルを得た。混合ゲルのSiO/Alモル比は85であった。混合ゲルを、撹拌機付き1.5L容積のオートクレーブに入れ、撹拌条件下で170℃まで2時間で昇温したのち、170℃を24時間保持することで結晶化反応を行った。得られた結晶スラリーは、実施例1と同様に洗浄、乾燥、および焼成し、比較例4のMFI型ゼオライトを得た。
<比較例4を用いたPt担持触媒の調製>
比較例4のMFI型ゼオライトを用いて、以下の操作で触媒を調製した。
MFI型ゼオライト10gに対し、90gの水を添加して撹拌により再分散した後、10gの塩化アンモニウムを添加して、3時間撹拌した後、濾過水洗を行い交換処理を行った。再度水を添加して総量100gのゼオライト分散スラリーとした後10gの塩化アンモニウム加える同様の交換処理を2回繰り返し、アンモニウム―MFI型ゼオライトを得た。得られたアンモニウム―MFI型ゼオライトを、110℃の恒温乾燥棚で10時間乾燥した後、マッフル炉を用いて、550℃、3時間保持の条件でアンモニウムの除去を行い、脱アルカリ―MFI型ゼオライトを得た。このゼオライトを粉砕し、H―MFI型ゼオライトを得た。得られたゼオライトは、NaO;0.05質量%以下であることを確認した。次に、Pt(NHCl・xHO(Aldrich製、Pt含量55.8%)をPt含量が1質量%となるようにイオン交換水に溶解し、H―MFI型ゼオライト150℃乾燥重量に対して、Pt担持量が0.4質量%となるように、湿式法(incipient wetness法)により担持処理を行った。次に300℃に温度を調整したマッフル炉に500ml/minで空気を送り込み、3時間焼成しClの除去を行った。得られた粉末を50MPaで加圧成型し、粗砕した後、篩により0.5~1.0mmに整粒することで、Pt担持触媒A(以下触媒A)を得た。
【0071】
<実施例6>
原料液(A)の各成分の組成はモル比でSiO:NaO:TPA-Br:HO=82:3.5:7:974、原料液(B)の各成分の組成はモル比でAl:NaO:HO=1:1.4:260とし、混合ゲルに対し、原料液(A)のSiOに対し2質量%相当(9g)の旋回式ジェットミルで粉砕した種晶(C)(粒子径0.7μm、SiO/Alモル比=100、テンプレート含まないMFI型ゼオライト)及び299.1gのNaOH水溶液(NaOH濃度:1.9質量%)を混合し1時間撹拌した分散液を加え、結晶化反応時間を48時間とした以外は、実施例2と同様の操作で実施例6のMFI型ゼオライトを得た。
<実施例6を用いたPt担持触媒の調製>
実施例6のMFI型ゼオライトを用いた他は、比較例4と同様の操作で、0.4質量%のPtを担持した、Pt担持触媒B(以下触媒B)を調製した。
【0072】
<実施例7>
原料液(A)の各成分の組成はモル比でSiO:NaO:TPA-Br:HO=120:9.4:6:1144、原料液(B)の各成分の組成はモル比でAl:NaO:HO=1:1.4:211とし、混合ゲルに、414.4gのNaOH水溶液(NaOH濃度:2.2質量%)を加え、その後に原料液(A)のSiOに対し3質量%相当(7g)の旋回式ジェットミルで粉砕した種晶(C)(粒子径4.2μm、SiO/Alモル比=100、テンプレートを含まないMFI型ゼオライト)を加え、結晶化時間を80時間とした以外は、実施例2と同様の操作で実施例7のMFI型ゼオライト得た。
【0073】
<実施例8>
実施例7と同様の操作で調整した原料液(A)および原料液(B)を用い、混合ゲルに対し、原料液(A)のSiOに対し3質量%相当(7g)の旋回式ジェットミルで粉砕した種晶(C)(粒子径4.2μm、SiO/Alモル比=100、テンプレート含まないMFI型ゼオライト)及び414.4gのNaOH水溶液(NaOH濃度:2.2質量%)を混合し1時間撹拌した分散液を加え、結晶化時間を53時間とした以外は、実施例6と同様の操作で実施例8のMFI型ゼオライトを得た。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
本発明のMFI型ゼオライトは、例えば、実施例2~8に示したように、種晶を用いることでより結晶化反応にかかる時間を短縮することが可能になる。種晶がゼオライトの結晶核として働くことで、混合ゲルからゼオライトが生成する誘導期間を短縮すると考えられる。本発明者らは、さらに種晶の単位粒子径や添加する方法を変えることで、さらに短縮効果を増加させることができる知見を得、本発明の完成に至った。例えば、本発明の実施例1、6、7、8の比較により、種晶の効果をさらに詳しく検証することができる。すなわち、実施例1と7の比較から、単位粒子径4.2μmの種晶を加えることで40時間結晶化時間が早くなることが分かり、種晶を添加すると結晶化反応時間が短縮することができた。実施例7と8の比較から、種晶(C)を予めアルカリ水溶液中に分散させた後に混合ゲルへ加えて結晶化することで、27時間結晶化時間が早くなった。さらに、実施例6と8の比較から、より小さな単位粒子径0.7μmの種晶を用いることで、5時間結晶化時間が早くなった。また、実施例3、4、6は、SiO/Alモル比が70前後の本発明のMFI型ゼオライトの製造例であるが、これらを比較すると、種晶(C)を予めアルカリ水溶液中に分散させた後に混合ゲルへ加えて結晶化することで、種晶(C)の添加量を減らしたにも関わらず、24時間結晶化時間が早くなった。以上から、用いる種晶の単位粒子径が小さいほど、また事前に種晶をアルカリ水溶液中に分散させた状態で混合ゲルに加えることで、結晶化反応の時間短縮効果を発揮するといえる。
【0077】
さらに、本発明の優れた効果を示すため、調製した触媒AおよびBを用いて、n-パラフィンの水素化異性化脱ろう反応を行った。その結果、本発明のMFI型ゼオライト(触媒B)を酸触媒とした場合、発達したメソ―マクロ孔の存在によりn-C14との接触面が増え、分解活性が高くなった。また、通常のMFI型ゼオライト酸触媒(触媒A)よりも、低温で極めて高い転化率を得ることができた。さらにはPtによる再付加反応を向上させるため、n-パラフィンの水素化異性化脱ろう反応において、従来のMFI型ゼオライトよりも、高い異性体収率を得ることができた。 このように、本発明のMFI型ゼオライトは、常圧合成により実施できることから、圧力容器などの特殊な設備を必要とせず、また、短時間で反応が完了するため、経済性が優れているばかりか、吸着用途、触媒及び/又は触媒担体として優れた性能を発揮する。
図1
図2
図3