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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】蛍光ガラスの製造方法及び蛍光ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/06 20060101AFI20220729BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20220729BHJP
   C03C 4/12 20060101ALI20220729BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20220729BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20220729BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20220729BHJP
   H01L 31/055 20140101ALI20220729BHJP
【FI】
C03B19/06 C
C03C3/095
C03C4/12
C09K11/00 D
C09K11/08 B
C09K11/64
H01L31/04 622
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018163007
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033241
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593149926
【氏名又は名称】レジノカラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 智紀
(72)【発明者】
【氏名】小泉 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】森 健治
(72)【発明者】
【氏名】今村 寿子
【審査官】松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-140564(JP,A)
【文献】特表2016-537286(JP,A)
【文献】特開2001-270733(JP,A)
【文献】国際公開第2018/125625(WO,A1)
【文献】特表2018-503584(JP,A)
【文献】特開2014-041984(JP,A)
【文献】特開2009-260234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/06
C03C 1/00-14/00
C09K 11/00
H01L 31/055
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光ガラスを製造する方法であって、
該製造方法は、シリカ系ガラスフリットと、ユーロピウム化合物と、アルミニウム化合物とを含む原料を混合して混合物を得る工程と、
該混合工程で得られた混合物を還元焼成することにより、非晶質の蛍光ガラスを得る工程を含む
ことを特徴とする蛍光ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、蛍光ガラスに含まれるケイ素化合物、アルミニウム化合物およびユーロピウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対してそれぞれSiO換算で45~70重量%、Al換算で15~25重量%、およびEu換算で1~3重量%となるように、原料を混合することを特徴とする請求項1に記載の蛍光ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記シリカ系ガラスフリットは、屈折率が1.4~1.7であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記還元焼成の温度は、700~900℃であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の蛍光ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ガラスの製造方法及び蛍光ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光ガラスは、高純度シリカに発光中心となる元素を添加することにより得られる蛍光材料であり、シリカの屈折率に近い屈折率を有する樹脂と混練して成形した樹脂成形体が優れた可視光透過性と発光特性を活かして太陽電池用波長変換材料に応用される(非特許文献1参照)等、種々の分野で使用されている。
蛍光ガラスの合成方法としては、例えば、多孔質ガラスにユーロピウム等をドープさせ、焼成して得る方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、プラスチック樹脂成形における成形不良の原因のひとつに、シルバーストリーク(シルバー、銀条ともいう)がある。シルバーストリークは、樹脂製品の表面に銀色の筋ができる現象であり、樹脂組成物を射出成形する時に気泡が混入することが主な原因である。シルバーストリークを抑制するためには、射出成形条件を調整して気泡が発生しないようにすることが一般的であるが、樹脂組成物に含まれるフィラーそのものの粉体物性が原因で気泡が発生してしまい、射出成形条件の調整だけでは解決できない場合がある。このようなシルバーストリークの発生を抑制するために、フィラーの粉体物性を改善し、成形不良を抑制する方法として、(1)フィラーとして二酸化チタンを用いる場合については、二酸化チタン粒子の表面に緻密含水シリカの被覆層を有し、前記被覆層上に中間層を介することなく有機化合物の被覆層を有する処理を施す方法が提案されており(特許文献2参照)、(2)フィラーとしてアルカリ土類金属水酸化物を用いる場合については、アルカリ土類金属水酸化物に対して特定の表面処理を施す方法が提案されている(特許文献3参照)。また、(3)フィラーとしてシリカを用いる場合については、シリコーン系化合物をシリカ粉末に担持させたケイ素含有化合物を用いる方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-18460号公報
【文献】特開2006-37090号公報
【文献】特開2010-70681号公報
【文献】特開2012-158623号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】磯部徹彦著、「ドープ型YVO4蛍光ナノ粒子波長変換膜の結晶シリコン太陽電池への応用」、公益財団法人村田学術振興財団、2012年、第26号、p.306-308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように蛍光ガラスを製造する方法が知られているが、特許文献1に記載の方法で合成した蛍光ガラスは、一般的な合成シリカの屈折率(1.43~1.48)よりも高い屈折率を得ることはできないため、屈折率が1.49以上の樹脂に混練した場合に、透明性に優れた樹脂組成物を得ることはできないという課題があった。また上述した特許文献2~4に記載のシルバーストリークの抑制方法は、いずれもフィラーに対して表面処理を施すことにより成形不良を抑制する方法であるが、表面処理は手間とコストがかかる上に、表面処理が不十分な箇所が存在する場合は成形不良が発生してしまう場合がある。
このため、シリカに比べて高い屈折率を有し、かつ表面処理を施さなくても樹脂成形時に成形不良が発生しない蛍光ガラスの開発が求められている。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、シリカに比べて高い屈折率を有し、かつ表面処理をすることなく、樹脂と混練した場合のシルバーストリークの発生が抑制された蛍光ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、シリカに比べて高い屈折率を有し、かつ表面処理なしでも樹脂と混練した場合のシルバーストリークの発生が抑制された蛍光ガラスについて種々検討し、シリカ系ガラスフリットと、ユーロピウム化合物と、アルミニウム化合物とを含む原料を混合して混合物を得る工程と、該混合工程で得られた混合物を還元焼成することにより、非晶質の蛍光ガラスを得る工程とを含む製造方法により蛍光ガラスを製造すると、シリカに比べて高い屈折率を有し、かつ表面処理をすることなく樹脂と混練しても、得られる樹脂組成物がシルバーストリークの発生が抑制されたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、蛍光ガラスを製造する方法であって、該製造方法は、シリカ系ガラスフリットと、ユーロピウム化合物と、アルミニウム化合物とを含む原料を混合して混合物を得る工程と、該混合工程で得られた混合物を還元焼成することにより、非晶質の蛍光ガラスを得る工程を含むことを特徴とする蛍光ガラスの製造方法である。
【0010】
本発明の蛍光ガラスの製造方法は、上記混合工程において、蛍光ガラスに含まれるケイ素化合物、アルミニウム化合物およびユーロピウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対してそれぞれSiO換算で45~70重量%、Al換算で15~25重量%、およびEu換算で1~3重量%となるように、原料を混合することが好ましい。
【0011】
本発明の蛍光ガラスの製造方法において、上記シリカ系ガラスフリットは、屈折率が1.4~1.7であることが好ましい。
【0012】
本発明の蛍光ガラスの製造方法において、上記還元焼成の温度は、700~900℃であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、励起光を吸収して蛍光発光する蛍光ガラスであって、該蛍光ガラスは、非晶質であり、蛍光ガラスに含まれるケイ素化合物、アルミニウム化合物およびユーロピウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対してそれぞれSiO換算で45~70重量%、Al換算で15~25重量%、およびEu換算で1~3重量%であって、かつ屈折率が1.4~1.7であることを特徴とする蛍光ガラスでもある。
【0014】
上記蛍光ガラスは、カルシウム化合物を、蛍光ガラスの総重量に対してCaO換算で3~30重量%の割合で含むことが好ましい。
【0015】
本発明はまた、本発明の蛍光ガラスと樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物でもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛍光ガラスの製造方法によれば、シリカに比べて高い屈折率を有し、かつ表面処理をすることなく樹脂と混練しても、成形時のシルバーストリークの発生が抑制された樹脂組成物が得られる蛍光ガラスを得ることができる。本発明の蛍光ガラスの製造方法は、太陽電池用材料等の樹脂と混練、成形して使用される蛍光ガラスの製造方法として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1~3で得られた蛍光ガラス粒子のXRD測定結果を示した図である。
図2】実施例1で得られた蛍光ガラス粒子の電子顕微鏡測定結果を示した図である。
図3】実施例2で得られた蛍光ガラス粒子の電子顕微鏡測定結果を示した図である。
図4】実施例3で得られた蛍光ガラス粒子の電子顕微鏡測定結果を示した図である。
図5】実施例1~3で得られた蛍光ガラス粒子の蛍光強度測定結果を示した図である。
図6】比較例1~3で得られた蛍光ガラス粒子のXRD測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0019】
1.蛍光ガラスの製造方法
(1)混合工程
本発明の蛍光ガラスの製造方法は、シリカ系ガラスフリットと、ユーロピウム化合物と、アルミニウム化合物とを含む原料を混合して混合物を得る工程と、該混合工程で得られた混合物を還元焼成することにより、非晶質の蛍光ガラスを得る工程とを含むことを特徴とする。
通常、蛍光ガラスを製造する場合、高純度のシリカが使用されるが、本発明の製造方法では、シリカ系ガラスフリットを原料として用いることを特徴とし、この製造方法によって得られる蛍光ガラスは、表面処理をすることなく樹脂と混練しても、成形時のシルバーストリークの発生が抑制された樹脂組成物を得ることができる。
このようにして得られた蛍光ガラスを用いた樹脂組成物の成形時のシルバーストリークの発生が抑制される理由は明らかではないが、シルバーストリーク発生の原因が蛍光ガラス粒子表面の活性にあり、シリカ系ガラスフリットに含まれるケイ素以外の金属元素が蛍光ガラス粒子表面の活性を下げることでシルバーストリークの発生が抑制されているものと推測される。
【0020】
上記混合工程において、シリカ系ガラスフリットと、ユーロピウム化合物と、アルミニウム化合物とを含む原料を混合する方法は特に制限されず、乾式法、湿式法のいずれも用いることができる。湿式混合を用いる場合、水等の溶媒を用い、投入した原料をビーズミル等で解砕をしながら混合をすることが好ましい。また、乾式混合を用いる場合、原料を袋の中に入れて震盪や揉みほぐし等の手法で混合してもよいし、ボールミルやブレンダー等を使用してもよい。
【0021】
本発明の蛍光ガラスの製造方法の混合工程においては、蛍光ガラスに含まれるケイ素化合物、アルミニウム化合物およびユーロピウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対してそれぞれSiO換算で45~70重量%、Al換算で15~25重量%、およびEu換算で1~3重量%となるように、原料を混合することが好ましい。このような割合となるように原料を混合することで、得られる蛍光ガラスをより蛍光特性に優れたものとすることができる。蛍光ガラスに含まれるアルミニウム化合物は、蛍光ガラスの総重量に対してAl換算で、より好ましくは16~22重量%であり、更に好ましくは17~21重量%である。蛍光ガラスに含まれるユーロピウム化合物は、蛍光ガラスの総重量に対して酸化物換算で、より好ましくは1.2~2.5重量%、更に好ましくは1.5~2.2重量%である。
【0022】
上記アルミニウム化合物としては、アルミニウム元素を含む化合物であればよく、例えば、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等のいずれを用いてもよく、これらの2種以上を用いてもよい。中でも、原料の混合を乾式法により行う場合は、より均一に混合する観点から、これらのうち水溶性のアルミニウム化合物を水に溶解させた水溶液として用いることが好ましい。
水溶液を用いた場合は、後述する混合物を焼成する工程の前に加熱乾燥等の操作で水分を取り除くことが好ましい。原料の混合を湿式法により行う場合は、水溶性のアルミニウム化合物を用いてもよく、水不溶性のアルミニウム化合物を用いてもよい。
【0023】
上記ユーロピウム化合物としては、ユーロピウム元素を含む化合物であればよく、例えば、炭酸ユーロピウム、酸化ユーロピウム、塩化ユーロピウム、硫酸ユーロピウム、硝酸ユーロピウム、酢酸ユーロピウム等のいずれを用いてもよく、これらの2種以上を用いてもよい。中でも、原料の混合を乾式法により行う場合は、より均一に混合する観点から、これらのうち水溶性のユーロピウム化合物を水に溶解させた水溶液として用いることが好ましい。
水溶液を用いた場合は、後述する混合物を焼成する工程の前に加熱乾燥等の操作で水分を取り除くことが好ましい。原料の混合を湿式法により行う場合は、水溶性のユーロピウム化合物を用いてもよく、水不溶性のユーロピウム化合物を用いてもよい。
【0024】
また、本発明の蛍光ガラスの製造方法の混合工程においては、ユーロピウム以外の希土類元素の化合物が、蛍光ガラスの総重量に対して酸化物換算で1~3重量%となるように、ユーロピウム化合物以外の希土類元素化合物も添加して原料を混合することが好ましい。このような割合でユーロピウム化合物以外の希土類元素化合物を混合することで、得られる蛍光ガラスをより蛍光特性に優れたものとすることができる。
【0025】
上記ユーロピウム以外の希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Sc等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも、Dy、Nd、Hoが好ましい。
【0026】
上記ユーロピウム以外の希土類元素の化合物としては、酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等のいずれのものであってもよいが、原料の混合を乾式法により行う場合は、より均一に混合する観点から、水溶性の希土類元素化合物を水に溶解させた水溶液として用いることが好ましい。水溶液を用いた場合は、後述する混合物を焼成する工程の前に加熱乾燥等の操作で水分を取り除くことが好ましい。原料の混合を湿式法により行う場合は、水溶性の希土類元素化合物を用いてもよく、水不溶性の希土類元素化合物を用いてもよい。
【0027】
上記シリカ系ガラスフリットを原料として用いると、高純度シリカを原料として合成する従来の蛍光ガラスに比べて屈折率の高い蛍光ガラスを製造することが可能となる。蛍光ガラスの屈折率と異なる屈折率を有する樹脂に蛍光ガラスを混練すると濁りが発生するが、シリカ系ガラスフリットを原料として用いることで、高純度シリカを原料として合成した従来の蛍光ガラスに比べて高い屈折率が得られることから、屈折率の高い樹脂に混練しても濁りの発生が抑えられた蛍光ガラスを製造することが可能となる。
【0028】
上記シリカ系ガラスフリットとは、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)を主成分とし、更にLiO、NaO、KO等のアルカリ金属の酸化物やZnO、ZrO、CuO、MgO、TiO、SrO、Y、BaO等の他の成分を含むガラスフリットのことである。シリカ系ガラスフリットとしては、SiOを45~90重量%、Alを1~20重量%、CaOを0.1~30重量%含有するものが好ましい。これら3成分をこのような割合で含むと、純粋なSiOに比べて高い屈折率が得られるため、高屈折率の樹脂に対する光透過率に優れた樹脂成形物として好適に用いることができる。
SiO、Al、CaO以外の他の成分の合計含有量は、酸化物換算で0.1~15重量%であることが好ましい。
【0029】
上記シリカ系ガラスフリットに含まれるホウ素化合物やフッ素化合物は、酸化物換算でそれぞれ0.1重量%以下であることが好適である。これら2成分をこのような割合で含むと、還元焼成の際にこれら化合物がフラックスとして機能することなく、焼結が抑制されるため、得られる蛍光ガラスが非晶質(アモルファス)を維持し、樹脂に混練した際により透明性に優れたものとなる。
【0030】
上記シリカ系ガラスフリットの平均粒径は特に限定されないが、1~50μmであることが好ましい。このような平均粒径であると、還元焼成の際にも、焼結が抑制される。平均粒径は、より好ましくは、3~20μmである。
シリカ系ガラスフリットの平均粒径は、レーザー回折・散乱式の粒子径・粒度分布測定装置により測定することができる。
【0031】
上記シリカ系ガラスフリットの屈折率は、該シリカ系ガラスフリットを用いて製造される蛍光ガラスと混練する樹脂の屈折率に近いことが好ましい。シリカ系ガラスフリットの屈折率が、得られる蛍光ガラスを混練する樹脂の屈折率に近いと、蛍光ガラスを樹脂に混練した場合の濁りの発生をより十分に抑えることができる。シリカ系ガラスフリットの屈折率は、得られる蛍光ガラスを混練する樹脂の屈折率の対して好ましくは±0.05であり、より好ましくは±0.02であり、更に好ましくは±0.01である。
【0032】
上記のとおり、シリカ系ガラスフリットの好ましい屈折率は、該シリカ系ガラスフリットを用いて製造される蛍光ガラスを混練する樹脂によって変わることになるが、シリカ系ガラスフリット屈折率が1.4~1.7であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。蛍光ガラスを混練して使用する樹脂としては、ポリカーボネート(屈折率:1.57~1.58)やポリスチレン(屈折率:1.57~1.58)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(屈折率:1.49~1.50)等、屈折率が1.4~1.7の範囲にあるものを用いることが多いため、シリカ系ガラスフリットの屈折率が1.4~1.7であると、これらの樹脂に混練して使用する材料として好適なものとなる。シリカ系ガラスフリットの屈折率は、より好ましくは、1.48~1.65であり、更に好ましくは、1.5~1.6である。
シリカ系ガラスフリットの屈折率は、後述するベッケ線法により測定することができる。
【0033】
(2)還元焼成工程
本発明の蛍光ガラスの製造方法において、混合工程で得られた混合物を還元焼成する工程における還元焼成の温度は、700~900℃であることが好ましい。このような温度で還元焼成を行うことで、得られる蛍光ガラスが非晶質(アモルファス)を維持し、樹脂に混練した際により透明性に優れたものとなる。還元焼成温度は、より好ましくは、800~900℃であり、更に好ましくは、850~900℃である。
【0034】
上記還元焼成工程における上記温度での還元焼成の時間は、蛍光ガラスを十分に還元焼成することと、製造効率とを考えると、0.5~12時間であることが好ましい。より好ましくは、1~8時間であり、更に好ましくは、2~5時間である。
【0035】
上記還元焼成工程を行う還元雰囲気としては、水素や一酸化炭素を含む雰囲気を用いることができるが、安全性やコストの点から水素と窒素との混合ガス雰囲気が好ましく、雰囲気中の水素濃度は0.1~20vol%であることが好ましい。より好ましくは、0.5~10vol%である。
【0036】
(3)その他の工程
本発明の蛍光ガラスの製造方法は、上記還元焼成工程の前に更に酸素含有雰囲気下で焼成する工程を含むことが好ましい。酸素含有雰囲気下で焼成を行うことで、得られる蛍光シリカが蛍光特性により優れたものとなる。
酸素含有雰囲気下での焼成温度は、300~1000℃であることが好ましい。より好ましくは、350~600℃であり、更に好ましくは、400~500℃である。
【0037】
上記酸素含有雰囲気下での焼成の時間は、蛍光ガラスを十分に焼成することと、製造効率とを考えると、0.5~12時間であることが好ましい。より好ましくは、0.5~6時間であり、更に好ましくは、1~3時間である。
【0038】
上記酸素含有雰囲気下での焼成における酸素濃度は、1vol%以上であることが好ましく、10vol%以上であることがより好ましい。また、安全性の点から、20vol%以下であることが好ましい。
【0039】
上記還元焼成及び酸素含有雰囲気下での焼成は、それぞれ1回行ってもよく、2回以上行ってもよい。
また、還元焼成及び酸素含有雰囲気下での焼成とも焼成方法は特に制限されず、流動床焼成法、固定床焼成法のいずれを用いてもよい。
【0040】
本発明の蛍光ガラスの製造方法は、上述した混合工程、還元焼成工程及び酸素含有雰囲気下での焼成工程以外のその他の工程を含んでいても良い。その他の工程としては、混合工程で得られた混合物を乾燥する工程、粉砕工程、精製工程、分級工程等が挙げられる。
【0041】
上記混合工程で得られた混合物を乾燥する工程は、混合工程で得られた混合物に含まれる溶媒を除去して混合物が乾燥されることになる限り、混合工程で得られた混合物を加熱してもしなくてもよいが、加熱する場合の温度は、100~150℃であることが好ましい。このような温度で加熱することで混合物から水分を十分に除去することができ、焼成工程における水分の影響を低減することができる。より好ましくは、120~130℃である。
【0042】
上記粉砕工程は、本発明の蛍光ガラスの製造方法のいずれの段階で行われてもよいが、還元焼成工程の後に行われることが好ましい。
粉砕工程では、湿式粉砕、乾式粉砕のいずれを行ってもよいが、湿式粉砕を行うことが好ましい。湿式粉砕では、必要に応じて遊星ミル、ビーズミル、及び振動ミル等の粉砕媒体撹拌型粉砕機を用いてもよい。
【0043】
上記精製工程、分級工程は、本発明の蛍光ガラスの製造方法のいずれの段階で行われてもよいが、いずれも還元焼成工程の後に行われることが好ましい。
精製工程では、ろ過、水洗等により行うことができる。
分級工程は、篩により行うことができ、湿式分級、乾式分級のいずれにより行ってもよい。
【0044】
2.蛍光ガラス
シリカ系ガラスフリットを原料とした本発明の蛍光ガラスの製造方法は、非晶質であり、蛍光ガラスに含まれるケイ素化合物、アルミニウム化合物およびユーロピウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対してそれぞれSiO換算で45~70重量%、Al換算で15~25重量%、およびEu換算で1~3重量%であり、かつ、屈折率が1.4~1.7である蛍光ガラスの好適な製造方法である。この蛍光ガラスを用いると、樹脂と混練して得られる樹脂組成物をシルバーストリークの発生が抑制されたものとすることができ、更に、屈折率の高い樹脂に混練した場合にも濁りの発生を抑制することができる。
このような、蛍光ガラスに含まれるケイ素化合物、アルミニウム化合物およびユーロピウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対してそれぞれSiO換算で45~70重量%、Al換算で15~25重量%、およびEu換算で1~3重量%含み、屈折率が1.4~1.7であることを特徴とする蛍光ガラスもまた、本発明の1つである。
【0045】
上記蛍光ガラスに含まれるケイ素以外の金属元素の含有量は、蛍光ガラスの総重量に対して酸化物換算で30~55重量%であることが好ましく、より好ましくは、31~53重量%である。
なお、本発明の蛍光ガラスが、ケイ素以外の金属元素を2種以上含む場合、当該2種以上のケイ素以外の金属元素の合計割合が上記範囲であることが好ましい。
【0046】
上記ケイ素以外の金属元素は、マグネシウム、希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、チタン、亜鉛、ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
希土類元素としては、上述したものと同様の元素が挙げられる。
アルカリ土類金属元素としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが挙げられる。
ケイ素以外の金属元素は、これらの中でも、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、チタン、亜鉛、ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属元素を含むことで、蛍光ガラスがより蛍光特性に優れたものとなる。
【0047】
本発明の蛍光ガラスは、蛍光ガラスに含まれるアルミニウム化合物およびユーロピウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対してそれぞれAl換算で15~25重量%、およびEu換算で1~3重量%であることが好ましい。アルミニウム化合物、ユーロピウム化合物をそれぞれこのような割合で含むことで、蛍光ガラスが更に蛍光特性に優れたものとなる。
蛍光ガラスのアルミニウム含有量は、より好ましくは、蛍光ガラスの総重量に対して、Al換算で17~23重量%であり、更に好ましくは、18~21重量%である。
蛍光ガラスのユーロピウム含有量は、より好ましくは、蛍光ガラスの総重量に対して、Eu換算で1.2~2.8重量%であり、更に好ましくは、1.5~2.5重量%である。
【0048】
本発明の蛍光ガラスは、蛍光ガラスに含まれるカルシウム化合物が、蛍光ガラスの総重量に対して、CaO換算で3~30重量%であることが好ましい。カルシウム化合物をこのような割合で含むことで、蛍光ガラスの屈折率をより高めることができる。蛍光ガラスのカルシウム含有量は、より好ましくは、蛍光ガラスの総重量に対して、CaO換算で3~28重量%であり、更に好ましくは、4~27重量%である。
【0049】
本発明の蛍光ガラスは、屈折率が1.4~1.7のものであるが、より好ましくは、1.48~1.65であり、更に好ましくは、1.5~1.6である。
蛍光ガラスの屈折率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0050】
3.樹脂組成物
上述したとおり、本発明の蛍光ガラスと樹脂とを混練して得られる樹脂組成物はシルバーストリークの発生が抑制されたものである。更に、屈折率の高い樹脂に混練した場合にも濁りの発生を抑制することができる。このように、本発明の蛍光ガラスと樹脂と混練して得られる、本発明の蛍光ガラスと樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【0051】
上記樹脂組成物が含む樹脂は特に制限されず、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン(ポリエチレン樹脂とも称す)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等のスチレン(共)重合体、6-ナイロン、66-ナイロン、12-ナイロン等のポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、アルケニル芳香族樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ビスフェノールA系ポリカーボネート等のポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリメチルペンテン、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアクリロニトリル等のポリアクリル酸、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマーエチレンとプロピレンとの共重合体、エチレン又はプロピレンと他のα-オレフィン(ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1等)との共重合体、エチレンと他のエチレン性不飽和単量体(酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール等)との共重合体等の熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、熱可塑性樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体、ブロック共重合体等のいずれの形態の共重合体であってもよい。
これらの中でも、ポリカーボネート、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)等の屈折率の高い樹脂を含むことは本発明の樹脂組成物の好適な実施形態である。
【0052】
上記樹脂組成物における蛍光ガラスの含有量は、樹脂組成物の用途に応じて適宜設定すればよいが、樹脂組成物を成形性に優れ、かつ、蛍光ガラスを含むことの効果も十分に発揮するものとする点から、樹脂組成物が含む樹脂100重量%に対して、0.05~15重量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1~5重量%であり、更に好ましくは、0.5~3重量%である。
【0053】
上記樹脂組成物は、樹脂、蛍光ガラス以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、顔料、染料、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、殺菌剤、抗菌剤、硬化用触媒、光重合開始剤等が挙げられ、これらの1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0054】
上記樹脂組成物における上記その他の成分の含有量は、樹脂組成物全体100重量%に対して、10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、5重量%以下である。
【0055】
上記樹脂組成物は、蛍光体、樹脂、及び、必要に応じて更に含まれる他の成分とを通常の手法によって混合又は混練することで調製することができる。混合、混練、ニーダー、押出機、バンバリミキサー、三本ロール等の混合機を用いて行ってもよい。
【0056】
4.樹脂成形体
本発明の樹脂組成物は、その用途に応じて様々な形状に成形して用いることができる。このような、本発明の樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体もまた、本発明の1つである。
本発明の樹脂成形体の形状は特に制限されず、板状、フィルム状、シート状、膜状等の平面形状の他、棒状、繊維状、針状、球状、ひも状、ペレット状、管状、箔状、粒子状、砂状、鱗片状、液状、ゲル状、ゾル状、懸濁液、集合体、カプセル型等のいずれの形状であってもよい。
【0057】
上記樹脂成形体(特に、板状、フィルム状又はシート状の樹脂成形体)は、樹脂としてポリカーボネートを用いた場合は2mm厚、ポリスチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた場合は1mm厚での全光線透過率が70%以上であることが好適である。全光線透過率が70%以上であると、太陽電池用波長変換材料に用いた場合に変換効率がより向上する。より好ましくは80%以上である。
樹脂成形体の全光線透過率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0058】
上記樹脂成形体(特に、板状、フィルム状又はシート状の樹脂成形体)はまた、樹脂としてポリカーボネートを用いた場合は2mm厚、ポリスチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた場合は1mm厚でのヘイズが50%以下であることが好ましい。ヘイズが50%以下であると、太陽電池用波長変換材料に用いた場合に変換効率がより向上する。ヘイズは、より好ましくは45%以下であり、更に好ましくは40%以下である。
樹脂成形体のヘイズは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【実施例
【0059】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0060】
1.各種物性の測定・評価方法
(1)SEM観察
走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-7000F)により各粉体の一次粒子径やその表面等を観察した。
【0061】
(2)結晶性
以下の条件により粉末X線回折パターン(単にX線回折(XRD)パターンともいう)を測定した。蛍光ガラス粒子のXRDパターンにおいて、非晶質に特有のハローピークが観測された場合、蛍光ガラス粒子を非晶質(アモルファス)と判断した。
-分析条件-
使用機:リガク社製、RINT-TTRIII
線源:CuKα
電圧:50kV
電流:300mA
試料回転速度:60rpm
発散スリット:1.00mm
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:開放
受光スリット:開放
走査モード:連続
スキャンスピード:1
計数単位:Counts
ステップ幅:0.0100°
操作軸:2θ/θ
走査範囲:10.0000~70.0000°
蛍光ガラス粒子の組成式の同定には、JCPDSカードを用いた。なお、JCPDSカードとは、各種物質のX線回折法によるピークプロファイルをまとめたものである。
クリストバライト:SiO、JCPDSカード 00-039-1425
CaSiO:JCPDSカード 00-027-0088
【0062】
(3)屈折率(ベッケ線法)
スライドガラス上に、粉体(蛍光体)を接触液(屈折液、米国カーギル研究所製)に浸した試料を載せて、その試料の透明性を光学顕微鏡によって観察し、粉体の表面と屈折率標準液の屈折率が異なることによって粉体の表面に生じる輝線(ベッケ線)が目視で観察できなくなる屈折率標準液の屈折率を、粉体の表面の屈折率とする方法により評価した。
なお、後述の試験例で使用したポリカーボネート樹脂の屈折率は、1.57~1.58であった。ポリスチレン樹脂の屈折率は、1.57~1.58であった。EVA樹脂の屈折率は、1.49~1.50であった。
(4)全光線透過率及びヘイズ
シートの透明性評価として、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH4000)を用いて行い、ヘイズ(曇り度)と全光線透過率を測定した。
(5)蛍光強度
各粉体(蛍光体)の発光物性(発光強度)を、分光蛍光光度計(日本分光社製、FP-8600)を用いて測定した。蛍光積分球にはISF-834型を使用し、光電子倍増管(PMT)の電圧の設定値を400として、波長365nmの光で励起したときの極大発光波長(主波長)及び発光強度を測定した。測定範囲は380~720nmとし、蛍光スペクトルを測定したところ、450nm付近で強い発光を示した。
(6)ICP発光分光分析
各粉体中の元素含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(SII社製、ICP SPS3100)を用い、スカンジウム(Sc)を内標準とした検量線法によって求めた。測定試料は、塩酸に溶解して作製したが、難溶性の場合は四ホウ酸リチウムを用いたアルカリ溶融法により調製した。
【0063】
(7)樹脂成形体のプレート外観性評価(成形性)
樹脂成形体のプレートを成形する際、易賦形性で幅方向の厚みが安定して問題なく成形でき、シルバーストリーク、光沢ムラ、スジ、荒れが目視で確認できないものを○と評価した。樹脂成形体のプレートを成形する際、賦形性や厚み、シルバーストリーク、表面の光沢ムラやスジ、又は荒れのいずれか一つが成形不良で生じたものを×と評価した。
(8)平均粒径(D50)
各粉体(蛍光体)について、レーザー回折・散乱式粒度分析計(HORIBA社製、型番:LA-950-V2)により粒度分布測定を行った。
まず各粉体0.1gにイオン交換水60mLを加えることにより、各粉体の懸濁液を準備した。イオン交換水を試料循環器に循環させ、透過率が80~95%になるように上記懸濁液を滴下して、循環速度5、撹拌速度1にて測定を行った。
【0064】
2.蛍光ガラスの作製及び評価
実施例1
(i)含浸液の調製
酸化ユーロピウム(信越化学工業社製)を60%硝酸(和光純薬工業社製)で溶解し、イオン交換水を加えて1mol/Lの硝酸ユーロピウム水溶液を調製した。また、硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させて1mol/Lの硝酸塩水溶液を調製した。
(ii)蛍光ガラスの製造
ガラスフリット(CF0003-10;屈折率1.58、日本フリット社製)6.0gに、1mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液7.5mL、及び1mol/Lの硝酸ユーロピウム水溶液0.75mLを添加し、テフロン(登録商標)容器中でスターラーにて撹拌混合した。混合後のスラリーを蒸発皿へ移し、130℃で一晩乾燥し、水分を除去した。乾燥後の粉末を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に充填して、大気雰囲気中で200℃/時で450℃まで昇温し、そのまま1時間保持後、200℃/時で室温まで降温して焼成した。
こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に充填して、還元雰囲気(1%水素含有窒素)中で200℃/時で850℃まで昇温し、そのまま2時間保持後、200℃/時で室温まで降温して焼成した。得られた焼成物を乳鉢粉砕してアルミニウムとユーロピウムを含有する蛍光ガラス粉末を得た。
このようにして得られた蛍光ガラス粒子のXRDパターン(図1)において、非晶質に特有のハローピークが観測されたことから、実施例1で得られた蛍光ガラス粒子は非晶質(アモルファス)であることが確認された。得られた蛍光ガラス粒子の電子顕微鏡観察結果を図2に示す。
また、得られた蛍光ガラス粒子の構成元素の割合をICP分析で測定した結果を表1に示す。
【0065】
実施例2
実施例1におけるガラスフリットをCF0033-10(屈折率1.57、日本フリット社製)に変更、還元焼成時の還元雰囲気温度を900℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、実施例2の蛍光体を得た。得られた蛍光ガラス粒子のXRDパターン及び電子顕微鏡観察結果をそれぞれ図1、3に示す。
また、得られた蛍光ガラス粒子の構成元素の割合をICP分析で測定した結果を表1に示す。
【0066】
実施例3
実施例1におけるガラスフリットをCF0093-3(屈折率1.50、日本フリット社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、実施例3の蛍光ガラスを得た。得られた蛍光ガラス粒子のXRDパターン及び電子顕微鏡観察結果をそれぞれ図1、4に示す。
また、得られた蛍光ガラス粒子の構成元素の割合をICP分析で測定した結果を表1に示す。
実施例1~3で得られた蛍光ガラスの蛍光強度測定結果を図5に示す。
【0067】
比較例1
実施例1におけるガラスフリットをCF0033-3(日本フリット社製)に変更し、還元焼成時の還元雰囲気温度を1000℃に変更したこと以外は実施例1と同様の操作により、比較例1の蛍光ガラスを得た。
得られた蛍光ガラス粒子のXRDパターンを図6に示す。
また、得られた蛍光ガラス粒子の構成元素の割合をICP分析で測定した結果を表1に示す。
【0068】
比較例2
実施例1における還元焼成時の還元雰囲気温度を950℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、比較例2の蛍光ガラスを得た。
得られた蛍光ガラス粒子のXRDパターンを図6に示す。
また、得られた蛍光ガラス粒子の構成元素の割合をICP分析で測定した結果を表1に示す。
【0069】
比較例3
実施例1におけるガラスフリットをCF0033-10(日本フリット社製)に変更し、還元焼成時の還元雰囲気温度を950℃に変更したこと以外は実施例1と同様の操作により、比較例3の蛍光ガラスを得た。
得られた蛍光ガラス粒子のXRDパターンを図6に示す。
また、得られた蛍光ガラス粒子の構成元素の割合をICP分析で測定した結果を表1に示す。
【0070】
比較例4
実施例1におけるガラスフリットを、高純度シリカ粒子(Carplex BS312PH(DSLジャパン社製))に変更し、更に1mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液の添加量を5mLに変更し、還元焼成時の還元雰囲気温度を1100℃に変更したこと以外は実施例1と同様の操作により、比較例4の蛍光ガラスを得た。
また、得られた蛍光ガラス粒子の構成元素の割合をICP分析で測定した結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
表1中、※1印は焼結して測定できないことを意味し、※2印は混晶のため屈折率測定ができないことを意味する。
【0072】
3.樹脂成形体(シート)の作製及び評価
試験例1
ポリカーボネート(パンライトL1225Y、帝人社製、以下「PC」と称す)1000gに実施例1の蛍光ガラスを10g添加し、スーパーミキサーにて混合して乾式混合物とした後、2軸押出機(25mmφ、東洋精機社製ラボプラストミル)により温度300℃で押出成形し、ペレット状の樹脂組成物1を得た。この樹脂組成物1を、射出成型により射出温度300℃、金型温度80℃にて射出成型し、2mm厚のシート1を得た。
【0073】
試験例2
蛍光ガラスの種類を表2に示すとおり変更した以外は試験例1と同様にして、シート2を作製した。
【0074】
試験例3
ポリスチレン(DIC株式会社製ディックスチレンCR4500G、以下「PS」と称す)1000gに実施例1の蛍光ガラスを10g添加し、スーパーミキサーにて混合して乾式混合物とした後、2軸押出機(25mmφ、東洋精機社製ラボプラストミル)により温度230℃で押出成形し、ペレット状の樹脂組成物3を得た。この樹脂組成物3を、射出成型機により射出温度230℃、金型温度40℃にて射出成型し、1mm厚のシート3を得た。
【0075】
試験例4
実施例1の蛍光ガラスから実施例2の蛍光に変更した以外は試験例3と同様にして、シート4を作製した。
【0076】
試験例5
エチレン-酢酸ビニル系共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製、エバフレックス(R)EV360、「EVA樹脂」とも称す)49.5gに実施例3の蛍光ガラスを0.5g添加し、樹脂混練機(東洋精機社製、ラボプラストミル)に投入し、温度90℃、ローター回転数60rpmの条件下で20分間混練することで、樹脂組成物5を得た。この樹脂組成物5を、プレス機(東洋精機社製、Mini Test Press MP-WNH)を用い、温度:130℃、加圧条件:0.6MPa×5分、2MPa×3分、5MPa×2分(この順に)にてプレスした後、室温まで冷却することで、1mm厚のシート5を得た。
【0077】
試験例6
ポリカーボネート(パンライトL1225Y、帝人社製)1000gに比較例4の蛍光ガラスを10g添加し、スーパーミキサーにて混合して乾式混合物とした後、2軸押出機(25mmφ、東洋精機社製ラボプラストミル)により温度300℃で押出成形しペレット状の樹脂組成物6を得た。この樹脂組成物6を、射出成型機により射出温度300℃、金型温度80℃にて射出成型し、2mm厚のシート6を得た。
【0078】
試験例1~6で得たシートにつき、全光線透過率、ヘイズ、成形性を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2の結果から、実施例1~3で得られた蛍光ガラスを、蛍光ガラスの屈折率に近い樹脂に混練した樹脂成形体の評価(試験例1~5)では、樹脂成形体を成形する際にシルバーストリーク等の成形不良は全く見られず、成形性に優れることが確認された。このように、シリカ系ガラスフリットを原料とすることで、表面処理を施さなくても樹脂成形時に成形不良が発生しない蛍光ガラスが得られた。一方、試験例6は、比較例4の蛍光ガラスをポリカーボネートに混練したものである。試験例6は、樹脂成形体を成形する際に、シルバーストリークによる成形不良が発生した。このように、高純度シリカを原料として得られた蛍光ガラスでは、樹脂成形時に成形不良が発生した。
また、表2の結果から、実施例1~3で得られた蛍光ガラスを、蛍光ガラスの屈折率に近い樹脂に混練した樹脂成形体の評価(試験例1~5)では、得られたシートのヘイズが低く、全光線透過率が高いことから、透明性に優れることが分かった。一方、試験例6は、比較例4の蛍光ガラスをポリカーボネート(屈折率1.57~1.58)に混練したものである。比較例4の蛍光ガラスの屈折率は1.48であり、また比較例4の蛍光ガラスの結晶性は、X線回折パターンから、図には示していないものの、主な結晶相がクリストバライト相であった。このため得られたシートのヘイズが高く、全光線透過率が低くなり、透明性が著しく低下した。
なお、比較例1~3で得られた蛍光ガラスは、X線回折パターンから、CaSiOを主とする混晶であった。蛍光ガラスが混晶の場合は、蛍光ガラス中に屈折率の異なる結晶が複数含まれていることから、樹脂に混練した際に透明性が得られないことは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6