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  • 特許-スピニングリール 図1
  • 特許-スピニングリール 図2
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  • 特許-スピニングリール 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】スピニングリール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/01 20060101AFI20220729BHJP
【FI】
A01K89/01 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018172543
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020043768
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】落合 浩士
(72)【発明者】
【氏名】新妻 基弘
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-103881(JP,A)
【文献】特開平07-231738(JP,A)
【文献】特開2017-131124(JP,A)
【文献】特開2016-214193(JP,A)
【文献】特開2010-063434(JP,A)
【文献】特許第3372809(JP,B2)
【文献】特開2009-005638(JP,A)
【文献】特開2008-295372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00 - 89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り糸を前方に繰り出し可能なスピニングリールであって
リール本体と、
前記リール本体に回転可能に支持されたハンドルと、
前記ハンドルの回転に応じて前記リール本体を前後方向に往復移動するスプール軸と、
糸巻き胴部、及び前記糸巻き胴部の後部に設けられ前記糸巻き胴部の外径よりも大径のスカート部、を有し、前記スプール軸と一体的に移動するスプールと、
前記リール本体に対して回転可能であり、前記スカート部の外径よりも小径であり前記スプール軸が軸方向に貫通する壁部、前記壁部から前方に突出して少なくとも一部が前記スプールの前記スカート部と径方向に重なる第1円筒部、及び前記壁部から後方に突出する第2円筒部、を有するロータと、
前記ロータの前記第1円筒部の内側から外側に向かって貫通する排水孔と、
を備え
前記排水孔は、後方に向かって前記スプール軸から離れる方向に傾斜する傾斜部を有する、
スピニングリール。
【請求項2】
前記排水孔は、前記第1円筒部の周方向に沿って延びている、
請求項1に記載のスピニングリール。
【請求項3】
前記排水孔は、前記壁部と前記第1円筒部との境界部分に形成されている、
請求項1又は2に記載のスピニングリール。
【請求項4】
前記排水孔の前記傾斜部は、後端部が前記第2円筒部の外周部に接続されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載のスピニングリール。
【請求項5】
前記ロータは、前記第1円筒部及び前記第2円筒部の径方向外側で互いに対向する1対のロータアームをさらに有し、
前記排水孔は、前記1対のロータアームと径方向に重ならない位置に形成されている、請求項1からのいずれかに記載のスピニングリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用リール、特に、釣り糸を前方に繰り出し可能なスピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
釣り糸を前方に繰り出し可能なスピニングリールは、ハンドルの回転に応じてロータが回転して、スプールに釣り糸が巻き付けられる。スプールは、スプール軸に一体移動可能に装着されており、ハンドルの回転に応じてスプール軸とともに前後方向に往復移動する。
【0003】
スプールは、糸巻き胴部と、糸巻き胴部の後部に設けられたスカート部と、を有している。ロータは、スプール軸が貫通する壁部と、スカート部の内側で少なくとも一部がスカート部と径方向に重複する円筒部と、を有している。径方向において円筒部をスカート部に重複させることで、スカート部内への釣り糸の侵入、及び釣り糸の侵入によるスプール軸への釣り糸の絡みつきを防止している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4324462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロータの円筒部をスプールのスカート部の一部と径方向に重複させてスプールのスカート部内への釣り糸の侵入を防止するには、スプールが最も前方に移動したときにおいても円筒部の一部をスカート部と径方向に重複させる必要がある。このため、例えば、スプールの前後方向の移動量が大きく設定されたスピニングリールでは、円筒部が軸方向に長く形成される。
【0006】
円筒部を軸方向に長く形成したときにおいて、壁部を円筒部の前端に設けると、円筒部の内部空間が大きくなり、円筒部内に侵入しうる水量も多くなる。このため、特許文献1では、円筒部が壁部よりも前方に突出して形成されている。この場合、円筒部内に水が侵入して円筒部内に水が溜まると、円筒部内からリール本体の内部に水が侵入するおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、スプールのスカート部内への釣り糸の侵入を防止しつつ、ロータの円筒部からリール本体の内部への水の侵入を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るスピニングリールは、釣り糸を前方に繰り出し可能である。スピニングリールは、リール本体と、ハンドルと、スプール軸と、スプールと、ロータと、排水孔と、を備える。ハンドルは、リール本体に回転可能に支持されている。スプール軸は、ハンドルの回転に応じてリール本体を前後方向に往復移動する。スプールは、スプール軸と一体的に移動する。スプールは、糸巻き胴部、及び糸巻き胴部の後部に設けられ糸巻き胴部の外径よりも大径のスカート部、を有する。ロータは、リール本体に対して回転可能である。ロータは、スカート部の外径よりも小径でありスプール軸が軸方向に貫通する壁部、壁部から前方に突出して少なくとも一部がスプールのスカート部と径方向に重なる第1円筒部、及び壁部から後方に突出する第2円筒部、を有する。排水孔は、ロータの第1円筒部の内側から外側に向かって貫通する。
【0009】
このスピニングリールでは、ロータの第1円筒部の少なくとも一部がスプールのスカート部の一部と径方向に重なるので、スプールのスカート部内への釣り糸の侵入を防止できる。また、前方からロータの第1円筒部内に水が侵入した場合、第1円筒部内に侵入した水は、排水孔から第1円筒部の外側に排出される。これにより、第1円筒部内に水が溜まることを抑制できるので、第1円筒部からリール本体の内部への水の侵入を抑制することができる。
【0010】
好ましくは、排水孔は、第1円筒部の周方向に沿って延びている。この場合は、第1円筒部内に侵入した水を効果的かつ速やかに外部に排出することができる。
【0011】
好ましくは、排水孔は、壁部と第1円筒部との境界部分に形成されている。この場合は、第1円筒部内において壁部の前面部に水が溜まることを抑制できるので、さらに第1円筒部からリール本体の内部への水の侵入を抑制することができる。
【0012】
好ましくは、排水孔は、後方に向かってスプール軸から離れる方向に傾斜する傾斜部を有する。この場合は、排水孔から排出された水が外部に誘導され易くなるので、スプールのスカート部内に水がとどまり難くなる。
【0013】
好ましくは、排水孔の傾斜部は、後端部が第2円筒部の外周部に接続されている。この場合は、排水孔から排出された水がより外部に誘導され易くなる。
【0014】
好ましくは、ロータは、第1円筒部及び第2円筒部の径方向外側で互いに対向する1対のロータアームをさらに有する。排水孔は、1対のロータアームと径方向に重ならない位置に形成されている。この場合は、排水孔から排出された水をロータアームに邪魔されることなくスムーズに外部に排出できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スプールのスカート部内への釣り糸の侵入を防止しつつ、ロータの円筒部からリール本体の内部への水の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態が採用されたスピニングリールの側面図。
図2】スピニングリールの断面図。
図3】ロータの斜視図。
図4】ロータの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態が採用されたスピニングリール100は、釣り糸を前方に繰り出し可能である。図1は、スピニングリール100の側面図である。スピニングリール100は、図1に示すように、リール本体2と、ハンドル3と、スプール軸4(図2参照)と、スプール5と、ロータ6と、排水孔7(図3参照)と、を備えている。
【0018】
なお、以下の説明において、釣りを行うときに、釣り糸が繰り出される方向を前、その反対方向を後という。また、左右とは、スピニングリール100を後方から見たときの左
右をいう。また、スプール軸4が延びる方向を軸方向、スプール軸4と直交する方向を径方向、スプール軸4の軸周りの方向を周方向という。なお、本実施形態における軸方向は、前後方向と一致している。
【0019】
図2は、スピニングリール100の断面図である。リール本体2は、リール本体部2aと、円筒部2bと、を有している。リール本体部2aは内部空間を有しており、内部空間には、周知のオシレーティング機構12や、ロータ6が駆動される図示しない周知のロータ駆動機構の一部が収容されている。円筒部2bは、リール本体部2aの前部から軸方向に延びている。円筒部2bの内部には、ワンウェイクラッチ14が配置されている。
【0020】
ハンドル3は、リール本体2に回転可能に支持されている。本実施形態では、ハンドル3は、リール本体2の左側に装着されている。なお、ハンドル3は、リール本体2の右側に装着することもできる。
【0021】
スプール軸4は、前後方向に延び、リール本体2に支持されている。スプール軸4は、ハンドル3の回転に応じて、オシレーティング機構12によりリール本体2を前後方向に往復移動する。
【0022】
スプール5は、スプール軸4の先端に螺合する図示しないナット部材によって、スプール軸4に装着されており、スプール軸4と一体的に移動する。すなわち、スプール5は、スプール軸4とともにリール本体2に対して前後方向に往復移動する。なお、図1及び図2に示すスプール5の位置は、リール本体2に対してスプール5が最も後方に移動したときの位置を示している。
【0023】
スプール5は、糸巻き胴部5aと、スカート部5bと、を有している。糸巻き胴部5aは、外周に釣り糸が巻き付けられる。スカート部5bは、糸巻き胴部5aの後部において、糸巻き胴部5aと一体的に形成されている。スカート部5bは、円筒状であり、軸方向に延びている。スカート部5bの外径は、糸巻き胴部5aの外径よりも大径である。
【0024】
ロータ6は、リール本体2に対して回転可能であり、ハンドル3の回転に応じてスプール5の糸巻き胴部5aに釣り糸を巻き付ける。ロータ6は、ハンドル3の回転が伝達されるピニオンギア16に一体回転可能に連結されている。ピニオンギア16には、ロータ駆動機構を介してハンドル3の回転が伝達される。
【0025】
図3は、ロータ6の斜視図である。図4は、ロータ6の断面図である。図2から図4に示すように、ロータ6は、壁部61と、第1円筒部62と、第2円筒部63と、1対のロータアーム64と、を有している。壁部61は、円板状であり、径方向に延びている。壁部61は、スプール5のスカート部5bの外径よりも小径であり、スカート部5bよりも径方向内側に配置されている。壁部61は、スプール軸4が軸方向に貫通する貫通孔61aをその中心に有している。壁部61は、ピニオンギア16の先端に螺合するナット部材18によってピニオンギア16に一体回転可能に連結されている。
【0026】
第1円筒部62は、円筒状であり、壁部61の外端部から前方に突出している。したがって、第1円筒部62は、前方に向かって開口し、後方が壁部61によって覆われている。第1円筒部62は、少なくとも一部がスプール5のスカート部5bと径方向に重なる。詳細には、第1円筒部62は、スプール5がリール本体2に対して最も前方に移動したとき、及びスプール5がリール本体2に対して最も後方に移動したときのいずれにおいても、少なくとも一部がスプール5のスカート部5bと径方向に重なる。すなわち、第1円筒部62は、スプール5のスカート部5bよりも径方向内側に配置され、少なくとも一部がスプール5のスカート部5bの内周部に対向して配置されている。これにより、スプール5のスカート部5b内への釣り糸の侵入を第1円筒部62によって防止できる。
【0027】
第1円筒部62は、本実施形態では、壁部61と別体で構成されている。詳細には、第1円筒部62は、図2及び図3に示すように、第1円筒部62から径方向内側に突出する固定部62aを有している。固定部62aは、ねじ部材20によって壁部61に固定されている。これにより、第1円筒部62が壁部61に固定されている。
【0028】
第2円筒部63は、円筒状であり、壁部61の外端部から後方に突出している。したがって、第2円筒部63は、後方に向かって開口し、前方が壁部61によって覆われている。第1円筒部62は、スプール5のスカート部5bよりも径方向内側に配置されている。第2円筒部63は、図2に示すように、リール本体2に対してスプール5が最も後方に移動したときにおいて、一部がスプール5のスカート部5bの内周部に対向して配置されている。なお、第2円筒部63は、本実施形態では、スプール5がリール本体2に対して最も前方に移動したときにおいて、スプール5のスカート部5bと径方向に重ならない。しかしながら、スプール5がリール本体2に対して最も前方に移動したときにおいて、第2円筒部63の一部がスプール5のスカート部5bと径方向に重なるように構成してもよい。
【0029】
第2円筒部63は、壁部61に一体的に形成されている。第2円筒部63の外径は、第1円筒部62の外径と同程度である。第2円筒部63の内部空間には、リール本体2の円筒部2bが収容されている。
【0030】
1対のロータアーム64は、図1から図3に示すように、第1円筒部62及び第2円筒部63の径方向外側で互いに対向する位置に設けられている。1対のロータアーム64は、第2円筒部63と一体的に形成されている。1対のロータアーム64は、第1円筒部62及び第2円筒部63と径方向に間隔を隔てるように第2円筒部63の後端部から前方に湾曲して形成されている。
【0031】
排水孔7は、図3及び図4に示すように、ロータ6の第1円筒部62の内側から外側に向かって貫通して形成されている。排水孔7は、本実施形態では、壁部61と第1円筒部62との境界部分において第1円筒部62を径方向に貫通して形成されている。排水孔7は、2箇所に形成されており、周方向に間隔を隔てて互いに対向する位置に形成されている。排水孔7は、第1円筒部62の周方向に沿って延びており、1対のロータアーム64と径方向に重ならない位置に形成されている。
【0032】
排水孔7は、傾斜部7aを有している。傾斜部7aは、第1円筒部62の周方向に沿って延び、後方に向かってスプール軸4から離れる方向に傾斜している。傾斜部7aは、本実施形態では、第1円筒部62の後端部に第1円筒部62と一体的に形成されている。傾斜部7aは、軸方向において第1円筒部62と重なる位置に形成されている。傾斜部7aは、壁部61と第2円筒部63との境界部分に形成された装着部61bに装着されている。装着部61bは、傾斜部7aに対応する形状を有しており、後方に向かってスプール軸4から離れる方向に傾斜している。傾斜部7aは、後端部が第2円筒部63の外周部に段差なく接続されている。すなわち、傾斜部7aは、後端部の外周面が第2円筒部63の外周面と面一になるように構成されている。
【0033】
上記構成のスピニングリール100では、前方からロータ6の第1円筒部62内に水(海水を含む)が侵入した場合、図4に矢印で示すように、第1円筒部62内に侵入した水は、排水孔7によって第1円筒部62の外側に排出される。これにより、第1円筒部62内に水が溜まることを抑制できるので、第1円筒部62からリール本体2の内部への水の侵入を抑制することができる。また、排水孔7が壁部61と第1円筒部62との境界部分に形成されているので、第1円筒部62内において壁部61の前面部に水が溜まることを抑制できる。これにより、第1円筒部62からリール本体2の内部への水の侵入をさらに抑制することができる。また、排水孔7に傾斜部7aを設けることで、排水孔7から排出された水が第2円筒部63の外周部を伝って外部に誘導され易くなり、スプール5のスカート部5b内に水がとどまり難くなる。
【0034】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0035】
(a)前記実施形態では、排水孔7を壁部61と第1円筒部62との境界部分に設けていたが、排水孔7の位置や形状は、前記実施形態に限定されるものではない。排水孔7は、第1円筒部62の内側から外側に向かって貫通していればよい。例えば、排水孔7は、第1円筒部62の中間部を径方向に貫通して形成してもよいし、壁部61の前面部から第1円筒部62の外側に接続するように形成してもよい。また、排水孔7は、少なくとも1つあればよい。また、排水孔7に必ずしも傾斜部7aを設ける必要はない。
【0036】
(b)前記実施形態では、第1円筒部62と壁部61とが別体で構成されていたが、第1円筒部62と壁部61とを単一の部材で構成してもよい。
【符号の説明】
【0037】
2 リール本体
3 ハンドル
4 スプール軸
5 スプール
5a 糸巻き胴部
5b スカート部
6 ロータ
7 排水孔
7a 傾斜部
61 壁部
62 第1円筒部
63 第2円筒部
64 ロータアーム
100 スピニングリール
図1
図2
図3
図4