(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】診断装置及び診断方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20220729BHJP
F01N 3/00 20060101ALI20220729BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20220729BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20220729BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20220729BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220729BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
F01N3/18 C ZAB
F01N3/00 F
F01N3/08 H
F01N11/00
G01N27/26 391Z
G01N27/416 331
B01D53/94 222
B01D53/94 400
(21)【出願番号】P 2018203295
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】増田 智紀
(72)【発明者】
【氏名】弓削 尚久
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223322(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0186630(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0128565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/18
F01N 3/00
F01N 3/08
F01N 11/00
G01N 27/26
G01N 27/416
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(5)の排気通路内に備えられた選択還元触媒(13)の上流側に尿素水溶液を供給し、前記尿素水溶液から生成されるアンモニアを用いて排気中の窒素酸化物を還元する排気浄化装置(10)における前記選択還元触媒(13)の上流側に備えられたNO
Xセンサ(21)の診断を行う診断装置(100)において、
前記NO
Xセンサ(21)により計測されるNO
X濃度を推定NO
X濃度と比較することにより前記NO
Xセンサ(21)の診断を行う診断部(114)と、
排気流量と前記尿素水溶液の噴射量とに基づき推定される、前記選択還元触媒(13)の上流側でのアンモニアの滞留状態に応じて、前記NO
Xセンサ(21)の診断の実行の可否を判定する判定部(112)と、を備える、
ことを特徴とする、診断装置。
【請求項2】
前記判定部(112)は、
前記排気流量及び前記尿素水溶液の噴射量に基づいて得られるアンモニア残留濃度指標値を積算し、積算値が禁止基準値を超えたときに前記診断の実行を禁止する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記判定部(112)は、
前記診断の実行を禁止した状態から、前記アンモニア残留濃度指標値の積算値が許可基準値を下回ったときに前記診断の実行の禁止を解除する、
ことを特徴とする、請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記アンモニア残留濃度指標値は、
前記排気流量及び前記尿素水溶液の噴射量に基づいて、前記選択還元触媒(13)の上流側の前記排気通路内に前記アンモニアが滞留すると推定される場合に正の値を示し、
前記選択還元触媒(13)に前記アンモニアが搬送されると推定される場合に負の値を示す、
ことを特徴とする、請求項2又は3に記載の診断装置。
【請求項5】
前記判定部(112)は、
前記排気流量が所定の流量閾値未満の期間の前記尿素水溶液の噴射量を積算し、前記尿素水溶液の積算値が禁止基準値を超えたときに前記診断の実行を禁止する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の診断装置。
【請求項6】
前記判定部(112)は、
前記診断の実行を禁止した状態から、前記排気流量が前記流量閾値以上の期間の前記排気流量を積算し、前記排気流量の積算値が許可基準値を超えたときに前記診断の実行の禁止を解除する、
ことを特徴とする請求項5に記載の診断装置。
【請求項7】
前記診断部(114)は、
前記内燃機関(5)の停止後であって前記診断の実行が禁止されていない場合に、前記NO
Xセンサ(21)の診断を行う、
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に備えられたNOXセンサの診断を行う診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関の排気ガスに含まれるNOX(窒素酸化物)を分解して排気ガスを浄化するための装置として、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムが実用化されている。尿素SCRシステムでは、還元剤として尿素水溶液が用いられる。尿素SCRシステムは、尿素水溶液が分解することにより生成されるアンモニアを排気ガス中のNOXと反応させることによりNOXを分解する。
【0003】
尿素SCRシステムは、排気通路に配設された選択還元触媒と、選択還元触媒よりも上流側の排気通路に尿素水溶液を噴射するための還元剤供給装置とを備える。選択還元触媒は、アンモニアを吸着し、流入する排気ガス中のNOXとアンモニアとの還元反応を促進する。還元剤供給装置は、貯蔵タンク内に貯蔵された尿素水溶液を圧送するポンプと、ポンプにより圧送される尿素水溶液を噴射する噴射弁とを備え、制御装置によって駆動制御が行われて、尿素水溶液を排気通路内に噴射する。
【0004】
尿素SCRシステムにおいて、選択還元触媒よりも上流側の排気通路に、内燃機関から排出される排気中のNOX濃度を計測するためのNOXセンサが備えられる場合がある。かかるNOXセンサにより計測されるNOX濃度は、尿素水溶液の目標噴射量の算出に用いられる。NOXセンサによる計測値と実際のNOX濃度とのずれが大きいと、尿素水溶液の噴射量に過不足を生じ、NOXあるいはアンモニアが選択還元触媒の下流側に流出するおそれがある。
【0005】
特許文献1には、NOXセンサの合理性診断を行う技術が開示されている。特許文献1に記載されたNOXセンサの合理性診断では、内燃機関の運転状態が、排気中のNOX濃度がゼロに近い運転状態となった場合に、NOXセンサの診断が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、排気流量が多い場合、排気通路内に噴射される尿素水溶液は、噴霧の状態のまま流されるために、表面積が大きく、排気中の水分と熱により分解されやすい。また、生成されるアンモニアは、選択還元触媒へと流入してNOXの還元に用いられる。しかしながら、排気流量が少ない場合、噴射される尿素水溶液がそのまま排気管の壁面に付着するおそれがある。尿素水溶液が排気管の壁面に付着すると、排気に接する表面積が小さくなって、分解されてアンモニアとなって流されるまでに時間を要する。
【0008】
排気管の壁面に尿素水溶液が付着したまま内燃機関が停止すると、残留する排気熱によって尿素水溶液が分解されて生成されたアンモニアが選択還元触媒よりも上流側に滞留する。NOXセンサは、その構造上、NOXだけでなくアンモニアも検出するため、NOX濃度が安定した状態であってもアンモニアが滞留している場合には、NOXセンサの診断を実行した際に診断結果の精度が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、NOXセンサの診断結果の信頼性を向上可能な診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある観点によれば、内燃機関の排気通路内に備えられた選択還元触媒の上流側に尿素水溶液を供給し、尿素水溶液から生成されるアンモニアを用いて排気中の窒素酸化物を還元する排気浄化装置における選択還元触媒の上流側に備えられたNOXセンサの診断を行う診断装置であって、NOXセンサにより計測されるNOX濃度を推定NOX濃度と比較することによりNOXセンサの診断を行う診断部と、排気流量と尿素水溶液の噴射量とに基づき推定される、選択還元触媒の上流側でのアンモニアの滞留状態に応じて、NOXセンサの診断の実行の可否を判定する判定部と、を備える診断装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、NOXセンサの診断結果の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る診断装置を適用可能な尿素SCRシステムを示す模式図である。
【
図3】診断装置(制御装置)の構成例を示すブロック図である。
【
図4】排気流量が多い場合に尿素水溶液が噴射された様子を示す説明図である。
【
図5】排気流量が少ない場合に尿素水溶液が噴射された様子を示す説明図である。
【
図6】尿素水溶液が排気管の壁面に付着したまま内燃機関が停止した様子を示す説明図である。
【
図7】アンモニア残留濃度指標値について説明するための図である。
【
図8】診断実行が許可されている場合の判定処理を示すフローチャートである。
【
図9】診断実行が禁止されている場合の判定処理を示すフローチャートである。
【
図11】判定処理の別の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<1.尿素SCRシステムの構成例>
まず、本実施形態に係る診断装置を適用可能な排気浄化装置としての尿素SCRシステム10の構成例について説明する。
図1は、尿素SCRシステム10の構成例を示す模式図である。
【0015】
尿素SCRシステム10は、ディーゼルエンジン等の内燃機関5の排気系に設けられる。尿素SCRシステム10は、内燃機関5を備えた車両、建設機械又は農機等に搭載され、還元剤として尿素水溶液を用いて、内燃機関5から排出される排気ガス中のNOXを分解して排気を浄化する。尿素水溶液としては、例えば凍結温度が最も低い約32.5%濃度の尿素水溶液が用いられる。この場合の尿素水溶液の凍結温度は約-11℃である。
【0016】
尿素SCRシステム10は、排気管11の途中に配設された選択還元触媒13と、選択還元触媒13よりも上流の排気通路内に尿素水溶液を噴射する還元剤供給装置30とを備える。選択還元触媒13よりも上流及び下流の排気管11には、それぞれNOX濃度を検出する上流側NOXセンサ21及び下流側NOXセンサ23が設けられている。上流側NOXセンサ21及び下流側NOXセンサ23のセンサ信号は制御装置100に出力される。これ以外に、排気管11には、温度センサやアンモニアセンサ等の図示しないセンサ類が設けられていてもよい。
【0017】
選択還元触媒13は、内燃機関5の排気中に含まれるNOXを、アンモニアを用いて選択的に還元する機能を有する。選択還元触媒13は、還元剤供給装置30により噴射された尿素水溶液が分解することにより生成されたアンモニアを吸着し、流入する排気中のNOXをアンモニアと反応させて分解する。選択還元触媒13は、触媒温度が高いほどアンモニアの吸着可能量が減少する性質を有する。また、選択還元触媒13は、吸着可能量に対する実際のアンモニアの吸着量の割合が大きいほどNOXの還元効率が高くなる性質を有する。
【0018】
還元剤供給装置30は、選択還元触媒13よりも上流側で排気通路内に尿素水溶液を噴射する。還元剤供給装置30は、噴射弁31とポンプ41とを備える。噴射弁31は、選択還元触媒13よりも上流の排気管11に固定されている。ポンプ41は、貯蔵タンク50内の尿素水溶液を吸い上げ、噴射弁31に向けて圧送する。ポンプ41及び噴射弁31は、制御装置100によって駆動制御される。
【0019】
ポンプ41の吸入口には、他端が貯蔵タンク50内に位置する第1の還元剤配管58が接続されている。ポンプ41の吐出口には、他端が噴射弁31に接続された第2の還元剤配管57が接続されている。ポンプ41は、第1の還元剤配管58を介して貯蔵タンク50内の尿素水溶液を吸い上げ、第2の還元剤配管57を介して尿素水溶液を噴射弁31に供給する。
【0020】
第2の還元剤配管57には、他端が貯蔵タンク50に接続されたリターン配管59が接続されている。リターン配管59には図示しないオリフィス又は一方向弁が備えられ、第2の還元剤配管57内の圧力を保持できるようになっている。また、第2の還元剤配管57には圧力センサ43が設けられている。圧力センサ43は、噴射弁31に供給される尿素水溶液の圧力Puを検出するセンサであり、センサ信号は制御装置100に出力される。
【0021】
ポンプ41としては、例えば電磁駆動式のダイヤフラムポンプ又はギヤポンプが用いられる。ポンプ41の出力は、制御装置100により制御される。本実施形態では、制御装置100は、噴射弁31に供給される尿素水溶液の圧力が所定の目標値で維持されるようにポンプ41の出力を制御する。例えば制御装置100は、圧力センサ43により検出される圧力と目標値との差分に基づいて、ポンプ41の出力をフィードバック制御する。
【0022】
噴射弁31は、例えば通電制御により開弁及び閉弁が切り替えられる電磁駆動式の噴射弁が用いられる。本実施形態では、制御装置100は、噴射弁31に供給される尿素水溶液の圧力が所定の目標値となるようにポンプ41の出力を制御しつつ、尿素水溶液の目標噴射量に応じて開弁時間を調節する。例えば制御装置100は、一定の噴射サイクルごとに、噴射サイクルの全時間に対する通電時間の比であるデューティ比を調節することにより、尿素水溶液の噴射量を制御する。
【0023】
また、還元剤供給装置30は、装置内の尿素水溶液を貯蔵タンク50に回収する手段を備える。上述のとおり、尿素水溶液の凍結温度は低くても-11℃程度であるため、内燃機関5の停止中に尿素水溶液が凍結する場合がある。装置内で尿素水溶液が凍結すると、体積が膨張して、それぞれの配管やポンプ41、噴射弁31等を破損させるおそれがある。このため、内燃機関5の停止時において、装置内の尿素水溶液は貯蔵タンク50に回収される。
【0024】
例えば、ポンプ41が逆回転可能なポンプである場合には当該ポンプ41が尿素水溶液の回収手段として用いられ、装置内の尿素水溶液を貯蔵タンク50側に吸い戻す。また、ポンプ41の吸入口及び吐出口の接続先を、第1の還元剤配管58又は第2の還元剤配管57に相互に切り換えることにより、ポンプ41の駆動による尿素水溶液の流れを反転させる流路切換弁が尿素水容液の回収手段として備えられてもよい。尿素水溶液の回収手段は、ここに例示した手段以外の手段であってもよい。
【0025】
排気通路に噴射される尿素水溶液の噴射量は、選択還元触媒13よりも下流での排気中のNOXの濃度及びアンモニアの濃度が基準値以下となるように制御される。例えば、尿素水溶液の目標噴射量は、内燃機関5から排出される排気中のNOXを浄化し得るアンモニア量と、選択還元触媒13におけるアンモニアの目標吸着量に対する過不足のアンモニア量との合計量を生成可能な量に設定される。また、尿素水溶液の目標噴射量は、下流側NOXセンサ23のセンサ値に基づいて補正されてもよい。例えば、下流側NOXセンサ23により検出されるNOX濃度が所定の基準値を上回る場合には、尿素水溶液の噴射量を増量させる補正を行う。
【0026】
このように構成される尿素SCRシステムにおいて、上流側NOXセンサ21により計測されるNOX濃度の精度が低い場合には、尿素水溶液の噴射量に過不足が生じる。尿素水溶液の噴射量が過剰になると、生成されるアンモニアが選択還元触媒13の吸着可能量を超えて、選択還元触媒13の下流側に流出しやすくなる。一方、尿素水溶液の噴射量が不足すると、排気中のNOXの一部が選択還元触媒13の下流側に流出しやすくなる。このため、尿素SCRシステム10において、制御装置100は、上流側NOXセンサ21の診断制御を実行する。
【0027】
<2.NO
Xセンサの構成例>
次に、NO
Xセンサの構成の一例について簡単に説明する。
図2は、NO
Xセンサ200の構成を概略的に示す断面図である。かかるNO
Xセンサ200は、2つの固体電解質体211,213によって形成されたガス流路215を備え、ガス流路215の途中には、第1空間217及び第2空間219が設けられている。
【0028】
ガス流路215の第1空間217の上流側には、第1の拡散律速通路221が設けられ、第1空間217と第2空間219との間には、第2の拡散律速通路223が設けられている。第1の拡散律速通路221及び第2の拡散律速通路223は、小孔や薄い切込みを形成した固体電解質体をガス流路215に配置したり、アルミナ等の多孔質体をガス流路215中に充填したりすることによって形成することができる。
【0029】
これらの第1の拡散律速通路221及び第2の拡散律速通路223を通過する排気Gは、拡散抵抗を受けつつ、下流側の第1空間217又は第2空間219に流れ込む。したがって、第1空間217及び第2空間219内での排気Gの滞留時間が長くなり、センサ外での排気Gの組成が変化した場合であっても、第1空間217及び第2空間219内の排気Gへの影響が少なくなる。その結果、センサによる検出精度が高められる。
【0030】
また、ガス流路215の第1空間217に面して第1素子230が設けられ、第2空間219に面して第2素子240が設けられている。第1素子230は、固体電解質体213の両面に第1の内側電極231及び第1の外側電極233が配置されて構成されており、第1の内側電極231が第1空間217に面し、第1の外側電極233が基準ガス空間225に面している。また、第2素子240は、固体電解質体213の両面に第2の内側電極241及び第2の外側電極243が配置されて構成されたものであり、第2の内側電極241が第2空間219に面し、第2の外側電極243が基準ガス空間225に面している。
【0031】
かかるNOXセンサ200において、第1素子230及び第2素子240はともに酸素ポンプ素子として利用されるものであり、第1素子230及び第2素子240を構成する第1の内側電極231と第1の外側電極233、及び、第2の内側電極241と第2の外側電極243は、それぞれ外部接続回路227に接続され、一対の電極間に電圧を印加することができるようになっている。
【0032】
このうち、第1素子230では、排気G中のNOXのうち、NOが解離しないようにして酸素のみを汲み出すように、電圧の印加が行われる。このとき、第1空間217内では、下記式(1)で示すように、NO2が解離してNO及び酸素が生成される。
2NO2 → 2NO+O2 …(1)
【0033】
したがって、第1空間217からは、排気Gにもともと含まれていた酸素と、第1空間217内で生成された酸素とが、第1素子230によって汲み出される。
【0034】
また、第2素子240では、排気G中のNOを解離して酸素を汲み出すように、電圧の印加が行われる。すなわち、第2空間219内では、下記式(2)で示すように、NOが解離して窒素及び酸素が生成される。
2NO → N2+O2 …(2)
【0035】
したがって、第2空間219からは、第2空間219内で生成された酸素が第2素子240によって汲み出される。このとき、第2素子240に流れる電流値は、第2空間219から汲み出された酸素濃度に応じた電流値を示す。この酸素濃度は、すなわち排気GのNOX濃度を示すことから、第2素子240に流れる電流値を測定することによって、排気G中のNOX濃度を検出することができる。
【0036】
また、かかるNOXセンサ200において、排気G中にアンモニア(NH3)が含まれていると、第1空間217の第1の内側電極231において酸化されてNOが生成される場合がある。すなわち、排気G中にアンモニアが滞留している場合、第1空間217で生成されたNOが第2空間219内で解離して窒素及び酸素が生成され、NOXセンサ200により検出されることとなる。
【0037】
<3.診断装置(制御装置)>
次に、本実施形態に係るNO
Xセンサの診断装置として機能する制御装置100の構成例について説明する。
図3は、制御装置100の構成のうち、上流側NO
Xセンサ21の診断に関連する部分の機能構成を示すブロック図である。
【0038】
制御装置100の一部又は全部は、例えば、マイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよく、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよい。また、制御装置100の一部又は全部は、CPU(Central Processing Unit)等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0039】
制御装置100は、処理部110、記憶部140、噴射弁駆動部150及びポンプ駆動部160を備える。記憶部140は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子により構成される。記憶部140は、ソフトウェアプログラムや種々の演算処理に用いられるパラメータ、演算結果、センサ類による計測結果等を記憶する。記憶部140は、CD-ROMやHDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体を用いて構成されてもよい。制御装置100には、直接、あるいは、CAN(Controller Area Network)等のバス配線を介して接続された上流側NOXセンサ21及び下流側NOXセンサ23のセンサ信号、及び内燃機関5の運転状態に関連する情報が入力される。
【0040】
噴射弁駆動部150及びポンプ駆動部160は、それぞれ電気回路により構成され、処理部110から出力される指令信号に基づいて動作して噴射弁31又はポンプ41の駆動を制御する。処理部110は、例えばCPUを用いて構成される。処理部110は、判定部112、診断部114及び噴射制御部116を備える。これらの各部は、処理部110がソフトウェアプログラムを実行することにより実現される機能であってよい。
【0041】
(噴射制御部)
噴射制御部116は、内燃機関5の排気中のNOXを浄化するために、尿素水溶液の噴射制御を実行する。例えば、噴射制御部116は、内燃機関5の排気中のNOX量に基づき、当該NOXを還元するために必要なアンモニア量を算出するとともに、選択還元触媒13におけるアンモニアの目標吸着量に対して過不足のアンモニア量を算出する。噴射制御部116は、算出されたアンモニア量の和に応じた尿素水溶液の量を目標噴射量とする。
【0042】
内燃機関5から排出される排気中のNOX量は、上流側NOXセンサ21により計測される排気中のNOX濃度に、内燃機関5の運転状態に基づいて算出される排気流量をかけて求められる。かかる排気中のNOX量に基づいて、排気中のNOXを浄化し得るアンモニア量が算出される。
【0043】
選択還元触媒13におけるアンモニアの目標吸着量は、選択還元触媒13の温度に依存する吸着可能量の例えば70%に設定される。選択還元触媒13におけるアンモニアの現在の吸着量は、噴射された尿素水溶液から生成されるアンモニア量(正の値)と、NOXの還元に用いられたアンモニア量(負の値)とを積算することにより求められる。現在のアンモニアの吸着量が目標吸着量に対して不足する場合には、過不足のアンモニア量は正の値となり、現在のアンモニアの吸着量が目標吸着量に対して過剰である場合には、過不足のアンモニア量は負の値となる。
【0044】
噴射制御部116は、所定のサイクルごとに尿素水溶液の目標噴射量を算出し、算出されたアンモニア量に対応する尿素水溶液の量を目標噴射量として、尿素水溶液の噴射制御を実行する。例えば、噴射制御部116は、噴射弁31に供給される尿素水溶液の圧力が一定に保たれるようにポンプ41の出力を制御し、目標噴射量に応じて、噴射弁31の開弁時間を調節する。また、噴射制御部116は、選択還元触媒13の下流側に設けられた下流側NOXセンサ23のセンサ値に基づき尿素水溶液の噴射量を補正する。このようにして尿素水溶液の噴射制御を実行することにより、選択還元触媒13の下流側へのアンモニアの流出が抑制されつつ、選択還元触媒13におけるアンモニアの吸着率が高く維持されてNOXの還元効率を向上させることができる。
【0045】
(診断部)
診断部114は、上流側NOXセンサ21の診断を実行する。本実施形態において、診断部114は、内燃機関5が停止して、還元剤供給装置30による尿素水溶液の噴射制御が停止している期間に、上流側NOXセンサ21により計測されるNOX濃度を推定NOX濃度と比較することにより上流側NOXセンサ21の診断を実行する。内燃機関5が停止した状態で上流側NOXセンサ21の診断を実行するのは、排気の流れが停止し、上流側NOXセンサ21の設置位置におけるNOX濃度が安定しているため、診断精度を高めることができるからである。
【0046】
ここで、上述のとおり上流側NOXセンサ21によってアンモニアの検出も行われることから、上流側NOXセンサ21の設置位置にアンモニアが滞留していない状態で上流側NOXセンサ21の診断を実行することが望ましい。尿素SCRシステム10においては、内燃機関5の排気流量が多い場合には、噴射される尿素水溶液からアンモニアが選択還元触媒13に搬送されやすい一方、内燃機関5の排気流量が少ない場合には、噴射される尿素水溶液が排気管11の壁面に付着する場合がある。
【0047】
図4~
図5は、選択還元触媒13の上流側で尿素水溶液が噴射された様子を示す説明図である。
図4は、排気流量が多い場合に尿素水溶液が噴射された様子を示し、
図5は、排気流量が少ない場合に尿素水溶液が噴射された様子を示す。
【0048】
図4に示すように、排気流量が多い場合、噴射弁31から噴射される尿素水溶液Uは噴霧の状態のままで流され、排気の熱あるいは水分により分解されることによってアンモニアが生成され、選択還元触媒13に搬送される。排気流量が多い場合には、効率よくアンモニアが生成されるとともに、生成されたアンモニアは排気の流れにのって選択還元触媒13に搬送される。これに対して、
図5に示すように、排気流量が少ない場合、噴射弁31から噴射される尿素水溶液Uは液滴状態のままで排気管11の壁面に付着しやすくなるため、分解されにくくなる。排気管11に付着した尿素水溶液は、その後排気熱等によって徐々に分解され、アンモニアが生成される。
【0049】
図6は、尿素水溶液が排気管11の壁面に付着したまま内燃機関5が停止した様子を示す。内燃機関5が停止すると排気の流れが停止するために、生成されたアンモニアが選択還元触媒13の上流側に滞留して、上流側NO
Xセンサ21の設置位置にも充満しやすくなる。この状態で上流側NO
Xセンサ21の診断を実行した場合、上流側NO
Xセンサ21により計測されるNO
X濃度は、実際にはNO
X及びアンモニアの濃度を示すことになって、診断結果の信頼性が低下する。
【0050】
このため、本実施形態に係る制御装置100は、判定部112により、選択還元触媒13の上流側でのアンモニアの滞留状態に応じて、上流側NOXセンサ21の診断の実行の可否を判定する。診断部114は、内燃機関5の停止後、判定部112によって上流側NOXセンサ21の診断実行の許可判定がされている場合に、上流側NOXセンサ21の診断を実行する。なお、上流側NOXセンサ21により計測されるNOX濃度を推定NOX濃度と比較する上流側NOXセンサ21の具体的な診断手法は特に限定されない。
【0051】
(判定部)
判定部112は、上流側NOXセンサ21が設けられた、選択還元触媒13の上流側におけるアンモニアの滞留状態に基づいて上流側NOXセンサ21の診断実行の可否を判定する。本実施形態において、判定部112は、排気流量と尿素水溶液の噴射量とに基づいて得られるアンモニア残留濃度指標値を用いて上流側NOXセンサ21の診断の実行の可否を判定する。
【0052】
ここで、アンモニア残留濃度指標値とは、排気流量及び尿素水溶液の噴射量から推定される、選択還元触媒13の上流側の排気通路内に滞留するアンモニア量を表す値である。アンモニア残留濃度指標値が正の値である場合、滞留するアンモニア量が増える状態を表す。また、アンモニア残留濃度指標値が正の値で大きいほど、滞留するアンモニア量が多い状態を表す。アンモニア残留濃度指標値が負の値である場合、滞留するアンモニア量が減る状態を表す。また、アンモニア残留濃度指標値が負の値で大きいほど、減少するアンモニア量が多い状態を表す。滞留するアンモニア量が減る状態とは、アンモニアが選択還元触媒13に搬送されやすい状態とも言い得る。
【0053】
ここで、排気流量が小さいほど排気管11の壁面に尿素水溶液が付着しやすくなる。また、尿素水溶液の噴射量が多いほど排気管11の壁面に尿素水溶液が付着しやすくなる。このため、判定部112は、排気流量が少なく、また、尿素水溶液の噴射量が多いほど、正の大きい値となるように、アンモニア残留濃度指標値を求める。逆に、選択還元触媒13の上流側にアンモニアが滞留している場合であっても、尿素水溶液の噴射量が少なく、かつ、排気流量が多い場合には、滞留しているアンモニアが選択還元触媒13に流れ込みやすくなる。このため、判定部112は、排気流量が多く、また、尿素水溶液の噴射量が少ないほど、負の大きい値となるように、アンモニア残留濃度指標値を求める。
【0054】
図7は、求められるアンモニア残留濃度指標値について説明するための図である。排気流量Vgが同一である場合、尿素水溶液の噴射量Quが多いほどアンモニア残留濃度指標値は正の値で大きくなり、尿素水溶液の噴射量Quが少ないほどアンモニア残留濃度指標値は負の値で大きくなる。また、尿素水溶液の噴射量Quが同一である場合、排気流量Vgが多いほどアンモニア残留濃度指標値は負の値で大きくなり、排気流量Vgが少ないほどアンモニア残留濃度指標値は正の値で大きくなる。
【0055】
このように求められるアンモニア残留濃度指標値は、あらかじめシミュレーション等により求められ、マップ情報として記憶部140に記憶されていてもよく、あらかじめ設定された計算式を用いて算出されてもよい。
【0056】
判定部112は、所定のサイクルごとに、排気流量及び尿素水溶液の噴射量に基づいてアンモニア残留濃度指標値を算出する。例えば、判定部112は、噴射制御部116が目標噴射量を算出するサイクルごとにアンモニア残留濃度指標値を算出する。判定部112は、算出したアンモニア残留濃度指標値を積算し、積算値が禁止基準値を超えたときに、上流側NOXセンサ21の診断の実行を禁止する。このとき、積算値がゼロ未満とならないように積算値の下限がゼロに設定される。
【0057】
<4.フローチャート>
次に、診断装置として機能する制御装置100により実行される処理の一例を説明する。
【0058】
図8~
図9は、上流側NO
Xセンサ21の診断実行の可否を判定するためのフローチャートを示す。
図8は、診断実行が許可されている場合の判定処理を示すフローチャートであり、
図9は、診断実行が禁止されている場合の判定処理を示すフローチャートである。
図8及び
図9に示すフローチャートは、内燃機関5の運転中に所定の処理サイクルごとに実行される。
【0059】
図8に示すように、診断実行が許可されている場合、制御装置100の判定部112は、排気流量Vgの情報を取得する(ステップS11)。例えば、排気流量Vgは、内燃機関5の回転数等の運転状態に基づいて算出される。次いで、判定部112は、噴射制御部116により算出された尿素水溶液の噴射量Quの情報を取得する(ステップS13)。
【0060】
次いで、判定部112は、排気流量Vg及び尿素水溶液の噴射量Quの情報に基づいてアンモニア残留濃度指標値を算出する(ステップS15)。判定部112は、例えばあらかじめ排気流量Vg及び尿素水溶液の噴射量Quに応じてアンモニア残留濃度指標値を設定したマップ情報を参照してアンモニア残留濃度指標値を算出してもよく、あらかじめ設定された計算式を用いてアンモニア残留濃度指標値を算出してもよい。
【0061】
次いで、判定部112は、算出したアンモニア残留濃度指標値を積算する(ステップS17)。このとき、積算値がマイナスの値とならないように、積算値の下限をゼロとしてアンモニア残留濃度指標値の積算値を求める。
【0062】
次いで、判定部112は、算出した積算値が、あらかじめ設定された禁止基準値を超えているか否かを判別する(ステップS19)。禁止基準値は、例えば、上流側NOXセンサ21の設置位置におけるアンモニア濃度が、上流側NOXセンサ21の診断結果の信頼性を担保可能な許容範囲内に収まっていると判断し得る上限の値に設定される。
【0063】
アンモニア残留濃度指標値の積算値が禁止基準値以下の場合(S19/No)、判定部112は、上流側NOXセンサ21の診断実行を許可する(ステップS23)。例えば、判定部112は、診断実行禁止フラグを立てない状態で維持する。この場合、判定部112は、ステップS11に戻って、ここまでに説明した各ステップの演算を繰り返す。
【0064】
一方、アンモニア残留濃度指標値の積算値が禁止基準値を超えている場合(S19/Yes)、判定部112は、上流側NO
Xセンサ21の診断実行を禁止する(ステップS21)。例えば、判定部112は、診断実行禁止フラグを立てる。この場合、判定部112は、
図9に示すフローチャートの処理へと移行する。
【0065】
図9に示すように、診断実行が禁止されている場合、
図8に示したステップS11~S17と同様の手順でアンモニア残留濃度指標値の積算値を算出する(ステップS31~S37)。次いで、判定部112は、算出した積算値が、あらかじめ設定された許可基準値を下回ったか否かを判別する(ステップS39)。許可基準値は、禁止基準値よりも小さい値であって、例えば、上流側NO
Xセンサ21の設置位置におけるアンモニア濃度が、上流側NO
Xセンサ21の診断結果の信頼性を担保可能な許容範囲内にまで低下したと判断し得る値に設定される。
【0066】
アンモニア残留濃度指標値の積算値が許可基準値以上の場合(S39/No)、判定部112は、上流側NOXセンサ21の診断実行を禁止状態で維持する(ステップS43)。例えば、判定部112は、診断実行禁止フラグを立てた状態で維持する。この場合、判定部112は、ステップS31に戻って、ここまでに説明した各ステップの演算を繰り返す。
【0067】
一方、アンモニア残留濃度指標値の積算値が許可基準値を下回った場合(S39/Yes)、判定部112は、上流側NO
Xセンサ21の診断実行の禁止を解除する(ステップS41)。例えば、判定部112は、診断実行禁止フラグを下ろす。この場合、判定部112は、
図8に示すフローチャートの処理へと移行する。
【0068】
このようにして、判定部112は、内燃機関5の排気流量Vg及び尿素水溶液の噴射量Quに基づいて推定される、選択還元触媒13の上流側でのアンモニアの滞留状態に応じて、上流側NOXセンサ21の診断の実行の可否を判定する。
【0069】
なお、
図8及び
図9に基づいて説明した例では、診断実行の禁止及び禁止の解除の切り換えが短時間の間に繰り返されないように、診断実行を禁止する禁止基準値と、診断実行の禁止を解除する許可基準値とが異なる値に設定されているが、禁止基準値と許可基準値とは同一の値であってもよい。
【0070】
図10は、制御装置100の診断部114による診断処理のフローチャートを示す。
診断部114は、内燃機関5が停止したか否かを判別する(ステップS51)。内燃機関5の運転が継続されている間(S51/No)、診断部114は、ステップS51の判定を繰り返す。一方、内燃機関5が停止した場合(S51/Yes)、診断部114は、上流側NO
Xセンサ21の診断実行が許可されているか否かを判別する(ステップS53)。例えば、診断部114は、診断実行禁止フラグが立てられているか否かを判別する。
【0071】
上流側NOXセンサ21の診断実行が禁止されている場合(S53/No)、診断部114は、上流側NOXセンサ21の診断を実行することなく本ルーチンを終了させる。一方、上流側NOXセンサ21の診断実行が許可されている場合(S53/Yes)、診断部114は、上流側NOXセンサ21の診断を実行する(ステップS55)。上流側NOXセンサ21の診断は、例えば、内燃機関5の停止直前の運転状態に基づいて推定される排気中の推定NOX濃度と、上流側NOXセンサ21により実際に計測されるNOX濃度とを比較することにより行うことができる。
【0072】
例えば、診断部114は、かかる実際に計測されるNOX濃度と推定NOX濃度との差があらかじめ設定した閾値未満の場合に上流側NOXセンサ21が正常であると判定する一方、当該差が閾値以上の場合に上流側NOXセンサ21が異常であると判定する。なお、上流側NOXセンサ21の診断方法は、ここで説明した例に限られない。
【0073】
このようにして、診断部114は、内燃機関5の停止時に、選択還元触媒13よりも上流側の排気通路内のNOX濃度が安定した状態で、かつ、アンモニア濃度が低い状態において、上流側NOXセンサ21の診断を実行する。このため、上流側NOXセンサ21の誤計測のおそれが低減され、上流側NOXセンサ21の診断結果の信頼性を高めることができる。
【0074】
<5.他の実施形態>
上記実施形態において、制御装置100の判定部112は、排気流量Vg及び尿素水溶液の噴射量Quに基づいて得られるアンモニア残留濃度指標値を用いて、上流側NOXセンサ21の診断実行の可否を判定していたが、診断実行の可否の判定方法はかかる例に限定されない。以下、診断実行の可否の判定方法の別の例を説明する。
【0075】
図11は、上流側NO
Xセンサ21の診断実行の可否を判定する別の例を示すフローチャートである。
図11に示す例において、判定部112は、排気流量Vgの情報を取得する(ステップS61)。次いで、判定部112は、排気流量Vgが、あらかじめ設定した閾値を超えているか否かを判別する(ステップS63)。
【0076】
このときに用いられる閾値は、例えば、選択還元触媒13の上流側にアンモニアが滞留している場合であっても、当該アンモニアを選択還元触媒13に搬送させることができる排気流量の下限値に設定される。例えば、内燃機関5がアイドル状態にある場合や、内燃機関5の回転数が小さく、かつ、EGR流量が大きい場合には、排気流量Vgが小さく、アンモニアを選択還元触媒13に搬送させられない場合があるため、閾値は、これらの場合における排気流量よりも大きい値に設定される。
【0077】
排気流量Vgが閾値以下の場合(S63/No)、尿素水溶液が排気管11の壁面に付着すると、生成されるアンモニアが選択還元触媒13の上流側に滞留するおそれがあるため、判定部112は、尿素水溶液の噴射量Quの情報を取得し(ステップS73)、噴射量Quを積算する(ステップS75)。
【0078】
次いで、判定部112は、尿素水溶液の噴射量Quの積算値が、あらかじめ設定された禁止基準値を超えているか否かを判別する(ステップS77)。禁止基準値は、例えば、尿素水溶液が排気管11の壁面に付着した場合に、生成されるアンモニアの濃度が、上流側NOXセンサ21の診断結果の信頼性を低下させ得る濃度となる噴射量の値に設定される。
【0079】
尿素水溶液の噴射量Quの積算値が、あらかじめ設定された禁止基準値を超えている場合(S77/Yes)、判定部112は、上流側NOXセンサ21の診断実行を禁止する(ステップS79)。一方、尿素水溶液の噴射量Quの積算値が、あらかじめ設定された禁止基準値を超えていない場合(S77/No)、判定部112は、上流側NOXセンサ21の診断実行を許可する(ステップS81)。
【0080】
一方、上記のステップS63において、排気流量Vgが閾値を超えている場合(S63/Yes)、判定部112は、排気流量Vgを積算する(ステップS65)。次いで、判定部112は、排気流量Vgの積算値が、あらかじめ設定した許可基準値を超えているか否かを判別する(ステップS67)。許可基準値は、選択還元触媒13の上流側の排気通路内にアンモニアが滞留していた場合であっても、その大部分が選択還元触媒13に搬送され得る排気流量の値に設定される。
【0081】
排気流量Vgの積算値が、あらかじめ設定した許可基準値を超えていない場合(S67/No)、判定部112は、ステップS61に戻って、ここまでに説明した各ステップの処理を繰り返す。一方、排気流量Vgの積算値が、あらかじめ設定した許可基準値を超えている場合(S67/Yes)、判定部112は、排気流量Vgの積算値をリセットし(ステップS69)、上流側NOXセンサ21の診断実行を許可する(ステップS71)。
【0082】
このように、判定部112は、アンモニア残留濃度指標値を用いない場合であっても、選択還元触媒13の上流側でのアンモニアの滞留状態に応じて、簡易的に上流側NOXセンサ21の診断実行の可否を判定することができる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置(診断装置)100は、排気流量Vg及び尿素水溶液の噴射量Quとに基づき推定される、選択還元触媒13の上流側でのアンモニアの対流状態に応じて、上流側NOXセンサ21の診断実行の可否を判定する。このため、内燃機関5の停止時に、選択還元触媒13よりも上流側の排気通路内のNOX濃度が安定した状態で、かつ、アンモニア濃度が低い状態において、上流側NOXセンサ21の診断を実行することができる。これにより、上流側NOXセンサ21の誤計測のおそれが低減され、上流側NOXセンサ21の診断結果の信頼性を高めることができる。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0085】
5…内燃機関、10…尿素SCRシステム(排気浄化装置)、13…選択還元触媒、21…上流側NOXセンサ、100…制御装置(診断装置)、112…判定部、114…診断部、116…噴射制御部