(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】フォトマスクブランクおよびフォトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/54 20120101AFI20220729BHJP
G03F 1/32 20120101ALI20220729BHJP
【FI】
G03F1/54
G03F1/32
(21)【出願番号】P 2018211395
(22)【出願日】2018-11-09
【審査請求日】2019-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017249645
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506107689
【氏名又は名称】ホーヤ エレクトロニクス マレーシア センドリアン ベルハッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA ELECTRONICS MALAYSIA SENDIRIAN BERHAD
【住所又は居所原語表記】Lot28&29,Phasel,Jalan Hi-Tech 4,Kulim Hi-Tech Park,09000 Kulim,Kedah,Malaysia
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】坪井 誠治
(72)【発明者】
【氏名】中村 真実
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特許第6625692(JP,B2)
【文献】特許第6823703(JP,B2)
【文献】国際公開第2009/123167(WO,A1)
【文献】特開2007-164156(JP,A)
【文献】特開2012-002908(JP,A)
【文献】特開平11-125896(JP,A)
【文献】特開2013-088541(JP,A)
【文献】特開2016-105158(JP,A)
【文献】特開2012-155334(JP,A)
【文献】国際公開第2007/099910(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86、7/20-7/24、9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置の製造に用いられ、365nm~436nmの波長帯域から選択される複数の波長の光を含む複合光が露光光として適用されるフォトマスクを作製する際に用いられるフォトマスクブランクであって、
前記露光光に対して実質的に透明な材料からなる透明基板と、
前記透明基板上に設けられ、
前記露光光に対する光学濃度が3.0以上である遮光膜と、を有し、
前記遮光膜は、前記透明基板側から第1反射抑制層と遮光層と第2反射抑制層とを備え、
前記第1反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有するCrON膜であって、クロムの含有率が25~75原子%、酸素の含有率が15~45原子%、窒素の含有率が10~30原子%の組成を有し、
前記遮光層は、クロムと窒素とを含有するCrN膜であって、クロムの含有率が70~95原子%、窒素の含有率が5~30原子%の組成を有し、
前記第2反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有するCrON膜であって、クロムの含有率が30~75原子%、酸素の含有率が20~50原子%、窒素の含有率が5~20原子%の組成を有し、
前記第1反射抑制層の膜厚が15nm~60nm、
前記遮光層の膜厚が50nm~120nm、
前記第2反射抑制層の膜厚が10nm~60nm、
前記フォトマスクブランクの両面のうち、前記遮光膜側の面を表面、前記透明基板側の面を裏面としたとき、露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する表面反射率および裏面反射率がそれぞれ10%以下であり、かつ前記波長範囲における前記裏面反射率の最大値と最小値との差である波長依存性が5%以下であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記露光光は、波長365nmの光、波長405nmの光、および波長436nmの光を含む複合光であることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記第1反射抑制層は、膜厚方向の前記透明基板側に向かって酸素の含有率が増加するとともに窒素の含有率が低下する領域を有することを特徴とする請求項1または2に記載のフォトマスクブランク。
【請求項4】
前記第2反射抑制層は、膜厚方向の前遮光層側に向かって酸素の含有率が増加するとともに窒素の含有率が低下する領域を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項5】
露光波長365nm~436nmの範囲内の全域において、前記裏面反射率が前記表面反射率よりも小さいことを特徴とする請求項1
~4のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項6】
前記フォトマスクブランクの前記表面反射率および前記裏面反射率を縦軸とし、波長を横軸とした反射率スペクトルにおいて、波長300nm~500nmに渡る波長帯域において、前記表面および前記裏面の前記反射率スペクトルがそれぞれ、下に凸の曲線であって、前記表面反射率および前記裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対応する波長が350nm~450nmに位置することを特徴とする請求項1
~5のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項7】
露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記裏面反射率の波長依存性が前記表面反射率の波長依存性よりも小さいことを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項8】
530nm以上の波長範囲において、前記表面反射率が10%以上であることを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項9】
前記第1反射抑制層は、クロムの含有率が50~75原子%、酸素の含有率が15~35原子%、窒素の含有率が10~25原子%であって、
前記第2反射抑制層は、クロムの含有率が50~75原子%、酸素の含有率が20~40原子%、窒素の含有率が5~20原子%であることを特徴とする請求項
8に記載のフォトマスクブランク。
【請求項10】
前記第2反射抑制層は、前記第1反射抑制層よりも酸素の含有率が高くなるように構成されていることを特徴とする請求項
8又は9に記載のフォトマスクブランク。
【請求項11】
前記第1反射抑制層は、前記第2反射抑制層よりも窒素の含有率が高くなるように構成されていることを特徴とする請求項
8又は9に記載のフォトマスクブランク。
【請求項12】
前記透明基板は、矩形状の基板であって、該基板の短辺の長さが850mm以上1620mm以下であることを特徴とする請求項1~
11のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項13】
前記透明基板と前記遮光膜との間に、前記遮光膜の光学濃度よりも低い光学濃度を有する半透光膜をさらに備えることを特徴とする請求項1~
12のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項14】
前記透明基板と前記遮光膜との間に、透過光の位相をシフトさせる位相シフト膜をさらに備えることを特徴とする請求項1~
12のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項15】
請求項1~
12のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項16】
請求項
13に記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクにして前記半透光膜をエッチングして前記透明基板上に半透光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項17】
請求項
14に記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項18】
請求項
15~17のいずれか1項に記載されたフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記遮光膜パターン、前記半透光膜パターン、前記位相シフト膜パターンの少なくとも一つのマスクパターンを表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランクおよびフォトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD(Liquid Crystal Display)を代表とするFPD(Flat Panel Display)等の表示装置では、大画面化、広視野角化とともに、高精細化、高速表示化が急速に進んでいる。この高精細化、高速表示化のために必要な要素の1つが、微細で寸法精度の高い素子や配線等の電子回路パターンの作製である。この表示装置用電子回路のパターニングにはフォトリソグラフィが用いられることが多い。このため、微細で高精度なパターンが形成された表示装置製造用のフォトマスクが必要になっている。
【0003】
表示装置製造用のフォトマスクは、フォトマスクブランクから作製される。フォトマスクブランクは、合成石英ガラスなどからなる透明基板上に露光光に対して不透明な材料からなる遮光膜を設けて構成される。フォトマスクブランクやフォトマスクでは、露光したときの光の反射を抑制するため、遮光膜の表裏両面側に反射抑制層が設けられており、フォトマスクブランクは、例えば、透明基板側から順に第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層を積層させた膜構成となっている。フォトマスクは、フォトマスクブランクの遮光膜をウェットエッチング等によりパターニングして所定のマスクパターンを形成することで作製される。
【0004】
このような表示装置製造用のフォトマスク、その原版となるフォトマスクブランク、並びに両者の製造方法に関連する技術は、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示装置(例えばTV用の表示パネル)の製造では、例えば、フォトマスクを用いて、表示装置用基板に対して所定パターンを転写した後、表示装置用基板をスライドさせて、所定パターンを転写することで、パターン転写を繰り返し行う。この転写においては、露光装置の光源からフォトマスクに露光光が入射する際のフォトマスクの裏面側の反射光や、露光光がフォトマスクを通過して被転写体からの反射光がフォトマスク表面側に戻ってきた反射光の影響で、表示装置の重ね合わせ近傍において、想定以上の露光光が照射されることがある。この結果、隣り合うパターン同士が一部重なるように露光され、製造される表示装置において表示ムラが生じることがある。特に、表示装置の製造においてはフォトマスクの大型化にともなって、露光光として幅広い波長帯域の光(波長の異なる複数の光を含む複合光)が使用されることがあり、表示ムラがより顕著になる傾向がある。
【0007】
そこで、フォトマスクブランクでは、表示ムラを抑制するために遮光膜の表裏面の反射率を10%以下(例えば、波長365nm~436nm)、さらに好ましくは5%以下(例えば、400nm~436nm)とすることが求められている。さらに、フォトマスクのCD均一性(CD Uniformity)を向上させる観点から、レーザー描画光における遮光膜の表面反射を考慮すると、遮光膜表面の反射率を、5%以下(例えば、波長413nm)、さらに好ましくは3%以下(例えば、波長413nm)とすることが求められている。
【0008】
また、表示装置製造用のフォトマスクは、表示装置の高精細化、高速表示化の要求の他に、基板サイズの大型化が進んでおり、近年では、短辺の長さが850mm以上の矩形状基板を用いた超大型のフォトマスクが表示装置の製造に使用されている。なお、上述の短辺の長さが850mm以上の大型フォトマスクとしては、G7用の850mm×1200mmサイズ、G8用の1220mm×1400mmサイズ、G10用の1620mm×1780mmサイズがあり、特にこのような大型のフォトマスクにおけるマスクパターンのCD均一性として100nm以下の高精度のマスクパターンが要求されている。
【0009】
従来提案されていた特許文献1のフォトマスクブランクでは、基板の短辺の長さを850mm以上とした場合、遮光膜の表裏面の反射率を露光波長に対して10%以下とし、かつ、フォトマスクブランクを使用して作製されたフォトマスクにおけるマスクパターンのCD均一性を100nm以下とする要求を満たすことはできなかった。
【0010】
本発明は、エッチングによりフォトマスクを作製したときに高精度なマスクパターンが得られ、かつ、フォトマスクを用いて表示装置を作製するときに表示ムラを抑制できるような光学特性を満たすフォトマスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(構成1)
表示装置製造用のフォトマスクを作製する際に用いられるフォトマスクブランクであって、
露光光に対して実質的に透明な材料からなる透明基板と、
前記透明基板上に設けられ、前記露光光に対して実質的に不透明な材料からなる遮光膜と、を有し、
前記遮光膜は、前記透明基板側から第1反射抑制層と遮光層と第2反射抑制層とを備え、
前記フォトマスクブランクの両面のうち、前記遮光膜側の面を表面、前記透明基板側の面を裏面としたとき、露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する表面反射率および裏面反射率がそれぞれ10%以下であり、かつ前記波長範囲における前記裏面反射率の波長依存性が5%以下であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【0012】
(構成2)
露光波長365nm~436nmの範囲内の全域において、前記裏面反射率が前記表面反射率よりも小さいことを特徴とする構成1に記載のフォトマスクブランク。
【0013】
(構成3)
前記フォトマスクブランクの前記表面反射率および前記裏面反射率を縦軸とし、波長を横軸とした反射率スペクトルにおいて、波長300nm~500nmに渡る波長帯域において、前記表面および前記裏面の前記反射率スペクトルがそれぞれ、下に凸の曲線であって、前記表面反射率および前記裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対応する波長が350nm~450nmに位置することを特徴とする構成1又は2に記載のフォトマスクブランク。
【0014】
(構成4)
露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記裏面反射率の波長依存性が前記表面反射率の波長依存性よりも小さいことを特徴とする構成1~3のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【0015】
(構成5)
530nm以上の波長範囲において、前記表面反射率が10%以上であることを特徴とする構成1~4のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【0016】
(構成6)
前記第1反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料であって、クロムの含有率が25~75原子%、酸素の含有率が15~45原子%、窒素の含有率が10~30原子%の組成を有し、
前記遮光層は、クロムと窒素とを含有するクロム系材料であって、クロムの含有率が70~95原子%、窒素の含有率が5~30原子%の組成を有し、
前記第2反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料であって、クロムの含有率が30~75原子%、酸素の含有率が20~50原子%、窒素の含有率が5~20原子%の組成を有することを特徴とする構成1~5のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【0017】
(構成7)
前記第1反射抑制層は、クロムの含有率が50~75原子%、酸素の含有率が15~35原子%、窒素の含有率が10~25原子%であって、
前記第2反射抑制層は、クロムの含有率が50~75原子%、酸素の含有率が20~40原子%、窒素の含有率が5~20原子%であることを特徴とする構成6に記載のフォトマスクブランク。
【0018】
(構成8)
前記第2反射抑制層は、前記第1反射抑制層よりも酸素の含有率が高くなるように構成されていることを特徴とする構成6又は7に記載のフォトマスクブランク。
【0019】
(構成9)
前記第1反射抑制層は、前記第2反射抑制層よりも窒素の含有率が高くなるように構成されていることを特徴とする構成6又は7に記載のフォトマスクブランク。
【0020】
(構成10)
前記透明基板は、矩形状の基板であって、該基板の短辺の長さが850mm以上1620mm以下であることを特徴とする構成1~9のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【0021】
(構成11)
前記透明基板と前記遮光膜との間に、前記遮光膜の光学濃度よりも低い光学濃度を有する半透光膜をさらに備えることを特徴とする構成1~10のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【0022】
(構成12)
前記透明基板と前記遮光膜との間に、透過光の位相をシフトさせる位相シフト膜をさらに備えることを特徴とする構成1~10のいずれか1項に記載のフォトマスクブランク。
【0023】
(構成13)
構成1~10のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0024】
(構成14)
構成11に記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクにして前記半透光膜をエッチングして前記透明基板上に半透光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0025】
(構成15)
構成12に記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0026】
(構成16)
構成13~15のいずれか1項に記載されたフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記遮光膜パターン、前記半透光膜パターン、前記位相シフト膜パターンの少なくとも一つのマスクパターンを表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、パターン精度に優れており、表示装置の製造の際に表示ムラを抑制できるような光学特性を有するフォトマスクを製造することができるフォトマスクブランクが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるフォトマスクブランクの概略構成を示す断面図である。
【
図2】実施例1のフォトマスクブランクにおける膜厚方向の組成分析結果を示す図である。
【
図3】実施例1のフォトマスクブランクについて表裏面の反射率スペクトルを示す図である。
【
図4】実施例1のフォトマスクブランクを用いて作製されたフォトマスクの遮光膜パターンの断面形状の特性を説明するための図である。
【
図5】反応性スパッタリングで遮光膜を形成する場合における成膜モードを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者らは、従来のフォトマスクを用いて表示装置を製造したときの表示ムラを抑制すべく、フォトマスクの遮光膜側の面(以下、表面ともいう)と透明基板側の面(以下、裏面ともいう)のそれぞれの反射率スペクトルに着目し検討を行った。表裏面の各反射率スペクトルは、波長ごとに反射率が異なり、特定波長帯域で反射率が極小となるような下に凸の曲線である。この反射率スペクトルと表示ムラとの相関を検討したところ、露光波長365nm~436nmの範囲内において表面反射率および裏面反射率がともに小さく、かつ、裏面反射率の波長依存性が小さい場合に、表示ムラをより抑制できることを見出した。
【0030】
反射率の波長依存性とは反射率が露光波長に依存して変化することを示し、波長依存性が小さいとは、反射率の最大値と最小値との差が小さいこと、つまり、反射率の変化量(変動幅)が小さいことを示す。
【0031】
これまで、フォトマスクを使用して被転写基板に対して露光光を照射してパターン転写を行う際は、遮光膜表面による再反射露光光が被転写基板に転写されることによるパターン精度の悪化を抑制することのみが考慮されていた。そのため、表面反射率が考慮されるだけで、裏面反射率については考慮されていなかった。
しかし、本発明者の検討によると、フォトマスクを使用してのプロジェクション露光においては、フォトレジストが形成された被転写基板からの反射光がフォトマスクの遮光膜パターン表面との反射を繰り返すことにより生じるフレアの影響よりも、遮光膜パターンの裏面からの反射光が露光装置(転写装置)の光学系に反射され、フォトマスクに再び入射される戻り光による転写パターン精度に対する影響が大きく、表示ムラが生じやすいことが分かった。これは、フォトマスクの大型化やパターンの微細化、高精細化にともない、従来よりも遮光膜パターンの裏面からの反射が大きくなったためと考えられ、初めて認識されるようになった。特に、表示パネル作製において使用される遮光膜パターンの開口率が50%未満となるフォトマスク(例えば、ITOパターン、スリット状パターン)においては、フォトマスクにおける遮光膜パターンの裏面からの反射光の影響が大きくなり、フォトマスクを使用して作製される表示パネルにおいて表示ムラが生じやすくなる。
【0032】
このように裏面反射率が表示ムラに大きな影響を及ぼすことから、本発明者らは、マスクブランクについて、表面反射率および裏面反射率の観点から検討を行った。その過程で、表裏面の反射率だけでなく、裏面反射率の波長依存性も転写パターンの精度および表示ムラに影響をすることを見出した。そして、さらなる検討の結果、露光波長365nm~436nmの範囲内において、露光光に対する表面反射率および裏面反射率をそれぞれ10%以下とし、かつ、裏面反射率の波長依存性を5%以下となるようにマスクブランクを構成することで、フォトマスクを作製したときに、その遮光膜パターンの裏面からの反射光が露光装置(転写装置)の光学系に反射され、フォトマスクに再び入射される戻り光を効果的に低減でき、従来のフォトマスクを使用して表示装置を作製した場合と比べて表示ムラを抑制することができることを見出した。
【0033】
本発明は上記知見に基づいて成されたものである。
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。なお、図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0035】
<フォトマスクブランク>
本発明の一実施形態にかかるフォトマスクブランクについて説明する。本実施形態のフォトマスクブランクは、例えば365nm~436nmの波長帯域から選択される単波長の光、又は複数の波長の光(例えば、i線(波長365nm)、h線(405nm)、g線(波長436nm))を含む複合光を露光する表示装置製造用のフォトマスクを作製する際に用いられるものである。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態にかかるフォトマスクブランクの概略構成を示す断面図である。フォトマスクブランク1は、透明基板11と、遮光膜12を備えて構成される。以下、本発明の一実施形態にかかるフォトマスクブランクとして、フォトマスクのマスクパターン(転写パターン)が遮光膜パターンであるバイナリータイプのフォトマスクブランクについて説明する。
【0037】
(透明基板)
透明基板11は、露光光に対して実質的に透明な材料から形成され、透光性を有する基板であれば特に限定されない。露光波長に対する透過率としては85%以上、好ましくは90%以上の基板材料が使用される。透明基板11を形成する材料としては、例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、低熱膨張ガラスが挙げられる。
【0038】
透明基板11の大きさは、表示装置製造用のフォトマスクに求められる大きさに応じて適宜変更するとよい。たとえば、透明基板11としては、矩形状の基板であって、その短辺の長さが330mm以上1620mm以下の大きさの透明基板11を使用することができる。透明基板11としては、例えば、大きさが330mm×450mm、390mm×610mm、500mm×750mm、520mm×610mm、520mm×800mm、800×920mm、850mm×1200mm、850mm×1400mm、1220mm×1400mm、1620mm×1780mmなどの基板を用いることができる。特に、基板の短辺の長さが850mm以上1620mm以下であることが好ましい。このような透明基板11を用いることで、G7~G10の表示装置製造用のフォトマスクが得られる。
【0039】
(遮光膜)
遮光膜12は、透明基板11側から順に第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15が積層されて構成されている。なお、以下では、フォトマスクブランク1の両面のうち、遮光膜12側の面を表面、透明基板11側の面を裏面として説明する。
【0040】
第1反射抑制層13は、遮光膜12において、遮光層14の透明基板11に近い側の面に設けられ、フォトマスクブランク1を用いて作製されたフォトマスクを使用してパターン転写を行う場合に、露光装置(露光光源)に近い側に配置される。フォトマスクを用いて露光処理を行う場合、フォトマスクの透明基板11側(裏面側)から露光光を照射し、被転写体である表示装置用基板上に形成されたレジスト膜にパターン転写像を転写することになる。このとき、露光光が、遮光膜パターンの裏面側で反射された反射光は、露光装置の光学系に入射され、再びフォトマスクの透明基板11側から入射されることにより、遮光膜パターンであるマスクパターンの迷光となり、ゴースト像の形成やフレア量の増加といった転写像の劣化が生じたり、表示装置用基板の重ね合わせ近傍において、想定以上の露光光が照射されることにより、表示ムラが発生したりすることがある。第1反射抑制層13は、フォトマスクを使用してパターン転写を行うときに、遮光膜12の裏面側での露光光の反射を抑制できるので、転写像の劣化を抑制して転写特性の向上に寄与するとともに、表示装置用基板の重ね合わせ近傍において、想定以上の露光光が照射されることによる表示ムラの発生を抑制することができる。
【0041】
遮光層14は、遮光膜12において第1反射抑制層13と第2反射抑制層15との間に設けられる。遮光層14は、遮光膜12が露光光に対して実質的に不透明となるための光学濃度を有するように調整する機能を有している。ここで露光光に対して実質的に不透明とは、光学濃度で3.0以上の遮光性をいい、転写特性の観点から、好ましくは光学濃度は4.0以上、さらに好ましくは4.5以上が好ましい。
【0042】
第2反射抑制層15は、遮光膜12において、遮光層14の透明基板11から遠い側の面に設けられる。第2反射抑制層15は、その上にレジスト膜を形成してこのレジスト膜に描画装置(例えばレーザー描画装置)の描画光(レーザー光)により所定のパターンを描画するときに、遮光膜12の表面側での反射を抑制できるので、レジストパターン、そして、それに基づいて形成されるマスクパターンのCD均一性(CD Uniformity)を高めることができる。また、第2反射抑制層15は、フォトマスクとして用いた場合に、被転写体である表示装置用基板側に配置され、被転写体で反射された光がフォトマスクの遮光膜12の表面側で再び反射されて被転写体に戻ることを抑制し、転写像の劣化を抑制して転写特性の向上に寄与するとともに、表示装置用基板の重ね合わせ近傍において、想定以上の露光光が照射されることによる表示ムラの発生を抑制することができる。
【0043】
(フォトマスクブランクの光学特性)
上述したように、フォトマスクブランク1は、露光波長365nm~436nmの範囲内において、露光光に対する表面反射率および裏面反射率がそれぞれ10%以下であり、かつ裏面反射率の波長依存性が5%以下である光学特性を有する。ここで裏面反射率の波長依存性とは、露光波長365nm~436nmの範囲内において、裏面反射率の最大値と最小値との差をいう。具体的には、フォトマスクブランク1の表面に光を照射して得られる表面の反射率スペクトルは、露光波長365nm~436nmの範囲内において、表面反射率が10%以下とする。好ましくは、露光波長365nm~436nmの範囲内において、表面反射率が7.5%以下、さらに好ましくは5%以下であることが好ましい。また同様に、裏面に光を照射して得られる裏面の反射率スペクトルは、露光波長365nm~436nmの範囲内において、裏面反射率が10%以下とする。好ましくは、露光波長365nm~436nmの波長範囲において、裏面反射率が7.5%以下、さらに好ましくは5%以下であることが好ましい。そして、裏面反射率の波長依存性は、露光波長365nm~436nmの範囲内において、5%以下とする。特に、フォトマスクを使用して表示装置を作製する場合における表示ムラを低減するためには、裏面反射率の波長依存性が、露光波長365nm~436nmの範囲内において、5%以下とすることが重要である。好ましくは、露光波長365nm~436nmの波長範囲において、裏面反射率の波長依存性が、3%以下であることが好ましい。
【0044】
フォトマスクブランク1は、表裏面の反射率スペクトルを比較したとき、露光波長365nm~436nmの範囲内の全域において、裏面反射率が表面反射率よりも小さいことが好ましい。
また、表示ムラを抑制できるフォトマスクブランクを複数枚製造する際に、安定して高歩留まりに製造するため、フォトマスクブランク1は、フォトマスクブランクの表面反射率および裏面反射率を縦軸とし、波長を横軸とした反射率スペクトルにおいて、波長300nm~500nmに渡る波長帯域において、反射率スペクトルが下に凸の曲線であって、表面反射率および裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対応する波長が350nm~450nmに位置することが好ましい。
また、フォトマスクブランク1は、露光波長365nm~436nmの範囲内において、裏面反射率の波長依存性が表面反射率の波長依存性よりも小さくすることが好ましい。さらに、フォトマスクブランク1を使用して作製されたフォトマスクにおける遮光性膜パターンの寸法測定における検出精度の観点から、フォトマスクブランク1は、530nm以上の波長範囲において、遮光膜の表面反射率が10%以上であることが好ましい。
【0045】
(遮光膜の材料)
続いて、遮光膜12における各層の材料について説明する。
各層の材料は、フォトマスクブランク1において上述した光学特性を得られるようなものであれば特に限定されないが、上述した光学特性を得る観点からは、各層に以下の材料を用いることが好ましい。
第1反射抑制層13は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料で構成されることが好ましい。第1反射抑制層13における酸素は、裏面側からの露光光の反射率を低減させる効果を奏する。また、第1反射抑制層13における窒素は、裏面側からの露光光の反射率を低減させる効果の他に、フォトマスクブランクを用いてエッチング(特にウェットエッチング)により形成される遮光膜パターンの断面を垂直に近づけるとともに、CD均一性を高める効果を奏する。尚、エッチング特性を制御する視点から、炭素やフッ素をさらに含有させても構わない。
遮光層14は、クロムと窒素とを含有するクロム系材料で構成されることが好ましい。
遮光層14における窒素は、第1反射抑制層13、第2反射抑制層15とのエッチングレート差を小さくしてフォトマスクブランクを用いてエッチング(特にウェットエッチング)により形成される遮光膜パターンの断面を垂直に近づけるとともに、遮光膜12(全体)におけるエッチング時間を短縮させて、CD均一性を高める効果を奏する。尚、エッチング特性を制御する視点から、酸素、炭素、フッ素をさらに含有させても構わない。
第2反射抑制層15は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料で構成されることが好ましい。第2反射抑制層15における酸素は、表面側からの描画装置の描画光の反射率や、表側からの露光光の反射率を低減させる効果を奏する。また、レジスト膜との密着性を向上させ、レジスト膜と遮光膜12との界面からのエッチャントの浸透によるサイドエッチング抑制の効果を奏する。また、第2反射抑制層15における窒素は、表面側からの描画光の反射率、表面側からの露光光の反射率を低減させる効果の他に、フォトマスクブランクを用いてエッチング(特にウェットエッチング)により形成される遮光膜パターンの断面を垂直に近づけるとともに、CD均一性を高める効果を奏する。尚、エッチング特性を制御する視点から、炭素やフッ素をさらに含有させても構わない。
【0046】
(遮光膜の組成)
続いて、遮光膜12における各層の組成について説明する。なお、後述する各元素の含有率は、X線光電分光法(XPS)により測定された値とする。
【0047】
遮光膜12は、第1反射抑制層13がクロム(Cr)を25~75原子%、酸素(O)を15~45原子%、窒素(N)を10~30原子%の含有率でそれぞれ含み、遮光層14がクロム(Cr)を70~95原子%、窒素(N)を5~30原子%の含有率でそれぞれ含み、第2反射抑制層15がクロム(Cr)を30~75原子%、酸素(O)を20~50原子%、窒素(N)を5~20原子%の含有率でそれぞれ含むように構成されることが好ましい。より好ましくは、第1反射抑制層13がCrを50~75原子%、Oを15~35原子%、Nを5~25原子%の含有率でそれぞれ含み、第2反射抑制層15がCrを50~75原子%、Oを5~40原子%、Nを5~20原子%の含有率でそれぞれ含む。
【0048】
第1反射抑制層13および第2反射抑制層15は、それぞれ、OおよびNのうち少なくともいずれか一方の元素の含有率が膜厚方向に沿って連続的あるいは段階的に組成変化する領域を有することが好ましい。
【0049】
第2反射抑制層15は、膜厚方向の遮光層14側に向かってO含有率が増加する領域を有することが好ましい。
【0050】
また、第2反射抑制層15は、膜厚方向の遮光層14側に向かってN含有率が低下する領域を有することが好ましい。
【0051】
また、第1反射抑制層13は、膜厚方向の透明基板11に向かってO含有率が増加するとともにN含有率が低下する領域を有することが好ましい。
【0052】
また、フォトマスクブランク1およびそれから作製されるフォトマスクにおいて、表裏面の反射率をより低減し、これらの反射率の差を小さくする観点からは、第2反射抑制層15は、第1反射抑制層13よりもO含有率が高くなるように構成されることが好ましく、第1反射抑制層13は、第2反射抑制層15よりもN含有率が高くなるように構成されることが好ましい。具体的には、第2反射抑制層15のO含有率を第1反射抑制層13よりも5原子%~10原子%以上大きくすることが好ましく、第1反射抑制層13のN含有率を第2反射抑制層15よりも5原子%~10原子%以上大きくすることが好ましい。なお、第1反射抑制層13や第2反射抑制層15が組成傾斜領域を有する場合であれば、そのO含有率やN含有率は、膜厚方向での平均的な濃度を示す。
【0053】
また、第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15において、各元素の含有率の変化は、連続的あるいは段階的のいずれでもよいが、連続的であることが好ましい。
【0054】
(結合状態(化学状態)について)
遮光層14は、クロム(Cr)と窒化二クロム(Cr2N)を含んでいることが好ましい。
第1反射抑制層13、第2反射抑制層15は、一窒化クロム(CrN)と酸化クロム(III)(Cr2O3)と酸化クロム(VI)(CrO3)を含んでいることが好ましい。
【0055】
(膜厚について)
遮光膜12において、第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15のそれぞれの厚さは特に限定されず、遮光膜12に要求される光学濃度や反射率に応じて適宜調整するとよい。第1反射抑制層13の厚さは、遮光膜12の裏面側からの光に対し、第1反射抑制層13の表面での反射と、第1反射抑制層13および遮光層14の界面での反射とによる光干渉効果が発揮されるような厚さであればよい。一方、第2反射抑制層15の厚さは、遮光膜12の表面側からの光に対し、第2反射抑制層15の表面での反射と、第2反射抑制層15および遮光層14の界面での反射とによる光干渉効果が発揮されるような厚さであればよい。遮光層14の厚さは、遮光膜12の光学濃度が3以上となるような厚さであればよい。具体的には、遮光膜12において表裏面の反射率を10%以下としつつ、光学濃度を3.0以上とする観点からは、例えば、第1反射抑制層13の膜厚を15nm~60nm、遮光層14の膜厚を50nm~120nm、第2反射抑制層15の膜厚を10nm~60nmとするとよい。
【0056】
<フォトマスクブランクの製造方法>
続いて、上述したフォトマスクブランク1の製造方法について説明する。
【0057】
(準備工程)
露光光に対して実質的に透明な透明基板11を準備する。なお、透明基板11は、平坦でかつ平滑な主表面となるように、研削工程、研磨工程などの任意の加工工程を必要に応じて行うとよい。研磨後には、洗浄を行って透明基板11の表面の異物や汚染を除去するとよい。洗浄としては、例えば、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、オゾン水、温水等を用いることができる。
【0058】
(第1反射抑制層の形成工程)
続いて、透明基板11上に第1反射抑制層13を形成する。この形成は、Crを含むスパッタターゲットと、酸素系ガス、窒素系ガスを含有する反応性ガスと希ガスを含むスパッタリングガスと、を用いた反応性スパッタリングによる成膜を行う。この際、成膜条件として、スパッタリングガスに含まれる反応性ガスの流量がメタルモードとなる流量を選択する。
【0059】
ここで、メタルモードについて
図5を用いて説明する。
図5は、反応性スパッタリングで薄膜を形成する場合の成膜モードを説明するための模式図であり、横軸は、希ガスと反応性ガスの混合ガス中の反応性ガスの分圧(流量)比率を、縦軸は、ターゲットに印加する電圧を示す。反応性スパッタリングにおいては、酸素系ガスや窒素系ガスなどの反応性ガスを導入しながらターゲットを放電させたときに、反応性ガスの流量に応じて放電プラズマの状態が変化し、それに伴って成膜速度が変化する。この成膜速度の違いにより3つのモードがある。具体的には、
図5に示すように、反応性ガスの供給量(比率)をある閾値よりも大きくする反応モード、反応性ガスの供給量(比率)を反応モードよりも少なくするメタルモード、そして、反応性ガスの供給量(比率)を反応モードとメタルモードの間に設定する遷移モードがある。メタルモードでは、反応性ガスの比率を少なくすることで、ターゲット表面への反応性ガスの付着を少なくし、成膜速度を速くすることができる。しかも、メタルモードでは、反応性ガスの供給量が少ないため、例えば、化学量論的な組成を有する膜よりもO濃度あるいはN濃度の少なくともいずれかの濃度が低くなる膜を形成することができる。つまり、Crの含有率が相対的に多く、O含有率やN含有率の低い膜を形成することができる。
【0060】
第1反射抑制層13を成膜するためのメタルモードの条件としては、例えば、酸素系ガスの流量を5~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、希ガスの流量を60~150sccmとするとよい。また、ターゲット印加電力は2.0~6.0kW、ターゲットの印加電圧は360~460Vとするとよい。
【0061】
スパッタターゲットとしては、Crを含むものであればよく、例えば、クロム金属の他に、酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム等のクロム系材料を用いることができる。酸素系ガスとしては、例えば、酸素(O2)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物ガス(N2O、NO、NO2)などを用いることができる。この中でも、酸化力が高いことから、酸素(O2)ガス使用することが好ましい。また、窒素系ガスとしては、窒素(N2)などを用いることができる。希ガスとしては、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスなどを用いることもできる。なお、上記反応性ガス以外に、炭化水素系ガスを供給してもよく、例えばメタンガスやブタンガス等を用いることができる。
【0062】
本実施形態では、反応性ガスの流量およびスパッタターゲット印加電力をメタルモードとなるような条件に設定し、Crを含むスパッタターゲットを用いて、反応性スパッタリングによる成膜処理を行うことで、透明基板11上に、Crを25~75原子%、Oを15~45原子%、Nを10~30原子%の含有率でそれぞれ含む第1反射抑制層13を形成する。
【0063】
なお、第1反射抑制層13を組成が膜厚方向で均一な単一膜として形成する場合は、反応性ガスの種類や流量を変えずに成膜すればよいが、膜厚方向でO含有率やN含有率が変化するように組成傾斜させる場合は、反応性ガスの種類や流量、反応性ガスにおける酸素系ガスや窒素系ガスの比率などを適宜変更するとよい。また、ガス供給口の配置やガス供給方法などを変更させてもよい。
【0064】
(遮光層の形成工程)
続いて、第1反射抑制層13上に遮光層14を形成する。この形成は、Crを含むスパッタターゲットと、窒素系ガスと希ガスを含むスパッタリングガスを用いた反応性スパッタリングによる成膜を行う。この際、成膜条件として、スパッタリングガスに含まれる反応性ガスの流量がメタルモードとなる流量を選択する。
ターゲットとしては、Crを含むものであればよく、例えば、クロム金属の他に、酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム等のクロム系材料を用いることができる。窒素系ガスとしては、窒素(N2)などを用いることができる。希ガスとしては、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスなどを用いることもできる。なお、上記反応性ガス以外に、上述で説明した酸素系ガス、炭化水素系ガスを供給してもよい。
本実施形態では、反応性ガスの流量およびスパッタターゲット印加電力をメタルモードとなるような条件に設定し、Crを含むスパッタターゲットを用いて反応性スパッタリングを行うことにより、第1反射抑制層13上に、Crを70~95原子%、Nを5~30原子%の含有率でそれぞれ含む遮光層14を形成する。
【0065】
なお、遮光層14の成膜条件としては、例えば、窒素系ガスの流量を1~60sccm、希ガスの流量を60~200sccmとするとよい。また、ターゲット印加電力は3.0~7.0kW、ターゲットの印加電圧は370~380Vとするとよい。
【0066】
(第2反射抑制層の形成工程)
続いて、遮光層14上に第2反射抑制層15を形成する。この形成は、第1反射抑制層13と同様に、反応性ガスの流量およびターゲット印加電力をメタルモードとなるような条件に設定し、Crを含むスパッタターゲットを用いて、反応性スパッタリングによる成膜を行う。これにより、遮光層14上に、Crを30~75原子%、Oを20~50原子%、Nを5~20原子%の含有率でそれぞれ含む第2反射抑制層15を形成する。
【0067】
第2反射抑制層15を成膜するためのメタルモードの条件としては、例えば、酸素系ガスの流量を8~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、希ガスの流量を60~150sccmとするとよい。また、ターゲット印加電力は2.0~8.0kW、ターゲットの印加電圧は420~460Vとするとよい。
【0068】
なお、第2反射抑制層を組成傾斜させる場合、上述したように、反応性ガスの種類や流量、反応性ガスにおける酸素系ガスや窒素系ガスの比率などを適宜変更するとよい。
【0069】
以上により、本実施形態のフォトマスクブランク1を得る。
【0070】
なお、遮光膜12における各層の成膜は、インライン型スパッタリング装置を用いてin-situで行うとよい。インライン型でない場合、各層の成膜後、透明基板11を装置外に取り出す必要があり、透明基板11が大気に曝されて、各層が表面酸化や表面炭化されることがある。その結果、遮光膜12の露光光に対する反射率やエッチングレートを変化させてしまうことがある。この点、インライン型であれば、透明基板11を装置外に取り出して大気に曝すことなく、各層を連続して成膜できるので、遮光膜12への意図しない元素の取り込みを抑制することができる。
【0071】
また、インライン型スパッタリング装置を用いて遮光膜12を成膜する場合、第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層の間が連続的に組成傾斜する組成傾斜領域(遷移層)を有するので、フォトマスクブランクを用いてエッチング(特にウェットエッチング)により形成される遮光膜パターンの断面がなめらか、かつ垂直に近づけることができるので好ましい。
【0072】
<フォトマスクの製造方法>
続いて、上述したフォトマスクブランク1を用いて、フォトマスクを製造する方法について説明する。
【0073】
(レジスト膜の形成工程)
まず、フォトマスクブランク1の遮光膜12における第2反射抑制層15上にレジストを塗布し、乾燥してレジスト膜を形成する。レジストとしては、使用する描画装置に応じて適切なものを選択する必要があるが、ポジ型またはネガ型のレジストを用いることができる。
【0074】
(レジストパターンの形成工程)
続いて、描画装置を用いてレジスト膜に所定のパターンを描画する。通常、表示装置製造用のフォトマスクを作製する際、レーザー描画装置が使用される。描画後、レジスト膜に現像およびリンスを施すことにより、所定のレジストパターンを形成する。
【0075】
本実施形態では、第2反射抑制層15の反射率を低くなるように構成しているので、レジスト膜にパターンを描画するときに、描画光(レーザー光)の反射を少なくすることができる。これにより、パターン精度の高いレジストパターンを形成することができ、それに伴って寸法精度の高いマスクパターンを形成することができる。
【0076】
(マスクパターンの形成工程)
続いて、レジストパターンをマスクとして遮光膜12をエッチングすることにより、マスクパターンを形成する。エッチングはウェットエッチングでもドライエッチングでも構わない。通常、表示装置製造用のフォトマスクでは、ウェットエッチングが行われ、ウェットエッチングで使用されるエッチング液(エッチャント)としては、例えば、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液を用いることができる。
【0077】
本実施形態では、遮光膜12の厚さ方向において、第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15のエッチングレートが揃うように各層の組成を調整しているので、ウェットエッチングしたときの断面形状を、つまり、遮光膜パターン(マスクパターン)の断面形状を透明基板11に対して垂直に近づけることができ、高いCD均一性(CD Uniformity)を得ることができる。
【0078】
(剥離工程)
続いて、レジストパターンを剥離し、透明基板11上に遮光膜パターン(マスクパターン)が形成されたフォトマスクを得る。
【0079】
以上により、本実施形態にかかるフォトマスクが得られる。
【0080】
<表示装置の製造方法>
続いて、上述したフォトマスクを用いて、表示装置を製造する方法について説明する。
【0081】
(準備工程)
まず、表示装置の基板上にレジスト膜が形成されたレジスト膜付き基板に対して、上述したフォトマスクの製造方法によって得られたフォトマスクを、露光装置の投影光学系を介して(プロジェクション露光方式により)基板上に形成されたレジスト膜に対向するような配置で、露光装置のマスクステージ上に載置する。
【0082】
(露光工程(パターン転写工程))
次に、露光光をフォトマスクに照射して、表示装置の基板上に形成されたレジスト膜にパターンを転写するレジスト露光工程を行う。
露光光は、例えば、365nm~436nmの波長帯域から選択される単波長の光(i線(波長365nm)、h線(波長405nm)、g線(波長436nm)等)、又は複数の波長の光(例えば、i線(波長365nm)、h線(405nm)、g線(波長436nm))を含む複合光を用いる。大型のフォトマスクを用いる場合であれば、露光光としては、光量の観点から複合光を用いるとよい。
本実施形態では、遮光膜パターン(マスクパターン)の表裏面の反射率が低減され、かつ、裏面反射率の反射率依存性が低減されたフォトマスクを使用して表示装置(表示パネル)を製造するので、表示ムラのない表示装置(表示パネル)を得ることができる。
【0083】
<本実施形態にかかる効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0084】
(a)本実施形態のフォトマスクブランク1は、第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15を積層させて遮光膜12が形成されており、露光波長365nm~436nmの範囲での表裏面の反射率がともに10%以下であり、上記波長範囲における裏面反射率の波長依存性が5%以下であるような光学特性を有している。このようなフォトマスクブランク1によれば、フォトマスクとして露光光を照射するときに、露光波長365nm~436nmの全波長帯域にわたって、表面および裏面の光の反射を抑制できるので、表裏面での反射光の合計光量を低減することができる。特に、裏面反射率の波長依存性を5%以下として、上記波長範囲の全域で裏面反射率を平均的に低くできるので、表示ムラに大きな影響を及ぼすフォトマスク裏面への戻り光を抑制することができる。この結果、フォトマスクを用いて表示装置を製造する際の、フォトマスクの表裏面での光の反射に起因する表示ムラを抑制することができる。
【0085】
(b)フォトマスクブランク1は、露光波長365nm~436nmの範囲の全域で、裏面反射率が表面反射率よりも小さいことが好ましい。これにより、幅広い波長帯域にわたって光の反射を抑制し、光の反射の合計光量をより低減することができる。
【0086】
(c)フォトマスクブランク1は、フォトマスクブランク1の表面反射率および裏面反射率を縦軸とし、波長を横軸とした反射率スペクトルにおいて、波長300nm~500nmに渡る波長帯域において、反射率スペクトルが下に凸の曲線であって、表面反射率および裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対応する波長が350nm~450nmに位置することが好ましい。これにより、表示ムラを抑制できるフォトマスクブランクを複数枚安定して、高歩留まりで製造することができる。
【0087】
(d)フォトマスクブランク1は、露光波長365nm~436nmの範囲内において、裏面反射率の波長依存性が表面反射率の波長依存性よりも小さいことが好ましい。つまり、上記波長範囲において、裏面反射率の変化量が表面反射率の変化量よりも小さいことが好ましい。これにより、フォトマスクの裏面での戻り光をさらに抑制することができ、表示ムラをより低減することができる。
【0088】
(e)フォトマスクブランク1は、530nm以上の波長範囲において、前記表面反射率が10%以上であることが好ましい。これにより、フォトマスクブランク1を使用して作製されたフォトマスクにおける遮光性膜パターンの寸法測定における検出精度を向上することができる。
【0089】
(f)フォトマスクブランク1において、第1反射抑制層13は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料であって、Cr含有率が25~75原子%、O含有率が15~45原子%、N含有率が10~30原子%の組成を有し、遮光層14は、クロムと窒素とを含有するクロム系材料であって、Cr含有率が70~95原子%、N含有率が5~30原子%の組成を有し、第2反射抑制層15は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料であって、Cr含有率が30~75原子%、O含有率が20~50原子%、N含有率が5~20原子%の組成を有するように構成されていることが好ましい。各層を上記組成とすることにより、フォトマスクブランク1の表裏面の反射率を低減し、それぞれを10%以下にしやすくすることができる。
【0090】
(g)また本実施形態では、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層を(d)に示す組成範囲とすることで、エッチングレートを低下させるOや、エッチングレートを増加させるNの濃度を低減し、各層のエッチングレートの差を抑えてそろえることができる。これにより、フォトマスクブランク1の遮光膜12をエッチングしたときの断面形状を、つまりマスクパターンの断面形状を透明基板11に対して垂直に近づけることができる。具体的には、マスクパターンの断面形状において、エッチングにより形成された側面と透明基板11とのなす角をθとしたとき、θを90°±30°の範囲内とすることができる。また、断面形状を垂直に近づけるとともに、第1反射抑制層13のエッチング残り、あるいは、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15の食われ(いわゆるアンダーカット)などを抑制することができる。この結果、マスクパターン(遮光膜パターン)におけるCD均一性を向上させることができ、100nm以下の高精度なマスクパターンを形成することができる。
【0091】
(h)また本実施形態では、遮光膜12は、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層のエッチングレートを揃えることにより、エッチング時間の長短や、エッチング液の濃淡、エッチング液の温度によらず、断面形状の垂直性を安定して確保することができる。例えば、遮光膜12のジャストエッチング時間をTとしたとき、エッチング時間を1.5×Tとしてオーバーエッチングした場合であっても、エッチング時間をTとした場合と同等の垂直性を得ることができる。具体的には、エッチング時間をTとしたときの遮光膜パターンの断面のなす角度θ1と、エッチング時間を1.5×Tとしてオーバーエッチングしたときの断面のなす角θ2との差を10°以下にすることができる。また同様に、エッチング液の濃度を高くした場合と、エッチング液の濃度を低くした場合では、遮光膜パターンの断面のなす角の差を10°以下にすることができる。また同様に、エッチング液の温度を高くした場合(例えば42℃)と、エッチング液の温度を低くした場合(例えば室温である23℃)では、エッチング液の温度が高くなるほどエッチングレートが高くなるが、遮光膜パターンの断面のなす角の差を10°以下にすることができる。なお、ジャストエッチング時間とは、遮光膜12を膜厚方向にエッチングして透明基板11の表面が露出し始めるまでのエッチング時間を示す。
【0092】
(i)遮光膜12において、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料であって、第1反射抑制層13は、Crを50~75原子%、Oを15~35原子%、Nを10~25原子%の含有率でそれぞれ含み、第2反射抑制層15は、Crを50~75原子%、Oを20~40原子%、Nを5~20原子%の含有率でそれぞれ含むことが好ましい。
【0093】
第1反射抑制層13および第2反射抑制層15において、O含有率をより低減することで、これらの層におけるOを含有することによるエッチングレートの過剰な低下を抑制することができる。そのため、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層のエッチングレートを揃える目的で遮光層14に配合する炭素(C)の含有率を低減したり、遮光層14にCを含有せずに炭素非含有としたりすることができる。この結果、遮光層14におけるCrの含有率を高めて、光学濃度(OD)を高く維持することができる。
【0094】
一方、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15において、N含有率をより低減することで、これらの層におけるNが含有することによるエッチングレートの過剰な増加を抑制することができる。そのため、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層のエッチングレートを揃える目的で遮光層14に含有するするNの含有率を低減することができる。この結果、遮光層14におけるCrの含有率を高めて、光学濃度(OD)を高く維持することができる。
【0095】
(j)第2反射抑制層15は、第1反射抑制層13よりもO含有率が高くなるように構成されることが好ましい。具体的には、第2反射抑制層15のO含有率が第1反射抑制層13よりも5原子%~10原子%以上大きいことが好ましい。また、第1反射抑制層13は、第2反射抑制層15よりもN含有率が高くなるように構成されることが好ましい。具体的には、第1反射抑制層13のN含有率が第2反射抑制層15よりも5原子%~10原子%以上大きいことが好ましい。本発明者らの検討によると、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15を同一材料で形成する場合、組成が同一であるにもかかわらず、表面側の反射率が裏面側よりも高くなる傾向があることが分かった。そこで第1反射抑制層13、第2反射抑制層15の各層の組成比(O含有率、N含有率)についてさらに検討したところ、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15の組成比(O含有率、N含有率)を上記のようにすることで、裏面側の反射率を表面側と同程度、もしくは表面側よりも低減できることが見出された。このように各層の組成比(O含有率、N含有率)を変更させることにより、表裏面の反射率を制御することができる。
【0096】
(k)第1反射抑制層13および第2反射抑制層15は、それぞれ、OおよびNのうち少なくともいずれか一方の元素の含有率が膜厚方向に沿って連続的あるいは段階的に組成変化する領域を有することが好ましい。第1反射抑制層13および第2反射抑制層15の各層を組成変化させることにより、各層にOもしくはNが高い含有率となる領域を局所的に導入しながらも、各層におけるOもしくはNの平均的な含有率を低く維持することができる。これにより、フォトマスクブランク1の表面側および裏面側の反射率を低く維持することができる。
【0097】
また、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層では、O含有率が高くなるとエッチングレートが過剰に低下したり、N含有率が高くなるとエッチングレートが過剰に増加したりすることになるが、OやNの含有率を低くすることで、これらの元素を含有することによる各層のエッチングレートの差を抑制することができる。つまり、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15と、遮光層14との間でのエッチングレートの乖離を抑制することができる。この結果、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層のエッチングレートを揃える目的で遮光層14に含有するNや炭素を減らしたり、遮光層14に炭素を含有せずに炭素非含有としたりすることができる。この結果、遮光層14におけるCrの含有率を高めて、光学濃度(OD)を高く維持することができる。
【0098】
(l)第2反射抑制層15は、膜厚方向の遮光層14側に向かってO含有率が増加する領域を有することが好ましい。これにより、第2反射抑制層15において、遮光層14との界面部分のO含有率を局所的に高くし、膜厚方向での平均的なO含有率を低くしている。この結果、遮光膜12の表面側(第2反射抑制層15)で所望の反射率を得るとともに、界面での過度なエッチングによる食われを抑制することができる。
【0099】
(m)第2反射抑制層15は、膜厚方向の遮光層14側に向かってN含有率が低下する領域を有することが好ましい。これにより、第2反射抑制層15において、膜厚方向での平均的なN含有率をある程度維持しつつ、遮光層14との界面部分のN含有率を局所的に低くしている。この結果、第2反射抑制層15と遮光層14の界面での過度なエッチングによる食われを抑制することができる。
【0100】
(n)第1反射抑制層13は、膜厚方向の透明基板11に向かってO含有率が増加するとともにN含有率が低下する領域を有することが好ましい。第1反射抑制層13において、膜厚方向の透明基板11に向かってO含有率を増加させるとともにN含有率を低下させることにより、エッチングレートを透明基板11に向かって徐々に低くすることができる。これにより、第1反射抑制層13と透明基板11との界面での食われを抑制し、マスクパターンのCD均一性をより向上させることができる。
【0101】
(o)また本実施形態によれば、遮光層14は、クロム(Cr)と窒化二クロム(Cr2N)を含む結合状態(化学状態)のクロム系材料とすることが好ましい。遮光層14が、CrとCr2Nとを含む結合状態(化学状態)のクロム系材料とすることにより、遮光層14にNが所定量含有した場合のエッチングレートの過剰な進行を抑制でき、遮光膜パターンの断面形状を垂直に近づけることができる。
【0102】
(p)また本実施形態によれば、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15は、一窒化クロム(CrN)と酸化クロム(III)(Cr2O3)と酸化クロム(VI)(CrO3)を含む結合状態(化学状態)のクロム系材料とすることが好ましい。第1反射抑制層13および第2反射抑制層15が、Cr2O3、CrO3の複数の酸化クロムを含有することにより、遮光膜12の表裏面の反射率を効果的に低減することができる。また、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15が、CrNの窒化クロムを含有することにより、上述の酸化クロムによるエッチングレートの過剰に低下することを抑制できるので、遮光膜パターンの断面形状を垂直に近づけることができる。
【0103】
(q)また本実施形態によれば、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15を、Crを含むスパッタターゲットと、酸素系ガス、窒素系ガスおよび希ガスを含むスパッタリングガスと、を用いた反応性スパッタリングによる成膜を行い、遮光層14を、Crを含むスパッタターゲットと、窒素系ガスおよび希ガスを含むスパッタリングガスを用いた反応性スパッタリングによる成膜を行い、これらの反応性スパッタリングの成膜条件として、スパッタリングガスに含まれる反応性ガスの流量がメタルモードとなる流量を選択することが好ましい。これにより、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層を上記組成範囲に調整しやすく、また、遮光膜12の表裏面の反射率を効果的に低減しつつ、遮光膜12をパターニングした時の遮光膜パターンの断面形状を垂直に近づけることができる。
【0104】
(r)第1反射抑制層13および第2反射抑制層15の各層を反応性スパッタリングにより成膜するときに、酸素系ガスとして酸素(O2ガス)を用いることが好ましい。O2ガスによれば、他の酸素系ガスと比べて酸化力が高いので、メタルモードを選択して成膜する場合であっても、各層を上記組成範囲により確実に調整することができる。これにより、遮光膜12の表裏面の反射率を効果的に低減しつつ、遮光膜12をパターニングした時の遮光膜パターンの断面形状を垂直に近づけることができる。
【0105】
(s)本実施形態のフォトマスクブランク1によれば、表面側の反射率が低いので、遮光膜12上にレジスト膜を設け、描画・現像工程によりレジストパターンを形成するときに、描画光の遮光膜12表面での反射を低減することができる。これにより、レジストパターンの寸法精度を高め、それから形成されるフォトマスクの遮光膜パターンの寸法精度を高めることができる。
【0106】
(t)本実施形態のフォトマスクブランク1から製造されるフォトマスクは、遮光膜パターンが高精度であり、かつ遮光膜パターンの表裏面の反射率が低減されているので、被転写体へのパターン転写の際に、高い転写特性を得ることができる。
【0107】
(u)また本実施形態では、透明基板11として、矩形状であって短辺の長さが850mm以上1620mm以下の基板を用いて、フォトマスクブランク1を大型化させた場合であっても、遮光膜12を膜厚方向でのエッチングレートを揃えるように構成しているので、遮光膜12をエッチングして得られるマスクパターンのCD均一性を高く維持することができる。
【0108】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0109】
上述の実施形態では、透明基板11の上に遮光膜12を直接設ける場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、遮光膜12よりも光学濃度の低い半透光膜を透明基板11と遮光膜12との間に設けたフォトマスクブランクでもよい。この透明基板11上に半透光膜と遮光膜12が形成されたフォトマスクブランクにおいても、露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する半透光膜の裏面反射率が10%以下であり、遮光膜の表面反射率が10%以下であり、かつ前記波長範囲における前記半透光膜の裏面反射率の波長依存性が5%以下であることが好ましい。このフォトマスクブランクは、表示装置製造の際に使用するフォトマスクの枚数を削減する効果のあるグレートーンマスク又は階調マスクのフォトマスクブランクとして使用することができる。このグレートーンマスク又は階調マスクにおけるマスクパターンは、半透光膜パターン及び/又は遮光膜パターンとなる。
また、半透光膜の代わりに、透過光の位相をシフトさせる位相シフト膜を透明基板11と遮光膜12との間に設けたフォトマスクブランクでもよい。この透明基板11上に位相シフト膜と遮光膜12が形成されたフォトマスクブランクにおいても、露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する位相シフト膜の裏面反射率が10%以下であり、遮光膜の表面反射率が10%以下であり、かつ前記波長範囲における前記半透光膜の裏面反射率の波長依存性が5%以下であることが好ましい。このフォトマスクブランクは、位相シフト効果による高いパターン解像性の効果を有する位相シフトマスクとして使用することができる。この位相シフトマスクにおけるマスクパターンは、位相シフト膜パターンや、位相シフト膜パターン及び遮光膜パターンとなる。
上述の半透光膜および位相シフト膜は、遮光膜12を構成する材料であるクロム系材料に対してエッチング選択性のある材料が適している。このような材料としては、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)とケイ素(Si)を含有した金属シリサイド系材料を使用することができ、さらに酸素、窒素、炭素、又はフッ素の少なくともいずれか一つを含んだ材料が適している。例えば、MoSi、ZrSi、TiSi、TaSi等の金属シリサイド、金属シリサイドの酸化物、金属シリサイドの窒化物、金属シリサイドの酸窒化物、金属シリサイドの炭化窒化物、金属シリサイドの酸化炭化物、金属シリサイドの炭化酸化窒化物が適している。尚、これらの半透光膜や位相シフト膜は、機能膜として挙げた上記の膜で構成された積層膜であっても良い。
【0110】
また、上述の実施形態では、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15がともに1層ずつの場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、各層を2層以上の複数層としてもよい。
【0111】
また、上述の実施形態において、遮光膜12上に遮光膜12とエッチング選択性のある材料から構成されたエッチングマスク膜を形成しても構わない。
【0112】
また、上述の実施形態において、透明基板11と遮光膜12との間に、遮光膜とエッチング選択性のある材料から構成されたエッチングストッパー膜を形成しても構わない。上記エッチングマスク膜、エッチングストッパー膜は、遮光膜12を構成する材料であるクロム系材料に対してエッチング選択性のある材料で構成される。このような材料としては、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)とケイ素(Si)を含有した金属シリサイド系材料や、Si、SiO、SiO2、SiON、Si3N4等のケイ素系材料が挙げられる。
【実施例】
【0113】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0114】
<実施例1>
本実施例では、インライン型スパッタリング装置を用いて、上述した実施形態に示す手順により、
図1に示すような、基板サイズが1220mm×1400mmの透明基板上に第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層を積層させて遮光膜を備えるフォトマスクブランクを製造した。
【0115】
第1反射抑制層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素(O2)ガスの流量を5~45sccm、窒素(N2)ガスの流量を30~60sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を60~150sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を2.0~6.0kW、ターゲットの印加電圧を420~430Vの範囲で設定した。なお、第1反射抑制層の成膜の際の基板搬送速度は、350mm/minにした。
【0116】
遮光層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、窒素(N2)ガスの流量を1~60sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を60~200sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を3.0~7.0kW、印加電圧を370~380Vの範囲で設定した。なお、遮光層の成膜の際の基板搬送速度は、200mm/minにした。
【0117】
第2反射抑制層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素(O2)ガスの流量を8~45sccm、窒素(N2)ガスの流量を30~60sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を60~150sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を2.0~6.0kW、ターゲット印加電圧を420~430Vの範囲で設定した。なお、第2反射抑制層の成膜の際の基板搬送速度は、300mm/minにした。
【0118】
得られたフォトマスクブランクの遮光膜について、膜厚方向の組成をX線光電子分光法(XPS)により測定したところ、遮光膜における各層は、
図2に示す組成分布を有することが確認された。
図2は、実施例1のフォトマスクブランクにおける膜厚方向の組成分析結果を示す図であり、横軸はスパッタ時間を、縦軸は元素の含有量[原子%]を示す。スパッタ時間は、遮光膜の表面からの深さを表す。
【0119】
図2では、表面から深さ約5minまでの領域は表面自然酸化層であり、深さ約5minから深さ約16minまでの領域は第2反射抑制層であり、深さ約16minから深さ約40minまでの領域は遷移層であり、深さ約40minから深さ約97minまでの領域は遮光層であり、深さ約97minから深さ約124minまでの領域は遷移層であり、深さ約124minから深さ約132minまでの領域は第1反射抑制層であり、深さ約132minからの領域は透明基板である。
なお、膜厚計により測定した遮光膜の膜厚は198nmであり、上記表面自然酸化層、第2反射抑制層、遷移層、遮光層、遷移層、第1反射抑制層の各膜厚は、表面自然酸化層が約4nm、第2反射抑制層が約21nm、遷移層が約35nm、遮光層が約88nm、遷移層が約39nm、第1反射抑制層が約11nmであった。
【0120】
図2に示すように、第1反射抑制層は、CrON膜であり、Crを55.4原子%、Nを20.8原子%、Oを23.8原子%含む。これら元素の含有率は、第1反射抑制層においてNがピークとなる部分(スパッタ時間が123minの領域)で測定されたものである。第1反射抑制層は、
図2に示すような傾斜組成を有しており、膜厚方向の透明基板に向かってO含有率が増加するとともにN含有率が低下する部分を有する。なお、第1反射抑制層において、各元素の膜厚方向での平均した含有率は、Crが57原子%、Nが18原子%、Oが25原子%であった。
【0121】
遮光層は、CrN膜であり、Crを92.0原子%、Nを8.0原子%含む。これら元素の含有率は、遮光層の膜厚方向における中心部分(スパッタ時間が69minの領域)で測定されたものである。なお、遮光層において、各元素の膜厚方向での平均した含有率は、Crが91原子%、Nが9原子%であった。
【0122】
第2反射抑制層は、CrON膜であり、Crを50.7原子%、Nを12.2原子%、Oを37.1原子%含む。これら元素の含有率は、第2反射抑制層において、Oが増加している領域の中心部分(スパッタ時間が16minの領域)で測定されたものである。第2反射抑制層は、
図2に示すような傾斜組成を有しており、膜厚方向の遮光層側に向かってO含有率が増加するとともにN含有率が低下する部分を有する。なお、第2反射抑制層において、各元素の膜厚方向での平均した含有率は、Crが52原子%、Nが17原子%、Oが31原子%であった。また、第2反射抑制層の表面には、大気に曝されることにより表面自然酸化層が形成され、この層は酸化したり炭化したりしたためO含有率およびC含有率が高く検出されるものと考えられる。
【0123】
また、遮光膜を構成する第1反射抑制層、遮光層、第2反射抑制層の各層の結合状態(化学状態)をXPS測定結果に基づいてスペクトル解析を行った。その結果、第1反射抑制層と第2反射抑制層は、一窒化クロム(CrN)と酸化クロム(III)(Cr2O3)と酸化クロム(VI)(CrO3)を含み、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料(クロム化合物)であった。また、遮光層は、クロム(Cr)と窒化二クロム(Cr2N)を含み、クロムと窒素とを含有するクロム系材料(クロム化合物)であった。
【0124】
(フォトマスクブランクの評価)
実施例1のフォトマスクブランクについて、遮光膜の光学濃度、遮光膜の表裏面の反射率を以下に示す方法により評価した。
【0125】
実施例1のフォトマスクブランクについて、遮光膜の光学濃度を分光光度計(株式会社島津製作所社製「SolidSpec-3700」)により測定したところ、露光光の波長帯域であるg線(波長436nm)において5.0であった。また、遮光膜の表裏面の反射率を、分光光度計(株式会社島津製作所製「SolidSpec-3700」)により測定した。具体的には、遮光膜の第2反射抑制層側の反射率(表面反射率)と、遮光膜の透明基板側の反射率(裏面反射率)をそれぞれ分光光度計により測定した。その結果、
図3に示すような反射率スペクトルが得られた。
図3は、実施例1のフォトマスクブランクについての表裏面の反射率スペクトルを示し、横軸は波長[nm]を、縦軸は反射率[%]をそれぞれ示す。
図3に示すように、実施例1のフォトマスクブランクは、表裏面の反射率スペクトルのボトムピーク波長を436nm付近にすることができ、また幅広い波長の光に対して反射率を大きく低減できることが確認された。具体的には、波長365nm~436nmにおいて、遮光膜の表面反射率は、10.0%以下(7.7%(波長365nm)、1.8%(波長405nm)、1.1%(波長413nm)、0.3%(波長436nm))、遮光膜の裏面反射率は、7.5%以下(6.2%(波長365nm)、4.7%(波長405nm)、4.8%(波長436nm))であった。波長365nm~436nmにおいて遮光膜の表裏面の反射率を10%以下に低減でき、特に波長436nmの光に対する反射率については、表面反射率を0.3%、裏面反射率を4.8%にできることが確認された。
また、露光波長365nm~436nmの範囲内における遮光膜の表面反射率の依存性は7.4%であり、裏面反射率の依存性は1.6%であった。
また、波長530nmにおける遮光膜の表面反射率は、11.8%であった。
波長300nm~500nmに渡る波長帯域において、表面反射率および裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対応する波長(ボトムピーク波長)は、表面反射率が436nmで、裏面反射率が415.5nmであった。
【0126】
(遮光膜パターンの評価)
実施例1のフォトマスクブランクを使用して、透明基板上に遮光膜パターンを形成した。具体的には、透明基板上の遮光膜上にノボラック系のポジ型レジスト膜を形成した後、レーザー描画(波長413nm)・現像処理してレジストパターンを形成した。その後、レジストパターンをマスクにしてクロムエッチング液によってウェットエッチングして、透明基板上に遮光膜パターンを形成した。遮光膜パターンの評価は、1.9μmのラインアンドスペースパターンを形成して遮光膜パターンの断面形状を走査電子顕微鏡(SEM)により観察して行った。その結果、
図4に示すように、断面形状を垂直に近づけることが確認された。
図4は、実施例1のフォトマスクブランクについて、ウェットエッチングによる遮光膜パターンの断面形状の垂直性を説明するための図であり、ジャストエッチング時間(JET)を基準(100%)に、エッチング時間を110%、130%、150%としてオーバーエッチングしたときの断面形状をそれぞれ示す。
図4では、透明基板上に遮光膜パターンおよびレジスト膜パターンが積層されており、遮光膜パターンの側面は、JET100%のときに、透明基板とのなす角が70°であることが確認された。このなす角は、エッチング時間をJETの110%、130%および150%としたときであっても、60°~80°の範囲内であり、エッチング時間によらず、遮光膜パターンの断面形状を安定して垂直に形成できることが確認された。
【0127】
以上の実施例1ように、フォトマスクブランクの遮光膜について、透明基板側から第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層を積層させ、各層を所定の組成となるように構成することで、表裏面の反射率を幅広い波長範囲で低減するとともに、ウェットエッチングによりパターニングしたときの遮光膜パターンの断面形状を垂直に形成することができた。
【0128】
(フォトマスクの作製)
次に、実施例1のフォトマスクブランクを用いて、フォトマスクを作製した。
まず、フォトマスクブランクの遮光膜上にノボラック系のポジ型レジストを形成した。そして、レーザー描画装置を用いて、このレジスト膜にTFTパネル用の回路パターンのパターンを描画し、さらに現像・リンスすることによって、所定のレジストパターンを形成した(上述の回路パターンの最小線幅は0.75μm)。
その後、レジストパターンをマスクとして、クロムエッチング液を使用して、遮光膜をウェットエッチングでパターニングし、最後にレジスト剥離液によりレジストパターンを剥離して、透明基板上に遮光膜パターン(マスクパターン)が形成されたフォトマスクを得た。このフォトマスクは、透明基板上に形成された遮光膜パターン(マスクパターン)の開口率、すなわち、遮光膜パターンが形成されたフォトマスク全面の領域に占める遮光膜パターンが形成されていない透明基板の露出割合が45%であった。
このフォトマスクの遮光膜パターンのCD均一性を、セイコーインスツルメンツナノテクノロジー株式会社製「SIR8000」により測定した。CD均一性の測定は、基板の周縁領域を除外した1100mm×1300mmの領域について、11×11の地点で測定した。
その結果、CD均一性は、100nmであり、得られたフォトマスクのCD均一性は良好であった。
【0129】
(LCDパネルの作製)
この実施例1で作製したフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置(TFT)用の基板上にレジスト膜が形成された被転写体に対してパターン露光を行ってTFTアレイを作製した。露光光としては、波長365nmのi線、波長405nmのh線、及び波長436nmのg線を含む複合光を用いた。
作製したTFTアレイと、カラーフィルター、偏光板、バックライトを組み合わせてTFT-LCDパネルを作製した。その結果、表示ムラのないTFT-LCDパネルが得られた。これは、フォトマスクを用いてパターン露光を行う際、表裏面での光の反射を抑制し、反射光の合計光量を低減できたためと考えられる。
【0130】
(実施例2)
本実施例は、実施例1における第1反射抑制層の成膜条件、第2反射抑制層の成膜条件を以下のように変更し、基板サイズが1220mm×1400mmの透明基板上に第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層を積層させて遮光膜を備えるフォトマスクブランクを作製した。
【0131】
第1反射抑制膜の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素(O2)ガスの流量を25~45sccm、窒素(N2)ガスの流量を40~60sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を80~120sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を1.5~5.0kW、ターゲットの印加電圧を380~400Vの範囲で設定した。なお、第1反射抑制層の成膜の際の基板搬送速度は、300mm/minにした。
【0132】
また、第2反射抑制膜の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素(O2)ガスの流量を8~25sccm、窒素(N2)ガスの流量を30~40sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を90~120sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を3.5~8.0kW、ターゲット印加電圧を435~455Vの範囲で設定した。なお、第2反射抑制層の成膜の際の基板搬送速度は、250mm/minにした。
【0133】
(フォトマスクブランクの評価)
実施例2のフォトマスクブランクについて、遮光膜の光学濃度、遮光膜の表裏面の反射率を実施例1と同様に評価した。
実施例2のフォトマスクブランクは、遮光膜の光学濃度は、露光光の波長帯域であるg線(波長436nm)において5.1であった。また、表裏面の反射率スペクトルのボトムピーク波長を400nm付近にすることができ、また幅広い波長の光に対して反射率を大きく低減できることが確認された。具体的には、波長365nm~436nmにおいて、遮光膜の表面反射率は、7.5%以下(7.5%(波長365nm)、4.9%(波長405nm)、4.9%(波長413nm)、6.3%(波長436nm))、遮光膜の裏面反射率は、5%以下(2.8%(波長365nm)、1.6%(波長405nm)、3.9%(波長436nm))であった。波長365nm~436nmにおいて遮光膜の表裏面の反射率を7.5%以下に低減でき、特に波長405nmの光に対する反射率については、表面反射率を4.9%、裏面反射率を1.6%にできることが確認された。
また、露光波長365nm~436nmの範囲内における遮光膜の表面反射率の依存性は2.6%であり、裏面反射率の依存性は2.5%であった。
また、波長530nmにおける遮光膜の表面反射率は、22.8%であった。
波長200nm~500nmに渡る波長帯域において、表面反射率および裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対応する波長(ボトムピーク波長)は、表面反射率が404nmで、裏面反射率が394nmであった。
【0134】
(フォトマスクの作製)
次に、実施例1と同様に実施例2のフォトマスクブランクを用いて、フォトマスクを作製したところ、CD均一性は、92nmであり、得られたフォトマスクのCD均一性は良好であった。
【0135】
(LCDパネルの作製)
実施例2で作製したフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置(TFT)用の基板上にレジスト膜が形成された被転写体に対してパターン露光を行ってTFTアレイを作製した。露光光としては、波長365nmのi線、波長405nmのh線、及び波長436nmのg線を含む複合光を用いた。作製したTFTアレイと、カラーフィルター、偏光板、バックライトを組み合わせてTFT-LCDパネルを作製した。その結果、表示ムラのないTFT-LCDパネルが得られた。これは、フォトマスクを用いてパターン露光を行う際、表裏面での光の反射を抑制し、反射光の合計光量を低減できたためと考えられる。
【0136】
(実施例3)
本実施例は、実施例1のフォトマスクブランクを用いて、遮光膜パターンの線幅が1.2μmのスリット状のパターンを有するフォトマスクを作製した以外は、実施例1と同様にしてフォトマスクを作製した。なお、作製したフォトマスクは、透明基板上に形成された遮光膜パターンの開口率が38%であった。
このフォトマスクの遮光膜パターンのCD均一性は82nmであり、得られたフォトマスクのCD均一性は良好であった。
実施例3で作製したフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置(TFT)用の基板上にレジスト膜が形成された被転写体に対してパターン露光を行ってTFTアレイを作製した。露光光としては、波長365nmのi線、波長405nmのh線、及び波長436nmのg線を含む複合光を用いた。作製したTFTアレイと、カラーフィルター、偏光板、バックライトを組み合わせてTFT-LCDパネルを作製した。その結果、表示ムラのないTFT-LCDパネルが得られた。これは、フォトマスクを用いてパターン露光を行う際、表裏面での光の反射を抑制し、反射光の合計光量を低減できたためと考えられる。
【0137】
(実施例4)
本実施例は、実施例1のフォトマスクブランクにおいて、透明基板と遮光膜との間に、位相シフト膜を形成した以外は実施例1と同様にしてフォトマスクブランクを作製した。
位相シフト膜は、以下のようにして成膜した。
位相シフト膜の成膜条件は、スパッタターゲットをMoSiスパッタターゲット(Mo:Si=1:4)とし、アルゴンガス、窒素ガス(N2)、一酸化窒素ガス(NO)の混合ガスによる反応性スパッタリングにより、膜厚が183nmのMoSiONからなる位相シフト膜を成膜した。なお、混合ガスのガス流量は、Arガス:40sccm、N2ガス:34sccm、NOガス:34.5sccmとした。また、この位相シフト膜は、透過率は27%(波長:405nm)、位相差は173°(波長:405nm)であった。
次に、位相シフト膜上に実施例1と同様にして、第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層からなる遮光膜を形成して、フォトマスクブランクを作製した。
【0138】
(フォトマスクブランクの評価)
実施例4のフォトマスクブランクにおける位相シフト膜の裏面反射率は、10.0%以下(4.2%(波長365nm)、6.2%(波長405nm)、9.2%(波長436nm)であった。また、遮光膜の表面反射率は、10.0%以下(7.7%(波長365nm)、1.8%(波長405nm)、1.1%(波長413nm)、0.3%(波長436nm))であった。実施例4のフォトマスクブランクは、波長365nm~436nmにおいて、位相シフト膜の裏面反射率を10%以下、遮光膜の表面反射率を10%以下に低減でき、さらに位相シフト膜の裏面反射率の波長依存性が5%以下であった。
【0139】
(フォトマスクの作製、およびLCDパネルの作製)
次に、実施例4のフォトマスクブランクを用いて、フォトマスクを作製した。
まず、フォトマスクブランクの遮光膜上にノボラック系のポジ型レジストを形成した。そして、レーザー描画装置を用いて、このレジスト膜にホール径が1.2μmのホール状のパターンを描画し、さらに現像・リンスすることによって、第1のレジストパターンを形成した。
その後、第1のレジストパターンをマスクとして、クロムエッチング液を使用して、遮光膜をウェットエッチングでパターニングし、位相シフト膜上に遮光膜パターンを形成した。
次に、遮光膜パターンをマスクにして、モリブデンシリサイドエッチング液を使用して、位相シフト膜をウェットエッチングでパターニングし、位相シフト膜パターンを形成した。その後、第1のレジストパターンを剥離した。
その後、遮光膜パターンを覆うようにレジスト膜を形成し、レーザー描画装置を用いて、パターンを描画し、さらに現像・リンスすることによって、位相シフト膜パターン上に遮光帯を形成するための第2のレジストパターンを形成した。
その後、第2のレジストパターンをマスクにして、クロムエッチング液を使用して、遮光膜をウェットエッチングでパターニングし、位相シフト膜上に遮光帯用の遮光膜パターンを形成し、最後に、第2のレジスト膜パターンを剥離してフォトマスクを作製した。
このようにして、透明基板上に、ホール径が1.2μmの位相シフト膜パターンと、位相シフト膜パターンと遮光膜パターンの積層構造からなる遮光帯が形成されたフォトマスクを得た。
このフォトマスクの位相シフト膜パターンのCD均一性は、90nmであり、得られたフォトマスクのCD均一性は良好であった。
また、実施例4で作製されたフォトマスクを用いて、TFT-CLDパネル祖作製した結果、表示ムラのないTFT-LCDパネルが得られた。これは、フォトマスクを用いてパターン露光を行う際、表裏面での光の反射を抑制し、反射光の合計香料を低減できたためと考えられる。
【0140】
(比較例1)
比較例としては、基板サイズが1220mm×1400mmの透明基板上に、第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層を積層させて遮光膜を備えるフォトマスクブランクを製造した。
【0141】
第1反射抑制層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、反応モードとなるように、炭酸ガス(CO2)の流量を100~250sccm、窒素(N2)ガスの流量を150~350sccm、メタン(CH4)ガスの流量を0~15sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を150~300sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を2.0~7.0kWの範囲で設定した。なお、第1反射抑制層の成膜の際の基板搬送速度は、200mm/minにし、3回成膜を行った。
【0142】
遮光層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、窒素(N2)ガスの流量を1~60sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を60~200sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を5.0~8.0kWの範囲で設定した。なお、遮光層の成膜の際の基板搬送速度は、200mm/minにした。
【0143】
第2反射抑制層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、反応モードとなるように、炭酸ガス(CO2)の流量を100~300、窒素(N2)ガスの流量を150~350sccm、メタン(CH4)ガスの流量を0~15sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を150~300sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を2.0~7.0kWの範囲で設定した。なお、第2反射抑制層の成膜の際の基板搬送速度は、200mm/minにし、3回成膜を行った。
【0144】
上述の実施例1と同様に、比較例1のフォトマスクブランクについて、遮光膜の光学濃度、遮光膜の表裏面の反射率を測定した。その結果、遮光膜の光学濃度は、露光光の波長帯域であるg線(波長436nm)において5.1であった。また、波長365nm~436nmにおいて、遮光膜の表面反射率は、5.0%以下(2.8%(波長365nm)、3.5%(波長405nm)、3.9%(波長413nm)、4.8%(波長436nm))、遮光膜の裏面反射率は、12%以下(11.2%(波長365nm)、7.1%(波長405nm)、4.9%(波長436nm))であった。波長365nm~436nmにおいて遮光膜の表面反射率は5%以下にできたが、裏面反射率は10%を超え、波長365nmにおいて11.2%となった。
また、露光波長365nm~436nmの範囲内における遮光膜の表面反射率依存性は、2.0%であり、裏面反射率依存性は、6.3%であった。
波長300nm~500nmに渡る波長帯域において、表面反射率および裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対する波長(ボトムピーク波長)は、表面反射率が337nmで、裏面反射率が474nmであった。
【0145】
(フォトマスクの作製)
次に、比較例1のフォトマスクブランクを用いて、実施例1と同様にフォトマスクを作製した。得られたフォトマスクの遮光膜パターンのCD均一性を測定した結果、155nmとなり実施例1、2と比べて悪化した。
(LCDパネルの作製)
比較例1で作製したフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置(TFT)用の基板上にレジスト膜が形成された被転写体に対してパターン露光を行ってTFTアレイを作製した。露光光としては、波長365nmのi線、波長405nmのh線、及び波長436nmのg線を含む複合光を用いた。作製したTFTアレイと、カラーフィルター、偏光板、バックライトを組み合わせてTFT-LCDパネルを作製した。その結果、比較例1のフォトマスクを用いて作製されたTFT-LCDパネルでは、表示ムラが生じることが確認された。これは、比較例1のフォトマスクでは、パターン露光を行う際、露光波長(365nm~436nm)における特に遮光膜の裏面での光の反射を十分に抑制できず、その結果として、反射光の合計光量が増大してしまったためと考えられる。
【符号の説明】
【0146】
1 フォトマスクブランク
11 透明基板
12 遮光膜
13 第1反射抑制層
14 遮光層
15 第2反射抑制層