(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】管路の補修システムおよび補修方法
(51)【国際特許分類】
B29C 63/34 20060101AFI20220729BHJP
F16L 55/164 20060101ALI20220729BHJP
F16L 55/18 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
B29C63/34
F16L55/164
F16L55/18 B
(21)【出願番号】P 2018229490
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599119569
【氏名又は名称】株式会社三富工業
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】村田 哲
(72)【発明者】
【氏名】松岡 康訓
(72)【発明者】
【氏名】菅野 道昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 米一
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-029382(JP,A)
【文献】特開昭56-013134(JP,A)
【文献】特開2000-355050(JP,A)
【文献】特開2008-238738(JP,A)
【文献】特表2008-501555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/34
F16L 55/16,55/164,55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライニング材を用いてコンクリート製の筒状の管路を補修する補修システムであって、
前記管路の基端側に接続された基端ソケットと、
当該基端ソケットに接続されて加圧した過熱水蒸気を送出する過熱水蒸気送出装置と、
前記過熱水蒸気送出装置に接続されて過熱水蒸気よりも低温の加圧空気を送出するコンプレッサと、
前記管路の先端側に接続されて先端に向かうに従って内径が小さくなる筒状の先端ソケットと、
前記先端ソケットの先端に接続されて所定長さを有する筒状の弾性部材と、を備え、
前記先端ソケットには、当該先端ソケットの流量を制御する仕切弁が設けられ、
前記管路の内周面の補修箇所に熱硬化性を有する繊維複合樹脂製の筒状のライニング材が未加熱で配置された状態で、
前記コンプレッサにより前記管路の基端側の内部圧力および内部温度を調節しながら、前記過熱水蒸気送出装置から加圧した過熱水蒸気を送る
とともに、前記仕切弁の開度を調整して前記先端ソケットを通過する過熱水蒸気の流量を調節することで、当該過熱水蒸気により前記ライニング材が内側から前記管路の内周面に押し付けられつつ加熱され、当該管路の内周面に密着した状態で硬化することを特徴とする管路の補修システム。
【請求項2】
請求項1に記載の補修システムを用いて、コンクリート製の筒状の管路を補修する方法であって、
当該管路の内周面の所定箇所に、熱硬化性を有する繊維複合樹脂製の未加熱状態の筒状のライニング材を配置する工程と、
前記コンプレッサにより前記管路の基端側の内部圧力および内部温度を調節しながら、前記管路内に過熱水蒸気送出装置から加圧した過熱水蒸気を送る
とともに、前記仕切弁の開度を調整して前記先端ソケットを通過する過熱水蒸気の流量を調節することで、当該過熱水蒸気により前記ライニング材を内側から前記管路の内周面に押し付けつつ加熱し、当該管路の内周面に密着させた状態で硬化させる工程と、を備えることを特徴とする管路の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の筒状の管路を補修する補修システムに関する。詳しくは、本発明は、熱硬化性を有するライニング材を用いて、老朽化したコンクリート製の管路を補修する補修システムおよび補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業用水路や下水道の管路では、流水や細粒砂などの衝突やすり磨き作用により、管路内周面のモルタル部分が徐々に削り取られて、表面が凹凸のある粗面となり、さらに進行すると骨材が脱落して管路断面が減少する。特に下水道の管路では、下水に含まれる微生物により、管路内周面のコンクリートが化学的に侵食されて、管路断面減少および鉄筋の腐食を引き起こす場合がある。
【0003】
以上のような劣化した管路の補修方法として、管路更生工法が採用されている。管路更生工法とは、管路の内部に熱硬化性の繊維複合樹脂製ライニング材を引き込んだ後、このライニング材を内側から加温することで、ライニング材に含浸している熱硬化性樹脂の硬化反応を促進して硬化させる工法である。
ここで、ライニング材を内側から加温する方法として、高温の空気を使用する方法(特許文献1参照)や、高温の蒸気を使用する方法(特許文献2、3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-282561号公報
【文献】特開2008-1057号公報
【文献】特開2003-314748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高温の空気や蒸気を用いてライニング材を加温した場合、エネルギー消費量が大きく、ライニング材の加温に時間がかかる、という課題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、エネルギー消費量を抑制しつつ、ライニング材を迅速に加熱できる、管路の補修システムおよび補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の管路の補修システムは、ライニング材(例えば、後述のライニング材2)を用いてコンクリート製の筒状の管路(例えば、後述の管路10)を補修する補修システム(例えば、後述の管路の補修システム1)であって、前記管路の基端側に接続された基端ソケット(例えば、後述の基端ソケット20)と、当該基端ソケットに接続されて加圧した過熱水蒸気を送出する過熱水蒸気送出装置(例えば、後述の過熱水蒸気送出装置21)と、前記管路の先端側に接続されて先端に向かうに従って内径が小さくなる筒状の先端ソケット(例えば、後述の先端ソケット23)と、を備え、前記管路の内周面の補修箇所に熱硬化性を有する繊維複合樹脂製の筒状のライニング材が未加熱で配置された状態で、前記過熱水蒸気送出装置から前記管路内に加圧した過熱水蒸気を送ることで、当該過熱水蒸気により前記ライニング材が内側から前記管路の内周面に押し付けられつつ加熱され、当該管路の内周面に密着した状態で硬化することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、ライニング材を管路の内周面の補修箇所に配置し、この状態で、過熱水蒸気送出装置から管路内に加圧した過熱水蒸気を送出することで、過熱水蒸気によりライニング材を内側から管路の内周面に押し付けつつ加熱し、ライニング材を管路の内周面に密着させた状態で硬化させる。よって、管路の補修箇所がライニング材によって覆われることとなり、管路の内周面がすり磨き作用によってこれ以上削り取られたり、管路内周面のコンクリートが化学的に侵食されたりするのを防止して、管路断面の減少や鉄筋の腐食を抑制できる。
【0009】
ここで、本発明では、加圧した過熱水蒸気によりライニング材に熱を加えた。過熱水蒸気とは、100℃以上で沸騰気化した飽和水蒸気をさらに過熱して170℃以上の気体状態にした乾いた水蒸気である。そのため、加熱した空気に比べて、熱容量が大きい、比熱が2倍程度である、エンタルピーが大きい、凝縮・対流・伝熱の複合伝熱であるので熱効率がよい、等の特徴があり、被加熱物を急速に加熱することができる。よって、エネルギー消費量を抑制して、ライニング材を効率良く迅速に加熱できる。
また、過熱水蒸気の循環設備が不要となるので、補修システムを小型化できるから、運搬や設置が容易となり、狭隘な場所であっても効率的に施工できる。
また、従来のように、高温の水を用いてライニング材を加温した場合(温水加熱)、排水処理が必要となることがあり、高温の蒸気を用いてライニング材を加温した場合(蒸気加熱)、ドレン処理が必要となることがある。しかし、本発明では、過熱水蒸気によりライニング材を加温したので、温水加熱による排水処理や蒸気加熱によるドレン処理が不要となる。
【0010】
請求項1に記載の管路の補修システムは、前記先端ソケットには、当該先端ソケットの流量を調節する仕切弁(例えば、後述の仕切弁25)が設けられていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、仕切弁により先端ソケットを流れる過熱水蒸気の流量を調節することで、管路の先端側の内部圧力や内部温度を調節できるから、管路を確実に補修できる。
【0012】
請求項1に記載の管路の補修システムは、前記先端ソケットの先端に接続されて所定長さを有する筒状の弾性部材(例えば、後述の弾性部材24)をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、先端ソケットの先端に所定長さを有する筒状の弾性部材を接続したので、先端ソケットの先端から排出される過熱水蒸気による騒音を弾性部材が吸収して、外部に漏れる騒音を低減できる。
【0014】
請求項1に記載の管路の補修システムは、前記過熱水蒸気送出装置に接続されて過熱水蒸気よりも低温の加圧空気を送出するコンプレッサ(例えば、後述のコンプレッサ22)をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
過熱水蒸気の温度が150℃を超えると、繊維複合樹脂製のライニング材やこのライニング材の内面皮膜フィルムが溶解するおそれがある。
そこで、この発明によれば、コンプレッサより低温の加圧空気を過熱水蒸気送出装置の内部に供給することで、管路の基端側において、管路内部の過熱水蒸気の温度が上昇するのを抑制し、ライニング材やこのライニング材の内面皮膜フィルムの溶解を防止できる。また、管路の基端側の内部圧力や内部温度を調節できるから、管路を確実に補修できる。
【0016】
請求項2に記載の管路の補修方法は、コンクリート製の筒状の管路を補修する方法であって、当該管路の内周面の所定箇所に、熱硬化性を有する繊維複合樹脂製の未加熱状態の筒状のライニング材を配置する工程(例えば、後述のステップS1)と、前記管路内に過熱水蒸気送出装置から加圧した過熱水蒸気を送ることで、当該過熱水蒸気により前記ライニング材を内側から前記管路の内周面に押し付けつつ加熱し、当該管路の内周面に密着させた状態で硬化させる工程(例えば、後述のステップS2)と、を備えることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、上述の請求項1と同様の効果がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エネルギー消費量を抑制して、ライニング材を迅速に加熱できる、管路の補修システムおよび補修方法を提供できる。また、過熱水蒸気による加熱システムを使用することにより、温水加熱による排水処理や、蒸気加熱によるドレン処理が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る管路の補修システムにより補修された管路の側面図である。
【
図2】前記管路の補修システムの構成を示す図である。
【
図3】前記管路の補修システムを用いて管路を補修する手順のフローチャートである。
【
図4】前記管路を補修する手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る管路の補修システム1により補修された管路10の側面図である。
図2は、管路の補修システム1の構成を示す図である。
管路の補修システム1は、
図1に示すように、コンクリート製の筒状の管路10の内周面を全長に亘ってライニング材2で覆うことで、傷んだ管路10を補修するものである。この管路の補修システム1は、
図2に示すように、管路10の基端側(一端側)に接続された筒状の基端ソケット20と、この基端ソケット20に接続された過熱水蒸気送出装置21と、過熱水蒸気送出装置21および基端ソケット20に接続されたコンプレッサ22と、管路10の先端側(他端側)に接続された筒状の先端ソケット23と、先端ソケット23の先端に接続された所定長さを有する筒状の弾性部材24と、を備える。
【0021】
ライニング材2は、熱硬化性を有する繊維複合樹脂製である。
過熱水蒸気送出装置21は、基端ソケット20を通して管路10内に加圧した過熱水蒸気を送出するものである。
コンプレッサ22と過熱水蒸気送出装置21とは、配管26で接続されている。また、コンプレッサ22と基端ソケット20とは、配管27で接続されている。コンプレッサ22は、過熱水蒸気よりも低温の加圧空気を、配管26を通して過熱水蒸気送出装置21に送出したり、配管27を通して基端ソケット20に送出したりするものである。
先端ソケット23は、管路10の先端側から先端に向かうに従って内径が小さくなる筒状である。先端ソケット23の先端側には、先端ソケット23内を通過する過熱水蒸気の流量を調節する仕切弁25が設けられている。
【0022】
以上の管路の補修システム1を用いて傷んだ管路10を補修する手順について、
図3のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、管路10の内部にライニング材2を未加熱の状態で配置する。
ステップS2では、過熱水蒸気送出装置21から基端ソケット20を通して管路10内に加圧した過熱水蒸気を送出することで、
図4に示すように、この過熱水蒸気によりライニング材2を内側から管路10の内周面に押し付けつつ加熱し、管路10の内周面に密着させた状態で硬化させる。このとき、コンプレッサ22を適宜駆動することにより、管路10の基端側の内部圧力や内部温度を調節する。また、仕切弁25の開度を適宜調整して、先端ソケット23を通過する過熱水蒸気の流量を調節して、管路10の先端側の内部圧力や内部温度を調節する。
管路10内を通り抜けた過熱水蒸気は、先端ソケット23および弾性部材24を通って、排出される。このとき、先端ソケット23の先端から排出される過熱水蒸気による騒音を弾性部材24が吸収して消音する。
【0023】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)ライニング材2を管路10に密着した状態で硬化させることで、管路10の補修箇所がライニング材2によって覆われることとなり、管路10の内周面がすり磨き作用によってこれ以上削り取られたり、管路10の内周面のコンクリートが化学的に侵食されたりするのを防止して、管路10の断面の減少や鉄筋の腐食を抑制できる。
また、加圧した過熱水蒸気によりライニング材に熱を加えたので、エネルギー消費量を抑制して、ライニング材を効率良く迅速に加熱できる。
また、過熱水蒸気の循環設備が不要となるので、補修システム1を小型化できるから、運搬や設置が容易となり、狭隘な場所であっても効率的に施工できる。
【0024】
(2)仕切弁25で先端ソケット23の過熱水蒸気の流量を調節することで、管路10の先端側の内部圧力や内部温度を調節できるから、管路10の先端側を確実に補修できる。
【0025】
(3)先端ソケット23の先端に所定長さを有する筒状の弾性部材24を接続したので、先端ソケット23の先端から排出される過熱水蒸気による騒音を弾性部材24が吸収して、外部に漏れる騒音を低減できる。
【0026】
(4)コンプレッサ22より、低温の加圧空気を、配管27を通して直接管路10の基端側(二重構造になっている)に送ることによって、基端ソケット20を局所的に冷却して、基端ソケット20に取り付けたライニング材2やこのライニング材2の内面皮膜フィルムの溶解を防止できる。また、管路10の基端側の内部温度を調節できるから、管路10の基端側を確実に補修できる。
【0027】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0028】
1…管路の補修システム 2…ライニング材 10…管路
20…基端ソケット 21…過熱水蒸気送出装置 22…コンプレッサ
23…先端ソケット 24…弾性部材 25…仕切弁 26、27…配管