(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】鉄基粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/14 20220101AFI20220729BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220729BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220729BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20220729BHJP
B22F 1/17 20220101ALI20220729BHJP
【FI】
B22F1/14 450
B22F1/00 U
C22C38/00 304
C22C33/02 A
B22F1/17
B22F1/14 200
(21)【出願番号】P 2018549921
(86)(22)【出願日】2017-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2017056123
(87)【国際公開番号】W WO2017162499
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-13
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラーソン、カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】エングストレーム、ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】スザボ、クリストフ
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-529302(JP,A)
【文献】特開2003-339902(JP,A)
【文献】特開平09-095701(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102554220(CN,A)
【文献】特開平01-290702(JP,A)
【文献】特開平10-096001(JP,A)
【文献】特表2010-514935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 35/00-45/10
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基粉末の製造方法であって、
前記鉄基粉末は、
アトマイズ鉄粉の表面に拡散接合された還元酸化銅の粒子からなり、前記酸化銅は、酸化第一銅または酸化第二銅であり、銅の含有量は前記鉄基粉末の1~5重量%であり、 ISO4497:1983により測定して、最大粒子径が250μmであり、少なくとも75%が150μm未満であり、最大で30%が45μm未満であり、ISO3923:2008により測定して、見掛け密度が少なくとも2.70g/cm
3
であり、酸素含有量が最大で0.16重量%であり、他の不可避不純物が最大で1重量%であり、
SSF因子が最大で2.0であり、前記SSF因子は、前記鉄基粉末のうちで45μmのふるいを通過する鉄基粉末の重量%でのCu含有量と、45μmのふるいを通過しない鉄基粉末の重量%でのCu含有量との割合として定義される、鉄基粉末であり、
前記製造方法は、
酸素含有量が0.3~1.2重量%、炭素含有量が0.1~0.5重量%、不可避不純物の合計量が最大で1.5重量%、ISO4497:1983により測定して、最大粒子径が最大250μm、最大で30重量%が45μm以下の鉄粉末を提供し、ISO13320:1999により測定して、最大粒子径X90が最大22μm、重量平均粒径X50が最大15μmの酸化第一銅または酸化第二銅の粉末を提供するステップと、
前記鉄粉末と前記酸化第一銅または酸化第二銅の粉末とを混合するステップと、
前記混合物を還元雰囲気中で800~980℃で20分間~2時間、還元熱処理を行うステップと、
最大粒子径が250μmの鉄基粉末を得るために得られたケーキを粉砕するステップと、
粉砕されたケーキを、ISO4497:1983により測定して、最大粒子径が250μmであり、少なくとも75%が150μm未満であり、最大で30%が45μm未満である所望の粒度に分級するステップと
を含む鉄基粉末の製造方法。
【請求項2】
前記鉄基粉末は、前記銅の含有量が前記鉄基粉末の1.5~4重量%である、請求項1に記載された鉄基粉末の製造方法。
【請求項3】
前記鉄基粉末は、前記銅の含有量が前記鉄基粉末の1.5~3.5重量%重量%である、請求項1に記載された鉄基粉末の製造方法。
【請求項4】
前記鉄基粉末は、前記SSF因子が最大で1.7である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された鉄基粉末の製造方法。
【請求項5】
酸化第一銅または酸化第二銅の粉末の重量平均粒径X50が、ISO13320:1999により測定して最大11μmである、請求項
1から請求項4までのいずれか1項に記載された鉄基粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品の粉末冶金的製造を目的とした鉄基粉末に関するものである。さらに、本発明は、この鉄基粉末の製造方法、およびこの鉄基粉末から部品を製造する方法、およびそれにより製造される部品にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業界では、鉄基粉末組成物を圧縮および焼結することによって製造される金属製品の使用がますます普及している。これらの金属製品の品質要求は連続的に引き上げられる結果、改良された特性を有する新しい粉末組成物が開発され続けている。密度の他に、最終的な焼結製品の最も重要な特性の1つは寸法変化であり、とりわけそれは一定でならない。最終製品の径のばらつきに関する問題は、しばしば、圧縮される粉末混合物の不均質性に由来する。そのような不均質性は、最終的な部品の機械的特性のばらつきにもつながる。これらの問題の原因は、径、密度、および形状が異なる粉末成分を含む粉末混合物で、粉末組成物の取り扱い中に偏析が生じることが特に顕著である。この偏析は、粉末組成物が不均一に構成されることを意味し、これは次には、粉末組成物でできた部品がその製造中に寸法変化のばらつきを示し、最終製品の特性がばらつくことを意味する。他の問題は、微粒子(特に、黒鉛などの密度の低い微粒子)が、粉末混合物の取り扱いにおいて粉塵を発生させることである。
【0003】
粒子の大きさの差は、粉末の流動特性、すなわち自由流動性粉末として挙動する粉末の能力にも問題を生じる。流動性が損なわれると、粉末を金型に充填する時間が増加し、それは生産性の低下、および圧縮部品の密度および組成のばらつきの危険性の増大を意味し、焼結後に許容できない変形を引き起こす可能性がある。
【0004】
粉末組成物に種々の結合剤および潤滑剤を添加することによって上記の問題を解決する試みがなされている。結合剤の目的は、合金成分などの添加物の小さい径の粒子を主要成分金属粒子の表面にしっかりと効果的に結合させることであり、その結果、偏析および粉塵の問題を低減させる。潤滑剤の目的は、粉末組成物の圧縮中の内部摩擦および外部摩擦を減少させ、また排出力(すなわち、最終的に圧縮された製品を金型から取り出すのに必要な力)を低減させることである。
【0005】
圧縮および焼結による部品の製造のために最も一般的に使用される粉末組成物は、鉄、銅、および黒鉛としての炭素を粉末形態で含有する。また、通常は粉末状の潤滑剤も添加される。銅の含有量は通常組成物の1~5重量%であり、黒鉛の含有量は0.3~1.2重量%であり、潤滑剤の含有量は通常1重量%未満である。
【0006】
黒鉛としての合金元素の炭素は、通常、粉末中に別個の粒子として存在し、これらの粒子は、偏析および粉塵を避けるために、粗い低炭素含有鉄粉末または鉄基粉末の表面に結合され得る。鉄または鉄基粉末中に予め合金化された元素として炭素を添加する、すなわちアトマイズ前に溶融物中に添加する選択肢は、そのような高炭素含有鉄または鉄基粉末が硬すぎて圧縮が極めて困難であるため、代替にはならない。
【0007】
合金元素銅は、元素の形で粉末として添加されてもよく、場合によっては結合剤によって鉄または鉄基粉末に結合されてもよい。しかしながら、例えば、銅の偏析および銅粉塵を回避するためのより効率的な代替案は、部分的に合金の銅粒子を鉄または鉄基粉末の表面へ拡散接合することである。この方法により、鉄または鉄基粉末の硬さの許容できない増加が回避され、さもなければ、銅が鉄または鉄基粉末に完全に合金化され、予備合金化されることが許容される場合の結果となるであろう。
【0008】
銅が鉄または鉄基粉末の表面に拡散接合している拡散接合粉末は、何十年にもわたって知られている。GB1162702,1965(Stosuy)(特許文献1)には、粉末を調製する方法が開示されている。このプロセスにおいて、合金化元素は、鉄粉末粒子に部分的に合金化されて拡散接合される。合金化されていない鉄粉末は、融点以下の温度の還元性雰囲気中で、銅およびモリブデンなどの合金元素とともに加熱され、粒子の部分的な合金化および凝集を引き起こす。完全な合金化の前に加熱を中止し、得られた凝集物を所望の大きさにすりつぶす。また、GB1595346,1976(Gustavsson)(特許文献2)は拡散接合粉末を開示している。粉末は、鉄粉末と銅粉末または容易に還元可能な銅化合物との混合物から調製される。この特許出願は、10重量%の拡散接合銅の含有量を有する鉄-銅粉末を開示している。この主粉末を純鉄粉末で希釈し、粉末組成物中の得られる銅含有量は、粉末組成物のそれぞれ2重量%、3重量%である。
【0009】
種々の銅含有拡散接合鉄または鉄基粉末を開示する他の特許文献の例は、JP3918236B2(Kawasaki)(特許文献3)、JP63-114903A(Toyota)(特許文献4)、JP8-092604(Dowa)(特許文献5)、JP1-290702(Sumitomo)(特許文献6)である。
【0010】
特許文献3には、酸素含有量が0.3~0.9%で炭素含有量が0.3%未満のアトマイズ鉄粉末を、20~100μmの平均粒子径を有する粗い金属銅粉末に混合した拡散接合粉末を製造するための製造方法が記載されている。
【0011】
特許文献4は、その表面に拡散接合した銅の粒子を有する予備合金化鉄粉末からなる高圧縮性金属粉末を開示している。予備合金化された鉄粉末は、重量%で0.2~1.4%のMo、0.05~0.25%のMn、および0.1%未満のCで構成される。予備合金化鉄粉末を、予備合金化鉄粉末の重量平均粒径の最大1/5の重量平均粒径を有する銅粉末または酸化銅粉末と混合し、混合物を加熱して、銅粒子を予備合金化鉄粉末に拡散接合させる。得られた拡散接合粉末の銅含有量は、0.5~5重量%である。
【0012】
特許文献5には、粒径最大5μmで比表面積が10m2/g以上のフィン状の酸化銅粉末を鉄含有粉末と混合した拡散接合銅含有鉄粉末を製造するための製造方法が記載されている。酸化銅粉末と鉄含有粉末との間の混合物をさらに700~950℃の温度で還元雰囲気にさらして、鉄粉末表面上に金属銅を還元して、10~50重量%の含有量でその結果拡散接合粉末を析出させる。
【0013】
特許文献6には、合金元素としてニッケルを使用する必要なしに、高強度、高靭性、および優れた寸法安定性を有する緻密化および焼結された部品の製造に使用するのに適した、良好な圧縮性を有する拡散合金鉄粉末が開示されている。拡散合金粉末は、アトマイズ鉄粉末と酸化鉄粉末とを鉄粉末の2~35重量%の量で混合し、銅粉末および任意でモリブデン粉末を混合することによって製造される。この混合物に還元熱処理プロセスを施すことにより、合金元素と還元酸化鉄とがアトマイズ鉄粉末の表面に拡散接合される。得られた拡散接合粉末中の銅の量は、0.5~4重量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】英国特許第1162702号明細書
【文献】英国特許第1595346号明細書
【文献】特許第3918236号公報
【文献】特開昭63-114903号公報
【文献】特開平8-092604号公報
【文献】特開平1-290702特開平
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
プレス部品及び焼結部品を製造するための費用効果の高い拡散接合銅含有鉄粉末を見出すために多くの試みがなされているが、コスト及び性能の点でそのような粉末を改良する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、鉄粉末粒子の表面に拡散接合された銅粒子が1~5重量%、好ましくは1.5~4重量%、最も好ましくは1.5~3.5重量%を有する鉄粉末からなる新たな拡散接合粉末を開示している。また、本発明は、拡散接合粉末の製造方法、並びに新たな拡散接合粉末からできた部品の製造方法および製造された部品を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
鉄粉末
拡散接合粉末を製造するために使用される鉄粉末は、アトマイズ鉄粉末であり、好ましい一実施形態では、酸素含有量が0.3~1.2%、好ましくは0.5~1.1重量%、炭素含有量が0.1~0.5重量%である。一実施形態では、酸素含有量は0.5~1.1重量%であり、炭素含有量は0.3重量%を超えて0.5重量%までである。鉄溶湯を水アトマイズすると、経済的に酸素と炭素のより高い含有量が可能になり、そのため、本実施形態は生産的な経済的観点から好ましい。
【0019】
代替の一実施形態では、酸素含有量は最大0.15重量%であり、炭素含有量は最大0.02重量%である。
【0020】
この酸素含有量を有する鉄粉末を使用することにより、驚くべきことに、拡散接合-還元熱処理プロセス後の銅粒子の鉄粉末への付着が著しく改善されることが示された。
【0021】
鉄粉の最大粒子径は、通常は250μmであり、少なくとも75重量%は150μm未満である。最大30重量%が45μm未満である。粒子径は、ISO4497 1983に準拠して測定された。
【0022】
Mn、P、S、NiおよびCrなどの他の不可避的不純物の合計含有量は、最大1.5重量%である。
【0023】
銅含有粉末
拡散接合粉末を製造するために使用される銅含有粉末は、酸化第一銅(Cu2O)または酸化第二銅(CuO)であり、好ましくは酸化第一銅が使用される。銅含有粉末は、ここでは粒子の少なくとも90%が最大粒径未満であると定義される最大粒径X90が22μmであり、重量平均粒子径X50は最大15μm、好ましくは最大11μmであり、ISO 13320:2003に準拠したレーザー回折計で決定される。
【0024】
拡散接合粉末
鉄粉末は、拡散接合粉末中の銅の最終含有量を得るような割合で銅含有粉末と混合される。粉末を完全に混合した後、混合物は、銅含有粉末を金属銅に還元し、同時に銅が鉄粉末中に部分的に拡散可能となるのに十分な時間および温度で、大気圧で水素を含む還元雰囲気中で還元熱処理プロセスに付される。通常は、保持温度は、20分間~2時間、800~980℃である。還元熱処理プロセスの後に得られる材料は、緩く結合したケーキの形態であり、冷却ステップの後に、粉砕または穏やかにすりつぶされ、その後、最終粉末を分級する。得られた拡散接合粉末の最大粒径は250μmであり、少なくとも75重量%が150μm未満である。最大30重量%が45μm未満である。粒径は、ISO4497 1983に準拠して測定された。
【0025】
新たな粉末中の酸素含有量は、最大0.16重量%であり、他の不可避的不純物の量は、最大1重量%である。
【0026】
ISO 3923:2008に準拠して測定された新たな粉末ADの見かけの密度は、十分に高いグリーン体密度を得て、結果として部品の製造時に十分に高い焼結密度を得るために、少なくとも2.70g/cm3である。
【0027】
拡散接合粉末は、SSF法で測定した場合、最大2のSSF因子を有する鉄基粉末への銅の結合度を有することによって特徴付けられる。また、驚くべきことに、新たな粉末の製造に使用される鉄粉の酸素含有量が0.3~1.2重量%であるとき、SSF因子は最大1.7であることが示された。
【0028】
SSF法は、ここでは、拡散接合粉末を45μm未満の粒径を有する1つの部分と、45μm以上の粒径を有するもう1つの部分との2つの部分に分離することによって鉄または鉄基粉末への銅の結合度を決定する方法として定義される。この分離は、45μm標準ふるい(325メッシュ)で行うことができる。ISO 4497:1986に準拠した手順は、45μmの1つのふるいのみが使用されることを条件として行うことができる。45μmのふるいを通過するより微細な部分の銅含有量と45μmのふるいを通過しないより粗い部分の銅含有量との間の割合(quotation)は、値、結合度、またはSSF因子を与える。
【0029】
SSF因子=より微細な部分(~45μm)中の重量%Cu/より粗い部分(45μm以上)中の重量%Cu。
【0030】
部分中の銅含有量は、少なくとも2桁の精度を有する標準的な化学的方法によって決定される。
【0031】
新しい粉末の別の特徴は、それぞれ個々の部品内ならびに部品間の公称銅含有量のばらつきを最小限に抑えることによって特徴付けられる焼結部品の製造を可能にすることである。これは、特定の製造条件で製造された焼結部品の断面における最大銅含有量が、公称銅含有量よりも最大で100%高いものとしなければならないと表現することができる。
【0032】
銅含有量、最大および最小銅含有量、孔径および孔面積のばらつきを測定するための試料は、以下のように調製される。
本発明に係る銅含有拡散接合粉末を、ISO 13320:1999に準拠したレーザー回折で測定した最大15μmの粒子径X90を有する0.5%の黒鉛、および国際公開第2010-062250号に記載された0.9%の潤滑剤と混合する。得られた混合物を、ISO 2740:2009に準拠した引張強度試料(TS棒)の製造用の圧縮金型に搬送し、600MPaの圧縮圧力に付す。圧縮された試料は、その後、圧縮金型から排出され、90%窒素/10%水素の雰囲気中、大気圧下、1120℃で30分間焼結プロセスに付される。
【0033】
最大銅含有量は、焼結された部品の断面、すなわち、焼結されたTS棒の最長延長部に垂直な断面において、エネルギー分散分光法(EDS)用のシステムを備えた走査型電子顕微鏡(SEM)内でライン走査によって測定される。倍率は130倍、作動距離は10mm、走査時間は1分である。
【0034】
上記の方法で測定した最大銅含有量は、公称銅含有量よりも最大100%高いラインに沿った任意の点にある。驚くべきことに、新しい粉末の製造に使用される鉄粉末の酸素含有量が0.3~1.2重量%の間にある場合、上記の方法によって測定された最大銅含有量は、ラインに沿った任意の点において公称銅含有量よりも最大80%高く、測定は0%の銅を示さない。
【0035】
銅含有量の上記のばらつきの代わりに、またはこれに加えて、新しい粉末の特徴的な特徴化は、最大孔の最大径を示すことによって特徴付けられる焼結部品の製造を可能にすることである。これは、前述したように特定の製造条件で製造された焼結部品の断面における最大孔面積は最大4000μm2であるものとして表現することができる。
【0036】
孔径分析は、デジタルビデオカメラおよびコンピュータベースのソフトウェアの助けによって100倍の倍率で光学顕微鏡(LOM)上で実行される。総測定面積は26.7mm2である。ソフトウェアは白黒モードで動作しており、黒い領域が孔に等しい「測定領域における黒色領域の検出」を使用して孔を検出する。
【0037】
以下の定義が適用される。
最大孔長さ:フィールド内のすべての孔の最大長さ。
最大の孔面積:フィールド内で測定された孔の中で最大の孔の面積。
【0038】
焼結部品の製造
圧縮前に、拡散接合粉末を、潤滑剤、黒鉛、および機械加工性向上添加剤などの様々な添加剤と混合する。
【0039】
従って、本発明に係る鉄基粉末組成物は、本発明に係る拡散接合粉末を10~99.8重量%と、任意で最大1.5重量%の黒鉛を含有するか、またはそれらからなり、黒鉛が存在する場合にはその含有量が0.3~1.5重量%、好ましくは0.15~1.2重量%であり、0.2~1.0重量%の潤滑剤および最大1.0重量%の切削性向上添加剤を含み、残部が鉄粉末である。
【0040】
一実施形態では、本発明に係る鉄基粉末組成物は、本発明に係る拡散接合粉末を50~99.8重量%と、任意で最大1.5重量%の黒鉛を含有するか、またはそれらからなり、黒鉛が存在する場合にはその含有量が0.3~1.5重量%、好ましくは0.15~1.2重量%であり、0.2~1.0重量%の潤滑剤および最大1.0重量%の切削性向上添加剤を含み、残部が鉄粉末である。
【0041】
添加剤の添加および混合後、得られた混合物を少なくとも400MPaの圧縮圧力で圧縮プロセスに付し、その後に排出されるグリーン体部品を中性または還元雰囲気中で約1050~1300℃の温度で10~75分間焼結する。焼結工程の後には、表面焼入れ、無心焼入れ、高周波焼入れ、またはガス焼入れまたは油焼入れを含む焼入れプロセスなどの焼入れ工程を続けてもよい。
【実施例】
【0042】
実施例1
表1に係る鉄粉末と表2に係る銅含有粉末とを、後で得られる拡散接合粉末中に3%の銅含有量を生じるのに十分な量で混合することによって、様々な拡散接合粉末を製造した。得られた混合物を還元雰囲気中で900℃の温度で60分間還元熱処理プロセスに付した。還元熱処理プロセス後、得られたゆるく焼結したケーキを、最大粒径250μmの粉末に穏やかに粉砕した。
【0043】
以下の表は、使用された原材料を示す。
【表1】
【表2】
【0044】
得られた拡散接合粉末を、使用した原料の種類に応じて、ac、bc、bd、be、ad、aeとした。
【0045】
本発明に係る拡散接合された粉末のSSF因子の決定は、本明細書に記載の方法に従って実施した。以下の表3の結果が得られた。
【表3】
【0046】
最大孔径、最大孔面積、および銅のばらつきを測定するための試料を、本明細書の手順に従って調製した。
【0047】
最大銅含有量は、日立SU6600タイプのFEG-SEMを用いて測定した。EDSシステムは、Bruker AXSによって製造された。
【0048】
試験片を真空チャンバに挿入し、作動距離を10mmに調整した後、可能な限り低い倍率130倍を使用するように電子線をアライメントさせた。狭い走査線ができるだけ少ない孔に選択された(深い孔は重要な光子を捕捉する可能性がある)。走査時間は1分に設定した。
【0049】
【0050】
孔径分析は、デジタルビデオカメラおよびコンピュータベースのソフトウェアのLeica QWinを用いて倍率100倍で、光学顕微鏡(LOM)上で実施した。「最大孔測定」と呼ばれるソフトウェアのモジュールを使用した。全測定面積は、24の測定フィールドに対応する26.7mm2である。
【0051】
全ての試験片は、水平プレス方向及び断面方向の横方向ステッピングで測定された。
【0052】
ソフトウェアは白黒モードで動作され、黒い領域が孔に等しい「測定領域における黒色領域の検出」を使用して孔を検出した。
【0053】
【0054】
表4から、本発明に係る拡散接合粉末から製造された部品は、比較例と比較してより小さい最大孔面積を示し、銅含有量のばらつきがより少ないことを示していると結論付けることができる。本発明に係る拡散接合粉末を製造するために酸素含有量がより高い鉄粉末を使用する場合、酸素含有量が低い鉄粉末(ac-bc)を使用する場合に比べて銅含有量のばらつきが少ないとさらに結論付けることができる。
【0055】
実施例2
4つの異なる鉄基粉末組成物は、4つの異なる銅含有粉末を、スウェーデンのヘガネス社(ホガナス社、Hoganas AB)から入手可能なアトマイズ鉄粉末ASC100.29を有する金属粉末組成物中の2重量%の銅、イメリスグラファイトアンドカーボン(Imerys Graphite&Carbon)製の0.5%の合成黒鉛F10、および国際公開第2010-062250号に記載された0.9%の潤滑剤に対応する添加剤に混合することによって調製された。
【0056】
使用した銅含有粉末は以下のものであった。
・実施例1に係る拡散接合粉末ac。
・スウェーデンのヘガネス社から入手可能なDistaloy(登録商標)ACu。Distaloy(登録商標)ACuは、鉄粉の場合、表面に10%の銅が拡散接合された鉄粉である。
・Cu-200、表2に記載されている元素Cu粉末。
・Cu-100、表2に記載されている元素Cu粉末。
【0057】
以下の表5は、使用された銅含有粉末および金属粉末組成物中の成分の含有量を示す。
【表5】
【0058】
鉄基粉末組成物を、ISO3928に準拠して700MPaで試験棒に圧縮した。圧縮後、射出されたグリーン体試験棒を、90/10 N2/H2の雰囲気中、1120℃の温度で30分間焼結し、周囲温度に冷却した。その後、試験棒を860℃で30分間カーボンポテンシャル0.5%の雰囲気で硬化させ、続いて油で急冷した。
【0059】
熱処理された試験棒を、R=-1の疲労強度について、MPIF規格56に準拠して2×106サイクルの逃し限界で試験した。耐久限界は、残存確率50%に決定された。
【0060】
【0061】
表6は、本発明に係る拡散合金粉末を含有する鉄基粉末混合物から製造された試料は、元素銅粉末を含有する鉄基粉末混合物または既知の銅含有拡散接合粉末から製造された試料と比較して、疲労強度の増加を示している。