(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】医療用途における空気流または他の気体流を濾過するための疎水性フィルタ
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20220729BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20220729BHJP
【FI】
A61M1/00 170
B01D46/00 E
B01D46/00 F
(21)【出願番号】P 2019527237
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2018052532
(87)【国際公開番号】W WO2018158028
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-11-19
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519173967
【氏名又は名称】フレセニウス ヘモケア イタリア ソチエタ・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】ザンビアンキ,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェッリ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】ラディギエリ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】ムラス,ジュゼッペ
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102580448(CN,A)
【文献】米国特許第05390668(US,A)
【文献】特開2007-130290(JP,A)
【文献】米国特許第04459139(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
B01D 46/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用途において空気流(A)または他の気体流を濾過するための疎水性フィルタであって、
フィルタ室(130)を取り囲み、底部(131)と頂部(132)を含むハウジング(13)と、
前記ハウジング(13)上に配置され、入口開口部(100)を形成する入口ポート(10)と、
前記ハウジング(13)上に配置され、出口開口部(110)を形成する出口ポート(11)と、
延長面(E)に沿って前記ハウジング(13)の前記底部(131)から前記ハウジング(13)の前記頂部(132)まで延在し、フィルタ室(130)を入口室(133)と出口室(134)とに分離する疎水性構造体(12)を含む濾過媒体とを備え、
前記入口開口部(100)は前記入口室(133)内に開口し、前記出口開口部(110)は前記出口室(134)内に開口し、
前記出口開口部(110)は、前記延長面(E)に沿って見る時、前記出口室(134)に第1の位置において開口し、前記入口開口部(100)は前記延長面(E)に沿って見る時、前記第1の位置とは異なる第2の位置において前記入口室(133)内に開口し、
前記出口開口部(110)は、前記空気流(A)又は他の気体流を前記フィルタ室(130)の外に水平方向(H)に沿って案内するために前記延長面(E)に対して垂直に向けられた水平方向(H)に沿って延び、
前記入口開口部(100)は、前記空気流(A)又は他の気体流をフィルタ室(130)内に鉛直方向(V)に沿って案内するために前記延長面(E)に対して平行に向けられた鉛直方向(V)に沿って延びており、
前記入口室(133)は、前記入口開口部(100)を通って前記フィルタ室(130)内に入る前記空気流又は他の気体流の向きを、前記鉛直方向(V)から前記水平方向(H)に変えて前記濾過媒体に向けるように構成された案内面(144A)を含む入口構造体(144)を備える、医療用途において空気流(A)または他の気体流を濾過するための疎水性フィルタ(1)。
【請求項2】
前記入口室(133)は、前記ハウジング(13)の底部(131)に凝縮液(C)を収集するための収集室(135)を形成することを特徴とする、請求項1に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項3】
前記入口室(133)は、前記疎水性構造体(12)から離れる方向を向くテーパー状のテーパー構造体(143)を備え、前記テーパー構造体(143)は収集室(135)形成することを特徴とする、請求項2に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項4】
前記入口構造体(144)は、前記疎水性構造体(12)とは反対側で前記テーパー構造体(143)に隣接し、前記入口ポート(10)は前記入口構造体(144)上に配置されていることを特徴とする、請求項
3に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項5】
前記案内面(144A)は湾曲し、
前記入口構造体(144)は、前記案内面(144A)に対してある角度で延びる平坦面(144B
)を備え、前記入口ポート(10)は、前記平坦面(144B)上に配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項6】
前記入口室(133)は、前記底部(131)の近くに前記収集室(135)を形成するように前記底部(131)に向かって広がることを特徴とする請求項2から請求項5までのいずれか一項に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項7】
前記収集室(135)は、前記疎水性構造体(12)の底端部の下に延びることを特徴とする、請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項8】
前記入口室(133)は、前記入口室(133)から凝縮液(C)を排出するための排出口(16)を備えることを特徴とする、請求項1から請求項
7までのいずれか一項に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項9】
前記ハウジング(13)は、その上に前記入口ポート(10)が形成されている第1のハウジング部材(14)と、その上に前記出口ポート(11)が形成されている第2のハウジング部材(15)とを備え、前記第1のハウジング部材(14)は、第1のクランプ部(141)を含み、前記第2のハウジング部材(15)は第2のクランプ部(151)を含み、前記疎水性構造体(12)は前記第1のクランプ部(141)と前記第2のクランプ部(151)との間に挟持されていることを特徴とする、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項10】
前記第1のハウジング部材(14)は、前記入口開口部(100)に向かう前記疎水性構造体(12)の変形を支持するための複数のリッジ(142A)によって形成された第1の支持構造体(142)を備えることを特徴とする、請求項9に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項11】
前記第2のハウジング部材(15)は、前記出口開口部(110)に向かう前記疎水性構造体(12)の変形を支持するための複数のリッジ(142A)によって形成された第2の支持構造体(152)を備えることを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項12】
前記出口開口部(110)を横切って延びる少なくとも1つの支持部材(153)を特徴とする、請求項9から請求項11までのいずれか一項に記載の疎水性フィルタ(1)。
【請求項13】
少なくとも2つの支持部材(153)が前記出口開口部(110)を横切って延び、互いに交差することを特徴とする、請求項12に記載の疎水性フィルタ(1)。
【発明の詳細な説明】
【説明】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載の医療用途において空気流または他の気体流を濾過するための疎水性フィルタに関する。
【0002】
この種の疎水性フィルタは、フィルタ室を取り囲むハウジングと、ハウジング上に配置されて入口開口部を形成する入口ポートと、ハウジング上に配置されて出口開口部を形成する出口ポートと、例えば、延長面に沿って延び、フィルタ室を入口室と出口室とに分離する疎水性膜の疎水性構造体を含む多孔質ろ過媒体とを含み、入口開口部は入口室に開口し、出口開口部は出口室に開口する。
【0003】
この種の疎水性フィルタは、例えば、自己輸血システムと関連して使用され得る。本明細書では、負圧ポンプ、例えば真空ポンプを使用して、ポンプによってリザーバ内に負圧を生じさせ、そして患者の手術部位からリザーバ内に血液を吸引することによって、血液をリザーバ内に収集することができる。本明細書の疎水性フィルタは、液体および破片がポンプに向かって運ばれるのを避け、ポンプの損傷を防いで空気流をポンプに向かって流すために、ポンプに貯留部を接続する負圧ライン上で使用される。
【0004】
動作中、空気はフィルタを通って引き込まれ、その空気は、入口ポートを通ってフィルタ室に入り、例えば膜の形状の疎水性構造体を通過し、出口ポートを通ってポンプに向かってフィルタ室から出る。疎水性構造体は、空気または他の気体を通過させるが、水または他の水溶液が構造体を通過するのを防ぐように設計されている。それ故、空気流は、液体又は破片がポンプに入らないように濾過される。
【0005】
手術中、自己輸血システムは数時間にわたって継続的に使用され得る。長時間の運転中に、疎水性フィルタ内で凝縮が起こり、凝縮液(および他の液体または粒子、以下では単に凝縮液と呼ぶ)がフィルタの入口室内に集まることがある。そのような凝縮液が入口室をかなりの程度まで満たすと、凝縮液は空気がフィルタを通過するのを妨げる可能性があり、フィルタのさらなる使用を妨げるプラグのように作用する可能性がある。これが手術中に発生した場合、フィルタを交換する必要があり得るが、それは避けられるべきである。
【0006】
本発明の目的は、入口室内に凝縮液が発生する可能性があるにも関わらず使用可能なままである疎水性フィルタを提供することである。
【0007】
この目的は請求項1の特徴を含むフィルタによって達成される。
【0008】
したがって、出口開口部は、延長面に沿って見たときに第1の位置で出口室に開口し、入口開口部は、延長面に沿って見たときに第1の位置とは異なる第2の位置でフィルタ室に開口する。
【0009】
特に、ハウジングは底部と頂部とを含み、第2の位置は第1の位置に対して頂部に向かって変位する。
【0010】
例えば自家輸血システムで使用される場合、フィルタは例えば規定された位置でシステムに接続され、フィルタのハウジングの底部は上部よりも低い位置に配置される。入口開口部は、第1の位置に対して上部に向かって変位している第2の位置で入口室に開口しているので、空気が入口開口を通って入口室内に入り、そして、疎水性構造体を備えるろ過媒体を通過して出口室に流れるのを凝縮液体が妨げないように、凝縮液体は入口開口部の下の入口室に集まり、したがって入口室内の凝縮液の収集にもかかわらず、フィルタは機能し続ける。
【0011】
一実施形態では、第1の位置は、対称軸が疎水性構造体の延長面を横切る位置と位置合わせされてもよい。第2の位置は、延長面に沿って、特に頂部に向かって見たときに、第1の位置に対してずれている。
【0012】
出口開口部が出口室に開口する位置とは異なる位置(疎水性構造体の延長面に沿って見たとき)で入口開口部を入口室に入るようにすることによって、フィルタは、濾過操作の妨害が起こる前に、ある量の凝縮液が入口室に集められ得るように設計され得る。特に、入口室は、凝縮液を収集するための入口室内の利用可能な容積が、長期間の手術にわたって合理的に予想され得る量で凝縮液を受容するのに十分であるように設計され得る。
【0013】
別の態様では、入口室は、ハウジングの底部の領域にかなりの量の凝縮液を集めるのに適した収集室を形成するように設計することができる。
【0014】
第1の実施形態では、入口室は、疎水性構造体から離れる方向に向かって先細になっているテーパー構造体を含んでもよく、テーパー構造体は収集室を形成する。テーパー構造体は、入口室が相当量の凝縮液を集めるのに十分な大きさの容積を含むように、例えばピラミッド形状または円錐形状(円錐軸が疎水性構造体の延長面に対して垂直に向けられている円錐形状)を有することができる。テーパー構造体は、疎水性構造体の実質的な領域を塞ぐことなく、したがって疎水性フィルタの濾過性能に実質的な影響を与えることなく、凝縮液を入口室の底部に集めることができるように入口室の容積を増大させる働きをする。
【0015】
一実施形態では、入口室は、疎水性構造体とは反対側を向いている側でテーパー構造体に隣接する入口構造体を含むことができる。本明細書における入口ポートは、例えば入口構造体上に形成され、疎水性構造体から実質的に(延長面に垂直な方向に沿って)離れた位置で入口室内に開口しており、入口構造体は、例えば膜の疎水性構造体を効率的に出口ポートに向かって通過させるように、空気が有益に流れ込むように、形成され得る。
【0016】
一実施形態では、入口構造体は、空気を入口室内に案内するように形成された湾曲案内面を含むことができる。平坦面は案内面に対して例えば90°の角度で延びており、入口ポートは平坦面上に配置されている。よって、入口ポートを通って入口室内に入る空気は、案内面に衝突し、案内面によって疎水性構造体に向かって案内され、その結果、疎水性構造体に向かう有益な流れが生じる。
【0017】
別の実施形態では、入口室は底部に向かって広がり、底部の近くに収集室を形成することができる。例えば、疎水性構造体の延長面に垂直な垂直断面(底部から上部へ)で見たとき、入口室は多角形の形状を有することができ、ハウジングの後壁(構造体の反対側)は、ハウジングの底部の入口室がハウジングの頂部よりも実質的に広いように、頂部に向かって先細になっている。このようにして、ハウジングの底部にかなりの容積が入口室の側面に形成され、そのような容積はかなりの量の凝縮液を集めるのに適している。
【0018】
別の実施形態では、収集室は、それが疎水性構造体の底端部の下に延びるように入口室の側面に形成されてもよい。したがって、凝縮液は、フィルタの動作中に凝縮液が疎水性構造体の実質的な領域を塞がず、したがって濾過性能に影響を及ぼさないように、疎水性構造体の下の収集室内に収集することができる。
【0019】
別の態様では、排液ポートが入口室に設けられてもよい。排液ポートは、凝縮液が入口室から引き出され得るように、特にハウジングの底部の領域に形成されてもよい。入口室から凝縮液を排出することによって、かなりの量の凝縮液が入口室に集まったと同時に凝縮液を入口室から除去することができるという点で濾過性能を維持することができる。
【0020】
別の態様では、出口開口部は、水平方向に沿ってフィルタ室から空気流または別の気体流を案内するために、延長面に対して垂直に向けられた水平方向に沿って溝の形状で延びることができる。したがって、空気は、延長面に垂直な水平方向に沿って、したがって空気が例えば膜の形状の疎水性構造体を通過する方向に沿って、フィルタ室から出る。本明細書では、入口開口部は、延長面に対して平行に向けられ、したがって水平方向に対して横方向に向けられる鉛直方向に沿って溝の形態で延びることが提供され得る。したがって、空気は、水平方向とは異なる方向に沿って入口室内に案内される。これは、一方では、空気と共に運ばれる液体および粒子が入口室の底部に集まるように、空気をフィルタの入口室内に案内するのに有益であり得る。これはまた、自己輸血システムの状況において血液を収集するためにリザーバとフィルタとの間にラインを適切に敷設することができるために有益であり得る。
【0021】
ハウジングは、例えば溶接によって互いに接続され、それらの間に疎水性構造体を保持する2つの別々のハウジング部材によって形成することができる。入口ポートは、例えば第1のハウジング部材に配置されてもよく、出口ポートは第2のハウジング部材に配置される。例えば膜の形状の疎水性構造体は、構造体がクランプによってハウジング部材の間に保持されるように、第1のハウジング部材の第1のクランプ部と第2のハウジング部材の第2のクランプ部との間に挟持されてもよい。第1のハウジング部材または第2のハウジング部材のクランプ部は、疎水性構造体がハウジング部材間でその円周に沿って保持されるように、第1のハウジング部材または第2のハウジング部材の周縁に沿って円周方向に延びる。
【0022】
クランプに加えて、疎水性構造体を第1のハウジング部材および/または第2のハウジング部材に溶接することができる。
【0023】
別の局面では、第1のハウジング部材は、複数の隆起部によって形成された第1の支持構造体を含み得る。隆起部は、例えば、疎水性構造体の延長面に対して横方向に延在してもよく、第1のハウジング部材の後壁から疎水性構造体に向かって突出してもよい。
【0024】
同様に、第2のハウジング部材は、多数の隆起部によって形成された第2の支持構造体を含むことができ、隆起部は、例えば疎水性構造体の延長面に対して横方向に延び、第2のハウジング部材の後壁から疎水性構造体に向かって突出する。
【0025】
各支持構造体は、構造体の引き裂きを防ぐために、過度の変形に対して疎水性構造体を支持するのに適している。
【0026】
特に、第1のハウジング部材の第1の支持構造体は、入口ポートに向かって疎水性構造体上に逆の吸引力が生じる場合に、疎水性構造体を支持する。このような吸引力が生じると、疎水性構造体が第1の支持構造体と当接することになり、疎水性構造体の過度の変形が防止される。
【0027】
次に、第2のハウジング部材の第2の支持構造体は、フィルタの通常の動作中に出口開口部に向かって疎水性構造体が過度に変形するのを防ぐのに役立つ。特に、出口ポートへの吸引力が存在する場合、疎水性構造体は、出口開口部への疎水性構造体の過度の変形が防止されるように、第2の支持構造体と当接することがある。
【0028】
別の局面では、第2の支持構造体に加えてまたはその代わりに、少なくとも1つの支持部材が出口開口部を横切って延びてもよい。少なくとも1つの支持部材は、例えば、疎水性構造体の延長面と平行に(出口室から空気を導くための溝によって形成される)出口開口部を横切って延びるビームの形状を有することができる。例えば、一実施形態では、ビーム形状の多数の支持部材が出口開口部を横切って延びてもよく、交差構造体が出口開口部を横切って形成されるように互いに交差してもよい。このようにして、出口開口部の位置における疎水性構造体の過度の変形を防止することができ、疎水性構造体は1つまたは複数の支持部材によって出口開口部の位置において支持される。少なくとも1つの支持部材によって、出口開口部の位置での疎水性構造体のための追加の支持体が提供され、したがって、出口開口部の位置での疎水性構造体の裂けの危険性が減少する。
【0029】
出口開口部を横切って延びる少なくとも1つの支持部材の提供は、それ自体で使用され得る独創的な概念を表し得る。
【0030】
特に、医療用途において空気流または他の気体流を濾過するための疎水性フィルタは、フィルタ室を取り囲むハウジングと、ハウジング上に配置されかつ入口開口部を形成する入口ポートと、ハウジング上に配置されかつ形成する出口ポートと、延長面に沿って延びてフィルタ室を入口室と出口室とに分ける疎水性構造体を備え得、入口ポートは入口室内に開口し、出口ポートは出口室内に開口する。本明細書では、フィルタは、出口開口部を横切って延びる少なくとも1つの支持部材を含む。
【0031】
前述のフィルタは、上述のような特徴の一部または全部と適切に組み合わせることができる。
【0032】
一実施形態では、出口開口部は、疎水性構造体に向かう方向に先細になっていてもよい。一般に、フィルタのハウジングを形成するハウジング部材は、例えば射出成形技術などの成形技術を使用して、例えば剛性部品として適切なプラスチック材料から形成することができる。ここで、第2のハウジング部材の出口開口部が出口室に開口する位置に少なくとも1つの支持部材を製造することを可能にするために、第2のハウジング部材の製造中に、フィルタの組み立て時に疎水性構造体が配置されるべき第2のハウジング部材の側面とは反対側を向く方向に成形工具を第2のハウジング部材から取り外すことができるような円錐形を有する出口開口部(出口室の外に流れを案内するための溝を形成している)を設けることができる。これにより、第2のハウジング部材を製造するときに射出成形によって出口開口部を横切って少なくとも1つの支持部材を形成することが可能になる。逆円錐性は、出口開口部を横切って少なくとも1つの支持部材を形成することを含む、第2のハウジング部材の射出成形を可能にする。
【0033】
上記の疎水性フィルタは、例えば、再輸血のために血液を処理するために患者の手術部位から血液を集めるための自己輸血システムにおいて使用されてもよい。しかしながら、疎水性フィルタは、空気または他のガス流が濾過されるであろう他の医療用途においても使用され得る。
【0034】
一実施形態では、濾過媒体は、単一の層から、または同じ材料もしくは異なる材料の複数の層の積み重ねから製造された、例えば膜または他の任意の多孔質構造体の形状に製造されたシート状の多孔質織物を含み得る。疎水性構造体は、当技術分野において公知の任意の適切な材料から製造され得る。疎水性フィルタ布は、例えばPTFE材料から製造することができるが、他の材料も考えられる。
【0035】
本明細書の文脈における疎水性は、濾過媒体が水をほとんどまたは全く吸着しない傾向として理解されるべきである。親水性濾過媒体は水に対して親和性を示しそして水を容易に吸着するが、疎水性濾過媒体は親水性物質と比較して水相互作用に対して反対の応答を有する。疎水性材料は、水を吸着する傾向がほとんどまたは全くなく、水はそれらの表面に玉状になる傾向がある(すなわち、別々の液滴を形成する)。疎水性材料は一般に低い表面張力値を有しそしてそれらの表面化学において水との「水素結合」の形成のための活性基を欠いている。したがって、水または他の水溶液は、一般に濾過媒体の疎水性構造体を通過できず、そのため、水または他の水溶液、さらにはデブリ粒子などがフィルタによって遮断され、空気または他の気体流が濾過される。
【0036】
本発明の基礎をなす概念は、図面に示された実施形態を参照して、後でさらに詳細に説明される。
【0037】
図1は、自己輸血システムの概略図を示す図である。
図2は、疎水性フィルタの第1の実施形態の図を示す図である。
図3は、疎水性フィルタの実施形態の別の図を示す図である。
図4は、疎水性フィルタのハウジング部材の断面図を示す図である。
図5は、疎水性フィルタの第1のハウジング部材の中の図を示す図である。
図6は、疎水性フィルタの第2のハウジング部材の中の図を示す図である。
図7は、疎水性フィルタの第2のハウジング部材を形成するための成形型の概略図を示す図である。
図8は、疎水性フィルタの別の実施形態の概略図を示す図である。
図9は、
図8に従ったフィルタの断面図を示す図である。
図10は、疎水性フィルタの別の実施形態の概略断面図を示す図である。
図11は、疎水性フィルタの別の実施形態の概略図を示す図である。
図12は、疎水性フィルタのさらに別の実施形態の概略図を示す図である。
図13は、当技術分野において公知の疎水性フィルタを示す図である。
図14は、
図13によるフィルタの断面図を示す図である。
【0038】
図1は、例えば手術中に患者に再注入するために血液を処理するためにリザーバ2から血液Lを引き出すように構成された自己輸血システム5の概略図を示す。
【0039】
図1の実施形態内では、血液Lは、例えばライン200を介して患者の手術部位からリザーバ2内に引き込まれることができる。ライン50によって、リザーバ2内に集められた血液Lは連続的に分離洗浄室51内に引き込まれることができ、そこで、ライン52を介して患者に再注入するための赤血球の充填濃度を得るために、血液Lから不要な成分が除去される。輸血は、血液Lが患者から連続的に収集され、処理された血液成分を患者に再注入するために連続的に処理されるように、連続的に行われてもよい。
【0040】
ライン200は、リザーバ2のハウジング22上に配置された入口20に接続されている。リザーバ2のハウジング22内に負圧を生じさせることによってリザーバ2内に液体流Fが引き込まれ、それによって気流Aまたは別の気体流(以下、まとめて空気流と呼ぶ)がハウジング22のポート21に接続されているライン210によってハウジング22から引き込まれる。空気流Aは、例えば真空ポンプとして構成された負圧ポンプ3によって引き起こされ、この負圧ポンプ3は、ハウジング22からライン210を通り、ライン210に接続されたフィルタ1を通り、フィルタ1とポンプ3の間に延びるライン30を通り抜ける。
【0041】
ポンプ3は、ハウジング22から空気を吸い込む働きをする。空気流Aと共に液体または破片がポンプ3に向かって吸い込まれるのを防ぐために、フィルタ1は、フィルタ室130を入口室133と出口室134に分離する疎水性膜12の形状(以下、略して疎水性膜)の疎水性構造体を含む濾過媒体を有する疎水性フィルタとして構成される。入口ポート10がフィルタ1のハウジング13上に配置されて入口室133に開口しているのに対して、ハウジング13上に配置された出口ポート11は出口室134から出ている。ライン210は入口ポート10と流体接続しているのに対して、ポンプ3に向かって延びるライン30は出口ポート11と流体接続している。
【0042】
動作中、空気流Aはフィルタ1を通って連続的に引き込まれる。ここで、凝縮液Cは、入口室133内に現れる凝縮、ならびに空気流Aとともにライン210を流れるフィルタ1に向かって引き込まれる液体および破片のために、入口室133内で発生し得る。しかしながら、膜12の疎水性のために、液体および破片は液体12を通過しないかもしれないが、入口室133内に留まる。空気のみが膜12を通って引き込まれ、したがって液体または破片がポンプ3に向かって流れないように濾過される。
【0043】
図13および
図14に示すように、従来のフィルタ1は円形(
図13)を有することができ、入口ポート10と出口ポート11は、疎水性膜12が沿って延びる延長面Eに対して中心位置で互いに整列している。凝縮液Cが入口室133内に蓄積し、最終的に入口ポート10が入口室133内に開口する位置に達すると、凝縮液Cは空気が膜12を通って流れるのを妨げ、効率的な濾過操作を妨げる栓として作用する。これは、外科手術中に、特に外科手術が長期間(例えば、数時間)持続し、そして自己輸血システムが手術中に継続的に使用されることになる場合、問題を引き起こし得る。
【0044】
したがって、そうでなければ濾過性能に影響を及ぼす可能性がある凝縮液Cが濾過操作を妨げ、疎水性膜12のかなりの部分をブロックするのを防ぐことが望まれる。
【0045】
図2~
図6に示す疎水性フィルタ1の実施形態では、フィルタ1のハウジング13は、各ハウジング部材14,15の周りに円周方向に延びる接続構造体140,150に沿って互いに接続された2つのハウジング部材14,15から形成される。ハウジング部材14,15は、例えば接着または溶接によって互いに固定されてもよい。接続構造体140,115の半径方向内側で、各ハウジング部材14,15は、ハウジング部材14,15の周りに円周方向に延びるクランプ部141,151を含み、クランプ部141,151は、その間に疎水性膜12を受容するように構成される。疎水性膜12は、ハウジング部材14,15がフィルタ1を形成するように組み立てられるときに、ハウジング部材14,15の間に締め付け方式で保持される。組み立てられた状態において、疎水性膜12は、ハウジング13の内側のフィルタ室130を入口室133と出口室134とに分離する。
【0046】
入口ポート10は、ハウジング部材14のテーパー構造体143に隣接する入口構造体144上に配置されている。入口ポート10は、空気流Aが入口ポート10を通って入口室133に入り、疎水性膜12に向かって流れることができるように、入口室133への溝開口部の形状の入口開口部100を形成する。
図2から明らかなように、テーパー構造体143は、疎水性膜12から離れる方向に先細になっているピラミッド形状を有する。テーパー構造体143に隣接する入口構造体144は、湾曲形状を有する案内面144Aを含み、入口ポート10は、案内面144Aに対して約90°の角度で配置された平坦面144B上に配置される。入口開口部100は、疎水性膜12の延長面Eと平行に垂直方向V(
図4参照)に沿って延在するので、空気流Aは、垂直方向Vに入口開口部100を通って入口室133内に導かれ、湾曲案内面144Aによって疎水性膜12に向かって案内される。
【0047】
ハウジング部材15の出口ポート11は、疎水性膜12に対して中心位置に配置され、疎水性膜12の延長面Eに対して垂直な水平方向Hに沿って延びる溝の形状の出口開口部100を形成する。したがって、疎水性膜12を通過した空気は、
図1に概略的に示されるように、ライン30によって出口ポート11に接続されたポンプ3に向かって水平方向Hに沿って出口開口部110を通って出口室134から導かれる。
【0048】
図4に見られるように、入口開口部100は、出口開口部110に対してフィルタ1の頂部132に向かって変位した位置で入口室133に入る。ここで、疎水性膜12が垂直に配置され、ハウジング13の底部131がハウジング13の頂部132に対して下方に位置するように、フィルタ1が自己輸血システム5上の所定の位置に配置されることに留意されたい。
【0049】
入口開口部100は垂直方向Vに沿って延びるので、凝縮液Cが入口室133内の底部131に集められるように、空気が入口室133内に有益な方法で案内される。テーパー構造体133によって、収集室135は、入口室133内の底部131の領域にかなりの容積を有するように形成され、その結果、凝縮液Cが疎水性膜の過剰部分をブロックすることなく、凝縮液Cが入口開口部100に到達するように溜まることなく、かなりの量の凝縮液体Cを入口室133内に集めることができる。したがって、入口室133内に凝縮液Cが蓄積しているにもかかわらず、フィルタ1は、手術中の長期間の使用にわたって機能的なままであり得る。
【0050】
さらに、入口開口部100は垂直方向Vに沿って延びるので、ライン210は垂直方向Vに沿ってフィルタ1に近づくように敷設することができ、それによりライン210は空間効率の良い方法でフィルタ1に向かって延びることができる。
【0051】
さらに、入口ポート10がフィルタ1のハウジング13から著しく突出していないので、フィルタ1を包装内にしっかりと詰め込むことができる。
【0052】
図5および
図6に関連して
図2および
図3から明らかなように、フィルタ1の入口側を形成するハウジング部材14およびフィルタ1の出口側を形成するハウジング部材15の両方に支持構造体142,152が設けられており、各支持構造体142,152は、疎水性膜12の延長面Eに対して横方向に延びる複数の隆起部によって形成されている。特に、隆起部142A,152Aは、交互の正方形の配列を形成するように配置され、隣接する隆起部142A,152Aは、空気が隆起部142A,152Aを分離する隙間142Bを通って延長面Eと平行に流れるように、隙間142B,152Bによって互いに分離される。
【0053】
支持構造体142,152は、過度の変形に対して疎水性膜12を支持するのに役立つ。通常の動作中、疎水性膜12は、出口開口部110に向かって吸引力を受け、ハウジング部材15上の支持構造体152は、疎水性膜12のための支持体を形成する。逆の圧力が生じて入口開口部100に向かう吸引力がもたらされると、今度は疎水性膜12がハウジング部材14の支持構造体142と当接して、それぞれの場合に過度の変形が防止される(そうでなければ疎水性膜12の引き裂きを招く)。
【0054】
図2および
図6から明らかなように、ビーム形状の支持部材153は出口開口部110を横切って延び、出口開口部110の前に交差構造体を形成する。支持部材153は、延長面Eと平行に延び、出口開口部110の位置で膜12を支持し、疎水性膜12が出口開口部12内に引き込まれるのを防ぎ、その結果、膜12が出口開口部110の位置で裂ける危険性が著しく低下する。
【0055】
支持構造体142,152のために、さらに出口開口部110の位置における十字形状の支持部材153のために、疎水性膜12を強化するための追加の対策は不要であり得る。特に、疎水性膜12を強化するための疎水性膜12上の補強層は必要ではないかもしれず、疎水性膜12をより安価にする。
【0056】
ハウジング部材14,15は、有利には、例えば射出成形によって硬質プラスチック部品として形成されている。ここで、支持部材153が、出口開口部110が出口室134に開口する位置に形成されることを可能にするために、出口開口部110(溝の形状を有する)は、疎水性膜12に向かって先細にされ得る。例えば、出口開口部110は、狭い端部110Bと広い端部110Aとを有する(わずかな)円錐性を有してもよい(
図7参照)。これにより、ハウジング部材15を形成するための凹部40と、出口ポート11内に出口開口部110を形成するためのピン41とを備える成形用具4を用いてハウジング部材15を形成することが可能になる。出口開口部110のテーパ形状のために、ピン41は、ハウジング部材15内に形成された出口開口部110から引っ張り方向Pに取り外されることができ、それによって支持部材153は、成型用具4を用いて、ハウジング部材15の他の部分とともに単一の成形ステップで形成され得る。
【0057】
図2および
図3から分かるように、フィルタ1は、疎水性膜12の延長面Eに沿って見たときに正方形の形状を有する。これはさらに、入口室133をハウジング13の底部131に近いかなりの容積を有するようにして、濾過プロセスを妨げることなくかなりの量の凝縮液Cを入口室133内に集めることができるようにする。
【0058】
図8および
図9に示す別の実施形態では、入口ポート10が入口室133内に開く位置に到達することなく凝縮液Cが入口室133内に蓄積するように、入口ポート10をフィルタ1の頂部132の近くに配置する。
【0059】
図10に示す変形された実施形態では、ハウジング13の底部131の領域内の入口室133の容積が増加され、底部131の領域内に収集室135を形成する。このために、入口室133は、疎水性膜12の延長面Eに垂直な断面で見たときに、底部131に向かって広がっており、入口室133は、
図10から明らかなように多角形の形状を有する。入口室133内の底部131の近くに広い室容積が提供されるため、凝縮液Cは、疎水性膜12の実質的な部分を塞ぐことなく入口室133内に蓄積し得る。
【0060】
図11に示す別の実施形態では、疎水性膜12の下側底部縁部の下に延びる収集室135を入口室133上に形成することができる。したがって、凝縮液Cは疎水性膜12にさえ到達することなく収集室135内に蓄積する可能性があり、その結果凝縮液Cは疎水性膜12を全く遮断せず、したがって濾過性能に影響を与えない。収集室135は、任意の所望の形状を有することができ、フィルタ1の長期間の使用にわたって合理的に予想される量の凝縮液Cを確実に収集室135内に収集することができるように設計することができる。
【0061】
図12に示す実施形態では、追加の排出ポート16がハウジング13の底部131に近い入口室133に形成されている。排出ポート16を通って凝縮液Cが排出され(排液流D)、入口室133内に凝縮液Cが実質的に蓄積するのを防ぐことができる。
【0062】
本発明の思想は、上述の実施形態に限定されず、完全に異なる実施形態においては全く異なる方法で実施されてもよい。
【0063】
本明細書に記載されるようなフィルタは、自己輸血システムに使用されてもよいが、気体流を濾過するための他の医療用途、例えば人工呼吸器にも使用されてもよい。
【0064】
フィルタは、真空ポンプまたは気体流がフィルタを通って引き込まれるように負圧を生じさせる他の任意の種類のポンプと一緒に使用されてもよい。
【0065】
疎水性構造体は、任意の適切な材料から作製することができ、疎水性構造体を通る液体の流れを妨げるように構成されているが、気体流、特に空気流が通過することを可能にする。
【0066】
疎水性構造体は、平坦な延長面に沿ってフィルタ内をシート状に延びてもよい。しかしながら、延長面が空間的に湾曲していることも考えられる。
【符号の説明】
【0067】
1 フィルタ
10 入口ポート
100 入口開口部
11 出口ポート
110 出口開口部
110A,110B 端部
12 疎水性膜
13 ハウジング
130 フィルタ室
131 底部
132 頂部
133 入口室
134 出口室
135 収集室
14 ハウジング部材
140 接続構造体
141 クランプ部
142 支持構造体
142A 隆起部
142B 隙間
143 テーパー構造体
144 入口構造体
144A 案内面
144B 平坦面
15 ハウジング部材
150 接続構造体
151 クランプ部
152 支持構造体
152A 隆起部
152B 隙間
153 支持部材(交差構造体)
16 排出ポート
2 リザーバ
20 入口
200 ライン
21 真空ポート
210 ライン
22 ハウジング
3 吸引ポンプ(真空ポンプ)
30 ライン
4 成型用具
40 凹部
41 ピン
5 自己輸血システム
50 ライン
51 分離洗浄室
52 ライン
A 空気流または他の気体流
C 凝縮液
D 排液流
E 延長面
F 液体流
L 液体
H 水平方向
V 鉛直方向