(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】ERK1/2阻害剤としての6-ピリミジン-イソインドール誘導体
(51)【国際特許分類】
C07D 405/14 20060101AFI20220729BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220729BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220729BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220729BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220729BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220729BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C07D405/14 CSP
A61K9/08
A61K31/506
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/34
A61P35/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019555918
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(86)【国際出願番号】 IB2018052745
(87)【国際公開番号】W WO2018193410
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-04-16
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】マイケル、リーダー
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ、エリザベス、ウィルシャー
(72)【発明者】
【氏名】マーク、ヘンリー、サンダース
(72)【発明者】
【氏名】ポール、アンソニー、バグリー
(72)【発明者】
【氏名】コリン、トーマス、リンドリー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート、クレイグ、メリング
(72)【発明者】
【氏名】ボツェナ、エバ、アダムチク
(72)【発明者】
【氏名】ミルカ、スカラティ
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特許第6931646(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/205418(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/108861(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/025649(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 405/14
A61K 9/08 - 47/34
A61P 35/00 - 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
を有する(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミ
ドまたはその互変異性形
の結晶。
【請求項2】
少なくとも55%結晶
性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド
の結晶。
【請求項3】
少なくとも60%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項4】
少なくとも70%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項5】
少なくとも80%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項6】
少なくとも90%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項7】
少なくとも95%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項8】
少なくとも98%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項9】
少なくとも99%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項10】
少なくとも99.5%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項11】
少なくとも99.9%結晶性である、請求項1に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項12】
回折角14.0°および/または20.6°および/または24.0°および/または24.2°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの
結晶。
【請求項13】
表A:
【表1】
に示される回折角および面間隔における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの
結晶。
【請求項14】
X線粉末回折パターンが表B:
【表2】
に示される回折角および面間隔における1以上の付加的ピークの存在をさらに特徴とする、請求項4に記載の(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの
結晶。
【請求項15】
示差走査熱量測定を行ったときに100℃~110
℃の開始温度を有する吸熱イベントを示す、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの
結晶。
【請求項16】
示差走査熱量測定を行ったときに101℃~108℃の開始温度を有する吸熱イベントを示す、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項17】
示差走査熱量測定を行ったときに110℃~125
℃のピークを有する吸熱イベントを示す、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの
結晶。
【請求項18】
示差走査熱量測定を行ったときに111℃~113℃のピークを有する吸熱イベントを示す、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項19】
熱重量分析を行ったときに85℃~130
℃で重量損失を示す、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの
結晶。
【請求項20】
熱重量分析を行ったときに90℃~120℃で重量損失を示す、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶。
【請求項21】
水和物である、請求項1~20のいずれか一項に記載の結晶。
【請求項22】
一水和物である、請求項1~20のいずれか一項に記載の結晶。
【請求項23】
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの
結晶を製造する方法であって、
(i)(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの酸付加塩の水性懸濁液を形成し、該懸濁液を、25℃~75℃の温度で、前記酸付加塩の不均化と(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶形の形成を生じさせるのに十分な時間撹拌し、その後、前記結晶形を単離すること;あるいは
(ii)(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの非晶形の水性懸濁液を形成し、ここで、該水性懸濁液は緩衝されていないか、または1.75~7.25のpHに緩衝され、該水性懸濁液を、25℃~55℃の温度で、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの非晶形の、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶形への変換を生じさせるのに十分な時間撹拌し、その後、前記結晶形を単離すること
を含んでなる、方法。
【請求項24】
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの、非晶性の塩酸塩、硫酸塩、ナパジシル酸塩(ナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩)、エジシル酸塩(エタンジスルホン酸塩)、トシル酸塩(p-トルエンスルホン酸塩)、メシル酸塩(メタンスルホン酸塩)、ナプシル酸塩(2-ナフタレンスルホン酸塩)、ベシル酸塩(ベンゼンスルホン酸塩)、イセチオン酸塩(2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩)、エシル酸塩(エタンスルホン酸塩)または臭化水素酸塩。
【請求項25】
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの、非晶性の塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩またはナパジシル酸塩。
【請求項26】
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの製造方法であって、式(2)の化合物と式(3)の化合物:
【化2】
を、第三級アミン塩基およびアミド結合促進剤の存在下、非プロトン性溶媒中で反応させることを含んでなり、前記アミド結合促進剤がN,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)から選択される、方法。
【請求項27】
前記第三級アミン塩基がジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である、請求項
26に記載の方法。
【請求項28】
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドを製造する方法であって、
a)式(5)の化合物:
【化3】
と式(6)の化合物:
【化4】
を反応させて式(2)の化合物:
【化5】
を得ること;
b)式(2)化合物と式(3)化合物:
【化6】
を反応させて式(1)の化合物を得ること、およびその後、場合により、その塩または結晶形を形成すること
を含んでなる、方法。
【請求項29】
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド、および
C
2-4アルコール;
ポリエーテル化合物;
C
8~C
18長鎖脂肪酸とグリセロールまたはプロピレングリコールとのモノエステル;
C
8~C
10長鎖脂肪酸のジ-またはトリ-グリセリド
およびそれらの混合物から選択されるビヒクル;ならびに場合により非イオン界面活性剤を含んでなる、医薬組成物。
【請求項30】
1μm~100μmの質量中央径を有す
る、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド
を含む粒子。
【請求項31】
以下の(a)~(
p):
(a)医薬としての使用;または
(b)ERK1/2によって媒介される疾患または病状の予防または治療;または
(c)癌の病態の予防または治療;または
(d)肝細胞癌、黒色腫、食道癌、腎臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、肺癌(例えば中皮腫または肺腺癌)、乳癌、膀胱癌、胃腸癌、卵巣癌および前立腺癌からなる群から選択される疾患または病状の予防または治療;また
は
(e)Ras変異、BRAF変異またはMEK変異を有する疾患または病状の予防または治療;または
(
f)化合物または組成物が1つ以上の他の化合物または治療法と組み合わせて使用される癌の予防または治療;または
(
g)悪性血液疾患の予防または治療;または
(
h)白血病またはリンパ腫の予防または治療;または
(
i)悪性血液疾患やリンパ系の関連疾患(例えば急性リンパ性白血病[ALL]、慢性リンパ性白血病[CLL]、B細胞リンパ腫(例えばびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫[DLBCL])、濾胞性リンパ腫、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、T細胞性リンパ腫および白血病、ナチュラルキラー[NK]細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、有毛細胞白血病、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症、形質細胞腫、多発性骨髄腫および移植後のリンパ球増殖性疾患)の予防または治療;または
(
j)悪性血液疾患および骨髄細胞系関連疾患(例えば、急性骨髄性白血病[AML]、慢性骨髄性白血病[CML]、慢性骨髄単球性白血病[CMML]、好酸球増多症候群、骨髄増殖性疾患(例えば真性多血症)、本態性血小板血症および原発性骨髄線維症、骨髄増殖性症候群、骨髄異形成症候群および前骨髄球性白血病)の予防または治療;または
(
k)腺腫および癌腫の予防または治療;または
(
l)上皮組織由来の腫瘍;悪性血液疾患および前癌性血液疾患および境界悪性疾患;間葉由来の腫瘍;神経堤細胞由来腫瘍;中枢神経系または末梢神経系の腫瘍;内分泌腫瘍;眼および付属器の腫瘍;胚細胞腫瘍およびトロホブラスト腫瘍;および小児腫瘍と胎児性の腫瘍;または患者が悪性
がんに罹患しやすい状態になる先天性もしくはその他の症候群から選択される疾患または病状の予防または治療;または
(
m)膵臓癌の予防または治療;または
(
n)NRas黒色腫およびNRas AMLの予防または治療;または
(
o)KRas肺癌、KRas膵臓癌およびKRas結腸直腸癌(CRC)の予防または治療;または
(
p)BRAF結腸直腸癌(CRC)、BRAF肺癌およびBRAF黒色腫の予防または治療
のための医薬組成物であって、
以下のi)~iii):
i)請求項1~
22のいずれか一項に記載の
、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド
の結晶;
ii)請求項
24または25に記載の非晶性の塩;および
iii)請求項
30に記載の粒
子
のいずれかを含んでなるか、
あるいは、請求項
29に記載の医薬組成物である、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド、特に、その化合物の新規な物理的形態、その化合物を製造する方法、およびその方法において使用するための合成中間体、およびその化合物を含有する新規な製剤、ならびにその化合物の治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
MAPKシグナリングとERK1/2の役割
細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK1/2)は、普遍的に発現しているタンパク質、セリン/スレオニンキナーゼであり、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路の主要成分である。MAPK経路は、細胞周期の進行、細胞の遊走、細胞の生存、分化、代謝、増殖や転写などさまざまな細胞プロセスを調節する、進化的に保存された細胞シグナル伝達経路である。ERK/MAPKシグナル伝達経路は、細胞表面にある受容体チロシンキナーゼ(RTKs)を介し、細胞外からの刺激に反応する。RTKsが活性化されると、RASのGTPアーゼ(K-RAS、N-RASとH-RAS)が不活型のGDP結合状態から活性型のGTP結合状態へと変換される。活性化されたRASは、RAF(A-RAF、B-RAFとC-RAF)をリン酸化し、活性化させ、次に二重特異性キナーゼMEK(MEK1/2)をリン酸化し、活性化する。その後、活性化されたMEKはERK1/2をリン酸化し、活性化させる。活性化ERK1/2は、核内や細胞質に存在する複数の基質を活性化させる。現在、200個以上のERK1/2の基質が知られており、転写因子、キナーゼ、ホスファターゼや細胞骨格タンパク質などが含まれる(Roskoski, Pharmacol. Res. 2012; 66: 105-143)。
【0003】
多数のERKアイソザイム(ERK1、ERK2、ERK3/4、ERK5、ERK7)が同定されているが、二つの最も良く研究されているアイソザイムはERK1とERK2である。以下を参照のこと。R. Roberts, J. Exp. Pharm., The extracellular signal-regulated kinase (ERK) pathway: a potential therapeutic target in hypertension, 2012: 4, 77-83およびCargnello et al., Microbiol. & Mol. Biol. Rev., Activation and Function of the MAPKs and Their Substrates, the MAPK-Activiated Protein Kinases 2011, 50-83.
【0004】
癌におけるERK1/2シグナル伝達の上方制御
癌では通常、ERK1/2活性はMAPK経路の上流成分の活性化変異により上方制御されている。ヒト癌の約30%に活性化RAS変異がみられる(Robert and Der, Oncogene. 2007; 26: 3291-3310)。K-RASは最も多くの変異がみられるアイソフォームであり、すべての腫瘍の22%でK-RAS変異が認められる。K-RAS変異は、特に膵腺癌(70-90%)、非小細胞癌(10-20%)や大腸癌(25-35%)で高頻度にみられる(Neuzillet et al., 2014. Pharmacol. Ther. 141; 160-171)。N-RAS変異とH-RAS変異はそれぞれ、癌の8%と3%に認められる。とりわけ、15-20%の悪性黒色腫で活性化N-RAS変異が報告されている。さらに、全腫瘍の8%に活性化B-RAF変異があり、特に悪性黒色腫(50-60%)、甲状腺乳頭癌(40-60%)、大腸癌(5-10%)、非小細胞肺癌(3-5%)の順に多い(Neuzillet et al., 2014. Pharmacol. Ther. 141; 160-171)。RASやRAFの活性化変異の出現に加え、EGFR(Lynch et al., N Engl J Med. 2004; 350: 2129-2139)、HER2(Stephens et al., Nature. 2004; 431: 525-526)やFGFR(Ahmed et al, Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell. Res. 2012; 1823: 850-860)など上流に位置するRTKsの過剰発現や変異による活性化により、癌ではMAPKシグナル伝達経路も上方制御されうる。
【0005】
ERK1/2シグナル伝達の異常が原因で癌が進展する機序は複数存在する。活性化によりERK1/2はc-Fos(Murphy et al., Nat. Cell Biol. 2002: 4 (8):556-64)およびELK-1(Gille et al., EMBO J.1995; 14 (5):951-62)などの細胞の増殖や分化の促進に関与するさまざまな転写因子をリン酸化し、活性化させる。また、ERK1/2シグナル伝達は、D型サイクリンの誘導やサイクリン依存性キナーゼ阻害因子p27KIP1の抑制など複数の機序を介して細胞周期の進行を促進することが知られている(Kawada et al., Oncogene. 1997; 15: 629 - 637, Lavoie et al., J. Biol.Chem. 1996; 271: 20608-20616)。さらに、ERK1/2シグナル伝達は一連のアポトーシスタンパク質の調節により細胞の生存を促進しうる。そのような機序の例として、アポトーシス促進性のBCL-2ファミリータンパク質のBIM1とBADのERK1/2に依存した抑制(She et al., J. Biol Chem. 2002; 277: 24039-24048. Ley et al., J. Biol. Chem.2003; 278: 18811-18816)やMCL-1などの抗アポトーシスタンパク質のERK1/2に依存する安定化(Domina et al., Oncogene. 2004; 23: 5301-5315)などがある。
【0006】
MAPK阻害薬の耐性におけるERK1/2の役割
MAPK経路の阻害がB-Raf変異やRAS変異のある癌細胞株の増殖を抑制することが、さまざまな前臨床試験で証明されている(Friday & Adjei, Clin. Cancer Res. 2008; 14: 342-346)。RAF阻害剤ベムラフェニブとダブラフェニブやMEK阻害剤トラメチニブは、BRAF変異の悪性黒色腫の臨床治療のため、承認されている。これらの薬剤は薬剤耐性の獲得により、その反応時間は短くなるものの、大多数の患者で抗腫瘍効果を発揮する(Chapman et al., N. Engl. J. Med. 2011; 364 2507-2516. Hauschild et al., Lancet. 2012; 380: 358-365. Solit and Rosen, N Engl J Med. 2011; 364 (8): 772-774. Flaherty et al., N. Engl. J. Med. 2012; 367: 1694-1703)。B-RAF阻害剤の複数の薬剤耐性機構が同定されている。C-RAFやCOT1など別のMEKアクチベーターの活性化や上方制御(Villanueva et al., Cancer Cell. 2010; 18:683-95. Johannessen et al., Nature. 2010; 468: 968-72)、RTKやNRASのシグナル伝達の上方制御(Nazarian et al., Nature. 2010; 468:973-7)やMEKを活性化する変異の出現(Wagle et al., J Clin Oncol. 2011; 29:3085-96)などがある。MEK阻害剤耐性機構は、BRFやKRASの増幅(Little et al., Biochem Soc. Trans. 2012; 40(1): 73-8)と、薬物結合能を低下させ、あるいは内在性MEK活性を高めるMEK変異の出現(Emery et al., Proc Natl. Acad. Sci. 2009; 106: 20411-20416. Wang et al., Cancer Res. 2011; 71: 5535-5545)などがある。RAFやMEKの阻害剤耐性機構に共通する特徴は、阻害剤存在下で細胞の増殖や生存を駆動するERK1/2シグナル伝達の再活性化である。こうした観察に基づき、ERK1/2の直接的阻害がRAFやMEKの阻害剤耐性の獲得を克服する有効な治療方法であることが示唆されている。ERK1/2の阻害が、獲得されたRAFやMEKの阻害剤耐性を打開できることを示した前臨床試験がある(Hatzivassiliou et al., Mol Cancer Ther. 2012; 11(5):1143-54.Morris et al., Cancer Discov. 2013; 3 (7):742-50)。
【0007】
その他の疾患
癌領域に加え、ERK1/2シグナル伝達経路の異常はまた、心血管疾患(Muslin, Clin. Sci. 2008; 115: 203-218)、アルツハイマー病(Giovannini et al., Neuroscience. 2008; 153: 618-633)、多発性嚢胞腎(Omori et al., J Am Soc Nephrol. 2006; 17:1604-1614)、喘息(Duan et al., J Immunol. 2004; 172: 7053-7059)や肺気腫(Mercer et al., J. Biol. Chem. 2004; 279: 17690-17696)を含む他の疾患でも報告されている。
【0008】
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド
本発明者らの以前の国際特許出願第PCT/IB2016/001507号(その内容はここに参照として組み込まれる)は、ERK2阻害剤としてのベンゾラクタム化合物の一種を開示している。そこに具体的に開示される化合物の一つは、化合物(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドであり、式(1)を有する。
【化1】
【0009】
この化合物の製造は、PCT/IB2016/001507の実施例685に記載され、式(2)の化合物:
【化2】
と式(3)化合物:
【化3】
の、アミド結合形成促進剤O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート(TBTU)の存在下、ジメチルホルムアミド(DMF)およびトリエチルアミン中での反応を含む。
【0010】
実施例685では、後処理およびシリカでのクロマトグラフィーによる部分的精製の後、クロマトグラフィーカラムからの溶出液を蒸発させてガラス質を得、次にこれをエーテルで混和して化合物(1)を非晶性固体として得たことが開示されている。
【発明の概要】
【0011】
PCT/IB2016/001507の実施例685では、化合物(1)は、非晶形で製造される。しかしながら、今般、式(1)の化合物の結晶形が製造されうることが判明した。よって、第1の態様において、本発明は、実質的に結晶性の形態の式(1)の化合物を提供する。
【0012】
本発明はまた、式(1)の化合物および合成中間体を製造する新規な方法、ならびに式(1)の化合物を含んでなる新規な製剤を提供する。
【0013】
式(1)の化合物の結晶形
第1の態様において、本発明は、実質的に結晶性の形態の、式(1)を有する(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド:
【化4】
またはその互変異性形を提供する。
【0014】
式(1)の化合物は塩を形成しうるが、結晶形の化合物についての言及には、遊離塩基を指す。
【0015】
式(1)の化合物についての言及には、文脈上認められる場合には、それらの範囲にそのあらゆる溶媒和物、互変異性体および同位体変形形態を含む。
【0016】
非晶性固体では、通常結晶形で存在する三次元構造は存在せず、非晶形で互いに関連する分子の位置は本質的にランダムである、例えば、Hancock et al. J. Pharm. Sci. (1997), 86, 1)参照。
【0017】
用語「実質的に結晶性」とは、50%~100%結晶性である式(1)の化合物の形態を意味する。この範囲内で、式(1)の化合物は、少なくとも55%結晶性、または少なくとも60%結晶性、または少なくとも70%結晶性、または少なくとも80%結晶性、または少なくとも90%結晶性、または少なくとも95%結晶性、または少なくとも98%結晶性、または少なくとも99%結晶性、または少なくとも99.5%結晶性、または少なくとも99.9%結晶性、例えば、100%結晶性でありうる。
【0018】
特定の実施態様では、結晶形は95%~100%結晶性、例えば、少なくとも98%結晶性、または少なくとも99%結晶性、または少なくとも99.5%結晶性、または少なくとも99.6%結晶性または少なくとも99.7%結晶性または少なくとも99.8%結晶性または少なくとも99.9%結晶性、例えば、100%結晶性である。
【0019】
本発明の化合物の結晶形は、溶媒和(例えば、水和)であっても、または非溶媒和(例えば、無水)であってもよい。
【0020】
一つの実施態様では、化合物は無水である。
【0021】
ここに用いられる用語「無水」は、化合物(例えば、化合物の結晶)上または内部の少量の水の存在の可能性を排除するものではない。例えば、化合物(例えば、化合物結晶)の表面上に少量の水、または化合物(例えば、結晶)の本体内に少量の水が存在してもよい。一般に、無水形は、化合物1分子当たり0.4分子よりも少ない水を含有し、より好ましくは、化合物1分子当たり0.1分子より少ない水、例えば、0分子の水を含有する。
【0022】
別の実施態様では、化合物は、溶媒和、例えば、水和している。結晶形が水和している場合、それらは例えば、3分子までの結晶水、より通常には、2分子までの水、例えば、1分子の水または2分子の水を含有しうる。非化学量論的水和物も形成可能であり、この場合、存在する水分子の数が1より小さい、またはそうでなければ整数でない。例えば、1分子より少ない水が存在する場合、化合物(1)1分子当たり例えば、0.4、または0.5、または0.6、または0.7、または0.8、または0.9分子の水が存在してもよい。
【0023】
一つの実施態様では、化合物(1)の結晶形は一水和物であり、結晶形は1分子の結晶水を含有する。
【0024】
他の溶媒和物としては、エタノラートおよびイソプロパノラートなどのアルコラートが含まれる。
【0025】
ここに記載される結晶形、その結晶およびそれらの結晶構造は、本発明のさらなる態様をなす。
【0026】
結晶およびそれらの結晶構造は、X線粉末回折(XRPD)、単結晶X線回折、示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)を含むいくつかの技術を用いて特徴付けることができる。さまざまな湿度条件下での結晶の挙動は、重量蒸気吸着試験(例えば、動的蒸気吸着)によって分析することができる。
【0027】
化合物の結晶構造は、X線粉末回折(XRPD)の固相技術によって分析することができる。XRPDは、本明細書(実施例4A参照)およびIntroduction to X-ray Powder Diffraction, Ron Jenkins and Robert L. Snyder (John Wiley & Sons, New York, 1996)に記載のものなどの従来法に従って行うことができる。XRPDディフラクトグラムにおける定義されたピーク(ランダムなバックグラウンドノイズに対して)の存在が、その化合物が結晶度を有することを示す。
【0028】
「化合物」のX線粉末パターンは、X線回折スペクトルの回折角(2θ)と面間隔(d)パラメーターによって特徴付けられる。これらは、ブラッグの式nλ=2d Sinθ(ここで、n=1;λ=X線放射の波長;d=面間隔;およびθ=回折角)により関連付けられる。ここで、面間隔、回折角および全体的なパターンは、データの特徴のために、X線粉末回折における結晶の同定に重要である。相対強度は、結晶成長の方向、粒径および測定条件によって変わりうるので、厳密に解釈されるべきものではない。さらに、回折角は通常、2θ±0.2°の範囲に相当するものを意味する。
【0029】
化合物(1)の遊離塩基の特定の結晶形がこれまでに同定されており、これらは本明細書では「形態A」および「形態B」と呼ばれる。二者のうち、形態Bが最も安定な形態であると思われる。形態Aおよび形態Bの両方に関する特徴的データを以下の実施例に示す。
【0030】
本発明の結晶性(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドのAおよびB形態はどちらもXRPDにより特徴付けられた(実施例3および4ならびに
図1および2参照)。
【0031】
各場合において、粉末X線回折パターンは、ディフラクトグラムにおいて回折角(2θ)、面間隔(d)およびピークの相対強度に関して表すことができる。
【0032】
形態A
化合物(1)の遊離塩基の第一の結晶形(形態A)は、以下の実施例3Aに記載されるように、3:1 水:プロパノール溶媒混合物中、化合物(1)の塩酸塩の溶液からの不均化によって形成されうる。形態AのXRPDディフラクトグラムを
図1に示す。不均化の過程で、酸が遊離塩基から解離し、溶液中に留まって化合物(1)の遊離塩基の懸濁液が残る。
【0033】
結晶形Aはまた、70℃で長時間(例えば96時間)、化合物(1)の非晶性塩酸塩を水に懸濁させた後、結晶性材料を濾別することによって作製することもできる。
【0034】
形態B
遊離塩基の第二の結晶形(形態B)も、塩の水性懸濁液を精製水に、上記の結晶形Aの形成に用いたものよりも低い温で長時間撹拌することによる酸付加塩(塩酸塩、硫酸塩または臭化水素酸塩など)の不均化によって作製することができる。よって、形態Bは、以下の実施例3B-3Dに記載されるように、化合物(1)の非晶性無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩または臭化水素酸塩など)を18~23℃で精製水に懸濁させた後、その混合物を45~50℃で20時間撹拌し、次いで、30~35℃で96時間さらに撹拌し、その後、形態Bの結晶を濾別することによって作製することができる。形態BのXRPDディフラクトグラムを
図2に示す。
【0035】
化合物(1)の非晶性酸付加塩の、結晶形Bへの不均化は、反応混合物にイソプロパノールなどのアルコール系補助溶媒を加えることによって補助することができる。
【0036】
結晶形Bを作製する別法では、非晶性遊離塩基形態の化合物(1)を、緩衝させなくてもまたはpH約2~最大pH7に緩衝させてもよい水に懸濁させた後、やや高温(例えば30℃)で、非晶性化合物(1)から結晶形Bへの変換を可能とするのに十分な時間(例えば、最大6日、例えば、およそ5日)撹拌することができる。
【0037】
化合物(1)の結晶形BのX線回折パターンは、表Aに示される回折角、すなわち、14.0°、20.6°、24.0°および24.2°(±0.2°)に最大強度のピークを示す。
【0038】
【0039】
よって、別の実施態様では、本発明は、回折角(2θ)14.0°および/または20.6°および/または24.0°および/または24.2°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの実質的に結晶性の形態(形態B))を提供する。
【0040】
一つの実施態様では、X線回折パターンは、14.0°、20.6°、24.0°および24.2°(±0.2°)から選択される回折角における少なくとも1つのピークの存在を特徴とする。
【0041】
よって、例えば、一つの実施態様では、本発明は、回折角14.0°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0042】
別の実施態様では、本発明は、回折角20.6°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0043】
さらに別の実施態様では、本発明は、回折角24.0°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0044】
さらに別の実施態様では、本発明は、回折角24.2°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0045】
他の実施態様では、化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)は、14.0°、20.6°、24.0°および24.2°(±0.2°)から選択される2つ以上、例えば3つ以上、特に、4つの回折角における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する。
【0046】
化合物(1)の形態BのX線粉末回折パターンはまた、表Bに示される回折角、すなわち、8.8、13.0、13.8、14.4、17.3、19.3、21.3および28.7(±0.2°)に存在するより少ないピークを有してもよい。
【0047】
【0048】
よって、本発明はまた、上記に定義されるように回折角14.0°および/または、20.6°および/または24.0°および/または24.2°(±0.2°)における主要ピークならびに場合により、8.8°、13.0°、13.8°、14.4°、17.3°、19.3°、21.3°および/または28.7°(±0.2°)から選択される回折角における1つまたは複数のさらなるピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0049】
一つの実施態様では、化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)は、回折角14.0°および/または20.6°および/または24.0°および/または24.2°(±0.2°)における主要ピーク;ならびに場合により、回折角13.8°および/または19.3°および/または21.3°(±0.2°)における1つまたは複数のさらなるピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する。
【0050】
特定の実施態様では、化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)は、回折角14.0°、20.6°、24.0°、24.2°、13.8°、19.3°および21.3°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する。
【0051】
別の特定の実施態様では、化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)は、回折角14.0°、20.6°、24.0°、24.2°、8.8°、13.0°、13.8°、14.4°、17.3°、19.3°、21.3°および28.7°(±0.2°)における主要ピークの存在を特徴とするX線粉末回折パターンを有する。
【0052】
X線粉末回折パターンは、表Cに示される回折角(2θ)(±0.2°)におけるさらなるピークの存在をさらに特徴としうる。
【0053】
【0054】
本発明はさらに、
図2に示されるX線粉末回折パターンのものと同じ回折角にピークを示す化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。好ましくは、これらのピークは、
図2のピークと同じ相対強度を有する。
【0055】
好ましい実施態様では、本発明は、実質的に
図2に示されるようなX線粉末回折パターンを有する化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0056】
本発明の結晶形はまた、示差走査熱量測定(DSC)によって特徴付けることもできる。
【0057】
化合物(1)の結晶形BはDSCによって分析したところ、添付図面の
図3に示されるように、100℃~110℃(より特定的には、101℃~108℃)の開始温度および110℃~125℃(より特定的には、111℃~114℃)のピークを有する吸熱イベントを示すことが判明した。このイベントは、水の遊離に起因する。
【0058】
よって、本発明は、DSCを行ったときに100℃~110℃(より特定的には101℃~108℃)の開始温度を有する吸熱イベントを示す化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。本発明はまた、110℃~125℃(より特定的には、111℃~113℃)にピークを有する吸熱イベントを示す化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0059】
本発明の結晶形(形態B)はまた、熱重量分析(TGA)によっても特徴付けることができる。
【0060】
化合物(1)の実質的に結晶性の形態Bは、TGAによって分析し、85℃~95℃、例えば、90.86℃の開始温度を有し、110℃~130℃、例えば、120℃で完了する重量損失遷移を示す(
図4参照)。重量損失は、水の遊離に相当する。
【0061】
DSCおよびTGAデータに基づけば、上記の化合物(1)の実質的に結晶性の形態Bは一水和物であると考えられる。このことはまた、単結晶X線回折試験によっても確認された(以下の実施例4E参照)。
【0062】
化合物(1)の実質的に結晶性の形態Bでは、一つの単結晶形が優勢でありうるが、他の結晶形も微量、好ましくは、無視できる量で存在してよい。
【0063】
好ましい実施態様では、本発明は、上記のXRPD特性を有する単結晶形と5重量%以下のその化合物の他のいずれかの結晶形を含有する実質的に結晶性の形態(形態B)の化合物(1)を提供する。
【0064】
好ましくは、単結晶形(形態B)は、4重量%未満、または3重量%未満、または2重量%未満の他の結晶形を伴い、特に、約1重量%以下の他の結晶形を含有する。より好ましくは、単結晶形は、0.9重量%未満、または0.8重量%未満、または0.7重量%未満、または0.6重量%未満、または0.5重量%未満、または0.4重量%未満、または0.3重量%未満、または0.2重量%未満、または0.1重量%未満、または0.05重量%未満、または0.01重量%未満の他の結晶形、例えば、0重量%の他の結晶形を伴う。
【0065】
以上の段落から明らかなように、化合物(1)の結晶形(形態B)は、異なる物理化学的パラメーターのいくつかによって特徴付けることができる。よって、一つの特定の実施態様において、本発明は、以下のパラメーター、すなわち、
(a)表Aおよび場合により表Bに示される回折角(2θ)における主要ピークの存在および強度を特徴とするX線粉末回折パターンを有し;さらに場合により、そのX線粉末回折パターンは、表Cに示される回折角(2θ)における主要ピークの存在および強度を特徴とすること;ならびに/または
(b)
図2に示されるX線粉末回折パターンのものと同じ回折角にピークを示し、場合により、それらのピークは
図2のピークと同じ相対強度を有すること;ならびに/または
(c)実質的に
図2に示されるようなX線粉末回折パターンを有すること;ならびに/または
(d)DSCを行ったときに100℃~115℃の吸熱ピークを示すこと;ならびに/または
(e)熱重量分析(TGA)を行ったときに85℃~130℃(例えば、90~120℃)で重量損失を示すこと
のうちいずれか1つもしくは複数(任意の組み合わせ)、または全てによって特徴付けられる化合物(1)の実質的に結晶性の形態(形態B)を提供する。
【0066】
化合物(1)の遊離塩基の結晶形の作製方法
本発明はまた、化合物(1)の遊離塩基の結晶形を作製する方法も提供する。
【0067】
よって、本発明の別の態様では、化合物(1)遊離塩基の実質的に結晶性の形態を作製する方法が提供され、その方法は、
(i)化合物(1)の酸付加塩の水性懸濁液を形成すること、前記懸濁液を25℃~75℃の温度で前記酸付加塩の不均化と化合物(1)遊離塩基の結晶形の形成を生じさせるのに十分な時間撹拌すること、およびその後、前記結晶形を単離すること;または
(ii)化合物(1)遊離塩基の非晶形の水性懸濁液を形成すること、ここで、前記水性懸濁液は緩衝されていないか、または1.75~7.25のpHに緩衝され、および前記水性懸濁液を25℃~55℃の温度で、化合物(1)遊離塩基の非晶形の、化合物(1)遊離塩基の結晶形への変換を生じさせるのに十分な時間撹拌すること、およびその後、前記結晶形を単離すること
を含んでなる。
【0068】
方法の変形(i)では、温度および撹拌時間の選択が、結晶形Aが生産されるか形態Bが生産されるかに影響を及ぼす。従って、例えば、形態Aを得るためには、この方法をより高温、例えば、65~75℃(より特定的には、およそ70℃)で行えばよい。逆に、結晶形Bを得るためには、この方法をより低温、例えば、25~55℃で行えばよい。
【0069】
結晶形の形成は、この方法にイソプロパノールなどのアルコールの混合物を加えることによって促進することができる。
【0070】
方法の変形(i)の出発材料は、化合物(1)の酸付加塩である。酸付加塩は非晶性であってよい。
【0071】
化合物(1)の酸付加塩は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩または硫酸塩などの無機酸であってよい。このような塩の作製方法は、当業者に周知である。塩は、溶媒中、対イオンの溶液に遊離塩基化合物を加えることによって作製することができる。溶媒は2-プロパノールまたはメタノールなどの極性プロトン性溶媒であってよく、ジクロロメタンなどの極性非プロトン性補助溶媒を含んでよい。
【0072】
方法の変形(ii)は一般に、形態Bの形成をもたらす。
【0073】
方法の変形(ii)では、水性懸濁液は緩衝させても緩衝させなくてもよい。例えば、水性懸濁液は緩衝させなくても、pH2、5または7に緩衝させてもよい。水性懸濁液は、例えば、約25℃~約35℃、例えばおよそ30℃の温度で穏やかに加熱しながら撹拌する。水性懸濁液は、化合物(1)遊離塩基の非晶形の、化合物(1)遊離塩基の結晶形への変換を生じさせるのに十分な時間撹拌する。一般に、水性懸濁液は、少なくとも1日、より通常には、少なくとも2日または少なくとも3日間撹拌し、一つの実施態様では、5日間撹拌する。
【0074】
方法の変形(ii)の別の条件セットでは、この方法はより短時間(例えば、少なくとも12時間、または少なくとも15時間;例えば20時間)、より高温(例えば、45~55℃、特に、およそ50℃)で行ってよい。結晶形Bの形成を補助するために、有利には、種結晶または形態Aもしくは形態Bのいずれかを加えてもよい。
【0075】
式(1)の化合物の非晶性塩
式(1)の化合物の複数の非晶性塩が製造された(実施例2参照)。よって、本発明のさらなる態様では、非晶形の式(1)の化合物の塩が提供される。
【0076】
この塩は、式(1)の化合物の塩酸塩、硫酸塩、ナパジシル酸塩(ナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩)、エジシル酸塩(エタンジスルホン酸塩)、トシル酸塩(p-トルエンスルホン酸塩)、メシル酸塩(メタンスルホン酸塩)、ナプシル酸塩(2-ナフタレンスルホン酸塩)、ベシル酸塩(ベンゼンスルホン酸塩)、イセチオン酸塩(2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩)、エシル酸塩(エタンスルホン酸塩)または臭化水素酸塩でありうる。
【0077】
塩の一セットは、式(1)の化合物の非晶性塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩またはナパジシル酸塩からなる。
【0078】
他の実施態様では、本発明は、
・式(1)の化合物の非晶性塩酸塩;
・式(1)の化合物の非晶性硫酸塩;
・式(1)の化合物の非晶性臭化水素酸塩;および
・式(1)の化合物の非晶性ナパジシル酸塩
を提供する。
【0079】
非晶性塩は、化合物の遊離塩基形と適当な酸を有機溶媒、好ましくは、極性非プロトン性溶媒(例えば、酢酸イソプロピル)または極性非プロトン性溶媒と極性プロトン性溶媒の混合物(例えば、酢酸イソプロピルと2-プロパノールの混合物)中で反応させることによって作製することができる。
【0080】
本発明の非晶性塩は、1μm~100μmの範囲の質量中央径を有する粒子の形態で提供されうる。
【0081】
これらの粒子は、2μm~50μm、例えば、2μm~25μmまたは2μm~10μmの範囲の質量中央径を有しうる。これらの粒子は経口投与(一般に、場合により1つまたは複数の医薬上許容される賦形剤を含んでなる経口投与可能な製剤として)または例えば吸入によるなどの他の手段を介した投与が可能である。粒子が吸入による投与に意図される場合、それらの粒子は一般に1μm~10μmまたは1μm~5μmの質量中央径を有する。
【0082】
粒径は、画像解析法、レーザー回折法または篩い分け技術によって決定することができる。
【0083】
これらの粒子は機械的微粉化法または溶液に基づく相分離法のいずれかを介して生産されうる。機械的微粉化法の例には、製粉技術が含まれる。
【0084】
溶液に基づく技術は、一般に、溶媒としての液体、圧縮ガス、臨界に近い液体もしくは超臨界流体、または急速冷凍のための冷却媒体の使用を含む。これらの技術は、蒸発による溶媒と医薬化合物の相分離、発泡、冷凍または溶媒組成の変更を含む。
【0085】
これらの粒子は凍結乾燥によって生産されうる。あるいは、これらの粒子は噴霧乾燥によっても形成されうる。よって、一つの実施態様では、本発明の非晶性塩を噴霧乾燥させる。
【0086】
非晶性塩は治療薬として使用可能であり、または上記のように式(1)の化合物の遊離塩基の結晶形の作製に中間体として使用してもよい。
【0087】
式(1)の化合物の製造方法
化合物(1)は、以下のスキーム1に示される一連の工程段階によって製造することができる。
【化5】
【0088】
化合物(1)を得るための中間体化合物(2)と中間体化合物(3)の反応は、本発明者らの以前の出願PCT/IB2016/001507の実施例685に記載されている。この反応は、ジメチルホルムアミド(DMF)およびトリメチルアミン中、アミド結合形成促進剤O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート(TBTU)の存在下で行う。PCT/IB2016/001507では、中間体化合物(2)は、対応するtert-ブチルエステルの加水分解によって製造され、tert-ブチルエステル自体は中間体化合物(4)とアミン(6)の反応によって製造される。
【0089】
本発明によれば、PCT/IB2016/001507に記載の方法にいくつかの修正がなされた。
【0090】
第一に、最終工程の処理条件である中間体化合物(2)と(3)の反応が修正された。よって、カップリング試薬TBTUの代わりに、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)などの別のカップリング試薬が使用された。加えて、トリエチルアミンとともに、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)などの別の塩基が使用された。
【0091】
第二に、PCT/IB2016/001507に記載されるように中間体化合物(4)とアミン(6)を反応させた後にtert-ブチルエステル部分を加水分解して化合物(2)を得る代わりに、まず、中間体化合物(4)のtert-ブチルエステル部分を加水分解してカルボン酸(5)を得、次にこれをアミン(6)と反応させて化合物(2)を得る。
【0092】
本発明のさらなる態様によれば、式(1)の化合物を製造する方法が提供され、その方法は、式(2)の化合物と式(3)の化合物:
【化6】
を、非プロトン性溶媒中、第三級アミン塩基およびアミド結合促進剤の存在下で反応させることを含んでなり、ここで、アミド結合促進剤は、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)から選択される。
【0093】
特定の実施態様では、アミド結合促進剤は、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)である。
【0094】
この方法で使用するための第三級アミン塩基の例は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)およびトリエチルアミンならびにそれらの混合物である。
【0095】
特定の実施態様では、第三級アミン塩基は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である。
【0096】
非プロトン性溶媒の例は、ジクロロメタン、酢酸エチルおよびジメチルホルムアミドである。
【0097】
特定の実施態様では、非プロトン性溶媒は、ジクロロメタンである。
【0098】
好ましい実施態様では、式(1)の化合物を製造するための方法が提供され、その方法は、式(2)の化合物と式(3)の化合物を、ジクロロメタンである非プロトン性溶媒中、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である第三級アミン塩基およびN,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)であるアミド結合促進剤の存在下で反応させることを含んでなる。
【0099】
化合物(2)と(3)の間の反応は一般に外部加熱なく行われ、例えば、25℃以下の温度で行ってよい。よって、例えば、反応体を混合して反応混合物を形成したところで、その反応混合物を15~25℃の範囲の温度で反応が完了するまで撹拌すればよい。
【0100】
別の態様では、本発明は、ここに定義されるような式(1)の化合物を製造する方法を提供し、その方法は、
a)式(5)の化合物:
【化7】
と式(6)の化合物:
【化8】
を反応させて式(2)の化合物:
【化9】
を得ること、および
b)式(2)の化合物と式(3)の化合物:
【化10】
を反応させて式(1)の化合物を得、その後、場合により、その塩または結晶形を形成すること
を含んでなる。
【0101】
工程(a)は一般に、1-メチル-2-ピロリジオン(NMP)などの極性非プロトン性溶媒中で行われる。この反応は、高温下で、例えば60℃を超える温度、より通常には70℃を超える温度、特に75~95℃(例えば、80~95℃)の範囲の温度で行ってよい。
【0102】
工程(a)は、炭酸アルカリ金属、例えば、炭酸カリウムなどの無機塩基でありうる塩基の存在下で行われる。
【0103】
式(5)と(6)の化合物間の反応の進行をモニタリングして反応の程度を決定することができる。例えば、反応は、式(5)の化合物の残量が所望のレベル未満(例えば、その元の量の1mol%未満)となるまでモニタリングしてもよい。工程(a)は一般に、1~8時間、例えば2~7時間、一般に4~6時間の反応時間を有する。
【0104】
工程(b)は、化合物(1)を得るための化合物(2)と(3)の間の反応に関して上記される条件下で行われる。
【0105】
本発明のさらなる態様において、式(2)の化合物を製造する方法が提供され、その方法は、
a)式(5)の化合物:
【化11】
と式(6)の化合物:
【化12】
を反応させて式(2)の化合物:
【化13】
を得ることを含んでなる。
【0106】
この反応は、上記の工程(b)に関して記載される条件下で行うことができる。
【0107】
化合物(5)は、例えば濃塩酸などの無機酸を用いる式(4)のtert-ブチルエステル化合物:
【化14】
の加水分解によって製造することができる。この加水分解反応は、例えば、30~45℃の範囲、より一般には35~40℃の範囲の温度などへの穏やかな加熱によって補助されうる。炭化水素または塩素化炭化水素溶媒でありうる補助溶媒を使用してよい。このような補助溶媒はトルエンである。
【0108】
化合物(4)は、PCT/IB2016/001507に記載の方法によって製造することができる;例えば、その製法94を参照。
【0109】
式(1)の化合物を含んでなる組成物
式(1)の化合物は、水中での溶解度が比較的低い。よって、本発明は、水以外の主要ビヒクルを含んでなる化合物(1)の組成物を提供する。このような組成物は経口投与に好適である。
【0110】
化合物(1)はいくつかの非水性溶媒中で良好な溶解度を有することが判明した。よって、本発明は、式(1)の化合物と
・C2-4アルコール;
・ポリエーテル化合物;
・C8~C18長鎖脂肪酸とグリセロールまたはプロピレングリコールとのモノエステル;
・C8~C10長鎖脂肪酸のジ-またはトリ-グリセリド;
およびそれらの混合物から選択されるビヒクルとを含んでなる医薬組成物を提供する。
【0111】
医薬組成物は、ビヒクル中、化合物(1)の溶液の形態を採りうる。
【0112】
本発明のさらなる態様では、式(1)の化合物を含んでなる医薬組成物を製造する方法が提供され、その方法は、式(1)の化合物を、
・C2-4アルコール;
・ポリエーテル化合物;
・C8~C18長鎖脂肪酸とグリセロールまたはプロピレングリコールとのモノエステル;
・C8~C10長鎖脂肪酸のジ-またはトリ-グリセリド;
およびそれらの混合物から選択されるビヒクル中に分散させることを含んでなる。
【0113】
通常、式(1)の化合物をビヒクルに分散させて溶液または懸濁液を形成する。一つの実施態様では、式(1)の化合物をビヒクルに懸濁させる。別の実施態様では、式(1)の化合物をビヒクルに溶解させて懸濁液を形成する。
【0114】
ビヒクルは、一価または多価C2-4アルコール、好ましくは、C2-3アルコール、例えば、エタノールまたはプロピレングリコールを含んでなりうる。
【0115】
ビヒクルがポリエーテル化合物を含んでなる場合、ポリエーテル化合物はポリエチレングリコール(PEG)でありうる。ポリエチレングリコールは、200~10,000g/mol、例えば、300~8,000g/molの平均分子量を有してよい。一つの実施態様では、ポリエチレングリコールは、およそ200~400g/mol、例えば、300~450g/molの平均分子量を有する。
【0116】
ビヒクルの成分の性質および相対量によって、組成物は液体、半固体または固体となりうる。例えば、分子量の大きいPEGを使用すれば、組成物の粘度はそれが「半固体」または固体と見なせる程度に増大し得るが、より低分子量のPEGは液体組成物を生じうる。このような組成物に関して溶液についての言及には、固体溶液ならびに液体(または半固体)溶液を含む。
【0117】
代わりにまたは加えて、ビヒクルは、カプリル酸またはカプリン酸ならびにカプリル酸またはカプリン酸のモノ、ジおよびトリエステルを含んでなりうる。このようなエステルの例には、モノカプリル酸プロピレングリコール、モノカプリル酸グリセロール、ジカプリル酸グリセロール、トリカプリル酸グリセロール、モノカプリン酸グリセロール、ジカプリン酸グリセロール、およびトリカプリン酸グリセロールが含まれる。カプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリド(Labrasol(登録商標)ALF)は、カプリル酸およびカプリン酸のモノ、ジおよびトリグリセロールエステルと200~400g/molの平均分子量を有するポリエチレングリコールのモノおよびジエステルとの混合物を含有する市販のビヒクルである。
【0118】
別の選択肢では、ビヒクルは、リノール酸またはオレイン酸などのより長鎖の脂肪酸のモノグリセリドを含んでなりうる。このようなビヒクルの例には、モノリノール酸グリセロール(Maisine CC(商標))およびモノオレイン酸グリセロール(タイプ40、Peceol(商標))が含まれる。
【0119】
一つの実施態様では、ビヒクルは、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物から選択される。例えば、ビヒクルは、プロピレングリコールとエタノールの組み合わせ、例えば、50:50~90:10%w/w比のプロピレングリコールとエタノール(例えば、75:25または85:15%w/w比のプロピレングリコールとエタノール)の組み合わせを含んでなりうる。一つの実施態様では、ビヒクルは、75:25~90:10%w/wの比のプロピレングリコールとエタノールの組み合わせを含んでなる。
【0120】
別の実施態様では、ビヒクルは、エタノール、ポリエチレングリコール400(PEG400)およびプロピレングリコール、ならびにそれらの混合物から選択される。
【0121】
組成物は一般に、1日に1.2gまでの総一日用量を与えるための化合物(1)の経口投与を見込むものである。本発明の組成物では、ビヒクル中の化合物(1)の濃度は、10mg/ml~130mg/ml、例えば、40mg/ml~125mg/ml、より特定的には110mg/ml~125mg/mlの範囲でありうる。120mg/mlの濃度は、10mlの組成物中で投与される1.2g用量の化合物(1)を見込んでいる。
【0122】
あるいは、組成物は、カプセル内に含有されてもよい。ここに記載される組成物を送達するために好適なカプセルには、ゼラチン硬カプセルまたは軟カプセルが含まれる。一つの実施態様では、組成物は、ゼラチン軟カプセル内に含有される。ここに用いられる「ゼラチン」という用語は、ゼラチンそのものから製造されたカプセルだけでなく、プルランまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの修飾セルロースといった非ゼラチン等価物から製造されたカプセルも意味する。
【0123】
この組成物はまた、選択されたビヒクル中での化合物(1)の溶解度を助けるために1つまたは複数の界面活性剤を含んでなってもよい。界面活性剤はまた、組成物が胃腸管で希釈されたときに式(1)の化合物の沈澱を阻害する働きもしうる。
【0124】
界面活性剤は一般に非イオン界面活性剤である。
【0125】
非イオン界面活性剤は、例えば、ポリオールエステル、ポリオキシエチレンエステルまたはポロキサマーでありうる。
【0126】
一つの実施態様では、界面活性剤は、下式を有するD-α-トコフェロールポリエチレングリコールスクシナート(TPGS)などのトコフェロールポリエチレングリコール(TPG)であり、
【化15】
ここで、nの平均値は、約10~約30の領域、より一般には約15~約27の範囲、例えば約20~25の範囲である。一つの特定のTPGSは、α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート(およその平均分子量1513)であり、ここで、ポリオキシエチレン部分[-O-CH
2-CH
2]
nは、約1000(例えば、950~1050)の分子量を有し、nの平均値は約22である。ポリオールエステルの例には、グリコールおよびグリセロールエステルならびにソルビタン誘導体が含まれる。
【0127】
ソルビタンの脂肪酸エステル(一般にSpanと呼ばれる)およびそれらのエトキシル化誘導体(一般にTweenと呼ばれる)には、ソルビタンモノラウラート(Span 20)、ソルビタンモノパルミタート(Span 40)、ソルビタンモノステアラート(Span 60)、ソルビタンモノオレアート(Span 80)、ソルビタントリステアラート(Span 65)、ソルビタントリオレアート(Span 8)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウラート(Tween 20)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミタート(Tween 40)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアラート(Tween 60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレアート(Tween 80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアラート(Tween 65)およびポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレアート(Tween 85)が含まれる。
【0128】
界面活性剤の他の特定の例には、ポリオキシル40水素化ヒマシ油(クレモフォールRH40、Kolliphor(登録商標)RH40)、ポリオキシル35ヒマシ油(クレモフォールEL、Kolliphor(登録商標)EL)、ポリソルベート80(Tween 80)、Gelucire 44/14(ラウロイルマクロゴール-32グリセリド)、Solutol HS-15(マクロゴール15ヒドロキシステアラート)およびLabrasol(登録商標)ALF(カプリロカプロイルマクロゴール-8グリセリド)が含まれる。一つの実施態様では、界面活性剤は、クレモフォールRH40である。
【0129】
一つの実施態様では、組成物は、式(1)の化合物、エタノールおよびトコフェロールポリエチレングリコール(TPG)、例えば、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート(TPGS)を含んでなる。エタノールおよびTPGは、20:80 エタノール:TPG~60:40 エタノール:TPG、例えば、30:70 エタノール:TPG~50:50 エタノールの範囲の比率で存在してよい。
【0130】
別の実施態様では、組成物は、式(1)の化合物に加えて、
(i)プロピレングリコール;
(ii)非イオン界面活性剤(例えば、クレモフォールRH40およびトコフェロールポリエチレングリコール);および場合により、
(iii)エタノール
を含んでなるビヒクルを含んでなる。
【0131】
別の実施態様では、組成物は、式(1)の化合物に加えて、
(i)プロピレングリコール;
(ii)ポリオキシエチレンエステル非イオン界面活性剤;および場合により、
(iii)エタノール
を含んでなるビヒクルを含んでなる。
【0132】
ポリオキシエチレンエステル非イオン界面活性剤は、例えば、以上に定義されたようなD-α-トコフェロールポリエチレングリコールスクシナート(TPGS)などのトコフェロールポリエチレングリコール(TPG)でありうる。
【0133】
一つの特定の実施態様では、組成物は、エタノール(iii)を含有しない。
【0134】
別の特定の実施態様では、組成物は、エタノール(iii)を含有する。
【0135】
別の特定の実施態様では、ビヒクルは、プロピレングリコールおよびトコフェロールポリエチレングリコール(TPG)を含んでなる。この実施態様では、ビヒクルは、TPGSを1:2~10:1 プロピレングリコール:TPGSの重量比で含んでなってよく、場合により、エタノールを1:10~2:1 エタノール:プロピレングリコールの重量比でさらに含んでなってよい(例えば、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシナート(TPGS)を1:2~5:1 プロピレングリコール:トコフェロールポリエチレングリコールの重量比で含んでなってよく、および場合により、エタノールを1:10~2:1のエタノール:プロピレングリコールの重量比でさらに含んでなってよい)。
【0136】
式(1)の化合物、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンエステル非イオン界面活性剤、および場合によりエタノールを含んでなる組成物は、好都合には、カプセル、例えば、ゼラチン硬カプセルまたはゼラチン軟カプセル内に含有されてよい。
【0137】
工程a)の式(1)の化合物は結晶形であり得る。一つの実施態様では、工程a)の式(1)の化合物は、ここに記載されるような結晶形である。
【0138】
医薬化合物の低い水溶解度は、化合物の固体粒径を縮小することによって改善される場合がある。医薬化合物の粒径の縮小により、溶媒和に利用できる表面積が増す。
【0139】
よって、本発明のさらなる態様では、1μm~100μmの質量中央径を有する粒子の形態の式(1)の化合物が提供される。
【0140】
これらの粒子は、2μm~50μm、例えば、2μm~25μmまたは2μm~10μmの質量中央径を有しうる。これらの粒子は経口投与(一般に、場合により1つまたは複数の医薬上許容される賦形剤を含んでなる経口投与可能な製剤として)または例えば吸入によるなどの他の手段を介した投与が可能である。粒子が吸入による投与に意図される場合、それらの粒子は一般に1μm~10μmまたは1μm~5μmの質量中央径を有する。
【0141】
粒径は、画像解析法、レーザー回折法または篩い分け技術によって決定することができる。
【0142】
これらの粒子は機械的微粉化法または溶液に基づく相分離法のいずれかを介して生産されうる。機械的微粉化法の例には、製粉技術が含まれる。
【0143】
溶液に基づく技術は、一般に、溶媒としての液体、圧縮ガス、臨界に近い液体もしくは超臨界流体、または急速冷凍のための冷却媒体の使用を含む。これらの技術は、蒸発による溶媒と医薬化合物の相分離、発泡、冷凍または溶媒組成の変更を含む。
【0144】
これらの粒子は凍結乾燥によって生産されうる。あるいは、これらの粒子は噴霧乾燥によっても形成されうる。
【発明の具体的説明】
【0145】
定義
式(1)の化合物は、本明細書では、便宜上、その化学名、または「化合物」、「式(1)の化合物」、「化合物(1)」もしくは「本発明の化合物」と呼称される場合がある。これらの別称はそれぞれ、上記の式(1)に示され、化学名(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドを有する化合物を意味する。
【0146】
粒径を定義するためにここに用いられる質量中央径という用語は、質量で粒子の50%がより大きい直径で、50%がより小さい直径であると定義される。この直径は等価球径を意味し、非球径粒子の等価球径は、非球形粒子と同体積を有する球形粒子の直径に相当する。
【0147】
ERK1/2とは、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のERK1アイソザイムおよびERK2アイソザイムのいずれかまたは両方を意味する。
【0148】
「効力」とは、ある既知の強度の効果を発揮するために要する量として表される薬物活性の指標である。非常に強力な薬物は、低濃度でより大きな反応を引き起こす。効力は、親和性と有効性に比例する。親和性は、薬物が酵素と結合する能力である。有効性とは、分子、細胞、組織、そして系のレベルで、標的への占有性と反応を開始させる能力との関係である。
【0149】
「阻害剤」という用語は、ERK1/2を介する生物反応を遮断したり、弱めたりするリガンドや薬物である酵素阻害薬を指す。阻害剤は、酵素上にある活性部位やアロステリック部位と結合することでその効果を伝える。あるいは、酵素活性の生物学的調節に通常は関与しない特別な部位に結合し、反応を引き起こす。阻害は、直接あるいは間接的に行われ、どのような機序でも、どのような生理的レベルでも起こりうる。結果として、リガンドや薬物による阻害は、さまざまな状況下で機能的に異なる方法で発揮される。阻害活性は、阻害剤・酵素複合体の寿命に応じ、あるいは阻害剤と酵素の結合の性質に応じて、可逆的あるいは不可逆的である。
【0150】
ここで、病状、すなわち状態、障害または疾患を治療するという文脈で用いられる用語「治療」は、一般に治療および療法に関し、ヒトのためまたは動物(例えば獣医学領域の応用)のために拘わらず、そこにおいて望ましい治療効果、例えば病状の進展の抑制を達成し、進展速度を遅くし、進展速度を一旦停止し、治療する症状に関連するまたはそれが原因となっている少なくとも1つの病状を軽減または緩和し、および病状を完治することを含む。例えば、治療は、障害の1つまたは複数の症状の減少、あるいは障害の完全な根絶であり得る。
【0151】
ヒトに対するものであれ、動物(獣医学領域で適用される)に対するものであれ、一般に予防や防止に関連する「予防」(すなわち予防的手段としての化合物の使用)という用語は、ここではある状態や障害・疾患を予防するという意味で使う。例えば、疾患発症の予防や疾患からの防御など、望まれる予防効果が達成されることをいう。予防には、ある障害のすべての症状の期限を定めない完全な阻止、疾患の一つ以上の症状の発現を遅らせること、あるいは疾患を発症させにくくすることが含まれるが、ある状態の改善、その状態により惹き起こされたあるいは関連した少なくとも一つ以上の症状の消失・軽減とその状態の治癒は含まれない。
【0152】
癌などの病態・病状の予防や治療に、癌発生率の改善と減少も適用範囲に含まれる。
【0153】
ここに用いられる「媒介される」という用語は、例えばここに記述したERK1/2と一緒に使われている(そしてさまざまな生理プロセス、疾患、状態、治療あるいは介入にも適用される)ように、この用語が適用されるさまざまなプロセス、疾患、状態、治療あるいは介入が、特定のタンパク質には一つの生物学的な働きがあるというように、制限的に用いることが意図されている。この用語が疾患や状態に適用される場合には、タンパク質が果たす生物学的役割は、直接的かもしれないし、間接的かもしれない。また、疾患や状態による症状の発現(あるいは病因や進展)に必要かつ/または十分なものかもしれない。このように、タンパク質の機能は(例えば過剰発現や過小発現など、特に機能異常のレベルでは)、必ずしも疾患や状態の根幹となる原因である必要は無い。むしろ、媒介される疾患や状態は、問題となるタンパク質が部分的にのみ関与する多因子から成る病因であり、複合的に進展するものであると考えられる。この用語が治療、予防、介入などに適用される場合には、タンパク質が果たす役割は、直接的かもしれないし、間接的かもしれない。また、治療や予防の実施、あるいは介入成績に必要かつ/または十分なものかもしれない。このように、タンパク質を媒介する病態や病状は、特定の抗癌薬や治療に対する耐性の発現も含む。
【0154】
発明の組み合わせ物は、個別に投与される時の個々の化合物/薬剤の治療効果に比べて治療に有効な効果を示し得る。
【0155】
「効果がある」という用語は、相加・相乗効果、副作用の減少、毒性の減少、疾患の進展を遅らせる、生存期間を延長させる、ある薬から別の薬への感作や再感作と奏功率の改善など、有益な効果を表す。有効な効果は患者に投与される成分あるいはいずれかの成分が低用量であることが望ましく、同じ治療効果を発揮し、あるいは維持しながら、これにより化学療法の毒性を減少させる。この文脈でいう「相乗」効果は、併用により生まれる治療効果が個々の薬剤が個別に示す効果の和よりも大きいことを指す。この文脈でいう「相加」効果は、併用により生まれる治療効果が、どの薬剤が個別に示す治療効果よりも大きいことを指す。ここに用いられる「奏効率」という用語は、固形腫瘍の場合、ある時点、例えば12週での腫瘍サイズの減少を意味する。例えば、50%奏効率は腫瘍サイズの50%の減少を意味する。ここでいう「臨床奏功」は、50%以上の奏効率を指す。「部分奏功」は、ここでは0%以上50%未満の奏効率と定義する。
【0156】
複数の化合物や化学物質に適用される「組み合わせ(物)」という用語はここで用いたように、複数の化学物質が結びつけられた材料を定義するよう、意図されている。この文脈において、「組み合わせられる」や「組み合わせる」という用語も同様に解釈される。
【0157】
組み合わせ物における2つ以上化合物/化学物質の結びつきは、物理的あるいは非物理的のどちらかである。物理的に結びつけられ、組み合わせられる化合物/化学物質の例は、以下である。
・混合物(例えば同じ個別容器内の組成物で)中に2つ以上化合物/化学物質を含む組成物(例を挙げると単一製剤)
・2つ以上化合物/化学物質を(例えば架橋、分子凝集や一般的な賦形剤との結合により)化学的/物理化学的につなぐ材料を含む組成物
・2つ以上化合物/化学物質を化学的/物理化学的に(例えば、脂質小胞・粒子(例えばマイクロ粒子/ナノ粒子)やエマルジョン滴上に配置あるいはこれらの内部に)一緒にパッケージ化した材料を含む組成物
・2つ以上化合物/化学物質を一緒にパッケージ化あるいは共存させた医薬キット、医薬パックあるいは患者向パック(例えば、一連の個別容器内に封入した製剤の一部として)
【0158】
非物理的に結びつけられ、組み合わせられる化合物/化学物質は、以下の例である。
・2つ以上化合物/化学物質を物理的に結びつけられるよう、説明書とともに、少なくとも一つの化合物が2つ以上化合物/化学物質の少なくとも一つと偶発的に会合するような材料(例を挙げると非単一製剤)
・2つ以上化合物/化学物質による併用療法の説明書とともに、2つ以上化合物/化学物質の少なくとも一つを含む材料(例を挙げると非単一製剤)
・他の一つまたは2つ以上化合物/化学物質が投与された、投与されている患者集団への投与の説明書とともに、2つ以上化合物/化学物質の少なくとも一つを含む材料
・他の一つまたは2つ以上化合物/化学物質との組み合わせ物で特別に適用される量や規格で、2つ以上化合物/化学物質の少なくとも一つを含む材料
【0159】
ここに用いられる「組み合わせ療法」という用語は、(上述したように)2つ以上化合物/化学物質の組み合わせの使用からなる治療を定義するよう意図している。このように、「組み合わせ療法」、「組み合わせ物」や2つ以上化合物/化学物質の「組み合わせでの」使用は、ここでは、同一の全治療計画の一部として投与される2つ以上化合物/化学物質を意味するものとする。そういう事情で、2つ以上化合物/化学物質の個々の化合物の薬量は異なるものとする。個々の化合物は同時または別に投与される。従って、組み合わせの化合物/化学物質は同一製剤として(一緒に)あるいは別の製剤として(別々に)、連続的(前か後に)あるいは同時に投与されることになる。同じ単一製剤は同時に、非単一製剤では別製剤として同時に投与される。2つ以上化合物/化学物質の個々の化合物の薬量も投与経路に応じて異なるものとする。
【0160】
ここに用いられる「医薬キット」という用語は、計量手段(例えば測定装置)および/または薬物供給手段(例えば吸入器や注射器)とともに、必要に応じてすべてを共通の外箱内に収めて、一つ以上の個別容器内に封入された一連の医薬組成物と定義する。複数の化合物/化学物質の組み合わせ物からなる医薬品キットでは個々の化合物/化学物質は単一製剤あるいは非単一製剤でよい。個別容器にはブリスターパック(中身が見えるプラスチックの包み)が含まれる。医薬キットには必要に応じて使用説明書が含まれる。
【0161】
ここに用いられる「医薬パック」という用語は、必要に応じてすべてを共通の外箱内に収めて、一つ以上の個別容器内に封入された一連の医薬組成物と定義する。複数の化合物/化学物質の組み合わせ物からなる医薬品パックでは個々の化合物/化学物質は単一製剤あるいは非単一製剤でよい。個別容器にはブリスターパック(中身が見えるプラスチックの包み)が含まれる。医薬パックには必要に応じて使用説明書が含まれる。
【0162】
塩、溶媒和物、互変異性体および同位体
式(1)の化合物についての言及には、文脈がそうではないことを示さない限り、そのイオン形、塩、溶媒和物、互変異性体および同位体変形形態を含む。
【0163】
塩
式(1)の化合物は、塩、特に、酸付加塩の形態で存在することができる。このような塩は全て本発明の範囲内にあり、式(1)の化合物についての言及には、文脈が別途指示しない限り、その化合物の塩形態を含む。
【0164】
化合物(1)の塩は、Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, P. Heinrich Stahl (Editor), Camille G. Wermuth (Editor), ISBN: 3-90639-026-8, Hardcover, 388 pages, August 2002に記載される方法などの従来の化学法によって化合物(1)から合成することができる。一般に、このような塩は、水もしくは有機溶媒中、またはその2つの混合物中で化合物の遊離塩基形態と適当な酸を反応させることによって作製することができ、一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルなどの非水性媒体が使用される。
【0165】
酸付加塩(モノ-またはジ-塩)は、多種多様の、無機および有機両方の酸で形成されてもよい。酸付加塩の例としては、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)カンファー酸、カンファー-スルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、D-グルコン酸、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、ハロゲン化水素酸(例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸)、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸、(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、(-)-L-リンゴ酸、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノ-サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)-L-酒石酸、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデシレン酸、および吉草酸、ならびにアシル化アミノ酸およびカチオン交換樹脂からなる群から選択される酸と形成したモノ-またはジ-塩が挙げられる。
【0166】
塩の1つの特定の群は、酢酸、塩酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、イセチオン酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸(メシラート)、エタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、吉草酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、マロン酸、グルクロン酸、およびラクトビオン酸から形成される塩からなる。1つの特定の塩は、塩酸塩である。
【0167】
本発明の化合物の塩形態は、典型的には、薬学的に許容可能な塩であり、薬学的に許容可能な塩の例は、Berge et al., 1977, "Pharmaceutically Acceptable Salts," J. Pharm. Sci., Vol. 66, pp. 1-19で論じられている。しかし、薬学的に許容可能でない塩もまた、そのすぐ後で薬学的に許容可能な塩に変換され得る中間体形態として、製造されてもよい。例えば、本発明の化合物の精製または分離において有用であり得る、このよう薬学的に許容可能でない塩形態もまた、本発明の一部を形成する。
【0168】
幾何異性体および互変異性体
式(1)の化合物は、いくつかの異なる互変異性形で存在する場合があり、式(1)の化合物についての言及には、文脈が別途指示しない限り、そのような形態の全てを含む。誤解を避けるために、化合物が互変異性形のうちの1つで存在することができ、1つのみが具体的に記載されている場合には、やはりその他のもの全てが式(1)により包含される。
【0169】
立体化学を示すための「破線」または「くさび線」を使用する慣例は、例えば、以下に表される2つの分子によって示されるように、特定の立体化学形態を表すために使用されている。
【0170】
【化16】
(S)-2-(6-ブロモ-1-オキソイソインドリン-2-イル)-3-ヒドロキシプロパン酸メチル
【0171】
【化17】
(R)-2-(6-ブロモ-1-オキソイソインドールin-2-イル)プロパン酸tert-ブチル
【0172】
光学異性体は、光学活性(すなわち、+および-異性体、またはdおよびl異性体のように)により特徴づけ、ならびに識別されてもよく、これらはCahn, Ingold and Prelog, see Advanced Organic Chemistry by Jerry March, 4th Edition, John Wiley & Sons, New York, 1992, pages 109-114, およびまた、Cahn, Ingold & Prelog, Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1966, 5, 385-415により展開された命名法「RおよびS」を使用して、その絶対立体化学を基準にして特徴づけてもよい。
【0173】
光学異性体は、キラルクロマトグラフィー(キラル担体上のクロマトグラフィー)を含む多数の技術によって分離することができ、このような技術は当業者に周知である。
【0174】
キラルクロマトグラフィーに代えて、光学異性体は、(+)-酒石酸、(-)-ピログルタミン酸、(-)-ジ-トルオイル-L-酒石酸、(+)-マンデル酸、(-)-リンゴ酸、および(-)-カンファースルホン酸などのキラル酸とのジアステレオマー塩を形成し、優先的結晶化によりジアステレオマーを分離して、次いで塩を解離させて、遊離塩基の個々のエナンチオマーを得ることによって分離することができる。同様に、酸性化合物の光学異性体は、ブルシン、シンコニジン、キニーネなどのキラルアミンとのジアステレオマー塩を形成することによって分離することができる。
【0175】
さらに、エナンチオマーの分離は、化合物上の鏡像異性的に純粋なキラル補助基と共有結合させて、次いでクロマトグラフィーなどの従来の方法を使用してジアステレオマーの分離を行うことにより達成することができる。次いで、これに続いて上述の共有結合を開裂して、適切な鏡像異性的に純粋な生成物を生成する。例えば、遊離ヒドロキシル基を含有するキラル化合物の光学異性体は、モッシャーの酸エステルを形成して、次いで得られたジアステレオマーをクロマトグラフィーにより分離し、続いてエステルを開裂させて遊離ヒドロキシル基を再生することにより、分離することができる。
【0176】
本出願において化合物中に具体的な立体化学配置が示されている場合、これは、化合物の少なくとも55%(例えば、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%)が、その化合物の他の異性形とは明瞭に異なる立体化学形態で存在することを意味するものと理解されうる。一つの一般的な実施態様では、式(1)の化合物の総量の99%以上(例えば実質的に全て)が、示される立体化学配置で存在する。
【0177】
同位体変形形態
本明細書で化合物(1)についての言及は、その全ての医薬上許容される同位体標識変形形態を含む、この場合、1以上の原子が同一の原子番号を有するが、通常天然に見出される原子量または質量数とは異なる原子量または質量数を有する原子によって置き換えられている。
【0178】
本発明の化合物に含まれるのに好適な同位体の例は、2H(D)および3H(T)などの水素、11C、13Cおよび14Cなどの炭素、36Clなどの塩素、18Fなどのフッ素、13Nおよび15Nなどの窒素、ならびに15O、17Oおよび18Oなどの酸素の同位体を含んでなる。
【0179】
式(1)の同位体標識化合物、例えば、放射性同位体を組み込んだものが、薬物および/または基質組織の分布研究において有用である。式(1)の化合物はまた、標識化合物と、その他の分子、ペプチド、タンパク質、酵素、またはレセプターとの間の複合体の形成を検出または同定するのに使用可能であるという点で、価値の高い診断特性を有し得る。検出または同定の方法は、放射性同位体、酵素、蛍光物質、発光物質(例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、エクオリンおよびルシフェラーゼ)などの標識剤を用いて標識される化合物を使用することができる。放射性同位体トリチウム(すなわち3H(T))および炭素-14(すなわち14C)が、それらの取り込みの容易さと迅速な検出手段という観点から、この目的において特に有用である。
【0180】
重水素(すなわち2H(D))などの重質同位体による置換を行うと、例えばin vivo半減期が長くなるか、または必要な投薬量が少なくなるなど、代謝安定性がより高くなることに起因する特定の治療的利点が得られる場合があり、従って、いくつかの状況では好ましい場合がある。特に、本出願における水素についての全ての言及は、水素が明白に定義されるか、または水素が、関連原子の(特に炭素の)原子価を満たすために暗に存在しているかにかかわらず、1Hおよび2Hを包含すると解釈されなければならない。
【0181】
11C、18F、15Oおよび13Nなどの陽電子放出同位体による置換は、標的占有率を調べるための陽電子放出断層撮影(PET)研究において有用であり得る。
【0182】
式(1)の同位体標識化合物は、一般に、当業者に公知の従来技術により、または先に使用した標識されていない試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を使用して添付の実施例および調製に記載されるものと類似の方法により調製できる。
【0183】
複合体
式(1)はまた、化合物の複合体(例えば、シクロデキストリンなどの化合物との包接複合体もしくは包接化合物、または金属との錯体)をその範囲内に含む。包接複合体、包接化合物および金属錯体は当業者に周知の手段によって形成することができる。
【0184】
生物学的特性
化合物(1)は医薬または治療において有用であることが想定される。
【0185】
本発明の化合物は、ERK1/2の阻害剤で、ここに述べる病態または病状、例えば後述する疾患と病状および上の「発明の背景」の項で記述したERK1/2が役割を果たす疾患と病状を予防または治療するのに有用である。加えて、本発明の化合物は、ERK1/2によって媒介される疾患または病状、例えばMAPK経路の上流成分(例えばRAS、K-RAS、NRASおよびRAF)内の活性化変異の結果としてERK1/2活性が必要とされるまたは上方制御される癌などの疾患または病状を予防または治療するのに有用である。
【0186】
癌などの病態または病状の防止もしくは予防または治療についての言及には、それらの範囲内に疾患または病状の発生率の軽減または低減を含む。よって、例えば、本発明の化合物が癌の発生率の軽減または低減に有用であることが想定される。
【0187】
以下の式(1)の化合物についての言及には、ここに記載される式(1)の化合物の結晶形およびここに記載される方法に従って製造される式(1)の化合物を含む。
【0188】
よって、本発明のさらなる実施態様では、以下のものが提供される。
・医薬において用いられる式(1)の化合物。
・ERK1/2により媒介される疾患または病状の予防または治療に用いられる式(1)の化合物。
・ERK1/2により媒介される疾患または病状の予防または治療のための薬剤の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において、ERK1/2によって媒介される疾患または病状を予防または治療する方法であり、治療に有効な量の式(1)の化合物を対象者に投与することを含んでなる方法。
・ERK1/2により媒介される疾患または病状の発生率の軽減または低減に用いるための式(1)の化合物。
・ERK1/2により媒介される疾患または病状の発生率の軽減または低減のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において、ERK1/2により媒介される疾患または状態の発生率を軽減または低減させる方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
【0189】
より特定的には、化合物(1)は、ERK1/2の阻害剤である。例えば、本発明の化合物は、ERK1またはERK2に対して、特にERK1/2に対して阻害能力を有する。
【0190】
式(1)の化合物のERK阻害剤は、ERK1/2と結合する能力があり、ERK1/2に対して効力を発揮する。一つの実施態様において、式(1)の阻害化合物は、他のキナーゼファミリーメンバーよりもERK1/2に選択性を示し、他のキナーゼファミリーメンバーに結合し、かつ/または阻害を示すというよりはむしろ、ERK1および/またはERK2に結合し、かつ/または阻害を示す能力があるものと思わる。
【0191】
細胞シグナル伝達を制御するERK1/2の機能はまた、細胞蓄積が関連する疾患(例えば癌、自己免疫疾患、炎症および再狭窄)、過剰なアポトーシスが細胞消失を来す疾患(例えば脳卒中、心不全、神経変性(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症など)、エイズ、虚血(脳卒中、心筋梗塞)および骨粗鬆症または多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患を含む多くの疾患に関連付けられている。
【0192】
以上の実施態様のいずれかに言及されるERK1/2により媒介される疾患または病状は、上記の疾患および病状のいずれか1つまたは複数でありうる。
【0193】
従って、ここに定義される本発明の化合物は、他の病状、例えば炎症、肝炎、潰瘍性大腸炎、胃炎、自己免疫、炎症、再狭窄、脳卒中、心不全、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋強直性ジストロフィーおよび筋萎縮性側索硬化症など)、エイズ、虚血(外傷性脳損傷、脊髄損傷、脳虚血、脳虚血/再灌流(I/R)傷害、急性および慢性CNS損傷虚血、脳卒中または心筋梗塞など)、骨粗鬆症などの筋骨格系の退行性疾患、自己免疫疾患(多発性硬化症(MS)およびI型糖尿病など)、およびプログラム細胞死の制御を失った結果起こる網膜変性などの眼の疾患の治療に有用でありうることが想定される。
【0194】
ERK1/2に対するその親和性のために、本発明の化合物は、細胞シグナル伝達を制御する手段を提供するのに有用であろう。従って、化合物が癌などの増殖性疾患の治療または予防に有用であることが証明される可能性があることが予想される。
【0195】
従って、さらなる実施態様において、本発明は以下を提供する。
・癌などの増殖性疾患の予防または治療に用いられる式(1)の化合物。
・癌などの増殖性疾患の予防または治療のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において、癌などの増殖性疾患を予防または治療する方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
・癌などの増殖性疾患の発生率の軽減または低減に用いられる式(1)の化合物。
・癌などの増殖性疾患の発生率の軽減または低減のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において癌などの増殖性疾患の発生率を軽減または低減する方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
【0196】
治療(または阻害)される可能性のある癌(およびそれらに相当する良性腫瘍)の例としては、限定されるものではないが、例えば膀胱癌および尿路癌、乳癌、消化管(食道、胃(胃腸)、小腸、結腸、直腸および肛門を含む)の癌などの上皮組織由来の腫瘍(腺癌、扁平上皮癌、移行上皮癌および他の癌腫を含むさまざまな型の腺腫および癌腫)、肝癌(肝細胞癌)、胆嚢および胆管系の癌、外分泌膵臓癌、腎癌、肺癌(例えば、腺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、細気管支肺胞上皮癌および中皮腫)、頭頸部癌(例えば、舌癌、口腔癌、喉頭癌、咽頭癌、鼻咽腔癌、扁桃癌、唾液腺癌、鼻腔および副鼻腔の癌)、卵巣癌、卵管癌、腹膜癌、膣癌、外陰部癌、陰茎癌、頸部癌、子宮筋層癌、子宮内膜癌、甲状腺癌(例えば、甲状腺濾胞癌)、副腎癌、前立腺癌、皮膚癌および付属器の癌(例えば悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、角化棘細胞腫、異形成母斑);悪性血液疾患(すなわち、白血病、リンパ腫)および悪性血液疾患やリンパ系の関連疾患を含む前癌性血液疾患および境界悪性疾患(例えば急性リンパ性白血病[ALL]、慢性リンパ性白血病[CLL]、B細胞リンパ腫(例えばびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫[DLBCL])、濾胞性リンパ腫、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、T細胞性リンパ腫および白血病、ナチュラルキラー[NK]細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、有毛細胞白血病、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症、形質細胞腫、多発性骨髄腫および移植後のリンパ球増殖性疾患)、悪性血液疾患および骨髄細胞系関連疾患(例えば、急性骨髄性白血病[AML]、慢性骨髄性白血病[CML]、慢性骨髄単球性白血病[CMML]、好酸球増多症候群、骨髄増殖性疾患(例えば真性多血症)、本態性血小板血症および原発性骨髄線維症、骨髄増殖性症候群、骨髄異形成症候群および前骨髄球性白血病);間葉由来の腫瘍、例えば、骨肉腫、線維肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、カポシ肉腫、ユーイング肉腫、滑膜肉腫、類上皮肉腫、消化管間質腫瘍、良性および悪性組織球腫と隆起性皮膚線維肉腫などの軟組織の肉腫、骨または軟骨の肉腫;色素細胞性腫瘍を含む神経堤細胞由来腫瘍(例えば、悪性黒色腫またはぶどう膜黒色腫)、末梢神経および頭蓋神経の腫瘍、末梢神経芽細胞腫瘍(例えば神経芽細胞腫)、CNSの胚芽腫、傍神経節腫;中枢神経系または末梢神経系の腫瘍(例えば、星状細胞腫、神経膠腫および膠芽腫、髄膜腫、上衣腫、松果体腫瘍およびシュワン細胞腫);内分泌腫瘍(例えば、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、膵島細胞腫瘍、副甲状腺腫瘍、カルチノイド腫瘍および甲状腺髄様癌);眼および付属器の腫瘍(例えば網膜芽細胞腫);胚細胞腫瘍およびトロホブラスト腫瘍(例えば、奇形腫、セミノーマ、未分化胚細胞腫、胞状奇胎および絨毛癌);および小児腫瘍と胎児性の腫瘍(例えば、髄芽腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍および未分化神経外胚葉性腫瘍);または患者が悪性疾患に罹患しやすい状態(例えば、色素性乾皮症)になる先天性もしくはその他の症候群が含まれる。治療(または阻害)されうる癌(およびそれらに相当する良性腫瘍)のさらなる例としては、限定されるものではないが、精巣および脳の腫瘍(例えば神経腫)が含まれる。
【0197】
よって、異常な細胞増殖(すなわち制御不能および/または急速な細胞増殖)を含んでなる疾患または病状を治療するための本発明の医薬組成物、使用または方法において、1つの実施態様における異常な細胞増殖を含む疾患または病状は癌である。
【0198】
一つの実施態様において、悪性血液疾患は白血病である。別の実施態様において、悪性血液疾患はリンパ腫である。一つの実施態様において、本発明の化合物は、急性または慢性白血病、特に急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)または慢性骨髄性白血病(CML)などの白血病の予防または治療に用いられる。一つの実施態様において、本発明の化合物は、急性または慢性リンパ腫、特にバーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫またはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などのリンパ腫の予防または治療に用いられる。一つの実施態様において、本発明の化合物は、急性骨髄性白血病(AML)または急性リンパ性白血病(ALL)の予防および治療に用いられる。一つの実施態様において、癌はAMLである。別の実施態様において、癌はCLLである。
【0199】
多くの疾患は、持続性および制御不能の血管新生を特徴とする。慢性増殖性疾患は、しばしば広範囲の血管新生を伴い、それは炎症性および/または増殖性の状態を引き起こしまたは持続させることができ、あるいは、血管の浸潤性増殖により組織破壊に至る。腫瘍の増殖と転移は、血管新生に依存することがわかっている。従って、本発明の化合物は、腫瘍の血管新生の開始を予防し阻害するのに有用でありうる。特に、本発明の化合物は、転移と転移癌の治療に有用でありうる。
【0200】
転移または転移性疾患は、ある器官または部分から別の隣接しない器官または部分への疾患の拡散である。本発明の化合物によって治療することができる癌は、原発腫瘍(すなわち起源部位における癌細胞)、局所浸潤(局所で周囲の正常組織に侵および浸潤する癌細胞)および転移性(または二次性)腫瘍、すなわち血流(血行性転移)を通って、またはリンパを介して、または体腔(体腔横断)を横切って身体のその他の部位および組織に循環した悪性細胞から形成された腫瘍を含む。
【0201】
上記の実施態様において、特定の癌には、肝細胞癌、黒色腫、食道癌、腎臓癌、結腸癌および結腸直腸癌、肺癌(例えば中皮腫または肺腺癌)、乳癌、膀胱癌、胃腸癌、卵巣癌および前立腺癌を含む。
【0202】
癌の別のサブセットは、腎臓癌、黒色腫、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌および前立腺癌からなる。
【0203】
癌の別のサブセットは、膵臓癌からなる。
【0204】
癌の別のサブセットは、急性および慢性白血病、急性骨髄性白血病(AML)および慢性リンパ性白血病(CLL)などの白血病からなる。
【0205】
癌のさらなるサブセットは、悪性腹膜中皮腫または悪性胸膜中皮腫を含む中皮腫からなる。
【0206】
ある癌は、特定の薬物による治療に対して耐性がある。これは腫瘍の種類(最も一般的な上皮性悪性腫瘍は、本来、化学療法耐性である)によるものである可能性があり、あるいは、耐性が疾患の進展に伴い、または治療の結果として自然に生じる場合もある。この点に関して、中皮腫についての言及には、トポイソメラーゼ毒、アルキル化剤、抗チューブリン剤、抗葉酸剤、白金化合物および放射線治療に耐性を示す中皮腫、特にシスプラチン耐性中皮腫を含む。同様に、多発性骨髄腫についての言及には、ボルテゾミブ感受性多発性骨髄腫または難治性多発性骨髄腫を含み、慢性多発性骨髄腫についての言及には、イマチニブ感受性慢性骨髄性白血病および難治性慢性骨髄性白血病を含む。この点に関して、前立腺癌についての言及には、抗アンドロゲン療法に耐性を示す前立腺癌、特にアビラテロンもしくはエンザルタミド、または去勢耐性前立腺癌を含む。悪性黒色腫についての言及には、BRAFおよび/またはMEK阻害剤による治療に耐性のある黒色腫を含む。
【0207】
癌は、ERK1またはERK2、中でも特にERK1/2の阻害に感受性のある癌でああってもよい。
【0208】
さらに、本発明の化合物は、上昇したRas、BRAFおよび/またはMEKシグナル伝達の存在に関連する、またはそれを特徴とするタイプの癌の治療または予防に特に有用であろう。
【0209】
Ras、BRAFまたはMEKシグナル伝達のレベルに上昇は多くの癌で見られ、予後不良に関係している。加えて、Ras、BRAFまたはMEK活性化変異を有する癌も、ERK1/2阻害剤に感受性がある可能性がある。Ras、BRAFまたはMEKシグナル伝達のレベルの上昇およびRas、BRAFまたはMEKの突然変異は、ここに概説される技術によって特定することができる。特定の癌がERK1/2阻害に感受性があるものかどうかは、「診断の方法」と題された項で示されるような方法によって決定することができる。
【0210】
癌のさらなるサブセットは、NRas黒色腫およびNRas AMLからなる。
【0211】
癌の別のサブセットは、KRas肺癌、KRas膵臓癌およびKRas結腸直腸癌(CRC)からなる。
【0212】
癌の別のサブセットは、BRAF結腸直腸癌(CRC)、BRAF肺癌およびBRAF黒色腫からなる。
【0213】
さらなる実施態様において、本発明は以下を提供する。
・Ras変異、BRAF変異またはMEK変異を有する疾患または病状の予防または治療に用いる式(1)の化合物。
・Ras変異、BRAF変異またはMEK変異を有する疾患または病状の予防または治療のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)においてRas変異、BRAF変異またはMEK変異を有する疾患または病状を予防または治療する方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
・Ras変異、BRAF変異またはMEK変異を有する疾患または病状の発生率の軽減または低減に用いる式(1)の化合物。
・Ras変異、BRAF変異またはMEK変異を有する疾患または病状の発生率の軽減または低減のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において、Ras変異、BRAF変異またはMEK変異を有する疾患または病状の発生率を軽減または低減する方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
・NRas黒色腫およびNRas AMLから選択される癌の治療(または発生率の減少)に用いる式(1)の化合物。
・KRas肺癌、KRas膵臓癌およびKRas結腸直腸癌(CRC)から選択される癌の治療(または発生率の低減)に用いる式(1)の化合物。
・BRAF結腸直腸癌(CRC)、BRAF肺癌およびBRAF黒色腫から選択される癌の治療(または発生率の低減)に用いる式(1)の化合物。
・BRAF悪性黒色腫である癌の治療(または発生率の低減)に用いる式(1)の化合物。
・ここに定義されるような癌の予防または治療のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばヒトなどの哺乳類の対象者)において、癌を治療(または発生率を低減)する方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
・ここに記載されるような疾患または病状、特に癌の治療に用いる式(1)の化合物。
・ここに記載されるような疾患または病状、特に癌の治療のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において、ここに記載されるような疾患または病状、特に癌を予防または治療する方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
・ここに記載されるような疾患または病状、特に癌の発生率の軽減または低減に用いる式(1)の化合物。
・ここに記載されるような疾患または病状、特に癌の発生率の軽減または低減のための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において、ここに記載されるような疾患または病状、特に癌の発生率を軽減または低減する方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
【0214】
化合物(1)はまた、腫瘍増殖、病因、細胞を化学療法に対して感受性とすることによる化学療法および放射線治療に対する耐性の治療に、ならびに抗転移性剤として有用でありうる。
【0215】
あらゆる種類の治療的な抗癌介入は必ず標的腫瘍細胞に対するストレスを高める。そのようなストレスの有害作用を緩和する際に、ERK1/2が直接関与して、癌薬物および治療法の効果に耐性となる。よって、ERK1/2の阻害剤は、以下の潜在力を有する化学療法の一種を代表する:(i)抗癌剤および/または治療に対する悪性細胞の増感、(ii)抗癌剤および/または治療に対する耐性率の軽減または低減、(iii)抗癌剤および/または治療に対する耐性の転換、(iv)抗癌剤および/または治療の活性の増強、(v)抗癌剤および/または治療に対する耐性の発現の遅延または防止。
【0216】
ERK1/2を阻害する結果として、本化合物は細胞のシグナル伝達を制御する手段を提供するのに有用であろう。従って、本発明の化合物が、肝炎、潰瘍性大腸炎および胃炎などの炎症性疾患;アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋強直性ジストロフィーおよび筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患;エイズ、再狭窄、外傷性脳外傷、脊髄損傷、脳虚血、脳虚血/再灌流(I/R)傷害、急性および慢性中枢神経系損傷虚血、脳卒中または心筋梗塞などの虚血;骨粗鬆症などの筋骨格系の変性疾患;多発性硬化症(MS)およびI型糖尿病などの自己免疫疾患、ならびに網膜変性などの眼疾患などの他の病状を治療する際に有用でありうることが想定される。
【0217】
ERK1/2の阻害剤としての本発明の化合物の親和性は、本明細書の実施例に示される生物学的および生物物理学的なアッセイを用いて測定することができる。
【0218】
診断の方法
式(1)の化合物を投与する前に、対象者(例えば患者)を、患者が罹患しているかまたは罹患している可能性がある疾患または状態が、ERK1/2の阻害を示す化合物による治療に感受性があるかどうかを決定するためにスクリーニングしてよい。用語「患者」は、ヒトおよび獣医学的患者を含む。
【0219】
例えば、患者から採取した検体を分析して、患者が罹患または罹患している可能性のある癌などの疾患または状態が、ERK1/2レベルの上方制御、正常なERK1/2機能に対する経路の感作またはERK1/2活性化の下流の生化学経路の上方制御につながる遺伝子異常または異常なタンパク質発現を特徴とする疾患や病状であるかどうかを決定してもよい。
【0220】
結果的にERK1/2経路が活性化または感作されてしまうそのような異常な例には、発明の背景の項で述べたように、KRASやBRAFにおけるRasアイソフォームの変異を活性化することを含む。
【0221】
Rasの変異は、これに限定されないが、悪性黒色腫、結腸直腸癌、非小細胞肺癌および膵臓癌、前立腺癌、甲状腺癌、尿路癌および上気道癌などを含む細胞株と原発腫瘍で検出されている(Cancer Res. 2012; 72: 2457-2467)。
【0222】
用語「上方制御」は、遺伝子増幅(すなわち複数の遺伝子コピー)を含む発現の上昇または過剰発現、細胞遺伝学的異常および転写効果による発現の上昇、あるいはERK1/2の活性化を通じたシグナル伝達の増加を含む。このように、ERK1/2の上方制御を特徴とするマーカーを検出するために、前記患者は診断検査を受けてもよい。用語「診断」は、スクリーニングを含む。マーカーとは、遺伝子マーカーを含み、例えば、Ras(例えばKRAS)またはBRAF変異の存在を同定するDNA組成の測定を含む。用語「マーカー」もまた、タンパク質レベル、タンパク質の状態および上述したタンパク質のmRNA濃度を含むERK1/2の上方制御を特徴とするマーカーを含む。遺伝子増幅は、2~7コピー数の増加や、7コピー数を超えるものを含む。
【0223】
KRASとBRAFを検出するための診断検査法は、de Castro et al. Br. J. Cancer. 2012 Jul 10;107(2):345-51. doi: 10.1038/bjc.2012.259. Epub 2012 Jun 19, "A comparison of three methods for detecting KRAS mutations in formalin-fixed colorectal cancer specimens.” ; and Gonzalez et al., Br J Dermatol. 2013, Apr;168(4): 700-7. doi: 10.1111/bjd.12248, "BRAF mutation testing algorithm for vemurafenib treatment in melanoma: recommendations from an expert panel” およびここにあげる引用する参照に記載してある。
【0224】
BRAF変異の診断検査の多くはFDAの認可を得ているもので、試験の詳細はFDAのウェブサイトで閲覧できる。そのような診断検査の例として、cobas 4800 BRAF V600 変異試験、ロシュのベムラフェニブ製品用コンパニオンアッセイおよびTHxlD BRAF試験(タフィンラー(ダブラフェニブ)およびメキニスト(トラメチニブ)製品に対するコンパニオン検査)が含まれる。
【0225】
診断検査とスクリーニングは、通常、腫瘍の生検試料、血液試料(腫瘍細胞から隔離、濃縮)、脳脊髄液、血漿、血清、唾液、便生検、痰、染色体検査、胸腔内液、腹水、口腔粘膜塗抹、皮膚生検または尿から選択される生体試料(すなわち生体組織または体液)を用いて行われる。
【0226】
細胞遺伝学的な異常、遺伝子の増幅、変異およびタンパク質の上方制御を同定し分析する方法は、当業者には周知のものである。大部分の遺伝子の変異体のための臨床検査には、標準方法、例えばアレル特異的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR法)、従来のサンガー法または次世代のシークエンシング法、サンガー・ジデオキシシークエンシング法、ピロシーケンスなどによるDNA配列アッセイ、多重ライゲーション依存的なプローブ増幅(MLPA)またはARMS PCRが含まれるが、これに限定されるものではない。遺伝子コピー数と構造遺伝子変動のための臨床検査には、RNAシークエンシング(RNAseq)、ナノストリング・ハイブリッド近接RNA nCounterAnalysis、あるいは蛍光in-situハイブリダイゼーション(FISH)などのin-situハイブリダイゼーションなどの標準的な方法が含まれるが、これに限定されるものではない。より新しい、大規模並列処理のシークエンシングなどの次世代のシークエンシング(NGS)技術は、全エクソームシークエンシングまたは全ゲノムシークエンシングを可能にする。
【0227】
RT-PCRによるスクリーニングにおいて、腫瘍のmRNAのレベルは、mRNAのcDNAコピーを作成し、引き続きPCRによってcDNAの増幅を行うことによって評価される。PCR増幅、プライマーの選択および増幅の条件は、当業者に周知の方法である。核酸操作およびPCRは標準方法、例えばAusubel, F.M. et al., eds. (2004) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., or Innis, M.A. et al., eds. (1990) PCR Protocols: a guide to methods and applications, Academic Press, San Diegoに記述の方法で行われる。核酸技術を含む反応と操作もまた、Sambrook et al., (2001), 3rd Ed, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press.に記載されている。あるいは、市販のキットRT-PCR(例えば、ロシュ・モレキュラー・バイオケミカルズ社)を使ってもよく、または、米国特許4,666,828;4,683,202;4,801,531;5,192,659、5,272,057、5,882,864および6,218,529に記載の方法論およびここに参照として組み込まれる。mRNAの発現を評価するin-situハイブリダイゼーションの例として蛍光in-situハイブリダイゼーション(FISH)がある(Angerer (1987) Meth. Enzymol., 152: 649を参照)。
【0228】
通常、in-situハイブリダイゼーションは次の主なステップ、(1)アッセイしようとする組織の固定、(2)標的とする核酸が接近できる可能性を高めるため、また、非特異的な結合を低下させるための試料のプレハイブリダイゼーション処理、(3)生物構造中または組織中の核酸に対する核酸混合物のハイブリダイゼーション、(4)ハイブリダイゼーション過程で結合しなかった核酸断片を除去するためのハイブリダイゼーション後の洗浄、および(5)ハイブリダイズした核酸断片を検出するステップを含んでなる。そのような際に用いられるプローブは、典型的には標識され、例えば、放射性同位体または蛍光リポーターで標識される。特定のプローブは十分に長いので(例えば、約50、100または200のヌクレオチドから約1000以上のヌクレオチド)、厳しい条件下で、標的とする核酸と特異的にハイブリダイズをする。FISHを実施するための標準方法は、Ausubel, F.M. et al., eds. (2004) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc and Fluorescence In Situ Hybridization: Technical Overview by John M. S. Bartlett in Molecular Diagnosis of Cancer, Methods and Protocols, 2nd ed.; ISBN: 1-59259-760-2; March 2004, pps. 077-088; Series: Methods in Molecular Medicineに記載されている。
【0229】
遺伝子発現プロファイリングのための方法は、(DePrimo et al. (2003), BMC Cancer, 3:3)に記載されている。手短に言うと、プロトコルは以下の通りで、二本鎖cDNAは全RNAから第1鎖cDNA合成をプライミングするための(dT)24のオリゴマー、例えばポリアデニル化mRNAを用いて合成し、続けてランダムなヘキソマープライマーで第2鎖のcDNA合成を行う。二本鎖cDNAは、ビオチニル化リボヌクレオチドを使用してcRNAのin vitro転写のためのテンプレートとして使われる。cRNAはアフィメトリクス社(サンタクララ市、カリフォルニ州、米国)の使用説明書に従って化学的に断片化したもので、その後ヒトゲノムアレイ上で、または、ヒトゲノムアレイ上の遺伝子特異的オリゴヌクレオチド・プローブに一晩かけてハイブリダイズする。あるいは、一種のDNAマイクロアレイである一塩基多型(SNP)配列を、ある集団内で遺伝子多型を検出するのに用いることができる。
【0230】
あるいは、mRNAから発現されるタンパク質産物は、腫瘍検体の免疫組織化学法や免疫蛍光法、マイクロタイター・プレートによる固相免疫測定、ウエスタンブロッティング、キャピラリー電気泳動、二次元SDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ELISA、フローサイトメトリーおよび特異蛋白質の検出に関する当業者に周知の他の方法によって測定してもよい。検出方法には、部位特異的な抗体の使用を含む。当業者であれば、ERK1/2の上方制御の検出、ERK1/2変異株または変異体の検出または11q22増幅を検出するこのような熟知された技術がすべて適用できることを理解するであろう。
【0231】
ERK1/2などのタンパク質の異常値は、標準的なタンパク質測定法、例えば、ここに記載されている測定法を使用して測定することができる。上昇または過剰発現についても、組織試料中、例えば腫瘍組織中の、ケミコンインターナショナル社の測定法などでタンパク質濃度を測定することによって検出することができる。標的とするタンパク質は測定する試料溶解物から免疫沈降し、その濃度を測定する。アッセイ方法にはマーカーの使用も含む。
【0232】
ERKの過剰発現は、腫瘍の生検により測定することができる。遺伝子コピー変化を評価するための方法には、異常なコピー数を検出するマルチプレックスPCR法であるMLPA(マルチプレックスライゲーション依存的プローブ増幅)、あるいは遺伝子増幅、獲得および欠損を検出することができる他のPCR技術などの細胞遺伝学的検査室で一般的に用いられる技術が含まれる。
【0233】
生体外での機能アッセイは、該当する場合は、例えば、阻害薬への応答を評価するために、癌患者において血液中の白血病細胞の測定に利用することが可能である。
【0234】
従って、これらの技術の全ては、本発明の化合物による治療に特に適合する腫瘍を同定するのに用いることも可能である。
【0235】
よって、さらなる実施態様において、本発明は以下を提供する。
・ERK1/2の阻害を示す化合物(すなわち、ERK1/2阻害剤)による治療に感受性があると思われる疾患または病状に罹患しているか、または罹患するリスクがあることをスクリーニングされ決定された患者における病態または病状を治療もしくは予防(または発生率を軽減もしくは低減)するのに用いられる式(1)の化合物。
・ERK1/2の阻害を示す化合物(すなわち、ERK1/2阻害剤)による治療に感受性があると思われる疾患または病状に罹患しているか、または罹患するリスクがあることをクリーニングされ決定された患者における病態または病状を治療もしくは予防(または発生率を軽減もしくは低減)するための医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・ERK1/2の阻害を示す化合物(すなわち、ERK1/2阻害剤)による治療に感受性があると思われる疾患または病状に患者が罹患しているか、または罹患するリスクがあることをスクリーニングされ決定された患者における病態または病状を治療もしくは予防(または発生率を軽減もしくは低減)するための方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
【0236】
本発明の別の態様は、ERK1/2シグナル伝達経路(例えば、Ras、BRAFまたはMEK)に過剰発現または活性化変異を有する亜集団から選択される患者において、癌の予防または治療に用いられる本発明の化合物を含む。よって、さらなる実施態様において、本発明は以下を提供する。
・ERK1/2シグナル伝達経路、例えばRas、(例えばKRAS)、BRAFまたはMEKに過剰発現または活性化変異を有する亜集団から選択される患者において、癌の治療もしくは予防(または発生率の軽減もしくは低減)に用いられる式(1)の化合物。
・ERK1/2シグナル伝達経路Ras(例えば、KRAS)、BRAFまたはMEKに過剰発現または活性化変異を有する亜集団から選択される患者において癌の治療もしくは予防(または発生率の軽減もしく低減)に用いられる医薬の製造のための式(1)の化合物の使用。
・ERK1/2シグナル伝達経路Ras(例えばKRAS)、BRAFまたはMEKに過剰発現または活性化変異を有する亜集団から選択される患者において、癌を治療または予防(発生率を軽減または低減)するための方法であり、式(1)の化合物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
・ERK1/2によって媒介される病態または病状を診断および治療する方法であり、(i)患者が罹患または罹患している可能性がある疾患または病状がERK1/2に対して親和性を有する化合物による治療に感受性があるものであるかどうか決定するために患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾患または病状がこのように感受性があると示唆された場合は、その後、式(1)の化合物を患者に投与することを含んでなる方法。
【0237】
医薬製剤
本発明の新規な方法により製造された化合物(1)および化合物(1)の新規な結晶形は、対象者にそれら自体で投与することもできるが、より一般には医薬組成物(例えば製剤)として提供される。
【0238】
よって、さらなる実施態様において、本発明は、式(1)の化合物と少なくとも一つの医薬上許容される賦形剤および場合により、ここに記載されるような他の治療薬または予防薬を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0239】
本発明はさらに、式(1)の化合物、少なくとも一つの前記の医薬上許容される賦形剤および場合により、ここに記載されるような他の治療薬または予防薬を会合させる(例えば混合する)ことを含んでなる、医薬組成物を製造する方法を提供する。
【0240】
医薬上許容される賦形剤は、例えば、担体(例えば固体、液体または半固体担体)、アジュバント、希釈剤、充填剤または増量剤、造粒剤、コーティング剤、放出制御剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、保存剤、抗酸化剤、緩衝剤、懸濁剤、増粘剤、着香剤料、甘味料、矯味剤、安定化剤または薬品組成物で習慣的に使われる他の賦形剤から選択することができる。さまざまな種類の医薬組成物のための賦形剤の例は、下記にさらに詳細に提示する。
【0241】
ここに用いられる用語「医薬上許容される」は、妥当な医学判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応または他の問題または合併症がなく、合理的な便益性/リスク率に相応して対象者(例えばヒト対象者)の組織と接触して用いるのに適している化合物、材料、組成物および/または剤形を意味する。それぞれの賦形剤もまた、製剤の他の成分と適合するという意味において「許容可能」でなければならない。
【0242】
式(1)の化合物を含む医薬組成物は、既知の技術に従って処方することができる。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PA, USAを参照。
【0243】
医薬組成物は、経口投与、非経口投与、局所投与、鼻腔内投与、気管支内投与、舌下投与、眼への投与、耳への投与、直腸投与、腟内投与、または経皮投与のいかなる形態にも適合することが可能である。組成物が非経口投与を目的とする場合、静脈内投与、筋肉内投与、腹膜内投与、皮下投与、または、注射、点滴または他の手段により標的器官へ直接送達するための処方をすることが可能である。送達はボーラス注射、短期間の点滴またはより長期間の点滴により実施することができ、受動的送達、または、適切な注入ポンプまたはシリンジポンプの使用により実施することができる。
【0244】
非経口投与に適用される医薬組成物には、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、共溶媒、界面活性剤、有機溶剤混合物、シクロデキストリン錯体剤、乳化剤(例えば、エマルジョン製剤を形成、安定化させるため)、リポソーム形成のためのリポソーム成分、ポリマー・ゲル類を形成するためのゲル化ポリマー、凍結乾燥保護剤および薬剤の組み合わせ、特に、可溶性の活性成分を安定化させ治療する受容者の血液と等張にするような薬剤を含んでもよい水溶性および非水溶性の滅菌注射溶液を含む。非経口投与のための医薬組成物もまた、水溶性および非水溶性の滅菌懸濁液の剤型をとってもよく、懸濁剤と増粘剤を含んでもよい(R. G. Strickly, Solubilizing Excipients in oral and injectable formulations, Pharmaceutical Research, Vol 21(2) 2004, p 201-230)。
【0245】
前記製剤は個別容器または複数の個別容器、例えば密封したアンプル、バイアルおよび充填済みシリンジとして提供してよく、使用直前に滅菌された液体担体、例えば注射用蒸留水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵してもよい。一つの実施態様において、製剤は、適切な希釈剤を用いて後に戻されるために瓶に詰められた医薬品有効成分(例えばフリーズドライ品、または他の乾燥微細品)として提供される。
【0246】
前記医薬製剤は、式(1)の化合物を凍結乾燥することによって調製することができる。凍結乾燥とは、組成物をフリーズドライする手順を意味する。従って、フリーズドライと凍結乾燥は本明細書では同義語として使用される。凍結乾燥は、溶媒を含有する基質が凍結され、その後、溶媒が昇華、すなわち、固体の凍結状態から気体状態への直接変換によって除去されるように真空が適用されるという脱水の方法である。凍結乾燥は一般に、凍結段階;一次乾燥段階;および二次乾燥段階の三段階を含んでなる。凍結段階中、基質はその融点よりも十分に低い温度へと凍結される。次の一次乾燥段階では、凍結基質に真空が適用され、それにより、昇華による溶媒の除去を可能とする。この段階でほとんどの溶媒が基質から除去される。しかしながら、少量の溶媒が一次乾燥段階の終了時に基質に結合または吸着して残る場合がある。この残留溶媒を除去するために真空が維持されるが、部分的に乾燥された基質がもはや凍結しない温度に温められる。従って、残留溶媒は蒸発により除去される。
【0247】
フリーズドライ手順は凍結乾燥装置で行ってよいが、その構成は従来通りでありうる。凍結乾燥装置は一般にチャンバーを備え、その中にフリーズドライのために溶液を含有する凍結乾燥容器を置くことができる。このチャンバーは一般に、チャンバー内の減圧が可能となるように真空源(例えば、真空ポンプ)に接続される。この装置はまた、チャンバーの内容物を凍結させるまたは加熱するための手段も備えてよい。
【0248】
医薬製剤はまた、式(1)の化合物を噴霧乾燥することによって調製することもできる。噴霧乾燥は、溶媒中の基質溶液または懸濁液が微細噴霧して溶液または懸濁液の液滴の分散物を形成し、次いで、蒸発により溶媒が除去されるように加熱および/または部分的真空が適用されるという、ミクロンサイズの分子を生産する方法である。まず、基質を好適な溶媒に溶解または懸濁させ、次いで、この溶液をアトマイザーまたは噴霧ノズルを介して乾燥チャンバー中へ通す。溶媒の蒸発を開始させるためには、加熱ガス(例えば、空気もしくは窒素)も乾燥チャンバー中に注入して霧化供給流と接触させてもよいし、または乾燥チャンバーに部分的真空を適用してもよい。溶媒が蒸発するにつれ、基質の固体粒子が形成され、回収することができる。結果として得られる粉末中の粒子のサイズは、適当なアトマイザーまたは噴霧ノズルの選択によって変化させることができる。
【0249】
噴霧乾燥手順は噴霧乾燥機で行ってもよく、その構成は従来通りでありうる。噴霧乾燥機は一般に、溶液を微細噴霧物(一般に直径500μm未満)へと分散させるアトマイザーまたは噴霧ノズルを備える。この微細噴霧物は乾燥チャンバーに向けられる。乾燥チャンバーは一般にまた、加熱ガス(例えば、空気または窒素)を受け取るために入口を備え、場合により、チャンバー内の減圧が可能となるように真空源(例えば、真空ポンプ)に接続してもよい。乾燥チャンバーはまた、噴霧滴からの溶媒の蒸発から形成された固体粒子が回収できる出口も備えてよい。
【0250】
即時調製用の注射液および懸濁液は、滅菌済みの散剤、顆粒および錠剤から調製されてもよい。
【0251】
本発明の注射剤用の医薬組成物は、使用直前に滅菌注射用溶液または懸濁液に戻す滅菌済みの散剤と同様に、医薬上許容される滅菌の水溶性または非水溶性の溶液、分散液、懸濁液またはエマルジョン類を含んでなることができる。適切な水溶性または非水溶性の担体、希釈剤、溶媒または賦形剤の例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、カルボキシメチルセルロースおよびその適した混合物、植物油(例えばオリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油またはトウモロコシ油)およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル類を含む。例えばレシチンなどのコーティング(または増粘)材料の使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズを保持することにより、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することできる。
【0252】
本発明の組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などのアジュバントを含んでもよい。微生物の作用を阻止するには、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの種々の抗菌薬および抗真菌薬を包含することにより確保してもよい。
また望ましくは、糖類、塩化ナトリウム等の等張性を調整するための薬剤を含有してもよい。注射可能な剤型を長時間にわたって吸収させるには、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を包含することによって行ってもよい。
【0253】
本発明の一つ実施態様において、医薬組成物は静脈注射投与、例えば注射または点滴に適する剤型である。静脈内投与のために、溶液は現状のまま投薬することができるか、あるいは投与前に輸液バッグ(0.9%食塩水または5%ブドウ糖などの医薬上許容される賦形剤を含む)に注入することができる。
【0254】
別の実施態様において、医薬組成物は皮下(s.c.)投与に適する剤型である。
【0255】
経口投与にふさわしい製薬剤型には、錠剤(被覆または非被覆)、カプセル剤(硬、軟シェル)、カプレット、丸薬、トローチ剤、シロップ、溶液、散剤、顆粒剤、エリキシル剤および懸濁剤、舌下錠、口腔パッチなどのウエハまたはパッチが含まれる。
【0256】
このように、錠剤組成物は、活性化合物の単位服用量を、糖または糖アルコールなどの不活性希釈剤または担体、例えばラクトース、スクロース、ソルビトールまたはマンニトール、および/または、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの非糖由来の希釈剤、または微結晶性セルロース(MCC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースまたはその誘導体、およびコーンスターチなどのスターチ類と共に含むことができる。錠剤は、そのような標準の成分を結合剤として、ポリビニルピロリドンなどの造粒剤、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースなどの膨潤性架橋共重合体)、滑沢剤(例えばステアレート)、保存剤(例えば、パラベン)、抗酸化剤(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液またはクエン酸塩緩衝液)およびクエン酸塩/重炭酸塩混合物などの発泡剤としてこのような標準成分を含んでもよい。そのような賦形剤はよく知られているので、ここで詳述する必要はない。
【0257】
錠剤は、胃液との接触により薬剤を放出(即放性製剤)、または、長時間にわたり、または消化管の特定の領域に放出するように制御された方法で(徐放製剤)設計されてもよい。
【0258】
カプセル製剤は、硬ゼラチンまたは軟ゼラチンのさまざまな種類でもよく、固体、半固体または液体状態で活性物質を含むことができる。ゼラチンカプセルは、動物性ゼラチンまたは合成または植物由来の等価物から作ることができる。
【0259】
固形剤(例えば、錠剤、カプセルなど)は、被覆または非被覆でありえる。コーティングは、保護膜(例えば、ポリマー、ワックスまたはニス)として、または薬の放出を制御するための機序として作用してもよく、または美的または識別目的の役割を果たしてもよい。コーティング剤(例えば、ユードラジッドTM型ポリマー)は、消化管内の望ましい位置で活性物質を放出するように設計することができる。このように、コーティング剤を、消化管内の特定のpH条件で分解するように選択することができ、それによって、化合物を胃、または回腸、十二指腸、大腸または空腸で選択的に放出する。
【0260】
コーティングの代わりに、またはそれに加えて、薬剤は、放出制御剤、例えば、消化管で化合物を放出するのに適している放出遅延剤からなる固体マトリックスに存在させることができる。あるいは、薬剤はポリマーコーティング、例えば、消化管内の様々な酸性度またはアルカリ度の条件下において消化管で選択的に化合物を放出するのに適する可能性のあるポリメタクリレート・ポリマーコーティングに存在させることができる。あるいは、マトリックス材または放出遅延コーティング剤は、剤形が消化管を通過する時に十分に連続的に崩壊する崩壊性ポリマー(例えば、無水マレイン酸ポリマー)の形をとることができる。別の選択肢において、コーティングは消化管の微生物の作用で崩壊するように設計することができる。さらに別の方法として、活性化合物は、化合物を放出する浸透圧性コントロールを提供する送達系で調製することができる。浸透圧性放出と他の遅延型放出または徐放性製剤(例えば、イオン交換樹脂に基づく製剤)は、当業者に周知の方法に従って調製されてもよい。
【0261】
式(1)の化合物は、担体と共に製剤化されてもよくて、ナノ粒子の形で投与されてもよい。ナノ粒子は表面積を増加させて、化合物の吸収を助け、細胞へ直接、浸透する可能性を提供する。ナノ粒子によるドラッグデリバリーシステムは、Ram B Gupta and Uday B. Kompellaらによって編集された2006年3月13日に発行のNanoparticle Technology for Drug Delivery」、Informa Healthcare, ISBN 9781574448573に記載されている。ドラッグデリバリーのためのナノ粒子はまた、J. Control. Release, 2003, 91 (1-2), 167-172, およびSinha et al., Mol. Cancer Ther. August 1, (2006) 5, 1909にも記載されている。
【0262】
医薬組成物は、約1%(w/w)から約95%までの活性成分、および99%(w/w)から5%(w/w)の医薬上許容される賦形剤または賦形剤の組み合わせを含んでなりうる。特に、組成物は、約20%(w/w)から約90%(w/w)までの活性成分、および80%(w/w)から10%の医薬上許容される賦形剤または賦形剤の組み合わせを含んでなりうる。
【0263】
本発明による医薬組成物は、例えば、アンプル、バイアル、坐薬、糖衣錠、錠剤もしくカプセル剤またはプレフィルドシリンジの形などの単位服用量の形であってよい。
【0264】
医薬上許容される賦形剤は、製剤の望ましい物理的形態、例えば、希釈剤(例えば、増量剤や充填剤などの固体希釈剤、および溶媒や共溶媒などの液体希釈剤)、崩壊剤、緩衝剤、滑沢剤、フローエイド、放出制御剤(例えば、放出を遅延させるポリマーまたはワックス)、結合剤、造粒剤、色素、可塑剤、抗酸化剤、保存剤、着香剤料、矯味剤、等張化剤およびコーティング剤から選択されることができる。
【0265】
当業者であれば、製剤に用いる成分に適する量を選択するための専門知識を有する。例えば、錠剤とカプセル剤は通常、0~20%の崩壊剤、0~5%の滑沢剤、0~5%のフローエイドおよび/または0~99%(w/w)充填剤/または増量剤(投薬量に応じて)を含む。それらはまた、0~10%(w/w)のポリマー結合剤、0~5%(w/w)の抗酸化剤、0~5%(w/w)の色素を含んでもよい。徐放錠は加えて、0~99%(w/w)のポリマー(投薬量に応じて)を含むこともある。錠剤またはカプセル剤のフィルム被膜は通常、0~10%(w/w)の放出制御(例えば、遅延型)ポリマー、0~3%(w/w)の色素および/または0~2%(w/w)の可塑剤を含む。
【0266】
非経口製剤は通常、0~20%(w/w)の緩衝液、0~50%(w/w)の共溶媒および/または0~99%(w/w)の注射用蒸留水(WFI)(投与量および凍結乾燥の場合に応じて)を含む。筋肉内デポ剤のための製剤はまた、0~99%(w/w)の油を含んでもよい。
【0267】
経口投与のための医薬組成物は、活性成分と固体担体とを結合し、必要に応じて得られる混合物を造粒し、必要に応じて錠剤、糖衣錠の中心またはカプセル剤に適当な賦形剤を加えた後に、混合物を加工することによって得ることができる。活性成分を一定量で分散または放出させることができるポリマーまたはワックス状マトリックスに、医薬組成物を封入させることも可能である。
【0268】
本発明の化合物は固形分散剤として処方することができる。固体分散剤は、2つ以上の均一で超微細な分散相である。1種の固体分散体である固溶体(分子分散系)は、製薬技術に用いるのによく知られており(Chiou and Riegelman, J. Pharm. Sci., 60, 1281-1300 (1971)を参照)、水溶性の低い薬の溶解速度を増加させ、生物学的利用能を増加させるのに有用である。
【0269】
本発明はまた、上記の固溶体を含んでなる固形剤も提供する。固形剤は、錠剤、カプセル剤およびチュアブル錠、または分散錠または発泡錠を含む。既存の賦形剤は、固溶体と混合し望ましい剤形を提供することができる。例えば、カプセル剤は、(a)崩壊剤および滑沢剤、または(b)崩壊剤、滑沢剤および界面活性剤を混合した固溶体を含むことができる。加えて、カプセル剤は、ラクトースまたは微結晶性セルロースなどの増量剤を含むことができる。錠剤は、少なくとも1つの崩壊剤、滑沢剤、界面活性剤、増量剤および滑剤を混合した固溶体を含むことができる。チュアブル錠は、増量剤、滑沢剤および必要に応じて添加する甘味剤(例えば人工甘味料)および適切な着香剤料を混合した固溶体を含むことができる。固溶体は、薬剤と適切なポリマーの溶液を糖ビーズ(ノンパレイユ)などの不活性な担体の表面上へ噴霧することによって形成されてもよい。これらのビーズは、その後カプセル剤に充填されるか、または錠剤に圧縮されることができる。
【0270】
医薬製剤は、単一パッケージ(通常ブリスター包装)に全ての治療過程を含む「患者パック」として患者に提示してもよい。患者パックは、薬剤師が患者への調剤の供給をバルク供給から分割するという従来の処方より、患者が患者パックに含まれる添付文書にいつでもアクセスできるという点で有利であり、これは通常の患者用処方で見逃されていることである。添付文書を包含することで、医師の指示に対する患者のコンプライアンスが改善されることが示されている。
【0271】
局所使用と鼻への送達のための組成物は、軟膏、クリーム、スプレー、パッチ、ゲル類、液滴および挿入物(例えば眼内挿入物)を含む。そのような組成物は、既知の方法に従って製剤化することができる。
【0272】
直腸投与または腟内投与のための製剤の例は、膣座薬および坐薬を含み、例えば、活性化合物を含む成形された成形可能またはワックス状物質から形成されてもよい。活性化合物の溶液が、直腸内投与のために使われてもよい。
【0273】
吸入による投与のための組成物は、吸入可能な粉末組成物または液体または粉末スプレーの形をとってもよく、粉末吸入器またはエアゾール分注器を用いる標準の形で投与することができる。そのような装置は良く知られている。吸入による投与のために、粉末製剤は、通常はラクトースなどの不活性の固形粉末状の希釈剤と共に活性化合物を含んでなる。
【0274】
式(1)の化合物は、通常、単位剤形で提示され、このように、概して、生物学的活性の望ましいレベルを提供するために充分な化合物を含む。例えば、製剤は1ナノグラムから2グラムまでの活性成分、例えば1ナノグラムから2ミリグラムまでの活性成分を含んでもよい。この範囲内で、化合物の詳細な小範囲は、活性成分の0.1ミリグラム~2グラム(より通常には、10ミリグラムから1グラム、例えば50ミリグラム~500ミリグラムまで)、または1マイクログラム~20ミリグラム(例えば、1マイクログラムから10ミリグラム、例えば、0.1ミリグラム~2ミリグラムの活性成分)である。
【0275】
経口組成物のために、例えば、単位服用量は、活性化合物を1ミリグラムから2グラム(より通常には、10ミリグラムから1グラムまで)、例えば50ミリグラムから1グラムまで、例えば100ミリグラムから1グラムまでを含んでもよい。
【0276】
本発明の化合物は、望ましい治療効果を達成するのに十分な量で、それを必要とする患者(例えばヒトまたは動物の患者)に投与されることになる。
【0277】
治療法
式(1)の化合物は、ERK1/2により媒介される病態と病状の予防または治療に有用と思われる。そのような病態と病状の例を、上に提示する。
【0278】
化合物は、通常、そのような投与が必要な対象者、例えばヒトまたは動物の患者、特にヒトに投与される。
【0279】
化合物は、概して、治療または予防に有用で、一般に無毒である量で投与される。しかしながら、特定の状況(例えば、生死に関わる疾患の場合)では、式(1)の化合物を投与することの便益がいかなる毒作用または副作用がもたらす不利益に勝る場合には、毒性と関連付けられる量の化合物を投与することが望ましいとみなされてもよい。
【0280】
化合物は、有益な治療効果を維持するために、長期間にわたって投与されてもよく、または短期間に限って投与されてもよい。あるいは、化合物は、連続、または間欠投与(例えばパルス投与法)によって投与されてもよい。
【0281】
式(1)の化合物の典型的な一日用量は、体重1kg当り100ピコグラムから100ミリグラムであり、より一般的には体重1kg当り5ナノグラム~25ミリグラム、より一般的には体重1kg当り10ナノグラム~15ミリグラムまで(例えば、1キログラムにつき10ナノグラム~10ミリグラム、より一般的には1キログラムにつき1マイクログラムから20ミリグラム、例えば、1キログラムにつき1マイクログラムから10ミリグラム)で、必要であれば、より高濃度または低濃度を投与してもよい。式(1)およびその下位式の化合物は、毎日、または2日、または3日、または4日、または5日、または6日、または7日、または10日、または14日、または21日、または28日ごとに繰り返し投与することができる。
【0282】
本発明の化合物は、例えば1~1500mg、2~800mgまたは5~500mg、例えば2~200mgまたは10~1000mg、特に10、20、50および80mgを含む範囲の投与量で経口投与されてもよい。化合物は、望ましい治療効果を得るために毎日一回または一回以上、投与されてもよい。化合物は、連続的に投与(すなわち、治療期間中は、毎日、途断することなく投与)されることができる。あるいは、化合物は間欠的(すなわち、治療計画の期間中を通して、連続的に1週間などの特定の期間、投与され、その後1週などの期間中断し、それから連続的に例えば1週間などの別の期間投与する)に投与されることができる。間欠的な投与を必要とする治療計画の例は、投薬を1週間続けて1週間休薬するサイクル、または2週間続けて1週間休薬するサイクル、または3週間続けて1週間休薬するサイクル、または2週間続けて2週間休薬するサイクル、または4週間続けて2週間休薬するサイクル、または1週間続けて3週間休薬するサイクルを1回以上のサイクル、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10サイクル以上である投与を含む。この断続的な治療は、一週間にわたるよりもむしろ日数に基づくこともできる。例えば、治療は、1~6日間、毎日投薬し、投薬なしを1~6日間行い、このパターンの投薬を治療手順の間、繰り返すことを含んでなる。本発明の化合物が投与されない日数(または週数)は、本発明の化合物が投与される日数(または週)に必ずしも等しくなければいけないというわけではない。
【0283】
一つ特定の投薬計画では、患者は、式(1)の化合物の点滴を、1週間に一日に一時間、最高10日間まで、特に一週5日まで投与し、治療は2から4週間、特に3週毎などの望ましい間隔で繰り返し、投与される。
【0284】
本発明の化合物は、ボーラス投与または持続点滴によって投与されることもできる。本発明の化合物は、治療サイクルの間、1日1回から1週に1回または2週毎に1回または3週毎に1回、または4週毎に1回投与することができる。治療サイクルの間、毎日投与する場合、この毎日の投薬は、治療サイクルの週数を超えて中断することができる。例えば、1週間(または日数)投薬し、1週間(または日数)休薬し、治療サイクルの間、このパターンを繰り返す。
【0285】
一つの投薬計画において、患者は、式(1)の化合物を1日1時間かけて5日間にわたり、注入されてもよく、その治療を3週ごとに繰り返される。
【0286】
別の特定の投薬計画において、患者は、30分~1時間かけて注入され、さらにさまざまな期間、例えば1~5時間、例えば3時間の維持輸液が続く。
【0287】
さらに特定の投薬計画において、患者は、12時間~5日間、持続点滴をされ、特に24時間~72時間の持続点滴が行われる。
【0288】
しかしながら、最終的には、投与される化合物の量と使用される組成物の種類は、疾患の本質または治療される生理的状態に相応するものであり、医師の裁量によるものである。
【0289】
ERK1/2阻害薬が単剤として、あるいは他の抗癌剤と併用できることが明らかになった。例えば、ERKシグナル伝達を抑制する阻害剤とシグナル伝達カスケードの異なる点を介して作用する、あるいは細胞増殖を制御している異なる機序を通じて作用する別の薬剤との併用は有益である可能性があり、このように癌の進行における2つの特性に対して治療するものである。併用実験は、例えば、Chou TC, Talalay P. Quantitative analysis of dose-effect relationships: the combined effects of multiple drugs or enzyme inhibitors. Adv Enzyme Regulat 1984;22: 27-55に記載されているように行うことができる。
【0290】
本発明の化合物は、単独の治療薬としてまたは1つ以上の他の化合物との組み合わせ療法(または治療法)で特定の疾患状態、例えば先に定義されたように癌などの腫瘍性疾患の治療のために投与することができる。上記の病状の治療のために、本発明の化合物は、1つ以上の他の薬剤、より特定的には、他の抗癌剤または癌療法におけるアジュバント(治療における補助剤)との組み合わせで癌治療に有利に使用されてもよい。式(1)の化合物と一緒に(同時に、または、異なる時間間隔で)投与してもよい他の治療薬の例には、次が含まれるがこれに限定されない。
・トポイソメラーゼI阻害薬
・代謝拮抗剤
・チューブリン・ターゲティング剤
・DNA結合剤とトポイソメラーゼII阻害薬
・アルキル化剤
・モノクローナル抗体
・抗ホルモン類
・シグナル伝達阻害薬
・ユビキチン-プロテアソーム経路阻害薬
・免疫療法
・細胞死の調節因子
・DNAメチル・トランスフェラーゼ阻害薬
・サイトカインおよびレチノイド
・クロマチン標的治療
・放射線治療、および
・他の治療薬または予防薬。
【0291】
抗癌剤またはアジュバント(またはその塩類)の具体的な例は、(i)-(xlviii)および必要に応じて(xlix)、およびまたは(I)、後述から選択されるいずれか1つまたはそれ以上の薬剤を含むが、これに限定されない。
(i)白金化合物、例えばシスプラチン(必要に応じてアミホスチンと併用)、カルボプラチンまたはオキサリプラチン、
(ii)タキサン化合物、例えばパクリタキセル、パクリタキセル・タンパク質結合粒子(アブラキサンTM)、ドセタキセル、カバジタキセルまたはラロタキセル、
(iii)トポイソメラーゼI阻害薬、例えばカンプトテシン化合物、例えばカンプトテシン、イリノテカン(CPT11)、SN-38またはトポテカン、
(iv)トポイソメラーゼII阻害薬、例えば抗腫瘍エピポドフィロトキシン、またはポドフィロトキシン誘導体、例えばエトポシドまたはテニポシド、
(v)ビンカアルカロイド、例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、リポソーム型ビンクリスチン(Onco-TCS)、ビノレルビン、ビンデシン、ビンフルニンまたはビンベシル、
(vi)ヌクレオシド誘導体、例えば5‐フルオロウラシル(5-FU、必要に応じてロイコボリンと併用)、ゲムシタビン、カペシタビン、テガフール、UFT、S1、クラドリビン、シタラビン(Ara-C、シトシンアラビノシド)、フルダラビン、クロファラビンまたはネララビン、
(vii)代謝拮抗剤、例えばクロファラビン、アミノプテリンまたはメトトレキサート、アザシチジン、シタラビン、フロキシウリジン、ペントスタチン、チオグアニン、チオプリン、6-メルカプトプリンまたはヒドロキシウレア(ヒドロキシカルバミド)またはトリフルリジン(必要に応じてチピラシルと併用)、
(viii)ナイトロジェンマスタードまたはニトロソウレアなどのアルキル化剤、例えば、シクロホスファミド、クロランブシル、カルムスチン(BCNU)、ベンダムスチン、チオテパ、メルファラン、トレオスルファン、ロムスチン(CCNU)、アルトレタミン、ブスルファン、ダカルバジン、エストラムスチン、ホテムスチン、イホスファミド(必要に応じてメスナと併用)、ピポブロマン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、テモゾロマイド、ウラシル、メクロレタミン、メチルシクロヘキシルクロロエチルニトロソウレアまたはニムスチン(ACNU))、
(ix)アントラサイクリン、アントラセンジオンと関連薬(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン(必要に応じてデクスラゾキサンと併用)、リポソーム型製剤ドキソルビシン(例えば、カエリックスTM、ミオセットTM、ドキシルTM)、イダルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、アムサクリンまたはバルルビシン)、
(x)エポチロン、例えばイクサベピロン、パツピロン、BMS-310705、KOS-862およびZK-EPO、エポチロンA、エポチロンB、デスオキシポチロンB(別名エポチロンDまたはKOS-862)、アザ・エポチロンB(別名BMS-247550)、ラウリマリド、イソラウリマリドまたはエリュテロビン)、
(xi)DNAメチル・トランスフェラーゼ阻害薬、例えばテモゾロマイド、アザシチジン、デシタビンまたはグアデシタビン(SGI-110));
(xii)抗葉酸剤、例えばメトトレキサート、ペメトレキセド二ナトリウムまたはラルチトレキセド)、
(xiii)細胞毒性抗生物質、例えばアクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ダクチノマイシン、カルミノマイシン、ダウノマイシン、レバミゾール、プリカマイシンまたはミトラマイシン、
(xiv)チューブリン-結合剤、例えばコンブレタスタチン、コルヒチンまたはノコダゾール)、
(xv)キナーゼ阻害薬などのシグナル伝達阻害剤、例えば受容体型チロシンキナーゼ阻害薬(例えば、EGFR(上皮成長因子受容体)阻害薬、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)阻害薬、PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)阻害薬、Axl阻害薬、MTKI(マルチターゲットキナーゼ阻害薬)、Raf阻害薬、ROCK阻害薬、mTOR阻害薬、MEK阻害薬またはPI3K阻害薬)例えばイマチニブ・メシレート、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ダサチニブ、ラパチニブ、ドビチニブ、アキシチニブ、ニロチニブ、バンデタニブ、バタリニブ、パゾパニブ、ソラフェニブ、スニチニブ)、テムシロリムス、エベロリムス(RAD 001)、ベムラフェニブ(PLX4032またはRG7204)、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、セルメチニブ(AZD6244)、トラメチニブ(GSK121120212)、ダクトリシブ(BEZ235)、ブパルリシブ(BKM-120; NVP-BKM-120)、BYL719、コパンリシブ(BAY-80-6946)、ZSTK-474、CUDC-907、アピトリシブ(GDC-0980; RG-7422)、ピクチリシブ(ピクトレリシブ、GDC-0941、RG-7321)、GDC-0032、GDC-0068、GSK-2636771、イデラリシブ(旧名:CAL-101、GS 1101、GS-1101)、MLN1117(INK1117)、MLN0128(INK128)、IPI-145(INK1197)、LY-3023414、イパタセルチブ、アフレセルチブ、MK-2206、MK-8156、LY-3023414、LY294002、SF1126またはPI-103、ソノリシブ(PX-866)またはAT13148。
(xvi)オーロラ・キナーゼ阻害薬、例えばAT9283、バラセルチブ(AZD1152)、TAK-901、MK0457(VX680)、セニセルチブ(R-763)、ダヌセルチブ(PHA-739358)、アリセルチブ(MLN-8237)またはMP-470、
(xvii)CDK阻害薬、例えばAT7519、ロスコビチン、セリシクリブ、アルボシジブ(フラボピリドール)、ディナシクリブ(SCH-727965)、7-ヒドロキシ-スタウロスポリン(UCN-01)、JNJ-7706621、BMS-387032(別名SNS-032)、PHA533533、ZK-304709またはADZ-5438およびパルボシクリブ(PD332991)とリボシクリブ(LEE-011)などのCDK4阻害薬を含む、
(xviii)PKA/B阻害薬とPKB(akt)経路阻害薬(例えばAT13148、AZD5363、セマフォ、SF1126およびMTOR阻害薬(例えばラパマイシン類似体)、AP23841とAP23573、カルモジュリン阻害薬(フォークヘッド転移阻害薬)、API-2/TCN(トリシリビン)、RX-0201、エンザスタウリンHCl(LY317615)、NL-71-101、SR-13668、PX-316またはKRX-0401(ペリホシン/NSC 639966))、
(xix)Hsp90阻害薬例えばオナレスピブ(AT13387)、ハービマイシン、ゲルダナマイシン(GA)、17-アリルアミノ-17-デスメトキシゲルダナマイシン(17AAG)例えばNSC-330507、Kos-953およびCNF-1010、17-ジメチルアミノエチルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン塩酸塩(17-DMAG)例えばNSC-707545およびKos-1022、NVP-AUY922(VER-52296)、NVP-BEP800、CNF-2024(BIIB-021および経口プリン体)、ガネテスピブ(STA-9090)、SNX-5422(SC-102112)またはIPI-504またはTAS-116、
(xx)モノクローナル抗体(放射性同位体、毒素またはその他の薬剤と共役するまたしない)、抗CD、抗VEGFR、抗HER2または抗EGFR抗体などの抗体誘導体および関連薬剤、例えばリツキシマブ(CD20)、オファツムマブ(CD20)、イブリツモマブ・チウキセタン(CD20)、GA101(CD20)、トシツモマブ(CD20)、エプラツズマブ(CD22)、リンツズマブ(CD33)、ゲムツズマブ・オゾガミシン(CD33)、アレムツズマブ(CD52)、ガリキシマブ(CD80)、トラスツズマブ(HER2抗体)、ペルツズマブ(HER2)、トラスツズマブDM1(HER2)、エルツマキソマブ(HER2とCD3)、セツキシマブ(EGFR)、パニツムマブ(EGFR)、ネシツムマブ(EGFR)、ニモツズマブ(EGFR)、ベバシズマブ(VEGF)、カツマキソマブ(EpCAMとCD3)、アバゴボマブ(CA125)、ファルレツズマブ(葉酸塩受容体)、エロツズマブ(CS1)、デノスマブ(RANKリガンド)、フィジツムマブ(IGF1R)、CP751,871(IGF1R)、マパツムマブ(TRAIL受容体)、metMAB(met)、ミツモマブ(GD3ガングリオシド)、ナプツモマブ・エスタフェナトクス(5T4)またはシルツキシマブ(IL6)、またはCTLA-4阻害抗体および/またはPD-1、PD-L1および/またはPD-L2に対する抗体などの免疫調節剤、例えば、イピリムマブ(CTLA4)、MK-3475(ペムブロリズマブ、旧名ランブロリズマブ、抗PD-1)、ニボルマブ(抗PD-1)、BMS-936559(抗- PD-L1)、MPDL320A、AMP-514またはMEDI4736(抗-PD-L1)またはトレメリムマブ(旧名チシリムマブ、CP-675,206、抗CTLA-4)、
(xxi)エストロゲン受容体拮抗薬または選択的なエストロゲン受容体調節薬(SERMs)またはエストロゲン合成阻害薬、例えばタモキシフェン、フルベストラント、トレミフェン、ドロロキシフェン、フェソロデックスまたはラロキシフェン、
(xxii)エクセメスタン、アナストロゾール、レトロゾール、テストラクトン、アミノグルテチミド、ミトタンまたはボロゾール等のアロマターゼ阻害薬および関連薬、
(xxiii)抗アンドロゲン(すなわち、アンドロゲン受容体拮抗薬)および関連した薬剤、例えば、ビカルタミド、ニルタミド、フルタミド、シプロテロンまたはケトコナゾール、
(xxiv)メドロキシプロゲステロン、ジエチルスチルベストロール(別名ジエチルスチルボエストロール)またはオクトレオチドなどのホルモン類とその類似体、
(xxv)ステロイド類、例えばプロピオン酸ドロモスタノロン、酢酸メゲストロール、ナンドロロン(デカン酸塩、フェンプロピオネート)、フルオキシメステロンまたはゴシポール、
(xxvi)ステロイド系シトクロムP450 17alpha-ヒドロキシラーゼ-17,20-リアーゼ阻害薬(CYP17)、例えばアビラテロン、
(xxvii)ゴナドトロピン放出ホルモン・アゴニストまたはアンタゴニスト(GnRAs)、例えばアバレリックス、酢酸ゴセレリン、酢酸ヒステレリン、酢酸ロイプロリド、トリプトレリン、ブセレリンまたはデスロレリン、
(xxviii)グルココルチコイド、例えばプレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、
(xxix)レチノイド、レキシノイド、ビタミンDまたはレチノイン酸およびレチノイン酸代謝阻害薬(RAMBA)などの分化誘導薬、例えばアキュテイン、アリトレチノイン、ベキサロテンまたはトレチノイン、
(xxx)ファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬、例えばチピファルニブ、
(xxxi)ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬などのクロマチンをターゲットとした治療法、例えば酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、デプシペプチド(FR901228)、ダシノスタット(NVP-LAQ824)、R306465/JNJ-16241199、JNJ-26481585、トリコスタチンA、ボリノスタット、クラミドシン、A-173、JNJ-MGCD-0103、PXD-101またはアピシジン、
(xxxii)プロテアソーム阻害薬を含むユビキチンプロテアソーム経路をターゲットとした薬、例えばボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、CEP-18770、MLN-9708またはONX-0912、あるいはNEDD8阻害薬、HDM2拮抗薬および脱ユビキチン化酵素(DUBs)、
(xxxiii)光線力学的療法用剤、例えばポルフィマーナトリウムまたはテモポルフィン、
(xxxiv)トラベクテジンなどの海洋生物由来の抗癌剤;
(xxxv)放射免疫療法用の放射性同位元素標識薬剤、例えばβ粒子放出同位元素(例えば、ヨウ素-131、イットリウム-90)またはα粒子放出同位元素(例えば、ビスマス-213またはアクチニウム-225)、例えばイブリツモマブ、ヨウ素トシツモマブまたはアルファ・ラジウム、
(xxxvi)テロメラーゼ阻害薬、例えばテロメスタチン、
(xxxvii)マトリックスメタロプロテアーゼ阻害薬、例えばバチマスタット、マリマスタット、プリノスタットまたはメタスタット、
(xxxviii)組み換え型インターフェロン(例えばインターフェロン-γおよびインタ-フェロンα)とインターロイキン(例えば、インターロイキン2)、例えば、アルデスロイキン、デニロイキン・ディフィトックス、インターフェロンα2a、インターフェロンα2bまたはペグインターフェロンα2b、
(xxxix)選択的免疫応答調節剤、例えば、サリドマイドまたはレナリドマイド、
(xl)シプロイセルT(プロベンジ)またはオンコベックスなどの治療的ワクチン、
(xli)サイトカイン活性化剤は、ピシバニール、ロムルタイド、シゾフィラン、ビルリジンまたはチモシンを含む、
(xlii)三酸化ヒ素、
(xliii)Gタンパク質共役受容体(GPCR)の阻害薬、例えばアトラセンタン、(xliv)L-アスパラギナーゼ、ペガスパルガーゼ、ラスブリカーゼまたはペガデマーゼなどの酵素、
(xlv)PARP阻害薬などのDNA修復阻害薬、例えば、オラパリブ、ベラパリブ、イニパリブ、INO-1001、AG-014699またはONO-2231、
(xlvi)マパツムマブ(旧名HGS-ETR1)、コナツムマブ(旧名AMG 655)、PRO95780、レキサツムマブ、ドゥラネルミン、CS-1008、アポマブまたは組換えヒトTRAIL/Apo2リガンドなどのリコンビナントTRAILリガンドを含む細胞死受容体のアゴニスト(例えばTNF関連のアポトーシス誘導リガンド(TRAIL)受容体)、
(xlvii)免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法、癌ワクチンとCAR-T細胞療法、
(xlviii)Bcl-2(B細胞リンパ腫2)拮抗薬を含む細胞死(アポトーシス)の調節剤、例えばベネトクラックス(ABT-199またはGDC-0199)、ABT-737、ABT-263、TW-37、サブトクラックス、オバトクラックス、およびLCL-161(ノバルティス)を含むMIMIとIAP拮抗薬、デビオ-1143(Debriopharm/Ascenta)、AZD5582、ビリナパント/TL-32711(テトラロジック)、CUDC-427/GDC-0917/RG-7459(ジェネンテック)、JP1201(ジョアイヤン)、T-3256336(武田薬品)、GDC-0152(ジェネンテック)、HGS-1029/AEG-40826(HGS/Aegera)またはASTX-660、
(xlix)予防薬(補助剤)、すなわち、化学療法剤に伴う副作用の一部を軽減または緩和する薬剤、例えば、
・制吐薬、
・化学療法関連の好中球減少症の継続期間を予防または減少、および血小板、赤血球または白血球の減少に伴い増える合併症を予防する薬剤、例えばインターロイキン-11(例えば、オプレルベキン)、エリスロポイエチン(EPO)とその類似体(例えば、ダーベポエチンα)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)(例えば、サルグラモスチム)および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)とその類縁体(例えば、フィルグラスティム、ペグフィルグラスチム)などのコロニー刺激因子の類縁体、
・デノスマブまたはビスホスホネート、例えばゾレドロネート、 ゾレドロン酸、パミドロネートおよびイバンドロネート)などの骨吸収を阻害する薬剤、
・デキサメタゾン、プレドニソンおよびプレドニゾロンなどの炎症反応を抑制する薬剤、
・先端巨大症または他の稀なホルモン産生腫瘍患者における成長ホルモンおよびIGF-I(および他のホルモン類)の血中レベルを低下させるために用いられる薬剤、例えばホルモン・ソマトスタチンの合成型、例えば酢酸オクトレオチド、
・ロイコボリンまたはフォリン酸などの葉酸のレベルを低下させる薬に対する解毒剤、
・痛みに対する薬剤、例えばモルヒネ、ジアモルフィンおよびフェンタニールなどのアヘン剤、
・COX-2阻害薬例えばセレコキシブ、エトリコキシブおよびルミラコキシブなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、
・粘膜炎に対する薬剤、例えばパリフェルミン、
・メゲストロールアセテートなどの摂食障害、悪液質、浮腫または血栓塞栓性の発現を含む副作用を治療するための薬剤、および
(l)根治、苦痛緩和または予防目的(あるいは、術後または術前化学療法のために)にする放射線治療。
【0292】
それぞれの発明の組み合わせにおける化合物は、個々にさまざまな投与計画で、また異なる経路で投与されてもよい。このように、2つ以上の薬剤のそれぞれの用法・用量は、異なってもよく、それぞれは、同時に、または、異なる時間に投与されてもよい。当業者であれば、一般知識を通して使うべき投与計画と組み合わせ療法についての知識を有する。例えば、本発明の化合物は、1つ以上の他の薬剤とそれらの既存の併用レジメンを組み合わせて投与してもよい。標準の併用レジメンの例は、以下に提供する。
【0293】
タキサン化合物は、治療1コースにつき体表面積の1平方メートルにつき50~400mg(mg/m2)の用量で、例えば、75~250mg/m2、特にパクリタキセルは約175~250mg/m2の用量で、ドセタキセルは約75~150mg/m2で都合よく投与される。
【0294】
カンプトテシン化合物は、体表面積の1平方メートルにつき0.1~400mg(mg/m2)の投与量で、例えば1~300mg/m2で、特にイリノテカンは約100~350mg/m2の投与量で、およびトポテカンは治療1コースにつき約1~2mg/m2で都合よく投与される。
【0295】
ポドフィロトキシン系抗腫瘍薬は、体表面積の1平方メートルにつき30~300mg(mg/m2)の投与量で、例えば治療1コースにつき50~250mg/m2、特にエトポシドは約35~100mg/m2の投与量で、およびテニポシドは約50~250mg/m2で都合よく投与される。
【0296】
ビンカアルカロイド系抗腫瘍薬は、体表面積の1平方メートルにつき2~30mg(mg/m2)の投与量で、治療1コースにつき特にビンブラスチンは約3~12mg/m2の投与量で、ビンクリスチンは約1~2mg/m2の投与量で、およびビノレルビンは約10~30mg/m2の投与量で都合よく投与される。
【0297】
ヌクレオシド系抗腫瘍薬は、体表面積の1平方メートルにつき200~2500mg(mg/m2)の投与量で、例えば治療1コースにつき700~1500mg/m2で、特に5-FUは200~500mg/m2の投与量で、ゲムシタビンは約800~1200mg/m2の投与量で、およびカペシタビンは約1000~2500mg/m2で都合よく投与される。
【0298】
ナイトロジェンマスタードまたはニトロソウレアなどのアルキル化剤は、体表面積1平方メートルにつき100~500mg(mg/m2)の投与量で、例えば治療1コースにつき120~200mg/m2で、特にシクロホスファミドは約100~500mg/m2の投与量で、クロランブシルは約0.1~0.2mg/kgの投与量で、カルムスチンは約150~200mg/m2の投与量で、およびロムスチンは約100~150mg/m2の投与量で都合よく投与される。
【0299】
アントラサイクリン系抗腫瘍薬は、体表面積1平方メートルにつき10~75mg(mg/m2)の投与量で、例えば治療1コースにつき15~60mg/m2、特にドキソルビシンは約40~75mg/m2の投与量で、ダウノルビシンは約25~45mg/m2の投与量で、およびイダルビシンは約10~15mg/m2の投与量で都合よく投与される。
【0300】
抗エストロゲン剤は、特定の薬剤と治療する病状によって1日量が約1~100mgの投与量で、都合よく投与される。タモキシフェンは、5~50mgの投与量で、特に10~20mgで1日2回、都合よく経口投与され、治療効果が達成され治療効果が維持されるのに十分な時間、治療を続ける。トレミフェンは、約60mgの投与量で1日に1回、都合よく経口投与され、治療効果が達成され治療効果が維持されるのに十分な時間、治療を続ける。アナストロゾールは、約1mgの投与量で、1日に1回、都合よく経口投与される。ドロロキシフェンは、約20~100mgの投与量で、1日に1回、都合よく経口投与される。ラロキシフェンは、約60mgの投与量で、1日に1回、都合よく経口投与される。エクセメスタンは、約25mgの投与量で、1日に1回、都合よく経口投与される。
【0301】
抗体は、体表面積の1平方メートルにつき約1~5mg(mg/m2)の投与量で、または異なる場合は、当業者に周知の方法で都合よく投与される。トラスツズマブは、体表面積1平方メートルにつき1~5mg(mg/m2)の投与量で、特に治療1コースにつき2~4mg/m2で都合よく投与される。
【0302】
式(1)の化合物を1つ、2つ、3つ、4つ以上の他の治療薬(特に1つまたは2つ、より特には1つ)と組み合わせ療法で投与する場合は、化合物は同時に、または、連続して投与することができる。後者の場合、2つ以上の化合物は、期間内に、確実に有利効果なまたは相乗効果を達成するのに十分な量と方法で投与される。連続して投与される場合は、間隔を空けずに(例えば5~10分間にわたって)、または、より長い間隔(例えば、1、2、3、4時間以上離れて、または、必要な場合はさらにより長い期間離れて)で、それらを投与することができ、正確な投与計画が治療薬の特性に相応している。例えば、これらの投与量は1回の治療コース当たり1回、2回、またはそれ以上投与されてもよく、例えば、7、14、21または28日毎に繰り返されてもよい。
【0303】
特定の方法と投与の順序、およびそれぞれの投与量および併用するそれぞれの構成要素の投与計画は、特に投与される他の薬剤と本発明の化合物、投与経路、特に治療する腫瘍および治療を受ける特定の宿主に依存していることが理解される。最適な方法と投薬順序、投与量および投薬計画は、当業者によって従来の方法を用いて、また本明細書に記載される情報を考慮して容易に決定することができる。
【0304】
組み合わせで投与される場合、本発明に記載の化合物と1つ以上の他の抗癌剤との重量比は、当業者によって決定されてもよい。当業者にとって周知であるように、割合、正確な投与量と投与回数は、本発明に記載の特定の化合物および投与される他の抗癌剤、治療する時の特定の病状、治療する病状の重症度、年齢、体重、性別、食事、投与時期および特定の患者の全身的な健康状態、投与形態ならびに個人が服用しているかも知れない他の薬物に依存する。さらにまた、1日の有効量は、治療を受けている対象者の反応に依存し、および/または本発明の化合物を処方している医師の評価によって、減量または増量されてもよい。式(1)の化合物と別の抗癌剤との特定の重量比は、1/10から10/1の範囲、さらに詳細には1/5から5/1までの範囲、より詳細には1/3から3/1までの範囲である。
【0305】
本発明の化合物は、放射線治療、レーザー光化学治療、遺伝子治療などの非化学療法的治療と手術および食事療法と一緒に投与してもよい。
【0306】
本発明の化合物には、放射線治療と化学療法に対して腫瘍細胞の感受性を高めるという治療的な応用という側面も持ち合わせている可能性がある。それゆえ、本発明の化合物は、「放射線増感剤」および/または「化学療法増感剤」として用いることができ、または別の「放射線増感剤」および/または「化学療法増感剤」と組み合わせて投与することができる。一つの実施態様において、本発明の化合物は化学療法増感剤として用いられる。
【0307】
用語「放射線増感剤」は、細胞の電離性放射線に対する感受性を増し、および/または電離性放射線で治療可能な疾患の治療を促進するために治療に有効な量で患者に投与する分子として定義される。
【0308】
用語「化学療法増感剤」は、細胞の化学療法に対する感受性を増し、および/または化学療法で治療可能な疾患の治療を促進するために治療に有効な量で患者に投与する分子として定義する。
【0309】
現在、多くの癌治療プロトコルでは、放射線増感剤をX線の照射と併用している。X線で活性化される放射線増感剤の例は、メトロニダゾール、ミソニダゾール、デスメチルミソニダゾール、ピモニダゾール、エタニダゾール、ニモラゾール、マイトマイシンC、RSU 1069、SR 4233、EO9、RB 6145、ニコチンアミド、5‐ブロモデオキシウリジン(BUdR)、5-ヨウ化デオキシウリジン(IUdR)、ブロモデオキシシチジン、フルオロデオキシウリジン(FudR)、ヒドロキシウレア、シスプラチンおよび治療に有効なその類縁体や誘導体を含むが、これに限定されるものではない。
【0310】
癌の光線力学療法(PDT)は、増感剤の放射線活性化剤として、可視光を使用する。
光線力学療法で用いる放射線増感剤の例として、ヘマトポルフィリン誘導体、フォトフリン、ベンゾポルフィリン誘導体、錫エチオポルフィリン、フェオボルビド-a、バクテリオクロロフィル-a、ナフタロシアニン、フタロシアニン、亜鉛フタロシアニンおよび治療に有効なその類縁体と誘導体を含むが、これに限定されるものではない。
【0311】
放射線増感剤は、1つまたは複数の他の化合物の治療に有効な量を組み合わせて投与してもよく、標的細胞に放射線増感剤の取り込みを促進する化合物、治療薬物、栄養分および/または酸素の標的細胞への流れを制御する化合物、追加の放射線の有無にかかわらず腫瘍に作用する化学療法剤、あるいは、癌または他の疾患を治療するための治療に有効な他の化合物を含むが、これに限定されるものではない。
【0312】
化学療法増感剤は、治療に有効な量の1つまたは複数の他の化合物と組み合わせて投与してもよく、標的細胞に化学療法増感剤の取り込みを促進する化合物、治療薬物、栄養分および/または酸素の標的細胞への流れを制御する化合物、腫瘍に作用する化学療法剤あるいは、癌または他の疾患を治療する治療に有効な他の化合物を含むが、これに限定されるものではない。カルシウム拮抗薬、例えば、ベラパミルは抗悪性腫瘍薬と組み合わせることによって、既存の化学療法剤に耐性の腫瘍細胞に対して化学療法剤の感受性を成立させ、薬剤感受性悪性腫瘍においてそのような薬剤の薬効を高めることがわかった。
【0313】
別の化学療法剤との組み合わせ療法において、式(1)の化合物および1つ、2つ、3つ、4つ以上の他の治療薬を、例えば、2つ、3つ、4つ以上の治療薬を含有する剤形に一緒に製剤化することができる、すなわち、すべてのコンポーネントを含有する一体型医薬組成物にすることができる。あるいは、個々の治療薬を別々に、またはキットの形で、任意でそれらの使用説明書と一緒に製剤化してもよい。
【0314】
さらなる実施態様において、本発明が式(1)の化合物と別の治療薬、例えば上に定義された別の治療薬との組み合わせ物を提供することが前述から理解される。
【0315】
別の実施態様において、本発明は、式(1)の化合物と医薬上許容される担体および上に定義される1つまたは複数の治療薬を共に含んでなる医薬組成物を提供する。
【0316】
さらなる実施態様において、本発明は、以下を提供する。
・ここに記載される疾患または病状、特に癌の治療(発生率の軽減または低減)に用いられる、ここに定義される組み合わせ物。
・ここに記載される疾患または病状、特に癌の治療(発生率の軽減または低減)のための医薬の製造のための、ここに定義される組み合わせ物の使用。
・対象者(例えばそれを必要とするヒトなどの哺乳類の対象者)において、ここに記載される疾患または病状、特に癌の予防または治療(発生率の軽減または低減に用いられる)方法であり、ここに定義される組み合わせ物の治療に有効な量を対象者に投与することを含んでなる方法。
・腫瘍細胞の増殖を阻害する(例えば患者における)のに用いられる、ここに定義される組み合わせ物。
・患者において腫瘍細胞の増殖を阻害する医薬の製造のための、ここに定義される組み合わせ物の使用。
・腫瘍細胞の増殖を阻害する(例えば、患者において)方法であって、腫瘍細胞を式(1)の化合物またはここに定義される組み合わせ物と接触させることを含んでなる方法。
【0317】
以上の実施態様のそれぞれにおいて、式(1)の化合物および1つまたは複数の他の治療薬(そのうちの少なくとも1つは抗癌剤である)を癌に罹患している患者の治療において、同時に、別々にまたは連続して投与することができる。
【0318】
さらなる実施態様において、本発明は、癌の予防もしくは治療(または発生率の軽減もしくは低減)のための方法を提供し、その方法は、放射線治療または化学療法と組み合わせて式(1)の化合物を患者に投与することを含んでなる。
【0319】
別の実施態様において、本発明は、放射線治療または化学療法と組み合わせて癌を予防、もしくは治療(または発生率を軽減もしくは低減)するために用いられる式(1)の化合物を提供する。
【実施例】
【0320】
本発明を以下の実施例に記載された特定の実施形態を参照することによって説明するが、これに限定されない。化合物は、AutoNom(MDL)もしくはChemAxon Structure to Nameのような自動命名パッケージを使用して命名されるか、または化学物質供給業者によって命名された通りである。実施例では、以下の略語が使用される。
【0321】
以下の一般的手順と同様および/または類似の方法に従って、以下に示す化合物を製造した。
【0322】
使用される方法の説明について、以下の合成手順が提供される;所与の製造または工程について、使用される前駆体は、与えられた説明における工程に従って合成される個々のバッチからは必ずしも誘導されないかもしれない。
【0323】
化合物が2つのジアステレオマー/エピマーの混合物として記載されている場合、立体中心の配置は特定されておらず、直線で表される。
【0324】
当業者に理解されるように、指示されたようにプロトコルを使用して合成した化合物は、溶媒和物(例えば、水和物)として存在してもよく、および/または残留溶媒もしくは少量の不純物を含んでもよい。塩形態として単離される化合物は、化学量論的な整数(即ち、モノ-もしくはジ-塩)であってもよく、または化学量論的中間体であってもよい。
【0325】
以下の化合物のうちのいくつかは、塩として単離されるが、例えば、精製法にて使用される酸に依存するものである。いくつかの化合物は、遊離塩基として単離される。
【0326】
【0327】
BINAP、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフタレン;CDI、1,1’-カルボニルジイミダゾール;DCE、1,2-ジクロロエタン;DCM、ジクロロメタン;DIPEA、ジイソプロピルエチルアミン;DMSO、ジメチルスルホキシド;DMF、N,N-ジメチルホルムアミド;DMAP、-(ジメチルアミノ)ピリジン;EtOAc、酢酸エチル;h、時間;HATU、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート; HBTU、3-[ビス(ジメチルアミノ)メチリウミル]-3H-ベンゾトリアゾール-1-オキシドヘキサフルオロホスフェート;HCl、塩酸;HPLC、高速液体クロマトグラフィー;LC-MS、液体クロマトグラフィー-質量分析;LiHMDS、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド;mins、分;MeCN、アセトニトリル;MS、質量分析;NBS、N-ブロモスクシンイミド;NMR、核磁気共鳴分光法;PdCl2(dppf)2、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-フェロセンパラジウム(II)ジクロリド;Pd2(dba)3、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0);ペトロール、沸点範囲40℃~60℃を有する石油エーテル留分;PyBOP、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート;RT、室温;Sat.、飽和;SCX、固相カチオン交換樹脂;SPhos、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル;S-Phos Pd G3、(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル)[2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)]パラジウム(II)メタンスルホネート;TBDMSCl、tert-ブチルジメチルシリルクロリド;TBTU、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニムテトラフルオロボレート;TFA、トリフルオロ酢酸;THF、テトラヒドロフラン;XPhos、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルフェニル;XantPhos、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン。
【0328】
量が重量当量(wt)および容量当量(vol)で示されている場合、1volは、出発材料1グラム当たり1mLに相当する(1wtの重量当量値を有すると定義される)。例えば、50mg(0.05g)の出発材料(1wtの重量当量を有すると定義される)が使用される場合、20volの量が1mLに相当する(0.05×20=1)。
【0329】
合成方法
すべての出発物質および溶媒は、市販の供給源からか、または文献引用に従って調製するかのどちらかで入手した。特に指示しない限り、すべての反応を撹拌した。有機溶液を無水硫酸マグネシウム上で規定どおりに乾燥させた。水素化は、記載の条件下または水素バルーン下のParr水素化装置、Thales H-cubeフロー式反応装置で実施した。マイクロ波反応を、CEM Discover and Smithcreatorのマイクロ波反応容器中で実施し、可変パワーマイクロ波照射を使用して一定温度に加熱した。順相カラムクロマトグラフィーは、予め充填されたシリカ(230~400メッシュ、40~63μm)カートリッジを使用して、CombiFlash Companionシステム、またはCombiFlash RFシステムなどの自動フラッシュクロマトグラフィーシステムで、規定どおりに実施した。SCXは、Supelcoから購入し、使用前に1Mの塩酸で処理した。特に指示しない限り、精製されるべき反応混合物を最初にMeOHで希釈し、数滴のAcOHで酸性にした。この溶液を直接SCX上にのせ、MeOHで洗浄した。次いで、所望の物質を1%NH3のMeOH溶液で洗浄することにより溶離した。
【0330】
化合物が2つのジアステレオマー/エピマーの混合物として記載されている場合、立体中心の配置は特定されておらず、直線で表される。
【0331】
NMRデータ
1H NMRスペクトルを、Bruker Avance III分光計で400MHzにて獲得した。クロロホルム-d、ジメチルスルホキシド-d6の中心ピーク、またはテトラメチルシランの内部標準のどちらかを基準として使用した。NMRデータにおいて、割り当てられたプロトンの数が分子中のプロトンの理論的な数よりも少ない場合、見掛け上見えなくなっているシグナルは、溶媒および/または水のピークによって見えなくなっていると推定される。加えて、スペクトルがプロトン性NMR溶媒中で得られた場合、NHおよび/またはOHプロトンの溶媒との交換が起こり、したがって、このようなシグナルは通常観察されない。
【図面の簡単な説明】
【0332】
【
図1】
図1は、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの一つの結晶形(「形態A」)のX線粉末ディフラクトグラムである。
【
図2】
図2は、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの別の結晶形(「形態B」)のX線粉末ディフラクトグラムである。
【
図3】
図3は、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶形Bの示差走査熱量測定(DSC)スキャンである。
【
図4】
図4は、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶形Bの熱重量分析により得られた重量損失プロファイルである。
【
図5】
図5は、動的蒸気吸着分析により得られたさまざまな湿度での(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの結晶形Bの重量プロファイルを示す。
【
図6】
図6は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性塩酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図7】
図7は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性硫酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図8】
図8は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性ナパジシル酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図9】
図9は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性エジシル酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図10】
図10は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性トシル酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図11】
図11は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性メシル酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図12】
図12は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性ナプシル酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図13】
図13は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性ベシル酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図14】
図14は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性イセチオン酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図15】
図15は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性エシル酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図16】
図16は、実施例2で得られた式(1)の化合物の非晶性臭化水素酸塩の
1H-NMRスペクトルを示す。
【0333】
実施例1
非晶性(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの合成
工程1:5-ブロモ-2-(ブロモメチル)安息香酸メチル
【化18】
【0334】
冷却器、撹拌子、N2インレットおよびバブラーを取り付けた10Lの5口フラスコの、1,2-ジクロロエタン撹拌溶液(1.9L)に、メチル-5-ブロモ-2-メチル安息香酸塩(500.0g、2.18mol、1.0当量)およびN-ブロモスクシンイミド(Fuluorochem、388.5g、2.18mol、1.0当量)を加えた。この混合物を90℃に加熱した(油浴)。アゾビスイソブチロニトリル(5.0g、0.03mol、0.014当量)をDCE(100mL)に溶解させ、20mLを滴下漏斗に加えた。これを反応混合物が85℃に達したときにゆっくり加えた。激しい還流および発泡が収まったところで、残りの80mLを反応混合物に一度に加え、90℃で1時間撹拌した。NMRは、反応が完了し、11%前後の出発材料がなお残留していることを示した。次に、この反応混合物を油浴中でドライアイスを用いて室温に冷却し、内部温度が約30℃に下がったところで、反応混合物を水(2.0L)で急冷した。5分後に、2つの同じ反応混合物を合わせ、分液漏斗に移し、有機層を回収した。水層を、DCM(2×2.0L)を用いて抽出した。全ての有機層を合わせ、水(2L)およびブライン(2L)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮し、橙色液体(1.397kg、104%、2×500gの実施から)。
【0335】
工程2 (2R)-2-(6-ブロモ-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)プロパン酸tert-ブチル
【化19】
【0336】
冷却器、撹拌子、N2インレットおよびバブラーを取り付けた10Lの5口フラスコの、THF撹拌溶液(5.0L)に、5-ブロモ-2-(ブロモメチル)安息香酸メチル(工程1から)(660g、2.14mol、1.0当量)、(2R)-2-アミノプロパン酸t-ブチル.HCl(467g、2.57mol、1.2当量)およびジイソプロピルエチルアミン(1.0L、6.42mol、3.0当量、d=0.742)を加えた。この混合物を油浴中で一晩80℃に加熱した。次に、この反応混合物を、ドライアイスを用いて室温に冷却した後、2つの同じ反応混合物を大きな分液漏斗に注いだ。NaHCO3の飽和溶液(5.6L)を加え、この混合物を5分間撹拌した。有機層を回収し、水相を、酢酸エチル(2×4L)を用いて抽出した。有機相を合わせ、ブライン(5.6L)で洗浄し、3分間撹拌し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、真空濃縮して橙色~褐色の残留粘着性固体を得、これを真空炉内に40℃で一晩置いた。この固体(1.4kg)を石油エーテル40~60(2.5L)でスラリーとし、一晩激しく撹拌し、その後、濾過し、石油エーテル(2×300mL)で洗浄し、黄色固体(480g)を得た。
【0337】
工程3:(2R)-2-[1-オキソ-6-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル]プロパン酸tert-ブチル
【化20】
【0338】
オーバーヘッドスターラー、冷却器、温度計およびN2インレットおよびバブラーを取り付けた10Lの5口フラスコの、ジオキサン撹拌溶液(4L)に、(2R)-2-(6-ブロモ-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)プロパン酸tert-ブチル(工程2から)(500g、1.469mol、1.0当量)、ビス(ピナコラト)二ホウ素(446.3g、1.764mol、1.2当量)および無水酢酸カリウム(433.9g、4.409mol、3当量)を加えた。次に、これをN2で30分間脱気した後、Pd(dppf)Cl2(21.5g、0.029mol、0.02当量)を加え、反応混合物をさらに10分間脱気し、次いで、油浴中で90℃に加熱した。これを一晩撹拌し(注:90℃で2~3時間後に、激しい還流を伴って88℃~104℃の反応発熱があり、冷めて90℃に戻る前に約30分間で、溶液が橙~赤色の溶液から暗褐色となる)。これらの反応物を、ドライアイスを用いて室温に冷却した後に合わせ、セライトパッド(4L焼結物、約2インチ厚のパッド)で濾過した。このパッドを全ての色が洗い流されるまでジオキサン(1L)で洗浄した。
【0339】
工程4:(2R)-2-[6-(2,5-ジクロロピリミジン-4-イル)-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドリン-2-イル]プロパン酸tert-ブチル
【化21】
【0340】
次に、工程3の溶液を二等分し、各半分を、前工程と同じものを取り付けた5口フラスコに入れた。この5口フラスコに2,4,5-トリクロロピリミジン(404.4g、252.8mL、2.205mol、1.5当量、D=1.6)、炭酸カリウム(609.4g、4.409mol、3当量)を加え、次いで、30分間N2で脱気した後、Pd(dppf)Cl2(21.5g、0.029mol、0.02当量)を加え、さらに10分間脱気した。この反応混合物を油浴中で65℃に加熱した後、滴下漏斗を介して水(500mL)を5分かけて加えた(注:最初の水の添加の5分後に62℃~72℃の発熱)。この反応物を一晩放置した。反応物を、ドライアイスを用いて室温に冷却し、セライトパッド(4L焼結物、約3インチ厚のパッド)で濾過し、このパッドをDCM(2L)で洗浄した。次に、濾液を濃縮してほぼ乾燥させ、黒~褐色のタール状の粗物質(1909g)を得た。
【0341】
粗材料を2つに分け、シリカカラムにドライロードし、6×4Lの40%酢酸エチル/石油で溶出した(注:全ての画分を混合し、従って合わせ、濃縮してほぼ乾燥させた-30%酢酸エチル/石油中での生成物のTLC Rf=約0.5)。残留する褐色混合物を室温に冷却し、石油(4L)を加え、回転装置上で2時間撹拌して生成物を析出させた。これを濾過し、このケークを石油(2×2L)で洗浄し、白色固体(548g)を得た。
【0342】
あるいは、(2R)-2-[6-(2,5-ジクロロピリミジン-4-イル)-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドリン-2-イル]プロパン酸tert-ブチル(中間体化合物(4))をPCT/IB2016/001507(国際公開番号WO2017/068412)-その中の調製76、89および94を参照に記載のとおりに製造することができる。
【0343】
非晶性(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド(化合物1)は、以下に示す合成スキームに従って、(2R)-2-[6-(2,5-ジクロロピリミジン-4-イル)-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドリン-2-イル]プロパン酸tert-ブチル(工程4から)から合成した。
【0344】
工程5:(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド
【化22】
【0345】
【0346】
15~25℃で、トルエン(13vol)中、(4)(Manchester Organicsにより供給)(1.0wt)の溶液に、濃塩酸(1vol)を加え、次いで、一連のトルエン洗浄(1vol)を行った。この混合物を35~40℃に加熱し、反応が完了に達するまでこの温度で撹拌した(合格基準:(4)の面積≦2.0%、予想反応時間16~24時間)。この懸濁液を減圧下、50℃までで、湿潤固体が得られるまで濃縮した。トルエン(3×10vol)を減圧下、50℃までで濃縮しながら添加し、連続添加のたびに湿潤固体を得た。トルエン(4vol)を添加し、懸濁液を大気圧下、50℃までで10~20分間、ロータリーエバポレーターで回転させた。フラスコをロータリーエバポレーターから外し、内容物を少なくとも1時間、15~25℃で熟成させた。固体を濾取し、トルエン(2×2vol)で洗浄し、トルエン含量が≦6.0%w/wとなり、水分含量が≦2.0%w/wとなるまで窒素下で吸引乾燥させた。中間体(5)は灰白色~薄ベージュの固体として単離された(74~95%th、64~82%w/w)。
【0347】
段階2:中間体(5)の4-アミノテトラヒドロピランとのカップリング
【化24】
【0348】
15~25℃で、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)(9.5vol)中、(5)(1.0wt回収、1.0mol当量)の溶液に、炭酸カリウム(0.86wt、2.2mol当量)、次いで、15~40℃で、4-アミノテトラヒドロピラン(6)(0.4vol、1.3mol当量)を加え、一連のNMP洗浄(0.5vol)を行った。この混合物を80~95℃に加熱し、反応が完了に達するまでこの温度で撹拌した(合格基準:≦1.0mol%中間体(5)、反応時間4~6時間)。この混合物を15~25℃に冷却し、温度を15~30℃に維持しながら3M塩酸(10vol)を添加した。ジクロロメタン(DCM)(10vol)を加え、相を分離した。酸性水相をDCM(5vol)で逆抽出し、合わせた有機相を、NMP含量が≦15.0%w/wに抑えられるまで精製水(8×10vol)で洗浄した。有機相を13%w/w NaCl溶液(10vol)で洗浄し、活性炭(0.3wt)で処理し、硫酸マグネシウム(1.0wt)で乾燥させた。この混合物を濾過して乾燥剤を除去し、DCM(2×2vol)で洗浄し、合わせた濾液を減圧下、35℃までで濃縮し、(2)を淡褐色泡沫(74~90%th、88~107%w/w)として得た。
【0349】
【0350】
DCM(12.5vol)中、(2)(1.0wt、1.0mol当量)の溶液に、アミン(3)(0.68wt、1.27mol当量)を加えた。この懸濁液を10~15℃に冷却し、DIPEA(1.67vol、4.0mol当量)を添加した。得られた溶液を5~10分間撹拌した後、反応温度を<25℃に維持しながら、HATU(1.15wt、1.27mol当量)を少量ずつ加えた。この混合物を、HPLCにより完了したと思われるまで((2)の面積<0.5%、一般に1時間)、15~25℃で撹拌した。完了時に反応物を減圧下、38℃までで濃縮し、粘稠で流動性の橙色の油状物を得た。残渣をEtOAc(10vol)に溶解させ、精製水(10vol)、25%w/w塩化アンモニウム溶液(2×10vol)、8%w/w NaHCO3溶液(2×10vol)および13%w/w NaCl溶液(6×10vol)で洗浄した後、MgSO4(1.0wt)で乾燥させた。固体を濾別し、この濾過ケークを酢酸エチル(2×2vol)で洗浄した。濾液を40℃まででロータリーエバポレーターで濃縮し、粗化合物1を淡黄色泡沫として得た。粗化合物1をドライフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。
【0351】
HATUの代わりに1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)をカップリング薬剤として使用し、DIPEAの代わりに4-ジメチルアミノピリジン(4-DMAP)を塩基として使用し、かつ、DCMの代わりにジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として使用した上記の条件を適用した場合にも(2)の化合物1への完全な変換が見られた。
【0352】
クロマトグラフィー手順:
シリカ(20wt)をドライフラッシュカラムに充填し、酢酸エチル(典型的には2×20vol)で溶出することによってシリカを洗浄および充填した。粗化合物1(未補正1wt)をDCM(4vol)に溶解させ、カラムに注意深くロードした。次に、カラムを以下のように溶出した:
・純EtOAc 40×20vol F1-240
・EtOAc中1%MeOH 10×20vol F41-50
・EtOAc中5~10%MeOH 3×20vol F51-53カラムフラッシュ
【0353】
回収された画分を全てHPLCにより分析し、生成物は一般に画分12~45に溶出した。TLCにより最も純粋でかつ最も強度が大きいと思われる画分(例えば、上記の例の生成物溶出範囲で画分15~25)のみをHPLCデータが無い状態で分類した。外側の生成物を含有する画分をHPLCにより分析して、これらが主要な生成物画分と合わせるのに適した純度であるかどうかを決定した。画分の全てが合わせられ、泡沫または低容量に濃縮されたところで、生成物を酢酸エチル(例えば10vol)で希釈し、撹拌して溶液とし、次いで、ガラス繊維濾紙で明澄化した。次に、濾液を濃縮し、非晶性化合物1を灰白色~淡黄色の泡沫として得た(65~85%th、91~119%w/w)。
【0354】
実施例2
化合物1の非晶性塩の製造
さまざまな対イオンの保存溶液を2-プロパノール中に調製した。適切な保存溶液(500μl、10vol)を酢酸イソプロピル中、化合物1(実施例1に従って製造)の溶液(2.5ml、50vol)に添加し、撹拌した。結晶化しなかったかまたは若干沈澱した固体を冷却し、蒸発により濃縮するか、またはt-ブチルメチルエーテル(TBME)でさらに処理した。
【0355】
これらの固体を濾過により単離し、窒素流下で96時間乾燥させ、取り出し、1H NMRおよびXRPDにより分析した(下表参照)。
【0356】
【0357】
実施例3
化合物1の結晶形の製造
実施例3A-結晶形Aの製造
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの塩酸塩(実施例2で製造)を70℃で96時間、精製水(35容量)中に懸濁させた。固体を濾過により単離し、窒素流下で96時間乾燥させ、取り出し、XRPDにより分析した(
図1)。
【0358】
実施例3B-結晶形Bの製造(方法I)
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドの塩酸塩(実施例2で製造)を18~23℃で精製水(2ml、20vol)に懸濁させた。この溶液を45~50℃で20時間撹拌した。次に、温度を30~35℃に下げ、この溶液をさらに96時間撹拌した。得られた固体のXRPDが示され、
図2のXRPDパターンと一致した。
【0359】
実施例3C-結晶形Bの製造(方法II)
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド(実施例2で製造)の塩酸塩を精製水(20vol)に懸濁させ、この混合物を窒素下、40℃で20時間撹拌した。2-プロパノール(7.6vol)を添加し、混合物を40℃で20時間撹拌した。変換の進行をXRPDによってモニタリングした。得られた固体のXRPDが示され、図2のXRPDパターンと一致した。
【0360】
実施例3D-結晶形Bの製造(方法III)
(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(オキサン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(1S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド(実施例1で製造)(100mg、1.0wt.)、次いで、酢酸エチルまたはトルエン(15vol)のいずれかおよびtert-ブチルメチルエーテル(15vol)を容器に添加した。懸濁液を7日間30℃で撹拌した。この後に生成物を濾過により単離し、循環させた成熟溶媒で洗浄し、窒素流下、18~23℃で乾燥させ、結晶化の証拠に関してXRPDにより分析した。得られた固体のXRPDパターンは
図2のXRPDパターンと一致した。
【0361】
実施例4
化合物1の結晶形Bのさらなる特性決定
実施例3B、3Cおよび3Dで得られた化合物1の結晶形Bを、X線粉末回折、示差走査熱量測定、熱重量分析および動的蒸気吸着を用いて調べた。
【0362】
実施例4A-X線粉末回折
化合物1の結晶形Bの結晶は、実施例3の方法に従って製造した。X線粉末回折(XRPD)分析は、LynxEye検出器を備えたBruker D2 Phaser粉末回折装置を用いて行った。サンプルは最小限の調製を受け、必要であれば、乳棒および乳鉢で軽く摩砕してから取得した。検体をシリコンサンプルホルダーの中央の5mmのポケットに入れた(およそ5~10mg)。データ回収の間、サンプルを連続的に回転させ、0.02°2シータ(2θ)のステップサイズ 4°~40°2θの範囲およびステップタイム34.5秒を用いてスキャンした。データはBruker Diffrac.Suiteを用いて処理した。化合物の結晶形BのX線粉末ディフラクトグラムを
図2に示し、各ピークに伴う2θ回折角および強度を下表に示す。
【0363】
【0364】
実施例4B-示差走査熱量測定(DSC)
化合物1の結晶形Bの結晶は、実施例3の方法に従って製造した。STAReTMソフトウエアを用いて操作される熱分析のために、Mettler Toledo DSC 821装置を用いた。分析は40μLのオープンアルミニウムパンにて窒素下で行い、サンプルサイズは1~10mgの範囲であった。一般に、分析は、20°~250°の温度範囲にわたって10℃/分の温度勾配で行った。結晶性化合物のDSCスキャンを
図3に示す。
【0365】
実施例4C-熱重量分析(TGA)
化合物1の結晶形Bの結晶は、実施例3の方法に従って製造した。およそ7mgのサンプルを、ブタンブロートーチを用いて洗浄した白金HT TGAパンに入れ、その装置の自動風袋控除機能を用いて風袋を控除した。サンプルを窒素雰囲気下、10℃/分の速度で25から800℃に加熱した。結晶性化合物の重量損失プロファイルを
図4に示す。
【0366】
実施例4D-動的蒸気吸着分析
化合物1の結晶形Bの結晶は、実施例3の方法に従って製造した。およそ20mgのサンプルをアルミニウムパンに秤量し、25℃で維持したDVS Intrinsic装置に載せた。サンプルを0%RHで3時間平衡化した後、湿度を5%刻みで0から30%RHに上昇させた。この後、10%刻みで90%RHまで上昇させた。脱着相にも同様の勾配プロファイルを用いた。各ステップにおいて、単位時間当たりの質量変化率(dt)0.002%/分を平衡パラメーターとして設定した。化合物の蒸気吸着/脱着プロファイルを
図5に示す。
【0367】
実施例4E-単結晶X線回折研究
式(1)の化合物の形態Bの単結晶X線構造は、酢酸イソプロピルからの緩慢な蒸発によって得られた結晶を用い、100Kで決定した。
【0368】
データは、Oxford Cryosystems Cobra冷却装置を備えたRigaku Oxford Diffraction Supernova Dual Source,Cu at Zero,Atlas CCD回折装置で収集した。データはCu Kαを用いて収集した。構造は、Bruker AXS SHELXTLスーツを用いて解明および精密化した。子細は下表に見ることができる。特に指定がない限り、炭素に結合した水素原子は幾何学的に配置され、ライディング等方性変位パラメーターを用いて精密化可能とした。ヘテロ原子に結合した水素原子を差フーリエ合成で配置し、等方性変位パラメーターで自由に精緻化できるようにした。結晶構造の参照ディフラクトグラムは、水銀を用いて作成した(C. F. a. Macrae, “Mercury: visualization and analysis of crystal structures,” J. Appl. Cryst., vol. 39, pp. 453-457, 2006)。
【0369】
【0370】
【0371】
結晶は、最終R1=[I>2s(I)]=2.93%の、単斜晶系、空間群P21であることが判明した。
【0372】
この化合物の絶対立体化学は回折データを用いて決定し、Flackパラメーター=-0.004(7)を有する本明細書の式(1)で示される通りであることが確認された。
【0373】
非対称単位には、1分子の式(1)の化合物と1個の水分子が存在し、両方とも完全に規則正しく配向し、結晶形Bは式(1)の化合物の一水和物であることが確認される。
【0374】
実施例5
水性溶媒中での化合物(1)の結晶形Bの溶解度の決定
式(1)の化合物の結晶形Bおよび非晶形の溶解度を、精製水およびバッファー中、同じ濃度で、最大24時間の撹拌時間、18~23℃で決定した。溶液のpHおよび温度をモニタリングし、試験の終了時に向かってpH変化が起こらなかったことを確認した。
【0375】
一般手順
式(1)の化合物のサンプル(50mg)をそれぞれ精製水(2mL)または適当なバッファーに懸濁させ、周囲温度(18~23℃)で20~24時間撹拌した。その後、これらのスラリーを遠心分離し、必要であれば、HPLCサンプル希釈剤(アセトニトリル/水、1/1、v/v)により希釈し、HPLCピーク面積により分析した。測定値を式(1)の化合物の適切な検量線と比較した。およその溶解度を計算し、適当な希釈率および%w/wアッセイに補償係数を適用した。希釈率は、ピーク面積値が所望の検量線範囲内に入ることを保証した。
【0376】
遠沈管に残った固体プラグを真空炉で乾燥させ、XRPDにより分析した。検体が化合物(1)の結晶形に関して予想される回折パターン以外の結晶度の証拠を示した場合には、化学的同一性を確認するために、1H NMRによるさらなる分析を行った。
【0377】
試験に用いたバッファーの調製を後述する:
pH1.2-50mLの0.2M塩化カリウム溶液と85mLの0.2M塩酸溶液を混合する。
pH2-50mLの0.2M塩化カリウム溶液と13mLの0.2M塩酸溶液を混合する。
pH3-100mLの0.1Mフタル酸水素カリウムと44.6mLの0.1M塩酸溶液を混合する。
pH4-100mLの0.1Mフタル酸水素カリウムと0.2mLの0.1M塩酸溶液を混合する。
pH5-100mLの0.1Mフタル酸水素カリウムと45.2mLの0.1M 水酸化ナトリウム溶液を混合する。
pH6-100mLの0.1Mオルトリン酸二水素カリウムと11.2mLの0.1M水酸化ナトリウム溶液を混合する。
pH7-100mLの0.1Mオルトリン酸二水素カリウムと58.2mLの0.1M水酸化ナトリウム溶液を混合する。
pH8-100mLの0.1Mオルトリン酸二水素カリウムと93.4mLの0.1M水酸化ナトリウム溶液を混合する。
【0378】
【0379】
結論および観察
式(1)の化合物の結晶形および非晶形はいずれも、pH1.2~8.0(およそ<0.1mg/ml)のバッファー中で部分的不溶性であった。
【0380】
非水性溶媒中での化合物(1)の結晶形Bの溶解度の決定
手順
実施例3に記載のとおりに製造した化合物(1)の形態Bを適当な溶媒(2ml)におよそ1時間の間隔で添加した。これらの溶液を意図的に飽和させ、18~23℃で72時間撹拌した。その後、これらの懸濁液を遠心分離し、それらの上清のサンプルを採取し、相応に希釈し、対応する分析物のピーク面積をHPLCにより測定し、標準較正品のものと比較した。およその溶解度を計算し、溶解度は無水溶媒不含系で物理的に調べ、それらの結果が一致するかどうか確認した。
【0381】
【0382】
飽和溶液を遠心分離し、100μlの明澄な上清を250ml容量(エタノール)または100ml容量(残りのもの)に加え、サンプル希釈液で容量を調整した。次に、これらの希釈サンプルをHPLCピーク面積により分析し、最大溶解度評価値を計算し、下表に示す。
【0383】
【0384】
適切な桁の溶解度評価値を確認するために、溶液を最大測定濃度評価値に調製し、これらの混合物を、溶解を確認するために同じ条件下で一晩撹拌した。
【0385】
結論
式(1)の化合物は、水よりもエタノール、PEG400およびプロピレングリコール中で有意に大きい溶解度を持つことが示された。
【0386】
実施例6
液体製剤-I
溶媒
a.プロピレングリコール-P4347 SIGMA-ALDRICH(USP試験子細に適合)
b.エタノール-29221 SIGMA-ALDRICH(Ph.Eur.に従って試験)
c.Super Refined(商標)PEG 400-Croda(JP、USP-NF、PhEur)
d.プロピレングリコールとエタノール75:25(%w/w)の組み合わせ
e.プロピレングリコールとエタノール85:15(% w/w)の組み合わせ
【0387】
プロトコル
式(1)の化合物をガラスバイアル中、500mg/mLの各溶媒中でインキュベートし(25℃ RS9000ヒーターブロックを使用)、一定の振盪下に置く。T=1、3、7、24および48時間。
【0388】
得られた懸濁液を13,000rpmで15分間、超遠心分離し(すなわち、サンプルサイズ500~1000μl)、目視で清澄化を確認する。十分な清澄化が達成されていなければ、遠心手順を繰り返して残留する不溶化合物を沈降させる。適切であれば上清のサンプルを採取し(例えば、100μl~1000μl)、必要であれば希釈し、実際の濃度を確定するためにHPLC-UVにより分析する。
【0389】
実施例7
液体製剤-II
以下の液体製剤を調整した。
7-1.5gのTPSGおよび5gのプロピレングリコールに式(1)の化合物を溶解。
7-2.6gのTPSGおよび6gのプロピレングリコールに式(1)の化合物を溶解。
7-3.2.5gのTPSGおよび7.5gのプロピレングリコールに式(1)の化合物を溶解。
7-4.TPGS(20%w/w)、エタノール(15%w/w)およびプロピレングリコール(65%w/w)に式(1)の化合物を溶解。
7-5.プロピレングリコール(100%w/w)に式(1)の化合物を溶解。
7-6.TPGS(10%w/w)、エタノール(10%w/w)およびプロピレングリコール(80%w/w)に式(1)の化合物を溶解。
【0390】
各製剤中の式(1)の化合物の濃度は、100mg/mLであった。
【0391】
各製剤に下記の方法により人工胃液および人工腸液中で希釈試験を行った。これらの試験で、式(1)の化合物の濃度は下記のHPLC-UV法を用いて決定した。
【0392】
LC法のパラメーター
カラム:Halo C18 150×4.6mm;2.7μm
注入容量:5μL
検出:UV 221nm
移動相A:水/アセトニトリル/TFA(5/95/0.05 v/v/v)
移動相B:水/アセトニトリル/TFA(95/5/0.5 v/v/v)
【表12】
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
測定時間:40分
積分時間:36分
バイアル洗浄:サンプル希釈剤
【0393】
希釈試験
各製剤を50mLのFaSSGF (http://biorelevant.com/fassif-fessif-fassgf/how-to-make/に記載の方法に従って調製)に添加し、3時点(T=5分、15分および30分)で、一サンプル当たり少なくとも2mLを抜き取ってサンプルを採取した。
【0394】
次に、この混合物を44mLの空腹時人工腸液FaSSIF(http://biorelevant.com/fassif-fessif-fassgf/how-to-make/に記載の方法に従って調製)でさらに希釈し、8時点(T=5分、15分、30分、45分、1時間、3時間、5時間、および7時間)でサンプルを採取した。サンプルの式(1)の化合物濃度をHPLC-UVにより分析した。
【0395】
製剤7-1および7-2については、65%前後の式(1)の化合物は、FaSSGF希釈の30分後に可溶化されたままであった。次の希釈工程において、FaSSIFに移行したときに、可溶化した化合物の量は3時間まで50%前後に留まり、その後、徐々に低下した。この希釈試験の結果から「ヒトの希釈シナリオ」へと推論を進めると、1000mg用量の式(1)の化合物の>60%(すなわち、600mg前後)が製剤7-1または製剤7-2中に溶解し、胃に入ったときに溶液中に留まると予想された。
【0396】
製剤7-3については、FaSSGF希釈の30分後に、33%前後の薬物がなお可溶化したままであった。次の希釈工程で、FaSSIFに移行したときに、可溶化した薬物の量は3時間まで27%前後に留まり、その後、徐々に低下した。この希釈試験の結果から「ヒトの希釈シナリオ」へと推論を進めると、1000mg用量の>30%(すなわち、300mg前後)が製剤7-3中に溶解し、胃に入ったときに溶液中に留まると予想された。
【0397】
製剤7-4については、FaSSGF希釈の30分後に、33%前後の薬物がなお可溶化したままであった。次の希釈工程で、FaSSIFに移行したときに、可溶化した薬物の量は3時間まで24%前後に留まり、その後、徐々に低下した。この希釈試験の結果から「ヒトの希釈シナリオ」へと推論を進めると、1000mg用量の>30%(すなわち、300mg前後)が製剤7-4中に溶解し、胃に入ったときに溶液中に留まると予想された。
【0398】
製剤7-5については、FaSSGF希釈の30分後に、2%前後の薬物がなお可溶化したままであった。次の希釈工程で、FaSSIFに移行したときに、可溶化した薬物の量は2%前後に留まった。
【0399】
製剤7-6については、FaSSGF希釈の30分後に、17%前後の薬物がなお可溶化したままであった。次の希釈工程で、FaSSIFに移行したときに、可溶化した薬物の量は2%前後に留まった。
【0400】
製剤7-6は特に有利であることが判明した。この製剤のプラセボバージョン(すなわち、ビヒクル単独で式(1)の化合物は存在しない)は、最初、いくらかの沈降物を含む透明な液体を形成したが、この沈降物は50℃に加熱することによって再溶解し、この液体は、24時間および96時間後も沈降物や曇りもなく、透明なままであった。100mg/mlの式(1)の化合物を含有する製剤7-6の活性バージョンは、透明な溶液を形成し、これは室温で24時間および192時間後に沈澱のない透明な液体または曇りのある溶液として留まった。
【0401】
実施例8
生物活性
実施例8A-ERK2 in vitro阻害アッセイ
本発明の化合物の阻害活性は、下記に示すプロトコルを用いて決定した。
【0402】
ERK2酵素(ライフテクノロジーズ社)の活性は、時間分解蛍光測定を使用して、緑色蛍光タンパク質で標識された活性化転写因子2(ATF2-GFP)(ライフテクノロジーズ社)の短縮型のリン酸化を測定した。50mMのトリスpH7.5、10mMのMgCl2、1mMのEGTA、0.01%のトリトンX-100、1mMのDTT、2.5%のDMSO、0.4μMのATF2-GFP、20μMのATPおよび0.25nMのERK2を含むアッセイ反応は、化合物の存在下に、室温で30分間反応させることによって行った。その後、反応をTR-FRET希釈緩衝液(ライフテクノロジーズ社)、25mMのEDTAおよび2nMのTb-抗-pATF2(Thr71)抗体(ライフテクノロジーズ社)を用いて停止した。少なくとも30分間、追加でインキュベートした後、蛍光をPHERAstarプレートリーダー(ランタスクリーン光学モジュール、励起波長340nm、蛍光波長520nm(チャネルA)、495nm(チャネルB))で読み出した。AとBの比は、シグナルを計算するのに用いた。IC50値は、シグモイド型用量反応関数(プリズム・グラフパッド・ソフトウェア、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州、米国)を使用して算出した。
【0403】
ERK2を用いたアッセイでは、式(1)の化合物は、0.0027μMのIC50値を有する。
【0404】
実施例8B-増殖抑制作用
本発明の化合物の増殖抑制作用は、式(1)の化合物のヒト悪性黒色腫細胞株A375の増殖を阻害する能力として測定することによって決定した。
【0405】
細胞増殖は、ミトコンドリア活性に反応してレサズリン(アラマーブルー)がレゾルフィンに変換するのを測定することによって決定した(Nociari, M.M,Shalev,A.,Benias,P.,Russo,C.Journal of Immunological Methods 1998, 213, 157-167)。A375細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、テディントン、英国)は、ダルベッコ改変イーグル培地+10%FBS中で増殖させた。化合物を処理する前日に、200μLの完全培地中に細胞が2×103含まれるよう、黒の96穴平底プレートの各穴に播種した。細胞は、0.1%(v/v)のジメチルスルホキシド(DMSO)中で溶解した化合物と共に、4日間インキュベートし、20μLのアラマーブルーを添加した。37℃にて追加で6時間インキュベートした後、プレートをSpectraMaxGeminiリーダで読み取った(モレキュラーデバイス、励起535nm、蛍光590nm)。GI50値はシグモイド型用量反応関数(プリズム・グラフパッド・ソフトウェア、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州、米国)を使用して算出した。
【0406】
A375細胞を用いたアッセイでは、式(1)の化合物は、0.0034μMのGI50値を有する。
【0407】
細胞増殖のための併用プロトコル
式(1)(化合物I)の化合物と抗癌剤(化合物II)との併用効果は、以下の技術を使用して評価することができる。ヒト癌細胞株(例えば、A375)を、96穴組織培養プレート上へ2×103~4×103細胞/穴の濃度で播種した。16~24時間かけて、細胞を回復させてから、化合物またはDMSO対照(0.1~0.5%のDMSO)を添加した。細胞は、0.1%~0.5%(v/v)のジメチルスルホキシド(DMSO)中で溶解した化合物と共に72~96時間インキュベートした後、20μLのアラマーブルーを添加した。さらに37℃で6時間、インキュベートした後、プレートをSpectramax Geminiマイクロプレートリーダーで読み取った(モレキュラーデバイス社。励起535nm、蛍光590nm)。GI50値は、シグモイド型用量反応関数(プリズム・グラフパッド・ソフトウェア、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州、米国)を使用して算出した。さまざまな用量の化合物Iの存在下での化合物IIのGI50を測定した。無効量の化合物Iの存在下で、GI50が低くシフトした時に相乗効果が判断された。化合物IIと化合物Iに対する反応が2つの化合物の個々の効果の合計に等しくなった時に相加効果が判断された。拮抗作用は、GI50が上方にシフトする効果、すなわち2つの化合物に対する反応が2つの化合物の効果の合計より少なくなる効果として定義した。
【0408】
実施例9
医薬製剤
(i)錠剤製剤
ここに定義されるように、式(1)の化合物を含有する錠剤組成は、適切な量の化合物(例えば50~250mg)と適切な希釈剤、崩壊剤、圧縮剤および/または滑剤を混ぜ合わせることによって調製される。1つの可能な錠剤は、50mgの化合物と希釈剤として197mgのラクトース(BP)および滑沢剤として3mgのステアリン酸マグネシウムとを含んでなり、既知の方法で圧縮して錠剤としたものである。圧縮錠は、必要に応じてフィルムで被覆されてもよい。
【0409】
(ii)カプセル製剤
カプセル製剤は、ここに定義されるように、式(1)の化合物の100~250mg(例えば、100mg)を当量のラクトース(例えば、100mg)と混合し、得られる混合物を標準的な不透明な硬質ゼラチンカプセルに充填することによって調製される。適当な崩壊剤および/または滑剤は、必要に応じて適当な量を含むことができる。
【0410】
(iii)注射可能な製剤I
注射による投与のための非経口組成物は、ここに定義されるように、式(1)の化合物(例えば塩の形で)を10%のプロピレングリコールを含む水に溶解することによって調製することができ、1.5重量%の活性型化合物を得る。その後、溶液は濾過滅菌され、アンプルに充填されて密封される。必要に応じて、溶液は滅菌前に等張することができる。
【0411】
(iv)注射可能な製剤II
注射のための非経口組成物は、ここに定義されるように、式(1)の化合物(例えば塩の形で)(2mg/mL)およびマンニトール(50mg/mL)を水に溶解し、溶液は濾過滅菌し、1mLの密封可能なアンプルまたはプレフィルドシリンジに充填して調製される。
【0412】
(v)注射可能な製剤III
注射または点滴により静脈内に送達するための製剤は、式(1)の化合物(例えば塩の形で)を20mg/mLで水に溶解し、その後必要に応じて等張にすることによって調製することができる。その後、バイアルは密封されて、オートクレーブによって滅菌される。あるいは、それはアンプルまたはバイアルまたはプレフィルドシリンジに充填されてもよくて、濾過滅菌され、密封されてもよい。
【0413】
(vi)注射可能な製剤IV
注射または点滴により静脈内に送達するための製剤は、式(1)の化合物(例えば塩の形で)を緩衝液(例えば0.2Mの酢酸塩、pH4.6)を含有する水に20mg/mLで溶解することによって調製することができる。その後、バイアルは密封されてオートクレーブによって滅菌される。あるいは、その後プレフィルドシリンジは密封され、オートクレーブによって滅菌されるか、または濾過滅菌され、密封される。
【0414】
(vii)皮下または筋肉注射用製剤
皮下(または筋肉内)投与のための組成物は、ここに定義されるように式(1)の化合物を医薬品グレードのトウモロコシ油と一緒に混合することによって調製し、5~50mg/mL(例えば5mg/mL)の濃度を得る。組成物は、滅菌されて、適切な容器に充填される。
【0415】
(viii)凍結乾燥製剤
式(1)の製剤化した化合物の分割量を、50mLのバイアルに入れ、凍結乾燥する。凍結乾燥の間、組成物はワンステップ凍結プロトコルを使用して凍結する(-45℃)。温度を、アニーリングのために-10℃まで上昇させ、その後-45℃まで低下させて凍結し、続けて+25℃で一次乾燥を約3400分間行い、温度が50℃となる場合は、さらにステップを増やして二次乾燥を行う。一次および二次乾燥の間、圧力は80mTorrに設定する。
【0416】
(ix)凍結乾燥製剤II
ここに定義されるように式(1)の製剤化した化合物またはその塩の分割量を、50mLのバイアルに入れ、凍結乾燥する。凍結乾燥の間、組成物はワンステップ凍結プロトコルを使用して凍結する(-45℃)。温度を、アニーリングのために-10℃まで上昇させ、その後-45℃まで低下させて凍結し、続けて+25℃で一次乾燥を約3400分間行い、温度が50℃となる場合は、さらにステップを増やして二次乾燥を行う。一次および二次乾燥の間、圧力は80mTorrに設定する。
【0417】
(x)静脈内投与用の凍結乾燥製剤III
水溶性緩衝液は、式(1)の化合物を緩衝液に溶解することによって調製する。緩衝液は、濾過によって粒子状物質を除去して、容器(例えば1型ガラスバイアル)に充填し、その後容器を一部、密封する(例えば、フルロテックストッパーによって)。化合物および製剤が十分に安定である場合、製剤をオートクレーブによって121℃で適切な時間、滅菌する。製剤がオートクレーブに対して安定でない場合、適切なフィルタを用いてそれを滅菌することができ、無菌状態下で滅菌済みバイアルに充填することができる。溶液を適切なサイクルで凍結乾燥する。凍結乾燥のサイクルの完了時に、バイアルに窒素充填して大気圧に戻し、密栓する(例えばアルミニウムクリンプによる)。静脈内投与のために、凍結乾燥固体は、0.9%の食塩水または5%のブドウ糖などの医薬上許容される希釈剤で戻すことができる。溶液はそのまま投与することができるか、あるいは投与前に輸液バッグ(0.9%の食塩水または5%のブドウ糖などの医薬上許容される希釈剤を含有)に入れてさらに希釈することができる。
【0418】
(xii)瓶内の粉末
経口投与のための組成物は、瓶またはバイアルに式(1)の化合物を充填することによって調製される。その後、組成物は、例えば水、果汁、あるいはOraSweetまたはSyrspendなどの市販の賦形剤など適切な希釈剤で戻す。戻された該溶液は、投薬カップまたは経口用注射器に投与するために分配されてもよい。