(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】ヒートエンジンのためのピストン、そうしたピストンを備えるヒートエンジン、および方法
(51)【国際特許分類】
F02F 3/12 20060101AFI20220729BHJP
F02F 3/10 20060101ALI20220729BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
F02F3/12
F02F3/10 B
F02F3/00 R
(21)【出願番号】P 2019557686
(86)(22)【出願日】2018-01-10
(86)【国際出願番号】 FR2018050052
(87)【国際公開番号】W WO2018130779
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-10-14
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506126266
【氏名又は名称】イドロメカニーク・エ・フロットマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス・プロスト
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・オー
(72)【発明者】
【氏名】ロマン・モンテリマール
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-508324(JP,A)
【文献】特表2013-510991(JP,A)
【文献】特表2014-518979(JP,A)
【文献】特表2013-501897(JP,A)
【文献】特開2016-027197(JP,A)
【文献】実開昭62-122153(JP,U)
【文献】特開平09-068100(JP,A)
【文献】特表2015-523487(JP,A)
【文献】特開2011-220151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00- 3/28
F02F 5/00
F02F 11/00
F02F 1/00- 1/42
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 相手側部品(C)内において中央軸線(X1)に沿ってピストン(1)の並進運動を案内するスカート(2)であって、前記相手側部品(C)内における前記ピストン(1)の第1の接触領域(Z2)を形成するスカート(2)と、
- 前記中央軸線(X1)に対して横方向に延在し、燃焼ガスと接触して配置されるように意図されたヘッド(3)と、
- 少なくとも2つの山部(11、12、13;11、12)と、リングを収容するよう意図された少なくとも2つの溝部(14、15、16;14、15)と、を備えた、リングキャリア(4)であって、前記少なくとも2つの山部が、前記ヘッド(3)に隣接する第1の山部(11)と、前記第1の山部(11)と前記スカート(2)との間に据えられる第2の山部(12)と、を含む、リングキャリア(4)と、
を含んでなる、燃焼機関のピストン(1)において、
前記山部(11、12、13;11、12)は、前記相手側部品(C)内における当該ピストン(1)の第2の接触領域(Z4)を形成するために、前記スカート(2)
の直径(D2)より大きい直径(D12;D11;D13;D11、D12;D12、D13)を有する少なくとも1つの接触山部(12;11;13;11、12;12、13)を含み、
前記少なくとも1つの接触山部(12;11;13;11、12;12、13)は、少なくとも最小で30度の角度(α1;α2)をカバーする周方向区域(21;22)から最大で360度の角度をカバーする単一区域に形成された摩擦低減表面コーティング(20;10;30;10、20;20、30)を含み、
前記接触山部の直径はコーティングのない状態で考慮され、前記スカートの直径は穴のない状態で考慮されることを特徴とするピストン(1)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの接触山部(12、11;13;11、12;12、13)は、前記スカート(2)の平均直径(D2)より大きい直径(D12;D11;D13;D11、D12;D12、D13)を有することを特徴とする請求項1に記載のピストン(1)。
【請求項3】
前記ピストン(1)は、前記ピストン(1)の直径(D1)よりも小さい高さ(H1)を有する短いピストンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のピストン(1)。
【請求項4】
前記ピストン(1)の基材はスチールであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項5】
前記摩擦低減表面コーティング(20;10;30;10、20;20、30)は、DLCタイプのアモルファスカーボンa-C:Hから作られることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項6】
前記摩擦低減表面コーティング(20;10;30;10、20;20、30)は、DLCタイプのアモルファスカーボンta-Cから作られることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項7】
少なくとも1つの前記接触山部(12;11;13;11、12;12、13)は、前記摩擦低減表面コーティング(20;10;30;10、20;20、30)の下に形成された少なくとも1つの副層(22)を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項8】
前記第2の山部(12)は、前記第1の山部(11)よりも大きい直径を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項9】
前記リングキャリア(4)の前記山部(11、12、13;11、12)のうち、前記接触山部(12;11;13;11、12;12、13)のみが、前記摩擦低減表面コーティング(20;10;30;10、20;20、30)を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項10】
前記リングキャリア(4)は、単一の接触山部(12;11;13)を備えることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項11】
前記単一の接触山部は、前記第2の山部(12)であることを特徴とする請求項10に記載のピストン(1)。
【請求項12】
前記リングキャリア(4)は、2つの接触山部(11、12;12、13)を備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のピストン(1)。
【請求項13】
前記2つの接触山部は、前記第2の山部(12)および第3の山部(13)であることを特徴とする請求項12に記載のピストン(1)。
【請求項14】
前記2つの接触山部は、前記第1の山部(11)および前記第2の山部(12)であることを特徴とする請求項12に記載のピストン(1)。
【請求項15】
- 請求項1から請求項14のいずれか一項に記載のピストン(1)と、
- 前記ピストン(1)を収容する相手側部品(C)と、
を備えることを特徴とするヒートエンジン。
【請求項16】
前記相手側部品(C)は、DLCタイプのアモルファスカーボンから作られた摩擦低減表面コーティング(R)を含むことを特徴とする請求項15に記載のヒートエンジン。
【請求項17】
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載のピストン(1)をコーティングするための方法であって、
- マスク(40)を前記ピストン(1)上に位置決めするためのステップと、
- 少なくとも最小で1つの前記接触山部(12;11;13;11、12;12、13)上に、前記マスク(40)を介して摩擦低減表面コーティング(20;10;30;10、20;20、30)を局所的に堆積するためのステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項15または請求項16に記載のヒートエンジンを実施するための方法であって、
前記スカート(2)と、前記摩擦低減表面コーティング(20;10;30;10、20;20、30)を含む少なくとも1つの前記接触山部(12;11;13;11、12;12、13)とは、前記相手側部品(C)内における前記ピストン(1)の接触領域(Z2;Z4)を作り上げることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートエンジンのための、とりわけ往復機構部分および内燃機関を備えるヒートエンジンのためのピストンに関するものである。本発明はまた、そうしたピストンを備えるヒートエンジンに関するものである。本発明はさらに、そうしたピストンをコーティングするための方法に関するものである。最後に、本発明は、そうしたヒートエンジンを実施するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の分野は、ヒートエンジンのための、とりわけ往復機構部分および内燃機関を備えるヒートエンジンのためのピストンの分野である。
【0003】
公知の様式では、そうしたピストンは、スカートと、ヘッドと、リングキャリアと、を備える。エンジン内では、ピストンは、シリンダブロックのジャケット内において往復並進運動で駆動される。スカートは、ピストンをジャケット内で案内するために設けられている。ヘッドは、燃焼ガスと接触するよう配置され、その燃焼に起因する力を受けるよう設けられている。リングキャリアは、スカートとヘッドとの間に位置される。リングキャリアは、リングを収容するために設けられた交互の山部および溝部を備える。
【0004】
NEDC(“New European Driving Cycle”)などの車両の汚染/消費の現在の測定サイクルは、エンジンを小型化する傾向をもたらした。新しいエンジンは、より小さな立方インチの排気量を有すると同時に同等のパワーを発現する。
【0005】
2017年まで、新しいWLTP(“Worldwide Harmonized Light Vehicles Test Procedure”)は、高出力エンジンへの支持を表明している。そのためこれによって、同等の排気量出力の増大、ひいては燃焼室内の熱応力および機械応力の増大が引き起こされた。その結果、今日では主に小型車両のためのアルミニウム合金で作られたピストンが、スチール製のピストンに徐々に置き換えられている。
【0006】
この変更によるピストンの重量への影響を可能な限り制限するために、ピストンの幾何学的形状が修正され、ピストンは短くなるよう仕向けられた。この幾何学的形状の変化は、ピストン/ジャケットの接触の変化、ひいては支持領域(接触および摩擦)の変化を引き起こす。
【0007】
アルミニウム製のピストンが装備された車両に関して、ピストン/スリーブの接触は、スカートにグラファイトコーティングを堆積することによって最適化される。
【0008】
スチール製のピストンが装備された量産の小型車両に関して、コーティングされる領域も、好ましくはスカートである。なお、ピストンの山部における遊びを減少させる傾向がある、ピストンの往復運動中のスリーブにおけるピストンの支持領域を再考することがますます重要であると思われる。
【0009】
さらに、燃焼圧力が250barに到達可能であるという事実により、スチール製のピストンは主に産業用車両のエンジンに使用される。近年では、これらエンジンにおけるピストン/スリーブの接触に大きな変更はない。
【0010】
特許文献1および特許文献2は、スカートの直径に等しい直径を有する接触山部が設けられた最高水準を示すピストンを開示する。特許文献1では、接触山部は、中央軸線周りに厚さが変化するコーティングを含む。特許文献2では、接触山部は、合成樹脂からなる厚い層を含む。例えば、この合成樹脂は、グラファイトと金属粒子とを組み込んだポリアミドから作られる。この樹脂層の厚さは、15~25μmである。これらピストンは、磨耗および焼き付きのリスクの低減に関して完全に満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】独国特許第41 13 773号明細書
【文献】独国特許第43 10 491号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上述の状況を考慮して、改善されたピストンを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため、本発明の対象は、
- 相手側部品内において中央軸線に沿って並進運動でピストンを案内しかつ相手側部品内におけるピストンの第1の接触領域からなるスカートと、
- 中央軸線に対して横方向に延在し、かつ燃焼ガスと接触するよう配置されることを意図されたヘッドと、
- 少なくとも2つの山部と、リングを収容するよう意図された少なくとも2つの溝部とを備えるリングキャリアであって、ヘッドに隣接する第1の山部と、第1の山部とスカートとの間に据えられる第2の山部とを含むリングキャリアと、
を備え、
これら山部は、相手側部品内におけるピストンの第2の接触領域を形成するために、スカートの最小直径よりも大きい直径を有する少なくとも1つの接触山部を含み、少なくとも1つの接触山部は、摩擦低減表面コーティングを備え、摩擦低減表面コーティングは、少なくとも最小で30度の角度をカバーする周方向区域にかつ最大で360度の角度をカバーする単一区域に形成されることを特徴とするヒートエンジンのピストンである。
【0014】
本出願人は、新しい可動部品の概念において、リングキャリアの山部の少なくとも1つがスリーブとの接触および摩擦領域になることが可能であることを観察した。そうした摩擦は、燃料消費量の増加ひいてはCO2排出量の増加を引き起こす。これに関連して、本発明は、エンジン内のピストン/スリーブの接触の最適化を可能にする。より大きな直径の接触山部を設けることによって、本発明は、スカートに画定された接触領域を補完する、恩恵のある接触領域をリングキャリアに画定できるようにする。少なくともこの接触山部に表面コーティングを付与することによって、本発明は、互いに対して接触しかつ移動する2つの部品間の摩擦係数を減少できるようにする。さらに、本発明は、摩耗および/または焼き付きのリスクを大幅に低減できるようにする。
【0015】
本発明の文脈では、接触山部の直径は、コーティングのない状態で考慮され、同時にスカートの直径は、穴および凹部のない状態で考慮される。
【0016】
単独でまたは組み合わせて考慮される本発明の他の有利な特徴によれば、
- 少なくとも1つの接触山部は、スカートの平均直径よりも大きい直径を有する。
- ピストンは、その直径よりも小さい高さを有する短ピストンである。
- ピストンの基材はスチールである。言い換えると、ピストンのスカート、ヘッド、およびリングキャリアは、スチールから作られる。好ましくは、このスチールは鍛鋼である。
- 摩擦低減表面コーティングは、DLC(「ダイヤモンドライクカーボン」)タイプのa-C:Hまたはta-Cのアモルファスカーボンから作られる。
- 少なくとも1つの接触山部は、摩擦低減表面コーティングの下に形成される少なくとも1つの副層を含む。
- 少なくとも1つの接触山部は、摩擦低減表面コーティングの下に形成される少なくとも1つの副層を欠いている。
- 第2の山部は、第1の山部よりも大きな直径を有する。
- リングキャリアの山部のうち、1つ以上の接触山部のみが、摩擦低減表面コーティングを含む。
- リングキャリアは、2つの接触山部を備える。
- 2つの接触山部は、第2の山部および第3の山部である。
- 2つの接触山部は、第1の山部および第2の山部である。
- 摩擦低減表面コーティングは、少なくとも30度の角度をカバーする単一の周方向区域に形成される。
- 摩擦低減表面コーティングは、直径方向において対向する2つの周方向区域にわたって形成され、周方向区域それぞれが、中央軸線に対して少なくとも30度の角度をカバーする。
- 周方向区域は、30度に限定された角度をカバーする。
- 周方向区域は、45度に限定された角度をカバーする。
- 周方向区域は、60度に限定された角度をカバーする。
- 周方向区域は、90度に限定された角度をカバーする。
- 周方向区域は、120度に限定された角度をカバーする。
- 摩擦低減表面コーティングは、中央軸線周りで360度にわたって形成される。
- 摩擦低減表面コーティングは、例えば研磨またはサンディングによって得られる2μm以下、好ましくは0.5μm以下の最大粗さRzを有する。
- 摩擦低減表面コーティングは、中央軸線に対して半径方向に規定された、1~5μmの、好ましくは2~3μmの厚さを有する。
- 摩擦低減表面コーティングは、10μm以下の厚さを有する。
- 第1の山部には、コーティングがない。
- これら溝部には、コーティングがない。
【0017】
本発明はまた、上述のようなピストンと、ピストンを収容する相手側部品と、を備えるヒートエンジンに関するものである。例えば相手側部品は、スチール、ステンレススチール、鋳鉄、アルミニウム合金などから作ることができる。好ましくは相手側部品は、DLCタイプのアモルファスカーボンから作られた摩擦低減表面コーティングを含む。
【0018】
ヒートエンジンがモーターの場合、相手側部品はスリーブである。スリーブは、シリンダブロックのケーシングに固定されるドライスリーブであってもよい。代替的に、スリーブは、冷却剤がスリーブとケーシングとの間に挿入されるような、シリンダブロックのケーシングに対して取り外し可能なウェットスリーブであってもよい。好ましくは、スリーブは、摩耗および/または焼き付きのリスクを低減するために摩擦低減表面コーティングを含む。さらにより好ましくは、このコーティングは、DLCタイプのアモルファスカーボンから作られる。非限定的な例として、スリーブおよびそのコーティングは、国際公開第2013/164690号パンフレットの教示に従ってもよい。
【0019】
本発明の目的はまた、上述のようなピストンをコーティングするための方法を提供することである。この方法は、
- リングキャリア上にマスクを位置決めするためのステップと、
- 少なくとも最小で1つの接触山部に、マスクを介して摩擦低減表面コーティングを局所的に堆積するためのステップと、
を含む。
【0020】
本発明の目的はまた、スカートと摩擦低減表面コーティングを含む少なくとも1つの接触山部とが、相手側部品内におけるピストンの接触領域を形成することを特徴とする、上述のようなヒートエンジンを実施するための方法を提供することである。
【0021】
本発明は、非限定的な例示としてのみ与えられかつ添付の図面を参照してなされる以下の説明を読むことによってより良く理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】短ピストンタイプの、本発明に基づくピストンの部分断面側面図であって、第2の山部が表面コーティングを含む接触山部を構成する、部分断面図である。
【
図3】スカートよりも大きい直径を有する第2の山部と第1および第3の山部とを示す、リングキャリアの拡大部分断面図である。
【
図4】第2の山部の変形例を示す拡大部分断面図であって、第2の山部が表面コーティングの下に形成された副層を含む、拡大部分断面図である。
【
図5】表面コーティングの堆積中にピストンをカバーするよう設けられたマスクを示す斜視図である。
【
図6】
図5における線VI-VIによって定義される横方向断面におけるマスクの断面図である。
【
図7】マスクの変形例を示す、
図6と同様の断面図である。
【
図8】マスクの変形例を示す、
図6と同様の断面図である。
【
図9】マスクの変形例を示す、
図6と同様の断面図である。
【
図10】別のマスクの変形例を示す、
図5と同様の図である。
【
図11】ピストンの変形例を示す、
図3と同様の部分断面図である。
【
図12】ピストンの変形例を示す、
図3と同様の部分断面図である。
【
図13】ピストンの変形例を示す、
図3と同様の部分断面図である。
【
図14】ピストンの変形例を示す、
図3と同様の部分断面図である。
【
図15】リングキャリアが2つの山部のみを含む変形例を示す、
図2と同様の斜視図である。
【
図16】ピストンが長ピストンタイプのものである変形例を示す、
図2と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から
図3は、本発明に基づくピストン1を示す。ピストン1は、ヒートエンジン、より具体的には往復機構部分と内燃機関とを備えるエンジンに装備するために設けられる。ピストン1は、簡略化のために
図1にのみ部分的に示されるシリンダブロックBのスリーブC内に配置されている。好ましくは、スリーブCは、DLCタイプのアモルファスカーボンから作られた摩擦低減表面コーティングRを含む。ピストン1は、金属から、好ましくはスチール、アルミニウム合金から作られるか、または異なる金属材料から作られた部品のアセンブリによって形成される。ピストン1は、長手方向中央軸線X1と、軸線X1に対して平行に定義される高さH1と、軸線X1に対して半径方向に定義される直径D1とを有する。ピストン1は、その直径D1よりも小さい高さH1を有する短ピストンである。
【0024】
ピストン1は、スカート2と、ヘッド3と、リングキャリア4と、を備える。ピストン1は、リング(簡略化のために図示せず)を収容するよう設けられている。エンジン内では、ピストン1は、スリーブCによって形成された相手側部品内で軸線X1に沿って往復並進運動で駆動される。より具体的には、ピストン1は、軸線X1に沿った主要な並進運動と、軸線X1に垂直な側方運動と軸線X1に垂直な軸線周りでの回転運動(傾斜運動)とによって集約可能な二次運動と、に従ってスリーブC内を移動する。これは、ピストン1のスカート2とスリーブCとの間の接触によりスリーブC内でのピストン1の案内を引き起こし、スリーブCとスカート2の下方端部との間により顕著な接触を引き起こす。傾斜運動およびスカート2の変形もまた、傾斜側にスリーブCとピストン1のヘッド3および/またはリングキャリア4との間の接触を引き起こす。
【0025】
スカート2は、軸線X1を中心とする全体的な管状壁から作り上げられ、外径D2を有する。スカート2は、スリーブC内でピストン1を案内するために設けられ、かつスリーブC内におけるピストン1の第1の接触領域Z2を作り上げる。スカート2は、好ましくは、摩擦低減表面コーティングを含む。好ましくは、スカート2のコーティングは、DLCタイプのアモルファスカーボンから作られる。代替的に、スカート2のコーティングは、グラファイトまたは目的とする用途に適した任意の他の材料から作られてもよい。
【0026】
ヘッド3は、軸線X1に対して横方向に延在する壁によって作り上げられる。ヘッド3は、燃焼ガスと接触するよう配置され、かつその燃焼に起因する力を受けるように設けられる。図面の例では、ヘッド3は、平面壁から作り上げられる。代替的に、ヘッド3は、外側に開放された行き止まりのキャビティを含む中空壁から作り上げられてもよい。
【0027】
リングキャリア4は、スカート2とヘッド3との間に位置される。リングキャリア4は、3つの山部11、12、13と、リングを収容するために設けられた3つの溝部14、15、16と、を備える。各山部11、12および13は、円筒表面から作り上げられる。各溝部14、15および16は、隣接する山部に対して後退した円筒表面と、隣接する山部に接続された2つの環状平面と、から作り上げられる。
【0028】
第1の山部11は、ヘッド3のすぐ近くに位置され、ガスおよび火と接触する。第2の山部12は、スカート2とヘッド3との間のリングキャリア4の中間部分に位置され、同時にヘッド3にわずかにより近接する。第3の山部13は、スカート2に近接して位置される。溝部14は、山部11と山部12との間に位置される。溝部14は、ガスおよび火と接触するファイアリング(fire ring)を収容するよう設けられる。溝部15は、山部12と山部13との間に位置される。溝部15は、ファイアリングを通過したガスを遮断しながらガスの全体的なシールを提供するシールリングを収容するよう設けられる。溝部16は、山部13とスカート2との間に位置される。溝部16は、スリーブCの表面上の潤滑剤をかき取るためのかき取りリングを収容するよう設けられる。
【0029】
新規の可動部品の概念において、リングキャリア4は、スリーブC内におけるピストン1の第2の接触領域Z4、言い換えるとスリーブCとのピストン1の第2の接触および摩擦領域となることができる。
【0030】
図1から
図3に示される本発明の実施形態では、山部12は、スカート2の最小直径D2より大きい直径D12を有する。そのため、山部12は、スカート2によって形成された第1の接触領域Z2に加えて、スリーブC内におけるピストン1の第2の接触領域Z4を作り上げる接触山部である。好ましくは、直径D12は、動作中に変形する可能性があるスカート2の平均直径D2よりも大きい。例えば、直径D12は、直径D2よりも10μmから50μm大きくすることができる。さらに、山部12は、軸線X1の周りで360度の角度をカバーする区域に形成された摩擦低減表面コーティング20を含む。言い換えると、コーティング20は山部12の外周全体に堆積される。コーティング20は、互いに対して接触しかつ移動する山部12とスリーブCとの間の摩擦係数を減少できる。さらに、コーティング20は、磨耗および/または焼き付きのリスクを大幅に低減できる。
図3に示されるように、山部12の直径D12は、コーティング20がない状態で考慮される。同様に、スカート2の直径D2は、穴および凹部がない状態で考慮される。
【0031】
より一般的には、本発明の文脈において、ピストン1は、少なくとも1つの接触山部を備えており、当該接触山部は、スカートの最小外径よりも大きい直径を有し、かつ少なくとも最小で30度の角度をカバーする周方向区域にわたってかつ最大で360度の角度をカバーする単一の区域にわたって形成された摩擦低減表面コーティングを含む。言い換えると、コーティングは、最小で30度の周方向区域にわたって、最大で360度の区域にわたって軸線X1の周りに延在しており、かつ少なくとも30度の角度を各々がカバーするいくつかの周方向区域にわたって延在できる。
【0032】
図1から
図3の実施形態では、コーティング20は、隣接する溝部14および15内にあふれることなく、山部12の表面上にのみ形成される。実際に、いくつかの用途に関しかつ/またはいくつかの材料に関しては、これら溝部内に存在するコーティング20は、引き抜き現象(pulling-out phenomenon)にさらされることがあり、リングキャリア4とスリーブCとの間の接触部の汚損を引き起こす可能性がある。代替的に、コーティング20は、山部12の表面にかつ隣接する溝部14および15内に形成可能である。この場合、コーティング20の堆積は単純化される。
【0033】
さらに、コーティング20は、軸線X1に対して平行に定義される山部12の高さ全体にわたって形成される。代替的に、コーティング20は、山部12の高さの一部にわたってのみ、とりわけその中央おいて、形成することができる。これによって、コーティング20を山部12上に堆積する間、溝部14および15内にコーティング20があふれることを回避できる。
【0034】
コーティング20は、例えば研磨またはサンディングによって得られる、2μm以下、好ましくは0.5μm以下の最大粗さRzを有する。コーティング20は、軸線X1に対して半径方向に定義された、好ましくは2μmに等しい厚さを有する。代替的に、当該厚さは1μmから5μm、好ましくは2μmから3μmとすることができる。コーティング20の厚さは、とりわけ直径D1の関数として変化してもよい。例えば、ピストン1が大型車両のエンジンに装備される場合、この厚さが最大で10μmに達することが考慮され得る。好ましくは、コーティング20は、軸線X1に対して半径方向に定義された一定の厚さを有する。
【0035】
実際には、接触領域Z4において、山部12は、その外周全体にわたってではなく、単一の周方向区域にわたってスリーブCに対して擦り付けられることがある。そのため、少なくとも30度の角度をカバーする単一の周方向区域にコーティング20を堆積すれば十分である。
【0036】
代替的に、接触領域Z4において、山部12は、直径方向において対向する2つの部分においてスリーブCに対して擦り付けられることがある。この場合、山部12のうち、各々が少なくとも30度の角度をカバーする直径方向に対向する2つの周方向区域にコーティング20を堆積すれば十分である。他の代替例によれば、コーティング20は、山部12の1つまたは2つの周方向区域上に堆積可能であり、各々が軸線X1の周りで、45度、60度、90度または120度に限定された角度をカバーする。コーティング20は、リングキャリア4の構成材料よりも低い摩擦係数を有する。そのため、スリーブCとコーティング20が設けられた山部12との間の摩擦は、コーティング20のない山部12と比較して、低減される。好ましくは、コーティング20は、DLCタイプのアモルファスカーボンから作られる。言い換えると、コーティング20は、水素を含むまたは含まない、sp2またはsp3の混成炭素の層である。例えば、コーティング20は、ta-C、a-C:Hまたはta-C:Hから作ることができる。また好ましくは、コーティング20は、a-C:Hから作られる。代替的に、コーティング20は、グラファイトまたは目的とする用途に適した任意の他の材料から作ることができる。好ましくは、コーティング20は均質である。
【0037】
図4において、第2の山部12は、表面コーティング20の下に形成された副層22を含む。例えば、当該副層22は、Crおよび/またはWおよび/またはNi基を含む。
【0038】
図5および
図6は、山部12上にコーティング20を堆積することを目的とした、本発明に基づくピストン1の例示的なコーティング方法を示す。この方法は、ピストン1上にマスク40を位置決めするための少なくとも1つのステップと、続いてマスク40を介して山部12上にコーティング20を堆積するためのステップと、を含む。この方法は、本発明の範囲内で他のステップを含んでもよい。
【0039】
マスク40は、
図5において矢印で示されるように、軸線X1に沿って方向付けられた並進運動T40に従ってピストン1上に位置決めされる。続いてマスク40は、コーティング20の堆積中、ピストン1の少なくとも一部をカバーする。マスク40は、管状部分42と平面部分43とを備える。マスク40がピストン1上に位置決めされた場合、部分42はリングキャリア4をカバーし、同時に部分43はヘッド3をカバーする。平面部分43において、中間部分44が、直径方向に対向する2つのスリット45および46と、直径方向に対向する2つの接合領域47および48と、を備える。マスク40を貫通して形成されたスリット45および46は、山部12へのコーティング20の堆積を可能にする。領域47および48は、部分42および43を接続することを可能にする。
【0040】
図6に示されるように、マスク40がピストン1上に位置決めされた場合、軸線X1の周りにおいて、スリット45は、コーティング20の周方向区域21に対応する角度α1を伴う区域を画定し、スリット46は、コーティング20の周方向区域22に対応する角度α2を伴う区域を画定し、領域47は、角度β1を伴う区域を画定し、領域48は、角度β2を伴う区域を画定する。マスク40の部分44の幾何学的形状が、コーティング20の幾何学的形状を決定する。とりわけ、スリット45および46の幾何学的形状が、山部12上に形成されるコーティング20の区域21および22の適用範囲を決定する。
図6の例において、角度α1およびα2はそれぞれ156度である。代替的に、角度α1およびα2は、区域21および22に関する所望の対象範囲の関数として、さまざまな値を有することができる。さらに
図6の例において、角度α1およびα2は同一であり、同様に角度β1およびβ2は同一である;それにもかかわらず、異なる区域21および22を画定するために異なる角度を提供することも考慮できる。
【0041】
そのため、マスク40は、ピストン1のうちコーティングのためにマスク40が設けられない部分を隔離すること、およびコーティング20の堆積を山部12およびスカート2の所望の部分に限定することを可能にする。マスク40の材料は、コーティング20の堆積技術に従って選択できる。例えば、マスク40はスチールまたはアルミニウムから作ることができる。
【0042】
非限定的な例として、コーティング20を堆積するためのステップは、国際公開第2012/156647号パンフレットの教示に従って実施できる。
【0043】
ピストン1の形状と、ピストン1およびスリーブCの材料の特質と、接触部の特質とに応じて、ピストン1/スリーブCの摩擦は、エンジン摩擦による損失の20%から30%を示す。したがって、スカート2および山部12上へのコーティングの堆積は、摩擦ひいては燃料消費量およびCO2排出量の低減に関して活用できる。第1のアプローチにおいて、ピストンの新しい幾何学的形状は、エンジン摩擦による損失の5%から10%が山部12とスリーブCとの間の接触に起因すると考えることにつながり得る。これらの条件下で、山部12上に付与されたコーティング20は、エンジン摩擦による損失を約2%から5%減少させることを可能にし得る。
【0044】
有利には、ピストン1のコーティング方法は、単独でまたは組み合わせて考慮される以下のステップを含むことができる。
【0045】
マスク40を位置決めするためのステップの前に、この方法は、例えば機械加工または研磨によって、第2の山部12の表面を下処理するためのステップを含むことができる。
【0046】
コーティング20を堆積するためのステップの前に、大まかにはマスク40を位置決めするためのステップの前に、この方法は、ピストン1を洗浄するためのステップと、とりわけコーティング20を受け取るよう意図された山部12を洗浄するためのステップと、を含むことができる。コーティング20を堆積するためのステップの後で、この方法は、例えば研磨によって、コーティング20の外面を仕上げるためのステップを含むことができる。
【0047】
本発明に基づくピストン1を製造するためのマスク40の変形例が
図7から
図10に示される。簡略化のために、
図5および
図6のマスク40に相当するこれらのマスク40の構成要素は同じ参照符号を有しており、以下では相違点のみについて説明する。
【0048】
図7において、接合領域47および48は、マスク40の残りの部分に対して周方向にオフセットされている。そのため、マスク40は単一のスリットを含んでおり、当該スリットは、
図1から
図3のピストン1と同様に、軸線X1の周りに360度の区域にコーティング20を形成することを可能にする。
【0049】
図8において、マスク40は、30度の角度α1を有する単一のスリット45を含む。そのため、マスク40は、30度に限定された単一の周方向区域21上にコーティングを堆積することを可能にする。
【0050】
図9において、角度α1は90度であり、一方で角度α2は110度である。スリット45および46は、異なる幾何学的形状を有する。
【0051】
図10において、管状部分42は、スカート2をカバーするように、より伸長されている。そのため、スカート2は、山部12とは異なるコーティングを受け取ることができ、あるいはコーティングがなくてもよい。代替的に、管状部分42は、多かれ少なかれ伸長されてもよく、それゆえスカート2のより高いまたはより低い高さをカバーできる。
【0052】
本発明に基づくピストン1の他の実施形態が
図11から
図16に示されている。簡略化のために、上述の第1の実施形態の構成要素に相当するピストン1の構成要素は同じ参照符号を有しており、以下では相違点のみについて説明する。
【0053】
図11において、第1の山部11は、スカート2の最小直径D2よりも大きい直径D11を有しかつ摩擦低減コーティング10が設けられた接触山部である。
【0054】
図12において、第3の山部13は、スカート2の最小直径D2よりも大きい直径D13を有しかつ摩擦低減コーティング30が設けられた接触山部である。
【0055】
図13において、第1の山部11および第2の山部12は、スカート2の最小直径D2よりも大きい直径D11およびD12を有しかつ摩擦低減コーティング10および20が設けられた接触山部である。この場合、コーティング10および20の堆積中に使用されるマスク40は、スリット45および46が設けられた2つの重ね合わせ部分44を含むことができる。代替的に、コーティング10および20は、2つの異なるマスク40を使用することによって連続的に堆積することができる。好ましくは、コーティング10は、コーティング20と同じ材料から作られる。任意選択的に、山部11は、コーティング20と同様に、コーティング10の下に形成された少なくとも1つの副層を含むことができる。
【0056】
図14において、第2の山部12および第3の山部13は、スカート2の最小直径D2よりも大きい直径D12およびD13を有しかつ摩擦低減コーティング20および30が設けられた接触山部である。
【0057】
図15において、リングキャリア4は,2つの山部11および12のみを含み、山部13を含まない。第2の山部12のみに摩擦低減コーティング20が設けられる。リングキャリア4は、溝部14内にファイアおよびシールリングを収容し、かつ溝部15内にかき取りリングを収容する。
【0058】
図16において、ピストン1は、その直径D1よりも大きい高さH1を有する長ピストンである。代替的に、ピストン1は、本発明の範囲を超えることなく、直径D1に等しい高さH1を有することができる。
【0059】
さらに、ピストン1およびマスク40は、本発明の範囲を超えることなく、
図1から
図16とは異なるように構成できる。加えて、上述の様々な実施形態および変形例の技術的特徴は、全体としてまたはそれらのいくつかを互いに組み合わせることができる。したがって、ピストン1は、コスト、機能性および性能の点において適合可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ピストン
2 スカート
3 ヘッド
4 リングキャリア
10、20、30 摩擦低減表面コーティング
11 第1の山部
12 第2の山部
13 第3の山部
14、15、16 溝部
21、22 周方向区域
22 副層
40 マスク
42 管状部分
43 平面部分
44 中間部分
45、46 スリット
47、48 接合領域