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特許7113901二本鎖miRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】二本鎖miRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220729BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220729BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20220729BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220729BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20220729BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/7105
A61K31/7125
A61K47/60
A61K47/54
A61P35/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020541790
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 KR2019001187
(87)【国際公開番号】W WO2019151738
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0011141
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0002800
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514171197
【氏名又は名称】バイオニア コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BIONEER CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イ テウ
(72)【発明者】
【氏名】リュ ジウォン
(72)【発明者】
【氏名】イム ウンジ
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-525346(JP,A)
【文献】特表2011-526548(JP,A)
【文献】PLOS ONE,2016年06月,VOl. 11, No. 6, e0156908,p. 1/13 - 13/13
【文献】GenBank [online], ACCESSION: NR_049499, URL: <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/732170632?sat=47&satkey=6438063>, 2017.10.24, [検索日 2021.09.16], DEFINITION: Canis lupus familiaris microRNA 544 (MIR544), microRNA, VERSION NR_049499.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61K 31/7105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)の構造を含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体を含む肺癌予防又は治療用組成物
A-X-R-Y-B 構造式(1)
前記構造式(1)で、Aは親水性物質、Bは疎水性物質、X及びYはそれぞれ独立して単純共有結合又はリンカー媒介の共有結合を意味し、RはmiR-544aを意味する。
【請求項2】
前記親水性物質Aは(P)、(P-J)又は(J-Pで表示され、Pは親水性物質単量体(monomer)、nは1~200、mは1~15、Jはm個の親水性物質単量体間又はm個の親水性物質単量体とオリゴヌクレオチドとを連結するリンカーであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記親水性物質は、分子量が200~10,000であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物
【請求項4】
前記親水性物質単量体(P)は、下記化合物(1)の構造を有することを特徴とする、請求項2に記載の組成物
前記化合物(1)で、GはO、S及びNHからなる群から選ばれる。
【請求項5】
前記リンカー(J)は、PO 、SO及びCOからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の組成物
【請求項6】
前記疎水性物質の分子量は、250~1,000であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物
【請求項7】
前記疎水性物質は、ステロイド(steroid)誘導体、グリセリド(glyceride)誘導体、グリセロールエーテル(glycerol ether)、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)、C12~C50の不飽和又は飽和炭化水素(hydrocarbon)、ジアシルホスファチジルコリン(diacylphosphatidylcholine)、脂肪酸(fatty acid)、リン脂質(phospholipid)、及びリポポリアミン(lipopolyamine)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項6に記載の組成物
【請求項8】
前記ステロイド(steroid)誘導体は、コレステロール、コレスタノール、コール酸、コレステリルホルメート、コレスタニルホルメート及びコレステリルアミンからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の組成物
【請求項9】
前記グリセリド誘導体は、モノ-、ジ-及びトリ-グリセリドから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の組成物
【請求項10】
前記X及びYで表示される共有結合は、非分解性結合又は分解性結合であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物
【請求項11】
前記非分解性結合は、アミド結合又はリン酸化結合であることを特徴とする、請求項10に記載の組成物
【請求項12】
前記分解性結合は、二硫化結合、酸分解性結合、エステル結合、無水物結合、生分解性結合又は酵素分解性結合であることを特徴とする、請求項10に記載の組成物
【請求項13】
前記miR-544aは、配列番号1と配列番号2の塩基配列からなる二本鎖RNAで構成される二本鎖が有効成分として含まれることを特徴とする、請求項1に記載の組成物
【請求項14】
前記オリゴヌクレオチド構造体は、癌細胞の自殺機序を誘導して癌を治療することを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本鎖miRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体及びこれを含む癌予防又は治療用組成物に関する。より具体的に、本発明は、癌細胞の増殖を効果的に抑制したり或いは癌細胞の自発的死滅を誘導するmiR-544aを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体及び該構造体を含む抗癌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子が正常に制御されないことから発生する疾病、代表的に癌と称される疾患に対する効果的で伝統的な治療方法は、外科的に腫瘍を切除して除去する方法が用いられているが、原発性癌が他の器官に転移する場合には外科的手術が不可であり、抗癌薬物治療法が用いられている。薬物治療に使用される抗癌剤は主に単分子物質を有機的又は無機的方法で合成して使用したが、これは、癌疾患が主に信号伝達体系に含まれたリン酸活性因子タンパク質の過発現などによって信号体系を撹乱させるタンパク質に効果的に結合してタンパク質の活性を抑制する用途に開発・使用された。
【0003】
最近の抗癌剤開発は、癌を誘発する核心遺伝子変異(Driver Mutation)を標的にし、核心遺伝子変異によって生成されたタンパク質の活性を選択的に阻害する方式の標的治療剤が開発されている。肺癌の場合、85%~90%が非小細胞肺癌であり、これはさらに、扁平細胞癌腫(squamous cell carcinoma)と腺癌(adenocarcinoma)などに分けることができる。腺癌の生存に主要な遺伝子変異としては、概略30%を占めるKRAS変異と15%を占めるEGFR変異などが知られている。特に、変異されたEGFRタンパク質を標的にする標的治療剤が開発され、臨床的に使用されているが、エルロチニブ(Erlotinib)(商品名:Tarceva)とゲフィチニブ(Gefitinib)(商品名:Iressa)などが市販されている。これらの標的治療剤は、EGFR変異がある肺癌患者に高い反応率を示してはいるが、たいてい1年以内にそれらの薬物に対する耐性を誘発すると報告されている。耐性発生原因としては、既存のEGFR変異に加えて、EGFRタンパク質にT790M変異がさらに発生すること、又はEGFR信号伝達体系の下位段階に含まれたRAF及びPI3Kなどの遺伝子に変異が誘発されることが報告されている。このように単分子を用いた肺癌治療剤の場合、耐性誘発などの致命的な限界を露出している。
【0004】
上記の伝統的な薬物治療方法を代替するための薬物治療剤の開発が多方面で試みられてきたが、その一つが、小さな干渉RNA(small interfering RNA;以下、siRNAと表記)の利用である(Iorns,E et al.,Nat Rev Drug Discov Vol.6,pp.556-68.2007.)。siRNAは、16~27のヌクレオチドで構成された一本鎖RNAであり、細胞内でリスク(RNA Induced Silencing Complex,RISC)と知られたリボ核酸タンパク質結合体(ribonucleoprotein)の構成成分として活動をする(Tomari,Y et al.,Genes Dev Vol.19,pp.517-29,2005,Chu,C.Y et al.,Rna Vol.14,pp.1714-9,2008,Mittal,V.Nat Rev Genet Vol.5,pp.355-65,2004,Reynolds,A.et al.Nat Biotechnol Vol.22,pp.326-30.2004)。RISCはRNA酵素はさみとして機能するが、メッセンジャーRNA(messenger RNA;以下、mRNAと表記)を切断してmRNAからタンパク質が生成されることを阻害する。RISCに含まれたsiRNAは、siRNA配列と相補的な配列を有するmRNAと結合して二本鎖RNAを形成し、RISCはRNA酵素はさみとして作用して目標となるmRNAを切断し、mRNAがそれ以上タンパク質を反復生成する型板(template)として機能しないようにする。
【0005】
このように、siRNAベースの抗癌治療剤は、タンパク質生成段階以前のmRNAを遮断するという点、そしてRNAと細胞内在的なRISCシステムを活用するという点において上記単分子物質の抗癌剤に比べて進歩した技術と評価されるが、siRNAベースの技術でも解決できない副作用があり、これは非標的効果(off-target effect)と呼ばれる現象である(Jackson,A.L.et al.,Rna Vol.12,pp.1179-87,2006.,Jackson,A.L.et al.,Rna Vol.12,pp.1197-205,2006.,Jackson,A.L.et al.,Nat Biotechnol Vol.21,pp.635-7,2003.,Nielsen,C.B.et al.,Rna Vol.13,pp.1894-910,2007.,Peek,A.S.& Behlke,M.A.Curr Opin Mol Ther Vol.9,pp.110-8,2007.)。上述したように、siRNA配列と相補的に結合するmRNAを分解するが、siRNA配列全体と相補的ではなく一部分だけが相補的なmRNAとも結合して分解を誘発し、これを、標的以外のmRNAの分解を誘発するということから非標的効果と呼ぶ。
【0006】
上述されたsiRNAベースの抗癌治療剤の技術的難点を克服するためにマイクロRNA(microRNA;以下、miRNAと表記)を治療剤として使用しようとする研究が進行中である(Agostini,M.& Knight,R.A.Oncotarget Vol.5,pp.872-81,2014.,van Rooij,E.et al.,Circulation Research Vol.110,pp.496-507,2012.,Burnett,J.C.& Rossi,J.J.Chem Biol Vol.19,pp.60-71,2012.,Dangwal,S.& Thum,T.Annu Rev Pharmacol Toxicol Vol.54,pp.185-203,2014.)。miRNAは、16~27のヌクレオチドで構成されたRNAであり、タンパク質に翻訳されるメッセンジャーRNA(mRNA)に対比してタンパク質非生成RNA(protein non-coding RNA)に分類される(Carthew,R.W.& Sontheimer,E.J.Cell Vol.136,pp.642-55,2009.,MacFarlane,L.-A.& Murphy,P.R.Current Genomics Vol.11,pp.537-561,2010.,Bartel,D.P.Cell Vol.136,pp.215-33,2009.)。miRNAは高等動植物細胞の遺伝体に記録されており、細胞の生成、成長、分化、死滅を含む細胞の代謝及び機能を調節するのに核心的な役割を担うものとして知られている。現在までヒトの遺伝体では2000余種のmiRNAが知られており、その相当数のmiRNAの機能はまだ知られていない。
【0007】
miRNAは、遺伝体からPol IIと呼ばれるRNAポリメラーゼ(polymerase)によってRNAに転写されるが、初期長さは特定できないほど多様である(Carthew,R.W.& Sontheimer,E.J.Cell Vol.136,pp.642-55,2009.,Brodersen,P.& Voinnet,O.Nat Rev Mol Cell Biol Vol.10,pp.141-148,2009.)。これは、miRNAが遺伝体に含まれた位置の多様性に起因するが、mRNAのタンパク質生成非関与部分であるイントロン(intron)に位置してmRNA生成同一時点に転写される場合及び遺伝体上で遺伝子間の空間(inter-genic region)に位置して独自に転写される場合など、様々な方式で生成されるためである(Malone,C.D.& Hannon,G.J.Cell Vol.136,pp.656-68,2009.)。このように初期に生成されたmiRNA母体を一次miR(primary microRNA)というが、一次miRは核内のドローシャ(Drosha)と呼ばれるRNA切断酵素(RNase)などによって前駆体miR(precursor miRNA,pre-miR)に編集される(Bartel,D.P.Cell Vol.136,pp.215-33,2009.)。Pre-miRは、RNAヘアピン構造(RNA hair-pin structure)をなし、概略70~80個のヌクレオチドで構成される。細胞核内部のPre-miRは、エクスポーチン(exportin)タンパク質などによって核から細胞質に移動し、細胞質内でダイサー(Dicer)と呼ばれるさらに他のRNA切断酵素(RNase)によって二次加工されて16~27個のヌクレオチドで構成される二本鎖の成熟miR(mature microRNA;以下、別の修飾語無しでmiRと記述する場合は成熟miRを意味する)を生成する。二本鎖miRから一本のRNAが選択的に選ばれ、前記リボ核酸タンパク質結合体(ribonucleoprotein complex)であるRISCと結合して活性を有し、miRの配列を用いて目標mRNAと結合する。
【0008】
一般に、mRNAはタンパク質生成に関与するかどうかを基準に大きく三つの部分に分けられるが、タンパク質翻訳情報を含んでいるコーディング部分(coding region)と、コーディング部分のそれぞれ5’と3’の部分であって、タンパク質翻訳情報を持たない5’-UTR(Un-Translated Region)と3’-UTRとに区分できる。mRNAとの相補的配列を用いて目標mRNAの分解を誘発するsiRNAは、mRNAの5’-、3’-UTR及びコーディング部分を問わずに作用するのに対し、miRは主に3’-UTRと結合する(Carthew,R.W.& Sontheimer,E.J.Cell Vol.136,pp.642-55,2009.,Bartel,D.P.Cell Vol.136,pp.215-33,2009.)。
【0009】
mRNAとの結合位置の相違に加えて、siRNAと他のmiRNAの独特の特徴は、siRNAは、siRNA全体配列と相補的な配列を含むmRNAと主に結合するのに対し、miRNAは、miRNAの5’終端から2~8ヌクレオチド位に位置した、限定された大きさのシード部分(seed region)配列が主に目標mRNA認識に使用される点が異なり、したがって、全体miRNAの配列が目標遺伝子と完壁な相補的な配列を持たず、非相補的配列が一定部分含まれてもmiRNA活性に影響を与えない(Bartel,D.P.Cell Vol.136,pp.215-33,2009.)。シード部分の配列サイズが6~8ヌクレオチドであるだけに、これと相補的な配列を3’UTRに有するmRNAの種類は多様であり、このような理由で1種のmiRNAで種々のmRNAを同時に制御することができる。このようなmiRNAの性質は、miRNAが細胞の分裂、成長、分化、死滅に至る多い部分の細胞生理学的側面の制御に関与する効率的な調節因子(regulator)としての機能を与える。また、調節因子としてのmiRNAの機能は効果的な抗癌効果を具現する上で長所として作用するが、siRNAは単一遺伝子発現の抑制を目標とするのに対し、miRNAは多数の癌誘発遺伝子の発現を同時に阻害できるわけである。
【0010】
多数のmRNAが、3’UTRに1種以上のmiRNAが結合する可能性がある部分を含んでおり、ある生物情報学的な計算によれば、全mRNAの略30%がmiRNAによってタンパク質の生成が調節されていると知られている。
【0011】
miRNAのこのような信号伝達体系内の主要調節因子として作用する事実は、癌を含む主要疾患でも重要な役割を担うという点から分かる(MacFarlane,L.-A.& Murphy,P.R.Current Genomics Vol.11,pp.537-561.2010.,Malone,C.D.& Hannon,G.J.Cell Vol.136,pp.656-68.2009.,Nicoloso,M.S.et al.,Nat Rev Cancer Vol.9,pp.293-302.2009.,Landi,D.et al.,Mutagenesis Vol.27,pp.205-10.2012.)。実際に様々な研究から、癌細胞におけるmiRNAの発現様式は正常細胞における発現様式と大きな差を示すことが明らかになった。しかも、癌の発生した原発臓器によってもmiRNA発現様式が大きく異なってくるが、肺癌、肝癌、皮膚癌、血液癌などの様々な癌が原発臓器による独特なmiRNA発現様式を示し、これによってmiRNAが癌生物学において主要な役割を担うということが知られている。特に、癌腫で発現するmiRNAが、それらの正常細胞における発現量に比べて通常低いことが知られている。
【0012】
前記癌におけるmiRNAの深い連関性に基づいてmiRNAを抗癌治療剤として利用しようとする試みが最近始まっており、その一例として、miR-34aと名付けられたmiRNAの癌細胞増殖抑制及び死滅誘導能力を検証するための臨床実験を実施した例がある。(Wiggins,J.F.et al.Cancer Res Vol.70,pp.5923-30.2010.,WO2008/154333,Hermeking,H.Cell Death Differ Vol.17,pp.193-9.2010.,Chang,T.C.et al.Mol Cell Vol.26,pp.745-52.2007.)。
【0013】
miRNAを抗癌治療剤として使用するためには、生体外部から注入されたmiRNAが生体内部で分解されずに病理組織に伝達されるための効果的な方法が必要である。そのために、miRNA配列を含むRNAオリゴヌクレオチド構造体を使用することができる。RNAオリゴの末端部位に化学物質などを連結して増進した薬動力学(pharmacokinetics)的特徴を有させることによって生体内(in vivo)で高い効率を誘導できるということが知られている(Soutschek.J.et al.,Nature Vol.432 Issue.7014 pp.173-8,2004)。この時、RNAオリゴのセンス(sense;パッセンジャー(passenger))又はアンチセンス(antisense;ガイド(guide))鎖の末端に結合した化学物質の性質によってRNAオリゴの安定性が変わる。例えば、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol,PEG)のような高分子化合物が接合された形態のRNAオリゴは、陽イオン性物質が存在する条件でオリゴとの陰イオン性リン酸基と相互作用して複合体を形成することによって、改善されたオリゴ安定性を持つ伝達体になる(Kim SH et al.,J Control Release Vol.129(2) pp.107-16,2008)。特に、高分子複合体で構成されたミセル(micelle)は薬物伝達運搬体として用いられる別のシステムである、微小球体(microsphere)又はナノ粒子(nanoparticle)などに比べてその大きさがきわめて小さいながらも分布が非常に一定であり、自発的に形成される構造であるので、製剤の品質管理及び再現性確保が容易であるという長所がある。
【0014】
また、RNAオリゴの細胞内伝達効率性を向上させるために、RNAオリゴに生体適合性高分子である親水性物質(例えば、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol,PEG))を単純共有結合又はリンカー-媒介(linker-mediated)の共有結合で接合させたオリゴ接合体を用いて、オリゴの安定性確保及び効率的な細胞膜透過性のための技術が開発された(大韓民国登録特許第10-0883471号)。しかし、オリゴの化学的変形及びポリエチレングリコール(polyethylene glycol,PEG)を接合させること(PEGylation)だけでは、生体内における低い安定性とターゲット臓器への伝達が円滑でないという短所は依然として残っている。このような短所を解決するために、二重螺旋オリゴRNAに親水性及び疎水性物質が結合した二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体が開発されたが、該構造体は疎水性物質の疎水性相互作用によってSAMiRNATM(self-assembled micelle inhibitory RNA)と命名された自己組立ナノ粒子を形成するようになるが(大韓民国登録特許第10-1224828号参照)、SAMiRNATM技術は既存の伝達技術に比べて非常にサイズが小さいながらも均一な(homogenous)ナノ粒子が得られるという長所がある。
【0015】
このような技術的背景下で、本出願の発明者らは癌細胞増殖抑制及び癌細胞死滅誘導能力に優れたmiRNAを見出そうと努力した結果、抗癌効能に優れたmiR-544aを見出し、それを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体が癌誘発遺伝子として知られた多数の遺伝子発現を効果的に遮断することによって抗癌効果を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0016】
この背景技術の部分に記載された前記情報は、単に本発明の背景に関する理解を向上させるためのものであり、したがって、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって既に知られた先行技術を形成する情報を含めなくてもよい。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、EGFR変異のある肺癌細胞において肺癌治療剤として使用中のエルロチニブに対する薬物耐性を克服でき、癌細胞増殖抑制及び癌細胞死滅誘導能力に優れたmiRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体及びこれを有効成分として含む癌予防又は治療用組成物を提供することである。
【0018】
前記目的を達成するために、本発明は、下記構造式(1)の構造を含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体を提供する:
A-X-R-Y-B 構造式(1)
【0019】
前記構造式(1)で、Aは親水性物質、Bは疎水性物質、X及びYはそれぞれ独立して単純共有結合又はリンカー媒介の共有結合を意味し、RはmiR-544a配列を意味する。
【0020】
本発明はまた、前記オリゴヌクレオチド構造体を含む癌予防又は治療用組成物を提供する。
【0021】
本発明はまた、前記オリゴヌクレオチド構造体を投与する段階を含む癌予防又は治療方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、前記オリゴヌクレオチド構造体の癌予防又は治療用途を提供する。
【0023】
本発明はまた、癌予防又は治療用の薬剤を製造するための前記オリゴヌクレオチド構造体の使用方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1-4】8種の肺癌細胞株にmiRNAライブラリーをトランスフェクションして細胞の増殖抑制を測定するmiRNAライブラリースクリーニング結果を示す図である。
図5】PC9及びPC9/ER細胞株においてmiR-544aの細胞死滅誘発効果を示す図である。
図6】miR-544aのEGFR信号伝達体系に関連したタンパク質調節効果をウェスタンブロットで測定した結果を示す図である。
図7】PC9、PC9/ER、H1975及びH596細胞株においてmiR-544aのEGFR mRNA阻害効果をRT-qPCR分析法を用いて分析した結果である。
図8】ルシフェラーゼ測定法によるmiR-544aのターゲット配列検証結果を示す図であり、EGFR 3’UTR配列からターゲット配列を除去すれば、miR-544aによるルシフェラーゼ活性阻害が抑制されることが確認できる。
図9】EGFR変異を有する肺癌細胞株においてエルロチニブとmiR544aによる細胞生存量を示す図である。
図10】オリゴヌクレオチド構造体で製造されたmiRNAによる肺癌細胞株の細胞死滅効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
特に定義されない限り、本明細書で用いられた全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家に通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で用いられた命名法はこの技術分野において周知であり且つ通常使用されるものである。
【0026】
本発明では、EGFR変異のある肺癌細胞においてEGFR信号伝達体系を抑制して細胞の増殖を阻害する方式で効能に優れたmiRNAを見出し、その抗癌効果を確認しようとした。
【0027】
本発明では、1700余種のmiRNAスクリーニングライブラリーをEGFR変異のある肺癌細胞株に処理して癌細胞成長抑制能を測定し、下記の塩基配列を有するmiR-544aを見出し(図1図4)、それらが抗癌効能に優れていることを確認した(図5図6図9)。
【0028】
したがって、本発明は、一観点においてmiR-544aを含み、下記構造式(1)の構造を含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体に関する。
A-X-R-Y-B 構造式(1)
【0029】
前記構造式(1)で、Aは親水性物質、Bは疎水性物質、X及びYはそれぞれ独立して単純共有結合又はリンカー媒介の共有結合を意味し、RはmiR-544aを意味する。
【0030】
本発明において、前記miR-544aは配列番号1及び配列番号2の塩基配列からなる二本鎖RNA、DNA、RNA-DNA複合体(hybrid)であり得る。
miR-544a
5’-AUUCUGCAUUUUUAGCAAGUUC-3’(配列番号1)
5’-ACUUGCUAAAAAUGCAGAAUUU-3’(配列番号2)
【0031】
前記背景技術で述べたように、miRNA活性配列の二番目の塩基から8~9番目の塩基までに該当するシード配列(seed region)が活性の主要な因子であるが、二本鎖オリゴヌクレオチドを製造する際、これを含む長い二本鎖を製造して使用することもできる。
【0032】
本発明でライブラリースクリーンによって見出された前記miRNAは、EGFR変異を持つ肺癌細胞株のEGFR信号伝達体系活性化を抑制することによって抗癌効能を示すことを確認した。
【0033】
このようなmiRNAはデュプレックスであるか、単一分子ポリヌクレオチドを含むことができ、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はmicroRNA(miRNAs)であり得るが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明のようにRNA又はDNAオリゴヌクレオチドに親水性物質及び疎水性物質が結合したオリゴ接合体の場合、RNA又はDNAオリゴヌクレオチドの両末端に親水性物質及び疎水性物質が接合された形態の接合体によってオリゴヌクレオチドを生体内に効率的に伝達できる他、安定性も向上し得る。
【0035】
疎水性物質の疎水性相互作用によって自己組立ナノ粒子を形成するが、このようなナノ粒子は体内への伝達効率及び体内における安定性にきわめて優れるだけでなく、構造の改善によって粒子の大きさが非常に均一なのでQC(Quality control)が容易であり、よって、薬物への製造工程が簡単であるという長所がある。
【0036】
一実施例において、本発明に係るmiRNAsを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体において親水性物質と定義したAは、(P)、(P-J)又は(J-Pで表示され、Pは親水性物質単量体(monomer)、nは1~200、mは1~15、Jはm個の親水性物質単量体間を又はm個の親水性物質単量体とオリゴヌクレオチドとを連結するリンカーであり得る。
【0037】
前記親水性物質がAの場合、本発明に係る二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記の構造式(1’)の構造を有する。
【数1】
前記構造式(1’)で、A、B、X及びYは前記構造式(1)における定義と同一であり、SはmiRNAのセンス鎖、ASはmiRNAのアンチセンス鎖を意味する。
【0038】
一実施例において、本発明に係るmiRNAsを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記構造式(2)の構造を含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体であり得る。
A-X-5’R3’Y-B 構造式(2)
前記構造式(2)で、A、B、X、Y及びRは、構造式(1)における定義と同一である。
【0039】
より好ましくは、二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記構造式(2’)の構造を有する。
【数2】
【0040】
一実施例において、前記親水性物質は、分子量が200~10,000である陽イオン性又は非イオン性高分子物質であり得、好ましくは、1,000~2,000の非イオン性高分子物質であり得る。前記親水性物質として非イオン性親水性高分子化合物、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン又はポリオキサゾリンを使用することが好ましいが、必ずしもこれに限定されない。
【0041】
他の実施例において、前記親水性物質が(P-J)又は(J-Pである場合、本発明に係る二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記構造式(3)又は構造式(4)の構造を有する。
(P-J)-X-R-Y-B 構造式(3)
(J-P-X-R-Y-B 構造式(4)
【0042】
前記構造式(3)及び構造式(4)で、Pは親水性物質単量体(monomer)、nは1~200、mは1~15、Jはm個の親水性物質単量体間又はm個の親水性物質単量体とオリゴヌクレオチドとを連結するリンカーであり得、XとYはそれぞれ独立して単純共有結合又はリンカー(linker)媒介の共有結合、Rは本発明の特異的miRNAsであり得る。より好ましくは、本発明に係るmiRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記構造式(3’)の構造を有する。
【数3】
【0043】
前記構造式(3’)で、P、B、J、m、n、X及びYは、前記構造式(3)における定義と同一であり、SはmiRNAのセンス鎖、ASはmiRNAのアンチセンス鎖を意味する。
【0044】
より好ましくは、本発明に係るmiRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記構造式(4’)の構造を有する。
【数4】
【0045】
前記構造式(4’)で、P、B、J、m、n、X及びYは、前記構造式(4)における定義と同一であり、SはmiRNAのセンス鎖、ASはmiRNAのアンチセンス鎖を意味する。
【0046】
前記構造式(3)及び構造式(4)における親水性物質単量体(P)は、非イオン性親水性高分子の単量体のうち、本発明の目的に符合するものであれば制限なく使用可能であり、好ましくは、表1に記載する化合物(1)~化合物(3)から選択された単量体、より好ましくは化合物(1)の単量体が使用可能であり、化合物(1)においてGは好ましくはCH、O、S及びNHからで選択され得る。
【0047】
特に、親水性物質単量体の中でも化合物(1)で表示される単量体には様々な官能基を導入することができ、生体内親和性が良く、免疫反応を少なく誘導するなど、生体適合性(bio-compatibility)に優れ、且つ構造式(3)及び構造式(4)による構造体内に含まれたオリゴヌクレオチドの生体内安定性を増加させ、伝達効率を増加させ得るという長所から、本発明に係る構造体の製造に非常に適している。
【0048】
【表1】
【0049】
構造式(3)及び構造式(4)における親水性物質は、総分子量が1,000~2,000の範囲であることが好ましい。したがって、例えば、化合物(1)によるヘキサエチレングリコール(Hexa ethylene glycol)、すなわち構造式(3)及び構造式(4)におけるGがO、mが6である物質を用いる場合、ヘキサエチレングリコールスぺーサ(spacer)の分子量が344であるので、反復回数(n)は3~5が好ましい。
【0050】
本発明は、必要によって前記構造式(3)及び構造式(4)で(P-J)又は(J-P)と表示される親水性グループの反復単位、すなわち、親水性物質ブロック(block)がnと表示される適切な個数で使用され得ることを特徴とする。前記各親水性物質ブロック内に含まれる親水性物質単量体であるPとリンカーであるJは、独立して各親水性物質ブロック間に同一であってもよく、互いに異なってもよい。すなわち、親水性物質ブロックが3個使用される場合(n=3)、一番目のブロックには化合物(1)による親水性物質単量体が、二番目のブロックには化合物(2)による親水性物質単量体が、三番目ブロックには化合物(3)による親水性物質単量体が使用されるなど、全ての親水性物質ブロック別に異なる親水性物質単量体が使用されてもよく、全ての親水性物質ブロックに化合物(1)~化合物(3)による親水性物質単量体から選ばれるいずれか一つの親水性物質単量体が一様に使用されてもよい。同様に、親水性物質単量体の結合を媒介するリンカーも、各親水性物質ブロック別にいずれも同一のリンカーが使用されてもよく、各親水性物質ブロック別に互いに異なるリンカーが使用されてもよい。また、親水性物質単量体の個数であるmも同様、各親水性物質ブロック間に同一であってもよく、互いに異なってもよい。すなわち、一番目の親水性物質ブロックでは親水性物質単量体が3個連結(m=3)され、二番目の親水性物質ブロックでは親水性物質単量体が5個(m=5)、三番目の親水性物質ブロックでは親水性物質単量体が4個連結(m=4)されるなど、互いに異なる個数の親水性物質単量体が使用されてもよく、全ての親水性物質ブロックで同一個数の親水性物質単量体が使用されてもよい。
【0051】
本発明において前記リンカー(J)は、PO 、SO及びCOからなる群から選ばれることが好ましいが、これに制限されず、使用される親水性物質の単量体などによって本発明の目的に符合するものであればいかなるリンカーも使用可能であることは、通常の技術者には明らかである。
【0052】
前記親水性物質単量体の全部又は一部は、必要によってターゲット特異的リガンドのような他の物質との結合のために必要な官能基を有するように変更されても構わない。
【0053】
場合によって、前記遺伝子に特異的miRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体のアンチセンス鎖の5’末端にリン酸基(phosphate group)が1個~3個結合し得る。
【0054】
例えば、miRNAを含む二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記構造式(3’)又は構造式(4’)の構造を有する。
【数5】
【0055】
前記疎水性物質(B)は、疎水性相互作用によって、構造式(1)によるオリゴヌクレオチド構造体で構成されたナノ粒子を形成する役割を担う。
【0056】
前記疎水性物質は、分子量が250~1,000であることが好ましく、ステロイド(steroid)誘導体、グリセリド(glyceride)誘導体、グリセロールエーテル(glycerol ether)、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)、C12~C50の不飽和又は飽和炭化水素(hydrocarbon)、ジアシルホスファチジルコリン(diacylphosphatidylcholine)、脂肪酸(fatty acid)、リン脂質(phospholipid)、リポポリアミン(lipopolyamine)などが使用され得るが、これに制限されず、本発明の目的に符合するいかなる疎水性物質も使用可能であるという点は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者には明らかである。
【0057】
前記ステロイド(steroid)誘導体は、コレステロール、コレスタノール、コール酸、コレステリルホルメート、コレスタニルホルメート及びコレステリルアミンからなる群から選ばれ、前記グリセリド誘導体はモノ-、ジ-及びトリ-グリセリドなどから選ばれ得るが、このとき、グリセリドの脂肪酸はC12~C50の不飽和又は飽和脂肪酸が好ましい。
【0058】
特に、前記疎水性物質の中でも飽和又は不飽和炭化水素又はコレステロールが、本発明に係るオリゴヌクレオチド構造体の合成段階で容易に結合させることができるという長所を有するので好ましい。
【0059】
前記疎水性物質は、親水性物質の反対末端(distal end)に結合し、miRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖のいずれの位置に結合しても構わない。
【0060】
本発明において、親水性物質、親水性物質ブロック又は疎水性物質とオリゴヌクレオチドは、単純共有結合又はリンカー媒介の共有結合(X又はY)によって結合する。前記共有結合は非分解性結合又は分解性結合のいずれであっても構わない。このとき、非分解性結合にはアミド結合又はリン酸化結合があり、分解性結合には二硫化結合、酸分解性結合、エステル結合、無水物結合、生分解性結合又は酵素分解性結合などがあるが、これに限定されるものではない。
【0061】
本発明の他の実施例では、本発明に係るmiRNAオリゴヌクレオチド構造体を製造して肺癌細胞株を処理し、細胞株をアネキシンVで染色して流細胞分析機で分析した。その結果、図9に示すように、RNA構造体を用いる生体内における安定性増加のためのナノ粒子を使用する場合、濃度依存的に細胞株の自己死滅効果を誘発できることが確認できた。
【0062】
したがって、本発明は、他の観点において、前記オリゴヌクレオチド構造体を含む癌予防又は治療用組成物に関する。本発明はまた、前記オリゴヌクレオチド構造体を投与する段階を含む癌予防又は治療方法に関する。本発明はまた、前記オリゴヌクレオチド構造体の癌予防又は治療用途を提供する。本発明はまた、癌予防又は治療用の薬剤を製造するための前記オリゴヌクレオチド構造体の使用方法を提供する。
【0063】
本発明において、前記癌は、肺癌、肝癌、胃癌、大腸癌、膵癌、胆嚢及び胆道癌、乳癌、白血病、食道癌、非ホジキンリンパ腫、甲状腺癌、子宮頸癌、皮膚癌の原発性癌とこれからその他臓器に転移して誘発される転移癌及び異常過剰細胞分裂を促進して生成される腫瘍性細胞疾患からなる群から選ばれる1種以上の癌であることを特徴とするが、これに限定されない。
【0064】
本発明で提供する癌治療用組成物の有効成分として使用可能なmiRNA配列はヒト遺伝体由来の配列であるが、miRNAの由来遺伝体をヒト遺伝体に限定せず、他の動物由来遺伝体から得られたmiRNA配列も使用可能である。
【0065】
前記miRNAは、miRNAの生物学的等価効能を発生させる様々なmiRNA誘導体(miRNA mimic)の形態で使用できるが、同一のシード部分(seed region)を含むmiRNA配列を含む変形されたmiRNAを使用することができる。このとき、配列1又は配列2の長さを減らしてもよいが、長さが15個のヌクレオチドで構成された短い誘導体の使用も可能である。
【0066】
前記miRNAに対するmiRNA誘導体としては、RNAリン酸骨格構造(phosphate backbone structure)を硫黄などの他の元素に置換した形態であるホスホロチオエート(phosphorothioate)構造を部分的に含むことができ、RNAに代えてDNA、PNA(petide nucleic acids)及びLNA(locked nucleic acid)分子に全体又は部分的に置換した形態でも使用可能であり、また、RNA糖2’水酸化基を様々な機能性構造に置換した形態で使用可能であり、これはメチル化、メトキシ化、フルオロ化などを含むが、これらの変形に限定されない。
【0067】
前記miRNAは、成熟miRNA(mature miRNA)とこれから誘導された前記miRNA誘導体の二本鎖RNAに限定するものでなく、miRNA前駆体の形態で使用されてもよく、miRNA前駆体も、上述したRNAリン酸骨格構造、RNA核酸のDNA、PNA及びLNAなどへの部分又は全体置換、RNA糖分子の2’水酸化基の変形が可能である。
【0068】
前記miRNAは、miRNA前駆体又は一次miRNA(pri-miRNA)形態で使用可能であるが、これを化学的な方法で合成したり又はプラスミド(plasmid)の形態で細胞に伝達して発現することが可能である。
【0069】
本発明において、miRNAを培養皿で培養した細胞に伝達する方法は、陽イオン性脂質との混合物を使用する方法、電気的な刺激で伝達する方法、及びウイルスを利用する方法などを用いることができるが、これらの方法に制限されない。
【0070】
前記miRNAを有効成分として含む癌治療用組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含む薬学組成物であり得、担体と共に製剤化され得る。
【0071】
本発明で用語“薬学的に許容可能な担体”とは、生物体を刺激せずに投与化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体又は希釈剤を指す。液状溶液に製剤化される組成物において許容される薬剤学的担体には、滅菌及び生体に適したものであり、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの成分の1成分以上を混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加してもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒又は錠剤に製剤化してもよい。
【0072】
前記miRNA及び薬学的に許容可能な担体を含む癌予防又は治療用組成物は、これを有効成分として含むいかなる剤形でも適用可能であり、経口用又は非経口用剤形に製造できる。薬学的剤形は、口腔(oral)、直腸(rectal)、鼻腔(nasal)、局所(topical;頬及び舌の下を含む)、皮下、膣(vaginal)又は非経口(parenteral;筋肉内、皮下及び静脈内を含む)投与に適した形態又は吸入(inhalation)又は注入(insufflation)による投与に適した形態を含む。
【0073】
本発明の組成物を有効成分として含む経口投与用剤形には、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水溶性又は油性懸濁液、調製粉末又は顆粒、エマルジョン、ハード又はソフトカプセル、シロップ又はエリキシル剤に製剤化できる。錠剤及びカプセルなどの剤形に製剤化するために、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アミロペクチン、セルロース又はゼラチンのような結合剤、ジカルシウムホスフェートのような賦形剤、トウモロコシ澱粉又はサツマイモ澱粉のような崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム又はポリエチレングリコールワックスのような潤滑油を含むことができ、カプセル剤形の場合、前記言及した物質の他にも、脂肪油のような液体担体をさらに含有することができる。
【0074】
本発明の組成物を有効成分として含む非経口投与用剤形には、皮下注射、静脈注射又は筋肉内注射などの注射用形態、坐剤注入方式又は呼吸器で吸入可能なエアゾール剤などのスプレー用に製剤化できる。注射用剤形に製剤化するためには、本発明の組成物を安定剤又は緩衝剤と一緒に水で混合して溶液又は懸濁液として製造し、これをアンプル又はバイアルの単位投与用に製剤化できる。坐剤として注入するためには、ココアバター又は他のグリセリドなどの通常の坐薬ベースを含む坐薬又は浣腸剤のような直腸投与用組成物で製剤化できる。エアゾール剤などのスプレー用に剤形化する場合、水分散された濃縮物又は湿潤粉末が分散されるように推進剤などが添加剤とともに配合され得る。
【0075】
実施例
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0076】
実施例1:miRNAライブラリーを用いたmiRNAスクリーニング
【0077】
特許出願番号10-2016-0022462で使用したmiRNAライブラリーを同様に使用して肺癌細胞株の死滅を誘導するmiRNAを選別する実験を行った。実験に使用された肺癌細胞株は次の通りである;H2009、H596、H1650、PC9、PC9/GR、H1975、HCC827、A549(ATCC又は韓国細胞株銀行から購入)。各細胞株をウェルプレートに分注して培養し、これに40nMの濃度にmiRNAをトランスフェクション試薬であるRNAiMax(Invitrogen)と共に処理してmiRNAを細胞中に伝達した。さらに96時間を培養した後、CellTiter-Glo試薬(Promega)を用いて細胞の相対的な成長を測定した(図1図4)。このうち、使用された細胞株に優れた効能を示すmiRNAとしてmiR-544aを選定した。
【0078】
実施例2:miRNAによる細胞死滅効果分析
【0079】
実施例1で行われた実験は、miRNAによる細胞の増殖抑制効果を測定する方法で行われた。細胞の増殖を抑制できる方法は2種類に大別でき、その一つは、細胞成長サイクル(cell cycle)において特定段階から次の段階に転移されないようにする方法があり、もう一つは、細胞の死滅を誘導する方法である。実施例1で選別されたmiRNAがどの方式で細胞増殖抑制効果を奏するかを調べるために、PC9及びPC9/ER細胞株を対象に実験を行った。前記の細胞株を6ウェルプレートに分注して培養した後、miRNAコントロール及びmiR-544aをそれぞれ40nMの濃度となるようにトランスフェクション試薬であるRNAiMax(Invitrogen)を使用して細胞内に伝達した。さらに48時間を培養した後、細胞をFITC蛍光染料が標識されたアネキシンV(annexin V)とPI(Propidium iodine)で処理し、流細胞分析機(FACS)で分析した。
【0080】
その結果、miR-544aで処理した細胞株の場合は、miRNAコントロールで処理した細胞株に比べて死滅する細胞の数が飛び切り多いことを確認した。これは、miR-544aが細胞の死滅を誘発することによって細胞増殖抑制効果を発揮することを意味する(図5)。
【0081】
実施例3:細胞死滅を誘導するmiR-544aの作用機序分析
【0082】
実施例1及び2で確認したmiR-544aの肺癌細胞株死滅誘導メカニズムを確認するために、使用された細胞株の信号伝達体系に及ぶ影響を測定した。実施例で使用された肺癌細胞株はEGFRタンパク質に変異が存在してEGFR信号伝達体系が活性化されており、これが細胞株の生存に重要な役割を担うということが知られている。
【0083】
したがって、miR-544aによる細胞株死滅作用機序がEGFR信号伝達体系を調節すると予想され、EGFR信号伝達体系に関与するタンパク質の発現量をウェスタンブロットで測定した。その結果は図6に記録されている通りである。miR-544aを処理した試料の場合、対照群に比べてEGFRタンパク質の発現量が顕著に減少したことが確認でき、EGFRタンパク質の活性を示す指標であるリン酸化EGFRの場合も、対照群に比べて減少していることが確認できる。
【0084】
細胞の成長を促進する信号伝達体系であるERK信号伝達体系はEGFRの下位体系に位置しているが、miR-544aによってEGFR信号伝達体系が抑制されたことから、ERKタンパク質の活性化された形態であるリン酸化ERKの量が減少したことが確認できた(図6)。
【0085】
実施例4:miR-544aがEGFR mRNA発現を阻害することを確認
【0086】
図6に提示されたデータのように、miRNAによってタンパク質の発現が減少する場合、mRNAも一般にmiRNAによって発現が阻害されると知られている。これを確認するために肺癌細胞株PC9、PC9/ER、H1975及びH596にmiR-544a又はネガティブコントロールを処理した後、EGFR mRNAの相対的な発現量を分析した。
【0087】
その結果、実験に使用された全ての細胞株においてEGFR mRNAの発現量が顕著に減少することが確認できた(図7)。
【0088】
実施例5:ルシフェラーゼ測定方法を用いてmiR-544aの直接ターゲットmRNAを確認
【0089】
miRNAはターゲットmRNAの3’UTR(untranslated region)に結合することによってターゲットmRNAにおけるタンパク質生成を阻害するため、miRNAとターゲットmRNAとの関係を直接測定する方法としてルシフェラーゼ測定法を通常利用する。ターゲットスキャン(TargetScan)ソフトウェアからmiRNA結合配列が含まれた3’UTR配列を提供するが、これをホタルルシフェラーゼ(firefly luciferase)の3’UTRに遺伝子クローニング(gene cloning)技法で挿入し、この方式で製作されたベクターを該当のmiRNAと同時にHEK(Human Embryonic Kidney)細胞にトランスフェクションしてベクターのルシフェラーゼ発現量を測定した。EGFR mRNAがmiR-544aのターゲットになるか否かを確認するために、EGFR mRNAの3’UTRをa、bに分けてそれぞれホタルルシフェラーゼベクターに挿入した。この時、トランスフェクション効率を補正するためにウミシイタケルシフェラーゼ(renilla luciferase)も同時にトランスフェクションして測定値を補正した。miRNA、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼを同時に注入し、48時間培養後にルミノメーター(Luminometer)で測定した。
【0090】
その結果、図8に示すように、各ターゲットmRNAが該当のmiRNAによって直接制御されるということが確認できた。また、EGFR3’UTRでmiRNAが作用する配列を予測して該当の部位に突然変異(EGFR 3’UTR 250-256、2288-2295、3476-3482nt)を誘発した時、miRNAによる発現抑制現象が消えることを確認した。したがって、ターゲットmRNAはmiRNAが作用部位に直接結合して制御されるということを確認した。
【0091】
実施例6:miR-544aの薬物耐性克服評価
【0092】
EGFR変異を有する肺癌に対する治療剤として臨床で使用するエルロチニブとの効能をmiR-544aと比較して評価を行った。EGFR変異のある細胞株PC9、PC9/GR、PC9/ER、H1975、H596、H1650を96ウェルプレートに分注して培養した後、図9に表示されている濃度にエルロチニブを処理し、さらに96時間培養した後、細胞の相対的生存量を測定した。これらの細胞株は、次のような遺伝子的特性及び薬物抵抗性から使用された。PC9はdelE764-A750変異を有し、エルロチニブに優れた反応性があるので、エルロチニブ処理時に細胞株を効果的に死滅させることができる。一方、PC9/GR、PC9/ERは、PC9と同様にdelE764-A750変異を含み、さらにT790M変異を有する。これによって、エルロチニブに対する抵抗性を有する細胞株である。H1975はL858R、T790M変異を、H596は過発現したEGFRを、H1650はdelE764-A750変異を有し、いずれもエルロチニブに対する抵抗性がある細胞株である。生存量は、実施例1で使用したCellTiter-Gloを用いて測定した。同様に、miRコントロール、miR-544aを図9に表示されている濃度にRNAiMaxトランスフェクション試薬で処理し、エルロチニブ処理群と同じ条件で相対的生存量を測定した。
【0093】
その結果、図9に示すように、エルロチニブによく反応するものと知られたPC9細胞株ではエルロチニブの濃度0.1uMで細胞株を死滅させることができるが、EGFR T790Mなどの変異によるエルロチニブ耐性がある他の細胞株では、PC9細胞株に比して100倍である10uM濃度に処理する場合に細胞の死滅を誘導できることを確認した。一方、miR-544aの場合、EGFR T790M変異の有無に関係なく0.001~0.01uMの処理濃度で細胞の死滅を誘導できることを確認した。
【0094】
これは、エルロチニブに比して低濃度でmiRNAが効果的であり、またEGFR T790M変異によるエルロチニブ耐性に関係なく効果的に作用できることを意味し、図6に開示されたウェスタンブロット結果でも同じ結果が確認できた。PC9細胞株ではmiR-544aとエルロチニブが活性化されたEGFR(pEGFR)を抑制し、下位信号伝達因子であるERKのリン酸化を阻害する。結果として、PARPから分かるように、細胞の死滅を誘導する。しかし、EGFR T790M変異によるエルロチニブ耐性を持つ他の細胞株ではmiR-544aだけがこのような効果を示している。
【0095】
実施例7:RNAオリゴヌクレオチド構造体の合成
【0096】
本発明で製造した二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体は、下記構造式(5)のような構造を有する。
【数6】
【0097】
前記構造式(5)で、SはmiRNAのセンス鎖、ASはmiRNAのアンチセンス鎖、POはリン酸基、エチレングリコールは親水性物質単量体(monomer)であり、ヘキサエチレングリコール(hexa ethylene glycol)がリンカー(J)であるリン酸基(PO-)によって結合し、C24は疎水性物質であり、二硫化結合が含まれているテトラドコサン(tetradocosane)、そして5’及び3’は二重螺旋オリゴRNAの末端方向を意味する。
【0098】
前記構造式(5)におけるmiRNAのセンス鎖は、DMT-ヘキサエチレングリコール-CPGを支持体とし、β-シアノエチルホスホアミダイトを用いてオリゴヌクレオチド骨格構造をなすホスホジエステル結合を連結していく方法によって3’末端部位にヘキサエチレングリコールが結合したセンス鎖を含むオリゴヌクレオチド-親水性物質構造体を合成した後、二硫化結合が含まれているテトラドコサンを5’末端に結合させて所望のオリゴヌクレオチド-高分子構造体のセンス鎖を製造した。前記鎖とアニーリングを行うアンチセンス鎖の場合、前述した反応によってセンス鎖と相補的な配列のアンチセンス鎖を製造した。
【0099】
実施例8:miRNA配列を含むオリゴヌクレオチド構造体による細胞死滅誘導
【0100】
前記実施例によって選別されたmiRNAを、生体内における安定性を確保するために実施例6の方法でオリゴヌクレオチド構造体を製造した。このような方式で製造されたナノ粒子も肺癌細胞株において細胞死滅を誘発するか否かを評価するために、肺癌細胞株A549、H1650を96ウェルプレートに分注して培養し、ナノ粒子を1000nMとなるように培養液に添加した。ナノ粒子を添加した培養液に細胞を培養した後、CellTiter-Glo試薬(Promega)を用いて細胞の相対的な成長を測定した。
【0101】
その結果、オリゴヌクレオチド構造体で製造されたmiRNAによって細胞死滅が誘導されることを確認した(図10)。
【0102】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に説明したところ、当業界の通常の知識を有する者にとってこのような具体的記述は単に好ましい実施様態であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されない点は明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項及びそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る二重螺旋オリゴヌクレオチド構造体及びこれを含む癌治療用組成物は、miR-544aを含むことによって、EGFR変異のある肺癌において臨床で用いられる薬物であるエルロチニブに比べて改善された抗癌効果を示すので、抗癌治療剤として広く活用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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