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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】水晶振動素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/02 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
H03H3/02 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021511350
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010832
(87)【国際公開番号】W WO2020203144
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2019066588
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】木津 徹
(72)【発明者】
【氏名】平賀 章浩
(72)【発明者】
【氏名】大井 友貴
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 威
(72)【発明者】
【氏名】熊野 裕司
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-178320(JP,A)
【文献】特開2007-142526(JP,A)
【文献】特開2006-186847(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143006(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶の結晶軸をX軸、Y軸、Z軸として、Y軸及びZ軸をX軸の回りに反時計方向に所定の角度回転させてY’軸及びZ’軸とし、Z’軸とX軸とを含む面と平行な面をY’軸の正方向側及び負方向側の主面として切り出したATカットの水晶基板に、フォトエッチングによって、水晶片と、前記水晶片を支持する桟部とを形成する工程を、含み、
前記形成する工程において、前記主面を平面視したときに、前記桟部に、該桟部と前記水晶片との境界線に沿う有底の溝が形成され、
該有底の溝は、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側、及び、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側の少なくとも一方に配置される、
水晶振動素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動素子は、例えば、集合基板(ウエハ)にエッチングなどで複数の水晶片を形成し、当該複数の水晶片に一括して励振電極等を設ける。そして、励振電極等が設けられた各圧電片を集合基板から分離することによって、複数の水晶振動子が製造される。
【0003】
引用文献1には、水晶振動片の外形を有する水晶素子片と水晶板の支持枠部と水晶素子片を支持枠部に結合する連結部とを加工する工程と、連結部を折り取って水晶振動片を切り離す工程とを有し、連結部は、水晶素子片のZ’方向に延長する横辺に、X方向に延長する互いに対向する各縦辺に沿って延長するように、水晶素子片の外形線に沿って有底の溝を形成するように加工される。+Z’側の溝は連結部の+Y’側の主面に、-Z’側の溝は-Y’側の主面に配置される水晶振動片の加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-178320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された位置に溝を配置すると、支持枠部と連結部との接続箇所が十分にエッチングされずに、溶け残りが発生することがあった。水晶片の折り取りの容易さ及び水晶基板あたりの水晶片の取り個数を増加させるために、連結部の長さを短くすると、溶け残り部分が水晶片を折り取った後の水晶振動素子にバリ(突起)として残ることがあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、水晶振動素子に残るバリの発生を抑制することのできる水晶振動素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る水晶振動素子の製造方法は、水晶の結晶軸をX軸、Y軸、Z軸として、Y軸及びZ軸をX軸の回りに反時計方向に所定の角度回転させてY’軸及びZ’軸とし、Z’軸とX軸とを含む面と平行な面をY’軸の正方向側及び負方向側の主面として切り出したATカットの水晶基板に、フォトエッチングによって、水晶片と、桟部と、水晶片を桟部に支持する支持部とを形成する工程を、含み、形成する工程において、主面を平面視したときに、支持部に、当該支持部と水晶片との境界線に沿う有底の溝が形成され、当該有底の溝は、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側、及び、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側の少なくとも一方に配置される。
【0008】
本発明の他の一側面に係る水晶振動素子の製造方法は、水晶の結晶軸をX軸、Y軸、Z軸として、Y軸及びZ軸をX軸の回りに反時計方向に所定の角度回転させてY’軸及びZ’軸とし、Z’軸とX軸とを含む面と平行な面をY’軸の正方向側及び負方向側の主面として切り出したATカットの水晶基板に、フォトエッチングによって、水晶片と、水晶片を支持する桟部とを形成する工程を、含み、形成する工程において、主面を平面視したときに、桟部に、当該桟部と水晶片との境界線に沿う有底の溝が形成され、当該有底の溝は、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側、及び、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側の少なくとも一方に配置される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水晶振動素子に残るバリの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る水晶振動素子の製造方法S100を示すフローチャートである。
図2図2は、図1に示した水晶片形成工程を示すフローチャートである。
図3図3は、図1に示した水晶片形成工程の終了後の水晶基板を一方の主面の法線方向から視た要部拡大図である。
図4図4は、図3に示したIV-IV線に沿った断面を概略的に示す断面図である。
図5図5は、図1に示した水晶片形成工程の終了後の水晶基板を一方の側方から視た側面図である。
図6図6は、仮想的な水晶片形成工程の終了後の水晶基板に形成された桟部、支持部、及び水晶片の要部拡大図である。
図7図7は、図6に示したVII-VII線に沿った断面を概略的に示す断面図である。
図8図8は、図3に示した水晶基板の第1変形例の一例を示す要部拡大図である。
図9図9は、図3に示した水晶基板の第1変形例の他の例を示す要部拡大図である。
図10図10は、図3に示した水晶基板の第2変形例を示す要部拡大図である。
図11図11は、図3に示した水晶基板の第3変形例を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の構成要素は同一又は類似の符号で表している。図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本発明の技術的範囲を当該実施形態に限定して解するべきではない。
【0012】
<実施形態>
まず、図1から図2を参照しつつ、本発明の実施形態に係る水晶振動素子の製造方法について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る水晶振動素子の製造方法S100を示すフローチャートである。図2は、図1に示した水晶片形成工程を示すフローチャートである。
【0013】
図1に示すように、水晶振動素子(Quartz Crystal Resonator)の製造方法S100は、水晶片形成工程S10と、電極形成工程S20と、水晶片分離工程S30と、を含んで構成される。
【0014】
水晶片形成工程S10を開始する前に、ATカットされた水晶基板101を準備する。ATカットの水晶基板101は、人工水晶(Synthetic Quartz Crystal)の結晶軸(Crystallographic Axes)であるX軸、Y軸、Z軸のうち、Y軸及びZ軸をX軸の周りにY軸からZ軸の方向に35度15分±1分30秒回転させた軸をそれぞれY’軸及びZ’軸とした場合、X軸及びZ’軸によって特定される面(以下、「XZ’面」と呼ぶ。他の軸によって特定される面についても同様である。)と平行な面を主面として切り出されたものである。
【0015】
このため、水晶基板101の両主面は、ともにY’軸に垂直な面であり、それぞれ、Y’軸の正方向側の主面、Y’軸の負方向側の主面と呼ぶことができる。以下の説明において、Y’軸の正方向側の主面を水晶基板101の第1主面、Y’軸の負方向側の主面を水晶基板101の第2主面という。
【0016】
水晶片形成工程S10は、ATカットの水晶基板101に、フォトエッチングによって水晶片(Quartz Crystal Element)を形成する。
【0017】
すなわち、水晶片形成工程S10は、図2に示すように、最初に、水晶基板101の両主面に金属層を形成する(S11)。金属層は、水晶をエッチングする際に用いられるエッチング液、例えば、フッ化アンモニウムあるいは緩衝フッ酸に対する耐蝕膜として機能する。このような耐蝕膜としては、例えば、クロム(Cr)層と金(Au)層とを含む多層膜が用いられる。金属層は蒸着法やスパッタ法によって形成される。クロム(Cr)層は金(Au)層より水晶基板101に近い側に位置し、金(Au)層はクロム(Cr)層より水晶基板101から遠い側に位置する。クロム(Cr)層は水晶基板101との密着力を高め、金(Au)層は耐蝕性を高める。
【0018】
次に、金属層の上にフォトレジスト層を形成する(S12)。フォトレジスト層は、フォトレジスト溶液を金属層の上に塗布し、加熱により溶媒を揮発させることで成膜される。フォトレジスト溶液は、例えば、スプレー法やスピンコート法によって塗布される。
【0019】
次に、フォトレジスト層を露光・現像し、水晶片130の外形パターンを形成する(S13)。フォトレジスト層は、微細加工への適応性の観点から、露光された部分を溶解によって除去するポジ型の感光性樹脂を用いることが望ましい。ポジ型の感光性樹脂を使用する場合、フォトレジスト層は、水晶片130に相当する領域をフォトマスクで遮光された状態で露光され、その後、現像液によって不要な部分が洗い流される。すなわち、フォトマスクの形状はフォトレジスト層に転写される。その結果、金属層の上に残ったフォトレジスト層は、水晶片130の外形パターンを形成する。
【0020】
次に、水晶基板101を外形パターンに従って除去する(S14)。このとき、前工程で形成したフォトレジスト層の外形パターンを利用し、エッチング処理によって水晶基板101の中に複数の水晶片130を形成する。なお、各水晶片130は、個片化されずに桟部110によって互いに連結されている。桟部110及び水晶片130の外形については、後述する。本工程では、フォトレジスト層の外形パターンに従って金属層をエッチングによって除去する。次いで、水晶基板101をエッチングによって除去する。エッチング処理は、特に限定されるものではなく、例えば一般的なウエットエッチングであり、金属層に対してはヨウ素系のエッチング溶液を用い、水晶に対してはフッ酸系のエッチング溶液を用いる。
【0021】
次に、フォトレジスト層及び金属層を除去する(S15)。ここで、一旦、水晶基板101に付着しているフォトレジスト層及び金属層を全て除去する。
【0022】
工程S15の後、水晶片130がメサ型構造を有する場合、水晶片130をメサ型構造に加工する(S16)。メサ型構造への加工は、工程S11から工程S15と同様の処理を繰り返すことで実施可能である。このような工程S16における工程S11から工程S14との相違点は、工程S13に相当する工程におけるフォトレジスト層の形状が、水晶片130の振動部を覆って振動部以外の部分を露出するメサ型構造パターンであることと、工程S14に相当する工程における水晶基板101のエッチングがハーフエッチングであること、である。
【0023】
このようにして、水晶基板101に水晶片130の外形が形成される。
【0024】
本実施形態では、図2において、水晶片130がメサ型構造を有する例を示したが、これに限定されるものではない。水晶片は、一方の面において、振動部がその他の部分より大きい、いわゆる片メサ型構造であってもよい。また、水晶片は、振動部がその他の部分よりも薄い逆メサ構造であってもよい。さらに、水晶片は、振動部とその他の部分の厚みの変化(段差)が連続的に変化するコンベックス形状又はベベル形状であってもよいし、厚みの変化(段差)がない又は少ない平板状の形状であってもよい。なお、以下において、説明の簡略化のため、水晶片130は平板状の形状であるものとして説明する。
【0025】
図1に示す電極形成工程S20は、前述した水晶片形成工程S10の工程S11から工程S15と同様の処理であるため、図示及びその詳細な説明を省略する。
【0026】
電極形成工程S20では、水晶基板101の両主面に金属層を形成し、金属層の上にフォトレジスト層を形成する。
【0027】
次に、フォトレジスト層を露光・現像し、電極パターンを形成する。電極パターンは、例えば、水晶片に振動部に形成される励振電極、励振電極から引き出すための引出電極、接続電極等となる領域を覆う。電極パターン以外の領域のフォトレジスト層は除去される。
【0028】
次に、金属層を電極パターンに従って除去して各電極を形成し、その後、フォトレジスト層を除去する。除去されるフォトレジスト層は、電極パターンに相当する。
【0029】
このようにして、水晶基板101に励振電極、引出電極、接続電極等の電極が形成される。
【0030】
図1に示す水晶片分離工程S30では、水晶片130を支持部120から分離する。具体的には、例えば水晶基板101の一方の主面側から力を加えることによって、水晶片130を支持部120から折り取る。これにより、水晶片130は、個片化され、分離される。分離された水晶片は、水晶振動素子として使用される。このようにして、水晶振動素子が製造される。
【0031】
次に、図3から図5を参照しつつ、水晶片形成工程S10を経て水晶片が形成された水晶基板101について説明する。図3は、図1に示した水晶片形成工程S10の終了後の水晶基板101を一方の主面の法線方向から視た要部拡大図である。図4は、図3に示したIV-IV線に沿った断面を概略的に示す断面図である。図5は、図1に示した水晶片形成工程S10の終了後の水晶基板101を一方の側方から視た側面図である。
【0032】
図3に示すように、水晶基板101には、桟部110と、支持部120と、水晶片130と、が形成されている。図示を省略するが、水晶基板101は、桟部110、支持部120、及び水晶片130のそれぞれを、複数含んでいる。例えば、複数の桟部110は、それぞれ、所定の間隔でX軸の正方向に並んでいる。複数の水晶片130は、それぞれ、所定の間隔でX軸の正方向に並んでいて、かつ、所定の間隔でZ’軸の負方向に並んでいる。すなわち、桟部110と水晶片130とは、X軸の正方向において交互に配列され、かつ、互いに離れている。
【0033】
桟部110は、Z’軸方向に延在している。支持部120は、水晶片130を桟部110に支持している。支持部120は、X軸方向において、桟部110と水晶片130との間に位置する。支持部120は、水晶基板101の第1主面から第2主面まで貫通する開口121を有する。図3及び図4に示す例では、開口121は矩形状を有する。なお、水晶基板101の第1主面は、水晶片130の第1主面130aと平行又は略平行であり、水晶基板101の第2主面は、水晶片130の第2主面130bと平行又は略平行である。
【0034】
また、図3に示す例では、水晶片130は、Z’軸方向に平行な短辺と、X軸方向に平行な長辺と、を含む矩形状を有する。また、水晶片130は、X軸の正方向側、つまり、基端部130c側の短辺において、支持部120を介して桟部110に接続されている。水晶片130の周囲には、支持部120との接続部分を除き、エッチングによって水晶基板101が除去されたことで間隙(スペース)が形成されている。
【0035】
水晶片130は、支持部120によって支持されることにより、桟部110からX軸方向に離間して設けられている。水晶片130の第1主面130a、つまり、水晶基板101の第1主面の平面視したとき(以下、単に「平面視」ともいう)において、水晶片130と桟部110との間は、支持部120のX軸方向における長さ、つまり、距離D1だけ離れている。
【0036】
さらに、図3に示す例では、支持部120が開口121を有することにより、水晶片130は、2つの支持部120A,120Bに支持されている。支持部120A及び支持部120Bは、Z’軸方向に互いに離間して設けられている。このように、支持部120は、Y’軸の正方向側の主面からY’軸の負方向側の主面まで貫通する開口121を有することにより、互いに離間した複数の支持部120A,120Bを容易に形成することができる。
【0037】
本実施形態では、図3において、支持部120が1つの開口121を有する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の開口が支持部120に形成されていてもよい。また、開口121の形状は、平面視において矩形である場合に限定されず、他の形状であってもよい。
【0038】
図3から図5に示すように、平面視において、支持部120Aに、当該支持部120Aと水晶片130の基端部130c側の短辺との境界線に沿う有底の溝140Aが形成されている。溝140Aは、水晶片130の第2主面、つまり、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側に配置されている。また、図4及び図5に示すように、溝140Aの形状は、底を有する矩形状であり、当該溝140Aは所定の深さを有している。
【0039】
同様に、平面視において、支持部120Bに、当該支持部120Bと水晶片130の基端部130c側の短辺との境界線に沿う有底の溝140Bが形成されている。溝140Bは、水晶片130の第1主面、つまり、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側に配置されている。また、図4及び図5に示すように、溝140Bの形状は、底を有する矩形状であり、当該溝140Bは所定の深さを有している。
【0040】
なお、平面視において、溝140A,140BのX軸方向の幅(長さ)は、水晶基板101と水晶片130との間の間隙と比較し、十分に小さい値に設定されている。
【0041】
ここで、図6及び図7を参照しつつ、仮想的な水晶片形成工程を経て水晶基板から形成される桟部、支持部、及び水晶片について説明する。図6は、仮想的な水晶片形成工程の終了後の水晶基板に形成された桟部210、支持部220、及び水晶片230の要部拡大図である。図7は、図6に示したVII-VII線に沿った断面を概略的に示す断面図である。なお、図6及び図7に示す桟部210、支持部220、及び水晶片230は、図3から図5に示した桟部110、支持部120、及び水晶片130と略同一の構成であり、同様の部分については説明を適宜省略し、主に異なる部分について説明する。
【0042】
図6に示すように、支持部220は、水晶片230を桟部210に支持している。また、支持部220が開口221を有することにより、水晶片230は、2つの支持部220A,220Bに支持されている。
【0043】
図3から図5に示した溝140A及び溝140Bとは異なり、支持部220AにはY’軸の正方向側の主面に有底の溝240Aが形成され、支持部220BにはY’軸の負方向側に有底の溝240Bが形成されている。
【0044】
このため、支持部220Aと桟部210との接続箇所、及び、支持部220Bと桟部210との接続箇所において、エッチングが進まずに水晶基板が溶け残ることがあった。図6及び図7に示すように、支持部220Aにおいて、溝240Aが形成されていないY’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側に、突起PR1が残っている。同様に、支持部220Bにおいて、溝240Bが形成されていないY’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側に、突起PR2が残っている。
【0045】
支持部220A及び支持部220BのX軸方向の長さである距離D1が短い場合、水晶片230を桟部210から分離するときに、これらの突起PR1及び突起PR2は、分離された水晶片230にバリとして残ってしまうことがある。水晶片230にバリが存在すると、例えば水晶片230がそのパッケージとの側壁に衝突しやすくなり、衝突の結果、水晶片230の振動特性が変化してしまう等の悪影響がある。
【0046】
これに対し、図3から図5に示した有底の溝140Aは、支持部120AにおいてY’軸の負方向側の主面に形成されている。これにより、図7に示すY’軸の負方向側の主面のZ’軸の正方向側の突起PR1は、溝140Aによるエッチング液の流れ込み(入り込み)によって、除去され又は発生が抑制される。また、図3から図5に示した有底の溝140Bは、支持部120BにおいてY’軸の正方向側の主面に形成されている。これにより、図7に示すY’軸の正方向側の主面のZ’軸の負方向側の突起PR2は、溝140Bによるエッチング液の流れ込み(入り込み)によって、除去され又は発生が抑制される。従って、桟部110から分離された水晶片130である水晶振動素子に残り得るバリの発生を抑制することができる。
【0047】
また、有底の溝140Aは、水晶基板101の主面を平面視したときの支持部120AのZ’軸方向の全幅にわたって、有底の溝140Bは、水晶基板101の主面を平面視したときの支持部120BのZ’軸方向の全幅にわたって、それぞれ、形成されることが好ましい。これにより、溝140A及び溝140Bに沿うエッチング液の流れ込み(入り込み)が促進され、溶け残りによる突起PR1、PR2はさらに除去され又はさらに抑制される。
【0048】
本実施形態では、図3から図5において、桟部110、支持部120、及び水晶片130が形成された水晶基板101の例を示したが、水晶片形成工程S10の終了後の水晶基板101は、この例に限定されるものではない。
【0049】
(第1変形例)
図8は、図3に示した水晶基板101の第1変形例の一例を示す要部拡大図である。図9は、図3に示した水晶基板101の第1変形例の他の例を示す要部拡大図である。なお、第1変形例において、図3に示した水晶基板101と同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。また、同様の構成による同様の作用効果については、逐次言及しない。
【0050】
図8に示すように、水晶基板101Aには、2つの支持部120C,120Dを含む支持部120が形成され、水晶片130は、支持部120C及び支持部120Dに支持されている。
【0051】
支持部120C及び支持部120Dにおいて、X軸方向の長さは、水晶片130と桟部110との距離D2である。この距離D2は、図3に示した距離D1より小さい値に設定されている(距離D2<距離D1)。
【0052】
より詳細には、距離D2は、水晶基板101Aの厚み(Y’軸方向の長さ)に対し、0倍より大きく、かつ、1.5倍以下であることが好ましい。このように、従来の距離D1と比較して、水晶片130と桟部110との距離D2を短くすることで、水晶基板101Aから得られる水晶振動素子の個数を増やすことができるとともに、水晶片分離工程S30において、水晶片130を安定的に折り取ることができる。
【0053】
具体的には、距離D2は、0より大きく、かつ、50μm以下であることが好ましい。このように、従来の距離D1と比較して、水晶片130と桟部110との距離D2を短くすることで、水晶基板101Aから得られる水晶振動素子の個数を増やすことができるとともに、水晶片分離工程S30において、水晶片130を安定的に折り取ることができる。
【0054】
なお、図9に示すように、水晶片130と桟部110との距離D2は、有底の溝140A及び有底の溝140BのX軸方向の幅と同一であってもよい。
【0055】
(第2変形例)
図10は、図3に示した水晶基板101の第2変形例を示す要部拡大図である。なお、第2変形例において、図3に示した水晶基板101及び図9に示した水晶基板101Aと同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。また、同様の構成による同様の作用効果については、逐次言及しない。
【0056】
図10に示すように、水晶基板101Bには、2つの支持部120C,120Dを含む支持部120が形成されている。支持部120Cにおいて、Y’軸の負方向側の主面に、有底の溝140Cが形成されている。溝140Cは、平面視において、支持部120CのZ’軸方向に沿って、つまり、支持部120Cと水晶片130の基端部130c側の短辺との境界線に沿って、部分的に設けられている。また、支持部120Dにおいて、Y’軸の正方向側の主面に、有底の溝140Dが形成されている。溝140Dは、平面視において、支持部120CのZ’軸方向の幅に沿って、つまり、支持部120Cと水晶片130の基端部130c側の短辺との境界線に沿って、部分的に設けられている。
【0057】
このように、有底の溝140C,140Dが水晶基板101Bの主面を平面視したときの支持部120C、120DのZ’軸方向の幅に沿って、部分的に形成されることにより、有底の溝140C,140Dを支持部120C、120DのZ’軸方向の全幅にわたって形成する場合と比較して、支持部120C、120Dの強度を確保しつつ、水晶片130を容易に折り取ることができる。
【0058】
(第3変形例)
図11は、図3に示した水晶基板101の第3変形例を示す要部拡大図である。なお、第3変形例において、図3に示した水晶基板101、図9に示した水晶基板101A、及び図10に示した水晶基板101Bと同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。また、同様の構成による同様の作用効果については、逐次言及しない。
【0059】
図11に示すように、水晶基板101Cには、水晶片130と、桟部110とが形成されている一方、図3に示した支持部120が形成されていない。すなわち、水晶片130は、桟部110に直接支持されている。
【0060】
桟部110には、平面視において、桟部110と水晶片130の基端部130c側の短辺との境界線に沿う有底の溝140A及び溝140Bが形成されいている。溝140Aは、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側に、配置されている。また、溝140Bは、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側に、配置されている。
【0061】
このように、水晶片形成工程S10において、水晶基板101Cの主面を平面視したときに、桟部110に、当該桟部110と水晶片130との境界線に沿う有底の溝140A及び溝140Bが形成され、当該有底の溝は、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側、及び、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側の少なくとも一方に配置されることにより、前述の図3から図5に示した、桟部110、支持部120、及び水晶片130が形成された水晶基板101と同様の効果を得られるとともに、水晶基板101Cには支持部120が形成されないので、当該水晶基板101Cから得られる水晶振動素子の個数を増やすことができる。
【0062】
さらに、桟部110には、水晶基板101Cの第1主面から第2主面まで貫通する開口111が形成されている。桟部110が開口111を有することにより、水晶片130は、2カ所で桟部110に支持されている。また、溝140A及び溝140Bは、Z’軸方向に互いに離間して設けられている。
【0063】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。本発明の一実施形態に係る水晶振動素子の製造方法は、水晶片形成工程において、水晶基板の主面を平面視したときに、支持部に、当該支持部と水晶片との境界線に沿う有底の溝が形成され、当該有底の溝は、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側、及び、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側の少なくとも一方に配置される。これにより、図7に示すY’軸の負方向側の主面のZ’軸の正方向側の突起及び図7に示すY’軸の正方向側の主面のZ’軸の負方向側の突起の少なくとも一方は、溝によるエッチング液の流れ込み(入り込み)によって、除去され又は発生が抑制される。従って、桟部から分離された水晶片である水晶振動素子に残り得るバリの発生を抑制することができる。
【0064】
また、前述した水晶振動素子の製造方法において、水晶片を折り取ることによって、当該水晶片を桟部から分離して水晶振動素子とする工程をさらに含む。これにより、バリの発生が抑制された水晶振動素子を容易に製造することができる。
【0065】
また、前述した水晶振動素子の製造方法における水晶片形成工程において、水晶基板の主面を平面視したときの水晶片と桟部との距離が、水晶基板の厚みの0倍より大きく、かつ、1.5倍以下である。このように、従来の距離と比較して、水晶片と桟部との距離を短くすることで、水晶基板から得られる水晶振動素子の個数を増やすことができるとともに、水晶片分離工程において、水晶片を安定的に折り取ることができる。
【0066】
また、前述した水晶振動素子の製造方法における水晶片形成工程において、水晶基板の主面を平面視したときの水晶片と桟部との距離が、0より大きく、かつ、50μm以下である。このように、従来の距離と比較して、水晶片と桟部との距離を短くすることで、水晶基板から得られる水晶振動素子の個数を増やすことができるとともに、水晶片分離工程において、水晶片を安定的に折り取ることができる。
【0067】
また、前述した水晶振動素子の製造方法における水晶片形成工程において、水晶基板の主面を平面視したときの支持部のZ’軸方向の全幅にわたって有底の溝を形成する。これにより、溝に沿うエッチング液の流れ込み(入り込み)が促進され、溶け残りによる突起はさらに除去され又はさらに抑制される。
【0068】
また、前述した水晶振動素子の製造方法における水晶片形成工程において、水晶基板の主面を平面視したときの支持部のZ’軸方向の幅に沿って有底の溝を部分的に形成する。これにより、有底の溝を支持部のZ’軸方向の全幅にわたって形成する場合と比較して、支持部の強度を確保しつつ、水晶片を容易に折り取ることができる。
【0069】
また、前述した水晶振動素子の製造方法において、支持部は、Y’軸の正方向側の主面からY’軸の負方向側の主面まで貫通する開口を有する。これにより、互いに離間した複数の支持部を容易に形成することができる。
【0070】
また、本発明の一実施形態に係る水晶振動素子の製造方法は、水晶片形成工程において、水晶基板の主面を平面視したときに、桟部に、当該桟部と水晶片との境界線に沿う有底の溝が形成され、当該有底の溝は、Y’軸の正方向側の主面におけるZ’軸の負方向側、及び、Y’軸の負方向側の主面におけるZ’軸の正方向側の少なくとも一方に配置される。これにより、前述の図3から図5に示した、桟部、支持部、及び水晶片が形成された水晶基板と同様の効果を得られるとともに、水晶基板には支持部が形成されないので、当該水晶基板から得られる水晶振動素子の個数を増やすことができる。
【0071】
なお、以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもなく、これらも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0072】
101,101A,101B,101C…水晶基板、110…桟部、111…開口、120,120A,120B,120C,120D…支持部、121…開口、130…水晶片、130a…第1主面、130b…第2主面、130c…基端部、140A,140B,140C,140D…溝、210…桟部、220…支持部、220A、220B…支持部、221…開口、230…水晶片、240A,240B…溝、D1,D2…距離、PR1,PR2…突起、S10…水晶片形成工程、S20…電極形成工程、S30…水晶片分離工程、S100…水晶振動素子の製造方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11