(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 9/03 20060101AFI20220801BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220801BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220801BHJP
【FI】
C01G9/03
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2017129793
(22)【出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】浪平 隆男
(72)【発明者】
【氏名】志田 賢二
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/074195(WO,A1)
【文献】特開2014-236389(JP,A)
【文献】特開2015-217358(JP,A)
【文献】国際公開第2010/027098(WO,A1)
【文献】特開昭62-103308(JP,A)
【文献】ロシア国特許出願公開第02468989(RU,A)
【文献】藤井邦輔ら,マイクロ秒パルス放電プラズマを用いた微粒子酸化亜鉛の生成,電気学会研究会資料,2014年10月24日,73-75ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/03
B82Y 30/00
B82Y 40/00
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素と非金属元素とからなる金属ナノ粒子の製造方法であって、
前記金属元素を含む2つの電極の間に、前記非金属元素を含む雰囲気ガスが導入された状態で、パルスアーク放電を、ブルームライン放電回路を用いて発生させる工程を有し、
前記パルスアーク放電において、アーク電流値を100A以上とし、アーク放電発生時間を1μs以下とし、
前記ブルームライン放電回路において、ブルームライン線路の長さを0.1m以上と
し、
前記金属元素を亜鉛とし、前記非金属元素を酸素とし、
前記金属ナノ粒子を酸化亜鉛の粒子であるとし、
前記パルスアーク放電を、圧力を0.01MPa以上0.05MPa以下の範囲に調圧した容器内で発生させることを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ブルームライン放電回路において、一方の前記電極とブルームライン線路とが、電気抵抗が1kΩ以下の整合抵抗素子を介して接続されていることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記雰囲気ガスを、所定の方向に流れ続けるフロー状態とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、その粒径を小さくすることにより、高比表面積、高化学活性、高硬度、高強度、低温焼結、新規電子状態など、多くのメリットが見込まれており、特に十nm以下の粒径とした場合には多くの新規応用展開をもたらすと考えられている。例えばZnO(酸化亜鉛)からなる金属ナノ粒子は、紫外線の遮蔽機能に優れており、抗菌性や小修整、高い透明性を持ち合わせている。そのため、医薬品、化粧品、光触媒、プラスティック等の様々な分野で応用されており、今や生活に欠かせない存在となっている。
【0003】
従来の金属ナノ粒子の製造は、破砕法、液相法、パルスワイヤ放電法等を用いて行われているが、いずれの方法もデメリットを有している。すなわち、破砕法は、高圧ガスを用いて噴出された物質を、ターゲット部材に衝突させ、これを破砕することによって目的の微粒子を得る方法であるが、得られる微粒子の粒径は3μm程度である。また、液相法は、液体中に存在するイオンや分子を析出させることによって目的の微粒子を得る方法であり、析出させるプロセスは多数存在するが、いずれも複雑であり、電気炉やタンク等の装置を必要とすることから、コストが高くなる。また、パルスワイヤ放電法は、パルス大電流を流して加熱した金属細線を蒸発、プラズマ化させ、冷却することによって、目的の微粒子を得る方法であるが、1回に生成される微粒子の量が少なく、所望の量を生成することによってコストが高くなる。
【0004】
非特許文献1、2では、パルスアーク放電を用いて、粒径が数十nmのZnOの微粒子が得られたいくつかの例について報告されている。ただし、これらの例では、ZnOとともにZnOの前駆体が高い割合で生成されており、それらが混合した状態となっているため、所望の結晶性が得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】藤井邦輔、佐東広和、王斗艶、浪平隆男、秋山秀典、志田賢二“パルスアーク放電プラズマを用いたZnO微粒子の生成”、第39回静電気学会全国大会、25pB-4、2015.09.24-25.
【文献】藤井邦輔, 佐東広和、王斗艶、浪平隆男、秋山秀典、“マイクロ秒パルス放電プラズマを用いた微粒子酸化亜鉛の生成”、プラズマ・パルスパワー・放電合同研究会、PST-14-086, PPT-14-070、ED-14-156、2014.10.24-26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、所望の粒径および結晶性を有する金属ナノ粒子を、容易にかつ低コストで製造することを可能とする、金属ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
(1)本発明の一態様に係る金属ナノ粒子の製造方法は、金属元素と非金属元素とからなる金属ナノ粒子の製造方法であって、前記金属元素を含む2つの電極の間に、前記非金属元素を含む雰囲気ガスが導入された状態で、パルスアーク放電を発生させる工程を有し、前記パルスアーク放電において、アーク電流値を100A以上とし、アーク放電発生時間を1μs以下とする。
【0009】
(2)上記(1)に記載の金属ナノ粒子の製造方法において、前記パルスアーク放電を、ブルームライン放電回路を用いて発生させることが好ましい。
【0010】
(3)上記(2)に記載の金属ナノ粒子の製造方法の前記ブルームライン放電回路において、一方の前記電極と前記ブルームライン線路とが、電気抵抗が1kΩ以下の整合抵抗素子を介して接続されていることが好ましい。
【0011】
(4)上記(2)または(3)のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法において、前記ブルームライン放電回路において、ブルームライン線路の長さが0.1m以上であることが好ましい。
【0012】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子の製造方法において、前記雰囲気ガスを、所定の方向に流れ続けるフロー状態とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属ナノ粒子の製造方法は、目的物質を含む電極間においてパルスアーク放電を発生させるものであり、高価な試薬を必要とする液相法等の従来の方法に比べて容易なプロセスで行うことができ、製造コストを低く抑えることができる。
【0014】
当該パルスアーク放電において、アーク放電形成時間は、生成される金属ナノ粒子の粒径を制御するパラメータであり、本発明では、これを1μs以下とすることによって、従来よりも粒径が小さい金属ナノ粒子を得ることができる。また、当該パルスアーク放電において、アーク電流値は、生成される粒子の結晶性を制御するパラメータであり、本発明では、これを100A以上とすることによって、従来よりも焼成が進み、結晶性の高い金属ナノ粒子を得ることができる。
【0015】
このように、本発明の金属ナノ粒子の製造方法によれば、所望の粒径および結晶性を有する金属ナノ粒子を、容易にかつ低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る、金属ナノ粒子の製造装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1の金属ナノ粒子の製造装置における、パルスパワー発生装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図1の金属ナノ粒子の製造装置における、パルスパワー発生装置の他の構成例を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1の条件で得られた、ZnO粒子のX線回折による分析結果を示すグラフである。
【
図5】Inorganic Crystal Structure Databaseに登録されているPDFカード番号:01-080-0074(結晶系: Hexagonal 空間群: P63mc(186))のZnOのX線回折パターンである。
【
図6】実施例1で得られたZnO粒子のSEM画像である。
【
図7】本発明の比較例に係る金属ナノ粒子の製造装置における、パルスパワー発生装置の構成例を示す図である。
【
図8】本発明の比較例1の条件で得られた、ZnO粒子のX線回折による分析結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の比較例2の条件で得られた、ZnO粒子のX線回折による分析結果を示すグラフである。
【
図10】(a)、(b)比較例1、2で得られたZnO粒子のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
<第一実施形態>
[金属ナノ粒子の製造装置]
本発明は、金属元素と非金属元素とからなる、金属ナノ粒子の製造方法に関するものである。本発明の第一実施形態に係る金属ナノ粒子の製造装置100の構成について、
図1、2を用いて説明する。
【0019】
図1は、金属ナノ粒子の製造装置100の概略構成を示す図である。金属ナノ粒子の製造装置100は、密閉された容器(リアクタ)101と、容器101内に配された2つの金属電極102(102A、102B)と、容器101内を調圧する手段(調圧手段)103と、金属電極102A、102B間に雰囲気ガスを供給する手段(ガス供給手段)104と、容器101内の排気を行う手段(不図示)と、容器101内の温度を制御する手段(温度制御手段)105と、金属電極102A、102B間に電圧を印加するパルスパワー発生装置106と、を備えている。
【0020】
容器101としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、セラミックス等の絶縁材料で構成されるものを用いることができる。容器101は、内部を密閉できるものであればよく、その形状について限定されることはない。
【0021】
金属電極102A、102Bとしては、それぞれ、目的とする金属ナノ粒子を構成する金属元素を主成分として含むものが用いられる。ここでの金属元素としては、例えば、Zn、Cu(銅)、Ti(チタン)、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Sc(スカンジウム)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ga(ガリウム)、Rb(ルビジウム)、Sr(ストロンチウム)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Cd(カドミウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Te(テルル)、Ba(バリウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)、Tl(タリウム)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、Po(ポロニウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジウム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテリビウム)、Lu(ルテチウム)、Ac(アクチニウム)、Th(トリウム)等、およびこれらの金属からなる合金が挙げられる。例えばZnO(酸化亜鉛)の粒子を製造する場合には、当該金属元素としてZnが用いられる。
【0022】
金属電極102A、102Bはいずれも平板状であり、主面同士が互いに対向するように配されている。実用上は、より多くの金属ナノ粒子を発生させる観点から、金属電極102A、102Bの主面(対向面)の面積は大きいほど好ましい。また、電極の入れ替え頻度を少なくする観点から、金属電極102A、102Bは厚いほど好ましい。
【0023】
ガス供給手段104によって供給する雰囲気ガスは、目的とする金属ナノ粒子を構成する非金属元素を主成分として含むものとする。この場合の非金属元素としては、例えば、O2(酸素)、N2(窒素)、F2(フッ素)、PH3(ホスフィン)、Cl2(塩素)、CO2(二酸化炭素)、CO(一酸化炭素)、H2(水素)、BCl3(三塩化ホウ素)等が挙げられる。例えばZnO(酸化亜鉛)の粒子を製造する場合には、当該非金属元素としてO2が用いられる。
【0024】
図2は、本実施形態で用いるパルスパワー発生装置106に、金属電極102A、102Bの対を含めた具体的な回路構成を示す図である。パルスパワー発生装置106は、ブルームライン線路を利用した放電回路素子であり、主に電源107、スイッチ素子108、2対(合計4本)のブルームライン線路109、充電抵抗素子110、整合抵抗素子111とを備えている。スイッチ素子108としては、サイラトロンスイッチ、自爆型スパークギャップスイッチ、半導体スイッチ等が用いられる。各ブルームライン線路109は、予め充電されているものとする。
【0025】
ブルームライン線路109は、分布定数線路と呼ばれる金属と絶縁体からなる同軸状や平行平板状の線路にて構成される。本実施形態では、2対のブルームライン線路109が同軸状の線路で構成される場合を例示している。2対のブルームライン線路109は、それぞれロッド状の内方導体109Aと、それを囲む円筒状の外方導体109Bと、両導体間を埋める絶縁体(不図示)とからなる。内方導体109A、外方導体109Bとしては、公知の金属材料、例えば銅等からなるものを用いることができる。また、絶縁体としては、架橋ポリエチレン等からなるものを用いることができる。
【0026】
ブルームライン線路109の長さは、0.1m以上100m以下であることが好ましい。ブルームライン線路の長さを伸ばした場合、パルス幅が広がって熱処理時間が増える分、焼成が進み、その結果として前駆体の存在比が低くなる。パルス幅が短い場合には熱処理時間が短くなり、ZnOになりきれない粒子が前駆体として生成されることになる。パルス幅は、金属ナノ粒子のサイズを変えるパラメータとなるため、ブルームライン線路の長さを変えてパルス幅を調整することにより、所望のサイズの金属ナノ粒子を得ることができる。
【0027】
各ブルームライン線路の内方導体109Aには、電源107とスイッチ素子108とが電気的に接続されている。すなわち、4本の内方導体109Aは等電位となっている。2対のうち一方(
図2では上側の2本)のブルームライン線路の外方導体109B
1と、他方(
図2では下側の2本)のブルームライン線路の外方導体109B
2とが、金属電極102A、102Bの対を挟んで電気的に接続されている。
【0028】
内方導体109Aと外方導体109Bとは、スイッチ素子108を介して接続されており、スイッチ素子108のオン・オフで両者の導電状態が切り替えられるように構成されている。スイッチ素子をオンにした場合、放電現象により、ブルームライン線路から短時間に大量の電流が流れ、金属電極102A、102B間に高い電圧が印加され、パルスアーク放電が誘起されることになる。
【0029】
ブルームライン線路の外方導体109Bと電源107とは、直流電源を保護する充電抵抗素子110を介して接続されている。充電抵抗素子110としては、使用する直流電源に対応して適切な抵抗値を有するものが選択される。また、ブルームライン線路の外方導体109Bと金属電極102Bとは、整合抵抗素子111を介して接続されている。整合抵抗素子111の抵抗は0.1Ω以上1kΩ以下であることが好ましい。
【0030】
[金属ナノ粒子の製造方法]
図1の金属ナノ粒子の製造装置100を用いて、所望の金属ナノ粒子を製造する手順について説明する。
【0031】
まず、調圧手段103、温度制御手段105を用いて、容器101内を、概ね0.01MPa以上1.0MPa以下の範囲に調圧するとともに、容器101の素材の耐熱温度範囲(セラミックスの場合は0℃以上2000℃以下の範囲)で加熱する。調圧手段103としては、ポンプ等の減圧手段とガスボンベ等の加圧手段とを適宜組み合わせたものが想定される。
【0032】
次に、ガス供給手段104を用いて、目的の金属ナノ粒子を構成する非金属元素を含む雰囲気ガス(原料ガス)を、容器101内に導入する。導入後の容器101内は、概ね99.9vol.%以上99.99995vol.%以下の濃度の雰囲気ガスで、満たされていることが好ましい。
【0033】
雰囲気ガスの導入は、パルスアーク放電の工程の前、あるいは、所定のタイミングで断続的に行ってもよいが、雰囲気ガスの量をより一定に保つ観点、雰囲気ガスの量を管理する手間を省く観点等から、所定の方向に流し続けることにより、常時供給するフロー状態にして連続的に行う方が好ましい。
【0034】
次に、パルスパワー発生装置106を用いて、金属電極102A、102B間に高電圧を印加してアーク放電を発生させる。これにより、アーク放電を担う電子が雰囲気ガス中の非金属元素と衝突し、プラズマ化した非金属元素のイオンが、金属電極102A、102B中のプラズマ化した金属元素のイオンに接触し、そこで両者が反応して金属ナノ粒子が形成される。
【0035】
より小さい金属ナノ粒子を得る上では、アーク放電を発生させる時間(アーク放電発生時間)は短いほど好ましい。例えばアーク放電発生時間を1μs以下とした場合、粒径が10nm以下の小さい粒子が得られる。
【0036】
ただし、アーク放電発生時間を短くした場合には焼成が進まないため、形成される金属ナノ粒子は、結晶化しきれていない状態の粒子(前駆体)を高い割合で含み、十分な結晶性を有していないものとなる。そこで、金属電極102A、102B間に印可する電圧を、アーク放電によって金属電極102A、102B間を流れる電流の値(アーク電流値)が、100A以上となるように調整する。アーク電流値を100A以上とした場合には、結晶化する粒子の割合が高まり、形成される金属ナノ粒子は十分な結晶性を有するものとなる。
【0037】
最後に、金属電極102A、102B間への電圧の印加を止め、容器101内の雰囲気ガスを排気した上で、形成された金属ナノ粒子を、刷毛等を用いて回収する。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る金属ナノ粒子の製造方法は、目的物質を含む電極間においてパルスアーク放電を発生させるものであり、高価な試薬を必要とする液相法等の従来の方法に比べて容易なプロセスで行うことができ、製造コストを低く抑えることができる。
【0039】
当該パルスアーク放電において、アーク放電形成時間は、生成される金属ナノ粒子の粒径を制御するパラメータであり、本実施形態では、これを1μs以下とすることによって、従来よりも粒径が小さい金属ナノ粒子を得ることができる。また、当該パルスアーク放電において、アーク電流値は、生成される粒子の結晶性を制御するパラメータであり、本実施形態では、これを100A以上とすることによって、従来よりも焼成が進み、結晶性の高い金属ナノ粒子を得ることができる。
【0040】
このように、本実施形態に係る金属ナノ粒子の製造方法によれば、所望の粒径および結晶性を有する金属ナノ粒子を、容易にかつ低コストで製造することが可能となる。
【0041】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係る金属ナノ粒子の製造装置および製造方法について説明する。
図3は、本実施形態で用いるパルスパワー発生装置126の回路構成を示す図である。パルスパワー発生装置126は、金属電極122Bに整合抵抗素子が接続されていない点のみ、第一実施形態のパルスパワー発生装置106と異なっている。
【0042】
本実施形態で用いる金属ナノ粒子の製造装置は、パルスパワー発生装置126の構成以外については、第一実施形態の金属ナノ粒子の製造装置100と同様である。また、本実施形態で用いる金属ナノ粒子の製造方法は、パルスパワー発生装置126を用いてパルスアーク放電を発生させる点以外については、第一実施形態の金属ナノ粒子の製造方法と同様である。
【0043】
本実施形態のパルスパワー発生装置126では、整合抵抗素子が接続されていない分、より多くの電流が金属電極122A、122B間に流れることになり、かつ放電持続時間が長くなり、そこで反応した粒子の焼成が進むため、結晶化する粒子の割合、すなわち結晶性をより高めることができる。
【0044】
なお、プロセスの簡略化、製造コストの削減、得られる金属ナノ粒子の小型化に関しては、第一実施形態と同等の効果が得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0046】
(実施例1)
第一実施形態に係る金属ナノ粒子の製造装置および製造方法を用いて、金属ナノ粒子を製造した。
【0047】
容器101内の圧力(ゲージ圧)、温度を、それぞれ0.05MPa、25℃とし、そこに雰囲気ガスとしてO2(酸素)を99.7%の割合で含むガスを導入した。
【0048】
図3の回路構成を有するパルスパワー発生装置106を用いた。電源127を152Aの定電流源とした。スイッチ素子128としてサイラトロンスイッチを用いた。ブルームライン線路129の長さを10mとし、パルス幅を100nsとした。充電抵抗素子120が有する抵抗を900Ωとした。
【0049】
金属電極122A、122Bとして、Zn(亜鉛)を99.8%の割合で含む平板状の部材を用いた。この金属電極122A、122Bの厚さは10mm、対向面の面積はπ×30×30mm2とした。
【0050】
金属電極122A、122B間の距離を1mmとし、電源127の出力電圧、周波数を、それぞれ24kV、500Hzとし、金属電極間にパルスアーク放電を発生させた。このときのアーク電流最大値は350Aであった。アーク放電発生時間を0.5μsとした。
【0051】
実施例1で得られたサンプルに対し、XRD(X線回折)の分析を行った。
図4は、その分析結果を示すグラフである。また、
図5は、Inorganic Crystal Structure Databaseに登録されているPDFカード番号:01-080-0074(結晶系: Hexagonal 空間群: P63mc(186))のZnOのX線回折パターンである。それぞれのグラフにおいて、横軸は回折角度を示し、縦軸は回折強度を示している。また、グラフ内の丸印(○)で示すピーク、四角印(◇)で示すピークは、それぞれ、ZnO、Zn
5(OH)
8(NO
3)
2(H
2O)
2に対応している。
【0052】
図4のグラフにおいて、
図5のグラフと同じ回折角でのピークの分布が見られ、それらのピーク同士の大きさの比率(ピーク比)が、
図5のグラフと同程度であることが分かる。つまり、
図4のグラフは、
図5のグラフで示されるZnOのピークを含んでおり、実施例1においてZnOが生成されていることが分かる。なお、放電発生中の圧力が高い場合には、電極表面もしくは内部にOHやNO
3等が存在することにより、ZnOの他に、Zn
5(OH)
8(NO
3)
2(H
2O)
2等の前駆体も生成されることがある。
【0053】
図6は、実施例1で得たサンプルのFE-SEM(電界放出型の走査型電子顕微鏡)画像である。サンプル中の金属ナノ粒子の一次粒子は粒径10nm以下で、それらが凝集した平均粒径は34nmとなっている。
【0054】
(比較例1)
パルスパワー発生装置206として、
図7に示すコンデンサ放電回路を有するものを用いて、金属ナノ粒子を製造した。パルスパワー発生装置206の構成を変え、アーク放電発生時間を20μsとした以外は、実施例1と同様の条件で行った。
【0055】
図7のコンデンサ放電回路は、コンデンサ209A、209Bの充電を行い、サイラトロンスイッチ素子208で極性を反転させることにより、容器201内の金属電極202A、202B間に2倍の電圧が印加されるように構成されている。
【0056】
(比較例2)
容器201内の圧力を0.10MPaとし、それ以外は比較例1と同様の条件で、金属ナノ粒子を製造した。
【0057】
比較例1、2で得られたサンプルに対し、XRDの分析を行った。
図8、9は、それぞれ比較例1、2に対応する分析結果を示すグラフである。それぞれのグラフの横軸、縦軸については、
図4、5と同様である。グラフ内の丸印(○)、四角印(◇)で示すピークは、それぞれ、ZnO、Zn
5(OH)
8(NO
3)
2(H
2O)
2に対応している。
【0058】
図8、9のグラフにおいても、
図5のグラフと同じ回折角でのピークの分布が見られ、それらのピーク比が
図5のグラフと同程度であることが分かる。つまり、
図8、9のグラフも、
図5のグラフで示されるZnOのピークを含んでおり、比較例8、9のいずれにおいてもZnOが生成されていることが分かる。
【0059】
図10(a)、(b)は、それぞれ比較例1、2で得たサンプルのFE-SEM画像である。
【0060】
実施例1~3、比較例1、2で得られたサンプルについて、含有されているZnO粒子の粒径(平均粒径)および存在比(含有比率)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
ブルームライン放電回路を用いた実施例1では、アーク電流値を100A以上とし、かつアーク放電発生時間を1μs以下としたことによって、平均粒径が34nmのZnO粒子を90%以上の割合で含む、結晶性の高いサンプルが得られている。得られたZnO粒子には、粒径10nm以下のものが含まれている。一方、コンデンサ放電回路を用いた比較例1、2では、回路の性質上、アーク放電発生時間が1μAより長くなってしまうため、いずれも結晶性は高いが、平均粒径が実施例1のZnO粒子よりも大きいサンプルが得られている。
【符号の説明】
【0063】
100・・・金属ナノ粒子の製造装置
101、121・・・容器
102、102A、102B、122A、122B・・・金属電極
103・・・調圧手段
104・・・ガス供給手段
105・・・温度制御手段
106、126・・・パルスパワー発生装置
107、127・・・電源
108、128・・・スイッチ素子
109、129・・・ブルームライン線路
109A・・・内方導体
109B、109B1、109B2、109B、109B1、109B2・・・外方導体
110、111、120・・・整合抵抗素子