(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂製ボルト、繊維強化樹脂製締結部材の製造方法。
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20220801BHJP
B29D 1/00 20060101ALI20220801BHJP
F16B 37/00 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
F16B35/00 N
B29D1/00
F16B37/00 C
(21)【出願番号】P 2018103401
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100145470
【氏名又は名称】藤井 健一
(72)【発明者】
【氏名】西川 康博
(72)【発明者】
【氏名】小船 諭史
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-222911(JP,A)
【文献】特開平09-177748(JP,A)
【文献】特開平05-111965(JP,A)
【文献】特開2002-266984(JP,A)
【文献】特開昭53-016082(JP,A)
【文献】特開平07-217628(JP,A)
【文献】特開昭59-147111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00- 43/02
B29C 64/00- 64/64
B29C 67/00- 67/08
B29C 67/24- 69/02
B29C 73/00- 73/34
B29D 1/00- 29/10
B29D 33/00
B29D 99/00
B33Y 10/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の芯材と、その周囲に、当該芯材を内軸として、円筒状の繊維強化材を配置し、次いで、当該繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳まれることによって得られる、前記芯材の軸方向に対して垂直な面内に配置された前記繊維強化材の繊維物と、当該繊維物に含浸される母材としての合成樹脂を素材として含み、さらに、所定位置に形成されたネジ山が、前記繊維強化材の繊維物の組織により構成され
、
前記繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳む際の軸方向の折り畳み幅を予め定められた間隔に調整することで、前記芯材の軸方向に対して垂直な方向における前記繊維物の高さを不断に変化させており、
前記折り畳み幅の調整は、前記繊維強化材の表面にらせん状に巻き付ける微小径の糸の巻き付けピッチを予め定められた間隔に調整し、当該微小径の糸のそれぞれを起点として、前記繊維強化材を前記芯材の軸方向へ蛇腹状に折り畳むことによって行われていることを特徴とする繊維強化樹脂製ボルト。
【請求項2】
前記芯材には、繊維強化樹脂製の中空棒或いは中実棒が用いられていることを特徴とする請求項1記載の繊維強化樹脂製ボルト。
【請求項3】
棒状の芯材と、その周囲に、当該芯材を内軸として、円筒状の繊維強化材を配置する工程と、次いで、当該繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳むことで、前記芯材の軸方向に対して垂直な面内に繊維物を配置させる工程と、前記繊維物に母材としての合成樹脂を含浸させる工程と、前記繊維物の所定範囲にネジ山を形成することで、当該ネジ山を前記繊維物の組織により構成させる工程と、を含み、
前記繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳む際に、軸方向の折り畳み幅を予め定められた間隔に調整することで、前記芯材の軸方向に対して垂直な方向における前記繊維物の高さを不断に変化させ、
前記折り畳み幅の調整は、前記繊維強化材の表面に、らせん状に巻き付ける微小径の糸の巻き付けピッチを予め定められた間隔に調整し、当該微小径の糸のそれぞれを起点として、前記繊維強化材を前記芯材の軸方向へ蛇腹状に折り畳むことによって行われることを特徴とする繊維強化樹脂製締結部材の製造方法。
【請求項4】
前記芯材に、繊維強化樹脂製の中空棒或いは中実棒を用いることを特徴とする請求項3記載の繊維強化樹脂製締結部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製のボルト及びナット、そして、それら締結部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボルト及びナットは、自動車産業、航空機産業或いは、医療機器産業など、幅広い産業分野において、利用されている必須の締結要素である。これらボルト及びナットの材料には、強度特性及びコストの観点から、金属製のものが主に用いられている。
【0003】
しかし、金属製ボルト及びナットは重く、錆びやすく、また、X線を透過しないといった欠点を持っている。そこで、これまでに、金属製に代わり、様々な、繊維強化樹脂製のナット及びボルトが提案されてきている。例えば、非特許文献1には、軸方向に引き揃えた繊維に合成樹脂を含浸させた繊維強化樹脂製の丸棒を製作したのち、工具を用いてネジ山を切削加工する技術が開示されている。
【0004】
また、同様な技術として、特許文献1には、合成樹脂からなる第1の母材内に第1の繊維部材を埋設して前記第1の母材の強度を増大させた第1の繊維強化樹脂材料により形成され、ナットと螺合させることにより被締結物を締結物に締結させ、磁場又は温度の変化に伴う軸力の変動を緩和させるように構成した繊維強化樹脂材料製ボルトにおいて、前記繊維強化樹脂材料製ボルトの軸部内における前記第1の繊維部材は、前記繊維強化樹脂材料製ボルトの軸方向に沿うように配設された複数本の長繊維であることを特徴とする繊維強化樹脂材料製ボルトなどが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、短繊維或いは、粉末状繊維を用いて、炭素繊維強化ポリエステル樹脂の射出成形体を製作する技術が開示されている。またさらに、軸に対して垂直な面内に繊維を配置することで、特に、ねじ山部の強度を高めたボルト及びナットについて、特許文献3には、ボルト又はナットのねじ山部分に、ボルト又はナットの軸径方向に放射状に配向された繊維質補強材が包埋されていることを特徴とするプラスチック製ボルト・ナットが開示されている。
【0006】
また、同様に、特許文献4には、 ボルトの軸方向に、複数の繊維が略平行に配列されてなる繊維強化合成樹脂製ボルトにおいて、ボルトの軸に対して、概ね垂直な面内に繊維が配置されてなる繊維強化合成樹脂製ボルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平09-254266号公報
【文献】特開2016-888073号公報
【文献】特開平07-217629号公報
【文献】特開2003-56536号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】向井喜彦,西村新,”FRPボルトの室温および77Kでの疲労強度”,材料,Vol.39, No.438(1990), pp.266-270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1の技術にあっては、切削加工することにより、ネジ山を形成する強化繊維が切断されるため、ネジ山に大きなせん断力が加わると簡単に欠けてしまうという欠点がある。また、特許文献2の技術にあっては、短繊維或いは粉末状繊維を用いるために、樹脂に対する強化機能が低下するという問題がある。
【0010】
またさらに、特許文献3や特許文献4の技術にあっては、瓶洗浄用ブラシのような形状の芯材を製作する、或いは、横繊維で構成される円筒体を成形した後に、圧力をかけて挿入した縦繊維芯材に植立させるなど、工程上複雑であり、且つ、高密度の繊維をネジ山に充填することができないといった問題が指摘されていた。
【0011】
本発明が解決しようとしている課題は、上述の課題に対応するためのもので、簡易な手法により軸に対して垂直な面内に繊維物を配置することによって、ネジ山の強度を向上させた繊維強化樹脂製ボルト及びナット、そして、それら締結部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明は、以下の技術的手段を講じている。
即ち、請求項1記載の発明は、棒状の芯材と、その周囲に、当該芯材を内軸として、円筒状の繊維強化材を配置し、次いで、当該繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳まれることによって得られる、前記芯材の軸方向に対して垂直な面内に配置された前記繊維強化材の繊維物と、当該繊維物に含浸される母材としての合成樹脂を素材として含み、さらに、所定位置に形成されたネジ山が、前記繊維強化材の繊維物の組織により構成され、
前記繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳む際の軸方向の折り畳み幅を予め定められた間隔に調整することで、前記芯材の軸方向に対して垂直な方向における前記繊維物の高さを不断に変化させており、
前記折り畳み幅の調整は、前記繊維強化材の表面にらせん状に巻き付ける微小径の糸の巻き付けピッチを予め定められた間隔に調整し、当該微小径の糸のそれぞれを起点として、前記繊維強化材を前記芯材の軸方向へ蛇腹状に折り畳むことによって行われていることを特徴とする繊維強化樹脂製ボルトである。
【0015】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の繊維強化樹脂製ボルトであって、前記芯材に、繊維強化樹脂製の中空棒或いは中実棒が用いられていることを特徴としている。
【0019】
さらに、請求項3記載の発明は、棒状の芯材と、その周囲に、当該芯材を内軸として、円筒状の繊維強化材を配置する工程と、次いで、当該繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳むことで、前記芯材の軸方向に対して垂直な面内に繊維物を配置させる工程と、前記繊維物に母材としての合成樹脂を含浸させる工程と、前記繊維物の所定範囲にネジ山を形成することで、当該ネジ山を前記繊維物の組織により構成させる工程と、を含み、
前記繊維強化材を前記芯材の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳む際に、軸方向の折り畳み幅を予め定められた間隔に調整することで、前記芯材の軸方向に対して垂直な方向における前記繊維物の高さを不断に変化させ、
前記折り畳み幅の調整は、前記繊維強化材の表面に、らせん状に巻き付ける微小径の糸の巻き付けピッチを予め定められた間隔に調整し、当該微小径の糸のそれぞれを起点として、前記繊維強化材を前記芯材の軸方向へ蛇腹状に折り畳むことによって行われることを特徴とする繊維強化樹脂製締結部材の製造方法である。
【0021】
そして、請求項4記載の発明は、請求項3記載の繊維強化樹脂製締結部材の製造方法であって、前記芯材に、繊維強化樹脂製の中空棒或いは中実棒を用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の繊維強化樹脂製ボルトやナットによれば、簡易な手法により軸に対して垂直な面内に繊維物を配置することによって、ネジ山に加わるせん断力に対して、高い抵抗力が得られ、また、軽量で、優れたX線透過性等の性能が得られる。そして、本発明の製造方法により、これらボルト及びナットを製造することができる。
【0023】
またさらに、蛇腹状の折り畳み幅を調整し、繊維物の大きさを不断に変化させることで、例えば、ボルトのヘッド部とネジ部のように、直径が異なる部分を有する場合であっても容易に製作することが可能となる。そして、本発明によれば、芯材に繊維強化樹脂製の中空棒或いは中実棒を用い、折り畳まれた繊維物と合成樹脂で一体化するため、特に、繊維強化樹脂製ボルトを容易に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る繊維強化樹脂製のボルト及びナット(締結部材)の製造工程を示した一例図である。
【
図2】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、芯材に繊維強化材を配置した状態を示した図である。
【
図3】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、繊維強化材の表面に微小径の糸を巻き付けた状態を示した図である。
【
図4】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、繊維強化材の表面に微小径の糸を巻き付けた状態(途中で巻き付けピッチを変更)を示した図である。
【
図5】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、繊維強化材の一部を蛇腹状に折り畳んだ状態を示した図である。
【
図6】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、繊維強化材の折り畳み幅を調整し、繊維強化材の繊維物の大きさを変化させた状態を示した図である。
【
図7】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、蛇腹状に折り畳まれた繊維強化材の繊維物の表面に炭素繊維束を巻き付けた状態を示した図である。
【
図8】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、蛇腹状に折り畳まれた繊維強化材の繊維物の表面に炭素繊維組紐を配置させた状態を示した図である。
【
図9】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、樹脂含浸成形体(ナット用)を金型で製作した状態を示した図である。
【
図10】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の製造工程の詳細のうち、樹脂含浸成形体(主にボルト用)を金型で製作した状態を示した図である。
【
図11】本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ボルト及びナット)の性能検証実験において用いた締結部材で、(a)はM12六角ナット、(b)は緩み止めナット、(c)はM12六角ボルトを示している。
【
図12】本発明に係る繊維強化樹脂製繊維強化樹脂製の締結部材である六角ナットにおけるネジ山の断面を示した顕微鏡図である。
【
図13】本発明に係る繊維強化樹脂製のボルトとナットを組み合わせた部材とハイドロキシアパタイトのX線透過画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
続いて、本発明に係る繊維強化樹脂製ボルト及びナット(繊維強化樹脂製締結部材)、そして、これらの製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る繊維強化樹脂製のボルト及びナット(締結部材)の製造工程を示した一例図で、
図2~10は、本発明に係る繊維強化樹脂製ボルト及びナット(締結部材)の製造工程を示した一例図である。また、10は繊維強化樹脂製ボルト、12は芯材、14は繊維強化材、16は蛇腹状の繊維強化材、20はネジ山、22はヘッド部、24はネジ部、26は微小径の糸、28は成形体、29は樹脂含浸成形体、30は金型、32は繊維強化樹脂製ナットを示している。
【0026】
まず、本実施形態における繊維強化樹脂製ボルト10は、
図1に示す製造工程にあるように、棒状の芯材12と、その周囲に、芯材12を内軸として、円筒状の繊維強化材14を配置し(
図1(a))、次いで、繊維強化材14を芯材12の軸方向に沿って、蛇腹状に折り畳まれることによって、繊維強化材14の繊維物が、芯材12の軸方向に対して垂直な面内に配置されており(
図1(c)、(d))、且つ、母材としての合成樹脂が、繊維強化材14の繊維物に含浸されてなり、さらに、所定位置に、繊維強化材14の繊維物の組織により構成されるネジ山20が形成されているものである(
図1(f))。
【0027】
また、本実施形態における繊維強化樹脂製ナット32は、
図1に示す製造工程にあるように、棒状の芯材12と、その周囲に、芯材12を内軸として、円筒状の繊維強化材14を配置し(
図1(a))、次いで、繊維強化材14を芯材12の軸方向に沿って、蛇腹状に折り畳まれることによって、繊維強化材14の繊維物が、芯材12の軸方向に対して垂直な面内に配置されており(
図1(c)、(d))、且つ、母材としての合成樹脂が、繊維強化材14の繊維物に含浸されてなり、さらに、ネジ穴を有し、このネジ穴には、繊維強化材14の繊維物の組織により構成されるネジ山が形成されているものである(
図1(f))。
【0028】
なお、本実施形態では、合成樹脂の含浸工程の後、
図1(e)に示すように金型30を用いて所定形状へと加工する。さらに、本実施形態では、
図1(b)に示すように、繊維強化材14を芯材12の軸方向に沿って、蛇腹状に折り畳む前工程にて、繊維強化材14の表面に微小径の糸26をらせん状に巻き付けておく。微小径の糸26を巻き付けておけば、これらを起点にして繊維強化材14を芯材12の軸方向に沿って、蛇腹状に折り畳むことが容易になる。
【0029】
続いて、繊維強化樹脂製ボルト10及び繊維強化樹脂製ナット32の実施形態について、繊維強化樹脂製ボルト、ナット(繊維強化樹脂製締結部材)の製造方法の実施形態とともに詳細に説明する。本実施形態においては、繊維強化材に炭素繊維、母材の合成樹脂には、エポキシ樹脂を用いている。
【0030】
まず、
図2に示すように、芯材12と、その周囲に、芯材12を内軸として、円筒状の繊維強化材14を配置する。ここで、繊維強化材14を複数のものを組み合わせても良い(例えば、炭素繊維組紐に、扁平状の炭素繊維糸を組み合わせる)。また、芯材12には、炭素繊維強化樹脂製の中空棒、或いは、中実棒を用いても良い。
【0031】
続いて、本実施形態では、
図3に示すように、繊維強化材14の表面に微小径の糸26(例えば、平均直径0.128mmのナイロン製テグス)をらせん状に巻き付ける。ここで、芯材12の軸方向に対して垂直な方向における繊維強化材14の繊維物の高さを不断に変化させるために、
図4に示すように、微小径の糸26の巻き付けピッチを途中で変更し、繊維強化材14を芯材12の軸方向に沿って蛇腹状に折り畳む際の軸方向の折り畳み幅を調整しても良い。
【0032】
次に、本実施形態では、
図5に示すように、繊維強化材14の表面に巻き付けた微小径の糸26を起点として、繊維強化材14を蛇腹状に折り畳むことで、繊維強化材14の繊維物が、芯材12の軸方向に対して垂直な面内に配置された(蛇腹状の繊維強化材16)成形体28が製作される。なお、
図6に示すように、蛇腹状の折り畳み幅を調整することによって、折り畳み後の繊維強化材14の繊維物の大きさが変更された成形体28を製作することもできる(図中、繊維強化樹脂製ボルト10のヘッド部22(大)、ネジ部24(細))。
【0033】
なお、
図6において、ヘッド部22(大)をナット用として加工しても良い。また、
図7や
図8に示すように、必要に応じて、折り畳み後の繊維強化材14の繊維物の表面に他の形態の繊維強化材を配置しても良い。つまり、
図7では、連続した炭素繊維束を巻き付けており、
図8では、炭素繊維組紐を配置させている。
【0034】
続いて、製作された成形体28の繊維強化材14の繊維物に合成樹脂を含浸させた後、金型30を用いて、
図9に示すように、ナットの所定形状、そして、
図10に示すように、ボルトの所定形状、或いは、それに近い形状に製作する(
図9、
図10では、ネジ山20を除く外観のみの樹脂含浸成形体29を製作)。このとき、直接ナット、或いは、ボルトを製作しても良いし、又は、後に、切削等により、ネジ山を含む所定形状に加工しても良い。このような工程を採用するため、ネジ山20が、芯材12の軸方向に対して垂直な面内に配置された繊維強化材14の繊維物の組成により構成されるものとなる。
【0035】
以下に、本発明に係る繊維強化樹脂製の締結部材(ナット、ボルト)の性能について検証した実験結果について説明する。ここでは、
図11に示すように、(a)М12六角ナット、(b)緩み止めナット、(c)M12六角ボルトを製作し、これらを用いた。詳しくは、(a)及び(b)は、構成A:組紐、構成B:組紐+扁平糸、構成C:構成Aより小径繊維束で構成した組紐+扁平糸を製作し、(c)については、構成A:組紐のみのものを製作した。
【0036】
まず、六角ナットにおけるネジ山の断面を観察した結果を
図12に示す。構成A、B、Cそれぞれ、ネジ山が、軸に対して垂直な面内において、繊維物組織で構成されていることが確認できた。続いて、六角ナットに高強度の金属製ボルトを取り付け、荷重試験機に設置し、毎分3mmの速度で引っ張ることにより、六角ナットの最小引張強度を測定した。その結果を表1に示す。どの構成であっても、36kN(約3.7トン)以上の引張強度を有していることが明らかになった。
【0037】
【0038】
次に、六角ナットに、高強度の金属製ボルトを取り付け、ねじり試験機(締め付け試験機)に設置し、4rpmの回転速度でねじることで、六角ナットのねじり破壊トルクと、最大軸力を測定した。その結果を表2に示す。どの構成であっても、高い破壊トルクと、最大軸力を有しており、引張強度特性と併せて、十分に実用性に優れたナットであることが確認できた。
【0039】
【0040】
さらに、緩み止めナットに高強度の金属製ボルトを取り付け、荷重試験機に設置し、毎分3mmの速度で引っ張ることで、緩み止めナットの最小引張強度を測定した。その結果を表3に示す。どの構成であっても、39kN(約4.0トン)以上の引張強度を有していることが分かった。
【0041】
【0042】
続いて、緩み止めナットにおいて、凸ナットの初期締め付け軸力を20kN、凹ナットの初期締め付けトルクを30Nmの条件にて、ユンカー振動試験機に設置し、10Hzで振動を加えた。2000サイクル後の軸力の保持率を測定した結果を表4に示す。どの構成であっても、75%以上の軸力保持率を有することから、良好な緩み止め効果が得られることが確認できた。
【0043】
【0044】
次に、緩み止めナット及びボルトの組み合わせと、骨の種で遺文であるハイドロキシアパタイトについて、管電圧60kV、管電流20μAの条件にて、X線CT装置を用いて、X透過性について比較した結果を
図13に示す。ハイドロキシアパタイトと比較して、良好なX線透過性が得られており、本発明に係る繊維強化樹脂製締結部材(ナット、ボルト)は、X線透過性が求められる医療機器、医療器具への適用が有効であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
特に限定されるものではないが、金属製のナット及びボルトに代えて、例えば、機体・車体の軽量化や、X線透過性、非磁性が求められる医療機器(X線CT、MRT)や、身体に固定する医療器具(固定器)などに使用する繊維強化樹脂製ナット及びボルトとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
10 繊維強化樹脂製ボルト
12 芯材
14 繊維強化材
16 蛇腹状の繊維強化材
20 ネジ山
22 ヘッド部
24 ネジ部
26 微小径の糸
28 成形体
29 樹脂含浸成形体
30 金型
32 繊維強化樹脂製ナット