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特許7114068安全帯用巻取器及びこれを用いた墜落制止器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】安全帯用巻取器及びこれを用いた墜落制止器具
(51)【国際特許分類】
   A62B 35/00 20060101AFI20220801BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A62B35/00 K
F16B5/02 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018175765
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2020044157
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000106287
【氏名又は名称】サンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】平松 幸治
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-051845(JP,U)
【文献】特開2010-240325(JP,A)
【文献】特開平08-133010(JP,A)
【文献】特開昭61-181744(JP,A)
【文献】特開2000-302010(JP,A)
【文献】特開2004-249062(JP,A)
【文献】登録実用新案第3071061(JP,U)
【文献】実開平03-029735(JP,U)
【文献】特開平10-250529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00
F16B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高所作業を行う作業員が装着する安全帯に備えられ、巻回されたストラップ(1)が随時引き出し可能に巻取方向に付勢され、緊急時にストラップ(1)が急速に繰り出されると、前記ストラップ(1)の繰り出しがロック機構により阻止される安全帯用巻取器において、
前記ストラップ(1)を巻き取るスプール(11)は、巻胴部(11a)の両端側のフランジ(11b)の外面に突出した嵌合部(11c)を有し、その両端側の嵌合部(11c)が前記フランジ(11b)の外面に沿うベース(12)の嵌合穴(12a)に嵌め入れられて、回転自在に保持され、
前記ストラップ(1)の端末が止着されるストラップピン(13)は、前記スプール(11)の内部に保持されるが、前記スプール(11)の回転支持軸とはならず、
前記ストラップ(1)は、前記ストラップピン(13)から前記スプール(11)の内部を介して巻胴部(11a)の外周に巻き付けられ
前記ロック機構のパウル(14)は、前記スプール(11)の端面に設けられ、揺動に伴い前記ベース(12)の嵌合穴(12a)の周囲に形成された歯(12b)に噛合する複数の爪(14a)を有し、
前記パウル(14)の隣り合う爪(14a)の間には水掻状部(14b)が設けられ、前記水掻状部(14b)は、前記ベース(12)の歯(12b)に噛合した状態で、前記スプール(11)のフランジ(11b)の外面と前記ベース(12)の歯(12b)に臨む部分の内面との間に挟まれて、前記ベース(12)に対する前記パウル(14)の幅方向の相対的なずれを防止することを特徴とする安全帯用巻取器。
【請求項2】
高所作業を行う作業員が装着する安全帯に備えられ、巻回されたストラップ(1)が随時引き出し可能に巻取方向に付勢され、緊急時にストラップ(1)が急速に繰り出されると、前記ストラップ(1)の繰り出しがロック機構により阻止される安全帯用巻取器において、
前記ストラップ(1)を巻き取るスプール(11)は、巻胴部(11a)の両端側のフランジ(11b)の外面に突出した嵌合部(11c)を有し、その両端側の嵌合部(11c)が前記フランジ(11b)の外面に沿うベース(12)の嵌合穴(12a)に嵌め入れられて、回転自在に保持され、
前記ストラップ(1)の端末が止着されるストラップピン(13)は、前記スプール(11)の内部に保持されるが、前記スプール(11)の回転支持軸とはならず、
前記ストラップ(1)は、前記ストラップピン(13)から前記スプール(11)の内部を介して巻胴部(11a)の外周に巻き付けられ
前記ベース(12)の歯(12b)よりも前記スプール(11)の嵌合部(11c)の硬度が低くなっており、前記パウル(14)の爪(14a)が前記ベース(12)の歯(12b)に噛合した状態で、前記ストラップ(1)の引き出し荷重がさらに大きくなると、前記パウル(14)とは反対側に位置する前記ベース(12)の歯(12b)が前記スプール(11)の嵌合部(11c)に食い込むことを特徴とする安全帯用巻取器。
【請求項3】
前記スプール(11)は、一対の前記ベース(12)が間隔を維持した状態で締結されることにより、スラスト方向に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の安全帯用巻取器。
【請求項4】
前記スプール(11)が2個並列に配置され、それぞれのスプール(11)が前記ベース(12)により回転自在に保持されて、これらが一体化されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の安全帯用巻取器。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載の巻取器と、トーションバー(30)により衝撃を緩和するショックアブソーバとが直列に配置され、これらが前記ベース(12)により一体化されていることを特徴とする安全帯用墜落制止器具。
【請求項6】
請求項に記載の安全帯用墜落制止器具において、前記巻取器は、スプール(11)が2個並列に配置されたものであり、前記巻取器と前記ショックアブソーバとが前記ベース(12)により一体化されていることを特徴とする安全帯用墜落制止器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高所作業時に作業員が装着する安全帯用のストラップの巻取器及びこれを用いた墜落制止器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設現場等の高所で作業を行う作業員が装着する安全帯には、ランヤードのストラップを巻き取る巻取器が取り付けられることがある。この巻取器は、ストラップが作業中煩わしく感じられないように巻取方向に付勢されて、随時繰り出し可能とされ、作業員が高所から落下してストラップが急速に繰り出されると、ストラップの繰り出しがロック機構により阻止され、作業員の墜落が制止されるようにしたものである。
【0003】
このような巻取器として、例えば、下記特許文献1に記載されているように、ストラップの端末が主軸に係止され、ストラップを巻き取るボビンがフレームの対向するプレートの間に挟まれて、主軸により回転自在に支持されたものが一般に使用されている。この主軸は、作業員の落下の衝撃に耐え得る大きな強度が必要なため、鋼製とされ、ボビンがスムーズに回転するように、フレーム側に軸受を介して支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-240325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の巻取器は、複雑な構造となり、部品の製造や組み立てに手間やコストを要するほか、作業員が落下した緊急事態に際し、部品に損傷が生じると、ストラップが長く繰り出されて、作業員の落下距離が長くなる恐れがある。
【0006】
そのほか、墜落制止時に作業員が受ける衝撃を緩和するショックアブソーバと組み合わせた場合、嵩張って作業員が煩わしく感じることがある。
【0007】
そこで、この発明は、組立性に優れ、緊急時のストラップの繰出量を僅少に抑制できる巻取器を提供し、これを用いたコンパクトな墜落制止器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明は、高所作業を行う作業員が装着する安全帯に備えられ、巻回されたストラップが随時引き出し可能に巻取方向に付勢され、緊急時にストラップが急速に繰り出されると、前記ストラップの繰り出しがロック機構により阻止される安全帯用巻取器において、
前記ストラップを巻き取るスプールは、巻胴部の両端側のフランジの外面に突出した嵌合部を有し、その両端側の嵌合部が前記フランジの外面に沿うベースの嵌合穴に嵌め入れられて、回転自在に保持され、
前記ストラップの端末が止着されるストラップピンは、前記スプールの内部に保持されるが、前記スプールの回転支持軸とはならず、
前記ストラップは、前記ストラップピンから前記スプールの内部を介して巻胴部の外周に巻き付けられるものとしたのである。
【0009】
そして、前記ロック機構のパウルは、前記スプールの端面に設けられ、揺動に伴い前記ベースの嵌合穴の周囲に形成された歯に噛合する複数の爪を有し、
前記パウルの隣り合う爪の間には水掻状部が設けられ、前記水掻状部は、前記ベースの歯に噛合した状態で、前記スプールのフランジの外面と前記ベースの歯に臨む部分の内面との間に挟まれて、前記ベースに対する前記パウルの幅方向の相対的なずれを防止するものとしたのである。
【0010】
また、前記ベースの歯よりも前記スプールの嵌合部の硬度が低くなっており、前記パウルの爪が前記ベースの歯に噛合した状態で、前記ストラップの引き出し荷重がさらに大きくなると、前記パウルとは反対側に位置する前記ベースの歯が前記スプールの嵌合部に食い込むものとしたのである。
【0011】
また、これらの安全帯用巻取器において、前記スプールは、一対の前記ベースが間隔を維持した状態で締結されることにより、スラスト方向に保持されるものとしたのである。
【0012】
また、前記スプールが2個並列に配置され、それぞれのスプールが前記ベースにより回転自在に保持されて、これらが一体化されているものとしたのである。
【0013】
そのほか、前記巻取器と、トーションバーにより衝撃を緩和するショックアブソーバとが直列に配置され、これらが前記ベースにより一体化されている墜落制止器具を提供することとしたのである。
【0014】
また、前記墜落制止器具において、前記巻取器は、スプールが2個並列に配置されたものであり、前記巻取器と前記ショックアブソーバとが前記ベースにより一体化されているものとしたのである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る安全帯用巻取器では、スプールがベースで回転自在に保持され、ストラップの端末が係止されるストラップピンは、ストラップをスプールから抜け止めするためスプールの内部に保持されるだけであって、スプールの回転支持軸とはならないので、スプールを支持する強度を要することなく、ストラップピンの軸受も不要となり、組立工程を合理化できる。
【0016】
そして、作業員が高所から落下した緊急時にロック機構により作用する衝撃荷重は、スプールとベースとで受け止めるので、細かい軸受等の部品が破損せず、ストラップを損傷する恐れもなく、緊急時のストラップの繰出量を僅少に抑制できる。
【0017】
また、この巻取器とトーションバーにより衝撃を緩和するショックアブソーバとを組み合わせて一体化することにより、コンパクトで使用環境等の影響を受けない安定した荷重特性を持つ墜落制止器具を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明に係る安全帯用巻取器の第1実施形態の分解斜視図
図2】同上の片側のケースを開いた組立状態を示す斜視図
図3】同上の厚さ方向中間部における横断平面図
図4】同上のケースを閉じた状態の縦断側面図
図5】同上のスプール、ベース及びパウルの関係を示す分解斜視図
図6】同上の組立状態を示す拡大縦断側面図
図7】同上のストラップの繰り出しが(7A)ロックされていない通常状態を示す概略平面図、(7B)ロックされた状態を示す概略平面図、(7C)同上のベースの歯がスプールに食い込んだ状態を示す概略平面図
図8】この発明に係る安全帯用巻取器の第2実施形態の片側のケースを開いた組立状態を示す斜視図
図9】この発明に係る巻取器とショックアブソーバを一体化した安全帯用墜落制止器具の第1実施形態において、片側のケースを開いた組立状態を示す斜視図
図10】同上の厚さ方向中間部における横断平面図
図11】同上のケースを閉じた状態の縦断側面図
図12】同上の安全帯用墜落制止器具の第2実施形態において、片側のケースを開いた組立状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、巻取器の第1実施形態について、図1乃至図7に基づき説明する。
【0020】
図1乃至図4に示すように、この巻取器は、一対のケース41の内部に構成部品が収められ、ストラップ1を巻き取るスプール11と、このスプール11を挟む2枚の板状のベース12とを、構造強度及び寸法精度を確保するための主要部品とし、ストラップ1の端末は、折り返して縫製され、ストラップピン13に止着されている。
【0021】
また、一方(図1では上方)のベース12側には、ロック機構を構成するパウル14、コイルばね15a、ブッシュ15b及びカバー15cを備え、他方(図1では下方)のベース12側には、皿盤16、ブッシュ17及び渦巻ばね18を備えている。
【0022】
スプール11は、アルミニウム合金や亜鉛合金等のダイキャストによる一体成型品とされ、図5に示すように、ストラップ1が外周に巻回される巻胴部11aの両端側にフランジ11bを有し、それぞれのフランジ11bの外面に嵌合部11cが突設された形状となっている。嵌合部11cは、外周がフランジ11bより小径の円筒面状とされている。
【0023】
巻胴部11aには、径方向に貫通する溝状の中通穴11dが形成され、中通穴11dの幅は、一端の入口部の幅がストラップピン13の直径よりも少し大きく、一端の入口部から他端側へかけてストラップピン13の直径よりも小さく設定されている。
【0024】
ストラップ1は、スプール11の内部に、中通穴11dの一端から他端へかけて挿通され、ストラップピン13に止着された端末が中通穴11dの一端の入口部に係止されて、中通穴11dの他端側へ抜け止めされ、中通穴11dの他端から引き出されたストラップ1が巻胴部11aの外周に巻き付けられている。
【0025】
嵌合部11cには、中心に芯軸部11eが突設され、径方向の中間に短円筒状のパウル軸部11fが突設されている。また、嵌合部11cの一部分は切り欠かれて、中心側から外周側へかけて凸状曲面の段差11gが形成されている。
【0026】
ベース12は、スプール11よりも硬い鋼製とされ、スプール11の嵌合部11cが嵌め入れられる嵌合穴12aを有する。一方のベース12の嵌合穴12aの周囲の全周及び他方のベース12の嵌合穴12aの周囲の一部には、片側へ傾斜した歯12bが形成されている。歯12bの先端を結ぶ嵌合穴12aの内径は、スプール11のフランジ11bの外径より小さくなっており、かつ、嵌合部11cの周囲の外径よりも僅かに大きくなっている。
【0027】
図5及び図6に示すように、パウル14は、先端側にベース12の歯12bに噛合する複数(図示のものでは3個)の爪14aを有し、隣り合う爪14aの間には、スプール11寄りの部分を繋ぐように水掻状部14bが設けられている。パウル14の中間部には軸穴14cが設けられ、パウル14の軸穴14cと爪14aの間には、スプール11の段差11gに対応する凹状曲面の段差14dが形成されている。
【0028】
パウル14の軸穴14cには、スプール11のパウル軸部11fが挿入され、パウル14は、揺動自在に支持されている。パウル14は、爪14aを有する先端側に対し軸穴14cを挟んで反対側がコイルばね15aにより押圧され、先端側がスプール11の嵌合部11cの外周から没入する方向へ付勢されている。
【0029】
スプール11のパウル軸部11fの丸穴には、ブッシュ15bが挿入され、パウル14の外面側にカバー15cを被せて、ビス22aをパウル軸部11fの穴にねじ込むことにより、パウル14は、スプール11に取り付けられている。そして、図1及び図2に示すように、カバー15cは、ビス22aのほか、2本のビス22bにより、スプール11の嵌合部11cに固定されている。
【0030】
このようなパウル14の水掻状部14bは、図5及び図6に示すように、ベース12の歯12bに噛合した状態で、スプール11のフランジ11bの外面とベース12の歯12bに臨む部分の内面との間に挟まれて、ベース12に対するパウル14の厚さ方向の相対的なずれを防止する。これにより、パウル14の爪14aの厚みを大きくしなくても、ベース12の歯12bからパウル14の爪14aの逸脱が防止される。
【0031】
また、図1乃至図4に示すように、2枚のベース12の間のストラップ1が引き出される一側部には、ストラップ1を両側から挟んで案内する2本のガイドローラー19aが回転軸19bにより回転自在に保持されている。回転軸19bの両端部は、2枚のベース12の丸穴にそれぞれ挿入されている。
【0032】
2枚のベース12の四隅部は、一方のベース12の穴に挿通して他方のベースのねじ穴にねじ込んだボルト20aにより締結され、ボルト20aが挿通される円筒形のスペーサ20bを挟み込むことにより、2枚のベース12の間隔が保たれる。これにより、スプール11は、2枚のベース12の間に挟まれて、スラスト方向に保持されている。
【0033】
2枚のベース12の他側寄りには、ショックアブソーバ等に至るベルト2や金具を係止する接続ピン21が取り付けられている。接続ピン21の両端部は、2枚のベース12の他側の端縁寄りの穴に挿入されている。
【0034】
一方(図1及び図4では下方)のケース41の内底面には、円形の周壁に囲まれた巻取機構保持部41aが設けられ、巻取機構保持部41aに渦巻ばね18が収納されている。渦巻ばね18の中心側端部にはブッシュ17が係止され、渦巻ばね18に被せられた皿盤16の中心部の穴にブッシュ17が嵌合し、ブッシュ17にスプール11の芯軸部11eが挿入係止されて、スプール11は、ストラップ1を巻き取る方向に付勢されている。
【0035】
そして、このように組み立てられた構成部品を収納するように、一方のケース41に他方(図1及び図4では上方)のケース41が被せられ、ケース41同士は、その四隅部において、一方のケース41の穴に挿通したビス23を他方のケース41のねじ穴にねじ込むことにより結合され、この巻取器は組立状態とされている。
【0036】
この巻取器において、パウル14の爪14aは、図7(7A)に示すように、通常、スプール11の嵌合部11cの外周より内側へ入り込んでいる。この状態では、スプール11がベース12に対して自由に回転するので、ストラップ1を巻取方向に付勢された状態で、スプール11から随時引き出すことができる。
【0037】
そして、図7(7B)に示すように、作業員が高所から落下してストラップ1が急速に繰り出され、スプール11が高速で回転すると、パウル14は、遠心力により先端側が嵌合部11cの外周より外側へ迫り出して、爪14aがベース12の歯12bに噛合し、スプール11からのストラップ1の繰り出しが阻止されたロック状態となる。
【0038】
このとき、ベース12の歯12bよりもスプール11の嵌合部11cの硬度が低いことから、パウル14の爪14aがベース12の歯12bに噛合した状態で、図7(7C)に示すように、パウル14とは反対側に位置するベース12の歯12bがスプール11の嵌合部11cに食い込む。
【0039】
これにより、作業員の落下の衝撃がパウル14の爪14aとベース12の歯12bの噛合部だけでなく、ベース12の歯12bがスプール11の嵌合部11cに食い込む部分においても分担して受け止められるので、パウル14の爪14a等の破損が防止される。
【0040】
また、パウル14に作用する衝撃は、スプール11のパウル軸部11fだけでなく、段差11g,14dの当接面でも受け止められるので、パウル14の軸穴14cの周囲の破損も防止される。
【0041】
上記のような安全帯用巻取器では、ストラップ1を巻き取るスプール11がダイキャストによる一体成型品とされて、2枚のベース12により回転自在に保持され、ストラップ1の端末が係止されるストラップピン13は、ストラップ1をスプール11から抜け止めするため、スプール11の内部に保持されるだけであって、スプール11の回転支持軸とはならないので、スプール11を支持する強度を要することなく、ストラップピン13の軸受も不要となり、組立工程を合理化できる。
【0042】
そして、作業員が高所から落下した緊急時にロック機構により作用する衝撃荷重は、スプール11と2枚のベース12とで受け止めるので、細かい軸受等の部品が破損せず、ストラップ1の破損の恐れもなく、緊急時のストラップ1の繰出量を僅少に抑制できる。
【0043】
なお、図8に示す第2実施形態のように、ケース41の内部において、スプール11が2個並列に配置され、これらがベース12により一体化された構成としてもよい。
【0044】
このような並列構成とすると、作業員が長い距離を移動する場合、一方のスプール11から繰り出されたストラップ1の先端のフックを構造物から外す前に、他方のスプール11から繰り出されたストラップ1の先端のフックを構造物の移動する方向に離れた位置に掛け、その後に一方のスプール11側のストラップ1の先端のフックを構造物から外す操作を繰り返すことにより、作業員が構造物側に繋がっていない状態が生じることを防止でき、作業員の墜落事故を防止できる。
【0045】
また、図9乃至図11に示すように、上記第1実施形態に記載した巻取器と、トーションバー30により衝撃を緩和するショックアブソーバとが直列に配置され、これらがベース12により一体化された墜落制止器具を構成することもできる。
【0046】
この墜落制止器具の第1実施形態におけるショックアブソーバは、ベルト3が巻き付けられたスプール31の一端部に、トーションバー30の一方(図9及び図11では下方)の係止端部30bが共回りするように係止され、トーションバー30の他方(図9及び図11では上方)の係止端部30bは、スプール31を両端から挟んで保持する一対のベース12のうち、一方のベース12に回転しないように係止され、ベルト3の端末がベルトピン32によりスプール31に係止されて、緊急時には、スプール31からのベルト3の引出力により、トーションバー30の軸部30aが捻じれて衝撃が緩和されるものである。
【0047】
このような墜落制止器具は、巻取器とショックアブソーバとで部品を共用することができるので、それぞれの機能を有しながらコンパクトで取り扱いやすいサイズとなり、温度や湿度の変化のほか、屋外での長期間の使用による経年劣化等の使用環境の影響を受けない安定した荷重特性を持つものとなる。
【0048】
また、図12に示す墜落制止器具の第2実施形態のように、巻取器は、図8に示すものと同様、スプール11が2個並列に配置されたものとし、この巻取器とショックアブソーバとをベース12により一体化してケース41に収納し、コンパクト化を図りつつ、作業員が長い距離を移動する場合の安全性の向上を図るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 ストラップ
2,3 ベルト
11 スプール
11a 巻胴部
11b フランジ
11c 嵌合部
11d 中通穴
11e 芯軸部
11f パウル軸部
11g 段差
12 ベース
12a 嵌合穴
12b 歯
13 ストラップピン
14 パウル
14a 爪
14b 水掻状部
14c 軸穴
14d 段差
15a コイルばね
15b ブッシュ
15c カバー
16 皿盤
17 ブッシュ
18 渦巻ばね
19a ガイドローラー
19b 回転軸
20a ボルト
20b スペーサ
21 接続ピン
22a,22b ビス
23 ビス
30 トーションバー
30a 軸部
30b 係止端部
31 スプール
32 ベルトピン
41 ケース
41a 巻取機構保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12